特許第6707721号(P6707721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6707721車両の停止状態を識別するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707721
(24)【登録日】2020年5月22日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】車両の停止状態を識別するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/00 20060101AFI20200601BHJP
【FI】
   G01P13/00 B
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-543996(P2019-543996)
(86)(22)【出願日】2018年1月24日
(65)【公表番号】特表2020-507779(P2020-507779A)
(43)【公表日】2020年3月12日
(86)【国際出願番号】EP2018051662
(87)【国際公開番号】WO2018149601
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】102017202539.5
(32)【優先日】2017年2月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン ハウク
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ロイト
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0040155(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0234933(US,A1)
【文献】 特許第3018497(JP,B2)
【文献】 特開2002−131077(JP,A)
【文献】 特開2007−163205(JP,A)
【文献】 特開2009−168757(JP,A)
【文献】 特開2011−112551(JP,A)
【文献】 特許第5625557(JP,B2)
【文献】 特開2012−163465(JP,A)
【文献】 特開2012−173143(JP,A)
【文献】 特開2013−250064(JP,A)
【文献】 特許第6222096(JP,B2)
【文献】 特許第6154883(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の停止状態を識別するための方法であって、
フィルタリングされた加速度値(axf)及びフィルタリングされた角速度値(ωyf)を得るために、前記車両(100)の第1の軸(x)における加速度値(ax)を、フィルタ規則(108)を使用してフィルタリングし、かつ、前記第1の軸(x)に直交するように配向された前記車両(100)の第2の軸(y)周りの角速度値(ωy)を、前記フィルタ規則(108)を使用してフィルタリングするステップ(200)と、
標準化された加速度値(axn)及び標準化された角速度値(ωyn)を得るために、前記フィルタリングされた加速度値(axf)及び前記フィルタリングされた角速度値(ωyf)を、標準化規則(112)を使用して標準化するステップ(202)と、
停止状態を識別するために、前記標準化された加速度値(axn)及び前記標準化された角速度値(ωyn)を、監視規則(116)を使用して監視するステップ(204)と、
を含む方法。
【請求項2】
前記フィルタリングするステップ(200)において、前記加速度値(ax)及び/又は前記角速度値(ωy)は、停止状態が識別される場合に、加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅を得るために、ドリフト期間にわたって平均化され、前記監視するステップ(204)において、前記車両(100)の移動は、前記加速度スパン幅及び/又は前記角速度スパン幅が、限界値を上回る場合に識別される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィルタリングするステップ(200)において、前記加速度値(ax)及び/又は前記角速度値(ωy)は、前記監視するステップ(204)において、移動が識別される場合に、前記フィルタリングされた加速度値(axf)及び/又は前記フィルタリングされた角速度値(ωyf)を得るために、動的期間にわたって平均化される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記監視するステップ(204)において、移動が識別される場合に、最低持続時間の間は停止状態が識別されない、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