特許第6708499号(P6708499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6708499木質成分と炭酸ガスを含有する容器詰め飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708499
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】木質成分と炭酸ガスを含有する容器詰め飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20200601BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20200601BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   C12G3/04
   A23L2/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-135639(P2016-135639)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-176164(P2017-176164A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-147265(P2015-147265)
(32)【優先日】2015年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-64755(P2016-64755)
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 定弘
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 こあくま527,爽やかな味わい☆グレープフルーツ割りウィスキー レシピ・作り方,楽天レシピ,2012年 3月11日,2019/09/30検索,URL,https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1350003652/
【文献】 Donald B.McPhail et al.,Assessment of the Antioxidant Potential of Scotch Whiskeys by Electron Spin Resonance Spectroscopy: Relationship to Hydroxyl−Containing Aromatic Components,Journal of Agricultural and Food Chemistry,1999年,Vol.47、No.5,Page.1937−1941
【文献】 Jiuxu Zhang,Flavonoids in Grapefruit and Commercial Grapefruit Juices: Concentration, Distribution, and Potential Health Benefits,Proceedings of the Florida State Horticultural Society,2007年,Vol.120,Page.288−294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
C12G 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
WPIDS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
CABA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.1〜10.0ppmのシナピルアルデヒド
(B)0.10〜120.0ppmのナリンギン、ならびに
(C)炭酸ガス
を含む容器詰め飲料であって、
下記式:
シナピルアルデヒド含有量の値に0.6を加えた値/ナリンギン含有量≧0.015
を満たす、容器詰め飲料。
【請求項2】
アルコール含有量が、0〜12v/v%である、請求項1に記載の容器詰め飲料。
【請求項3】
炭酸ガスの圧力が、1.5kgf/cm以上である、請求項1または2に記載の容器
詰め飲料。
【請求項4】
ウイスキー及び/またはブランデーを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の
容器詰め飲料。
【請求項5】
グレープフルーツ果汁を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器詰め飲料
