(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の放射式冷暖房システムは、天井面または床面、あるいは一部の壁面に放射パネルを設置してこれを制御しているため、より細かい室温制御を行うことができない。また、大学、企業や研究機関における居室やその空気調和システムの試験・研究に際しては様々な居住環境に対応できる製品を開発するために人工的に様々な居住環境を自由に再現できる設備やシステムが切望されている。
【0006】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は 快適な温度環境の居住空間はもちろん、試験・研究のための様々な居住環境を自由に再現できる新規な人工気候室複合型放射式試験装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述したような現在提案されている放射式冷暖房システムの場合は、居住空間の温度分布を一定と見なして全体をまとめて空調するシステムが殆どであるが、同じ居住空間でもその位置によっては温度が大きく異なる場合がある。例えば、窓際付近とその反対側の壁付近では、差し込む日差しや冷気の侵入、付設したある冷暖房設備による空気の流れなどによって実際の温度差だけでなく体感温度も大きく変わる。従来の放射式冷暖房システムは、このような実態をあまり考慮せずに居住空間の温度分布を一定と見なして全体をまとめて空調することから、同じ居室内でもその位置によっては寒く感じたり、反対に暑く感じる人が生じ、すべての人にとって快適な空調は困難である。
【0008】
また、大学や企業の研究機関における居室環境やその空気調和システムなどの試験・研究に際しては様々な居住環境に対応できる対応策や製品を開発するために人工的に様々な居住環境を自由に再現できる設備やシステムが切望されている。例えば、快適な居室を設計する場合には、窓やドアなどの配置やその部分からの侵入熱や放熱などを季節ごとに細かく再現した環境(気候)を人工的に作り出し、その環境下で実際に被験者や動物が一定時間暮らすことで体調の変化などを確認するなどといった様々な実験を行う必要がある。しかし、人工的に様々な環境を作り出すのは容易でなく、また多くのコストを要する。例えば、夏場に冬場の室内環境を再現し、反対に夏場に冬場の室内環境を再現するのは容易でない。これは例えば空調機や空調設備を設計、開発するメーカなどの場合も同様である。
【0009】
そこで、これらの課題を解決するために第1の発明は、床面および天井面ならびに複数の壁面で区画された人工気候室内の温度環境を制御するシステムであって、前記床面および天井面ならびに各壁面ごとにそれぞれ取り付けられる1または複数の放射パネルと、当該各放射パネルからの輻射熱量を独立して制御するパネル制御部とを備えたことを特徴とする人工気候室複合型放射式試験装置である。
【0010】
このような構成によれば、各面に取り付けられた放射パネルを独立して制御し、それぞれの放射(輻射)熱量を、通常の居室内における室温の増減幅、例えば10℃〜40℃の範囲で任意に増減することで、実際と同じ温度環境の居住室を人工的に自由かつ容易に再現することができる。これによって、居室環境の研究機関による住環境の研究や、空調機、空調設備メーカにおける製品の設計、開発に貢献することができる。また、実際に人が居住する室内の各面にこの輻射パネルを取り付け、その放射熱量をそれぞれを独立して制御することでその位置(場所)またはその人に適した最適な冷暖房を行うことができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記人工気候室は、前記床面と天井面とこれを連結する4つの壁面からなる6面体であることを特徴とする人工気候室複合型放射式試験装置である。実際にビルやマンションなどの居住室の場合は、床面と天井面とこれを連結する4つの壁面からなる6面体であるが、天井面が複数の面からなっていたり、壁面が多数ある場合には、その面ごとに取り付けることできめ細かい室温制御を行うことができる。