(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0010】
本発明の実施形態に係る細胞刺激装置は、細胞に刺激を与えて、細胞の挙動や性質を変化させる装置として構成される。以下、細胞刺激装置の概略について説明する。
【0011】
(細胞の種類)
細胞刺激装置で刺激を与えることが可能な細胞は限定されるものではなく、種々の細胞に適用することができ、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、微生物、細菌等が挙げられる。動物由来の細胞として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。あるいは、種々の幹細胞(iPS細胞、ES細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞など)、株化細胞や腫瘍細胞に適用することも可能である。
【0012】
(細胞の状態)
細胞刺激装置で刺激を与える細胞の状態は、特に限定されるものではない。
【0013】
細胞刺激装置は、例えば、培養基材に接着した状態の細胞に刺激を与えるように構成することができる。培養基材は、平板状のものや、いわゆるマイクロキャリアと呼ばれる球状や粒状のもの、ローラーボトルと呼ばれる円筒状のものを例示することができる。平板状の培養基材としては、培養用途に一般的に利用される部材(いわゆるカルチャーフラスコやシャーレ、スタックプレート)の培養面であってもよい。あるいは、平板状の培養基材として、金属製の平板や、ガラス面にITO電極が形成された導電性の部材を適用することも可能である。なお、培養基材の表面は、細胞を培養するための種々の処理(表面粗さを調整するエッチング処理や、コーティング処理)が行われていてもよい。
【0014】
ただしこれとは別に、細胞刺激装置は、培養基材から単離された状態や、細胞同士が凝集して凝集塊を構成している状態、組織の状態や生体の状態、種子の状態、発芽後の植物の状態の細胞に刺激を与えるように構成することも可能である。
【0015】
細胞刺激装置は、溶液に浸された状態(組織や生体として細胞が体液に浸されている状態や、細胞が生体から取り出されて溶液に浸された状態を含む)の細胞に刺激を与えるように構成される。例えば細胞は、溶液とともにカルチャーフラスコやシャーレなどの容器に保持された状態で、刺激付与の処理がなされてもよい。溶液の種類は特に限定されるものではないが、細胞種類や刺激の目的に応じて、種々のものを適用することができる。例えば溶液として、血清培地などの培養液を利用してもよく、カルシウム及びマグネシウムを含まないPBS(−)を利用してもよい。また、溶液として、目的に応じた添加物を含む液体を利用することも可能である。
【0016】
(目的)
細胞刺激装置で細胞に刺激を与える目的は、細胞の挙動や性質を変化させることにあり、種々のものが例示できる。例えば、培養基材からの細胞の剥離(シート状などのまま剥がれること、及び、単一の細胞に分離しながら剥がれることを含む)、形態変化、増殖抑制、遺伝子発現やタンパク質生成、培養生成物の変性や生成量の変化、分化誘導や初期化など、種々の目的で利用することができる。また、細胞刺激装置は、生体内の細胞に刺激を与えることにより、生物(ヒトを含む動物や植物)の治療や生育のコントロールを目的として利用することも可能である。
【0017】
(構成)
細胞刺激装置は、2つの電極の間に交流電場を印加可能な印加手段を備えており、生成された交流電場(交流電界)内に細胞を配置することにより、細胞に刺激を与える(交流電場を作用させる)構成となっている。交流電場の波形は、一例として正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一例として正弦波を用いることができる。細胞は、溶液に浸された状態で交流電場内に配置され、2つの電極の少なくとも一方は、細胞及び溶液と接触しないように構成される。なお、2つの電極は、平板状の電極が互いに平行に配置された、いわゆる平行平板電極であってもよい。このとき、電極の配置は特に限られるものではなく、細胞及び溶液を上下方向から挟むように配置することも、側方(横方向)から挟むように配置することも可能である。また、容器に収納された細胞に刺激を付与する場合、電極は、一つの容器を挟むように構成することも可能であり、複数の容器を挟むように構成することも可能である。
【0018】
細胞刺激装置が生成する交流電場の周波数は、水の誘電損失が所定値以下となる範囲を適用することができる。例えば、水の誘電損失εの周波数特性を表す
図1に示す通り、周波数が0.5MHz〜1000MHzの交流電場は、水の誘電損失εが小さくなることが知られており、この範囲の交流電場を利用することができる。
【0019】
細胞刺激装置が生成する交流電場の強度(電界強度)は、細胞刺激の目的に応じて決定することが可能であるが、±0.3V/m程度の交流電場でも細胞が刺激を受けて挙動を変化させることが確認された(詳細は後述)。
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る細胞刺激装置について、より具体的な例を挙げて説明する。
【0021】
[実施形態1]
<細胞刺激装置の構成>
以下、
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る細胞刺激装置の構成例を説明する。細胞を刺激する細胞刺激装置1は、ファンクションジェネレータ10を備える。ファンクションジェネレータ10は、電極20(第1電極)と電極30(第2電極)との間に交流電場を印加可能な印加手段として機能する。ファンクションジェネレータ10は、電極20と、電極20と対向する電極30と、の間に配置された細胞を刺激するために、交流電場を印加する。また、細胞刺激装置1は電圧計5(オシロスコープ)を備えている。電圧計5により2つの電極20、電極30の間の電圧を測定することができる。そして、測定した電圧と、2つの電極20、電極30の間の距離とに基づいて、交流電場(電界)を算出することができる。ただし、細胞刺激装置は、電圧計を有しない構成とすることも可能である。すなわち、ファンクションジェネレータ10の設定値と、電極間に印加される電場強度を予め確認しておくことにより、ファンクションジェネレータ10の設定値を調整することで、電極間に所望の強度の電場を印加することが可能になる。
【0022】
