【実施例1】
【0016】
以下、実施例1の半導体装置1について説明する。本実施例の半導体装置1は、MOSFETである。
図1に示すように、半導体装置1は、半導体基板2と、半導体層4と、絶縁膜10と、ゲート電極24と、ソース電極20と、ドレイン電極22とを備えている。なお、本明細書では、半導体層と、半導体層上に設けられる絶縁膜と、絶縁膜上に設けられる電極を備える構成を電極構造体という。したがって、本実施例の電極構造体は、半導体層4と、絶縁膜10と、ゲート電極24と備えている。
【0017】
半導体基板2は、シリコンによって構成されている。なお、半導体基板2は、表面に半導体層を結晶成長させることができればよく、例えば、サファイアやSiC等によって構成されていてもよい。
【0018】
半導体層4は、半導体基板2上に設けられる。半導体層4は、p型窒化物半導体層6と、n型窒化物半導体層8を備えている。p型窒化物半導体層6は、半導体基板2の表面に設けられている。n型窒化物半導体層8は、p型窒化物半導体層6の一部に設けられている。すなわち、半導体層4の上面には、p型窒化物半導体層6と、n型窒化物半導体層8が露出する。なお、本実施例では、窒化物半導体層6はp型であるが、i型であってもよい。
【0019】
絶縁膜10は、半導体層4上に設けられる。絶縁膜10は、p型窒化物半導体層6の表面全体と、n型窒化物半導体層8の表面の一部を覆うように設けられる。絶縁膜10は、Al
2О
3とSiО
2によって形成されている。絶縁膜10では、Al
2О
3とSiО
2は結晶粒界のない状態で混合されており、絶縁膜10は非晶質となっている。具体的には、
図2に示すように、絶縁膜10では、非晶質のAl
2О
3からなるAl
2О
3層12と、非晶質のSiО
2からなるSiО
2層14とが交互に積層している。絶縁膜10の最下層、すなわち、半導体層4の表面に接する層は、Al
2О
3層12となっている。そのAl
2О
3層12の表面にSiО
2層14が設けられており、さらにそのSiО
2層14の表面にはAl
2О
3層12が設けられている。このように、絶縁膜10では、Al
2О
3層12とSiО
2層14とが交互に繰り返し積層されている。なお、絶縁膜10の最下層(すなわち、半導体層4と接する層)は、Al
2О
3層12であってもよいし、SiО
2層14であってもよいが、本実施例のようにAl
2О
3層12であることが好ましい。半導体層4の表面にAl
2О
3層12を配置すると、半導体層4と絶縁膜10との間の界面準位を小さくすることができる。
【0020】
Al
2О
3層12の厚みは2.0nm以下であることが好ましく、本実施例では約0.2nmである。Al
2О
3層12の厚みが2.0nm以下であると、Al
2О
3層12は、Al
2О
3が1分子又はわずか数分子が積層した、極めて薄い状態となる。Al
2О
3が積層方向に薄く配置されることによって、Al
2О
3は結晶粒界を生じ難くなり、Al
2О
3層12は非晶質を維持し易くなる。また、SiО
2層14の厚みは2.0nm以下であることが好ましく、本実施例では約0.05nmである。SiО
2層14の厚みが2.0nm以下であると、SiО
2が積層方向に薄く配置され、SiО
2は結晶粒界を生じ難くなり、SiО
2層14は非晶質となる構造を維持し易くなる。このため、絶縁膜10は、非晶質のAl
2О
3層12と非晶質のSiО
2層14を積層したものとなり、絶縁膜10全体についても非晶質とすることができる。絶縁膜10が非晶質であると、絶縁膜10には結晶粒界がないため、絶縁膜10に電流が流れ難くなる。
【0021】
ゲート電極24は、絶縁膜10の表面に設けられている。また、ソース電極20及びドレイン電極22は、n型窒化物半導体層8の表面に設けられている。ソース電極20とドレイン電極22は離間して配置されている。ソース電極20とドレイン電極22との間には、絶縁膜10及びゲート電極24が配置されている。ソース電極20は、絶縁膜10及びゲート電極24と離間しており、ドレイン電極22は、絶縁膜10及びゲート電極24と離間している。
【0022】
