特許第6707746号(P6707746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6707746潤滑剤供給装置及びこの潤滑剤供給装置を有する成形加工装置並びにこれを用いた成形加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6707746
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】潤滑剤供給装置及びこの潤滑剤供給装置を有する成形加工装置並びにこれを用いた成形加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 3/00 20060101AFI20200601BHJP
   B21J 5/06 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   B21J3/00
   !B21J5/06 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-220930(P2019-220930)
(22)【出願日】2019年12月6日
【審査請求日】2019年12月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510042301
【氏名又は名称】株式会社田中製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】小畑 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 道男
(72)【発明者】
【氏名】大旗 泰之
(72)【発明者】
【氏名】塚根 亮
(72)【発明者】
【氏名】玉井 博康
(72)【発明者】
【氏名】今岡 睦明
(72)【発明者】
【氏名】松田 知子
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
(72)【発明者】
【氏名】木下 大
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−207396(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/078133(WO,A1)
【文献】 特開平01−215427(JP,A)
【文献】 特開平04−294837(JP,A)
【文献】 特公昭41−014732(JP,B1)
【文献】 特開平03−297531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/00 − 13/14
B21J 17/00 − 19/04
B21K 1/00 − 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成形材を成形用金型のダイスキャビティーに搬送して載置するための被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段と、
成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段と、
成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具を備えるダイスキャビティー浄化手段と、
からなる潤滑剤供給装置。
【請求項2】
被成形材を載置するための所定形状のキャビティーを有するダイスと、前記ダイスに対向して配置され、前記キャビティーに載置された前記被成形材に衝突させることにより該被成形材を塑性変形させるパンチからなる成形用金型と、
被成形材を成形用金型のダイスキャビティーに搬送して載置するための被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段と、成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段と、成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具を備えるダイスキャビティー浄化手段と、からなる潤滑剤供給装置と、
を設けた有底容器形状体のプレス加工装置。
【請求項3】
成形加工時の前記ダイスの摩擦係数(μD)と前記パンチの摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μP、である請求項2に記載する有底容器形状体のプレス加工装置。
【請求項4】
所定形状のキャビティーを有するダイスに被成形材を載置する被成形材載置工程、
載置された被成形素材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給工程、
潤滑剤を滴下された被成形材をダイスに対向して配置されたパンチを衝突させることにより、被成形素材を塑性変形させて有底容器形状体に成形する成形加工工程、
前記有底容器形状体をダイスキャビティーから取り出す加工品取出工程、
エアノズルを設けた浄化治具によりダイスキャビティーを浄化する浄化工程、
からなる有底容器形状体のプレス加工方法。
【請求項5】
