【文献】
上原 誠一郎,粘土基礎講座I 粘土の構造と化学組成,粘土科学,(2000), Vol.40, No.2,p.100-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分散媒が、シクロヘキサノール、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、エタノール、メタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセノール、ホルムアミド、N−メチル−2ピロリドン、水からなる群から選ばれる単独または2種以上の組み合わせである請求項1から請求項4のいずれかに記載の揺変剤。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の大きな特徴の一つは、2:1型層状ケイ酸塩鉱物を分散させる分散媒のハンセン溶解度パラメータ(SP値)が10cal/cm
3以上であることである。ハンセン溶解度パラメータ(SP値)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかを示す物質間の親和性の尺度を表す一つの指標であり、また濡れ性、接着性、分散粒子の分散性の評価などに使用される。このようなSP値が10cal/cm
3以上である分散媒を用いることにより、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の微粒子を均一に分散させることができ、また後述する水溶性コンプレクサン型配位子を前記ケイ酸塩鉱物の層間にインターカレート可能とし良好なチキソトロピーが発現されるようになる。本発明で使用する分散媒としては、例えば、シクロヘキサノール(11.4)、n−ブタノール(11.4)、イソプロピルアルコール(11.5)、プロピレングリコール(12.6)、1,3−ブチレングリコール(11.0)、ジメチルホルムアミド(12)、エタノール(12.7)、メタノール(14.5)、エチレングリコール(14.6)、グリセロール(16.5)、ホルムアミド(19.2)、N−メチル−2ピロリドン(10.8)、水(23.4)などからなる群から選ばれる単独または2種以上を組み合わせて用いることができる(カッコ内はSP値)。
【0018】
本発明のもう一つの大きな特徴は、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の層間に存在する金属イオンが、水溶性ポリマーで架橋された水溶性コンプレクサン型配位子で配位されていることにある。
【0019】
2:1型層状ケイ酸塩鉱物の層間に存在する金属イオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、カルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンなどが挙げられる。前記ケイ酸塩鉱物が分散媒に分散されると、分散媒中の水などが層間に進入して金属イオンに配位して前記ケイ酸塩鉱物が膨潤する。これは層間に位置する金属イオンの水和による水和エネルギーが前記ケイ酸塩鉱物の層間の結合力よりも大きいためである。このように前記ケイ酸塩鉱物が膨潤していると、後述する水溶性コンプレクサン型配位子の前記ケイ酸塩鉱物へのインターカレートが容易になる。
【0020】
本発明で使用する2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、2枚のシリカ四面体シートの間に1枚のアルミナ八面体シートが結合して1つのアルミケイ酸塩単位層となり、これらの単位層が積層して構成されるものである。本発明では、前述のように、2枚の単位層の間(層間)に、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンおよびカルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンが層間金属イオンとして存在している。このような2:1型層状ケイ酸塩鉱物としては、天然に産出する天然粘土鉱物であっても、化学的に合成された合成粘土鉱物であっても採用可能であるが、天然鉱物や金属イオンを有する無機化合物などを出発原料として、水熱反応法または溶融法などの合成方法によって得られる合成粘土鉱物の方が好ましい。
【0021】
合成粘土鉱物は、天然粘土鉱物が有する酸化鉄等の夾雑物がなく、一次粒子の直径が500nm以上1000nm以下程度である天然物に対して、一次粒子の直径を15nm以上35nm以下程度に調整することができる。また、合成粘土鉱物は、合成段階での化学組成および合成条件の調整によって、得られる化学組成上の自由度が大きく、膨潤性やイオン交換能などの機能を天然粘土鉱物と比べて向上させることができる。特に化粧料の添加剤として本発明に係る揺変剤を用いるのであれば、重金属などの人に影響を与える要素を排除した合成粘土鉱物を原料として用いるとよい。合成によって得られた2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、陰イオン側にフッ素を含有しているもの、フッ素を含有していないもの等、様々な化学組成とし得るが、フッ素を含まない2:1型層状ケイ酸塩鉱物が好ましい。陰イオンとしてフッ素を含まない2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、水系の液相分散媒に分散した際にフッ素イオンによって陽イオンの溶出が妨げられないので、陰イオンとしてフッ素を含む2:1型層状ケイ酸塩鉱物を層間修飾した粘土鉱物化合物よりもフッ素を含まない2:1型層状ケイ酸塩鉱物を層間修飾した粘土鉱物化合物は良好なチキソトロピー性を示す。なお、1種類の2:1型層状ケイ酸塩鉱物から粘土鉱物化合物を構成するのに限られず、複数種類の2:1型層状ケイ酸塩鉱物を組み合わせて用いてもよい。なお、2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、コロイド結晶の一次粒子の直径が500nm以下であるものがよい。
