(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6707730
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】物性測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/60 20060101AFI20200601BHJP
G01R 29/12 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
G01N27/60 A
G01R29/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-53364(P2016-53364)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-167011(P2017-167011A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトの掲載 掲載日 平成27年9月17日 アドレス http://www.iesj.org/html/academic/academic_links/2015/zenkoku_abst/zenkoku_abst2015.pdf (2)論文の配布 静電気学会講演論文集2015 配布日 平成27年9月24日 配布場所 首都大学東京 南大沢キャンパス (3)学会で公開 第39回静電気学会全国大会 公開日 平成27年9月25日 公開場所 首都大学東京 南大沢キャンパス
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】野村 信雄
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−071330(JP,A)
【文献】
特開2001−183877(JP,A)
【文献】
特開2004−093503(JP,A)
【文献】
特開2002−156360(JP,A)
【文献】
特開2012−048076(JP,A)
【文献】
特開2005−058998(JP,A)
【文献】
特開2010−190815(JP,A)
【文献】
特開2015−127665(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0068716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60
G01R 29/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象にイオンを照射する放電電極と、上記測定対象の表面電位を測定する表面電位センサとを備え、
上記測定対象の特定の部位に、上記放電電極によって生成されるイオンを照射しながら、上記特定の部位の表面電位を上記表面電位センサで測定する物性測定方法であって、上記表面電位センサと上記放電電極との間に、上記放電電極が形成する電界が上記表面電位センサに直接影響を及ぼさないよう、上記放電電極からの電界を遮断し得る位置に、シールド電極を設けた物性測定方法。
【請求項2】
上記表面電位センサで上記特定の部位の表面電位を繰り返し測定する請求項1に記載の物性測定方法。
【請求項3】
上記特定の部位にイオンを照射する前に、上記測定対象を除電する請求項1又は2に記載の物性測定方法
【請求項4】
上記測定対象が塗膜である請求項1〜3のいずれか1に記載の物性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非接触で測定対象の物性を測定する物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物体の物性を測定するために、非接触式の表面電位センサが用いられることがあった。
例えば、特許文献1に記載の物性測定装置は、
図3に示すように、帯電装置1と非接触式の表面電位センサ2とを組み合わせたものである。帯電装置1は、放電電極3と多孔電極板4とを備え、表面電位センサ2は、検出電極板5、計測回路6、及び演算部7を備え、それぞれ電源8に接続されている。
この測定装置では、上記測定対象9の表面の照射領域aに、上記帯電装置1の放電電極3を対向させるとともに、この照射領域aから所定の距離離れた測定領域bに上記表面電位センサ2の検出電極板5を対向させている。この検出電極板5には、対向する測定領域bの表面電位に応じて電荷が誘導される。この検出電極板5に誘導された電荷を計測回路6が計測し、その電荷量から演算部7が測定対象9の表面電位を算出する。
【0003】
そして、
