(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜において、前記高Al含有TiAlNが2〜50 nmの平均縦断面径及び10〜300 nmの平均横断面径を有することを特徴とする窒化チタンアルミニウム硬質皮膜。
請求項1又は2に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜において、前記柱状結晶の平均横断面径は0.1〜1.2μmであることを特徴とする窒化チタンアルミニウム硬質皮膜。
請求項4に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記高Al含有TiAlNが2〜50 nmの平均縦断面径及び10〜300 nmの平均横断面径を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
請求項7に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、前記混合ガスA及びBの合計を100体積%として、前記混合ガスAの組成を0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス及び残部H2ガスとし、前記混合ガスBの組成を0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスとするとともに、前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5としたことを特徴とする方法。
請求項7〜11のいずれかに記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、反応圧力が3〜6 kPaであり、反応温度が750〜830℃であることを特徴とする方法。
請求項13に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記混合ガスA及びBの合計を100体積%として、前記混合ガスAの組成を0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス及び残部H2ガスとし、前記混合ガスBの組成を0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスとするとともに、前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5としたことを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1] 硬質皮膜被覆工具
本発明の硬質皮膜被覆工具は、工具基体上に化学蒸着法により柱状結晶組織を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成したもので、
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は(Tix
1, Aly
1)N(ただし、x
1及びy
1はそれぞれ原子比でx
1=0.005〜0.1、及びy
1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix
2, Aly
2)N(ただし、x
2及びy
2はそれぞれ原子比でx
2=0.5〜0.9、及びy
2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている構造を有する。
【0022】
(A) 基体
基体は化学蒸着法を適用できる高耐熱性の材質である必要があり、例えばWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼又は立方晶窒化ホウ素を主成分とする窒化ホウ素焼結体(cBN)、サイアロンのようなセラミックス等が挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性の観点から、WC基超硬合金、サーメット及びセラミックスが好ましい。例えばWC基超硬合金の場合、焼結したままの未加工面にも本発明の窒化チタン
アルミニウム硬質皮膜を形成できるが、寸法精度を高めるために加工面(研磨加工面又は刃先処理加工面等)に窒化チタン
アルミニウム硬質皮膜を形成するのが好ましい。
【0023】
(B) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜
(1) 組成
化学蒸着法により形成する本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有するとともに、Ti、Al及びNを必須成分とする。本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の必須成分組成は、Ti、Al及びNの合計量を100原子%として、4〜22原子%のTi、48〜23原子%のAl、及び48〜55原子%のNであるのが好ましい。上記組成範囲外では所望のミクロ組織が得られない。より好ましい必須成分組成は8〜18原子%のTi、42〜29原子%のAl、及び50〜53原子%のNである。Nの30原子%以下をC又はBで置換しても良い。本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、不可避的不純物としてClを含有しても良いが、Cl含有量は1.5原子%以下が好ましく、0.8原子%以下がより好ましい。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成はEPMAにより測定することができる。
【0024】
(a) 高Al含有TiAlNの組成
高Al含有TiAlNは、一般式:(Tix
1, Aly
1)N(ただし、x
1及びy
1はそれぞれ原子比でx
1=0.005〜0.1、及びy
1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの割合x
1が0.005未満ではAl含有量が過多になり、hcp構造が析出するために硬度が低下し、高温での耐摩耗性に劣る。x
1が0.1超では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が微細な粒状結晶組織になり、耐酸化性が低下する。高性能化の観点から、(Tix
1, Aly
1)とNとの原子比は0.3/0.7〜0.7/0.3が好ましく、0.4/0.6〜0.6/0.4がより好ましい。
【0025】
(b) 高Ti含有TiAlNの組成
高Ti含有TiAlNは、一般式:(Tix
2, Aly
2)N(ただし、x
2及びy
2はそれぞれ原子比でx
2=0.5〜0.9、及びy
2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの割合x
2が0.5未満ではAl含有量が過多になり、hcp構造が析出するために硬度が低下し、耐摩耗性が低下する。x
2が0.9超では、Al含有量が過少になり、耐酸化性が大きく低下する。高性能化の観点から、(Tix
2, Aly
2)とNとの原子比は0.3/0.7〜0.7/0.3が好ましく、0.4/0.6〜0.6/0.4がより好ましい。
【0026】
