(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707655
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】金属に対して優れた接着性を有するポリアリーレンスルフィド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20200601BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20200601BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20200601BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20200601BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20200601BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L67/02
C08L61/04
C08L21/00
C08K3/013
C08K9/06
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-543169(P2018-543169)
(86)(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公表番号】特表2019-504921(P2019-504921A)
(43)【公表日】2019年2月21日
(86)【国際出願番号】KR2017000612
(87)【国際公開番号】WO2017142217
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2018年8月24日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0017133
(32)【優先日】2016年2月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】キム、へ−リ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジョン−ウォク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ミュン−ウォク
(72)【発明者】
【氏名】アン、ビュン−ウォ
(72)【発明者】
【氏名】オ、ヒョウン−グン
【審査官】
三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−181043(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/020142(WO,A1)
【文献】
特開2000−204341(JP,A)
【文献】
特開2011−218691(JP,A)
【文献】
特開平04−132765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィドと、式1:
【化1】
により表される繰り返し単位を含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート
と、充填剤とを含む樹脂組成物であって、
前記充填剤が、100重量部のポリアリーレンスルフィドに対して10〜150重量部の量で含まれ、塩素含量が35ppm以下であり、放出ガスの量が300ppm以下である樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、100重量部の前記ポリアリーレンスルフィドに対して0.5〜50重量部の量で含まれる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、10,000〜200,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィドが、その主鎖に結合されたヨウ素または遊離ヨウ素を含み、前記主鎖に結合された前記ヨウ素または前記遊離ヨウ素の量が、10〜10,000ppmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、フェノキシ樹脂、エラストマー、衝撃吸収材、接着促進剤、安定剤、顔料、可塑剤、潤滑剤および核形成剤から成る群より選択される少なくとも1種の成分をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記フェノキシ樹脂が、10,000〜250,000の重量平均分子量および50〜130℃のガラス転移温度を有する、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記フェノキシ樹脂が、式2:
【化2】
(式中、nは100〜900の整数である)
により表される、
