(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トラックフレームを構成し前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、前記左,右のサイドフレームの前,後方向の一側にそれぞれ設けられた駆動輪と、前記左,右のサイドフレームの前,後方向の他側にそれぞれ設けられたアイドラと、前記駆動輪と前記アイドラとに巻回された履帯とからなり、
前記アイドラは、
中心部に位置する円筒状のハブと当該ハブの左,右両側から径方向の外側に円板状に延びた左,右の円板部とを有するアイドラ本体と、
前記アイドラ本体の外周縁に設けられ履帯のトラックリンクが当接する左,右のリンク当接面と、
前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側に位置して前記アイドラ本体に設けられ前記左,右のリンク当接面よりも大径な環状鍔部とからなり、
前記環状鍔部は、前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側から立上がる左,右の鍔部側面と、前記左,右の鍔部側面間に位置し前記左,右のリンク当接面よりも大径な鍔部外周面とを有してなるアイドラを備えた履帯式走行装置において、
前記左,右のリンク当接面の表面に表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右のリンク当接面硬化層と、
前記環状鍔部の前記左,右の鍔部側面の表面に表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の鍔部側面硬化層と、
前記アイドラ本体の前記左,右の円板部の外周縁のうち前記左,右のリンク当接面と隣接する円板大径部の表面に表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の円板部硬化層とを備え、前記左,右のリンク当接面の周囲の強度を、前記左,右のリンク当接面硬化層の深さを増大させた場合と同等に高めたことを特徴とするアイドラを備えた履帯式走行装置。
【背景技術】
【0002】
履帯を有する建設機械の代表例である油圧ショベルは、履帯式走行装置を備えた下部走行体と、下部走行体に旋回可能に搭載された上部旋回体と、上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられたフロント装置とを備えて構成されている。油圧ショベルは、履帯式走行装置によって整地されていない作業現場を走行し、フロント装置を用いて土砂の掘削作業等を行う。
【0003】
下部走行体の履帯式走行装置は、トラックフレームを構成し前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、左,右のサイドフレームの前,後方向の一側にそれぞれ設けられた駆動輪と、左,右のサイドフレームの前,後方向の他側にそれぞれ設けられたアイドラと、駆動輪とアイドラとに巻回された履帯とを備えている。
【0004】
履帯式走行装置を構成するアイドラは、中心部に位置する円筒状のハブと当該ハブの左,右両側から径方向の外側に円板状に延びた左,右の円板部とを有するアイドラ本体と、アイドラ本体の外周縁に設けられ履帯のトラックリンクが当接する左,右のリンク当接面と、左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側に位置して前記アイドラ本体に設けられ前記左,右のリンク当接面よりも大径な環状鍔部とを備えている。
【0005】
ここで、アイドラのリンク当接面には、履帯のトラックリンクが常に接触している。このため、リンク当接面は、トラックリンクとの摩擦による摩耗を抑えると共に、履帯から受ける大きな荷重に耐えるため、表面硬化処理が施されている。しかし、油圧ショベルの大型化に伴う重量の増大や掘削力の増大により、アイドラのリンク当接面に作用する荷重は増加する傾向にあり、アイドラのリンク当接面のみに表面硬化処理を施すだけでは、アイドラ全体の強度が不足してしまう不具合がある。
【0006】
これに対し、例えばアイドラのサイズを大型化したりアイドラを形成する材料の強度を高めることにより、アイドラ全体の強度を高めることが考えられる。しかし、アイドラを大型化する方法やアイドラの材料強度を高める方法では、アイドラの製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0007】