【請求項6】
スクロース、グルコース、及びフルクトースの各含有量の合計値が1.7g/100m
l以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の容器詰め飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樽等の木製容器にて熟成された原酒を用いるか、または木質成分を含有する溶液を用いて作った容器詰め飲料であって、それらの溶液中の木質成分の特徴を生かしつつ、木質成分に特有の若干の渋味を抑えて後口がすっきりと飲むことができる、容器詰め飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
樽等の木製容器を用いて熟成される酒類は、熟成によって味がまろやかになり、硫黄化合物等の好ましくない香り(未熟成香)を呈する成分が失われる一方で、エステル類やフーゼルアルコール類、フルフラールなどに起因する果実のような華やかな香り(熟成香)が生じ、各酒類に特徴的な香味を奏するようになることが知られている。また、木製容器由来の成分(木質成分)がアルコールにより分解、溶出し、酒類に甘味や渋味といった味の深みを与えることが知られている。このようにして得られた木質成分を含有する酒類は、そのまま飲用されることもあるが、氷とともに、または水で割るなどして、飲用されることもある。また、例えば、氷を入れたタンブラーに木製容器を用いて熟成される酒類を注ぎ、冷やしたソーダ水を満たして軽くステアすることにより作られる、「ハイボール」というカクテルレシピが知られている(非特許文献1)。ハイボールは、ソーダ水で割るという手軽な手段で爽快な風味を有するカクテルを作成できるので人気があり、居酒屋などの飲食店で提供されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】NBAオフィシャルカクテルブック、社団法人日本バーテンダー協会編著、株式会社柴田書店、1990年9月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、樽等の木製容器にて熟成された酒類を用いて作る飲料や、木質成分を含有する溶液を用いて作る飲料にはいろいろな種類があるが、本願発明者は、消費者の多様な好みに対応するため、様々なブレンドを試してきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、樽等の木製容器や木材由来の木質成分の苦渋味として、没食子酸とシナ
ピルアルデヒドに着目した。没食子酸及びシナピルアルデヒドは、木製容器や木材に含ま
れるタンニンやリグニンが加水分解され、飲料中に溶出されるものであり、飲料の味に苦
渋みや深みを与える成分の1つである。本願発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定量
の没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドに対して、特定量及び特定割合のナリンギン
を含有させた場合に、木製容器や木材由来の木質成分の特徴的なふくらみのある味わいを
維持しつつ、没食子酸及び/またはシナピルアルデヒド由来の苦渋味が低減され、すっき
りした切れ味で飲みやすい炭酸ガス含有飲料を製造できることを見出した。すなわち、本
発明は、これらに限定されないが、以下の態様を含む。
(1)(A)0.1〜10.0ppmの没食子酸及び/または0.1〜10.0ppmの
シナピルアルデヒド、
(B)0.10〜120.0ppmのナリンギン、ならびに
(C)炭酸ガス
を含む容器詰め飲料であって、
下記式:
没食子酸含有量及びシナピルアルデヒド含有量のうち多い方の値に0.6を加えた値/
ナリンギン含有量≧0.015
を満たす、容器詰め飲料。
(2)アルコール含有量が、0〜12v/v%である、(1)に記載の容器詰め飲料。
(3)炭酸ガスの圧力が、1.5kgf/cm以上である、(1)または(2)に記載
の容器詰め飲料。
(4)ウイスキー及び/またはブランデーを含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載
の容器詰め飲料。
(5)グレープフルーツ果汁を含有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の容器詰め飲
料。
(6)スクロース、グルコース、及びフルクトースの各含有量の合計値が1.7g/10
0ml以下である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の容器詰め飲料。
