(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の第1実施形態における切削工具1について説明する。
図1は本発明の第1実施形態における切削工具1の正面図である。
図2は
図1の矢印II方向から見た切削工具1の下面図である。
【0016】
図1及び
図2に示すように、切削工具1は、アーバ等の回転駆動装置2に固定して使用される工具である。回転駆動装置2は、先端が軸心Cを中心とする円柱状に構成されており、駆動源(図示せず)からの駆動力により軸心Cを中心に先端を回転させる。回転駆動装置2の先端を軸心Cまわりに回転させることで、その回転に伴い切削工具1が回転して被切削物を切削する。
【0017】
切削工具1は、タングステンカーバイド等を加圧焼結した超硬合金から構成される。なお、切削工具1は超硬合金から構成される場合に限らず、例えば、切削工具1を高速度工具鋼などから構成しても良い。
【0018】
切削工具1は、回転駆動装置2側の端部を第1端3とし、回転駆動装置2から離れた側の端部を第2端4とした軸状に形成される。本実施形態では、切削工具1の第1端3及び第2端4を説明するとき、「切削工具1の」を省略して単に「第1端3」や「第2端4」と説明する。
【0019】
切削工具1は、第1端3および第2端4をそれぞれ両端とする軸状のインサートホルダ10と、そのインサートホルダ10に着脱可能に保持されるインサート30とを備える。インサートホルダ10は、軸状のボディ11と、そのボディ11の第2端4側に取り付けられる蓋部12と、蓋部12をボディ11に固定するためのボルト13とを備える。ボルト13は、円筒形の頭部13aに六角穴が形成された六角穴付ボルトである。
【0020】
インサート30は、インサートホルダ10に保持された状態でインサートホルダ10の外周面から刃部31が張り出す。刃部31は、被切削物を切削する部位であり、本実施形態ではリーマ用の刃部で構成される。これにより、切削工具1は、他の工具によって被切削物に設けられた下穴を拡径したり形状を整えるためのリーマとして使用される。
【0021】
次に
図3、
図4及び
図5を参照して、切削工具1の各部について詳しく説明する。
図3は切削工具1の分解立体図である。
図4はインサート30の斜視図である。
図5は
図2のV−V線における切削工具1の断面図である。
【0022】
図3に示すように、ボディ11は、円筒状の部材である。ボディ11は、外周面に複数の溝部14が等間隔に形成される。ボディ11の第2端4側の端面11aには、外周縁から突出片11bが突出して形成される。突出片11bは、溝部14によって周方向に分断される。なお、溝部14の数は適宜設定可能であり、本実施形態では溝部14が15本設けられる。
【0023】
溝部14は、インサート30が挿入される部位であり、軸心Cと平行に形成される。溝部14は、第1端3側が閉じられ、第2端4側がボディ11の端面11aに開口している。溝部14は、平滑な平面である溝底14aを軸心C側に有する。溝部14は、溝底14aとボディ11の外周面とを繋いで軸心C方向に延びる側面も、平滑な平面に形成される。
【0024】
ボディ11には、溝部14の溝底14aと所定距離を隔てつつ溝部14の第1端3側から第2端4側へ向かって溝部14内に張り出す第1張出部17が設けられる。第1張出部17は、溝部14の幅方向に亘って、即ち、ボディ11の周方向に亘って略一様に形成される。
【0025】
蓋部12は、円板状の部材であり、軸心Cに対する垂直方向(以下「軸直方向」と称す)の中央にボルト13が挿入される蓋円筒部12aが形成される。蓋部12には、溝部14に対応した位置に外周縁から第1端3側へ向かって張り出す第2張出部18が形成される。蓋円筒部12aには、ボルト13の頭部13aが嵌まり、蓋円筒部12aに設けた貫通孔12c(
図5参照)からボルト13の軸部13bが突出する。
【0026】
図4に示すように、インサート30は、刃部31と基部32とが一体成形されて構成される長手形状の部位である。刃部31は、幅方向の一端側の稜線に切れ刃31aが設けられる。切れ刃31aは、被切削物に食い込んで被切削物を切削する部位である。
【0027】
基部32は、溝部14内に挿入される部位である。基部32の幅は、溝部14の幅と略同一に形成される。基部32は、長手方向に延びる面が全て平滑な平面に形成される。これにより、溝底14a及び側面が平滑な平面に形成される溝部14に基部32を滑らかに挿入できる。
【0028】
基部32は、インサートホルダ10に保持させる(溝部14に挿入した)ときに第1張出部17及び第2張出部18との干渉を避けるためのV字状の切欠部32a,32bがそれぞれ長手方向両端に設けられる。このように基部32の形状は、溝部14の形状に合わせて設定される。
【0029】
再び