高Al含有TiAlN及び高Ti含有TiAlNの組成は後述するEDSの測定結果に基づき求めることができる。
【0027】
(2) 高Al含有TiAlN及び高Ti含有TiAlN
(a) 構造
図3から明らかなように、fcc構造からなる高Al含有TiAlN(薄い灰色の部分)は、fcc構造からなる網目状高Ti含有TiAlN(濃い灰色又は黒色の部分)に囲まれている。
図3において、高Al含有TiAlNと高Ti含有TiAlNの濃度差が少ない箇所が部分的に観察されるが、高Al含有TiAlNの少なくとも50%が周りの高Ti含有TiAlNに接触していれば本発明の効果が得られる。従って、「高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている」とは、高Al含有TiAlNの少なくとも50%が周りの網目状高Ti含有TiAlNに接触していることを意味する。高Al含有TiAlNの少なくとも60%が周りの網目状高Ti含有TiAlNに接触しているのが好ましい。なお、「網目状」とは、顕微鏡写真で観察したときに高Ti含有TiAlNが網目状に分布していることを意味する。
【0028】
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜より高性能になるメカニズムは十分明らかではないが、以下のように考えられる。即ち、従来の化学蒸着法による窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、Al含有量の異なるTiAlNが交互に積層した構造、又はTiNとAlNとが交互に積層した構造を有する。積層構造における各層は微細な粒状結晶粒子からなるため、結晶粒界の割合が高い。このような窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を有する工具で切削加工を行うと、昇温した工具刃先部では結晶粒界が酸素侵入経路となって、酸化が促進され、高温での耐摩耗性及び耐酸化性が大きく低下する。また、前記積層構造のうち、fcc構造を有する高Al含有量のTiAlN皮膜は高温時にhcp構造に変態するので、層間剥離を起こし、短寿命化の原因となる。
【0029】
これに対し、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜では、高Al含有TiAlNは網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている。網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた高Al含有TiAlNは皮膜成長の起点となるので、窒化チタンアルミニウム結晶粒は一方向に優先的に成長し、柱状結晶となる。従って、切削加工による昇温のためにfcc構造の高Al含有TiAlNがhcp構造に変態して収縮した場合でも、周りのfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNにより、皮膜の破壊が抑制される。このような特徴的なミクロ組織は従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜には存在しない。このように本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜より非常に大きな高温硬さを有するので、耐摩耗性に優れている。また、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、Al含有量が多く、かつ粒状結晶組織に比べて結晶粒界の少ない柱状結晶組織を有するので、酸化されにくい(耐酸化性に優れている)。高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれたミクロ構造は、ナノビーム回折の測定結果(
図6及び
図7を参照)に基づき判定することができる。
【0030】
(b) 高Al含有TiAlNの平均横断面径及び平均縦断面径
「平均横断面径」は、基体表面に垂直な断面のTEM写真において、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の柱状結晶粒の高Al含有TiAlN部分の最大直径の平均を意味する。また、「平均縦断面径」は、基体表面に垂直な断面のTEM写真において、前記高Al含有TiAlN部分の最大直径に直交する方向の最大長さの平均を意味する。具体的には、高Al含有TiAlNの「平均横断面径」は、
図3のTEM写真(倍率:200,000倍)において、網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた5つの高Al含有TiAlN部分を任意に選択し、各選択部分において最大直径を測定し、得られた5つの測定値を算術平均することにより求めた。また、高Al含有TiAlNの「平均縦断面径」は、前記の
図3のTEM写真における5つの選択部分において、前記最大直径に直交する方向の最大長さを測定し、得られた5つの測定値を算術平均することにより求めた。
【0031】
高Al含有TiAlNは一般に偏平な形状(
図4を参照)を有し、平均縦断面径より平均横断面径の方が大きい。具体的には、高Al含有TiAlNの平均縦断面径は2〜50 nmが好ましく、6〜45 nmがより好ましい。平均縦断面径が2 nm未満では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過少になり、耐酸化性に劣る。一方、平均縦断面径が50 nmを超えるとAl含有量が過多になり、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜中のhcp構造の割合が増大して、硬さが低下する。また、高Al含有TiAlNの平均横断面径は10〜300 nmが好ましく、22〜120 nmがより好ましい。平均横断面径が10 nm未満では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐酸化性が低下する。一方、平均横断面径が300 nmを超えると微細な粒状結晶組織になり、fcc構造がhcp構造に相変態して、高温での耐摩耗性に劣る。
【0032】
(3) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の柱状結晶の平均横断面径
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有する。柱状結晶の「平均横断面径」は、基体表面に垂直な面における柱状結晶の断面の平均径を意味する。高硬度で優れた耐摩耗性を有するために、柱状結晶の平均横断面径は0.1〜1.2μmであるのが好ましく、0.2〜1.0μmであるのがより好ましい。平均横断面径が0.1μm未満では窒化チタンアルミニウム結晶粒の結晶粒界比率が高く、高温での耐酸化性が大幅に低下する。一方、平均横断面径が1.2μmより大きいと結晶粒内にクラックが発生して、皮膜の破壊を招く。具体的に、平均横断面径は、
図1のSEM写真の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚方向中間部において、任意の10個の柱状結晶粒の横断面径を測定し、得られた測定値を算術平均することにより求めた。