(7)没食子酸の含有量が1.5〜10.0ppmである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の容器詰め飲料。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、木製容器や木材由来の木質成分を含有する飲料において木質成分の特徴的なふくらみのある味わいを維持しながら、木質成分の苦渋味が抑えられて、すっきりとした切れ味で爽快に飲むことができる、炭酸ガス含有容器詰め飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、樽等の木製容器や木材由来の木質成分に特有の苦渋味を呈する成分として、没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドを特定量含有し、さらに炭酸ガスを含有する飲料において、ナリンギンを特定の量及び割合で含有させることにより、木質成分に特徴的なふくらみのある味わいを維持しながら、苦渋味が抑えられ、すっきりと切れ味よく飲むことができる飲料を提供するものである。
【0008】
(没食子酸)
没食子酸(gallic acid、C)は、樽等の木製容器や使用した木材中のタンニンが加水分解され飲料中に溶出されるものであり、飲料の味に渋みや深みを与える成分の1つである。本発明の飲料は、木質成分として没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドを含むが、没食子酸を含有する場合には、飲料中の没食子酸の含有量を、0.1〜10.0ppmとする。好ましくは、0.2〜7.5ppm、さらに好ましくは0.5〜5.0ppmである。没食子酸の量が0.1ppm未満であると木質成分による味の深みが感じられず、10.0ppmを超えると没食子酸の渋味が際立って、後述するナリンギンの添加を行っても渋味の抑制が困難となる。ある態様においては、飲料中の没食子酸の含有量は1.5〜10.0ppmである。
【0009】
飲料中の没食子酸の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)などを用いて測定することができる。例えば以下の分析機種、条件にて測定することができる。
測定機種:LC HP 1100 series(Agilent Technolog
ies)
カラム:phenomenex Luna 5μ C18(2) 100A 1504.60mm(00F−4252−E0)
カラム温度:40℃
検出器:UV−VIS
注入量:5.0μl。
【0010】
飲料中の没食子酸は、飲料の風味のバランスを考慮すれば、樽等の木製容器や木材由来
のものであることが好ましいが、他のもの、例えば、茶葉から抽出したものなどを含ん
でいてもよい。
【0011】
(シナピルアルデヒド)
シナピルアルデヒド(sinapaldehyde、C1112)は、樽等の木製容器や使用した木材中のリグニンが加水分解され飲料中に溶出されるものであり、飲料の味に苦みや深みを与える成分の1つである。本発明の飲料は、木質成分として没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドを含むが、シナピルアルデヒドを含有する場合には、飲料中のシナピルアルデヒドの含有量を、0.1〜10.0ppmとする。好ましくは、0.2〜7.5ppm、さらに好ましくは0.5〜5.0ppmである。シナピルアルデヒドの量が0.1ppm未満であると木質成分による味の深みが感じられず、10.0ppmを超えるとシナピルアルデヒドの苦味が際立って、後述するナリンギンの添加を行っても苦味の抑制が困難となる。
【0012】
飲料中のシナピルアルデヒドの量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や超高
速液体クロマトグラフィー(UHPLC)などを用いて測定することができる。例えば以
下の分析機種、条件にて測定することができる。
測定機種:LC HP 1100 series(Agilent Technolog
ies)
カラム:phenomenex Luna 5μ C18(2) 100A 150
.60mm(00F−4252−E0)
カラム温度:40℃
検出器:UV−VIS
注入量:5.0μl。
飲料中のシナピルアルデヒドは、飲料の風味のバランスを考慮すれば、樽等の木製容器
や木材由来のものであることが好ましいが、他のもの、例えば、他の植物から抽出した
ものなどを含んでいてもよい。
【0013】
(ナリンギン)
