特許第6708274号(P6708274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6708274繊維状セルロース含有被膜の製造方法、樹脂組成物、被膜及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6708274
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】繊維状セルロース含有被膜の製造方法、樹脂組成物、被膜及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20200601BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20200601BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200601BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20200601BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20200601BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20200601BHJP
   C08L 1/16 20060101ALI20200601BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200601BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20200601BHJP
   B32B 9/02 20060101ALI20200601BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   C09D133/04
   C09D175/04
   C09D7/63
   C09D7/65
   C09D7/20
   C08J5/06CEY
   C08J5/06CFF
   C08L1/16
   C08L101/00
   C08K5/00
   B32B9/02
   B32B27/18 Z
【請求項の数】5
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2019-22847(P2019-22847)
(22)【出願日】2019年2月12日
【審査請求日】2019年3月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】轟 雄右
(72)【発明者】
【氏名】趙 孟晨
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−145398(JP,A)
【文献】 特開2016−017096(JP,A)
【文献】 特開2017−066273(JP,A)
【文献】 特開2015−196693(JP,A)
【文献】 特開2014−079938(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070441(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/111612(WO,A1)
【文献】 特開2018−024878(JP,A)
【文献】 特開2018−202822(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/021619(WO,A1)
【文献】 特開2018−141249(JP,A)
【文献】 特開2018−044100(JP,A)
【文献】 特開2017−105963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
B32B 9/00
B32B 27/00
C08J 5/00
C08K 5/00
C08L 1/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程と、
前記混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程と、
前記樹脂組成物を基材上に塗布する工程と、を含み、
前記繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、
前記有機オニウムは、ジ−n−ステアリルジメチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウムであり、
前記有機溶剤は、p−キシレン、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン又はアセトンであり、
前記樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂であり、
前記樹脂組成物中における前記繊維状セルロースの含有量は2.2〜3.7質量%であり、
前記樹脂組成物中における前記有機オニウムの含有量は1.4〜2.8質量%であり、
前記樹脂組成物中における前記有機溶剤の含有量は50質量%以上であり、
前記樹脂組成物中における前記樹脂の含有量は15〜24質量%である、繊維状セルロース含有被膜の製造方法。
【請求項2】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤を含有する樹脂組成物であって、
前記繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、
前記有機オニウムは、ジ−n−ステアリルジメチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウムであり、
前記有機溶剤は、p−キシレン、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン又はアセトンであり、
前記樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂であり、
前記繊維状セルロースの含有量は前記樹脂組成物の全質量に対して2.2〜3.7質量%であり、
前記樹脂組成物中における前記有機オニウムの含有量は1.4〜2.8質量%であり、
前記有機溶剤の含有量は前記樹脂組成物中の全質量に対して50質量%以上であり、
前記樹脂組成物中における前記樹脂の含有量は15〜24質量%であり、
水の含有量が前記樹脂組成物の全質量に対して10質量%未満である樹脂組成物。
【請求項3】
下記式で算出されるG値が0.9以下である請求項又はに記載の樹脂組成物。
G値=(樹脂組成物の表面張力(mN/m))/(樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分の表面張力(mN/m))
【請求項4】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物から形成される被膜。
【請求項5】
基材の少なくとも片面に請求項に記載の被膜が形成されてなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース含有被膜の製造方法、樹脂組成物、被膜及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体の開発が進められている。
【0003】
一般的に、微細繊維状セルロースは水系溶媒中に安定して分散している。一方で、微細繊維状セルロースと樹脂を含む複合体等を製造する際には、微細繊維状セルロースと樹脂成分が均一に分散することも求められる。このため、微細繊維状セルロースと樹脂成分の親和性を高めるために、微細繊維状セルロースと樹脂成分を含む組成物に有機アルカリ等の界面活性剤を添加する手法が検討されている。例えば、特許文献1には、カルボキシ基を含有する微細セルロース繊維に界面活性剤が吸着してなる微細セルロース繊維複合体が開示されている。特許文献1の実施例では、微細セルロース繊維と樹脂を溶融混練しており、このようにして得られた複合材料における微細セルロース繊維の含有量は0.5質量%以下となっている。
【0004】
また、特許文献2には、セルロース分子にカルボキシ基及びアミノ基を介して平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐状分子が結合されたセルロースナノファイバーを分散媒に分散させたセルロースナノファイバー分散液が開示されている。特許文献2の実施例では、セルロースナノファイバー分散液とポリ乳酸を混合することでセルロースナノファイバー複合フィルムを作製している。
【0005】
樹脂複合体としては、微細繊維状セルロースを含む層を基材層に積層することで得られる積層体も知られている。例えば、特許文献3には、基材と、基材の一方の面に、アンカー層と、カルボキシ基を有する微細セルロース繊維を含む微細セルロース繊維層とをこの順に設けた積層体が開示されている。ここでは、アンカー層にカルボキシ基、スルホン酸基、アミノ基または水酸基を有する樹脂を含有させることにより、微細繊維状セルロースを含む層と基材の密着性を高めることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−140738号公報
【特許文献2】国際公開第2013/077354号公報
【特許文献3】国際公開第2012/070441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微細繊維状セルロースを含む樹脂組成物から形成される塗膜は基材に対して密着していることが望ましい。しかしながら、本発明者らは、微細繊維状セルロースを含む樹脂組成物について研究を進める中で、微細繊維状セルロースを含む樹脂組成物を基材等に塗布する場合に、樹脂組成物と基材のなじみが悪く、基材上に被膜が形成されなかったり、被膜と基材の密着性が十分に得られないといった課題があることを突き止めた。
【0008】
そこで本発明は、基材への密着性に優れた被膜を形成し得る樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、微細繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤を含有する樹脂組成物において、微細繊維状セルロースの含有量を所定量以上とすることにより、基材への密着性に優れた被膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程と、
