特許第6707519号(P6707519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707519
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/106 20160101AFI20200601BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20200601BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20200601BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20200601BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200601BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20200601BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20200601BHJP
【FI】
   H01M8/106
   C25B13/02 301
   C25B13/08 301
   H01B1/06 A
   H01M8/10 101
   H01M8/1039
   H01M8/1062
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-505551(P2017-505551)
(86)(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公表番号】特表2017-532716(P2017-532716A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】GB2015052253
(87)【国際公開番号】WO2016020668
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2018年8月2日
(31)【優先権主張番号】1413794.7
(32)【優先日】2014年8月4日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】505041416
【氏名又は名称】セントレ ナショナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】511300857
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ モンペリエ 2
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ, デボラ
(72)【発明者】
【氏名】ロジェ, ジャック
(72)【発明者】
【氏名】カヴァリエーレ, サラ
(72)【発明者】
【氏名】スビアント, スーリヤ
(72)【発明者】
【氏名】バートン, サラ
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−068396(JP,A)
【文献】 特表2003−528420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/08 − 8/2495
C25B 13/02
C25B 13/08
H01B 1/06
H01M 8/00 − 8/0297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される絡み合ったナノファイバーから形成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であり、ナノファイバーが、100〜400nmの平均直径を有する、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。
【請求項2】
ナノファイバーがスピニングされたナノファイバーである、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される絡み合ったナノファイバーから形成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であり、ナノファイバーが、スピニングされたナノファイバーである、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。
【請求項4】