ナリンギン(naringin、C273214)は、グレープフルーツに特徴的な苦味を呈する成分であり、グレープフルーツの果皮、果汁、種子等に含まれ、グレープフルーツ以外にも、ユズ、スダチ、カボスの果皮付近にもみられる。没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドを前述の特定量含有する飲料に対し、ナリンギンを0.10〜120.00ppm含有させ、さらに没食子酸とシナピルアルデヒドのうち多い方の含有量に0.6を加えた値のナリンギン含有量に対する比率((没食子酸含有量とシナピルアルデヒド含有量のうち多い方の値+0.6)/ナリンギン含有量)を0.015以上とすることにより、没食子酸等の木質成分の苦渋味を適度にマスキングしながら、飲料のふくらみと複雑さのある味わいを高めることができることを見出した。ナリンギンは、苦渋味を呈する成分なので、ナリンギンにより没食子酸等の苦渋味をマスキングできることは意外な結果であった。ナリンギンの量は好ましくは、1.00〜100.00ppmであり、よ
り好ましくは10.00〜90.00ppmであり、さらに好ましくは15.00〜80.00ppmである。ナリンギン含有量が、0.10ppmより少ないと、苦渋味の抑制効果が得られず、一方、120.00ppmを超えるとナリンギンの苦味が目立つようになり、飲料の風味バランスが崩れる。
【0014】
また、没食子酸とシナピルアルデヒドのうち多い方の含有量に0.6を加えた値のナリンギン含有量に対する比率は、好ましくは0.018以上であり、より好ましくは0.020以上である。上記比率が0.015未満であると、ナリンギン由来の苦渋味が目立つようになり、飲料全体としての風味バランスが崩れる。なお、上記比率を計算する際には、各成分の含有量(単位をppmとする)を用いて計算することとする。また、没食子酸含有量とシナピルアルデヒド含有量とが等しい場合には、「没食子酸含有量及びシナピルアルデヒド含有量のうち多い方の値」は、没食子酸含有量とシナピルアルデヒド含有量のうちのいずれかの値を用いることとする。
【0015】
ナリンギンが没食子酸等の苦渋味をマスキングする理由は明らかではないが、適度な量のナリンギンによる適度なふくよかな味わいの付与が、飲料の苦渋味を感じさせにくくするものと考えられる。
【0016】
飲料中のナリンギンの含有量は、例えば、グレープフルーツ等の果実から抽出、精製されたものを飲料に添加することにより調整してもよいし、飲料にグレープフルーツ等のナリンギンを含有する果汁を添加することにより調整してもよいし、飲料にグレープフルーツ等のナリンギンを含有する果実を用いた蒸留酒や浸漬酒を添加することにより調整してもよい。ナリンギンを含有する果汁としては、例えば、グレープフルーツ果汁、ハッサク果汁などを挙げることができるが、中でもグレープフルーツ果汁は最もナリンギンを多く含み、また木質成分含有飲料との相性もよいので好ましい。飲料に果汁を含有させる場合には、飲料中の果汁の含有量は、果汁中のナリンギンの含有量にもよるが、飲料全体に対し、果汁率換算で0.5〜40.0w/w%程度が好ましく、2.0〜10.0w/w%がさらに好ましい。なお、「果汁率」とは、果汁を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度をいう。例えば、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される各種果実のストレート果汁の糖用屈折計示度の基準又は酸度の基準に基づいて、計算することにより求めることができる。
【0017】
飲料中のナリンギンの量は、以下の方法で測定することができる。
【0018】
<ナリンギン含有量の分析>
(1)サンプルの調製
炭酸ガスを含む飲料溶液は、常法にて炭酸ガスを除く。まず、遠沈管(A)に飲料溶液10gを秤量する。飲料試料のBrixが20゜Bx以上の場合は5g、40゜Bx以上の場合は2gを秤量し、液体クロマトグラフィー用蒸留水で10mLに希釈する。液体クロマトグラフィー用エタノール20mLを加え、ボルテックスミキサーにて1分以上激しく混和する。粘性が高く混ざらない場合は、必要に応じて手などで激しく振り混ぜる。これを遠心器に供し(3000xg、30分、20℃)、上清を別の遠沈管(B)に移す。沈殿物に液体クロマトグラフィー用エタノール20mLを加え、固形分を薬匙などで十分に崩した後、ボルテックスミキサーにて1分以上激しく混和する。遠心器で遠心(3000xg、30分、20℃)し、上清を遠沈管(B)に加える。遠沈管(B)に集めた上清は、さらに遠心(3000xg、30分、20℃)し、得られた上清を50mLのメスフラスコに移し、エタノールでメスアップする。よく混和した上清液を、予めエタノールで洗浄したPTFE製フィルター(東洋濾紙社製、ADVANTEC DISMIC−25HP 25HP020AN,孔径0.20μm、直径25mm)で濾過し、分析試料とする。
(2)LC分析条件
