特許第6708548号(P6708548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6708548新規真核細胞および目的の生成物を組換え発現させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708548
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】新規真核細胞および目的の生成物を組換え発現させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20200601BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20200601BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20200601BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20200601BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   C12Q1/04
   C12P21/02 C
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】15
【全頁数】80
(21)【出願番号】特願2016-541015(P2016-541015)
(86)(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公表番号】特表2017-500868(P2017-500868A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】IB2014067073
(87)【国際公開番号】WO2015092735
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年11月9日
(31)【優先権主張番号】61/919,313
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ジョストック,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ラックス,ホグラー
(72)【発明者】
【氏名】リター,アネッテ
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/133711(WO,A1)
【文献】 特開2001−037478(JP,A)
【文献】 KOBAYASHI H,BLOOD,1994年11月15日,V84 N10,P3473-3482,URL,http://bloodjournal.hematologylibrary.org/cgi/content/abstract/84/10/3473
【文献】 Leukemia, 2013, Vol.27, pp.642-649
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 15/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の生成物の組換え生産のための単離された哺乳動物宿主細胞であって、C12orf35遺伝子の機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子サイレンシングまたは前記のいずれかの組合せにより低下するか、または消失するため、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞中で減弱され、C12orf35遺伝子は、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質と少なくとも90%の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子であり、前記細胞は、発現カセット中に含まれる目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含み、目的の生成物がポリペプチドであり、C12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱が、前記細胞において目的の生成物の発現を増加させる、単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項2】
前記哺乳動物宿主細胞が、
a)前記C12orf35遺伝子が、遺伝子変異として、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物を提供する前記C12orf35遺伝子中の1つまたは複数の変異を含む;
b)C12orf35遺伝子の少なくとも1コピーまたは全コピーが、前記哺乳動物細胞のゲノム中で欠失されるか、または機能的に不活化される;
c)染色体の一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む、
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項1に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が、
a)前記哺乳動物細胞がげっ歯類細胞である;
b)前記哺乳動物細胞がハムスター細胞である;
c)前記哺乳動物細胞がCHO細胞である;
d)前記哺乳動物細胞が細胞クローンもしくは細胞株として提供される;
e)前記哺乳動物細胞が内因的にDHFRおよび葉酸受容体を発現する、
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項1または2に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項4】
a)前記哺乳動物細胞がハムスター細胞であり、第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む;または
b)前記哺乳動物細胞がマウス細胞であり、第6染色体のテロメア領域の少なくとも一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む、
請求項2 c)に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項5】
前記単離された哺乳動物細胞が、
i.前記欠失したテロメア領域が、C12orf35遺伝子を含み、かつ、Bicd1、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8およびRPS4Y2からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子を含む;
ii.前記欠失が染色体切断により誘導され、切断点が前記Ipo8遺伝子のセントロメアに位置する;
iii.前記欠失が染色体切断により誘導され、切断点が前記Tmtc1遺伝子内のIpo8遺伝子のセントロメアに位置する;
iv.前記テロメア領域の少なくとも一部がそれぞれの染色体対の両方の染色体において欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項4に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項6】
前記C12orf35遺伝子が、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子である;および/または
さらに、FAM60Aタンパク質の効果が前記細胞中で減弱され、前記FAM60Aタンパク質が、配列番号11、12、13、14、16、17および18に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有し、FAM60Aタンパク質の効果を減弱が、目的の生成物の発現安定性を増加する、請求項1〜5の1つまたは複数に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項7】
a)前記C12orf35遺伝子の機能的発現が、前記細胞中で低下するか、もしくは消失し、前記低下もしくは消失が、前記C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞と比較して目的の組換え産物の容量生産の増加をもたらす;および/または
b)前記哺乳動物細胞のゲノムが、前記細胞中での前記C12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させるように変化する、
請求項1〜6の1つまたは複数に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項8】
目的の生成物をコードする前記異種ポリヌクレオチドが、前記哺乳動物細胞のゲノム中に組み込まれる発現カセットに含まれる、請求項1〜7の1つまたは複数に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項9】
a)前記哺乳動物細胞が、そのゲノム中に組み込まれた、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドと、選択可能マーカーもしくはリポーターポリペプチドをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドとを含み、前記異種ポリヌクレオチドが、同じか、もしくは異なる発現ベクター上に位置する;
b)前記哺乳動物細胞が、選択可能マーカーとして葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、および/もしくは選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
c)前記哺乳動物細胞が前記目的のポリペプチドを細胞培養培地中に分泌する;ならびに/または
d)前記目的の生成物が治療用ポリペプチドおよび診断用ポリペプチドから選択されるポリペプチドである
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項1〜8の1つまたは複数に記載の単離された哺乳動物宿主細胞。
【請求項10】
目的の生成物を組換え発現する宿主細胞を選択するための方法であって
目的の生成物がポリペプチドであり、
(a)宿主細胞として請求項1〜9の1つまたは複数に記載の哺乳動物細胞を提供すること;および
(b)前記目的の生成物を発現する1つまたは複数の宿主細胞を選択すること
を含む、方法。
【請求項11】
a)段階(a)で提供された前記宿主細胞が、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドをさらに含み、段階(b)が、前記選択可能マーカーにとって選択的な条件下で前記複数の宿主細胞を培養することを含む;
b)段階(a)で提供される前記宿主細胞が、選択可能マーカーをそれぞれコードする少なくとも2つの異種ポリヌクレオチドを含み、第1の選択可能マーカーが葉酸受容体であり、第2の選択可能マーカーがDHFRであり、段階(b)が、限定濃度の葉酸塩とDHFR阻害剤とを含む選択培養培地中で前記複数の宿主細胞を培養することを含む;
c)異種ポリヌクレオチドが、1つまたは複数の発現ベクターをトランスフェクトすることにより前記哺乳動物細胞中に導入される;
d)段階(b)が複数の選択ステップを含む;
e)段階(b)がフローサイトメトリーに基づく選択を実施することを含む;
f)前記選択された宿主細胞が免疫グロブリン分子を組換え発現する
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
目的の生成物を組換え生産するための方法であって、前記目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞として請求項1〜9の1つまたは複数に記載の哺乳動物宿主細胞を用いること
を含み、かつ、
(a)目的の生成物の発現を可能にする条件下で、前記宿主細胞を培養すること;
(b)細胞培養培地からおよび/または前記宿主細胞から、前記目的の生成物を単離すること;ならびに
(c)場合により、前記単離された目的の生成物をプロセシングすること
を含む、方法。
【請求項13】
請求項1〜9の1つまたは複数に記載の哺乳動物細胞を生産するための方法であって、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含み、前記C12orf35遺伝子は、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質と少なくとも90%の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子である、方法。
【請求項14】
目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞としてのその好適性について哺乳動物細胞を分析するための方法であって、
内因性C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的に分析すること、および
C12orf35遺伝子の機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子サイレンシングまたは前記のいずれかの組合せにより低下するか、または消失するため、C12orf35の機能的発現が減弱されている少なくとも1つの細胞を、目的の生成物の組換え発現のために選択すること
を含み、
前記C12orf35遺伝子は、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質と少なくとも90%の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子であり、
C12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱が、前記細胞において目的の生成物の発現を増加させる、方法。
【請求項15】
a)直接的に分析することが、C12orf35遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む;
b)分析の前に、前記哺乳動物細胞が染色体切断を誘導する薬剤で処理され、前記分析が、前記薬剤を用いる処理がC12orf35遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを分析することを含む;
c)分析の前に、前記哺乳動物細胞に、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトし、分析の前に、少なくとも1つの選択ステップを実施して、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定する;
d)FAM60Aの効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的にさらに分析することを含み、前記FAM60Aタンパク質は、配列番号11、12、13、14、16、17および18に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有し、FAM60Aタンパク質の効果の減弱が、目的の生成物の発現安定性を増加する;
e)前記哺乳動物細胞がげっ歯類細胞である;
)前記哺乳動物細胞がハムスター細胞であり、前記方法が、第8染色体のテロメア領域中に位置し、Tmtc1遺伝子およびTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子の発現が消失するか、または低下するかどうかを分析、それによって、C12orf35遺伝子の発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む;
)複数の細胞クローンが、安定な生産細胞クローンと不安定な生産細胞クローン、および/または高生産細胞クローンと低生産細胞クローンを識別するために分析され、C12orf35遺伝子の発現が低下するか、または消失する1つまたは複数の細胞クローンが、生産クローンとして選択される;
)複数の細胞クローンが、安定な生産細胞クローンと不安定な生産細胞クローン、および/または高生産細胞クローンと低生産細胞クローンを識別するために分析され、C12orf35遺伝子およびFAM60Aの発現が低下するか、または消失する1つまたは複数の細胞クローンが、生産クローンとして選択され、前記FAM60Aタンパク質は、配列番号11、12、13、14、16、17および18に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有し、FAM60Aタンパク質の効果の減弱が、目的の生成物の発現安定性を増加する
という特徴の1つまたは複数を有する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本開示は、組換え発現技術の分野に関する。本開示は、特に、目的の生成物の生産を増強することができる変化した真核細胞ならびに組換え発現法におけるその使用を提供する。さらに、選択プロセスの初期に、真核細胞の発現プロファイルに基づいて高い収率および改善された安定性で組換え産物を発現する真核細胞の同定を可能にする手段が提供される。真核細胞は、好ましくは哺乳動物細胞である。
【背景技術】
【0002】
本開示の背景
バイオ医薬品(biopharmaceuticals)は今日の医学にとって益々重要になっているため、バイオ医薬品に関する市場は高い割合で成長し続けている。現在、特に、哺乳動物細胞などの真核細胞において、数多くのバイオ医薬品が生産されている。したがって、哺乳動物細胞中でのバイオ医薬品の生産の成功および高収率の生産が重要である。目的の治療用タンパク質を生産するそのような細胞株を生成するための時間は、バイオ医薬品を診療所に持っていくのに必要とされる時間の必須部分である。さらに、バイオ医薬品のための生産コストも考慮すれば、高く、安定に発現する組換え真核細胞株、特に、哺乳動物細胞株を有することが重要である。
【0003】
特に、工業規模でのバイオ医薬品生産効率のために、短い時間量で良好な発現安定性および成長特性を有する高生産クローンを同定することを目標とする、大きな労力がクローン選択プロセスに注がれている。治療用タンパク質の生産のための組換え細胞クローンの生成は通常、高発現クローンを検出および単離するための個々のクローンの過剰なスクリーニングを含む。しかしながら、高発現クローンがスクリーニングプロセスの経過中に同定される場合であっても、これらのはじめから高発現のクローンは、その有利な発現特徴を失うことが多く、発現収率は時間と共に低下する。長期二次培養中の細胞クローンにおける組換えタンパク質発現のこの徐々の喪失は、CHO細胞株などの多くの細胞株に関する共通の問題であり、不安定性と言われる。この不安定性は、組換え生産されたポリペプチドの工業生産プロセスに大きく影響する。したがって、うまく発現する細胞の集団内で、はじめから良好な収率で目的のタンパク質を発現する細胞クローンの間であっても、長期培養中に高い生産安定性も有し、したがって、組換えタンパク質発現を徐々に喪失する傾向がない細胞、それぞれ、細胞クローンを同定するためには、注意を払わなければならない。そのようなクローンは、「安定な」クローンとも呼ばれる。長期培養期間中に、安定なクローンは、8〜12週間以内にその初期生産性を、30%、好ましくは25%を超えて失うべきではない。生産性は、培養のある特定の時点での容量あたりの発現されたタンパク質量(例えば、g/L)である、容積生産性として、それぞれ、1日あたり、細胞あたりの発現されたタンパク質の特定量(例えば、pg/細胞/日)である、細胞特異的生産性として定義される。不安定になる傾向があり、したがって、長期培養中に力価を失う細胞クローンが、その後の大規模生産のために選択されることを回避するために、その期間中に不安定になる細胞クローンを排除し、安定なクローンを同定するために、通常は大規模な安定性分析が数週間から数ヶ月にわたって実施される。したがって、大規模に生産される治療用タンパク質および他の組換えポリペプチドの生産のための組換え細胞クローンの生成は通常、大規模生産にとって必要な発現安定性も示す高発現細胞クローンを同定するためには、個々のクローンの過剰の、時間消費的なスクリーニングを含む。この実務は、バイオ医薬品生産プロセスなどのバイオテクノロジーの開発を長引かせている。用いられる選択条件の下で高発現細胞の生存に有利に働く高ストリンジェント選択系を用いる場合であっても、生存集団内で、高い発現率と、良好な成長および安定性特性とを併せ持つ好適な生産クローンを発見することは難しい。
【0004】
本発明の目的は、特に、哺乳動物細胞などの真核細胞中での目的の生成物の組換え生産を改善することである。特に、本発明の目的は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを用いるトランスフェクションの際に、改善された収率で目的の生成物を発現する新規真核細胞株を提供することである。さらに、改善された発現特徴を有するうまくトランスフェクトされた細胞の同定を可能にする選択方法を提供することが1つの目的である。さらに、目的の生成物を組換え生産するための改善された方法を提供することが目的である。さらに、高生産組換え細胞クローンと低生産組換え細胞クローンならびに/または発生プロセスの初期段階で安定な細胞クローンと不安定な細胞クローンの識別を可能にする分析手段を提供することが1つの目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の要旨
本開示は、特に、例えば、真核細胞中でC12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることによる、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱が、前記細胞中での目的の組換え産物の発現を有意に増加させることができるという予想外の知見に基づくものである。したがって、組換え発現に影響する鍵となる遺伝子が同定された。本明細書に記載の細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱は、発現収率を増大させることにより目的の生成物の組換え生産を有意に改善することができる。したがって、本発明は、先行技術に対して大きく寄与する。
【0006】
第1の態様によれば、本開示は、単離された真核細胞であって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞中で減弱される、単離された真核細胞を提供する。減弱は、例えば、遺伝子サイレンシング(gene silencing)、遺伝子欠失により、または非機能的な、もしくはあまり機能的でないタンパク質が発現されるように遺伝子を変異させることにより、例えば、前記細胞中での内因性C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができる。実施例により示されるように、一過的または安定的トランスフェクションの際に、それぞれ変化した真核細胞は驚くべきことに、より高い収率で目的の組換え産物を生産することができる。したがって、これらの真核細胞は、組換え生産技術のための宿主細胞として特に好適であり、目的の生成物の組換え生産のために用いることができる。
【0007】
第2の態様によれば、目的の生成物を組換え発現する宿主細胞を選択するための方法であって、
(a)目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞としての第1の態様による真核細胞を提供すること;および
(b)目的の生成物を発現する1つまたは複数の宿主細胞を選択すること
を含む方法が提供される。
【0008】
第3の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞として第1の態様による真核細胞を用いることを含む、目的の生成物を組換え生産するための方法が提供される。上記のように、その増大した生産能力のため、これらの新規真核細胞は、組換え生産のための宿主細胞として特に好適である。
【0009】
第4の態様によれば、真核細胞中の内因性C12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含む、目的の生成物の組換え生産にとって好適な真核細胞を生産するための方法が提供される。これは、例えば、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができる。
【0010】
第5の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞としてのその好適性について真核細胞を分析するための方法であって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的に分析することを含む方法が提供される。この方法を、例えば、第4の態様による方法と組み合わせて有利に用いて、例えば、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が減弱されている真核細胞が得られたかどうかを同定することができる。さらに、この方法を分析手段として用いて、高発現クローンと低発現クローン、実施形態においては、目的の生成物を発現する安定なクローンと不安定なクローンを識別することができる。
【0011】
第6の態様によれば、本開示は、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、単離された真核細胞中で減弱される、目的の生成物を組換え発現するための前記細胞の使用に関する。
【0012】
本出願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から、当業者には明らかとなるであろう。しかしながら、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および特定例が、本出願の好ましい実施形態を示すが、例示のみによって与えられることが理解されるべきである。開示される発明の精神および範囲内の様々な変化および改変は、以下を読むことから当業者には容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の第8染色体のテロメア領域および前記テロメア領域中に位置する遺伝子の図式的概観を提供する。図面に示されるゲノム領域は、第8染色体上の融合足場番号6および25の結果である。CHO細胞の第8染色体上の遺伝子および推定遺伝子に関する概観は、Brinkrolf et al.(Nature Biotechnology Volume 31, 694-695 (2013);前記刊行物に記載のような遺伝子バンク:APMK00000000、バージョンAPMK01000000を参照されたい)のアセンブリと関連する遺伝子バンク注釈ファイルを用いて見出すことができる。さらに、Beijing Genomics Instituteもまた、この領域の注釈を提供した(Xu et al, Nature Biotechnology, Volume 29, number 8, 735-741 (2011);遺伝子バンク:AFTD00000000、バージョンAFTD01000000を参照されたい)。図1中にで印を付けられた注釈は、遺伝子バンクファイルAFTD01000000に由来する。 マウスの第6染色体のテロメア領域に関する対応する概観は、例えば、Ensemblデータベース中に見出すことができる。マウスの第6染色体は、チャイニーズハムスターの第8染色体に対応する構造を有する。Ensembleデータベースのその後の連結は、C12orf35遺伝子(ここでは2810474O19Rikと命名される)を含有するマウスの第6染色体のテロメア領域を示す:http://www.ensembl.org/Mus_musculus/Location/View?db=core;g=ENSMUSG00000032712;r=6:149309414-149335658。 以下の表1は、図1に示される遺伝子およびコードされる生成物の省略形および代替名(別名)に関する概観を提供し、実現可能である場合、マウスおよびチャイニーズハムスターにおける対応する注釈(Brinkrolf et al, 2013および/またはXu et al, 2011による)を示す。表1はまた、例えば、異なる種において用いられる代替名も列挙する。本開示が特定のタンパク質または遺伝子名に言及する場合、これは、例えば、異なる種における対応する遺伝子またはタンパク質を特徴付けるために用いられる、前記タンパク質または遺伝子の任意の代替名にも言及し、これを包含する。特に、同じ機能を有するホモログおよびオルソログがそれにより包含される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
図2図2は、CHO細胞株中の第8染色体のテロメア領域中に位置する遺伝子、すなわちTMTC1(1)、RPS4Y2(2)、IPO8(3)、CAPRIN2(4)、FAM60A(5)、Dennd5b(6)、METTL20(7)、AMN1(8)、C12orf35(9)、Bicd1(10)の相対発現レベルを示す。
図3図3A〜Lは、siRNAを用いてチャイニーズハムスター(CHO)細胞の第8染色体のテロメア領域中に位置する異なる標的遺伝子の発現を低下させた後に得られるFACSプロファイルを示す。発現ベクターを安定にトランスフェクトされ、目的の生成物としてコードされた抗体を発現した細胞を蛍光染色して、組換え発現された抗体の量を検出した。FACSプロファイルにおける強度が高くなるほど、多くの抗体が染色された細胞により発現される。FACSプロファイル中に示される左側のピークは、比較のために含有させた親細胞株(トランスフェクトされておらず、したがって、抗体を発現しない)に対応する。他の2つの曲線は、発現ベクターを安定にトランスフェクトされ、抗体を組換え発現する細胞クローンについて得られた結果を表す。この細胞クローンに、siRNA陰性対照(暗い曲線;遺伝子の発現に対する効果がない)または標的遺伝子の発現を低下させるsiRNA(明灰色の曲線)のいずれかをトランスフェクトした。標的遺伝子のサイレンシングが抗体の組換え発現に対する効果を有さない場合、siRNA対照と標的siRNAに関する蛍光曲線は重なり合い、同じままである。標的遺伝子のサイレンシングが組換え発現された抗体の発現率を増大させる場合、対応するFACSプロファイルの強度は増大し、右にシフトする。A:Mettl20_1遺伝子、125pmol、24.9%;B:C12orf35_1遺伝子、125pmol、30.6%;C:C12orf35_2遺伝子、150pmol、31.7%;D:Caprin2_6遺伝子、100pmol、53.3%;E:FAM60A_3、150pmol、48%;F:Ipo8_1、125pmol、20.3%;G:Ipo8_2、150pmol、57.5%;H:Ipo8_3、150pmol、21.5%;I:Dennd5b_2、100pmol、36.9%;J:Amn1_4、125pmol、30.8%;K:TMTC1_1、150pmol、60.6%;L:TMTC1_2、150pmol、53.4%(パーセンテージ値は参照siRNAと対照siRNAとの間の標的遺伝子のmRNA発現に対応する)。図3BおよびCは、C12orf35遺伝子の下方調節が組換え抗体の発現を有意に増加させ、したがって、FACSプロファイルの右への明確なシフトにより示されるように、より高い生産性をもたらすことを示している(矢印でも印を付けられる、右の明灰色の曲線を参照されたい)。
図4図4および5は、いずれの場合も、RNAiによりCHO細胞中でのC12orf35遺伝子の発現を低下させた後の、異なるクローンおよびプールにおける目的の2つの異なるモデルポリペプチド(抗体1および2)の抗体軽鎖および重鎖のmRNA発現レベルを示す。C12orf35遺伝子の発現が遺伝子サイレンシングにより低下する場合、抗体鎖のmRNAレベルは上方調節される。したがって、C12orf35発現の低下は、驚くべきことに、HCおよびLCのより高いmRNAレベルをもたらす。
図5図4および5は、いずれの場合も、RNAiによりCHO細胞中でのC12orf35遺伝子の発現を低下させた後の、異なるクローンおよびプールにおける目的の2つの異なるモデルポリペプチド(抗体1および2)の抗体軽鎖および重鎖のmRNA発現レベルを示す。C12orf35遺伝子の発現が遺伝子サイレンシングにより低下する場合、抗体鎖のmRNAレベルは上方調節される。したがって、C12orf35発現の低下は、驚くべきことに、HCおよびLCのより高いmRNAレベルをもたらす。
図6図6は、siRNAを用いるC12orf35遺伝子のサイレンシングの際に、有意により高い容積力価が得られたことを示す。
図7図7は、C12orf35遺伝子のサイレンシングが、より高い特異的生産性をもたらすことを示す(培養の3、4、5および6日目に算出される)。siRNA−1は、siRNA−2よりも顕著なサイレンシング効果を有し、したがって、より高い発現率をもたらす。
図8図8は、第8染色体(q腕)上のC12orf35遺伝子を含むテロメア領域が欠失した(C8DEL)CHO細胞株から誘導される46の最も高い生産クローン(黒色)が、IPO8陽性であると試験された親細胞株から得られた45の最も高い生産クローン(灰色)と比較して高い力価を有することを示す。
