【実施例】
【0011】
図1に、実施例に係るスクロール圧縮機100を側面から見た断面図を示す。スクロール圧縮機100は、モータ10と、モータ10により駆動される圧縮部110を有している。以下の説明では、モータ10として、アキシャルギャップ型モータを適用した場合の構成の例について説明する。
【0012】
モータ10のモータケーシング14内には、円盤状のステータ31が、円盤状の一対のロータ32に挟まれて配置されている。モータケーシング14は、例えばAl等の金属製であり、両端に開口部を有する円筒形状を有している。モータケーシング14の圧縮部110側の開口部には金属製のフランジ15が設けられており、この開口部と反対側の開口部には、金属製のエンドブラケット16が設けられて、両開口部が閉鎖されている。
【0013】
回転軸12は、ステータ31、ロータ32の中央部を貫通して設けられている。回転軸12は、圧縮部110側に設けられた主軸受33と、ステータ31を挟んで主軸受33と反対側に設けられた反負荷軸受34により回転自在に支持されている。主軸受33は、フランジ15により保持されており、反負荷軸受34は、エンドブラケット16により保持されている。回転軸12は、主軸受33側の端部に偏心部12aを有している。
【0014】
回転軸12の反負荷軸受34側の端部はエンドブラケット16を貫通しており、その端部側には冷却ファン13が設置されている。冷却ファン13は、回転軸12に装着された回転羽根131が、樹脂製のファンカバー132内に収容されて構成されている。回転軸12の端部には、回転羽根131とファンカバー132との間にカウンタウェイト135が設けられている。
【0015】
冷却ファン13は、吸気用の空間20を確保するために、エンドブラケット16との間に所定の距離Dの間隔を保って設けられている。
【0016】
なお、距離Dは、エンドブラケット16の冷却ファン13と対面する面161(以下、単にエンドブラケット16の表面161という)と、ファンカバー132のエンドブラケット16と対面する端面132A(以下、単にファンカバー132の端面132Aという)との間の距離をいう。
【0017】
冷却ファン13は、回転軸12により駆動された回転羽根131の回転により、冷却ファンの側面から空間20に流入した外気を、端面132Aに設けられた吸入孔(図示省略)から吸込んで、冷却風を発生させる、所謂吸込み式の冷却ファンである。
【0018】
空間20に流入した冷却ファン13周辺の外気は、その大半が、冷却ファン13の外径側の吸入口から冷却ファン13内部に吸い込まれる。回転羽根131の回転によりファンカバー132内部に発生した冷却風は、不図示のダクトを通って圧縮部110の、後述する固定スクロール43又は旋回スクロール44に供給される。
【0019】
ステータ31とロータ32との間には、空隙が形成されている。これにより、ステータ31とロータ32とは、回転軸12に平行な方向に、空隙を挟んで対向配置された状態でモータケーシング14内に収容されている。
【0020】
図2に、
図1に示すモータ10のステータ31及びロータ32を拡大して示す。ロータ32は、磁性体で構成されたヨーク(図示省略)と、周方向に配置されかつヨークに接続した永久磁石321とで構成される。
【0021】
ステータ31は、複数の鉄心片311が周方向に等間隔で配置されて構成されている。鉄心片311には、非磁性体を介して、コイル312が巻回されている。周方向に配置された鉄心片311は、樹脂材料により樹脂モールドされることにより一体成形されて、モータケーシング14に固定されている。鉄心片311は、例えば電磁鋼板や、アモルファス金属により構成することができる。
【0022】
ステータ31の鉄心片311に巻回されたコイル312に電流が流れると、ステータ31、ロータ32に生成された磁場により、ロータ32に回転力が付与される。ロータ32の回転に伴い回転軸12が回転する。
【0023】
鉄心片311をアモルファス金属により形成した場合には、他の磁性材料と比較して損失が大幅に低く、かつ透磁率が高いため、高いモータ効率を得られる。一方、アモルファス金属は、金属自体の硬度が高く、脆いことに加え、比較的板厚を薄くして用いられるため、打ち抜き等の加工には不向きである。アキシャルギャップ型モータでは、ステータ31を、比較的容易に作成できる扇形形状(
図2参照)の箔帯を積層した鉄心片311により構成することができる。従って、アキシャルギャップ型モータは、複雑な形状の打ち抜き加工を行うことなくステータ31を作成できるため、アモルファス金属の使用に適している。
【0024】
