(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エンジンから被駆動部材に至る動力伝達経路に振動減衰装置を設け、振動を低減する技術が知られている(特許文献1〜6参照)。特許文献1に開示される
図6のトルク伝達装置501は、内燃機関の出力軸に結合可能な第1のはずみ質量体503と、クラッチを介して変速機に対して連結・遮断可能である第2のはずみ質量体505とが設けられる。両はずみ質量体は、その間に配置された減衰装置507の作用に抗して互いに相対回動可能に支承される。減衰装置507は、環状の室511内に収納され、周方向で有効となる弾性ダンパ509を備える。環状の室511には、全周にわたって分配された2つのセグメント状の減衰器質量体(振り子)513a、513bが収容される。振り子513a、513bは、一方のはずみ質量体の少なくとも1つの回転体状の構成部分515に支持されている。
特許文献2に開示される振動低減装置も同様に、弾性ダンパと、揺動可能に支持された振り子の揺動により振動を減衰する遠心振り子ダンパとが設けられている。
【0003】
特許文献3に開示される
図7の流体トルクコンバータ517は、内燃機関によって駆動される図示しないポンプインペラが、タービンランナ519を駆動する。タービンランナ519は、タービンダンパ521の入力部523に接続される。タービンダンパ521の出力部525は、図示しないトランスミッション入力軸に接続される。タービンダンパ521は、中間フランジ529に設けられた、圧縮コイルばね531により形成される弾性ダンパ527備える。また、中間フランジ529には、一対の振り子535を有する遠心振り子ダンパ533が配置される。一対の振り子535は、中間フランジ529の外周部における半径方向外側に、周方向に分配して配置されている。
【0004】
特許文献4に開示される力伝達装置も特許文献3と同様に、ハブに結合された中間フランジにばねユニットが設けられ、中間フランジの外周側に遠心振り子ダンパが設けられている。
【0005】
特許文献5に開示される遠心振り子ダンパを備えるトーショナルバイブレーションダンパは、図示は省略するが、振り子が、フランジ部材の外周側で、周方向に複数に分配されて配置される。この場合の振り子は、フランジ部材内に形成された運動軌道内に収容された質量部材であり、周方向及び半径方向の制限された範囲でフランジ部材に対して移動可能となっている。
特許文献6に開示される自動車のトランスミッション用の遠心振り子ダンパは、図示は省略するが、軸を中心として旋回可能な回転体状の支持体に、少なくとも1つの振り子が可動に取り付けてある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各構成例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は第1構成例の振動減衰装置の斜視図である。
本構成の振動減衰装置100は、エンジンから駆動輪等の被駆動部材に至る動力伝達経路に設けられる。上記エンジンとは、内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン等が挙げられる。このエンジンにはクランクシャフトが備えられ、このクランクシャフトにトルクが出力される。
【0013】
エンジンのクランクシャフトは、トルクコンバータが接続され、このトルクコンバータの出力軸には被駆動部材が接続される。このクランクシャフトから被駆動部材までの間の動力伝達経路に、振動減衰装置100が直列に配置される。以下、一例として振動減衰装置100が、クランクシャフト下流側のフライホイールに設けられる場合を説明する。
【0014】
振動減衰装置100は、回転体11と、弾性ダンパ13と、遠心振り子ダンパ15と、を有する。この振動減衰装置100は、動吸振器(dynamic vibration absorber:DVA)として機能する。
【0015】
動吸振器は、補助的な質量体を、振動対象物にばね等を経由して取り付けることにより、振動対象物の固有振動数周辺での共振現象を抑制する。動吸振器は、補助質量体が対象物の振動を肩代わりして振動することで、振動対象物の振動を抑制する。
【0016】
クランクシャフトには、シャフト外周に固定された筒状のハブに、慣性モーメントを発生するフライホイール(はずみ車)が固定される。振動減衰装置100は、例えばこのフライホイールに組み込むことができる。
