【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定及び/又は評価された前記マーカの地球固定座標系における位置及び姿勢の情報を、前記移動体と、前記移動体と異なる移動体との間で共有する、請求項3または4に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、地球上に設置されたマーカを利用して衛星測位における初期化処理にかかる時間を短縮することができるシステム及び方法、並びに、マーカの位置及び/又は姿勢を正確に測定し又は評価することができる方法を提供することを目的とする。また、マーカの姿勢誤差を判定するシステム又は方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る衛星測位システムは、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体と、
予め地球固定座標系における位置及び姿勢が測定されているマーカと、を備え、
前記演算部は、前記マーカ検出部によって検出された前記マーカの位置及び姿勢に基づいて前記移動体の地球固定座標系における位置を算出し、
前記衛星測位部は、前記演算部が算出した前記移動体の位置に関する情報を受け取って、衛星測位処理を実行する。
【0007】
前記マーカ検出部は、前記マーカの画像を撮影する撮影装置を含むことができる。
【0008】
また、本発明に係る衛星測位システムは、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体と、
予め地球固定座標系における位置が測定されている複数のマーカと、を備え、
前記演算部は、前記マーカ検出部によって検出された前記複数のマーカの位置に基づいて前記移動体の地球固定座標系における位置を算出し、
前記衛星測位部は、前記演算部が算出した前記移動体の位置に関する情報を受け取って、衛星測位処理を実行する。
【0009】
本発明に係る衛星測位方法は、
地球固定座標系におけるマーカの位置、又は前記マーカの姿勢を予め測定するステップと、
移動体に搭載されたマーカ検出部により前記マーカを検出し、それに基づいて移動体の地球固定座標系における位置を算出するステップと、
前記移動体の地球固定座標系における位置に関する情報を移動体に搭載された衛星測位部に供給し、衛星測位処理を実行するステップと、
を備える。
【0010】
本発明に係るマーカの位置及び姿勢を測定する方法は、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体によって、地上に固定されたマーカの位置及び姿勢を測定する方法であって、
前記移動体の地球固定座標系における位置を取得するステップと、
前記移動体を任意の経路で移動させるステップと、
前記移動体の移動中に、複数の地点のそれぞれにおいて、前記マーカ検出部により前記マーカを観測して前記マーカの前記マーカ検出部に対する相対位置及び相対姿勢を計測し、その計測結果に基づいて各観測地点における前記移動体の前記マーカに対する相対位置を算出するステップと、
前記各観測地点での、前記移動体の地球固定座標系における位置と、前記移動体の前記マーカに対する算出された相対位置を用いて、前記マーカの地球固定座標系における位置及び姿勢を推定するステップと、
を備える。
【0011】
ここで、前記各観測地点での、前記移動体の地球固定座標系における位置と、前記移動体の前記マーカに対する算出された相対位置との間の距離を算出し、前記各観測地点の全てにおける前記距離の総和に基づく評価関数を最小とするような前記マーカの地球固定座標系における位置及び姿勢を推定値とすることができる。
【0012】
さらに、本発明に係るマーカの位置及び姿勢を測定する方法は、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体によって、地上に固定されたマーカの位置及び姿勢を測定する方法であって、
前記移動体の地球固定座標系における位置を取得するステップと、
前記マーカに対する任意の位置に複数の仮想マーカを設定するステップと、
前記移動体を任意の経路で移動させるステップと、
前記移動体の移動中に、複数の地点のそれぞれにおいて、前記マーカ検出部により前記マーカを観測して前記マーカの位置及び姿勢を計測し、その結果に基づいてそれぞれの地点において前記複数の仮想マーカの移動体に対する相対位置を算出し、各観測地点において算出された前記複数の仮想マーカの算出相対位置から前記複数の仮想マーカの地球固定座標系における位置を推定するステップと、
前記複数の仮想マーカの推定された位置から、前記マーカの位置及び姿勢を推定するステップと、
を備える。
【0013】
ここで、前記任意の経路は、前記マーカからみた遠位点と近位点とを結ぶ直線であり、前記複数の仮想マーカは、前記マーカとそれぞれの前記仮想マーカを結ぶ直線上で前記移動体から前記直線に下ろした垂線と前記直線との交点に位置するものとすることができる。
【0014】
また、本発明に係るマーカの位置及び姿勢を評価する方法は、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体によって、地上に固定されたマーカの位置及び姿勢を評価する方法であって、
地上に固定されたマーカの位置及び姿勢を、記憶部に予め記憶しておくステップと、
前記記憶部に予め記憶された前記マーカの位置及び姿勢と、請求項6又は7に記載の方法により測定された前記マーカの位置及び姿勢とを比較するステップと、
を備える。
【0015】
