特許第6708216号(P6708216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6708216窒化チタンアルミニウム硬質皮膜、硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708216
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】窒化チタンアルミニウム硬質皮膜、硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/34 20060101AFI20200601BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20200601BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20200601BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   C23C16/34
   C23C16/455
   B23B27/14 A
   B23C5/16
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-552396(P2017-552396)
(86)(22)【出願日】2016年11月18日
(86)【国際出願番号】JP2016084346
(87)【国際公開番号】WO2017090540
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229505(P2015-229505)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】福永 有三
(72)【発明者】
【氏名】今井 真之
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−193071(JP,A)
【文献】 特開2015−163424(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/105177(WO,A1)
【文献】 特開2014−133267(JP,A)
【文献】 特表2011−500964(JP,A)
【文献】 特開平4−124272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/34
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状結晶組織を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜であって、(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、前記高Al含有TiAlNが前記網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていることを特徴とする窒化チタンアルミニウム硬質皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜において、前記高Al含有TiAlNが2〜50 nmの平均縦断面径及び10〜300 nmの平均横断面径を有することを特徴とする窒化チタンアルミニウム硬質皮膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜において、前記柱状結晶の平均横断面径は0.1〜1.2μmであることを特徴とする窒化チタンアルミニウム硬質皮膜。
【請求項4】
基体上に柱状結晶組織を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成してなる硬質皮膜被覆工具であって、(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、前記高Al含有TiAlNが前記網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
【請求項5】
請求項4に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記高Al含有TiAlNが2〜50 nmの平均縦断面径及び10〜300 nmの平均横断面径を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記柱状結晶の平均横断面径が0.1〜1.2μmであることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
【請求項7】
化学蒸着法により窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成する方法において、
(1) 原料ガスとして、TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスAと、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスBとを使用し、
(2) 回転軸から異なる距離に配置された第一及び第二のノズルを回転させ、
(3) 前記第一及び第二のノズルから前記混合ガスA及び前記混合ガスBを別々に吹き出すことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、前記混合ガスA及びBの合計を100体積%として、前記混合ガスAの組成を0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス及び残部H2ガスとし、前記混合ガスBの組成を0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスとするとともに、前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5としたことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2より長くし、前記第一のノズルから前記混合ガスAを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスBを噴出することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2より長くし、前記第一のノズルから前記混合ガスBを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスAを噴出することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1と前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2との比(H1/H2)が1.5〜3の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法において、反応圧力が3〜6 kPaであり、反応温度が750〜830℃であることを特徴とする方法。
【請求項13】
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を有する硬質皮膜被覆工具を化学蒸着法により製造する方法において、
(1) 原料ガスとして、TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスAと、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスBとを使用し、
(2) 回転軸から異なる距離に配置された第一及び第二のノズルを回転させ、
(3) 前記第一及び第二のノズルの周囲に工具基体を配置し、
(4) 前記第一及び第二のノズルから前記混合ガスA及び前記混合ガスBを別々に吹き出すことを特徴とする。
【請求項14】
請求項13に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記混合ガスA及びBの合計を100体積%として、前記混合ガスAの組成を0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス及び残部H2ガスとし、前記混合ガスBの組成を0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスとするとともに、前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5としたことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2より長くし、前記第一のノズルから前記混合ガスAを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスBを噴出することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項13又は14に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2より長くし、前記第一のノズルから前記混合ガスBを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスAを噴出することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1と前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2との比(H1/H2)が1.5〜3の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれかに記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、反応圧力が3〜6 kPaであり、反応温度が750〜830℃であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性及び耐酸化性に優れた窒化チタンアルミニウム硬質皮膜、硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から耐熱合金鋼やステンレス鋼等の切削加工に、TiAlN、TiC、TiN、Ti(CN)、Al2O3等の硬質皮膜を単層又は複層に被覆した切削工具が用いられている。このような硬質皮膜被覆工具の使用条件は益々過酷になっており、例えば、軟鋼の高速切削の場合、切削中に切削工具の刃先温度が著しく上昇する。高温になった刃部では、硬質皮膜の結晶構造が変化して硬度が低下し、すくい面のクレータ摩耗が進行し、短寿命になるという問題がある。このような問題を解消するために、更に高温での耐摩耗性及び耐酸化性に優れた硬質皮膜を有する切削工具が望まれている。
