(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー部により与えられたDE−EE0004840のもとで政府支援によりなされたものである。米国政府は、本発明に関し一定の権利を有する。
【0002】
技術分野
本開示は、一般的に分子化合物に関し、より具体的には熱電発電装置において使用するための分子化合物に関する。
【0003】
背景
自動車の燃料効率は、該自動車の加熱領域に熱電発電装置を組み込むことによって改善することができる。熱電発電装置は、内燃機関からの廃熱を、ゼーベック効果の原理に従って電気に変換する。自動車内の数多くの位置、特に排気系には、過剰な熱が存在するので、排気中で熱電発電装置を使用することで、通常浪費されることとなる熱エネルギーが有用な電気的エネルギーに変換される。
【0004】
従来の熱電発電装置は、高温側熱交換器および低温側熱交換器を備え、それらは複数の半導体モジュールによって隔離されている。一般的な熱電発電装置において、n型半導体およびp型半導体は、n型半導体とp型半導体とが電気路に沿って交互に電気的に直列に接続されている。p型半導体およびn型半導体は、一般的に、高温側熱交換器および低温側熱交換器の間で、互いに熱的に並列となるように配置されている。
【0005】
熱が熱電発電装置を通過するときに、該発電装置内の半導体の電荷担体は、高温側熱交換器から低温側熱交換器へと拡散する。電荷担体の形成は、実効電荷をもたらし、それが静電ポテンシャルを生ずる一方で、熱伝導は、直列接続された半導体要素を通じて電流を生ずる。この電気的エネルギーの生成は、ゼーベック効果として知られている。
【0006】
車両排気系においては、温度は700℃(約1300°F)以上に達することがあり、したがって、高温側の排気ガスと低温側の冷媒との間に生ずる温度差は、数百度である。熱電発電装置を備えた車両排気部は、ゼーベックの原理を使用して、排気系中の温度差を、熱電発電装置のp型半導体およびn型半導体を経て電位差へと変換する。得られた電気的エネルギーにより、車両中の電気部品に給電し、車両内のバッテリーを充電し、またはハイブリッド車両においては、車両ドライブトレーンに給電することができる。
【0007】
所与の半導体材料についての熱電変換効率は、等式:
ZT=σS
2T/(κ
el+κ
lat)
[式中、σは、導電率であり、Sは、ゼーベック係数であり、Tは、温度であり、κ
elは、電子熱伝導率であり、かつκ
latは、格子熱伝導率である]により計算される、性能指数(ZT)と呼ばれる無次元パラメーターによって定量化される。
【0008】
材料の有する性能指数が大きいほど、高温側熱交換器と低温側熱交換器との間の所定の温度差で一層大きなエネルギーの生成がもたらされる。したがって、熱電発電装置の半導体要素を、熱電発電装置における効率および発電を改善するために、高い性能指数を有する材料から形成することが望ましい。
【0009】
概要
一実施形態においては、熱電発電装置は、高温側熱交換器と、低温側熱交換器と、前記高温側熱交換器および前記低温側熱交換器の間に配置された複数のn型半導体脚部と、前記高温側熱交換器および前記低温側熱交換器の間に、前記複数のn型半導体脚部と交互に電気的に直列に配置された複数のp型半導体脚部とを備える。前記複数のn型半導体脚部および前記複数のp型半導体脚部の少なくとも1つは、SiおよびSnを、x Snおよび1−x Siのモル分率(ここで、xは、1未満である)で含むハーフホイスラー構造を有する合金から形成される。
【0010】
一実施形態においては、前記合金は、NbCoSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.27より大きい。
【0011】
もう一つの実施形態においては、前記合金は、TaCoSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.21より大きい。
【0012】
さらなる実施形態においては、前記合金は、TiNiSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.36より大きい。
【0013】
