(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708527
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ローラリフタ
(51)【国際特許分類】
F02M 59/10 20060101AFI20200601BHJP
F01L 1/14 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
F02M59/10 A
F01L1/14 E
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-181173(P2016-181173)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-44506(P2018-44506A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀樹
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−329809(JP,A)
【文献】
特公昭48−025694(JP,B1)
【文献】
特開2013−136950(JP,A)
【文献】
特開2016−128654(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0186708(US,A1)
【文献】
国際公開第2015/194289(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 59/00
F01L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムに接触するローラと、
前記ローラが回転可能に支持される軸部材と、
筒状をなし、対向する壁部間に前記軸部材が架設され、前記カムの回転に伴いリフタガイド内を往復摺動するリフタ本体と、
前記リフタ本体の内側から外側にかけて配置され、前記カムの回転に伴い往復変位して前記外側の被作用部に作用する作用部材とを備え、
前記軸部材が前記対向する壁部間に架け渡される軸本体と前記軸本体の外周を包囲して前記ローラと並んで配置される管状部材とからなり、前記作用部材が前記管状部材に当接して支持され、
前記ローラが前記軸部材の軸方向に間隔をあけて対をなして配置され、前記管状部材が対をなす前記ローラ間に配置され、対をなす前記ローラの対向する端面と前記管状部材の外周面との間に凹部が区画され、前記凹部内に前記カムの外周段部が軸方向に相対変位を規制された状態で挿入されることを特徴とするローラリフタ。
【請求項2】
円柱状の軸本体と、
前記軸本体の外周面に、複数の転動体を介して、回転可能に支持され、カムに接触するローラと、
筒状をなし、対向する壁部である一対の支持壁に、前記軸本体の両端部が固定され、または前記軸本体の両端部が回転を許容された状態で取り付けられ、前記カムの回転に伴いリフタガイド内を往復摺動するリフタ本体と、
上下方向に延出する形状をなし、前記カムの回転に伴い往復変位し、前記リフタ本体より上方に突出する部分が被作用部に作用する作用部材と、
前記軸本体の外周面を包囲する管状をなし、前記軸本体の外周面に前記ローラと並んで配置される管状部材と、
を備え、
前記作用部材の下端は、前記管状部材に当接しており、
前記複数の転動体の一端面は、前記管状部材の端面に当接可能に近接して配置され、前記複数の転動体の他端面は、前記支持壁の内面に当接可能に近接して配置されることを特徴とするローラリフタ。
【請求項3】
前記作用部材が前記リフタ本体と接触しないように配置される請求項1又は2記載のローラリフタ。
【請求項4】
前記ローラが転動体を介して前記軸本体に回転可能に支持され、前記管状部材が前記転動体の端面に近接して配置される請求項1記載のローラリフタ。
【請求項5】
前記管状部材における前記作用部材が当接する部位が平坦な形態になっている請求項1ないし4のいずれか1項記載のローラリフタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラリフタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ローラリフタの一例として、内燃機関の燃料供給ポンプに用いられるポンプリフタが開示されている。ポンプリフタは、カムに接触するローラと、ローラが転動体を介して回転可能に支持される軸部と、一対の対向部間に軸部が架設される第1部材と、第1部材が取り付けられ、シリンダヘッドの摺動孔内を往復摺動する筒状の第2部材と、第2部材の内側から外側にかけて配置され、カムの回転に伴い往復変位して外側に位置する燃料供給装置の加圧室に作用するプランジャ等の係合部材(作用部材)とを備えている。第1部材と第2部材とによってリフタ本体が構成される。
【0003】