図3に戻って、上述したインサートホルダ10及びインサート30を用いた切削工具1の組み立て方を説明する。まず、ボディ11の溝部14にインサート30を挿入する。このとき、切欠部32aに第1張出部17が挿入される。
【0030】
次いで、溝部14に第2張出部18を挿入しつつ、蓋円筒部12aをボディ11の内周側に挿入して蓋部12をボディ11の端面11aに接触させる。このとき、溝部14の第2端4側の一部が蓋部12に塞がれ、切欠部32bに第2張出部18が挿入される。次いで、ボルト13を蓋円筒部12aに挿入し、ボルト13の軸部13bを蓋円筒部12aからボディ11の内周側に突出させる。最後に、回転駆動装置2の先端に設けられたボルト孔2aにボルト13を締結する。
【0031】
このようにして、
図5に示すように切削工具1が組み立てられる。蓋円筒部12aには第1端3側に底部12bが形成される。その底部12bには、軸直方向中央に貫通孔12cが形成される。貫通孔12cは、ボルト13の頭部13aよりも小径であり、ボルト13の軸部13bよりも大径である。
【0032】
また、ボディ11は、第2端4側に設けられる第1筒部15と、第1筒部15から第1端3まで形成される第2筒部16とを備える。第1筒部15及び第2筒部16は、外径が同一であり、外周面が連続する。第1筒部15の内径は、ボルト13の頭部13aの外径よりも大きく、回転駆動装置2の先端の外径よりも小さく形成される。第2筒部16の内径は、第1筒部15の内径よりも大きく、回転駆動装置2の先端の外径と略同一に形成される。これにより、回転駆動装置2を第2筒部16に挿入すると、回転駆動装置2の先端が第1筒部15の第1端3側の端面に接触する。
【0033】
これらの結果、ボルト孔2aにボルト13が締結されることで、ボルト13の頭部13aと回転駆動装置2との間に蓋部12及びボディ11が挟まれて蓋部12がボディ11に固定される。このようにボルト13の締結によって、ボディ11に蓋部12が固定されると共に、切削工具1が回転駆動装置2に固定される。ボディ11への蓋部12の固定と、切削工具1への回転駆動装置2への固定とをボルト13が兼ねるので、それぞれの固定を別々のボルト13で行う場合に比べて部品点数を抑制できる。
【0034】
また、切欠部32aに第1張出部17を挿入し、切欠部32bに第2張出部18を挿入した状態で、一本のボルト13によってボディ11に蓋部12が固定されるので、インサートホルダ10に複数のインサート30を一度に固定できる。これにより、複数のインサート30をそれぞれ別々のボルトでインサートホルダ10に固定する場合に比べて作業効率を向上できる。
【0035】
ここで、複数のインサート30をインサートホルダ10にそれぞれ別々のボルトで固定する場合には、複数のボルトをそれぞれ締結するためのスペースをインサートホルダ10に設ける必要がある。本実施形態では、一本のボルト13で複数のインサート30を固定するので、複数のインサート30をインサートホルダ10に固定するためのボルト13を取り付けるためのスペースを少なくできる。その結果、インサート30同士の間隔を狭めることができるので、切削工具1を小径化できる。また、インサート30同士の間隔を狭め、インサート30の数を増やすことができるので、切削工具1の加工能率を向上できる。
【0036】
また、回転駆動装置2にボルト13を締結する場合に限らず、第2筒部16を内周側が詰まった円柱状の部材で構成し、その円柱状部材にボルト13を締結させても良い。この場合には、ボルト13とは異なる固定部材により切削工具1を回転駆動装置2に固定する。ボディ11に蓋部12を固定するボルト13と、回転駆動装置2に切削工具1を固定する固定部材とを別々に設けることにより、切削工具1を分解することなく、切削工具1を回転駆動装置2から外しておくことができる。なお、切削工具1を回転駆動装置2に固定する、ボルト13以外の固定部材としては、例えば、ボルトやピン、ドリルチャック等が挙げられる。
【0037】
また、蓋部12の周方向の複数位置を軸心C方向にそれぞれ複数のボルトで貫通し、その複数のボルトを第1筒部15に締結させても良い。この場合には、第1筒部15にボルトを締結するためのスペースを確保する必要があるので、ボディ11の外径の小径化に関する制約が大きくなる。
【0038】
これに対し、本実施形態では、蓋部12の軸直方向中央に形成される貫通孔12cに挿入された1本のボルト13で蓋部12をボディ11に固定するので、第1筒部15の周方向の複数位置にボルトを締結するためのスペースを確保する場合に比べて、ボディ11の外径の小径化に関する制約を緩和できる。よって、ボディ11の外径の自由度を向上でき、切削工具1の外径の自由度を向上できる。
【0039】
引き続き