複素環式ポリマーが、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサゾール及びポリチアゾール、並びにこれらの誘導体の群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項5】
複素環式ポリマーがポリアゾール又はその誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項6】
ポリアゾールが、ポリベンズイミダゾール、ポリトリアゾール、ポリチアゾール及びポリジチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される、請求項に記載の電解質膜。
【請求項7】
多孔質マットが70〜98%の範囲の空隙率を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項8】
多孔質マットが1.0g/mから7g/mの範囲の平均坪量を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項9】
電解質膜内のイオン伝導性ポリマー:ナノファイバーの重量比が70:30より大きい、請求項1から8のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、前記電解質膜の第1及び/又は第2の面上の触媒層とを備える触媒化膜。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、前記電解質膜の第1及び/又は第2の面上のガス拡散電極とを備える膜電極アセンブリ。
【請求項12】
請求項10に記載の触媒化膜と、前記触媒層上のガス拡散層とを備える、膜電極アセンブリ。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、請求項10に記載の触媒化膜又は請求項11若しくは12に記載の膜電極アセンブリとを備える燃料電池。
【請求項14】
燃料電池がPEMFCである、請求項13に記載の燃料電池。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜を備える電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜と、電気化学デバイスにおけるその使用、特にプロトン交換膜燃料電池におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を備える電気化学電池である。例えば水素、メタノール又はエタノールのようなアルコール、又はギ酸といった燃料はアノードに供給され、酸素又は空気のようなオキシダントはカソードに供給される。電気化学反応は電極で起こり、燃料及びオキシダントの化学エネルギーは電気エネルギー及び熱に変換される。電解触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化反応と、カソードにおける酸素の電気化学的還元反応を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は通常、用いられる電解質の性質に従って分類される。電解質は、膜が電子的に絶縁性であるがイオン的には伝導性である固体高分子膜であることが多い。プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では、膜はプロトン伝導性であり、プロトンは、アノードで生成されて、膜を横切ってカソードへ搬送され、カソードにおいて酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEMFCの主要な成分は膜電極アセンブリ(MEA)であり、これは基本的に五層から構成される。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のどちらかの面に、電解触媒層があり、特定の電解反応のために設計された電解触媒を含んでいる。最後に、各電解触媒層に隣接して、多孔性且つ導電性のガス拡散層があり、反応物が電解触媒層に到達して電気化学反応により生成される電流を伝導することを可能にする。
【0005】
PEMFCに用いられる従来のイオン伝導性膜は通常、スルホン化完全フッ素化ポリマー材料(一般的には過フッ素化スルホン酸(PFSA)イオノマーと呼ばれることが多い)から形成される。PFSA型イオノマーの代替物として、部分フッ素化又は非フッ素化炭化水素スルホン化又はリン酸化ポリマーをベースとするイオン伝導性膜を使用することが可能である。PEMFCの最近の開発においては、得られる利点(イオン伝導性の向上、水透過の向上など)のために、これまでよりも薄く(<50μm)且つイオン交換能(IEC)が高いか又は等量(EW)が低い膜が必要とされており、したがって、早期破壊に対する抵抗性を増大させるために必要な機械特性を提供するために、強化材、典型的には延伸加工ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が膜内部に埋め込まれる。