混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程と、
樹脂組成物を基材上に塗布する工程と、を含み、
繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、
樹脂組成物中における繊維状セルロースの含有量は1質量%以上である、繊維状セルロース含有被膜の製造方法。
[2] 有機オニウムは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たす[1]に記載の繊維状セルロース含有被膜の製造方法。
(a)炭素数が4以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が16以上である。
[3] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤を含有する樹脂組成物であって、
繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、
繊維状セルロースの含有量は樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上であり、
水の含有量が樹脂組成物の全質量に対して10質量%未満である樹脂組成物。
[4] 有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たす[3]に記載の樹脂組成物。
(a)炭素数が4以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が16以上である。
[5] 下記式で算出されるG値が0.9以下である[3]又は[4]に記載の樹脂組成物。
G値=(樹脂組成物の表面張力(mN/m)/(樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分の表面張力(mN/m))
[6] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン及び樹脂を含有する被膜であって、
繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、
繊維状セルロースの含有量は被膜の全質量に対して4質量%以上である被膜。
[7] 有機オニウムイオンの含有量は被膜の全質量に対して4質量%以上である[6]に記載の被膜。
[8] 有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たす[6]又は[7]に記載の被膜。
(a)炭素数が4以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が16以上である。
[9] 基材の少なくとも片面に[6]〜[8]のいずれかに記載の被膜が形成されてなる積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物を用いることで、基材への密着性に優れた被膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、基材と被膜を有する積層体の構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(樹脂組成物)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤を含有する樹脂組成物に関する。ここで、繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。また、繊維状セルロースの含有量は樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上であり、水の含有量は樹脂組成物の全質量に対して10質量%未満である。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、上記構成を有するものであるため、樹脂組成物を基材上に塗布することで被膜を形成する場合であっても、微細繊維状セルロースと樹脂が分離することが抑制されている。樹脂組成物において微細繊維状セルロースと樹脂が分離した場合は、微細繊維状セルロースが凝集するなどして被膜に微細な凹凸構造が形成されることになる。しかし、本発明においては、微細繊維状セルロースと樹脂の分離が抑制されており、これにより表面が平滑な被膜を形成することができるため、基材に対する密着性の高い被膜を形成することができる。
一般的に、微細繊維状セルロースを含有する樹脂組成物においては、微細繊維状セルロースの凝集を抑制するために微細繊維状セルロースの濃度を低く設定することが行われている。また、樹脂組成物を調製する工程において微細繊維状セルロースの濃度を高くすることが困難である場合が多い。しかし、本発明者らは、敢えて微細繊維状セルロースの含有量を高くし、樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上とすることにより、被膜を形成する場合であっても、微細繊維状セルロースと樹脂の分離を抑制することに成功した。これは、樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量を一定値以上に高めることにより、樹脂組成物や被膜において微細繊維状セルロースと樹脂の絡み合い構造が維持されやすくなり、これにより、各成分が分離もしくは局在することが抑制されるためであると考えられる。すなわち、本発明の樹脂組成物や被膜においては、微細繊維状セルロースの分散が均一となっている。
【0016】
本発明の樹脂組成物から形成される微細繊維状セルロース含有被膜(単に被膜ともいう)は、基材の少なくとも一方の表面を覆う層である。このような被膜は基材に強固に密着していることが好ましく、言い換えれば、被膜は基材から容易に剥離されないものであることが好ましい。このように、被膜は基材からの剥離性を有していない膜であることが好ましい。
【0017】
微細繊維状セルロースの含有量は樹脂組成物の全質量に対して、1質量%以上であればよく、1.2質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲内とすることにより、樹脂組成物において微細繊維状セルロースと樹脂が分離することを抑制することができる。また、微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲内とすることにより、基材に対する密着性の高い被膜を形成することができる。
【0018】
樹脂組成物中における微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロースの質量を、樹脂組成物の質量で除すことで算出した値である。ただし、微細繊維状セルロースの質量は、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンが水素イオン(H+)であると仮定した際の質量とする。ここで、微細繊維状セルロースの質量は、下記の方法によって測定する。まず、微細繊維状セルロースを、適切な方法で抽出する。例えば、樹脂と複合化されているような場合は、樹脂のみを選択的に溶解させるような溶媒で処理することで微細繊維状セルロースを抽出する。その後、酸処理によって、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして存在する成分を塩として選択的に抽出する。この操作を経た後に残る固形分が微細繊維状セルロースの質量となる。
【0019】
本発明の樹脂組成物は有機オニウムイオンを含むものであり、この場合、有機オニウムイオンの少なくとも一部は、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして存在している。
【0020】
有機オニウムイオンの含有量は樹脂組成物の全質量に対して1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、有機オニウムイオンの含有量は樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。有機オニウムイオンの含有量を上記範囲内とすることにより、樹脂組成物から形成される被膜と基材の密着性をより効果的に高めることができる。
【0021】
本明細書において、樹脂組成物中における有機オニウムイオンの含有量は、有機オニウムイオンの質量を、樹脂組成物の質量で除すことで算出した値である。ここで、有機オニウムイオンの質量は、有機オニウムイオンに典型的に含まれる原子を追跡することで測定することが出来る。具体的には、有機オニウムイオンがアンモニウムイオンの場合は窒素原子を、有機オニウムイオンがホスホニウムイオンの場合はリン原子の量を測定する。なお、微細繊維状セルロースが有機オニウムイオン以外に、窒素原子やリン原子を含む場合は、有機オニウムイオンのみを抽出する方法、例えば、酸による抽出操作などを行ってから、目的の原子の量を測定すれば良い。
【0022】
本発明の樹脂組成物においては、水の含有量は少ない方が好ましい。樹脂組成物における水の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、10質量%未満であればよく、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、樹脂組成物における水の含有量は0質量%であることも好ましい。
【0023】
本発明の樹脂組成物において下記式で算出されるG値は0.90以下であることが好ましく、0.89以下であることがより好ましく、0.88以下であることがさらに好ましい。また、G値は0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.30以上であることがさらに好ましい。
G値=(樹脂組成物の表面張力(mN/m))/(樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分の表面張力(mN/m))