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記放射パネルは、金属製のパネル体と、当該パネル体表面に密接するように設けられた伝熱管と、当該伝熱管内を流通する熱媒体とを有することを特徴とする人工気候室複合型放射式試験装置である。このように放射パネルを構成することにより、その金属製のパネル体表面から所定熱量の放射熱を均一に放射することできる。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記パネル制御部は、前記各放射パネルを流通する熱媒体を独立して供給する熱媒体供給手段と、当該熱媒体供給手段による熱媒体の温度を調整して前記パネル体からの放射熱量を調整する放射熱調整手段とを有することを特徴とする人工気候室複合型放射式試験装置である。このように構成すれば、放射パネルの伝熱管を流れる熱媒体の温度をパネル制御部によって調整できるため、その放射熱量をきめ細かく高精度に制御することができる。
【0014】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記人工気候室に、その室内の空気を循環させて室温を調整する空調部を備えたことを特徴とする人工気候室複合型放射式試験装置である。このような空調部を備えることにより、試験準備段階でその人工気候室内の温度が試験のための設定温度から大きくずれている場合には、この空調部によってその人工気候室内の温度を設定温度近くまで調整しておけば、放射パネルによる温度・湿度の調整時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人工気候室の各面に取り付けられた放射パネルを独立して制御し、それぞれの放射熱量を、通常の居室内における室温の範囲内で増減することで、実際と同じ温度環境の居住室を人工的に自由かつ容易に再現することができる。これによって、住環境の研究機関による人の内部環境と外部環境の評価試験と住環境の試験研究や、建設メーカ・設備メーカ・空調機、空調設備メーカにおける人に関する最適な空調システムの開発に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る人工気候室複合型放射式試験装置100の実施の一形態を示す全体構成図である。
【
図2】床面10Aおよび天井面10Bに設置される放射パネル部20A、20Bの構成例を示す平面図である。
【
図3】壁面10Dに設置される放射パネル部20Dの構成例を示す正面図である。
【
図4】壁面10C、10Eに設置される放射パネル部20C、20Eの構成例を示す正面図である。
【
図5】壁面10Fに設置される放射パネル部20Fの構成例を示す正面図である。
【
図6】放射パネル21の構成例を示す裏面図である。
【
図7】各放射パネル部20A〜20Dを制御するための構成を示す図である。
【
図8】制御機器32による各放射パネル部20A〜20Dの制御の流れを示すフローチャート図である。
【
図9】本発明に係る人工気候室用複合型放射式試験装置100の作用例を示す説明図である。
【
図10】放射パネル部20Dの輻射熱量を放射パネル21ごとに制御した例を示す説明図である。
【
図11】放射熱量を放射パネル21ごとに制御した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る人工気候室複合型放射式試験装置100の実施の一形態を示したものである。図示するようにこの試験装置100は、人や動物が居住可能な空間を区画形成する人工気候室10の内側に設置される複数の放射パネル部20A、20B、20C、20D、20E、20Fと、これら各放射パネル部20A、20B、20C、20D、20E、20Fを制御するパネル制御部30と、この人工気候室10内を空調する空調部40とから主に構成されている。
【0018】
人工気候室10は、外の気候の影響を受け難い研究施設内の1室または工場などの大きな空間を有する屋内に独立して構築されており、それぞれ矩形状の床面10Aおよび天井面10Bと、これらの周囲を区画する4つの壁面10C、10D、10E、10Fとからなる6面体で構成されて、人や動物が居住可能な一般的な住居の各部屋に相当する。なお、この人工気候室10の大きさ(床面積)は、特に限定されるものではないが一般的な家屋やマンションの一室とほぼ同じ程度の面積、例えば約7.5m