請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記エラストマーが、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ならびにグリシジルメタクリレート、メチルアクリルエステルおよびエチレンのターポリマーエラストマーから成る群より選択される少なくとも1種の熱可塑性エラストマーである、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記充填剤が、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルクおよび炭酸カルシウムから成る群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ガラス繊維が、シラン処理ガラス繊維であり、前記シランが、エポキシシラン、アミノシランおよびこれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、ISO527に従って測定して、80MPa以上の引張強さの値を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂組成物が、ASTM D3163に従って測定して、60MPa以上の金属接着強さの値を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂組成物が、D65光源の正反射光を含む(SCI)方式に従って測定して、89以上のL値を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物が、陽極酸化した後に、ASTM D3163に従って測定して、55MPa以上の金属接着強さの値を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記樹脂組成物が、陽極酸化した後に、D65光源の正反射光を含む(SCI)方式に従って測定して、88以上のL値を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1〜15の何れか1項に記載の樹脂組成物を成形することにより製造される成形品。
【請求項17】
前記成形品が、金属接着性を必要とする電気または電子部品である、請求項16に記載の成形品。
【請求項18】
前記成形品が、金属接着性を必要とする自動車部品である、請求項16に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少量の放出ガス、ならびに優れた白色度、耐酸性および金属接着性を有するポリアリーレンスルフィド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と称する)は、その高い耐熱性、耐薬品性、耐火性および電気絶縁性を理由に、高温および腐食環境において使用される様々な電気品および電気製品に対して需要が高まっている。ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と称する)は、市販で入手可能な唯一のポリアリーレンスルフィドである。PPSは、その優れた機械的、電気的および熱的特性、ならびに耐薬品性を理由に、自動車機器、電気もしくは電子デバイスのハウジングまたは主要部品のために、広く使用されている。
【0003】
PPSを商業的に生産するために広く使用されている方法は、極性有機溶媒、たとえばN−メチルピロリドン中での原材料としてのp−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と称する)と硫化ナトリウムとの溶液重合であり、これは、マッカラム法(Macallum process)として公知である。しかしながら、PPSをマッカラム法(Macallum process)により製造する場合、硫化ナトリウムなどを使用する溶液重合法は、塩の形態の副生成物(たとえばNaCl)を生成し得る。塩の形態にあるこのような副生成物は、電子部品の性能を悪化させ得るため、副生成物および残留有機溶媒を除去するために、さらなる洗浄または乾燥法などが必要とされる(米国特許第2,513,188号および第2,583,941号参照)。
【0004】
上記の課題を解決するために、ジヨード芳香族化合物および元素硫黄を含有する反応物の溶融重合による、PAS、たとえばPPSを調製する方法が提案されている。本方法は、PASを調製する間、塩の形態にある副生成物を生成せず、かつ有機溶媒を使用しないため、副生成物または有機溶媒を除去するための個別の方法を必要としない。
【0005】
一方、従来のPPSには、金属に接着する際にマイクロポアが充填されるのを妨害する多量の放出ガス(低分子量のオリゴマー)が、射出フローフロント(injection flow front)において生じ、これにより金属接着性が低下するため、金属接着性が低いという課題がある。PPSの金属接着性を改善するための代替物として、PPSと、極性基および相溶化剤を含むポリオレフィンとをコンパウンド化することにより調製された樹脂組成物が提案されている。しかしながら、オリゴマー、たとえばこのような相溶化剤または極性基を含むポリオレフィンを使用すると、PPSの機械的特性が劣化するか、またはその熱特性が弱まることが分かった。
【発明の開示】
【0007】
よって、優れた金属接着性を有し、従来の金属接着性プラスチックにおける根本的な課題であるフローフロントにおける放出ガスの量が削減されており、かつ副生成物、たとえば塩素の量が少ないPAS組成物を開発することが必要とされている。
【0008】
本発明の目的は、優れた白色度、耐酸性および金属接着性を有し、フローフロントにおいて発生する放出ガスの量が少ない樹脂組成物を提供することである。
【0009】
さらに、本発明の別の目的は、樹脂組成物を成形することにより製造される成形品を提供することである。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、ポリアリーレンスルフィドと、式1:
【0012】
により表される繰り返し単位を含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物であって、放出ガスの量が、300ppm以下である、樹脂組成物を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記の樹脂組成物を成形することにより製造される成形品を提供する。
【0014】
