(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の位置保持具を詳細に説明する。ただし、本発明の位置保持具は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態の位置保持具の正面図を示す。位置保持具は、第1部材1と第1部材1に回転可能に連結される第2部材2と、を備える。第1部材1と第2部材2との回転は相対的なものであり、第1部材1を回転させることも、第2部材2を回転させることもできる。以下では、第1部材1を回転させる例を説明する。
【0013】
図1(a)は第1部材1の初期位置(例えばθ=0°)を示し、
図1(b)は後述する報知機構104が作動したときの第1部材の位置(例えばθ=95°)を示す。第1部材1は、初期位置(例えばθ=0°)から解除位置(例えばθ=120°)まで回転可能である。第1部材1の位置は、初期位置(例えばθ=0°)から最大調整位置(例えばθ=90°)までの間、任意に設定可能である。すなわち、初期位置(例えばθ=0°)から最大調整位置(例えばθ=90°)までの間、第1部材1は一方向へ回転(すなわち
図1の反時計方向への正転)可能であるが、他方向へ回転(すなわち
図1の時計方向へ逆転)不可能である。第1部材1を解除位置(例えばθ=120°)まで正転させると、第1部材1を初期位置(例えばθ=0°)まで逆転させることができるようになる。
【0014】
図2は位置保持具の分解斜視図を示し、
図3は軸8に沿った断面図を示す。
図2に示すように、位置保持具は、角度調整機構101、摩擦力発生機構102、付勢機構103、報知機構104を備える。
図2及び
図3を参照して、以下にこれらの構成要素を順番に説明する。
(角度調整機構)
【0015】
図2に示すように、角度調整機構101は、第1部材1と、第2部材2と、を備える。第1部材1には、楔部材3が設けられる。楔部材3は、第1部材1の壁部15a,15bの当接部4と第2部材2の筒状体7の当接部5(すなわちギヤ部5)とに挟まれて、第1部材1の逆転を防止する。
【0016】
第2部材2は、細長い板状のアーム本体6と、ギヤ部5を有する筒状体7と、アーム本体6及び筒状体7に回転不可能に挿入される軸8と、ワッシャ9と、を備える。
【0017】
アーム本体6には、椅子、ソファー等の本体部にアーム本体6を固定するための取付け穴6aが形成される。アーム本体6の一端部には、軸8が回転不可能に挿入される例えば多角形の穴6bが形成される。
【0018】
筒状体7の内面には、軸8が回転不可能に挿入される例えば多角形の穴7aが形成される。筒状体7の外面の軸方向の中央部には、鍔状に突出する隆起部7bが形成される。隆起部7bの軸方向の両側には、円筒状の案内面7cが形成される。この案内面7cには、第1部材1の壁部15a,15bが回転可能に支持される。
【0019】
図4に示すように、軸方向視において、筒状体7の隆起部7bには、多数の細かなギヤ歯11が円弧状に配列されたギヤ部5が形成されており、ギヤ部5の両端には、ギヤ歯11と比較してラジアル外方向へ向けて突出する第1突起12及び第2突起13が形成される。
【0020】
図2に示すように、ワッシャ9は、アーム本体6と筒状体7との間に介在する。ワッシャ9には、軸8が回転不可能に挿入される例えば多角形の穴9aが形成される。
【0021】
軸8は、フランジ8aと、例えば断面多角形状の基端部8bと、例えば断面小判状の先端部8cと、を備える。基端部8bは、アーム本体6、ワッシャ9及び筒状体7に回転不可能に挿入される。先端部8cは、摩擦力発生機構102及び報知機構104に回転不可能に挿入される。第1部材1は、この軸8の回りを回転する。
【0022】
第1部材1は、断面L字状のアーム本体17と、一対の板状の壁部15a,15bと、楔部材3を筒状体7のギヤ部5に付勢する板ばね18と、一対のケース半体19a,19bと、を備える。
【0023】
アーム本体17の折曲げ部17aには、アーム本体17を椅子、ソファー等の傾動部に固定するための取付け穴17bが形成される。アーム本体17の上端部の両端面には、リベット14等を用いて壁部15a,15bが固定される。
【0024】
壁部15a,15bは、板状であり、軸方向視において、下部が方形状で上部が半円状に形成される。壁部15aの形状は壁部15bと略同一である。壁部15a,15bには、筒状体7の案内面7cが回転可能に嵌められる円形穴21が形成される。壁部15a,15bの円形穴21の下側には、楔部材3が収容される収容空間22が形成される。