図9図9は、葉酸受容体/DHFR系を用いた選択後に安定にトランスフェクトされたC8DEL細胞プールのFACSプロファイルを示す。MTXの濃度を、AからEまで増加させた(A:MTXなし;B:1nMのMTX;C:5nMのMTX;D:10nMのMTX;E:50nMのMTX)。組換え抗体の発現を、蛍光に基づいて検出した。50nMのMTXで、主に高生産細胞は、FACS分析により示されるように、得られたプールに含まれていた。得られたプールのプロファイルは、細胞クローンのプロファイルと顕著に類似していた。これは、本明細書に記載の技術が発現収率に対して有する異例の影響を支持する。
図10図10は、目的の生成物としての抗体をコードする発現ベクターの安定的トランスフェクション後の3つの異なる細胞クローン(CHO野生型ならびに前記野生型から誘導される2つのFAM60Aノックアウトクローンs16およびs23)に関して7/8週間実施された安定性試験の結果を示す。(1)は、親野生型細胞(CHO−K1から誘導される)に関して得られた安定性の結果を示す;(2)は、FAM60Aノックアウトクローンs16に関する安定性の結果を示す;(3)は、FAM60Aノックアウトクローンs23に関する安定性の結果を示す。見られるように、発現安定性は、FAM60Aノックアウト細胞から誘導された細胞クローンにおいて有意に増大した((2)および(3)を参照されたい)。安定なクローンの数は、組換え発現のためにFAM60Aノックアウト細胞を用いた場合に有意に増加した。したがって、ここでは、遺伝子ノックアウトによる、宿主細胞中でのFAM60Aの効果の減弱は、発現安定性を有意に改善した。したがって、一実施形態によれば、FAM60Aタンパク質の効果は、好ましくは、安定的トランスフェクションの際に発現安定性を増大させるために、機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、真核細胞中でさらに減弱される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の詳細な説明
本開示は、特に、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、例えば、内因性C12orf35遺伝子を欠失させることにより、または変異を導入することにより、前記遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱された真核細胞が、有意に改善された収率で目的の組換え産物を発現することができるという驚くべき知見に基づくものである。C12orf35遺伝子が目的の組換え産物の発現に対する強い影響を有するという驚くべき知見に基づいて、本開示はまた、目的の生成物の組換え生産を改善することができる新規の選択および生産方法ならびに関連技術も提供する。したがって、本開示は、先行技術に対して大きく寄与する。
【0015】
個々の態様およびその好適な、好ましい実施形態を、ここで詳細に説明する。
【0016】
A.改変された真核細胞
第1の態様によれば、本開示は、単離された真核細胞であって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞中で減弱される、単離された真核細胞を提供する。哺乳動物細胞に関する実施例により示されるように、それぞれ、改変された真核細胞は、実施例により示されるように、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターによる安定的トランスフェクション後ならびに一過的なトランスフェクション後に、有意により高い生産性を示す。さらに、トランスフェクトされた細胞の集団における高発現細胞の存在量は、それぞれ変化した真核細胞を用いた場合に改善される。実施形態においては、クローン安定性が改善されることも見出された。改善された発現安定性は、高発現細胞クローンの時間消費的な安定性研究を短縮するか、または省略することさえできる。さらなる利点も以下に記載され、また、実施例からも明らかである。したがって、目的の生成物の組換え生産のためにこれらの有利な新規真核細胞株を用いることは、高発現細胞または細胞クローンを同定するためのスクリーニング労力を軽減し、特に、大規模に目的の生成物を生産するのに好適な高発現細胞クローンを取得するのに必要とされる時間を減少させる。したがって、これらの真核細胞株は、組換え生産技術のための宿主細胞として用いられる場合に重要な利点を有する。
【0017】
C12orf35遺伝子は、例えば、ヒト、マウスおよびハムスターなどの哺乳動物種などの真核細胞中で内因的に発現される。C12orf35遺伝子の発現産物は、むしろ大きいタンパク質である。配列表は、ハムスター(配列番号1および2)、ヒト(配列番号3および4)、マウス(配列番号5)、ウシ(配列番号6)ならびにイノシシ(配列番号7)などの異なる哺乳動物種の内因性C12orf35遺伝子によりコードされるタンパク質の例示的なアミノ酸配列または推定アミノ酸配列を示す。チャイニーズハムスターに由来するC12orf35のCDS(コードDNA配列)を、配列番号8に示す。さらに、チャイニーズハムスターに由来するC12orf35 mRNAの5’UTR(配列番号9を参照されたい)および3’UTR(配列番号10を参照されたい)の部分を配列決定した。C12orf35遺伝子は、ハムスターにおいてはC12orf35likeもしくはC12orf35ホモログまたはマウスにおいては2810474O19Rikとも称される。遺伝子、コード配列および予測されるC12orf35タンパク質に関する情報も、参照により本明細書に組み込まれる、NCBI:XM_003512865においてモンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)について開示されている。ヒトにおいては、それはKIAA1551とも称される。タンパク質または遺伝子について異なる種において異なる名称を割り当てることができ、非限定的な代替名(別名)も上記の表1に列挙されている。本明細書で用いられる用語「C12orf35」はまた、C12orf35と同じ機能を有するC12orf35の任意のホモログおよびオルソログを包含する。したがって、本明細書で用いられる用語「C12orf35遺伝子」は、特に、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有するタンパク質をコードする任意の内因性遺伝子を包含する。そのような遺伝子によりコードされるタンパク質は、好ましくは、配列番号1もしくは配列番号2〜7の1つもしくは複数に示されるようなアミノ酸配列を有するタンパク質または配列番号8によりコードされるタンパク質と同じ機能を有する。前記遺伝子を本明細書に記載のように改変して、非改変細胞により発現される発現産物の機能を減弱させることができる。C12orf35遺伝子により発現されるタンパク質は、文献には詳細に記載されていない。本明細書で用いられる用語「C12orf35タンパク質」または「内因性C12orf35遺伝子の発現産物」および同様の表現は、C12orf35のホモログおよびオルソログを包含し、特に、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有する任意のタンパク質を包含する。そのようなC12orf35タンパク質は、好ましくは、配列番号1に示されるような、もしくは配列番号2〜7の1つもしくは複数に示されるようなアミノ酸配列を有するタンパク質または配列番号8によりコードされるタンパク質と同じ機能を有する。相同性、それぞれ、同一性を、参照タンパク質の全長にわたって算出することができる。
【0018】
本開示は、特に、好ましくは哺乳動物細胞などの改変真核細胞であって、通常は対応する非改変真核細胞により内因的に発現されるC12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞において減弱される、改変真核細胞に関する。実施例により示されるように、一過的または永続的であってもよい細胞のこの改変は、目的の組換え産物の発現を増大させる。
【0019】
前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させるために真核細胞を改変するいくらかの可能性がある。C12orf35遺伝子の発現産物、したがって、C12orf35タンパク質の効果は、例えば、遺伝子レベルまたはタンパク質レベルで減弱させることができる。C12orf35の効果は、例えば、C12orf35タンパク質の構造/配列、転写および/または翻訳の改変により減弱させることができる。非限定的選択肢を以下に記載する。
【0020】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の機能的発現が真核細胞中で低下するか、または消失するため、C12orf35遺伝子の発現産物の効果は、前記細胞中で減弱される。実施例により示されるように、例えば、遺伝子サイレンシングによる、またはC12orf35遺伝子を欠失させることによる、C12orf35遺伝子の発現の変化は、高い収率で目的の組換え産物を発現することができる真核細胞を提供するための非常に効率的な尺度である。C12orf35遺伝子の発現レベルが真核細胞中で低下するか、または消失し、したがって、あまり機能的でないか、または機能的でないC12orf35タンパク質がそれぞれ変化した細胞により生産される場合、目的の組換え産物の発現収率は有意に増大する。機能的C12orf35発現と、組換えタンパク質発現の収率とのこの相関は、予想外の知見である。
【0021】
C12orf35遺伝子の機能的発現の低下または消失を、様々な手段によって達成することができる。例えば、C12orf35遺伝子の発現レベルを低下させることにより、またはC12orf35の機能を破壊することにより、またはそのような方法の組合せにより、機能的発現を低下させることができる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子サイレンシングまたは前記のいずれかの組合せにより低下するか、または消失するように、細胞を変化させる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の機能的発現は、遺伝子ノックアウトにより細胞中で低下するか、または消失する。遺伝子ノックアウトは、遺伝子がその機能を破壊することにより動作不能にされる遺伝子技術である。例えば、核酸をコード配列中に挿入し、それによって、遺伝子機能を破壊することができる。さらに、完全なC12orf35遺伝子またはその一部を欠失させることができ、それによって、それぞれ変化した細胞によってタンパク質が発現されないか、または機能的なタンパク質が発現されない。別の選択肢は、1つまたは複数のノックアウト変異をコード配列中に導入し、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物にすることである。例えば、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質をもたらす1つまたは複数のフレームシフト変異を導入することができる。あるいは、またはさらに、トランケートされた、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質が得られるように、1つまたは複数の停止コドンをコード配列中に導入することができる。したがって、一実施形態によれば、C12orf35遺伝子は、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物を提供する1つまたは複数の変異を含む。他の選択肢としては、これらに限定されるものではないが、プロモーター、5’および/もしくは3’UTRまたは他の調節エレメント中の1つまたは複数の変異が挙げられる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子のプロモーター機能を、例えば、プロモーター欠失を導入することにより、またはプロモーターと転写開始との間に構築物を導入することにより破壊する。標的遺伝子の発現を抑制するか、または消失させるための遺伝子ノックアウトを達成するための方法も当業者には周知であり、したがって、本明細書では詳細な説明を必要としない。そうは言うものの、いくつかの非限定例を以下に記載する。
【0022】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子は、遺伝子工学により機能的にノックアウトされる。例としては、これに限定されるものではないが、工学的に操作されたヌクレアーゼを用いるゲノム編集(GEEN)などの、ゲノム編集が挙げられる。これは、DNAを、人工的に操作されたヌクレアーゼ、または「分子ハサミ」を用いてゲノムに挿入する、置きかえる、またはそれから除去する一種の遺伝子工学的操作である。ヌクレアーゼは、ゲノム中の所望の位置に特異的二本鎖切断(DSB)を作出し、相同組換え(HR)および非相同末端結合(NHEJ)の天然プロセスにより誘導された切断を修復するための細胞の内因性機構を抑制する。用いることができる工学的に操作されたヌクレアーゼの少なくとも4つのファミリーが存在する:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR、および工学的に操作されたメガヌクレアーゼ再操作ホーミングエンドヌクレアーゼ。
【0023】
一実施形態によれば、真核細胞のゲノム中に存在する1コピーまたは複数コピーのC12orf35遺伝子を変化させる、例えば、ノックアウトまたは欠失させて、真核細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を低下させるか、または消失させ、したがって、減弱させる。したがって、一実施形態によれば、少なくとも1コピーのC12orf35遺伝子を、真核細胞のゲノム中で欠失させるか、または機能的に不活化する。例えば、1つまたは複数の変異を、C12orf35遺伝子のコピーまたは複数のコピー中に挿入して(1より多いコピーが存在する場合)、非機能的な、もしくはあまり機能的でない発現産物を提供するか、または全体として発現を消失させるか、もしくは低下させ、したがって、哺乳動物細胞におけるC12orf35の効果を減弱させることができる。それによって、C12orf35遺伝子は、ゲノム中で基本的に不活化される。一実施形態によれば、1より多いコピーが存在する場合、C12orf35遺伝子の全コピーを、好ましくは、哺乳動物細胞である、真核細胞中でそれぞれ変化させる。
【0024】
一実施形態によれば、真核細胞は、後生動物細胞、脊椎動物細胞または好ましくは、哺乳動物細胞である。一実施形態によれば、染色体の一部を前記細胞中で欠失させ、ここで、欠失した部分はC12orf35遺伝子を含む。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子を含む染色体部分を、C12orf35遺伝子のコピーを含む全ての染色体中で欠失させる。それにより、C12orf35遺伝子の全コピーを、ゲノムから欠失させる。
【0025】
一実施形態によれば、染色体のテロメア領域の一部を欠失させ、ここで、欠失した部分はC12orf35遺伝子を含む。好ましい実施形態によれば、変化した細胞はげっ歯類細胞である。一実施形態によれば、細胞は、例えば、CHO細胞などのハムスター細胞であり、第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部がゲノム中で欠失し、前記欠失した部分はC12orf35遺伝子を含む。用語「C12orf35」の意味は、上記で説明されており、前記用語の範囲により包含されるホモログおよびオルソログの非限定的代替名も表1に示される。一実施形態によれば、そのような欠失は、FAM60A遺伝子を含むハムスター細胞、特に、チャイニーズハムスター細胞の第8染色体のq腕中に存在する。実施例により示されるように、第8染色体のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、組換え発現のための宿主細胞として特に好適である。発現ベクターを用いる安定な、または一過的なトランスフェクションの後、これらの細胞は、第8染色体のテロメア領域中の前記部分が失われていない細胞と比較して、有意により高い生産性を示す。さらに、トランスフェクトされた細胞集団中の高発現細胞の存在量およびしたがって、量、それぞれの割合は、有意に増加する。安定的トランスフェクションの場合、組換え発現の安定性は、例えば、第8染色体中のテロメア領域の前記部分を失ったそのようなハムスター細胞中で有意に増大する。さらなる重要な利点は、第8染色体のテロメア領域のそれぞれの部分が染色体切断のため欠失したCHO細胞がさらに特徴付けられる実施例に詳細に記載される。有利な特性は、これらのハムスター細胞を、工業生産細胞株として特に好適なものにする。あるいは、変化したげっ歯類細胞は、第6染色体のテロメア領域の少なくとも一部がゲノム中で欠失され、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む、マウス細胞であってもよい。マウスの第6染色体のテロメア領域は、ハムスターの第8染色体のテロメア領域と高度に類似する。
【0026】
一実施形態によれば、テロメア領域の少なくとも一部は、欠失されるか、またはハムスターの第8染色体対の両染色体(またはマウス細胞の場合、第6染色体対)中に存在せず、ここで、欠失した部分はC12orf35遺伝子を含む。
【0027】
一実施形態によれば、テロメア領域の少なくとも一部は、ハムスターの第8染色体対(またはマウスの場合、第6染色体対)の一方の染色体中で欠失され、ここで、前記欠失した部分はC12orf35遺伝子を含み、他方の染色体中のC12orf35遺伝子の発現は低下するか、または消失する。遺伝子の発現を低下させるか、または消失させるための好適な方法は当業者には公知であり、非限定例も本明細書に記載される。一実施形態によれば、そのような欠失は、ハムスター、特に、チャイニーズハムスターの第8染色体のq腕中に存在する。
【0028】
一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、C12orf35遺伝子、さらに、Bicd1、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2およびIpo8からなる群から選択される1つもしくは複数または全部の遺伝子を含む。一実施形態によれば、上記の遺伝子の全部を欠失させる。一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、Tmtc1遺伝子の少なくとも一部または全部をさらに含む。CHO細胞などのハムスター細胞中では、これらの遺伝子はまた、第8染色体のテロメア領域中に位置する。一実施形態によれば、欠失した染色体領域は、存在する場合、RPS4Y2遺伝子をさらに含む。上記の遺伝子の位置が示される、チャイニーズハムスターゲノムの第8染色体のテロメア領域上の概観を、図1として提供する。実施例により示されるように、第8染色体(q腕)のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、発現収率および発現安定性に関して特に有利な特性を有する。マウス細胞中では、上記の遺伝子は、第6染色体のテロメア領域中に位置する。上記の個々の遺伝子ならびに/またはホモログおよびオルソログを含むコードされるタンパク質の非限定的代替名も、上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。
【0029】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の欠失は、染色体切断に起因するものである。染色体切断は、例えば、真核細胞を、例えば、MTX、アフィジコリンまたはハイグロマイシンなどの、染色体切断を促進する毒性薬剤で処理することにより誘導することができる。染色体切断を誘導するための他の選択肢としては、これらに限定されるものではないが、放射線、放射、変異原、発がん性物質およびブレオマイシンが挙げられる。染色体切断はまた、トランスフェクション、例えば、エレクトロポレーションの間に自発的に起こってもよい。染色体切断を誘導するための方法も当業者には公知であり、したがって、ここで詳細な説明を必要としない。染色体切断を誘導した後、所望の切断点(C12orf35遺伝子の欠失をもたらす)を有する真核細胞を、例えば、DNAを分析することにより、または本開示の第5の態様による方法を用いることにより同定することができる。例えば、処理された細胞の発現プロファイルを分析して、C12orf35遺伝子もしくはC12orf35遺伝子のセントロメアに位置する遺伝子が発現されるかどうか、その発現が低下するかどうか、または遺伝子が発現されないかどうかを決定することができる。例えば、マウスまたはハムスター細胞の場合、C12orf35遺伝子が発現されるかどうかを分析することができる、あるいは、またはそれに加えて、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8、Tmtc1もしくは上記の遺伝子のテロメアに位置する遺伝子(ここで、これに関するテロメアはテロメア末端の方向にあることを意味する)からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子が細胞により発現されるかどうか、ならびに/または発現が低下するか、もしくは消失するかどうかを分析することができる。誘導される切断点がそれぞれの遺伝子のセントロメアに位置する場合(ここで、これに関するセントロメアはさらに染色体中にあることを意味し、したがって、テロメア末端からさらに遠くにあることを意味する)、その発現を消失させるか、または低下させる前記遺伝子を含むテロメア末端を欠失させる(発現される遺伝子の他のコピーが他の場所に存在する場合)。図1から明らかであるように、C12orf35遺伝子は上記遺伝子のテロメアに位置する、すなわち、それは、テロメア末端の方向中にさらに位置する。したがって、上記の遺伝子が染色体切断により欠失される場合、欠失した領域もまたC12orf35遺伝子を含む。したがって、誘導された染色体切断が、C12orf35遺伝子を含む染色体部分の欠失をもたらしたかどうかを基本的には間接的に決定するために、上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いることができる。さらに、C12orf35遺伝子のテロメアに位置する場合であっても、Bicd1遺伝子をマーカーとして用いて、C12orf35遺伝子の欠失をもたらす染色体切断が誘導されたかどうかを決定することもできることが見出された。Bicd1遺伝子が染色体切断のため欠失される場合、欠失は通常、C12orf35遺伝子も含むことがCHO細胞中で見出された。上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いて、高く安定な発現特徴を示す細胞クローンと、低く不安定な発現特徴を有する細胞クローンとを識別することができることが、数百個のクローンの発現特徴を分析することにより確認された。CHO細胞中での上記遺伝子の相対的発現を、図2に示す。図2から見られるように、Ipo8(3)、FAM60A(5)およびC12orf35(9)遺伝子は、第8染色体のテロメア領域中に欠失を含まないCHO−K1細胞などの正常なCHO細胞中の第8染色体のテロメア領域中に位置する他の遺伝子と比較して相対的に高く発現される。したがって、分析に上記遺伝子の1つまたは複数を含めることは有利であり、これはその発現が消失するか、または低下することの検出を単純化するためである。上記の個々の遺伝子ならびにホモログおよびオルソログを含むコードされるタンパク質の非限定的代替名も上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。
【0030】
一実施形態によれば、第8染色体上の切断点は、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20遺伝子のセントロメア、Dennd5b遺伝子のセントロメア、FAM60A遺伝子のセントロメア、Caprin2遺伝子のセントロメア、Ipo8遺伝子のセントロメアまたはRPS4Y2遺伝子のセントロメアに位置する。ハムスターゲノムの第8染色体上の切断点は、Ipo8遺伝子のセントロメアに位置することが多いことが見出された。一実施形態によれば、第8染色体上の切断点は、Tmtc1遺伝子内に位置し、前記遺伝子は発現されないか、またはその発現は低い。一実施形態によれば、Tmtc1遺伝子のセントロメアに位置するErgic2遺伝子は、第8染色体上で欠失されない。したがって、この実施形態によれば、切断点は、Ergic2遺伝子のテロメア(ここで、これに関するテロメアはテロメア末端の方向の下流にあることを意味する)にあり、Ergic2遺伝子が存在する。
【0031】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の機能的発現は、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞中で低下するか、または消失する。様々な手段により、例えば、少ない転写物が生産されるか、もしくは転写物が生産されないようにC12orf35遺伝子のプロモーターおよび/もしくはエンハンサーを変化させることにより、または転写もしくは転写後遺伝子サイレンシングなどの遺伝子サイレンシング技術により、C12orf35遺伝子の機能的発現に影響を及ぼすことができる。一実施形態によれば、単離された真核細胞は、C12orf35遺伝子のプロモーター領域中に1つまたは複数の変異を含む。例えば、プロモーター領域を変化させて、あまり機能的でないか、または非機能的なプロモーターを提供することができ、プロモーターを完全に消失させることもできる。あるいは、またはさらに、C12orf35の代わりに他のポリペプチドの発現をもたらす、C12orf35遺伝子のプロモーターと、開始コドンとの間に停止コドンを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を付加することができる。それぞれの方法は当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細な説明を必要としない。
【0032】
機能的遺伝子発現の低下は、発現がさらに消失するレベルを達成してもよい。転写後遺伝子サイレンシングを、例えば、アンチセンス分子またはRNA干渉を媒介する分子により達成することができる。非限定例を、以下に簡単に記載する。
【0033】
アンチセンスポリヌクレオチドを、RNAに特異的に結合するように設計し、逆転写またはメッセンジャーRNA翻訳の停止により、RNA−DNAまたはRNA−RNAハイブリッドの形成をもたらすことができる。多くの形態のアンチセンスが開発されており、酵素依存的アンチセンスまたは立体遮断的アンチセンスに広く分類することができる。酵素依存的アンチセンスは、一本鎖DNA、RNA、およびホスホロチオエートアンチセンスを含む、標的mRNAを分解するためにRNaseH活性に依存する形態を含む。アンチセンスポリヌクレオチドは、典型的には、転写される鎖としてアンチセンス鎖を含有するアンチセンス構築物からの発現により細胞内で生成される。Trans切断性触媒RNA(リボザイム)は、エンドリボヌクレアーゼ活性を有するRNA分子である。リボザイムを、特定の標的のために特異的に設計し、工学的に操作して、細胞性RNAのバックグラウンドにおいて部位特異的に任意のRNA種を切断することができる。切断事象は、mRNAを不安定にし、タンパク質発現を防止する。それぞれのアンチセンス分子が、例えば、永続的に発現されるように、真核細胞のゲノムを変化させることができる。
【0034】
転写後レベルでC12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるための別の好適な選択肢は、RNA干渉(RNAi)に基づくものである。実施例により示されるように、RNAiによりC12orf35遺伝子の発現を低下させることは、宿主細胞の生産性を増大させるために有効である。有意により多くの組換え産物が、RNAiによるC12orf35遺伝子のサイレンシングの際に生産される。さらに、実施例により示されるように、目的の生成物のmRNA発現レベルはC12orf35遺伝子のサイレンシングの際に増大する。RNAiにより遺伝子をサイレンシングするための方法は、当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細な説明を必要としない。C12orf35遺伝子の発現を沈黙化するために用いることができるRNAi誘導化合物の例としては、これらに限定されるものではないが、短い干渉核酸(siNA)、短い干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)ならびに実際のRNAi誘導化合物に細胞中でプロセシングされるそれらの前駆体が挙げられる。一実施形態によれば、siRNAがサイレンシングのために用いられる。siRNAを、各鎖上に3’突出部を有する二本鎖分子として提供することができる。平滑末端分子を用いることもできる。前記siRNAは、デスオキシ−ならびにリボヌクレオチドを含んでもよく、さらに、改変ヌクレオチドを含んでもよい。siRNA化合物のいくつかの実施形態および変形形態が先行技術において公知であり、C12orf35遺伝子の発現を低下させるために用いることができる。RNAレベルで標的遺伝子の選択/同定された標的配列を標的化する好適なsiRNAは、ある特定の設計アルゴリズムを適用する、適切な計算方法により同定することができる。標的転写物に対するsiRNAを得るために、二本鎖分子を細胞中に直接トランスフェクトすることができる。実施例により示されるように、C12orf35遺伝子の発現を低下させるためのそのような一過的方法は、目的の生成物の組換え発現を増加させるのに有効である。あるいは、siRNAは、長いdsRNAまたは小さいヘアピンRNA(shRNA)をsiRNAに変換する酵素であるダイサーによるプロセシングから生じてもよい。これらの前駆体または最終的なsiRNA分子は外因的(人工的)に生産させることができ、次いで様々なトランスフェクション法により真核細胞中に導入することができる。さらなる実施形態によれば、RNAi誘導化合物は、真核細胞中にトランスフェクトされるベクターにより発現される。siRNAについては、これは、例えば、2つの鎖の間のループの導入により行うことができ、したがって、単一の転写物を生産し、次いで、真核細胞中で機能的なsiRNAにプロセシングすることができる。そのような転写カセットは、典型的には、通常、小さい核RNA(shRNA)の転写を指令するRNAポリメラーゼ3プロモーター(例えば、U6またはH1)を用いる。次いで、ベクターからの得られるshRNA転写物はダイサーによってプロセシングされ、それによって、好ましくは、特徴的な3’突出部を有する二本鎖siRNA分子を生産すると推測される。一実施形態によれば、そのようなshRNAを提供するベクターは、真核細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。C12orf35遺伝子の下方調節はむしろ安定であり、一過的ではない、定常的に生産されるsiRNAに起因するため、この実施形態は有利である。次いで、それぞれのshRNAを提供するベクターを含む細胞に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをトランスフェクトすることができる。あるいは、shRNAを生成するベクターを、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に同時トランスフェクトする、同時トランスフェクション戦略を用いることができる。
【0035】
転写遺伝子サイレンシングは、例えば、エピジェネティック改変を含んでもよい。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、エピジェネティックサイレンシングによって低下させる。C12orf35遺伝子の発現がエピジェネティックサイレンシング、おそらく、DNAメチル化により有意に低下する哺乳動物細胞を同定したところ、前記細胞の組換え生産性は非常に高い。さらに、遺伝子の配列を変化させて、mRNAの半減期を減少させることができる。これはまた、それぞれ変化した細胞中でのC12orf35タンパク質の効果の低下を達成する。
【0036】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の機能的発現を、C12orf35遺伝子の発現の調節に関与する調節エレメントを標的化することにより低下させるか、または消失させる。例えば、転写因子、プロモーター(上記も参照されたい)、エンハンサー、UTR、または他の調節エレメントを、例えば、ノックアウト、欠失、下方調節または前記調節エレメントの活性を不活化するか、もしくは低下させる他の任意の変化により標的化することによって、C12orf35遺伝子の機能的発現を防止するか、または低下させ、それによって、内因性発現産物の効果を減弱させることができる。
【0037】