ゲート電極24にオン電圧を印加すると、絶縁膜10の下面に反転層が形成される。このため、ソース電極20からn型窒化物半導体層8に供給された電子は、反転層を通過してドレイン電極22に移動する。絶縁膜10は非晶質であるため、絶縁膜10には電流が流れ難くなっている。このため、ゲート電極24にオン電圧を印加した際に、ゲート電極24から半導体層4へ流れるリーク電流が小さくなる。
【0023】
次に、半導体装置1に用いられる電極構造体の製造方法について説明する。なお、本実施例では、絶縁膜10を形成する方法に特徴があり、その他の工程については従来公知の工程を用いることができる。このため、以下では、本実施例の特徴部分のみを説明し、その他の工程については説明を省略する。
【0024】
半導体装置1に用いられる電極構造体の製造方法は、半導体層4上にAl
2О
3とSiО
2とが混合された非晶質の絶縁膜10を形成する絶縁膜形成工程と、絶縁膜10上にゲート電極24を形成する電極形成工程と、を備えている。
【0025】
絶縁膜形成工程は、非晶質のAl
2О
3からなるAl
2О
3層12と、非晶質のSiО
2からなるSiО2層14とを交互に積層する積層工程を有している。まず、p型窒化物半導体層6の表面とn型窒化物半導体層8の表面の一部を覆うように、Al
2О
3層12を成膜する。Al
2О
3層12の成膜には、原子層堆積法(ALD法)を用いる。原子層堆積法は、Alの原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用い、酸素の原料として水を用いて、公知の方法で実施する。なお、酸素の原料としては、水の代わりにオゾン又は酸素ラジカルを用いてもよい。原子層堆積法を用いてAlを酸化させることによって、積層方向(
図2の上下方向)にAl
2О
3が1分子存在するAl
2О
3層12を形成することができる。したがって、Al
2О
3層12の厚みは薄くなり、結晶粒界が生じ難くなる。このため、Al
2О
3層12は非晶質となる。
【0026】
続いて、Al
2О
3層12の表面に、原子層堆積法を用いてSiО
2層14を成膜する。原子層堆積法では、Siの原料としてトリスジメチルアミノシラン(TDMAS)を用い、酸素の原料として酸素ラジカルを用いる。原子層堆積法を用いてSiを酸化させることによって、積層方向(
図2の上下方向)にSiО
2が1分子存在するSiО
2層14を形成することができる。したがって、SiО
2層14の厚みは薄くなり、結晶粒界が生じ難くなる。このため、SiО
2層14は非晶質となる。
【0027】
さらに、SiО
2層14の表面に原子層堆積法を用いてAl
2О
3層12を成膜し、成膜したAl
2О
3層12の表面に原子層堆積法を用いてSiО
2層14を成膜する。このように、Al
2О
3層12とSiО
2層14を交互に繰り返して成膜して、絶縁膜10を形成する。原子層堆積法を用いると、1分子のAl
2О
3からなるAl
2О
3層12と、1分子のSiО
2からなるSiО
2層14とが交互に積層した絶縁膜10を形成することができる。絶縁膜10を構成するAl
2О
3層12及びSiО
2層14の各層は、すべて非晶質であるため、絶縁膜10も非晶質となる。
【0028】
半導体層上に絶縁膜が形成された後、電極形成工程によって、絶縁膜上に電極が形成される。絶縁膜10上にゲート電極24を形成することにより、半導体層4とゲート電極24との間に絶縁膜10を備えた電極構造体を製造することができる。
【0029】
図3を参照して、絶縁膜10を介してゲート電極24から半導体層4へ流れるリーク電流について説明する。本実施例の半導体装置1を用いて、絶縁膜10に流れるリーク電流を測定した。なお、半導体装置1が備える絶縁膜10は、透過電子線回析を用いて、非晶質であることを確認した。比較例として、絶縁膜に結晶のAl
2О
3層を備えた半導体装置と、絶縁膜に非結晶のAl
2О
3層を備えた半導体装置を用いて同様の実験を行った。
図3に示すように、比較例の結晶のAl
2О
3層は、2MV/cm以下であっても、リーク電流が大きかった。また、非結晶のAl
2О