図5を参照しながら、切削工具1の各部同士の関係について説明する。蓋円筒部12aは、内径がボルト13の頭部13aの外径と略同一であり、外径が第1筒部15の内径と略同一である。さらに、第2筒部16の内径は、回転駆動装置2の先端の外径と略同一に形成されるので、回転駆動装置2に対する切削工具1のガタつきを抑制できる。
【0040】
ボルト13の頭部13aが嵌まる蓋円筒部12aは、その深さ(底部12bから蓋部12の第2端4側の端面までの距離)がボルト13の頭部13aの軸心C方向寸法より大きく設定される。これにより、蓋円筒部12aにボルト13の頭部13aを嵌めたとき、蓋部12の第2端4側の端面(切削工具1の第2端4)からボルト13を突出しないようにできる。
【0041】
切削時に切削工具1の第2端4からボルト13が突出する場合には、ボルト13が被切削物に接触し易くなる。回転中のボルト13が被切削物に接触すると、被切削物からボルト13が緩む方向または締まる方向へ力を受ける。これに対し、本実施形態では、切削工具1の第2端4からボルト13を突出しないようにできるので、切削時にボルト13が被切削物に接触することを抑制できる。これにより、切削時にボルト13が緩んだり、締まり過ぎたりすることを抑制できる。
【0042】
溝部14は、主に第1筒部15に設けられ、第2筒部16にも僅かに設けられる。この場合、第2筒部16の内周面を溝部14の溝底14aよりも軸心C側に位置させる必要があるので、第2筒部16を小径化したり、溝部14を深くしたり(基部32の軸直方向寸法を大きくしたり)することに関する制約が大きい。
【0043】
なお、溝部14を第2筒部16に設けず、溝部14を第1筒部15のみに設けることが可能である。この場合、溝部14の溝底14aを第2筒部16の内周面よりも軸心C側に位置させることができる。これにより、第2筒部16を小径化したり、溝部14を深くしたりすることに関する制約を緩和できる。
【0044】
第2筒部16を小径化することで、ボディ11を小径化でき、切削工具1を小径化できる。また、溝部14を深くすることで、溝部14の形状に合わせて形成される基部32の軸直方向寸法を大きくできるので、切削時にインサート30からインサートホルダ10が受ける荷重の受圧面積を大きくできる。その結果、インサート30及びインサートホルダ10にかかる荷重を分散できるので、インサート30及びインサートホルダ10の耐久性を向上できる。
【0045】
第1張出部17は、溝部14の溝底14aと所定距離を隔てつつ溝部14の第1端3側から第2端4側へ向かって溝部14内に張り出す部位である。一方、第2張出部18は、ボディ11に蓋部12を取り付けた状態で溝底14aと所定距離を隔てつつ溝部14内へ張り出す部位である。
【0046】
第1張出部17は、溝底14a側の面が第1内面17aであり、溝底14aから離れた側の面が第1外面17bである。第1内面17aは、第1端3側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第1外面17bは、第2端4側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。このように形成されることで、第1張出部17は、溝部14内で第2端4側へ向かってV字状に張り出す。
【0047】
第2張出部18は、溝底14a側の面が第2内面18aであり、溝底14aから離れた側の面であって蓋部12の外周面が第2外面18bである。第2内面18aは、第2端4側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第2外面18bは、第1端3側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。このように形成されることで、第2張出部18は、溝部14内で第1端3側へ向かってV字状に張り出す。
【0048】
第1内面17aと第2内面18aとは、溝底14aとのなす角度がそれぞれ同一に設定される。さらに、第1外面17bと第2外面18bとは、溝底14aとのなす角度がそれぞれ同一に設定される。さらに、第1外面17b及び第2外面18bは、軸心C方向寸法が第1内面17a及び
第2内面18aの軸心C方向寸法に比べて、それぞれ蓋部12の厚さ分だけ大きく形成される。
【0049】
また、溝底14aから第1内面17aまでの軸直方向の最小距離(最も第1端3側における距離)と、溝底14aから第2内面18aまでの軸直方向の最小距離(最も第2端4側における距離)とはそれぞれ同一に設定される。さらに、溝底14aから第1内面17aまでの軸直方向の最大距離(最も第2端4側における距離)と、溝底14aから第2内面18aまでの軸直方向の最大距離(最も第1端3側における距離)とはそれぞれ同一に設定される。
【0050】