【0017】
一般に、フライホイールは、相対回転可能な第1フライホイールと第2フライホイールで構成される。第1フライホイールは、上記のハブに固定されてエンジンからの回転トルクにより回転駆動される。第2フライホイールは、第1フライホイールと相対回転可能に同心で取り付けられる。
【0018】
第1フライホイールの内周には環状室が形成され、環状室には、周方向に沿って弾性体である一対の圧縮コイルばね17を含む振動減衰装置100が収容される。
【0019】
第2フライホイールには、振動減衰装置100を構成する、外周縁が略円形の回転体11が一体に取り付けられる。回転体11の半径方向両端の外周には、半径方向外側に突出する脚部21A,21Bが形成される。この脚部21A,21Bは、第1フライホイールに軸方向へ突出して設けられた図示しないばね座凸部と対面配置される。脚部21A,21Bは、ばね座凸部に当接する圧縮コイルばね17の端部において、第1フライホイールの回転トルクに応じて圧縮コイルばね17を押し縮める。つまり、第2フライホイールは、ハブに対して相対回転する場合、圧縮コイルばね17を圧縮する。
【0020】
これにより、クランクシャフトからの回転トルクは、第1フライホイールから圧縮コイルばね17を経由して回転体11に伝達される。回転体11はトルクを受けて回転し、第2フライホイールを回転駆動する。そして、エンジントルクが変動すると、その変動が圧縮コイルばね17の弾性による伸縮によって、吸収もしくは緩和される。
【0021】
この回転体11には、外周縁23に沿って複数(本構成では合計4つ)の遠心振り子ダンパ15が円周方向に等間隔で設けられる。遠心振り子ダンパ15は、それぞれ回転体11に、回転体11の回転方法に揺動可能に支持された振り子25を有する。
【0022】
振り子25は、金属製の質量体であり、揺動動作によって振動を減衰する。本構成の振り子25は、少なくとも一部が回転体11の回転軸線の方向に弾性ダンパ13の圧縮コイルばね17と重なって配置される。また、振り子25は、回転体11の外周縁23に揺動可能に支持される。
【0023】
図2は
図1に示した振り子の斜視図である。
振り子25は、一対の側板部26A,26Bと、これら側板部26A,26Bの一辺同士を接続する底板部28とを有する。側板部26A,26Bは、回転体11の円周方向に沿う両端部に、それぞれ一対の揺動支持腕27を有する。これら揺動支持腕27の先端には軸穴29が形成される。
【0024】
この振り子25は、一対の側板部26A,26Bの間の空間が、圧縮コイルばね17を収容するばね収容凹部31となる。また、振り子25の底板部28は、回転体11に組み付けた際に、圧縮コイルばね17よりも回転体11の半径方向外側に配置される。
【0025】
図3は
図1に示した振動減衰装置の半径方向の断面図である。
回転体11の外周縁23を挟んで対向する一対の揺動支持腕27には、支持軸33の両端がそれぞれ固定される。支持軸33は、1つの振り子25に2本設けられる。回転体11の外周縁23には、それぞれの支持軸33を貫通させるガイド孔35が形成される。
【0026】
回転体11とそれぞれの揺動支持腕27との間には、振り子25の回転体厚み方向の移動を規制するカラー37が設けられる。振り子25は、同じ支持軸33が挿通される一対の揺動支持腕27の中間位置に、回転体11の厚み方向の中心Dcが一致させるように位置決めされる。また、圧縮コイルばね17は、コイル断面の円形の中心Ccが、中心Dcを通るように位置決めされる。これにより、回転体11に取り付けられた遠心振り子ダンパ15と弾性ダンパ13には、回転軸と直交する方向に遠心力が安定して作用する。
【0027】
図4は
図1に示した振動減衰装置の回転軸方向から見た一部拡大正面図である。
ガイド孔35は、回転体11の回転軸を中心とした円弧形状、サイクロイド曲線やエピサイクロイド曲線に沿った形状に形成される。振り子25は、支持軸33をガイド孔35に貫通することで、回転体11の外周縁23に取り付けられる。これにより、振り子25は、支持軸33がガイド孔35に沿って移動する範囲で、回転体11に対して揺動可能となる。
【0028】
振動減衰装置100は、振り子25の重心が圧縮コイルばね17より半径方向外側に配置されることで、同重量の振り子25が内側に配置される構成よりも制振性能が向上する。即ち、トルク変動を打ち消すトルクが増加する。
【0029】