本発明に係る衛星測位システムは、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体と、
予め地球固定座標系における位置及び姿勢が測定されているマーカと、を備え、
前記演算部は、前記マーカ検出部によって検出された前記マーカから前記移動体の位置を推定し、
前記衛星測位部は前記移動体の当該推定位置に関する情報を受け取って初期化を行い、前記演算部は、
当該初期化後に前記マーカ検出部が前記マーカを観測することによって前記マーカの位置を推定し、そのマーカの推定位置と予め前記移動体が保持している前記マーカの位置に関する情報を比較することによって、あらかじめ前記移動体が保持している前記マーカの姿勢に誤差があるか否かを判定する。
【0016】
本発明に係るマーカの姿勢誤差を判定する方法は、
衛星測位部、マーカ検出部、及び演算部を有する移動体によって、あらかじめ移動体が保持しているマーカの姿勢誤差を判定する方法であって、
予めマーカの位置及び姿勢を測定し、その結果を前記移動体の演算部が保持するステップと、
前記マーカ検出部が前記マーカを観測し、その結果から前記演算部が前記移動体の位置を推定するステップと、
前記衛星測位部が、前記移動体の当該推定位置に関する情報を受け取って初期化を行うステップと、
前記初期化の後に前記マーカ検出部が前記マーカを観測し、その結果に基づいて前記マーカの位置を推定するステップと、
前記演算部が、前記推定された前記マーカの位置を前記演算部が保持するマーカの位置と比較して、その比較結果に基づいてマーカの姿勢に誤差があるか否かを判定するステップと、
を備える。
【0017】
前記衛星測位部は、単独搬送波位相測位(PPP)方式による衛星測位処理を実行するものとすることができる。
【0018】
測定及び/又は評価された前記マーカの地球固定座標系における位置及び姿勢の情報を、前記移動体と、前記移動体と異なる移動体との間で共有することができる。
【発明の効果】
【0019】
予め地球固定座標系における位置及び姿勢が測定されているマーカの位置及び姿勢、あるいは、予め地球固定座標系における位置が測定されている複数のマーカの位置を検出し、これに基づいて移動体の地球固定座標系における位置を算出し、その情報を用いて衛星測位処理を実行することにより、衛星測位における初期化処理にかかる時間を従来と比較して大幅に短縮することができる。
【0020】
また、前述の、地上に固定されたマーカの位置及び姿勢を測定する方法を実行することによっても、衛星測位における初期化処理にかかる時間を短縮することができる。
【0021】
さらに、地上に固定されたマーカの位置及び/又は姿勢を予め記憶しておき、前述の方法でマーカの位置及び/又は姿勢を測定し、両者を比較することによって、マーカの現在の位置及び/又は姿勢の正確さを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】RTK方式とPPP方式について、誤差の主な原因と、これらの誤差を低減するための処理の方法を比較対照した図である。
【
図2】衛星測位を行う移動体と視覚マーカとを示した図である。
【
図3】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図4】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図5】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図6】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図7】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図8】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図9】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図10】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図11】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図12】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図13】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図14】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図15】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図16】視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
【
図17】初期化時の測位誤差を低減する方法について説明する図である。
【
図18】初期化時の測位誤差を低減する方法について説明する図である。
【
図19】初期化時の測位誤差を低減する方法について説明する図である。
【
図20】初期化時の測位誤差を低減する方法について説明する図である。
【
図21】マーカ設置姿勢の誤差の検出の原理を説明する図である。
【
図22】フロー図と、所定の工程における既知の情報と推定の対象を示した図である。
【
図23】実験で使用する座標系と各計算に用いる変数の定義を示した図である。
【
図24】実験のめために作製したシステムの構成を示す図である。
【