ファンクションジェネレータ10は、所望の周波数と波形を持った交流電圧信号を生成することができる電子機器で、これを電極20と電極30に接続することにより、電極20と電極30との間に、交流電場を生成することができる。なお、本実施の形態に適用可能なファンクションジェネレータ10の種類は特に限定されるものではないが、対象となる細胞や刺激の目的に応じた出力(周波数や電圧、波形)を持つファンクションジェネレータ10を選定・設計することが好ましい。
【0023】
電極20、電極30の種類も特に限定されるものではなく、例えば透明電極(酸化インジウム(ITO)/ガラス電極)や、ステンレス、銅、アルミなどの金属電極を利用することができる。また、電極20及び電極30は、例えば平板電極として構成することができる。平板状の電極を平行に配置して対向させれば、電極間に均一に(むらが発生しないように)電界を生成することができる。なお、平板電極は、いわゆる板状のものの他に、実質的に平板とみなせる形態も含む。例えば、メッシュ構造になった平板電極や、周縁部での電界の発散を避けるために端部を内側に向けて屈曲させたもの、電極間の電界を均一にするために全体を緩やかに湾曲させたものなど、を例示することができる。
【0024】
本実施形態において、電極20及び電極30は、刺激の対象となる細胞及び細胞を浸す溶液と接触しないように配置される。例えば、細胞は溶液とともに容器内に封入されていてもよく、この容器が電極20及び電極30の間に配置されてもよい。すなわち、電極20及び電極30は、容器の外側に配置することができる。これによると、電極が細胞及び溶液と接触しないため、電極20及び電極30の物性が細胞に影響を与えることを防止することができる。なお、電極20及び電極30を容器の外側に配置する場合、当該容器は、電場に与える影響が小さい材料によって構成されていることが好ましい。これによると、電極20及び電極30の間に生成された電場が容器による影響を受けにくくなることから、細胞に対して電場を均等に作用させることが可能になる。具体的には、金属や磁性体を含まない樹脂容器が例示される。また、電極20及び電極30を容器の外側に配置することにより、容器を開閉することなく細胞刺激処理を行うことが可能になることから、容器内のコンタミネーションの発生リスクを低減することができる。また、容器に特別な工夫をする必要がないため、一般に流通している培養容器を利用して、細胞刺激処理を行うことが可能になる。
【0025】
本実施形態においては、容器としてカルチャーフラスコ40が用いられており、ファンクションジェネレータ10は、2つの電極20、30の間にカルチャーフラスコ40を配置した状態で交流電場を印加する。
【0026】
カルチャーフラスコ40の中には、細胞41及び液体42が含まれていて、ファンクションジェネレータ10を用いて2つの電極20、30の間の細胞41を刺激する。カルチャーフラスコ40の内面(底面の内壁面)は培養基材となっており、細胞41は、カルチャーフラスコ40の内面に接着した接着性の細胞であってもよい。あるいは、細胞41は、マイクロキャリアとよばれる、微細な球状又は粒状の培養基材に接着した状態で、カルチャーフラスコ40内に配置されていてもよい。
【0027】
電極間に印加する交流電場の周波数は、細胞の種類や刺激の目的のような条件に応じて適宜調整することができる。一実施形態において、交流電場の周波数は、0.1MHz以上であり、好ましくは0.5MHz以上であり、より好ましくは2MHz以上であり、さらに好ましくは5MHz以上であり、一方で、1000MHz以下であり、好ましくは200MHz以下であり、より好ましくは50MHz以下であり、さらに好ましくは25MHz以下である。細胞刺激の目的に応じて、このような周波数を選択することにより、細胞の刺激効率が向上しうる。
【0028】
また、電極間に印加する交流電場の周波数(帯域)は、一実施形態において、水の誘電損失に基づいて設定することができる。すなわち、水に交流電界を印加した場合、低周波数では水中のイオンが移動することにより誘電損失が生じ、周波数が高くなるにしたがって誘電損失が小さくなることが知られている。水の誘電損失が小さくなる領域の交流電場(概ね0.5MHz以上1000MHz以下の交流電場)を利用することで、溶液中のイオンの移動が最小限にとどまるため、細胞には、イオンの移動に伴う刺激ではなく、電界による刺激を直接に細胞に与えることができ、細胞の刺激効率が向上しうる。
【0029】
また、電極間に印加する交流電場の強度(電界強度)については、特に限定されず、細胞の種類や刺激の目的に応じて適宜設定することができる。交流電場の強度は、例えば、±0.3V/m以上とすることができる。
【0030】
一実施形態において、交流電場の強度は、±1mV/2.6cm以上であり、より好ましくは±5mV/2.6cm以上であり、より好ましくは±15mV/2.6cm以上であり、特に好ましくは±50mV/2.6cm以上であり、一方で、±10000mV/2.6cm以下であり、好ましくは±3000mV/2.6cm以下であり、より好ましくは±2000mV/2.6cm以下である。ここで、電極間の距離が2.6cmよりも長い又は短い場合には、比例して電圧を増減させればよい。細胞刺激の目的に応じて、このような電場強度を選択することにより、細胞の刺激効率が向上しうる。
【0031】
なお、細胞に印加する交流電場の周波数や電界強度の具体的な値は、細胞の種類や刺激の目的に応じて適宜設定され、その最適値は実験的に導出することができる。
【0032】
また、一実施形態において、交流電場の強度(電界強度)や交流電場を印加する時間、あるいはその際の細胞が置かれる環境は、細胞の種類や刺激を与える目的に応じて適宜設定され、その最適値は、実験的に導出することができる。
【0033】
また、一実施形態において、細胞刺激装置1は、電極20及び電極30の間の電圧を計測する計測手段を備えた構成とすることができる。このとき、計測手段の計測値に基づいて、ファンクションジェネレータ10の出力を調整するように構成することも可能である。これにより、電極20及び電極30の間に、所望の強度の電場(電界)を印加することが可能になる。
【0034】
本実施の形態に適用可能な容器についても、特に限定されるものではない。容器として、例えばカルチャーフラスコを例示したが、シャーレなどの既に公知となっているいずれかの容器を用いることもできる。また、容器は、
図2に示すように一つのみを利用してもよいが、これに限られるものではない。すなわち、複数の容器を縦に積層して利用してもよく、横に並列して利用しても良い。
【0035】
本発明によれば、ファンクションジェネレータを用いて2つの電極間に交流電場を印加するだけで、2つの電極間に配置された細胞を刺激することができるため、簡易な構成で細胞を刺激することができる。
【0036】
<細胞刺激方法>