2(4.5畳)〜約40m
2(25畳)程度となっており、その室内高は例えば2.0〜3.0m程度となっている。また、この人工気候室10の天井面10Bには図示しない照明器具が設定されていると共に、壁面10C、10D、10E、10Fのうちいずれかには人が出入りするためのドア11が開閉自在に設置されている(図での例では手前側の壁面10に設置されている)。
【0019】
放射パネル部20A、20B、20C、20D、20E、20Fは、
図2乃至
図5に示すようにそれぞれ短冊形状をした放射パネル21を複数組み合わせて構成されている。すなわち、床面10Aおよび天井面10Bに設置される放射パネル部20A、20Bは、
図2に示すようにそのほぼ前面を覆うように例えば
12枚の放射パネル21を組み合わせて構成されている。また、壁面10C、10D、10Eにそれぞれ設置される放射パネル部20C、20D、20Eは、
図3および
図4に示すように同じくそのほぼ前面を覆うように例えば6枚の放射パネル21を組み合わせて構成されている。一方、壁面10Dの対向面に位置する壁面10Fの放射パネル部20Fは、
図5に示すように開閉ドア11を除く部分に放射パネル21を3枚と小型の放射パネル21aを2〜3枚組み合わせて構成されている。
【0020】
この放射パネル21は、
図6に示すように例えば長さL:1800〜2000mm、幅W:1000〜600mm、厚さ:40mm程度の短冊形状をした金属板(例えばアルミなど)からなるパネル板22の表面に、伝熱管23を螺旋状にかつ密着するように張り巡らせて構成されている。この伝熱管23としては、同じく熱伝導性に優れた材料(金属)、例えば銅管やポリエチレン被覆アルミ複合管などで構成されている。そして、この伝熱管23内にパネル制御部30によって例えば10℃〜45℃の範囲で温度調整された冷温水などの熱媒体を通過させることでそのパネル板22の温度を制御(加熱、冷却)してそのパネル板22表面からの放射熱量を制御している。なお、この伝熱管23の両端部は、パネル板22の両側に設けられた枠体24にこれを貫通するように支持されている。
【0021】
次に、パネル制御部30は、
図1に示すように各放射パネル部20A、20B、20C、20D、20E、20Fごとに設けられた熱媒体供給器31A、31B、31C、31D、31E、31Fと、これらの熱媒体供給器31A〜31Fを制御する制御機器32とから構成されている。熱媒体供給器31A〜31Fは、熱冷媒となる水が流れる配管31aを介して各放射パネル部20A〜20Fとそれぞれ接続されている。
【0022】
この熱媒体供給器31A〜31Fは、後述するような恒温槽31bと冷却機31cとから構成されており、配管31aを介して流通する熱媒体の温度を一定の温度範囲、例えば10℃〜45℃の範囲で0.1〜0.5℃単位で任意の温度に調整して各放射パネル部20A〜20Fにそれぞれ供給している。
【0023】
一方、制御機器32は操作盤や制御回路から構成されており、オペレータが各熱媒体供給器31A〜31Fごとに操作パネルを操作して各放射パネル部20A〜20Fを流れる熱媒体の温度を独立して設定することで各放射パネル部20A〜20Fからの放射熱量を任意に調整している。
【0024】
図7は、これら各放射パネル部20A〜20Fと、パネル制御部30を構成する熱媒体供給器31A、31B、31C、31D、31E、31Fと、制御機器32との関係を詳しく示したものである。この熱媒体供給器31A、31B、31C、31D、31E、31F(図ではそのうちの熱媒体供給器31Dのみを示す)は、前述したようにそれぞれ恒温槽31bと冷却機31cとから構成されている。恒温槽31bは、例えば容量が300L以上の水槽50内に冷却ユニット51aとヒータユニット52とを設け、その内部に熱媒体となる水を200〜300L程度収容したものである。この水槽50には、熱媒体を流通するための配管(送り)31a、(戻り)31aが接続されている。
【0025】