図25】作製したシステムを移動体に搭載して行った実験の方法を示した図である。
【
図26】マーカによる初期化を行った場合と行わなかった場合の結果の比較を示した図である。
【
図27】(数2)に現れる各記号の意味を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
なお、本明細書で言う「初期化」には、測位中断後の再初期化も含むものとする。すなわち、GNSSアンテナと衛星との間に障害物が存在することなどにより衛星からの信号が受信できなくなった場合、その後に再び受信できるようになったとしても、測位を再開するためには中断時間に応じて初期化と同様の処理(再初期化)が必要になる場合があり、このような測位中断後の再初期化も含むものとする。
【0024】
図1は、RTK方式とPPP方式について、誤差の主な原因と、これらの誤差を低減するための処理の方法を比較対照した図である。
図1には、測位衛星からの信号を受信する移動体として、建設現場で使用される車両が示されており、この車両に測位衛星からの信号を受信するGNSSアンテナが搭載されている。この他に、農業で使用される農業機械、測量現場で使用される測量機器、建設現場などで使用される建設機器などの移動体にも、測位衛星からの信号を受信するGNSSアンテナを搭載して、衛星測位を実行することができる。
【0025】
図1に示すように、衛星には高精度の時計が搭載されているが、その時計にも誤差が生じ、また衛星の軌道にも誤差が生じる。そして、測位衛星から発せられる信号は、移動体のGNSSアンテナに到達するまでに電離層及び対流圏を伝搬するが、その際に遅延を受け、この遅延による誤差も生じる。RTK方式ではこのような誤差に対して、精密な位置が分かっている基準局を設置し、移動体と基準局の両方で少なくとも5つの測位衛星からの電波を受け、さらに移動体と基準局との間で信号のやりとりをすることで、このような誤差をキャンセルし、数センチメートル程度の精度を達成することができる。
【0026】
一方、PPP方式では、4つ以上の測位衛星から電波を受け、観測結果及びモデルを用い、衛星軌道や衛星時計の誤差、および電離層や対流圏を通過することによる信号の遅延量や搬送波位相バイアスなど多数のパラメータを推定する初期化処理を行う。初期化処理は、衛星測位を行おうとする移動体に搭載された演算装置によって行うことができる。かかる初期化処理が済めば、地球に固定された座標系(地球固定座標系という)の上での位置について、RTKと同程度の精度で推定することができる。このようにPPP方式では基準局及び基準局と移動体との間の通信手段は不要となるものの、初期化処理に数十分から1時間程度の時間がかかる。
【0027】
(実施形態1)
本実施形態では、PPP方式における初期化処理にかかる時間を短縮するために、
図2に符号211で示すような視覚マーカを設置する。視覚マーカ211は、必要に応じて支持台212に固定する。そして、設置した視覚マーカ211の位置及び姿勢を予め精密に測定しておく。ここで、視覚マーカの「位置」は、地球固定座標系の上での位置を指す。また、視覚マーカの「姿勢」は、地球固定座標系に対する視覚マーカに固定された座標系(以下必要に応じて「マーカ座標系」という)の姿勢として定義する。
【0028】
予め測定された視覚マーカ211の位置及び姿勢は、
図2に示す移動体201に搭載された演算装置に関連する記憶装置に視覚マーカ211のID番号と対応付けて記憶させておく。移動体201にはさらに、マーカ検出部としてのカメラ202及び測位衛星から信号を受信する衛星測位部の一部としてのGNSSアンテナ203が搭載されている。カメラ202とGNSSアンテナ203との相対的な位置関係は予め計測しておく。そして、移動体201を起動してその位置及び姿勢を迅速かつ精密に推定するために、カメラ202の視野に視覚マーカ211が入るように移動体201を移動させ、カメラ202で視覚マーカ211を撮影する。
【0029】
ここで、視覚マーカ211について説明する。本実施形態で使用する視覚マーカ211は、一例として、2次元平面上に所定の間隔で配置されたドットパターンの上に、2次元平面上に配列された多数のレンズからなるレンズアレイを配置・固定したものであり、ドットパターンのドット同士の間隔とレンズアレイのレンズ同士の間隔はわずかに異ならせてある。このような視覚マーカは、特許第5842248号公報に記載されており、同公報の
図37、
図38、
図39にこのような視覚マーカの具体的構造が示されている。
【0030】
上記特許公報の
図37に示されているように、2次元平面上に配列されたドットパターンの上に、レンズ同士の間隔がドットパターンの間隔とは異なるレンズアレイを配置すると、同公報の
図38に示されているように各レンズを通して拡大されて見えるドットパターンの位置は、ドットパターンとレンズ中心とのずれに応じて、元の位置からずれて見える。これを遠くから見ると、同公報の
図39に示されているように濃淡パターン(一つの大きな濃いパターン)として見える。この濃淡パターンの位置は、視覚マーカの法線とこれを見る視線との角度に応じて変化する。濃淡パターンが視覚マーカの中心にあるときは、視線の方向が視覚マーカの法線と一致しているが、視線の方向と視覚マーカの法線方向との角度の変化に応じて、濃淡パターンの位置が変化する。
【0031】
上記特許公報の
図37に示された構造の視覚マーカは、全体としては平面状だが、視線の方向と視覚マーカの法線との間の角度の変化に対して濃淡パターンの位置が敏感に変化する。このため、平面状の視覚マーカに仮想的に奥行き情報を付加することができる。この平面状の視覚マーカを使用すると、特に視覚マーカの正面付近で高い精度で角度の変化を検出できる。視線の方向と視覚マーカの法線との間の角度と濃淡パターンの位置との関係は、予め測定し記憶させておく。