記監視するステップ(204)において、前記標準化された加速度値(axn)と前記標準化された角速度値(ωyn)との合計が、停止状態値よりも小さい場合には、停止状態が識別される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタリングするステップ(200)において、他のフィルタリングされた加速度値(ayf)及び他のフィルタリングされた角速度値(ωzf)を得るために、前記第2の軸(y)の他の加速度値(ay)と、前記第1及び前記第2の軸(x,y)に直交するように配向された前記車両(100)の第3の軸(z)周りの他の角速度値(ωz)とを、前記フィルタ規則(108)を使用してフィルタリングし、
前記標準化するステップ(202)において、前記他のフィルタリングされた加速度値(ayf)及び前記他のフィルタリングされた角速度値(ωzf)は、他の標準化された加速度値(ayn)及び他の標準化された角速度値(ωzn)を得るために、前記標準化規則(112)を使用して標準化され、
前記監視するステップ(204)において、前記他の標準化された加速度値(ayn)及び前記他の標準化された角速度値(ωzn)は、停止状態を識別するために、前記監視規則(116)を使用して監視される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記監視するステップ(204)において、前記車両(100)の少なくとも1つのホイール回転数を表すホイール回転数値(120)が、ホイール停止状態値よりも小さい場合に、停止状態が識別される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記監視するステップ(204)において、前記車両(100)の制御装置が動作していない場合に、停止状態が識別される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法を実施するために構成されたコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項に記載のコンピュータプログラムを、対応するユニットにおいて実行するように構成された装置(102)。
【請求項11】
請求項に記載のコンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の上位概念による装置又は方法に関する。本発明の対象は、コンピュータプログラムでもある。
【背景技術】
【0002】
慣性センサは、ドリフトを受けやすい。センサのドリフトを補償するために、センサの信号が既知の値を有すべき時点を使用することができる。例えば、この時点は、車両の停止状態であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明の開示
この背景に対して、ここに提示されるアプローチにおいては、車両の停止状態を識別するための方法、さらに、この方法を使用する装置、そして最後に対応するコンピュータプログラムが提示される。従属請求項に記載された手段によれば、独立請求項に記載された装置の好ましい発展形態及び改善形態が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
車両の停止状態は、少なくとも2つの異なるセンサのデータ融合によって識別することができる。少なくとも1つの加速度信号と、少なくとも1つの回転速度(以下では、角速度とも称する)信号との組合せに基づけば、停止状態を非常に確実に識別することができる。
【0005】
ここでは、車両の停止状態を識別するための方法が提示され、この方法は、
フィルタリングされた加速度値及びフィルタリングされた角速度値を得るために、車両の第1の軸における加速度値を、フィルタ規則を使用してフィルタリングし、かつ、前述した軸に直交するように配向された車両の第2の軸周りの角速度値を、フィルタ規則を使用してフィルタリングするステップと、
標準化された加速度値及び標準化された角速度値を得るために、フィルタリングされた加速度値及びフィルタリングされた角速度値を、標準化規則を使用して標準化するステップと、
停止状態を識別するために、標準化された加速度値及び標準化された角速度値を、監視規則を使用して監視するステップと、
を含む。
【0006】