【0033】
(4) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚
基体からの剥離を抑制するとともに優れた耐摩耗性及び耐酸化性を発揮するために、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚は1〜15μmにするのが好ましく、2〜12μmにするのがより好ましい。膜厚が1μm未満では皮膜の効果が十分に得られず、膜厚が15μmを超えると皮膜が厚くなり過ぎて皮膜内部にクラックが発生するおそれがある。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚は成膜時間により適宜制御することができる。なお、硬質皮膜及びそれを構成する各層は完全に平坦ではないので、単に「膜厚」と呼ぶ場合でも「平均厚さ」を意味する。
【0034】
(5) 硬さ
ナノインデンテーション(押込み)法により測定した本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の硬さは33 GPa以上が好ましい。硬さが33 GPa未満では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐摩耗性は不十分である。工業生産上、35〜42 GPaの硬さを実現することができる。
【0035】
(C) 下層
特に限定されないが、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の下層として、Ti(CN)皮膜、TiN皮膜又はTiZr(CN)皮膜を化学蒸着法により設けるのが好ましい。Ti(CN)皮膜は耐摩耗性に優れる反面、高温での耐熱性に劣るが、その上に本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成すると、耐熱性の問題が解消される。
【0036】
化学蒸着法によりTi(CN)皮膜を成膜する温度は750〜950℃であり、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の好ましい成膜温度750〜830℃とほぼ一致しているため、工業生産性が高い。本発明の硬質皮膜被覆工具では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜とTi(CN)皮膜との間に、密着性を高める中間層を設けても良い。中間層としてTiN皮膜又はTiAl(CN)皮膜が好ましい。
【0037】
(d)上層
特に限定されないが、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の上層として、Ti、Al、Cr、B及びZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、C、N及びOからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須とする単層又は多層の硬質皮膜を化学蒸着法により設けても良い。上層としては、例えばTiC、CrC、SiC、VC、ZrC、TiN、AlN、CrN、Si
3N
4、VN、ZrN、Ti(CN)、(TiSi)N、(TiB)N、TiZrN、TiAl(CN)、TiSi(CN)、TiCr(CN)、TiZr(CN)、Ti(CNO)、TiAl(CNO)、Ti(CO)、及びTiB
2等の単層又は積層の皮膜が挙げられる。
【0038】
[2] 化学蒸着装置
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、熱化学蒸着装置又はプラズマ支援化学蒸着装置(CVD炉)を用いた化学蒸着法により形成することができる。
図11に示すように、CVD炉1は、チャンバー2と、チャンバー2の壁内に設けられたヒータ3と、チャンバー2内で回転する複数の棚(治具)4,4と、棚4,4を覆い、複数の排出孔5aを有する反応容器5と、棚4,4の中央開口部4aを垂直に貫通する第一及び第二のパイプ11,12と、各パイプ11,12に設けられた複数のノズル11a,12a,12bとを具備する。多数のインサート基体20が載置された棚4,4は、チャンバー2内で回転する。第一及び第二のパイプ11,12は、両端部が保持部材(図示省略)により一体的に固定されてパイプ集合体を構成し、一体的に回転し得るようにチャンバー2の底部を貫通し、回転自在に外部の配管(図示せず)に接続されている。チャンバー2の底部には、キャリアガス及び未反応ガスを排出するためのパイプ13を有する。
【0039】
[3] 製造方法
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜
の製造方法を、熱化学蒸着法を用いる場合を例にとって、以下詳細に説明するが、勿論本発明はそれに限定されず、他の化学蒸着法にも適用できる。
【0040】
(A) 下層(炭窒化チタン皮膜)の形成
基体をセットしたCVD炉内にH
2ガス、N
2ガス及び/又はArガスを流し、成膜温度まで昇温した後、TiCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス(又はCH
3CNガスとC
2H
6ガス)、及びH
2ガスからなる原料ガスをCVD炉内に流し、下層の炭窒化チタン皮膜を形成する。
【0041】
(1) l-Ti(CN)皮膜用の原料ガス
下層の一例として柱状結晶組織を有するl-Ti(CN)皮膜を形成する原料ガス組成は、合計を100体積%として、0.8〜3体積
%のTiCl
4ガス、10〜30体積%のN
2ガス、0.1〜1.2体積%のCH
3CNガス、及び残部H
2ガスからなるのが好ましい。TiCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガスの含有量が上記範囲外であると、得られる炭窒化チタン皮膜中の炭素濃度が高過ぎたり、柱状結晶粒が粗大化して上層の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜との密着力が低下する。
【0042】
(B) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の形成
(1) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の原料ガス
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成する原料ガスとして、TiCl
4ガス、AlCl
3ガス、N
2ガス及びH
2ガスからなる混合ガスAと、NH
3ガス、N
2ガス及びH
2ガスからなる混合ガスBとを使用する。TiCl
4ガス、AlCl
3ガス、NH
3ガス、N
2ガス及びH
2ガスの合計を100体積%として、混合ガスAの組成は0.02〜0.31体積%のTiCl
4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl
3ガス、3〜40体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなるのが好ましく、混合ガスBの組成は0.4〜1.9体積%のNH