一方、リンク当接面に交換可能な摩耗プレートが設けられたアイドラが提案されている。このアイドラは、円盤状をなすアイドラ本体と、このアイドラ本体の周面に締結具を用いて交換可能に取付けられた複数の摩耗プレートとを備えている。従って、交換可能な摩耗プレートを強度の高い材料を用いて形成することにより、アイドラの製造コストの上昇を抑えることができる(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した従来技術によるアイドラでは、アイドラ本体に締結具を用いて複数の摩耗プレートを取付けるために、アイドラ本体に複数の締結孔を形成する必要があり、アイドラ本体の構成が複雑化し、製造コストが上昇してしまう。また、締結具を用いてアイドラ本体に摩耗プレートを取付ける煩雑な作業が必要になるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、製造コストを抑えつつ全体の強度を高めることができるアイドラおよびアイドラを備えた履帯式走行装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、中心部に位置する円筒状のハブと当該ハブの左,右両側から径方向の外側に円板状に延びた左,右の円板部とを有するアイドラ本体と、前記アイドラ本体の外周縁に設けられ履帯のトラックリンクが当接する左,右のリンク当接面と、前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側に位置して前記アイドラ本体に設けられ前記左,右のリンク当接面よりも大径な環状鍔部とからなり、前記環状鍔部は、前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側から立上がる左,右の鍔部側面と、前記左,右の鍔部側面間に位置し前記左,右のリンク当接面よりも大径な鍔部外周面とを有してなるアイドラにおいて、前記左,右のリンク当接面の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右のリンク当接面硬化層と、前記環状鍔部の前記左,右の鍔部側面
の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の鍔部側面硬化層と、前記アイドラ本体の前記左,右の円板部の
外周縁のうち前記左,右のリンク当接面と隣接する
円板大径部の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の円板部硬化層とを備え
、前記左,右のリンク当接面の周囲の強度を、前記左,右のリンク当接面硬化層の深さを増大させた場合と同等に高めたことを特徴としている。
【0012】
請求項2に係る発明は、トラックフレームを構成し前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、前記左,右のサイドフレームの前,後方向の一側にそれぞれ設けられた駆動輪と、前記左,右のサイドフレームの前,後方向の他側にそれぞれ設けられたアイドラと、前記駆動輪と前記アイドラとに巻回された履帯とからなり、前記アイドラは、中心部に位置する円筒状のハブと当該ハブの左,右両側から径方向の外側に円板状に延びた左,右の円板部とを有するアイドラ本体と、前記アイドラ本体の外周縁に設けられ履帯のトラックリンクが当接する左,右のリンク当接面と、前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側に位置して前記アイドラ本体に設けられ前記左,右のリンク当接面よりも大径な環状鍔部とからなり、前記環状鍔部は、前記左,右のリンク当接面のうち前記円板部とは反対側から立上がる左,右の鍔部側面と、前記左,右の鍔部側面間に位置し前記左,右のリンク当接面よりも大径な鍔部外周面とを有してなるアイドラを備えた履帯式走行装置において、前記左,右のリンク当接面の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右のリンク当接面硬化層と、前記環状鍔部の前記左,右の鍔部側面
の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の鍔部側面硬化層と、前記アイドラ本体の前記左,右の円板部の
外周縁のうち前記左,右のリンク当接面と隣接する
円板大径部の表面に
表面硬化処理を施すことにより設けられた硬化層である左,右の円板部硬化層とを備え