このように第1張出部17及び第2張出部18は、上下対称(軸心C方向に対称)であって、互いに略同一の形状に設定される。さらに、溝底14aと第1内面17a(第1張出部17)との間の空間と、溝底14aと第2内面18a(第2張出部18)との間の空間とも、上下対称であって、互いの形状が同一に設定される。
【0051】
基部32は、溝底14aと第1張出部17との間に挟み込まれる第1保持部33と、溝底14aと第2張出部18との間に挟み込まれる第2保持部34と、第1張出部17よりも軸直方向外側に位置する第1外周部35と、第2張出部18よりも軸直方向外側に位置する第2外周部36とを備える。
【0052】
即ち、基部32は、切欠部32aよりも軸心C側の部位が第1保持部33であり、切欠部32aよりも軸直方向外側の部位が第1外周部35である。また、基部32は、切欠部32bよりも軸心C側の部位が第2保持部34であり、切欠部32bよりも軸直方向外側の部位が第2外周部36である。
【0053】
第1保持部33は、第1内面17aと接触する面が第1接触面33aである。第1接触面33aは、第1内面17aと略同様に形成され、第1端3側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第1接触面33aと第1内面17aとは、溝底14aとのなす角度が同一に設定される。
【0054】
第2保持部34は、第2内面18aと接触する面が第2接触面34aである。第2接触面34aは、第2内面18aと略同様に形成され、第2端4側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第2接触面34aと第2内面18aとは、溝底14aとのなす角度が同一に設定される。
【0055】
このように第1接触面33a及び第2接触面34aが設定されるので、第1内面17aと第1接触面33aとが面接触し、第2内面18aと第2接触面34aとが面接触する。これらが接触したとき、自身の傾斜によって第1保持部33及び第2保持部34に軸心C側へ力が生じ、基部32が溝底14a(ボディ11)へ押し付けられる。これにより、軸心Cから複数のインサート30の刃部31までの距離のバラつきを抑制できると共に、切削中に溝底14aからインサート30を離れ難くできる。その結果、一部のインサート30への荷重の集中を抑制できると共に、インサート30の振動を抑制できるので、切削工具1による切削時の安定性および切削精度を向上できる。
【0056】
第1外周部35は、第1外面17bと対向する面が第1非接触面35aである。第1非接触面35aは、第1外面17bと平行に形成され、第2端4側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第2外周部36は、第2外面18bと対向する面が第2非接触面36aである。第2非接触面36aは、第2外面18bと平行に形成され、第1端3側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。
【0057】
第1内面17aと第1接触面33aとが面接触し、第2内面18aと第2接触面34aとが面接触した状態では、第1非接触面35aと第1外面17bとが非接触となり、第2非接触面36aと第2外面18bとが非接触となるように寸法が設定される。さらに、第1内面17aと第1接触面33aとが面接触し、第2内面18aと第2接触面34aとが面接触した状態では、第1保持部33の先端や第2保持部34の先端、第1保持部33と第1外周部35とにより形成される谷底、第2保持部34と第2外周部36とにより形成される谷底がインサートホルダ10と非接触となるように寸法が設定される。
【0058】
このように構成されることで、第1内面17aと第1接触面33aとの面接触、及び、第2内面18aと第2接触面34aとの面接触によるボディ11へのインサート30の押付力が、その他の部分におけるインサートホルダ10とインサート30との干渉によって妨げられることを防止できる。
【0059】
また、インサート30の刃部31が第2端4まで設けられるので、切削工具1の第2端でも刃部31により被切削物を切削できる。これにより、被切削物の下穴に底が有る場合でも、下穴の底まで被切削物を切削できる。
【0060】
ここで、基部32(第2外周部36)が第2端4まで設けられておらず、刃部31のみが第2端4まで設けられる場合を考える。この場合には、基部32に対して刃部31が溝部14の外側で第2端4側へ延びるので、その刃部31の延びた部分が切削時に被切削物から周方向に荷重を受けても、その部分を被切削物の反対からインサートホルダ10により支えることができない。そのため、刃部31が折損したり折れ曲がったりするおそれがある。
【0061】