【0006】
このような強化膜は、同じ厚さの非強化膜と比較するとプロトン伝導性が低いことが多いが、機械特性の向上により、電気抵抗の低い薄い膜を使用することが可能となった。
【0007】
例えば国際公開第2011/149732号に記載されるような他の種類の強化材も提案されている。
【発明の概要】
【0008】
上述のような強化膜により、機械的強度を維持しながらより薄い膜を使用することが可能になったが、依然として欠点が存在する。特に、比較的高いレベル(例えば冷状態からのスタートアップ)から極度の乾燥レベル(最大定格出力密度での動作)まで短時間のあいだに極めて大きく湿度の条件が変動し、膜が許容限度を超えて劣化しうる実用運転において、限界が見られる。この運転を模倣及び加速するように設計された加速ストレス試験において、湿性/乾性サイクル加速ストレス試験は、このような膜の解膨潤効果をより迅速に観察することができるように、膜の膨潤/解膨潤を引き起こす。
【0009】
本発明の目的は、PEMFC及びPEM 電気分解装置における使用に適した改良型電解質膜を提供することである。
【0010】
本発明は、
(i)非イオン的伝導性複素環式ポリマーからなるナノファイバーの多孔質マットであって、複素環式ポリマーが塩基性官能基を含み、有機溶媒に可溶である、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜内の多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の電解質膜の模式図である。
図2】エレクトロスピニングされたポリベンズイミダゾール(PBI)ナノファイバーマットのSEM画像と実施例の繊維サイズ分布を示している。
図3】PBI繊維サイズ分布に対する溶媒シース使用の効果を示している。
図4】実施例1の膜の断面のSEMを示している。
図5】MEA1及びMEA3に対する85℃、13%RHでのOCVホールド試験を示している。
図6】MEA1、MEA2及びMEA3に対するOCVでの湿性−乾性サイクルを示している。
図7】MEA4、MEA5及びMEA6のスタック耐久性試験の間のパフォーマンスを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴を以下に規定する。本発明のいずれの態様も、文脈がそれ以外を要求しない限り、本発明の他のいずれかの態様と組み合わせることができる。文脈がそれ以外を要求しない限り、任意の態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれもが、単独で又は組み合わせで、本発明の任意の態様と組み合わせることができる。
【0013】
本発明は、ナノファイバーの多孔質マットを備える電解質膜を提供し、この多孔質マットはイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されている。
【0014】
多孔質マットは、電解質膜に機械的補強を提供する。
【0015】
多孔質マットは、塩基性官能基を含む非イオン的伝導性の複素環式ポリマーの絡み合ったナノファイバーから形成される。複素環式ポリマーは、有機溶媒に可溶であり、特にポリマーはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルスルホキシド(DMSO)、適切にはDMAc又はDMSO、好ましくはDMAcに可溶である。
【0016】
ナノファイバーは、適切には100〜400nm、適切には100−300nm、好ましくは150−250nmの平均径を有する。
【0017】
ナノファイバーの長さは本発明に重要でないが、各ナノファイバーは、一又は複数の他のナノファイバーと又はそれ自体が絡み合うために十分な長さ(例えば数センチメートル)を有さねばならない。
【0018】
ナノファイバーは、適切にはスピニングされたナノファイバーであり、即ちナノファイバーはスピニング技術を用いて形成される。適切にスピニングを行う技術の例には、限定されないが、エレクトロスピニング及び力紡績が含まれる。
【0019】
複素環ポリマー、好ましくは塩基性複素環ポリマーには、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサゾール及びポリチアゾール及びこれらの誘導体が含まれる。適切には、ポリマーは、官能化ポリアゾール又は双性イオン性ポリアゾール、例えばポリベンズイミダゾール、ポリトリアゾール、ポリチアゾール及びポリジチアゾール及びこれらの誘導体、最も適切にはポリベンズイミダゾールである。