そして、この冷却ユニット51とヒータユニット52を稼働させてその水槽50内に溜められた熱媒体(水)の温度を例えば0〜45℃の範囲で調整し、これを循環ポンプPによって抜き出し、配管(送り)31aを介して各放射パネル部20A〜20Fに供給(循環)している。一方、冷却機31cは、冷却ユニット51a(蒸発機)と屋外に設置された凝縮器51bと図示しない圧縮機などからなる冷凍サイクルで構成されており、冷却ユニット51aに冷媒を供給して恒温槽31b内の水を冷却している。なお、この恒温槽31bにおける熱媒体の温度制御方法としては、冷却ユニット51aの冷却能力は一定であることから、設定される熱媒体の温度に応じてヒータユニット52の出力を可変することで調整している。
【0026】
また、図に示すように放射パネル部20Dが複数(3つ)の放射パネル21からなる場合には、配管31a、31aの端部にそれぞれ分岐ユニット53,53を設け、この分岐ユニット53,53を介して熱媒体を分流、合流することでそれぞれの放射パネル21に対して同じ温度の熱媒体を同時に同量づつ流すことが可能となっている。
【0027】
循環ポンプPは、制御機器32のPLC(プログラマブルコントローラシーケンサ)54によって制御されるインバータ機器55によってインバータ制御されており、その回転数を可変することで放射パネル部20Dへ供給する熱媒体の流量を調整している。また、このPLC54は、これと同時にSSR(ソリッドステーリレー)55a〜55fを介して各恒温槽31bのヒータユニット52を制御している。
【0028】
制御機器32には、各放射パネル部20A〜20Fの温度をオペレータが操作するための集中管理制御盤57が設けられている。この集中管理制御盤57には、温度・湿度センサーS1、流量センサーS2,CO
2・O
2センサーS3などからの計測値が入力されており、その計測値に基づいて各値が設定値になるようにPLC54や空調部40および図示しない加湿部を制御している。そして、このような制御は、各壁面10A〜10Fに設置された各放射パネル部20A〜20Fごとに独立して制御可能となっている。なお、各放射パネル部20A〜20Fにもそれぞれ複数の温度センサーが所定の位置に設けられており、これら各温度センサーの計測値も随時集中管理制御盤57に入力されている。
【0029】
図1に戻り、空調部40はヒートポンプ式の冷凍サイクルを構成する室内機41と室外機42と送風機43およびこの送風機43と居室10内を接続するダクト44とから構成されている。ダクト44は送風機43から4つに分岐して設けられており、各ダクトの出口には天井面10Bに沿って延びる筒状の無風フィルター45がそれぞれ設けられている。この無風フィルター45は、その全面が例えば合成樹脂製のフィラメント糸からなる布体で構成されており、ダクト44から送られてきた空気を濾過しつつその全表面から全周囲に亘って漏出するように排気することで気流を殆ど発生させることなく、居室10内に調和された空気を供給している。
【0030】
また、この人工気候室10の壁面10Eの床側には吸気口46が形成されており、その室内の空気を空調部40の室内機41側に吸い込んで循環している。さらに、この空調部40には、図示しない加湿器が内蔵されており、空気の温度調整と共にその湿度の調整している。そして、
図8に示すようにこの空調部40および加湿器は、熱媒体供給器31A〜31Fと同様に制御機器32によって制御される。
【0031】
図8は、この制御機器32による各放射パネル部20A〜20Fの温度制御の流れの一例を示したものである。先ず、この制御機器32は、最初のステップS100において、その人工気候室10内の温度(室温)と、各壁面10A〜10Fのいずれかあるいはすべての壁温度、すなわち各放射パネル部20A〜20Fのいずれかあるいはすべての放射熱量を設定する。その後、ステップ101では、空調機40を稼働してその人口気候室10内の温度が設定温度になるまでその室温を調整する。例えば、元々の室温が10℃で設定温度が30℃であれば、その空調機40によって人工気候室10内を暖房し、その反対であれば冷房する。
【0032】
そして、この制御機器32は、次のステップS103において温度センサーから入力される値に基づいてその人工気候室10内の温度が設定温度になったか否かを判断し、なっていないとき(NO)はそのまま継続し、なったと判断したとき(YES)は、次のステップS105に移行してその空調機40を停止する。
