(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
〔第一の実施の形態〕
鉄筋コンクリート造柱の構築方法について説明する。
【0019】
1. 主筋とせん断補強筋と網状仕切材の設置
図1は、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の設置状態の第一例を示した水平断面図であり、
図2は、
図1に示すII−IIに沿った面を矢印方向に見て示した鉛直断面図であり、
図3は、
図1に示すIII−IIIに沿った面を矢印方向に見て示した鉛直断面図である。
図4は、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の設置状態の第二例を示した水平断面図である。
図5は、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の設置状態の第三を示した水平断面図である。
図6は、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の設置状態の第四例を示した水平断面図である。
【0020】
図1〜
図6に示すように、複数の主筋2a及び複数のせん断補強筋(帯筋)2bを配筋することによって、これら主筋2a及びせん断補強筋2bからなる鉄筋組立体2を組み立てるとともに、鉄筋組立体2の外周面における鉄筋相互間を網状仕切材3によって覆うように網状仕切材3と鉄筋組立体2を組み付ける。具体的には、以下の(1)〜(4)の何れかのようにして、主筋2aとせん断補強筋2bと網状仕切材3を組み付ける。
【0021】
(1)
図1〜
図3に示すように、まず、複数の主筋2aを鉛直方向に延在させるように、且つ上から見て正方形枠状又は長方形枠状に配列させるように配筋する。なお、主筋2aの配筋については、主筋2aを上から見て円形枠状に配列させるようにしてもよい。
続いて、網状仕切材3を主筋2aの間において鉛直方向に配列するように網状仕切材3を結束線等によって主筋2aに取り付けることによって、網状仕切材3を鉛直面に沿って設置する。網状仕切材3は、樹脂で形成してあるとともに、幅が隣り合う主筋2aの間隔と同等になるように構成してあり、目開き寸法をコンクリートの骨材が嵌り込む大きさ、例えば5mm程度に設定してある。
続いて、複数のせん断補強筋2bを主筋2aに囲繞するよう、且つ主筋2aの長手方向に所定間隔で配列するように配筋する。
【0022】
(2)
図4に示すように、主筋2a及びせん断補強筋2bを配筋するが、主筋2a及びせん断補強筋2bの配置は上述の(1)の場合と同様である。続いて、ラス網(メタルラス)、網状編物(可撓性線材を網状に編んだもの)、金網又は打抜金網(パンチングメタル、多孔板)からなる網状仕切材3をせん断補強筋2bの外側に張り付けて、網状仕切材3によってせん断補強筋2bを囲繞する。そして、網状仕切材3を結束線等によって主筋2a或いはせん断補強筋2bに取り付ける。
【0023】
(3)
図5に示すように、ラス網、網状編物、金網又は打抜金網からなる網状仕切材3を柱面状に形成した後、網状仕切材3の外側に主筋2a及びせん断補強筋2bを配筋して、網状仕切材3を主筋2aの内側に張り付ける。そして、網状仕切材3を結束線等によって主筋2a或いはせん断補強筋2bに取り付ける。なお、主筋2a及びせん断補強筋2bの配置は上述の(1)の場合と同様である。
【0024】
(4)
図6に示すように、まず、主筋2aを鉛直方向に延在させるように、且つこれら主筋2aを上から見て正方形枠状又は長方形枠状に配列させるように配筋する。
続いて、網状編物又は金網からなる網状仕切材3を主筋2aに沿って柱面状に組み上げるが、この際、網状仕切材3を主筋2aの外側と内側を交互に通過させて、上から見てジグザグ状に蛇行させるように設置する。
続いて、複数のせん断補強筋2bを主筋2aに囲繞するよう、且つ主筋2aの長手方向に所定間隔で配列するように配筋する。
【0025】
なお、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3を(1)〜(4)の何れのように設置した場合にも、以後の工程は共通する。
【0026】
2. 型枠の設置
続いて、
図7に示すように、せん断補強筋2b及び網状仕切材3から外側へ所定の間隔(かぶり厚)だけを置いて型枠4を正方形筒状又は長方形筒状に組み立てて、鉄筋組立体2を型枠4によって囲繞する。従って、型枠4の内側の空間は、鉄筋組立体2及び網状仕切材3によって鉄筋組立体2及び網状仕切材3の内側の領域と外側の領域に仕切られることになる。
【0027】
3. 外側コンクリートの打設
続いて、
図8に示すように、例えば40%以下のように水セメント比の低いフレッシュコンクリート5を網状仕切材3の外側に所定高さh1(例えば60cm)になるまで打設する。この際、コンクリート5が網状仕切材3によって堰き止められる。コンクリート5のモルタル成分が網状仕切材3の開口から網状仕切材3の内側に漏出するが、コンクリート5の水セメント比及びスランプフロー値が低いので、モルタル成分の網状仕切材3の内側への漏れ量は少ない。また、コンクリート5の骨材は網状仕切材3の開口よりも大きいので、網状仕切材3の開口を通過しない。コンクリート5を所定高さh1を超えて打設しないのは、コンクリート5の重量によって多量のモルタル成分が網状仕切材3の内側に漏出するのを防止するためである。