【0020】
適切には、ナノファイバーは、二つ以上の複素環式ポリマーのブレンドではなく、単一の複素環式ポリマーから形成される。
【0021】
複素環式ポリマーは架橋していてもよく、即ち一つのポリマー鎖が別のポリマー鎖に結合していてもよい。架橋は電解質膜の機械的安定性を向上させうる。
【0022】
複素環式ポリマーは、固有のラジカル捕捉能を有してもよい。このような特性は、電解質膜において有益となり、ペルオキシラジカル種による損傷のような化学的劣化メカニズムに対する保護を提供する。したがってこれは、より耐久性の高い膜の提供にも寄与するであろう。また、このような特性を有する複素環式ポリマーの使用は、電解質膜中へ、ラジカル捕捉能を有する追加的物質又は過酸化水素分解触媒、例えばセリウムカチオン、二酸化セリウム、二酸化マンガン又はその他添加剤を付加する必要を排除することになり、したがってこれら物質を取り込むことに関連する不都合を回避する。
【0023】
多孔質マットは開いた構造と、70〜98%、適切には80〜95%、適切には85〜95%、好ましくは90〜95%の範囲の空隙率を有している。空隙率は、ポリマーの既知の密度に対する、その幾何学的寸法及びその質量に基づいて決定された、多孔質マットの容積質量の割合に基づいて決定される。
【0024】
多孔質マットは、1g/mから7g/mの範囲、適切には1.5g/mから3g/mの範囲の平均坪量を有する。
【0025】
電解質膜の多孔質マットは、適切には、50μm、30μm、適切には25μm、好ましくは20μmの最大厚さを有する。
【0026】
電解質膜の多孔質マットは、適切には、5μm、適切には10μmの最小厚さを有する。
【0027】
多孔質マットを形成するために、ナノファイバーは、適切にはスピニング技術により、適切な基材又は表面上に形成される。例えば、ナノファイバーは、エレクトロスピニングを用いて形成することができる。エレクトロスピニング法は、適切な溶媒中の複素環式ポリマーを、シリンジポンプを用いて針に高圧を印加することにより針を通して押すことを含む。エレクトロスピニングされたナノファイバーのマットは、針からある程度の距離、例えば針から10〜15cmに設定されて、並行かつ回転移動する接地された回転ドラム式コレクター上に収集される。繊維の形態は、濃度などの溶液パラメーターの制御により得られ、マットの厚さ及び均一性は堆積時間及びコレクターの回転/並行移動速度により制御される。
【0028】
多孔質マットには、カレンダリング、又は溶接などの緻密化処理といったそれ以上の処理は、何も行われない。
【0029】
イオン伝導性ポリマーは、適切には、プロトン伝導性ポリマー、特に部分的又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである。適切なプロトン伝導性ポリマーの例には、ペルフルオロスルホン酸イオノマー(例えばNafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)が含まれる。
【0030】
多孔質マットは、イオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されて、電解質膜を形成する。「基本的に完全に含浸」とは、多孔質マットの少なくとも80%、適切には少なくとも90%、適切には少なくとも95%、理想的には100%の孔がイオン伝導性ポリマーで充填されることを意味する。
【0031】
適切には、過剰なイオン伝導性ポリマーが電解質膜の両方の表面上に存在して触媒層への付着を助ける。
【0032】
多孔質マットには、以下の方法によりイオン伝導性ポリマーを含浸させることができる:
イオン伝導性ポリマー(溶液/分散液中の)を、担体材料上にキャストする。イオン伝導性ポリマーの層がまだ湿っている間に、多孔質のナノファイバーマットを湿潤層中に敷き、イオン伝導性ポリマーを多孔質マットの一面に含浸させる。イオン伝導性ポリマーのさらなる層を多孔質マットの第2の面に適用し、第2の面から多孔質マット中に含浸させる。含浸させた多孔質マットを乾燥させ、適切にはアニーリングして電解質膜を形成する。
【0033】
イオン伝導性ポリマーの溶液/分散液は、追加の成分、例えば1から50μmといった短いナノファイバーを含んでもよい。
【0034】
多孔質マットにイオン伝導性ポリマーを含浸させる別の方法は、当業者には既知であろう。
【0035】
本発明の最終的な電解質膜では、イオン伝導性ポリマー:ナノファイバーの重量比は、適切には70:30を上回り、好ましくは90:10を上回る。適切には、イオン伝導性ポリマー:ナノファイバーの比は、98:2未満である。この文脈では、ナノファイバーは多孔質マット内のナノファイバーを指す。