【0033】
一方、この制御機器32は、ステップS102において、この空調機40の制御と並行して各熱媒体供給器31A、31B、31C、31D、31E、31Fを稼働する。具体的には前述したように、各恒温槽31bの冷却ユニット51aおよびヒータユニット52を調整して水槽50内の熱媒体の温度が設定された温度(例えば25℃)になるまでその熱媒体をPID制御などによって加温または冷却する。なお、熱媒体となる水は比較的比熱が大きいことから、元の熱媒体の温度と設定温度の差が小さいときには短時間で設定温度に達するものの、その差が大きいときには比較的時間を要することになる。
【0034】
そして、この制御機器32は、次のステップS104において、各恒温槽31b内の熱媒体の温度が設定温度になったか否かを判断し、なっていないとき(NO)は引き続き継続し、なったと判断したとき(YES)は、次のステップS106に移行してその温度に達した熱媒体の順から各放射パネル部20A〜20Fに熱媒体を一定流量、例えば3L/minの流量で供給して次のステップS106に移行する。
【0035】
ステップS106では、各放射パネル部20A〜20Fの温度をその放射パネル21の各所に設けられた温度センサーからの計測値に基づいて温度差があるか否かを判断する。すなわち、放射パネル21の熱媒体入口付近では、その熱媒体の熱がパネル板22に伝わることで設定温度となるが、放射パネル21の熱媒体出口付近では、その熱媒体の熱がパネル板22に奪われたことで設定温度よりも低く(または高く)なる。
【0036】
このような温度差は完全に解消することが困難であるが、この現象は熱媒体の流量が少ないほど顕著になる。従って、ある温度差以上の温度差があると判断したとき(YES)は、次のステップS110に移行してその熱媒体の流量を増加する。具体的には、循環ポンプPの回転数をインバータ制御によって適宜増減することでその流量を増大する(例えば4〜5L/min)。
【0037】
このように熱媒体の流量を増大すると、その分だけ循環ポンプPや冷却ユニット51a、ヒーターユニット52などの電力を消費するため、その後、次のステップS112において温度差が解消したか否かを判断し、解消していなければ(NO)、そのまま熱媒体の流量を増大し、解消したならば(YES)、次のステップS114に移行して熱媒体の流量を既定値まで戻すことになる。
【0038】
このような構成をした本発明の人工気候室複合型放射式試験装置100によれば、人工気候室10の床面10Aおよび天井面10Bならびに各壁面10C、10D、10E、10Fに設置された放射パネル部20A〜20Fからの放射熱量(パネル温度)を、オペレータがパネル制御部30を操作することによって任意に制御できるため、所望の温度環境を自由に再現することができる。例えば、冬の良く晴れた日中であれば通常、南側のガラス窓から日が差し込むため、
図9に示すように南側に面した壁面10Cの放射パネル部10Cからは、その透過日射熱および通過熱に相当する熱量の放射熱を放射する。
【0039】
一方、その北側の壁は通常、低温の外気によって室温よりも低くなっているため、北側に面した壁面10Eの放射パネル部10Eからはその外気冷気侵入熱に相当する熱量の放射熱を放射する。また、この条件下においては通常床面10Aおよび天井面10Bでは、南側が暖かく、北側が冷たいことから、同図に示すように各放射パネル部20Aおよび20Bのうち、南側に位置する放射パネル21からの放射熱量を多く(発熱)し、南側に位置する放射パネル21からの放射熱量を小さく(吸熱)すれば、冬の良く晴れた日中の室内温度環境を容易に再現できる。
【0040】
そして、このような任意の室内温度環境が再現できたならば、例えばその居室10内に実際に被験者が一定時間居住することでその体調の変化などを調査したり、あるいは空調機を開発する際においてはその室内機のサイズや取り付け位置、気流の流れなどをより精度良く実験し、検証することができる。
【0041】
また、