なお、水セメント比とは、単位フレッシュコンクリート量におけるセメントの質量(C [kg])に対するそのコンクリートの水の質量(W [kg])の割合(W/C)をいう。スランプフロー値とは、スランプフロー試験方法(JIS A 1150)によって計測された値であり、スランプフロー値が高いほどコンクリートの流動性が高い。
【0028】
4. 内側コンクリートの打設
続いて、コンクリート5の硬化前に、
図9に示すように、網状仕切材3の内側にフレッシュコンクリート6をコンクリート5の高さh1にほぼ等しい高さになるまで打設する。このコンクリート6は、水セメント比がコンクリート5よりも高く調整され、スランプフロー値もコンクリート5よりも高く調整されている。コンクリート6の水セメント比及びスランプフロー値が高いので、コンクリート6のモルタル成分が網状仕切材3の開口に充填されやすい。そのため、網状仕切材3においてコンクリート5,6が互いに親和し、コンクリート5,6の一体性を高めることができる。なお、コンクリート6の打設高さをコンクリート5の高さにほぼ等しくするのは、コンクリート6の打設高さをコンクリート5の打設高さより高くすると、コンクリート5の表面よりも高い位置のコンクリート6のモルタル成分が網状仕切材3の外側に漏出してしまうので、そのような漏出を防止するためである。
【0029】
5. 締め固め
コンクリート6の打設後、
図10に示すように、コンクリート6にバイブレータ9を差し込み、バイブレータ9によってコンクリート6に加振すると、外側のコンクリート5にも振動が伝播する。そうすると、コンクリート5が型枠4の内の隅々まで充填されるとともに、コンクリート5,6が鉄筋組立体2の鉄筋相互間の空きにも充填される。更に、コンクリート5,6のモルタル成分が網状仕切材3の開口に充填されるので、網状仕切材3近傍においてコンクリート5とコンクリート6がより効率的に互いに親和する。更に、コンクリート6の水セメント比がコンクリート5の水セメント比よりも高いので、コンクリート6のモルタル成分が振動によりコンクリート5に拡散する。そのため、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3近傍における局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0030】
なお、コンクリート5,6の打設後に締め固めを行うのは、コンクリート6の打設前にコンクリート5を締め固めるとコンクリート5のモルタル成分が網状仕切材3の内側に多量に流出するのでそのような流出を防止するためである。
【0031】
6. 打ち重ね
以後、同様にして外側のコンクリート5の打設と、内側のコンクリート6の打設と、コンクリート5,6の締め固めとを順次繰り返し行うことによって、コンクリート5,6の総高さを目的の柱の高さにまで打設する。
【0032】
7. 硬化・脱型
続いて、コンクリート5,6を養生して硬化させたら、型枠4を解体する。その後、更にコンクリート5,6を養生する。このとき、コンクリート6の水セメント比がコンクリート5の水セメント比よりも高いので、硬化・養生の際にもコンクリート6の水分がコンクリート5に拡散する。そのため、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の近傍に水分が滞留することがなく、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の近傍の局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0033】
8. 効果
以上の実施形態によれば、型枠4の内側の空間を網状仕切材3によって区切ったので、コンクリート5,6の打ち分けを行える。特に、水セメント比の高いコンクリート6の打設前に水セメント比の低いコンクリート5を打設したので、コンクリート5の打設時にコンクリート5のモルタル成分が網状仕切材3の内側に多量に漏出することを抑制できる。
【0034】
また、外側のコンクリート5の水セメント比が低いので、施工された鉄筋コンクリート造柱の強度が高い。一方、内側のコンクリート6は外側のコンクリート5よりも水セメント比が高いものの、硬化したコンクリート6が硬化したコンクリート5によって補強され、鉄筋コンクリート造柱全体としての強度も確保される。これは、外側のコンクリート5の硬化前に内側のコンクリート6を打設したので、硬化したコンクリート5,6同士の一体性が高いためである。
【0035】
また、コンクリート5の水セメント比がコンクリート6よりも低いので、コンクリート5,6の締め固め時や硬化時にコンクリート6の水分がコンクリート5に拡散する。そのため、主筋2a、せん断補強筋2b及び網状仕切材3の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えることができるので、その部分が耐久性の観点から弱点となることがない上、網状仕切材3近傍におけるコンクリート5,6の塩分浸透性及び中性化速度の低下を図れる。それゆえ、主筋2a及びせん断補強筋2bの経時劣化・腐食を抑えることができる。
【0036】
〔第二の実施の形態〕
鉄筋コンクリート造壁の構築方法について説明する。
