【文献】
Schaefer et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA,2011年,Vol.108, No.27,p.11187-11192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、2つの標的、ヒトCD3ε(さらにまた、「CD3」とも称する)およびヒトROR1の細胞外ドメイン(さらにまた、「ROR1」とも称する)に特異的に結合する二特異性抗体に関する。
【0015】
本発明は、CD3およびROR1に特異的に結合する、二価または三価の二特異性抗体であって、軽鎖およびそれぞれの重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられており、定常ドメインCLを含むことを特徴とし、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)二特異性抗体に関する。抗体は、CD3への結合について一価であることが好ましい。定常ドメインCL内の124位におけるアミノ酸の置きかえに加えて、123位におけるアミノ酸も、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されていることが好ましい。抗体は、CD3への結合について一価であり、アミノ酸124がKであり、アミノ酸147がEであり、アミノ酸213がEであり、アミノ酸123がRまたはKであることが好ましい。アミノ酸123は
、Rであることが好ま
しい。
【0016】
本発明は、CD3およびROR1に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ROR1に特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)a)第1の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、a)第1の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)(例えば、
図1A、1C、1F、1H、1Jを参照されたい)こと
を特徴とする二特異性抗体に関する。
【0017】
前出の最後の段落で記載した、前記二特異性抗体は、前記二特異性抗体がさらに、前記第1の抗体のFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)も含み、前記ROR1−Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、前記ROR1−Fabの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)こと(例えば、
図1C、1Fを参照されたい)もさらに特徴とすることが好ましい。
【0018】
本発明はさらに、CD3およびROR1に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ROR1に特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)b)第2の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、b)第2の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)(例えば、
図1B、1D、1G、1I、1Kを参照されたい)こと
を特徴とする二特異性抗体にも関する。
【0019】
前出の最後の段落で記載した、前記二特異性抗体は、前記二特異性抗体がさらに、前記第1の抗体の第2のFab断片(「ROR1−Fab」)を含むこと(例えば、
図1D、1Gを参照されたい)もさらに特徴とすることが好ましい。
【0020】
アミノ酸の番号付けは、
定常ドメインCLおよびCHについてはKabatによるEUインデックスに従い、その他についてはKabatに従う(下記を参照されたい)。
【0021】
第1または第2の軽鎖の定常ドメインCL内の124位におけるアミノ酸の置きかえに加えて、123位におけるアミノ酸も、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されていることが好ましい。
【0022】
定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸は、リシン(K)置換されており、定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸は、グルタミン酸(E)により置換されていることが好ましい。さらに、定常ドメインCL内で、123位におけるアミノ酸は、アルギニン(R)により置換されていることが好ましい。
【0023】
定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸がリシン(K)により置換されており、定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されていることが好ましい。さらに、定常ドメインCL内で、123位におけるアミノ酸がリシン(K)により置換されていることが好ましい。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に従う抗体は、CD3に特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「CD3−Fab」とも称する)と、ROR1に特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)と、Fcパートとからなり、CD3−FabおよびROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されている。CD3−FabまたはROR1−Fabのいずれかは、アミノ酸置換を含み、CD3−Fabは、クロスオーバーを含む(
図1Aおよび1B)。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に従う抗体は、CD3−FabおよびROR1−Fabが、それらのC末端を介して、Fcパートのヒンジ領域へと連結されている1つのCD3−Fabと、1つのROR1−Fabと、前記Fcパートと、そのC末端によりCD3−FabのN末端へと連結された第2のROR1−Fabとからなる。CD3−Fabは、クロスオーバーを含み、CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabのいずれかは、アミノ酸置換を含む(
図1C、1D、1F,1G)。ROR1−Fab−Fc−CD3−Fab−ROR1−Fabを含む二特異性抗体であって、両方のROR1−Fabが、アミノ酸置換を含み、CD3−Fabが、VL/VHクロスオーバーを含む(
図1C)二特異性抗体がとりわけ好ましい。ROR1−Fab−Fc−CD3−Fab−ROR1−Fabからなり、両方のROR1−Fabが、アミノ酸置換Q124K、E123R、K147EおよびK213
Eを含み、CD3−Fabが、VL/VHクロスオーバーを含む二特異性抗体がとりわけ好ましい。ROR1−Fab−Fc−CD3−Fab−ROR1−Fabからなり、両方のROR1−Fabが、アミノ酸置換Q124K、E123R、K147EおよびK213
Eを含み、CD3−Fabが、VL/VHクロスオーバーを含む二特異性抗体がとりわけ好ましい。両方のROR1−Fabが、CDRとして抗体MAB1のCDR、またはVH/VLとして、MAB1のVH/VLを含むことが、とりわけ好ましい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に従う抗体は、2つのROR1−Fabと、Fcパートとからなり、ROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域およびそのC末端により1つのROR1−FabのN末端へと連結されたCD3−Fabへと連結されている。CD3−Fabは、クロスオーバーを含み、CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabは、アミノ酸置換を含む(
図1Fおよび1G)。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に従う抗体は、そのC末端を介して前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された1つのCD3−Fabと、そのC末端によりCD3−FabのN末端へと連結されたROR1−Fabとからなる。CD3−Fabは、クロスオーバーを含み、CD3−FabまたはROR1−Fabのいずれかは、アミノ酸置換を含む(
図1Hおよび1I)。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に従う抗体は、そのC末端を介して前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された1つのROR1−Fabと、そのC末端によりROR1−FabのN末端へと連結されたCD3−Fabとからなる。CD3−Fabは、クロスオーバーを含み、CD3−FabまたはROR1−Fabのいずれかは、アミノ酸置換を含む(
図1Jおよび1K)。
【0029】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に従う二特異性抗体は、
a)構築物ROR1 Fab−Fc−CD3 Fab−ROR1 Fabの二特異性抗体であり、
b)抗CD3抗体のFab断片内に、VL/VHクロスオーバーを含み、
c)ヒトIgG1 Fcパートを含み、
d)Fcパート内に、Pro329のグリシンによる置換およびLeu234のアラニンによる置換およびLeu235のアラニンによる置換を含み、ならびに、
e)両方のROR1 Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸がリシン(K)により置換されており、123位におけるアミノ酸
がアルギニン(R)により置換されており
、定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている。
【0030】
Fab断片は、最先端技術に従う、適切なリンカーの使用により、一緒に化学的に連結される。適切なリンカーは、例えば、US20140242079に記載される。(Gly4−Ser1)2リンカー(配列番号19)を使用することが好ましい(Desplancq DKら、Protein Eng.、1994年8月、7巻(8号):1027〜33頁;およびMack M.ら、PNAS、1995年7月18日、92巻、15号、7021〜7025頁)。2つのFab断片の間の連結は、重鎖の間で実施する。したがって、第1のFab断片のCH1のC末端を、第2のFab断片のVHのN末端(クロスオーバーなし)、またはVL(クロスオーバー)へと連結する。Fab断片とFcパートとの間の連結は、本発明に従い、CH1とCH2との間の連結として実施する。
【0031】
ROR1に特異的に結合する、抗体の第1および第2のFab断片は、同じ抗体に由来することが好ましく、CDR配列、可変ドメイン配列VHおよびVL、ならびに/または定常ドメイン配列CH1およびCLが同一であることが好ましい。ROR1に特異的に結合する、抗体の第1および第2のFab断片のアミノ酸配列は、同一であることが好ましい。ROR1抗体は、抗体MAB1のCDR配列を含む抗体、抗体MAB1のVHおよびVL配列を含む抗体、または抗体MAB1のVH、VL、CH1、およびCL配列を含む抗体であることが好ましい。
【0032】
二特異性抗体は、Fab断片およびFcパートとして、抗CD3抗体の1つを超えないFab断片、抗ROR1抗体の2つを超えないFab断片、および1つを超えないFcパート、好ましくは、ヒトFcパートを含むことが好ましい。抗ROR1抗体の第2のFab断片は、そのC末端を介して、抗CD3抗体のFab断片のN末端、またはFcパートのヒンジ領域のいずれかへと連結されていることが好ましい。連結は、ROR1−FabのCH1とCD3−FabのVLとの間で実施する(VL/VHクロスオーバー)ことが好ましい。
【0033】
ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分、好ましくは、Fab断片は、配列番号12、13、および14の重鎖CDRを、それぞれ、抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号15、16、および17の軽鎖CDRを、それぞれ、抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むことを特徴とすることが好ましい。ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分は、可変ドメインが、配列番号10および11(VHVL MAB CD3 H2C)の可変ドメインであることを特徴とすることが好ましい。
【0034】
ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分、好ましくは、Fab断片は、配列番号23、24、および25の重鎖CDRを、それぞれ、抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 CH2527)の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号26、27、および28の軽鎖CDRを、それぞれ、抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 CH2527)の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むことを特徴とすることが好ましい。ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分は、可変ドメインが、配列番号21および22(VHVL MAB CD3)の可変ドメインであることを特徴とすることが好ましい。