【0032】
視覚マーカ211の正確な位置及び姿勢を予め精密に測定しておくことによって、この視覚マーカを移動体201に搭載されたカメラ202で撮影し、その画像を入力として移動体に搭載した演算装置上のプログラムによってカメラ202に対する視覚マーカ211の位置及び姿勢を算出することができる。この結果と、予め精密に測定し記憶させてある視覚マーカ211の位置及び姿勢のデータと、カメラ202とGNSSアンテナ203との相対的な位置関係とから、地球固定座標系におけるGNSSアンテナ203の位置及び姿勢を求めることができる。
【0033】
こうして得られたGNSSアンテナ203の正確な位置及び姿勢の情報を、PPP方式の測位パラメータの推定に利用する。前述のようにPPP方式の演算装置は、起動してから位置を高い精度で推定できるようになるまでには数十分から1時間程度の時間がかかるが、これはGNSSアンテナ203の初期の位置推定精度が高くない場合、位置を含めた測位パラメータの推定を行うにあたって十分な精度で推定値を求めるには多量の衛星信号を観測する必要があるためである。これに対し、視覚マーカを撮影して得られたGNSSアンテナ203の正確な位置の情報をPPP方式の演算プログラムに供給することによって、同程度の測位パラメータ推定精度を得るために必要な衛星信号の観測量を劇的に減らすことが可能となり、その結果、高い精度の位置推定ができるようになるまでの時間を、例えば数分程度までに短縮できることが確かめられた。
【0034】
ここで、移動体201として農業分野の作業機械にカメラ202及びGNSSアンテナ203を搭載した場合を考えると、農場の入口付近などに設けられた支持台212に視覚マーカ211を設置し、その位置及び姿勢を予め精密に測定しておくことにより、作業機械を起動し、カメラ202で視覚マーカ211を撮影することによって、作業機械の起動後数分で、GNSSアンテナ203の正確な位置を高精度に推定できるようになる。したがって、作業機械の起動から作業開始までの時間を大幅に短縮することができる。
【0035】
以上では、視覚マーカとして平面的なものを使用した。視覚マーカの他の例としては、例えば宇宙用途でしばしば用いられる3点マーカを使用することができる。3点マーカは、奥行き情報を求めるために、法線方向に伸びた棒状部材を有している。この棒状部材の先端と後端との視覚上の像のずれと棒状部材の長さから、その3点マーカの姿勢を推定できるというものである。宇宙ステーションなどには、外から宇宙ステーションの姿勢を求めるために、複数の3点マーカが設置されていることが多い。設置場所の要求が厳しくない状況においては、このような3点マーカを視覚マーカとして利用することができる。
【0036】
本実施形態では、GNSSを用いた衛星測位方式としてPPP方式を用いた場合について説明した。しかしながら、本実施形態は、基準局を不要とする方式であって初期化処理に時間を要する衛星測位方式であれば、PPP方式には限られない。この点は、以下の各実施形態においても同様である。
【0037】
(実施形態2)
実施形態1では、視覚マーカ211の位置及び姿勢を予め精密に測定しておくことが前提となる。視覚マーカ211の位置及び姿勢の測定には、測量機器を使う方法を始めとして、種々の方法が考えられるが、実施形態2では、位置を高精度に推定できるようになった移動体201を利用して、視覚マーカ211の位置及び姿勢を精密に測定する。既に述べたように、PPP方式では、移動体201の位置を精密に推定できるようになるまでにはある程度の時間がかかるが、時間がかかっても位置を高精度に推定できるようになれば、次のようにして移動体201に搭載されたカメラ202を利用して、視覚マーカ211の精密な位置及び姿勢を測定することができる。
【0038】
図3〜
図9は、視覚マーカ211の位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
図3に示すように、視覚マーカ211は右側にあり、カメラ202及びGNSSアンテナ203を搭載した移動体201は左側にある。移動体201と視覚マーカ211との距離は、一例として10メートル程度とする。このとき、GNSSアンテナ203の位置は、すでにPPP方式によって高精度に推定できる状態となっている。また、移動体には、例えば地磁気を利用して方位角を測定する機能を有する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)を搭載しておき、これにより移動体の姿勢を推定することができるようになっている。この姿勢の精度は、角度にして数度程度あれば十分である。この移動体201の姿勢は、カメラ202に対するGNSSアンテナ203の位置を算出するために必要となる。さらに、例えば移動体201の遠位点と近位点とを結ぶ直線の垂直二等分線上に、直線に関して対称かつ直線からある程度離れた2つの地点にそれぞれ仮想マーカA及びBを設定し、マーカ座標系における各仮想マーカの位置を記憶する。
【0039】
その後、
図4に示すように、遠位点から近位点に向けて移動体201の移動を開始する。移動を開始したら、カメラ202で視覚マーカ211を観測し、カメラ202に対する視覚マーカ211の相対位置及び姿勢を計測する。そして、
図5に示すように、それぞれの観測地点において、最初に記憶したマーカ座標系における各仮想マーカA、Bの位置と、その観測地点において計測されたカメラ202に対する視覚マーカ211の相対位置・姿勢から、カメラ202に対する各仮想マーカA、Bの位置を求め、これをもとにカメラ202から各仮想マーカA、Bまでの距離を算出する。