さらにもう一つの実施形態においては、前記合金は、VCoSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.27より大きい。
【0014】
もう一つの実施形態においては、車両は、エンジンと、該エンジンからの排気を受け取り、その排気を排出口に排出するように前記エンジンと動作可能に接続された排気系とを備える。前記排気系は、高温側熱交換器と、低温側熱交換器と、前記高温側熱交換器および前記低温側熱交換器の間に配置された複数のn型半導体脚部と、前記高温側熱交換器および前記低温側熱交換器の間に配置され、かつ前記複数のn型半導体脚部と交互に電気的に直列に接続された複数のp型半導体脚部とを備えた熱電発電装置を備える。前記複数のn型半導体脚部および前記複数のp型半導体脚部の少なくとも1つは、SiおよびSnを、x Snおよび1−x Siのモル分率で含み、かつxが1未満であるハーフホイスラー構造を有する合金から形成される。
【0015】
車両のもう一つの実施形態においては、前記合金は、NbCoSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.27より大きい。
【0016】
車両のさらなる一実施形態においては、前記合金は、TaCoSi
1-xSn
xを含み、かつxは、0.21より大きい。
【0017】
本開示によるもう一つの実施形態においては、半導体合金は、第IV−B族および第V−B族の1種から選択される第一の元素と、第VIII族から選択される第二の元素と、xのモル分率のSnと、1−xのモル分率のSiと、ドーピング剤とを含む。前記半導体合金は、ハーフホイスラー構造を有し、かつxは、1未満である。
【0018】
合金の一部の実施形態においては、前記第一の元素は、Nb、Ta、Ti、およびVからなる群から選択される1種の元素を含む。さらなる実施形態においては、前記第二の元素は、CoおよびNiからなる群から選択される1種の元素を含む。
【0019】
合金のもう一つの実施形態においては、前記第一の元素は、Nbであり、前記第二の元素は、Coであり、かつxは、0.27より大きい。具体的な一実施形態においては、xは、0.27から0.50の間である。
【0020】
一部の実施形態においては、前記第一の元素は、Taであり、前記第二の元素は、Coであり、かつxは、0.21より大きい。具体的な一実施形態においては、xは、0.21から0.50の間である。
【0021】
合金のさらなる一実施形態においては、前記第一の元素は、Tiであり、前記第二の元素は、Niであり、かつxは、0.36より大きい。一実施形態においては、xは、0.36から0.50の間である。
【0022】
合金のもう一つの実施形態においては、前記第一の元素は、Vであり、前記第二の元素は、Coであり、かつxは、0.27より大きい。
【0023】
合金のさらにもう一つの実施形態においては、前記半導体合金は、ABSi
[(1-x)(1-y)]Sn
[x(1-y)]D
y[式中、Aは、第一の元素であり、Bは、第二の元素であり、かつDは、ドーピング剤である]として配合されるn型半導体要素である。
【0024】
さらなる一実施形態においては、前記半導体合金は、A
1-yBSi
(1-x)Sn
xD
y[式中、Aは、第一の元素であり、Bは、第二の元素であり、かつDは、ドーピング剤である]として配合されるp型半導体要素である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示による熱電発電装置を組み込んだ車両排気系の概略図である。
【
図2】
図1の排気系の熱電発電装置の概略図である。
【
図3A】ハーフホイスラー相におけるNbCoSiの単位胞の斜視図である。
【
図3B】斜方晶相におけるNbCoSiの単位胞の斜視図である。
【
図4】電荷担体濃度について最適化されたNbCoSi、TaCoSi、NbCoSn、およびTaCoSnのハーフホイスラー相のn型およびp型半導体に関して計算された性能指数値を示すグラフである。
【
図5A】NbCoSi
1-xSn
xのハーフホイスラー相および斜方晶相のエネルギー準位を示す相図である。
【
図5B】TaCoSi
1-xSn
xのハーフホイスラー相および斜方晶相のエネルギー準位を示す相図である。
【
図5C】TiNiSi
1-xSn
xのハーフホイスラー相および斜方晶相のエネルギー準位を示す相図である。