【0003】
特開2001-341008号は、原料ガスとしてチタンハライドガス、アルミニウムハライドガス及びNH3ガスを用い、WC基超硬合金基体の表面に、700〜900℃で熱CVD法により0.01〜2質量%の塩素を含むfcc構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した被覆切削工具を開示している。しかし、特開2001-341008号の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は微細な粒状結晶組織からなるため、高温で使用した場合に耐酸化性が低く、短寿命であることが分った。
【0004】
特表2008-545063号は、基体の表面に熱CVD法により組成がTi1-xAlxN(0.75<x≦0.93)で表わされ、格子定数が0.412〜0.405 nmのfcc構造を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜、又は窒化チタンアルミニウムを主相として別の相も有する多相の皮膜を有する硬質皮膜被覆工具を開示している。しかし、特表2008-545063号の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜も粒状結晶組織からなるため、高温で使用した場合に耐酸化性が低く、短寿命であることが分った。
【0005】
特開2014-129562号は、図14に示すCVD装置100を使用して多層構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を被覆した工具を開示している。CVD装置100は、複数の基体102を載置する複数の棚103と、棚103をカバーする反応容器104と、反応容器104を囲む調温装置105と、2つの導入口106、107を有する導入管108と、排気管109とを具備する。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜はWC基超硬合金基体の表面にTiAlN、AlN又はTiNの硬質粒子からなる第一単位層と第二単位層とが交互に積層された構造を有する。これは、(1) 第一及び第二の原料ガス(混合ガス)が導入管108の中心から等距離の位置に設けられたノズルから炉内に正反対の方向(180°)に噴出され、かつ(2) 原料ガスが本発明と異なるためである。積層構造を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、層間の組成差による熱膨張係数差により高温での使用時に層間剥離が生じるとともに、結晶構造が微粒組織であり高温で使用した場合に耐酸化性が大きく低下し、短寿命であることが分った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の第一の目的は、優れた耐摩耗性及び耐酸化性を有する長寿命の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を提供することである。
【0007】
本発明の第二の目的は、かかる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を被覆した工具を提供することである。
【0008】
本発明の第三の目的は、かかる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜及び硬質皮膜被覆工具を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、柱状結晶組織を有し、(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、前記高Al含有TiAlNが前記網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていることを特徴とする。
【0010】
本発明の硬質皮膜被覆工具は、基体上に窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成してなり、前記窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有するとともに、(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、前記高Al含有TiAlNが前記網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていることを特徴とする。
【0011】
本発明の硬質皮膜被覆工具は、前記窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の下層として、柱状晶からなる炭窒化チタン皮膜を有するのが好ましい。かかる構成により、硬質皮膜の耐摩耗性がさらに向上し、工具は長寿命化する。
【0012】
上記窒化チタンアルミニウム硬質皮膜において、前記高Al含有TiAlNは2〜50 nmの平均縦断面径及び10〜300 nmの平均横断面径を有するのが好ましい。また、前記柱状結晶の平均横断面径は0.1〜1.2μmであるのが好ましい。
【0013】
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を化学蒸着法により形成する本発明の方法は、
(1) 原料ガスとして、TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスAと、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスBとを使用し、
(2) 回転軸から異なる距離に配置された第一及び第二のノズルを回転させ、
(3) 前記第一及び第二のノズルから前記混合ガスA及び前記混合ガスBを別々に吹き出すことを特徴とする。
【0014】
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を有する硬質皮膜被覆工具を化学蒸着法により製造する本発明の方法は、
(1) 原料ガスとして、TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスAと、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスBとを使用し、
(2) 回転軸から異なる距離に配置された第一及び第二のノズルを回転させ、
(3) 前記第一及び第二のノズルの周囲に工具基体を配置し、
(4) 前記第一及び第二のノズルから前記混合ガスA及び前記混合ガスBを別々に吹き出すことを特徴とする。
【0015】
前記混合ガスA及びBの合計を100体積%として、前記混合ガスAの組成を0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス及び残部H2ガスとし、前記混合ガスBの組成を0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスとするとともに前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5とするのが好ましい。
【0016】
前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1を前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2より長くし、前記第一のノズルから前記混合ガスAを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスBを噴出しても良いし、前記第一のノズルから前記混合ガスBを噴出し、前記第二のノズルから前記混合ガスAを噴出しても良い。
【0017】