、前記左,右のリンク当接面の周囲の強度を、前記左,右のリンク当接面硬化層の深さを増大させた場合と同等に高めたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、左,右のリンク当接面に設けられた左,右のリンク当接面硬化層に加え、環状鍔部の左,右の鍔部側面に左,右の鍔部側面硬化層を設け、左,右の円板部のうち左,右のリンク当接面と隣接する大径部位に左,右の円板部硬化層を設けることにより、リンク当接面の周囲における硬化層の領域を増大することができる。これにより、リンク当接面の周囲の強度を、リンク当接面硬化層の深さを増大させた場合と同等に高めることができ、製造コストを抑えつつアイドラ全体の強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るアイドラおよび履帯式走行装置を油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、
図1ないし
図6に従って詳細に説明する。
【0016】
図において、油圧ショベル1は、自走可能な履帯式の下部走行体2と、下部走行体2に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部中央に俯仰動可能に設けられたフロント装置4とを備えている。油圧ショベル1は、下部走行体2によって作業現場を自走し、フロント装置4を用いて土砂の掘削作業等を行う。
【0017】
上部旋回体3は、下部走行体2上に旋回輪5を介して旋回可能に設けられた旋回フレーム6と、旋回フレーム6の前部左側に設けられ運転室を画成するキャブ7と、旋回フレーム6の後側に設けられフロント装置4との重量バランスをとるカウンタウエイト8と、カウンタウエイト8の前側に配置された原動機、油圧ポンプ等の搭載機器(いずれも図示せず)と、この搭載機器を覆う外装カバー9とを備えている。
【0018】
履帯式の下部走行体2は、ベースとなるトラックフレーム10と、トラックフレーム10に設けられた後述の履帯式走行装置13とを備えている。トラックフレーム10は、左,右方向の中央部に配置され上側に旋回輪5が設けられたセンタフレーム11と、センタフレーム11を挟んで左,右両側に配置され前,後方向に延びた左,右のサイドフレーム12(左側のみ図示)とにより大略構成されている。この場合、左,右のサイドフレーム12は、トラックフレーム10を構成すると共に、履帯式走行装置13の一部を構成するものである。
【0019】
次に、油圧ショベル1の下部走行体2に設けられた履帯式走行装置13について説明する。
【0020】
履帯式走行装置13は、トラックフレーム10を構成する左,右のサイドフレーム12と、左,右のサイドフレーム12にそれぞれ設けられた後述の駆動輪17と、履帯19と、アイドラ21とを備えている。
【0021】
ここで、左,右のサイドフレーム12は、上板12A、下板12B、左,右の側板12Cによって囲まれた角筒体として形成され前,後方向に延びている。サイドフレーム12の前端には前端板12Dが設けられ、後端には後端板12Eが設けられている。また、サイドフレーム12の上板12Aには、前,後方向に間隔をもって複数(例えば3個)の上転輪14が回転可能に設けられ、下板12Bには、前,後方向に間隔をもって複数(例えば8個)の下転輪15が回転可能に設けられている。
【0022】
サイドフレーム12の後端板12Eには、駆動輪ブラケット16が溶接等の手段を用いて固着されている。駆動輪ブラケット16は、後端板12Eから後方に延びている。駆動輪ブラケット16には、走行用の油圧モータ(図示せず)と、後述の駆動輪17とが設けられている。
【0023】
駆動輪(スプロケット)17は、サイドフレーム12の後端側に位置して駆動輪ブラケット16に取付けられている。駆動輪17は、後述する履帯19の各トラックリンク19Aに噛合する複数の歯17Aを有している。駆動輪17は、走行用の油圧モータ(図示せず)によって回転駆動されることにより、アイドラ21との間で履帯19を周回動作させるものである。
【0024】
サイドフレーム12の前端板12Dには、アイドラブラケット18が溶接等の手段を用いて固着されている。アイドラブラケット18は、前端板12Dから前方に延びている。アイドラブラケット18は、左,右方向で対面する一対の側板18Aを有し、一対の側板18A間にはアイドラ21が回転可能に設けられている。また、一対の側板18Aの互いに対面する内側面には、アイドラ21を前,後方向に移動可能に案内するガイド部材(図示せず)が設けられている。
【0025】
履帯19は、駆動輪17とアイドラ21とに巻回して設けられている。履帯19は、左,右方向で対をなした状態で無端状に連結された多数のトラックリンク19Aと、これら各トラックリンク19Aにそれぞれ固着された板状のシュープレート19Bとを備えている。隣接する2つのトラックリンク19Aは、軸受部材19Cを介して互いに揺動可能に連結されている。この軸受部材19Cは、隣接する2つのトラックリンク19A間を連結するピンと、このピンに外装される円筒状のブッシュとにより構成されている。そして、履帯19は、駆動輪17を回転させることにより、サイドフレーム12に設けられた各上転輪14および各下転輪15によって案内されつつ駆動輪17とアイドラ21の間で周回動作し、不整地等においても油圧ショベル1を安定して走行させるものである。