HPLC装置:Nexera XRシリーズ(島津製作所社製、システムコントローラー:CBM−20A、送液ポンプ:LC−20ADXR、オンライン脱気装置:DGU−20A3、オートサンプラー:SIL−20ACXR、カラムオーブン:CTO−20A、及びUV/VIS検出器:SPD−20Aを有する)
カラム:CAPCELL CORE AQ(粒径2.7μm、内径2.1mmx 15
0mm、資生堂社製)
移動相A:ギ酸0.1%水溶液
移動相B:アセトニトリル
流量:0.6mL/min
濃度勾配条件:0.0〜0.5分(15%B)→6.0分(25%B)→10.0分(75%B)→10.1〜11.0分(100%B)、初期移動相による平衡化3.0分
カラム温度:40℃
試料注入:注入量2.0μL
質量分析装置への試料導入:1.8〜11.0分
(3)質量分析条件
質量分析装置:4000 Q TRAP(AB Sciex社製)
イオン化方法:ESI(Turbo Spray)、ネガティブモード
イオン化部条件:CUR:10、IS:−4500、TEM:650、GS1:80、GS2:60、ihe:ON、CAD:Medium
検出方法:MRMモード
検出条件(Q1→Q3、DP、CE、CXP、EP):579.2→271.1、−85、−42、−9、−10
ピーク検出時間:標品による確認を要するが、概ね4.50分
(4)定量方法
濃度の異なる標品溶液3点以上を供し、得られたピーク面積による絶対検量線法で定量する。
【0019】
(炭酸ガス)
本発明の飲料は、炭酸ガスを含有する。一般に炭酸ガスを含有する飲料は、口中での炭酸ガスのはじける触感により、飲料の個性的な風味が増強されやすく、例えば、飲料の苦渋味を過度に増強する傾向がある。したがって、炭酸ガスにより苦渋味が増強されやすくなった飲料は、本発明により苦渋味を抑えて飲用するのに好適であるといえる。また、炭酸ガスは、飲料のすっきりとした切れ味を高める効果も奏する。
【0020】
飲料に炭酸ガスを付与する方法は特に限定されず、例えば、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーター等のミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。
【0021】
飲料に炭酸ガスを含有させる場合には、やや高めの圧力であると飲料の爽快感が向上するので好ましく、例えば、1.5kgf/cm以上の炭酸ガス圧で飲料に炭酸ガスを含有させることが好ましく、1.5〜3.0kgf/cmがさらに好ましい。なお、本明細書において、ガス圧は、特に記載が無い限り、試料温度が20℃の際のガス圧をいう。飲料中の炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定することができる。試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。
【0022】
(飲料)
本発明の飲料のアルコール含有量は好ましくは0〜12v/v%であり、より好ましくは3〜10v/v%である。なお、本発明において、特に断りがない限り、「アルコール」とは、エタノールのことをいう。また、アルコール含有量とは、エタノールの含有量(v/v%)のことをいう。飲料のアルコール含有量は、公知の手法を用いて測定することができる。例えば、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改定)に記載の方法によって測定することができる。
【0023】
本発明の飲料は、上記の通り、没食子酸及びまたはシナピルアルデヒドを含有する。没
食子酸とシナピルアルデヒドとは、樽等の木製容器を用いて熟成して得られる酒類におけ
る、木製容器由来の渋味または苦味成分の指標の1つであり、本発明の飲料は、好ましく
は、樽等の木製容器を用いて熟成して得られる酒類を含有する。そのような酒類としては
、特に限定されないが、例えば、ウイスキー、ブランデー、テキーラ、ラム、樽熟成焼酎、樽熟成梅酒などが挙げられる。ウイスキーやブランデーは樽等の木材由来の成分が酒中に多く含まれており、好適であるといえる。
【0024】
本発明の飲料に木製容器を用いた熟成酒を含有させる場合、その含有量は、熟成酒中の没食子酸及びシナピルアルデヒドの量にもよるが、例えば、飲料全体に対し、1〜25v/v%程度が好ましく、3〜25v/v%がより好ましく、5〜20v/v%がさらに好ましい。
【0025】
本発明の飲料は、上記の木製容器を用いた熟成酒だけではなく、他の酒類を含んでいてもよい。そのような酒類としては、特に限定されず、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ニュースピリッツ等のスピリッツ、及び原料用アルコール等)、リキュール類、焼酎等、さらには清酒、ワイン、ビール等の醸造酒が挙げられる。