前記第一のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H1と前記第二のノズルの噴出口と前記回転軸との距離H2との比(H1/H2)は1.5〜3の範囲内であるのが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、反応圧力は3〜6 kPaであり、反応温度は750〜830℃であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、柱状結晶組織を有し、fcc構造の高Al含有TiAlNとfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれたミクロ組織を有するので、かかる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を有する切削工具を用いた切削加工では、工具刃先部が高温になってもfcc構造からhcp構造への相変態が抑制され、もって顕著に優れた耐摩耗性及び耐酸化性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率10,000倍)である。
図2】実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率40,000倍)である。
図3図2のA部を拡大して示すTEM写真(倍率200,000倍)である。
図4図2のA部を拡大して示す断面暗視野STEM写真(倍率800,000倍)である。
図5図4をEDSマッピング分析した結果を示す図である。
図6】実施例1の窒化チタンアルミニウム層における高Al含有TiAlN(図3のB部)のナノビーム回折(NAD)の結果を示す図である。
図7】実施例1の窒化チタンアルミニウム層における高Ti含有TiAlN(図3のC部)のナノビーム回折(NAD)の結果を示す図である。
図8】実施例1の硬質皮膜被覆工具の硬質皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図9(a)】ミーリング用インサートを示す概略平面図である。
図9(b)】ミーリング用インサートを示す概略側面図である。
図10】ミーリング用インサートを装着する刃先交換式回転工具を示す概略図である。
図11】本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成する化学蒸着装置(CVD炉)の一例を示す模式図である。
図12(a)】第一及び第二のパイプの集合体の一例を示す横断面図である。
図12(b)】第一及び第二のパイプの集合体の別の例を示す横断面図である。
図12(c)】第一及び第二のパイプの集合体のさらに別の例を示す横断面図である。
図13】特開2014-129562号に記載の装置と同じ方向に原料ガス噴出ノズルを有する一体的なパイプ集合体を示す横断面図である。
図14】特開2014-129562号に記載のCVD装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1] 硬質皮膜被覆工具
本発明の硬質皮膜被覆工具は、工具基体上に化学蒸着法により柱状結晶組織を有する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成したもので、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の高Al含有TiAlNと、(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有するfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNとを有するとともに、高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている構造を有する。
【0022】
(A) 基体
基体は化学蒸着法を適用できる高耐熱性の材質である必要があり、例えばWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼又は立方晶窒化ホウ素を主成分とする窒化ホウ素焼結体(cBN)、サイアロンのようなセラミックス等が挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性の観点から、WC基超硬合金、サーメット及びセラミックスが好ましい。例えばWC基超硬合金の場合、焼結したままの未加工面にも本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成できるが、寸法精度を高めるために加工面(研磨加工面又は刃先処理加工面等)に窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成するのが好ましい。
【0023】
(B) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜
(1) 組成
化学蒸着法により形成する本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有するとともに、Ti、Al及びNを必須成分とする。本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の必須成分組成は、Ti、Al及びNの合計量を100原子%として、4〜22原子%のTi、48〜23原子%のAl、及び48〜55原子%のNであるのが好ましい。上記組成範囲外では所望のミクロ組織が得られない。より好ましい必須成分組成は8〜18原子%のTi、42〜29原子%のAl、及び50〜53原子%のNである。Nの30原子%以下をC又はBで置換しても良い。本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、不可避的不純物としてClを含有しても良いが、Cl含有量は1.5原子%以下が好ましく、0.8原子%以下がより好ましい。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成はEPMAにより測定することができる。
【0024】
(a) 高Al含有TiAlNの組成
高Al含有TiAlNは、一般式:(Tix1, Aly1)N(ただし、x1及びy1はそれぞれ原子比でx1=0.005〜0.1、及びy1=0.995〜0.9を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの割合x1が0.005未満ではAl含有量が過多になり、hcp構造が析出するために硬度が低下し、高温での耐摩耗性に劣る。x1が0.1超では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が微細な粒状結晶組織になり、耐酸化性が低下する。高性能化の観点から、(Tix1, Aly1)とNとの原子比は0.3/0.7〜0.7/0.3が好ましく、0.4/0.6〜0.6/0.4がより好ましい。
【0025】
(b) 高Ti含有TiAlNの組成
高Ti含有TiAlNは、一般式:(Tix2, Aly2)N(ただし、x2及びy2はそれぞれ原子比でx2=0.5〜0.9、及びy2=0.5〜0.1を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの割合x2が0.5未満ではAl含有量が過多になり、hcp構造が析出するために硬度が低下し、耐摩耗性が低下する。x2が0.9超では、Al含有量が過少になり、耐酸化性が大きく低下する。高性能化の観点から、(Tix2, Aly2)とNとの原子比は0.3/0.7〜0.7/0.3が好ましく、0.4/0.6〜0.6/0.4がより好ましい。
【0026】
高Al含有TiAlN及び高Ti含有TiAlNの組成は後述するEDSの測定結果に基づき求めることができる。
【0027】
(2) 高Al含有TiAlN及び高Ti含有TiAlN
(a) 構造
図3から明らかなように、fcc構造からなる高Al含有TiAlN(薄い灰色の部分)は、fcc構造からなる網目状高Ti含有TiAlN(濃い灰色又は黒色の部分)に囲まれている。図3において、高Al含有TiAlNと高Ti含有TiAlNの濃度差が少ない箇所が部分的に観察されるが、高Al含有TiAlNの少なくとも50%が周りの高Ti含有TiAlNに接触していれば本発明の効果が得られる。従って、「高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている」とは、高Al含有TiAlNの少なくとも50%が周りの網目状高Ti含有TiAlNに接触していることを意味する。高Al含有TiAlNの少なくとも60%が周りの網目状高Ti含有TiAlNに接触しているのが好ましい。なお、「網目状」とは、顕微鏡写真で観察したときに高Ti含有TiAlNが網目状に分布していることを意味する。
【0028】
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜より高性能になるメカニズムは十分明らかではないが、以下のように考えられる。即ち、従来の化学蒸着法による窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、Al含有量の異なるTiAlNが交互に積層した構造、又はTiNとAlNとが交互に積層した構造を有する。積層構造における各層は微細な粒状結晶粒子からなるため、結晶粒界の割合が高い。このような窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を有する工具で切削加工を行うと、昇温した工具刃先部では結晶粒界が酸素侵入経路となって、酸化が促進され、高温での耐摩耗性及び耐酸化性が大きく低下する。また、前記積層構造のうち、fcc構造を有する高Al含有量のTiAlN皮膜は高温時にhcp構造に変態するので、層間剥離を起こし、短寿命化の原因となる。
【0029】