エンドブラケット16の表面161には、回転軸12の軸貫通部162に、回転軸12の軸方向に垂直な端面162aが形成されており、この端面162aに除電ブラシ60が固定されている。
【0025】
図3(a)に、
図1に示すスクロール圧縮機100の側面図を示し、
図3(b)に、
図3(a)に示す除電ブラシ60及びその周辺部分を拡大して示す。除電ブラシ60は、例えばカーボンブラシであり、
図3(b)に示すように、軸貫通部162の端面162a内のボルト61に挿入したネジ62によりその上端面が押圧されることで、下端面が回転軸12の表面に圧接されている。
【0026】
例えばモータ駆動時に、インバータ電源を用いてコイル312に電流を流す場合、回転軸12を高速で回転させると、回転軸12に軸電圧が発生する。
図1に示すように、主軸受33や反負荷軸受34等の軸受は、フランジ15やエンドブラケット16により保持されており、これらの軸受は、軸受内輪が回転軸12に接触し、軸受外輪がフランジ15やエンドブラケット16と接している。従って、上記したように、回転軸12に軸電圧が発生すると、フランジ15やエンドブラケット16と、回転軸12との電位差が、軸受の内外輪間に発生する。この電位差が軸受油膜の絶縁耐力を超えると、油膜絶縁破壊により軸受電流が流れて軸受電食が発生する。
【0027】
実施例に係るスクロール圧縮機100は、上記したように、回転軸12の表面に除電ブラシ60を接触させて接地することにより、回転軸12に発生した電流を、除電ブラシ60を介して、ボルト61、ネジ62からエンドブラケット16、モータケーシング14に放出し、軸電圧を低減することができる。従って、軸受電食の発生を抑制することができる。なお、除電ブラシ60の固定には、ボルト61やネジ62に加え、例えばバネを用いることも可能である。
【0028】
特にアキシャルギャップ型モータでは、ステータ31とロータ32との対向面積が大きいため、静電容量が大きくなり易い。このため、例えばラジアルギャップ型モータと比較して、アキシャルギャップ型モータでは、より高い軸電圧が回転軸12に発生し易く、軸受電食の発生がより顕著となる。
【0029】
上記したように、実施例に係るスクロール圧縮機100では、エンドブラケットに固定した除電ブラシ60を回転軸12に圧接しているため、回転軸12に高い軸電圧が発生した場合でも、この軸電圧を低減し、軸受電食の発生を抑制することができる。
【0030】
図1及び
図3に示す例では、除電ブラシ60及びこれを固定するネジ62は、スクロール圧縮機100の外部に露出するように設けられている。具体的には、モータ10及び冷却ファン13の外径側から、エンドブラケット16と冷却ファン13との間の空間20を見たときに、ネジ62の頭部を視認できるように設けられている。
【0031】
図1及び
図3に示す例では、エンドブラケット16の表面161とファンカバー132の端面132Aとの間の距離Dは、冷却ファン13において冷却風を発生させるために必要な外気の吸入量を確保でき、かつ、スクロール圧縮機100の外部から、例えばドライバー等の工具を空間20に挿入することが可能な分の大きさが確保されている。
【0032】
従って、例えば除電ブラシ60の交換や修理を行うために、エンドブラケット16から除電ブラシ60を取り外す際には、モータ10及び冷却ファン13の外径側から空間20に直接ドライバー等の工具を挿し込み、外部に露出しているネジ62を緩める等の操作をすることで、エンドブラケット16やファンカバー132を取り外すことなく、除電ブラシ60を容易に取り外すことができる。このため、モータケーシング14内やファンカバー132内に除電ブラシ60を設置した構成と比較して、除電ブラシ60の保守性を向上させることができる。
【0033】
圧縮部110は、
図1に示すように、固定スクロール43と、固定スクロール43と対向配置された旋回スクロール44とを有している。固定スクロール43及び旋回スクロール44は、本体ケーシング41内に収納されている。
【0034】
本体ケーシング41は、両端に開口部を有する筒状体であり、一方の開口部に固定スクロール43が取り付けられ、他方の開口部にモータ10が取り付けられている。
【0035】
固定スクロール43及び旋回スクロール44は、それぞれ、鏡板43A、44Aの表面に、渦巻き状のラップ部43B、44Bが形成されている。固定スクロール43のラップ部43Bと、旋回スクロール44のラップ部44Bとが互いに噛み合わされることにより、圧縮室45が形成されている。固定スクロール43のラップ部43B及び旋回スクロール44のラップ部44Bには、それぞれの先端にチップシール43C、44Cが設けられている。