G値を上記範囲内とするためには、樹脂組成物の表面張力をある程度低くすることが必要である。本発明の樹脂組成物においては、溶媒分子間の引き合う力が、有機オニウムを対イオンとする微細繊維状セルロースが介在することで緩和され、その結果、樹脂組成物の表面張力が低くなるものと考えられる。このため、G値を上記範囲内とすることにより、基材に対する濡れ性を良好にすることができ、樹脂組成物の塗工性を高めることができる。これにより、基材に対する密着性の高い被膜が得られる。なお、樹脂組成物の表面張力は、試料温度23℃の条件で測定した値である。樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分の表面張力は、例えば蒸留により樹脂組成物から有機溶剤成分のみを回収して測定することができる。測定機器としては、例えば、協和界面科学社製のSURFACETENSIOMETER CBVP−A3等を挙げることができる。
【0024】
なお、樹脂組成物中における微細繊維状セルロースと樹脂の均一分散性および樹脂組成物から形成される被膜の基材への密着性の向上は、微細繊維状セルロースの亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量や、微細繊維状セルロースの含有量を適切な範囲とすることで達成される。また、樹脂組成物の基材への濡れ性を高めるためには、有機溶剤の種類、有機オニウムイオンの含有量、樹脂の種類、樹脂の含有量、基材の種類を適宜選択することも重要である。
【0025】
(微細繊維状セルロース)
本発明の樹脂組成物は、繊維幅が1000nm以下の亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
【0026】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0027】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0028】
繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0029】
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0030】
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0031】
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有する被膜であって、基材への密着性に優れた被膜を形成しやすい。また、スラリーを作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水や有機溶剤の分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0032】
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0033】
繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基(単に亜リン酸基ともいう)を有する。本発明では、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(2)で表される置換基である。
【化1】
【0034】
式(2)中、bは自然数であり、mは任意の数であり、b×m=1である。αは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。中でも、αは水素原子であることが特に好ましい。なお、式(2)におけるαには、セルロース分子鎖に由来する基は含まれない。
【0035】
式(2)のαで表される飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0036】
また、αにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、亜リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0037】
式(2)におけるβb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、βb+の少なくとも一部は後述する有機オニウムイオンである。また、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0038】
なお、微細繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基由来の置換基に加えて、さらにリン酸基又はリン酸基に由来する基を有していてもよい。リン酸基又はリン酸基に由来する基は、例えば、下記式(1)もしくは(3)で表される置換基である。なお、リン酸基又はリン酸基に由来する基は、下記式(3)で表されるような縮合リンオキソ酸基であってもよい。
【0039】
【化2】
【0040】
式(1)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α及びα’のうちa個がO-であり、残りはORである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(1)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
【0041】
【化3】
【0042】
式(3)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数であり、nは2以上の自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR又はORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(3)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
【0043】
式(1)及び(3)における各基の具体的例示は、式(2)における各基の具体的例示と同様である。また、式(1)及び(3)におけるβb+の具体的例示は、式(2)におけるβb+の具体的例示と同様である。
【0044】
微細繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、微細繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースがリン酸基を置換基として有することは、繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースが亜リン酸基やリン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に滴定を組み合わせる方法などでも確認できる。
【0045】
繊維状セルロースに対する亜リン酸基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g以上であればよく、0.70mmol/g以上であることが好ましく、1.00mmol/g以上であることがより好ましい。また、繊維状セルロースに対する亜リン酸基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、樹脂組成物において微細繊維状セルロースと樹脂が分離することを抑制することができる。
ここで、単位mmol/gは、亜リン酸基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。
【0046】
繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基(亜リン酸基を含む)の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0047】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0048】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0049】
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5〜30秒に10〜50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0050】
また、亜リン酸基に加えて、リン酸基、縮合リン酸基のいずれかまたは両方を含む場合において検出されるリンオキソ酸が、亜リン酸、リン酸、縮合リン酸のどれに由来するのかを区別する方法としては、例えば、酸加水分解などの縮合構造を切断する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法や、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法などが挙げられる。
【0051】
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
【0052】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0053】
<亜リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースが亜リン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、亜リン酸基導入工程を含む。亜リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、亜リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、亜リン酸基導入繊維が得られることとなる。
【0054】
本実施形態に係る亜リン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0055】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0056】
本実施態様で使用する化合物Aは、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸基を有する化合物の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく用いられる。
【0057】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0058】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、および1−エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0059】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0061】