本発明による樹脂組成物は、PASに特有の優れた機械的および熱的特性を低下させることなく、少量の放出ガスを伴って、優れた金属接着特性を有する。よって、射出インサート成形により一体化される、電子部品から自動車部品までを含む様々な用途が可能となり得る。さらに、樹脂組成物は、塩の形態にある少量の副生成物を含み、かつ電子製品の性能を悪化させず、また、電子製品の性能を悪化させることなく、携帯電話またはラップトップコンピューターの内装材として使用することができる。さらに、樹脂組成物は、酸処理の後でさえ高い白色度を達成することができ、かつ内装材に加え、外装材として適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の樹脂組成物を使用する金属接着強さ試験のための試料の製造する方法の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドと、式1:
【0017】
【化2】
【0018】
により表される繰り返し単位を含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物を提供する。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、300ppm以下の少量の放出ガスを有し、優れた金属接着性能が達成され得る。具体的には、樹脂組成物は、150〜300ppmの放出ガス量を有していてもよい。
【0020】
樹脂組成物は、300ppm以下の塩素含量を有し、かつ塩の形態にある少量の副生成物を含み、このことにより電子製品の性能が悪化することはない。特に、樹脂組成物は、200ppm以下、100ppm以下、たとえば0超かつ100ppm以下、より特に50ppm以下の塩素含量を有する。
【0021】
樹脂組成物は、ISO527に従って測定して、80MPa以上、特に80〜150MPaの引張強さの値を有していてもよい。
【0022】
樹脂組成物は、ASTM D3163に従って測定して、60MPa以上、特に60〜80MPaの金属接着強さの値を有していてもよい。
【0023】
さらに、樹脂組成物は、D65光源の正反射光を含む(SCI:specular component-included)方式に従って測定して、89以上、特に90〜93のL値を有する。L値が高いほど、白色度は良好になる。
【0024】
樹脂組成物は、陽極酸化後に、ASTM D3163に従って測定して、55MPa以上、特に55〜80MPaの金属接着強さの値を有していてもよい。
【0025】
樹脂組成物は、酸を使用する化学的な方法による陽極酸化後に、D65光源のSCI方式に従って測定して、88以上、特に88〜93のL値を有していてもよい。
【0026】
以下で、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィドを含む。
【0028】
ポリアリーレンスルフィドは、その主鎖に結合したヨウ素および遊離ヨウ素を含み、特に、主鎖に結合したヨウ素および遊離ヨウ素の量は、10〜10,000ppmであってもよい。主鎖に結合したヨウ素および遊離ヨウ素の量は、高温でポリアリーレンスルフィド試料を熱処理し、イオンクロマトグラフィーを使用して定量化することにより測定してもよい。遊離ヨウ素は、ジヨード芳香族化合物および硫黄元素を重合させる過程で生成され、かつヨウ素分子、ヨウ素イオン、ヨウ素ラジカルなどを含み、一般的に、最終的に生成されるポリアリーレンスルフィドの状態から化学的に分かれた状態で残る。
【0029】
ポリアリーレンスルフィドを、ジヨード芳香族化合物および硫黄元素を含む反応物の溶融重合により調製してもよい。重合反応において使用してもよいジヨード芳香族化合物は、ジヨードベンゼン(DIB)、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンから成る群より選択される少なくとも1つであってよいが、本発明の態様は、これらに制限されることはない。さらに、ジヨード芳香族化合物は、アルキル基もしくはスルホン基が置換基として置換されているか、または原子、たとえば酸素および窒素が芳香族基中に含まれるジヨード芳香族化合物を含んでもよい。さらに、ジヨード芳香族化合物は、ヨウ素元素の結合箇所に応じて、ジヨード化合物の様々な異性体を有してもよく、ヨウ素がパラ位に結合されている化合物、たとえばp−ジヨードベンゼン(pDIB)、2,6−ジヨードナフタレンおよびp,p’−ジヨードビフェニルが、より適切である。
【0030】
ジヨード芳香族化合物と反応する硫黄元素の形態は、特に制限されていない。一般的に、硫黄元素は、室温において、8個の原子が連結したシクロオクタ硫黄(S
8)の形態で存在する。そのような形態を有してはいないが、固体または液体の形態にある市販で入手可能な硫黄を、特に制限なく使用してもよい。
【0031】
また、ジヨード芳香族化合物と反応物との混合物は、重合開始剤、安定剤またはこれらの混合物をさらに含んでもよい。重合開始剤は、1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン、メルカプトベンゾチアゾール、2,2’−ジチオベンゾチアゾール、シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミドおよびブチルベンゾチアゾールスルフェンアミドから成る群より選択される少なくとも1つを含んでもよいが、これらに制限されることはない。
【0032】
安定剤は、一般的な樹脂の重合反応において一般的に使用される安定剤である限り、何ら制限なしに使用してもよい。
【0033】