図3の測定装置を用いて測定対象9の物性を測定する際には、帯電装置1によって上記照射領域aにイオンを照射し、その過程における測定領域bの表面電位の変化を、上記表面電位センサ2で検出するようにしている。帯電装置1から上記照射領域aにイオンが照射されると、その電荷は電流として測定対象9の表面に沿って照射領域aから外方へ拡散する。このイオンが測定領域bに到達すれば、測定領域bの表面電位が変化する。したがって、上記測定領域bの表面電位の変化を検出すれば、上記照射領域aから測定領域bまでの電荷の流れ方が分かり、測定対象9の電気的な表面抵抗を検出できることになる。つまり、測定対象9の物性である表面抵抗を測定できる。また、表面抵抗のほかにも、この表面抵抗に関連する他の物性を検出することもできる。
【0004】
例えば、樹脂塗料は、液体状態では導電性であるが、乾燥によって固化すると絶縁性になるものが多い。このような塗膜を測定対象9とすると、この測定対象9は硬化度によって電気抵抗が変化する。そこで、上記従来の物性測定装置で、測定対象9の測定領域bの表面電位の変化に基づいて表面抵抗を検出すれば、この表面抵抗から塗膜の硬化度、あるいは乾燥度を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−127665号公報
【特許文献2】特開2010−190815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の物性測定装置は、測定対象9の表面に沿って流れる電荷量の変化によって、上記測定対象9の物性を測定するものである。このような装置で測定する上記測定対象9がアースされた金属製など導電性のベースに接触しているような場合には、測定対象9の表面抵抗などの物性を測定することができないことがあった。
なぜなら、ベースが導電性でしかも測定対象9の電気抵抗が小さい場合には、上記帯電装置1から測定対象9に照射されたイオンが上記照射領域aから金属製のベースへ流れてしまい、測定領域bまで到達しないからである。このような場合に、上記従来の物性測定装置では、測定領域bの表面電位の変化が測定できないため、測定対象9の物性を測定することもできなかった。
【0007】
例えば、アースされた金属ベースに塗布した塗膜の場合、塗布直後の塗膜は溶媒を多く含むために体積抵抗が低く、このような塗布直後の塗膜に照射されたイオンは、塗膜表面から導電性の金属ベースを介してアースへ流れてしまう。そのため、この塗膜における測定領域bの表面電位は変化しない。そのため、上記従来の測定装置では、表面電位の変化を測定できない。塗膜の硬化が進み、塗膜の体積抵抗が十分に大きくなると、照射イオンは塗膜の表面に沿って拡散するので、測定領域bの表面電位は変動し、上記従来の物性測定装置によっても上記測定領域bの表面電位の変化を測定できる。したがって、上記従来の装置では、導電性のベース上に塗布された塗膜の場合、塗布直後の塗膜の硬化度や、その硬化の過程を測定することはできなかった。
【0008】
この発明の目的は、測定対象が、アースされた金属板など導電性のベース上に接触している場合であっても、その電気的な物性を測定できる物性測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、測定対象にイオンを照射する放電電極と、上記測定対象の表面電位を測定する表面電位センサとを備え、上記測定対象の特定の部位に、上記放電電極によって生成されるイオンを照射しながら、上記特定の部位の表面電位を上記表面電位センサで測定する
物性測定方法であって、上記表面電位センサと上記放電電極との間に、上記放電電極が形成する電界が上記表面電位センサに直接影響を及ぼさないよう、上記放電電極からの電界を遮断し得る位置に、シールド電極を設けたことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、上記表面電位センサで上記特定の部位の表面電位を繰り返し測定することを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、上記特定の部位にイオンを照射する前に、上記測定対象を除電することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、上記測定対象が塗膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明では、測定対象の特定の部位にイオンを照射しながらその部位の表面電位を測定するので、照射されたイオンが測定対象からベースへ流れたとしても、表面電位センサは、流れたイオンによる電流と測定対象の体積抵抗とに応じた表面電位を測定できる。
したがって、表面電位センサの検出値に基づいて、測定対象の体積抵抗や、体積抵抗に関連する物性を測定することができる。