3ガス、2〜26体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなるとともに前記混合ガスAのH
2ガスと前記混合ガスBのH
2ガスとの体積比H
2(A)/H
2(B)を1〜5とするのが好ましい。体積比H
2(A)/H
2(B)が1未満及び5超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。混合ガスA、Bにおいて、キャリアガスであるH
2ガスの一部をArガスで代替しても良い。混合ガスAの組成は0.02〜0.31体積%のTiCl
4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl
3ガス、4.9〜21.8体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなり、混合ガスBの組成は0.7〜1.9体積%のNH
3ガス、3〜16.5体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなるのがより好ましい。混合ガスAの組成は0.1〜0.2体積%のTiCl
4ガス、0.3〜0.5体積%のAlCl
3ガス、4.9〜21.8体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなり、混合ガスBの組成は0.8〜1.3体積%のNH
3ガス、3〜16.5体積%のN
2ガス、及び残部H
2ガスからなるのがさらに好ましい。体積比H
2(A)/H
2(B)を1.5〜4.8とするのがより好ましい。
【0043】
(a) 混合ガスA
TiCl
4ガスが0.02体積%未満であると混合ガスA中のAl量が過多となり、hcp構造が析出して、得られる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の硬さが低下する。一方、TiCl
4ガスが0.31体積%を超えると、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は本発明のミクロ構造を有さない。
【0044】
AlCl
3ガスが0.15体積%未満であると窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過少になり、得られる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐酸化性が低下する。またAlCl
3ガスが0.8体積%を超えると、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過多になり、hcp構造が析出して耐摩耗性が低下する。
【0045】
N
2ガスが3体積%未満及び40体積%超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。
【0046】
(b) 混合ガスB
混合ガスBにおいて、NH
3ガスが0.4体積%未満及び1.9体積%超のいずれでも、反応速度が変わり、本発明の特徴的なミクロ組織が得られない。
【0047】
N
2ガスが2体積%未満及び26体積%超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。
【0048】
(2) 原料ガスの導入方法
反応性の高い混合ガスA及びBの混合により反応速度を制御し、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれたミクロ組織を形成するために、混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で送入しなければならない。このために、
図11及び
図12(a)〜
図12(c) に示すように、例えば合計3本のパイプ11,11,12を固定したパイプ集合体30を具備するCVD炉1を用いる。
【0049】
各ノズルから噴出する混合ガスA,Bの流れを阻害せずに混合ガスA及びBを別々にCVD炉1内に導入する必要がある。そのためには、
図12(a)〜
図12(c) に例示するように、混合ガスA,Bを噴出する第一及び第二のノズルの一方を中心側に配置し、他方を外周側に配置し、第一及び第二のノズルから別々に混合ガスA及びBを吹き出す必要がある。
【0050】
本発明の特徴的なミクロ組織を得るために、混合ガスA,Bを導入するノズル11a,12aは2〜4 rpmの速度で回転するのが好ましい。第一及び第二のノズル11a,12aの回転方向は限定的でない。
【0051】
図12(a)〜
図12(c) は混合ガスA、Bを噴き出すノズル構造の好ましい例を示す。パイプ集合体30の回転軸Oに関して、第一のノズル11aは外周側に位置し、第二のノズル12aは中心側に位置する。上記の特徴的なミクロ組織を形成するために、混合ガスBを噴出するノズルの噴出口と被覆物までの距離を、混合ガスAを噴出するノズルの噴出口と被覆物までの距離より短くするのが好ましい。混合ガスA中のTiCl
4ガス及びAlCl
3ガスは、混合ガスB中のNH
3ガスと非常に反応性が高く、CVD炉内に導入されると急激に反応する。反応速度が高いと、被覆物に到達する前から反応が起こりやすい。従って、
図13に示すように混合ガスA及びBを噴出するノズル口が回転軸から等距離にあると(H
1=H
2)、混合ガスA及びBが被覆物に到達するまでに両者の反応が顕著に起こり、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は微細な粒状結晶組織となる。また上記とは逆に、混合ガスA用ノズルの噴出口と被覆物との距離を、混合ガスB用ノズルの噴出口と被覆物との距離より短くしても良い。
【0052】
本発明の特徴的なミクロ組織を得るために、第一のノズル11aの噴出口と回転軸Oとの距離H
1と第二のノズル12aの噴出口と回転軸Oとの距離H
2との比(H
1/H
2)は1.5〜3の範囲内であるのが好ましい。
【0053】
(a) 第一のパイプ集合体
図12(a) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第一のパイプ集合体30の一例を示す。このパイプ集合体30は2本の第一のパイプ11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。
【0054】
第一のパイプ11は半径R
1を有し、第二のパイプ12は半径R
2を有する。第一のパイプ11の中心軸O
1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D
1の円周C
1上に位置する。従って、2本の第一のパイプ11,11は回転軸Oから等距離である。第一のパイプ11,11の中心軸O
1,O
1の回転軸Oに対する中心角θは90〜180°であるのが好ましい。また、第二のパイプ12の中心軸O
2は回転軸Oと一致しており、第二のパイプ12の外周は、回転軸Oを中心とした第二の直径D
2(=2R
2)の円周C
2と一致している。
【0055】