【0035】
ヒトROR1に特異的に結合する、抗体部分、好ましくは、Fab断片は、重鎖CDR、配列番号7のCDR1H、配列番号8のCDR2H、配列番号9のCDR3Hを含む可変ドメインVHを含むことと、軽鎖CDR、配列番号3のCDR1L、配列番号4のCDR2L、配列番号5のCDR3Lを含む可変ドメインVLを含むこととを特徴とする(CDR MAB1)ことが好ましい。
【0036】
ヒトROR1に特異的に結合する抗体部分、好ましくは、Fab断片は、配列番号6のVHと配列番号2のVLとを含むことを特徴とする(VHVL MAB1)ことが好ましい。
【0037】
本発明は、ヒトROR1の細胞外ドメインおよびヒトCD3εに特異的に結合する二特異性抗体であって、ポリペプチド配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号40の重鎖および軽鎖のセットを含むことを特徴とする二特異性抗体に関する。
【0038】
本発明は、ヒトROR1の細胞外ドメインおよびヒトCD3εに特異的に結合する二特異性抗体であって、ポリペプチド配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号41の重鎖および軽鎖のセットを含むことを特徴とする二特異性抗体に関する。
【0039】
本発明はさらに、それぞれの重鎖および軽鎖セットをコードする核酸セットにも関する。
【0040】
IgG1サブクラスの定常重領域CH2/CH3を含む本発明に従う二特異性抗体は、FcRおよびC1qへの結合を回避し、ADCC/CDCを最小化するように、突然変異L234A、L235A、およびP
329G(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)を含むことを特徴とすることが好ましい。利点は、本発明のこのような抗体が、T細胞をリダイレクションし/活性化させる強力な機構により、その腫瘍細胞殺滅の有効性を純粋に媒介することである。補体系およびFcRを発現するエフェクター細胞に対する効果などのさらなる作用機構は、回避され、副作用の危険性は、低下する。
【0041】
本発明は、(好ましくは、配列番号37の)(N末端からC末端へ)VH(ROR1)−CH1(ROR1)−VL(CD3)−CH1(CD3)−CH2−CH3からなる本発明に従う抗体の重鎖のほか、それぞれのコード核酸も含むことが好ましい。これらのポリペプチドおよびそれぞれの核酸は、本発明に従う二特異性抗体を作製するために有用である。
【0042】
本発明に従う二特異性抗体のCDRの外部におけるアミノ酸(aa)交換(「電荷変異体」とさらに言及される)は、ROR1への結合などの生物学的特性を変化させずに、作製/精製の大幅な改善をもたらす。本発明に従うアミノ酸交換(電荷変異体)を導入することにより、軽鎖LCの誤対合および作製時における副産物の形成が有意に低減され、したがって、精製が容易になる。
【0043】
本発明は、2つの標的、ヒトCD3ε、およびヒトROR1の細胞外ドメインに特異的に結合する、内部化しない二特異性抗体に関する。本発明に従う二特異性抗体は、初代B−CLL細胞において、1nMの濃度で、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とすることが好ましい。本発明に従う二特異性抗体は、細胞ベースのアッセイにおいて、ROR1陽性初代B−CLL細胞を使用し、1nMの抗体濃度で使用した場合、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とすることが好ましく、内部化しないとは、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出される二特異性抗体の、ROR1陽性初代B−CLL細胞への結合時における平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、50%を超えて低減しない、好ましくは30%を超えて低減しないことを意味する。
【0044】
本発明に従う二特異性抗体は、二価抗体であり、ROR1に特異的に結合する一価抗ROR1抗体と、CD3に特異的に結合する一価抗体とを含むことを特徴とすることが好ましい。二価抗体は、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出されるROR1陽性細胞への結合の際におけるその前記平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、内部化によって50%を超えて低減しない、好ましくは30%を超えて低減しないものであれば、好ましい。本発明に従う二特異性抗体は、二価抗体であり、ROR1に特異的に結合する一価抗ROR1抗体と、CD3に特異的に結合する一価抗体とを含むことを特徴とすることが好ましい。CD3に特異的に結合する一価抗体は、Fab断片、好ましくは、CD3 crossFabであることが好ましい。このような二価抗体は、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出されるROR1陽性細胞への結合の際におけるその前記平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、内部化によって50%を超えて低減しない、好ましくは30%を超えて低減しないものであれば、好ましい。本発明に従う二特異性抗体は、三価抗体であり、ROR1に特異的に結合する二価抗ROR1抗体と、CD3に特異的に結合する一価抗体とを含むことを特徴とすることが好ましい。CD3に特異的に結合する一価抗体は、Fab断片または好ましくは、CD3 crossFabであることが好ましい。三価抗体は、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出されるROR1陽性細胞への結合の際におけるその前記平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、内部化によって50%を超えて低減しない、好ましくは30%を超えて低減しないものであれば、好ましい。
【0045】
本発明に従う二特異性抗体は、前記細胞ベースのアッセイにおいて、37℃で24時間の間、内部化しないことが好ましい。
【0046】
本発明に従う二特異性抗体は、前記細胞ベースのアッセイにおいて、0.1pM〜200nMの間の濃度で使用した場合、内部化しないことが好ましい。
【0047】
本発明のさらなる実施形態は、表面プラズモン共鳴を使用してKd値により決定される、ROR1とCD3のアフィニティー比が5000:1〜5:1である、本発明に従う抗体である。このような抗体は、悪性細胞への結合がT細胞よりも強力であるので、好都合である。Kd値は、CD3抗体については約100nMであり、ROR1抗体については約50pM〜50nMであることが好ましい。
【0048】
B−CLL細胞は、本発明に従って、細胞1×10
6個/mL(CLL患者由来の初代PBMC)、または細胞1×10
6個/mL(ATCC CCL−155)、または細胞1×10
6個/mL(ATCC CRL−3004)の細胞濃度で使用することが好ましい。
【0049】
CD3に特異的に結合する抗体部分は、ヒト化されていることを特徴とすることが好ましい。本発明に従うCD3 Mabは、抗体H2C(WO2008119567において記載されている)および/もしくは抗体CH2527(WO2013026839において記載されている)と同じCD3εのエピトープに結合するか、または好ましくは抗体H2CもしくはCH2527であることが好ましい。
【0050】
ROR1に特異的に結合する抗体部分は、軽鎖可変ドメイン(VL)が、それぞれの可変軽鎖CDRとして配列番号3、4、5のCDRを含み、可変重鎖ドメイン(VH)が、それぞれの可変重鎖CDRとして配列番号7、8、9のCDRを含むことを特徴とすることが好ましい。ROR1に特異的に結合する抗体部分は、軽鎖可変ドメイン(VL)として配列番号2の配列と少なくとも90%同一である配列、および可変重鎖ドメイン(VH)として配列番号6の配列と少なくとも90%同一である配列を含むことを特徴とすることが好ましい。ROR1に特異的に結合する抗体部分は、軽鎖可変ドメイン(VL)として配列番号2の配列、および可変重鎖ドメイン(VH)として配列番号6の配列を含むことを特徴とすることが好ましい。ROR1に特異的に結合する抗体部分は、ヒト化されていることを特徴とすることが好ましい。本発明に従うROR1 Mabは、上で記載したMabと同じROR1のエピトープに結合することが好ましい。
【0051】
本発明のさらなる実施形態は、本発明に従う二特異性抗体を調製するための方法であって、宿主細胞を、それぞれの抗体または断片をコードする核酸分子を含む1つまたは複数のベクターで形質転換するステップと、宿主細胞を、前記抗体分子の合成を可能とする条件下で培養するステップと、前記抗体分子を、前記培養物から回収するステップとを含む方法である。
【0052】
本発明に従う二特異性抗体を調製するための方法は、
a)宿主細胞を、ポリペプチド、配列番号37、38、39、および40の重鎖および軽鎖のセット、または配列番号37、38、39、および41のセットをコードする核酸分子を含む1つまたは複数のベクターで形質転換するステップと、
b)宿主細胞を、前記抗体分子の合成を可能とする条件下で培養するステップと、
c)前記抗体分子を、前記培養物から回収するステップと
を含むことが好ましい。
【0053】
本発明のさらなる実施形態は、本発明に従う抗体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞である。
【0054】
本発明のさらなる実施形態は、第1の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターと、第2の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターとを含む宿主細胞であって、可変ドメインVLおよびVHが互いに置きかえられている宿主細胞である。
【0055】
本発明のさらなる好ましい実施形態は、本発明に従う抗体および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0056】
本発明のさらなる好ましい実施形態は、医薬としての使用のための、本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。本発明のさらなる好ましい実施形態は、慢性リンパ球性白血病(CLL)、ヘアリー細胞白血病(HCL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫(MM)および濾胞性リンパ腫(FL)を含むROR1陽性血液悪性腫瘍の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。ROR1は、これらの種々の血液がんの細胞表面上に有意にかつ均一に発現する。本発明のさらなる実施形態は、ROR1を発現する白血病および非ホジキンリンパ腫の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。本発明の好ましい実施形態は、B細胞系系統の慢性リンパ球性白血病(CLL)(B−CLL)の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。B−CLLは、Bリンパ球に発達する単一の骨髄細胞のDNAに対する後天性突然変異から生じる。骨髄細胞が白血病性の変化を受けると、骨髄細胞は多数の細胞に増加し、CLL細胞は正常細胞よりも良好に成長および生存するので、経時的に正常細胞が押し出される。この結果、骨髄においてCLL細胞が制御されずに成長し、それにより、血液中のCLL細胞の数の増加が導かれる。CLLの症状は、通常、経時的に発生し、一部の患者では無症候性であり、血液検査の結果が異常(例えば、白血球の増加)なだけである。症状があるCLL患者では、疲労、息切れ、貧血、体重減少、食欲減退、リンパ節および脾臓の肥大、ならびに低免疫グロブリンレベルおよび好中球数の減少に起因する再発性感染が生じる(Leukemia & Lymphoma Society、2009年)。本発明のさらなる好ましい実施形態は、多発性骨髄腫の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。本発明のさらなる実施形態は、多発性骨髄腫MMのような形質細胞障害、またはROR1を発現する他のB細胞障害の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。MMは、骨髄コンパートメント内の、異常な形質細胞の、単クローナル性の拡大および蓄積により特徴付けられるB細胞悪性腫瘍である。MMはまた、同じIgG遺伝子再配列および体細胞超変異を伴う、循環クローン性B細胞も伴う。MMは、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)と呼ばれる、無症状性の前悪性状態であって、骨髄形質細胞の低レベルおよび単クローン性タンパク質により特徴付けられる前悪性状態から起こる。MM細胞は、低速度で増殖する。MMは、複数の構造的染色体変化(例えば、不均衡型転座)の進行性の発生から生じる。MMは、悪性形質細胞と、骨髄微小環境(例えば、正常な骨髄間質細胞)との交互的な相互作用を伴う。活動性のMMの臨床徴候は、単クローン性の抗体スパイク、形質細胞の過密な骨髄、溶解性骨病変、および破骨細胞の過剰刺激から生じる骨破壊(Dimopulos & Terpos、Ann Oncol 2010年;21巻、増刊7:vii143〜150頁)を含む。本発明のさらなる実施形態は、ヒト乳がん(Zhang S、PLoS One 2012年;7巻(3号):e31127頁)および肺がん(Yamaguchi T、Cancer Cell 2012年:21巻(3号):348頁)などのROR1陽性固形腫瘍の処置における医薬としての使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う抗体を含む医薬組成物である。