一実施形態によれば、真核細胞のゲノムを変化させて、内因的に発現されるC12orf35タンパク質よりも非機能的であるか、またはあまり機能的でないC12orf35変異体の異種発現によりC12orf35の効果を減弱させる。この実施形態においては、単離された真核細胞は、目的のポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドに加えて、C12orf35変異体をコードするさらなる異種ポリヌクレオチドを含む。それぞれの非機能的な、またはあまり機能的でない変異形態のC12orf35を過剰発現させることにより、ドミナントネガティブ表現型を作出することができる。細胞中でのC12orf35の効果を減弱させ、したがって、低下させるためのさらなる選択肢は、C12orf35を中和し、したがって、細胞中でのC12orf35の効果を減弱させる抗体などのタンパク質の異種発現である。一実施形態によれば、C12orf35の効果は、C12orf35と機能的に相互作用する分子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、細胞中で減弱される。
【0038】
別の実施形態によれば、プロモーター中の調節領域への転写因子の結合を特異的に阻害することにより、または標的遺伝子の転写に必要とされる転写の活性化因子を阻害することにより、C12orf35遺伝子の発現を阻害する低分子量化合物を用いる。
【0039】
一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも75倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍または少なくとも125倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも750倍、少なくとも1000倍、少なくとも1250倍、少なくとも1500倍、少なくとも1750倍、または少なくとも2000倍低下する。これは、例えば、リアルタイムRT−PCRまたは他の高感度RNA検出法を用いることにより決定することができる。そのような低下は、例えば、C12orf35遺伝子の発現が低下しない非改変参照細胞と比較して達成することができる。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して0.05%以下、0.0475%以下、0.045%以下、0.0425%以下、0.04%以下、0.0375%以下、0.035%以下、0.0325%以下、0.03%以下、0.0275%以下、0.025%以下、0.0225%以下、0.02%以下、0.0175%以下、0.015%以下である。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して、0.001%以下、0.0001%以下またはさらには0.00001%以下など、さらに低い。C12orf35遺伝子の機能的発現は、C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞と比較して、前記改変された真核細胞が目的の生成物をコードする発現ベクターをトランスフェクトされた場合、目的の組換え産物の発現の増加をもたらすように低下する。一実施形態によれば、目的の組換え産物の発現は、C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞の発現よりも少なくとも1.5倍高い、少なくとも1.75倍高い、少なくとも2倍高い、少なくとも2.5倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも4倍高いまたは少なくとも5倍高い。実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現が低下せず、消失していない対応する細胞の発現よりも少なくとも8倍高い、少なくとも10倍高いまたは少なくとも15倍高い発現率が得られる。例えば、C12orf35遺伝子の発現が低下せず、消失していない対応する細胞の発現率よりも最大で35倍高いG418を用いる選択後に、発現率を決定した。組換え産物の発現率は、例えば、実施例に記載のアッセイを用いて試験することができる。
【0040】
さらなる実施形態によれば、C12orf35遺伝子の発現産物の効果を、C12orf35遺伝子の発現産物の効果に対抗するか、またはそれを阻害する化合物を用いることによって低下させるか、または消失させる。それぞれの阻害化合物は、任意の天然のものであってよく、これらに限定されるものではないが、特に、小分子、タンパク質およびペプチドなどの化合物が挙げられる。別の可能性は、例えば、タンパク質のユビキチン化を刺激することにより、タンパク質産物の分解を刺激する低分子量化合物などの化合物の使用である。
【0041】
一実施形態によれば、さらに、Bicd1、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8、RPS4Y2およびTmtc1からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子または上記の遺伝子のテロメアに位置する1つもしくは複数の遺伝子の発現産物の効果が減弱される。上記の個々の遺伝子ならびに/またはホモログおよびオルソログを含むコードされるタンパク質の非限定的代替名も、上記の表1に示され、それぞれのタンパク質をコードするそれぞれの遺伝子は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲によって包含される。同様に、効果の減弱は、例えば、それぞれの遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができる。好適な技術および実施形態は、C12orf35遺伝子と共に上記されており、同様に他の任意の標的遺伝子に適用される。上記のように、前記遺伝子は、チャイニーズハムスターの第8染色体およびマウスの第6染色体のテロメア領域に位置する。前記テロメア領域の一部が、例えば、上記の染色体切断を誘導することによって欠失された場合、欠失した領域は通常、上記遺伝子の1つまたは複数を含む。
【0042】
好ましい実施形態によれば、C12orf35の効果が減弱される前記細胞においては、さらに、FAM60Aタンパク質の効果が、好ましくは、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱される。さらなる予想外の知見は、例えば、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることによる、真核細胞中でのFAM60Aの効果の減弱が、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを安定にトランスフェクトした際に、改善された安定性特徴を有する組換え産物を発現する得られる細胞クローンの存在量の有意な増加をもたらすということであった。したがって、FAM60A遺伝子に関して、組換え発現の安定性に影響する、鍵となる遺伝子が同定された。さらに、細胞中でのFAM60Aの効果の減弱は、発現安定性を増大させることにより目的の生成物の組換え生産を有意に改善させる。実施例に示されるように、例えば、遺伝子ノックアウトによる、FAM60Aの効果の減弱は、安定性特徴を有意に改善する。長期培養中の発現安定性の顕著な喪失は、それぞれの宿主細胞についてはより稀であり、さらに、起こる場合、ゲノムを変化させずに細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させた細胞と比較して、生産性のあまり劇的ではない低下をもたらす。安定なクローンの存在量は、安定的トランスフェクションの際に増加する。したがって、長期培養中に不安定にならないか、またはあまりならない宿主細胞を同定するための安定性分析を短縮するか、またはさらには省略することができる。それは長期間にわたって良好な収率で目的の組換え産物を発現する安定に発現する細胞クローンを得るために必要とされる時間を短縮し、したがって、大規模生産の目的にとって好適であるため、これは重要な利点である。これは、スクリーニング労力を有意に軽減する。したがって、発現安定性および収率に関して改善された特徴を示す真核宿主細胞が提供されるため、同じ細胞中でのFAM60AおよびC12orf35の効果を減弱させることは、特に有利である。それにより、目的の組換え産物の生産のための特に有利な特性を有する真核宿主細胞が提供される。本明細書に記載されるように、真核細胞は、好ましくは哺乳動物細胞である。
【0043】
FAM60Aは、転写抑制において機能する、SIN3−ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)複合体(SIN3/HDAC複合体)のサブユニットである(Munoz et al., 2012, THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 287, NO. 39, pp. 32346-32353;Smith et al., 2012, Mol Cell Proteomics 11 (12): 1815-1828)。ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、ヒストンからのアセチル基の除去を触媒する。リシン上でのヒストンのアセチル化は、クロマチンコンフォメーションを調節するための主要な機構である。ヒストンアセチル化は、弛緩した、転写的に活性なクロマチン状態を促進するが、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)により触媒されるデアセチル化は、サイレントな、不活性状態を好む。データベース分析により、多くの後生動物において少なくとも1つのFAM60Aオルソログの存在が示されたが、線形動物では示されなかった。FAM60A遺伝子は、後生動物において保存されており、完全に配列決定されている全ての脊椎動物および多くの無脊椎動物のゲノムにおいて見出すことができる。例えば、FAM60Aタンパク質の100%の配列同一性は、ヒト、ラット、マウスおよびウシの間で見出すことができる。FAM60Aホモログの配列類似性研究は、主に、ゲノム中にこのファミリーの単一の代表メンバーのみが存在することを示している。ごくわずかな例外が存在する。Smith et al, 2012によれば、FAM60Aタンパク質は、任意の公知のタンパク質ドメインを欠く独特の配列を有する。さらに、それがヒトプロテオーム中の他の公知のタンパク質に対する配列相同性を示さないことがSmith et al 2012により記載された。異なる種に由来するFAM60Aタンパク質間での配列比較により、FAM60Aタンパク質が一般に、3つの領域:(1)全ての後生動物において高度に保存されたセグメントを含むN末端、(2)脊椎動物間では高度に保存されているが、無脊椎動物においては、可変長の非保存スペーサーからなる、中央領域、(3)全ての後生動物において高度に保存されたセグメントを含むC末端を含むことが示された。したがって、最も高い保存は、FAM60AのNおよびC末端領域において観察された。上記のように、研究は、FAM60Aが、特に、哺乳動物細胞などの様々な真核細胞型においてSIN3/HDAC複合体と会合することを示している。しかしながら、現在まで、FAM60Aに関する機能情報は、全く限られている。最近の機能研究(Smith et al, 2012を参照されたい)は、FAM60Aが遺伝子発現を抑制することができ、遺伝子の特定のサブセットを調節することを示している。Smith et al 2012は、がんの進行、転移、細胞移動および免疫学的監視のようなプロセスにおいて極めて重要な役割を果たす、TGF−ベータシグナリング経路の調節におけるFAM60Aの役割を報告している。FAM60AがTGF−ベータシグナリング経路の成分の転写リプレッサーとして作用するが、このFAM60Aの機能はSIN3−HDAC複合体におけるその役割により許容されると考えられることを示す知見がある。FMA60Aに対するsiRNAを用いた異なるがん細胞株におけるFAM60Aの枯渇は、通常のがん細胞形態の変化をもたらした。さらに、FAM60Aタンパク質レベルがU2OS細胞中での細胞周期の経過内で定期的に変化することがわかった(Munoz et al, 2012)。U2OSヒト骨肉腫細胞中でのFAM60A siRNAを用いるFAM60Aノックダウン実験により、FAM60AがサイクリンD1遺伝子発現を抑制することが示された。この科学的バックグラウンドに対して、好ましくは、哺乳動物細胞などの真核細胞中でのFAM60Aタンパク質の効果を減弱させることが、組換え発現にとって重要である細胞の他の特徴に負に影響することなく、前記細胞中での異種遺伝子発現の安定性を有意に増大させることを見出すことは非常に驚くべきことであった。FAM60Aタンパク質の効果と、細胞の長期培養の間の発現安定性とのこの相関は予想外のものであった。
【0044】
記載のように、FAM60A遺伝子は、後生動物、したがって、ヒト、マウス、ラットおよびハムスターなどの哺乳動物種において内因的に発現され、FAM60Aのアミノ酸配列は、哺乳動物種ならびに脊椎動物において高度に保存されている。FAM60Aの効果が減弱された変化した真核細胞は、FAM60Aを内因的に発現する真核細胞から誘導される。簡潔にするために、FAM60Aタンパク質ならびにFAM60Aタンパク質をコードするFAM60A遺伝子は、本明細書では、いくつかの種において、異なるつづりが遺伝子および/またはタンパク質のために用いられる場合であっても大文字でつづられる。配列表は、異なる脊椎動物種、すなわち、ヒト(Homo sapiens)(配列番号11)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(配列番号12)、ハツカネズミ(Mus musculus)(配列番号13)、モンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)(配列番号14)、セキショクヤケイ(Gallus gallus)(配列番号15)、チンパンジー(Pan troglodytes)(配列番号16)、スマトラオランウータン(Pongo abelii)(配列番号17)およびウシ(Bos taurus)(配列番号18)の既知の、および/または予測されるFAM60Aタンパク質の例示的アミノ酸配列を示す。モンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus griseus)の予測されるFAM60A cDNAを、配列番号19(14〜679のコード配列;NCBI Reference Sequence:XM_003505482.1も参照されたい)に示す。異なる種におけるFAM60Aタンパク質またはFAM60A遺伝子について、異なる名称を割り当てることができ、非限定的代替名(別名)も上記の表1に列挙する。本明細書で用いられる用語「FAM60A」はまた、FAM60Aと同じ機能を有するFAM60Aの任意のホモログおよびオルソログを包含する。一実施形態によれば、本明細書で用いられる用語「FAM60A」は、特に、配列番号11〜18に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数に対する少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の相同性を有するタンパク質を指す。一実施形態によれば、上記のパーセンテージ値は、相同性の代わりにポリペプチド同一性を指す。相同性、それぞれ、同一性は、参照タンパク質の全長にわたって算出することができる。それぞれのタンパク質は、好ましくは、配列番号11または配列番号12〜18の1つもしくは複数、好ましくは、配列番号14に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ機能を有する。FAM60Aタンパク質は、文献中には詳細に記載されていない。したがって、例えば、宿主細胞中でのFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成することができるように、前記細胞のゲノムを、内因性FAM60Aタンパク質の効果が細胞中で減弱されるように変化させる場合、組換え宿主細胞の発現安定性を改善することができることは非常に驚くべきことであった。FAM60Aが目的の組換え産物の発現安定性に影響することは予想外であった。一実施形態によれば、FAM60Aタンパク質をコードするFAM60A遺伝子を変化させて、細胞中でのFAM60Aの効果を減弱させる。これは、例えば、本明細書に記載されるような遺伝子ノックアウト技術などの遺伝子工学技術により達成することができる。異なる哺乳動物種のゲノム遺伝子配列は公知であり、例えば、ヒト(Homo sapiens)(NCBI Gene−ID:58516);ドブネズミ(Rattus norvegicus)(NCBI Gene−ID:686611);ハツカネズミ(Mus musculus)(NCBI Gene−ID:56306);ウシ(Bos Taurus)(NCBI Gene−ID:538649)その他に記載されている。転写物変異体が、種依存的様式で、異なる数で存在してもよい。例えば、ヒトFAM60A遺伝子は、UTRにおいて異なるが、同じタンパク質をコードする3つの推定転写物アイソフォームを発現する。
【0045】
一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも75倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍または少なくとも125倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも750倍、少なくとも1000倍、少なくとも1250倍、少なくとも1500倍、少なくとも1750倍、少なくとも2000倍、少なくとも2500倍、少なくとも3000倍または少なくとも3500倍低下する。発現は、例えば、リアルタイムRT−PCRまたは他の高感度RNA検出法を用いることにより決定することができる。そのような低下は、例えば、内因性FAM60A遺伝子の発現が低下していない非改変参照細胞と比較して達成することができる。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、0.01%以下、0.005%以下または0.0025%以下である。一実施形態によれば、FAM60A遺伝子の発現は、同じ細胞中での18S RNAの発現(100%と設定される)と比較して、0.001%以下、0.0005%以下またはさらには0.0002以下など、さらに低い。
【0046】
一実施形態によれば、単離された真核細胞は、さらに、FAM60Aタンパク質の効果が真核細胞中で減弱されるように変化された前記細胞の集団を起源とし、前記細胞はそのゲノム中に安定に組み込まれた、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含み、前記集団を起源とする細胞の平均で少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%が、少なくとも8週間、好ましくは10週間、より好ましくは12週間の期間にわたって目的の生成物の発現力価の30%超、好ましくは25%超を失わない。実施例に示されるように、安定にトランスフェクトされた細胞のトランスフェクションおよび同定の後、長期培養中に生産性の徐々の喪失を示さない細胞の量は、本明細書に記載の変化した細胞を用いた場合に増加する、すなわち、より安定な細胞クローンが選択された細胞集団から得られる。安定性特徴を、細胞クローンとして前記集団に由来する個々の細胞を培養し、示された期間にわたって力価を決定することにより試験することができる。安定性は、例えば、実施例に記載のアッセイを用いて試験することができる。安定率は、発現されるタンパク質およびそれが、例えば、コドン最適化されているかどうかに応じてプロジェクト間で変化してもよい。しかしながら、本開示による変化した真核細胞に関して、分析された全てのプロジェクトにおいて、FAM60Aの効果が減弱されていない野生型細胞と比較して、安定発現クローンの有意な増加が観察された。安定発現特徴を有する細胞の存在量は、うまくトランスフェクトされた宿主細胞の集団において有意に増加した。したがって、長期培養中に生産性を徐々に喪失する不安定クローンが大規模生産のために選択される危険性は、FAM60AおよびC12orf35の効果が細胞中で減弱されるこの実施形態に関して有意に低下する。この重要な利点により、通常は不安定なクローンを消失させるために実施される長期安定性分析を有意に軽減するか、またはさらには完全に省略することができる。
【0047】
真核細胞は、C12orf35遺伝子を内因的に発現する種から誘導される。さらに、真核細胞は、通常は前記遺伝子を発現する細胞型から誘導される。例を以下に記載する。用語「単離された」は、真核細胞が動物またはヒトなどの生きている生物に含まれないことを明確にするために用いられる。本明細書に記載されるように、細胞は、細胞培養物、細胞株、細胞クローンなどとして提供することができる。この例も以下に記載する。上記のように、前記真核細胞を改変して、C12orf35を内因的に発現する対応する非改変真核細胞と比較して、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させる。減弱は、好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより達成される。実施形態は上記されている。均一な、したがって、予測可能な特徴を有する生産細胞株を提供するために、真核細胞のゲノムを変化させて減弱を達成することが好ましい。好適な実施形態は上記されている。次いで、それぞれ変化させた真核細胞に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをトランスフェクトすることができる。真核細胞は、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞などの後生動物細胞であってもよい。したがって、真核細胞について本明細書に記載される全ての実施形態は一般に、哺乳動物細胞が用いられる好ましい実施形態に適用される。真核細胞は、例えば、げっ歯類細胞、ヒト細胞およびサル細胞からなる群から選択することができる。好ましい真核細胞は、例えば、ハムスターまたはマウスから誘導される細胞などのげっ歯類細胞である。それらは、例えば、CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞、BHK細胞、NS0細胞、C127細胞、マウス3T3線維芽細胞、およびSP2/0細胞からなる群から選択することができる。特に好ましいのは、CHO細胞である。CHO細胞の例は、CHO−K1、CHO−S、CHO−K1SV、CHO−SSF3、CHO−DG44、CHO−DUXB11、またはそれらから誘導される細胞株である。実施例に示されるように、CHO細胞中でのC12orf35遺伝子の発現を低下させること、または消失させることは、有意に増大した収率で組換え産物を生産することができるCHO細胞を提供する。C12orf35遺伝子は、ヒト細胞中でも発現される。したがって、一実施形態によれば、真核細胞は、例えば、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞、CAP細胞、造血細胞およびHeLa細胞からなる群から選択されてもよいヒト細胞から誘導される。別の代替物は、例えば、COS細胞、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群から選択されてもよいサル細胞である。一実施形態によれば、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞は、細胞クローンまたは細胞株として提供される。
【0048】
一実施形態によれば、真核細胞は、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチド、選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドおよび/または前記細胞から発現される、特に、分泌されるリポーターポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含まない。それぞれの「空の」真核細胞を、例えば、組換え生産技術のためのクローニング細胞株として用いることができる。それぞれの細胞に、例えば、適切な発現ベクターを用いて、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトすることができる。したがって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が減弱され、組換え産物をまだ発現しない、特に、分泌しない、そのような「空の」真核細胞に、組換え生産されると考えられる目的の所望の生成物に応じて、異なる発現ベクターをトランスフェクトすることができる。したがって、そのような真核細胞株を、異なるプロジェクトのために、すなわち、目的の異なる生成物、特に、目的の分泌されるポリペプチドの生産のために用いることができる。トランスフェクションは一過的または安定的であってよく、実施例により示されるように、改善された発現収率が両方の実施形態において観察される。
【0049】
一実施形態によれば、真核細胞は、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。目的の生成物は、真核細胞により大量に発現されると考えられる組換え産物である。好ましくは、目的の生成物は、ポリペプチドである。さらに、真核細胞は、選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドおよび/またはリポーターをコードする異種ポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。選択可能マーカーこれにより、うまくトランスフェクトされ、したがって、目的の生成物を発現する宿主細胞の選択が単純化される。さらに、真核細胞は、異なる選択可能マーカーおよび/またはリポーターポリペプチドをコードするいくつかのポリヌクレオチドを含んでもよい。一実施形態によれば、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドは、第1の態様による真核細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。
【0050】
本明細書で用いられる「異種ポリヌクレオチド」または「異種核酸」および同様の表現は、特に、例えば、トランスフェクションなどの組換え技術の使用により、真核細胞中に導入されたポリヌクレオチド配列を指す。「ポリヌクレオチド」は、特に、あるデオキシリボースまたはリボースから別のものに通常連結されるヌクレオチドのポリマーを指し、文脈に応じて、DNAならびにRNAを指す。用語「ポリヌクレオチド」は、サイズ制限を含まない。
【0051】
発現ベクターを用いて、異種ポリヌクレオチドを導入することができる。ポリヌクレオチドは、発現カセット中に含まれ得る。目的の生成物をコードするポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーまたはリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または異なる発現ベクター上に位置し得る。真核細胞への導入は、例えば、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む好適な発現ベクターを宿主細胞中にトランスフェクトすることにより達成することができる。発現ベクターは、好ましくは、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる(安定的トランスフェクション)。異種核酸がゲノム中に挿入されない場合、異種核酸はより後の段階で、例えば、細胞が有糸分裂を受ける時に失われ得る(一過的トランスフェクション)。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規真核細胞は、両方の実施形態、すなわち、一過的ならびに安定的トランスフェクションにとって有利である。工業規模で目的のポリペプチドなどの目的の生成物を生産させるための高発現細胞クローンを生成するためには、安定的トランスフェクションが好ましい。これは、目的の治療用または診断用ポリペプチドにとって特に重要である。哺乳動物宿主細胞などの真核細胞中に発現ベクターなどの異種核酸を導入するためのいくつかの適切な方法が先行技術において公知であり、したがって、本明細書では詳細な説明を必要としない。それぞれの方法としては、これらに限定されるものではないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、ビオリスティック媒介性およびポリマー媒介性遺伝子導入などが挙げられる。伝統的な無作為組み込みに基づく方法の他に、組換え媒介性手法を用いて、異種ポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノム中に導入することもできる。それぞれの方法は、先行技術において周知であるため、それらはここで詳細な説明を必要としない。好適なベクター設計の非限定的実施形態も続いて記載し、それはそれぞれの開示に付託される。
【0052】
目的の組換え産物の発現を達成するために用いられる発現ベクターは、通常は発現カセットのエレメントとして、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写中断または終結シグナルなどの転写を駆動するのに好適な転写制御エレメントを通常含有する。所望の生成物がポリペプチドである場合、例えば、リボソームおよび翻訳プロセスを終結させるための停止コドンを動員するのに好適な5’キャップ構造をもたらす5’非翻訳領域などの、好適な翻訳制御エレメントを、好ましくは、ベクター中に含有させる。得られる転写物は、タンパク質発現(すなわち、翻訳)および適切な翻訳終結を容易にする機能的な翻訳エレメントを担持する。組み込まれるポリヌクレオチドの発現を適切に駆動することができる機能的発現ユニットは、「発現カセット」とも称される。発現カセットを、好ましくは哺乳動物細胞などの真核細胞中での発現を可能にするためにどのように設計するべきであるかは、当業者には周知である。
【0053】
目的の生成物をコードするポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドおよび/または本明細書に記載のリポーターポリペプチドは、好ましくは、発現カセット中に含まれる。いくつかの実施形態が好適である。例えば、前記ポリヌクレオチドのそれぞれは、別々の発現カセット中に含まれ得る。これはモノシストロン設定とも称される。また、それぞれのポリヌクレオチドの少なくとも2つが1つの発現カセット中に含まれることも本発明の範囲内にある。一実施形態によれば、少なくとも1つの内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントは、同じ発現カセットから発現されるポリヌクレオチドの間に機能的に配置される。それにより、前記転写物から別々の翻訳産物が得られることが確保される。それぞれのIRESに基づく発現技術ならびに他の二シストロン系および多シストロン系は周知であり、したがって、ここではさらなる説明を必要としない。
【0054】
記載のように、発現ベクターは、発現カセットのエレメントとしての少なくとも1つのプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントを含んでもよい。プロモーターは、構成的に機能するものと、誘導または抑制解除により調節されるものとの2つのクラスに分けることができる。両方とも好適である。多くの細胞型における発現を駆動する強力な構成的プロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス極初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにマウス3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、EF1aが挙げられる。一実施形態によれば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、CMVおよび/またはSV40のいずれかから得られる。転写プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1アルファプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群から選択することができる。また、他のプロモーターが、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞中での目的の生成物の発現をもたらす場合、それらを用いてもよい。
【0055】
さらに、発現カセットは、少なくとも1つのイントロンを含んでもよい。通常、イントロンは、オープンリーディングフレームの5’末端に位置するが、3’末端に位置してもよい。前記イントロンは、プロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントと、発現させようとする目的の生成物をコードするポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームの5’末端との間に配置することができる。いくつかの好適なイントロンが現況技術で公知であり、本開示と共に用いることができる。
【0056】