第一のパイプ11,11のノズル(第一のノズル)11a,11aは外方に正反対の方向(180°の方向)に向いている。図示の例では各第一のパイプ11は縦方向1列のノズル(第一のノズル)11aを有するが、これに限定されず、第一のノズル11aは複数列でも良い。また、第二のパイプ12は直径方向(180°の方向)に配置された縦方向2列のノズル(第二のノズル)12a,12aを有する。勿論、第二のノズル12aは2列に限定されず、1列でも良い。第一の直径D
1が第二の直径D
2より大きいので[D
1≧2(R
1+R
2)]、パイプ集合体30が回転軸Oを中心にして回転すると、第一のノズル11a,11aは外周側に位置し、第二のノズル12a,12aは内周側に位置する。
【0056】
第二のパイプ12が1列の第二のノズル12aを有し、かつ第一のパイプ11,11の中心軸O
1,O
1の中心角θが180°未満の場合、第二のノズル12aは第一のノズル11a,11aから遠い方向(中心角θの反対側)に向いているのが好ましい。この場合、第一のノズル11aの噴出方向と第二のノズル12aの噴出方向とは直交しているのが好ましい。
【0057】
第一のパイプ11,11の中心軸O
1,O
1が第二のパイプ12の中心軸O
2と同一直線上にあり、かつ第二のパイプ12が2列の第二のノズル12a,12aを有する場合、第一のノズル11a,11aは正反対の方向(180°の方向)を向き、かつ第二のノズル12aは第一のノズル11a,11aと直交する方向で正反対の方向を向いている(90°の中心角である)のが好ましい。
【0058】
(b) 第二のパイプ集合体
図12(b) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第二のパイプ集合体40の一例を示す。このパイプ集合体40は1本の第一のパイプ11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。第一のパイプ11は1列のノズル(第一のノズル)11aを有し、第二のパイプ12も縦方向1列のノズル(第二のノズル)12aを有する。
【0059】
第二のパイプ12の中心軸O
2はパイプ集合体40の回転軸Oと一致しており、第一のパイプ11は第二のパイプ12に近接する位置に配置されている。第一のパイプ11は半径R
1を有し、第二のパイプ12は半径R
2を有する。第一のパイプ11の中心軸O
1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D
1の円周C
1上に位置し、第二のパイプ12の中心軸O
2は回転軸Oと一致しており、その外周は回転軸Oを中心とした第二の直径D
2(=2R
2)の円周C
2と一致している。第一の直径D
1が第二の直径D
2より大きいので[D
1≧2(R
1+R
2)]、パイプ集合体40が回転軸Oを中心として回転すると、第一のノズル11aは外周側に位置し、第二のノズル12aは内周側に位置する。
【0060】
図示の例では第一のパイプ11のノズル(第一のノズル)11aと第二のパイプ12の第二のノズル12aとは正反対の方向(180°の方向)を向いているが、勿論限定的でなく、第一のノズル11aと第二のノズル12aとの中心角は90〜180°の範囲内であれば良い。
【0061】
(c) 第三のパイプ集合体
図12(c) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第三のパイプ集合体50の一例を示す。このパイプ集合体50は4本の第一のパイプ11,11,11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。各第一のパイプ11は縦方向1列のノズル(第一のノズル)11aを有し、第二のパイプ12は直交する直径方向(180°)に配置された縦方向二対の列のノズル(第二のノズル)12a,12a,12a,12aを有する。全ての第一のパイプ11,11,11,11のノズル(第一のノズル)11a,11a,11a,11aは外方を向いている。
【0062】
第一のパイプ11は半径R
1を有し、第二のパイプ12は半径R
2を有する。第一のパイプ11の中心軸O
1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D
1の円周C
1上に位置する。従って、4本の第一のパイプ11,11,11,11は回転軸Oから等距離である。また、第二のパイプ12の中心軸O
2は回転軸Oと一致しており、その外周は回転軸Oを中心とした第二の直径D
2(=2R
2)の円周C
2と一致している。第一の直径D
1が第二の直径D
2より大きいので[D
1≧2(R
1+R
2)]、パイプ集合体50が回転軸Oを中心として回転すると、第一のノズル11a,11a,11a,11aは外周側に位置し、第二のノズル12a,12a,12a,12aは内周側に位置する。図示の例では隣接する第一のパイプ11,11の中心軸O
1,O
1の回転軸Oに関する中心角θは90°であるが、これに限定されず、60〜120°であれば良い。
【0063】
(3) 成膜温度
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の成膜温度は750〜830℃が好ましい。成膜温度が750℃未満では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の塩素含有量が多くなり、皮膜硬さが低下する。一方、成膜温度が830℃を超えると反応が促進されすぎて粒状結晶組織となり、耐酸化性に劣る。
【0064】
(3) 反応圧力
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の反応圧力は3〜6 kPaが好ましい。反応圧力が3 kPa未満であると上記の特徴的なミクロ組織が得られない。一方、反応圧力が6 kPaを超えると窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は粒状結晶組織となり、耐酸化性に劣る。
【0065】
(C)上層(硬質皮膜)の形成
特に限定されないが、公知の化学蒸着法により窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の上層を形成することができる。成膜温度は700〜830℃で良い。上層を形成するのに用いる原料ガスの例は下記の通りである。
1. TiC皮膜 TiCl
4ガス、CH
4ガス及びH
2ガス。
2. CrC皮膜 CrCl
3ガス、CH
4ガス及びH
2ガス。
3. SiC皮膜 SiCl
4ガス、CH
4ガス及びH
2ガス。
4. VC皮膜 VClガス、CH
4ガス及びH
2ガス。
5. ZrC皮膜 ZrCl
4ガス、CH
4ガス及びH
2ガス。
6. TiN皮膜 TiCl
4ガス、N
2ガス及びH
2ガス。
7. AlN皮膜 AlCl
3ガス、
NH3ガス及びH
2ガス。
8. CrN皮膜 CrCl
3ガス、
NH3ガス及びH
2ガス。
9. Si
3N
4皮膜 SiCl
4ガス、
NH3ガス及びH
2ガス。
10. VN皮膜 VCl
3ガス、
NH3ガス及びH
2ガス。
11. ZrN皮膜 ZrCl
4ガス、N
2ガス及びH
2ガス。
12. Ti(CN)皮膜 TiCl
4ガス、CH
4ガス、N
2ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、CH