これに対し、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜では、高Al含有TiAlNは網目状高Ti含有TiAlNに囲まれている。網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた高Al含有TiAlNは皮膜成長の起点となるので、窒化チタンアルミニウム結晶粒は一方向に優先的に成長し、柱状結晶となる。従って、切削加工による昇温のためにfcc構造の高Al含有TiAlNがhcp構造に変態して収縮した場合でも、周りのfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNにより、皮膜の破壊が抑制される。このような特徴的なミクロ組織は従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜には存在しない。このように本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、従来の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜より非常に大きな高温硬さを有するので、耐摩耗性に優れている。また、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、Al含有量が多く、かつ粒状結晶組織に比べて結晶粒界の少ない柱状結晶組織を有するので、酸化されにくい(耐酸化性に優れている)。高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれたミクロ構造は、ナノビーム回折の測定結果(図6及び図7を参照)に基づき判定することができる。
【0030】
(b) 高Al含有TiAlNの平均横断面径及び平均縦断面径
「平均横断面径」は、基体表面に垂直な断面のTEM写真において、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の柱状結晶粒の高Al含有TiAlN部分の最大直径の平均を意味する。また、「平均縦断面径」は、基体表面に垂直な断面のTEM写真において、前記高Al含有TiAlN部分の最大直径に直交する方向の最大長さの平均を意味する。具体的には、高Al含有TiAlNの「平均横断面径」は、図3のTEM写真(倍率:200,000倍)において、網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた5つの高Al含有TiAlN部分を任意に選択し、各選択部分において最大直径を測定し、得られた5つの測定値を算術平均することにより求めた。また、高Al含有TiAlNの「平均縦断面径」は、前記の図3のTEM写真における5つの選択部分において、前記最大直径に直交する方向の最大長さを測定し、得られた5つの測定値を算術平均することにより求めた。
【0031】
高Al含有TiAlNは一般に偏平な形状(図4を参照)を有し、平均縦断面径より平均横断面径の方が大きい。具体的には、高Al含有TiAlNの平均縦断面径は2〜50 nmが好ましく、6〜45 nmがより好ましい。平均縦断面径が2 nm未満では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過少になり、耐酸化性に劣る。一方、平均縦断面径が50 nmを超えるとAl含有量が過多になり、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜中のhcp構造の割合が増大して、硬さが低下する。また、高Al含有TiAlNの平均横断面径は10〜300 nmが好ましく、22〜120 nmがより好ましい。平均横断面径が10 nm未満では窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐酸化性が低下する。一方、平均横断面径が300 nmを超えると微細な粒状結晶組織になり、fcc構造がhcp構造に相変態して、高温での耐摩耗性に劣る。
【0032】
(3) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の柱状結晶の平均横断面径
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有する。柱状結晶の「平均横断面径」は、基体表面に垂直な面における柱状結晶の断面の平均径を意味する。高硬度で優れた耐摩耗性を有するために、柱状結晶の平均横断面径は0.1〜1.2μmであるのが好ましく、0.2〜1.0μmであるのがより好ましい。平均横断面径が0.1μm未満では窒化チタンアルミニウム結晶粒の結晶粒界比率が高く、高温での耐酸化性が大幅に低下する。一方、平均横断面径が1.2μmより大きいと結晶粒内にクラックが発生して、皮膜の破壊を招く。具体的に、平均横断面径は、図1のSEM写真の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚方向中間部において、任意の10個の柱状結晶粒の横断面径を測定し、得られた測定値を算術平均することにより求めた。
【0033】
(4) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚
基体からの剥離を抑制するとともに優れた耐摩耗性及び耐酸化性を発揮するために、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚は1〜15μmにするのが好ましく、2〜12μmにするのがより好ましい。膜厚が1μm未満では皮膜の効果が十分に得られず、膜厚が15μmを超えると皮膜が厚くなり過ぎて皮膜内部にクラックが発生するおそれがある。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚は成膜時間により適宜制御することができる。なお、硬質皮膜及びそれを構成する各層は完全に平坦ではないので、単に「膜厚」と呼ぶ場合でも「平均厚さ」を意味する。
【0034】
(5) 硬さ
ナノインデンテーション(押込み)法により測定した本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の硬さは33 GPa以上が好ましい。硬さが33 GPa未満では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐摩耗性は不十分である。工業生産上、35〜42 GPaの硬さを実現することができる。
【0035】
(C) 下層
特に限定されないが、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の下層として、Ti(CN)皮膜、TiN皮膜又はTiZr(CN)皮膜を化学蒸着法により設けるのが好ましい。Ti(CN)皮膜は耐摩耗性に優れる反面、高温での耐熱性に劣るが、その上に本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成すると、耐熱性の問題が解消される。
【0036】
化学蒸着法によりTi(CN)皮膜を成膜する温度は750〜950℃であり、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の好ましい成膜温度750〜830℃とほぼ一致しているため、工業生産性が高い。本発明の硬質皮膜被覆工具では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜とTi(CN)皮膜との間に、密着性を高める中間層を設けても良い。中間層としてTiN皮膜又はTiAl(CN)皮膜が好ましい。
【0037】
(d)上層
特に限定されないが、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の上層として、Ti、Al、Cr、B及びZrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、C、N及びOからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須とする単層又は多層の硬質皮膜を化学蒸着法により設けても良い。上層としては、例えばTiC、CrC、SiC、VC、ZrC、TiN、AlN、CrN、Si3N4、VN、ZrN、Ti(CN)、(TiSi)N、(TiB)N、TiZrN、TiAl(CN)、TiSi(CN)、TiCr(CN)、TiZr(CN)、Ti(CNO)、TiAl(CNO)、Ti(CO)、及びTiB2等の単層又は積層の皮膜が挙げられる。
【0038】
[2] 化学蒸着装置
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、熱化学蒸着装置又はプラズマ支援化学蒸着装置(CVD炉)を用いた化学蒸着法により形成することができる。図11に示すように、CVD炉1は、チャンバー2と、チャンバー2の壁内に設けられたヒータ3と、チャンバー2内で回転する複数の棚(治具)4,4と、棚4,4を覆い、複数の排出孔5aを有する反応容器5と、棚4,4の中央開口部4aを垂直に貫通する第一及び第二のパイプ11,12と、各パイプ11,12に設けられた複数のノズル11a,12a,12bとを具備する。多数のインサート基体20が載置された棚4,4は、チャンバー2内で回転する。第一及び第二のパイプ11,12は、両端部が保持部材(図示省略)により一体的に固定されてパイプ集合体を構成し、一体的に回転し得るようにチャンバー2の底部を貫通し、回転自在に外部の配管(図示せず)に接続されている。チャンバー2の底部には、キャリアガス及び未反応ガスを排出するためのパイプ13を有する。
【0039】
[3] 製造方法