第2部材は、底壁と、底壁の外周縁から立ち上がる円筒状の周壁と、底壁の外周縁から立ち下がる円筒状の下側周壁とからなる。周壁及び下側周壁は、外周面が上下方向に連続して配置され、摺動孔の内周面を摺動可能とされている。係合部材は、下端が底壁の上面に突き当て状態で当接し、リフタ本体内(第2部材内)に配置されたコイルスプリング等の弾性部材によって下側(カム側)に付勢されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−128654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記構成において、リフタ本体の慣性質量が増加すると、内燃機関の高回転化に対応することができないため、リフタ本体は軽量であることが求められる。しかし、リフタ本体の底壁には係合部材から大きな荷重が加わるため、底壁を厚くする等して強度を確保しなければならず、リフタ本体の軽量化を十分に図ることができないという事情がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、リフタ本体の軽量化を実現することにより、内燃機関の高回転化に対応することが可能なローラリフタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の
第1のローラリフタは、カムに接触するローラと、前記ローラが回転可能に支持される軸部材と、筒状をなし、対向する壁部間に前記軸部材が架設され、前記カムの回転に伴いリフタガイド内を往復摺動するリフタ本体と、前記リフタ本体の内側から外側にかけて配置され、前記カムの回転に伴い往復変位して前記外側の被作用部に作用する作用部材とを備え、
前記軸部材が前記対向する壁部間に架け渡される軸本体と前記軸本体の外周を包囲して前記ローラと並んで配置される管状部材とからなり、前記作用部材が前記管状部材に当接して支持され、前記ローラが前記軸部材の軸方向に間隔をあけて対をなして配置され、前記管状部材が対をなす前記ローラ間に配置され、対をなす前記ローラの対向する端面と前記管状部材の外周面との間に凹部が区画され、前記凹部内に前記カムの外周段部が軸方向に相対変位を規制された状態で挿入されるところに特徴を有する。
また、本発明の第2のローラリフタは、円柱状の軸本体と、前記軸本体の外周面に、複数の転動体を介して、回転可能に支持され、カムに接触するローラと、筒状をなし、対向する壁部である一対の支持壁に、前記軸本体の両端部が固定され、または前記軸本体の両端部が回転を許容された状態で取り付けられ、前記カムの回転に伴いリフタガイド内を往復摺動するリフタ本体と、上下方向に延出する形状をなし、前記カムの回転に伴い往復変位し、前記リフタ本体より上方に突出する部分が被作用部に作用する作用部材と、前記軸本体の外周面を包囲する管状をなし、前記軸本体の外周面に前記ローラと並んで配置される管状部材と、を備え、前記作用部材の下端は、前記管状部材に当接しており、前記複数の転動体の一端面は、前記管状部材の端面に当接可能に近接して配置され、前記複数の転動体の他端面は、前記支持壁の内面に当接可能に近接して配置されるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
作用部材が軸部材に当接して支持されることにより、リフタ本体に作用部材の反力が直接加わることがなくなるため、リフタ本体の必要強度を従来よりも低くすることができる。その結果、リフタ本体を薄くすることができ、さらに、作用部材を支持する構造(背景技術の底壁に相当する構造)を設ける必要もないことから、リフタ本体の軽量化を十分に実現することができ、内燃機関の高回転化に対応することができる。
本発明の第1の場合、ローラがカムに対して軸方向に相対変位するのを阻止することができ、ひいてはリフタ本体がリフタガイド内で回転するのを阻止することができる。その結果、リフタ本体からリフタガイドに対する回り止め構造を省略することができ、リフタ本体のよりいっそうの軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係るローラリフタの正面視方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい形態を以下に示す。
前記作用部材が前記リフタ本体と接触しないように配置されるとよい。これによれば、リフタ本体の必要強度をより低くすることができる。その結果、リフタ本体のいっそうの軽量化を実現することができる。
【0012】
前記ローラが転動体を介して前記軸本体に回転可能に支持されており、前記管状部材が前記転動体の端面に近接して配置されるとよい。これによれば、転動体がローラと軸本体との間から離脱するのを管状部材で阻止することができる。
【0013】
前記管状部材における前記作用部材が当接する部位が平坦な形態になっているとよい。これによれば、作用部材が軸部材に安定して支持される。