このトルクQは、次式により得られる。
Q=mω
2RLβ
但し、
m:質量
ω:角速度
β:振り角
R:回転軸中心から揺動中心までの径方向距離
L:揺動中心から振り子25の重心までの距離
である。
【0030】
遠心振り子ダンパ15は、振り子25を同重量とした場合でも、距離R、Lを大きくすることで、トルク変動を打ち消すトルクが増加する。つまり、ダンパの制振性能は、距離R、Lが伸びることにより向上する。
【0031】
本構成の振動減衰装置100は、弾性ダンパ13の圧縮コイルばね17を、回転体11と遠心振り子ダンパ15の間に配置することで、遠心振り子ダンパ15と弾性ダンパ13の制振性能が共に向上する。
【0032】
図4に示すように、遠心振り子ダンパ15は、回転体11と一体に回転するため、遠心振り子ダンパ15は、振り子25の質量によって振動減衰特性が変化する。そのため、遠心振り子ダンパ15に入力される振動の振幅に基づいて、振り子25の質量、個数等が決定される。
【0033】
例えば、エンジンを駆動源とする車両において、エンジンで燃料が燃焼してクランクシャフトからトルクが出力されると、そのトルクは弾性ダンパ13及び遠心振り子ダンパ15を経由して、トルクコンバータに伝達される。その場合、エンジンの特性により、クランクシャフトから出力されるトルクに変動が生じたり、回転軸線を中心とする捻り振動が生じたりする。例えば、エンジンが、燃焼効率が相対的に良好な領域で運転されると、爆発力が増すためトルク変動幅が相対的に大きくなる。
【0034】
エンジンにこのようなトルク変動が生じると、弾性ダンパ13は、圧縮コイルばね17が伸縮して振動を吸収もしくは緩和する。弾性ダンパ13は、振動の周波数が高いほど、振動吸収機能が高い。また、弾性ダンパ13は、圧縮コイルばね17の伸縮により振動を減衰する構成であるため、入力されるトルクの振幅が相対的に大きくても、ばね定数の設計によりその振動を減衰できる。
【0035】
また、遠心振り子ダンパ15は、入力されるトルクに変動が生じて、回転体11が円周方向に振動すると、回転体11の振動よりも遅れて振り子25がガイド孔35に沿って揺動する。この振り子25の揺動動作は、クランクシャフトの回転速度に依存する振動を低減させる。遠心振り子ダンパ15は、弾性ダンパ13とは振動吸収特性が異なり、トルク変動の周波数には依存しておらず、回転軸の回転速度に依存する。このため、弾性ダンパ13では吸収できない周波数の振動が、遠心振り子ダンパ15により吸収され、高い制振性能が得られる。
【0036】
このようにして、エンジンから出力されたトルクは、弾性ダンパ13及び遠心振り子ダンパ15を経由して、振動が減衰された状態でトルクコンバータに伝達される。そして、トルクコンバータから変速機のインプットシャフトに伝達され、変速機から出力されたトルクは、駆動輪に伝達されて安定した車両の駆動力を発生させる。
【0037】
本構成の振動減衰装置100は、回転体11の回転軸線の方向に関して、弾性ダンパ13と重なって振り子25が配置される。振り子25は、弾性ダンパ13の外側を包囲して配置されるため、その形状に制限を持たない。すなわち、振り子25は、弾性ダンパ13の外側を覆うことで、半径方向外側に向かって変位しても、弾性ダンパ13と干渉することがない。その結果、振り子25は、円周方向や、半径方向外側に突出する形状の設計自由度を高められる。
【0038】
また、本構成の振り子25は、同重量の場合、半径方向内側に配置したものと比較して、回転中心軸線からの距離を伸ばせるので制振性能が向上する。
【0039】
また、振り子25は、弾性ダンパ13の圧縮コイルばね17と、回転体11の径方向に関して同じ位置に配置される。しかし、本構成の振り子25は、圧縮コイルばね17を包囲して設けられ、内側が凹んだ形状(ゆりかご形状)である。そのため、回転体11の円周方向に関しては、弾性ダンパ13と干渉することがない。よって、圧縮コイルばね17は、回転体11の外周縁23に沿って、円弧形状で長い範囲にわたって配置可能となる。したがって、弾性ダンパ13は、回転体11の外周縁23に沿った長い圧縮コイルばね17により、弾性ダンパ13の減衰性能を容易に向上させることができる。
【0040】
以上より、振動減衰装置100は、振り子25を弾性ダンパ13の外側に配置しつつ、弾性ダンパ13の円弧長を長くできる。しかも、小さいスペースに振り子25及び弾性ダンパ13を共に収容でき、外形を小型化できる。
【0041】