潤滑剤供給工程は、成形用金型のダイス内に載置された被加工材の中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段により、前記ダイスの摩擦係数(μD)と前記パンチの摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μPとなるように制御される請求項4に記載する有底容器形状体のプレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、インパクト成形により有底容器形状体を高精度に成形するため、成形用金型のダイスキャビティーに載置した板状被成形材(スラブ)のみに潤滑剤を供給するための潤滑剤供給装置及びこの潤滑剤供給装置を有する成形加工装置並びにこれを用いた成形加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インパクト成形法は、板状被成形材(スラブ)にパンチで衝撃(インパクト)を与え、スラブがパンチに沿って伸び上がってくることを利用して有底容器形状体を一工程で成形できる後方押出し鍛造加工法である。インパクト成形法により成形される有底容器形状体は、CPUケース、リチウムイオン電池ケース、車載ライトカバー、コーン一体化スピーカー等に広く使用されている。
近年では、自動走行車両の実用化に向け、自動走行・自動駐車システムを実現するためのキーデバイスの一つとしてクリアランスソナーの車載個数が上昇し、クリアランスソナーの急速な市場拡大が見込まれている。
クリアランスソナーを構成する圧電セラミック、吸音材、ダンパー等は金属製のソナーケースに収納されている。ソナーケースは、肉厚の異なる複雑形状の有底容器形状体であり、圧電セラミックを載置する容器底部は、0.01mm以下レベルの寸法精度と平滑性、素材強度が要求される。
また、インパクト成形法ではパンチの押圧により底部側から側壁部側にパンチの押圧方向と反対方向へ供給されるスラグ材の供給量の制御をすることが重要である。このようなスラグ材の供給量の制御は、インパクト成形時のダイスとパンチの摩擦係数を適切に制御する必要があり、摩擦係数を制御するためのインパクト成形金型への高精度の潤滑剤供給手段が求められている。
【0003】
特許文献1には、成形孔内周面に潤滑剤を付着させない状態となるように予め噴霧圧力を調整した噴霧角度を有するスプレイノズルから潤滑剤を噴霧して、潤滑剤を塗布することによりパンチの成形面に鍛造不良を発生させる以上の潤滑剤の付着を抑えて潤滑剤の打ち込み・ダレ等の不良の発生を抑えた鍛造成形品の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ワーク(被成形素材)を予め加熱した後、水性潤滑剤をワークに噴霧して乾燥して潤滑剤皮膜とすることで、ワークに対して冷間鍛造加工を行う際の焼付きや欠肉が発生することを回避する冷間鍛造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、絞り加工が成される素材に噴霧塗布手段により噴霧された加工油をガイド手段により噴霧された加工油を均一に塗布することにより焼付きや欠肉が発生することを回避する加工油塗布装置及びこの塗布装置を有するプレス加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−114140号公報
【特許文献2】特開2009−190052号公報
【特許文献3】特開2004−314106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、成形用金型のダイスキャビティーに載置した被成形材(スラブ)の上面中央のみに潤滑剤を供給することにより、インパクト成形金型のパンチ及びダイス表面に形成される潤滑油被膜厚みを制御して、寸法精度が高く、平滑性に優れる有底容器形状体をインパクト成形法により成形できる潤滑剤塗布装置及びこの潤滑剤供給装置を有する成形加工装置並びにこれを用いた成形加工方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の課題は、以下の態様により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) 被成形材を成形用金型のダイスキャビティーに搬送して載置するための被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段と、成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段と、成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具を備えるダイスキャビティー浄化手段と、からなる潤滑剤供給装置である。
成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段により、被成形材の上面中央部のみに微量の潤滑剤を高精度で滴下でき、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形素材の流動性を制御することができる。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなるからである。
【0010】
(態様2) 被成形材を載置するための所定形状のキャビティーを有するダイスと、前記ダイスに対向して配置され、前記キャビティーに載置された前記被成形材に衝突させることにより該被成形材を塑性変形させるパンチからなる成形用金型と、被成形材を成形用金型のダイスキャビティーに搬送して載置するための被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段と、成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段と、成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具を備えるダイスキャビティー浄化手段と、からなる潤滑剤供給装置と、を設けた有底容器形状体のプレス加工装置である。
インパクト成形金型を制動する機構、潤滑剤塗布装置を付与することで有底容器形状体のインパクト成形装置として構成される。