一方、溶融重合の過程において、重合停止剤を添加してもよい。重合停止剤は、重合させるポリマー中に含まれるヨウ素基を除去して、重合を停止させることができる限り、特に制限されることはない。具体的に、重合停止剤は、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、ジフェニル、ベンゾフェノン、ジベンゾチアゾールジスルフィド、モノヨードアリール化合物、ベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、チウラムおよびジチオカルバメートから成る群より選択される少なくとも1つであってもよい。より具体的には、重合停止剤は、ヨードビフェニル、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、2−モルホリノチオベンゾチアゾール、N,N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛およびジフェニルジスルフィドから成る群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0034】
重合停止剤の注入時点は、目標のポリアリーレンスルフィドの分子量を考慮して決定してもよい。たとえば、重合停止剤は、初期反応物中に含まれるジヨード芳香族化合物の約70〜100重量%が反応により消費される時点で注入してもよい。
【0035】
さらに、溶融重合の条件は、ジヨード芳香族化合物および硫黄元素を含む反応物の重合が開始可能である限り、具体的に制限されることはない。たとえば、溶融重合を高温および減圧条件下で実施してもよい。このような場合、180〜250℃および50〜450torrの初期反応条件から、温度を上昇させ、かつ圧力を低下させ、270〜350℃および0.001〜20torrの最終的な反応条件にしてもよく、反応を約1〜30時間にわたり実施してもよい。より特に、重合反応は、約280〜300℃の温度および約0.1〜1torrの圧力の最終的な反応条件で実施してもよい。
【0036】
一方、ポリアリーレンスルフィドを調製する方法は、溶融重合反応の前に、ジヨード芳香族化合物および硫黄元素を含む反応物を溶融混合する工程をさらに含んでもよい。溶融混合の条件は、反応物を溶融および混合することができる限り、特に制限されることはない。たとえば、溶融混合工程は、130〜200℃の温度、具体的には160〜190℃の温度で実施してもよい。溶融重合前の溶融混合工程により、後の溶融重合の進みを容易にすることができる。
【0037】
本発明の別の態様によるポリアリーレンスルフィドを調製する方法では、ニトロベンゼン系触媒の存在下で溶融重合を実施してもよい。また、上記の溶融重合反応の前に溶融混合工程をさらに実施する場合、溶融混合工程においてニトロベンゼン系触媒を添加してもよい。たとえば、ニトロベンゼン系触媒は、1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼンまたは1−ヨード−4−ニトロベンゼンを含んでもよいが、これらに制限されることはない。
【0038】
このようにして調製されたポリアリーレンスルフィドは、従来の調製方法とは異なり、塩の形態にある副生成物をほとんど生成しない。たとえば、本発明のポリアリーレンスルフィドは、300ppm以下、特に200ppm以下、より特に100ppm以下の塩素含量を有する。
【0039】
ポリアリーレンスルフィドの融点は、約265〜290℃、約270〜285℃または約275〜283℃であってもよい。さらに、ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量は、約5,000〜50,000、約8,000〜40,000または約10,000〜30,000であってもよい。さらに、ポリアリーレンスルフィドは、約2.0〜4.5、約2.0〜4.0または約2.0〜3.5の分散度を有していてもよく、この分散度は、数平均分子量に対する重量平均分子量と定義される。
【0040】
300℃で回転ディスク式粘度計により測定されるポリアリーレンスルフィドの溶融粘度は、約10〜50,000ポアズ、約100〜20,000ポアズまたは約300〜10,000ポアズであってもよい。
【0041】
一方、本発明の樹脂組成物は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)を含む。ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートは、以下の式1:
【0042】
【化3】
【0043】
により表される繰り返し単位を含む。
【0044】
式1により表される繰り返し単位を含むPCTは、10,000〜200,000または30,000〜70,000の重量平均分子量および0.1〜1dl/gまたは0.5〜0.8dl/gの固有粘度(IV)を有していてもよい。さらに、分光測色計を使用して、D65光源の正反射光を含む方式により測定する場合、PCTは、80以上、特に85以上のL値および10以下、特に6以下のb値を有する。
【0045】
PCTは、ゲルマニウム化合物を含む触媒をジオール化合物とジカルボン酸との混合物に注入し、かつ撹拌して、エステル化反応および重縮合反応を実施する工程を含む一般的な調製方法により調製してもよい。
【0046】
樹脂組成物は、100重量部のPASに対して、PCTを、0.5〜50重量部、1〜40重量部または3〜30重量部の量で含んでもよい。PCTの量が100重量部のPASに対して0.5重量部以上である場合、金属接着性および白色度は優れたものになり得、この量が50重量部以下である場合、樹脂組成物の機械的強さの悪化は起こり得ない。
【0047】
本発明の態様によると、樹脂組成物は、従来のPAS樹脂組成物によっては達成できなかった優れた白色度および金属接着性を達成することができ、また陽極酸化後の白色度および金属接着性の保持率を高度に達成することができる。
【0048】
さらに、本発明の樹脂組成物は、フェノキシ樹脂、エラストマー、充填剤、衝撃吸収材、接着促進剤、安定剤、顔料、可塑剤、潤滑剤および核形成剤から成る群より選択される少なくとも1種の成分をさらに含んでもよい。