【0057】
本発明のさらなる実施形態は、このような処置のための、本発明に従う抗体または本発明に従う医薬組成物の使用である。
【0058】
本発明のさらなる実施形態は、卵巣がん、肺がん、乳がん、胃がん、および/または膵がんからなる群から選択される疾患の処置のための、本発明に従う抗体または本発明に従う医薬組成物の使用である。本発明のさらなる実施形態は、卵巣がん、肺がん、乳がん、胃がん、および/または膵がんの処置における使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う医薬組成物である。
【0059】
本発明のさらなる実施形態は、卵巣がんの処置のための、本発明に従う抗体または本発明に従う医薬組成物の使用である。本発明のさらなる実施形態は、卵巣がんの処置における使用のための、本発明に従う抗体または本発明に従う医薬組成物である。本発明のさらなる実施形態は、がん患者に、治療有効量の、本発明に従う抗体を投与するステップを含む、処置の方法である。本発明のさらなる実施形態は、がんが、卵巣がん、肺がん、乳がん、胃がん、および/または膵がんおよび血液悪性腫瘍からなる群から選択される、このような方法である。本発明のさらなる実施形態は、抗体の前、抗体の後、または抗体と同時に化学療法または放射線を施す、このような方法である。本発明のさらなる実施形態は、このような疾患を有する患者に、本発明に従う抗体を投与するステップを含む、処置の方法である。本発明のさらなる実施形態は、卵巣がんを有する患者に、本発明に従う抗体を投与するステップを含む、処置の方法である。本発明のさらなる実施形態は、がん、好ましくは、卵巣がんを処置するための医薬としての、本発明に従う抗体の使用である。本発明のさらなる実施形態は、がん、好ましくは、卵巣がんを処置するための医薬の製造における、本発明に従う抗体の使用である。
【0060】
本発明に従う抗体または医薬組成物は、週1回または週2回、好ましくは、皮下投与によって(例えば、好ましくは、週1回または週2回、0.1〜10mg/m
2の用量範囲で)投与することが好ましい。本発明に従う抗体は、細胞傷害作用活性が優れているので、T細胞二特異性ではない(すなわち、1つのアーム上のCD3に結合しない)従来の単一特異性抗体または従来の二特異性抗体と比較して、より小さな大きさの臨床的用量範囲で投与することができる。本発明に従う抗体に関して、皮下投与が臨床状況において好ましいことが想定される(例えば、週1回または週2回、0.1〜10mg/m
2の用量範囲で)。本発明に従う抗体は、週に少なくとも1回または2回の投与を可能にする、およそ数日の半減期で消失する。本発明に従う抗体の別の利点は、分子量(すなわち、およそ150〜200kDa)が腎臓での濾過のサイズ限界(50〜70kDa)よりも大きいことである。この分子量は、長い消失半減期を可能とし、週1回または週2回の皮下投与を可能とする。
【0061】
本発明に従う抗体は、1mg/kg体重(BW)の用量で、週2回または週に1回、静脈内(i.v.)、または皮下(s.c.)、または腹腔内(i.p.)投与され、好ましくは、0.5mg/kg BWで、週2回または週に1回、i.v.またはi.p.またはs.c.投与され、好ましくは、0.1mg/kg BWで、週2回または週に1回、i.v.またはi.p.またはs.c.投与され、好ましくは、0.05mg/kg BWで、週2回または週に1回、i.v.またはi.p.またはs.c.投与され、好ましくは、0.01mg/kg BWで、週2回または週に1回、i.v.またはi.p.またはs.c.投与され、好ましくは、5μg/kg BWで、週2回または週に1回、i.v.またはi.p.またはs.c.投与され、ROR1発現腫瘍細胞系(例えば、CLL、MM、MCL細胞系)を用いた異種移植モデルにおいて、70%を超え、好ましくは85%を超え、好ましくは100%に近い腫瘍成長の阻害を示すことにより特徴付けられることが好ましい。
【0062】
本発明に従う抗体は、マウス、好ましくは、カニクイザルにおける消失半減期であって、12時間より長い、好ましくは、3日間またはそれより長い消失半減期により特徴付けられることが好ましい。
【0063】
腫瘍細胞上の標的およびCD3に結合し、分子フォーマット(scFv)
2を有する二特異性抗体は、消失半減期が、1〜4時間と非常に短い。(scFv)
2二特異性CD19×CD3抗体ブリナツモマブを用いた臨床試験では、この化合物は、患者が携行するポンプを介して、数週間および数カ月間にわたり投与しなければならなかった(Toppら、J Clin Oncol 2011年:29巻(18号):2493〜8頁)。週2回または週に1回のivまたはsc投与と比較して、ポンプを介して投与される処置は、患者にとってはるかに不都合であり、また、はるかに危険でもある(例えば、ポンプの不具合、カテーテルに関する問題)。
【0064】
本発明に従う抗体は、ROR1陽性細胞系(例えば、RPMI8226細胞、Rec−1細胞、Jeko細胞)への結合についてのEC50値であって、30nMまたはそれを下回る、好ましくは、15nMおよびそれを下回るEC50値を示すことを特徴とすることが好ましい。
【0065】
本発明に従う抗体は、ヒトT細胞の存在下における、ROR1発現腫瘍細胞(例えば、RPMI8226細胞、Rec−1細胞、Jeko細胞)のリダイレクトされた殺滅を、10nM未満、好ましくは、1nM、好ましくは、0.05nM、好ましくは、0.02nM、好ましくは、0.002nMおよびそれを下回るEC50で誘導するその能力を特徴とすることにより特徴付けられることが好ましい。
【0066】
二特異性抗体の安定性は、実際的な条件および臨床適用の影響を受ける可能性がある。近年における抗体操作の改善にも拘らず、一部の組換えタンパク質および分子フォーマット(例えば、scFV断片)は、ストレス条件下で、他の組換えタンパク質および分子フォーマットより容易に変性し、凝集物を形成する傾向がある(WornおよびPluckthun. J Mol Biol 2001年:305巻、989〜1010頁)。本発明に従う抗体は、標準的な製剤緩衝液中、37℃で、好ましくは、40℃で、10日間、好ましくは、最長2週間、好ましくは、最長4週間、保存された前記抗体が、高分子量(HMW)分子種および/または低分子量(LMW)分子種および/または単量体含量の、同じ製剤緩衝液中、−80℃で同じ保存期間保存された前記抗体と比較して、10%を超える変化(Δ)、好ましくは、5%を超える変化(Δ)を結果としてもたらさないことを特徴とすることが好ましい。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する、二価または三価の二特異性抗体であって、軽鎖およびそれぞれの重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられており、定常ドメインCLを含むことを特徴とし、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに従う番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに従う番号付け)二特異性抗体。
(項目2)
ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ヒトROR1の細胞外ドメインに特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)CD3εに特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、前記第2の抗体の前記第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)a)前記第1の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに従う番号付け)、a)前記第1の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに従う番号付け)こと
を特徴とする二特異性抗体。
(項目3)
ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ヒトROR1の細胞外ドメインに特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)ヒトCD3εに特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、前記第2の抗体の前記第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)b)下にある前記第2の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに従う番号付け)、b)下にある前記第2の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに従う番号付け)こと
を特徴とする二特異性抗体。
(項目4)
さらに、前記第1の抗体のFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)も含み、前記ROR1−Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに従う番号付け)、前記ROR1−Fabの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに従う番号付け)こと
を特徴とする、項目2に記載の二特異性抗体。
(項目5)
さらに、前記第1の抗体の第2のFab断片(「ROR1−Fab」)を含むことを特徴とする、項目3に記載の二特異性抗体。
(項目6)
ヒトCD3εに特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「CD3−Fab」とも称する)と、ヒトROR1の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)と、Fcパートとからなり、前記CD3−Fabおよび前記ROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されており、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含み、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含むことを特徴とする、項目1のいずれかに記載の二特異性抗体。
(項目7)
前記CD3−Fabおよび前記ROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されている、1つのCD3−Fabと、1つのROR1−Fabと、Fcパートと、そのC末端により前記CD3−FabのN末端へと連結された第2のROR1−Fabとからなり、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含み、前記CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含むことを特徴とする、項目6に記載の二特異性抗体。
(項目8)
ROR1−Fab−Fc−CD3−Fab−ROR1−Fabからなり、両方のROR1−Fabが、アミノ酸置換を含み、前記CD3−Fabが、VL/VHクロスオーバーを含むことを特徴とする、項目7に記載の二特異性抗体。
(項目9)
それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されている2つのROR1−Fabと、Fcパートと、そのC末端により1つのROR1−FabのN末端へと連結されているCD3−Fabとからなり、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含み、前記CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含むことを特徴とする、項目1に記載の二特異性抗体。
(項目10)
そのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された、1つのCD3−Fabと、そのC末端により、前記CD3−FabのN末端へと連結されたROR1−Fabとからなり、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含むことを特徴とする、項目1から5のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目11)
そのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された、1つのROR1−Fabと、そのC末端により、前記ROR1−FabのN末端へと連結されたCD3−Fabとからなり、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含むことを特徴とする、項目1から6のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目12)
抗ROR1抗体MAB1のCDR配列を含むことを特徴とする、項目1から11のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目13)