目的の生成物は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドによりコードされる遺伝子情報の転写、翻訳または発現の任意の他の事象により生産され得る任意の生物学的生成物であってもよい。目的の生成物は、ポリペプチドおよび核酸、特にRNAからなる群から選択することができる。生成物は、薬学的もしくは治療的に活性な化合物、またはアッセイにおいて用いられる研究手段などであってもよい。好ましくは、目的の生成物は、ポリペプチドである。目的の任意のポリペプチドは、本発明の方法を用いて発現させることができる。用語「ポリペプチド」とは、ペプチド結合により一緒に連結されたアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドは、タンパク質(例えば、50個を超えるアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2〜49個のアミノ酸)を含む、任意の長さのポリペプチドを含む。ポリペプチドは、任意の活性、機能またはサイズのタンパク質および/またはペプチドを含み、例えば、酵素(例えば、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体、輸送因子、殺菌タンパク質および/または内毒素結合タンパク質、構造ポリペプチド、膜結合ポリペプチド、糖タンパク質、球状タンパク質、免疫ポリペプチド、毒素、抗生物質、ホルモン、成長因子、血液因子、ワクチンなどが挙げられ得る。ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、特に、抗体またはその機能的抗体断片もしくは変異体およびFc融合タンパク質からなる群から選択することができる。また、本明細書に記載の教示に従って発現される目的のポリペプチドは、例えば、抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその機能的断片もしくは誘導体などの、ポリペプチドのサブユニットまたはドメインであってもよい。用語「目的の生成物」または「目的のポリペプチド」は、文脈に応じて、そのような個々のサブユニットもしくはドメインまたはそれぞれのサブユニットもしくはドメインから構成される最終タンパク質を指してもよい。好ましい実施形態においては、目的のポリペプチドは、免疫グロブリン分子、より好ましくは抗体、または例えば、抗体の重鎖もしくは軽鎖などのそのサブユニットもしくはドメインである。本明細書で用いられる用語「抗体」とは、特に、ジスルフィド結合により接続された少なくとも2つの重鎖と2つの軽鎖とを含むタンパク質を指す。用語「抗体」は、天然の抗体ならびに全ての組換え形態の抗体、例えば、ヒト化抗体、完全ヒト抗体およびキメラ抗体を含む。各重鎖は通常、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。各軽鎖は通常、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。しかしながら、用語「抗体」はまた、単一ドメイン抗体、重鎖抗体、すなわち、1つまたは複数、特に、2つの重鎖のみから構成される抗体、およびナノボディ、すなわち、単一のモノマー可変ドメインのみから構成される抗体などの、他の型の抗体も含む。上記で論じたように、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはまた、目的のポリペプチドとして、抗体の1つまたは複数のサブユニットまたはドメイン、例えば、重鎖もしくは軽鎖またはその機能的断片もしくは誘導体をコードしてもよい。前記サブユニットまたはドメインは、同じか、または異なる発現カセットから発現させることができる。抗体の「機能的断片または誘導体」は、特に、抗体から誘導され、抗体と同じ抗原、特に、同じエピトープに結合することができるポリペプチドを指す。抗体の抗原結合機能を、完全長抗体の断片またはその誘導体により実行することができることが示されている。抗体の断片または誘導体の例としては、(i)可変領域と、それぞれの重鎖および軽鎖の第1の定常ドメインとからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab)断片;(iii)可変領域と、重鎖の第1の定常ドメインCH1とからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームの重鎖および軽鎖可変領域からなるFv断片;(v)単一のポリペプチド鎖からなるFv断片であるscFv断片;(vi)一緒に共有結合的に連結された2つのFv断片からなる(Fv)断片;(vii)重鎖可変ドメイン;ならびに(viii)重鎖および軽鎖可変領域の会合が分子間でのみ起こり得るが、分子内では起こらないような様式で一緒に共有結合的に連結された重鎖可変領域と軽鎖可変領域とからなるマルチボディが挙げられる。一実施形態によれば、真核細胞は、細胞培養培地中に目的の組換えポリペプチドを分泌する。一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、C12orf35タンパク質ではないか、またはC12orf35タンパク質を含まない。
【0057】
真核細胞は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと一致する、それぞれ、同一である内因性ポリヌクレオチドを含んでも、または含まなくてもよい。一実施形態によれば、真核細胞は、目的の生成物と一致する内因性遺伝子を含まない。
【0058】
記載のように、好ましい実施形態においては、真核細胞は、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドおよび/または目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドに加えてリポーターポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含む。
【0059】
「選択可能マーカー」は、適切な選択培養条件下で、前記選択可能マーカーを発現する宿主細胞の選択を可能にする。選択可能マーカーは、選択条件下で前記マーカーの担体に、生存および/または成長の利点を提供する。それにより、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた宿主細胞を、適切な選択条件下で選択することができる。典型的には、選択可能マーカー遺伝子は、薬物、例えば、抗生物質もしくは他の毒性薬剤などの選択剤に対する耐性を付与するか、または宿主細胞における代謝的もしくは異化的欠陥を相殺する。それは、陽性または陰性選択マーカーであってもよい。うまくトランスフェクトされた宿主細胞を選択するために、宿主細胞を培養するために用いることができる培養培地は、用いられる選択可能マーカーの選択を可能にする選択剤を含む。他の実施形態においては、選択マーカーにより、選択マーカーを欠く宿主細胞の生存および/または増殖にとって必須である化合物の非存在下または減少下で宿主細胞が生存および/または増殖することができる。宿主細胞の生存および/もしくは増殖にとって十分に高い濃度の必須化合物を含まないか、または減少した量の前記必須化合物を含む培地中で宿主細胞を培養することにより、選択マーカーを発現する宿主細胞のみが生存および/または増殖することができる。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、前記薬物を含む選択条件に対する耐性を付与するタンパク質をコードする薬物耐性マーカーである。様々な選択可能マーカー遺伝子が記載されている(例えば、WO92/08796、WO94/28143、WO2004/081167、WO2009/080759、WO2010/097240を参照されたい)。例えば、1つまたは複数の抗生剤に対する耐性を付与する少なくとも1つの選択可能マーカーを用いることができる。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、増幅可能な選択可能マーカーであってもよい。増幅可能な選択可能マーカーは、宿主細胞を含有するベクターの選択を可能にし、宿主細胞中での前記ベクターの遺伝子増幅を促進することができる。特に、哺乳動物細胞などの真核細胞と共に一般的に用いられる選択可能マーカー遺伝子としては、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミンシンテターゼ、アスパラギンシンテターゼの遺伝子、ならびにネオマイシン(G418)、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン、ウアバイン、ブラスチシジン、ヒスチジノールD、ブレオマイシン、フレオマイシンおよびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。一実施形態によれば、葉酸受容体は、好ましくは哺乳動物細胞である、本明細書に記載の新規真核細胞(例えば、WO2009/080759を参照されたい)と共に選択可能マーカーとして用いられる。一実施形態によれば、真核細胞は、選択可能マーカーとして葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、および/または選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。この実施形態も、第2の態様による選択方法と共に以下に詳細に説明する。真核細胞は、DHFRおよび葉酸受容体を内因的に発現してもよい。
【0060】
「リポーターポリペプチド」は、報告特徴(例えば、蛍光)に基づいて前記リポーターポリペプチドを発現する細胞の同定を可能にする。リポーター遺伝子は通常、宿主細胞に生存の利点を提供しない。しかしながら、リポーターポリペプチドの発現を用いて、リポーターポリペプチドを発現する細胞と、発現しない細胞とを区別することができる。したがって、リポーター遺伝子はまた、うまくトランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする。好適なリポーターポリペプチドとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、CFPおよびルシフェラーゼが挙げられる。一実施形態によれば、リポーターポリペプチドは、フローサイトメトリーによる選択を可能にする特徴を有する。
【0061】
記載のように、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターはまた、2つ以上の選択可能マーカーおよび/またはリポーター遺伝子を含んでもよい。さらに、選択可能マーカーをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドおよび/またはリポーターポリペプチドをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドを、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に同時トランスフェクトされる1つまたは複数の異なる発現ベクター上に提供することもできる。そのような同時トランスフェクション戦略は同様に、先行技術において周知のように、選択を可能にする。
【0062】
真核細胞中に含まれる発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、さらなるベクターエレメントをさらに含んでもよい。例えば、目的のさらなる生成物をコードする少なくとも1つのさらなるポリヌクレオチドを含んでもよい。上記で説明された通り、また、本教示に従って発現させることができるポリペプチドの上記の例から明らかとなるように、宿主細胞により生産される、好ましくは、分泌される最終ポリペプチドは、いくつかの個々のサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質であってもよい。それぞれのタンパク質の好ましい例は、免疫グロブリン分子、特に、例えば、重鎖および軽鎖を含む抗体である。異なる個々のサブユニットまたはドメインから構成されるそれぞれのタンパク質を生産するためのいくつかの選択肢が存在し、適切なベクター設計が当業界で公知である。一実施形態によれば、前記タンパク質の2つ以上のサブユニットまたはドメインが1つの発現カセットから発現される。この実施形態においては、1つの長い転写物が、タンパク質の個々のサブユニットまたはドメインのコード領域を含むそれぞれの発現カセットから得られる。一実施形態によれば、少なくとも1つのIRESエレメント(内部リボソーム進入部位)が、個々のサブユニットまたはドメインのコード領域の間に機能的に配置され、それぞれのコード領域の前には分泌リーダー配列がある。それにより、別々の翻訳産物が前記転写物から得られ、最終タンパク質を正確に集合させ、分泌させることができることが確保される。それぞれの技術は先行技術において公知であり、したがって、本明細書で詳細な説明を必要としない。
【0063】
抗体の発現などのいくつかの実施形態については、異なる発現カセットから個々のサブユニットまたはドメインを発現させることがさらに好ましい。一実施形態によれば、目的の生成物を発現させるために用いられる発現カセットは、モノシストロン性発現カセットである。発現ベクターまたは発現ベクターの組合せに含まれる全ての発現カセットは、モノシストロン性であってもよい。したがって、一実施形態によれば、目的の生成物を発現させるために設計された各発現カセットは、目的のポリペプチドとして発現されるタンパク質の1つのサブユニットまたはドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。例えば、抗体の場合、1つの発現カセットが抗体の軽鎖をコードしてもよく、別の発現カセットが抗体の重鎖をコードしてもよい。個々の発現カセットからの個々のサブユニットまたはドメインの発現の後、抗体などの最終タンパク質を前記サブユニットまたはドメインから集合させ、宿主細胞により分泌させる。この実施形態は、抗体などの免疫グロブリン分子を発現させるのに特に好適である。この場合、目的の生成物をコードする第1の異種ポリヌクレオチドは、例えば、免疫グロブリン分子の重鎖または軽鎖をコードし、目的の生成物をコードする第2の異種ポリヌクレオチドは、免疫グロブリン分子の他の鎖をコードする。一実施形態によれば、哺乳動物宿主細胞をトランスフェクトするのに用いられる発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、免疫グロブリン分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドまたはその機能的断片を含む少なくとも1つの発現カセットと、免疫グロブリン分子の軽鎖をコードするポリヌクレオチドまたはその機能的断片を含む少なくとも1つの発現カセットとを含む。前記ポリヌクレオチドは、少なくとも2つの発現ベクターの組合せを用いる場合、同じか、または異なる発現ベクター上に位置してもよい。トランスフェクトされた宿主細胞中での前記ポリヌクレオチドの発現時に、機能的免疫グロブリン分子が宿主細胞から得られ、好ましくは、分泌される。実施例により示されるように、好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記遺伝子の発現産物の効果が減弱された本明細書に記載の新規細胞および細胞株の使用は、タンパク質、特に、抗体などのいくつかのサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質を発現させるのに特に好適である。実施例により示されるように、前記真核細胞により発現される全体的な抗体量は増加する。さらに、特に、FMA60Aの効果が細胞中でさらに減弱される実施形態においては、発現安定性も改善された。したがって、本明細書に記載の新規真核細胞株は、例えば、抗体などのいくつかのサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質などの、ポリペプチドの組換え発現のために用いられる場合、特に有利である。さらなる利点はまた、実施例と共に記載される。
【0064】
B.選択方法
第2の態様によれば、目的の生成物を組換え発現する宿主細胞を選択するための方法であって、
(a)目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞として、第1の態様による真核細胞を提供すること;および
(b)目的の生成物を発現する1つまたは複数の宿主細胞を選択すること
を含む方法が提供される。
【0065】
好適、かつ好ましい実施形態を含む第1の態様による真核細胞ならびにその利点は上記で詳細に説明され、それはそれぞれの開示に付託され、ここにも当てはまる。記載のように、脊椎動物細胞、特に、哺乳動物細胞が、宿主細胞として好ましく用いられる。前記真核細胞の有利な特性は、例えば、好適な生産クローンの選択、したがって、同定を単純化する。さらに、本明細書に記載の真核細胞を用いる場合にトランスフェクトされた細胞集団中の高生産細胞の割合が有意に増大するにつれて、好適な生産クローンを同定するためにその生産特徴について分析およびスクリーニングする必要があるクローンは少なくなる。これは時間を節約し、さらに、並行してより多くのプロジェクトを取り扱うことを可能にする。さらに、実施例により示されるように、高発現細胞の数、それぞれ、割合は、前記新規真核細胞を用いる場合、トランスフェクションおよび選択ステップの後に増大する。そのような発現細胞は、細胞プールとも呼ばれ、有意な量の目的の生成物を生産する。したがって、高発現細胞を含むそのような細胞プールを、例えば、短い時間枠内で目的のポリペプチドを生産するために用いることができる。したがって、目的の生成物を、それぞれの細胞中で迅速に生産させることができる。
【0066】
一実施形態によれば、第2の態様による選択方法の段階(a)は、好ましくは、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドをまだ含まない第1の態様による真核細胞に、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトすることによって、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む真核細胞を提供することを含む。記載のように、哺乳動物細胞は、好ましくは真核宿主細胞として用いられる。目的の生成物をコードするポリヌクレオチドは、発現ベクター中に含まれていてもよく、次いで、これを真核細胞中にトランスフェクトする。
【0067】
選択段階(b)は、高収率で目的の生成物を発現する宿主細胞を選択、したがって、同定するためのいくつかの選択ステップを含むマルチステップ選択プロセスであってもよい。例えば、段階(b)は、うまくトランスフェクトされた細胞を同定するための1つまたは複数の選択ステップならびにうまくトランスフェクトされた細胞のプールから高発現細胞を選択するための1つまたは複数のその後の選択ステップを含んでもよい。適切な選択戦略は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを導入するために用いられる発現ベクターの設計に依存し、特に、用いられる選択マーカーおよび/またはリポーターに依存する。非限定的実施形態を、以下で説明する。
【0068】
上記のように、真核宿主細胞は、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または異なる同時トランスフェクトされる発現ベクターを用いて目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと一緒に宿主細胞中に導入することができる。次いで、段階(b)は、例えば、適切な選択培地を用いて、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定するために宿主細胞に選択圧を提供する条件下で、前記複数の宿主細胞を培養することを含む。本明細書で用いられる場合、「選択培地」とは、特に、選択可能マーカーを発現する宿主細胞の選択にとって有用な細胞培養培地を指す。それは、例えば、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定することができる毒性薬物などの選択剤を含んでもよい。あるいは、選択培地において必須化合物は存在しなくてもよいか、またはその濃度を低下させることができる。一実施形態によれば、うまくトランスフェクトされておらず、したがって、選択マーカーを発現しないか、または発現が低い宿主細胞は、選択培養条件下で、増殖することができないか、または死滅する。対照的に、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた、十分な収率で選択マーカー(したがって、同時導入された目的の生成物)を発現する宿主細胞は、選択圧に対して耐性であるか、またはそれによってあまり影響されず、したがって、増殖することができ、それによって、うまくトランスフェクトされなかった、または細胞のゲノム中への組込み部位が好ましくない宿主細胞を失う。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、抗生物質耐性マーカー、薬物耐性マーカーおよび代謝マーカーからなる群から選択される。選択可能マーカーおよび選択原理のための好適な例は、第1の態様と共に上記されており、個々の選択可能マーカーのための適切な選択条件もまた当業者には周知である。非限定的であるが、有利な実施形態を、以後簡単に説明する。
【0069】
実施例により示されるように、特に、C12orf35遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域に欠失を含むCHO細胞株などの、本明細書に記載の新規真核細胞の1つの利点は、例えば、G418/neo選択などの1つの標準的な選択ステップの後に既に、高生産細胞のパーセンテージが有意に増大するということである。例えば、C12orf35遺伝子の発現が低下せず、消失しない正常なCHO細胞株にトランスフェクトした場合、G418/neo選択を生き残る細胞の、多くは60%またはさらには80%までが非生産体である。非または低生産体の数は、本開示による新規真核細胞株を用いた場合、有意に減少する。これにより、必要に応じて、例えば、G418/neo選択などのただ1つの選択可能マーカー、したがって、ただ1つの選択ステップを用いることによる、段階(b)における選択を効率的に実施することができる。これは選択の速度を増大させ、したがって、目的の生成物を発現するトランスフェクトされた細胞を取得するために必要とされる時間を減少させる。さらに、高生産体の数が増加するため、高生産細胞のための特定の選択の非存在下であっても、クローンのような性能を有する細胞集団を、したがって、非常に短時間で生成させることができることが見出された。したがって、目的の生成物は、そのようなプールから製造することさえできる。したがって、例えば、ある特定の量のタンパク質だけが迅速に必要とされる用途のために、例えば、研究または試験目的のために、迅速に良好な生産細胞または生産細胞プールにするそのような急速選択系が非常に有利である。
【0070】
しかしながら、生産性をさらに増大させることが望ましい場合、段階(b)におけるマルチステップ選択が好ましい。これは、特に、大規模に、特に、工業規模で目的の生成物を生産するためのクローン細胞株を確立することを意図する場合に当てはまる。
【0071】
上記のように、真核細胞中に導入される発現ベクターまたは複数の発現ベクターは、2つ以上の選択可能マーカー遺伝子を含んでもよく、異なる選択可能マーカーの選択を、発現ベクターをうまくトランスフェクトされた、高収率で目的の生成物を発現する宿主細胞を選択するために同時に、または連続的に行うことができる。培養のために用いられる選択培地は、用いられる全ての選択可能マーカーのための選択剤を含んでもよい。別の実施形態においては、培養を、最初に、用いられる選択可能マーカー遺伝子の1つまたはサブセットの選択剤のみを含む選択培地を用いて実施した後、残りの選択可能マーカー遺伝子のための選択剤の1つまたは複数を添加してもよい。別の実施形態においては、宿主細胞を、ベクターの選択可能マーカー遺伝子の1つまたはサブセットの選択剤のみを含む第1の選択培地を用いて培養した後、残りの選択可能マーカー遺伝子の選択剤の1つまたは複数の選択剤を含む第2の選択培地と共に培養する。一実施形態によれば、第2の選択培地は、第1の選択培地において用いられる選択剤を含まない。
【0072】
一実施形態によれば、段階(a)で提供される真核細胞は、選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含み、段階(b)はDHFRのための選択ステップを実施することを含む。それぞれの選択ステップは通常、DHFR阻害剤を含む選択培地を含む。いくつかの好適なDHFR酵素、したがって、DHFR遺伝子は先行技術において公知であり、選択可能マーカーとして用いることができる。DHFRという用語は、野生型DHFRならびに対応する野生型DHFR酵素のアミノ酸配列に関して1つまたは複数のアミノ酸配列交換(例えば、欠失、置換または付加)を有するDHFR酵素、さらなる構造および/または機能を提供するように改変されたDHFR酵素および複数のDHFR酵素を含む融合タンパク質、ならびにDHFR酵素の少なくとも1つの機能を依然として有する、前記の機能的断片を指す。そのような実施形態は先行技術において周知であり、したがって、詳細に説明する必要はない。例えば、野生型DHFR酵素および/または発現される場合、宿主細胞により内因的に発現されるDHFR酵素よりもMTXなどの抗葉酸剤に対して多かれ少なかれ感受性であるDHFR酵素を、選択可能マーカーとして用いることができる。それぞれのDHFR酵素は先行技術において周知であり、例えば、EP 0 246 049および他の文献に記載されている。DHFR酵素を、それが本発明の範囲内で機能的である限り、すなわち、用いられる哺乳動物宿主細胞と適合する限り、任意の種から誘導することができる。例えば、MTXに対する主な耐性を有する変異マウスDHFRが、真核細胞における優性選択可能マーカーとして広く用いられている。DHFR(プラス)宿主細胞、したがって、機能的内因性DHFR遺伝子を含む宿主細胞中で内因的に発現されるDHFR酵素よりも、MTXなどのDHFR阻害剤に対する感受性が低いDHFR酵素を、選択可能マーカーとして用いることができる。一実施形態によれば、イントロンまたはその断片は、DHFR遺伝子のオープンリーディングフレームの3’末端に配置される。DHFR発現カセットにおいて用いられるイントロンは、DHFR遺伝子のより小さい、非機能的変異体をもたらす(Grillari et al., 2001, J. Biotechnol. 87, 59-65)。それにより、DHFR遺伝子の発現レベルは低下し、選択のストリンジェンシーをさらに増大させる。DHFR遺伝子の発現レベルを低下させるためにイントロンを使用する代替的な方法は、EP0 724 639に記載されており、これを用いることもできる。
【0073】
「DHFR阻害剤」は、特に、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)の活性を阻害する化合物を指す。それぞれの阻害剤は、例えば、DHFRへの結合についてDHFR基質と競合してもよい。好適なDHFR阻害剤は、例えば、メトトレキサート(MTX)などの抗葉酸剤である。したがって、一実施形態によれば、段階(b)は、好ましくは抗葉酸剤などの、少なくとも1つのDHFR阻害剤を含む選択培養培地中で前記複数の宿主細胞を培養することにより、DHFRのための選択ステップを実施することを含む。それぞれの選択条件は、当業者には公知である。一実施形態によれば、1500nM以下、1250nM以下、1000nM以下、750nM以下、500nM以下、250nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下または75nM以下の濃度の抗葉酸剤を含む選択培養培地が段階(b)において用いられる。選択培養培地中の前記阻害剤の用いられる濃度(徐々に増加してもよい)は、選択条件のストリンジェンシーを決定づける。抗葉酸剤のための好ましい濃度範囲は、500nM〜0.1nM、350nM〜1nM、200nM〜2.5nM、150nM〜5nM、100nM〜7.5nMおよび75nM〜10nMから選択することができる。一実施形態によれば、選択培養培地は、抗葉酸剤としてMTXを含む。実施例により示されるように、特に、選択を限定濃度の葉酸塩(limiting concentration of folate)と共に実施する場合、DHFR選択を実施するために低いMTX濃度を本明細書に記載の新規真核細胞と共に用いることができる。
【0074】
一実施形態によれば、段階(a)で提供される本開示による宿主細胞は、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。葉酸輸送因子に基づく選択系は、哺乳動物細胞などの葉酸取込みに依存する真核細胞と共に用いられる場合、いくつかの利点を有する。葉酸輸送因子は、少なくとも1つの葉酸塩を培養培地から、好ましくは哺乳動物細胞である宿主細胞中に輸入させる。一実施形態によれば、葉酸輸送因子は、還元型葉酸担体(RFC)であるか、またはそれを含む。RFCは、遍在的に発現される膜糖タンパク質であり、5−メチル−THFおよび5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸の細胞中への取込みのための主な輸送因子として働く。しかしながら、RFCは、酸化型葉酸である葉酸に対する非常に低い親和性を示す。したがって、RFCの発現を欠くか、またはゲノムRFC遺伝子座から欠失された細胞は、5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸が成長培地から徐々に枯渇し、それによって、増大したレベルのこの葉酸輸送因子、したがって、目的の生成物を発現する細胞の同定を可能にする条件下で、選択可能マーカー遺伝子RFCのトランスフェクションのためのレシピエントとして働くことができる。RFCを選択可能マーカーとして用いる場合の好適な選択条件は、当業者には公知であり、例えば、WO2006/059323に記載されている。
【0075】
以下および実施例のセクションでも詳細に説明される一実施形態によれば、選択可能マーカーとして用いられる葉酸輸送因子は、葉酸受容体である。葉酸受容体に基づく選択系は、いくつかの利点を有する。例えば、選択のために、毒性物質は必要なく(それらを用いることができる場合であっても)、さらに、宿主細胞の内因性葉酸受容体をノックアウトさせる必要もない。さらに、この発現系は、好ましくは、C12orf35遺伝子の発現を低下させるか、または消失させることにより、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が低下するか、または消失する、本明細書に記載の新規真核細胞株と共に特に良好に作用する。1つの説明は、目的のポリペプチドなどの導入される遺伝子だけでなく選択可能マーカー遺伝子も、高率で発現され、選択を簡単にするということである。
【0076】
本明細書で用いられる「葉酸受容体」とは、機能的であり、したがって、葉酸塩またはその誘導体を真核細胞中に輸入する、または取り込むことができる葉酸受容体を指す。好ましくは、受容体は、葉酸塩または葉酸塩の誘導体を真核細胞中に一方向に輸入するか、または取り込むことができる。さらに、本明細書で用いられる葉酸受容体は、膜結合型である。したがって、本明細書に記載される葉酸受容体は、機能的な膜結合型葉酸受容体である。膜固定は、例えば、膜貫通アンカーまたはGPIアンカーにより達成することができる。GPIアンカーは天然型の膜結合型葉酸受容体と一致するため、好ましい。葉酸受容体(FR)は、高親和性葉酸結合糖タンパク質である。それらは3つの異なる遺伝子、FRアルファ、FRベータおよびFRガンマによってコードされる。FRアルファおよびFRベータはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)固定された、細胞表面糖タンパク質であるが、FRガンマはGPIアンカーを含まず、分泌型タンパク質である。しかしながら、それは、膜貫通アンカーまたはGPIアンカーを含むように遺伝的に変化させることができる。膜アンカーを含むそのような変化型のFRガンマも、それが葉酸塩またはその誘導体を真核細胞中に輸入するか、または取り込むことができる場合、膜結合型葉酸受容体であると考えられる。用語「葉酸受容体」はまた、葉酸塩を取り込むことができる野生型葉酸受容体の膜結合型変異体およびそれぞれの葉酸受容体を含む融合タンパク質も含む。
【0077】
用いられる葉酸受容体は、それが本発明の範囲内で機能的である限り、すなわち、それが用いられる宿主細胞と適合し、トランスフェクトされた宿主細胞中で発現される場合、葉酸塩、特に、葉酸を、培養培地から、葉酸取り込みに依存する宿主細胞中に取り込む限り、任意の種の葉酸受容体から誘導することができる。一般に、選択可能マーカーとして宿主細胞中に導入される葉酸受容体は、宿主細胞の内因性葉酸受容体に対して同種または異種であってもよい(内因性葉酸受容体が存在する場合、好ましいもの)。それが同種である場合、それを宿主細胞と同じ種から誘導する。それが異種である場合、それを宿主細胞とは別の種から誘導する。例えば、ヒト葉酸受容体を、げっ歯類宿主細胞、例えば、CHO細胞などのハムスター細胞のための選択可能マーカーとして用いることができる。好ましくは、哺乳動物種から誘導される、例えば、マウス、ラットもしくはハムスターなどのげっ歯類から誘導される、または、より好ましくは、ヒトから誘導される葉酸受容体を用いる。選択可能マーカーとして用いられる膜結合型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファ、葉酸受容体ベータおよび葉酸受容体ガンマからなる群から選択することができる。一実施形態によれば、ヒト葉酸受容体アルファを、選択可能マーカーとして用いる。