加速度値は、加速度センサの加速度信号によって伝送することができる。角速度値は、角速度センサの角速度信号によって伝送することができる。フィルタ規則によれば、値の経過を平滑化することができる。標準化によれば、複数の値を、それらの値を相互に関連付けて設定し得るように変換することができる。標準化規則は、変換、例えばz変換であってもよい。標準化規則によれば、フィルタリングされた加速度値及びフィルタリングされた角速度値を、標準化によって生じた値を相互に比較し得るように変換することができる。標準化規則は、そのような変換のうちの1つで使用すべき少なくとも1つの標準化係数を含み得る。監視規則によれば、標準化された加速度値又は標準化された加速度値に依存する値を限界値と比較することができる。付加的又は代替的に、標準化された角速度値又は標準化された角速度値に依存する値は、監視規則に従って、1つの限界値又はさらなる限界値と比較することができる。停止状態は、1つ以上の比較の結果に依存して、識別されたものとみなされ、又は、識別されなかったものとみなされる。例えば、監視規則に従って実施された1つ以上の比較が、限界値の上回りを結果として供給しない場合には、停止状態は識別されたとものとみなすことができる。加速度値及び/又は角速度値は、停止状態が識別される場合に、加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅を得るために、ドリフト期間にわたって平均化することができる。車両の移動は、加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅が限界値を上回る場合に識別され得る。スパン幅は、ドリフト期間内の値の値規模であってもよい。スパン幅は、信号の動特性を示す。
【0007】
移動が識別される場合、フィルタリングされた加速度値及び/又はフィルタリングされた角速度値を得るために、加速度値及び/又は角速度値を動的期間にわたって平均化することができる。平均値形成により、上下の外れ値を平滑化することができる。
【0008】
移動が識別される場合に、最低持続時間の間は停止状態を識別することはできない。移動後、待機することにより、識別の確実性を高めることができる。
【0009】
標準化された加速度値と標準化された角速度値との合計が、停止状態値よりも小さい場合、停止状態を識別することができる。また、標準化された加速度値の変化と標準化された角速度値の変化とを合計して停止状態値と比較することも可能である。より大きいか又はより小さいかの決定により、監視を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0010】
他のフィルタリングされた加速度値及び他のフィルタリングされた角速度値を得るために、第2の軸の他の加速度値と、第1及び第2の軸に直交するように配向された車両の第3の軸周りの他の角速度値とを、フィルタ規則を使用してフィルタリングすることができる。
【0011】
他のフィルタリングされた加速度値及び他のフィルタリングされた角速度値は、他の標準化された加速度値及び他の標準化された角速度値を得るために、標準化規則を使用して標準化することができる。他の標準化された加速度値及び他の標準化された角速度値は、停止状態を識別するために、監視規則を使用して監視することができる。多軸観察は、停止状態の識別の確実性を高めることができる。
【0012】
車両の少なくとも1つのホイール回転数を表すホイール回転数値が、ホイール停止状態値よりも小さい場合、停止状態を識別することができる。ホイール回転数によって、停止状態識別を確実にすることができる。
【0013】
車両の制御装置が動作していない場合、停止状態を識別することができる。制御介入によっては、車両の自然な移動が乱されることがあり、これによって誤った識別につながる可能性もあるが、これらのエラー識別は無視することが可能である。
【0014】
この方法は、例えば、ソフトウェア若しくはハードウェアにより、又は、ソフトウェア及びハードウェアの混合形態において、例えば制御装置において実現されてもよい。
【0015】
ここに提示されるアプローチはさらに、ここに提示される方法の変形形態のステップを、対応する装置において実施、制御又は実行に移すように構成されている装置を提供する。装置形態の本発明のこの変形実施例によっても、本発明が基礎とする課題を迅速かつ効果的に解決することができる。
【0016】
この目的のために、この装置は、信号又はデータを処理するための少なくとも1つの計算ユニット、信号又はデータを記憶するための少なくとも1つのメモリユニット、センサからのセンサ信号を読み込むための又はデータ若しくは制御信号をアクチュエータに出力するための、センサ又はアクチュエータに対する少なくとも1つのインタフェース、及び/又は、通信プロトコルに埋め込まれたデータを読み込む又は出力するための少なくとも1つの通信インタフェースを有することができる。計算ユニットは、例えば信号プロセッサ、マイクロコントローラなどであってもよく、この場合、メモリユニットは、フラッシュメモリ、EEPROM又は磁気的メモリユニットであってもよい。通信インタフェースは、データを無線及び/又は有線で読み込み又は出力するように構成されてもよく、この場合、有線データの読み込み又は出力が可能な通信インタフェースは、これらのデータを、例えば対応するデータ伝送路から電気的若しくは光学的に読み込むことができ、又は、対応するデータ伝送路に出力することができる。
【0017】