【0036】
電解質膜内の多孔質マットの厚さは、最終的な電解質膜の厚さの適切には少なくとも80%、適切には少なくとも85%、最適には少なくとも90%にわたって分布している。多孔質マットは、電解質膜の厚さと多孔質マットの厚さが基本的には等しくなるように膜の厚さ全体に延びるが、実際には、電解質膜の厚さは、多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの99%以下、例えば95%となるように、多孔質マットの厚さよりわずかに大きい。
【0037】
電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって多孔質マットを分布させることは、最終的な電解質膜の安定化(機械的及び化学的)を増強する。
【0038】
本発明の電解質膜は、電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布した複数の多孔質マット、例えば二つの多孔質マットを含むことができる。
【0039】
図1は、本発明の電解質膜の概略図である。
【0040】
本発明は、本発明の電解質膜と触媒層を含む触媒化電解質膜も提供する。
【0041】
触媒層は、一又は複数の電解触媒を含む。一又は複数の電解触媒は、独立して、微細に分割された担持されていない金属粉末であるか、又は小さなナノ粒子が導電性の微粒炭素の担体上に分散している担持された触媒である。電解触媒金属は、適切には、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、
(ii)金又は銀、
(iii)卑金属、
又はこれら金属又はそれらの酸化物のうちの一又は複数を含む合金又は混合物から選択される。好ましい電解触媒金属は白金であり、これは他の貴金属又は卑金属と合金化することができる。電解触媒が担持された触媒である場合、炭素担体材料上の金属粒子の負荷は、適切には、結果として得られる電解触媒の重量の10〜90wt%、好ましくは15〜75wt%の範囲である。
【0042】
使用される正確な電解触媒は、それが触媒することを意図する反応に依存し、その選択は当業者の能力範囲内である。
【0043】
触媒層は、適切には、電解質膜の第1及び/又は第2の面に、有機又は水性の(しかし好ましくは水性の)インクとして適用される。インクは好適には、EP0731520に記載されるイオン伝導性ポリマーのようなその他の構成成分を含むことができ、これは層内部のイオン伝導性を改善するために含まれる。或いは、触媒層は、以前に調製された触媒層のデカル転写により適用することができる。
【0044】
触媒層は、さらに追加の成分を含んでもよい。このような追加成分には、限定されないが、酸素発生を容易にし、したがって電池の反転状況及び高電位偏移において有益であろう触媒、又は過酸化水素分解触媒が含まれる。このような触媒及び触媒層に含めるために適切な他の添加剤の例は、当業者に既知であろう。
【0045】
本発明は、本発明の電解質膜及び電解質膜の第1及び/又は第2の面上のガス拡散電極を備える膜電極アセンブリをさらに提供する。
【0046】
本発明は、本発明の触媒化電解質膜及び少なくとも一つの触媒層上に存在するガス拡散層を備える膜電極アセンブリをさらに提供する。
【0047】
膜電極アセンブリは、限定されないが:
(i)本発明の電解質膜を二つのガス拡散電極(一つのアノードと一つのカソード)の間に挟むことができる方法;
(ii)一方の側に触媒層を有する本発明の触媒化電解質膜を、触媒化電解質膜の触媒成分を有する側に接触するガス拡散層と、ガス拡散電極の間に挟むことができる方法;又は
(iii)両側に触媒成分を有する本発明の触媒化電解質膜を、二つのガス拡散層の間に挟むことができる方法
を含む複数の方法で作製することができる。
【0048】
アノード及びカソードガス拡散層は、適切には、従来のガス拡散基材をベースとする。典型的な基材には、炭素繊維と熱硬化樹脂のバインダーの網を含む不織布の紙又はウェブ(例えば、東レ株式会社から市販される炭素繊維紙のTGP−Hシリーズ又はドイツ国Freudenberg FCCT KGから市販されるH2315シリーズ、又はドイツ国SGL Technologies GmbHから市販されるSigracet(登録商標)シリーズ又はBallard Power Systems Inc.から市販されるAvCarb(登録商標)シリーズ)、或いは織炭素布が含まれる。炭素の紙、ウェブ又は布には、湿潤性(親水性)を高めるため、又は防水性(疎水性)を高めるために、MEAに取り込まれる前にさらなる処理を行うことができる。任意の処理の性質は、燃料電池の種類と使用される動作条件によって決まる。基材は、液体懸濁液からの含浸によりアモルファスカーボンブラックのような材料を取り込むことにより湿潤性を高めることができるか、又は基材の孔構造にPTFE又はポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)といったポリマーのコロイド懸濁液を含浸させた後、乾燥させ、ポリマーの融点を上回る温度に加熱することにより疎水性を高めることができる。PEMFCのような用途の場合、微多孔質層もガス拡散基材の電解触媒層と接触する面に適用できる。微多孔質層は、典型的にはカーボンブラックとポリテトラフロオロエチレン(PTFE)のようなポリマーの混合物を含む。