【0022】
前記2:1型層状ケイ酸塩鉱物としては、タルク,パイロフィライトなどのタルク−パイロフィライト族(層電荷:0);サポナイト,ヘクトライト,モンモリロナイト,バイデライトなどのスメクタイト族(層電荷:0.2〜0.6);バーミキュライト族;レピドライト,イライト,パラゴナイト,白雲母などのマイカ(雲母)族(層電荷:1.0以下);クリントナイト,マーガライトなどの脆雲母族(層電荷:2.0以下);クリノクロア,シャモサイト,ニマイト,ドンバサイト,クッケアイト,スドーアイトなどの緑泥岩(層電荷:可変)などが使用可能である。これらの中でも層電荷が0.2以上0.9以下のスメクタイト族およびマイカ(雲母)族が好適に使用される。
【0023】
スメクタイト族としては、ナトリウム型モンモリロナイト、カルシウム型モンモリロナイト、活性化ベントナイト(Na/Ca型モンモリロナイト)、ナトリウム型ヘクトライト、カルシウム型ヘクトライト、ナトリウム・マグネシウム型ヘクトライト(ケイ酸(Na/Mg))、ケイ酸アルミニウム・マグネシウム(ケイ酸(Al/Mg))が好ましく、より好ましくは合成ヘクトライト、合成サポナイトまたは合成スティーブンサイトが挙げられる。市販品としては、製品名:スメクトン−SWF、スメクトン−SWN(クニミネ工業株式会社製の合成ヘクトライト)、製品名:LAPONITE−RD、LAPONITE−XLG XR、LAPONITE−XL21、LAPONITE−S482(ビックケミー・ジャパン社製の合成ヘクトライト)等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
雲母族は、合成によって層間金属イオンがナトリウムイオンあるいはリチウムイオンで同形置換されたものが挙げられ、例えばテニオライト(KMg
2Li(Si
4O
10)F
2)を出発原料として合成された同形置換型等の合成雲母が例示される。雲母族の具体例としては、テニオライトのナトリウム同形置換体、あるいはフッ素四珪素雲母のナトリウム同形置換体であるナトリウム型フッ素四ケイ酸雲母等が挙げられるが、これらは総じて水による顕著な無限膨潤性または限定膨潤性を示す。
【0025】
層間に金属イオンを有している2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、何れもある程度の陽イオン交換能を有しているが、陽イオン交換容量(CEC)が高い2:1型層状ケイ酸塩鉱物を選択するのが望ましい。これは、金属錯化合物を2:1型層状ケイ酸塩鉱物の層間に導入するインターカレーションにおいて層間金属イオンのイオン交換性を利用するので、陽イオン交換能が高い程、金属錯化合物を効率よくインターカレートできるからである。具体的には、7.0質量%〜18質量%の範囲で2:1型層状ケイ酸塩鉱物を分散したpH9.0〜12.0の水溶液中で、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の陽イオン交換能が30meq/100g以上、より好ましくは60meq/100g以上であるとよい。また、2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、水系の液相分散媒中において膨潤性を示す。すなわち、良好な陽イオン交換能を有するスメクタイト族から合成ヘクトライト等の2:1型層状ケイ酸塩鉱物を選ぶとよい。
【0026】
本発明の揺変剤における2:1型層状ケイ酸塩鉱物の含有量としては7質量%以上25質量%以下の範囲が好ましい。2:1型層状ケイ酸塩鉱物の含有量が7質量%未満であると所望のチキソトロピー性が発現されないことがある。一方、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の含有量が25質量%を超えると、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の表面にある負電荷と分極した正電荷の静電気的相互作用により、2:1型層状ケイ酸塩鉱物がカードハウス構造とよぶ特異な凝集構造を形成して分散液がゲル化し、均一な分散液を得ることが困難になるおそれがある。揺変剤における2:1型層状ケイ酸塩鉱物のより好ましい含有量は9質量%以上18質量%以下の範囲である。
【0027】
本発明における水溶性コンプレクサン型配位子は水溶性ポリマーで架橋されている。水溶性ポリマーによって架橋される水溶性コンプレクサン型配位子としては、層間金属イオンに配位するものであればよく、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)・4H、EDTA2H・2Na・2H
2O、EDTA・3Na・2H
2O、EDTA・4Na・4H
2O、EDTA・2H・2K・2H
2O等のエチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)・3Na・2H
2O、HEDTA・3Na・3H