次に、本発明の一実施形態に係る細胞刺激方法を説明する。細胞刺激方法は、その準備として、刺激を与える対象となる細胞を用意する工程を含む。細胞は、培養して用意してもよいが、培養されたものを入手して刺激を与える工程を行ってもよい。細胞は、培養基材に接着した状態のものを利用することも可能であるが、これに限られるものではない。例えば単離された状態のものや、細胞同士が凝集して凝集塊を構成しているものを適用することができる。あるいは細胞は組織片であってもよく、生体の状態であっても、生体から切り離された状態であっても良い。細胞は、液体に浸された状態で用意する。例えば、細胞は、液体とともに容器に収納された状態で用意することができる。ここで、液体は、刺激の目的に合わせて適宜選択することができる。液体は、培養に利用された培養液であってもよく、培養液を置換した液体(細胞刺激工程に適した溶液)であってもよい。
【0037】
細胞刺激方法は、電極20及び電極30の間に、細胞41及び細胞41を浸す液体42を配置する工程を含む。細胞41及び液体42が、カルチャーフラスコ40に収納されている場合、電極20及び電極30の間にカルチャーフラスコ40を配置することで、本工程を実現することができる。なお、本工程は、電極20及び電極30の少なくとも一方が、細胞41及び液体42と非接触となるように実施される。
図2に示す例では、本工程は、電極20及び電極30の双方が、細胞41及び液体42と非接触となっている。
【0038】
細胞刺激方法は、電極20と電極30との間に、交流電場を印加する工程を含む。本工程で印加される交流電場(周波数、波形、強度、時間)は、刺激の目的に合わせて適宜設定することができる。また、本工程中の細胞の環境(温度、湿度、照度、明度)も、刺激の目的に合わせて適宜設定することができる。
【0039】
以上の工程によって細胞を刺激することができ、種々の生成物を製造することができる。例えば細胞刺激方法を、培養基材から細胞を剥離(単離)する目的で利用する場合、培養基材から剥離(単離)された単離細胞を、生成物とすることができる。また、細胞刺激により培養基材から剥離した単離細胞を培養して増殖させる細胞増殖方法にも本発明を適用可能である。あるいは、細胞刺激方法を、細胞の代謝物の物性変化や生成量の調整に利用する場合、細胞の代謝物を生成物とすることができる。あるいは刺激方法を、細胞の変性(遺伝子発現や分化誘導、初期化など)に利用する場合、変性した細胞を生成物とすることができる。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、細胞への刺激の一例として培養基板上の細胞の剥離について説明を行う。なお、細胞が剥離した割合である剥離率は、500μm×500μmの培養基板上の細胞密度を6ヵ所、剥離処理前後で無作為に測定して算出する。剥離率が95%を超えた場合は完全剥離したものとする。剥離した細胞が生存している割合である生存率は、トリパンブルー染色による生死判別法を用いて算出する。
【0041】
<実験内容及び実験結果>
交流電場による細胞剥離の実験内容を説明する。事前に、T−25カルチャーフラスコ40に細胞41を8割以上のサブコンフルエントまで培養した。培養後、培養液を取り除き、T−25カルチャーフラスコ40内の細胞41を液体42(カルシウム、マグネシウム不含リン酸バッファ(PBS(−)))で軽く洗浄した。洗浄後、新鮮な5mlの液体42(PBS(−))に置き換えた。PBS(−)を5ml加えた結果、液深は約2mmとなった。
【0042】
T−25カルチャーフラスコ40は、厚みが約2.6cmで容量が約50mlであり、フラスコ内のPBS(−)の上方は空気で満たされている。T−25カルチャーフラスコ40の上下を2つの電極20、30で挟み、両電極間に±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を室温で印加した。10分間の交流電場の印加後、T−25カルチャーフラスコ40内にある5mLのPBS(−)で7〜10回ピペッティングし、細胞剥離の有無を確認した。
【0043】
[CHO−K1細胞]
その結果、
図3に示されるように、細胞41としてCHO−K1細胞を用いた場合、ファンクションジェネレータ10による5分間の交流電場の印加によって、培養基板上に付着していた細胞の1割が剥離し、10分間の交流電場の印加により完全剥離した。
【0044】
具体的には、
図3(a)は、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を印加してPBS(−)中のCHO−K1細胞に0分間、5分間、10分間刺激を加えたときの、それぞれにおけるCHO−K1細胞の様子を示している。
図3(b)は、CHO−K1細胞の剥離率を示している。
図3(b)の一番左側の結果は、0mV且つ10分間、すなわちCHO−K1細胞は交流電場を印加せず、PBS(−)中に10分間室温で静置した場合の結果であり、その場合は培養基板表面からCHO−K1細胞は剥離しなかった。また、左から2番目は、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を3分間印加した場合の結果であり、この場合も培養基板表面からCHO−K1細胞は殆ど剥離しなかった。左から3番目は±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を5分間印加した場合の結果であり10%弱の剥離率となった。そして、一番右は、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を10分間印加した場合の結果であり95%超の剥離率となった。すなわち完全剥離した。
【0045】
このように、交流電場を印加することにより、培養基板上に付着していた細胞が刺激を受けて剥離することが確認された。
【0046】
続いて、
図4(a)は、PBS(−)中のCHO−K1細胞について、20MHz且つ±10〜±6500mV/2.6cmの範囲の交流電場をそれぞれ10分間印加した場合の細胞剥離率及び剥離した細胞の生存率の測定結果である。
図4(a)において、各印加条件について左側の棒グラフが細胞剥離率を示し、右側の棒グラフが生存率を示している。
【0047】
図4(a)からは、広い範囲の電場強度について細胞が剥離することが確認された。とりわけ、±20〜±640mV/2.6cmの範囲で細胞の剥離率が9割に達することが確認された。また、±10mV/2.6cmという低い電場強度でも細胞が剥離すること、±1300mV/2.6cmを超えても細胞の剥離率は低下するものの依然として細胞の剥離が生じることが確認された。また、±10〜±6500mV/2.6cmという広い範囲の電場強度について、8割超という高い生存率が得られることが確認された。