亜リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、亜リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0062】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一に亜リン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0063】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0064】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、亜リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0065】
亜リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上の亜リン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くの亜リン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、亜リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0066】
繊維原料に対する亜リン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g以上であればよく、0.70mmol/g以上であることが好ましく、1.00mmol/g以上であることがより好ましい。また、繊維原料に対する亜リン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、樹脂組成物において微細繊維状セルロースと樹脂が分離することをより効果的に抑制することができる。
【0067】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じて亜リン酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤により亜リン酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
【0068】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、亜リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0069】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0070】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程における亜リン酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば亜リン酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、亜リン酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、亜リン酸基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行った亜リン酸基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄することが好ましい。
【0072】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、亜リン酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0073】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
【0074】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
<解繊処理>
亜リン酸基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0076】
解繊処理工程においては、たとえば亜リン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0077】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、亜リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などの亜リン酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0078】
(有機オニウムイオン)
本発明の樹脂組成物には有機オニウムイオンが含まれる。有機オニウムイオンは、微細繊維状セルロースの対イオンとして存在していてもよく、遊離した有機オニウムイオンとして存在していてもよい。
【0079】
有機オニウムイオンは、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たすものであることが好ましい。
(a)炭素数が4以上の炭化水素基を含む。
(b)総炭素数が16以上である。
すなわち、微細繊維状セルロースは、炭素数が4以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が16以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして含むことが好ましい。有機オニウムイオンを、上記(a)及び(b)から選択される少なくとも一方の条件を満たすものとすることにより、微細繊維状セルロースと樹脂の相溶性を高めることができる。
【0080】
炭素数が4以上の炭化水素基は、炭素数が4以上のアルキル基又は炭素数が4以上のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が5以上のアルキル基又は炭素数が5以上のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数が7以上のアルキル基又は炭素数が7以上のアルキレン基であることがさらに好ましく、炭素数が10以上のアルキル基又は炭素数が10以上のアルキレン基であることが特に好ましい。中でも、有機オニウムイオンは炭素数が4以上のアルキル基を有するものであることが好ましく、炭素数が4以上のアルキル基を含み、かつ総炭素数が16以上の有機オニウムイオンであることがより好ましい。
【0081】
有機オニウムイオンは、下記一般式(A)で表される有機オニウムイオンであることが好ましい。
【0082】
【化4】
【0083】
上記一般式(A)中、Mは窒素原子又はリン原子であり、R1〜R4は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。但し、R1〜R4の少なくとも1つは、炭素数が4以上の有機基であるか、R1〜R4の炭素数の合計が16以上であることが好ましい。
中でも、Mは、窒素原子であることが好ましい。すなわち、有機オニウムイオンは有機アンモニウムイオンであることが好ましい。また、R1〜R4の少なくとも1つは、炭素数が4以上のアルキル基であり、かつR1〜R4の炭素数の合計が16以上であることが好ましい。
【0084】
このような有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクチルジメチルエチルアンモニウム、ラウリルジメチルエチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、n−オクチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、ヘキサデシルアンモニウム、ステアリルアンモニウム、N,N−ジメチルドデシルアンモニウム、N,N−ジメチルテトラデシルアンモニウム、N,N−ジメチルヘキサデシルアンモニウム、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアンモニウム、ジヘキシルアンモニウム、ジ(2−エチルヘキシル)アンモニウム、ジーn−オクチルアンモニウム、ジデシルアンモニウム、ジドデシルアンモニウム、ジデシルメチルアンモニウム、N,N−ジドデシルメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルアンモニウム、アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ジ−n−アルキルジメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、アセトニルトリフェニルホスホニウム、アリルトリフェニルホスホニウム、アミルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ジフェニルプロピルホスホニウム、トリフェニルホスホニウム、トリシクロヘキシルホスホニウム、トリ−n−オクチルホスホニウム等を挙げることができる。なお、アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ジ−n−アルキルジメチルアンモニウムにおけるアルキル基として、炭素数が8以上18以下の直鎖アルキル基が挙げられる。
【0085】
なお、一般式(A)に示した通り、有機オニウムイオンの中心元素は合計4つの基または水素と結合している。上述した有機オニウムイオンの名称で、結合している基が4つ未満である場合、残りは水素原子が結合して有機オニウムイオンを形成している。例えば、N,N−ジドデシルメチルアンモニウムであれば、名称からドデシル基が2つ、メチル基が1つ結合していると判断できる。この場合、残りの1つには水素が結合し、有機オニウムイオンを形成している。
【0086】
有機オニウムイオンの分子量は2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましい。有機オニウムイオンの分子量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのハンドリング性を高めることができる。また、全体として、セルロースの含有率が低下してしまうことを抑制できる。