本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の製造方法を、熱化学蒸着法を用いる場合を例にとって、以下詳細に説明するが、勿論本発明はそれに限定されず、他の化学蒸着法にも適用できる。
【0040】
(A) 下層(炭窒化チタン皮膜)の形成
基体をセットしたCVD炉内にH2ガス、N2ガス及び/又はArガスを流し、成膜温度まで昇温した後、TiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス(又はCH3CNガスとC2H6ガス)、及びH2ガスからなる原料ガスをCVD炉内に流し、下層の炭窒化チタン皮膜を形成する。
【0041】
(1) l-Ti(CN)皮膜用の原料ガス
下層の一例として柱状結晶組織を有するl-Ti(CN)皮膜を形成する原料ガス組成は、合計を100体積%として、0.8〜3体積のTiCl4ガス、10〜30体積%のN2ガス、0.1〜1.2体積%のCH3CNガス、及び残部H2ガスからなるのが好ましい。TiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガスの含有量が上記範囲外であると、得られる炭窒化チタン皮膜中の炭素濃度が高過ぎたり、柱状結晶粒が粗大化して上層の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜との密着力が低下する。
【0042】
(B) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の形成
(1) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の原料ガス
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成する原料ガスとして、TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスAと、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスからなる混合ガスBとを使用する。TiCl4ガス、AlCl3ガス、NH3ガス、N2ガス及びH2ガスの合計を100体積%として、混合ガスAの組成は0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、3〜40体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのが好ましく、混合ガスBの組成は0.4〜1.9体積%のNH3ガス、2〜26体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるとともに前記混合ガスAのH2ガスと前記混合ガスBのH2ガスとの体積比H2(A)/H2(B)を1〜5とするのが好ましい。体積比H2(A)/H2(B)が1未満及び5超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。混合ガスA、Bにおいて、キャリアガスであるH2ガスの一部をArガスで代替しても良い。混合ガスAの組成は0.02〜0.31体積%のTiCl4ガス、0.15〜0.8体積%のAlCl3ガス、4.9〜21.8体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなり、混合ガスBの組成は0.7〜1.9体積%のNH3ガス、3〜16.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのがより好ましい。混合ガスAの組成は0.1〜0.2体積%のTiCl4ガス、0.3〜0.5体積%のAlCl3ガス、4.9〜21.8体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなり、混合ガスBの組成は0.8〜1.3体積%のNH3ガス、3〜16.5体積%のN2ガス、及び残部H2ガスからなるのがさらに好ましい。体積比H2(A)/H2(B)を1.5〜4.8とするのがより好ましい。
【0043】
(a) 混合ガスA
TiCl4ガスが0.02体積%未満であると混合ガスA中のAl量が過多となり、hcp構造が析出して、得られる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の硬さが低下する。一方、TiCl4ガスが0.31体積%を超えると、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は本発明のミクロ構造を有さない。
【0044】
AlCl3ガスが0.15体積%未満であると窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過少になり、得られる窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の耐酸化性が低下する。またAlCl3ガスが0.8体積%を超えると、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のAl含有量が過多になり、hcp構造が析出して耐摩耗性が低下する。
【0045】
N2ガスが3体積%未満及び40体積%超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。
【0046】
(b) 混合ガスB
混合ガスBにおいて、NH3ガスが0.4体積%未満及び1.9体積%超のいずれでも、反応速度が変わり、本発明の特徴的なミクロ組織が得られない。
【0047】
N2ガスが2体積%未満及び26体積%超のいずれでも、原料ガスの反応速度が変わり、CVD炉内に載置された基体上に形成される窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。
【0048】
(2) 原料ガスの導入方法
反応性の高い混合ガスA及びBの混合により反応速度を制御し、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれたミクロ組織を形成するために、混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で送入しなければならない。このために、図11及び図12(a)〜図12(c) に示すように、例えば合計3本のパイプ11,11,12を固定したパイプ集合体30を具備するCVD炉1を用いる。
【0049】
各ノズルから噴出する混合ガスA,Bの流れを阻害せずに混合ガスA及びBを別々にCVD炉1内に導入する必要がある。そのためには、図12(a)〜図12(c) に例示するように、混合ガスA,Bを噴出する第一及び第二のノズルの一方を中心側に配置し、他方を外周側に配置し、第一及び第二のノズルから別々に混合ガスA及びBを吹き出す必要がある。
【0050】
本発明の特徴的なミクロ組織を得るために、混合ガスA,Bを導入するノズル11a,12aは2〜4 rpmの速度で回転するのが好ましい。第一及び第二のノズル11a,12aの回転方向は限定的でない。
【0051】
図12(a)〜図12(c) は混合ガスA、Bを噴き出すノズル構造の好ましい例を示す。パイプ集合体30の回転軸Oに関して、第一のノズル11aは外周側に位置し、第二のノズル12aは中心側に位置する。上記の特徴的なミクロ組織を形成するために、混合ガスBを噴出するノズルの噴出口と被覆物までの距離を、混合ガスAを噴出するノズルの噴出口と被覆物までの距離より短くするのが好ましい。混合ガスA中のTiCl4ガス及びAlCl3ガスは、混合ガスB中のNH3ガスと非常に反応性が高く、CVD炉内に導入されると急激に反応する。反応速度が高いと、被覆物に到達する前から反応が起こりやすい。従って、図13に示すように混合ガスA及びBを噴出するノズル口が回転軸から等距離にあると(H1=H2)、混合ガスA及びBが被覆物に到達するまでに両者の反応が顕著に起こり、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は微細な粒状結晶組織となる。また上記とは逆に、混合ガスA用ノズルの噴出口と被覆物との距離を、混合ガスB用ノズルの噴出口と被覆物との距離より短くしても良い。
【0052】
本発明の特徴的なミクロ組織を得るために、第一のノズル11aの噴出口と回転軸Oとの距離H1と第二のノズル12aの噴出口と回転軸Oとの距離H2との比(H1/H2)は1.5〜3の範囲内であるのが好ましい。
【0053】
(a) 第一のパイプ集合体
図12(a) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第一のパイプ集合体30の一例を示す。このパイプ集合体30は2本の第一のパイプ11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。
【0054】
第一のパイプ11は半径R1を有し、第二のパイプ12は半径R2を有する。第一のパイプ11の中心軸O1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D1の円周C1上に位置する。従って、2本の第一のパイプ11,11は回転軸Oから等距離である。第一のパイプ11,11の中心軸O1,O1の回転軸Oに対する中心角θは90〜180°であるのが好ましい。また、第二のパイプ12の中心軸O2は回転軸Oと一致しており、第二のパイプ12の外周は、回転軸Oを中心とした第二の直径D2(=2R2)の円周C2と一致している。
【0055】