【0026】
ここで、履帯19を構成する各トラックリンク19Aは、シュープレート19Bとは反対側に位置する平坦面からなる左,右の踏面19Dと、互いに対面する内側面と各踏面19Dとが交わる左,右の内側角部19Eと、踏面19Dを挟んで内側角部19Eとは反対側に位置する左,右の外側角部19Fとを有している。
【0027】
張力調整機構20は、サイドフレーム12の前端側(前端板12D側)とアイドラ21との間に設けられている。張力調整機構20は、張力調整シリンダ、圧縮ばね等により構成され、アイドラ21をサイドフレーム12の前端板12Dから前方に離れる方向に付勢している。これにより、駆動輪17とアイドラ21とに巻回された履帯19の張力が張力調整機構20によって調整され、油圧ショベル1の走行時に地面の形状に応じて履帯19が変形したときに、この履帯19の変形に応じてアイドラ21が前,後方向に移動することができる構成となっている。
【0028】
次に、本実施の形態に適用されるアイドラ21について説明する。
【0029】
アイドラ21は、サイドフレーム12の前端板12D側に回転可能に設けられ、履帯19が巻回されるものである。アイドラ21は全体として段付円盤状に形成され、左,右方向に延びる軸22に回転可能に支持されている。軸22の両端には軸受(図示せず)が取付けられ、この軸受はアイドラブラケット18の内側面に設けられたガイド部材(図示せず)に前,後方向に移動可能に支持されている。従って、アイドラ21はアイドラブラケット18に対し、前,後方向に移動可能な状態で回転可能に支持されている。
【0030】
図3および
図4に示すように、アイドラ21は、後述のアイドラ本体23と、左,右のリンク当接面27,28と、環状鍔部29と、左,右のリンク当接面硬化層30,31と、左,右の鍔部側面硬化層32,33と、左,右の円板部硬化層34,35とを備えている。
【0031】
アイドラ本体23はアイドラ21のベースとなるもので、ハブ24と、左,右の円板部25,26とを有し、例えば鋳造等によって一体形成されている。ハブ24は、アイドラ本体23の中心部に配置され、左,右方向に延びる円筒状に形成されている。ハブ24の内周側には軸挿嵌孔24Aが形成され、軸挿嵌孔24Aには、軸22が摺動可能に挿嵌されている。ハブ24の左,右方向(軸方向)の両端側には、それぞれ軸挿嵌孔24Aよりも大径なシール取付穴24Bが軸挿嵌孔24Aと同心上に形成され、これら各シール取付穴24Bには、それぞれフローティングシール(図示せず)が設けられる構成となっている。
【0032】
左,右の円板部25,26は、ハブ24の左,右両側から径方向の外側に円板状に延びている。即ち、左円板部25は、ハブ24の左端から径方向の外側に向けて円板状に延在し、右円板部26は、ハブ24の右端から径方向の外側に向けて円板状に延在し、左円板部25と右円板部26とは、左,右方向で間隔をもって対面している。そして、左,右の円板部25,26の外周側には、左,右のリンク当接面27,28および環状鍔部29が設けられている。ここで、左円板部25の外周縁のうち左リンク当接面27と隣接する部位は、左円板大径部25Aとなり、右円板部26の外周縁のうち右リンク当接面28と隣接する部位は、右円板大径部26Aとなっている。
【0033】
左,右のリンク当接面27,28は、それぞれアイドラ本体23の外周縁に全周に亘って設けられている。即ち、左リンク当接面27は、アイドラ本体23を構成する左円板部25の外周縁から右円板部26側に延びる円筒状に形成され、右リンク当接面28は、アイドラ本体23を構成する右円板部26の外周縁から左円板部25側に延びる円筒状に形成されている。左,右のリンク当接面27,28間は、環状鍔部29を介して連結され、左,右のリンク当接面27,28は、履帯19を構成する各トラックリンク19Aの左,右の踏面19Dおよび左,右の外側角部19Fが当接するものである。
【0034】
環状鍔部29は、左,右のリンク当接面27,28のうち左,右の円板部25,26とは反対側に位置してアイドラ本体23の外周縁に全周に亘って設けられている。環状鍔部29は、左,右のリンク当接面27,28よりも大径な円筒状に形成され、左リンク当接面27と右リンク当接面28との間を連結している。ここで、環状鍔部29は、左リンク当接面27のうち左円板部25とは反対側となる内側端から径方向外向きに立上がる左鍔部側面29Aと、右リンク当接面28のうち右円板部26とは反対側となる内側端から径方向外向きに立上がる右鍔部側面29Bと、左鍔部側面29Aの先端と右鍔部側面29Bの先端との間に配置されこれら左,右の鍔部側面29A,29Bの先端部間を連結する円筒状の鍔部外周面29Cとを有している。
