【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断りのない限り、「重量部」及び「重量%」である。
【0017】
<実施例1>
撹拌機、温度計、気体流入管及び冷却コンデンサーを具備する加熱装置付き密閉混合タンクに、平均粒径3.6μmの重質炭酸カルシウム粉体(備北粉化工業社製BF100)100部を仕込み、85℃で混合撹拌しながら、構造式(2)の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液を50部注入し30分間混合して均質接触させた。次いで、N
2ガスを連続的に流入させながら内温を90〜95℃にし、レビンダー効果により粉体を細分化させつつ、冷却コンデンサーを通して溶剤のエチルアルコールを系外に溜出させた。次いで、混合撹拌操作を継続しながら内温を30℃以下まで冷却し、粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体20部と硬度80ショアーAの軟質ポリウレタンペレット(ディーアイシー コベストロポリマー社製パンデックス T−1180N)100部を混合し、190±5℃の温度範囲で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0018】
<実施例2>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、構造式(3)の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液75部に変えた点以外は、実施例1と同様にして粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体30部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0019】
<実施例3>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、構造式(4)の帯電防止剤Xの20%酢酸エチル溶液40部及び構造式(5)の帯電防止剤Xの20%酢酸エチル溶液40部に変えた点以外は、実施例1と同様にして、粉体の全表面に2種類の帯電防止剤Xの混合吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体30部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0020】
<実施例4>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、構造式(6)の帯電防止剤Xの25%テトラヒドロフラン溶液40部に変えた点以外は、実施例1と同様にして、粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体40部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0021】
<実施例5>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、構造式(7)の帯電防止剤Xの25%テトラヒドロフラン溶液25部に変えた点以外は、実施例1と同様にして粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を得た。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体20部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0022】
<実施例6>
実施例1の構造式(2)の帯電防止剤Xを構造式(8)の帯電防止剤Xに変えた点以外は、実施例1と同様にして粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を得た。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体30部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0023】
<実施例7>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、構造式(9)の帯電防止剤Xの25%テトラヒドロフラン溶液40部に変えた点以外は、実施例1と同様にして粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を得た。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体30部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0024】
<実施例8>
実施例1の構造式(2)の帯電防止剤Xを構造式(11)の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部に変えた点以外は、実施例1と同様にして粉体の全表面に帯電防止剤Xの吸着層が安定に存在する複合系無機充填剤粉体を得た。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体30部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0025】
<比較例1>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、下記構造式(13)の半極性有機ホウ素化合物の40%テトラヒドロフラン溶液25部に変えた点以外は実施例1と同様にして全表面に前記半極性有機ホウ素化合物の吸着層が存在する粉体を得た。
続いて、得られた粉体20部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【化14】
【0026】
<比較例2>