【0087】
有機オニウムイオンの含有量は樹脂組成物の全質量に対して1.0質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、有機オニウムイオンの含有量は樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
また、微細繊維状セルロースにおける有機オニウムイオンの含有量は、微細繊維状セルロース中に含まれる亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量に対して、等モル量から2倍モル量であることが好ましいが、特に限定されない。なお、有機オニウムイオンの含有量は、有機オニウムイオンに典型的に含まれる原子を追跡することで測定することができる。具体的には、有機オニウムイオンがアンモニウムイオンの場合は窒素原子を、有機オニウムイオンがホスホニウムイオンの場合はリン原子の量を測定する。なお、微細繊維状セルロースが有機オニウムイオン以外に、窒素原子やリン原子を含む場合は、有機オニウムイオンのみを抽出する方法、例えば、酸による抽出操作などを行ってから、目的の原子の量を測定すれば良い。
【0089】
(樹脂)
本発明の樹脂組成物は、樹脂を含む。樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0090】
中でも、樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、アルコール系樹脂、セルロース誘導体及びこれらの樹脂の前駆体から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、及びこれらの樹脂の前駆体から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アクリル系樹脂及びポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
なお、セルロース誘導体としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを挙げることができる。
【0091】
本発明の樹脂組成物は、樹脂として、樹脂の前駆体を含んでいてもよい。樹脂の前駆体の種類は特に限定されるものではないが、たとえば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の前駆体を挙げることができる。熱可塑性樹脂の前駆体とは、熱可塑性樹脂を製造するために使用されるモノマーや分子量が比較的低いオリゴマーを意味する。また、熱硬化性樹脂の前駆体とは、光、熱、硬化剤の作用によって重合反応または架橋反応を起こして熱硬化性樹脂を形成しうるモノマーや分子量が比較的低いオリゴマーを意味する。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、樹脂として、上述した樹脂種とは別にさらに水溶性高分子を含んでいてもよい。水溶性高分子としては、たとえば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなどに例示される増粘多糖類、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。
【0093】
樹脂の含有量は樹脂組成物の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂の含有量は樹脂組成物の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
(有機溶剤)
本発明の樹脂組成物は、有機溶剤を含む。有機溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、1−ブタノール、m−クレゾール、グリセリン、酢酸、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、アニリン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、ジエチルエーテルクロロホルム等を挙げることができる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルケトン(MEK)、トルエンは好ましく用いられる。
【0095】
有機溶剤のハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter,HSP)のδpは、5MPa1/2以上20MPa1/2以下であることが好ましく、10MPa1/2以上19MPa1/2以下であることがより好ましく、12MPa1/2以上18MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、δhは、5MPa1/2以上40MPa1/2以下であることが好ましく、5MPa1/2以上30MPa1/2以下であることがより好ましく、5MPa1/2以上20MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、δpが0MPa1/2以上4MPa1/2以下の範囲であり、δhが0MPa1/2以上6MPa1/2以下の範囲であることを同時に満たすことも好ましい。
【0096】
有機溶剤の含有量は樹脂組成物の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。なお、有機溶剤の含有量は樹脂組成物の全質量に対して、99質量%以下であることが好ましい。
【0097】
(任意成分)
本発明の樹脂組成物は、上述した微細繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤の他に任意成分を含むものであってもよい。
【0098】
任意成分としては、例えば、界面活性剤、有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、架橋剤等を挙げることができ、本発明の樹脂組成物は上記成分の一種または二種以上を含んでいてもよい。
【0099】
樹脂組成物中に含まれる上記成分の含有量は、樹脂組成物中の全固形分質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0100】
(樹脂組成物の製造工程)
樹脂組成物の製造工程は、微細繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程(以下、工程aともいう)と、混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程(以下、工程bともいう)と、を含む。ここで、有機オニウムは、上述した有機オニウムイオンでもよく、水和や中和により上述した有機オニウムイオンを生成する化合物でもよい。
【0101】
工程aでは、微細繊維状セルロースと有機オニウムを混合する。この際、固形状の微細繊維状セルロース(例えば、微細繊維状セルロース濃縮物)と有機オニウムを混合してもよく、上述した<解繊処理>の工程で得られた微細繊維状セルロースの分散液(スラリー)に、有機オニウムを添加することで混合してもよい。
【0102】
微細繊維状セルロースの分散液に、有機オニウムを添加する場合、有機オニウムイオンを含有した溶液として添加することが好ましく、有機オニウムイオンを含有した水溶液として添加することがより好ましい。有機オニウムイオンを含有した水溶液は、通常、有機オニウムイオンと、対イオン(アニオン)を含んでいる。有機オニウムイオンの水溶液を調製する際、有機オニウムイオンと、対応する対イオンが既に塩を形成している場合は、そのまま水に溶解させればよい。また、有機オニウムイオンは、例えば、ドデシルアミンなどのように、酸によって中和されて始めて生成する場合もある。すなわち、有機オニウムイオンは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物と酸との反応で得ても良い。この場合、中和に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や乳酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。工程aでは、中和により有機オニウムを形成する化合物を微細繊維状セルロースの分散液に直接加え、微細繊維状セルロースが含む亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を対イオンとして、有機オニウムイオン化させても良い。
【0103】
有機オニウムの添加量は、微細繊維状セルロースの全質量に対し、2質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。なお、有機オニウムの添加量は、微細繊維状セルロースの全質量に対し、1000質量%以下であることが好ましい。
また、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量(モル数)に価数を乗じた値の0.2倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることがさらに好ましい。なお、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量(モル数)に価数を乗じた値の10倍以下であることが好ましい。
【0104】
有機オニウムを添加し、撹拌を行うと、微細繊維状セルロースの分散液中に凝集物が生じる。この凝集物は、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして有機オニウムイオンを有する微細繊維状セルロースが凝集したものである。得られた微細繊維状セルロース凝集物は、イオン交換水で洗浄してもよい。微細繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰な有機オニウムイオン等を除去することができる。その後、微細繊維状セルロース凝集物を濾過等の工程で分離することで、微細繊維状セルロース凝集物を回収することができる。なお、本明細書においては、このような凝集物を工程aで得られる繊維状セルロースの混合物ともいう。
【0105】
このようにして得られた微細繊維状セルロース凝集物の固形分濃度は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