【0040】
さらに、
図6に示すように、地球固定座標系におけるカメラ位置(衛星測位及びIMUによって計測)を中心として、
図5で求めた各仮想マーカA、Bまでの距離を半径とする円、すなわち、各仮想マーカA、Bに対応して一つの観測地点ごとに2つの円を求める。このような観測動作を、
図7に示すように、移動体201が遠位点から近位点まで移動する間に多数の観測地点(例えば100地点)において実行する。すると、
図8に示すように、各仮想マーカA、Bについて、観測地点の数に等しい数の円が得られ、それらの円の交点(
図8中の星印)が地球固定座標系における各仮想マーカの推定位置となる。なお、ここでは便宜上、円の交点が仮想マーカの推定位置となるという幾何学的解釈に基づいて説明しているが、実際の計算においては、
図5について説明した各観測地点から各仮想マーカまでの距離と、各観測地点の位置及び仮想マーカの推定位置から求められる距離との残差をもとに、最適化手法を用いて仮想マーカの推定位置を算出する。
【0041】
このようにして求められた地球固定座標系における各仮想マーカA、Bの推定位置(
図9中の星印)と、
図3に関連して説明した予め設定した仮想マーカA、Bのマーカ座標系における位置から、
図9に示すように、地球固定座標系における視覚マーカ211の位置及び姿勢(地球固定座標系に対するマーカ座標系の位置・姿勢)を算出する。
【0042】
このようにして視覚マーカ211の位置及び姿勢の精密な測定結果が得られたら、この結果を、実施形態1の視覚マーカ211の位置及び姿勢の情報として利用できることは直ちに理解されよう。
【0043】
なお、仮想マーカを設定する位置は、上記のように遠位点と近位点とを結ぶ直線の垂直二等分線上とする以外にも、種々の設定の仕方が可能である。また、視覚マーカを観測しながら移動する移動体の走行経路も、上記のように遠位点と近位点を結ぶ直線には限られない。しかしながら、多数の観測地点での観測によって仮想マーカの位置を推定する際の誤差を最小にすることを考慮すると、仮想マーカの設置位置及び移動体の走行経路を上記のようにすることが有利となる。
【0044】
また、上記では、2次元平面上での例を示したが、仮想マーカの数を増やし、距離を半径とする円を球に変更することで、3次元空間への拡張も容易に可能である。
【0045】
(実施形態3)
図10〜16は、視覚マーカ211の位置及び姿勢を測定する方法を示した図である。
図10に示すように、視覚マーカ211は、カメラ202及びGNSSアンテナ203を搭載した移動体201の前方にある。移動体201と視覚マーカ211との距離は、一例として10メートル程度とする。このとき、GNSSアンテナ203の位置は、すでにPPP方式によって高精度に推定できる状態となっている。この実施形態では、視覚マーカ211の地球固定座標系における正確な位置及び姿勢は未知であるが、以下で示す計算に用いるため、それぞれに仮の値を設定しておく。この仮の値は、真値にできるだけ近い値を設定する必要はなく、例えば、真値との誤差が位置にして10m程度であってもよく、姿勢にして10度程度であってもよい。
【0046】
その後、視覚マーカ211に近づく方向に移動体201の移動を開始する。移動を開始したら、カメラ202で視覚マーカ211を観測し、カメラ202に対する視覚マーカ211の相対位置及び姿勢を計測する。そして、
図11に示すように、それぞれの観測地点において、その観測地点において計測されたカメラ202に対する視覚マーカ211の相対位置及び姿勢と、仮に設定された視覚マーカ211の地球固定座標系における位置及び姿勢から、GNSSアンテナ203の地球固定座標系における推定位置を算出する。同時に、
図12に示すように、衛星測位によってGNSSアンテナ203の地球固定座標系における計測位置を計測する。その際、カメラ202が視覚マーカ211を撮影する時刻と、衛星測位によりGNSSアンテナ203の位置を計測する時刻は、同期が取れている必要がある。この撮影時刻と計測時刻との同期は、例えば、GNSS受信機からGPS時刻に同期して出力されるパルス信号を、外部トリガ入力機能を持ったカメラに入力し、GPS時刻に同期してカメラのシャッターを切ることによって実現できる。
【0047】
こうして、移動体201の移動中に、1つの観測点につき、カメラ202と視覚マーカ211を利用して求められたGNSSアンテナ203の地球固定座標系における位置(
図13に「+印(プラス印)」で示す)と、衛星測位を利用して求められたGNSSアンテナ203の地球固定座標系における位置(
図13に「○印(白丸印)」で示す)の、2通りの位置測定結果を得ることができる。
【0048】
このような観測動作を、
図14に示すように、移動体201が視覚マーカ211に対する遠位点から近位点まで移動する間に多数の観測地点(例えば100地点)において実行する。すると、
図15に示すように、観測地点の数に等しい組のGNSSアンテナ203の地球固定座標系における位置測定結果が得られる。ここで、
図15中に+印で示された、カメラ202と視覚マーカ211を利用して求められたGNSSアンテナ203の各観測地点での地球固定座標系における位置は、移動体201による観測開始前に仮に設定した視覚マーカ211の地球固定座標系における位置及び姿勢の値に応じて変化する。そこで、この+印で示された位置の中心と、○印で示された衛星測位によって計測された位置の中心との差(