本実施形態では、ボディ11の外径よりも外径が小さい蓋部12から第2張出部18が溝部14内へ張り出すので、第2張出部18の外側に基部32を挿入可能な溝部14が位置すると共に、蓋部12の外周側で溝部14がボディ11の端面11aに開口する。これにより、基部32(第2外周部36)をボディ11の端面11a(第2端4側)まで溝部14内に位置させることができる。そのため、インサート30の第2端4が被切削物から周方向に荷重を受けたときに、インサート30の第2端4側を被切削物の反対から溝部14内でボディ11によって支持できる。その結果、切削工具1の第2端4でもインサート30により被切削物を切削しつつ、そのインサート30の第2端4側の保持性能を確保できる。
【0062】
さらに、ボディ11の第2端4側の端面11aには、外周縁から突出片11bが第2端4まで突出する。これにより、被切削物からの周方向の荷重に対して、ボディ11の端面11aから第2端4まで突出片11bにより基部32を支えることができる。その結果、インサート30の第2端4側の保持性能をより向上できる。
【0063】
また、第1張出部17及び第2張出部18の形状、即ち、蓋部12を取り付けた溝部14の形状は、上下対称であって、互いに略同一の形状に設定される。さらに、インサート30の形状も上下対称に形成される。これらの結果、インサート30が被切削物から周方向に荷重を受けたときに、第2外周部36が溝部14内でボディ11により支持されるのと同様にして、第1外周部35も溝部14内でボディ11により支持できる。そのため、インサート30を第1端3側まで延ばしつつ、インサート30の第1端3側の保持性能を確保できる。
【0064】
また、第1非接触面35aが第1外面17bと平行に形成され、第2非接触面36aが第2外面18bと平行に形成されるので、第1非接触面35a及び第2非接触面36aと第1外面17b及び第2外面18bとの非接触を維持しつつ、互いを最大限近づけることができる。これにより、溝部14内における第1外周部35及び第2外周部36の軸直方向寸法を確保できる。そのため、切削時に第1外周部35及び第2外周部36とインサートホルダ10との間にかかる荷重をより分散できるので、インサート30及びインサートホルダ10の耐久性を確保できる。
【0065】
以上の通り本実施形態の切削工具1によれば、溝底14aと第1張出部17との間の空間、及び、溝底14aと第2張出部18との間の空間は、上下対称であって互いの形状が同一に設定される。さらに、第1保持部33および第2保持部34も、上下対称であって互いの形状が同一に設定される。そのため、インサート30を上下反転させて、溝底14aと第1張出部17との間に、第1保持部33に代えて第2保持部34を挟み込み、溝底14aと第2張出部18との間に、第2保持部34に代えて第1保持部33を挟み込むことができる。
【0066】
インサート30の刃部31は、第1端3側に比べて第2端4側が摩耗し易い。そのため、刃部31の摩耗具合に応じてインサートホルダ10にインサート30を保持させる向きを変えることで、インサート30の寿命を向上できる。なお、本実施形態では、インサート30を上下反転させて保持させる向きを変えると、刃部31の切れ刃31aの向きが逆転するので、切削工具1による切削回転方向を反転させる必要がある。
【0067】
さらに、溝部14内に第1張出部17及び第2張出部18が張り出した状態における溝部14の形状は、上下対称である。また、インサート30の形状も上下対称である。これらの結果、インサート30を上下反転させても、インサート30とインサートホルダ10とが干渉して、上下反転したインサート30を溝部14に嵌められなくなったり、嵌め難くなったりすることを防止できる。
【0068】
なお、インサート30を上下反転させて保持させるには、溝底14aと第1張出部17との間の空間、及び、溝底14aと第2張出部18との間の空間が上下対称である場合に限らない。第1内面17aと溝底14aとのなす角度、及び、第2内面18aと溝底14aとのなす角度が同一であって、溝底14aから第1内面17aまでの最小距離よりも溝底14aから第2内面18aまでの最大距離が大きく設定されると共に、溝底14aから第2内面18aまでの最小距離よりも溝底14aから第1内面17aまでの最大距離が大きく設定されれば良い。
【0069】
この場合、溝底14aと第1内面17aとの間の空間と、溝底14aと第2内面18aとの間の空間とに、上下対称であって形状が同一となる部分が存在する。そのため、溝底14aと第1内面17aとの間に第2保持部34を挟み込み、溝底14aと第2内面18aとの間に第1保持部33を挟み込むことができる。その結果、上述の通り、刃部31の摩耗具合に応じてインサートホルダ10にインサート30を保持させる向きを変えることができるので、インサート30の寿命を向上できる。
【0070】
次に