実施例1の帯電防止剤Xの20%エチルアルコール溶液50部を、下記構造式(14)の三級アミン化合物の20%酢酸エチル溶液150部に変えた点以外は、実施例1と同様にして、全表面に前記三級アミン化合物の吸着層が存在する粉体を得た。
続いて、得られた粉体20部と、実施例1と同じ軟質ポリウレタンペレット100部を混合し、190±5℃で押出成形して厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0027】
【化15】
【0028】
<比較例3>
ブラベンダーの中に、実施例1と同じ重質炭酸カルシウム粉体20部と構造式(2)の帯電防止剤X2部、及び軟質ポリウレタンペレット100部を、それぞれ別個に投入して撹拌し、得られた混合物を190±5℃で押出成形して、厚さ2mmのウレタンゴム板状成形物を製造した。
【0029】
実施例1〜8及び比較例1〜3の各ウレタンゴム板状成形物を、23℃、50%RHの条件下で72時間静置した後、同じ条件で表面抵抗率を測定した。
また、各板状成形物に10KVの電圧を印加して強制帯電させ、印加を解除した後の帯電減衰半減時間、5秒後の残留帯電荷、及び摩擦帯電性の有無を調べた。
測定には、シムコジャパン社製ST−4型表面抵抗計とシシド静電気社製のスタチックオネストメーターを使用した。また摩擦帯電性の有無は、300gの荷重を掛けて試験体表面を綿布で20回摩擦した後、1cmの距離に置いた4mm×4mmの紙片の吸着状況を見て判定した。
結果を表1に示すが、本発明に係る複合系
無機充填剤粉体を用いた実施例1〜8では、ウレタンゴムマトリックスとのファンデルワールス力が増して、より微細に分散すると共に、主剤の帯電防止剤X同士が均質かつ緻密に接近する結果、固有の電荷漏洩機構を無理なく作動させることが可能になり、非常に優れた無帯電性製品が得られた。
【0030】
【表1】
【0031】
<実施例9>
実施例1で作製した複合系無機充填剤粉体20部と、硬度ASKER(C)35のSBRチップ(丸紅テクノラバー社製RSSNo.1)100部を熱混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1cmのSBR板状成形物を製造した。
【0032】
<実施例10>
実施例5で作製した複合系無機充填剤粉体30部と、実施例9と同じSBRチップ100部を熱混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1cmのSBR板状成形物を製造した。
【0033】
<実施例11>
実施例1における重質炭酸カルシウム粉体を、平均粒径0.2μmの酸化チタン粉体(石原産業社製A−100)に変え、構造式(2)の帯電防止剤X50部を、構造式(5)の帯電防止剤X10部に変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体25部と、実施例9と同じSBRチップ100部を熱混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1cmのSBR板状成形物を製造した。
【0034】
<実施例12>
実施例3で作製した複合系無機充填剤粉体30部と、実施例9と同じSBRチップ100部を熱混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1cmのSBR板状成形物を製造した。
【0035】
<実施例13>
実施例8で作製した複合系無機充填剤粉体30部と、実施例9と同じSBRチップ100部を熱混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1cmのSBR板状成形物を製造した。
【0036】
<比較例4>
混練機に、実施例9と同じSBRチップ100部、実施例11と同じ酸化チタン25部、構造式(2)の帯電防止剤X2.5部を、それぞれ別個に投入して混練した後、150±5℃で押出成形して、厚さ1mmのSBR板状成形物を製造した。
【0037】
実施例9〜13と比較例4の各SBR板状成形物を、23℃、50%RHの条件で20日間静置した後、同条件で表面抵抗率、強制帯電荷の減衰特性及び摩擦帯電性の有無を調べた。試験装置及び方法は前述したウレタンゴム成形物の場合と同じである。
結果を表2に示すが、本発明に係る複合系無機充填剤粉体を含有する実施例9〜13では、無機充填剤を含むSBRマトリックス中に帯電防止剤Xが別個に分散している比較例4に比べて、非常に優れた無帯電性製品が得られた。
【0038】
【表2】
【0039】
<実施例14>
構造式(2)の帯電防止剤Xを用い、重質炭酸カルシウム粉体に代えて平均粒径3.9μmのシリカ粉体(富士シリシア化学社製サイシリア350)を用いた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体20部を、RTVシリコーン(信越化学社製KE−4895)100部の中に投入し、均質に混合、分散を行いつつ、内温を130℃にし、30分かけて硬化させて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0040】
<実施例15>
実施例1の重質炭酸カルシウム粉体を、実施例14と同じシリカ粉体に変え、実施例1の帯電防止剤Xのエチルアルコール溶液を、構造式(5)の帯電防止剤Xの酢酸エチル溶液10部に変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、実施例14と同様にして、得られた複合系無機充填剤粉体20部とRTVシリコーン100部を用いて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0041】
<実施例16>
実施例1における帯電防止剤Xのエチルアルコール溶液に代えて、構造式(6)の帯電防止剤X5部と構造式(7)の帯電防止剤X5部のテトロヒドロフラン溶液を用い、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、実施例14と同様にして、得られた複合系無機充填剤粉体30部とRTVシリコーン100部を用いて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0042】