【0048】
すなわち、±10mV/2.6cm以上の電場を印加することにより、細胞が刺激を受けて挙動を変化させることが確認された。特に、±10〜±6500mV/2.6cmの電場を印加することにより、細胞が剥離すること、及び、±10〜±2600mV/2.6cmの電場を印加することによって細胞の剥離率が高まることが確認された。
【0049】
また、
図4(b)は、PBS(−)中のCHO−K1細胞について、±80mV/2.6cm且つ0.5〜150MHzの範囲の交流電場をそれぞれ10分間印加した場合の細胞剥離率及び剥離した細胞の生存率の測定結果である。
図4(b)において、各印加条件について左側の棒グラフが細胞剥離率を示し、右側の棒グラフが生存率を示している。
【0050】
すなわち、0.5MHz以上の周波数の交流電場を印加することにより、細胞が刺激を受けて挙動を変化させることが確認された。特に、0.5〜150MHzの交流電場を印加することによって細胞が剥離すること、及び、1〜100MHzの交流電場を印加することによって細胞の剥離率が高くなることが確認された。
【0051】
図4(b)からは、広い範囲の周波数について細胞が剥離することが確認された。とりわけ、5.5〜20MHzの範囲で剥離率が9割超に達することが確認された。この範囲より周波数が低い又は高い場合、細胞の剥離率は低下するものの、なお細胞が剥離していることが確認された。また、広い範囲の周波数について、9割超という高い生存率が保たれることも確認された。
【0052】
特に、
図4からは、20MHz且つ±10〜±6500mV/2.6cmの交流電場、及び、±80mV/2.6cm且つ0.5〜150MHzの範囲の交流電場で、9割超の生存率となった。
【0053】
また、交流電場の印加により継代した細胞が、その後どのような増殖曲線を示すのか、トリプシン処理を行う場合の増殖曲線と比較しながら調査した。具体的には、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場をPBS(−)に置換したT−25カルチャーフラスコ40の上下方向から10分間、室温で印加することで、CHO−K1細胞を剥離した。また、PBS(−)で洗浄した後、1×Trypsin EDTA(10×Trypsin EDTA溶液をPBS(−)で10倍希釈した水溶液)で37℃、10分間処理することにより、T−25カルチャーフラスコ40からCHO−K1細胞を剥離した。剥離したそれぞれの細胞を1×10
5cells/T−25cultureflaskの細胞密度で播種した。そして、細胞播種3時間後を0時間として細胞密度を測定した。
【0054】
動物細胞の増殖は一般的に、誘導期(または遅延期:Lag phase、ラグタイム)、対数増殖期(Log phase)、定常期(Stationary phase)、死滅期(Death phase)の4つの期間を含む増殖曲線を示す。誘導期とは、細胞が分裂しない時期で、新しい環境に適応しようとしている状態の期間である。誘導期の長さは、細胞密度や播種時の損傷回復の時間に依る。
【0055】
ここで、
図5は、上記の調査を行った際の交流電場の印加とトリプシン処理による細胞継代後の増殖曲線の比較結果を示す図である。
図5に示される通り、交流電場によるCHO−K1細胞の増殖曲線は、トリプシン処理を行う場合の増殖曲線とは異なり、細胞分裂しない誘導期がほとんど存在せず、すぐに対数増殖期に入ることが明らかとなった。すなわち、
図5に示されるように、交流電場の印加により剥離した細胞がその後増殖するとともに、増殖のラグタイム(誘導期)がトリプシン処理を行う場合よりも短くなることが見いだされた。特に、0〜24時間の間において、交流電場を印加した場合の方が、トリプシン処理を行った場合に比べて細胞密度の上昇が大きいことが分かる。
【0056】
[BALB/3T3細胞]
次に、細胞41としてBALB/3T3細胞を用いた場合の結果について説明する。
図6(a)は、±320mV/2.6cm、20MHzの交流電場を10分間印加してPBS(−)中のBALB/3T3細胞に刺激を加えたときのBALB/3T3細胞の様子を示している。10分間の交流電場の印加により細胞は完全剥離した。
【0057】
図6(b)は、PBS(−)中のBALB/3T3細胞について、20MHz且つ±80〜±6500mV/2.6cmの範囲の交流電場をそれぞれ10分間印加した場合の細胞剥離率及び剥離した細胞の生存率の測定結果である。
図6(b)及び
図6(c)において、各印加条件について左側の棒グラフが細胞剥離率を示し、右側の棒グラフが生存率を示している。
【0058】
図6(b)からは、広い範囲の電場強度について細胞が剥離することが確認された。とりわけ、±160〜±1300mV/2.6cmの範囲で細胞の剥離率が8割に達することが確認された。また、電場強度がこの範囲より低く又は高くなっても、細胞の剥離率は低下するものの依然として細胞の剥離が生じることが確認された。また、±80〜±6500mV/2.6cmという広い範囲の電場強度について、9割超という高い生存率が得られることが確認された。
【0059】
図6(c)は、PBS(−)中のBALB/3T3細胞について、±320mV/2.6cm且つ0.5〜150MHzの範囲の交流電場をそれぞれ10分間印加した場合の細胞剥離率及び剥離した細胞の生存率の測定結果である。
【0060】
図6(c)からは、10〜20MHzの範囲で剥離率が9割超に達することが確認された。この範囲より周波数が低い又は高い場合、細胞の剥離率は低下する傾向がみられた。また、広い範囲の周波数について、8割超という高い生存率が保たれることも確認された。
【0061】
特に、
図6によれば、20MHz且つ±320〜±640mV/2.6cmの印加条件で完全剥離すると共に、9割超の生存率となった。また、20MHz且つ±80〜±6500mV/2.6cmの印加条件で9割超の生存率となった。また、±320mV/2.6cm且つ10〜100MHzの印加条件で9割超の生存率となった。
【0062】
上記のように、様々な種類の細胞について、交流電場の印加により細胞が刺激され、剥離する効果が得られることがわかる。細胞の剥離を行うためには、幅広い電場強度及び周波数が適用可能であり、特に有効な電場強度及び周波数を選択することにより、細胞の生存率を保ちながら、細胞の剥離効率を向上させることができる。また、細胞の剥離効率を向上させるために適した電場強度及び周波数は、細胞の種類により異なることが示された。実施例で用いられた細胞以外の細胞を用いる場合であっても、上記の結果を参考に適用する電場強度及び周波数を選択することが可能である。