図16に矢印で示す)が、すべての観測地点についてなるべく小さくなるような視覚マーカ211の地球固定座標系における位置及び姿勢の値を求める。これにより、各観測地点における衛星測位の結果と最も整合する、視覚マーカ211の地球固定座標系における位置及び姿勢を推定することができる。
【0050】
このようにして、得られた視覚マーカ211の位置及び姿勢の精密な測定結果を、実施形態1における視覚マーカの位置及び姿勢の情報として利用できることは直ちに理解されるだろう。すなわち、本実施形態における視覚マーカ211の地球固定座標系における位置及び姿勢についての精密な測定結果を実施形態1において視覚マーカの測定結果からGNSSアンテナの位置を算出する際に用いることによって、PPP方式での高い精度の位置推定ができるようになるまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0051】
(実施形態4)
次に、実施形態4として、初期化時の測位誤差を低減する方法について説明する。まず、
図17に示すように、実施形態1に示した方法(以下「方法1」とする)と同様の方法によって、測位パラメータの推定を行う。このとき、視覚マーカ211は、その位置及び姿勢が本来あるべき正確な位置及び姿勢であるかどうかは分からないことが前提である。その後、
図18に示すように、推定された測位パラメータを用いて実施形態2に示した方法(以下「方法2」とする)により、地球固定座標系における視覚マーカ211の位置を推定する。
【0052】
このように推定された位置(Pとする)と、事前に測定した結果として記憶している視覚マーカの位置(Qとする)から、方法2において視覚マーカを計測している間の衛星測位誤差が一定であると仮定すると(このように仮定することは、想定している時間範囲内においては妥当である)、方法1による測位パラメータ推定時の推定誤差に起因する測位誤差を算出できる。
図19は、このことを模式的に示している。
【0053】
そこで、位置Pと位置Qとの差から測位誤差を求め、
図20に示すように、これを補正量として初期位置を修正し、再び方法1による測位パラメータ推定を行えば、測位誤差を著しく低減することができる。さらに、測位誤差が低減された状態で方法2によって視覚マーカの位置及び姿勢の推定を行えば、測位開始から十分時間が経過していない段階でも、実施形態5で述べる視覚マーカの設置位置及び姿勢の評価が可能である。
【0054】
(実施形態5)
次に、実施形態5について説明する。実施形態1では、視覚マーカ211の位置及び姿勢が高い精度で正確であることが求められるが、例えば地震などがあって地面の位置や方向が変化するなど、何らかの理由で視覚マーカ211の位置及び姿勢が変化することが起こり得る。このようなことが起こると、実施形態1で述べた作業機械の起動後数分でGNSSアンテナ203の正確な位置及び姿勢を高精度に推定する、ということができなくなる可能性がある。そこで、実施形態5では、既に位置及び姿勢が測定されている視覚マーカ211の、その位置及び姿勢の精度の評価を行う。
【0055】
実施形態1で説明したように、PPP方式では、GNSSアンテナ203の位置推定の精度は、推定動作を一定時間以上継続すれば数センチメートル程度になる。例えば移動体201がその日の作業を終える頃には、この程度の推定精度が得られていると考えられる。これとは別に、例えば作業を終えて格納庫に戻る途中において、視覚マーカ211を撮影し、実施形態1で説明したようにその画像を入力として移動体に搭載した演算装置上のプログラムによってカメラ202に対する視覚マーカ211の位置及び姿勢を算出し、予め精密に測定し記憶させてある視覚マーカ211の位置及び姿勢のデータと、カメラ202とGNSSアンテナ203との相対的な位置関係とから、地球固定座標系におけるGNSSアンテナ203の位置及び姿勢を求める。
【0056】
こうして得られた2つの結果を比較することによって、視覚マーカ211が正しく設置されているかどうかを確認・評価できる。例えばこのとき両者の結果に相違があるとすれば、視覚マーカ211の位置及び姿勢に何らかの変化が生じたと考えられるので、必要に応じて、視覚マーカ211の位置及び姿勢を修正するか、あるいはここで得られた視覚マーカ211の位置及び姿勢を新たに記憶装置に記憶し、次回の作業開始時にこれを利用することができる。
【0057】
(実施形態6)
これまでは、1つの視覚マーカを用いた場合について説明した。しかしながら、地球固定座標系における位置のみを高精度に計測できるマーカが複数あれば、マーカの姿勢を高精度に計測することができなくても、実施形態1と同様に、GNSSアンテナの初期位置情報を用いることで、測位開始から高い精度を得られるようになるまでに要する時間を短縮することができる。
【0058】
一例として、既知の半径(例えば50mm)を有する2本の円柱をマーカとして用い、これらをある程度離して(例えば5m離して)鉛直に設置し、地球固定座標系における円柱中心位置を事前に計測しておく。そして、移動体にはマーカ検出部としてのレーザスキャナ及びIMUを搭載する。ここで、レーザスキャナは、レーザ光線を発射し、対象物体で反射して戻ってくるまでの時間から対象物体までの距離を高精度に測定できるレーザ距離計のうちレーザ光線を放射状に走査させることができるものを用いる。
【0059】
レーザスキャナで2本の円柱までの距離及びそれぞれの円柱を見込む角度を計測し、それらの結果をもとに三角測量の手法を用いて地球固定座標系におけるレーザスキャナの位置を算出する。移動体上でのレーザスキャナとGNSSアンテナの位置関係を事前に計測しておけば、地球固定座標系におけるレーザスキャナの位置及びIMUによって得られる方位角から、地球固定座標系におけるGNSSアンテナの位置を算出することが可能となり、これを用いて実施形態1と同様に衛星測位の処理を実行することができる。