【
図5D】VCoSi
1-xSn
xのハーフホイスラー相および斜方晶相のエネルギー準位を示す相図である。
【0026】
詳細な説明
本明細書に記載される実施形態の原理の理解を促すために、ここで、図面および以下に記載の明細書中の記載が参照される。それらの参照により、発明主題の範囲に制限がなされると解釈されるものではない。本開示はまた、概説された実施形態に任意の改変および変更を含み、かつ記載された実施形態の原理のさらなる応用を含み、それらは、本文献の属する技術分野における当業者に通常想起されるものとする。
【0027】
図1は、加熱された排気ガスを内燃機関108から排気系の排出口112へと伝える排気管104、例えば車両の後部排気管を備える、
図1の概略図に示される車両排気系100を図解している。一部の実施形態においては、排気系100は、エンジン108と排出口112との間に位置する追加の排気系構成部品(示されていない)、例えば消音器、共鳴器、触媒等を備える。
【0028】
熱電発電装置120は、排気ガスにより発生した熱を電気的エネルギー/電力へと変換するために、排気系内に組み込まれ、特に排気管104内に組み込まれる。熱電発電装置120は、エネルギー貯蔵装置124に動作可能に接続されており、生成された電気的エネルギーが、一部の実施形態においては、所望であれば様々な車両システムVS
1、VS
2…VS
nに電気的エネルギーを供給するように構成された充電式バッテリーを備えた貯蔵装置124に貯蔵されるように構成されている。様々な実施形態においては、前記車両システムVS
1、VS
2…VS
nは、エンジン制御部、排気系制御部、ドアロックシステム、ウィンドウリフト機構、室内灯、室内電子機器、車両ドライブトレーン等を備えている。
【0029】
一部の実施形態においては、制御装置128は、熱電発電装置120により生成された電気的エネルギーの貯蔵および使用を制御するために、貯蔵装置124および/または熱電発電装置120に動作可能に接続されている。
【0030】
一部の実施形態においては、温度制御装置132は、排気管104に、例えば熱電発電装置120の上流にある排気管104内に動作可能に接続されている。温度制御装置132は、加熱された排気ガスを、熱電発電装置120の構築に使用された材料の温度上限と温度下限との間にある特定の温度範囲内の温度に冷却する冷却装置136である。これらの冷却された排気ガスは、その後に熱電発電装置120への入口140に導通される。
【0031】
様々な実施形態においては、冷却装置136は、様々な種類の冷却構成部品を備える。例えば、一実施形態においては、前記冷却装置136は、流体冷却式熱交換器を備える一方で、もう一つの実施形態においては、前記冷却装置136は、冷却用の空気噴射部または水噴射部を備えている。もう一つの実施形態においては、前記冷却装置136は、エアギャップ管と空気噴射部または強制空冷部との組み合わせを有し、それにより、冷却と熱慣性の潜在的低下の両方がもたらされて、より迅速な加熱が回避される。さらなる実施形態においては、冷却装置136は、特に冷媒または冷却効果を熱電発電装置120の低温側熱交換器へと伝えることによって、後述の圧縮装置の機能を内蔵するように構成されている。
【0032】
一部の実施形態において、例えば熱電発電装置120の材料が高温の排気を受け取るように構成されている実施形態においては、冷却装置は、熱電発電装置120とエンジン108との間に配置されていない。
【0033】
排気ガスが熱電発電装置120を通過すると、排気ガスからの廃熱は、電気的エネルギーへと変換される。その排気ガスは、その後に、排出口144を介して熱電発電装置120から出て行く。図解された構成は、すべての排気ガスが、熱電発電装置120を通じて流れる非迂回型配置である。その他の実施形態においては、排気ガスの一部だけが熱電発電装置120を通じて流れる一方で、残りの排気ガスは、熱電発電装置120を迂回する。さらなる一実施形態においては、排気系は、排気管104内に並列に配置された複数の熱電発電装置120を備え、かつ前記排気管104は、それらの熱電発電装置120間に排気ガスを分配するように分岐している。
【0034】
熱電発電装置120の主要構成部品は、熱流束を電力へと変換する熱電モジュールである。熱電モジュール200の構成および動作は、