【0037】
1. 壁筋と網状仕切材の設置
図11は、壁筋22及び網状仕切材23の設置状態を示した水平断面図であり、
図12は、
図11に示すXII−XIIに沿った面を矢印方向に見て示した鉛直断面図であり、
図13は、
図11に示すXIII−XIIIに沿った面を矢印方向に見て示した鉛直断面図である。
【0038】
図11〜
図13に示すように、鉛直面に沿った一対の格子状の壁筋22を壁厚方向に間隔を置いて配筋するとともに、壁筋22における鉄筋相互間を網状仕切材23によって覆うように網状仕切材23と壁筋22を組み付ける。具体的には、以下のようにして一対の壁筋22及び一対の網状仕切材23を設置する。
【0039】
まず、主筋(縦筋)22aを鉛直方向に延在させるように、且つ水平方向に所定間隔で2列に配列させるように配筋する。
続いて、ラス網、網状編物、金網又は打抜金網により構成された網状仕切材23を主筋22aの壁厚方向外側に張り付けて、網状仕切材23を結束線等によって主筋22aに取り付けることによって網状仕切材23を鉛直面に沿って設置する。この際、網状仕切材23が縦横に延びた線材から構成されている場合、網状仕切材23のうち上下方向に延在した線材が主筋22aの壁厚方向外側に重ならないようにすることが好ましい。また、網状仕切材23の目開き寸法はコンクリートの骨材が嵌り込む大きさ、例えば5mm程度に設定されている。
続いて、配力筋(横筋)22bを主筋22aの壁厚方向外側で水平方向に延在させるように、鉛直方向に所定間隔で2列に配列させるように配筋して、配力筋22bと主筋22aの間に網状仕切材23を挟み込む。
【0040】
なお、
図14に示すように、主筋22a及び配力筋22bの配筋後に、網状仕切材23を配力筋22bの壁厚方向外側に張り付けて、網状仕切材23を結束線等によって配力筋22bに取り付けてもよい。また、
図15に示すように、主筋22aの配筋後に、網状仕切材23を主筋22aの壁厚方向内側に張り付けて、網状仕切材23を結束線等によって主筋22aに取り付けてもよい(この場合、配力筋22bの配筋は網状仕切材23の設置前、設置後の何れでもよい)。また、
図16に示すように、主筋22aの配筋後に、網状仕切材23を主筋22aの外側と内側に交互に通過させて、上から見てジグザグ状に蛇行するように設置してもよい(この場合、配力筋22bの配筋は網状仕切材23の設置後である)。
【0041】
2. 型枠の設置
続いて、
図17に示すように、一対の壁筋22及び網状仕切材23から壁厚方向外側に間隔を置いて一対の型枠24を組み立てて、これら型枠24を互いに対向させるように立設することによって、これら型枠24を壁筋22に対して平行に設ける。従って、一対の型枠24の間の空間は、一対の壁筋22及び一対の網状仕切材23によってこれら壁筋22及び網状仕切材23の壁厚方向内側の領域と壁厚方向外側の領域に仕切られることになる。なお、片側の型枠24を設置し、その後に一対の壁筋22及び網状仕切材23を設置し、更にその後にもう一方の型枠24を設置するという手順でもよい。
【0042】
3. 外側コンクリートの打設
続いて、
図18に示すように、例えば40%以下のように水セメント比の低いフレッシュコンクリート25を網状仕切材23の壁厚方向外側に所定高さh2(例えば60cm)になるまで打設する。この際、コンクリート25が網状仕切材23によって堰き止められる。コンクリート25のモルタル成分が網状仕切材23の開口から網状仕切材23の壁厚方向内側に漏出するが、コンクリート25の水セメント比及びスランプフロー値が低いので、モルタル成分の網状仕切材23の壁厚方向内側への漏れ量は少ない。また、コンクリート25の骨材は網状仕切材23の開口よりも大きいので、網状仕切材23の開口を通過しない。
【0043】
4. 内側コンクリートの打設
コンクリート25の硬化前に、
図19に示すように、網状仕切材23の壁厚方向内側にフレッシュコンクリート26をコンクリート25の高さh2にほぼ等しい高さになるまで打設する。このコンクリート26は、水セメント比がコンクリート25よりも高く調整され、スランプフロー値もコンクリート25よりも高く調整されている。コンクリート26の水セメント比及びスランプフロー値が高いので、コンクリート26のモルタル成分が網状仕切材23の開口に充填されやすい。そのため、コンクリート25,26が互いに親和し、コンクリート25,26の一体性を高めることができる。
【0044】
5. 締め固め
コンクリート26の打設後、
図20に示すように、コンクリート26にバイブレータ29を差し込み、バイブレータ29によってコンクリート25に加振すると、外側のコンクリート25にも振動が伝播する。そうすると、コンクリート25が型枠24の内の隅々まで充填されるとともに、コンクリート25,26が壁筋22の鉄筋相互間の空きにも充填される。更に、コンクリート25,26のモルタル成分が網状仕切材23の開口に充填されるので、コンクリート25とコンクリート26がより効率的に互いに親和する。更に、コンクリート26の水セメント比がコンクリート25の水セメント比よりも高いので、コンクリート26のモルタル成分が振動によりコンクリート25に拡散する。そのため、壁筋22及び網状仕切材23の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0045】