図4に示すように、収容空間22は楔形であり、内方側に円弧状の逃げ面23を有し、外方側に円弧状の当接部4を有する。当接部4は、第1部材1の回転中心Pから偏心した点Yを中心にした円弧状に形成される。
図4中A方向において、当接部4と逃げ面23との間隔が次第に小さくなる。逃げ面23の端部には、逃げ面23からラジアル外方向に突出する段付き傾斜面24が形成される。収容空間22には、筒状体7のギヤ部5に噛合していない状態の楔部材3が移動可能な退避空間25が形成される。
【0025】
図4に示すように、軸方向視において、楔部材3は、縦長であり、上方にいくにしたがって左右幅がわずかに減少する楔形状である。楔部材3の、ギヤ部5との対向面(すなわち右側面)には、多数の細かなギヤ歯27が緩やかな凹状に配列されたギヤ部28が形成される。楔部材3の、当接部4との対向面(すなわち左側面)には、滑らかで緩やかな凸湾曲した当接面29が形成される。楔部材3の下端には、左下方に傾斜する傾斜面30が形成される。傾斜面30の下端は、下方に凸の略半円状に形成された膨出部31に繋がる。
【0026】
図2に示すように、板ばね18は、細長い板状である。板ばね18は、その両端部がアーム本体17の上端部に支持される。
図4に示すように、板ばね18は、楔部材3の当接面29の中央部に当接して、楔部材3をギヤ部5に押し付ける。
【0027】
図2に示すように、ケースは、樹脂製の一対のケース半体19a,19bからなる。ケース半体19a,19bには、それぞれの組み合わせ位置に挿入ピンと挿入穴が形成される。ケース半体19a,19bは、壁部15a,15bに合わせた形状に形成されており、壁部15a,15bと共に回転する。
【0028】
なお、
図2には図示していないが、第1部材1と第2部材2との間に、第1部材1を逆転方向に付勢する渦巻きばねを設けることもできる。
【0029】
角度調整機構101の作用は、以下のとおりである。
図4に示すように、第1部材1が初期位置から最大調整位置まで正転(すなわち
図4のA方向へ回転)する間、第1部材1の角度を任意に設定できるように、楔部材3は、第1部材1の正転を許容しつつ、壁部15a,15bの当接部4と筒状体7のギヤ部5とに挟まれて、第1部材1の逆転(すなわちB方向への回転)を防止する。
【0030】
これを詳述するに、まず、
図5(a)に示す初期位置では、楔部材3と筒状体7のギヤ部5とが噛み合う。
【0031】
図5(a)から
図5(b)に示すように、第1部材1をA方向に回転させると、当接部4と楔部材3の当接面29との間に僅かな隙間gが生じる。そして、さらに第1部材1をA方向に回転させると、
図5(c)に示すように、壁部15a,15bの段付き傾斜面24が楔部材3の傾斜面30を押し、楔部材3のギヤ部28のギヤ歯27が筒状体7のギヤ部5のギヤ歯11を乗り越える。楔部材3は板ばね18によってギヤ部5に付勢されているので、楔部材3が退避空間25に移動することはない。この状態で、第1部材1をB方向に逆転させようとしても、楔部材3が当接部4とギヤ部5とに挟まれるので、第1部材1のB方向への回転は制限される。
【0032】
次に、
図5(d)に示すように、第1部材1をA方向に最大調整位置まで回転させると、筒状体7の第1突起12が楔部材3に当接する。そして、
図5(e)に示すように、第1部材1をA方向にさらに解除位置まで回転させると、楔部材3は第1突起12によって押圧され、退避空間25に移動する。これにより、第1部材1がB方向へ回転できるようになる。
図5(f)から
図5(a)に示すように、第1部材1が初期位置まで逆転すると、楔部材3は、筒状体7の第2突起13に押圧されて、退避空間25から押し出され、筒状体7のギヤ部5と再び噛み合う。
(摩擦力発生機構)
【0033】
図2に示すように、摩擦力発生機構102は、第1部材1の壁部15aに回転不可能に連結される第1制動部材41と、第2部材2の軸8に回転不可能に連結される2枚の第2制動部材42a,42bと、第1制動部材41と第2制動部材42a,42bとを圧接する付勢機構103と、を備える。
【0034】
第1制動部材41は、本体部41aと、本体部41aに一体に形成され、壁部15aに係合する折曲げ片41bと、を備える。本体部41aは、円盤状で板状である。本体部41aの中央には、軸8の先端部8cが回転自在に挿入される通し穴41cが形成される。折曲げ片41bは、本体部41aの外周縁から軸方向に延びる。第1制動部材41は常に第1部材1と共に回転する。壁部15aの外周縁には、折曲げ片41bが嵌合する切欠部44が形成される。第1制動部材41は例えばスチール製である。