【0015】
<実施例1>
本発明の実施例1を
図1及び
図2によって説明する。実施例1に係るローラリフタ10は、内燃機関の燃料供給装置に設けられたポンプリフタを例示するものであって、ローラ11、軸部材12、リフタ本体13及び作用部材としてのプランジャ14を備えている。なお、以下の説明において、上下方向は、
図1を基準とし、左右方向は、軸部材12の軸方向と同義であって
図1の左右方向に相当し、前後方向は、
図2の左右方向に相当する。
【0016】
リフタ本体13は、全体として上下方向に貫通する筒状をなし、内部に仕切り壁を有さない構造になっている。リフタ本体13の上部は、断面円形状をなし、上下方向に一定径で延出する形態になっている。リフタ本体13の下部は、左右方向で互いに平行に対向する一対の平坦な支持壁15と、リフタ本体13の外周に沿いながら前後方向で互いに対向する一対の円弧壁16とを有している。両円弧壁16は、リフタ本体13の上部に段差無く連続して配置されている。両支持壁15は、リフタ本体13の上部にテーパ状の斜面17を介して連なるように凹んで配置されている。また、両円弧壁16と両支持壁15とは、周方向で切れ目なく連続して配置されている。両支持壁15には、断面円形の挿通孔18が貫通して設けられている。
【0017】
リフタ本体13の上部及び両円弧壁16は、外周面がリフタガイドとしてのシリンダヘッド80のガイド孔81に対して上下方向に往復摺動可能とされている。両支持壁15間には軸部材12が架設されている。
【0018】
軸部材12は、円柱状の軸本体19と、軸本体19の外周に散り付けられる略円管状の管状部材21とからなる。軸本体19は、軸心を左右方向に向けてリフタ本体13の下部を横切るように配置されている。軸本体19の両端部は、両支持壁15の挿通孔18を貫通し、両支持壁15の外面に加締め固定されるようになっている。
【0019】
管状部材21は、軸本体19の左右(軸方向)中央部に嵌め付けられて固定され、上端部に、前後方向及び左右方向に沿った平坦面22が切り欠くようにして形成されている。管状部材21の外周面のうち、平坦面22を除く部分は、断面円弧状をなしている。また、管状部材21の両端は、径方向にほぼ沿って配置され、後述する転動体23と当接可能に近接して配置される。
【0020】
軸本体19の外周面には、ニードル軸受を構成する転動体23を介して、ローラ11が回転可能に支持されている。転動体23は、針状ころであって、ローラ11と軸本体19との間に周方向に多数並んで介装されている。
【0021】
ローラ11は、軸部材12の外周面において管状部材21を挟んだ左右両側に対をなして配置され、下方に位置するカム83と接触している。両ローラ11の相対向する端面と管状部材21の外周面(平坦面22を含む)との間は、径方向内側に凹む形態の凹部24が区画されている。凹部24には、カム83の外周段部84が下方から挿入される。カム83の外周段部84が凹部24に挿入されることにより、軸部材12及びローラ11がカム83に対して左右方向(軸方向)に相対変位するのが規制され、ひいてはリフタ本体13がガイド孔81内に軸周りを回転を規制された状態で配置されるようになっている。
【0022】
カム83は、カムシャフトを中心として回転可能となっており、ローラ11に摺動可能に接触する左右一対のカム面85を有し、両カム面85間に外周段部84が段付き状に形成されている。外周段部84の外周面は、両カム面85に段差を介して連なる断面円形の円周面86として構成されている。外周段部84は、凹部24に挿入された状態で、円周面86が管状部材21の外周面に接触せずに間隔をあけて対向し、両端面(段差を形成する面)が転動体23の端面に当接可能に配置される。
【0023】
リフタ本体13内には、作用部材としてのプランジャ14が挿入される。プランジャ14は、上下方向に細長く延出する棒状をなし、リフタ本体13の内側から外側にかけて配置されている。プランジャ14のうち、リフタ本体13より上方に突出する部分は、シリンダヘッド80を摺動可能に貫通し、上端が被作用部としての図示しない燃料供給通路の加圧室に臨んでいる。プランジャ14のうち、リフタ本体13内に配置される部分は、外周にリテーナ25が取り付け固定されている。また、リテーナ25とシリンダヘッド80のガイド孔81の内奥面との間には、リフタ本体13をカム83側に付勢するコイルスプリング等のばね部材26が配置される。
【0024】
プランジャ14の下端は、管状部材21の平坦面22にほぼ面接触状態で当接している。プランジャ14は、ばね部材26によって管状部材21との当接状態を維持している。また、プランジャ14は、リフタ本体13内の中心部を上下方向に貫通して、リフタ本体13の内周面とは接触しない状態に配置される。なお、リテーナ25及びばね部材26もリフタ本体13とは接触しない状態に配置される。
【0025】
次に、本実施例1に係るローラリフタ10の作用効果を説明する。