3層は、2MV/cmではリーク電流が見られず、3MV/cmになるとリーク電流が見られ、8MV/cmを超えるとリーク電流は大きくなっていた。一方、本実施例の絶縁膜10は、4MV/cmまではリーク電流が見られず、4MV/cmを超えると徐々にリーク電流が見られ、10MV/cmを超えるとリーク電流は大きくなっていた。この結果から、絶縁膜10は、リーク電流が小さいことがわかった。したがって、絶縁膜10を備える本実施例の半導体装置1は、ゲート電極24から半導体層4へ流れるリーク電流が小さいということができる。
【0030】
図4を参照して、絶縁膜10の絶縁破壊電界強度について説明する。本実施例の半導体装置1を用いて、絶縁破壊電圧を測定した。電圧を徐々に上げていき、電流が急激に増加し、電気的な破壊を起こした値を測定した。比較例として、絶縁膜に結晶のAl
2О
3層を備えた半導体装置と、絶縁膜に非結晶のAl
2О
3層を備えた半導体装置を用いて同様の実験を行った。
図4に示すように、比較例の結晶のAl
2О
3層の絶縁破壊電圧は1MV/cm以下と非常に低かった。また、非結晶のAl
2О
3層の絶縁破壊電圧は約8MV/cmであった。一方、本実施例の絶縁膜10の絶縁破壊電圧は10MV/cmを超えるものであった。この結果から、本実施例の絶縁膜10は、絶縁破壊電界強度が高いことがわかった。
【0031】
本実施例の絶縁膜10は、非晶質のAl
2О
3層12と非晶質のSiО
2層14を交互に積層して形成されており、絶縁膜10は非晶質となっている。このため、上述したように、絶縁膜10を用いた電極構造体では、ゲート電極24から半導体層4へ流れるリーク電流が小さくなり、絶縁膜10の絶縁破壊電界強度が高くなる。また、例えば、非晶質のSiО
2からなる絶縁膜を用いても、リーク電流を小さくすることができる。しかしながら、非晶質のSiО
2からなる絶縁膜は、誘電率が低いため、オン抵抗が高くなるという問題がある。これに対して、本実施例の絶縁膜10は誘電率が高いため、絶縁膜10を用いると、リーク電流を小さくすることができると共に、オン抵抗を低くすることができる。
【0032】
なお、本実施例では、半導体層4に窒化物半導体を用いているが、このような構成に限定されない。電極と半導体層との間に絶縁膜を備える電極構造体であれば、その絶縁膜に本実施例の絶縁膜10を適用することができる。
【0033】
なお、本実施例では、絶縁膜10を構成するAl
2О
3層12及びSiО
2層14を、原子層堆積法を用いて成膜しているが、このような構成に限定されない。例えば、化学気相堆積法(CVD法)やスパッタリング法等の公知の方法を用いて成膜してもよい。化学気相堆積法やスパッタリング法を用いて絶縁膜を形成すると、各Al
2О
3層及び各SiО
2層は1分子からなる層にならず、数個の分子からなる層が形成される。このような構成であっても、各層の積層方向の厚みを薄くすることができるため、各層を非晶質にすることができる。このため、絶縁膜を非晶質にすることができる。なお、化学気相堆積法を用いる場合には、例えば、トリメチルアルミニウム(TMAl)と酸素ラジカルとを原料としてAl
2О
3層を成膜し、シラン又はテトラエトキシシラン(TEOS)Iと酸素ラジカルを原料としてSiО
2層を成膜することができる。また、スパッタリング法を用いる場合には、例えば、Al
2О
3ターゲットをArプラズマでスパッタリングすることでAl
2О
3層を成膜し、SiО
2ターゲットをArプラズマでスパッタリングすることでSiО
2層を成膜できる。
【0034】
また、本実施例では、Al
2О
3層12とSiО
2層14を別個に成膜しているが、絶縁膜が非晶質になればよく、このような構成に限定されない。例えば、スパッタリング法を用いて、Al
2О
3ターゲットとSiО
2ターゲットを同時にスパッタリングしてもよい。
【0035】
本明細書が開示する絶縁膜は、実施例1に示した電極構造体の構成に限定されるものではなく、半導体層と電極との間に配置されるものであれば適用することができる。以下に
図5〜9を参照して、本明細書が開示する絶縁膜を備える電極構造体を用いた半導体装置の例を示す。なお、以下の絶縁膜10b、10c、10d及び10eは、実施例1の絶縁膜10と同様の構成であり、非晶質のAl
2О
3層12と非晶質のSiО
2層14が交互に積層された構造である。