【0063】
[実施形態2]
実施形態2では、細胞への刺激の一例として、細胞41としてCHO−K1細胞を培養したT−25カルチャーフラスコ40を複数用意し、それらを鉛直上下方向に重ねた状態で交流電場を上下に又は側方に印加する。
図2と同様の装置構成で、一度に複数の容器(例えばT−25カルチャーフラスコ)を処理することができるため、処理効率を向上させることができる。
【0064】
なお、容器を上下方向に重ねることに限定されるものではなく、左右方向に複数の容器を配置してもよい。複数の容器を配置することで、電極同士の距離は離間するが、その距離に応じて電圧を調整することで所望の電場強度を保つことができる。
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様に、事前に、T−25カルチャーフラスコ40に細胞41(CHO−K1細胞)を8割以上のサブコンフルエントまで培養した。培養後、培養液を取り除き、T−25カルチャーフラスコ40内の細胞41を液体42(PBS(−))で軽く洗浄した。洗浄後、新鮮な5mlの液体42(PBS(−))に置き換えた。2つのT−25カルチャーフラスコ40を重ねて2つの電極20、30で挟み、両電極間に62mVpp/cm(=±31mV/cm=±80mV/2.6cm)且つ20MHzの交流電場を室温で印加した。10分間の交流電場印加後、T−25カルチャーフラスコ40内にある5mLのPBS(−)で7〜10回ピペッティングし、細胞剥離の有無を確認した。
【0066】
その結果、
図7(a)のTopandbottomのように、T−25カルチャーフラスコ40を2つ重ねた後に2つの電極20、30を上下に配置して上下方向から交流電場を印加した結果と、
図7(b)のSidesのように、T−25カルチャーフラスコ40の側面に電極20、30を配置して横方向から交流電場を印加した結果とは、略同じであった。すなわち、いずれの印加条件においてもCHO−K1細胞は生存率96%で完全剥離した。このように、交流電場の印加方向に依存せずに細胞剥離を行うことができ、さらにはT−25カルチャーフラスコ40が複数存在していても円滑な細胞剥離を実現することができる。
【0067】
上記のように、処理対象の細胞を含む容器が複数存在しても、交流電場の印加により細胞が刺激され、剥離する効果が得られることがわかる。また、実施例で用いられた細胞以外の細胞を用いる場合であっても、上記の結果を参考に適用する電場強度及び周波数を選択することが可能である。
【0068】
[実施形態3]
実施形態3では、溶液42の種類や量によって細胞刺激の結果が変化することを説明する。
【0069】
(実施例3)
実施例1と同様に、事前に、T−25カルチャーフラスコ40に細胞41(CHO−K1細胞)を8割以上のサブコンフルエントまで培養した。
【0070】
培養後、培養液を取り除き、T−25カルチャーフラスコ40内の細胞41を液体42(PBS(−))で軽く洗浄した。洗浄後、新鮮な5mlの液体42(PBS(−))に置き換えた。このT−25カルチャーフラスコ40を2つの電極20、30で挟み、両電極間に62mVpp/cm(=±31mV/cm=±80mV/2.6cm)且つ20MHzの交流電場を室温で印加した。10分間の交流電場印加後、T−25カルチャーフラスコ40内にある5mLのPBS(−)で7〜10回ピペッティングし、細胞剥離の有無を確認した(条件1)。
【0071】
また、比較のため、洗浄後、新鮮な1mlの液体42(PBS(−))に置き換える点以外は条件1と同様の条件で細胞剥離の有無を確認した(条件2)。また、比較のため、洗浄後、液体42(PBS(−))を除去した状態(0ml)にする点以外は条件1と同様の条件で細胞剥離の有無を確認した(条件3)。また、比較のため、交流電場を印加しない点以外は条件1と同様の条件で細胞剥離の有無を確認した(条件4)。
【0072】
また、比較のため、カルシウムを含有するPBS(+)で洗浄する点、及び、洗浄後、新鮮な5mlのPBS(+)に置き換える点以外は条件1と同様の条件で細胞剥離の有無を確認した(条件5)。また、比較のため、培養後の培地(1ml)をそのまま使用して洗浄をしない点以外は、条件1と同様の条件で細胞剥離の有無を確認した(条件6)。
【0073】
図8(a)は、室温中(Room Temperature)で、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を印加してカルシウムを含有するPBS(+)中のCHO−K1細胞に0分間、10分間刺激を加えた時の、それぞれにおけるCHO−K1細胞の様子を示している。10分経過後も細胞は剥離しなかった。
【0074】
図8(b)は、各印加条件での細胞剥離率及び生存率の測定結果である。図中の生存率におけるN.Dはデータを測定していないことを表している。
【0075】
交流電場を印加しない場合(
図8(b)の一番左(条件4))や、培地中で±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を上下方向から10分間印加した場合(
図8(b)の左から2番目(条件6))には、CHO−K1細胞は剥離しなかった。
【0076】
また、0.9mMの塩化カルシウムを加えたPBS(+)中のCHO−K1細胞に対して±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を上下方向から10分間印加しても、剥離しなかった(
図8(b)の左から3番目(条件5))。なお、
図8(a)は、
図8(b)の左から3番目の例に対応している。
【0077】
また、PBS(−)でCHO−K1細胞を洗浄後、PBS(−)を除去した状態(0ml)で±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を上下方向から10分間印加した場合は、その後PBS(−)を加えてピペッティングしても、剥離しなかった(
図8(b)の右から3番目(条件3))。
【0078】
PBS(−)でCHO−K1細胞を洗浄後、PBS(−)を除去した後、改めてPBS(−)を1ml加えたところ、液深はほぼ0.4mmとなり、±80mV/2.6cm、20MHzの交流電場を上下方向から10分間印加した所、42.7%が剥離した(
図8(b)の右から2番目(条件2))。なお、
図8(b)の一番右(条件1)は、
図4(b)の右から5番目と同じであり、完全剥離するとともに95%超の生存率が得られた。
【0079】
このように、培地中およびPBS(+)中のCHO−K1細胞は交流電場を印加しても剥離しないという結果が得られた。また、PBS(−)の量を減少させる(例えば5mlから1mlへ減少させる)と交流電場の印加時における細胞の剥離率も低下するという結果が得られた。