抗ROR1抗体MAB1のVHおよびVL配列を含むか、または抗ROR1抗体MAB1のVH、VL、CH1、およびCL配列を含む抗体であることを特徴とする、項目1から12のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目14)
ヒトCD3εに特異的に結合する抗体部分、好ましくは、前記Fab断片が、
a)配列番号12、13および14の重鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号15、16および17の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むか、または、
b)配列番号23、24および25の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHを含み、前記可変ドメインVLが、配列番号26、27および28の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 CH2527)の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより置きかえられていることを特徴とすることを特徴とする、項目1から13のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目15)
ヒトCD3εに特異的に結合する前記抗体部分が、
a)前記可変ドメインが、配列番号10および11(VHVL MAB CD3 H2C)の可変ドメインであるか、または、
b)前記可変ドメインが、配列番号21および22(VHVL MAB CD3 CH2527)の可変ドメインであることを特徴とすることを特徴とする、項目1から14のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目16)
ヒトROR1に特異的に結合する前記Fab断片が、重鎖CDR、配列番号7のCDR1H、配列番号8のCDR2H、配列番号9のCDR3Hを含む可変ドメインVHを含むことと、軽鎖CDR、配列番号3のCDR1L、配列番号4のCDR2L、配列番号5のCDR3Lを含む可変ドメインVLを含むこととを特徴とする(CDR MAB1)ことを特徴とする、項目1から15のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目17)
ヒトROR1に特異的に結合する前記Fab断片が、配列番号10のVHと配列番号11のVLとを含むことを特徴とする(VHVL MAB1)ことを特徴とする、項目1から16のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目18)
前記定常ドメインCL内の124位における前記アミノ酸の置きかえに加えて、123位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されていることを特徴とする、項目1から17のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目19)
アミノ酸124がKであり、アミノ酸147がEであり、アミノ酸213がEであり、およびアミノ酸123がカッパ軽鎖についてはRであり、ラムダ軽鎖についてはKであることを特徴とする、項目1から18のいずれか一項に記載の二特異性抗体。
(項目20)
ヒトCD3ε、およびヒトROR1の細胞外ドメインに特異的に結合する二特異性抗体であって、ポリペプチド、配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号40からなる群、または、ポリペプチド、配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号41からなる群から選択される、重鎖および軽鎖のセットを含むことを特徴とする二特異性抗体。
(項目21)
ヒトCD3εに特異的に結合する前記抗体部分内で、
a)配列番号12、13および14の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHにより、前記可変ドメインVHが置きかえられ、配列番号15、16および17の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより、前記可変ドメインVLが置きかえられること、または、
b)配列番号23、24および25の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHにより、前記可変ドメインVHが置きかえられ、配列番号26、27および28の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより、前記可変ドメインVLが置きかえられることを特徴とする、項目20に記載の抗体。
(項目22)
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々が、抗体のCH3ドメインの間の、元の界面を含む界面において向かい合い、前記界面が、前記二特異性抗体の形成を促進するように変更されていることを特徴とし、前記変更が、
a)前記二特異性抗体内の前記他方の重鎖のCH3ドメインの前記元の界面と向かい合う、一方の重鎖のCH3ドメインの前記元の界面内で、アミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、一方の重鎖のCH3ドメインの前記界面内に、前記他方の重鎖のCH3ドメインの前記界面内の空洞にはまる突起が作出されるように、一方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと、
b)前記二特異性抗体内の前記第1のCH3ドメインの前記元の界面と向かい合う、前記第2のCH3ドメインの前記元の界面内で、アミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、前記第2のCH3ドメインの前記界面内に、前記第1のCH3ドメインの前記界面内の突起がはまる空洞が作出されるように、前記他方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと
を特徴とする、項目1から21のいずれか一項に記載の抗体。
(項目23)
ヒトIgG1 Fcパート内に、Pro329のグリシンもしくはアルギニンによるアミノ酸置換、ならびに/またはLeu234のアラニンによる置換およびLeu235のアラニンによる置換を含むことを特徴とする、項目1から22のいずれか一項に記載の抗体。
(項目24)
構築物ROR1 Fab−Fc−CD3 Fab−ROR1 Fabであり、前記抗CD3ε抗体のFab断片内にVL/VHクロスオーバーを含むこと、ならびに、前記ヒトIgG1 Fcパート内に、Pro329のグリシンによるアミノ酸置換、Leu234のアラニンによるアミノ酸置換およびLeu235のアラニンによるアミノ酸置換を含むことを特徴とする、項目23に記載の抗体。
(項目25)
a)構築物ROR1 Fab−Fc−CD3 Fab−ROR1 Fabの抗体であること、
b)前記抗CD3ε抗体のFab断片内にVL/VHクロスオーバーを含むこと、
c)ヒトIgG1 Fcパートを含むこと、
d)前記Fcパート内に、Pro329のグリシンによる置換およびLeu234のアラニンによる置換およびLeu235のアラニンによる置換を含むこと、ならびに、
e)両方のROR1 Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸がリシン(K)により置換されており、123位におけるアミノ酸がカッパ軽鎖についてはアルギニン(R)により置換されており、ラムダ軽鎖についてはリシン(K)により置換されており、前記定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されていることを特徴とする、項目1から22のいずれか一項に記載の抗体。
(項目26)
初代B−CLL細胞において、1nMの濃度で、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とする、項目1から25のいずれか一項に記載の抗体。
(項目27)
前記二特異性抗体が、細胞ベースのアッセイにおいて、ROR1陽性初代B−CLL細胞を使用し、1nMの抗体濃度で使用した場合、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とし、内部化しないとは、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出される前記二特異性抗体のROR1陽性初代B−CLL細胞への結合の際における平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、50%を超えて低減しないか、好ましくは30%を超えて低減しないことを意味する、項目1から26のいずれか一項に記載の抗体。
(項目28)
項目1から27のいずれか一項に記載の二特異性抗体を調製するための方法であって、
a)宿主細胞を、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換するステップと、
b)前記宿主細胞を、前記抗体分子の合成を可能とする条件下で培養するステップと、
c)前記抗体分子を、前記培養物から回収するステップと
を含む方法。
(項目29)
項目1から27のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞。
(項目30)
項目1から27のいずれか一項に記載の抗体および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
(項目31)
医薬としての使用のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
(項目32)
慢性リンパ球性白血病(CLL)、ヘアリー細胞白血病(HCL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫(MM)、濾胞性リンパ腫(FL)、および潜在的に、腫瘍細胞の表面上にROR1を有する他の血液悪性腫瘍を含むROR1陽性血液悪性腫瘍の処置における医薬としての使用のため、ならびに乳がんおよび肺がんなどのROR1陽性固形腫瘍の処置のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
(項目33)
多発性骨髄腫の処置における医薬としての使用のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
(項目34)
B細胞系系統の慢性リンパ球性白血病(CLL)(B−CLL)の処置のため、および多発性骨髄腫MMのような形質細胞障害、またはROR1を発現する他のB細胞障害の処置における医薬としての使用のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
(項目35)
卵巣がん、肺がん、乳がん、胃がん、および膵がんからなる群から選択される疾患の処置における医薬としての使用のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
(項目36)
卵巣がんの処置における医薬としての使用のための、項目1から27のいずれか一項に記載の抗体、または項目30に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0085】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、VH/VLの交換を伴う、CD3εおよびROR1に対する二特異性抗体は、CD3εまたはROR1に対する抗体部分の軽鎖CL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)場合、高収率で作製され、容易に精製されうることを見出した。
【0086】
VH/VLの交換は、CD3結合性部分内でなされることが好ましい。二特異性抗体は、CD3への結合について一価であることが好ましい。上で記載したアミノ酸置換は、ROR1結合性部分内またはCD3結合性部分内のいずれかでなされうる。したがって、本発明のある特定の実施形態では、CD3結合性部分は、VH/VLの交換およびアミノ酸置換を含みうる。この場合、ROR1結合性部分は、アミノ酸124、147、213、または123において、VH/VLの交換も、アミノ酸置換も含まない。二特異性抗体は、CD3への結合について一価であり、ROR1への結合について二価であることが好ましい。したがって、記載される通り、二特異性抗体は、第1のROR1結合性部分と同一である、第2のROR1結合性部分を含みうる。したがって、第1のROR1結合性部分が、アミノ酸置換を含めば、第2のROR1結合性部分も、同じ置換を含み、第1のROR1結合性部分が、アミノ酸置換を含まなければ、第2のROR1結合性部分もまた、置換を含まない。アミノ酸124は、Kであり、アミノ酸147は、Eであり、アミノ酸213は、Eであり、アミノ酸123は、Rであることが好ましい。CD3結合性部分およびROR1結合性部分(または、そうである場合、ROR1結合性部分の両方)は、Fab断片であり、それによって、2つのROR1結合性部分が存在する場合、1つのROR1部分は、CH1/VL(ROR1結合性部分のC末端(CH1)からクロスオーバーのCD3結合性部分のN末端(VL)へ)、またはCH1/VH(クロスオーバーのCD3結合性部分のC末端(CH1)からROR1結合性部分のN末端(VH)へ)を介して、CD3結合性部分へと化学的に連結されることが好ましい。二特異性抗体は、Fcパートを含む場合も、Fcパートを含まない場合もある。
【0087】