また、凝集物中に含まれる有機オニウムイオンの含有量は5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。有機オニウムイオンの含有量は 90質量%以下であることが好ましい。
【0106】
なお、本発明の一実施形態においては、工程aの前に微細繊維状セルロースの分散液に、多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程を設けてもよい。この場合、多価金属の塩としては、たとえば硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、および硫酸マグネシウム等を挙げることができる。中でも、凝集剤としては硫酸アルミニウムを用いることが好ましい。多価金属の塩を含む凝集剤を添加し、撹拌を行うと、凝集剤を含む微細繊維状セルロース凝集物が得られる。
【0107】
多価金属の塩を含む凝集剤の添加量Eは、好ましくは(式1)で規定する範囲内であり、より好ましくは(式1A)で規定する範囲内であり、さらに好ましくは(式1B)で規定する範囲内であるが、特に限定されない。
0.1×A×B/C≦D≦10×A×B/C (式1)
0.2×A×B/C≦D≦5×A×B/C (式1A)
0.5×A×B/C≦D≦2×A×B/C (式1B)
式中、
A:繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量[mmol/g]
B:供試した繊維状セルロース量[g]
C:多価金属イオンの価数
D:多価金属の塩を含む凝集剤の添加量[mmol]
である。
この際、凝集物中に含まれる多価金属イオンの含有量は固形分100gあたり0.1g以上であることが好ましく、1g以上であることがより好ましい。多価金属イオンの含有量は50g以下であることが好ましい。
【0108】
得られた微細繊維状セルロース凝集物は、イオン交換水で洗浄してもよい。微細繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰な凝集剤等を除去することができる。また、微細繊維状セルロース凝集物はさらに乾燥工程等を経ることで濃縮されてもよい。
【0109】
なお、工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられる場合は、微細繊維状セルロース凝集物を有機溶剤に再分散させる工程において有機オニウムが添加されることが好ましい。すなわち、工程aは、微細繊維状セルロース凝集物と有機オニウムを混合する工程であってもよい。
【0110】
再分散液を得るために用いられる有機溶剤としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル等が挙げられる。なお、上記溶媒には水が含まれていてもよいが、その含有量は溶媒の全質量に対して60質量%以下であることが好ましい。
【0111】
工程bでは、混合する工程(工程a)で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る。工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられない場合は、工程aで得られる繊維状セルロースの混合物は、微細繊維状セルロース凝集物であり、工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられる場合は、工程aで得られる繊維状セルロースの混合物は、微細繊維状セルロースと有機オニウムを含むスラリーとなる。
【0112】
工程bにおいて、繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合する場合は、繊維状セルロースの混合物に、有機溶剤を添加した後に、樹脂を混合してもよい。また、繊維状セルロースの混合物に樹脂と有機溶剤を同時に添加して樹脂組成物としてもよい。なお、工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられない場合は、繊維状セルロースの混合物(微細繊維状セルロース凝集物)に有機溶剤を添加して再分散液とした後に樹脂を混合することが好ましい。
【0113】
なお、工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられる場合は、工程bでは、微細繊維状セルロースと有機オニウムを含む再分散液に、さらに有機溶剤が添加されることとなる。工程aの前に多価金属の塩を含む凝集剤を添加する工程が設けられる場合は、工程aにおいて有機溶剤が添加されてもよく、この場合工程bで添加される有機溶剤としては、微細繊維状セルロースの再分散液に用いられた有機溶剤と同種の有機溶剤が用いられることが好ましい。
【0114】
(被膜の製造方法)
本発明は、被膜の製造方法に関するものでもある。
本発明の被膜の製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程と、混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程と、樹脂組成物を基材上に塗布する工程と、を含む。ここで、繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、樹脂組成物中における繊維状セルロースの含有量は1質量%以上である。
【0115】
被膜の製造工程において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程は、上述した(樹脂組成物の製造工程)における工程aであり、混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程は上述した(樹脂組成物の製造工程)における工程bである。
【0116】
樹脂組成物を基材上に塗布する工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン、樹脂及び有機溶剤を含有する樹脂組成物を基材上に塗工することで被膜を形成する工程である。樹脂組成物を基材上に塗布する工程は、さらに、被膜を乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0117】
樹脂組成物を基材上に塗布する工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、樹脂組成物に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時の被膜の収縮等を抑制することができ好ましい。中でもガラス板や、樹脂製のフィルムや板、金属製のフィルムや板、円筒体や粒状体が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン等の樹脂のフィルムや板、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板、ガラス板等を用いることができる。
【0118】
樹脂組成物を基材上に塗布する工程において、樹脂組成物の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚み及び坪量の被膜を得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、特に限定されないが、たとえば樹脂板または金属板を成形したものが好ましい。本実施形態においては、例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、及びこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
【0119】
樹脂組成物を基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。被膜の厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
【0120】
樹脂組成物を基材へ塗工する際の樹脂組成物の温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。
【0121】
樹脂組成物を基材上に塗布する工程においては、被膜の仕上がり坪量が好ましくは10g/m2以上200g/m2以下となるように、より好ましくは20g/m2以上150g/m2以下となるように、樹脂組成物を基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、基材に対する密着性に優れた被膜が得られる。
【0122】
被膜を乾燥する工程は、特に限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくは被膜と基材を拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。加熱乾燥法における加熱温度は、特に限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
【0123】
(被膜)
本発明は、上述した樹脂組成物から形成される被膜に関するものでもある。具体的には、本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、有機オニウムイオン及び樹脂を含有する被膜に関する。ここで、繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。また、繊維状セルロースの含有量は被膜の全質量に対して4質量%以上である。
【0124】
本発明の被膜は基材に強固に密着している。これは、微細繊維状セルロース、有機オニウムイオン及び樹脂を含む樹脂組成物において、微細繊維状セルロースと樹脂の分離が抑制されており、微細繊維状セルロースが均一に分散しているため、樹脂組成物から形成される被膜の対基材密着性を高めることができる。このような樹脂組成物から被膜を形成することにより、微細繊維状セルロースの含有量を4質量%以上にまで高めることができる。
【0125】
なお、本発明の被膜は基材への密着性に高く、基材からの剥離性を有していないものであることが好ましい。但し、物理的な分離手段などの特定の分離方法を用いて被膜を基材から剥離することは可能である。このような場合、被膜を単層のシートとして分離することもできる。
【0126】