組み付けに際し、両支持壁15の一方の挿通孔18から他方の挿通孔18へ向けて軸本体19が差し込まれる。軸部材12は差し込み過程で両ローラ11を貫通し、両ローラ11は軸部材12に転動体23を介して支持される。続いて、軸本体19の両端が径方向外側に拡張変形させられ両支持壁15の外面に加締め固定される。次いで、軸部材12の外周面に管状部材21が嵌め付け固定され、両ローラ11間に管状部材21が配置される。管状部材21は、平坦面22が上方を向くようにして軸部材12に固定される。
【0026】
その後、リフタ本体13内に上方からプランジャ14がリテーナ25とともに挿入される。プランジャ14は、下端が管状部材21の平坦面22に突き当て状態で当接し、且つシリンダヘッド80に組み付けられた状態で、ばね部材26によってカム83側に付勢される。
【0027】
カム83が回転し、ローラ11が従動回転すると、リフタ本体13がガイド孔81内を軸部材12とともにカム83のリフト量に応じたストロークで上下方向に往復摺動し、それに伴い、軸部材12に支持されたプランジャ14も上下方向に往復変位する。こうしてプランジャ14の上端が加圧室に進退変位することにより、作動油が燃料供給通路内を圧送される。
【0028】
上記において、軸部材12はプランジャ14とカム83との間に挟まれて上下方向から荷重を受けることになるが、リフタ本体13にはプランジャ14の反力が直接加わることがない。このため、リフタ本体13の必要強度を従来よりも低くすることができる。よって、本実施例1においては、リフタ本体13の壁厚が従来よりも薄くなっている。また、リフタ本体13には、プランジャ14を支持する仕切り壁のような構造が設けられていない。その結果、リフタ本体13を従来よりも大幅に軽量にすることができ、内燃機関の高回転化によって高速のリフト運動が必要となる場合にも対応することができる。
【0029】
特に、プランジャ14がリフタ本体13と全く接触しないように配置されているため、リフタ本体13の必要強度をより低くすることができ、リフタ本体13のいっそうの軽量化を実現することができる。
【0030】
また、軸部材12がリフタ本体13の一対の支持壁15間に架け渡される軸本体19と軸本体19の外周を包囲してローラ11と並んで配置される管状部材21とからなり、プランジャ14が管状部材21に当接しているため、軸部材12をリフタ本体13に支障なく取り付けることができるとともに、軸部材12の製造の困難性を解消することができる。しかも、プランジャ14が管状部材21の平坦面22に当接支持されるため、安定性に優れる。
【0031】
また、各転動体23は、一端面(軸方向内端面)が管状部材21の端面に当接可能に近接し、他端面(軸方向外端面)がリフタ本体13の支持壁15の内面に当接可能に近接して配置される。このため、各転動体23が軸本体19とローラ11との間から離脱するのを阻止することができる。これにより、転動体23の離脱を規制する専用の離脱規制構造を省略することができ、構造を簡単にすることができるとともに軽量化に貢献することができる。
【0032】
また、両ローラ11の対向する端面と管状部材21の外周面との間に凹部24が区画され、凹部24内にカム83の外周段部84が左右方向(軸方向)に相対変位を規制された状態で挿入されるため、両ローラ11がカム83に対して左右方向に相対変位するのを阻止することができ、ひいてはリフタ本体13がシリンダヘッド80のガイド孔81内で回転するのを阻止することができる。その結果、リフタ本体13からシリンダヘッド80に対する回り止め構造を省略することができ、リフタ本体13のよりいっそうの軽量化を実現することができる。
【0033】
<他の実施例>
以下、他の実施例を簡単に説明する。
(1)本発明のローラリフタは、内燃機関の動弁装置におけるバルブリフタに適用することが可能である。この場合に、ローラリフタの構成は、上記実施例1と同様となるが、作用部材がバルブとなり、バルブのバルブステムが管状部材に当接して支持されることになる。
(2)管状部材の外周面が平坦面を有さない断面円形をなすものであってもよい。この場合、プランジャの下端に管状部材の外周面に沿った円弧面が形成され、円弧面が管状部材の外周面に当接する構成であるとよい。
(3)ローラと管状部材とは軸部材の外周面に並んで配置されていればよく、必ずしも管状部材を挟んだ左右両側にローラが対をなして配置されていなくてもよい。
(4)軸部材は、リフタ本体に対して固定されずに回転を許容された状態で取り付けられるものであってもよい。
(5)カムの外周面は、全体が段差なく連なるカム面として構成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…ローラリフタ
11…ローラ
12…軸部材
13…リフタ本体
14…プランジャ(作用部材)
15…支持壁
19…軸本体
21…管状部材
23…転動体
24…凹部
83…カム
84…外周段部