本明細書で使用される「ROR1」という用語は、チロシン−プロテインキナーゼ受容体である、ヒトROR1(同義語:チロシン−プロテインキナーゼ膜貫通受容体ROR1、EC=2.7.10.1、神経栄養チロシンキナーゼ、受容体関連1、UniProtKB Q01973)に関する。ROR1の細胞外ドメインは、UniProtに従い、アミノ酸30〜406からなる。本明細書で使用される「ROR1に対する抗体、抗ROR1抗体またはROR1 Mab」という用語は、ヒトROR1に特異的に結合する抗体に関する。この抗体は、ROR1の細胞外ドメイン(配列番号1のアミノ酸M1〜V406)に特異的に結合する。この抗体は、Ig様C2型ドメイン(配列番号1のアミノ酸Q73〜V139)、frizzledドメイン(配列番号1のアミノ酸E165〜I299)、またはクリングルドメイン(配列番号1のアミノ酸K312〜C391)である、細胞外ドメインの断片に特異的に結合する。これらの断片は、WO2005100605において言及されている。この抗体は、ROR1の細胞外ドメイン断片WNISSELNKDSYLTL(配列番号18)に特異的に結合することがさらに好ましい。この断片は、Daneshmanesh AHら、Int. J. Cancer、123巻(2008年)1190〜1195頁において言及されている。本発明に従う例示的な抗ROR1抗体は、Mab2(WO201209731、Mab 4A5)およびMab1、Mab3およびMab4(WO2012075158、Mab R12、Y31およびR11)である。指定のない場合、ROR1 IgGまたはTCB抗体はMab1を指す。
【0088】
本明細書で使用される「CD3εまたはCD3」という用語は、UniProt P07766(CD3E_HUMAN)下に記載されているヒトCD3εに関する。「CD3に対する抗体、抗CD3抗体」という用語は、CD3εに結合する抗体に関する。抗体は、配列番号12、13、および14の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号15、16、および17の軽鎖CDRを、それぞれ、軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むことが好ましい。抗体は、配列番号10(VH)および配列番号11(VL)の可変ドメインを含むことが好ましい。抗体は、配列番号23、24および25の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号26、27および28の軽鎖CDRを、それぞれ、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むことが好ましい。抗体は、配列番号21(VH)および配列番号22(VL)の可変ドメインを含むことが好ましい。配列番号10および11および21および22に示されている抗CD3抗体は、SP34に由来し、抗体SP34としてのエピトープ結合に関して同様の配列および同じ特性を有する。
【0089】
「CD3またはROR1に特異的に結合すること」とは、抗体が、CD3またはROR1のターゲティングにおいて治療剤として有用であるように、CD3またはROR1(標的)に、十分なアフィニティーで結合することが可能な抗体を指す。一部の実施形態では、抗CD3またはROR1抗体が、無関係なCD3以外またはROR1以外のタンパク質に結合する程度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)、例えば、Biacore(登録商標)、酵素免疫測定法(ELISA)、またはフローサイトメトリー(FACS)により測定される場合、抗体のCD3またはROR1への結合の約10分の1、好ましくは、100分の1未満である。CD3またはROR1に結合する抗体の解離定数(Kd)は、10
−8Mまたはそれ未満、好ましくは、10
−8M〜10
−13M、好ましくは、10
−9M〜10
−13Mであることが好ましい。本発明に従う二特異性抗体は、異なる種に由来するROR1の間で保存されているROR1のエピトープおよび/または異なる種に由来するCD3の間、好ましくは、ヒトおよびカニクイザルの間で保存されているCD3のエピトープに結合することが好ましい。「CD3およびROR1に特異的に結合する二特異性抗体」または「本発明に従う抗体」とは、両方の標的への結合についてのそれぞれの定義を指す。ROR1(またはCD3またはROR1およびCD3)に特異的に結合する抗体は、他のヒト抗原に結合しない。したがって、ELISAでは、このような無関係な標的についてのOD値は、特異的なアッセイの検出限界のOD値と等しいかもしくはそれ未満、好ましくは、1.5pMと等しいかもしくはそれ未満、またはROR1をプレートに結合させていないか、もしくはHEK293細胞にトランスフェクトしていない対照試料のOD値と等しいかもしくはそれ未満である。
【0090】
本発明に従う抗体は、プレートに結合させたROR1を使用する、ヒトROR1への結合についてのELISAにより解析する。このアッセイでは、好ましくは、1.5nMの量のプレートに結合させたROR1と、好ましくは、1pM〜200nMの範囲の濃度の抗ROR1抗体を使用する。そのROR1結合が、ROR1をプレートに結合させていないか、または本発明に従うHEK293細胞にトランスフェクトしていない対照試料のOD値よりも少なくとも20%高い本発明に従う抗体は、「ELISAアッセイにおいてヒトROR1に結合する」抗体である。本発明に従う例示的な抗体は、ポリペプチド、配列番号37、38、39、および40の重鎖および軽鎖のセットにより特徴付けられる。本発明に従う別の例示的な抗体は、ポリペプチド、配列番号37、38、39、および41の重鎖および軽鎖のセットにより特徴付けられる。
【0091】
本明細書で使用される「内部化しない、本発明に従う抗体」という用語は、細胞ベースのアッセイにおいて、ROR1陽性B−CLL細胞を使用して、および1nMの抗体濃度で使用した場合、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とするMFI低減特性を有する、本発明に従う二特異性抗体を意味し、内部化しないとは、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出されるROR1陽性細胞への結合の際における平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、内部化によって50%を超えて低減せず、好ましくは30%を超えて低減しないことを意味する。本発明に従う二特異性抗体は、ROR1陽性B−CLL細胞において内部化しない、したがって、前記抗ROR1抗体のROR1陽性B−CLL細胞への結合は、本明細書に記載の細胞ベースのアッセイにおいて、前記抗体を37℃で2時間インキュベートしたした場合に、50%を超えて低減せず、好ましくは、30%を超えて低減しない。
【0092】
本発明に従う二特異性抗体はまた、細胞ベースのアッセイにおいて、ROR1陽性B−CLL細胞を使用して、および1nMの抗体濃度で、37℃で2時間の間に、フローサイトメトリーにより測定される、37℃で0時間から2時間までの内部化による平均蛍光強度の低減(ΔMFI)が、同じ濃度および実験条件における、軽鎖可変ドメイン(VL)として配列番号2の配列および可変重鎖ドメイン(VH)として配列番号6の配列を含むヒトIgG1カッパ(κ)型の抗ROR1二価抗体のΔMFIの、120%〜0%の間、好ましくは、100%〜0%であることも好ましい。
【0093】
抗ROR1抗体を含むT細胞二特異性抗体を使用する治療では、上で定義した通り、腫瘍細胞とT細胞の間の安定な免疫シナプスおよび有効なT細胞媒介性のリダイレクトされた細胞傷害作用を容易にするために、抗体は内部化しないことが好ましい。
【0094】
本明細書で使用される、「前記抗ROR1抗体のROR1陽性細胞への内部化」を反映する「平均蛍光強度の低減」(ΔMFI)、または「MFI低減」という用語は、式ΔMFI=100−100×[(MFI
実験値−MFI
バックグラウンド)/(MFI
最大−MFI
バックグラウンド)]を使用することにより、各ROR1抗体について、非特異的なヒトIgG対照(MFI
バックグラウンド)および氷上で維持されたROR1抗体(MFI
最大)と比較して計算されるMFI低減の百分率を指す。MFI
実験値は、37℃で2時間のインキュベーション後の前記ROR1抗体で測定されるMFIである。10μMのエンドサイトーシス阻害剤フェニルアルシンオキシドによって少なくとも75%遮断および反転されるMFI低減は、例えば、抗体内部化によって引き起こされるのに対し、フェニルアルシンオキシドにより遮断されないMFI低減は、抗体解離によって引き起こされる。内部化する抗ROR1抗体は最先端技術において公知である(Baskarら、Clin. Cancer Res.、14巻(2号):396〜404頁(2008年))。
【0095】
本発明に従う二特異性抗体は、3μMのフェニルアルシンオキシド(PAO)の存在下で2時間の時点のMFI値の、PAOの非存在下における2時間の時点のMFI値と比較した増大が、30%を超えない、好ましくは、20%を超えない、好ましくは、10%を超えない、さらには、0時間におけるMFI値の検出レベルを超えないことを特徴とすることが好ましい。
【0096】
本明細書で使用される「標的」という用語は、ROR1またはCD3のいずれかを意味する。「第1の標的および第2の標的」という用語は、第1の標的としてのCD3、および第2の標的としてのROR1を意味するか、または、第1の標的としてのROR1、および第2の標的としてのCD3を意味する。
【0097】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体を指す。抗体は、「軽鎖」(LC)および「重鎖」(HC)の2つの対(本明細書では、このような軽鎖(LC)/重鎖対を、LC/HCと略記する)からなる。このような抗体の軽鎖および重鎖は、いくつかのドメインからなるポリペプチドである。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では、HCVRまたはVHと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、重鎖定常ドメインCH1、CH2、およびCH3(抗体クラス:IgA、IgD、およびIgG)、任意選択で重鎖定常ドメインCH4(抗体クラス:IgEおよびIgM)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメインVLおよび軽鎖定常ドメインCLを含む。可変ドメインVHおよびVLは、相補性決定領域(CDR)と名付けられる超可変領域であって、フレームワーク領域(FR)と名付けられる、より保存的な領域を散在させた、超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端から、カルボキシ末端へと、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で並べられる、3つのCDRおよび4つのFRから構成される。重鎖および軽鎖の「定常ドメイン」は、抗体の、標的への結合に直接は関与しないが、多様なエフェクター機能を呈示する。
【0098】
本明細書で使用される「抗体の軽鎖」とは、N末端からC末端の方向で、VL−CLと略記される、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)を含むポリペプチドである。本明細書で使用される「クロスオーバー軽鎖(VH−CL)」とは、VLドメインを、それぞれのVHドメインで置きかえた軽鎖である。本明細書で使用される「抗体の重鎖」とは、N末端からC末端の方向で、重鎖可変ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)を含むポリペプチドである。本明細書で使用される「クロスオーバー重鎖(VL−CH1)」とは、VHドメインを、それぞれのVLドメインで置きかえた重鎖である。
【0099】
ヘテロ二量体化を強化する、CH3修飾のためのいくつかの手法であって、例えば、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012058768、WO2013157954、WO2013096291において十分に記載されている手法が存在する。このような手法のいずれにおいても、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインの両方を、各CH3ドメイン(またはそれを含む重鎖)がもはや、それ自身とホモ二量体化することができず、操作された相補的な他のCH3ドメインとヘテロ二量体化することを強いられるように(第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、ヘテロ二量体化し、2つの第1のCH3ドメインまたは2つの第2のCH3ドメインの間でホモ二量体が形成されないように)相補的な形で操作することが典型的である。重鎖のヘテロ二量体化を改善するためのこれらの異なる手法は、本発明に従う抗体内で、重鎖−軽鎖修飾(1つの結合性アーム内のVHおよびVLの交換/置きかえ、ならびにCH1/CL界面内の、逆の電荷を伴う帯電アミノ酸による置換の導入)と組み合わせた異なる代替法であって、軽鎖の誤対合、例えば、ベンス−ジョーンズ型副産物を低減する代替法として想定されている。
【0100】
本発明の好ましい一実施形態では、アミノ酸置換または電荷変異体とは、軽鎖の誤対合を低減する、本発明に従う抗体内の123位および124位における定常ドメインCLおよび/または147位および213位における定常ドメインCH1に適用される。
【0101】
