(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記出力部には、河川水位の閾値が設定されており、予測された前記河川水位曲線のいずれかが前記閾値を超える場合に報知を行う報知手段を有することを特徴とする請求項1に記載の河川水位予測システム。
前記出力部には、前記降雨量情報を表示する雨量表示領域と、前記予測された河川水位曲線を表示する予測水位表示領域とが隣接して設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の河川水位予測システム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の河川水位予測システム1の構成及び処理の流れを示した説明図である。
【0017】
本実施の形態の河川水位予測システム1は、中小河川の集中豪雨による河川水位の変化を予測することを目的にしている。ここで、「中小河川」とは、流域面積が小さく、貯留現象を考慮する必要のない河川をいう。例えば、流域面積が800km
2程度以下の河川、都市型の河川などが含まれる。
【0018】
また、「集中豪雨」は、降雨強度20mm/h以上の降雨を対象とし、特に降雨強度50mm/h以上の降雨が対象河川流域に降れば、河川水位予測システム1による予測は必ず行われることになる。
【0019】
河川水位予測システム1は、
図1に示すように、河川流域情報部2と、降雨情報処理部3と、河川情報部4と、解析部5(流量解析部51,水位算出部52)と、出力部6(画面出力部61,報知手段となるアラート部62)とによって主に構成される。また、実際の河川水位を観測させる観測部7を設けることもできる。
【0020】
まず、河川流域情報部2では、対象河川流域をメッシュ状に分割する。
図2には、中小河川である対象河川21の流域22(対象河川流域)をメッシュ状に分割した一例を示した。
【0021】
流域22は、河川水位の予測を行う予測地点24の水位に影響を与える降雨になるエリアが設定される。例えば、予測地点24の半径10km以内で、河川水位に影響を与える降水が降る範囲を、流域22に設定することができる。
【0022】
流域22を分割するメッシュ23は、例えば1辺が250mの正方形のメッシュとすることができる。すなわち、流域22の全域が、1辺250m四方のメッシュ23,・・・によって分割されることになる。
【0023】
各メッシュ23には、それぞれ流出率(流出係数)が設定される。流出率は、地形や土地の利用状況によって異なる値が設定され、舗装された地表面が多く且つ下水道からの放流も多い一般都市部であれば0.8-0.9(一般市街地0.8,密集市街地0.9)、畑や原野であれば0.6、水田であれば0.7などが設定される。
【0024】
また、各メッシュ23には、それぞれ洪水到達時間も設定される。この「洪水到達時間」は、あるメッシュ23に降った降雨が予測地点24に達するまでに要する時間となる。
【0025】
本実施の形態の河川水位予測システム1では、各メッシュ23において、洪水到達時間が幅を持って設定される。例えば、洪水到達時間の最も早い時間と最も遅い時間の2つの時間が、メッシュごとに設定される。
【0026】
ここで、
図3に、ピーク河川水位と洪水到達時間との関係を示した。図示したプロットは、この流域22にある3地点(A地点、B地点、C地点(
図2参照))の観測値と、実用推定式による推定値を示している。
【0027】
この図を見るとわかるように、洪水到達時間は、20-60分の間に幅を持って分散している。また、プロットに基づいて最小二乗法によって引かれた直線はほぼ水平であり、洪水到達時間が遅いケースがピーク河川水位になる可能性があることを示している。
【0028】
そこで、洪水到達時間が最も早い時間に設定されたモデル(早達モデル611)と、洪水到達時間が最も遅い時間に設定されたモデル(遅達モデル612)とを構築する(
図5,6参照)。
【0029】
一方、降雨情報処理部3では、流域22の降雨量情報を取得する。降雨量情報としては、気象庁から数値予報による降雨量情報を得ることができる。例えば、降水ナウキャストであれば、1km四方の解像度で降水の短期予報を得ることができる。
【0030】
さらには、高解像度降水ナウキャストであれば、250m四方の解像度で降水の短期予報を得ることができる。すなわち、メッシュ23を250mの正方形とすることで、高解像度降水ナウキャストによって降雨量が得られる範囲と一致させることができる。
【0031】