したがって、本構成の振動減衰装置100によれば、小型化を図りつつ、遠心振り子ダンパ15と、弾性ダンパ13の減衰性能を共に向上できる。すなわち、遠心振り子ダンパ15と弾性ダンパ13は、省スペースな配置でありながら、いずれか一方のダンパ機能を犠牲することなく、共に最適な状態で機能させることが可能となる。
【0042】
次に、上記した振動減衰装置100の変形例を説明する。
図5は変形例の振動減衰装置の斜視図である。
変形例の振動減衰装置100Aは、遠心振り子ダンパ15Aが、一対の揺動支持板39を有する。一対の揺動支持板39は、回転体11の外周縁23に沿った円弧状に形成される。揺動支持板39は、回転体11の外周縁23に固定される基部41と、基部41から外周縁23の半径方向外側に張り出す支持板部43とからなる。支持板部43は、基部41よりも薄肉で形成され、圧縮コイルばね17との干渉を回避している。
【0043】
この支持板部43には、上記同様のガイド孔35が形成される。振り子25は、この支持板部43のガイド孔35に支持軸33を貫通させて、回転体11に揺動可能に取り付けられる。支持軸33は、支持板部43を貫通した背面で、支持板部43から抜け止めされる。つまり、支持軸33は、一対の揺動支持板39にわたって貫通されない。これにより、振り子25は、支持軸33が、回転体11の半径方向における圧縮コイルばね17と重なる位置に配置可能となる。
【0044】
この振動減衰装置100Aによれば、圧縮コイルばね17の両脇側に配置した支持板部43が揺動支持腕27を支持するので、揺動支持腕27と圧縮コイルばね17との接触を回避できる。その結果、遠心振り子ダンパ15Aの振り子25を、圧縮コイルばね17と干渉させることなく、
図2に示す距離Rを更に延長でき、制振性能をより向上できる。
【0045】
上記の揺動支持板39は一例であって、他の形状の部材を用いて、前述の距離R,Lを適宜、変更することができる。
【0046】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0047】
例えば、振り子25は、回転体11の外周縁23を挟んで対向する一対の揺動支持腕27を2組備えた構成に限らず、1組の揺動支持腕27で回転体11に支持される構成であってもよい。
また、上記構成例では、振動減衰装置をフライホイールに設ける場合を例に説明したが、これに限らない。振動減衰装置は、その他、エンジンから被駆動部材に至る動力伝達経路、例えばトルクコンバータのフロントカバーや動力伝達軸等に、弾性ダンパ13及び遠心振り子ダンパ15を備えた回転体11を一体回転するように設けてもよい。
【0048】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) トルクを受けて回転する回転体と、
前記回転体の外周縁に沿って設けられ、前記トルクの変動によって前記回転体の周方向に弾性体が伸縮する弾性ダンパと、
前記回転体に設けられ、前記回転体の回転方向に揺動可能な振り子を有する遠心振り子ダンパと、
を備え、
前記振り子の少なくとも一部は、前記回転体の回転軸線の方向に前記弾性ダンパと重なって配置されていることを特徴とする振動減衰装置。
この振動減衰装置100によれば、遠心振り子ダンパ15の振り子25と弾性ダンパ13とが、共に回転体11の外周縁23に配置される。このため、振り子25は、回転体11の回転中心軸線からの距離を伸ばせ、弾性ダンパ13は、回転体11の外周縁23に沿って長く配置できる。その結果、双方の振動減衰効果を共に高められる。
【0049】
(2) (1)の振動減衰装置であって、前記遠心振り子ダンパは、前記回転体の外周縁の回転軸方向両面を挟んで前記外周縁に揺動可能に支持される少なくとも一対の揺動支持腕を有し、
前記一対の揺動支持腕の間に、前記弾性ダンパが配置されたことを特徴とする振動減衰装置。
この振動減衰装置100によれば、遠心振り子ダンパ15の振り子25が、回転体11の半径方向内側へ向けて延出された一対の揺動支持腕27を有し、揺動支持腕27は、回転体11の外周縁23を軸方向両面から挟むように、外周縁23に揺動可能に支持される。つまり、振り子25は、内側が凹んだ形状(ゆりかご形状)に形成され、振り子25内の空間に弾性ダンパ13が内包される。そのため、振り子25は、形状に制限を持たず、設計自由度が高くなる。これにより、小さいスペースに振り子25及び弾性ダンパ13を収容でき、振動減衰装置100を小型化できる。