<実施例17>
実施例1の重質炭酸カルシウム粉体を、実施例14と同じシリカ粉体に変え、実施例1の帯電防止剤Xのエチルアルコール溶液を、構造式(9)の帯電防止剤Xの25%テトロヒドロフラン溶液に変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、実施例14と同様にして、得られた複合系無機充填剤粉体25部とRTVシリコーン100部を用いて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0043】
<実施例18>
実施例1の重質炭酸カルシウム粉体を、実施例14と同じシリカ粉体に変え、実施例1の帯電防止剤Xのエチルアルコール溶液を、構造式(11)の帯電防止剤Xの30%エチルアルコール溶液に変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、実施例14と同様にして、得られた複合系無機充填剤粉体25部とRTVシリコーン100部を用いて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0044】
<実施例19>
実施例1の重質炭酸カルシウム粉体を、実施例14と同じシリカ粉体に変え、実施例1の帯電防止剤Xのエチルアルコール溶液を、構造式(12)の帯電防止剤Xの25%エチルアルコール溶液に変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、実施例14と同様にして、得られた複合系無機充填剤粉体20部とRTVシリコーン100部を用いて、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0045】
<比較例5>
混練機に実施例14と同じRTVシリコーン100部、シリカ粉体20部,及び構造式(2)の帯電防止剤X2部を、それぞれ別個に入れ、内温を130℃にして30分間均質に混合、分散して硬化させ、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0046】
<比較例6>
実施例14における帯電防止剤Xに代えて、側鎖にヒドロキシル基を多数有するポリシロキサン系帯電防止剤の10%イソプロピルアルコール・n−ブルチアルコール混合溶液100部を用い、これをシリカ粉体100部と接触させた後、常温で減圧下に脱溶剤して複合物を作製した。
続いて、得られた複合物20部を、実施例14と同じRTVシリコーン100部の中に投入して均質に混合、分散を行いながら内温を130℃にし、30分かけて硬化させ、厚さ0.8mmのシリコーンゴム板状成形物を製造した。
【0047】
実施例14〜19及び比較例5〜6の各シリコーンゴム板状成形物を23℃、50%RHの温度、湿度条件下で10日間静置した後、同条件で表面抵抗率と強制帯電荷の減衰特性及び摩擦帯電性の有無を調べた。試験装置及び方法は前述したウレタンゴム成形物の場合と同じである。
結果を表3に示すが、本発明に係る複合系無機充填剤粉体を含有する実施例14〜19では、無機充填剤を含むシリコーンゴムマトリックス中に帯電防止剤Xが別個に分散している比較例5〜6に比べて、非常に優れた無帯電性製品が得られた。
即ち、シリコーンゴム中に帯電防止剤を混合する従来技術では確実かつ高度な帯電防止はできなかったが、本発明により高レベルの無帯電性を実現できることが確認された。
【0048】
【表3】
【0049】
<実施例20>
実施例1で用いた重質炭酸カルシウム粉体を、実施例14で用いたのと同じシリカ粉体に変えた点以外は、実施例1と同様にして構造式(2)の帯電防止剤Xを含有する複合系無機充填剤粉体を作製した。
次いで、得られた複合系無機充填剤粉体50部と、EPDM(住友化学社製ESPREN505)100部をバンバリーミキサーの中に入れ、130〜150℃で熱混練した後、120時間静置した。続いて、得られた未加硫EPDM100部の中に硫黄1部と酸化亜鉛5部を添加し、ロールで混練、熟成させた後、150〜160℃でプレスして加硫を促進させ、厚さ1.5mmのEPDM板状成形物を製造した。
【0050】
<実施例21>
実施例20におけるシリカ粉体をカーボンブラック(デンカ社製デンカブラックHS−100)に変え、構造式(2)の帯電防止剤Xの溶剤をテトラヒドロフランに変えると共に、複合系無機充填剤粉体の配合量を25部に変えた点以外は、実施例20と同様にして厚さ1.5mmのEPDM板状成形物を製造した。
【0051】
<実施例22>
実施例1における重質炭酸カルシウムを、平均粒径40nmの導電性カーボンブラック(東海カーボン社製TOKABLACK4500)に変え、構造式(2)の帯電防止剤Xを構造式(7)の帯電防止剤Xに変えた点以外は、実施例1と同様にして複合系無機充填剤粉体を作製した。
続いて、得られた複合系無機充填剤粉体15部と、実施例20と同じEPDM100部を用いた点以外は、実施例20と同様にして厚さ1.5mmのEPDM板状成形物を製造した。
【0052】
<比較例7>
実施例22と同じ導電性カーボンブラック20部とEPDM100部を用い、帯電防止剤Xを用いなかった点以外は、実施例22と同様にして、厚さ1.5mmのEPDM板状成形物を製造した。
【0053】
実施例20〜22及び比較例7の各EPDM板状成形物を23℃、50%RHの温度、湿度条件で30日間静置した後、同条件で表面抵抗率と強制帯電荷の減衰特性及び摩擦帯電性の有無を調べた。試験装置及び方法は前述したウレタンゴム成形物の場合と同じである。
結果を表4に示すが、着色が配合の主目的で導電性を強く発揮しないカーボンブラック粉体でも、レビンダー効果を有効に作用させて全表面に帯電防止剤Xを吸着させれば担体として十分機能し、効率良く電荷漏洩に寄与する状態が形成され、導電性カーボンブラック粉体と同様の性能を実現できることが分かる。
また、導電性カーボンブラックについても、単独かつ少量では有効な電荷漏洩性能が発揮されないが、帯電防止剤Xとの複合系無機充填剤粉体の状態にしてEPDMマトリックス中に添加すると、協力作用により勝れた帯電荷漏洩性能を発現できるようになることが確認された。
【0054】
【表4】