図2に示されている。熱電モジュール200は、導体要素212により電気的に直列に接続されている、それぞれ交番するn型およびp型の半導体脚部204および208を備える。
【0035】
前記脚部204および208ならびに導体要素212は、低温側基板216と高温側基板220の間に挟み込まれている。低温側基板216と高温側基板220との間の温度勾配は、各々の脚部においてゼーベック効果、E
emf=−S▽T[式中、Sは、局所材料の特性であるゼーベック係数であり、▽Tは、半導体脚部にわたる温度勾配である]に従って電流224を生ずる。
【0036】
それぞれのn型およびp型の半導体脚部204および208のために使用される材料は、熱電発電装置による発電効率に多大な影響を及ぼす。特に、上述のように、材料の熱伝導率、導電率、およびゼーベック係数は、性能指数(ZT)に影響する。さらに詳細に後述されるように、それぞれのn型およびp型の半導体脚部204および208の一方または両方は、ケイ素(Si)およびスズ(Sn)をモル分率Si
1-xSn
xで含有するハーフホイスラー相合金から形成される。
【0037】
様々な実施形態においては、n型および/またはp型の半導体脚部204、208は、化学式XYZD[式中、「X」は、一般的に、第IV−B族または第V−B族における遷移金属、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)またはタンタル(Ta)であり、「Y」は、一般的に、遷移金属の第VIII族、例えばコバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pa)または白金(Pt)から選択され、「Z」は、上述の合金のSi
1-xSn
x部分を表す]を有する材料から形成される。
【0038】
「D」は、半導体が余分の電子(n型半導体)または電子のための空間が空いた「正孔」(p型半導体)を有するように前記元素の1つに代えて少量で合金に添加されるドーピング剤または電荷担体を表す。n型半導体においては、ドーピング剤は、一般的に、「Z」元素よりも1個多くの価電子を有する元素であり、「Z」元素のごく一部を置き換える。例えば、一部の実施形態においては、第V−A族内のアンチモン(Sb)は、合金のSi
1-xSn
x部分のごく一部を置き換える。p型半導体においては、ドーピング剤は、一般的に、「X」元素よりも1個少ない価電子を有する遷移元素である(すなわち、周期律表における「X」元素の1つ左側の族である)。例えば、一部の実施形態においては、Ti(第IV−B族)は、「X」元素がTa(第V−B族)である合金において、TiがTaのごく一部を置き換えて、半導体中に正孔を生成するドーピング剤である。
【0039】
合金化合物の結晶構造も、該合金の性能指数に影響を及ぼす。合金で使用される元素に応じて、合金は、斜方晶構造またはハーフホイスラー構造において安定であり得る。一例として、
図3Aは、NbCoSiのハーフホイスラー相の単位胞(空間群F−43m(216)とも呼ばれる)を図示しており、一方で、
図3Bは、NbCoSiの斜方晶相(空間群Pnma(62)とも呼ばれる)を図示している。
図3Aにおいては、ハーフホイスラー構造における原子は、立方構造において共に均一充填される一方で、斜方晶構造は、密な充填でもなく、かつ均一間隔でもない原子をもたらす。
【0040】
図3Aのハーフホイスラー構造は、斜方晶構造と比較してより狭いバンドギャップをもたらす。バンドギャップは、合金における価電子帯の最上部から伝導帯の最下部の間のエネルギーの尺度である。半導体におけるバンドギャップがより大きいか、またはより幅広いということは、電子が半導体中を移動するのに高められたエネルギーを必要とすることを意味する。結果として、より大きいか、またはより幅広いバンドギャップを有する合金は、低減された導電率を有する一方で、より低いか、またはより幅が狭いバンドギャップを有する合金は、より大きな導電率を有する。
【0041】
上述のように、性能指数(ZT)は、熱電発電装置において使用される材料の導電率(σ)と正比例している。このように、より大きな導電率を有し、したがってより幅が狭いバンドギャップを有する半導体を使用することが好ましい。したがって、ハーフホイスラー相内の材料は、一般的に、斜方晶相の材料と比べてより大きな性能指数を有し、したがってハーフホイスラー相で安定な合金を熱電発電装置中の半導体として使用することが望ましい。