【0080】
以上より、細胞を刺激したときの細胞の挙動が、溶液の種類や量によって変化することが見いだされた。
【0081】
[実施形態4]
実施形態4では、電極の一方が、細胞及び細胞を浸す溶液と接触している系における細胞刺激について説明を行う。
【0082】
(実施例4)
<細胞剥離装置の構成>
図9を参照して、本発明の一実施形態に係る細胞刺激装置の構成例を説明する。細胞刺激装置2は、ファンクションジェネレータ10を備えており、ファンクションジェネレータ10は、2つの電極21、31により形成された培養シャーレ3の細胞41(CHO−K1細胞)に対して交流電場を印加する印加手段として機能する。電極21は、例えばITO/PETフィルム電極であり、電極31は例えばITO/ガラス電極である。
【0083】
<実験内容及び実験結果>
図9に示されるように、上部に電極21(ITO/PETフィルム電極)、底部に電極31(ITO/ガラス電極)を配置し、交流電場を印加可能な培養シャーレ3を作成した。まず、電極31(ITO/ガラス電極)上にflexiPERM50を付着させ、5μg/cm
2のラミニンコート60を施す。ラミニンをコートした電極31(ITO/ガラス電極)上で細胞41(CHO−K1細胞)を8割以上のサブコンフルエントまで培養した。そして、培地を5mlの液体42(PBS(−))に置き換え、±80mV/1.1cm且つ各種周波数条件の交流電場を室温で10分間印加した。
【0084】
図10(a)は、上記条件の下でCHO−K1細胞に0分間、10分間刺激を加えたときの、それぞれにおけるCHO−K1細胞の様子を示している。
図10(b)は、上記条件の下での細胞剥離率の測定結果であり、
図10(c)は、上記条件の下での生存率の測定結果である。
【0085】
図10(b)に示されるように、CHO−K1細胞は、1.4MHz、5.5MHz、11MHz、20MHzの印加条件で完全剥離した。なお、
図10(a)は
図10(b)の20MHzの印加条件の時の結果に対応しており、細胞が剥離している様子が観察できる。
【0086】
また、
図10(c)に示されるように、CHO−K1細胞は、5.5MHz、11MHz、20MHzの交流電場で9割超の生存率が得られた。
【0087】
このように、対向する電極の一方が、細胞及び溶液に接触している場合であっても、幅広い周波数において細胞が刺激され、高い細胞剥離率、生存率が得られることが確認された。
【0088】
[実施形態5]
実施形態5では、コート剤の細胞剥離率及び生存率への影響について説明を行う。なお、細胞剥離装置の構成は
図2を参照して説明した構成と同様であるため、説明を省略する。
【0089】
(実施例5)
<実験内容及び実験結果>
0.5μg/cm
2のビトロネクチンコートを施したT−25カルチャーフラスコ40に細胞41(CHO−K1細胞)を培養し、交流電場を液体42(PBS(−))中、室温で10分間印加した場合の細胞剥離の様子を観察した。
【0090】
図11(a)は、±80mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場の印加(室温10分間)による結果であり、
図11(b)は、±80mV/2.6cm且つ10MHzの交流電場の印加(室温10分間)による結果である。
【0091】
図11(c)は、±80mV/2.6cmの交流電場の印加室温10分間による細胞剥離率及び生存率の測定結果である。このグラフから分かるとおり、20MHzの交流電場を印加した場合は完全剥離しているものの、10MHzの交流電場を印加した場合の剥離率は50%を下回っている。これに対して、前述の実施形態で
図4(b)に示したように、コート材を利用しない場合には、10MHzに比較的近い値である5.5MHz及び11MHzの電場を印加した場合の剥離率は90%程度になっている。これらのことから、カルチャーフラスコ(コート剤無し)を培養基材とした場合と、ビトロネクチンコートされた表面を培養基材とした場合とで、細胞の剥離率が変化していることが分かる。すなわち、培養基材の違いが、細胞に影響を与えることが確認された。
【0092】
[実施形態6]
実施形態6では、細胞への刺激の一例としてiPS細胞の剥離を例に説明を行う。その結果、iPS細胞に対しても細胞が刺激されることが見いだされた。装置構成は
図2と同様であるため、説明を省略する。
【0093】
(実施例6)
<実験内容及び実験結果>
0.5μg/cm
2のラミニン511E8コートを施したT−25カルチャーフラスコ40において細胞41(iPS細胞(771−2株、継代数6))を培養した。液体42(PBS(−))でiPS細胞を洗浄した後、0.5×TrypLEselectを5mL加えた。5%CO2インキュベータ内にiPS細胞を配置し、37℃で4分間TrypLEselect処理した後、TrypLEselectで10回ピペッティングした。
図12(a)はその結果を示しており、ピペッティングをしてもiPS細胞のコロニーは培養基板表面から殆ど剥がれなかった。
【0094】
次に、同様に準備したiPS細胞について、4分間のTrypLEselect処理時に、±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加した。4分間の交流電場の印加とTrypLEselect処理の後、ピペッティングよりも弱い剥離方法であるタッピングを、T−25カルチャーフラスコ40の側面から20回行った。
【0095】
図12(b)はその結果を示しており、iPS細胞のコロニーが全て又は部分的に剥離した。また、剥離したiPS細胞の生存率は97%であった。このように、交流電場の印加によって、iPS細胞についても細胞が刺激されて剥離しやすくなることが確認された。
【0096】
[実施形態7]
実施形態7では、細胞への刺激の一例として、交流電場の印加によって増殖が抑制(阻害)される例、及び、交流電場の印加の停止によって再び正常に増殖が開始される例を説明する。本実施形態では、Ham's F−12培地のCHO−K1細胞に対して±0.5V/cm、100MHz交流電場を2日間に渡って印加しながら培養した場合に、増殖速度に影響があるかどうかを確認した。その結果、細胞が刺激されて増殖速度が抑制されることが見いだされた。また、CHO−K1細胞の増殖が抑制された後に、±0.5V/cm且つ100MHzの交流電場の印加を停止すると、細胞が再び正常に増殖を開始するかを確認した。その結果、細胞が再び正常に増殖を開始することが見いだされた。装置構成は
図2と同様であるため、説明を省略する。
【0097】
(実施例7)