【0026】
その他、本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様に、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、糖類や高甘味度甘味料等の甘味料、酸味料、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、エキス類、食物繊維、pH調整剤、品質安定剤等を挙げることができる。糖類に関し、本発明の飲料におけるスクロース、グルコース、及びフルクトースの各含有量の合計値は、1.7g/100ml以下であることが好ましい。このような範囲では、苦渋味のマスキング効果が優れているだけでなく、甘さが強すぎずすっきりとした後口で飲料を飲むことができる。当該合計値は、より好ましくは、0.1〜1.7g/100ml、より好ましくは0.2〜1.5g/100mlである。これらの糖類の含有量の合計値は、それらの内の一種類しか飲料中に存在しない場合にはその含有量を、二種類しか存在しない場合にはそれらの含有量の合計値を、三種類すべてが存在する場合にはそれらの含有量の合計値を意味する。当該糖類の各含有量は、フローインジェクション装置を用いたバイオセンサ法(BF−7、王子計測機器製)によって測定することができる。
【0027】
本発明の飲料は、必要に応じて殺菌等の工程を経て、容器詰め飲料とされる。例えば、飲料を容器に充填した後に熱水シャワー殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌してから容器に充填する方法により、殺菌された容器詰め飲料を製造することができる。
【0028】
本発明により、従来の木質成分含有飲料にはないような、木質成分由来の苦渋味を抑えつつも木質成分の複雑さのある風味を生かした、複雑さとふくらみのある味わいがありながらもすっきりと切れ味よく飲むことができる、炭酸ガス含有容器詰め飲料を提供することが出来る。例えば、単に炭酸ガスを含有するだけ、あるいは単に、木材由来の苦渋味成
分等を除去するだけでは、木質成分に特徴的な風味が失われるなどにより、このような複雑さと切れ味のよさを両立させることはできない。
【0029】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
水、ニュートラルスピリッツ、及び炭酸水を混合し、アルコール含有量と炭酸ガス圧を以下の表に記載の値に調整した溶液に対し、以下の表に記載の量の没食子酸、シナピルアルデヒド、及びナリンギンを添加し、各試料とした。それぞれの試料について、苦渋味のマスキング効果、及び総合評価を、以下の基準にしたがって5名の訓練された専門パネルにより、評価した。結果を表に示す。
【0031】
苦渋味のマスキング効果:各試料において、没食子酸及び/またはシナピルアルデヒドのみを含有しナリンギンを含有しない場合の苦味をコントロールとして、ナリンギンを含有させた場合にどの程度苦味がマスキングされるかについて、5段階で評価した。マスキング効果が強く感じられるものを4、やや強く感じられるものを3、感じられるものを2、あまり感じられないものを1、全く感じられないものを0とした。
【0032】
総合評価:各試料について、飲用した際の好ましくない苦渋味の少なさ、味のふくらみ、後味の切れ味に関して総合的に評価し、3段階で表した。非常に好ましいものを3、好ましいものを2、不良なものを1とした。
【0033】
なお、表中、「Alc.」はアルコール含有量を表し、「ガス圧」は炭酸ガス圧を表し、「GAL」は没食子酸含有量を表し、「SINAP」はシナピルアルデヒド含有量を表し、「NRG」はナリンギン含有量を表し、「(GAL or SINAP+0.6)/NRG」は没食子酸含有量及びシナピルアルデヒド含有量のうち多い方の値のナリンギン含有量に対する比率を表す。
【0034】
【表1】
【0035】
比較品1の結果から、没食子酸とシナピルアルデヒドをいずれも含まない炭酸ガス含有のアルコール飲料(アルコール含有量3%)は、わずかにアルコール由来の苦味を感じるものの、不快な苦渋味は感じないことがわかった。この飲料に没食子酸0.1ppmを添
加すると(比較品2)、没食子酸とアルコールと炭酸ガスとの相乗効果で、後味に不快な苦渋味が生じることがわかった。比較品2の飲料にナリンギンを0.05ppm添加すると(比較品3)、味わいにふくらみが付与され、わずかに苦渋味がマスキングされるが、十分な効果ではなかった。ナリンギンの含有量を特定の範囲で増加させたところ(発明品1〜5)、ナリンギンによって付与されたふくらみのある味わいによって、後味の苦渋味がマスキングされた。また、後味の切れがよく、嗜好性が高い飲料となった。しかし、比較品4及び5では、苦渋味マスキング効果はみられるものの、ナリンギン自体の苦味が目立ち、飲料全体のバランスが崩れ、総合評価が低くなった。