【0042】
「Z」元素としてSiを有するある特定の材料は、ハーフホイスラー相である場合には、有望な熱電特性を有するように計算されている。特に、NbCoSiおよびTaCoSiは、有望な熱電特性を有するように計画される。これらの材料の組成は、国際公開第2015/130364号(WO2015/130364)の公開番号(その内容は、参照によりその全体が本明細書で援用される)に開示されるSn基合金のNbCoSnおよびTaCoSnと類似している。
【0043】
図4は、NbCoSi、TaCoSi、NbCoSn、およびTaCoSnについて計算されたZT値のグラフである。前記化合物に関してZTを測定するにあたって使用される計算アプローチは、国際公開第2015/130364号(WO2015/130364)で使用されるアプローチと同じであり、その際、アブイニショに導き出された各々の材料についてのZTは、電荷担体またはドーピング剤の濃度に対して最適化される。電荷担体またはドーピング剤のレベルを、以下の第1表に示す。
図4から、特に、NbCoSiのn型半導体が、電荷担体濃度について最適化された高いZT値を有することが分かった。
【0044】
第1表
【表1】
【0045】
しかしながら、Landolt−Boernsteinデータベースによれば、NbCoSiのハーフホイスラー相は、安定ではない。言い換えると、該ハーフホイスラー相は、斜方晶相と比べてより大きな熱力学的エネルギーを有する。化合物は自然に反応してより低い熱力学的エネルギー状態となるので、NbCoSiのハーフホイスラー相は自然に反応して、斜方晶相となる。したがって、NbCoSiは、熱力学的発電装置における半導体要素として使用することができない。
【0046】
しかしながら、純粋なSi相は安定でないけれども、ある特定の材料のSi相を、該化合物のSnを基礎とする安定なハーフホイスラー相と合金化することによって、高められた熱電性能が得られることが見出された。そのような合金は、式X
1Y
1Si
1-xSn
xを有する。簡単にするために、ドーピング剤「D」は、一般的に[PCT/US2014/068588]の出願の国際公開公報に記載されるように、好ましい量のドーピング剤が計算され、それが添加されることで、「X」化合物(p型半導体の場合)またはSi
1-xSn
x(n型半導体の場合)と置き換えられるという理解のもとで、以下の論述においては省略される。
【0047】
Landolt−Boernsteinデータベースによれば、NbCoSiは斜方晶相で存在する一方で、NbCoSnはハーフホイスラー相で存在し、TaCoSiは斜方晶相で存在する一方で、TaCoSnはハーフホイスラー相で存在し、TiNiSiは斜方晶相で存在する一方で、TiNiSnはハーフホイスラー相で存在し、かつVCoSiは斜方晶相で存在する一方で、VCoSnはハーフホイスラー相で存在する。しかしながら、様々な実施形態においては、NbCoSi
1-xSn
x合金、TaCoSi
1-xSn
x合金、TiNiSi
1-xSn
x合金、およびVCoSi
1-xSn
x合金のハーフホイスラー相は、特定のxの値で安定である。前記合金は本明細書で詳細に記載されるが、一方で、読み手により、一部の実施形態においては、上述のようなその他の「X」および「Y」化合物をSiおよびSnと混合することで、所望の熱電特性を有する半導体要素が形成されると理解されるべきである。
【0048】
図5Aは、種々のxの値でのハーフホイスラー相および斜方晶相の間の競合を図解するNbCoSi
1-xSn
xについての相図を示している。その相図は、x=0およびx=1の間でのSiサイトでのSn(x)のモル分率に関して、Quantum ESPRESSOパッケージに実装される密度関数理論を使用して計算された。
【0049】
図5Aから分かるように、斜方晶相は、約0.27未満のxの値の場合に、より低い全エネルギーを有する。したがって、NbCoSi
1-xSn
xの斜方晶相は、x<0.27の場合に安定である。斜方晶のエネルギー準位とハーフホイスラーのエネルギー準位は、大体x=0.27で交差し、xの値が0.27を上回ると、ハーフホイスラー相は、斜方晶相よりも低い全エネルギーを有する。このように、x>0.27の場合に、ハーフホイスラー相は安定である。