そこで、高解像度降水ナウキャストの降雨量情報から、流域22のメッシュ23,・・・に該当する降雨量データを、降雨情報処理部3によって抽出する。この降雨情報処理部3による降雨量データの抽出は、例えば現況時間後1時間、現況時間前3時間及び洪水到達時間に対して行われる。
【0032】
また、河川情報部4では、予め河川水位の予測をする予測地点24の水位Hと流量Qの関係である水位流量曲線(H−Q曲線)を求めておく。
図4に、水位流量曲線(H−Q曲線)の一例を示した。
【0033】
この水位流量曲線(H−Q曲線)は、予測地点24の河川と洪水の影響を受ける限られた範囲(限定範囲)を決定して作成される。ここでは、
図2に示した流域22が限定範囲となる。限定範囲の河道41においては、河積(河道41の断面積)、河川勾配、径深、マニングの粗度係数を決定する。ここで、河積及び径深は、河川水位411によって変動する。
【0034】
図4では、河川水位増加量Hと流量Qとの関係を示した。このような水位流量曲線(H−Q曲線)を予め作成しておくことで、流量予測の結果を直ぐに河川水位に置き換えることができるようになる。
【0035】
そして、流域22に所定値以上の降雨があると、解析部5の流量解析部51によって、流出解析モデルによる予測地点24の流量予測が行われる。流出解析モデルは、流域22に降る降雨から出力される河川流量を直接的に算出できる概念モデルが、入力情報や演算負荷を低減できることから好ましい。本実施の形態の河川水位予測システム1では、流出解析モデルとして、合成合理式を使用する。
【0036】
合成合理式は、実務レベルにおける中小河川や下水道の計画に多く用いられている流出解析モデルである。合成合理式では、対象河川流域を小流域に分割して、流域の平均降雨量から流出率と洪水到達時間を考慮して合理式で求められた小流域のそれぞれのピーク流量を合成して、予測地点24の流量を予測する方法である。
【0037】
流量解析部51では、河川流域情報部2から各メッシュ23,・・・の流出率及び洪水到達時間を取得するとともに、降雨情報処理部3から各メッシュ23,・・・の降雨量データを取得して解析を行う。
【0038】
流量解析部51では、洪水到達時間が早くなる早達モデル611と遅くなる遅達モデル612の2通りの解析が行われるので、2通りの流量予測が算出されることになる。
【0039】
そして、算出された流量予測に対しては、水位算出部52において河川水位の予測として算出される。すなわち、予測された流量を河川情報部4の水位流量曲線(H−Q曲線)によって河川水位に置き換えることで、河川予測水位を算出することができる。
【0040】
ここで、流量予測は経時値として得られるため、河川予測水位も経時値として算出されて河川水位曲線としてグラフ化することができる。
図5に、予測された河川水位曲線の一例を示した。
【0041】
この
図5では、上段に降雨量データが示され、下段に河川水位の経時変化が示されている。ここで、降雨量データは、M1エリア、M2エリア、M3エリア、M4エリア及びM5エリアの5つのエリアと、加重平均で示されている。この5つのエリアは、合成合理式で対象河川流域を分割する小流域に相当し、本実施の形態では流域22を5つのエリア(小流域)に分割したことを例示している。
【0042】
そして
図5の下段には、ピーク河川水位の発生時間が早いモデルとなる早達モデル611の予測結果と、ピーク河川水位の発生時間が遅いモデルとなる遅達モデル612の予測結果とを、河川水位曲線にして示している。
【0043】
また、比較のために、予測地点24で観測部7によって計測された実際の河川水位を観測値として示している。この観測値との比較によれば、この降雨のケースでは、早達モデル611の予測結果の方が近い予測ができたと言える。
【0044】
図6は、出力部6の一例を示している。出力部6は、コンピュータのモニタ画面や専用端末画面などが該当する。また、プリンタを出力部とすることもできる。
【0045】
この出力部6には、雨量表示領域6aと、それに隣接する予測水位表示領域6bと、風速情報表示領域6cと、発表情報表示領域6dと、数値情報表示領域6eとが設けられている。
【0046】
雨量表示領域6aには、気象庁から定期的に得られる高解像度降水ナウキャストの表示が出力される。また、風速情報表示領域6c及び発表情報表示領域6dには、同じく気象庁から得られる地上と上空の風速情報と、警報や注意報などの気象庁が発表する情報が表示される。発表情報表示領域6dは、注意報の場合は黄色で表示させ、警報の場合は赤色で表示させることもできる。
【0047】