しかも、表面電位センサに対する放電電極からの電界を遮断するようにシールド電極を設けているので、高電圧を印加された放電電極が形成する電界の影響が、直接、表面電位センサに及ばないようにできる。その結果、より正確な物性測定ができる。
【0015】
第2の発明によれば、イオン照射されている特定の部位の表面電位の時間的変化に基づいて、測定対象の物性の経時変化を測定することができる。例えば、塗装直後から、乾燥によって硬化する塗膜の硬化度の変化を測定することもできる。
【0016】
第3の発明によれば、物性測定を開始する前の帯電や、前回の測定時に照射したイオンの影響を受けずに、測定対象の物性を測定できる。測定対象が帯電していると、放電電極と測定対象との間の電位差が小さくなるので、放電状態が変化して、測定対象に対するイオンの照射量も変わってしまう可能性がある。イオンの照射量が変われば、測定対象を流れる電流値が変わり、正確な物性測定ができないことになるが、測定開始前に除電をすれば、正確な物性測定ができる。
【0017】
第4の発明によれば、表面電位センサの測定値に基づいて、塗膜の硬化度を測定することができる。この発明の測定方法では、アースされたベースに塗布された塗膜であっても、塗布直後の抵抗が低い状態から硬化過程を確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1,2を用いて、この発明の一実施形態を説明する。
この実施形態では、金属製のベース10上に塗布された塗膜を測定対象9とし、その硬化度を測定する。なお、上記測定対象9は塗布直後の塗膜で、その体積抵抗値は低いことが想定される。
また、
図1において測定対象9の厚みとベース10の厚みとを同等に表しているが、塗膜である測定対象9の厚みは数十〔μm〕程度であり、ベース10よりも薄い場合が多い。
【0021】
この実施形態に用いる測定装置は、
図1に示すようにイオン照射機構11と表面電位センサ12とを備えている。
イオン照射機構11には、高電圧電源に接続された針状の放電電極13が設けられ、この放電電極13に高電圧を印加すると、先端に生成されたイオンが、測定対象9上のイオン照射領域Aに照射される。
【0022】
また、表面電位センサ12は、
図3に示す従来の表面電位センサ2と同様に一般的な表面電位センサである。
つまり、ケーシング内に、図示しない検出窓を介して上記測定対象9と対向する位置に検出電極板14を保持している。この検出電極板14に誘導される電荷量に基づいて表面電位を検出する。
ただし、この実施形態において上記検出電極板14は、上記測定対象9上の上記イオン照射領域Aに対向して設けられている。つまり、このイオン照射領域Aが、この発明の特定の部位であり、この部位の表面電位を表面電位センサ12で測定することになる。
【0023】
また、上記放電電極13の先端と、表面電位センサ12の検出電極板14との間には、シールド電極15を設けている。このシールド電極15は、アースされた金属製の丸棒からなる。このようなシールド電極15を設けたのは、上記放電電極13が形成する電界が、直接上記検出電極14に入って、表面電位の測定に影響しないようにするためである。シールド電極15を設けることによって、上記電界が表面電位の測定に与える影響を小さくすることができる。したがって、表面電位センサ12が、より正確に測定対象9の電位を測定できることになる。
【0024】
さらに、この第1実施形態では、上記表面電位センサ12とは別の第2の表面電位センサ16を備えている。この表面電位センサ16は、上記測定対象9の表面上で、イオン照射領域Aから所定の距離離れた測定領域Bに検出電極板17を対向させたセンサである。
第2の表面電位センサ16と上記第1の表面電位センサ12とは、同じ検出原理を利用したものである。
【0025】
このような測定装置を用いて、測定対象9の硬化度を求める方法を説明する。
上記放電電極13に高電圧を印加してイオン照射領域Aにイオンを照射する。このとき、2つの表面電位センサ12,16はどちらも作動させておく。
上記放電電極13からイオン照射領域Aにイオンが照射されると、そのイオンは測定対象9の厚み方向に移動してアースへ流れる。
上記イオン照射領域Aにイオンを照射し続けると、
図2に示すように測定対象9の厚み方向に電流Iが流れることになる。この電流Iは、放電電極13の放電条件に応じて飽和する電流である。なお、
図2では、導電性のベース10を省略し、測定対象9の厚みを厚く表わしている。
【0026】
このように、上記イオン照射領域Aに照射したイオンが電流Iとして流れると、イオン照射領域Aの表面電位Vは、上記電流Iと測定対象9の体積抵抗Rとの積であるV=I・Rとなり、この表面電位Vが上記第1の表面電位センサ12で測定される。
したがって、表面電位センサ12で測定された表面電位Vから、測定対象9の体積抵抗Rを検出することができる。また、体積抵抗Rから塗膜の硬化度を検出することもできる。