【0011】
(態様3) 成形加工時の前記ダイスの摩擦係数(μD)と前記パンチの摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μP、である(態様2)に記載する有底容器形状体のプレス加工装置である。
被成形素材のダイス表面における摩擦力をパンチ表面における摩擦力より大きくすることで、ダイス側の被成形素材の流動性がパンチ側に比べて抑制され、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形素材の流動性を制御することができる。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなるからである。
また、ダイス側の被成形素材の流動性がパンチ側に比べて抑制される。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなるからである。
【0012】
(態様4) 所定形状のキャビティーを有するダイスに被成形材を載置する被成形素材載置工程、載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給工程、潤滑剤を滴下された被成形材をダイスに対向して配置されたパンチを衝突させることにより、被成形材を塑性変形させて有底容器形状体に成形する成形加工工程、前記有底容器形状体をダイスキャビティーから取り出す加工品取出工程、エアノズルを設けた浄化治具によりダイスキャビティーを浄化する浄化工程、からなる有底容器形状体のプレス加工方法である。
成形加工工程において、載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給工程、潤滑剤を滴下された被成形材をダイスに対向して配置されたパンチを衝突させることにより、被成形材を塑性変形させて有底容器形状体に成形する際に、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形素材の流動性を制御することができる。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなり、寸法精度が高く、底面平滑性に優れる有底容器形状体のプレス加工方法を提供できるからである。
【0013】
(態様5) 潤滑剤供給工程は、成形用金型のダイス内に載置された被加工材の中央部のみに潤滑剤を滴下するために位置制御された潤滑剤滴下用精密ニードルからなる潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御するプランジャー方式のディスペンサポンプからなる供給制御機構を備える潤滑剤供給手段により、前記ダイスの摩擦係数(μD)と前記パンチの摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μPとなるように制御される(態様4)に記載する有底容器形状体のプレス加工方法である。
被成形素材のダイス表面における摩擦力をパンチ表面における摩擦力より大きくすることで、ダイス側の被成形素材の流動性がパンチ側に比べて抑制され、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形素材の流動性を制御することができる。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなるからである。
また、ダイス側の被成形素材の流動性がパンチ側に比べて抑制される。これにより、容器側壁と底面との交差部への被成形素材の供給による充填が十分に行われ、容器側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなるからである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、成形用金型のダイスキャビティーに載置した被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を供給することにより、インパクト成形金型のパンチ及びダイス表面に形成される潤滑油被膜厚みがパンチ表面の方が厚くなるように制御できる。これにより、インパクト成形金型のダイスの摩擦係数(μD)をパンチの摩擦係数(μP)より大きくでき、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形材の流動性を制御することができる。このため、有底容器形状体の容器肉厚部側壁と底面との交差部への被成形材の供給による充填が十分に行われ、容器肉厚部側壁と底面との交差部における欠肉が発生しなくなる。
本願発明により、インパクト成形が困難とされている、寸法精度が高く、平滑性に優れる有底容器形状体をインパクト成形法により加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本願発明の潤滑剤供給装置の構成要素の配置の1の態様を示す平面模式図である。
図2】本願発明の潤滑剤供給装置における被成形素材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段の1の態様を示す側面図である。
図3】本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティーに被成形材を載置した1の態様を示す模式図である。
図4】本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティーに載置した被成形材の上面中央部に潤滑剤を滴下する1の態様を示す模式図である。
図5】本願発明の潤滑剤供給装置における潤滑剤供給量と供給時間を制御するディスペンサポンプ及び制御装置の1の態様を示す模式図である。