【0049】
樹脂組成物はフェノキシ樹脂をさらに含んでもよく、またフェノキシ樹脂をさらに含むことにより、樹脂組成物の金属接着性を向上させてもよい。特に、フェノキシ樹脂は、10,000〜250,000の重量平均分子量および50〜130℃のガラス転移温度を有していてもよい。より特に、以下の式2によりフェノキシ樹脂を表してもよい。より特に、フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA(BPA)を含んでもよく、かつ20,000〜220,000の重量平均分子量および60〜120℃のガラス転移温度を有していてもよい。
【0050】
【化4】
【0051】
式2において、nは100〜900の整数である。特に、nは100〜700の整数、100〜500の整数、100〜300の整数、200〜300の整数または300〜500の整数であってもよい。
【0052】
フェノキシ樹脂の末端をヒドロキシル基および/またはカルボキシル基により置換してもよい。
【0053】
樹脂組成物は、100重量部のPASに対して1〜75重量部のフェノキシ樹脂を含んでもよい。特に、フェノキシ樹脂を、100重量部のPASに対して3〜15重量部の量で添加してもよい。
【0054】
さらに、樹脂組成物に靭性を付与し、かつ金属との接着後の温度変化を原因とする樹脂と金属の間の界面の分離を防止する効果をもたらすために、エラストマーを本発明の樹脂組成物に添加してもよい。エラストマーとしては、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ならびにグリシジルメタクリレート、メチルアクリルエステルおよびエチレンのターポリマーから成る群より選択される少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを使用してもよい。特に、エラストマーは、グリシジルメタクリレート、メチルアクリルエステルおよびエチレンのターポリマーであってもよい。
【0055】
樹脂組成物は、100重量部のPASに対して、1〜75重量部、特に3〜35重量部のエラストマーを含んでもよい。
【0056】
充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルクおよび炭酸カルシウムから成る群より選択される少なくとも1つを使用してもよく、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、シラン処理ガラス繊維でもよく、シランは、エポキシシラン、アミノシランおよびこれらの組み合わせから成る群より選択されてもよく、特に、エポキシシラン処理ガラス繊維を使用してもよい。
【0057】
充填剤は、粉末またはフレークの形態にあってもよいが、これらに制限されることはない。
【0058】
充填剤は、100重量部のPASに対して、5〜250重量部、好ましくは10〜150重量部の量で含まれてもよい。
【0059】
顔料は、当技術分野における周知の有機または無機顔料であってもよく、たとえば硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化チタン(TiO
2)およびこれらの組み合わせから成る群より選択してもよい。特に、顔料は硫化亜鉛(ZnS)であってもよい。
【0060】
顔料は、100重量部のPASに対して、0.1〜50重量部、好ましくは0.3〜25重量部の量で含まれてもよい。
【0061】
安定剤は、たとえば酸化防止剤、光安定剤およびこれらの組み合わせであってもよい。さらに、安定剤は、100重量部のPASに対して0.1〜10重量部の量で含まれてもよい。
【0062】
酸化防止剤の例は、樹脂組成物の高い耐熱性および熱安定性に役立ち得る任意の材料を、特に制限なく含んでもよい。たとえば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤を使用してもよい。フェノール系酸化防止剤として、好ましくはヒンダードフェノール化合物を使用する。フェノール系酸化防止剤の特定の例は、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]などである。リン系酸化防止剤の例は、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、O,O’−ジオクタデシルペンタエリトリトールビス(ホスファイト)、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキシ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンなどである。
【0063】
光安定剤は、特に制限なく、紫外線を吸収および遮断することができる任意の材料であってもよく、たとえばベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、アクリロニトリル系化合物、紫外線吸収効果を有するその他の化合物、たとえば共役化合物、ラジカルを捕捉することができる化合物、たとえばヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物またはこれらの組み合わせであってもよい。紫外線吸収効果を有する化合物およびラジカルを捕捉することができる化合物を同時に使用する場合、紫外線の高い吸収および遮断効果を達成することができる。
【0064】