上記のように、測定対象9の表面における特定のイオン照射領域Aにイオンを照射しながらその部位である上記イオン照射領域Aの表面電位を測定することによって、塗布直後の塗膜のように従来の物性測定装置では測定できなかった測定対象9の物性を測定することができる。
【0027】
また、塗料の塗布後一定時間ごとに、塗膜である測定対象9へのイオン照射と表面電位測定とを繰り返せば、表面電位Vの変化から体積抵抗Rの変化や、そのときの塗膜の硬化度を検出することもできる。
なお、塗膜の硬化度を測定するためには、塗膜の体積抵抗Rと硬化度との対応テーブルを、塗料の種類ごとにあらかじめ作成しておく必要がある。このテーブルを用いて、測定された体積抵抗Rから塗膜の硬化度を特定することができる。そして、上記表面電位センサ12に、対応テーブルを記憶させた演算部を備えれば、この測定装置から演算部が特定した硬化度を出力することができる。
【0028】
また、上記測定方法においてイオン照射を行なう前に、測定対象9の表面を除電する工程を付加するようにすれば、より正確な測定が可能になる。
もし、測定対象9の表面が、先のイオン照射によって帯電した状態を放置したままにしておくと、イオン照射前の放電電極13とイオン照射領域Aとの間の電位差が、先の測定時から変化してしまう。上記放電電極13とイオン照射領域Aとの間の電位差が異なれば、それが原因で放電状態が変化してしまう可能性もある。例えば、イオン照射領域Aの表面電位が高くなって、放電電極13との間の電位差が通常よりも小さくなっていた場合には、放電が起こりにくくなり、放電が不安定になってしまう。放電状態が変化すれば、上記電流Iも変わって、体積抵抗Rの測定値にも誤差が生じてしまうが、上記のようにイオン照射前に除電を実施すれば、測定精度が上がる。
【0029】
さらに、塗膜の硬化度が高くなって、測定対象9の体積抵抗Rが絶縁体と見なせるほど大きくなった場合には、第2の表面電位センサ16を用いて上記測定領域Bの表面電位を測定するようにしている。
このように、塗膜の硬化度が高くなったときには第2の表面電位センサ16を用いるようにしたのは、塗膜の測定対象9の体積抵抗Rが大きくなると、上記表面電位センサ12を用いた上記の方法では、測定できないことがあるためである。
【0030】
測定対象9の体積抵抗Rが絶縁体と見なされるほど大きくなると、イオン照射領域Aへ照射されたイオンは、直ちにアースへ流れることにはならない。そのため、イオンを照射し続けているイオン照射領域Aの表面電位は非常に高くなり、上記表面電位センサ12の測定限界を超えてしまうことがある。
【0031】
一方、第2の表面電位センサ16では、塗装直後の塗膜のように測定対象9の抵抗Rが低い場合には、測定領域Bの表面電位測定はできない。上記体積抵抗Rが低い場合には、上記イオン照射領域Aに照射されたイオンは直ちにアースへ流れてしまうので、上記イオン照射領域Aから離れた位置にある測定領域Bまで到達するイオンはほとんどないからである。
ところが、塗膜が硬化して測定対象9が絶縁体となった場合には、照射領域Aに照射されたイオンは測定対象9の表面に沿って広がり、上記測定領域Bに達して測定領域Bの表面電位を変化させる。この表面電位の変化を、第2の表面電位センサ16で測定すれば、測定対象9の表面抵抗が測定でき、塗膜の硬化度も測定できることになる。
【0032】
したがって、一定時間ごとに測定を繰り返して塗膜の硬化度の変化を測定する際に、塗布直後からある程度硬化するまでは、上記イオン照射領域Aの表面電位を測定し、上記抵抗Rが大きくなったら、第2の表面電位センサ16で測定領域Bの表面電位を測定するようにすれば、塗布直後から塗料が完全に硬化するまで硬化度の変化を連続的に確認することもできる。
【0033】
なお、上記実施形態では、表面電位センサ12と放電電極13との間にシールド電極15を設けて、上記表面電位センサ12が、放電電極13で形成される電界を直接検出しないようにしている
。
なお、シールド電極15の構成
は、上記丸棒状のものに限らず、例えば板状のものでもよい。ただし、尖端部があると、その部分で放電しやすくなるため、シールド電極15としては丸棒のように尖端部を持たない形状が好ましい。
さらに、放電電極13の構成も針状に限らず、特定のイオン照射領域Aにイオン照射ができればどのようなものでもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
金属製の部品の塗装現場において、塗膜の乾燥状態を確認する際に有用である。
【符号の説明】
【0035】
9 測定対象
11 イオン照射機構
12 表面電位センサ
13 放電電極
14 検出電極板
15 シールド電極
A (特定の部位)イオン照射領域