3CNガス、N
2ガス及びH
2ガス。
13. (TiSi)N皮膜 TiCl
4ガス、SiCl
4ガス、N
2ガス及びNH
3ガス。
14. (TiB)N皮膜 TiCl
4ガス、N
2ガス及びBCl
3ガス。
15. TiZr(CN)皮膜 TiCl
4ガス、ZrCl
4ガス、N
2ガス、CH
4ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、ZrCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
16. TiAl(CN)皮膜 TiCl
4ガス、AlCl
3ガス、N
2ガス、CH
4ガス、NH
3ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、AlCl
3ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
17. TiSi(CN)皮膜 TiCl
4ガス、SiCl
4ガス、N
2ガス、CH
4ガス、NH
3ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、SiCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
18. TiCr(CN)皮膜 TiCl
4ガス、CrCl
3ガス、N
2ガス、CH
4ガス、NH
3ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、CrCl
3ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
19. TiV(CN)皮膜 TiCl
4ガス、VCl
3ガス、N
2ガス、CH
4ガス、NH
3ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、VCl
3ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
20. TiZr(CN)皮膜 TiCl
4ガス、
ZrCl4ガス、N
2ガス、CH
4ガス、NH
3ガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、ZrCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス及びH
2ガス。
21. Ti(CNO)皮膜 TiCl
4ガス、N
2ガス、CH
4ガス、COガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、N
2ガス、CH
3CNガス、COガス及びH
2ガス。
22. TiAl(CNO)皮膜 TiCl
4ガス、AlCl
3ガス、N
2ガス、CH
4ガス、COガス及びH
2ガス、又はTiCl
4ガス、AlCl
3ガス、N
2ガス、CH
3CNガス、COガス及びH
2ガス。
23. Ti(CO)皮膜 TiCl
4ガス、N
2ガス、CH
4ガス、COガス、CO
2ガス及びH
2ガス。
24. TiB
2皮膜 TiCl
4ガス、BCl
3ガス、H
2ガス。
【0066】
(D) 硬質皮膜被覆後の刃先処理
基体上に形成した窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、ブラシ、バフ又はブラスト等による処理により平滑化され、耐チッピング性に優れた表面状態になる。特にアルミナ、ジルコニア、シリカ等のセラミックスの粉末を投射材として用い、湿式又は乾式のブラスト法により硬質皮膜の刃先を処理すると、硬質皮膜の表面が平滑化されるとともに硬質皮膜の引張残留応力が低下し、耐チッピング性が向上する。
【0067】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、勿論本発明はそれらに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、流量(L/分)は1気圧及び25℃における毎分のLであり、また厚さは平均値である。
【0068】
実施例1
(1) 硬質皮膜の形成
図9(a) 及び
図9(b) に概略的に示すWC基超硬合金(11.5質量%のCo、2.0質量%のTaC、0.7質量%のCrC、残部WC及び不可避的不純物からなる)製のミーリング用インサート基体(WDNW140520-B)と、WC基超硬合金(7質量%のCo、0.6質量%のCrC、2.2質量%のZrC、3.3質量%のTaC、0.2質量%のNbC、残部WC及び不可避的不純物からなる)製の物性評価用インサート基体(SNMN120408)とを
図11に示すCVD炉1内にセットし、H
2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を850℃に上昇させた。その後、850℃及び8 kPaで、83.1体積%のH
2ガス、15.0体積%のN
2ガス、1.5体積%のTiCl
4ガス、及び0.4体積%のCH
3CNガスからなる原料ガスを6700 m L/分の流量でCVD炉1に流した。こうして、化学蒸着法により、各基体上に厚さ3μmの炭窒化チタン皮膜を形成した。
【0069】
H
2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を800℃に下げるとともに圧力を4 kPaに下げた後、2 rpmの速度で回転する
図12(a) に示すパイプ集合体30を用いて、CVD炉1に、第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから0.15体積%のTiCl
4ガス、0.45体積%のAlCl
3ガス、7.50体積%のN
2ガス、及び52.51体積%のH
2ガスからなる混合ガスAを導入し、第二のパイプ12の第二のノズル12aから30.76体積%のH
2ガス、7.50体積%のN
2ガス、及び1.13体積%のNH
3ガスからなる混合ガスBを導入した。混合ガスA及びBの合計流量は66.65 L/分であった。こうして、各炭窒化チタン層上に、化学蒸着法により、組成がTi
0.15Al
0.33N
0.52(原子比)で表される厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成し、本発明の硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作した。
【0070】
(2) 膜厚の測定
得られた硬質皮膜被覆工具の炭窒化チタン皮膜及び窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚を以下の手順で測定した。まず、皮膜面に対して5°の角度で斜めに研磨することによりラップ面(前記硬質皮膜の厚み方向の断面)を露出させ、ラップ面の任意5箇所を1,000倍の光学顕微鏡で観察することにより各層の膜厚を測定し、算術平均した。結果を表2に示す。
【0071】
(3) 結晶構造の測定
結晶構造を測定するため、X線回折装置(PANalytical社製のEMPYREAN)により、管電圧45 kV及び管電流40 mAでCuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜の表面に照射した。2θが20〜80°の範囲で得られたX線回折パターンを