図6】本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティー浄化用エアノズルを備える浄化手段の1の態様を示す模式図である。
図7】本願発明の潤滑剤供給装置における浄化手段によるダイスキャビティーの浄化の1の態様を示す模式図である。
図8】本願発明の潤滑剤供給装置を備えるプレス加工装置における成形加工の1の態様を示す模式図である。
図9】本願発明の潤滑剤供給装置を備えるプレス加工装置による成形加工品の側面外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明の潤滑剤供給装置は、インパクト成形時のダイスとパンチの摩擦係数を適切に制御するため、インパクト成形用金型のダイスキャビティーに載置した被成形材のみに潤滑剤を滴下供給する高精度の潤滑剤供給手段を実現するものである。これにより、インパクト成形法におけるパンチの押圧により底部側から側壁部側にパンチの押圧方向と反対方向へ供給されるスラグ材の供給量の適切に制御をすることが可能となる。
本願発明の潤滑剤供給装置について、図1図7を用いて説明する。なお、図1図7は、本願発明の1の実施態様を示すものであり、本願発明は実施態様に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本願発明の潤滑剤供給装置の構成要素の配置の1の態様を示す平面模式図である。本願発明の潤滑剤供給装置は、以下に詳述する(1)被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段、(2)成形用金型のダイスキャビティーに載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤を滴下する潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量と供給時間を制御する供給制御機構を備える潤滑剤供給手段、(3)成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具を備えるダイスキャビティー浄化手段、で構成される。
【0018】
被成形材載置搬送手段は、被成形材等搬送用アーム3に取り付けられた被成形材保持治具5で構成され、被成形材等搬送用アーム3の移動によりダイス1のダイスキャビティー2に被成形材13を搬送して載置する。
潤滑剤供給手段は潤滑剤供給機構と供給量制御機構で構成される。具体的には、ダイス1のダイスキャビティー2に載置された被成形材13の上面中央部のみに潤滑剤を滴下する潤滑剤供給機構は、被成形材等搬送用アーム3に取り付けられた潤滑剤滴下用ニードルアダプタ4、ディスペンサポンプ7、潤滑剤配管6で構成される。また、潤滑剤の供給量を制御する供給制御機構は制御装置で構成される。
ダイスキャビティー浄化手段は、ダイスキャビティー搬送用アーム8に取り付けられたエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9により構成される。ダイスキャビティー搬送用アーム8によりダイス1のダイスキャビティー2にエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9が移動して空気圧によりダイスキャビティー2の浄化を行う。
【0019】
(1)被成形材載置搬送手段
図2は本願発明の潤滑剤供給装置における被成形材の保持機構を備える被成形材載置搬送手段の1の態様を示す側面図である。被成形材保持具5は、被成形材13を吸着保持するための吸着パッド12、継手11を有する。継手11は、被成形材13の着脱を行うエア配管(図示せず)と接続する役割を持つ。
図3は、本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティーに被成形素材を載置した1の態様を示す模式図である。被成形材13は、被成形材保持具5を取り付けた被成形材等搬送用アーム3の移動により、ダイス1のダイスキャビティー2に載置される。
【0020】
(2)潤滑剤供給機構及び供給制御機構
図4は、本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティーに載置した被成形材の上面中央部に潤滑剤を滴下する1の態様を示す模式図であり、図5は、本願発明の潤滑剤供給装置における潤滑剤供給量と供給時間を制御するディスペンサポンプ及び制御装置の1の態様を示す模式図である。
本願発明の特徴の1つは、成形用金型のダイスキャビティー2に載置された被成形素材13の上面中央部のみに潤滑剤を滴下する潤滑剤供給機構及び潤滑剤供給量と供給時間を制御する供給制御機構を備える潤滑剤供給手段にある。
【0021】
本願発明の潤滑剤供給機構では、潤滑剤滴下用精密ニードル14及び前記潤滑剤滴下用精密ニードル14に微量の潤滑剤を高精度で供給するディスペンサポンプ7が重要な役割を担っている。ディスペンサポンプ7は、プランジャ方式で高精度の潤滑剤の供給を行うもので、ディスペンサポンプ駆動部18は制御装置10の駆動用ポンプ接続端子22から供給される空気による空気圧駆動で、流路の広いニードルバルブ19、デッドスペースの少ない短経路の構造を有し、供給量調製用マクロメータ17でストローク設定された計量プランジャ20の組み合わせにより微量の潤滑剤を潤滑剤供給ノズル21から高精度で供給する。潤滑剤供給ノズル21から高精度で供給された潤滑剤は、潤滑剤配管6によりディスペンサポンプ用継手15を介して潤滑剤滴下用精密ニードル14に供給される。潤滑剤滴下用精密ニードル14の内径及び長さは、被成形材13の上面中央部に潤滑剤を正確に滴下するため適切に設計されている。 本願発明の潤滑剤供給制御機構は、制御装置10の操作スイッチ23及びシーケンサ24の設定により潤滑剤滴下用精密ニードル14の位置制御も行う。