2O、HEDTA・3Na等のヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)・5H、DTPA・5Na等のジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,2,3−トリアミノプロパン六酢酸、3−ヒドロキシ−2−2−イミノジコハク酸ナトリウム、L−アスパラギン酸−N−N−2酢酸ナトリウムなどが挙げられる。水溶性コンプレクサン型配位子の分子量は150以上750以下の範囲が好ましい。
【0028】
本発明で使用される水溶性ポリマーは水溶性コンプレクサン型配位子を架橋するものであればよく、水溶性コンプレクサン型配位子がカルボキシル基及び/又は水酸基を有する場合には、水溶性ポリマーはカルボジイミド基及び/又はオキサゾリン基を有するものが好ましい。
【0029】
カルボジイミド基は「−N=C=N−」で表される官能基であって、活性水素と反応し、汎用性の高い手法でカルボキシル基、アミノ基、水酸基等と標識や架橋することが知られている。しかしながら、層間化合物としてコンプレクサン型配位子のカルボキシル基または水酸基とカルボジイミド基を反応させたものを層間に挿入し、インターカレーションによって揺変剤が生成されたものはこれまで開示されてはいない。カルボジイミド基を有する水溶性ポリマーとしては、例えば、水溶性カルボジイミド(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド:WSC)又はその塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミド(CME−カルボジイミド)又はその塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はその塩、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)又はその塩などが含まれ、塩化合物としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドメト−p−トルエンスルホナートなどが含まれるが、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いることが特に好ましい。
【0030】
オキサゾリン基を有する水溶性ポリマーとしては、オキサゾリン基を有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成されるものが好適である。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−2−ビス2−オキサゾリン等を挙げることができ、これら1種または2種以上に混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手しやすく好適である。
【0031】
他のモノマーとは、付加重合オキサゾリン基含有モノマーと重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル着、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等のアクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類、アクリルニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アクリルアルキルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリレート(アキルキ基としては、メチル基、エチル着、n−プロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の不飽和アミド基;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル基、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル基等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0032】
他のモノマーとしてアクリル系モノマーを使用したオキサゾリン基を有する水溶性ポリマーの市販品例としては、オキサゾリン基がアクリル樹脂にブランチされたポリマー型架橋剤である「エポクロスWS−300」、「エポクロスWS−500」(いずれも日本触媒社製)、NKリンガーFX(新中村化学工業社製造)などが挙げられる。
【0033】
2−オキサゾリン基とカルボキシル基との反応は公知であり、オキサゾリン基の開環反応によりエステルアミド結合「−CONH−CR(R)−CR’(R”)−OCO−」を生成することが知られている。例えば特公昭44−31821号公報には、側鎖にカルボキシル基を有する重合体にポリ−2−オキサゾリン化合物を作用させることにより、架橋樹脂を製造する方法が開示されている。また、ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンスのポリマー・ケミストリー・エディション第23巻1805〜1817頁(1985年)[Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition,Vol.23,1805−1817(1985)]にはペンダント・サイクリック・イミノエーテルを含む共重合体をジカルボン酸で架橋反応させる方法が開示されている。しかしながら、コンプレクサン型配位子のカルボキシル基と架橋水溶性ポリマーのオキサゾリン基を反応させたものを層間化合物として層間に挿入し、インターカレーションによって揺変剤が生成されたものはこれまで開示されてはいない。