本願においては、装置とは、複数のセンサ信号を処理し、それに応じて制御信号及び/又はデータ信号を出力する電気的な機器を意味するものと理解されたい。この装置は、ハードウェアベース及び/又はソフトウェアベースで構成されてもよいインタフェースを有することができる。ハードウェアベースの構成の場合、インタフェースは、例えばいわゆるASICシステムの一部であってもよく、これは当該装置の様々な機能を含む。しかしながら、ここでは、インタフェースが固有の集積回路であり、又は、少なくとも部分的に別個の構成要素からなることも可能である。ソフトウェアベースの構成の場合、インタフェースは、例えば他のソフトウェアモジュールに隣接してマイクロコントローラ上に存在するソフトウェアモジュールであってもよい。
【0018】
半導体メモリ、ハードディスクメモリ又は光学メモリなどの機械可読担体又は記憶媒体に記憶させることが可能であり、かつ、前述した実施形態のうちの1つによる方法のステップを実施、実行及び/又は制御するために使用されるプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品又はコンピュータプログラムも、特に、これらのプログラム製品又はプログラムが、コンピュータ又は装置上で実行される場合には有利である。
【0019】
ここに提示されるアプローチの実施例は、図面に示されており、さらに以下の明細書においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施例による車両の停止状態を識別するための装置を有する車両のブロック図。
図2】一実施例による車両の停止状態を識別するための方法のフローチャート。
図3】一実施例による車両の停止状態を識別するためのコンピュータプログラムのフローチャート。
図4】一実施例による車両の停止状態を識別中の信号経過図。
図5】一実施例による車両の停止状態を識別中の信号経過図。
図6】一実施例による車両の停止状態を識別中の信号経過図。
図7】一実施例による車両の停止状態を識別中の信号経過図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の本発明の好ましい実施例の説明において、様々な図面に示され類似的に作用する要素に対しては、同一の又は類似の参照符号が使用され、この場合、これらの要素の説明の繰り返しは省略される。
【0022】
図1は、一実施例による、車両100の停止状態を識別するための装置102を有する車両100のブロック図を示す。車両100は、車両100の3つの軸x,y,zにおける加速度値ax,ay,az及び3つの軸x,y,z周りの角速度値ωx,ωy,ωzを検出するためのセンサ装置104を有する。この場合、これらの3つの軸x,y,zは互いに直交しており、x軸は車両の長手方向を表し、y軸は車両の横方向を表し、z軸は車両の鉛直方向を表し得る。加速度値ax,ay,azは、結果として生じる全加速度のうちの軸x,y,z方向で車両100に瞬間的に作用する加速度成分を表す。角速度値ωx,ωy,ωzは、結果として生じる全角速度のうちの軸x,y,z周りで車両100に瞬間的に作用する角速度成分を表す。
【0023】
センサ装置104の角速度センサは、ドリフトを受けやすい。このドリフトは、補償パラメータによって補償される。補償パラメータは、車両の停止状態の間に決定することができる。
【0024】
停止状態を識別するために、装置102は、少なくとも加速度値axと角速度値ωyを読み込む。フィルタ装置106においては、フィルタ規則108を使用して高周波信号成分が除去される。フィルタリングされた加速度値axfとフィルタリングされた角速度値ωyfとは、標準化装置110において標準化規則112を使用して標準化される。標準化された加速度値axnと標準化された角速度値ωynとは、車両100の停止状態の識別のため、監視装置114において監視規則116を用いて監視される。停止状態が識別されると、停止状態信号118が出力される。停止状態信号118が、センサ装置104によって読み込まれると、補償パラメータが設定される。
【0025】
一実施例においては、さらに、加速度値ayと角速度値ωzとが読み込まれる。フィルタ装置106においては、加速度値ayと角速度値ωzとがフィルタリングされる。標準化装置110においては、フィルタリングされた加速度値ayfとフィルタリングされた角速度値ωzfとが標準化される。監視装置においては、停止状態を識別するために、標準化された加速度値ayn及び標準化された角速度値ωznが監視される。
【0026】
一実施例においては、加速度値ax,ay,azと、代替的又は付加的に角速度値ωx,ωy,ωzとが、フィルタ装置106において、高周波の外れ値を除去するために平均化される。この場合、加速度値ax,ay,az及び角速度値ωx,ωy,ωzは、ならされるべき平均化期間にわたって平均化される。この平均化期間は、可変であってもよい。例えば、平均化期間は、車両100の停止状態又は移動が識別されるかどうかに依存させてもよい。
【0027】