【0035】
図4に示すように、環状鍔部29の左,右方向の幅寸法は、履帯19を構成する各トラックリンク19Aの左,右の内側角部19Eの間隔よりも僅かに小さく設定されている。これにより、各トラックリンク19Aの左,右の内側角部19E間に環状鍔部29が配置された状態で、左,右のリンク当接面27,28が各トラックリンク19Aの左,右の踏面19Dおよび左,右の外側角部19Fに当接する構成となっている。
【0036】
次に、アイドラ21に設けられた左,右のリンク当接面硬化層30,31、左,右の鍔部側面硬化層32,33、左,右の円板部硬化層34,35について、
図4ないし
図6を参照して説明する。
【0037】
左リンク当接面硬化層30は、左リンク当接面27の表面に形成されている。この左リンク当接面硬化層30は、左リンク当接面27の表面に対し、例えば高周波誘導加熱を用いた高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、左リンク当接面27の全周に亘る硬化層として形成されている。右リンク当接面硬化層31は、右リンク当接面28の表面に形成されている。この右リンク当接面硬化層31は、右リンク当接面28の表面に対し、高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、右リンク当接面28の全周に亘る硬化層として形成されている。油圧ショベル1の走行時には、履帯19を構成する各トラックリンク19Aの左,右の踏面19Dおよび左,右の外側角部19Fは、左,右のリンク当接面硬化層30,31に当接する。これにより、左,右のリンク当接面27,28の摩耗が、左,右のリンク当接面硬化層30,31によって抑制される構成となっている。
【0038】
左鍔部側面硬化層32は、環状鍔部29の左鍔部側面29Aの表面に形成されている。この左鍔部側面硬化層32は、左鍔部側面29Aの表面に高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、左鍔部側面29Aの全周に亘る硬化層として形成されている。右鍔部側面硬化層33は、環状鍔部29の右鍔部側面29Bの表面に形成されている。この右鍔部側面硬化層33は、右鍔部側面29Bの表面に高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、右鍔部側面29Bの全周に亘る硬化層として形成されている。油圧ショベル1の走行時には、履帯19を構成するトラックリンク19Aの左,右の内側角部19Eは、左,右の鍔部側面硬化層32,33に当接する。これにより、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bの摩耗が、左,右の鍔部側面硬化層32,33によって抑制される構成となっている。
【0039】
左円板部硬化層34は、アイドラ本体23を構成する左円板部25のうち左リンク当接面27と隣接する左円板大径部25Aの表面に形成されている。この左円板部硬化層34は、左円板大径部25Aの表面に高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、左円板大径部25Aの全周に亘る硬化層として形成されている。右円板部硬化層35は、アイドラ本体23を構成する右円板部26のうち右リンク当接面28と隣接する右円板大径部26Aの表面に形成されている。この右円板部硬化層35は、右円板大径部26Aの表面に高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより、右円板大径部26Aの全周に亘る硬化層となっている。
【0040】
このように、本実施の形態では、アイドラ21の左,右のリンク当接面27,28の表面には、左,右のリンク当接面硬化層30,31がそれぞれ形成され、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bには、左,右の鍔部側面硬化層32,33がそれぞれ形成されている。さらに、アイドラ本体23を構成する左円板部25の左円板大径部25Aには、左円板部硬化層34が形成され、右円板部26の右円板大径部26Aには、右円板部硬化層35が形成されている。
【0041】