【0049】
本発明は、本明細書に開示される電解質膜、触媒化電解質膜又は膜電極アセンブリを備えた燃料電池をさらに提供する。一実施態様では、燃料電池はPEMFCである。
【0050】
PEMFCに使用されることに加えて、本発明の電解質膜は、そのようなイオン伝導性ポリマー膜を必要とするあらゆる電気化学デバイス、例えば電気分解装置に用途を見出すであろう。
【実施例】
【0051】
例示的で、本発明を限定しない以下の実施例を参照して本発明についてさらに説明する。
【0052】
実施例1
膜の製造
PBI Performance Products Inc.から得られるポリ[2,2`−(m−フェニレン)−5,5`−ビベンズイミダゾール](PBI)を、以下のパラメーターを用いて、ジメチルアセトアミド(DMAc)中13%溶液からエレクトロスピニングした:印加電圧15kV、流速0.12mL/時;針コレクターの距離10cm;ドラム式コレクター回転速度800rpm;及び並行移動速度10mm/s。エレクトロスピニングされたマットをドラムから取り出した。
【0053】
PBIエレクトロスピニングマットは、ランダムに方向付けられたナノファイバーを含み、このナノファイバーは、140から280nmという比較的狭い繊維直径分布で平均繊維直径200nmを有し、長さは数十ミクロンである。図2は、エレクトロスピニングされたマットの走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、繊維がランダムに方向付けられていることを示している。図2には、繊維直径分布を示すグラフも示されている。
【0054】
PBIナノファイバーの厚さは、同心型針エレクトロスピニングを用いてさらに制御することができる。コア溶液はPBI溶液であり、シース溶液はDMAcである。溶媒シースの使用により、エレクトロスピニングの間に起こる繊維のエバポレーションと乾燥は遅れ、その結果ポリマーのナノファイバーの伸長が大きくなり、最終的なエレクトロスピニングされたマットのナノファイバーが薄くなる。コア/シースを流速比2/1で用いると、平均繊維直径は120μm(60〜180nmの範囲)である(図3参照)。
【0055】
エレクトロスピニングされたPBIマットは、厚さ10μm、空隙率83%及び坪量2.27g/mを有する。
【0056】
Solvay Specialty Polymers社のAquivion(登録商標)PFSA当量700g/molの分散物(HO/1−プロパノール/DMAc中60/35/5で13重量%)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレートにキャストした。次いで、PBIエレクトロスピニングマットを、キャストしたPFSA分散物の上に直接配置した。キャストしたPFSA分散物のナノファイバーマット中への含浸を目視により確認し、次いでPFSA分散物の第2の層をPBIエレクトロスピニングマットの上にキャストした。膜全体の厚さを、ドクターブレードのゲート厚により制御した。キャストされた電解質膜をまず室温で、続いて80℃で一晩乾燥させ、次いで高温(160℃)でホットプレスした(25kg/cm)。
【0057】
溶媒除去及びホットプレスの後では、電解質膜は公称厚み30μmを有し、エレクトロスピニングPBIマットは電解質膜の厚さの約85%に広がっていた。電解質膜中のPFSA:ナノファイバーの重量比は90:10であった。
【0058】
電解質膜のSEM画像を図4に示す。断面のSEMを、液体窒素中における試料の凍結開裂法により行った。図4は、エレクトロスピニングされたマットが含浸の間に繊維のいくらかの変位を許容することにより、電解質膜の断面全体に繊維が存在することを示している。これは、電解質膜内部にPFSA−欠損領域がなくなるためにプロトンの伝導に対する障壁を低減するという利点を有する。これはまた、膨潤に起因する機械的ストレスを許容する電解質膜の柔軟性を高めることができる。凍結開裂後にはナノファイバーとPFSAマトリックスの間に目に見える分離はなく、エレクトロスピニングされたマットとPFSAの間の良好なインターフェースが示された。電解質膜では、ナノファイバーは、完全にPFSAに浸漬しているように見え、二つの間のインターフェースは明らかでなく、PFSAがナノファイバーの表面に強力に付着していることが示された。