フィルタ装置106においては、加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅を求めることができる。この場合、加速度スパン幅は、観察期間内の加速度値ax,ay,azのうちの1つの分散を示し、それに対して、角速度スパン幅は、観察期間内の角速度値ωx,ωy,ωzのうちの1つの分散を示す。観察期間は平均化期間に対応させることができる。加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅は、移動を識別するために監視装置114において使用され得る。この場合、加速度スパン幅及び/又は角速度スパン幅が限界値よりも大きい場合に移動が識別され得る。
【0028】
一実施例においては、監視装置114によってホイール回転数値120も読み込まれる。ホイール回転数値120は、車両100の複数のホイールのうちの少なくとも1つのホイール回転数を表す。停止状態は、これらのホイールが停止しているときに、識別され得る。
【0029】
換言すれば、動的検出装置114を用いた車両停止状態識別が提示される。
【0030】
停止状態識別は、ESPによって行うことができ、ホイール信号120、ヨーレート、及び、制御装置の状態フラグに基づかせることができる。
【0031】
慣性センサ104を用いた車両の高精度な測位のためには、高品質のセンサ信号が必要になる。角速度センサのオフセットは、停止状態の間に補償調整することができる。ここでは、停止状態の間は信号の高い動特性が発生しない点が重要である。なぜなら、このことはオフセットの補償調整に悪影響を及ぼすからである。
【0032】
ここに提示される停止状態識別は、そのような停止状態の間の信号ax,ay,az,ωx,ωy,ωzの動特性を最小にするために、ホイール速度120の他に、付加的に3つの加速度ax,ay,az及び3つの角速度信号ωx,ωy,ωzを使用する。
【0033】
特に発進運動と減速運動の際に相互に強く相関している加速度信号ax,ay,az及び角速度信号ωx,ωy,ωzの適当な組合せによって、アルゴリズムの感度は高められる。例えば、加速度axは、角速度ωyと強く相関し、加速度ayは角速度ωzと強く相関する。これらのいわゆる動的検出装置114は、車両100の発進がより迅速に検出されかつ制動過程の際には早過ぎずに停止状態に切り替えられるようにアルゴリズムの性能を改善する。
【0034】
アルゴリズム自体は主に、角速度オフセットの推定の際のセンサ信号ax,ay,az、ωx,ωy,ωzの補償調整に用いられる。ここに提示されるアプローチは、車両モーションポジションセンサ(VMPS)104用に使用され得る。
【0035】
axとωy用の動的検出装置114の場合、x方向の加速度axの変化と、y軸周りの角速度ωyの変化とが監視される。2つの信号ax,ωyを適当に組み合わせることによって、アルゴリズムの感度を高めることができる。2つの信号ax,ωyの組合せに対しては最初にこれらの信号ax,ωyが標準化される。x軸に沿った加速度の標準化された変化Δax,normと、y軸周りの角速度の標準化された変化Δωy,normとの合計が定められた限界値よりも小さい場合に、車両の停止状態が識別される。この場合、パラメータ化の際の課題は、特に、高周波の外れ値の影響を低減することにあるが、それでもなお例えば緩慢な発進によって生じる小さな動的影響を検出することにある。この目的のために、2つの信号ax,ωyは、最初に高周波障害成分の影響を低減するために期間tmov,dynにわたって平均化され、次いで標準化される。
【0036】
標準化係数については、各信号のノイズに対して4σの値が仕様から適用された。明らかにこれは正規分布では95.45%がこの範囲内にあることを意味する。この95.45%の確率で、停止状態の間の標準化された値は1未満である。1よりも大きい値は、信号中の動特性が高いことを示唆する。平均値フィルタはノイズ抑圧のために使用されるので、4σの値は、それがフィルタリングされた信号の標準偏差に対応するように修正され得る。平均値フィルタリングされた信号の標準偏差は、σ=σ/√nによって計算することができる。
【0037】
ay及びωz用の動的検出装置114の場合は、先の条件と同様に、y方向の加速度ayの変化及びz軸周りの角速度ωzの変化に対する監視が行われる。加速度の標準化された変化は、Δay,normによって表され、z軸周りの角速度の標準化された変化は、Δωz,normによって表される。
【0038】
一実施例においては、停止状態における加速度のスパン幅が、限界値を使用して監視される。この条件は、動的検出装置114に対して付加的に、車両100の緩慢な発進の適時識別を意図するものである。この目的のために、axとayに対する最大値と最小値は、停止状態の間に求められる。ここでも高周波の外れ値の影響を低減するために、これらの信号は最初に期間tmov,driftにわたって平均化される。2つの信号ax,range及びay,rangeのうちの1つのスパン幅又はレンジ(max−min)が、定められた限界値を上回ると直ちに、最低時間tmindの停止状態が解除される。これにより、動的検出装置114が緩慢な発進をまだ識別せず依然として停止状態を知らせているためすぐに再び停止状態に切り替わることがないように保証されるべきである。ここでは、加速度信号ax,ayのオフセットドリフトは、この限界値と比較して無視することができるほどに小さいことも述べられるべきであろう。