【0078】
それ自身、葉酸受容体を内因的に発現する細胞を用い、葉酸を葉酸受容体によりプロセシングすることができるため、葉酸輸送因子としての膜結合型葉酸受容体の使用が有利である。哺乳動物細胞などの葉酸取り込みに依存する真核細胞のための選択可能マーカーとして用いることができる好適な膜結合型葉酸受容体および好適な選択条件はまた、参照により本明細書に組み込まれるWO2009/080759に記載されている。一実施形態によれば、配列番号20に示される以下のアミノ酸配列(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)を含む成熟野生型ヒト葉酸受容体アルファを用いる。
【0079】
葉酸受容体アルファは、GPIアンカーにより細胞膜に天然に固定される。GPIアンカーのためのシグナル配列は配列番号20には示されない。一実施形態によれば、配列番号20から誘導されるか、またはそれを含む葉酸受容体アルファは、C末端にGPIアンカーシグナルを含む。任意の好適なGPIアンカーシグナルを用いることができる。ヒト葉酸受容体アルファの天然のGPIアンカーシグナル配列を、配列番号21に示す(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)。
【0080】
あるいは、膜固定は、膜アンカー、例えば、膜貫通アンカーを用いることにより達成することができる。この実施形態においては、葉酸受容体は、そのC末端に膜アンカーを含む。好適なアンカーは先行技術において公知である。配列番号20から誘導されるか、またはそれを含む葉酸受容体アルファは、N末端にリーダー配列を含んでもよい。葉酸受容体の機能的発現を確保する任意の好適なリーダー配列を用いることができる。
【0081】
野生型ヒト葉酸受容体アルファの天然リーダー配列(N末端)および天然GPIアンカーシグナル配列(C末端)を含む完全アミノ酸配列を、配列番号22に示す(N末端からC末端に向かう方向で示される、1文字コード)。
【0082】
一実施形態によれば、膜結合型葉酸受容体は、配列番号20もしくは22のアミノ酸配列を有するか、もしくは含むか、または配列番号20もしくは22に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の相同性もしくは同一性を有する前記のものの機能的変異体であり、膜結合型であり、葉酸を細胞中に取り込むことができる。
【0083】
葉酸輸送因子、好ましくは、葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、哺乳動物宿主細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞を用いる場合、段階(b)は、前記複数の宿主細胞が限定濃度の葉酸塩を含む選択培養培地中で培養される選択ステップを含む。本明細書で用いられる「葉酸塩の限定濃度」とは、特に、宿主細胞に対する選択圧を提供する選択培養培地中での葉酸塩の濃度を指す。そのような選択条件下では、発現ベクターを取り込んだ、したがって、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子を発現する宿主細胞のみが成長および増殖する。したがって、葉酸塩は選択培養培地中に豊かに含まれず、培養培地中の葉酸塩のこの限界は宿主細胞に対する選択圧を提供する。限定濃度で選択培養培地中に含まれる葉酸塩は、宿主細胞、特に、選択可能マーカーとして用いられる葉酸輸送因子を取り込んだ宿主細胞中に取り込まれ、それによりプロセシングされ得る。宿主細胞がプロセシングしない、またはプロセシングすることができない葉酸塩、特に、葉酸塩の誘導体は、選択可能マーカーとして葉酸輸送因子を取り込んだ宿主細胞を選択するために発揮される選択圧に寄与しない、したがって、葉酸塩の限定濃度に寄与しない。しかしながら、以下に記載されるような、DHFRとの組合せ選択を実施する場合、例えば、抗葉酸剤などの、それぞれの葉酸塩が存在してもよく、さらに好ましくは、存在する。限定濃度で選択培養培地中に存在する葉酸塩は、例えば、酸化型葉酸または還元型葉酸またはその誘導体であってもよい。葉酸などの酸化型葉酸、ならびに還元型葉酸またはテトラヒドロ葉酸(THF)として知られる葉酸の還元型誘導体は、哺乳動物細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞中でのプリン、チミジル酸およびある特定のアミノ酸の生合成のための必須コファクターおよび/またはコエンザイムであるB−9ビタミン群である。THFコファクターは、DNA複製、したがって、細胞増殖にとって特に重要である。好ましくは、選択培養培地中に限定濃度で含まれる葉酸塩は、葉酸である。葉酸塩の限定濃度を提供するための好適な濃度範囲は、以下に記載される。
【0084】
葉酸輸送因子に基づく選択系は、細胞培養培地中での、葉酸塩、好ましくは、葉酸の限定的利用可能性に基づくものである。発現ベクターをうまく取り込まなかった、したがって、好ましくは葉酸受容体である、十分な量の葉酸輸送因子を発現しない宿主細胞は、発現ベクターをうまく取り込んだ宿主細胞と比較して、選択培養条件下で死滅するか、または成長が減弱する。実施例により示されるように、本明細書に記載の新規真核細胞と共に葉酸受容体に基づく選択を用いることにより、高レベルの、ポリペプチドなどの目的の組換え産物を過剰発現する真核細胞クローンの選択、スクリーニングおよび確立の促進が可能になる。
【0085】
選択可能マーカーとしての葉酸受容体に対する選択のための、段階(b)で用いられる、それぞれ、段階(b)のサブステップにおいて用いられる選択培養培地は、
(a)約5000nM〜0.1nM;
(b)約2500nM〜0.1nM;
(c)約1500nM〜0.1nM;
(d)約1000nM〜0.1nM;
(e)約750nM〜0.1nM;
(f)約500nM〜0.1nM;
(g)約250nM〜0.2nM;好ましくは、約250nM〜1nMまたは約250nM〜2.5nM;
(h)約150nM〜0.3nM;好ましくは、約150nM〜1nMまたは約150nM〜2.5nM;
(i)約100nM〜0.5nM;好ましくは、約100nM〜1nMまたは約100nM〜2.5nM;
(j)約75nM〜0.6nM;好ましくは、約75nM〜1nMまたは約75nM〜2.5nM;
(k)約50nM〜1nM;好ましくは、約50nM〜2.5nMまたは約50nM〜5nM;
(l)約35nM〜0.75nM;および
(m)約25nM〜1nMまたは約25nM〜2.5nM、約20nM〜3nM、約15nM〜4nMまたは10nM〜5nM
から選択される濃度の葉酸塩、特に、葉酸を含んでもよい。
【0086】
上記の濃度および濃度範囲は、商業的生産細胞株のための好ましい実施形態である、CHO細胞などの、急速成長懸濁哺乳動物細胞にとって特に好適である。しかしながら、異なる細胞株は、異なる葉酸消費特性を有してもよい。しかしながら、当業者であれば、好適な濃度を実験的に容易に決定することができる。選択培養培地中に含まれる葉酸塩は、好ましくは葉酸であり、一実施形態によれば、葉酸は、葉酸塩の限定濃度に寄与する選択培養培地中に含まれる唯一の葉酸塩である。
【0087】
一実施形態によれば、段階(a)で提供される宿主細胞は、第1の選択可能マーカーとしての葉酸輸送因子をコードする異種ポリヌクレオチドと、葉酸塩、葉酸塩の誘導体および/または葉酸塩のプロセシングにより取得することができる生成物である基質を有する第2の選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドとを含む。例えば、第2の選択可能マーカーは、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)またはチミジル酸シンターゼ(TS)およびセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)などの、DHFRの下流で、もしくはそれと共に動作する酵素であってもよい。好ましくは、膜結合型葉酸受容体は第1の選択可能マーカーとして用いられ、第2の選択可能マーカーはジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)である。この実施形態によれば、段階(b)は、限定濃度の葉酸塩、好ましくは、葉酸を含み、例えば、MTXなどの少なくとも1つのDHFR阻害剤を含む選択培養培地中で宿主細胞を培養することを含む。実施例により示されるように、そのような葉酸受容体/DHFRに基づく選択と共に、組換え発現のための宿主細胞として本明細書に記載の新規真核細胞株を用いた場合、高く、均一な発現結果が細胞プールレベルで既に得られる。実施例のセクションに示されるように、低いDHFR阻害剤濃度を用いて、プールレベルで7〜8倍高い発現を既に得ることができた。プール力価のこの有意な増大は、例えば、生産のための選択された細胞プールを用いて、クローン細胞連続体を確立するための時間を節約することができるため、迅速により少量の目的のポリペプチドを生産することを意図する場合、有利である。さらに、プール中の高発現細胞の数が有意に増加するため、前記細胞プールからの高生産細胞クローンの取得は単純化される。スクリーニング労力を軽減するには、より少ない細胞クローンを作製する必要がある。葉酸受容体およびDHFRの好適な実施形態ならびに好適な選択条件および濃度は上記されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。上記の葉酸塩および抗葉酸剤のための記載される濃度および濃度範囲は、互いに組み合わせることができる。一実施形態においては、約0.1nM〜150nM、1nM〜125nM、5nM〜100nMまたは7.5nM〜75nMの葉酸塩濃度を、選択培養培地中で0.1nM〜150nM、1nM〜125nM、2.5nM〜100nM、5nM〜75nMまたは7.5nM〜50nMの抗葉酸剤濃度と組み合わせて用いる。記載のように、葉酸は、好ましくは葉酸塩として用いられ、MTXは抗葉酸剤として用いられる。
【0088】
選択可能マーカーとしての葉酸受容体とDHFRとのそれぞれの組合せを用いて、および段階(b)において適用して、適切な選択培養培地を同時に用いることによる両方のマーカーに関する選択条件は、トランスフェクトされた宿主細胞集団から高生産細胞の効率的な富化を可能にする非常にストリンジェントな選択系をもたらす。宿主細胞の生存能力は、両方の選択可能マーカーが強く発現される場合、選択条件下でかなり増大する。それにより、目的の生成物の増大した発現率を示す、哺乳動物細胞などの、葉酸取り込みに依存する真核細胞を選択することができる。好ましくは、DHFRなどの葉酸代謝に関与するさらなる選択可能マーカーと共に選択可能マーカーとして葉酸受容体を用いるこの概念は、参照により本明細書に組み込まれるWO2010/097240に開示されている。実施例により示されるように、この実施形態による選択系の高いストリンジェンシーは、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、好ましくは、前記遺伝子の発現を低下させるか、または消失させることにより減弱される、本明細書に記載の新規真核細胞と有利に組み合わせることができる。この組合せは、低生産体の数をさらに減少させ、高生産細胞のより均一な集団を選択後に取得することができる。これは、特に、高生産細胞の単細胞クローニングを単純化する。さらに、この組合せにより、DHFR選択にとって必要なMTX濃度を有意に低下させることができる。
【0089】
一実施形態によれば、2つ以上の選択ステップを、段階(b)において実施し、ここで、2つの以上の選択ステップは、同じか、または異なる選択原理に基づくものである。例えば、葉酸受容体および/またはDHFRに加えてさらなる選択可能マーカーを用いる場合、前記さらなる選択可能マーカーのための選択条件を、葉酸受容体および/またはDHFRのための選択条件を適用する前に(例えば、予備選択ステップにおいて)、またはそれと同時に適用することができる。例えば、さらなる選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)を用いる場合、段階(b)は、例えば、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを取り込んだ細胞を選択するために、G418を含有する培地中で細胞を最初に成長させること、次いで、限定濃度の葉酸塩および例えば、DHFRを第2の選択可能マーカーとして用いる場合、MTXなどの第2の選択可能マーカーの阻害剤を含む選択培養培地を用いる選択ステップを実施することを含んでもよい。
【0090】
一実施形態によれば、フローサイトメトリーに基づく選択を、段階(b)において実施する。フローサイトメトリー、特に、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いる選択ステップは、多数の細胞を所望の特徴的な発現収率について迅速にスクリーニングすることができるという利点を有する。
【0091】
一実施形態によれば、前記フローサイトメトリーに基づく選択は、1つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子に対する1つまたは複数の選択ステップを実施したのに加えて、好ましくはその後に実施する。それにより、高発現細胞クローンを、うまくトランスフェクトされた細胞の集団中で同定し、分離することができる。
【0092】
一実施形態によれば、高発現細胞は、フローサイトメトリーにより検出することができる、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、CFP、YFP、ルシフェラーゼまたは他の一般的なリポーターポリペプチドなどの同時発現されるリポーターポリペプチドの発現を検出することにより同定される。この実施形態によれば、段階(a)は、リポーターをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む複数の宿主細胞を提供することを含み、段階(b)は、フローサイトメトリーを用いて前記リポーターポリペプチドの少なくとも1つの特徴に基づいてリポーターを発現する宿主細胞を同定することを含む。そのようなリポーターに基づく選択においては、リポーター遺伝子の発現は、目的の生成物の発現と相関する。リポーターポリペプチドは細胞内に位置してもよく、それによって、発現細胞に印を付けることができる。一実施形態によれば、リポーターポリペプチドの発現は、ポリペプチドである目的の生成物の発現と密接に関連する。例えば、リポーターポリペプチドおよび目的のポリペプチドは、同じ発現カセットに由来するが、IRESエレメント(内部リボソーム進入部位)により隔てられた、別々のポリペプチドとして発現させることができる。さらに、リポーターポリペプチドおよび目的のポリペプチドは、融合タンパク質として発現させることができる。一実施形態によれば、目的のポリペプチドを発現させるための発現カセットにおいて、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、リポーターをコードするポリヌクレオチドから少なくとも1つの停止コドンにより隔てられている。リポーターポリペプチドを含む融合タンパク質は、翻訳が停止コドンを読み飛ばす場合にのみ発現される。停止コドンの数および設計ならびに培養条件によって影響され得る、停止コドンのリードスルーがある程度でのみ起こるとき、ある特定の割合の目的のポリペプチドがリポーターポリペプチドを含む融合タンパク質として生産され、フローサイトメトリーにより検出することができる。それぞれの戦略の使用は、リポーターポリペプチドの発現を、目的のポリペプチドの発現と密接に関連づけることができる。停止コドンのリードスルーにより融合タンパク質を取得する原理も、融合タンパク質(リポーターを必ずしも含まない)が細胞表面上に提示され、例えば、検出化合物を用いることにより染色される実施形態と共に後で説明される。目的の分泌型ポリペプチドを発現させるために、停止コドンと、リポーターをコードするポリヌクレオチドとの間またはリポーターをコードするポリヌクレオチドの下流に、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含有させることができる。膜アンカーは、リポーターポリペプチドが発現細胞と会合したままであることを確保する。それにより、融合タンパク質に含まれるリポーターポリペプチドは、発現細胞に、フローサイトメトリーにより選択される形質を提供する。目的のポリペプチドは、培養培地中に発現させる。例えば、リポーターポリペプチドの蛍光が高くなるほど、より多くの融合タンパク質が生産され、したがって、目的のポリペプチドの発現率が高くなる。それぞれの方法は、例えば、それが付託されるWO03/014361に開示されている。
【0093】
一実施形態によれば、段階(b)は、
(i)トランスフェクトされた宿主細胞により発現される1つまたは複数の選択可能マーカーについて選択的な条件下で少なくとも1回の選択を実施すること;および
(ii)フローサイトメトリーに基づく選択を実施すること
を含む。
【0094】
場合により、1つまたは複数のさらなる選択ステップを、ステップ(i)および/またはステップ(ii)の前に、または後に実施することができる。
【0095】
一実施形態によれば、フローサイトメトリーに基づく選択は、目的のポリペプチドの存在または量に基づいて、所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む。好ましくは、目的のポリペプチドは、分泌型ポリペプチドである。一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、目的のポリペプチドに結合する検出化合物を用いて細胞表面上で検出される。一実施形態によれば、目的の分泌型ポリペプチドは、それが細胞膜を通過し、したがって、ポリペプチド分泌中に原形質膜と一過的に会合している間に検出される。それぞれのフローサイトメトリーに基づく選択系は、例えば、それが付託されるWO03/099996に開示されている。
【0096】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドの一部は、膜アンカーに融合して発現され、したがって、膜結合型融合ポリペプチドとして発現される。それにより、ポリペプチドの一部は、細胞表面上で融合ポリペプチドとして提示され、検出化合物を用いて染色することができる。リポーターポリペプチドをさらに用いることができる場合であっても、この型の選択にはそれは必要ない。膜アンカーの存在のため、目的のポリペプチドは発現細胞に堅く固定される。生産される融合ポリペプチドの量は発現細胞の全体的な発現率と相関するため、宿主細胞は、細胞表面上の膜アンカーを介して提示される融合ポリペプチドの量に基づいてフローサイトメトリーにより選択することができる。これにより、高生産宿主細胞の迅速な選択が可能になる。フローサイトメトリーを用いる、好ましくはFACSを用いることによる効率的な選択を可能にするために、目的のポリペプチドを発現させるための特殊な発現カセット設計を用いることが有利である。したがって、一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、発現される目的のポリペプチドの一部が膜アンカーを含むように設計される発現カセット中に含まれる。膜アンカーに融合される目的のポリペプチドは、融合ポリペプチドまたは融合タンパク質とも称される。その結果を達成するためのいくつかの選択肢が存在する。
【0097】
一実施形態によれば、段階(a)で提供される宿主細胞は、
(i)aa)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
bb)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流の少なくとも1つの停止コドン、ならびに
cc)膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードする停止コドンの下流のさらなるポリヌクレオチド
を含む異種発現カセット;ならびに
(ii)選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドを含む少なくとも1つの異種発現カセット
を含み、段階(b)における選択は、
(i)少なくとも1つの選択可能マーカーについて選択的な条件下で前記宿主細胞を培養すること、および目的のポリペプチドの少なくとも一部が、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして発現され、前記融合ポリペプチドが前記宿主細胞の表面上に提示される、目的のポリペプチドの発現を可能にすること;
(ii)フローサイトメトリーを用いて細胞表面上に提示される融合ポリペプチドの存在または量に基づいて、所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む、フローサイトメトリーに基づく選択を実施すること
を含む。
【0098】
上記の発現カセットに含まれる目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写は、連続的な順序で、少なくとも、
aa)ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドの翻訳が目的のポリペプチドをもたらすポリヌクレオチド;
bb)前記ポリヌクレオチドの下流の少なくとも1つの停止コドン;
cc)膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードする、前記停止コドンの下流のポリヌクレオチド
を含む転写物をもたらす。
【0099】
転写物の少なくとも一部は、少なくとも1つの停止コドンの翻訳リードスルーにより、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドに翻訳される。この実施形態において用いられる発現カセットのこの設計は、翻訳リードスループロセス(停止コドンが「漏れやすい」)を介して、目的のポリペプチドの規定の一部が、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして生産される効果を有する。したがって、転写物の少なくとも一部は、少なくとも1つの停止コドンの翻訳リードスルーによって、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドに翻訳される。翻訳リードスルーは、停止コドンの選択/翻訳終結シグナルの設計のため自然に起こり得るか、または例えば、終結抑制剤を用いることにより、培養条件を適合させることにより誘導することができる。このリードスルーレベルは、ある特定の割合の融合ポリペプチドをもたらす。これらの融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドを細胞表面に堅く固定する、膜アンカーを含む。結果として、融合ポリペプチドは、細胞表面上に提示され、高レベルの膜固定型融合ポリペプチドを提示する細胞は、フローサイトメトリー、好ましくは、FACSにより選択することができる。それにより、高収率で目的のポリペプチドを発現する宿主細胞が選択される。この停止コドンリードスルーに基づく技術の詳細および好ましい実施形態は、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されており、それは詳細について本開示に付託される。
【0100】
一実施形態によれば、発現カセットは、iv)例えば、GFPなどのリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。リポーターポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドは、停止コドンの下流に位置する。停止コドンのリードスルーの際に、リポーターを含み、それによって、例えば、その蛍光などのリポーターポリペプチドの特徴に基づくフローサイトメトリーによる選択を可能にする融合ポリペプチドが得られる。前記実施形態の詳細は、既に上記されており、それは上記開示に付託される。好ましくは、リポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。
【0101】
代替的な実施形態によれば、目的のポリペプチドの一部は、WO2007/131774に記載の技術を用いて細胞表面に提示される融合ポリペプチドとして発現させる。ここで、転写および転写物プロセシングにより、少なくとも2つの異なる成熟mRNA(mRNA−目的のポリペプチド)および(mRNA−目的のポリペプチド−アンカー)が、目的のポリペプチドをコードする発現カセットから得られる。mRNA−目的のポリペプチドの翻訳は、目的のポリペプチドをもたらす。mRNA−目的のポリペプチド−アンカーの翻訳は、目的のポリペプチドと、膜アンカーとを含む融合ポリペプチドをもたらす。結果として、この融合ポリペプチドは再度、細胞表面上に提示され、高レベルの膜固定された融合ポリペプチドを提示する細胞を、フローサイトメトリー、好ましくはFACSにより選択することができる。それにより、再度、高い発現率を有する宿主細胞を選択することができる。一実施形態によれば、発現カセットは、例えば、GFPなどのリポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。リポーターポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドは、イントロンの下流に位置する。それにより、リポーターポリペプチドを含む融合ポリペプチドが得られ、それによって、例えば、その蛍光などのリポーターポリペプチドの特徴に基づくフローサイトメトリーによる選択を可能にする。好ましくは、リポーターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。それにより、リポーターは宿主細胞の内部に位置する。
【0102】
上記の両方の例示的実施形態は、目的のポリペプチドの一部が宿主細胞の表面に提示される融合ポリペプチドとして発現され、高レベルの膜固定された融合ポリペプチドを提示する細胞(高レベルの分泌型ポリペプチドを示す)を、例えば、フローサイトメトリー、特に、蛍光活性化細胞選別(FACS)により選択することができるという結果になる。ここで、異なる実施形態が利用可能である。例えば、リポーターポリペプチドが融合ポリペプチド中に含まれる場合、高発現宿主細胞は、リポーターポリペプチドの特徴、例えば、その蛍光に基づいて選択することができる。さらに、適切に標識された検出化合物を、以下で簡単に説明されるように用いることができる。
【0103】
一実施形態によれば、段階b)は、宿主細胞を、細胞表面上に提示される融合ポリペプチドに結合する検出化合物と接触させることにより、フローサイトメトリーを用いて細胞表面上に提示される融合ポリペプチドの存在または量に基づいて所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の真核宿主細胞を選択すること、およびフローサイトメトリーを用いて結合した検出化合物の存在または量に基づいて所望の収率で目的のポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を選択することを含む。したがって、細胞を、融合タンパク質に結合する適切に標識された検出化合物、例えば、目的のポリペプチドに対応する部分と接触させることができる。融合ポリペプチドに結合させるために用いられる検出化合物は、以下の特徴の少なくとも1つを有してもよい:前記化合物を標識する、特に、蛍光標識することができる、それが抗原であってもよい、それが免疫グロブリン分子もしくはその結合断片であってもよい、またはそれがプロテインA、GもしくはLであってもよい。細胞表面で融合ポリペプチドに結合させるために用いられる検出化合物は、例えば、融合ポリペプチドを認識する、免疫グロブリン分子または抗体もしくは抗体断片などのその断片であってもよい。基本的には、融合ポリペプチドの全ての接近可能な部分を検出することができ、その下で可溶性形態の融合ポリペプチドと並行して分泌される目的のポリペプチドに対応する部分も検出することができる。検出および選択を可能にするために、融合ポリペプチドに結合させるために用いられる前記検出化合物を標識することができる。細胞表面上に提示される融合ポリペプチドに結合する標識された検出化合物は、それにより、細胞表面を標識し、それぞれ、染色する。宿主細胞により発現される融合ポリペプチドの量が多くなるほど、より多くの標識された検出化合物が結合し、染色がより強くなる。結合した検出化合物の存在だけでなく、量も決定することができるため、これは宿主細胞のフローサイトメトリーに基づく選択を容易に実施することができるという利点を有する。高生産宿主細胞を選択するために、これらの宿主細胞を、検出化合物により最も効果的に、それぞれ、強く標識される宿主細胞の集団から選択することができる。標識は、フローサイトメトリーに基づく選択、特に、FACS選択にとって好適である。蛍光標識はフローサイトメトリーによる容易な検出を可能にするため、好ましい。
【0104】
一実施形態によれば、約50%以下、25%以下、15%以下、10%以下、5%以下、2.5%以下、1.5%以下、1%以下または0.5%以下の融合ポリペプチドが得られるような発現カセットが構築される。残りの部分は、膜アンカーを含まない分泌型ポリペプチド形態として生産される。
【0105】
膜アンカーは、それが細胞膜への目的のポリペプチドの固定を可能にし、したがって、細胞表面上での融合ポリペプチドの提示を可能にする限り、任意の種類のものであってもよい。好適な実施形態としては、これらに限定されるものではないが、GPIアンカーまたは膜貫通アンカーが挙げられる。細胞表面への融合ポリペプチドの堅い結合を確保し、融合タンパク質の剥離を回避するためには、膜貫通アンカーが好ましい。特に、目的のポリペプチドとして抗体を発現させる場合、特に好ましいのは、免疫グロブリン膜貫通アンカーの使用である。他の膜アンカーおよび免疫グロブリン膜貫通アンカーの好ましい実施形態は、WO2007/131774、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されている。
【0106】
一実施形態によれば、宿主細胞は、目的のポリペプチドとして抗体などの免疫グロブリン分子を発現する。免疫グロブリン分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドおよび免疫グロブリン分子の軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、同じ発現カセット中に含まれていてもよく、または好ましくは、第1の態様と共に上記されたように、別々の発現カセット中に含まれる。目的のポリペプチドの一部が翻訳リードスルーまたは選択的スプライシングにより膜固定型融合ポリペプチドとして生産される、上記の発現カセット設計を用いる場合、そのような設計は抗体重鎖を発現させるために用いられる。
【0107】
一実施形態によれば、2回以上のフローサイトメトリーに基づく選択サイクルを段階(b)において実施して、高発現宿主細胞を選択および富化することができる。
【0108】
一実施形態においては、多量の目的のポリペプチドを発現し、したがって、高いシグナルを描く宿主細胞を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて選別する。FACS選別は、高収率で目的のポリペプチドを発現する細胞を同定および富化するために多数の宿主細胞の迅速なスクリーニングを可能にするため、有利である。この実施形態は、細胞を上記の融合タンパク質の発現に基づいて選択する場合、特に好適である。最も高い蛍光率を示すこれらの細胞を、FACSにより同定および単離することができる。FACSにより決定された場合の蛍光と、生産されるポリペプチドの量との間には、正の、また統計的に有意な相関が認められる。したがって、FACS選別は、一般に目的のポリペプチドを発現する細胞を同定するための定性的分析のために用いることができるだけでなく、実際には、高レベルの目的のポリペプチドを発現する宿主細胞を同定するために定量的に用いることもできる。それにより、最良の生産細胞を、段階(b)において選択/富化することができる。
【0109】