【0059】
実施例2(比較)
DMAc/アセトン中20wt%のポリエーテルサルホン(PES)の溶液を、回転及び並行移動ドラム式コレクター上に25℃でエレクトロスピニングした。ナノファイバーを、140℃で収集及びプレスした。Solvay Specialty Polymers社のAquivion(登録商標)PFSA当量700g/molの分散物(HO/1−プロパノール/DMAc中70/30で13重量%)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレート上にキャストした。次いで、PESエレクトロスピニングマットを、キャストしたPFSA分散物の上に直接配置した。次いでPFSA分散物の第2の層を、PESエレクトロスピニングマット上にキャストした。膜全体の厚さを、ドクターブレードのゲート厚保により制御した。キャストされた電解質膜を50℃で、次いで120℃で、次いで145℃で乾燥させた。
【0060】
実施例3(比較):
790g/mol(EW790)の当量でAquivion(登録商標)PFSAから調製された30μmの非強化膜
【0061】
実施例4(比較)
実施例1で使用された、700g/mol(EW700)の当量のAquivion(登録商標)PFSAから調製された30μmの非強化膜
【0062】
膜の膨潤、吸水及びプロトン伝導性の測定値を、80℃で測定した。
【0063】
面内プロトン伝導性を、約25×5mmの寸法の試料について、温度と相対湿度(RH)の制御下においてBekktech4点プローブ設定及び測定セルを用いて決定した。抵抗測定を、80及び110℃で、50〜95%のRH範囲にわたって実施した。110℃での測定を、206kPaのセル圧で実行した。結果を、三つの測定値の平均として表1に示す。膜の吸水を、80℃で一晩水に浸漬する前と後で、3×3cmの寸法(テンプレートを使用してカット)の試料を重量測定することにより決定した。膜の寸法の膨潤を、同じ試料について、水に浸漬する前と後での試料の寸法を測定することにより決定した。
【0064】
【0065】
水中における膨潤の割合は、実施例3及び4の膜と比較して実施例1の膜の場合はるかに小さく、これはエレクトロスピニングされたPBIマットとPFSAイオノマーとのイオン性相互作用によるものと考えられる。実施例1のプロトン伝導性は、実施例3より高く、実施例4と同等である。
【0066】
機械的引張強度を、弾性率及び破壊伸び率を用いて測定した。機械的引張測定を、湿度/温度を制御したチャンバー及びTestXpert V11.0ソフトウエアを備えた200Nの静荷重セルを有するZwick Roell Z1.0チャンバーで実施した。試験は、100×5mmのストリップの試料について、1mm/sの引き出し率及び10mmのクランプ距離を用いて実施した。高い温度/RHでの測定の場合、試料を必要な条件下に一晩保ち、次いで試料チャンバーに置いて1時間平衡化し、ありうる膜の膨潤を考慮して、測定前に予圧した。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
弾性率及び降伏点はすべて、実施例3及び4の膜よりも実施例1の膜の場合にやや高く、実施例1の膜の方が硬くて強く、低い破壊伸び率を有することを示している。
【0069】
MEAの作製
MEA1:実施例1の膜及び電極を、テンプレートを使用して52x52mmにカットし、サブガスケットを使用して25cmの活性面積を画定した。電極は、アノードに0.2mg/cmの、カソードに0.4mg/cmの白金触媒負荷をそれぞれ有する標準的な電極であった。MEAを、150℃で5分間のホットプレスにより作製した。
【0070】
MEA2(比較):MEA2を、MEA1について記載した作製方法に従って、実施例2の膜を用いて調製した。
【0071】
MEA3(比較):MEA3を、MEA1について記載した作製方法に従って、実施例3の膜を用いて調製した。
【0072】
MEA4:MEA4を、実施例1の膜を用いて、活性面積が45cmであり、MEAを170℃で2分間のホットプレスにより作製したことを除き、MEA1について上述した方式と同様にして、調製した。
【0073】
MEA5(比較):MEA5を、MEA4について記載した作製方法に従って、実施例3の膜を用いて調製した。
【0074】
MEA6(比較):MEA6を、MEA4について記載した作製方法に従って、実施例4の膜を用いて調製した。
【0075】
耐久性試験
開放電圧(OCV)ホールド加速ストレス試験:
膜の耐久性を評価するために、OCVホールド試験を以下の条件下で実施した:膜電極アセンブリを、85℃及び13%RHで開放電圧に保持し、セル電圧の下降を一定の時間にわたって監視した。図5に示すように、MEA3はOCVの大きな下降を示す一方、MEA1のOCVの下降はそれよりもずっと小さかった。
【0076】
湿性−乾性サイクル加速ストレス試験:
加水/脱水により引き起こされる体積の変化に対する膜の耐久性をさらに評価するために、湿性−乾性サイクル試験を、80℃及びOCVで、0%のRH(10分)から90℃の露点(10分)までを循環させることにより実施した。図6は、MEA1がMEA2及びMEA3と比較してはるかに安定性が高いことを示している。150時間後、MEA2とMEA3はOCVの崩壊率の上昇を示したが、MEA1は、依然として安定であり、MEA2及びMEA3と比較して有意に低い崩壊率を示し、これは、ナノファイバーの強化により、加水と脱水による体積変化により生じるストレスに対する機械的強度及び一体性が提供され、その結果安定性が大きく向上したことを示している。
【0077】
スタック耐久性試験:
活性面積45cmの9個のMEAを含む短い燃料電池スタックを、MEA4、MEA5及びMEA6の各々からなる3個のMEAを含むように構築した。スタックを、現実環境における燃料電池の動作の実際の荷重サイクル条件を再現するように設計された加速耐久性試験のプロトコール化で動作させた。試験のプロトコールは、一定の高電流動作の反復期間と、それに続く高電流条件と低電流条件の循環、次いで低電流条件からシャットダウンへの切り替えと定電流条件へのスタートアップ(即ちオン−オフサイクルの繰り返し)を含んでいた。これら実際の動作モード間の急速なサイクルは、もっと短い時間の間に、現実生活動作の10万時間にわたる実際の燃料電池動作に見られるであろう動作特性を加速するように設計された。加速試験サイクルは、50kPagの入口圧及び30%の入口相対湿度(RH)、80℃のスタック温度で実施された。ガスを、アノードについて1.5×ストイキオメトリで、カソードについて2.0×ストイキオメトリで供給した。耐久性試験は約2000時間にわたり実行された。耐久性試験のプロトコール中定期的に、スタック中のMEAの性能を、電流対電圧分極化を実行することにより測定した。このような分極化試験は、アノード及びカソード両方について、70℃のスタック温度、大気圧、100%RHで実施した。水素/空気に対する分極化測定に基づいて、0.3Acm−2の電流密度における個々の電池電圧対時間のグラフを作成した。MEA4、MEA5及びMEA6のMEA型各々の電池電圧は、短いスタックに取り込まれた各種類3つのMEAから平均化された。
【0078】
三つのMEAの平均MEA電圧耐久性を図7に示す。図示のように、MEA5及びMEA6の各々は750時間付近において劇的な性能(電池電圧)の低下を示しているが、MEA4は、2000時間の試験中ずっと極めて安定したセル電圧を維持している。この燃料電池スタックの耐久性試験は、強化されていないが、他の点では同様の膜を用いる他のMEAと比較して、本発明の強化膜を用いるMEAに耐久性の大きな亢進が得られることを明瞭に示している。
【0079】
全体として、試験結果から、本発明のMEAが、対応する非強化膜又は異なる種類の強化材を用いた膜によって示されるものを超える耐久性の向上を示すことが分かる。
【0080】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これが、エレクトロスピニングされたマットの相分離及び連続性と、エレクトロスピニングされたウェブ中のイオン伝導性ポリマーとナノファイバーの表面間のイオン性架橋(酸−塩基相互作用、又は水素結合)に起因するものであると考える。加えて、エレクトロスピニングされたマットは、繊維が厚み方向に沿って互いに対して移動可能であることにより厚み方向への膨潤の増大を可能にするが、繊維は弾性でないために面内方向への膨潤を制限する。
【0081】
さらに、エレクトロスピニングされたマットを形成するために使用される複素環式ポリマーは、酸化防止剤特性を有し、ペルオキシ遊離ラジカルのような有害種を除去することにより、電解質膜の安定性に寄与することができる。このような酸化防止剤特性により、酸化防止剤又はセリアのような過酸化水素分解触媒を膜に取り込む必要がもはやないのかもしれない。
【0082】
また、ナノファイバーとイオン伝導性ポリマーの間の強力な非共有結合性の相互作用が、動作中のピンホール形成といった小さな損傷後の電解質膜の再形成又は自己治癒を可能にすることが考えられる。このような再形成方法は、圧力/温度(動作中の燃料電池に既存の条件)の適用により促進されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7