樹脂組成物は、成形性を向上させるための潤滑剤をさらに含んでもよい。特に、樹脂と成形金属の間の摩擦を防止し、かつ金型からの取り外し(離型性)を容易にするなどのために、炭化水素系潤滑剤を使用してもよい。炭化水素系潤滑剤は、パラフィンワックス、ポリエステル(PE)ワックス、ポリプロピレン(PP)ワックス、酸化させたポリエステルワックスおよびこれらの組み合わせから成る群より、特に制限なく選択してもよい。さらに、潤滑剤を、100重量部のPASに対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の量で樹脂組成物に添加してもよい。
【0065】
一方、本発明は、上記の樹脂組成物から製造される成形品を提供することができる。
【0066】
樹脂組成物は、優れた金属接着性、白色度および耐酸性を有する成形品を製造するために、当技術分野において公知の方法、たとえば二軸押出しにより成形してもよく、また様々な用途で使用してもよい。
【0067】
成形品は、フィルム、シートまたは繊維を含む様々な形態を有していてもよい。成形品は、射出成形品、押出成形品またはブロー成形品であってもよい。射出成形の場合、金型の温度は、結晶化の点から、約130℃以上であってもよい。成形品がフィルムまたはシートの形態である場合、これらは、様々なフィルムまたはシート、たとえば無配向、一軸配向もしくは二軸配向フィルムまたはシートとして製造してもよい。成形品が繊維である場合、成形品は、無配向繊維、延伸繊維または超延伸繊維などとして使用してもよく、また、ファブリック、編物、不織布(スパンボンド、メルトブロー、ステープル)、ロープまたはネットとして使用してもよい。
【0068】
上記の成形品は、電気または電子部品、たとえば金属接着性を必要とするコンピューターアクセサリ、建築材料、自動車部品、機械部品または基本的な日用品、ならびに薬品と接触する領域の被覆または耐薬品性を有する産業用繊維として使用してもよい。
【0069】
以下で、態様を参照して、本発明をより詳細に説明する。以下の態様は、本発明をさらに説明することを意図するものであって、本発明の範囲はこれらに制限されることはない。
【0070】
調製例:PPSの調製
反応器の内部温度を測定するための熱電対と、窒素を充填し、真空を生み出すための真空ラインとを備える5Lの反応器中で、5,130gのp−ジヨードベンゼン(p−DIB)および450gの硫黄を含む混合物を、完全に溶融および混合するために180℃に加熱した。220℃および350torrの条件下で反応を開始し、4時間にわたり段階的に温度を上昇させ、かつ圧力を低下させて、300℃および0.6〜0.9torrの最終的な条件にし、硫黄を各回19gずつ7回注入することにより、混合した反応物に重合反応を行った。重合反応が約80%進んだら(重合反応度は、「(現在の粘度/目標の粘度)×100」、すなわち目標の粘度に対する現在の粘度の相対比率から特定した。現在の粘度は、重合の間にサンプルを採取することにより測定し、目標の粘度は、2,000ポアズに設定した)、35gのジフェニルジスルフィドを重合停止剤として添加し、反応を窒素雰囲気下で10分にわたり実施した。圧力を0.5torr以下に低下させ、徐々に真空を発生させ、目標の粘度に達した後反応を停止させ、その主鎖の末端にヒドロキシル基を含まないポリアリーレンスルフィド(PPS)樹脂を合成した。小さなストランドカッターを使用して、反応停止後の樹脂をペレット形状に成形した。
【0071】
PPS樹脂の融点(Tm)、数平均分子量(Mn)、多分散指数(PDI)および溶融粘度(以下、「MV」と称する)を以下の方法により測定した。測定の結果、PPS樹脂のTmは280℃であり、Mnは17,420であり、PDIは2.8であり、MVは2,150ポアズであり、主鎖に結合されたヨウ素および遊離ヨウ素の含量は200ppmであると分かった。
【0072】
融点(Tm)
温度を10℃/分の速度で30℃から320℃に上昇させ、30℃に冷却し、その後、温度を10℃/分の速度で30℃から320℃に上昇させながら、示差走査熱量計(DSC)を使用して融点を測定した。
【0073】
数平均分子量(Mn)および多分散指数(PDI)
濃度が0.4重量%になるように、250℃で25分にわたり撹拌してPPS樹脂を1−クロロナフタレン中に溶解させることにより、サンプルを調製した。その後、異なる分子量を有するポリアリーレンスルフィドを1mL/分の流量で流し、引き続き、高温のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システム(210℃)のカラム内で分離させ、分離されたポリアリーレンスルフィドの分子量に応じた強度を、RI検出器を使用して測定した。分子量が公知である標準試料(ポリスチレン)を用いて較正曲線を作成した後に、調製したPPS樹脂の相対的な数平均分子量(Mn)および多分散指数(PDI)を計算した。
【0074】
溶融粘度(MV)
回転ディスク式粘度計を使用して、300℃で溶融粘度を測定した。周波数掃引法による測定において、角周波数を0.6〜500rad/sと測定し、1.84rad/sでの粘度を溶融粘度(MV)と定義した。
【0075】
主鎖に結合されたヨウ素および遊離ヨウ素の量(ppm)
炉を用いて1,000℃でPPS樹脂を燃焼させ、またヨウ素をイオン化させ、蒸留水に溶解させた、自動高速炉(AQF:automated quick furnace)により調製したサンプルを使用し、かつイオンクロマトグラフィーにより予め分析した較正曲線を使用して、PPS樹脂における主鎖に結合されたヨウ素および遊離ヨウ素の量(ppm)を測定した。
【0076】
例1
PPS樹脂組成物の調製