【0039】
一実施例においては、停止状態における角速度のスパン幅が限界値を使用して監視される。先の条件と同様に、停止状態は、3つのスパン幅ωx,range、ωy,range、又は、ωz,rangeのうちの1つが、定められた限界値を上回った場合に解除される。
【0040】
ホイール速度120vradも、限界値を使用して監視される。車両の停止状態は、例えばホイール速度120がゼロに相当する場合に識別される。
【0041】
停止状態は、制御装置がアクティブでない場合に識別される。いわゆる状態フラグを使用すれば、例えばABSなどの制御装置がアクティブでないことが保証される。
【0042】
図2は、一実施例による車両の停止状態を識別するための方法のフローチャートを示す。この方法は、例えば図1に示されているような装置上で実施され得る。この方法は、フィルタリングするステップ200と、標準化するステップ202と、監視するステップ204とを含む。フィルタリングするステップ200においては、フィルタリングされた加速度値及びフィルタリングされた角速度値を得るために、車両の第1の軸における加速度値と、当該軸に直交するように配向された車両の第2の軸周りの角速度値とが、フィルタ規則を使用してフィルタリングされる。標準化するステップ202においては、標準化された加速度値及び標準化された角速度値を得るために、フィルタリングされた加速度値と、フィルタリングされた角速度値とが、標準化規則を使用して標準化される。監視するステップ204においては、停止状態を識別するために、標準化された加速度値と標準化された角速度値とが、監視規則を使用して監視される。
【0043】
図3は、一実施例による車両の停止状態を識別するためのコンピュータプログラムのフローチャートを示す。このコンピュータプログラムは、例えば、図1に示されているような装置上で実行することができる。このコンピュータプログラムは、図2に示されている識別するための方法の一実施例を表す。特にここでは、監視するステップが示されている。プログラム開始300の後、第1の試問302が実施される。第1の試問302においては、x軸の加速度値の変化の絶対値と、y軸周りの角速度値の変化の絶対値との和が、2よりも小さいかどうかが、以下の関係式、
|Δαx,norn|+|Δωy,norn|<2
に従って検査される。
【0044】
さらに、y軸の加速度値の変化の絶対値と、z軸周りの角速度値の変化の絶対値との和が、2よりも小さいかどうかが、以下の関係式、
|Δαy,norn|+|Δωz,norn|<2
に従って検査される。
【0045】
条件が満たされていない場合には、第1の動作304において、条件マーカーが未充足もしくゼロに設定される。第1の試問302の条件が満たされている場合には、第2の試問306において、最低持続時間の条件が満たされるかどうかが検査される。特に、第2の試問306においては、少なくとも300ミリ秒[ms]の条件が満たされるかどうかが検査される。満たされていない場合には、第1の動作304において、条件マーカーも同様に未充足もしくゼロに設定される。少なくとも最低持続時間の条件が満たされる場合には、第1の動作304において、条件マーカーは、充足又は1に設定される。
【0046】
続いて、第3の試問308において、条件マーカーが、充足又は1に設定されていて、さらに付加的にホイール速度がゼロに等しいかどうかが、以下の関係式、
νRad=0m/s
に従って検査される。
【0047】
これが満たされていない場合には、第2の動作310において、停止状態フラグが未充足又はゼロに設定される。条件マーカーが、充足又は1に設定されていて、さらに付加的にホイール速度がゼロに等しい場合には、第4の試問312において、最低持続時間の条件が満たされるかどうかが検査される。特に、第4の試問312においては、少なくとも300msの条件が満たされるかどうかが検査される。満たされていない場合には、第2の動作310において、静止状態フラグも同様に未充足もしくゼロに設定される。少なくとも最低持続時間の条件が満たされる場合には、第2の動作310において、静止状態フラグは、充足又は1に設定される。
【0048】
第5の試問314においては、停止状態フラグが充足又は1に設定されているかどうかが検査される。これが満たされている場合には、並行して2つの他の試問316,318が実施される。第6の試問316においては、全ての軸における角速度スパン幅が角速度スパン幅限界値よりも小さいかどうかが検査される。特に、角速度スパン幅が0.007rad/sよりも小さいかどうかが、以下の関係式、