【0050】
n型半導体脚部204がNbCoSi
1-xSn
x合金(「NbCo合金」とも呼ばれる)から形成される熱電モジュール200の一部の実施形態においては、該合金は、分率yのSbでドープされて、xに比例する量のSnおよびSiを置き換える。そのような実施形態においては、n型半導体脚部204のための化学式は:
NbCoSi
[(1-x)(1-y)]Sn
[x(1-y)]Sb
y
である。NbCo合金から形成されるn型半導体脚部204の実施形態においては、ドーピング量yは、0.002から0.03の間である。
【0051】
p型半導体脚部208がNbCo合金から形成される熱電モジュールの実施形態においては、該合金は、ある分率のTiでドープされて、Nbの一部を置き換える。p型半導体脚部208のための化学式は:
Nb
1-yCoSi
1-xSn
xTi
y
である。NbCo合金から形成されるp型半導体脚部208の一部の実施形態においては、ドーピング量は、0.02から0.06の間である。
【0052】
具体的な一実施形態においては、NbCoSi
1-xSn
x合金におけるモル分率xは、0.27から0.75の間である一方で、もう一つの具体的な実施形態においては、xは、0.27から0.5の間であり、かつもう一つの実施形態においては、xは、0.27から0.35の間である。NbCoSi
1-xSn
x合金の具体的な一実施形態においては、xは、0.27から0.28の間である。
【0053】
図4で分かるように、n型のハーフホイスラー相NbCoSiのZTに関する理論値(ハーフホイスラー相が安定であった場合)は、約1.97である一方で、n型のハーフホイスラー相NbCoSnのZT値は、約0.94である。Si
1-xSn
x合金についてのZT値は、100%のSi合金および100%のSn合金に対して線形であることは知られている。したがって、ハーフホイスラー相で安定なSiの最も高い割合(または最も低いx)を有する化合物は、最も高いZTを有する。ZT値は、理論的なSi相およびSn相に対して線形であるので、n型のNbCoSi
1-xSn
xについてのZTは、等式ZT=1.97-1.03xに従って近似することができる。安定なハーフホイスラー相の最低の0.27のx値を使用すると、n型のドープされたNbCoSi
0.73Sn
0.27のZTは、約1.69であり、ドーピング剤の濃度が最適化されていると想定される。
【0054】
その他の実施形態においては、n型およびp型の半導体脚部204および208の一方または両方は、それぞれ、TaCoSi
1-xSn
x合金、TiNiSi
1-xSn
x合金、またはVCoSi
1-xSn
x合金から形成される。NbCoSi
1-xSn
x合金に関して上述されたのと同様の方法論を使用して測定されたx=0およびx=1のSiサイトにおけるSn(x)のモル分率の間で、
図5Bは、TaCoSi
1-xSn
x合金についての相図を示し、
図5Cは、TiNiSi
1-xSn
x合金についての相図を示し、そして
図5Dは、VCoSi
1-xSn
x合金についての相図を示している。
【0055】
図5Bから、TaCoSi
1-xSn
x合金に関して、点線のハーフホイスラーのエネルギー線と斜方晶のエネルギー線とは、x=0.21で交差していることが分かり、それは、斜方晶相が、x<0.21で安定であり、かつハーフホイスラー相が、x>0.21で安定であることを示している。
図5Cに示されるように、TiNiSi
1-xSn
x合金に関して、ハーフホイスラーのエネルギー線と斜方晶のエネルギー線とは、x=0.36で交差しており、それは、斜方晶相が、x<0.36で安定であり、かつハーフホイスラー相が、x>0.36で安定であることを意味している。VCoSi
1-xSn
x合金に関しては、
図5Dは、ハーフホイスラーのエネルギー線と斜方晶のエネルギー線とが、x=0.27で交差することを示しており、斜方晶相が、x<0.27で安定であり、かつハーフホイスラー相が、x>0.27で安定であることを指摘している。これらの知見を、以下の第2表にまとめる:
第2表
【表2】
【0056】
一部の実施形態においては、n型半導体脚部204は、分率yのSbでドープされて、xに比例する量のSnおよびSiが置き換えられたTaCoSi