ここで、アイドラの左,右のリンク当接面は、一般に、その表面に形成された表面硬化層の深さを大きく(深く)することにより、履帯のトラックリンクから伝わる荷重に対する強度を高めることができる。しかし、左,右のリンク当接面の表面に形成される硬化層の深さは、アイドラを構成する材料の性質によって限度がある。一般に、リンク当接面の表面硬化層の深さを増大させるためには高価な材料を用いる必要があり、アイドラの製造コストが増大してしまうという不具合がある。
【0042】
本実施の形態では、アイドラ21のうち履帯19の各トラックリンク19Aが当接する左,右のリンク当接面27,28の表面に左,右のリンク当接面硬化層30,31を形成するだけでなく、左,右のリンク当接面27,28に隣接する部位、即ち、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bの表面に左,右の鍔部側面硬化層32,33を形成し、アイドラ本体23の左,右の円板大径部25A,26Aの表面に左,右の円板部硬化層34,35を形成している。
【0043】
このように、本実施の形態によるアイドラ21は、履帯19の各トラックリンク19Aが当接する左,右のリンク当接面27,28の表面のみならず、これら左,右のリンク当接面27,28に隣接する部位の表面に広範囲に亘って硬化層を形成することにより、左,右のリンク当接面27,28の周囲に形成される硬化層領域を増大させることができる。これにより、左,右のリンク当接面27,28の周囲の強度を、左,右のリンク当接面硬化層30,31の深さを増大させた場合と同等に高めることができる。従って、本実施の形態によるアイドラ21は、硬化層の深さを大きくするのに適した高価な材料を用いることなく製造することができ、製造コストを抑えつつ全体の強度を高めることができる構成となっている。
【0044】
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如きアイドラ21を有するもので、油圧ショベル1を走行させるときには、履帯式走行装置13の駆動輪17を回転駆動させる。
【0045】
これにより、履帯19を構成する各トラックリンク19Aが、駆動輪17の各歯17Aに噛合し、サイドフレーム12に設けられた各上転輪14および各下転輪15によって案内されつつ駆動輪17とアイドラ21の間で周回動作する。これにより、油圧ショベル1は、不整地等においても安定して走行することができる。
【0046】
ここで、油圧ショベル1が平坦な地面を走行するときには、
図5に示すように、履帯19を構成する各トラックリンク19Aの踏面19Dと、アイドラ21の左,右のリンク当接面27,28とは、互いにほぼ平行な状態で当接する。この場合には、履帯19を介してアイドラ21に伝わる荷重は、左リンク当接面27および右リンク当接面28の幅方向(左,右方向)の全域で受けることができる。この結果、左,右のリンク当接面27,28に作用する面圧が小さくなるので、左,右のリンク当接面硬化層30,31によって左,右のリンク当接面27,28の摩耗を抑制することができ、その強度や耐久性を高めることができる。
【0047】
一方、油圧ショベル1の走行時には、アイドラ21を構成する環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bに、各トラックリンク19Aの内側角部19Eが当接することにより、各トラックリンク19Aがアイドラ21に対して左,右方向に位置決めされる。この場合、環状鍔部29の左鍔部側面29Aには左鍔部側面硬化層32が形成され、右鍔部側面29Bには右鍔部側面硬化層33が形成されている。これにより、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bの摩耗を抑制することができ、その強度や耐久性を高めることができる。
【0048】
次に、油圧ショベル1が凹凸のある地面を走行するときには、例えば
図6に示すように、履帯19を構成する各トラックリンク19Aの外側角部19Fが、アイドラ21の右リンク当接面28のみに当接し、各トラックリンク19Aの踏面19Dが、アイドラ21の左,右のリンク当接面27,28から離間してしまう場合がある。この場合には、アイドラ21の右リンク当接面28のうち各トラックリンク19Aの外側角部19Fが当接した部位に荷重が集中するので、右リンク当接面28が荷重を受ける範囲が極めて小さくなり、右リンク当接面28には極端に高い面圧が作用する。この結果、右リンク当接面28の表面に形成された右リンク当接面硬化層31だけでは充分に荷重を受けることができず、アイドラ本体23の右円板大径部26Aが歪みを生じて変形し、アイドラ21の強度が低下してしまう。この現象は、各トラックリンク19Aの外側角部19Fが、アイドラ21の左リンク当接面27のみに当接した場合でも同様である。
【0049】