図6を参照しながら第2実施形態における切削工具40について説明する。第1実施形態では、第2張出部18が溝部14に対応した位置に設けられる場合、即ち、第2張出部18がインサートホルダ10の周方向に断続的に形成される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、第2張出部45がインサートホルダ41の周方向に連続して形成される場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0071】
図6は、第2実施形態における切削工具40の分解立体図である。
図6に示すように、切削工具40のインサートホルダ41は、軸状のボディ42と、そのボディ42の第2端4側に取り付けられる蓋部43と、蓋部43をボディ42に固定するためのボルト13とを備える。
【0072】
ボディ42は、円筒状の部材である。ボディ42は、外周面に複数の溝部14が等間隔に形成される。ボディ42の端面11aには、溝部14の第2端4側が開口し、その溝部14同士を周方向に連結する凹部44が形成される。凹部44は、ボディ42の端面11aから第1端3側へ向かって凹んだ部位である。
【0073】
蓋部43は、円板状の部材である。蓋部43には、外周縁から第1端3側へ向かって第2張出部45が形成される。第2張出部45は、インサートホルダ41の周方向に亘って連続して形成される。
【0074】
ボディ42に蓋部43を取り付けるときには、第2張出部45が溝部14内へ挿入されると共に、第2張出部45が凹部44に挿入される。凹部44は、ボディ42に蓋部43を取り付けた状態で、ボディ42が第2張出部45に干渉しないように形状および寸法が設定される。
【0075】
以上の通り第2実施形態の切削工具40によれば、第2張出部45がインサートホルダ41の周方向に亘って連続して形成される。これにより、第1実施形態のように第2張出部18がインサートホルダ41の周方向に断続的に形成される場合に比べて、第2実施形態では蓋部43の製造を容易にできる。
【0076】
一方、第2張出部45が周方向に連続して形成されることに伴って、ボディ42に蓋部43を取り付けるときに、第2張出部45とボディ42との干渉を避けるために、ボディ42の端面11aに凹部44が形成される。ボディ42の端面11aに開口している溝部14同士を周方向に連結するように凹部44を形成できるので、即ち、周方向に亘ってリング状の窪みを形成すれば良いので、凹部44は比較的容易に形成できる。
【0077】
第1実施形態のように第2張出部18を周方向に断続的に形成し、凹部44を形成しない場合に比べて、第2実施形態のように第2張出部45を周方向に連続して形成し、凹部44を形成する方が、ボディ42及び蓋部43の製造を容易にできる。その結果、切削工具40の製造を容易にできる。
【0078】
なお、凹部44は、第2張出部45が溝部14内へ張り出すことを前提として形成される部位である。ボディ42の端面11aに開口する溝部14内へ第2張出部45が張り出さない場合には、第2張出部45が周方向に連続して設けられているか否かに係わらず、第2張出部45がボディ42の端面11aと干渉することはないためである。
【0079】
第1実施形態で説明した通り、ボディ42の外径よりも外径が小さい蓋部12から第2張出部45が溝部14内へ張り出すので、第2張出部45の外側に基部32を挿入可能な溝部14が位置すると共に、蓋部12の外周側で溝部14がボディ42の端面11aに開口する。これにより、基部32をボディ42の端面11aまで溝部14内に位置させることができる。そのため、インサート30の第2端4が被切削物から周方向に荷重を受けたときに、インサート30の第2端4側を被切削物の反対から溝部14内でボディ42によって支持できる。その結果、インサート30の第2端4側の保持性能を確保できる。
【0080】
このように、第2実施形態では、ボディ42の外径よりも外径が小さい蓋部43から第2張出部45が溝部14内へ張り出すことに加えて、第2張出部45が周方向に連続して形成される。その結果、上述した通り、インサート30の第2端4側の保持性能を確保しつつ、切削工具40の製造を容易にできる。
【0081】
次に
図7から
図10を参照しながら第3実施形態における切削工具50について説明する。第1実施形態では、切削工具1がリーマである場合について説明した。これに対し第3実施形態では、切削工具50がエンドミルである場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0082】
図7は第3実施形態における切削工具50の斜視図である。
図8(a)はボディ52の正面図である。
図8(b)は
図8aのVIIIb−VIIIb線におけるボディ52の断面図である。
図9(a)は蓋部53の上面図である。
図9(b)は蓋部53の正面図である。
図10はインサート60の斜視図である
。
【0083】