図10に示すように1つの放射パネル部20Dであってもその中央のガラス窓に相当する位置および大きさの放射パネル21からの放射熱量をその周囲の放射パネル21よりも多くしたり、あるいは少なくしたりすることで日中にその窓から侵入する熱量や、夜間にその窓から侵入する冷気なども自由に再現することができる。この場合、中央のガラス窓に相当する放射パネル21の放射熱量がその周囲の放射パネル21の放射熱量と違ってくる。そのため、これら各放射パネル21に供給する熱媒体の温度も変わってくるため、この場合には、別系統の熱媒体供給器31をさらに付設することになる。
【0042】
さらに、本発明の人工気候室複合型放射式試験装置100の応用例として、一般住宅やオフィスに適用した場合には、その位置に応じて放射熱量を細かく制御することができるため、居住者に優しい最適な冷暖房を行うことができる。例えば、冬場であってもその南側では窓から差し込む日差しによって比較的暖かいことからにその南側の壁面に設けられた放射パネル21からの放射熱の温度はそれほど高くする必要はない。これに対して北側では日差しが届かない分温度が低いことから、北側壁面に設けられた放射パネル21からの放射熱の温度を高くすることで同じ室内にいる居住者全員にとって最適な暖房を行うことができる。一方、夏場の温度環境はその反対になることから、北側の放射パネル21からの放射熱の設定温度を南側よりも高くすれば、北側に位置する人の冷えすぎを防止することができる。
【0043】
また、冬場の暖房時には天井付近の温度が高く、床面付近の温度が
低くなる。そのため、
図11に示すように床面側の放射パネル21の温度を高くし、天井側になるに従って低くすれば無駄なく効率的な暖房を行うことができる。また、夏場の冷房時にはその反対に床面側の温度が低くなるため、天井側の放射パネル21の温度を低くし、床面側になるに従って高くすれば、冷えすぎを防止した優しい冷房を行うことができる。なお、この場合には、3つの放射パネル21に対してそれぞれ異なった温度の熱媒体を供給するために少なくとも3つの熱媒体供給器を用意する必要がある。
【0044】
また、このような放射パネル21による温度環境の再現と共に前述したように空調部40を稼働させることによってより効率的に室内温度環境を制御することができる。特に優れた特徴としては、従来の室内気流循環空調方式と放射空調式の異なる住環境試験研究で人に対する内部環境及び外部環境の異なる住環境の試験研究を同一の装置で行う事が出来、広範囲な研究領域に対応する最新の装置である。また、試験準備段階でその人工気候室10内の温度が試験のための設定温度から大きくずれている場合、例えば試験開始前の人工気候室10の温度が10℃であり、これを20℃の条件で試験を行うためには予め放射パネル21を起動してその室温度を設定温度まで上げておく必要があるが、その温度差が大きいと、放射パネル21による放射熱だけでは設定温度になるまで長時間を要する。そのため、試験開始前の人工気候室10の温度と試験用の設定温に大きな差がある場合には、この空調部40によって予めその人工気候室10内の温度を設定温度近くまで調整しておけば、放射パネルに21よる温度調整時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
さらに、この空調部40は無風フィルター45から温度や湿度が調整された空気を無風状態で供給することで風や気流による影響を無くすことができるため、例えば被験者の皮膚温、代謝、衣服試験、安静時、睡眠時などの各種測定を正確に行うことができる。また、風や気流による影響を無くすことで静粛性が高まると共に、温度差もなくなるため、お年寄りや子供、病気療養中の患者などにとって優しい冷暖房環境を提供することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では 床面10Aおよび天井面10Bとこれらの周囲を区画する4つの壁面10C、10D、10E、10Fとからなる6面体の居室10の例で示したが、その他の構造、例えば一部または全部に曲面の壁面を有する居室や、さらに複数の壁面を有する居室の場合もその壁面の形状や数に合わせて放射パネル21を設置すれば同様な作用・効果を発揮することができる。また、放射パネル21の形状としては短冊形状だけでなく、その他様々な形状や大きさのものを用いることができる。