被膜における微細繊維状セルロースの含有量は、被膜の全質量に対して4質量%以上であればよく、5質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。なお、被膜における微細繊維状セルロースの含有量は95質量%以下であることが好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲内とすることにより、被膜と基材の密着性をより効果的に高めることができる。
【0127】
被膜における有機オニウムイオンの含有量は、被膜の全質量に対して4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましく、7質量%以上であることが一層好ましく、8質量%以上であることが特に好ましい。なお、被膜における有機オニウムイオンの含有量は80質量%以下であることが好ましい。有機オニウムイオンの含有量を上記範囲内とすることにより、被膜と基材の密着性をより効果的に高めることができる。
【0128】
被膜における樹脂の含有量は、被膜の全質量に対して30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。なお、被膜における樹脂の含有量は95質量%以下であることが好ましい。
【0129】
被膜中における微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロースの質量を、被膜の質量で除すことで算出した値である。ただし、微細繊維状セルロースの質量は、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンが水素イオン(H+)であると仮定した際の質量とする。ここで、微細繊維状セルロースの質量は、下記の方法によって測定する。まず、微細繊維状セルロースを、適切な方法で抽出する。例えば、樹脂と複合化されているような場合は、樹脂のみを選択的に溶解させるような溶媒で処理することで微細繊維状セルロースを抽出する。その後、酸処理によって、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして存在する成分を塩として選択的に抽出する。この操作を経た後に残る固形分が微細繊維状セルロースの質量となる。
【0130】
また、被膜中における有機オニウムイオンの含有量は、有機オニウムイオンの質量を、被膜の質量で除すことで算出した値である。ここで、有機オニウムイオンの質量は、有機オニウムイオンに典型的に含まれる原子を追跡することで測定することが出来る。具体的には、有機オニウムイオンがアンモニウムイオンの場合は窒素原子を、有機オニウムイオンがホスホニウムイオンの場合はリン原子の量を測定する。なお、微細繊維状セルロースが有機オニウムイオン以外に、窒素原子やリン原子を含む場合は、有機オニウムイオンのみを抽出する方法、例えば、酸による抽出操作などを行ってから、目的の原子の量を測定すれば良い。
【0131】
被膜の厚みは、特に限定されないが、たとえば5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また被膜の厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。被膜の厚みは、たとえば触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
【0132】
(積層体)
本発明は、基材の少なくとも片面に上述した被膜が形成されてなる積層体に関するものでもある。図2は、積層体100の構造を説明する断面図である。図2に示されるように、積層体100は基材20上に積層された被膜10を有する。ここで、基材20と被膜10の間には他の層が設けられていてもよいが、被膜10は基材20上に直接接するように積層されていることが好ましい。なお、図2には、基材20の片面に被膜10が形成されてなる積層体100を図示しているが、本発明の積層体は、基材の両面に被膜が形成されてなる積層体であってもよい。
【0133】
基材としては、アクリル樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン等の樹脂のフィルムや板、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板、ガラス板等を挙げることができる。中でも、基材はガラス層、ステンレス層であることが好ましい。
【0134】
基材の厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、基材の厚みは10000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。
【0135】
なお、基材は曲面や凹凸を有するフィルムや板であってもよい。また、基材は、上述した素材から形成される円筒体や粒状体であってもよく、このような場合、積層体は、被膜によって基材の外周面がコーティングされた円筒体や粒状体であってもよい。
【0136】
(用途)
本発明の樹脂組成物の用途は特に限定されない。例えば、増粘剤、補強剤、添加剤として、セメント、塗料、インク、潤滑剤などに使用することができる。また、樹脂組成物を基材上に塗工することで得られる積層体は、補強材、内装材、外装材、包装用資材、電子材料、光学材料、音響材料、プロセス材料、輸送機器の部材、電子機器の部材、電気化学素子の部材等の用途にも適している。
【実施例】
【0137】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0138】
<製造例1−1>
〔微細繊維状セルロース濃縮物の製造〕
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
【0139】
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、亜リン酸化パルプを得た。
【0140】
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0141】
洗浄後の亜リン酸化パルプに対して、さらに上記亜リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。
【0142】
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された亜リン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0143】
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、得られた亜リン酸化パルプについて、後述する〔亜リン酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
【0144】
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Aを得た。
【0145】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。
【0146】
1.78質量%のジ−n−ステアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液100gを、微細繊維状セルロース分散液A100gに添加して5分間撹拌したところ、微細繊維状セルロース分散液中に凝集物が生じた。凝集物が生じた微細繊維状セルロース分散液を減圧濾過することにより、微細繊維状セルロース凝集物を得た。
得られた微細繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰なジ−n−ステアリルジメチルアンモニウムクロリド及び溶出したイオンを除去し、微細繊維状セルロース濃縮物を得た。得られた微細繊維状セルロース濃縮物を風乾し、固形分濃度が90質量%の微細繊維状セルロース濃縮物Aを得た。
【0147】
<製造例1−2>
製造例1−1と同様に微細繊維状セルロース分散液Aを得た。微細繊維状セルロース分散液A100gを分取し、撹拌しながら0.21gの硫酸アルミニウムを添加した。さらに5時間撹拌を続けたところ、微細繊維状セルロースの凝集物が認められた。次いで、微細繊維状セルロース分散液を減圧濾過し、微細繊維状セルロース凝集物を得た。得られた微細繊維状セルロース凝集物を、微細繊維状セルロースの含有量が2.0質量%となるようにイオン交換水に再懸濁した。その後、再び濾過と圧搾を行う操作を繰り返すことで洗浄し、微細繊維状セルロース濃縮物を得た。洗浄終点は、ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった点とした。
さらに、得られた微細繊維状セルロース濃縮物を、メチルエチルケトンで微細繊維状セルロースの含有量が2.0質量%となるよう再懸濁した。次いで、再び濾過と圧搾を行う操作を繰り返すことでイオン交換水をメチルエチルケトンで置換した。このようにして得られた微細繊維状セルロース濃縮物Bの固形分濃度は15質量%であった。得られた微細繊維状セルロース濃縮物Bに含まれるアルミニウムイオン量を後述の方法で測定したところ、固形分100gあたり1.2gであった。
【0148】
<実施例1>
〔樹脂組成物の調製〕
微細繊維状セルロース濃縮物Aに、固形分濃度が15質量%となるようトルエンを添加した。その後、超音波処理装置(hielscher製、UP400S)を用いて超音波処理を10分間行い、微細繊維状セルロース再分散液を得た。
次いで、得られた微細繊維状セルロース再分散液、アクリル樹脂(DIC(株)製、アクリディック A−181)、およびトルエンを混合して微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得た。
なお、得られた樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は3.2質量%、有機オニウムイオンの含有量は2.8質量%、アクリル樹脂の含有量は24.0質量%、トルエンの含有量は70.0質量%であった。また、得られた樹脂組成物中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース濃縮物Aの添加量から計算したところ、0.6質量%であった。
【0149】
〔被膜の調製〕
微細繊維状セルロース含有樹脂組成物をガラス板上にアプリケーターを用いて塗布し、100℃の熱風乾燥機で10分間乾燥させ、被膜を得た。被膜の仕上がり坪量を測定したところ100g/m2であった。得られた被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は10.8質量%、有機オニウムイオンの含有量は9.2質量%、アクリル樹脂の含有量は80.0質量%であった。