本発明の好ましい一実施形態では(本発明に従う抗体が、重鎖内にCH3ドメインを含む場合には)、本発明に従う前記多特異性抗体のCH3ドメインは、例えば、WO96/027011、Ridgway,J.B.ら、Protein Eng.、9巻(1996年)、617〜621頁;およびMerchant,A.M.ら、Nat.Biotechnol.、16巻(1998年)、677〜681頁;WO98/050431において、いくつかの例と共に、詳細に記載されている、「KIH(knob−into−hole)」技術により変更することができる。この方法では、これらの2つのCH3ドメインを含有する両方の重鎖のヘテロ二量体化を増大させるように、2つのCH3ドメインの相互作用表面を変更する。2つのCH3ドメイン(2つの重鎖の)の各々を「ノブ」としうる一方で、他は「ホール」となる。
【0102】
こうして、本発明の一実施形態では、本発明に従う前記抗体は(各重鎖内にCH3ドメインを含み)、a)抗体の第1の重鎖の第1のCH3ドメインおよびb)抗体の第2の重鎖の第2のCH3ドメインの各々が、抗体のCH3ドメインの間の、元の界面を含む界面において向かい合い、前記界面が、本発明に従う抗体の形成を促進するように変更されていることもさらに特徴とし、前記変更は、
i)本発明に従う抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの元の界面と向かい合う、一方の重鎖のCH3ドメインの元の界面内で、アミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、一方の重鎖のCH3ドメインの界面内に、他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空洞にはまる突起が作出されるように、一方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと、
ii)本発明に従う抗体内の第1のCH3ドメインの元の界面と向かい合う、第2のCH3ドメインの元の界面内で、アミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、第2のCH3ドメインの界面内に、第1のCH3ドメインの界面内の突起がはまる空洞が作出されるように、他方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと
を特徴とする。
【0103】
より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群から選択されることが好ましい。
【0104】
本発明の一態様では、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメインの間でジスルフィド架橋が形成されうるように、各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸としてのシステイン(C)の導入により、さらに変更されている。
【0105】
ヘテロ二量体化を強化する、CH3修飾のための他の技法も、本発明の代替法として想定されており、例えば、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012/058768、WO2013/157954、WO2013/157953、WO2013/096291において記載されている。
【0106】
一実施形態では、本発明に従う抗体は、IgG2アイソタイプの抗体であり、WO2010/129304において記載されているヘテロ二量体化法を、代替的に使用することができる。
【0107】
「抗体」という用語は、例えば、それらの特徴的な特性が保持されている限りにおいて、マウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、および遺伝子操作抗体(変異体または突然変異体の抗体)を含む。とりわけ、組換えヒト抗体またはヒト化抗体としての、ヒト抗体またはヒト化抗体が、とりわけ、好ましい。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一のアミノ酸組成を有する抗体分子の調製物を指す。
【0108】
二特異性抗体に関して本明細書で使用される「含む(comprising)」という用語は、二特異性抗体が、CD3およびROR1結合剤として、言及されているような結合剤だけを含むことを意味する。したがって、ROR1に特異的に結合する一価抗ROR1抗体と、CD3に特異的に結合する一価抗体とを含む本発明に従う二特異性抗体は、CD3およびROR1結合に関しては、CD3に対する結合力価は1だけであり、ROR1に対する力価は1だけであり、したがって、二価である。ROR1に特異的に結合する二価抗ROR1抗体と、CD3に特異的に結合する一価抗体とを含む本発明に従う二特異性抗体は、ROR1結合に関しては結合力価が2であり、CD3結合に関しては力価が1であり、したがって、三価である。CD3に特異的に結合する一価抗体は、そのC末端において、ROR1に特異的に結合する抗体の1つの可変鎖のN末端と共有結合していることが好ましい。
【0109】
本明細書で使用される「抗体のFab断片」とは、抗原に結合する抗体の断片である。抗体のFab断片は、2つのドメイン対からなる。野生型抗体では、抗体のFab断片は、重鎖(CH1、およびVH)および軽鎖(CLおよびVL)の各々の1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインから構成される。本発明に従えば、このようなドメイン対はまた、クロスオーバーのために、VH−CLおよびVL−CH1でもありうる。野生型抗体では、かつ、本発明に従えば、Fab断片の重鎖および軽鎖のドメイン対のドメインは、化学的に一緒に連結されてはおらず、したがって、scFv(単鎖可変断片)ではない。本発明に従う「クロスオーバー」とは、好ましくは、1つのFabドメイン内で、VLとVHとが、互いに置きかえられていることを意味する。「Fab断片」という用語は、Fab’断片のようなヒンジ領域の一部または全部も包含する。本明細書で使用される場合、「F(ab)
2断片」とは、Fcパートを有することが好ましい、二価の単一特異性抗体断片を指す。
【0110】
本明細書で使用される「アミノ酸置換または電荷変異体」という用語は、定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されており、好ましくは、さらに、定常ドメインCL内で、123位におけるアミノ酸も、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により、好ましくは、アルギニン(R)により独立に置換されているという点で、本発明に従うアミノ酸置換を意味する。
【0111】
アミノ酸置換の好ましい組合せは、Q124K、E123R、K147E、およびK213E(例えば、E123Rとは、123位におけるグルタミン酸(E)が、アルギニン(R)で置きかえられていることを意味する)である。F(ab)
2断片は、ヒンジ領域内で、C末端においてジスルフィド結合によって連結されていることが好ましく、通常、このような「F(ab)
2断片」は、F(ab’)
2断片である。アミノ酸置換の好ましい組合せは、E124K、E123K、K147EおよびK213Eである(例えば:E123Kは、123位のグルタミン酸(E)がリシン(K)により置きかえられていることを意味する)。F(ab)
2断片は、ヒンジ領域内で、C末端においてジスルフィド結合によって連結されていることが好ましく、通常、このような「F(ab)
2断片」は、F(ab’)
2断片である。本発明に従う抗体の定常ドメインCH1/CL内の、逆の電荷を伴う帯電アミノ酸による置換の導入は、軽鎖の誤対合を低減する。
【0112】
本発明中で使用される「ROR1 Fab」という用語は、ROR1に特異的に結合する抗体のFab断片を指す。抗ROR1抗体Fab断片(ROR1 Fab)内の可変領域または定常領域のいずれかの交換に起因して、このようなROR1 Fabは、「ROR1 crossFab」または「クロスオーバーROR1 Fab断片」と称される。本発明に従って、ROR1 Fabは、ROR1 crossFabではない。「接続されている」とは、Fab断片が、ペプチド結合により、直接、または1つもしくは複数のペプチドリンカーを介してのいずれかで連結されていることが好ましいことを意味する。本発明中で使用される「CD3 Fab」という用語は、CD3に特異的に結合する抗体のFab断片を指す。CD3 Fabは、そのN末端において、ROR1 FabのC末端に連結されている。CD3 Fab内の可変領域または定常領域のいずれかの交換に起因して、このようなCD3 Fabは、「CD3 crossFab」または「クロスオーバーCD3 Fab断片」と称される。本発明に従って、CD3 Fabは、crossFabであることが好ましい。
【0113】
本発明中で使用される「ペプチドリンカー」という用語は、合成起源のものであることが好ましいアミノ酸配列を有するペプチドを指す。本発明に従うこれらのペプチドリンカーを使用して、Fab断片のうちの1つを他のFab断片のC末端またはN末端に接続して本発明に従う多特異性抗体を形成する。前記ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸の長さ、好ましくは、5〜100アミノ酸の長さ、より好ましくは、10〜50アミノ酸の長さのアミノ酸配列を有するペプチドであることが好ましい。一実施形態では、前記ペプチドリンカーは(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリンであり(x=3、n=3、4、5または6、およびm=0、1、2または3)または(x=4、n=2、3、4または5およびm=0、1、2または3)、好ましくは、x=4およびn=2または3、より好ましくは、x=4、n=2である。さらに、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(その一部)を含みうる。一実施形態では、前記ペプチドリンカーは(G
4S)
2(配列番号19)である。
【0114】
ギリシャ文字:α、δ、ε、γ、およびμで示される、5種類の哺乳動物抗体重鎖が存在する(Janeway CA,Jrら(2001年)、Immunobiology、5版、Garland Publishing)。存在する重鎖の種類は、抗体のクラスを規定し、これらの鎖は、それぞれ、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、およびIgM抗体において見出される(Rhoades RA、Pflanzer RG(2002年)、Human Physiology、4版、Thomson Learning)。別個の重鎖は、サイズおよび組成が異なり、αおよびγが、約450アミノ酸を含有するのに対し、μおよびεは、約550アミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域である、定常領域および可変領域を有する。定常領域は、同じアイソタイプの全ての抗体では、同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つの定常ドメインCH1、CH2、およびCH3(一列の)と、可撓性を付加するためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し(Woof J、Burton D、Nat Rev Immunol、4巻(2004年)、89〜99頁)、重鎖μおよびεは、4つの定常ドメインCH1、CH2、CH3、およびCH4から構成される定常領域を有する(Janeway CA,Jrら(2001年)、Immunobiology、5版、Garland Publishing)。重鎖の可変領域は、異なるB細胞により産生される抗体内では異なるが、単一のB細胞またはB細胞クローンにより産生される全ての抗体では同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸の長さであり、単一の抗体ドメインから構成される。哺乳動物では、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)と呼ばれる、2種類の軽鎖しか存在しない。軽鎖は、2つの連続ドメイン:1つの定常ドメインCLと、1つの可変ドメインVLとを有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217アミノ酸である。
【0115】
Fcパートを含む本発明に従う二特異性抗体は、任意のクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM、好ましくは、IgGまたはIgE)、またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2、好ましくは、IgG1)の抗体であることが可能であり、これによって、本発明に従う二特異性二価抗体が由来する両方の抗体は、同じサブクラス(例えば、IgG1、IgG4など、好ましくは、IgG1)、好ましくは、同じアロタイプ(例えば、白色人種)のFcパートを有する。
【0116】