一実施形態によれば、所望の収率で、例えば、宿主細胞のある特定の閾値を超えて、および/または上から15%、上から10%、上から5%もしくは上から2%を超えて目的のポリペプチドを発現する細胞を、プールとして選択する。例えば、いくつかの高発現細胞、例えば、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも500個、少なくとも1000個または少なくとも5000個の高発現細胞を、段階(b)において選択し、細胞プール中に選別することができる。複数の異なる高発現細胞を含むこの細胞プールは、高発現細胞プールとも称される。次いで、異なる個々の高発現細胞を含む前記細胞プールを用いて、目的のポリペプチドの大規模生産のための個々の細胞クローンを得ることができる。実施例により示されるように、C12orf35遺伝子の発現が低下するか、または消失する本発明の哺乳動物宿主細胞の使用は、1つまたは複数の選択可能マーカーに対する選択およびFACS選択後に、細胞プールに有利な特徴を提供する。例えば、決定されるFACSプロファイルは、そのような高発現細胞プールが、細胞クローンから得られた細胞のものと密接に類似するFACSプロファイルを有することが多いことを示す。C12orf35遺伝子の発現の低下または消失は、記載されたトランスフェクションおよび選択の後、高収率で目的の生成物をむしろ均一に発現する宿主細胞を提供する。これは、選択された細胞集団における低生産クローンまたは非生産クローンの有意な減少をもたらす。さらに、これらの細胞プールはまた、例えば、分析目的で目的のポリペプチドを生産するために直接用いることができるか、またはより少量が必要である場合、本発明による新規真核細胞を用いた場合に有意により高いプール力価が達成される。しかしながら、高発現細胞プールを富化するためのFACS選択を用いない場合であっても、クローンのような性能を有する細胞集団を、本開示の細胞株を用いた場合に非常に短時間で生成することができることが見出された。例えば、目的のポリペプチドを迅速に生産する必要がある場合、これは重要な利点である。得られたプールは、生産目的にとって好適であった。別の利点は、選択時間が同様に減少するということである。
【0110】
一実施形態によれば、段階(a)で提供される真核細胞は、哺乳動物細胞、好ましくは、げっ歯類細胞、より好ましくは、CHO細胞などのハムスター細胞である。好適かつ好ましい実施形態は、第1の態様と共に上記されており、それは上記開示に付託される。上記のように、一実施形態によれば、前記CHO細胞は、第8染色体のテロメア領域の一部を失っており、前記失われた部分はC12orf35遺伝子を含む。代替的な実施形態も上記されている。特定の利点は、前記失われた部分がFAM60A遺伝子をさらに含む実施形態である。これらの細胞は、収率および安定性に関して特に好ましい特徴を有する。一実施形態によれば、第2の態様による方法は、C12orf35遺伝子の発現が低下するか、または消失するかどうかを分析するステップを含む。そのような分析は、選択、特に、DHFR選択の後に実施することができる。そのような分析方法の詳細は本開示の第1の態様と共に既に上記されており、第5の態様による方法と共に以下にも記載され、それはそれぞれの開示に付託される。
【0111】
特に、好ましくは哺乳動物細胞である第1の態様による真核細胞、発現ベクター、または発現ベクターの組合せに関するさらに好ましい実施形態は上に詳細に記載されている。それは上記開示に付託される。
【0112】
第2の態様による選択方法の結果として得られた細胞を単離し、個々の細胞として培養することができる。しかしながら、異なる宿主細胞の富化された集団、すなわち、細胞プールを、下流のプロセスにおいて用いることもできる。得られた宿主細胞を、さらなる定性的もしくは定量的分析にかけてもよく、または、例えば、タンパク質生産のためのクローン細胞株の開発において用いることができる。クローン細胞株は、高収率で目的の生成物を安定に発現する選択された宿主細胞から確立することができる。
【0113】
したがって、一実施形態によれば、選択された細胞を培養して、特に、クローン細胞培養物の形態で、細胞クローンを提供する。クローン細胞培養物は、1つの単一の先祖細胞から誘導される細胞培養物である。クローン細胞培養物中、全ての細胞は、互いのクローンである。好ましくは、細胞培養物中の全ての細胞は、同じか、または実質的に同じ遺伝子情報を含有する。ある特定の実施形態においては、細胞培養物中の目的のポリペプチドの量または濃度は、生産性を決定するために決定される。例えば、力価は、培養上清を分析することにより測定することができる。一実施形態によれば、それぞれ個々のクローンの生産能力を決定した後、力価の順位付けを行って、生産クローンとしての最良の生産クローンを選択する。さらに、安定性研究を、得られた細胞クローンに関して実施することができる。しかしながら、実施例に示されるように、宿主細胞として本明細書に記載される新規真核細胞、特に、C12orf35およびFAM60A遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の一部を失ったCHO細胞の使用は、選択後に、有意に改善された安定性を示す組換え細胞クローンを提供する。したがって、発現安定性の喪失は、それぞれの宿主細胞に関しては稀であり、さらに、起こる場合、C12orf35遺伝子およびFAM60Aの機能的発現が低下せず、消失しない細胞を用いた場合と比較して、生産性のあまり劇的ではない低下のみをもたらすことが多い。したがって、実施形態、特に、例えば、C12orf35遺伝子およびFAM60A遺伝子を含むテロメア領域の少なくとも一部が失われるため、C12orf35およびFAM60Aの効果が減弱される実施形態において、安定性分析を短縮するか、またはさらには省略することができ、これは目的の生成物の大規模生産のために用いることができる安定発現細胞クローンを取得するのに必要とされる時間を再度短縮するため、重要な利点である。
【0114】
C.目的の生成物を生産するための方法
第3の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞として、第1の態様による真核細胞を用いることを含む、目的の組換え産物を生産するための方法が提供される。
【0115】
上記のように、本明細書に提供される新規真核細胞は、目的のポリペプチドなどの目的の生成物を組換え生産するための生産宿主細胞として特に好適である。前記真核細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果が、好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱される、前記細胞の好適かつ好ましい例、ならびに目的の生成物の好適かつ好ましい例は、上に詳細に記載されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。上記のように、真核細胞は、好ましくは、脊椎動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である。特に有利なのは、C12orf35に加えて、FAM60Aの効果が、例えば、それにより、発現安定性を有意に改善することができることがわかったため、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中で減弱される実施形態である。安定に発現するクローンの存在量は増加する。FAM60Aタンパク質ならびにC12orf35タンパク質の効果を減弱させることにより、長期安定性ならびに生産収率の両方の特徴、したがって、目的の生成物、特に、目的のポリペプチドの大規模生産にとって重要な鍵となる特徴に関して改善された特徴を示す、真核宿主細胞、好ましくは、哺乳動物宿主細胞を提供することができる。
【0116】
一実施形態によれば、方法は、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドを前記真核細胞中に導入すること、および目的の生成物を発現する宿主細胞を選択することを含む。導入は、上記のようなトランスフェクションにより達成することができる。選択は、第2の態様による方法を用いて行ってもよい。好ましくは、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノム中に安定に組み込まれた宿主細胞を選択する。
【0117】
一実施形態によれば、方法は、
(a)目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む第1の態様による真核細胞および/または目的の生成物の発現を可能にする条件下で第2の態様による方法に従って選択された宿主細胞を培養すること;
(b)前記細胞培養培地および/または前記宿主細胞から目的の生成物を単離すること;ならびに
(c)場合により、単離された目的の生成物をプロセシングすること
を含む。
【0118】
一実施形態によれば、前記宿主細胞は、無血清条件下で培養する。発現された目的の生成物は、宿主細胞を破壊することにより取得することができる。好ましくは、目的の生成物はポリペプチドである。ポリペプチドは、好ましくは、培養培地中で発現され、例えば、分泌され、それから取得することができる。この目的のために、適切なリーダーペプチドを、目的のポリペプチド中に提供する。分泌を達成するためのリーダー配列および発現カセットの設計は、先行技術において周知である。また、それぞれの方法の組合せも可能である。それにより、タンパク質などのポリペプチドを、高収率で効率的に生産させ、取得/単離することができる。
【0119】
好ましくは、生産される目的のポリペプチドである目的の生成物を、当業界で公知の方法により回収する、さらに精製する、単離する、加工する、および/または改変することができる。例えば、ポリペプチドは、これらに限定されるものではないが、遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈降などの従来の手順により、栄養培地から回収することができる。精製ステップなどのさらなるプロセシングステップを、これらに限定されるものではないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティ、疎水性、クロマト分画、およびサイズ排除)、電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動)、示差的溶解度(例えば、硫酸アンモニウム沈降)または抽出などの、当業界で公知の様々な手順により実施することができる。さらに、単離および精製された目的のポリペプチドを、組成物、例えば、医薬組成物にさらに加工する、例えば、製剤化することができる。
【0120】
D.真核細胞株を生産するための方法
第4の態様によれば、真核細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含む、目的の生成物の組換え生産にとって好適な前記細胞を生産するための方法が提供される。その結果を達成するための好適かつ好ましい実施形態は、第1の態様による真核細胞と共に上記されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。非限定的実施形態を再度、以下で簡単に説明する。
【0121】
一実施形態によれば、方法は、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることによって、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含む。好適な方法は、本開示の第1の態様による真核細胞と共に上記されており、それはそこに付託される。一実施形態によれば、真核細胞のゲノムを、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させるように変化させる。例えば、遺伝子ノックアウトを、C12orf35遺伝子中に導入することができる。一実施形態によれば、そのような遺伝子ノックアウトを、C12orf35遺伝子の全コピー中に導入する。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子を欠失させる。C12orf35遺伝子の全コピーを、ゲノム中で欠失させてもよい。一実施形態によれば、方法は、染色体の一部を欠失させることを含み、ここで、欠失部分はC12orf35遺伝子を含む。欠失部分は、テロメア領域に対応してもよい。そのような欠失を、例えば、染色体切断を誘導する薬剤を用いることにより誘導することができる。ここで、例えば、C12orf35遺伝子の全コピーが、誘導される染色体切断のために欠失されるため、細胞をそのような薬剤で繰り返し処理して、前記遺伝子の機能的発現が低下したか、または消失した細胞を取得することができる。
【0122】
一実施形態によれば、真核細胞は、後生動物細胞、好ましくは、脊椎動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞である。一実施形態によれば、哺乳動物細胞は、げっ歯類細胞である。好ましくは、げっ歯類細胞は、CHO細胞、例えば、CHO−K1から誘導されるCHO細胞などのハムスター細胞である。一実施形態によれば、方法は、ハムスター細胞中の第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部を欠失させることを含み、ここで、前記欠失部分は、C12orf35遺伝子を含む。実施例により示されるように、第8染色体、ここではq腕のテロメア領域にそれぞれの欠失を含むCHO細胞は、特に好ましい発現特徴を有し、したがって、組換え生産のための宿主細胞として特に好適である。一実施形態によれば、欠失したテロメア領域は、C12orf35遺伝子と、Bicd1、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8およびRPS4Y2からなる群から選択される1つもしくは複数または全部の遺伝子を含む。一実施形態によれば、欠失領域は、Tmtc1遺伝子の少なくとも一部または全部をさらに含む。一実施形態によれば、方法は、第8染色体対の両染色体中のテロメア領域の少なくともそれぞれの部分を欠失させることを含む。上記の個々の遺伝子およびコードされるタンパク質の非限定的代替名も上記の表1に示し、個々の遺伝子および/またはコードされるタンパク質について上記で用いられる用語の範囲により包含されるホモログおよびオルソログも同様である。
【0123】
上記のように、マウスにおける第6染色体のテロメア領域は、チャイニーズハムスターにおける第8染色体のテロメア領域に対応する。したがって、ハムスターの第8染色体のテロメア領域に関する上記開示は、マウスにおける第6染色体のテロメア領域に一致して適用される。
【0124】
一実施形態によれば、方法は、ハムスターゲノムの第8染色体(またはマウスゲノムの第6染色体)のテロメア領域中で染色体切断を引き起こすことを含み、ここで、第8染色体(またはマウスゲノムの第6染色体)上の切断点は、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20遺伝子(マウスにおいては4833442J19Rikと称される)のセントロメア、Dennd5b遺伝子のセントロメア、FAM60A遺伝子のセントロメア、Caprin2遺伝子のセントロメア、Ipo8遺伝子のセントロメアまたはRPS4Y2遺伝子のセントロメアに位置する。それにより、そのテロメアに存在する、すなわち、テロメア末端の方向にさらに位置する全ての遺伝子が欠失される。上記の個々の遺伝子の非限定的代替名も上記の表1に示し、それぞれの遺伝子およびコードされるタンパク質は個々の遺伝子について上記で用いられた用語の範囲により包含される。一実施形態によれば、テロメア領域中に染色体切断を含む得られた細胞は、
a)切断点がIpo8遺伝子のセントロメアに位置する;
b)切断点がTmtc1遺伝子内に位置する
という特徴の1つまたは複数を有する。
【0125】
上記で論じたように、切断点のテロメアに位置する、すなわち、テロメア末端の方向にさらに位置する全ての遺伝子が、欠失領域中に含まれる。これは、C12orf35遺伝子を含む。そのような切断点を有するそれぞれの真核細胞を同定するための方法は上記されており、また、本開示の第5の態様と共に以下に記載される。一実施形態によれば、Ergic2遺伝子は欠失されない。
【0126】
一実施形態によれば、好ましくはK1細胞株から誘導されるCHO細胞を用いて、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより減弱されている真核細胞株を生産する。一実施形態によれば、C12orf35遺伝子を含む第8染色体のq腕上のテロメア領域を欠失させる。その結果を達成するための方法の詳細は、当業者には公知であり、好適な実施形態は本明細書にも記載され、それはそれぞれの開示に付託される。特に有利なのは、さらに、FAM60Aの効果が、例えば、それにより、発現安定性を有意に改善することができることがわかったため、FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中で減弱される実施形態である。詳細は上記で説明されており、それは上記開示に付託される。C12orf35とFAM60Aの両方の効果が細胞中で減弱されるように変化させた哺乳動物宿主細胞は、特に好ましい発現特徴を有する。それにより、長期安定性ならびに生産収率の両方の特徴、したがって、目的の生成物、特に、目的のポリペプチドの大規模生産にとって重要な鍵となる特徴に関して改善された特徴を示す哺乳動物宿主細胞が提供される。
【0127】
一実施形態によれば、第4の態様による方法は、C12orf35遺伝子の発現が低下したか、または消失した真核細胞中に、目的の生成物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、好ましくは、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを導入することを含む。一実施形態によれば、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドと、選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、同じか、または別々の発現ベクター上に位置する。発現ベクターは、トランスフェクションにより導入することができ、安定的トランスフェクションが好ましい。好適かつ好ましい実施形態も上記されており、それはそれぞれの開示に付託され、ここにも当てはまる。うまくトランスフェクトされた、目的の生成物を発現する宿主細胞は、第2の態様による方法を用いて選択することができる。それは上記開示に付託される。
【0128】
E.真核細胞を分析するための方法
第5の態様によれば、目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞としてのその好適性について真核細胞を分析するための方法であって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的に分析することを含む方法が提供される。上記のように、真核細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞である。
【0129】
この分析方法を、例えば、本開示の第4の態様による方法と組み合わせて有利に用いて、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が細胞中で減弱されている真核細胞が生産されたかどうかを同定することができる。さらに、前記方法を用いて、高生産クローンと低生産クローンとを識別することができる。さらに、実施形態において、この方法をさらに用いて、選択/スクリーニングプロセスの間に、安定なクローンまたは不安定なクローンの間を識別することができる。この分析方法を用いることにより、好ましい発現特徴を有するクローンを、選択プロセスの初期に同定することができる。これは、安定かつ高生産クローンを選択する確率を増大させ、より高い割合の高く安定な生産クローンが得られる。したがって、この分析方法は、重要な用途を有し、組換え発現技術のさらなる改善を提供する。
【0130】
好ましい実施形態によれば、方法は、C12orf35遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む。C12orf35遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかの分析は、直接的または間接的に実施することができる。非限定的実施形態は以下に記載される。どの分析方法が好適であるかは、細胞をどのように変化させて、内因性C12orf35遺伝子の機能的発現の低下または消失を達成するかにも依存する。
【0131】
例えば、C12orf35遺伝子中に遺伝子ノックアウトを導入して、C12orf35遺伝子の発現を低下させるか、または消失させる場合、対応するDNAセクションを増幅させ、増幅されたDNAを配列決定して、遺伝子ノックアウトがC12orf35遺伝子中に導入されたことを確認することができる。C12orf35遺伝子の機能的発現が、前記遺伝子を完全に、または部分的に欠失させることにより低下するか、または消失する場合、例えば、欠失を検出するための好適な増幅に基づく検出方法(そのような方法は当業者には公知である)を用いて、DNAレベルで欠失を検出することができる。
【0132】
一実施形態によれば、真核細胞の発現プロファイルを分析して、C12orf35遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかを決定する。例えば、分析は、C12orf35 mRNAの存在、非存在、量または長さを検出するための、定性的または定量的RT(逆転写)PCRを実施することを含んでもよい。この分析はC12orf35遺伝子の転写物を直接含むため、これは直接的分析の一例である。C12orf35遺伝子の発現状態を、C12orf35遺伝子とは異なる遺伝子の発現プロファイルを分析することにより間接的に決定し、したがって、分析がC12orf35遺伝子またはその転写物の分析を直接含まない間接的分析も好適であり、したがって、「C12orf35遺伝子の機能的発現が低下するか、または消失するかどうかを分析すること」という用語に包含される。そのような間接的分析は、例えば、C12orf35遺伝子(および他の遺伝子)を含む染色体部分が染色体切断により欠失される場合に好適であり、以下で説明される。定量的分析のために、参照(例えば、変化していない対応する細胞)との比較を実施することができる。
【0133】
一実施形態によれば、FAM60Aタンパク質の効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的にさらに分析する。これは、内因性FAM60A遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを決定することにより分析することができる。この分析は、C12orf35遺伝子について記載されたように、変更すべきところは変更して実施することができる。それは上記論述に付託される。
【0134】
一実施形態によれば、分析の前に、細胞を、染色体切断を誘導する薬剤で処理して、C12orf35遺伝子を含む染色体の一部を欠失させる。上記のように、C12orf35遺伝子の全コピーを、それにより欠失させることができた。次いで、分析は、前記薬剤による処理が、C12orf35遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを分析することを含んでもよい。この細胞を、染色体切断が起こるように、適切な濃度の染色体切断を誘導する薬剤で処理する。ここで、数回の処理を実施することもできる。選択が十分に高い濃度で染色体切断を誘導する薬剤の使用を含む場合、染色体切断を選択プロセスの間に誘導することができる。好適な薬剤の非限定例は、例えば、MTXである。この場合、細胞は、MTX処理を生き残ることができるために選択可能マーカーとしてDHFRをコードする異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。しかしながら、上記で論じたように、例えば、ハイグロマイシンなどの他の薬剤を用いることもでき、これは実施例により確認された。
【0135】
染色体切断を誘導するために細胞を処理した後、得られた細胞を第5の態様による方法を用いて分析して、前記薬剤による処理がC12orf35遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを決定することができる。様々な実施形態がその目的にとって好適である。一実施形態によれば、処理された細胞の発現プロファイルを分析する。例えば、C12orf35遺伝子またはC12orf35遺伝子のセントロメア(すなわち、染色体中のテロメア末端からさらに遠く)に位置する1つもしくは複数の遺伝子が発現されるかどうかを分析することができる。例えば、マウスまたはチャイニーズハムスター細胞の場合、C12orf35遺伝子が発現されるかどうか、したがって、そのmRNAを検出することができるかどうかを分析することができる(直接的分析の例)、あるいは、またはそれに加えて、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20(マウスにおいては4833442J19Rikと称される)、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8、Tmtc1もしくは上記遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つもしくは複数の遺伝子が細胞により発現されるかどうかを分析することができる(間接的分析の例)。上記の個々の遺伝子の非限定的代替名も上記の表1に示され、それぞれの遺伝子は、個々の遺伝子およびコードされる産物について上記で用いられた用語の範囲により包含される。誘導される切断点がそれぞれの遺伝子のセントロメアに位置する場合、その発現を消失させるか、または低下させる(発現される遺伝子の他のコピーが、他の場所に存在する場合)前記遺伝子は欠失される。図1から明らかなように、C12orf35遺伝子は上記遺伝子のテロメアに位置する。したがって、上記遺伝子が欠失される場合、欠失領域もまたC12orf35遺伝子を含む。したがって、上記遺伝子は、誘導された染色体切断がC12orf35遺伝子の欠失をもたらし、したがって、C12orf35遺伝子の発現の低下または消失をもたらしたかどうかを基本的には間接的に決定するためのマーカーとして正当に用いることができる。したがって、C12orf35遺伝子の発現が低下したか、または消失したかどうかの分析は、例えば、C12orf35 mRNAの直接的分析に必ずしも基づく必要はなく、そのような間接的方法もまた第5の態様の方法により包含される。さらに、C12orf35遺伝子のテロメア(すなわち、テロメア末端の方向にさらに下方)に位置するとしても、Bicd1遺伝子を、C12orf35遺伝子の欠失をもたらす染色体切断が誘導されたかどうかを決定するためのマーカーとして用いることもできることが見出された。CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞の分析と共に、染色体切断のためにBicd1遺伝子が欠失される場合、欠失したテロメア領域は通常、C12orf35も含むことがわかった。数百個のクローンの発現特徴を分析することにより、上記の遺伝子をマーカーとして正当に用いて、高く安定な発現特徴を有する細胞クローンと、低く不安定な発現特徴を有する細胞クローンとを識別することができることが確認された。CHO細胞中の上記遺伝子の相対的発現を、図2に示す。
【0136】
一実施形態によれば、第5の態様による方法は、ハムスター細胞、好ましくは、CHO細胞を分析するためのものであり、該方法は、第8染色体のテロメア領域に位置し、Tmtc1遺伝子およびTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子の発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することにより、C12orf35遺伝子の発現が前記細胞中で低下するかどうかを分析することを含む。上記のように、染色体切断を導入する薬剤による処理後に、Tmtc1遺伝子および/またはTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子を最早発現しないそれぞれの細胞は通常、前記遺伝子を含み、特に、C12orf35遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域中に欠失を含む。切断点のテロメアの遺伝子材料は失われる。
【0137】
一実施形態によれば、上記の特徴を有する選択される宿主細胞に、目的の生成物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み、好ましくは、少なくとも1つの選択可能マーカーを含む発現ベクターをトランスフェクトする。好適な実施形態は、他の態様と共に上記されており、それは上記開示に付託される。
【0138】
一実施形態によれば、第5の態様による方法を用いる分析を実施する前に、真核細胞に、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトし、分析の前に、少なくとも1つの選択ステップを実施して、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定する。好適な実施形態は、上に詳細に記載されている。一実施形態によれば、選択は、染色体切断を誘導する選択剤の使用を含む。この実施形態においては、選択可能マーカーはDHFRであってもよく、選択剤はMTXであってもよい。あるいは、選択剤はハイグロマイシンであってもよく、選択可能マーカーは、例えば、hph遺伝子などのハイグロマイシンに対する耐性を付与する遺伝子であってもよい。方法を選択プロセスの間または後に実施するそのような適用においては、第5の態様による方法を分析手段として用いて、選択された細胞集団内で、C12orf35遺伝子の発現が低下するか、または消失するそのような細胞を同定することができる。記載のように、そのような低下または消失を、例えば、C12orf35遺伝子の欠失をもたらす染色体切断がそれにより誘導され、第5の態様による方法が、例えば、その発現プロファイルに基づくそのような細胞の同定を可能にする場合、選択条件により引き起こすか、または支援することができる。これにより、目的の生成物の高い発現が安定なままであると予想することができるため、その発現プロファイルのため、特に、C12orf35遺伝子の発現の低下または消失のため、組換え生産細胞株を確立するのに特に好適であるそのような細胞または細胞クローンの同定が可能になる。記載のように、FAM60A遺伝子が第8染色体のテロメア領域に位置するCHO細胞などのハムスター細胞の場合、その細胞は第8染色体、好ましくは、q腕のテロメア領域を失っており、それによって、C12orf35遺伝子の発現を低下させるか、または消失させるのが好ましい。分析方法を、高発現細胞の集団中に含まれる細胞から細胞クローンを生成した後に実施することができる。一実施形態によれば、安定生産細胞クローンと不安定生産細胞クローンおよび/または高生産細胞クローンと低生産細胞クローンとを識別するために、複数の細胞クローンを分析する。
【0139】
一実施形態によれば、第5の態様による方法は、好ましくは、目的の生成物、好ましくは、目的のポリペプチドの組換え発現のために、C12orf35遺伝子の機能的発現の低下または消失により、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が減弱される少なくとも1つの細胞を選択することを含む。それぞれの特徴を有する細胞は、実施例により示されるような組換え発現にとって特に好適である。それぞれの細胞のさらなる実施形態も上に詳細に記載されている。記載のように、好ましくは、脊椎動物細胞、最も好ましくは、哺乳動物細胞などを、真核宿主細胞として用いる。
【0140】
F.目的の生成物の組換え生産のための変化した真核細胞の使用
第6の態様によれば、本開示は、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が細胞中で減弱される、目的の生成物を組換え発現させるための単離された真核細胞の使用に関する。それぞれの真核宿主細胞および好ましくは、C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果の減弱を達成するのに好適な実施形態に関する詳細は、上に詳細に記載されており、それは上記開示に付託され、ここにも当てはまる。非限定的実施形態を、以下で簡潔に説明する。
【0141】
好ましくは、第1の態様による真核宿主細胞を、真核宿主細胞として用いる。前記細胞は上に詳細に記載されており、それは上記開示に付託される。真核細胞は、後生動物、脊椎動物または哺乳動物細胞から選択することができる。好ましくは、真核細胞は、げっ歯類細胞などの哺乳動物細胞である。好ましくは、CHO細胞である。真核細胞のゲノムを、上に詳述されるように変化させて、減弱を達成することができる。一実施形態によれば、さらに、好ましくは、内因性FAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、FAM60Aタンパク質の効果が前記細胞中で減弱される。この実施形態に関する詳細および関連する利点は上に詳述されており、それは上記開示に付託される。
【0142】
一実施形態によれば、目的の生成物は、ポリペプチドである。好ましくは、目的のポリペプチドは、真核細胞中での発現の際に、細胞培養培地中に分泌される。目的のポリペプチドに関する詳細は上記されており、それはそれぞれの開示に付託される。目的の生成物の発現を可能にするために、真核宿主細胞に、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを一過的に、または好ましくは安定的にトランスフェクトすることができる。詳細は上記されており、それは上記開示に付託される。