6. 打ち重ね
以後、同様にして外側のコンクリート25の打設と、内側のコンクリート26の打設と、コンクリート25,26の締め固めとを順次繰り返し行うことによって、コンクリート25,26の総高さを目的の壁の高さにまで打設する。
【0046】
7. 硬化・脱型
コンクリート25,26を養生して硬化させたら、型枠24を解体する。その後、更にコンクリート25,26を養生する。このとき、コンクリート26の水セメント比がコンクリート25の水セメント比よりも高いので、硬化・養生の際にもコンクリート26の水分がコンクリート25に拡散する。そのため、壁筋22及び網状仕切材23の近傍に水分が滞留することがなく、壁筋22及び網状仕切材23の近傍の局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0047】
8. 効果
以上の実施形態によれば、一対の型枠24の間の空間を一対の網状仕切材23によって区切ったので、外側のコンクリート25と内側のコンクリート26の打ち分けを行える。特に、水セメント比の低いコンクリート25を先に打設したので、コンクリート25の打設時にコンクリート25のモルタル成分が網状仕切材23の内側に多量に漏出することを抑制できる。
【0048】
また、外側のコンクリート25の水セメント比が低いので、施工された鉄筋コンクリート造壁の強度が高い。一方、内側のコンクリート26は外側のコンクリート25よりも水セメント比が高いものの、硬化したコンクリート26が硬化したコンクリート25によって補強され、鉄筋コンクリート造壁全体としての強度も確保される。これは、外側のコンクリート25の硬化前に内側のコンクリート26を打設したので、硬化したコンクリート25,26同士の一体性が高いためである。
【0049】
また、コンクリート25の水セメント比がコンクリート26よりも低いので、コンクリート25,26の締め固め時や硬化時にコンクリート26の水分がコンクリート25に拡散し、壁筋22及び網状仕切材23の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えることができるので、その部分が耐久性の観点から弱点となることがない上、網状仕切材23及び壁筋22近傍におけるコンクリート25,26の塩分浸透性や中性化速度も低い。よって、壁筋22の経時劣化・腐食を抑えることができる。
【0050】
〔第三の実施の形態〕
鉄筋コンクリート造外壁の構築方法について説明する。
【0051】
1. 壁筋と網状仕切材の設置
図21は、壁筋42及び網状仕切材43の設置状態の第一例を示した水平断面図であり、
図22は、
図21に示すXXII−XXIIに沿った面を矢印方向に見て示した鉛直断面図である。
【0052】
図21及び
図22に示すように、鉛直面に沿った格子状の壁筋42を配筋するとともに、壁筋42における鉄筋相互間を網状仕切材43によって覆うように網状仕切材43と壁筋42を組み付ける。具体的には、以下のようにして壁筋42及び網状仕切材43を設置する。
【0053】
まず、主筋(縦筋)42aを鉛直方向に延在させるように、且つ水平方向に一列に配列させるように配筋する。
続いて、ラス網、網状編物、金網又は打抜金網からなる網状仕切材43を主筋42aの屋外側に張り付けて、網状仕切材43を結束線等によって主筋42aに取り付けることによって網状仕切材43を鉛直面に沿って設置する。この際、網状仕切材43が縦横に延びた線材からなる場合、網状仕切材43のうち上下方向に延在した線材が主筋42aの屋外側に重ならないようにすることが好ましい。また、網状仕切材43の目開き寸法はコンクリートの骨材が嵌り込む大きさ、例えば5mm程度に設定されている。
続いて、配力筋(横筋)42bを主筋42aの屋外側で水平方向に延在させるように、且つ水平方向に所定間隔で配列させるように配筋して、配力筋42bと主筋42aの間に網状仕切材43を挟み込む。
【0054】
なお、
図23に示すように、網状仕切材43を主筋42aの屋内側に張り付けて、配力筋42bを網状仕切材43の屋内側に配筋して、配力筋42bと主筋42aの間に網状仕切材43を挟み込んでもよい。また、
図24に示すように、壁筋42(主筋42aと配力筋42bのどちらが屋外側でもよい)の配筋後、網状仕切材43を壁筋42の屋外側又は屋内側に張り付けて、網状仕切材43を結束線等によって壁筋42に取り付けてもよい。また、
図25に示すように、主筋42aの配筋後に、網状仕切材43を主筋42aの外側と内側に交互に通過させて、上から見てジグザグ状に蛇行するように設置してもよい(この場合、配力筋42bは網状仕切材43の設置後に主筋42aの屋内側又は屋外側に配筋する)。
【0055】
2. 型枠の設置
続いて、
図26に示すように、壁筋42及び網状仕切材43からそれぞれ屋外側及び屋内側に間隔を置いて一対の型枠44を組み立てて、これら型枠44を互いに対向させるように立設することによって、これら型枠44を壁筋42に対して平行に設ける。従って、一対の型枠44の間の空間は、壁筋42及び網状仕切材43によってこれら壁筋42及び網状仕切材43の屋内側の領域と屋外側の領域に仕切られることになる。
なお、片側の型枠44を設置し、その後に壁筋42及び網状仕切材43を設置し、更にその後にもう一方の型枠44を設置するという手順でもよい。
【0056】
3. 屋外側コンクリートの打設