第一のパイプ11,11のノズル(第一のノズル)11a,11aは外方に正反対の方向(180°の方向)に向いている。図示の例では各第一のパイプ11は縦方向1列のノズル(第一のノズル)11aを有するが、これに限定されず、第一のノズル11aは複数列でも良い。また、第二のパイプ12は直径方向(180°の方向)に配置された縦方向2列のノズル(第二のノズル)12a,12aを有する。勿論、第二のノズル12aは2列に限定されず、1列でも良い。第一の直径D1が第二の直径D2より大きいので[D1≧2(R1+R2)]、パイプ集合体30が回転軸Oを中心にして回転すると、第一のノズル11a,11aは外周側に位置し、第二のノズル12a,12aは内周側に位置する。
【0056】
第二のパイプ12が1列の第二のノズル12aを有し、かつ第一のパイプ11,11の中心軸O1,O1の中心角θが180°未満の場合、第二のノズル12aは第一のノズル11a,11aから遠い方向(中心角θの反対側)に向いているのが好ましい。この場合、第一のノズル11aの噴出方向と第二のノズル12aの噴出方向とは直交しているのが好ましい。
【0057】
第一のパイプ11,11の中心軸O1,O1が第二のパイプ12の中心軸O2と同一直線上にあり、かつ第二のパイプ12が2列の第二のノズル12a,12aを有する場合、第一のノズル11a,11aは正反対の方向(180°の方向)を向き、かつ第二のノズル12aは第一のノズル11a,11aと直交する方向で正反対の方向を向いている(90°の中心角である)のが好ましい。
【0058】
(b) 第二のパイプ集合体
図12(b) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第二のパイプ集合体40の一例を示す。このパイプ集合体40は1本の第一のパイプ11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。第一のパイプ11は1列のノズル(第一のノズル)11aを有し、第二のパイプ12も縦方向1列のノズル(第二のノズル)12aを有する。
【0059】
第二のパイプ12の中心軸O2はパイプ集合体40の回転軸Oと一致しており、第一のパイプ11は第二のパイプ12に近接する位置に配置されている。第一のパイプ11は半径R1を有し、第二のパイプ12は半径R2を有する。第一のパイプ11の中心軸O1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D1の円周C1上に位置し、第二のパイプ12の中心軸O2は回転軸Oと一致しており、その外周は回転軸Oを中心とした第二の直径D2(=2R2)の円周C2と一致している。第一の直径D1が第二の直径D2より大きいので[D1≧2(R1+R2)]、パイプ集合体40が回転軸Oを中心として回転すると、第一のノズル11aは外周側に位置し、第二のノズル12aは内周側に位置する。
【0060】
図示の例では第一のパイプ11のノズル(第一のノズル)11aと第二のパイプ12の第二のノズル12aとは正反対の方向(180°の方向)を向いているが、勿論限定的でなく、第一のノズル11aと第二のノズル12aとの中心角は90〜180°の範囲内であれば良い。
【0061】
(c) 第三のパイプ集合体
図12(c) は混合ガスA及びBをCVD炉1内に非接触の状態で導入する第三のパイプ集合体50の一例を示す。このパイプ集合体50は4本の第一のパイプ11,11,11,11及び1本の第二のパイプ12からなり、第一及び第二のパイプ11,11,11,11,12の両端部は保持部材(図示省略)により一体的に固定されている。各第一のパイプ11は縦方向1列のノズル(第一のノズル)11aを有し、第二のパイプ12は直交する直径方向(180°)に配置された縦方向二対の列のノズル(第二のノズル)12a,12a,12a,12aを有する。全ての第一のパイプ11,11,11,11のノズル(第一のノズル)11a,11a,11a,11aは外方を向いている。
【0062】
第一のパイプ11は半径R1を有し、第二のパイプ12は半径R2を有する。第一のパイプ11の中心軸O1は、回転軸Oを中心とした第一の直径D1の円周C1上に位置する。従って、4本の第一のパイプ11,11,11,11は回転軸Oから等距離である。また、第二のパイプ12の中心軸O2は回転軸Oと一致しており、その外周は回転軸Oを中心とした第二の直径D2(=2R2)の円周C2と一致している。第一の直径D1が第二の直径D2より大きいので[D1≧2(R1+R2)]、パイプ集合体50が回転軸Oを中心として回転すると、第一のノズル11a,11a,11a,11aは外周側に位置し、第二のノズル12a,12a,12a,12aは内周側に位置する。図示の例では隣接する第一のパイプ11,11の中心軸O1,O1の回転軸Oに関する中心角θは90°であるが、これに限定されず、60〜120°であれば良い。
【0063】
(3) 成膜温度
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の成膜温度は750〜830℃が好ましい。成膜温度が750℃未満では、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の塩素含有量が多くなり、皮膜硬さが低下する。一方、成膜温度が830℃を超えると反応が促進されすぎて粒状結晶組織となり、耐酸化性に劣る。
【0064】
(3) 反応圧力
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の反応圧力は3〜6 kPaが好ましい。反応圧力が3 kPa未満であると上記の特徴的なミクロ組織が得られない。一方、反応圧力が6 kPaを超えると窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は粒状結晶組織となり、耐酸化性に劣る。
【0065】
(C)上層(硬質皮膜)の形成
特に限定されないが、公知の化学蒸着法により窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の上層を形成することができる。成膜温度は700〜830℃で良い。上層を形成するのに用いる原料ガスの例は下記の通りである。
1. TiC皮膜 TiCl4ガス、CH4ガス及びH2ガス。
2. CrC皮膜 CrCl3ガス、CH4ガス及びH2ガス。
3. SiC皮膜 SiCl4ガス、CH4ガス及びH2ガス。
4. VC皮膜 VClガス、CH4ガス及びH2ガス。
5. ZrC皮膜 ZrCl4ガス、CH4ガス及びH2ガス。
6. TiN皮膜 TiCl4ガス、N2ガス及びH2ガス。
7. AlN皮膜 AlCl3ガス、NH3ガス及びH2ガス。
8. CrN皮膜 CrCl3ガス、NH3ガス及びH2ガス。
9. Si3N4皮膜 SiCl4ガス、NH3ガス及びH2ガス。
10. VN皮膜 VCl3ガス、NH3ガス及びH2ガス。
11. ZrN皮膜 ZrCl4ガス、N2ガス及びH2ガス。
12. Ti(CN)皮膜 TiCl4ガス、CH4ガス、N2ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、CH3CNガス、N2ガス及びH2ガス。
13. (TiSi)N皮膜 TiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス及びNH3ガス。
14. (TiB)N皮膜 TiCl4ガス、N2ガス及びBCl3ガス。
15. TiZr(CN)皮膜 TiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH4ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
16. TiAl(CN)皮膜 TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
17. TiSi(CN)皮膜 TiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、SiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
18. TiCr(CN)皮膜 TiCl4ガス、CrCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、CrCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
19. TiV(CN)皮膜 TiCl4ガス、VCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、VCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
20. TiZr(CN)皮膜 TiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、NH3ガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、ZrCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス及びH2ガス。
21. Ti(CNO)皮膜 TiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、N2ガス、CH3CNガス、COガス及びH2ガス。
22. TiAl(CNO)皮膜 TiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス及びH2ガス、又はTiCl4ガス、AlCl3ガス、N2ガス、CH3CNガス、COガス及びH2ガス。
23. Ti(CO)皮膜 TiCl4ガス、N2ガス、CH4ガス、COガス、CO2ガス及びH2ガス。