「抗体のFcパート」とは、当業者に周知であり、パパインによる抗体の切断に基づき規定される用語である。Fcパートを含む本発明に従う抗体は、Fcパートとして、好ましくは、ヒト由来のFcパート、好ましくは、ヒト定常領域の他の全てのパートも含有する。抗体のFcパートは、補体の活性化、C1qへの結合、C3の活性化、およびFc受容体への結合に直接関与する。抗体の、補体系に対する影響は、ある特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fcパート内の、規定された結合性部位により引き起こされる。このような結合性部位は、最先端技術において公知であり、例えば、Lukas,TJ.ら、J. Immunol.、127巻(1981年)、2555〜2560頁;Brunhouse,R.、およびCebra,J.J.、MoI.Immunol.、16巻(1979年)、907〜917頁;Burton,D.R.ら、Nature、288巻(1980年)、338〜344頁;Thommesen,J.E.ら、MoI.Immunol.、37巻(2000年)、995〜1004頁;Idusogie,E.E.ら、J.Immunol.、164巻(2000年)、4178〜4184頁;Hezareh,M.ら、J.Virol.、75巻(2001年)、12161〜12168頁;Morgan,A.ら、Immunology、86巻(1995年)、319〜324頁;ならびにEP0307434により記載されている。このような結合性部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、およびP329(KabatによるEUインデックスに従う番号付け(下記を参照されたい))である。サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体が通例、補体の活性化、C1qへの結合、C3の活性化を示すのに対し、IgG4は、補体系を活性化させず、C1qに結合せず、C3を活性化させない。Fcパートは、ヒトFcパートであることが好ましい。Fcパートは、ヒトIgG1 Fcパートであることが好ましい。本発明に従う抗体は、ヒトIgG1 Fcパート内に、Pro329の、グリシンもしくはアルギニンによるアミノ酸置換、ならびに/または置換L234AおよびL235A、好ましくは、Pro329のグリシンによる置換、ならびに置換L234AおよびL235Aを含むことが好ましい。
【0117】
IgG1サブクラスの定常重領域CH2/CH3を含む本発明に従う二特異性抗体は、FcRおよびC1q結合を回避し、ADCC/CDCを最小化するように、変異L234A、L235AおよびP
329G(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)を含むことを特徴とすることが好ましい。利点は、本発明のこのような抗体が、T細胞をリダイレクションし/活性化させる強力な機構により、その腫瘍細胞殺滅の有効性を純粋に媒介することである。補体系およびFcRを発現するエフェクター細胞に対する効果などのさらなる作用機構は、回避され、副作用の危険性は、低下する。
【0118】
本発明に従う抗体は、Fcパートとして、野生型ヒトIgG Fc領域のFc変異体であって、位置Pro329におけるアミノ酸置換と、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換とを含み、残基が、KabatによるEUインデックスに従い、番号付けされ、前記抗体が、野生型IgG Fc領域を含む抗体と比較して、ヒトFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAおよび/またはFcγRIに対するアフィニティーの低減を呈示し、前記抗体により誘導されるADCCが、野生型ヒトIgG Fc領域を含む抗体により誘導されるADCCの少なくとも20%まで低減されるFc変異体を含むことが好ましい。具体的な実施形態では、本発明に従う抗体内の野生型ヒトFc領域のPro329を、グリシンもしくはアルギニン、またはFcのプロリン329と、FcγRIIIのトリプトファン(tryptophane)残基Trp87およびTip110との間で形成される、Fc/Fcγ受容体界面内のプロリンサンドイッチ(Sondermannら、Nature、406巻、267〜273頁(2000年7月20日))を破壊するのに十分な程度に大型のアミノ酸残基で置換する。本発明のさらなる態様では、Fc変異体内の、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、S228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、またはP331Sであり、さらに別の実施形態では、前記少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、ヒトIgG1 Fc領域のL234A(ロイシン234が、アラニンにより置換されていることを示す)およびL235A、またはヒトIgG4 Fc領域のS228PおよびL235Eである。このようなFc変異体については、WO2012130831において、詳細に記載されている。
【0119】
本発明に従う抗体の定常重鎖は、ヒトIgG1型のものであることが好ましく、定常軽鎖は
、ヒトカッパ(κ)型のものであることが好ましい。
【0120】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一のアミノ酸組成を有する抗体分子の調製物を指す。
【0121】
「キメラ抗体」という用語は、1つの供給源または種に由来する可変領域、すなわち、結合性領域と、異なる供給源または種に由来する定常領域の少なくとも一部とを含む抗体であって、通例、組換えDNA技法により調製される抗体を指す。マウス可変領域と、ヒト定常領域とを含むキメラ抗体が好ましい。本発明により包含される、「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明に従う特性であって、とりわけ、C1qへの結合および/またはFc受容体(FcR)への結合に関する特性を作出するように、定常領域を、元の抗体の定常領域から修飾するか、または変化させた形態である。このようなキメラ抗体はまた、「クラススイッチ抗体」とも称する。キメラ抗体とは、免疫グロブリンの可変領域をコードするDNAセグメントと免疫グロブリンの定常領域をコードするDNAセグメントとを含む、発現した免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を作製するための方法は、当技術分野で周知の従来の組換えDNAおよび遺伝子トランスフェクション技法を伴う。例えばMorrison,S.L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻(1984年)、6851〜6855頁;米国特許第5,202,238号、および同第5,204,244号を参照されたい。
【0122】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンのCDRと比較して特異性が異なる、免疫グロブリンのCDRを含むように修飾された抗体を指す。好ましい実施形態では、マウスCDRを、ヒト抗体のフレームワーク領域へとグラフトして、「ヒト化抗体」を調製する。例えばRiechmann,L.ら、Nature、332巻(1988年)、323〜327頁;およびNeuberger,M.S.ら、Nature、314巻(1985年)、268〜270頁を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について上で言及した標的を認識する配列を表すCDRに対応する。本発明により包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、本発明に従う特性であって、とりわけ、C1qへの結合および/またはFc受容体(FcR)への結合に関する特性を作出するように、定常領域を、元の抗体の定常領域から、さらに修飾するか、または変化させた形態である。
【0123】
本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。最先端技術では、ヒト抗体が周知である(van Dijk,M.A.およびvan de Winkel,J.G.、Curr.Opin.Chem.Biol.、5巻(2001年)、368〜374頁)。ヒト抗体はまた、免疫化すると、内因性免疫グロブリン産生の非存在下において、ヒト抗体の完全なレパートリーまたはセレクションを産生することが可能な、トランスジェニック動物(例えば、マウス)によって作製することもできる。ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子アレイの、このような生殖細胞系列突然変異マウスへの移入は、標的による感作時における、ヒト抗体の産生を結果としてもたらす(例えば、Jakobovits,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90巻(1993年)、2551〜2555頁;Jakobovits,A.ら、Nature、362巻(1993年)、255〜258頁;Bruggemann,M.ら、Year Immunol.、7巻(1993年)、33〜40頁を参照されたい)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリー(Hoogenboom,H.R.およびWinter,G.、J.MoI.Biol.、227巻(1992年)、381〜388頁;Marks,J.D.ら、J.MoI.Biol.、222巻(1991年)、581〜597頁)で作製することもできる。ColeらおよびBoernerらによる技法はまた、ヒトモノクローナル抗体の調製にも利用可能である(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss、77頁(1985年);およびBoerner,P.ら、J.Immunol.、147巻(1991年)、86〜95頁)。本発明に従うキメラ抗体およびヒト化抗体について既に言及した通り、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語はまた、本発明に従う特性であって、とりわけ、C1qへの結合および/またはFcRへの結合に関する特性を作出するように、例えば、「クラススイッチング」、すなわち、Fcパートの変化または突然変異(例えば、IgG1からIgG4への突然変異、および/またはIgG1/IgG4突然変異)により、定常領域において修飾される抗体も含む。
【0124】
本明細書で使用される「組換えヒト抗体」という用語は、NSO細胞もしくはCHO細胞などの宿主細胞、またはヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体、あるいは宿主細胞へとトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現させた抗体など、組換え手段により調製するか、発現させるか、創出するか、または単離した、全てのヒト抗体を含むことを意図する。このような組換えヒト抗体は、可変領域および定常領域を、再配列された形態で有する。本発明に従う組換えヒト抗体は、in vivoにおける体細胞超変異に供されている。こうして、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列のVHおよびVL配列に由来し、これらと類縁であるが、in vivoのヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内で、天然には存在しえない配列である。
【0125】
本明細書で使用される「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖(VH)の可変領域)は、抗体の、標的への結合に直接関与する、軽鎖および重鎖の対の各々を示す。可変ヒト軽鎖および重鎖のドメインは、同じ一般的構造を有し、各ドメインは、その配列が、広く保存され、3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)により接続されている、4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域は、βシートコンフォメーションを取り、CDRは、βシート構造を接続するループを形成しうる。各鎖内のCDRは、フレームワーク領域により、それらの三次元構造に保たれ、他の鎖に由来するCDRと一緒に、標的結合性部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は、本発明に従う抗体の結合特異性/アフィニティーにおいて、特に重要な役割を果たし、したがって、本発明のさらなる目的を提供する。
【0126】
本明細書で使用される場合の「超可変領域」または「抗体の標的結合性部分」という用語は、標的への結合の一因となる、抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域または「FR」領域とは、本明細書で規定される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端へと、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各鎖上のCDRは、このようなフレームワークアミノ酸により隔てられている。とりわけ、重鎖のCDR3は、標的への結合に最も寄与する領域である。CDR領域およびFR領域は、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年)による標準的な規定に従い、決定する。
【0127】
本明細書で使用される「標的」または「標的分子」という用語は互換的に使用され、ヒトROR1およびヒトCD3εを指す。
【0128】
「エピトープ」という用語は、抗体への特異的結合が可能な、任意のポリペプチド決定基を含む。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなど、化学的に活性な表面分子の群を含み、ある特定の実施形態では、特異的な三次元構造特徴および/または特異的な電荷特徴を有しうる。エピトープとは、抗体が結合する、標的の領域である。
【0129】