図7に示すように、切削工具50は、アーバ等の回転駆動装置2に固定して使用する工具である。切削工具50は、タングステンカーバイド等を加圧焼結した超硬合金や高速度工具鋼などから構成される。切削工具50は、回転駆動装置2側の端部を第1端3とし、回転駆動装置2から離れた側の端部を第2端4とした軸状に形成される。第3実施形態では、切削工具50の第1端3側を上側とし、第2端4側を下側として説明する。
【0084】
切削工具50は、第1端3及び第2端4をそれぞれ両端とする軸状のインサートホルダ51と、そのインサートホルダ51に着脱可能に保持されるインサート60とを備える。インサートホルダ51は、軸状のボディ52と、そのボディ52の下側に取り付けられる蓋部53と、蓋部53をボディ52に固定するためのボルト13とを備える。
【0085】
インサート60は、インサートホルダ51に保持された状態でインサートホルダ51の外周面から刃部61が張り出す。刃部61は、エンドミル用の刃部で構成される。これにより、切削工具50は、軸心Cに対して垂直方向に移動して、主に切削工具50の外周面で被切削物を切削するエンドミルとして使用される。エンドミルである切削工具50は、回転駆動装置2により上面視して時計回りで軸心Cまわりに回転されることで、被切削物を切削する。
【0086】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、ボディ52は、円筒状の部材である。ボディ52の下側の端面11aは、平滑な平面に形成される。ボディ52は、外周面に複数の溝部54が等間隔に形成される。
【0087】
溝部54は、インサート60が挿入される部位である。溝部54は、下側から上側へ向かって右上がりに、即ち、右ねじれに形成される。溝部54は、上側が閉じられ、下側がボディ52の端面11aに開口している。溝部54は、平滑な平面である溝底14aを軸心C側に有する。
【0088】
溝部54の溝底14aは、下側から見て(
図8(b)において)、時計回り方向の後側に対して前側が軸心Cから離れるように形成される。溝部54は、溝底14aから垂直に形成されると共に、軸心C方向に延びる側面が平滑な平面に形成される。
【0089】
ボディ52には、溝部54の溝底14aと所定距離を隔てつつ溝部54の上側から下側へ向かって溝部54内に張り出す第1張出部55が設けられる。各溝部54に設けられる複数の第1張出部55は全て同一形状に形成される。
【0090】
第1張出部55の先端は、正面視(
図8(a))において軸心Cと垂直に形成される。第1張出部55は、溝底14a側の面が第1内面55aであり、溝底14aから離れた側の面が第1外面55bである。第1内面55aは、上側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第1外面55bは、下側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。
【0091】
さらに、第1内面55a及び第1外面55bは、溝底14aと同様に、下側から見て(
図8(b)において)、時計回り方向の後側に対して前側が軸心Cから離れるように形成される。これらの結果、溝底14aと第1張出部55との間には、周方向に一様であって、第1張出部55の先端へ向かうにつれて広がる空間が形成される。
【0092】
図9(a)及び
図9(b)に示すように、蓋部53は、円板状の部材であり、軸直方向中央に蓋円筒部12aが形成される。蓋部53には、周方向へ断続的に、外周縁から上側へ向かって張り出して第2張出部56が形成される。第2張出部56は、溝部54(
図8(a)参照)に対応した位置に設けられる。
【0093】
第2張出部56は、ボディ52に蓋部53を取り付けた状態で溝底14aと所定距離を隔てつつ溝部54内へ張り出す部位である。そのため、第2張出部56は、溝部54と同様に、下側から上側へ向かって右上がりに形成され、即ち、右ねじれに形成される。この第2張出部56の傾斜角度(ねじれ角度)は、溝部54の傾斜角度(ねじれ角度)と同じである。
【0094】
第2張出部56の先端は、正面視(
図9(b))において軸心Cと垂直に形成される。第2張出部56は、軸心C側の面が第2内面56aであり、軸心Cとは反対側の面が第2外面56bである。第2内面56aは、下側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。第2外面56bは、上側へ向かうにつれて溝底14aへ近づくように傾斜する。
【0095】
第2内面56aは、上面視(
図9(a))において、時計回り方向の前側に対して後側が軸心Cから離れるように形成される。上述した通り、溝底14aは、下側から見て時計回り方向の後側に対して前側が軸心Cから離れるように形成されるので、第2内面56aと溝底14aとの間には、周方向に一様であって、第2張出部56の先端へ向かうにつれて広がる空間が形成される。