二軸スクリュー押出機内で、調製例において得られた100重量部のPPS樹脂に、9重量部のPCT樹脂(製造業者:SK Chemicals、製品名:0302、重量平均分子量:56,000、固有粘度(IV):0.65dl/g、分光測色計を使用してD65光源の正反射光を含む方式で測定されたL値:90)、9重量部のフェノキシ樹脂(製造業者:InChem Co.、製品名:PKHH、重量平均分子量:52,000、ガラス転移温度:92℃)、エポキシシランで処理された25重量部のガラス繊維(製造業者:Owens corning Co.、製品名:V−910)、9重量部の、白色顔料としてのZnS(製造業者:Sachtleben Co.、製品名:Sachtolith)および13重量部のエラストマー(製造業者:Arkema Co.、製品名:Lotader AX−8900、グリシジルメタクリレート、アクリルエステルおよびエチレンのターポリマー)を添加して、PPS樹脂組成物を調製した。
【0077】
二軸スクリュー押出機としては、直径40mmおよびL/D=44を有する押出機(SM Platek)を、250rpmのスクリュー、60kg/hの供給速度、280〜300℃のバレル温度および60%のトルクの条件下で使用した。原材料を注入するために3台のフィーダーを使用したが、それぞれ第1のフィーダーは、PPS樹脂、PCT樹脂、フェノキシ樹脂およびエラストマーを分散させ、注入するために使用し、第2のフィーダーは、白色顔料を分散させ、注入するために使用し、第3のフィーダーは、ガラス繊維を分散させ、注入するために使用して、PPS樹脂組成物を調製した。
【0078】
例2〜5および比較例1
例1に記載の同じ手順に従って、以下の表2に記載の成分および量を使用し、PPS樹脂組成物を調製した。
【0079】
比較例2
調製例において調製したPPSの代わりに溶液重合により調製したPPS(製造業者:Celanese Co.、製品名:0205P4、直鎖状PPS、以下、「PPS1」と称する)をPPS樹脂として使用する点以外は、例1に記載の同じ手順に従って、PPS樹脂組成物を調製した。
【0080】
比較例3
調製例において調製したPPSの代わりに溶液重合により調製したPPS(製造業者:Solvay Co.、製品名:P6、架橋型PPS、以下、「PPS2」と称する)をPPS樹脂として使用する点以外は、例1に記載の同じ手順に従って、PPS樹脂組成物を調製した。
【0081】
比較例4
PCT樹脂を除外し、かつ以下の表2に記載の成分および量を使用する点以外は、例1に記載の同じ手順に従って、PPS樹脂組成物を調製した。
【0082】
比較例5
以下の表2に記載の成分および量を使用する点以外は、例1に記載の同じ手順に従って、PPS樹脂組成物を調製した。
【0083】
比較例6
PCT樹脂の代わりにポリエチレンテレフタレート(PET、製造業者:SK Chemicals Co.、製品名:BB8055)を使用する点以外は、例1に記載の同じ手順に従って、PPS樹脂組成物を調製した。
【0084】
例1〜5および比較例1〜6において使用される成分の製造業者は、以下の表1に要約および示されている。
【0086】
実験例
例および比較例において調製したPPS樹脂組成物の物理的特性を以下のように測定した。結果は、以下の表2に示されている。
【0087】
まず、例および比較例において調製したPPS樹脂組成物を310℃で射出して、射出成形試料を調製した。
【0088】
(1)放出ガスの量
射出成形機内で、二段金型のうちの固定金型と可動金型の間に、エッチング処理したアルミニウム試料(幅:70mm、長さ:18mm、高さ:2mm)を置いた。例および比較例において調製した各PPS樹脂組成物を、二段金型内に入れ、50mm/sの射出速度、120MPaの射出圧力および150℃の金型温度を有する80トンのEngel製押出機内でインサート射出した。その後、試料を金型から分離して、金属接着強さを測定するための試料を製造した(幅:70mm、長さ10mm、高さ:3mm)(
図1)。その後、2gの射出成形された試料を20mLの密閉式バイアル内に置いた。バイアルを密閉した後、ヘッドスペース(HS)装置を用いて、これを260℃で30分にわたり加熱し、このようにして発生したガスをガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC/MS)装置に自動的に移した。その後、各成分をキャピラリーカラムにより分離して、定性的に分析し、またベンゾチアゾールを標準材料として使用して、試料中の成分の量を定量的に分析した。
【0089】
(2)塩素の量
自動高速炉(AQF)を使用して、調製例の射出成形された各PPS試料50mgの有機材料、および溶液重合されたPPS1またはPPS2(上記(1)の射出成形された試料)を、加湿しながら1000℃で完全に燃焼させ、燃焼ガスを吸収溶液(900ppmの過酸化水素)中に集めた。この溶液をイオンクロマトグラフィー(AQF)へと自動的に射出し、射出成形された試料の塩素の量を測定した。
【0090】
(3)引張強さ
ISO527の方法に従って、射出成形された試料の引張強さを測定した。
【0091】
(4)金属接着強さ
ASTM D3163に従って、射出成形された試料の金属接着強さを測定した。
【0092】
(5)L値
分光測色計(Konica Minolta、3600D)を使用して、D65光源の正反射光を含む(SCI)方式に従って、L値を測定した。L値が高いほど、白色度が良好である。
【0093】
(6)陽極酸化反応
上記の成形された試料(1)を、50℃で30秒にわたり水酸化ナトリウム(NaOH)溶液に浸漬し、1:7の体積比にある98重量%の硫酸水溶液と84重量%のリン酸水溶液との混合溶液中で2分にわたり静置させた。その後、室温のもと希硫酸溶液中で20Vの電流を20分にわたり流すことにより酸化法を実施し、洗浄法を実施した。(1)と同じ方法により金属接着強さを測定し、(5)と同じ方法によりL値を測定し、陽極酸化前後の2つの値の間の差を測定した。差が小さいほど、酸性度が良好であったと認めることができる。
【0095】