一方、予測水位表示領域6bには、画面出力部61として、2通りの河川水位曲線が出力される。ここでは、早達モデル611による河川水位曲線と遅達モデル612による河川水位曲線とが出力されている。この河川水位曲線の予測は、最長でも5分間隔で更新される。
【0048】
この2通りの河川水位曲線の予測に対して、画面出力部61には、2つの河川水位の閾値も表示される。ここで、水位が低い方の閾値を1次管理値621(例えば2.2m)とし、水位が高い方の閾値を2次管理値622(例えば3.5m)とする。
【0049】
そして、予測された河川水位曲線のピーク河川水位が、1次管理値621以下であれば、報知手段となるアラート部62には、「河川水位アラートなし」の表示がされる。
【0050】
これに対して、予測された2通りの河川水位曲線のいずれかのピーク河川水位が1次管理値621を超えた場合は、アラート部62には、「注意」の表示がされるとともに、登録されている携帯端末にアラートメールによる発報がされる。
【0051】
さらに、予測された2通りの河川水位曲線のいずれかのピーク河川水位が2次管理値622を超えた場合は、アラート部62には、「危険」の表示がされるとともに、現場に設置された回転灯が点滅し、携帯端末にはアラートメールの発信がされる。
【0052】
ここで、河川水位曲線の水位の値は、数値情報表示領域6eからも読み取ることができる。この数値情報表示領域6eには、観測部7によって計測された現時点の河川水位の観測値と、現時点から1時間先までの複数の予測値が、数値として表示される。
【0053】
次に、本実施の形態の河川水位予測システム1の運用について説明する。
【0054】
まず、河川水位を監視する予測地点24を決め、その予測地点24の河川水位に影響を与える降雨となる対象河川流域を流域22として設定する(
図2参照)。この流域22に対しては、降雨情報処理部3で取得可能な降雨量データの解像度などを参照して、メッシュ23,・・・による分割を行う。
【0055】
続いて、分割されたメッシュ23,・・・に対しては、河川流域情報部2において、それぞれに流出率と予測地点24までの洪水到達時間の設定を行う。ここで、洪水到達時間は、早達モデル611用の早い時間と、遅達モデル612用の遅い時間の設定を行う。
【0056】
一方、河川情報部4では、予測地点24の限定範囲の河道41における水位流量曲線(H−Q曲線)を求めておく。また、予測地点24には、観測部7として水位計などを設置して、河川水位予測システム1に取り込める状態にしておく。
【0057】
そして、これらの初期条件が揃った時点で、コンピュータにインストール又はクラウド上に記憶された河川水位予測システム1の運用プログラムを起動させる。以下で説明する各処理は、コンピュータを機能させる命令によって実行される。
【0058】
河川水位予測システム1の運用が開始されると、例えば5分以内の間隔で、降雨情報処理部3に気象庁から降雨量情報が取得され、降雨量データとして抽出される。この取得された降雨量情報は、出力部6となるモニタ画面の雨量表示領域6aに表示される。雨量表示領域6aには、3時間前から1時間先までの雨雲レーダ画像が表示される。
【0059】
また、流量解析部51では、抽出された降雨量データと、河川流域情報部2から取り込まれたメッシュ23,・・・ごとの流出率及び洪水到達時間に基づいて、早達モデル611と遅達モデル612による予測地点24における流量予測が行われる。
【0060】
この予測された2通りの流量は、河川情報部4から取り込まれた水位流量曲線(H−Q曲線)によって河川予測水位に変換され、出力部6となるモニタ画面の予測水位表示領域6bに表示される。予測水位表示領域6bには、2時間前(又は3時間前)から1時間先までの2本の河川水位曲線(611,612)が表示される。
【0061】
ここで、予測水位表示領域6bには、予測された2本の河川水位曲線(611,612)の他に、1次管理値621と2次管理値622とが表示される。また、観測部7によって計測された現時点までの河川水位の観測値も併せて表示することができる。
【0062】
予測された2本の河川水位曲線のいずれのピーク河川水位も1次管理値621を超えない場合は、そのまま所定の間隔で、降雨量情報の取得から河川水位の予測までの処理が繰り返される。
【0063】
一方、予測されたいずれかのピーク河川水位が1次管理値621を超えた場合は、出力部6となるモニタ画面のアラート部62に「注意」の表示がされるとともに、管理者の携帯電話などにアラートメールが発信される。
【0064】