【0096】
一方、第2外面56bはインサート60と接触しないので、第2外面56bの形状は比較的自由度が高い。そのため、第2外面56bは、周方向に亘って軸心Cからの距離が同一となる形状に、即ち、形成し易い形状に設定される。
【0097】
図10に示すように、インサート60は、刃部61と基部62とが一体成形されて構成される、略上下方向に延びる長手形状の部位である。刃部61は、幅方向の一端側の稜線に切れ刃61aが設けられる。切れ刃61aは、被切削物に食い込んで被切削物を切削する部位である。
【0098】
基部62は、溝部54内に挿入される部位である。基部62の幅は、溝部54の幅と略同一に形成される。基部62は、長手方向に延びる面が全て平滑な平面に形成される。これにより、溝底14a及び側面が平滑な平面に形成される溝部54に基部62を滑らかに挿入できる。
【0099】
基部62は、インサートホルダ51に保持させる(溝部54に挿入した)ときに、第1張出部55及び第2張出部56との干渉を避けるためのV字状の切欠部62a,62bがそれぞれ長手方向の両端に設けられる。基部62は、切欠部62aよりも刃部61から離れた側の部位が第1保持部63であり、切欠部62aよりも刃部61側の部位が第1外周部65である。基部62は、切欠部62bよりも刃部61から離れた側の部位が第2保持部64であり、切欠部62bよりも刃部61側の部位が第2外周部66である。
【0100】
第1保持部63は、溝底14aと第1張出部55との間に挟み込まれる部位である。第2保持部64は、溝底14aと第2張出部56との間に挟み込まれる部位である。第1外周部65は、第1張出部55と非接触であり、第1張出部55の外周側の溝部54内に位置する部位である。第2外周部66は、第2張出部56と非接触であり、第2張出部56の外周側の溝部54内に位置する部位である。
【0101】
以上の通り第3実施形態の切削工具50によれば、右上がりの溝部54にインサート60を挿入し、右上がりの第2張出部56を挿入させつつ蓋部53をボディ52に取り付けることで、インサート60の刃部61を右ねじれにできる。これにより、刃部61の切れ刃61aで被切削物を切削したときの切り屑を刃部61の右ねじれに沿って上方へ排出できる。
【0102】
下側(第2端4側)から見て、時計回り方向の後側に対して前側が軸心Cから離れるように溝部54の溝底14aが形成されるので、その溝部54に挿入されるインサート60をインサートホルダ51の外周面に対して反時計回りの前側に倒すことができる。下側から見て反時計回りに切削工具50が切削回転するので、回転方向の前方側にインサート60を倒すことができる。そのため、切削時にインサート60にかかる荷重をインサートホルダ51で受け易くできる。その結果、インサート60による切削時の安定性を向上できる。
【0103】
さらに、溝底14aと同様に、下側(第2端4側)から見て、時計回り方向の後側に対して前側が軸心Cから離れるように第1外面55bが形成される。これにより、切削時にインサート60にかかる荷重を第1外面55bで受けることができる。その結果、インサート60による切削時の安定性をより向上できる。
【0104】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、ボディ11,42,52や蓋部12,43,53、インサート30,60の形状は適宜変更可能である。
【0105】
上記第1,2実施形態ではインサート30の刃部31がリーマ用である場合について説明し、上記第3実施形態ではインサート60の刃部61がエンドミル用である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。スレッドミル用やフェイスミル用の刃部を用いることは当然可能である。
【0106】
上記各実施形態では、第1張出部17,55及び第2張出部18,45,56が溝部14,54内に張り出す場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ボディ11,42,52の外径よりも内径を大きく設定した第1張出部や第2張出部によって、溝部14,54外でインサート30,60を溝底14aへ押し付けても良い。
【0107】
上記各実施形態では、ボディ11,42,52が1の部材で構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボディを2以上の部材で構成することは当然可能である。例えば、第1の円筒部の両端面にそれぞれ開口する複数の溝部を円筒部の外周にそれぞれ設け、第2の円筒部の端面から突出する複数の第1張出部を溝部に対応した位置にそれぞれ設け、第1張出部を溝部に挿入しつつ第1の円筒部と第2の円筒部とを互いに固定することで、ボディを構成しても良い。