【0022】
(3)ダイスキャビティー浄化手段
図6は、本願発明の潤滑剤供給装置におけるダイスキャビティー浄化用エアノズルを備える浄化手段の1の態様を示す模式図であり、図7は、本願発明の潤滑剤供給装置における浄化手段によるダイスキャビティーの浄化の1の態様を示す模式図である。
本願発明のダイスキャビティー浄化手段は、エアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9である。エアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9は、エア供給口25から空気を供給することにより、側面に設けたエア排出口から回転しながら空気噴出を噴出することで、成形加工後のダイスキャビティー2に残存する潤滑剤や金属粉を余すところなく除去できる。
【0023】
(4)プレス加工金型と摩擦係数
図8は、本願発明の潤滑剤供給装置を備えるプレス加工装置における成形加工の1の態様を示す模式図である。プレス加工装置の成形金型27は、ダイス1とパンチ28で構成される。図8(a)は、ダイス1に載置された被成形材13をパンチ28で成形加工する直前の態様を示す模式図である。被成形材13の上面中央部には、本願発明の潤滑剤供給装置により潤滑剤16が滴下されている。図8(b)は、ダイス1に載置された被成形材13をパンチ28で有底容器形状体30に成形加工した直後の態様を示す模式図である。本願発明の潤滑剤供給機構及び供給制御機構を備える潤滑剤供給手段により、ダイスキャビティー2に載置された被成形材13の上面中央部のみに潤滑剤を高精度で滴下することで、パンチ28表面のみに潤滑剤被膜29を形成することができる。
【0024】
本願発明の潤滑剤供給装置を備えるプレス加工装置における成形金型27は、ダイス1の摩擦係数(μD)とパンチ28の摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μP、である。パンチ28の表面のみに潤滑剤被膜29が形成されることでダイス1とパンチ28との摩擦係数の関係(μD ≧ 2×μP)を実現している。具体的には、ダイス1の摩擦係数(μD)は、0.35〜0.45、パンチ28の摩擦係数(μP)は、0.05〜0.07である。かかる摩擦係数の関係を維持するためには、潤滑剤の滴下量は、1.00μl〜4.00μlが好ましい。
かかる摩擦係数の関係を維持することにより、有底容器形状体30の側壁部においても、ダイス1との接触面の摩擦抵抗がパンチ28との接触面の摩擦抵抗より大きくなり、ダイス1側の被成形材13の流動性が相対的に抑制され、有底容器形状体30側壁と底面との交差部へ被成形材13が充填され、欠肉が解消される。
【0025】
図9は、本願発明の潤滑剤供給装置を備えるプレス加工装置による成形加工品の側面外観を示す写真である。(a)は、潤滑剤を被成形材13の上面中央に滴下した有底容器形状体側面の外観であり、(b)は、潤滑剤を被成形材13の上面中央からずらして滴下した有底容器形状体側面の外観である。被成形材13の上部中央に正確に潤滑剤を滴下しないとパンチ28表面の潤滑剤被膜29の厚みムラが生じて被成形材13の流動性に差異が生じるからである。
【0026】
摩擦係数は、回転ボールオンディスク型の摩擦試験装置(ナノテック社製 TRB18−289)により、以下の条件で測定した。
<測定条件>
アルミニウム球(A5052 6mmφ) 荷重 10N
摺動速度 10cm/s
摺動円直径 14mm
試験距離 0.4m
試験温度 室温
試験片 円板状金型材(径 24.9mm,厚み 10mm)
【0027】
(5)潤滑剤
本願発明のパンチの摩擦係数(μP)を所定の範囲とするために使用する潤滑剤は、特に制限はないが、摩擦係数を精密に制御し、防錆性に優れるという観点から低粘度の非塩素系プレス油が好適に用いられる。
【0028】
(6)被成形材
本願発明の有底容器形状体30の成形に使用する被成形材13は、有底容器形状体30として要求される機械的強度の観点と高い軽量化効果を得るため、5000系(Al-Mg系合金)、6000系(Al-Si-Mg系合金)、7000系(Al-Zn-Mg-Cu系合金)等のアルミニウム合金が好適に採用される。
【0029】
(7)有底容器形状体のプレス加工方法
本願発明の有底容器形状体のプレス加工方法は、所定形状のキャビティー2を有するダイス1に被成形材13を載置する被成形材載置工程、載置された被成形材13の中央部のみに潤滑剤16を滴下する潤滑剤供給工程、潤滑剤16を滴下された被成形材をダイス1に対向して配置されたパンチ28を衝突させることにより、被成形材13を塑性変形させる成形加工工程、被成形材を成形加工した有底容器形状体30をダイス1から取り出す加工品取出工程、エアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9によりダイスキャビティー2を浄化する浄化工程、からなる。
【0030】
被成形材載置工程は、被成形材13を被成形材等搬送アーム3に取り付けられた被成形材保持具5の吸着パッド12に吸い上げてダイス1のダイスキャビティー2に載置する工程である。この工程では、被成形材等搬送アーム3はダイスキャビティー2上部で停止し、被成形材13を保持したまま規定深度まで下降し、吸着を解除してダイスキャビティー2最下部に被成形材13を載置する。
潤滑剤供給工程は、被成形材等搬送アーム3に取り付けられた潤滑剤滴下用精密ニードル14がダイスキャビティー2最下部に載置された被成形材13の中央部で停止する。次いで、ディスペンサポンプ7が駆動して既定量の潤滑剤が既定時間潤滑剤滴下用精密ニードル14から被成形材13の上面中央部に滴下される。