続いて、
図27に示すように、例えば40%以下のように水セメント比の低いフレッシュコンクリート45を網状仕切材43の屋外側に所定高さh3(例えば60cm)になるまで打設する。この際、コンクリート45が網状仕切材43によって堰き止められる。コンクリート45のモルタル成分が網状仕切材43の開口から網状仕切材43の屋内側に漏出するが、コンクリート45の水セメント比及びスランプフロー値が低いので、モルタル成分の網状仕切材43の屋内側への漏れ量は少ない。また、コンクリート45の骨材は網状仕切材43の開口よりも大きいので、網状仕切材43の開口を通過しない。
【0057】
4. 屋内側コンクリートの打設
続いて、コンクリート45の硬化前に、
図28に示すように、網状仕切材43の屋内側にフレッシュコンクリート46をコンクリート45の高さh3にほぼ等しい高さになるまで打設する。このコンクリート46は、水セメント比がコンクリート45よりも高く調整され、スランプフロー値がコンクリート45よりも高く調整されている。コンクリート46の水セメント比及びスランプフロー値が高いので、コンクリート46のモルタル成分が網状仕切材43の開口に充填されやすい。そのため、コンクリート45,46が互いに親和し、コンクリート45,46の一体性を高めることができる。
【0058】
5. 締め固め
コンクリート46の打設後、
図29に示すように、コンクリート46にバイブレータ49を差し込み、バイブレータ49によってコンクリート45に加振すると、外側のコンクリート45にも振動が伝播する。そうすると、コンクリート45、46が型枠44の内の隅々まで充填されるとともに、コンクリート45,46が壁筋42の鉄筋相互間の空きにも充填される。更に、コンクリート45,46のモルタル成分が網状仕切材43の開口に充填されるので、網状仕切材43近傍においてコンクリート45とコンクリート46がより効率的に互いに親和する。更に、コンクリート46の水セメント比がコンクリート45の水セメント比よりも高いので、コンクリート46のモルタル成分が振動によりコンクリート45に拡散する。そのため、壁筋42及び網状仕切材43の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0059】
6. 打ち重ね
以後、同様にして屋外側のコンクリート45の打設と、屋内側のコンクリート46の打設と、コンクリート45,46の締め固めとを順次繰り返し行うことによって、コンクリート45,46の総高さを目的の外壁の高さにまで打設する。
【0060】
7. 硬化・脱型
コンクリート45,46を養生して硬化させたら、型枠44を解体する。その後、更にコンクリート45,46を養生する。このとき、コンクリート46の水セメント比がコンクリート45の水セメント比よりも高いので、硬化・養生の際にもコンクリート46の水分がコンクリート45に拡散する。そのため、壁筋42及び網状仕切材43の近傍に水分が滞留することがなく、壁筋42及び網状仕切材43の近傍の局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0061】
8. 効果
以上の実施形態によれば、屋外側のコンクリート45と屋内側のコンクリート46を網状仕切材43によって打ち分けることができる。特に、水セメント比の低いコンクリート45を先に打設したので、コンクリート45の打設時にコンクリート45のモルタル成分が屋内側に多量に漏出することを抑制できる。
【0062】
また、屋外側のコンクリート45の水セメント比が低いので、施工された鉄筋コンクリート造外壁は屋外の環境に対する耐性や強度が向上する。一方、屋内側のコンクリート46は屋外側のコンクリート45よりも水セメント比が高いものの、硬化したコンクリート46が硬化したコンクリート45によって補強され、鉄筋コンクリート造壁全体としての強度も確保される。これは、屋外側のコンクリート45の硬化前に屋内側のコンクリート46を打設したので、硬化したコンクリート45,46同士の一体性が高いためである。
【0063】
また、コンクリート45がコンクリート46よりも水セメント比が低いので、コンクリート45,46の締め固め時や硬化時にコンクリート46の水分がコンクリート45に拡散し、壁筋42及び網状仕切材43の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えることができるので、その部分が耐久性の観点から弱点となることがない上、網状仕切材43及び壁筋42近傍におけるコンクリート45,46の塩分浸透性や中性化速度が低い。よって、壁筋42の経時劣化・腐食を抑えることができる。
【0064】
〔第四の実施の形態〕
鉄筋コンクリート造梁の構築方法について説明する。
【0065】
1. 型枠の設置
まず、
図30に示すように、支保工上に底型枠64aを水平に設置するとともに、底型枠64aの両側部に側型枠64bを立設して、底型枠64a及び側型枠64bからなる断面U字型の型枠64を設置する。続いて、スラブ型枠64cを側型枠64bの上端から側方へ水平に延出するように設置する。
【0066】
2. 主筋とせん断補強筋と網状仕切材の設置
続いて、
図31及び