【0036】
旋回スクロール44の背面には、ボス部46に旋回軸受47が設けられている。回転軸12の偏心部12aは、旋回軸受47に挿入されており、これにより回転軸12の偏心部12aが、旋回スクロール44に支持されている。
【0037】
回転軸12の偏心部12aは、回転軸12の回転運動に伴い偏心運動する。従って、回転軸12がモータ10により回転駆動されると、偏心部12aと接続された旋回スクロール44が旋回運動する。
【0038】
旋回スクロール44の旋回運動は、回転軸12の端部に取り付けられたカウンタウェイト135の回転により、旋回スクロール44の偏心が打ち消されることで継続的に行われる。
【0039】
旋回スクロール44が旋回運動すると、固定スクロール43のラップ部43Bと旋回スクロール44のラップ部44Bとの間に画成された圧縮室45が連続的に縮小される。これにより、圧縮室45内に導入された流体が圧縮され、圧縮空気が圧縮部110の外部に吐出される。なお、図示省略しているが、複数の圧縮室45のうちの一つが、流体の吸入口となっており、複数の圧縮室45のうちの一つが、圧縮流体の吐出口となっている。
【0040】
以上説明した、実施例に係るスクロール圧縮機100によれば、エンドブラケット16の表面161に、除電ブラシ60を固定して設置することで、外気の吸入のために確保されている空間20を有効活用することができる。上記したように、空間20から流入した外気は、その大半が、冷却ファン13の外径側の吸入口から吸入されるため、空間20における内径側の領域21は、外気の吸気には殆ど貢献しておらず、実質上、デッドスペースとなっている。実施例に係るスクロール圧縮機100によれば、除電ブラシ60を、エンドブラケット16の表面161に固定して設置することで、空間20におけるデッドスペースである領域21を有効活用することができる。従って、軸受電食による故障等の弊害を抑制し、かつ圧縮機全体の小型化、省スペース化を図ることができる。
【0041】
また、エンドブラケット16の冷却ファン13との間の空間20は、内径側の領域21においてもある程度外気が通過する。このため、この領域21に除電ブラシ60を設置することで、除電ブラシ60の摺動面が外気により冷却される。従って、除電ブラシ60のブラシ寿命を長寿命化することができる。
【0042】
また、実施例に係るスクロール圧縮機100によれば、回転軸12に高い軸電圧が発生した場合でも、この軸電圧を、除電ブラシ60により低減することができる。従って、ステータ31にアモルファス合金を使用したアキシャルギャップ型モータにより、高いモータ効率を得ることができると共に、軸受電食による故障等の弊害を抑制することができる。
【0043】
また、実施例に係るスクロール圧縮機100によれば、除電ブラシ60を、エンドブラケット16の表面161に固定して設置しているため、カウンタウェイト135を、冷却ファン13側の回転軸12端部に設置することができる。従って、回転軸12の偏心を相殺するのに必要なカウンタウェイト135の重さを低減することができ、カウンタウェイト135を軽量化することができる。
【0044】
即ち、除電ブラシを回転軸の端部に設置した従来の構成では、カウンタウェイト135を回転軸12の端部に設置できず、回転軸12の端部よりも中心寄りの位置に、カウンタウェイト135を設置することが必要になる。この場合には、回転軸12の偏心を相殺するのに必要なカウンタウェイト135の重さが重くなる。
【0045】
また、実施例に係るスクロール圧縮機100によれば、除電ブラシ60を、エンドブラケット16の表面161に固定して設置しているため、ファンカバー132を、除電ブラシ60やモータケーシング14と導通させる必要がなくなる。従って、ファンカバー132として樹脂製のカバーを採用することができ、スクロール圧縮機100の製造コストを低減することができ、またスクロール圧縮機100全体を軽量化することができる。
【0046】
即ち、除電ブラシをファンカバーに接触させて設けた従来の構成では、ファンカバーとして金属製のものを用いることが必要となり、その分、製造コストが高くなる。
【0047】
なお、実施例に係るスクロール圧縮機100では、ファンカバー132は、必ずしも樹脂製のものに限定されず、金属製のカバーを採用することも可能である。
【0048】
以上説明した、実施例に係るスクロール圧縮機100では、モータ10としてアキシャルギャップ型を採用した構成を例に説明した。但し、これに限定されず、モータ10として、例えばラジアルギャップ型モータ等の他の構成のモータを用いることも可能である。