【0150】
<実施例2>
〔樹脂組成物の調製〕
微細繊維状セルロース濃縮物Bに、55質量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を添加し、固形分含有量が10質量%となるようメチルエチルケトンを添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(hielscher製、UP400S)で10分間処理し、微細繊維状セルロース再分散液を得た。なお、再分散液を調製する際には、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの添加量D[mmol]が下記式(1)で得られる値となるようにテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を添加した。
D=(A+C)×B (1)
ここで上記式(1)中、A、B、Cは次を示す。
A:微細繊維状セルロースに導入された亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の量[mmol/g]
B:供試した微細繊維状セルロース量[g]
C:微細繊維状セルロース濃縮物に含まれるアルミニウムイオン量[mmol/g]
【0151】
次いで、得られた微細繊維状セルロース再分散液、ウレタン樹脂(PU2565、荒川化学工業製)、およびメチルエチルケトンを混合し、微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得た。
なお、得られた樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は3.7質量%、有機オニウムイオンの含有量は1.4質量%、ウレタン樹脂の含有量は15質量%、メチルエチルケトンの含有量は78.0質量%であった。また、得られた樹脂組成物中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース濃縮物Bの添加量と55質量%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の添加量から計算したところ、1.9質量%であった。
【0152】
〔被膜の調製〕
実施例1と同様にして被膜を得た。被膜の仕上がり坪量を測定したところ100g/m2であった。得られた被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は18.6質量%、有機オニウムイオンの含有量は6.9質量%、ウレタン樹脂の含有量は74.5質量%であった。
【0153】
<実施例3>
微細繊維状セルロース含有樹脂組成物の固形分濃度を20質量%となるようにトルエンを加えた以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有樹脂組成物および被膜を得た。
なお、得られた樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は2.2質量%、有機オニウムイオンの含有量は1.8質量%、アクリル樹脂の含有量は16.0質量%、トルエンの含有量は80.0質量%であった。また、得られた樹脂組成物中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース濃縮物Aの添加量から計算したところ、0.4質量%であった。
また、得られた被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は10.8質量%、有機オニウムイオンの含有量は9.2質量%、アクリル樹脂の含有量は80.0質量%であった。
【0154】
<比較例1>
微細繊維状セルロース含有樹脂組成物の固形分濃度を5質量%となるようにトルエンを加えた以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロース含有樹脂組成物および被膜を得た。
なお、得られた樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は0.5質量%、有機オニウムイオンの含有量は0.5質量%、アクリル樹脂の含有量は4.0質量%、トルエンの含有量は95.0質量%であった。また、得られた樹脂組成物中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース濃縮物Aの添加量から計算したところ、0.1質量%であった。
また、得られた被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は10.8質量%、有機オニウムイオンの含有量は9.2質量%、アクリル樹脂の含有量は80.0質量%であった。
【0155】
<比較例2>
実施例1と同様にして微細繊維状セルロース再分散液を得た。
次いで、得られた微細繊維状セルロース再分散液、アクリル樹脂(DIC(株)製、アクリディック A−181)、およびトルエンを混合して微細繊維状セルロース含有樹脂組成物を得た。
なお、得られた樹脂組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は0.5質量%、有機オニウムイオンの含有量は0.5質量%、アクリル樹脂の含有量は19.0質量%、トルエンの含有量は80.0質量%であった。また、得られた樹脂組成物中の水含有量は、供試した微細繊維状セルロース濃縮物Aの添加量から計算したところ、0.1質量%であった。
また、得られた被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は2.7質量%、有機オニウムイオンの含有量は2.3質量%、アクリル樹脂の含有量は95.0質量%であった。
【0156】
<評価方法>
〔亜リン酸基量の測定〕
微細繊維状セルロースの亜リン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を亜リン酸基量(mmol/g)とした。
【0157】
〔有機オニウムイオン含有量の測定〕
樹脂組成物および被膜中の有機オニウムイオンの含有量は、微量窒素分析法により窒素量を測定することで決定した。微量窒素分析は、三菱化学アナリック社の微量全窒素分析装置TN−110を用いて測定した。測定前に、低温(真空乾燥器にて、40℃24時間)で乾燥し得られた樹脂組成物あるいは被膜中の溶媒を除いた。
樹脂組成物もしくは被膜単位質量あたりの有機オニウムイオンの含有量(質量%)は、微量窒素分析で得られた単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を有機オニウムイオンの分子量で乗じ、窒素の原子量で除することで求めた。
【0158】
〔アルミニウム含有量の測定〕
微細繊維状セルロース濃縮物中のアルミニウム量はJIS G 1257−10−1:2013に準拠して測定した。
【0159】
〔微細繊維状セルロース含有量の測定〕
樹脂組成物および被膜中の微細繊維状セルロースの含有量は、以下の方法で測定した。
まず、樹脂組成物および被膜中に含まれる微細繊維状セルロースの質量を測定した。具体的には、微細繊維状セルロースと共有結合した成分を抽出した。その後、酸処理によって、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンとして存在する成分を塩として選択的に抽出した。この操作を経た後に残る固形分を微細繊維状セルロースの質量とした。なお、微細繊維状セルロースの質量は、微細繊維状セルロースが有する亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の対イオンが水素イオン(H+)であると仮定した際の質量とした。
次いで、微細繊維状セルロースの質量を、樹脂組成物の質量で除すことで、微細繊維状セルロースの含有量を算出した。
【0160】
〔表面張力の測定〕
実施例および比較例の微細繊維状セルロース含有樹脂組成物の表面張力を、協和界面科学社製のSURFACETENSIOMETER CBVP−A3を用いて、試料温度が23℃の条件で測定した。
【0161】
〔微細繊維状セルロースと樹脂の分離状態〕
実施例および比較例の被膜について微細繊維状セルロースと樹脂の分離状態(分離の有無)を下記の評価基準に従ってそれぞれ目視で評価した。
○:肉眼では微細繊維状セルロースと樹脂が判別できない(分離がない)
△:微細繊維状セルロースと樹脂との分離に由来する表面の凹凸が被膜全体に確認される
×:微細繊維状セルロースと樹脂の分離が肉眼で判別される
【0162】
〔密着性〕
実施例および比較例の被膜について基材との密着性を下記の評価基準に従ってそれぞれ目視で評価した。
○:手作業では基材から取れないほど基材と被膜が密着している
△:得られた被膜が手作業で基材から取れてしまう
×:被膜が得られない
【0163】
〔剥離性〕
実施例および比較例の被膜について基材からの剥離性を下記の評価基準に従ってそれぞれ目視で評価した。
○:得られた被膜が、手作業で剥離できる
△:手作業での剥離中に被膜が破断するが一部のみ剥離できる
×:手作業では剥離できない
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【0166】
実施例では、微細繊維状セルロースと樹脂の分離が抑制されており、かつ基材への密着性に優れた被膜が得られていた。一方、比較例では、微細繊維状セルロースと樹脂の分離が見られ、被膜と基材の密着性も劣っていた。
【符号の説明】
【0167】
10 被膜
20 基材
100 積層体
【要約】
【課題】本発明は、微細繊維状セルロースと樹脂の分離を抑制し得る樹脂組成物であって、基材への密着性に優れた被膜を形成し得る樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと有機オニウムを混合する工程と、混合する工程で得られる繊維状セルロースの混合物、有機溶剤及び樹脂を混合して樹脂組成物を得る工程と、樹脂組成物を基材上に塗布する工程と、を含み、繊維状セルロースは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有し、樹脂組成物中における繊維状セルロースの含有量は1質量%以上である、繊維状セルロース含有被膜の製造方法に関する。
【選択図】なし
図1
図2