【0143】
本明細書に記載の数値範囲は、範囲を規定する数を包含する。本明細書に提供される見出しは、全体として本明細書を参照して読むことができる本開示の様々な態様または実施形態の限定ではない。一実施形態によれば、ある特定の要素を含むとして本明細書に記載の主題はまた、それぞれの要素からなる主題も指す。特に、ある特定の配列を含むとして本明細書に記載されるポリヌクレオチドはまた、それぞれの配列からなっていてもよい。本明細書に記載の好ましい実施形態を選択し、組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組合せから生じる特定の主題も本開示に属する。
【0144】
本出願は、2013年12月20日に出願された、先行する米国仮出願第US61/919313号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0145】
以下の実施例は、いかなる意味でも本発明の範囲を限定することなく本発明を例示するのに役立つ。特に、実施例は、本発明の好ましい実施形態に関する。
【0146】
実施例1: CHO細胞中でのRNA干渉(RNAi)によるC12orf35遺伝子発現の低下は発現収率を増大させる
C12orf35遺伝子の発現の低下が容量生産性または特異的生産性(volumetric or specific productivity)の増大をもたらすことを証明するために、分析されるチャイニーズハムスターゲノム(CHO−K1)の第8染色体のテロメア領域に位置する異なる標的遺伝子に対するsiRNAを設計した。表2に列挙される以下の標的遺伝子に対するsiRNAを設計した。
【0147】
【表2】
【0148】
用いられるsiRNAを、リアルタイムRT−PCRを用いて検証して、それらが遺伝子サイレンシングにより標的遺伝子の発現を低下させることを確認した。遺伝子発現を18S RNAに対して正規化した。siRNA陰性対照をトランスフェクトした場合に観察された遺伝子発現を、100%と設定した。標的遺伝子の発現の相対的低下を、標的遺伝子C12orf35に対する2つの異なるsiRNAについて以下の表3に示す。
【0149】
【表3】
【0150】
さらに、この実験において用いられる標的siRNAは、トランスフェクトされた細胞の成長を阻害しないことが確認された。さらに、利用可能なチャイニーズハムスターゲノムデータに基づくBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析は、オフターゲット効果を示さない。
【0151】
以下の細胞株をトランスフェクトした:CHO−K1から誘導されるCHO細胞株を、親細胞株として用いた。前記細胞株は、図2に示されるような上記遺伝子を発現する。この親細胞株には、発現ベクターをトランスフェクトせず、対照として役立てた。ゲノム中に安定に組み込まれた目的のタンパク質としての抗体をコードする発現ベクターを含む前記親細胞株から誘導されるCHO細胞(クローンおよびプール)を用いて、siRNAの効果を決定した。前記細胞クローン中に含まれる発現ベクターは選択可能マーカー遺伝子を含み、抗体重鎖および抗体軽鎖は異なる発現カセットから発現された。重鎖のために用いられた発現カセットは、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして重鎖の一部が停止コドンリードスルーに起因して発現されるように設計された。融合タンパク質は、細胞表面上に提示され、それによって、FACS分析を単純化した(説明を参照されたい)。前記CHO細胞は、親細胞株と同様、上記のsiRNA標的遺伝子を発現し、数百個のクローンおよびプールに関するマイクロアレイにより決定された。抗体を組換え発現したCHOクローンを用いて、上記標的遺伝子の1つまたは複数の下方調節が、目的のポリペプチドの発現の増加をもたらすかどうかを決定した。これが当てはまった場合、FACS分析を用いて検出可能である、前記細胞クローンの抗体容量生産性の増大が見られる。
【0152】
ゲノム中に安定に組み込まれた発現ベクターを含むCHOクローンに、siRNA対照(遺伝子発現に対する効果を有さない)または標的遺伝子に対する上記のsiRNAの1つをトランスフェクトした。siRNAのトランスフェクション後、標的遺伝子の発現の低下が抗体の発現の増加をもたらすかどうかを分析した。特に、トランスフェクトされた細胞を、蛍光検出化合物を用いることにより染色し、FACSにより分析して、抗体の発現率を決定した。抗体が多く生産されるほど、標識された化合物を用いて染色することができる提示される融合タンパク質が多くなり、したがって、FACSにより検出される蛍光シグナルが高くなる。したがって、FACSプロファイルにおける強度が高いほど、多くの抗体が発現される。
【0153】
その結果を、試験された異なるsiRNAについて図3A〜Lに示す。プロファイル中の左側のピークは、抗体を発現しない親細胞株について得られたシグナルに対応する。他の2つの曲線は、siRNA陰性対照(発現に対する効果なし)またはその標的遺伝子の発現を低下させる試験されたsiRNAのいずれかをトランスフェクトされた抗体発現細胞クローンに関して得られた結果を表す。試験されたsiRNA、したがって、標的遺伝子の下方調節が抗体の発現に対する効果を有さない(すなわち、容量生産性の上方調節がない)場合、siRNA陰性対照に関する得られた蛍光曲線および標的siRNAについて得られた蛍光曲線は重なり合い、したがって、基本的には同一である。これは、C12orf35遺伝子を除き、本質的にはクローンレベルで全ての試験した標的遺伝子について当てはまった。しかしながら、FAM60Aについては、プールレベルでわずかなシフトが見られたが、これは発現安定性の増大に帰すると推定される(データは示されない)。
【0154】
C12orf35に対するsiRNAに関して得られた結果から見ることができるように(図3BおよびCを参照されたい)、siRNA陰性対照およびC12orf35遺伝子に対するsiRNAについて得られた蛍光ピークは、RNAiを用いてC12orf35遺伝子をサイレンシングする際に明確に分離する。C12orf35遺伝子に対するsiRNAをトランスフェクトされた細胞クローンについて得られた蛍光ピークは、右側に明確にシフトし(矢印で印を付けられる)、これは、蛍光が有意に増加していることを意味する。より多くの融合タンパク質が存在し、したがって、細胞表面上で染色されるため、蛍光におけるこの観察された増加は、抗体のより高い発現に帰する。したがって、この実験は、C12orf35遺伝子の機能的発現の下方調節が、抗体の組換え発現(抗体の収率)の有意な上方調節を直接もたらすことを明確に示している。FACSプロファイルの同じ顕著なシフトは、3つの全ての濃度においてC12orf35に対する前記siRNAを用いた場合に観察された。例えば、説明に記載されるように、例えば、RNAi誘導転写物を発現する発現ベクター中に安定に組み込まれた場合、RNA干渉によるC12orf35遺伝子の発現の長期的低下を達成することができる。さらに、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子欠失/変異により、一実施形態によれば、説明に記載されるように、CHO細胞などのハムスター細胞の場合、第8染色体のテロメア領域の一部を欠失させることにより、C12orf35遺伝子の発現の低下または消失を達成することができる。さらに、そこに記載されるように、例えば、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質をもたらす1つまたは複数の変異を導入することにより、発現産物の効果を低下させるか、または消失させることも実行可能である。
【0155】
目的の組換えポリペプチドの発現の達成された増加もまた、重鎖および軽鎖(別々の発現カセットから発現されたもの、上記を参照されたい)のmRNA発現レベルの分析により確認された。図4および5に2つの異なる目的のポリペプチド(抗体1および2)に関する結果を示す。示されるデータは、siRNA陰性対照(125pmol)に対して正規化する。C12orf35遺伝子の発現の低下は、発現される抗体の重鎖および軽鎖の有意により高いmRNAレベルをもたらすことがわかった。比較して、他の試験した標的遺伝子の発現の低下は、重鎖および軽鎖のmRNA発現レベルに対する影響を有さなかった。したがって、C12orf35遺伝子の発現の低下は、目的の組換えポリペプチドのmRNAレベルの有意な増加をもたらす。さらに、C12orf35遺伝子を沈黙化した場合、選択マーカーなどの他の導入された遺伝子も上方調節されることが観察された。遺伝子サイレンシング効果を3日目から開始して経時的に測定した実験は、siRNA1(表4中のsiRNA C12orf35_1を参照されたい)がsiRNA2(表4中のsiRNA C12orf35_2を参照されたい)と比較してより長い効果を有することを示した。さらに、細胞数および力価を時間経過実験により決定したところ、C12orf35の下方調節が有意により高い特異的生産性および容量生産性をもたらすことが示された(図6および7を参照されたい)。
【0156】
さらに、18S RNAと比較したC12orf35遺伝子の発現を、siRNA1および2による抑制時に抗体発現クローン中で分析し、異なる対照と比較した。その結果を、以下の表4に示す。
【0157】
【表4】
【0158】
実施例2: 第8染色体のテロメア領域中に欠失を含むCHO細胞株の生成
第8染色体のq腕のテロメア領域中に欠失を含む、新規CHO細胞株(C8DEL)を生成した。欠失を、染色体切断により誘導した。欠失部分は、C12orf35遺伝子ならびにとりわけ、FAM60A遺伝子を含んでいた(図1を参照されたい)。前記新規細胞株を、CHO−K1から誘導される親細胞株から取得した。前記細胞株を、以下のように調製した。親CHO細胞を、0.5μM、1μMまたは2μMのMTXを含む培養培地中、2E5細胞/mlで分割した。6日後、細胞の生存能力は約30〜40%であった。細胞を180×gで5min遠心分離し、MTXを含まない培養培地中で培養して、生存能力が95%を超えるまで(約21日後)、細胞を回復させた。この手順をさらに2回繰り返した。単一細胞クローンを、細胞プールから取得した。全体で561個の細胞クローンを成長させ、「Extract−N−Amp Blood PCR Kit」を用いてDNAを単離した。Ipo8遺伝子を検出するプライマーを用いるPCRスクリーニングを実施した。561個のクローンのうちの3個が「IPO8陰性」であったが、これは、Ipo8遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の喪失を示している。Ipo8遺伝子は、C12orf35遺伝子のセントロメアに位置する(図1を参照されたい)。したがって、Ipo8遺伝子が染色体切断のため欠失された場合、Ipo8遺伝子のテロメアに位置する全ての遺伝子も(したがって、C12orf35遺伝子およびFAM60A遺伝子も)同様に欠失される。これらの3つのクローンを拡張し、さらに評価した。これらのクローンのうちの1個を、「C8DEL」細胞株と称する。PCR技術を用いて、C8DEL細胞株に由来する第8染色体のテロメア領域の切断点を決定することができた。切断点は、PCR20および28と呼ばれる、2つのPCRの間で決定された:
【化1】
【0159】
切断点は、Tmtc1遺伝子内にある。さらに、C8DEL細胞株の同定された切断点は数週間の培養にわたって安定であることを証明することができた(PCRにより決定)。この新規真核細胞株に、目的の生成物をコードする発現ベクターをトランスフェクトすることにより、以下に示されるように、親細胞株(テロメア領域中に前記欠失を含まない)と比較して有意により高い容量生成物力価ならびに安定な生産クローンを選択するより高い確率が得られる。トランスフェクションおよびC8DEL細胞株のMTX処理は、トランスフェクトされたクローンの分析に基づいて決定された場合、見かけ上、切断点に対する効果を有さない(さらなる遺伝子材料が失われない)。
【0160】
実施例3: C8DEL細胞株の特徴の分析
C8DEL細胞株を、目的のポリペプチドを組換え発現する場合のその性能について分析し、C8DEL細胞株が誘導された親細胞株と比較した。上記のように、前記親細胞株は、第8染色体のテロメア領域中に対応する欠失を含まない。
【0161】
3.1 生産性の分析
C8DELの容量生産性を、それが誘導された親細胞株と比較して評価した。安定な、ならびに一過的なトランスフェクションを実施した。
【0162】
安定的トランスフェクション
細胞培養、トランスフェクションおよびスクリーニングを、化学規定培養培地中でCHO細胞を成長させる懸濁液を用いて振盪フラスコ中で実行した。細胞に、様々な抗体および治療用タンパク質をコードする異なる発現ベクターをエレクトロポレーションによりトランスフェクトした。用いられた発現ベクターは、選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび選択可能マーカーとしてDHFRをコードする発現カセットを含んでいた。抗体を発現させるために用いられた発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットをさらに含み、完全な抗体が前記発現ベクターから発現された。抗体ではないポリペプチドを発現させるために用いられた発現ベクターは、選択マーカーに加えて、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含んでいた。発現ベクター中の全ての発現カセットは、同じ方向を向いていた。このベクターは、FACS選択にとって好適であったが、そのようなベクターの詳細は上記されている。
【0163】
細胞生存能力に応じて、第1の選択ステップを、G418選択培地を細胞に添加することによりトランスフェクションの24〜48h後に開始した。細胞が80%を超える生存能力まで回復したらすぐに、第2の選択ステップを、細胞を500nMのMTXまたは1μMのMTXに通過させることにより適用した。
【0164】
選択された細胞集団の容量生産性を、G418またはMTXを含む培地中、過剰成長させた振盪フラスコバッチ培養によりG418およびMTX選択ステップ後に分析した。G418バッチを30ml(125mlフラスコ)中で行い、MTXフェドバッチを100ml(500フラスコ)中で行った。G418バッチ培養物を振盪フラスコ中、1E5vc/mlで播種し、150rpmおよび10%CO2で振盪キャビネット(加湿なし)中で培養した。フェドバッチを4E5vc/mlで播種した。アッセイを開始した時、細胞の生存能力は90%を超えている必要があった。力価の決定を14日目で行った。細胞培養上清における抗体力価を、培養を開始した14日後に、プロテインA HPLCにより決定した。
【0165】
第1の選択ステップ(G418選択)の後、安定にトランスフェクトされた親プールと比較して安定にトランスフェクトされたC8DELプールについて、大きな容量力価の増加(12〜35倍)を検出することができた。第2の選択ステップ(MTX選択)の後、C8DELフェドバッチプールは、2つの抗体(抗体1および抗体2)により例示されるように、トランスフェクトされた親細胞と比較して、目的のポリペプチドを4〜7倍多く発現していた。第8染色体のテロメア領域中に欠失を含まない親CHO細胞株と比較した、C8DELの容量G418およびMTX(フェドバッチ)力価を、以下の表5.aおよび5.b中に2つの抗体プロジェクトについて例示的に示す。表5.aおよび5.bは、親プールと比較した、C8DEL中で生産される容量G418およびMTXフェドバッチプール力価(抗体)を示す(平均4のプール/条件が示される)。
【0166】
【表5】
【0167】
結果は、C12orf35遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域中の欠失が、より高い容量生産性と相関するという結論を支持する。既に容量プール力価に関して、C8DEL細胞株は、第8染色体のテロメア領域中にそれぞれの欠失を含まない親細胞株よりも性能が優れている。C8DELプールと親プールの核型内の組込み部位の頻度および分布の分析を分析した。両プールとも、200個の分析した細胞中に100個を超える異なる組込み部位を示し、両プールにおける大きな変動性が2つの細胞株間で差異なく存在することを強調している。これは、より高い容量生産性が組込みアーチファクトに起因するものではないことを示している。
【0168】
一過的トランスフェクション
培養培地中で成長させたC8DEL細胞および親細胞株細胞に、目的のモデルタンパク質としてeGFPまたはFc融合タンパク質をコードする発現プラスミドを3組、一過的にトランスフェクトした。ポリエチレンイミン(PEI)をトランスフェクション試薬として用いた。培地上清中のモデルタンパク質の力価を、トランスフェクション後3日目および6日目に、プロテインA HPLCにより測定した。モデルタンパク質の発現は、C8DELにおいて約3倍高かった。eGFP発現細胞のパーセンテージを、陰性対照として作用する非トランスフェクト細胞を用いるフローサイトメトリーにより、トランスフェクションの48h後に測定した。陰性対照細胞の99%を超える蛍光レベルを示す細胞を、「トランスフェクトされた」と見なした。陰性対照細胞の1000倍を超える強度の蛍光レベルを示す細胞を、「高蛍光」と見なした。高蛍光細胞の数は、C8DELが誘導された親細胞株と比較してC8DEL細胞株を用いた場合に2〜3倍多かった。
【0169】
本実施例は、容量生産性の増大の利点が、第8染色体のテロメア領域の一部が染色体切断のために失われたC8DEL細胞株による一過的トランスフェクションを実施した場合にも達成されることを示している。
【0170】
3.2 安定性分析
46個のC8DEL由来クローンおよび37個の親細胞株由来クローン(IPO8陽性であると試験され、したがって、第8染色体のテロメア領域を失っていない)の安定性特徴を、安定的トランスフェクションの後に分析した。全てのクローンが、目的の生成物として同じ抗体を組換え発現し、それらが12週で25%を超える抗体力価(容量)を失っていなかった場合、それらを安定であると分類した。親細胞株に由来する分析したクローンの76%が、培養から12週間以内に25%を超える力価(容量)を失った。分析したクローンの24%のみが、安定であると分類された。したがって、不安定率は高かった。比較して、表6に示されるように、67%のC8DELクローンを、安定であると分類することができ、33%のみが不安定であった。
【0171】
【表6】
【0172】
Yates補正を用いるχ2検定を用いて、C8DEL由来クローンが安定な生産体である有意により高い傾向を有することを支持する0.0002のp値を算出することができた。したがって、有意により多い数の、C8DEL細胞株に関する安定生産クローンが見出された。これは特に、実施例5のノックアウト実験と共に、FAM60A遺伝子も含む第8染色体のテロメア領域の一部が欠失された、CHO細胞などのハムスター細胞が、優れた安定性特徴を示すことをさらに支持する。したがって、組換え発現のためのそのような細胞株の使用は、高く安定な生産組換え細胞が同定される機会を増加させる。さらに、前記クローンの容量生産性を分析した(3.3を参照されたい)。
【0173】
3.3 C8DELの特徴のさらなる分析
欠失がC12orf35遺伝子を含む、第8染色体のテロメア領域中の前記欠失を含むCHO細胞株の特徴を、さらなる実験において分析し、前記細胞株のさらなる利点を証明した。
【0174】
高生産体を選択するのに必要とされるあまり単一でない細胞のクローニング
C8DEL細胞株の有利な特徴は、単一細胞クローニング後のより高い割合の高生産クローンである。C8DELプールは、CHO−K1から誘導された親細胞株と比較して、拡大された割合の高生産細胞(容量プール力価の増大をもたらす)を含有することが見出された。FACS技術を用いるC8DELプールの単一細胞クローニングの後、親細胞株から誘導されたプールと比較して、多量の抗体を発現する有意により高い割合のクローンが選択された。表7は、親細胞株から誘導された多くのクローンが0〜20mg/Lの容量「96ウェル力価」を有していたことを示す。対照的に、C8DEL細胞株から誘導されたクローンの大部分は、80〜100mg/Lの平均容量力価を有していたが、これは有意な改善である。C8DELプールを用いる1つの利点は、同等量の高生産クローンを得るために生成する必要があるクローンの数が少ないということである。これはスクリーニング労力を有意に軽減する。
【0175】
【表7】
【0176】
生産細胞株としてのC8DEL細胞株の使用は、拡大された割合の高生産クローンをもたらすだけでなく、個々のC8DELクローンの容量力価も高い。図8は、CHO−K1から誘導される親細胞株に由来する45個の最も高い生産クローン(全てIpo8陽性)および抗体プロジェクトに由来するC8DELの容量力価を示す(前記クローンの安定性分析の結果は3.2に示される)。見られるように、C8DELから誘導されるクローンに関する平均容量力価は、親細胞株と比較してより高く、さらに、最も高い抗体生産クローンもC8DEL細胞株を起源とする。
【0177】
バイオリアクター好適性
CHO−K1から誘導される親細胞株と比較してC8DEL細胞株を評価するためのさらなる試験を、特に、規模拡大のためのその好適性を決定するために実施した。バイオリアクター稼働は、C8DEL細胞株が規模拡大にとって好適であることを示した。バイオリアクター中で培養されたC8DEL細胞株は、大規模生産にとって好適である生細胞密度を有していた。さらに、生存能力が親細胞株のものよりも良好であることが見出された。全体として、C8DEL細胞株は、規模拡大にとって好適であり、生存能力に関してそれが誘導される親細胞株よりも性能が優れている。C8DEL細胞株の生存能力は、より高レベルでより長くとどまっている。
【0178】
トランスフェクションから安定なプールの生産までの時系列の改善
C8DEL細胞株の別の利点は、MTX選択からのより早い回復である。MTXインキュベーション後のプールの回復は、C12orf35遺伝子を含む第8染色体のテロメア領域の一部が欠失されない親細胞株と比較して7〜8日早く達成された。全体として、C12orf35遺伝子の発現が低下したか、または消失した細胞に関して、細胞危機が有意に少ないことが見出された。理論において束縛されることを望むものではないが、これは、選択マーカーを含む、異種遺伝子、すなわち、外来遺伝子がより高く発現されるという事実に起因する可能性が非常に高いと考えられる。
【0179】
実施例4: 選択可能マーカーとして葉酸受容体を用いる選択
C8DEL細胞株を、選択可能マーカーとして葉酸受容体と共に異なる設定において用いたところ、それは前記選択系と共に特定の利点を示す。特に、選択可能マーカーとして葉酸受容体とDHFRに対する組み合わせた選択が有益である。ここで、トランスフェクトされた細胞は、選択可能マーカーとしてヒト葉酸受容体アルファとDHFRとを含み、抗体を発現した。非常に少量の葉酸(50nMの葉酸(FA)/50nMのMTX)を用いた親細胞株の選択は選択のストリンジェンシーのため困難に遭遇したが(細胞は常に回復するわけではなかった)、選択可能マーカーとしてのC8DELと葉酸受容体との組合せはそのようなストリンジェントな条件下で非常に強力であり、有意な容量力価の増大をもたらした。表8は、親細胞株とC8DELとの容量力価の差異ならびに500nMのMTXによる選択ステップの代わりに少量の葉酸と組み合わせた選択マーカーとして葉酸受容体を用いた場合に達成されるさらなる容量力価の増大を強調する。したがって、C12orf35遺伝子およびFAM60A遺伝子の発現が低下したか、または消失した本明細書に記載の真核細胞の使用は、葉酸受容体/DHFR選択系と共に、多量の毒性薬剤の使用を必要としない非常にストリンジェントな選択条件を用いることを可能にする。
【0180】
【表8】
【0181】
さらに、C8DEL細胞に、ヒト葉酸受容体アルファをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、DHFRをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含む発現ベクターをトランスフェクト(ヌクレオフェクション)した。したがって、FRアルファとDHFRの両方の選択可能マーカーが、同じ発現ベクター上にあった。さらに、発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含んでいた。抗体重鎖のための発現カセットを、重鎖の一部が停止コドンリードスルーのため膜固定された融合物として生産され、それによって、FACS選択を容易にするように設計した(上記を参照されたい)。100nMの葉酸(FA)と異なる濃度のMTXを用いる5つの異なる選択条件を試験した。選択培地を以下の表9にまとめる。選択後、選択された細胞プールを完全培地に移し、振盪フラスコバッチ培養中で成長させた。培養の13日目に、培養培地の試料を取り、プロテインA HPLCにより抗体含量について分析した。その結果も表9に示す。
【0182】
【表9】
【0183】
見られるように、既に5nMほどの低さのMTX濃度が選択の利点を提供した。選択ストリンジェンシーの増大も、容量プール力価を増大させる。したがって、容量抗体生産性は有意に増大する。さらに、標準的なMTX選択と比較して、選択中に有意により低い濃度のMTXを用いることができる。これは、MTXが毒性薬剤であることを考慮すれば重要な利点である。さらに、選択ストリンジェンシーがどのように容量プール力価および選択のための時間に影響するかを分析した。MTXの濃度を増加させることによる選択ストリンジェンシーの増大が回復時間を延長することが見出された。したがって、選択ストリンジェンシーを、異なる適用の必要に従って調整することができる(時間対容量力価)。より少ない総量の目的のタンパク質で十分である、ある特定の適用の場合、あまりストリンジェントではない選択条件を用いることによって、十分な量のそれぞれのタンパク質の精製を可能にする十分に高い生産率を示すプールを依然として得ることができる。工業規模での目的のタンパク質の生産に用いることができるクローン細胞株を確立するためには、より高い選択ストリンジェンシーを適用して、良好な安定率と共に、非常に高い発現率を有する単一細胞クローンを取得することが好ましい。
【0184】
さらに、FACSにより抗体の表面発現に関する葉酸/MTX選択後に得られたプールの分析は、新規細胞株と組み合わせたこの選択系の使用が、図9A〜Eとして示される得られた蛍光プロファイルから明らかなように、細胞プールにおける高生産体の存在量を有意に増加させることを示す。MTXの濃度を、AからEまで増加させた(A:MTXなし;B:1nMのMTX;C:5nMのMTX;D:10nMのMTX;E:50nMのMTX)。MTX濃度を増加させる場合、右手側のピークサイズの増大から誘導することができるように、細胞プール中の高発現細胞クローンの数は増加した(より高い蛍光はより高い抗体発現率と相関する)。10nMのMTXと組み合わせた50nMの葉酸の使用(図9Dを参照されたい)は、高生産細胞クローンを主に含む細胞プールを既にもたらした(右手側の1つの主要ピーク)。さらに、MTX濃度を50nMに増加させる場合(図9Eを参照されたい)、基本的には専ら高生産細胞が得られたプール中に含まれていた。葉酸受容体/DHFR選択系と組み合わせてC8DEL細胞株を用いる場合、FACS分析の後にプールプロファイルを取得し、これは細胞プール(遺伝的に異なる細胞を含む)のものよりも細胞クローン(遺伝的に同一の細胞を含む)のものに密接に類似するため、これらの結果は顕著である。C8DEL細胞株の失われたテロメア領域中に含まれるC12orf35遺伝子の欠失は容量生産性の有意な増大をもたらすと考えられ、したがって、適切な条件下で葉酸/MTX選択後に得られた細胞プール中の大部分の細胞がFACSプロファイルによる高生産体であった。
【0185】
さらに、選択培地(50nMの葉酸、10nMのMTX)中でC8DEL細胞株(FAM60A遺伝子が失われる、上記参照)から得られた安定にトランスフェクトされたクローンを培養した場合、最大80%および最大でほぼ100%の安定率をプロジェクトにおいて得ることができることが見出された。限られた濃度の葉酸(50nM)のみを含むが、MTXは含まない、半選択培地中でも有意な高安定性の結果が達成された。ここで、最大で87%の安定率がこの細胞株に関して達成された。ある特定のプロジェクトにおいて、最大でほぼ100%の安定率が得られた。
【0186】
実施例5: TALEN技術を用いたCHO細胞中でのFAM60Aのノックアウト
FAM60A遺伝子中にノックアウト変異を含む、CHO−K1細胞株から誘導されたCHO細胞に基づく2つの細胞クローンを作製した。FAM60A変異細胞を作出するために、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)技術を用いた。FAM60Aのノックアウトのために、FAM60A遺伝子のコード領域(推定エクソン1)を標的化した。親細胞として用いられるCHO−K1細胞は、1コピーのFAM60Aしか含有しない。したがって、前記細胞中のFAM60Aの効果を減弱させるためには、細胞あたり単一のノックアウトで十分である。
【0187】
5.1 FAM60Aに特異的であるTALENの設計/生産および使用
CHO親細胞株のFAM60A遺伝子の以下のゲノムDNAエクソン配列を標的化した:
【化2】
【0188】
TALEN結合部位のヌクレオチドを太字で示す。上に示されたFAM60のコード配列(配列番号51)を標的化する2つのTAL FokIを設計した。配列番号51について上に示されたように、TALEN TAL−Lは、FAM60A遺伝子の5’(フォワード)DNA鎖上の印を付けた25ヌクレオチドを標的とし、これに結合し、TALEN TAL−Rは、3’(リバース)DNA鎖上の印を付けた25ヌクレオチドを標的とし、これに結合する(ノックアウトを同定するために後で用いたプライマー配列をさらに示す表10も参照されたい)。2つの結合部位は、切断部位の16個のヌクレオチドにより隔てられている。2つのTALEN TAL−LおよびTAL−Rをコードするプラスミドを得た。
【0189】
【表10】
【0190】
配列番号51に示される標的化されたコード配列を包含し、イントロン部分に位置するプライマー1、2および4のためのプライマー結合部位を超えて伸長もするFAM60A遺伝子のゲノムDNA配列の一部を、配列番号58として示す。
【0191】
5.2 TALENプラスミドのトランスフェクション
95%を超える生存能力を有する指数増殖期にある親CHO細胞および5μgのそれぞれのTALENプラスミドを用いるエレクトロポレーションを含む標準的なトランスフェクションプロトコールを用いて、トランスフェクションを実行した。
【0192】
5.3 Cel−l−アッセイおよび細胞選別
Cel−l−アッセイを、SAFC Biosciencesのマニュアルに従って実施した。Cel−l−アッセイは、切断高率を決定するための標準的なアッセイである。簡単に述べると、数日間の培養後、細胞からゲノムDNAを単離し、プライマー1および2を用いてPCRを実施した(表10を参照されたい)。増幅産物を変性させ、復元させた。次いで、ヌクレアーゼSおよびヌクレアーゼSエンハンサーを添加し、インキュベートした。消化された産物を分析した。TALEN活性が存在した場合、2つのより小さいバンドが存在し、ゲノムのその領域内のTALEN活性を示し、したがって、FAM60A遺伝子がノックアウトされた細胞が分析された細胞プール中に存在することを支持する。陽性細胞プールから、単一の細胞を、限界希釈により96ウェルプレート中で選別した。
【0193】
5.4 スクリーニング戦略
ゲノムDNA(gDNA)を、96ウェルプレート中、各クローンから抽出した。gDNAを標準的な手順により分析して、PCR分析によりノックアウトクローンを同定した。この目的のために、プライマー3および4(表10を参照されたい)を用いた。切断領域中の変異の場合、プライマー3は結合せず、PCR産物は生成されない。陽性クローンのgDNAのプライマー1および2を用いるPCRから得られるPCR産物(上記参照)を配列決定して、導入された変異を分析した。
【0194】
ノックアウト変異を有する2つの細胞クローンを得た:14ヌクレオチドの欠失を有するFAM60A_ko_s16(s16)および5ヌクレオチドの欠失を有するFAM60A−ko_s23(s23)。細胞クローンの変異配列を、表11に示す。欠失のそれぞれは、フレームシフトをもたらす。FAM60Aの標的化された配列内のフレームシフトのため、読み枠内に停止コドンを提供する(斜体および下線付きのヌクレオチドによって表11中で強調される)。したがって、異常に短く、あまり機能的でない、または非機能的なFAM60A発現産物が、得られたFAM60Aノックアウトクローンにより発現されることが予想される。
【0195】
【表11】
【0196】
5.5 安定性分析