【0060】
(実施形態7)
次に、実施形態7として、マーカ設置姿勢の誤差の検出について説明する。
図21に、その検出原理を示す。
【0061】
図21の左側は、マーカ設置姿勢に誤差がない場合、すなわち、事前に計測し、システムが保持しているマーカ設置姿勢と実際のマーカ設置姿勢が一致している場合を示している。上側の枠内の線でつながれた●印は、マーカを観測することによって得られた移動体の推定位置であり、下側の枠内の線でつながれた★印は、衛星測位によって得られた移動体の推定位置である。先に述べた視覚マーカの位置及び姿勢を測定する方法により、各観測点における●印と★印がなるべく一致するようにフィッティングを行うことで、マーカが設置された推定位置を得ることができる。マーカ設置姿勢に誤差がない場合、この推定設置位置は、事前に計測しシステムが保持している設置位置とほぼ一致する。
【0062】
一方、
図21の右側は、マーカ設置姿勢に誤差がある場合を示している。最初の観測点においてマーカを観測することによって得られた移動体の推定位置は、マーカ設置姿勢の誤差の影響により、上側枠内の左端の●印のように、設置姿勢に誤差がない場合に比べてオフセット(補正)する。この推定位置情報を用いて衛星測位の初期化を行った場合、初期化完了後の衛星測位結果にも先のオフセットに相当する誤差が残る。なお、この誤差は時間の経過と共に徐々に低減するが、ここで考える時間範囲内では一定と見做して差し支えない。これらの測定結果を用いて先に述べたのと同様のフィッティングによりマーカが設置された推定位置を求めると、事前に計測しシステムが保持している設置位置とは一致せず、差が生じる。これはマーカの観測によって求められる移動体の推定位置の誤差量がマーカからの距離に応じて変化するのに対し、衛星測位によって求められる移動体の推定位置の誤差量はほぼ一定であることに起因する。
【0063】
よって、マーカの推定位置と、事前に計測しシステムが保持しているマーカの位置とが一致するか否かによって、マーカ設置姿勢に誤差があるかどうかを検出することができる。なお、この方法によって検出できるのはマーカの設置姿勢の誤差のみであり、マーカの設置位置の誤差は検出できない。しかし、設置状態のマーカが変位する場合、地殻変動などによる大域的変化という極端な場合を除けば、姿勢変化を伴わずにマーカが並進して位置のみが変化することは考えにくい。したがって、マーカに変位が生じたかどうかは、この方法によって十分に判定可能である。
【0064】
(実施形態8)
上述の各実施形態において、マーカの観測結果やマーカの設置位置及び姿勢の推定結果は、通信を利用して複数の移動体の間で共有することができる。これにより、例えばある移動体Aが実施形態3で説明した方法で推定したマーカの設置位置及び姿勢の情報を、別の移動体Bと共有することによって、移動体Bは実施形態3で説明した方法による推定を自ら行わなくても、正確なマーカの設置位置及び姿勢の情報を利用することができる。
【0065】
また、マーカの位置及び姿勢の情報は、2次元コードなどの手段によってマーカに付与されたIDと共に共有される。ID及び移動体の大まかな位置情報により、どこに設置されたマーカであるかを一意に決定することができる。
【0066】
(実施例)
次に、発明者らが実際に行った実験と、その結果について、実施例として説明する。
図22は、これまでに説明したいくつかの実施形態の内容と、それぞれの実施形態において、既知の情報が何で、推定の対象が何であるかを分かりやすく示してある。左右の図において(A)、(B)、(C)は対応しており、また(A)、(B)、(C)は、それぞれ上述の実施形態1、実施形態3、実施形態2にそれぞれ対応している。また、
図23は以下の説明で用いる座標系を示し、
図24は実験のために作製したシステムの構成を示し、
図25は作製したシステムを移動体に搭載して行った実験の方法を示している。なお、
図23に示した各記号の意味は
図27に示した。
【0067】
まず、
図22の(A)に示した初期化実験について説明する。道路脇にマーカを設置し、地球固定座標系に対する位置及び姿勢を予め正確に計測した。以下は、位置及び姿勢の計測方法の一例である。まず、マーカを設置する地点(A地点とする)と、マーカから10m離れた地点(地点Bとする)の地球固定座標系における位置を、後処理RTKなどの手段により正確に計測した。
【0068】
次に、
図23に示すように、A地点にマーカ座標系のy軸が鉛直方向と一致するようにマーカを設置し、B地点に光学中心がB地点の真上にくるようにカメラを設置した。そして、カメラでマーカを撮影し、画像中心にマーカの中心が一致するようカメラの高さと方位角を調整した。このとき、カメラの光軸はA地点とB地点を結ぶ線分と平行になっている。
【0069】
カメラに対するマーカの姿勢を計測することで、A地点とB地点とを結ぶ線分に対するマーカの姿勢を得ることができる。これと、先に計測したA地点とB地点の地球固定座標系における位置から、マーカの地球固定座標系における姿勢を算出する。さらに、A地点からマーカの中心までの高さを計測する。これと、先に計測したA地点の地球固定座標系における位置から、マーカの地球固定座標系における位置を算出する。
【0070】
なお、上記の実験において、リファレンス用に、後処理RTKを行うための基地局を道路脇に設置し、測位データを収集した。
【0071】
移動体をマーカの手前からマーカに向けて前進させ、マーカから約10m離れた、マーカがカメラの視野に入る地点で移動体を停止させ、この地点をスタート地点とした。なお、この地点の位置は未知である。