ωx,range<0.007rad/s
ωy,range<0.007rad/s
ωz,range<0.007rad/s
のように検査される。
【0049】
第7の試問318においては、x軸及びy軸の加速度スパン幅が加速度スパン幅限界値よりも小さいかどうかが検査される。特に、加速度スパン幅が0.125m/sよりも小さいかどうかが、以下の関係式、
αx,range<0.125m/s
αy,range<0.125m/s
のように検査される。
【0050】
複数の角速度スパン幅のうちの少なくとも1つが角速度スパン幅限界値よりも大きい場合、及び/又は、複数の加速度スパン幅のうちの少なくとも1つが加速度スパン限界値よりも大きい場合には、第3の動作320において、ドリフトフラグが充足又は1に設定され、この場合、停止状態フラグは、未充足又はゼロに設定される。
【0051】
第5の試問314の後、停止状態フラグが未充足又はゼロに設定されている場合には、第8の試問322において、ドリフトフラグが充足又は1に設定されているかどうかが検査される。ドリフトフラグが未充足又はゼロに設定されている場合には、プログラム終了324に進む。ドリフトフラグが充足又は1に設定されている場合には、第9の試問326において、最低持続時間のドリフトフラグが充足又は1に設定されているかどうかが検査される。特に、第9の試問326においては、1000msのドリフトフラグが充足又は1に設定されているかどうかが検査される。1000msのドリフトフラグが充足又は1に設定されている限り、第4の動作328において、停止状態フラグが未充足又はゼロに設定される。続いて、プログラム終了324に進む。1000msを超えるドリフトフラグが充足又は1に設定されている場合には、第5の動作330において、ドリフトフラグが未充足又はゼロに設定される。続いてプログラム終了324に進む。
【0052】
図4乃至図7は、一実施例による車両の停止状態を識別している間の信号経過を示す図である。図4乃至図6には、異なる軸の角速度値のスパン幅400,500,600が複数の測定にわたってプロットされている。この場合、これらのスパン幅400,500,600は、軸毎に1つの線図にプロットされている。各線図は、横座標に連続する測定数を有し、縦座標には毎秒当たりの角速度の度数[°/s]がプロットされている。
【0053】
図4には、y軸周りの角速度スパン幅400が示されている。図5には、x軸周りの角速度スパン幅500が示されている。図6には、z軸周りの角速度スパン幅600が示されている。ここに提示されたアプローチを使用する場合、多くの測定にわたって著しく低減されたスパン幅400,500,600が結果として生じる。
【0054】
図7には、従来方式のアプローチと、ここに提示されたアプローチとの間の静止状態識別の比較が示されている。この目的のために、4つの時系列的に相関した図で信号経過700,702,704,706が示されている。第1の信号経過700は加速度値axを示し、第2の信号経過702は角速度値ωyを示し、第3の信号経過704はバイナリ停止状態フラグを示し、第4の信号経過706は角速度値ωyを示す。この場合、信号経過700,702,704は、従来方式のアプローチに基づいている。第4の信号波形706は、ここに提示されたアプローチに基づいている。
【0055】
換言すれば、図4乃至図7は、ESPベースのアプローチと、ここに提示された動的検出装置を用いた停止状態識別との間の信号比較を示す。ここでは、2つのアルゴリズムの比較のために、61回の実際の測定走行が使用され、実験車両として、慣性センサシステムMM7を備えたVWゴルフが使用された。
【0056】
図4乃至図6のグラフは、識別された停止状態の間の最大信号値と最小信号値との間の差分を示す。
【0057】
図7には、測定走行の代表的なリストが示されている。
【0058】
信号経過700は、ESP停止状態アルゴリズムでマスキングされた加速度axを表す。信号経過702は、ESP停止状態アルゴリズムでマスキングされた角速度ωyを表す。信号経過704は、ESP停止状態信号を表す。この場合、「1」は停止状態を表し、「0」は車両停止状態ではないことを表す。
【0059】
信号経過706は、ここに提示された動的検出装置による停止状態識別でマスキングされた角速度ωyを表す。ここで目立つのは、角速度ωyと、加速度axとの間の相関である。ESPアプローチにおいては、停止状態の識別は早過ぎ、緩慢な発進の識別は遅すぎる。それに比べて、ここに提示された動的検出装置による静止状態識別は、著しく優れた性能を示す。
【0060】
一実施例が、第1の特徴と第2の特徴との間で「及び/又は」結合を含む場合には、このことは、当該実施例が、一実施形態に従って第1の特徴も第2の特徴も含み、かつ、他の実施形態に従って第1の特徴のみ又は第2の特徴のみを含むように解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7