24. TiB2皮膜 TiCl4ガス、BCl3ガス、H2ガス。
【0066】
(D) 硬質皮膜被覆後の刃先処理
基体上に形成した窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、ブラシ、バフ又はブラスト等による処理により平滑化され、耐チッピング性に優れた表面状態になる。特にアルミナ、ジルコニア、シリカ等のセラミックスの粉末を投射材として用い、湿式又は乾式のブラスト法により硬質皮膜の刃先を処理すると、硬質皮膜の表面が平滑化されるとともに硬質皮膜の引張残留応力が低下し、耐チッピング性が向上する。
【0067】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、勿論本発明はそれらに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、流量(L/分)は1気圧及び25℃における毎分のLであり、また厚さは平均値である。
【0068】
実施例1
(1) 硬質皮膜の形成
図9(a) 及び図9(b) に概略的に示すWC基超硬合金(11.5質量%のCo、2.0質量%のTaC、0.7質量%のCrC、残部WC及び不可避的不純物からなる)製のミーリング用インサート基体(WDNW140520-B)と、WC基超硬合金(7質量%のCo、0.6質量%のCrC、2.2質量%のZrC、3.3質量%のTaC、0.2質量%のNbC、残部WC及び不可避的不純物からなる)製の物性評価用インサート基体(SNMN120408)とを図11に示すCVD炉1内にセットし、H2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を850℃に上昇させた。その後、850℃及び8 kPaで、83.1体積%のH2ガス、15.0体積%のN2ガス、1.5体積%のTiCl4ガス、及び0.4体積%のCH3CNガスからなる原料ガスを6700 m L/分の流量でCVD炉1に流した。こうして、化学蒸着法により、各基体上に厚さ3μmの炭窒化チタン皮膜を形成した。
【0069】
H2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を800℃に下げるとともに圧力を4 kPaに下げた後、2 rpmの速度で回転する図12(a) に示すパイプ集合体30を用いて、CVD炉1に、第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから0.15体積%のTiCl4ガス、0.45体積%のAlCl3ガス、7.50体積%のN2ガス、及び52.51体積%のH2ガスからなる混合ガスAを導入し、第二のパイプ12の第二のノズル12aから30.76体積%のH2ガス、7.50体積%のN2ガス、及び1.13体積%のNH3ガスからなる混合ガスBを導入した。混合ガスA及びBの合計流量は66.65 L/分であった。こうして、各炭窒化チタン層上に、化学蒸着法により、組成がTi0.15Al0.33N0.52(原子比)で表される厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成し、本発明の硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作した。
【0070】
(2) 膜厚の測定
得られた硬質皮膜被覆工具の炭窒化チタン皮膜及び窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚を以下の手順で測定した。まず、皮膜面に対して5°の角度で斜めに研磨することによりラップ面(前記硬質皮膜の厚み方向の断面)を露出させ、ラップ面の任意5箇所を1,000倍の光学顕微鏡で観察することにより各層の膜厚を測定し、算術平均した。結果を表2に示す。
【0071】
(3) 結晶構造の測定
結晶構造を測定するため、X線回折装置(PANalytical社製のEMPYREAN)により、管電圧45 kV及び管電流40 mAでCuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜の表面に照射した。2θが20〜80°の範囲で得られたX線回折パターンを図8に示す。このX線回折パターンでは、WC基超硬合金基体のWCの回折ピークとともに、Ti(CN)皮膜の回折ピーク、fcc構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の回折ピークが観察された。図8のX線回折パターンから、本発明の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜はfccの単一構造を有することが分かる。
【0072】
(4) 窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のミクロ組織(高Al含有TiAlNと高Ti含有TiAlN)
硬質皮膜被覆工具の破断面(窒化チタンアルミニウム硬質皮膜等)のミクロ組織の観察は、SEM(株式会社日立製作所製S-4200)、及び電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM、日本電子株式会社製JEM-2010F型)を用いて行った。マッピング分析は、JEM-2010F型に付属のエネルギー分光型X線分光器(EDS、NORAN社製 UTW型Si(Li)半導体検出器)を用いて行った。
【0073】
図1は物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜破断面のSEM写真(倍率:10,000倍)である。窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は柱状結晶組織を有することが分かる。
【0074】
図2は窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のTEM写真(倍率:40,000倍)であり、図3図2のA部を拡大したTEM写真(倍率:200,000倍)であり、図4図2のA部を拡大した断面暗視野STEM像(倍率800,000倍)である。図3及び図4から、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が比較的平坦な第一の結晶相(位置Bの薄い灰色部分)6と、薄い膜状(網目状)の第二の結晶相7とを有し、第一の結晶相6が第二の結晶相(位置Cの濃い灰色又は黒色部分)7に囲まれていることが分った。また、図3から、第一の結晶相6は12 nmの平均縦断面径Dav及び40 nmの平均横断面径Dawを有することが分った。
【0075】
図5図3及び図4に対応するAl及びTiのマッピング分析(面分析)結果を示す。図5から、第一の結晶相6はAlが多くてTiが少なく、第二の結晶相7はAlが少なくてTiが多いことが分った。
【0076】
図6図3のB部(高Al含有TiAlN)のナノビーム回折(NAD)を示し、図7図3のC部(高Ti含有TiAlN)のナノビーム回折(NAD)を示す。ナノビーム回折条件は、JEM-2010F型により、B部及びC部において、加速電圧200 kV及びカメラ長50 cmとした。図6及び図7から、第一の結晶相(高Al含有TiAlN)及び第二の結晶相(高Ti含有TiAlN)はともにfcc構造からなることが分った。
【0077】
図3図7から、fcc構造の高Al含有TiAlNである比較的平坦な第一の結晶相がfcc構造の薄い網目状の高Ti含有TiAlNである第二の結晶相に囲まれていることが分った。
【0078】
(6) 組成の測定
電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA-8500F)を用いて、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A、及びビーム径0.5μmの条件で、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成を、物性評価用インサート(SNMN120408)の断面における窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所で測定した。得られた測定値を算術平均することにより、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成を求めた。結果を表2に示す。
【0079】
FE-TEM(JEM-2010F)に搭載のエネルギー分散型X線分光器(EDS、NORAN社製UTW型Si(Li)半導体検出器、ビーム径:約1 nm)を用いて、物性評価用インサート(SNMN120408)の硬質皮膜の断面における窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の高Al含有TiAlN粒子及び高Ti含有TiAlN粒子の組成を、前記皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所で分析し、得られた測定値を算術平均した。結果を表3に示す。
【0080】
(7) 硬さの測定
Si単結晶を標準試料とする超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス製ENT-1100)を用いて、4900 mNの最大負荷、49 mN/秒の負荷速度、及び1秒の保持時間の条件でナノインデンテーション(押込み)法により、硬質皮膜の表面の硬さを5回測定し、得られた測定値を算術平均した。結果を表2に示す。
【0081】
(8) 性能評価