【0035】
第2制動部材42a,42bは、円盤状で板状である。第2制動部材42a,42bの中央部には、軸8の先端部8cが回転不可能に挿入される断面小判状の穴43が形成される。第2制動部材42a,42bは常に第2部材2と共に回転する。第2制動部材42a,42bの外径は第1制動部材41の本体部41aの外径と略等しい。第2制動部材42a,42bと第1制動部材41とは、接触部C、すなわち第1制動部材41の対向面C1と第2制動部材42bの対向面C2との接触部分で接触する。軸方向視において、第2制動部材42a,42b及び第1制動部材41の本体部41aは、壁部15aの収容空間22の一部に重なる。第2制動部材42aは例えばスチール製であり、第2制動部材42bは例えば黄銅、銅、又はプラスチック製である。
【0036】
図3に示すように、第1制動部材41と第2制動部材42a,42bとは、軸方向に重なる。第1制動部材41と第2制動部材42aとの間には、第2制動部材42bが挟まれる。第2制動部材42aが筒状体7の軸方向の端面45に接触しており、第2制動部材42a,42b及び第1制動部材41の本体部41aは、壁部15aから軸方向に離間する。
【0037】
なお、第1制動部材41の位置と第2制動部材42aの位置を入れ替える、すなわち第1制動部材41の本体部41aを筒状体7の端面45に接触させることも可能である。また、第2制動部材42bの替わりに、第1制動部材41と第2制動部材42aとの間に軸8に対して回転可能な摩擦板を挟むことも可能である。
【0038】
第1部材1が第2部材2に対して回転すると、第1制動部材41が第2制動部材42a,42bに対して回転し、接触部Cに第1部材1の回転に抵抗する摩擦力が発生する。接触部Cの摩擦力によって、第1部材1をゆっくり回転させたり、又は第1部材1の角度を任意に保持したりすることが可能になる。
(付勢機構)
【0039】
図2に示すように、軸8の先端部8cには、付勢機構103が装着される。付勢機構103は、軸8の先端部8cが回転不可能に挿入される一対の押さえ板51a,51bと、押さえ板51a,51bの間に挟まれる複数の皿ばね等からなる弾性体52と、軸8の先端部8cにかしめ等により締結される締結部材53と、を備える。押さえ板51bは軸8に固定される。押さえ板51aは軸8に対して軸方向に移動可能である。弾性体52の弾性力は、押さえ板51a、玉61を介して第1制動部材41に伝わる。付勢機構103を設けることで、第1制動部材41と第2制動部材42a,42bとの間に働く摩擦力を大きくし、かつ安定させることができる。
(報知機構)
【0040】
利用者が第1部材1の角度を最大調整位置(例えばθ=90°)又はその近傍に設定するとき、誤って第1部材1を解除位置(例えばθ=120°)まで正転させてしまうと、第1部材1が初期位置(例えばθ=0°)まで逆転してしまう。これを防止し、利用者に第1部材1の角度が解除位置の手前(例えばθ=95°)にあることを知らせるために報知機構104が設けられる。
【0041】
図2に示すように、報知機構104は、報知手段としての2個の玉61と、玉61を保持するリテーナ62と、玉61が接触するクリック部材41と、玉61をクリック部材41に付勢する付勢機構103と、を備える。クリック部材41は、摩擦力発生機構102の第1制動部材41と兼用される。
【0042】
玉61は鋼製である。玉61の数は2個であるが、1個、3個等にすることもできる。
【0043】
リテーナ62は、円盤状で板状である。リテーナ62の中央部には、軸8の先端部8cが回転不可能に挿入される断面小判状の穴62aが形成される。リテーナ62には、円周方向に約180度の間隔を開けて玉61が収納される穴62bが形成される。この穴62bの直径は、玉61の直径に略等しい。
図3に示すように、リテーナ62の厚さは、玉61の直径よりも小さい。玉61の位置は、リテーナ62によって一定に保たれる。
【0044】
図2に示すように、クリック部材41は、円盤状の本体部41aと、本体部41aに一体に形成され、壁部15aに係合する折曲げ片41bと、を備える。本体部41aの中央には、軸8が回転自在に挿入される穴41cが形成される。
図6に示すように、本体部41aの表面には、玉61が移動可能な円弧状の溝63、及びこの溝63の一端部に繋がる凹部64が形成される。溝63を相対的に移動する玉61が凹部64で落ち込むように、凹部64の深さは溝63の深さよりも深い。