【0072】
ここで、PPPによる衛星測位を開始し、併せて、マーカの計測を開始し、衛星の暦(軌道・時刻情報)を取得した。衛星の暦は、通常30秒以内に取得できる。衛星の暦が取得できたら、マーカの計測結果を用いて下記の式
【数2】
によって算出されたGNSSアンテナの位置を初期値として測位計算を開始する。
この式の各記号の意味ついては、
図23及び
図27を参照されたい。
【0073】
マーカの計測を終了したのち、測位開始から60秒経過後、スタート地点から約20m離れた地点まで移動体を前進させながら、測位データを取得した。こうして取得したデータを、後処理RTKをリファレンスとして比較評価した。
【0074】
図26は、この比較結果を示した図である。
図26の左側はマーカを用いた初期化を行わなかった場合である。60秒では十分に収束せず、1mを超える誤差が出ていることが分かる。これに対し、
図26の右側に示したマーカを用いて初期化を行った場合では、瞬時に収束して水平誤差3cm以内の精度が達成されていることが分かる。表1に、5回の試行実験での各試行における水平測位精度を示す。表1から分かるように、非常に高い精度が得られた。
【0076】
次に、
図22の(C)に示した、マーカの設置位置及び姿勢の計測実験について説明する。上記(A)の実験と同様に、移動体をスタート地点まで前進させ、PPPによる衛星測位及びマーカの計測を開始し、初期化を行う。(A)の初期化の場合とは異なり、マーカの計測を継続したまま移動体の前進を開始する。マーカがカメラの視野から外れないように注意しながら、マーカの手前約1mの地点まで前進する。これにより、移動中に測位データ及び測位データに同期したマーカ計測データを取得することができる。
【0077】
前述したマーカの設置位置及び姿勢の推定方法により、取得したデータと式1に基づいてマーカの位置及び姿勢を推定し、水平位置誤差7.2mm、方位角誤差0.081度という結果が得られた。
【0078】
次に、
図22の(B)に示した初期化結果の検証実験について説明する。マーカの設置姿勢(方位角)を人為的に0.1度から0.5度まで0.1度刻みで変化させ、それぞれについて設置位置及び姿勢の計測実験と同様の手順で測位データ及びマーカの計測データを取得し、マーカの設置位置を推定した。表2に、マーカ位置の推定量の差(初期化の際に用いたマーカ位置と推定位置との差)を示す。表2の結果から分かるように、位置の推定量に適切な閾値(例えば20mm)を設け、これを超えた場合にはマーカの設置姿勢が変化したと推定し、この閾値以下であればマーカの設置姿勢に変化がないと推定することで、マーカの設置姿勢が変化したかどうかを検出することが可能であることが示される。
【0080】
(測位パラメータ推定方法)
ところで、測位パラメータの推定は、通常は逐次処理(フィルタ)によって行う。上記各実施例でも、パラメータの推定にはフィルタ(拡張カルマンフィルタ)を用いており、マーカの観測によって求められたGNSSアンテナの位置の推定値をフィルタの初期値として入力することで初期化している。しかし、測位パラメータの推定はフィルタ以外の方法によっても可能である。また、フィルタも含めて、マーカとの組み合わせによってさらにパラメータの推定精度の向上及び推定時間の短縮が期待できる。以下に、そのような推定方法の具体的な例を挙げる。なお、以下では、実施形態2に示したように、移動体が移動しながら衛星測位とマーカの観測とを同期して実行し、両方の観測データを得られるものとする。
【0081】
第1の例は、フィルタを用いる場合である。カルマンフィルタやその派生手法において、マーカの観測によって得られた移動体の相対位置/速度や相対姿勢/角速度など情報をシステムのダイナミクスに取り込むなどにより、推定精度の向上を図ることができる。
【0082】
第2の例は、バッチ処理によるものである。一定期間の衛星測位データとマーカ観測データとを一括して扱い、非線形最小二乗法などの手法によってパラメータを推定することができる。
【0083】
第3の例は、ハイブリッド手法である。すなわち、フィルタとバッチ処理の両方の側面を持つ手法である。これは、ロボティクスの分野において、smoothing and mapping と呼ばれている手法に相当する。一定期間のデータを用いてバッチ的に推定を行うとともに、時間経過とともに対象とする期間をスライドさせて行くなどにより、精度の向上と計算負荷の軽減を図ることができる。
【0084】
(実施形態4についての補足)
実施形態4に示した「マーカ設置姿勢誤差検出手法」を繰り返し実行することで、マーカの設置姿勢誤差がアンテナの位置推定に求められる許容範囲より大きい場合にも初期化を行うことが可能となる。また実施形態4の方法によってマーカ位置の推定量の差を求めることができる。この値は、理論上は、マーカ設置姿勢の誤差の増大に伴って単調増加する。そこで、マーカ位置の推定量の差から、マーカ設置姿勢の誤差(のおおよその値)を推定することが可能である。この推定された誤差分を、衛星測位の初期化を行う際に用いたマーカ設置姿勢に対して補正し、補正後のマーカ設置姿勢を用いて後処理計算により再度測位の初期化とマーカ設置姿勢の誤差の検出計算を行う。これは、測位データとマーカの観測データを同期して取得してあるため、後処理による計算が可能である。こうして求めたマーカ位置の推定量の差は、初回に求めた値よりも小さくなっていることが期待できる。このようなプロセスを繰り返すことによって、最終的にマーカの設置姿勢の誤差をアンテナ位置の推定に求められる許容範囲内に抑えることができる。