【0034】
本発明の揺変剤には必要により分散剤が含有されてもよい。分散剤としては、例えば、塩化ナトリウム、オルドリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、ポリメタアクリル酸ナトリウム、ポリメタアクリル酸アンモニウムからなる群から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。分散剤は固体、液体など形態は特に限られない。ここで挙げた分散剤を用いることで、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の電荷を相互凝膠防止することができ層剥離が行われ混合液の流動性を担保することが可能となる。
【0035】
分散剤の添加量は、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の100質量部に対して5質量部以上18質量部以下の範囲が好ましい。分散剤の添加量が2:1型層状ケイ酸塩鉱物の100質量部に対して5質量部未満であると所望の分散効果が得られない場合がある。一方、分散剤の添加量が18質量部を超えると分散液中に過剰イオンが存在してインターカレーションが好適に行われずイオン反応性を阻害する場合がある。また分散剤の添加量が多いと、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の電荷を相互凝膠防止することで層剥離は好適に行われるが、得られた揺変剤が保管時に離水離床現象を発生させて経時安定性を保つことができないことがあり、チキソトロピー性効果を継続して発現しないことがある。
【0036】
本発明の揺変剤には本発明の効果を阻害しない範囲において必要により従来公知の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤などが挙げられる。
【0037】
(液体変性組成物の作製)
まず、水などの溶媒に水溶性コンプレクサン型配位子と水溶性ポリマーとを添加して撹拌し、水溶性ポリマーで架橋された水溶性コンプレクサン型配位子を得る。前記水溶液を撹拌する際の温度は、水溶液の凝固点乃至沸点、好ましくはマイナス5℃〜100℃、より好ましくは0℃〜50℃である。水溶液の温度がマイナス5℃より低い場合は架橋結合による反応が進みにくく、系全体の混練及び均一な系の状態で反応させることが困難となる。一方、水溶液の温度が100℃以上の場合は、続くインターカレート工程において2:1型層状ケイ酸塩鉱物が分散媒中で膨潤作用を発現し、系中で著しく増粘し、系全体を均質に反応させることが困難となる。
【0038】
次に、水などの分散媒に2:1型層状ケイ酸塩鉱物と分散剤が添加混合された混合液に、前記作製された架橋された水溶性コンプレクサン型配位子を添加することで、2:1型層状ケイ酸塩鉱物の層間に水溶性コンプレクサン型配位子をインターカレートする。このとき混合液は、常温領域、0℃近傍の低温領域あるいは100℃近傍の高温領域の何れの温度であってもよく、また温度が所定温度に保たれた状態にあっても、特に温度調節を行わない状態であってもよい。インターカレーションを達成させるための反応温度は常温領域でも進行するが、反応速度を促進するために加温または加熱してもよい。層間における反応終了の判断は、分散液の外観、粘性変化、沈殿物の形成などの状態変化によって知ることができる。
【0039】
ホスト分子としての2:1型層状ケイ酸塩鉱物に、ゲスト分子としての架橋された水溶性コンプレクサン型配位子分子をインターカレートすることによってできた層間化合物の確認は、分析機器を使用して確認することもできる。例えば、得られた層間化合物を恒温槽などで24時間以上かけてゆっくりと乾燥させ固形分だけを得て粉末にし、得られた粉末をX線回折法(XRD)を用いて確認することが出来る。最低角側に現れる(001)面の回折ピークから得られる面間隔が底面距離(層の厚さ+層間距離)に相当するので、ゲスト分子を加えていない2:1型層状ケイ酸塩鉱物の底面間隔と比較することでインターカレートの有無を判断することができる。2:1層状ケイ酸塩鉱物の層間にゲスト分子がインターカレートされると、結晶の回折ピークが低角側にシフトし層間距離が増大することがわかる。これにより層間化合物が形成されていることが確認できる。
【0040】
本発明の揺変剤の作製における全ての工程で水溶液及び分散液を混合する方法としては、手動又は機械式、超音波処理を用いることができるが、機械式撹拌が好ましい。機械式撹拌には、例えば、高圧ホモジナイザー、ペイントシェイカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、プロペラ式撹拌機、自転公転ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、ホモミキサー、ナノミキサー、ボールミル、ニーダー、ナノマイザー等を使用することができる。これらのうち1つを単独で用いてもよく、2種以上装置を組み合わせてもよい。
【0041】