図13(a)は、比較対照のためのControlにおけるCHO−K1細胞の増殖の様子を示す図である。
図13(b)は、CHO−K1細胞に対して±0.5V/cm、100MHz交流電場を印加した場合のCHO−K1細胞の増殖の様子を示す図である。
【0098】
図13(c)は、
図13(a)及び
図13(b)の各条件における細胞密度の測定結果を示している。横軸の0、24、48はそれぞれ増殖を開始してからの時間を表しており、縦軸の数値は細胞密度を表している。左の3つは
図13(a)に対応しており、controlにおける結果を示している。右の3つは、
図13(b)に対応しており、±0.5V/cm、100MHz交流電場を印加した場合の結果を示している。
【0099】
その結果、交流電場を印加すると24時間培養後から統計的に有意なCHO−K1細胞の増殖抑制が確認され、48時間後には、Controlの60%の細胞密度となることが確認された。
【0100】
このように、±0.5V/cm且つ100MHzの交流電場の印加により、CHO−K1細胞の増殖が抑制されることが確認された。従って、本実施形態に係る細胞刺激装置は細胞増殖抑制装置として機能することが見いだされた。
【0101】
次に、
図14は、時間経過に伴う細胞密度(個数/cm
2)の値の変化(増殖の様子)を示す図である。±0.5V/cm且つ100MHzの交流電場を印加しない場合(control)、24時間印加してから印加を停止した場合、そして48時間印加してから印加を停止した場合の3通りの結果が示されている。
【0102】
24時間の時点では、比較対象のためのcontrolと比べて、細胞密度は66%となっており、増殖が抑制されている。すなわち、細胞密度がcontrolよりも緩やかな勾配で増加していくことが分かる。
【0103】
24時間後に交流電場の印加を停止した場合、24時間〜48時間の間で細胞密度がcontrolと同じ勾配で増加していくことが分かる。そして、48時間の時点では、controlと比べて、細胞密度が81%の割合になるほど増殖が進んでいる。
【0104】
一方、交流電場を48時間印加してから印加を停止した場合、0〜48時間では細胞密度は、細胞密度がcontrolよりも緩やかな勾配で増加していくことが分かる。そして48時間以降は勾配が急になり、controlと同じような勾配で増加していくことが分かる。
【0105】
このように、交流電場の印加を停止すると、細胞は再び正常に増殖を開始することが見いだされた。また、交流電場の印加停止後には増殖の勾配がcontrolと同じようになることから、交流電場の印加によって細胞にダメージが与えられて増殖が抑制されているのではなく、交流電場の印加中は増殖機能が単に抑制されているだけであることが確認された。
【0106】
[実施形態8]
実施形態8では、細胞への刺激の一例として、マイクロキャリアビーズ上で培養したCHO−K1細胞に対して、ファンクションジェネレータにより交流電場を印加する。その結果、マイクロキャリアビーズ上で培養した細胞についても交流電場の印加によって細胞が刺激され、細胞が剥離することが見いだされた。なお、装置構成は
図2と同様であるため、説明を省略する。また、マイクロキャリアビーズはコーニング社製のポリスチレンビーズを用いるが、当該ビーズに限らず、他のマイクロキャリアビーズを用いてもよい。
【0107】
(実施例8)
図15(a)は、マイクロキャリアビーズ上で培養されたCHO−K1細胞の一例を示す図である。複数のマイクロキャリアビーズ上でCHO−K1細胞が培養されている様子が観察できる。
【0108】
図15(b)は、各種条件下での剥離した細胞の数の測定結果を示す。図中、vertical swingの標記がなされているグラフが、交流電場と上下振動とを同時に加えている場合の結果であり、vortexの標記がなされているグラフが、交流電場の印加後に振動を加えた結果を表している(後述の
図15(c)も同様)。なお、上下振動処理(vertical swing)は2500rpmのvertical swingである。
【0109】
図15(b)において、一番左はトリプシンEDTA処理を10分間行った時の結果である。左から2番目は、EDTAのみを添加した溶液を加えて±320mV/2.6cm、20MHzの交流電場を10分間印加しながら上下振動処理(vertical swing)を行った時の結果である。左から3番目は、EDTAのみを添加した溶液を加えて±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加してから10分後に1分間ボルテックス処理した時の結果である。左から4番目は、EDTA処理を10分間行った時の結果である。これらのグラフから、交流電場を印加することで、トリプシンを利用することなく、トリプシンEDTA処理と同程度の細胞剥離を実現できることが分かる。また、交流電場を印加することで、EDTA処理に比べて多くの細胞が剥離することが分かる。
【0110】
また、
図15(b)の右から3番目は、EDTAを含まない溶液を加えて±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を10分間印加しながら上下振動処理(vertical swing)を行った時の結果である。右から2番目は、EDTAを含まない溶液を加えて±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加してから10分後に1分間ボルテックス処理した時の結果である。これらのグラフと左から4番目のグラフから、交流電場を印加することで、EDTAを利用することなく、EDTA処理と同程度の細胞剥離を実現できることが分かる。なお、一番右は、EDTAを含まない溶液を加えて、交流電場を印加せずに1分間ボルテックス処理した時の結果である。このように、交流電場を印加した方が、より多くの細胞が剥離することが確認された。すなわち、マイクロキャリアビーズ上で培養された細胞についても、交流電場の印加により細胞が刺激を受けて挙動が変わる(剥離が促される)ことが見いだされた。
【0111】
図15(c)は、各種条件下での剥離した細胞の生存率の測定結果を示す。トリプシンEDTA処理を行った場合は、生存率99%であった(
図15(c)の一番左)。±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加しながら、上下振動処理(vertical swing)を行った場合は、生存率95%であった(
図15(c)の右から3番目)。
【0112】
また、±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加してから10分後に1分間ボルテックス処理を行った場合は、生存率96%であった(