これに対し、本実施の形態によるアイドラ21は、左,右のリンク当接面27,28の表面に左,右のリンク当接面硬化層30,31を形成するだけでなく、左,右のリンク当接面27,28に隣接する部位、即ち、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bの表面には左,右の鍔部側面硬化層32,33を形成すると共に、左,右の円板部25,26の左,右の円板大径部25A,26Aの表面には左,右の円板部硬化層34,35を形成している。
【0050】
これにより、左,右のリンク当接面27,28の周囲に形成される硬化層領域を増大させることができ、左,右のリンク当接面27,28の周囲を、左,右のリンク当接面硬化層30,31の深さを増大させた場合と同等の強度とすることができる。この結果、例えば
図6に示すように、アイドラ21の右リンク当接面28に各トラックリンク19Aの外側角部19Fが当接することにより、右リンク当接面28が荷重を受ける範囲が極端に小さくなる場合でも、右リンク当接面28の周囲の強度が高められることにより、アイドラ本体23の右円板大径部26Aが歪みを生じて変形するのを抑えることができる。これと同様に、アイドラ21の左リンク当接面27に各トラックリンク19Aの外側角部19Fが当接することにより、左リンク当接面27が荷重を受ける範囲が極端に小さくなる場合でも、左リンク当接面27の周囲の強度が高められることにより、アイドラ本体23の左円板大径部25Aが歪みを生じて変形するのを抑えることができる。
【0051】
この結果、左,右のリンク当接面硬化層30,31の深さを大きくするのに適した高価な材料を用いてアイドラ21を形成することなく、左,右のリンク当接面27,28の周囲の強度を高めることができる。従って、本実施の形態によるアイドラ21は、製造コストを抑えつつ全体の強度を高めることができ、その耐久性を高めることができる。
【0052】
かくして、本実施の形態によるアイドラ21は、円筒状のハブ24と左,右の円板部25,26とを有するアイドラ本体23と、アイドラ本体23の外周縁に設けられた左,右のリンク当接面27,28と、左,右のリンク当接面27,28のうち左,右の円板部25,26とは反対側に位置し左,右のリンク当接面27,28よりも大径な環状鍔部29とからなり、環状鍔部29は、左,右のリンク当接面27,28のうち左,右の円板部25,26とは反対側から立上がる左,右の鍔部側面29A,29Bと、左,右の鍔部側面29A,29B間に位置し左,右のリンク当接面27,28よりも大径な鍔部外周面29Cとを有している。
【0053】
そして、左,右のリンク当接面27,28の表面には左,右のリンク当接面硬化層30,31が形成され、環状鍔部29の左,右の鍔部側面29A,29Bの表面には左,右の鍔部側面硬化層32,33が形成され、アイドラ本体23の左,右の円板部25,26のうち左,右のリンク当接面27,28と隣接する左,右の円板大径部25A,26Aの表面には左,右の円板部硬化層34,35が形成されている。
【0054】
このように、アイドラ21は、履帯19の各トラックリンク19Aが当接する左,右のリンク当接面27,28の表面のみならず、これら左,右のリンク当接面27,28に隣接する部位の表面に広範囲に亘って硬化層が形成されることにより、左,右のリンク当接面27,28の周囲に形成される硬化層領域を増大させることができる。これにより、左,右のリンク当接面27,28の周囲の強度を、左,右のリンク当接面硬化層30,31の深さを増大させた場合と同等に高めることができる。この結果、本実施の形態によるアイドラ21は、硬化層の深さを大きくするのに適した高価な材料を用いることなく製造することができ、製造コストを抑えつつ全体の強度を高めることができ、その耐久性を高めることができる。
【0055】
なお、実施の形態では、アイドラ21の左,右のリンク当接面27,28、左,右の鍔部側面29A,29B、左,右の円板大径部25A,26Aに対し、高周波焼入れを施すことにより、左,右のリンク当接面硬化層30,31、左,右の鍔部側面硬化層32,33、左,右の円板部硬化層34,35を形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、高周波焼入れ以外の表面硬化処理を施すことにより、左,右のリンク当接面硬化層30,31、左,右の鍔部側面硬化層32,33、左,右の円板部硬化層34,35を形成してもよい。
【0056】
また、実施の形態では、油圧ショベル1に用いられる履帯式走行装置13およびアイドラ21を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン、クローラ式不整地運搬車、クローラ式トラクタショベル等の履帯を備えた建設機械に広く適用することができる。