図3に示すように、凹部64は、円筒状である。凹部64は貫通穴であっても底があってもよい。凹部64の直径は、玉61の直径よりも小さい。クリック部材41は、スチール製である。
【0045】
第1部材1、すなわちクリック部材41を回転させると、リテーナ62に保持された玉61がクリック部材41の溝63上を円周方向に相対的に移動する。第1部材1が最大調整位置を越えて解除位置の手前まで正転すると、玉61が凹部64に落ち込む。これにより、クリック音が発生し、また第1部材1の抵抗、すなわちトルクが増加する。
【0046】
図7は、クリック部材41上を相対的に移動する玉61の動作図を示す。
図7(a)は
図6に示すクリック部材41の例を示し、
図7(b)〜
図7(d)はクリック部材41の他の例を示す。
【0047】
図7(a)に示すように、凹部64は、最大調整位置と解除位置との間に配置される。凹部64の左側には、溝63が形成される。凹部64の右側には、溝63よりも高い段差65が形成される。初期位置にある玉61が凹部64まで相対的に移動すると、玉61が凹部64に落ち込み、クリック音が発生する。また、玉61が凹部64から出て、右側の段差65に乗り上げると、第1部材1のトルクが増加する。
【0048】
図7(b)は、凹部66を最大調整位置と解除位置との間だけでなく、初期位置にも配置した例である。この例の凹部66は逆円錐状である。凹部66の間には、溝が設けられていない。この例の場合、玉61が最大調整位置と解除位置との間にあるときだけでなく、初期位置にあるときにもクリック音が発生し、第1部材1のトルクが増加する。
【0049】
図7(c)は、
図7(a)に類似していて、凹部67を逆円錐状にした点のみが
図7(a)と相違する。凹部67の左側には、溝63が形成される。凹部67の右側には、溝63よりも高い段差68が形成される。
図7(a)と同様に、初期位置にある玉61が凹部67まで相対的に移動すると、玉61が凹部67に落ち込み、クリック音が発生する。また、玉61が凹部67から出て、右側の段差68に乗り上げると、第1部材1のトルクが増加する。
【0050】
図7(d)は、
図7(a)の凹部64を設けずに、溝63のみを設けた例である。この例の場合、最大調整位置と解除位置との間には、右側が高くなるように段差69が形成される。玉61が段差69に乗り上げると、クリック音が発生することなく、第1部材1のトルクが増加する。
(本実施形態の位置保持具の効果)
【0051】
第1部材1が最大調整位置を越えた後、解除位置まで正転する手前において、利用者に第1部材1の角度が解除位置の手前にあることを知らせる報知手段を設けるので、第1部材1の角度を最大調整位置又はその近傍に容易に設定することができる。
【0052】
クリック音を発生させ、及び/又は第1部材1の抵抗を増加させることで、利用者に第1部材1の角度が解除位置の手前にあることを知らせることができる。
【0053】
玉61がクリック部材41の凹部64,66,67に落ち込み、及び/又は玉61がクリック部材41の段差65,68,69を乗り上げることによって、クリック音を発生させ、及び/又は第1部材1の抵抗を増加させるので、報知機構104の構造をシンプルにすることができる。
【0054】
弾性体52が玉61をクリック部材41に付勢するので、クリック音を大きくし、及び/又は第1部材1の抵抗を大きくすることができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な実施形態に具現化可能である。
【0056】
上記実施形態では、第1部材と第2部材とを相対的に回転可能に連結しているが、
図9に示すように、第1部材71と第2部材72とを相対的にスライド可能に連結することもできる。この位置保持具では、第1部材71が初期位置から最大調整位置まで一方向へスライドする間、第1部材71の位置を任意に設定できるように、第一部材71の一方向への変位を許容しつ第1部材71の他方向への変位を防止する。第1部材71が一方向へ最大調整位置を越えて解除位置まで一方向へ変位すると、第1部材71が他方向へ初期位置までスライド可能となる。
【0057】
上記実施形態では、第1部材が最大調整位置を越えた後、解除位置まで正転する手前において、玉がクリック音を発生させ、及び/又は第1部材の抵抗を増加させているが、第1部材が最大調整位置に到達する直前に、玉がクリック音を発生させ、及び/又は第1部材の抵抗を増加させるようにすることもできる。
【0058】
上記実施形態では、摩擦力発生機構を設けているが、摩擦力発生機構を省略することも可能である。