得られたミーリング用インサート60を、図10に示す刃先交換式回転工具(ASRT5063R-4)70の工具本体71の先端部72に止めねじ73で装着し、下記のミーリング条件で硬質皮膜の工具寿命を評価した。硬質皮膜の逃げ面摩耗幅は、倍率100倍の光学顕微鏡で観察することにより測定した。工具寿命は、逃げ面の最大摩耗幅が0.350 mmを超えたときの総切削長さとした。結果を表4に示す。
【0082】
被削材: 硬さ32HRCのSCM440
加工方法: ミーリング加工
インサート形状: WDNT140520-B
切削速度: 175 m/分
回転数: 885 rpm
一刃当たりの送り: 1.50 mm/tooth
送り速度:5310 mm/分
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
径方向の切り込み量: 40 mm
切削方法: 乾式切削
【0083】
実施例2〜18
窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の成膜条件を表1-1、表1-2に示すように変更した以外、実施例1と同様にして、各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作し、物性及び工具寿命を評価した。各例の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成、結晶構造、結晶組織、柱状結晶の平均横断面径、膜厚及び硬さの測定結果を表2に示す。各例の高Al含有TiAlNの組成、結晶構造、Dav及びDaw、並びに各例の高Ti含有TiAlNの組成及び結晶構造の測定結果を表3に示す。各例の高Al含有TiAlN等のミクロ組織の観察結果及び工具寿命を表4に示す。表2〜表4より、実施例2〜18の各窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、実施例1と同様に、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた柱状結晶組織を有し、かつ良好な工具寿命を有することが分かる。
【0084】
実施例19
実施例1と同じWC基超硬合金製のミーリング用インサート基体をCVD炉1内にセットし、800℃及び16kPaで0.37体積%のTiCl4ガス、54.34体積%のN2ガス及び45.29体積%のH2ガスからなる混合ガスを55.2 L/分の流量でCVD炉に流し、前記インサート基体に平均厚さ0.2μmの窒化チタン皮膜を形成した。
【0085】
CVD炉1に、混合ガスAを第二のパイプ12の第二のノズル12aから導入し、混合ガスBを第一のパイプ11,11の第一のノズル11a,11aから導入した以外は実施例1と同様に、組成がTi0.10Al0.40N0.50(原子比)で表される厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成し、本発明の硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)を製作した。
【0086】
実施例1と同様に、得られた硬質皮膜被覆工具の物性及び工具寿命を評価し、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜の組成、結晶構造、結晶組織、柱状結晶の平均横断面径、膜厚及び硬さの測定結果を表2に示す。高Al含有TiAlNの組成、結晶構造、Dav及びDaw、並びに高Ti含有TiAlNの組成及び結晶構造の測定結果を表3に示す。高Al含有TiAlN等のミクロ組織の観察結果及び工具寿命を表4に示す。表2〜表4より、実施例19の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、実施例1と同様に、fcc構造の高Al含有TiAlNがfcc構造の網目状高Ti含有TiAlNに囲まれた柱状結晶組織を有し、かつ良好な工具寿命を有することが分かる。
【0087】
比較例1
実施例1と同様にして炭窒化チタン皮膜を形成した後、図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H1=H2)を使用し、第一のノズル11aから40.00体積%のH2ガス、25.00体積%のN2ガス、0.35体積%のTiCl4ガス及び1.00体積%のAlCl3ガスからなる混合ガスAを、第二のノズル12aから11.65体積%のH2ガス、20.00体積%のN2ガス及び2.00体積%のNH3ガスからなる混合ガスBを、58.00 L/分の流量でCVD炉1に流し、表1に示す成膜条件(850℃及び6 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、化学蒸着法により厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。結果を表2〜表4に示す。
【0088】
比較例2
実施例1と同様にして炭窒化チタン皮膜を形成した後、図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H1=H2)を使用し、第一のノズル11aから65.93体積%のH2ガス、18.84体積%のArガス、0.16体積%のTiCl4ガス及び0.94体積%のAlCl3ガスからなる混合ガスAを、第二のノズル12aから9.42体積%のN2ガス及び4.71体積%のNH3ガスからなる混合ガスBを、63.71 L/分の流量でCVD炉1に流し、表1に示す成膜条件(800℃及び1 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、化学蒸着法により厚さ5μmの窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2〜表4に示す。
【0089】
比較例3
図13に示す混合ガスA、B吹き出し用ノズル11a,12a(中心角θ:180°、H1=H2)を使用し、表1に示す原料ガス組成及び成膜条件(800℃及び1 kPa)にした以外は実施例1と同様にして、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の物性及び工具寿命を実施例1と同様に評価した。結果を表2〜4に示す。
【0090】
表4に示すように、比較例1〜3の各窒化チタンアルミニウム硬質皮膜ではいずれも、高Al含有TiAlNが網目状高Ti含有TiAlNに囲まれていなかった。比較例1〜2の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜はfcc構造を有していたが、粒状結晶組織からなっていた。比較例3の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、fcc構造の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜と、fcc構造とhcp構造とが混在する窒化チタンアルミニウム硬質皮膜とが交互に積層した粒状結晶組織からなっていた。
【0091】
【表1-1】
【0092】
【表1-2】
注:(1) 混合ガスAのH2ガスと混合ガスBのH2ガスとの体積比。
【0093】
【表2】
注:(1) 測定せず。
【0094】
【表3】
注:(1) なし。
【0095】
【表4】
注:(1) 切削距離で表す。
【0096】
実施例1〜19の各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の工具寿命はいずれも切削距離で40 m以上であり、比較例1〜3の工具寿命の2倍以上で高性能であった。高性能になった理由は、実施例1〜19の各硬質皮膜被覆工具(ミーリング用インサート)の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜が上記の特徴的なミクロ組織を有するために、優れた耐摩耗性及び耐酸化性を発揮したためであると考えられる。
【0097】
これに対して、Al含有量の異なるTiAlNが交互に積層した粒状組織を有する比較例1の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、高温で結晶粒界から酸素が侵入するために、酸化が早く進行し、その結果比較例1の硬質皮膜被覆工具はクレータ摩耗の進行が早く、低寿命であった。Al含有量の異なるTiAlNが一部積層した粒状組織を有する比較例2の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を被覆した工具も、比較例1と同様に高温で耐酸化性に劣り、低寿命であった。比較例3の窒化チタンアルミニウム硬質皮膜は、高温で早期にfcc構造がhcp構造に変態するので、硬さが低下するとともに層間剥離が発生し、それを被覆した工具は短寿命であった。
【符号の説明】
【0098】
1:CVD炉
2:チャンバー
3:ヒータ
4:棚
4a:棚の中央開口部
5:反応容器
6:第一の結晶相(薄い灰色部分)
7:薄い膜状(網目状)の第二の結晶相(濃い灰色又は黒色部分)
11:第一のパイプ
11a:第一のパイプのノズル
12:第二のパイプ
12a:第二のパイプのノズル
13:排出パイプ
20:インサート基体
30、40、50、80:第一及び第二のパイプの集合体
60:ミーリング用インサート
70:刃先交換式回転工具
71:工具本体
72:先端部
73:止めねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図10
図11
図12(a)】
図12(b)】
図12(c)】
図13
図14