図32に示すように、複数の主筋62a及び複数のせん断補強筋(あばら筋)62bをスペーサ等によって型枠44の内面から内側へ所定の間隔(かぶり厚)を置いて型枠44に配筋することによって、これら主筋62a及びせん断補強筋62bからなる鉄筋組立体62を組み立てるとともに、鉄筋組立体62の側面及び下面における鉄筋相互間を網状仕切材63によって覆うように網状仕切材63と鉄筋組立体62を組み付ける。従って、型枠64の内側の空間は、網状仕切材63によって網状仕切材63の内側の領域と外側の領域に仕切られることになる。
【0067】
具体的には、以下のようにして鉄筋組立体62及び網状仕切材63を設置する。
まず、主筋62aを梁軸方向(水平方向)に延在させるように、且つ梁軸方向に見て長方形枠状又は正方形枠状に配列させるように配筋する。
続いて、側方及び下方に位置する主筋62aの間において網状仕切材63を水平方向に配列するように、網状仕切材63を結束線等によって主筋62aに取り付ける。これによって、側方に位置する網状仕切材63を鉛直面に沿って設置するとともに、下方に位置する網状仕切材63を水平面に沿って設置する。網状仕切材63は、樹脂で形成してあるとともに、下方の網状仕切材63の幅が梁幅方向に隣り合う主筋62aの間隔と同等になるように構成してあり、側方の網状仕切材63は梁成方向に隣り合う主筋62aの間隔と同等になるように構成してあり、網状仕切材63の目開き寸法をコンクリートの骨材が嵌り込む大きさ、例えば5mm程度に設定してある。
続いて、複数のせん断補強筋62bを主筋62aに囲繞するように、且つ主筋62aの長手方向に所定間隔で配列する配筋する。
【0068】
なお、
図33に示すように、主筋62a及びせん断補強筋62bを配筋した後に、ラス網、網状編物、金網又は打抜金網からなる網状仕切材63を鉄筋組立体62の側面及び下面においてせん断補強筋62bの外側に張り付けて、網状仕切材63を結束線等によってせん断補強筋62bに取り付けてもよい。また、
図34に示すように、ラス網、網状編物、金網又は打抜金網からなる網状仕切材63をU字型に組み上げた後、網状仕切材63の外側に主筋62a及びせん断補強筋62bを配筋して、網状仕切材63を主筋62aの内側に張り付けてもよい。
【0069】
梁の配筋後、スラブの配筋作業を行う。
【0070】
3. 外側コンクリートの打設
続いて、
図35に示すように、例えば40%以下のように水セメント比の低いフレッシュコンクリート65を網状仕切材63の外側に側型枠64bの上端にまで打設する。具体的には、網状仕切材63の下側にコンクリート65を打設した後、網状仕切材63の側方にコンクリート65を打設する。
【0071】
この際、コンクリート65が網状仕切材63によって堰き止められる。コンクリート65のモルタル成分が網状仕切材63(特に網状仕切材63の側面部)の開口から網状仕切材63の内側に漏出するが、コンクリート65の水セメント比及びスランプフロー値が低いので、モルタル成分の網状仕切材63の内側への漏れ量は少ない。また、コンクリート65の骨材は網状仕切材63の開口よりも大きいので、網状仕切材63の開口を通過しない。
【0072】
4. 内側コンクリートの打設
コンクリート65の硬化前に、
図36に示すように、網状仕切材63の内側にフレッシュコンクリート66をコンクリート65の高さにほぼ等しい高さになるまで打設する。このコンクリート66は、水セメント比がコンクリート65よりも高く調整され、スランプフロー値もコンクリート65よりも高く調整されている。コンクリート66の水セメント比及びスランプフロー値が高いので、コンクリート66のモルタル成分が網状仕切材63の開口に充填されやすい。そのため、コンクリート65,66が互いに親和し、コンクリート65,66の一体性を高めることができる。
【0073】
5. 締め固め
コンクリート66の打設後、
図37に示すように、コンクリート66にバイブレータ69を差し込み、バイブレータ69によってコンクリート66に加振すると、外側のコンクリート65にも振動が伝播する。そうすると、コンクリート65が型枠64の内の隅々まで充填されるとともに、コンクリート65,66が鉄筋組立体62の鉄筋相互間の空きにも充填される。更に、コンクリート65,66のモルタル成分が網状仕切材63の開口に充填されるので、網状仕切材63近傍においてコンクリート65とコンクリート66がより効率的に互いに親和する。更に、コンクリート66の水セメント比がコンクリート65の水セメント比よりも高いので、コンクリート66のモルタル成分が振動によりコンクリート65に拡散する。そのため、主筋62a、せん断補強筋62b及び網状仕切材63の近傍における局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0074】
6. 上側コンクリート及びスラブコンクリートの打設
続いて、
図38に示すように、コンクリート65,66の硬化前に、コンクリート65,66上にコンクリート67を打設するとともに、コンクリート67に連続してスラブのコンクリート68をスラブ型枠64c上にも打設する。コンクリート67の打設により、鉄筋組立体62及び網状仕切材63のうちコンクリート65,66の表面から突き出ていた部分がコンクリート67に埋設される。
コンクリート67,68は、水セメント比がコンクリート65の水セメント比に等しく、コンクリート66よりも低く調整されている。また、コンクリート67,68は、スランプフロー値がコンクリート65のスランプフロー値に等しく、コンクリート66よりも低く調整されている。