さらに、予測されたいずれかのピーク河川水位が2次管理値622を超えた場合は、出力部6となるモニタ画面のアラート部62に「危険」の表示がされるとともに、管理者の携帯電話などにアラートメールが発信される。また、回転灯を作動させて、多くの人に視覚的な注意喚起を行わせることもできる。
【0065】
次に、本実施の形態の河川水位予測システム1の作用について説明する。
【0066】
このように構成された本実施の形態の河川水位予測システム1は、対象河川流域となる流域22の降雨量情報から、合成合理式のような流出解析モデルによって流量予測を行う際に、少なくとも洪水到達時間が早くなる早達モデル611と遅くなる遅達モデル612との2通りの流量予測を行う。
【0067】
このため、実際の河川水位の上昇と異なる予測誤差があったとしても、洪水到達時間と水位の両方について複数のモデル(611,612)を考慮するので、より安全性の高い河川水位の予測及び管理をすることができる。
【0068】
また、出力部6に河川水位の閾値(621,622)が設定されていて、閾値を予測された河川水位曲線(611,612)のいずれかが超える場合に報知を行う報知手段(アラート部62、アラートメール発報、回転灯などによる情報伝達機能)を有していれば、水位上昇が起きる可能性が高い状況のときに、管理者は見落とすことなく警戒体制に確実に移行することができる。
【0069】
例えば、早達モデル611の予測に従えば、より早い時点で水防活動や避難活動を開始できるが、早達モデル611のピーク河川水位では1次管理値621を超えない場合、報知がされず水防活動等の開始には繋がらない。これに対して、早達モデル611のピーク河川水位が1次管理値621を超えない場合でも遅達モデル612のピーク河川水位が閾値を超える場合があるため、早達モデル611の予測だけでは充分でない場合も、遅達モデル612の予測を加えることで、水防活動等を安全側で開始できるようになり、より安全性の高い管理を行うことができるようになる。
【0070】
また、観測部7によって実際に水位上昇が計測されてから水防活動等を開始した場合では、10分程度で危険水位に達することがあるため、避難するしかできないことがある。これに対して、精度の高い河川水位の予測ができていれば、建設現場であれば資機材の撤去の時間が確保できるなど、安全性が高いうえに損害の少ない有用な管理を行うことができるようになる。
【0071】
また、早達モデル611と遅達モデル612の2通りの予測がされていれば、局所的な集中豪雨が止んだ後に、河川水位が平時に戻る時間の予想がし易くなり、安全が担保された状態で迅速に避難解除や回復措置の行動に移行することができるようになる。
【0072】
さらに、メッシュ23,・・・の1辺が250m以下で、高解像度降水ナウキャストのように狭い範囲の詳細な降雨量情報が取得できる環境になれば、より精度の高い河川水位の予測を行うことができる。
【0073】
そして、出力部6に雨量表示領域6aと予測水位表示領域6bとが隣接して設けられていれば、リアルタイムの降雨量情報と比較しながら予測された河川水位曲線を見ることができる。この場合は、例えばアラート部62の表示に関わらず、管理者が降雨量情報を見ながら予測の補完を行うことができるようになるので、さらに安全側の判断をするなど対応に幅を持たせることができる。
【0074】
さらには、出力部6のモニタ画面に、雨量表示領域6a及び予測水位表示領域6bに加えて、風速情報表示領域6cや気象庁からの発表情報表示領域6dが設けられていれば、管理者はより多くの情報から総合的な判断を行うことができるようになる。
【0075】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0076】
例えば、前記実施の形態では、早達モデル611と遅達モデル612の2通りの河川水位曲線の予測を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3通り以上の河川水位曲線の予測を行って表示させることもできる。
【0077】
また、前記実施の形態では、流出解析モデルとして合成合理式を例に説明したが、これに限定されるものではなく、タンクモデル、単位図法などを流出解析モデルとすることもできる。
【0078】
さらに、前記実施の形態では、流域22を1辺が250mの正方形のメッシュ23,・・・に分割する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1辺が250mより大きい、例えば1辺が1km四方のメッシュに分割することもできる。