1-xSn
xから形成される。そのような実施形態においては、n型半導体脚部204のための化学式は:
TaCoSi
[(1-x)(1-y)]Sn
[x(1-y)]Sb
y
である。一実施形態においては、n型半導体脚部204中のドープされたSbの分率yは、0.02である。
【0057】
その他の実施形態においては、p型ドープされた半導体脚部208は、ある分率のTiでドープされて、Taの一部が置き換えられたTaCoSi
1-xSn
xから形成される。p型半導体脚部208のための化学式は:
Ta
1-yCoSi
1-xSn
xTi
y
である。一実施形態においては、p型半導体脚部208中のドープされたTiの分率yは、0.05から0.06の間である。
【0058】
n型および/またはp型の半導体脚部204および208がそれぞれTaCoSi
1-xSn
xから形成される一実施形態においては、TaCoSi
1-xSn
xにおけるSn対Siのモル分率xは、0.21から0.75の間である。もう一つの具体的な実施形態においては、xは、0.21から0.5の間であり、もう一つの実施形態においては、xは、0.21から0.35の間である。TaCoSi
1-xSn
xの具体的な一実施形態においては、モル分率xは、0.21から0.22の間である。
【0059】
もう一つの実施形態においては、n型半導体脚部および/またはp型半導体脚部204および208は、それぞれTiNiSi
1-xSn
xから形成される。一実施形態においては、TiNiSi
1-xSn
xにおけるモル分率xは、0.36から0.75の間である一方で、もう一つの具体的な実施形態においては、xは、0.36から0.5の間であり、かつもう一つの実施形態においては、xは、0.36から0.40の間である。TiNiSi
1-xSn
xの具体的な一実施形態においては、モル分率xは、0.36から0.37の間である。
【0060】
さらなる一実施形態においては、n型半導体脚部および/またはp型半導体脚部204および208は、それぞれVCoSi
1-xSn
xから形成される。一実施形態においては、VCoSi
1-xSn
xにおけるモル分率xは、0.27から0.75の間である一方で、もう一つの具体的な実施形態においては、xは、0.27から0.5の間であり、かつもう一つの実施形態においては、xは、0.27から0.35の間である。VCoSi
1-xSn
xの一実施形態においては、xは、0.27から0.28の間である。
【0061】
前記化合物におけるSiとSnとの合金化により、該合金において高められた高次散乱(mass order scattering)がもたらされる。高次散乱は、合金全体のSi原子およびSn原子のランダムな分布による無秩序さの結果である。高められた高次散乱は、高められたZTを生ずる熱伝導率の格子部分(κ
lat)を減らす。
【0062】
熱電要素200の半導体脚部204、208のための合金は、公知の粉末冶金法を使用して形成される。特定の一実施形態においては、ナノ粉末は、所望の合金を製造するのに必要とされるモル割合で混合され、引き続きホットプレス法を使用して圧縮され、こうして該半導体要素が製造される。該半導体要素の製造は、さらに詳細に、Joshi,Giriら著の「ナノ複合体アプローチによるN型ハーフホイスラー化合物の熱電性能指数の増強(Enhancement in Thermoelectric Figure−Of−Merit of an N−Type Half−Heusler Compound by the Nanocomposite Approach.)」 Advanced Energy Materials,第1巻,第4号,第643頁,2011に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書で援用される。
【0063】
前記のおよびその他の特徴および機能の別形、またはその代替物は、多くのその他の種々の系、応用または方法へと所望のように組み合わせることができると理解されるであろう。様々な本明細書で予想または予測されていない代替物、変更、バリエーションまたは改善は、引き続き、当業者によってなされることがあり、それらはまた、前記開示によって包含されると解釈される。