本発明に係る揺変剤は対象物に添加することで、増粘等の粘性、分散質の沈降防止などの分散性、チキソトロピー性などの2:1型層状ケイ酸塩鉱物が示す良好なチキソトロピー性に由来する各種性質を付与することができ、これらの性質を長期に亘って安定的に保持し得る。ここで、揺変剤自体が高いチキソトロピー性を有しているので、対象物に添加する揺変剤の量を減らしても、対象物の粘性等を改善することができる。更に、配合時(混合分散時や混合撹拌時など)に加わるせん断力等の機械的作用によって付与した粘度等の機能が低下することはない。すなわち、揺変剤を対象物に添加する時期は、機械的シェア混合前や分散前などの前添加であっても、機械的シェア混合後や分散後などの後添加であっても、同じ粘性等の機能が期待できる。さらに、また本発明の揺変剤は、高い透明性を有しているので、対象物を着色させたり、濁りを発生させるなどの不具合が生じない。
【0042】
このように、本発明の揺変剤は、対象物の性質の影響を受け難いので、化粧料、塗料、トイレタリー製品、医薬部外品、建材の減水剤、土質改善剤、糊剤、紙加工サイズ剤などの幅広い対象物に配合することができ、これらの対象物のチキソトロピー性、分散性、粘性または沈降防止性などを向上させることができる。
【0043】
具体的には、前記作成した揺変剤を適宜希釈し添加剤を添加して、目的に応じた水溶性揺変剤の効果を発現した各種製剤を調整することができる。前記揺変剤は乳化、可溶化された化粧料などの好ましい処理方法に合わせて任意に選択される。例えば用途が液臭防止用に適した化粧料では、水以外の添加剤成分として、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、香料、液臭防止有効成分、エタノール等を使用し、最終的な揺変剤を固形分換算で3〜5質量%の範囲で添加することが好ましく、またこのような場合、前記揺変剤は調整する製剤に対して前添加であっても、後添加であっても問題はない。
【実施例】
【0044】
実施例1
500mLのビーカーに入れた水道水(SP値:23.4cal/cm
3)200mLに対して、2gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ヘクトライト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,スメクトン−SWF:クニミネ工業社製)とを順に加えて混合液を調整した。この混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸ナトリウム二水塩(水溶性コンプレクサン型配位子,キレストHC−SD:キレスト社製)1gと、オキサゾリン基含有ポリマー(WS−300:日本触媒社製)1gとを加えて調製し有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに常温下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより12時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0045】
(実施例2)
500mLのビーカーに入れた水道水(SP値:23.4cal/cm
3)200mLに対して、2.2gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ヘクトライト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,LAPONITE−XLG XR:ビックケミー・ジャパン社製)とを順に加えて混合液を調整した。混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、ジエチレントリアミン五酢酸(水溶性コンプレクサン型配位子,キレストPA−SD:キレスト社製)1gとN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(東京化成社製)1gとを加えて調整し有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに30℃下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより12時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0046】
(実施例3)
500mLのビーカーに入れた水道水(SP値:23.4cal/cm
3)200mLに対して、2.1gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ヘクトライト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,LAPONITE−RD:ビックケミー・ジャパン社製)とを順に加えて混合液を調整した。混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、トリエチレンテトラミン六酢酸(水溶性コンプレクサン型配位子,TTHA:同仁化学研究所社製)1gとオキサゾリン基含有ポリマー(WS−300:日本触媒社製)1gとを加えて調製し有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに常温下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより12時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0047】
(比較例1)
500mLのビーカーに入れた酢酸エチル(SP値:9.1cal/cm