【0075】
なお、上述の型枠64の設置工程時或いは配筋工程時に網状仕切材(例えばラス網)を側型枠64bの上端に立設して、その網状仕切材によってコンクリート67とコンクリート68を仕切るようにコンクリート67,68を打設してもよい。この場合、コンクリート67はコンクリート65と水セメント比及びスランプフロー値が等しく、コンクリート68はスラブの設計に基づいた配合のものを使用すればよい。
【0076】
7 締め固め
コンクリート67,68の打設後、加振器等によってコンクリート67,68を締め固める。
【0077】
8. 硬化・脱型
続いて、コンクリート65,66,67,68を養生して硬化させたら、型枠64及びスラブ型枠64cを解体する。その後、更にコンクリート65,66,67,68を養生する。このとき、コンクリート66の水セメント比がコンクリート65の水セメント比よりも高いので、硬化・養生の際にもコンクリート66の水分がコンクリート65に拡散する。そのため、主筋62a、せん断補強筋62b及び網状仕切材63の近傍に水分が滞留することがなく、主筋62a、せん断補強筋62b及び網状仕切材63の近傍の局所的な水分量の上昇を抑えられる。
【0078】
9. 効果
以上の実施形態によれば、網状仕切材63によって外側のコンクリート65と内側のコンクリート66を打ち分けることができる。特に、水セメント比の低いコンクリート65を先に打設したので、コンクリート65の打設時にコンクリート65のモルタル成分が網状仕切材63の内側に多量に漏出することを抑制できる。
【0079】
また、外側のコンクリート65,67の水セメント比が低いので、施工された鉄筋コンクリート造梁の強度が高い。内側のコンクリート66は外側のコンクリート65,67よりも水セメント比が高いものの、硬化したコンクリート66が硬化したコンクリート65,67によって補強され、鉄筋コンクリート造梁全体としての強度も確保される。これは、コンクリート65の硬化前にコンクリート66を打設し、コンクリート65,66の硬化前にコンクリート67を打設したので、コンクリート65,66,67相互間の一体性が高いためである。
【0080】
また、コンクリート65の水セメント比がコンクリート66よりも低いので、コンクリート65,66の締め固め時や硬化時にコンクリート66の水分がコンクリート65に拡散するので、その部分が耐久性の観点から弱点となることがない上、主筋62a及びせん断補強筋62b近傍におけるコンクリート65,66の塩分浸透性や中性化速度が低い。よって、主筋62a及びせん断補強筋62bの経時劣化・腐食を抑えることができる。
【0081】
〔検証〕
上記各実施形態のように、網状仕切材3,23,43,53によってコンクリート5,25,45,65とコンクリート6,26,46,66を仕切るように打設した場合、コンクリート5,25,45,65とコンクリート6,26,46,66の水セメント比が異なれば、網状仕切材3,23,43,53近傍のコンクリート5とコンクリート6,コンクリート25とコンクリート26,コンクリート45とコンクリート46,コンクリート65とコンクリート66の塩分浸透性が低く、中性化速度も低いことについて検証した。
【0082】
1. 試験体
図39A〜
図39Cに示すような壁試験体91〜93を作製した。
壁試験体91の作製に際しては、上面が開口した直方体箱状の型枠の内部空間内に網状仕切材91aを壁厚方向に対して垂直に設置して、その内部空間を網状仕切材91aによって二つの領域に仕切った。その後、水セメント比が40%のコンクリート91bを一方の領域に打設し、そのコンクリート91bを締め固めた後、網状仕切材91aから漏出したコンクリート91bのモルタル成分を除去した。その後すぐに、水セメント比が50%のコンクリート91cを反対側の領域に打設し、そのコンクリート91cを締め固めた。そして、コンクリート91b,91cの養生・硬化後に脱型した。
壁試験体92,93も同様に作製するが、先に打設したコンクリート92b,93bの水セメント比は30%,50%であり、後に打設したコンクリート92c,93cの水セメント比は何れも50%である。また、網状仕切材92a,93aは網状仕切材91aと同じものである。
【0083】
なお、コンクリート91b,91c,92b,92c,93b,93cの材料は表1の通りである。コンクリート91b,91c,92b,92c,93b,93cの調合は表2の通りである。
【0086】
2. 中性化試験
壁試験体91〜93をその厚み方向に円柱状にくり抜き、くり抜いた柱状コアの中性化試験(JIS A1153)を行った。具体的には、柱状コアの両端面をエポキシ樹脂によってコーティングした上で、CO
2濃度5%,室温20℃、相対湿度60%の室内にて柱状コアの中性化を3ヶ月間促進させ、中性化深さを測定するとともに、壁厚方向に平行な切断面を観察した。壁試験体91〜93の柱状コアの切断面の写真を
図40〜
図42にそれぞれ示す。
図40〜
図42中、濃色部分(フェノールフタレイン溶液によって呈色された部分)がアルカリ性を維持しており、薄色部分(フェノールフタレイン溶液により着色しなかった部分)が二酸化炭素によりアルカリ性を喪失している。
【0087】