【0036】
【表2】
【0037】
発明品4及び発明品6〜12の結果より、20.00ppmのナリンギンを添加した場合、没食子酸含有量が0.1ppm〜10.0ppmの範囲で、苦渋味マスキング効果が得られることがわかった。特に、没食子酸含有量が0.2〜7.5ppmの範囲で高い効果が得られ、味わいのふくらみと後味の切れが両立された。さらに、没食子酸含有量が0.5〜5.0ppmでは、味わいのふくらみと後味の切れのバランスが特によく、非常に嗜好性の高い飲料となった。比較品6の結果から、没食子酸含有量が15ppmの場合には、ナリンギンによる苦渋味のマスキング効果が不十分となることがわかった。
【0038】
【表3】
【0039】
発明品12〜20及び比較品7、8の結果より、没食子酸含有量が10.0ppmの場
合、ナリンギン含有量が0.10〜120.00ppmで、苦渋味マスキング効果が得られることがわかった。特にナリンギン含有量が1.00〜100.00ppmで高い効果が得られ、味わいのふくらみと後味の切れが両立された。さらに、ナリンギン含有量が10.0〜90.00ppmでは、味わいのふくらみと後味の切れのバランスが特に良く、嗜好性が高い飲料となった。比較品8の結果からナリンギン含有量が150.00ppmの場合、ナリンギンによって全体の香味バランスが崩れ、好ましくないことがわかった。
【0040】
【表4】
【0041】
比較品10において、没食子酸15.0ppmに対し、ナリンギン120.00ppmを添加したが、十分なマスキング効果が得られなかった。このことから、マスキング効果の得られる没食子酸含有量は、10.0ppm以下であることが示唆された。発明品21及び比較品11で、没食子酸0.5ppmに対して、それぞれナリンギン70.00ppm及び90.00ppmを添加したが、前者では十分なマスキング効果が得られ香味もよかったが、後者ではナリンギン由来の苦味が感じられ、バランスが悪く感じた。発明品21、比較品11、発明品5、及び比較品4の結果を考察すると、没食子酸含有量がナリンギン含有量に対して比較的低い領域においては、没食子酸含有量とナリンギン含有量の比率によってはナリンギンの苦味によって全体のバランスが崩れてしまい、マスキング効果はあるものの全体的な嗜好性が下がることがわかった。これら結果をまとめたところ、没食子酸含有量に0.6を加えた値のナリンギン含有量に対する比率が0.015以上であるかどうかがバランスの良さの境界線であることがわかった。
【0042】
【表5】
【0043】
シナピルアルデヒドについても、没食子酸と同様の傾向があることがわかった。
【0044】
【表6】
【0045】
没食子酸とシナピルアルデヒドの両方が含まれる場合であっても、いずれか単独を含む場合と同様の苦渋味マスキング効果を得ることができた。
【0046】
【表7】
【0047】
アルコール含有量を0〜10v/v%の範囲で調整したが、同様の効果が得られた。発明品39はアルコール含有量が0v/v%の飲料であり、つまりノンアルコール飲料であるが、同様の効果が得られた。なお、アルコール含有量を15v/v%とした場合、アルコール由来の苦味がやや強くなった。
【0048】
【表8】
【0049】
比較品18の結果から、炭酸ガスを含有しない場合、没食子酸とシナピルアルデヒドによる苦渋味の問題が生じないことがわかった。
【0050】
さらなる具体例として、以下の実験を行った。
水、ニュートラルスピリッツ、及び炭酸水を混合し、アルコール含有量と炭酸ガス圧を表9に記載の値に調整した溶液に対し、表9に記載の量の没食子酸、ナリンギンを添加し、各試料とした。また、果糖ブドウ糖液糖を加えた。以下の表に記載の「糖合計」は、スクロース、グルコース及びフルクトースの合計量を意味する。それぞれの試料について、苦渋味のマスキング効果、甘さを5名の訓練された専門パネルにより評価し、総合評価も実施した。苦渋味のマスキング効果の評価基準は、上記したものと同様である。甘さの評価基準と総合評価の評価基準を以下に示す。結果は表9に示す。
【0051】
<甘さ>
4点:甘くなく、すっきりとした美味しさを強く感じられる。
3点:甘くなく、後味まですっきりと飲める。
2点:やや甘く感じるが、後味まですっきりと飲める。
1点:ややベタ甘さが感じられすっきりしない。
0点:かなりベタ甘く、後味が悪い。
<総合評価>
5点:極めて良好なもの
4点:より良好なもの
3点:良好なもの
2点:許容可
1点:許容できない
0点:不良
【0052】
【表9】
【0053】
追加成分として糖が特定量存在する場合に、苦渋味のマスキング、甘さの点で特に優れた効果が得られた。