3)200mLに対して、2.1gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ヘクトライト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,スメクトン−SWF:クニミネ工業社製)とを順に加えて混合液を調整した。混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸ナトリウム二水塩(水溶性コンプレクサン型配位子,キレストHC−SD:キレスト社製)1gとオキサゾリン基含有ポリマー(WS−300:日本触媒社製)1gとを加えて調製し有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに常温下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより12時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0048】
(比較例2)
500mLのビーカーに入れた酢酸エチル(SP値:9.1cal/cm
3)200mLに対して、2.1gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ヘクトライト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,スメクトン−SWN:クニミネ工業社製)とを順に加えて混合液を調整した。混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、ジエチレントリアミン五酢酸(水溶性コンプレクサン型配位子,キレストPA−SD:キレスト社製)1gとオキサゾリン基含有ポリマー(WS−300:日本触媒社製)1g添加して調製した有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに30℃下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより12時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0049】
(比較例3)
500mLのビーカーに入れたアセトン(SP値:9.9cal/cm
3)200mLに対して、2.0gのピロリン酸ナトリウムを水道水10gに溶解した分散剤と、20gの合成ステーブンサイト(2:1型層状ケイ酸塩鉱物,スメクトン−ST:クニミネ工業社製)とを順に加えて混合液を調整した。混合液を常温下でラボディスパーにより2時間撹拌し、合成ヘクトライトを十分に水和させた。
別のビーカーに入れた精製水10gに対して、トリエチレンテトラミン六酢酸(水溶性コンプレクサン型配位子,キレストQA:キレスト社製)1gとオキサゾリン基含有ポリマー(WS−300:日本触媒社製)1g添加して調製した有効成分として得た2gの錯体を、合成ヘクトライトを水和させたビーカーに常温下で60分間かけて滴下してインターカレーションを行った。錯体の滴下終了後にpH調整剤を加えてpHを10.0に調整し、常温でラボディスパーにより6時間撹拌し、常温下で一昼夜放置することで揺変剤を得た。
【0050】
(粘性評価の方法)
本明細書においてチキソトロピー性及びチキソトロピック特性とは、等温状態において変形のために見かけ粘度が一時的に低下する性質をいい、詳しくは流動速度やずり応力の増加とともに流動抵抗(見かけ粘性)が減少し、ずり応力を減少させると粘性は回復するが、元通りになるのに時間がかかり、流動性にヒステリシスが認められる現象を与える性質をいう。粘度を測定する際に用いられる粘度計の測定条件によって示される粘度に違いが現れる性質である。例えば、B型粘度計、E型粘度計に代表されるように測定治具であるローターやコーンを試料中で回転させて、ローターやコーンにかかるシェア圧を測定することによって示される粘度は、チキソトロピック特性を有する試料中ではローターまたはコーンの回転速度によって異なって示され、低回転速度の時では粘度は高く、高回転速度の時には粘度は低く示される。本実施例中では、5rpmで測定した時の粘度と50rpmで測定した時の粘度の比(5rpm/50rpm)をもってチキソトロピック特性の評価とした。すなわち、5rpm/50rpmが大きいほど、チキソトロピック特性が良好であると評価した。
【0051】
(粘性測定)
実施例1〜3及び比較例1〜3の揺変剤を、常温で静置して一週間保存した後、E型粘度計(製品名:TVE−25H:東機産業社製)を用いて、粘度及びT.I値(チキソトロピーインデックス)を測定した。測定手順は下記のとおりである。測定結果を表1に示す。
(1)円錐平板コーンプレート(1°34’×R24)を使用し、5rpm及び50rpmで測定を行った。循環式恒温槽にて内容物を測定するプレート温度を25℃にセットして、測定試料量を1.1mLとしてプリシェア(100rpm×2分+セッティング2分)を行い、測定条件を整えるために一次構造破壊を行ってから粘度測定を実施した。
(2)T.I値は前記粘度測定で求めた粘度の5rpm粘度/50rpm粘度の値で表わした。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜3の液体変性組成物はT.I値が9.7以上と良好なチキソトロピー性を示した。これに対して比較例1〜3の液体変性組成物は5prm及び50rpmの粘度測定不可能ためチキソトロピーインデックス(T.I値)を算出するこことはできなかった。