壁試験体91では、水セメント比40%のコンクリート91bの中性化深さは4.9 mm であり、水セメント比50%のコンクリート91cの中性化深さは11.8 mm であった。壁試験体92では、水セメント比30%のコンクリート92bの中性化深さは0 mm であり、水セメント比50%のコンクリート92cの中性化深さは11.2 mm であった。壁試験体91のコンクリート91b,91cの中性化深さは網状仕切材91aの付近で滑らかに変化している。壁試験体92のコンクリート92b,92cの中性化深さについても同様である。これは、網状仕切材91a,92aの付近において、コンクリート打設直後は水セメント比の大きいコンクリート91c,92cの方から水セメント比の小さいコンクリート91b,92bの方へ水分が移動し、また、コンクリート硬化後にも水セメント比の大きいコンクリート91c,92cの方から水セメント比の小さいコンクリート91b,92bの方へ余剰水分が移動するため、網状仕切材91a,92a付近のコンクリート91b,92bとコンクリート91c,92cの強度差が小さくなるためと考えられる。
【0088】
一方、壁試験体93では,コンクリート93bの中性化深さは10.8 mm であり、コンクリート93cの中性化深さは9.2 mm であった。コンクリート93bとコンクリート93cの境界部において中性化深さが大きくなり、その境界部近傍93dの中性化の進行が速かった。これは、先に打設したコンクリート93bを締め固めた際に網状仕切材93aからモルタル成分が漏出するため、網状仕切材93a付近に最も漏れやすい水分が移動し、その後に打設したコンクリート93cの水セメント比がコンクリート93bの水セメント比と等しいため、網状仕切材93a付近に集まった水分がコンクリート硬化後にもほとんど移動せず、網状仕切材93a付近のコンクリート93b,93cの性能(中性化耐性)が低下したものと考えられる。また、網状仕切材93a付近のコンクリート93b,93cの二酸化炭素が浸透しやすかったのは、その部分の耐久性が低いためだと考えられる。
【0089】
3. 塩分浸透試験
壁試験体91〜93をその厚み方向に円柱状にくり抜き、くり抜いた柱状コアの塩分浸透試験(JSCE-G572,JIS A 1171 (7.8 塩化物イオン浸透深さ試験))を行った。具体的には、柱状コアの両端面をエポキシ樹脂によってコーティングした上で、濃度10%、温度20℃の塩化ナトリウム水溶液中に柱状コアを3ヶ月間浸漬し、塩分浸透深さを測定するとともに、壁厚方向に平行な切断面を観察した。壁試験体91〜93の柱状コアの切断面の写真を
図43〜
図45にそれぞれ示す。
図43〜
図45中、濃色部分(試薬によって蛍光を発しなかった部分)が塩化物の非浸透領域であり、薄色部分(試薬によって蛍光を発した部分)が塩化物浸透領域である。
【0090】
壁試験体91では、水セメント比40%のコンクリート91bの塩分浸透深さは15.5 mm であり、水セメント比50%のコンクリート91cの塩分浸透深さは29.6 mm であった。壁試験体92のでは、水セメント比30%のコンクリート92bの塩分浸透深さは11.0 mm であり、水セメント比50%のコンクリートの塩分浸透深さは24.3 mm であった。壁試験体91のコンクリート91b,91cの塩分浸透深さは網状仕切材91aの付近で滑らかに変化している。壁試験体92のコンクリート92b,92cの塩分浸透深さについても同様である。これは、中性化深さと同様に、網状仕切材91a,92aの付近において、コンクリートの打込み直後には水セメント比の大きいコンクリート91c,92cの方から水セメント比の小さいコンクリート91b,92bの方へ水分が移動し、また、硬化後にも水セメント比の大きいコンクリート91c,92cの方から水セメント比の小さいコンクリート91b,92bの方へ余剰水が移動するため、網状仕切材91a,92a付近のコンクリート91b,92bとコンクリート91c,92cの強度差が小さくなるためと考えられる。
【0091】
一方,壁試験体93では、コンクリート92bの塩分浸透深さは25.4 mm であり、コンクリート91cの塩分浸透深さは23.4 mm であった。コンクリート93bとコンクリート93cの境界部において塩分浸透深さが大きくなり、その境界部近傍93dの塩分浸透が速かった。これは、中性化深さと同様に、先に打設したコンクリート93bを締め固めた際に、網状仕切材93aからモルタル成分が漏出するため、網状仕切材93a付近に最も漏れやすい水分が移動し、その後に打設したコンクリート93cの水セメント比がコンクリート93bの水セメント比と等しいため、網状仕切材93a付近に集まった水分がコンクリート硬化後にもほとんど移動せず、網状仕切材93a付近のコンクリート93b,93cの性能(塩分浸透耐性)が低下したものと考えられる。また、網状仕切材93a付近のコンクリート93b,93cの塩分が浸透しやすかったのは、その部分の耐久性が低いためだと考えられる。
【0092】
4. むすび
以上のように、コンクリート91b,92bとコンクリート91c,92cの水セメント比が異なると、網状仕切材91a,92aの近傍のコンクリート91b,91c,92b,92cは中性化しにくく、塩分が浸透しづらかった。よって、上記各実施形態においても、網状仕切材3,23,43,53近傍のコンクリート5,6,25,26,45,46,65,66の塩分浸透性や中性化速度が低く、耐久性が高いことがわかる。