図15(c)の右から2番目)。その他の条件においても、9割程度以上の生存率が得られた。
【0113】
以上より、細胞基板上で培養された細胞だけではなく、マイクロキャリアビーズ上で培養された細胞についても、交流電場の印加によって細胞が刺激され、剥離することが見いだされた。
【0114】
以上説明したように、前述の各実施形態によれば、交流電場の印加により細胞に刺激を加えることによって、細胞に様々な効果(細胞の剥離率の増加、生存率の増加、細胞の増殖抑制など)をもたらすことが確認された。
【0115】
なお、前述の各実施形態では、電極が細胞刺激装置に含まれる構成について説明したが、電極が細胞刺激装置に含まれなくてもよい。例えば、T−25カルチャーフラスコ40等の上部や底部を電極板により構成し、ファンクションジェネレータ10と接続するような構成であってもよい。また、交流電場の強度に応じて、細胞を配置した細胞刺激装置の周囲にステンレス製のシールド(囲い)を設け、装置周囲への影響を低減する構成としてもよい。
【0116】
[実施形態9]
実施形態9では、細胞刺激装置の別の形態を説明する。以下、
図16を参照して、本発明の一実施形態に係る細胞刺激装置4の構成例を説明する。
【0117】
細胞刺激装置4は、電極20及び電極30の間に生成される交流電場に細胞を配置することによって、細胞に刺激を与える装置として構成される。
【0118】
電極20及び電極30は、アンプ12に接続される。アンプ12は、ファンクションジェネレータ10の電気信号を受け付けて、強度を増幅して電極に印加する。アンプ12を利用することにより、電極20及び電極30の間に生成される電場強度を、容易に調整することができる。
【0119】
電極20及び電極30は、シールド14内に配置される。シールド14は、内部で発生する電磁波を閉じ込めて、外部に漏らさない役割を果たす。これによると、アンプ12の出力を上げた場合にも、電極20及び電極30間で発生する電磁波(電波)が周囲に影響を与えることを防止することができる。
【0120】
細胞刺激装置4は、支持体16を有する。支持体16は、容器を支持する役割を果たす。支持体16は、シールド14内に配置される。支持体16は、電極20及び電極30で生成される交流電場に影響を与えない素材で構成することが好ましい。支持体16は、例えば金属や磁性体を含まない樹脂素材によって構成することができる。
【0121】
支持体16は、容器を振盪させることが可能な構成となっている。例えば支持体16は、水平方向に往復運動や旋回運動をするように構成されていてもよい。あるいは支持体16は、上下方向に運動するように構成されていてもよい。すなわち、支持体16は、図示しないアクチュエータに接続され、所望の運動をするように構成することができる。なお、この場合、アクチュエータのうち、シールド14内に配置される部材は、交流電場に影響を与えない素材で構成することが好ましい。
【0122】
支持体16は、電極20及び電極30に交流電場を印加しながら、容器を振盪させることが可能に構成されていてもよい。あるいは支持体16は、電極20及び電極30に交流電場を印加した後に、容器を振盪させることが可能に構成されていてもよい。
【0123】
細胞刺激装置4で利用することが可能な容器は、特に限定されるものではないが、
図16に示すように、複数段の容器が多段に積層された形態のもの(いわゆるスタックプレート60)を利用することが可能である。これによると、一度に多量の細胞を処理することが可能になる。
【0124】
細胞刺激装置4では、電極20及び電極30は、容器の側方に配置され、容器の横から交流電場を印加するように構成される。かかる構成によっても、細胞に交流電場を作用させることができ、細胞刺激装置1と同様の効果を発揮することができる。
【0125】
[実施形態10]
実施形態10では、振動を与えながら交流電場を印加する例を説明する。具体的には、液深をPBS(−)で2mmとしたBALB/3T3細胞のT−25カルチャーフラスコ40に上下方向から、±320mV/2.6cm且つ20MHzの交流電場を印加しながら1200rpmで水平旋回(Horizontal turn)した場合(条件a)の、細胞剥離の様子を調査した。
【0126】
また、比較のため、水平旋回処理を行わずに、当該交流電場を印加した場合(条件b)の細胞剥離の様子、当該交流電場を印加せずに1200rpmでの水平旋回処理のみを行った場合(条件c)の細胞剥離の様子をそれぞれ調査した。
【0127】
その結果、水平旋回による振動を与えながら交流電場を印加することで細胞剥離に要する時間が短縮されることが見いだされた。
【0128】
(実施例10)
図17(a)は、条件aの下での時間経過に伴う細胞剥離の様子を示す図である。左から0分、2分、5分の時点での様子が示されている。その結果、細胞剥離率は、
図17(c)の右から2番目、一番右に示される通り、2分で63%、5分で97%となった。細胞の生存率は2分、5分でともに98%であった。
【0129】
一方、
図17(b)は、条件cの下での時間経過に伴う細胞剥離の様子を示す図である。左から0分、5分の時点での様子が示されている。
図17(b)の一番右は、水平旋回を行う旋回装置上に電極20、30に挟まれたT−25カルチャーフラスコ40を載置した様子を示している。その結果、
図17(c)の一番左に示される通り、細胞剥離率は5分で20%となり、細胞の生存率は5分で94%となった。
【0130】
また、
図17(c)の左から2番目は、条件bに対応しており、細胞剥離率は5分で67%程度、細胞の生存率は5分で95%となった。
【0131】
以上より、特に、条件a及び条件bの比較の結果、交流電場を印加しながら水平旋回を行った場合の方が、交流電場を印加するだけで水平旋回を行わない場合よりも早く細胞が剥離することが確認された。すなわち、水平旋回による振動を与えながら交流電場を印加することで細胞剥離に要する時間が短縮されることが見いだされた。
【0132】
また、条件cのように水平旋回のみを行った場合には5分の時点で20%しか細胞が剥離されていない。そして、前述した通り、条件bのように交流電場を印加するだけで水平旋回を行わない場合には5分の時点で67%であった。これらを単純に合計した場合は87%であり、条件aのように交流電場を印加しながら水平旋回を行った場合は5分の時点の97%の方が大きい。このように、水平旋回と交流電場の印加との組み合わせによって、細胞剥離が効率的に行われていることが分かる。
【0133】
以上、前述の各実施形態で説明したように、本発明によれば、簡易な構成で容易に細胞を刺激することが可能となる。