【0054】
次に、実施例1と比較例1の揺変剤を各々配合した各種の組成物を作製し、各組成物における揺変剤の効果を評価した。なお、()中に示す各成分の配合量は、特に指定のない限り質量%である。
【0055】
(粘性液臭防止製剤)
実施例1の揺変剤(10.0)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(0.4)、シクロメチコン(2.0)、PPG−15ステアリル(0.5)、エタノール(20.0)、クロルヒドロキシアルミニウム(15.0)、EDTA(0.1)、香料(0.1)、防腐剤(適量)、精製水(残部)の各成分を常法に従い混合し、粘性液臭防止剤を調整した。実施例の粘性液臭防止剤は、同様に処方配合した比較例1を添加した粘性液臭防止剤と比べて、保存安定性、べたつき、さらっと軽い仕上がり感が良好であり、なによりも低温及び高温貯蔵安定において実施例の粘性液臭防止剤は、変色もなく、離水・離床現象も生じることなく安定性が担保できているが、比較例の粘性液臭防止剤は赤褐色に変色し、離水・離床現象を生じた。
【0056】
(サンスクリーン製剤)
微粒子酸化チタン(8.0)、アクリルシリコーン系クラフト共重合体(4.0)、実施例1の揺変剤(15.0)、ポリエーテル変性シリコーン(2.0)、エタノール(20.0)紫外線吸収剤(適量)、デカメチルシクロペンタシロキサン(適量)の各成分を均一に混合分散し、サンスクリーン剤を調整した。実施例1を使用したサンスクリーン製剤は比較例1を添加したサンスクリーン製剤と比較すると長期安定性が良好で、肌上での伸びがよく、しっとりとした使用感を肌にも与えるものであった。なお、比較例1を添加したサンスクリーン製剤は、赤褐色に微着色されると共に微臭があり、乾燥時のツヤと使用感が実施例よりも劣った。
【0057】
(デオドラントウォータースプレー製剤)
シリコーン樹脂粉体(1.5)、塩化ベンザルコニウム(0.1)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(0.3)、POE60硬化油(0.01)、パラフェノールスルフォン酸亜鉛(0.1)、?−メントール(0.1)、IPMP(0.1)、クララエキス(0.1)、?−アルギニン(0.001)、香料(0.1)、エタノール(30)、実施例1の揺変剤(18)、精製水(残余)の各成分を均一に混合分散し、デオドラントウォータースプレー剤を調整した。実施例1を使用したデオドラントウォータースプレー剤は比較例1(実施例1で使用した同量添加量)を添加したデオドラントウオータースプレー剤と比較すると長期安定性が良好で、肌上でのチキソトロピー性がほどよく発現されベタツキ感がなく伸びが優れており、しっとりとした使用感を肌にも与えるものであった。なお、比較例1を添加したデオドラントウオータースプレー剤は、微臭があり、乾燥時のツヤと使用感が実施例よりも劣った。
【0058】
(水系塗料顔料沈降防止剤)
固形分41.5%の水溶性アクリル樹脂(商品名「ウォーターゾールS−701」、大日本インキ化学工業社製)40.2部と、ブチルセロソルブ8部と、イオン交換水71.8部とを十分に混合し、クリアー塗料(合計120部)を得た。次に、このクリアー塗料120部に対し、上記の実施例1の揺変剤を沈降防止剤組成物として3部(固形分)、これらの比較物として合成スメクタイト(商品名「スメクトン−SWF」、クニミネ工業社製)3部(固形物)とを、粒度5〜100μmのパール顔料(商品名「イリオジン103」、メルク社製)6部とを混合し水系塗料を得た。本塗料におけるパール顔料の沈降防止性能を確認した。
比較物として添加した合成スメクタイト(商品名「スメクトン−SWF」、クニミネ工業社製)では5日後には塗料溶媒中におけるパール顔料は、添加試験開始0日後からみて10cm以上沈降してしていた。実施例1の揺変剤を添加した水系塗料は5日後、10日後、30日後であってもパール顔料は塗料溶媒中で沈降せずに添加試験開始0日後と変化はなく沈降防止性能が発現されていると判断できた。
【0059】
(水系ボールペン用着色剤沈降防止剤)
FUJI SP Red 5544(赤色水性顔料ベース、冨士色素(株)製)18.0質量部、FUJI SP Yellow 4178(黄色水性顔料ベース、冨士色素(株)製)5.0質量部、グリセリン17.0質量部、エチレングリコール23.0質量部、ベンゾトリアゾール0.3質量部、プロクセルGXL(S)0.2質量部、イオン交換水31.5質量部、実施例1の添加剤2.0質量部、こはく酸2.0質量部、上記成分中の実施例1、こはく酸を除く他の成分を撹拌機に入れ、1時間混合撹拌を行った後、粗大粒子を取り除き、実施例1の揺変剤、こはく酸を添加して混合撹拌を行い、濾過を行った後、水性ボールペン用インキ組成物を得た。実施例1の揺変剤を混合した水性ボールペン用インキ組成物は、長期間保存してもインキ粘度が安定であり、着色剤などの沈降防止が可能になる。よって、ボールペンとした後にペン先を下向きに放置しても、ペン先への着色剤などの沈降による筆跡のカスレや筆記不能を防止することができる。これにより実施例1の揺変剤によって着色剤の沈降防止性能が発現されていると判断できた。
以上であり、前記金属イオンに水溶性ポリマーで架橋された水溶性コンプレクサン型配位子が配位していることを有することを特徴とする。ここで、前記水溶性ポリマーはカルボジイミド基及び/又はオキサゾリン基を有し、前記水溶性コンプレクサン型配位子はカルボキシル基及び/又は水酸基を有するものが好ましい。