成形加工工程は、ダイス1に対向して配置されたパンチ28を衝突させて、被成形材13を塑性変形させて有底容器形状体30を成形する工程である。この工程では、ダイス1の摩擦係数(μD)とパンチ28の摩擦係数(μP)との関係が、μD ≧ 2×μP、である。潤滑剤供給工程において潤滑剤16を被成形部材13の上面中央部のみに滴下することで、パンチ28の表面のみに潤滑剤被膜29が形成されることでダイス1とパンチ28との摩擦係数の関係(μD ≧ 2×μP)を実現している。
【0031】
加工品取出工程は、成形した有底容器形状体30をダイスキャビティー2から取り出す工程である。ダイスキャビティー2上部に設置したセンサ(図示せず)によりダイスキャビティー2に成形した有底容器形状体30がある場合は、エアにより有底容器形状体30を排出する。
浄化工程は、回転エアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具9を搭載したダイスキャビティー搬送用アーム8が金型ダイス1のダイスキャビティー2中央部に移動し、ダイスキャビティー浄化治具9が降下して回転エアノズルがダイスキャビティー2内に停止する。次いで、エア供給口25から導入される空気圧によりエアノズルが回転しながらエア排出口26から空気が噴射される。排出口26は傾斜して配置されており、ダイスキャビティー2内に均一に空気が噴射される。これにより、ダイスキャビティー2に残存する潤滑剤や金属粉を余すところなく除去できる。残存する潤滑剤を排除することで、ダイスキャビティー2の摩擦係数は高くなる。
【実施例】
【0032】
次に本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。また、その試験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
<実施例>
図8に示す金型により有底容器形状体を以下の条件で冷間鍛造加工を行った。冷間鍛造加工後に回転エアノズルによる浄化処理を行った。なお、実施例1−4は、潤滑剤滴下量を1.00〜4.00に変えて行た。
<加工条件>
被成形素材 5000系(Al-Mg系)アルミニウム合金
パンチ材質 超硬VG86 DLCコーティング
パンチ回転数 50spm
パンチ潤滑剤 アクア化学(CX−10)
潤滑剤滴下量 1.00μl,1.75μl,2.50μl,4.00μl,
パンチ温度 常温
ダイス材質 超硬VG86 DLCコーティング
ダイス温度 常温
ダイス潤滑剤 なし
【0035】
<加工品評価>
試作した有底容器形状体について、側面外観を実体顕微鏡により観察して左右両側面の均一性を確認した。実施例1−4のいずれも、図9(a)と同様に左右両側面被形成材の流動性に差はなかった。判定「〇」であった。
【0036】
<比較例1>
潤滑剤(アクア化学 CX−10)の滴下量を0.09μlとしてことを除き、実施例と同様にして有底容器形状体を冷間鍛造加工した。実施例と同様の評価を行った。図9(b)と同様に左右両側面被形成材の流動性に差があった。判定「×」であった。
【0037】
<比較例2>
潤滑剤(アクア化学 CX−10)の滴下量を4.10μlとしてことを除き、実施例と同様にして有底容器形状体を冷間鍛造加工した。実施例と同様の評価を行った。図9(b)と同様に左右両側面被形成材の流動性に差があった。判定「×」であった。
【0038】
<比較例3>
冷間鍛造加工後に回転エアノズルによる浄化処理を行わなかったことを除き、実施例2と同様の条件で冷間鍛造加工を行った。図9(b)と同様に左右両側面被形成材の流動性に差があった。判定「×」であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明により、寸法精度が高く、平滑性に優れる有底容器形状体を提供できる。
【符号の説明】
【0040】
1 ダイス
2 ダイスキャビティー
3 被成形材等搬送用アーム
4 潤滑剤滴下用ニードルアダプタ
5 被成形材保持治具
6 潤滑剤配管
7 ディスペンサポンプ
8 ダイスキャビティー搬送用アーム
9 エアノズルを設けたダイスキャビティー浄化治具
10 制御装置
11 継手
12 吸着パッド
13 被成形材
14 潤滑剤滴下用精密ニードル
15 ディスペンサポンプ用継手
16 潤滑剤
17 供給流量調整用マイクロメータ
18 ディスペンサポンプ駆動部
19 ニードルバルブ
20 計量プランジャ
21 潤滑剤供給ノズル
22 駆動用ポンプ接続端子
23 操作スイッチ
24 シーケンサ
25 エア供給口
26 エア排出口
27 成形金型
28 パンチ
29 パンチの潤滑剤被膜
30 有底容器形状体
【要約】      (修正有)
【課題】寸法精度が高く、平滑性に優れる有底容器形状体をインパクト成形法により成形できる潤滑剤塗布装置及びこの潤滑剤供給装置を有する成形加工装置、これを用いた成形加工方法を提案する。
【解決手段】被成形材13を成形用金型1のダイスキャビティー2に搬送して載置するための被成形材載置搬送手段3と、載置された被成形材の上面中央部のみに潤滑剤16を滴下する潤滑剤供給機構及び潤滑剤の供給量を制御する潤滑剤供給手段と、成形加工後のダイスキャビティーの浄化を行うエアノズルを設けたダイスキャビティー浄化手段とからなる潤滑剤供給装置及び潤滑剤供給装置を備えた有底容器形状体のプレス加工装置、プレス加工方法。潤滑剤供給手段により、インパクト成形時にパンチの押圧方向と反対方向へ供給される被成形素材の流動性を制御することができる。ダイスの摩擦係数(μD)とパンチの摩擦係数(μP)との関係が、μD≧2×μP、である。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9