図8に示す。このX線回折パターンでは、WC基超硬合金基体のWCの回折ピークとともに、Ti(CN)皮膜の回折ピーク、fcc構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の回折ピークが観察された。
図8のX線回折パターンから、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜はfccの単一構造を有することが分かる。
【0072】
(4) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のミクロ組織(高Al含有TiAlNと高Ti含有TiAlN)
硬質皮膜被覆工具の破断面(窒化チタンアルミニウム硬質皮膜等)のミクロ組織の観察は、SEM(株式会社日立製作所製S-4200)、及び電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM、日本電子株式会社製JEM-2010F型)を用いて行った。マッピング分析は、JEM-2010F型に付属のエネルギー分光型X線分光器(EDS、NORAN社製 UTW型Si(Li)半導体検出器)を用いて行った。
【0073】
図1は物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜破断面のSEM写真(倍率:10,000倍)である。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有することが分かる。
【0074】
図2は窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のTEM写真(倍率:40,000倍)であり、
図3は
図2のA部を拡大したTEM写真(倍率:200,000倍)であり、
図4は
図2のA部を拡大した断面暗視野STEM像(倍率800,000倍)である。
図3及び
図4から、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が比較的平坦な第一の結晶相(位置Bの薄い灰色部分)6と、薄い膜状(網目状)の第二の結晶相7とを有し、第一の結晶相6が第二の結晶相(位置Cの濃い灰色又は黒色部分)7に囲まれていることが分った。また、
図3から、第一の結晶相6は12 nmの平均縦断面径Dav及び40 nmの平均横断面径Dawを有することが分った。
【0075】
図5は
図3及び
図4に対応するAl及びTiのマッピング分析(面分析)結果を示す。
図5から、第一の結晶相6はAlが多くてTiが少なく、第二の結晶相7はAlが少なくてTiが多いことが分った。
【0076】
図6は
図3のB部(高Al含有TiAlN)のナノビーム回折(NAD)を示し、
図7は
図3のC部(高Ti含有TiAlN)のナノビーム回折(NAD)を示す。ナノビーム回折条件は、JEM-2010F型により、B部及びC部において、加速電圧200 kV及びカメラ長50 cmとした。
図6及び
図7から、第一の結晶相(高Al含有TiAlN)及び第二の結晶相(高Ti含有TiAlN)はともにfcc構造からなることが分った。
【0077】
図3〜
図7から、fcc構造の高Al含有TiAlNである比較的平坦な第一の結晶相がfcc構造の薄い網目状の高Ti含有TiAlNである第二の結晶相に囲まれていることが分った。
【0078】
(6) 組成の測定
電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA-8500F)を用いて、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A、及びビーム径0.5μmの条件で、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成を、物性評価用インサート(SNMN120408)の断面における窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所で測定した。得られた測定値を算術平均することにより、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成を求めた。結果を表2に示す。
【0079】
FE-TEM(JEM-2010F)に搭載のエネルギー分散型X線分光器(EDS、NORAN社製UTW型Si(Li)半導体検出器、ビーム径:約1 nm)を用いて、物性評価用インサート(SNMN120408)の硬質皮膜の断面における窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の高Al含有TiAlN
粒子及び高Ti含有TiAlN粒子の組成を、
前記皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所で分析し、得られた測定値を算術平均した。結果を表3に示す。
【0080】
(7) 硬さの測定
Si単結晶を標準試料とする超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス製ENT-1100)を用いて、4900 mNの最大負荷、49 mN/秒の負荷速度、及び1秒の保持時間の条件でナノインデンテーション(押込み)法により、硬質皮膜の表面の硬さを5回測定し、得られた測定値を算術平均した。結果を表2に示す。
【0081】
(8) 性能評価
得られたミーリング用インサート60を、
図10に示す刃先交換式回転工具(ASRT5063R-4)70の工具本体71の先端部72に止めねじ73で装着し、下記のミーリング条件で硬質皮膜の工具寿命を評価した。硬質皮膜の逃げ面摩耗幅は、倍率100倍の光学顕微鏡で観察することにより測定した。工具寿命は、逃げ面の最大摩耗幅が0.350 mmを超えたときの総切削長さとした。結果を表4に示す。
【0082】
被削材: 硬さ32HRCのSCM440
加工方法: ミーリング加工
インサート形状: WDNT140520-B
切削速度: 175 m/分
回転数: 885 rpm
一刃当たりの送り: 1.50 mm/tooth
送り速度:5310 mm/分
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
径方向の切り込み量: 40 mm
切削方法: 乾式切削
【0083】
実施例2〜18
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の成膜条件を表1-1、表1-2に示すように変更した以外、実施例1と同様にして、各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作し、物性及び工具寿命を評価した。各例の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成、結晶構造、結晶組織、柱状結晶の平均横断面径、膜厚及び硬さの測定結果を表2に示す。各例の高Al含有TiAlNの組成、結晶構造、Dav及びDaw、並びに各例の高Ti含有TiAlNの組成及び結晶構造の測定結果を表3に示す。各例の高Al含有TiAlN等のミクロ組織の観察結果及び工具寿命を表4に示す。表2〜表4より、実施例2〜18の各窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、実施例1と同様に、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた柱状結晶組織を有し、かつ良好な工具寿命を有することが分かる。