表2に示されているように、本発明による樹脂組成物の金属接着強さは、60〜70MPaであり、過剰量のガラス繊維を含む、比較例1による樹脂組成物の1〜50MPaよりも著しく良好であった。さらに、調製例において調製したPPSを含む例1〜5は、PPS1またはPPS2を含む比較例2および3の放出ガス含量と比較すると、約4倍まで低下した放出ガス含量を示した。さらに、塩素含量は、例1〜5については35ppm以下であるが、比較例2については891ppm、比較例3については1,562ppmと高かった。さらに、陽極酸化後のL値は、例1〜5については90以上であるが、比較例2については90以下であり、白色度は急激に低下した。
【0096】
また、例1〜5の樹脂組成物は、PCT樹脂を含まない比較例4に比べると、金属接着強さ60〜70MPaの改善された金属接着性を示した。しかしながら、比較例4の金属接着強さは55MPaであり、著しく低かった。
【0097】
さらに、過剰量のPCT樹脂が添加された比較例5の引張強さは低下した。一方、PCT樹脂の代わりにPET樹脂が含まれていた比較例6は、高い金属接着性を示したが、L値は低かった。このL値は、陽極酸化後、例1〜5のL値に比べて、明らかに低下した。
【0098】
よって、本発明の樹脂組成物は、低下した放出ガス含量、ならびに優れた白色度、耐酸性および金属接着性を示し、したがって射出インサート成形により一体化される携帯電話、電子部品、自動車部品などを含む様々な分野において有用となり得る。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載した発明を付記する。
[1] ポリアリーレンスルフィドと、式1:
【化5】
により表される繰り返し単位を含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物であって、放出ガスの量が300ppm以下である、樹脂組成物。
[2] 前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、100重量部の前記ポリアリーレンスルフィドに対して0.5〜50重量部の量で含まれる、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが、10,000〜200,000の重量平均分子量を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記ポリアリーレンスルフィドが、その主鎖に結合されたヨウ素または遊離ヨウ素を含み、前記主鎖に結合された前記ヨウ素または前記遊離ヨウ素の量が、10〜10,000ppmである、[1]に記載の樹脂組成物。
[5] 前記ポリアリーレンスルフィドが、塩素を300ppm以下の量で含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[6] 前記樹脂組成物が、フェノキシ樹脂、エラストマー、充填剤、衝撃吸収材、接着促進剤、安定剤、顔料、可塑剤、潤滑剤および核形成剤から成る群より選択される少なくとも1種の成分をさらに含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[7] 前記フェノキシ樹脂が、10,000〜250,000の重量平均分子量および50〜130℃のガラス転移温度を有する、[6]に記載の樹脂組成物。
[8] 前記フェノキシ樹脂が、式2:
【化6】
(式中、nは100〜900の整数である)
により表される、[6]に記載の樹脂組成物。
[9] 前記エラストマーが、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ならびにグリシジルメタクリレート、メチルアクリルエステルおよびエチレンのターポリマーエラストマーから成る群より選択される少なくとも1種の熱可塑性エラストマーである、[6]に記載の樹脂組成物。
[10] 前記充填剤が、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルクおよび炭酸カルシウムから成る群より選択される少なくとも1つである、[6]に記載の樹脂組成物。
[11] 前記ガラス繊維が、シラン処理ガラス繊維であり、前記シランが、エポキシシラン、アミノシランおよびこれらの組み合わせから成る群より選択される、[10]に記載の樹脂組成物。
[12] 前記樹脂組成物が、塩素を300ppm以下の量で含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[13] 前記樹脂組成物が、ISO527に従って測定して、80MPa以上の引張強さの値を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[14] 前記樹脂組成物が、ASTM D3163に従って測定して、60MPa以上の金属接着強さの値を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[15] 前記樹脂組成物が、D65光源の正反射光を含む(SCI)方式に従って測定して、89以上のL値を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[16] 前記樹脂組成物が、陽極酸化した後に、ASTM D3163に従って測定して、55MPa以上の金属接着強さの値を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[17] 前記樹脂組成物が、陽極酸化した後に、D65光源の正反射光を含む(SCI)方式に従って測定して、88以上のL値を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[18] [1]〜[17]の何れか1項に記載の樹脂組成物を成形することにより製造される成形品。
[19] 前記成形品が、金属接着性を必要とする電気または電子部品である、[18]に記載の成形品。
[20] 前記成形品が、金属接着性を必要とする自動車部品である、[18]に記載の成形品。