FAM60Aノックアウトクローンが得られた親WT細胞株および得られたFAM60Aノックアウト細胞に、目的のポリペプチドとして抗体をコードする発現ベクターを安定にトランスフェクトした。トランスフェクトされた発現ベクターは、選択可能マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット、選択可能マーカーとしてDHFRをコードする発現カセット、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含み、完全な抗体が前記発現ベクターから発現された。発現ベクター中の全ての発現カセットは、同じ方向に向いていた。重鎖の一部が、停止コドンリードスルーのため、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして発現されるように、重鎖のために用いられる発現カセットを設計した。融合タンパク質は細胞表面上に提示され、それによって、FACS分析を単純化した(説明を参照されたい)。トランスフェクトされた細胞を、G418およびMTX(1μM)選択を用いる組換え発現のために選択した。それぞれの安定にトランスフェクトされた細胞株(CHO WT、s16およびs23)の選択されたプールから、良好な収率で目的の生成物を発現した細胞クローンを取得し、数週間(WO CHO親細胞株(45個のクローン)については7週間およびFAM60Aノックアウト細胞(s16については13個のクローンおよびs23については18個のクローン)については8週間)培養して、長期培養中のその発現安定性を分析した。生産細胞株を高容量バイオリアクターに規模拡大することができることを確保するために、12週間の安定性研究、特に、12週間の培養中の発現安定性のさらなる分析も実施した。クローンが、分析される安定性期間にわたって25%を超えるその初期容量発現力価を失った場合、それらを不安定であると分類した。通常の変動レベル内で、いくつかのクローンは25%の境界線のすぐ上であるか、または下である。親細胞株に関する12週目と比較して、7/8週目におけるより高い割合の不安定クローンを、25%閾値に近いクローンに関する生産性アッセイにおける変動を用いて説明することができる。
【0197】
表12は、細胞株に関して得られた安定性の結果を比較するものである。見られるように、安定な容量力価を有するクローンのパーセンテージは、野生型細胞株から誘導されるクローンと比較して、いずれかのFAM60Aノックアウト細胞株から誘導されるクローンにおいてかなり高い。これは、ここでは遺伝子ノックアウトを導入することにより細胞中での内因性FAM60Aの効果を減弱させることが、長期培養中の安定性の結果を有意に改善することを証明している。長期培養中にその好ましい高発現特徴を維持するより安定なクローンが得られるように、本発明の細胞を用いた場合、安定なクローン対不安定なクローンの比率は有意に増大する。本実施例において組換え発現された抗体は、コドン最適化されておらず、親細胞株において、非常に高い程度の不安定性を示した。この有意な不安定性のため、このプロジェクトは、野生型の非改変細胞株に関して不安定率が高い困難なプロジェクトに直面する場合であっても、本発明を用いて達成される有意な利益を証明するため、比較のための例として選択した。しかしながら、他のプロジェクトと共に、上記で論じたように、親CHO野生型細胞株に関しては、不安定率はあまり高くない。しかしながら、分析された全ての事例において、FAM60Aの効果が前記細胞において減弱された、本開示による宿主細胞は、非改変野生型と比較して、安定な細胞の量の有意な増加を達成する。安定率は、プロジェクトに応じて、最大で60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、またはさらには90%以上に達してもよい。例えば、FAM60A遺伝子中に遺伝子ノックアウトを含むか、またはFAM60A遺伝子を含むテロメア領域の一部が染色体切断のために失われる、本開示による細胞に関して、不安定なクローンは分析されるプロジェクトに関係なく、有意に低頻度で出現し、出現する場合であっても、容量生産性の喪失は、FAM60Aの効果が細胞中で減弱されていない対応する細胞と比較してあまり顕著ではなかった。したがって、トランスフェクションおよび選択の後に得られる安定なクローンのパーセンテージの増大のため、本開示による細胞は、長期安定性研究を有意に短縮させるか、またはさらには省略させる。FAM60Aノックアウトクローンの安定性研究は、本開示の技術を用いて達成される有益な結果を確認する。
【0198】
【表12】
【0199】
結果は図10にも示され、ここでは、遺伝子ノックアウトにより、細胞中のFAM60Aの効果を減弱させた場合に達成される重要な利点を証明する。したがって、例えば、それによって発現安定性を改善することができるため、真核細胞のゲノムを変化させることによりFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、真核細胞中のFAM60Aタンパク質の効果をさらに減弱させることは有利である。
【0200】
実施例6: 発現プロファイルに基づく高く安定な生産体を同定するための検証手段
リアルタイムRT−PCR分析手段を開発して、開発パイプラインプロセスの初期段階でのクローン生産性および安定性を予測した。リアルタイムRT−PCRを、4つの遺伝子:C12orf35、Dennd5b、FAM60AおよびIpo8(全て第8染色体のq腕上のテロメア領域に局在化する)について実行した。選択およびクローン生成の後、目的のポリペプチドとして抗体を安定に発現する数百個のクローンを、第8染色体のテロメア領域のこれらの4つの遺伝子の存在および発現レベルならびに発現収率に関して分析した。容量抗体生産性と、第8染色体のテロメア領域における喪失との間には明確な相関が認められた。さらに、これらの細胞はより高レベルの重鎖および軽鎖mRNAを示すことが見出された。したがって、高発現細胞クローンを、前記分析方法を用いて同定することができる。
【0201】
さらに、研究を行って、第8染色体のテロメア領域の安定性と存在との間に相関があるかどうかを決定した。それらが12週間で25%を超える容量力価を失っていない場合、クローンを安定であると分類した。第8染色体のテロメア領域の喪失と、クローン安定性との間の有意な相関が存在している(p値:χ2検定に基づく4.67E−06)。結果として、第8染色体上のテロメア領域の喪失を、安定性に関する予測手段として用いることができる。リアルタイムRT−PCRによる第8染色体のテロメア領域の存在の分析は、パイプラインプロジェクトにおいてより高い割合の安定なクローンを選択する確率を増大させる。
【0202】
さらに、第8染色体のテロメア領域の一部を失った数百個のクローンを分析することにより、第8染色体のテロメア領域中に誘導することができるいくつかの切断点が存在すると考えられることが見出された。多くの分析された事例において、切断点はIpo8遺伝子のセントロメアに位置していた。メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20遺伝子(マウスにおいては4833442J19Rikと称される)とDennd5bの間、Dennd5bとFAM60Aの間、FAM60AとIpo8の間にも切断点が検出された。欠失領域は、全ての事例において、C12orf35遺伝子(メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20をコードする遺伝子のテロメアに位置する)を含んでいた。全ての切断点は、高い容量生産性と関連し、それによって、容量生産性に関するC12orf35遺伝子の関連性が確認された。
【0203】
実施例7: HEK293由来細胞株におけるRNA干渉(RNAi)によるC12orf35遺伝子発現細胞の減少は発現収率を増大させる
C12orf35遺伝子の発現低下が他の哺乳動物細胞株においても容量生産性の増大をもたらすことを証明するために、2つのsiRNAを、ヒト(Homo sapiens)のC12orf35に対して設計した。siRNA配列を、表13に列挙する。RNAi陰性対照(siRNA陰性対照)として、Silencer(登録商標)Negative Control No.1 siRNA(AM4611)を用いた。
【0204】
【表13】
【0205】
用いられるsiRNAを、リアルタイムRT−PCRを用いて検証して、それらが遺伝子サイレンシングにより標的遺伝子の発現を低下させることを確認した。遺伝子発現を、18S RNAに対して正規化した。siRNA陰性対照をトランスフェクトした場合に観察された遺伝子発現を、100%と設定した。標的遺伝子の発現の相対的低下を、標的遺伝子C12orf35に対する2つの異なるsiRNAについて、以下の表14に示す。
【0206】
【表14】
【0207】
さらに、ヒト(Homo sapiens)ゲノムデータに基づくBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析は、オフターゲット効果を示さない。
【0208】
以下の細胞株をトランスフェクトした:HEK293由来細胞株を、親細胞株として用いた。前記細胞株は、内因性C12orf35を安定に発現する。ゲノム中に安定に組み込まれた目的の組換え治療用タンパク質をコードする発現ベクターを用いるHEK293由来細胞株の安定的トランスフェクションから誘導されるプールを用いて、siRNAの効果を決定した。前記細胞プール中の発現ベクターは、選択可能マーカー遺伝子および組換え治療用タンパク質を含んでいた。組換えタンパク質を組換え発現したプールを用いて、C12orf35の下方調節が目的のポリペプチドの発現の増加をもたらすかどうかを決定した。これが当てはまった場合、前記細胞クローンの標的タンパク質容量生産性の増大が見られる。
【0209】
ゲノム中に安定に組み込まれた発現ベクターを含むHEK由来プールに、siRNA対照(遺伝子発現に対する効果を有さない)またはC12orf35に対する上記のsiRNAの1つをトランスフェクトした。siRNAのトランスフェクション後、C12orf35の発現の低下が組換えタンパク質の発現の増加をもたらすかどうかを分析した。
【0210】
試験した異なるsiRNAについて、結果を表15に示す。トランスフェクション試薬としてLipofectamin2000を用いて、HEK293由来細胞に、6ウェルスケールで、それぞれのsiRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの5日後、細胞培養上清中の組換え標的タンパク質の濃度を、アフィニティHPLCを用いて測定した。このために、目的の組換えタンパク質上で短い特許タグを用いた。2つの評価されたsiRNAのどちらを用いるかと無関係に、目的のタンパク質の増加を検出することができた。例えば、RNAi誘導転写物を発現する発現ベクター中に安定に組み込まれた場合、RNA干渉によるC12orf35遺伝子の発現の長期的低下を達成することができる。さらに、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子欠失/変異により、C12orf35遺伝子の発現の低下または消失を達成することができる。さらに、そこに記載されるように、例えば、非機能的な、またはあまり機能的でないタンパク質をもたらす1つまたは複数の変異を導入することにより、発現産物の効果を低下させるか、または消失させることも実現可能である。
【0211】
【表15】
【0212】
さらに、C12orf35遺伝子の発現を、3日目および5日目にsiRNA3および5を用いる抑制の際に分析した。その結果を、以下の表16に示す。
【0213】
【表16】
【0214】
実施例8: C12orf35遺伝子内のフレームシフト変異によるC12orf35遺伝子のノックアウトを含むCHO細胞株の生成
CHO−K1由来細胞に基づく3つのC12orf35ノックアウト(「KO」)細胞クローンを、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)技術を用いて生成した。ノックアウトのために、C12orf35を、5’領域で標的化した。5’領域でのフレームシフト変異の付加は、トランケートされたタンパク質が短いという利点を有する。
【0215】
8.1 TALENの設計/生産および使用
5’領域を標的化する2つのトランケートされたTAL FokIヌクレアーゼを設計した。各TALENは、それぞれ、5’(フォワード)または3’(リバース)DNA鎖のいずれかの上の19ヌクレオチドを標的化し、それに結合する。2つの結合部位は、切断部位の16ヌクレオチドにより隔てられている。それぞれの設計されたTALを合成し、好適なエントリーベクター中にクローニングし、pcDNA3.3_DEST_A343デスティネーションベクター中にサブクローニングした。製品の説明および方法は、Life Technology/GeneArtから入手可能である。
【0216】
8.2 TALENプラスミドのトランスフェクション
95%を超える生存能力を有する指数増殖期にある親CHO細胞を、トランスフェクションのために用いた。エレクトロポレーション(ヌクレオフェクション)を、製造業者(Lonza)の説明書に従ってAmaxa(商標)、Nucleofector(商標)Technologyを用いて実施した。トランスフェクトされた細胞を、トランスフェクション後5日目に拡張し、単一の細胞を20×96ウェルプレート中、8日目に分離した。モノクローン性および集密度を、CloneSelect(商標)Imager(Genetix)を用いて制御した。
【0217】
8.3 Cel−l−アッセイおよびスクリーニング戦略
Cel−l−アッセイを、SAFC Biosciencesのマニュアルに従って実施した。Cel−l−アッセイは、切断高率を決定するための標準的なアッセイである。簡単に述べると、6日間の培養後、ゲノムDNAを細胞から単離し、PCRを以下のプライマー:
Fwd:GCATCCAGTGAACTTACTTATCCAGAT(配列番号65)
Rev:GCTCTGCCACTGCTGTTGAAAG(配列番号66)
を用いて実施した。
【0218】
増幅産物を変性させ、復元させた。次いで、ヌクレアーゼSおよびヌクレアーゼSエンハンサーを添加し、インキュベートした。消化された産物を分析した。2つのより小さいバンドが存在し、ゲノムのその領域内のTALEN活性を示し、したがって、C12orf35遺伝子が変異により変化した細胞が、分析された細胞プール中に存在していたことを支持する。多くの陽性細胞プール(2つのより小さいバンドの強い方の強度)から、単一の細胞を、96ウェルプレート中で選別した。
【0219】
ゲノムDNA(gDNA)を、Extract−N−Amp(商標)Blood PCR Kits(カタログ番号XNAB2R、Sigma)を用いて、96ウェルプレート中、各クローンから抽出した。gDNA抽出物を用いて、以下の配列:Cut.Primer:TCTAGAAACAGACTGAGAATTTTGCAC(配列番号68)を有する切断部位に結合するプライマー(「Cut.Primer」)と共に、フォワードプライマー(Fwd)(配列番号67:TGCTGGGATTAAAGGGGAAAGCTTT)を用いるPCRアッセイにおいて、変異クローンについてスクリーニングした。
【0220】
変異を有するクローンを125mlの振盪フラスコ中に移し、配列決定した。前記スクリーニングアッセイにおいて、10個のクローンが同定され、3個のクローンをさらなる分析のために選択した。3個のクローンの遺伝子型を表17に示し、野生型およびそれぞれの変異を指す5’C12orf35配列を強調する。それぞれのアミノ酸配列を、表18に示す。
【0221】
【表17-1】
【0222】
【表17-2】
【0223】
【表18】
【0224】
siRNA実験からの結果を確認するために、抗体候補を、バッチ式およびフェドバッチ式培養において3個のC12orf35ノックアウト細胞クローン中で発現させ、容量抗体力価を分析し、無傷のC12orf35を内因的に発現する対応するCHO野生型細胞株に関して得られた結果と比較した。
【0225】
8.4 mAbコードベクターのトランスフェクション
CHO野生型細胞株、上記のC8DELおよびC12orf35ノックアウトCHO細胞クローン(表17および18を参照されたい)に、モノクローナル抗体(mAb)および2つの選択可能マーカー遺伝子、すなわち、neoおよびDHFRをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをトランスフェクトした。2つの異なる例示的抗体(抗体1および抗体2)をコードする2つのベクターを評価した。トランスフェクションのために、細胞を指数期まで成長させ、5×10個の細胞に3μgのベクターDNAをトランスフェクトした。3つのトランスフェクション複製を実施した。目的のタンパク質をコードするベクターを安定にトランスフェクトされた細胞の選択を、G418(G418濃度0.8mg/ml)、次いで、MTX選択(500nM)を用いて実施した。選択条件は全てのプールについて同一であった。選択プロセスの間に、培地中の発現されたmAbの容量力価を決定した。C12orf35ノックアウトクローンの上清中の容量力価を、CHO野生型の容量力価と比較した。細胞を、化学規定培地を含有する振盪器中で培養した。バッチ式培養を、37℃の温度で、振盪条件下で実施した。フェドバッチ式培養中に、細胞を、アミノ酸が富化された化学規定培地を含有する振盪器中で培養した。フェドバッチ式培養を、37℃の温度で、振盪しながら実施し、温度シフトを5日目に33℃に向かって実施した。さらに、グルコースおよびアミノ酸を含有する供給液を、プロセスに沿って規則的に添加した。フェドバッチ式培養プロセスの間に、フェドバッチ式培養材料の試料を規則的に収集して、Vi−Cell細胞生存能力分析装置(Beckman Coulter)を用いて生細胞密度(vcd)を決定し、細胞培養培地中のタンパク質力価を決定した。バッチおよびフェドバッチの終わりに(14日目)、培養プロセスを停止した。バッチ式およびフェドバッチ式培養物の分析により、14日の培養期間にわたって、C12orf35 KOプールの培養培地中の発現されたmAbの容量力価は、C8DELの容量力価と類似しており、CHO野生型細胞プールの培養培地におけるよりも有意に高いことが示された。
【0226】
第1の選択ステップ(G418選択)の後、大きな容量力価増大(4〜10倍)を、安定にトランスフェクトされた親プールと比較して安定にトランスフェクトされたC12orf35 KOプールについて検出することができた。第2の選択ステップ(MTX選択)の後、C12orf35 KOプールは、トランスフェクトされた親細胞(バッチ式)と比較して4〜7倍多い目的のポリペプチドおよび2〜6倍多いポリペプチド(フェドバッチ式)を発現していた。親CHO細胞株と比較してC12orf35 KOプールの容量G418およびMTX(フェドバッチ式)力価を、以下の表19および20に例示的抗体プロジェクト1および2について示す。表19および20は、親プールと比較したC12orf35 KOプール中で生産されたG418およびMTXバッチ式およびフェドバッチ式容量プール力価(抗体)を示す(平均3プール/条件が示される)。
【0227】
【表19】
【0228】
【表20】
【0229】
結果は、C12orf35の機能の喪失がより高い容量生産性と相関するという結論を支持する。
【0230】
さらに、より短い選択時間(G418およびMTXステップ)を、安定にトランスフェクトされた親プールと比較して安定にトランスフェクトされたC12orf35 KOプールについて検出することができた。選択時間は、C12orf35 KOプールについて平均で7日間短かった。

本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
単離された真核細胞であって、C12orf35遺伝子の発現産物の効果が、前記細胞中で減弱される、単離された真核細胞。
[2]
C12orf35遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するため、前記C12orf35遺伝子の発現産物の効果が減弱される、上記[1]に記載の単離された真核細胞。
[3]
C12orf35遺伝子の機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子サイレンシングまたは前記のいずれかの組合せにより低下するか、または消失する、上記[2]に記載の単離された真核細胞。
[4]
前記C12orf35遺伝子が、遺伝子変異として、非機能的な、またはあまり機能的でない発現産物を提供する前記C12orf35遺伝子中の1つまたは複数の変異を含む、上記[3]に記載の単離された真核細胞。
[5]
C12orf35遺伝子の少なくとも1コピーまたは全コピーが、前記真核細胞のゲノム中で欠失されるか、または機能的に不活化される、上記[3]または[4]に記載の単離された真核細胞。
[6]
前記真核細胞が、後生動物細胞、脊椎動物細胞または哺乳動物細胞である、上記[1]〜[5]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[7]
前記真核細胞が哺乳動物細胞である、上記[6]に記載の単離された真核細胞。
[8]
染色体の一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む、上記[1]〜[7]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[9]
a)前記真核細胞がハムスター細胞であり、第8染色体のテロメア領域の少なくとも一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む;または
b)前記真核細胞がマウス細胞であり、第6染色体のテロメア領域の少なくとも一部が欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む、
上記[8]に記載の単離された真核細胞。
[10]
a)前記欠失したテロメア領域が、C12orf35遺伝子を含み、かつ、Bicd1、Amn1、メチルトランスフェラーゼ様タンパク質20、Dennd5b、FAM60A、Caprin2、Ipo8およびRPS4Y2からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子を含む;
b)前記欠失が染色体切断により誘導され、切断点が前記Ipo8遺伝子のセントロメア、好ましくは、前記Tmtc1遺伝子内に位置する;
c)前記テロメア領域の少なくとも一部がそれぞれの染色体対の両方の染色体において欠失し、前記欠失した部分がC12orf35遺伝子を含む
という特徴の1つまたは複数を有する、上記[9]に記載の単離された真核細胞。
[11]
a)前記真核細胞がげっ歯類細胞である、
b)前記真核細胞がハムスター細胞、好ましくは、CHO細胞である、
c)前記真核細胞が内因的にDHFRおよび葉酸受容体を発現する、ならびに/または
d)前記真核細胞が細胞クローンもしくは細胞株として提供される
という特徴の1つまたは複数を有する、上記[1]〜[10]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[12]
前記C12orf35遺伝子が、配列番号1〜7に示されるアミノ酸配列の1つもしくは複数または配列番号8によりコードされるタンパク質と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子である、上記[1]〜[11]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[13]
さらに、好ましくはFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、FAM60Aタンパク質の効果が前記細胞中で減弱される、上記[1]〜[12]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[14]
前記FAM60Aタンパク質が、配列番号11〜18に示されるアミノ酸配列の1つまたは複数と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を有する、上記[13]に記載の単離された真核細胞。
[15]
a)前記C12orf35遺伝子の機能的発現が、前記細胞中で低下するか、もしくは消失し、前記低下もしくは消失が、前記C12orf35遺伝子の機能的発現が低下せず、消失していない対応する細胞と比較して目的の組換え産物の容量生産の増加をもたらす;および/または
b)前記真核細胞のゲノムが、前記細胞中での前記C12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させるように変化する、
上記[1]〜[14]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[16]
前記細胞が目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含み、好ましくは、目的の生成物をコードする前記異種ポリヌクレオチドが前記真核細胞のゲノム中に組み込まれる、上記[1]〜[15]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[17]
a)前記真核細胞が、そのゲノム中に組み込まれた、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドと、選択可能マーカーもしくはリポーターポリペプチドをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドとを含み、前記異種ポリヌクレオチドが、同じか、もしくは異なる発現ベクター上に位置する;
b)前記真核細胞が、選択可能マーカーとして葉酸受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む、および/もしくは選択可能マーカーとしてジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
c)前記細胞が、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含み、前記目的の生成物がポリペプチドである;
d)前記細胞が、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含み、前記目的の生成物がポリペプチドであり、前記真核細胞が前記目的のポリペプチドを細胞培養培地中に分泌する;ならびに/または
e)前記細胞が、目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを
含み、前記目的の生成物が治療用ポリペプチドおよび診断用ポリペプチドから選択されるポリペプチドである
という特徴の1つまたは複数を有する、上記[1]〜[16]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[18]
前記真核細胞が、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含まない、上記[1]〜[15]の1つまたは複数に記載の単離された真核細胞。
[19]
目的の生成物を組換え発現する宿主細胞を選択するための方法であって、
(a)前記目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞として上記[1]〜[17]の1つまたは複数に記載の真核細胞を提供すること;および
(b)前記目的の生成物を発現する1つまたは複数の宿主細胞を選択すること
を含む、方法。
[20]
段階(a)が、上記[18]に記載の真核細胞に、前記目的の生成物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドをトランスフェクトして、前記目的の生成物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む真核細胞を提供することを含む、上記[19]に記載の方法。
[21]
a)前記真核細胞が哺乳動物細胞である;
b)段階(a)で提供された前記宿主細胞が、選択可能マーカーをコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドをさらに含み、段階(b)が、前記選択可能マーカーにとって選択的な条件下で前記複数の宿主細胞を培養することを含む;
c)異種ポリヌクレオチドが、1つまたは複数の発現ベクターをトランスフェクトすることにより前記真核細胞中に導入される;
d)目的の組換え産物がポリペプチドである;
e)段階(b)が複数の選択ステップを含む;
f)段階(b)がフローサイトメトリーに基づく選択を実施することを含む;
g)前記選択された宿主細胞が免疫グロブリン分子を組換え発現する
という特徴の1つまたは複数を有する、上記[19]または[20]に記載の方法。
[22]
段階(a)で提供される前記宿主細胞が、選択可能マーカーをそれぞれコードする少なくとも2つの異種ポリヌクレオチドを含み、第1の選択可能マーカーが葉酸受容体であり、第2の選択可能マーカーがDHFRであり、段階(b)が、限定濃度の葉酸塩とDHFR阻害剤とを含む選択培養培地中で前記複数の宿主細胞を培養することを含む、上記[19]〜[21]の1つまたは複数に記載の方法。
[23]
目的の生成物を組換え生産するための方法であって、前記目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞として上記[1]〜[18]の1つまたは複数に記載の真核細胞を用いることを含む、方法。
[24]
上記[18]に記載の真核細胞中に、目的の生成物をコードするポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドを導入すること、ならびに前記目的の生成物を発現する少なくとも1つの宿主細胞を生産宿主細胞として選択することを含む、上記[23]に記載の方法。
[25]
(a)目的の生成物の発現を可能にする条件下で、前記目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養すること;
(b)細胞培養培地からおよび/または前記宿主細胞から、前記目的の生成物を単離すること;ならびに
(c)場合により、前記単離された目的の生成物をプロセシングすること
を含む、上記[23]または[24]に記載の方法。
[26]
生産のために、さらに、好ましくはFAM60A遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることにより、FAM60Aの効果が減弱されている真核細胞を用いる、上記[23]〜[25]の1つまたは複数に記載の方法。
[27]
a)前記真核細胞が後生動物細胞、脊椎動物細胞または哺乳動物細胞である;
b)前記真核細胞が哺乳動物細胞、好ましくは、げっ歯類細胞である;
c)前記目的の生成物がポリペプチドである;
d)前記目的の生成物がポリペプチドであり、前記宿主細胞が前記目的のポリペプチド
を前記細胞培養培地中に分泌する
という特徴の1つまたは複数を有する、上記[23]〜[26]の1つまたは複数に記載の方法。
[28]
上記[1]〜[18]の1つまたは複数に記載の真核細胞を生産するための方法であって、前記細胞中でのC12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含む、方法。
[29]
C12orf35遺伝子の機能的発現を低下させるか、または消失させることによって、前記真核細胞中での前記C12orf35遺伝子の発現産物の効果を減弱させることを含む、上記[28]に記載の方法。
[30]
目的の生成物の組換え発現のための宿主細胞としてのその好適性について真核細胞を分析するための方法であって、内因性C12orf35遺伝子の発現産物の効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的に分析することを含む、方法。
[31]
直接的に分析することが、C12orf35遺伝子の機能的発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む、上記[30]に記載の方法。
[32]
分析の前に、前記真核細胞が染色体切断を誘導する薬剤で処理され、前記分析が、前記薬剤を用いる処理がC12orf35遺伝子を含む染色体の一部の欠失をもたらしたかどうかを分析することを含む、上記[30]または[31]に記載の方法。
[33]
前記真核細胞がハムスター細胞であり、前記方法が、第8染色体のテロメア領域中に位置し、Tmtc1遺伝子およびTmtc1遺伝子のテロメアに位置する遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子の発現が消失するか、または低下するかどうかを分析することを含み、それによって、C12orf35遺伝子の発現が前記細胞中で低下するか、または消失するかどうかを分析することを含む、上記[30]〜[32]の1つまたは複数に記載の方法。
[34]
FAM60Aの効果が前記細胞中で減弱されるかどうかを直接的または間接的にさらに分析することを含む、上記[30]〜[33]の1つまたは複数に記載の方法。
[35]
分析の前に、前記真核細胞に、目的の生成物をコードする異種ポリヌクレオチドおよび選択可能マーカーをコードする異種ポリヌクレオチドをトランスフェクトし、分析の前に、少なくとも1つの選択ステップを実施して、うまくトランスフェクトされた宿主細胞を同定する、上記[30]〜[34]の1つまたは複数に記載の方法。
[36]
複数の細胞クローンが、安定な生産細胞クローンと不安定な生産細胞クローン、および/または高生産細胞クローンと低生産細胞クローンを識別するために分析され、C12orf35遺伝子および場合によりFAM60A遺伝子の発現が低下するか、または消失する1つまたは複数の細胞クローンが、生産クローンとして選択される、上記[30]〜[35]の1つまたは複数に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]