【0084】
実施例19
実施例1と同じWC基超硬合金製のミーリング用インサート基体をCVD炉1内にセットし、800℃及び16kPaで0.37体積%のTiCl
4ガス、54.34
体積%のN
2ガス及び45.29体積%のH
2ガスからなる混合ガスを55.2 L/分の流量でCVD炉に流し、前記インサート基体に平均厚さ0.2μmの窒化チタン皮膜を形成した。
【0085】
CVD炉1に、混合ガスAを第二のパイプ12の第二のノズル12aから導入し、混合ガスBを第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから導入した以外は実施例1と同様に、組成がTi
0.10Al
0.40N
0.50(原子比)で表される厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成し、本発明の硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作した。
【0086】
実施例1と同様に、得られた硬質皮膜被覆工具の物性及び工具寿命を評価し、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成、結晶構造、結晶組織、柱状結晶の平均横断面径、膜厚及び硬さの測定結果を表2に示す。高Al含有TiAlNの組成、結晶構造、Dav及びDaw、並びに高Ti含有TiAlNの組成及び結晶構造の測定結果を表3に示す。高Al含有TiAlN等のミクロ組織の観察結果及び工具寿命を表4に示す。表2〜表4より、実施例19の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、実施例1と同様に、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた柱状結晶組織を有し、かつ良好な工具寿命を有することが分かる。
【0087】
比較例1
実施例1と同様にして炭窒化チタン皮膜を形成した後、
図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H
1=H
2)を使用し、第一のノズル11aから40.00体積%のH
2ガス、25.00体積%のN
2ガス、0.35体積%のTiCl
4ガス及び1.00体積%のAlCl
3ガスからなる混合ガスAを、第二のノズル12aから11.65体積%のH
2ガス、20.00体積%のN
2ガス及び2.00体積%のNH
3ガスからなる混合ガスBを、58.00 L/分の流量でCVD炉1に流し、表1に示す成膜条件(850℃及び6 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、化学蒸着法により厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。結果を表2〜表4に示す。
【0088】
比較例2
実施例1と同様にして炭窒化チタン皮膜を形成した後、
図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H
1=H
2)を使用し、第一のノズル11aから65.93体積%のH
2ガス、18.84体積%のArガス、0.16体積%のTiCl
4ガス及び0.94体積%のAlCl
3ガスからなる混合ガスAを、第二のノズル12aから9.42体積%のN
2ガス及び4.71体積%のNH
3ガスからなる混合ガスBを、63.71 L/分の流量でCVD炉1に流し、表1に示す成膜条件(800℃及び1 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、化学蒸着法により厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2〜表4に示す。
【0089】
比較例3
図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H
1=H
2)を使用し、表1に示す原料ガス組成及び成膜条件(800℃及び1 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。結果を表2〜4に示す。
【0090】
表4に示すように、比較例1〜3の各窒化チタンアルミニウム硬質皮膜ではいずれも、高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていなかった。比較例1〜2の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜はfcc構造を有していたが、粒状結晶組織からなっていた。比較例3の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、fcc構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜と、fcc構造とhcp構造とが混在する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜とが交互に積層した
粒状結晶組織からなっていた。
【0092】
【表1-2】
注:(1) 混合ガスAのH
2ガスと混合ガスBのH
2ガスとの体積比。
【0095】
【表4】
注:(1) 切削距離で表す。
【0096】
実施例1〜19の各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の工具寿命はいずれも切削距離で40 m以上であり、比較例1〜3の工具寿命の2倍以上で高性能であった。高性能になった理由は、実施例1〜19の各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が上記の特徴的なミクロ組織を有するために、優れた耐摩耗性及び耐酸化性を発揮したためであると考えられる。
【0097】
これに対して、Al含有量の異なるTiAlNが交互に積層
した粒状組織を有する比較例1の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、高温で結晶粒界から酸素が侵入するために、酸化が早く進行し、その結果比較例1の硬質皮膜被覆工具はクレータ摩耗の進行が早く、低寿命であった。Al含有量の異なるTiAlNが一部積層
した粒状組織を有する比較例2の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を被覆した工具も、比較例1と同様に高温で耐酸化性に劣り、低寿命であった。比較例3の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、高温で早期にfcc構造がhcp構造に変態するので、硬さが低下するとともに層間剥離が発生し、それを被覆した工具は短寿命であった。