一般に、第1の標的に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターと、第2の標的に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードするさらなる2つのベクターが存在する。2つのベクターのうちの一方は、それぞれの軽鎖をコードし、2つのベクターの他方は、それぞれの重鎖をコードする。しかし、本発明に従う二特異性抗体を調製するための代替法では、第1の標的に特異的に結合する抗体の重鎖および軽鎖をコードするただ1つの第1のベクターおよび第2の標的に特異的に結合する抗体の重鎖および軽鎖をコードするただ1つの第2のベクターを宿主細胞の形質転換に使用することができる。
【0130】
本明細書で使用される「核酸または核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は、一本鎖でも二本鎖でもよいが、二本鎖DNAであることが好ましい。
【0131】
本明細書で使用される「細胞」、「細胞系」、および「細胞培養物」という表現は、互換的に使用され、全てのこのような呼称は、子孫細胞を含む。こうして、「形質転換体」および「形質転換細胞」という語は、初代対象細胞、およびこれに由来する培養物であって、継代数に関わらない培養物を含む。また、全ての子孫細胞は、意図的なまたは偶発的な突然変異のために、DNA含量が正確に同一でない可能性があることも理解される。元の形質転換細胞内でスクリーニングされたのと同じ機能または生物学的活性を有する、変異体の子孫細胞も含まれる。顕著に異なる呼称が意図される場合、文脈から明らかであろう。
【0132】
本明細書で使用される「形質転換」という用語は、ベクター/核酸の、宿主細胞への移入のプロセスを指す。透過しにくい細胞壁バリアを伴わない細胞を宿主細胞として使用する場合、トランスフェクションは、例えば、GrahamおよびVan der Eh、Virology、52巻(1978年)、546頁以降により記載されている、リン酸カルシウム沈殿法により実行する。しかし、また、核注射によるまたはプロトプラスト融合によるなど、DNAを細胞へと導入するための他の方法も使用することができる。原核細胞または実質的な細胞壁の構築を含有する細胞を使用する場合、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen SNら、PNAS、1972年、69巻(8号):2110〜2114頁により記載されている通り、塩化カルシウムを使用するカルシウム処理である。
【0133】
最先端技術では、形質転換を使用する、抗体の組換え産生が周知であり、例えば、Makrides,S.C、Protein Expr.Purif.、17巻(1999年)、183〜202頁;Geisse,S.ら、Protein Expr.Purif.、8巻(1996年)、271〜282頁;Kaufman,RJ.、MoI.Biotechnol.、16巻(2000年)、151〜161頁;Werner,R.G.ら、Arzneimittelforschung、48巻(1998年)、870〜880頁による総説論文;ならびにUS6331415およびUS4816567において記載されている。
【0134】
本明細書で使用される「発現」とは、核酸をmRNAへと転写するプロセス、および/または転写されたmRNA(転写物ともまた称する)を、その後、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質へと翻訳するプロセスを指す。転写物と、コードされたポリペプチドとを、遺伝子産物と総称する。ポリヌクレオチドが、ゲノムDNAに由来する場合、真核細胞内の発現は、mRNAのスプライシングを含みうる。
【0135】
「ベクター」とは、核酸分子、特に、自己複製型核酸分子であって、挿入された核酸分子を、宿主細胞内および/または宿主細胞間に移入する核酸分子である。用語は、主にDNAまたはRNAの、細胞への挿入(例えば、染色体の組込み)のために機能するベクター、主にDNAまたはRNAの複製のために機能するベクターの複製、ならびにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、記載される機能のうちの1つを超える機能を提供するベクターも含まれる。
【0136】
「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞へと導入されると、ポリペプチドへと転写および翻訳されるポリヌクレオチドである。「発現系」とは通例、所望の発現産物をもたらすように機能しうる発現ベクターを含む、適切な宿主細胞を指す。
【0137】
本発明に従う二特異性抗体は、組換え手段により作製することが好ましい。このような方法は、最先端技術において広く公知であり、原核細胞内および真核細胞内のタンパク質の発現であって、その後における抗体ポリペプチドの単離と、通例、薬学的に許容される純度までの精製とを伴う発現を含む。タンパク質を発現させるためには、標準的な方法により、軽鎖および重鎖またはこれらの断片をコードする核酸を、発現ベクターへと挿入する。発現は、CHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、またはE.coli細胞のような適切な原核または真核宿主細胞内で実施し、抗体は、細胞(上清または溶解の後における細胞)から回収する。二特異性抗体は、全細胞で、細胞溶解物中、または部分的に精製もしくは実質的に純粋形態で存在しうる。精製は、アルカリ/SDS処理、カラムクロマトグラフィー、および当技術分野で周知の他の技法を含む標準的な技法により、他の細胞構成要素または他の夾雑物、例えば、他の細胞核酸またはタンパク質、を消失させるために実施する。Ausubel,F.ら編、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York(1987年)を参照されたい。
【0138】
NS0細胞内の発現は、例えば、Barnes,L.M.ら、Cytotechnology、32巻(2000年)、109〜123頁;およびBarnes,L.M.ら、Biotech.Bioeng.、73巻(2001年)、261〜270頁により記載されている。一過性発現は、例えば、Durocher,Y.ら、Nucl.Acids.Res.、30巻(2002年)、E9頁により記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi,R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86巻(1989年)、3833〜3837頁;Carter,P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻(1992年)、4285〜4289頁;およびNorderhaug,L.ら、J.Immunol.Methods、204巻(1997年)、77〜87頁により記載されている。好ましい一過性発現系(HEK293)は、Schlaeger,E.−J.およびChristensen,K.、Cytotechnology、30巻(1999年)、71〜83頁;ならびにSchlaeger,E.−J.、J.Immunol.Methods、194巻(1996年)、191〜199頁により記載されている。
【0139】
原核細胞に適する制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択で、オペレーター配列およびリボソーム結合性部位を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、およびポリアデニル化シグナルを活用することが公知である。
【0140】
核酸は、別の核酸配列との機能的関係に置かれた場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列もしくは分泌リーダーのためのDNAは、ポリペプチドの分泌に参与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されているか;プロモーターもしくはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されているか;またはリボソーム結合性部位は、翻訳を容易とするように位置づけられている場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結された」とは、連結されているDNA配列が連続であり、分泌リーダーの場合、リーディングフレーム内で連続であることを意味する。しかし、エンハンサーは、連続でなくともよい。連結は、好都合な制限部位におけるライゲーションにより達成される。このような部位が存在しない場合は、従来の慣行に従い、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを使用する。
【0141】
二特異性抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなど、従来の免疫グロブリン精製手順により、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAまたはRNAは、従来の手順を使用して、たやすく単離され、シークエンシングされる。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNAの供給源として用いることができる。単離されたら、DNAを、発現ベクターへと挿入することができ、次いで、宿主細胞内で組換えモノクローナル抗体の合成を得るように、HEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞であって、トランスフェクトしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞へとトランスフェクトする。
【0142】
二特異性抗体のアミノ酸配列の変異体(または突然変異体)は、適切なヌクレオチド変化を、抗体DNAへと導入することにより、またはヌクレオチドの合成により調製する。このような修飾は、実施しうるが、例えば、上で記載した通り、非常に限定的な範囲内に限られる。例えば、修飾は、IgGアイソタイプおよび標的への結合など、上述の抗体特徴を変更しないが、組換え作製の収率、タンパク質の安定性を改善する、または精製を容易とすることが可能である。
【0143】
T細胞二特異性(TCB)結合剤は、細胞の殺滅(例えば、ピコモル未満の範囲または低ピコモル範囲の、in vitro細胞殺滅アッセイにおけるEC
50;Dreierら、Int J Cancer、2002年)において、非常に高度な、濃度/腫瘍細胞受容体占有度依存的効力を有するが、T細胞二特異性結合剤(TCB)は、従来の単一特異性抗体よりはるかに低用量で施されている。例えば、ブリナツモマブ(CD19×CD3)は、急性リンパ性白血病の処置のための、5〜15μg/m
2/日(すなわち、わずか、0.035〜0.105mg/m
2/週)、または非ホジキンリンパ腫の処置のための、60μg/m
2/日の連続静脈内投与で施され、これらの投与時における血清濃度は、0.5〜4ng/mlの範囲である(Klingerら、Blood、2012年、Toppら、J Clin Oncol、2011年、Goebelerら、Ann Oncol、2011年)。ブリナツモマブの消失半減期は非常に短いので、臨床投与は、患者の体に携行するポンプを介した持続注入による。本発明の抗体の消失半減期はより長いので、本発明に従う抗体では、皮下投与が可能であり、臨床状況において好ましいことが想定される(週1回または週2回、0.1〜10mg/m
2の用量範囲が好ましく、さらにより低い用量が好ましい)。これらの低濃度/用量/受容体占有度であってもなお、TCBは、無視できない有害事象を引き起こしうる(Klingerら、Blood、2012年)。本発明の抗体の薬物動態的特性の改善は、有害事象を潜在的に低減する1つの尺度である。
【0144】
原理上は、CD3およびROR1に対する二特異性抗体を最先端技術において公知の全てのフォーマットで作製することが可能である。最近では、例えば、IgG抗体フォーマットと単鎖ドメインとの、例えば、融合によって、多種多様な組換え二特異性抗体フォーマットが開発されている(例えば、Kontermann RE、mAbs、4巻:2号(2012年)、1〜16頁を参照されたい)。可変ドメインVLおよびVHまたは定常ドメインCLおよびCH1を、互いに置きかえた二特異性抗体については、WO2009080251およびWO2009080252において記載されている。抗体フォーマットならびに二特異性抗体および多特異性抗体のフォーマットはまた、ペップボディ(pepbody)(WO200244215)、新規抗原受容体(「NAR」)(WO2003014161)、ダイアボディ−ダイアボディ二量体「TandAb」(WO2003048209)、ポリアルキレンオキシド改変scFv(US7150872)、ヒト化ウサギ抗体(WO2005016950)、合成免疫グロブリンドメイン(WO2006072620)、共有結合性ダイアボディ(WO2006113665)、フレキシボディ(flexibody)(WO2003025018)、ドメイン抗体、dAb(WO2004058822)、ワクシボディ(vaccibody)、(WO2004076489)、新世界霊長類フレームワークを有する抗体(WO2007019620)、切断可能なリンカーを用いた抗体−薬物コンジュゲート(WO2009117531)、ヒンジ領域が除去されたIgG4抗体(WO2010063785)、IgG4様CH3ドメインを有する二特異性抗体(WO2008119353)、ラクダ科動物抗体(US6838254)、ナノボディ(US7655759)、CATダイアボディ(US5837242)、標的抗原およびCD3を対象とする二特異性scFv2(US7235641)、sIgA P1抗体(US6303341)、ミニボディ(US5837821)、IgNAR(US2009148438)、ヒンジおよびFc領域が改変された抗体(US2008227958、US20080181890)、三官能性抗体(US5273743)、トリオマブ(US6551592)、トロイボディ(troybody)(US6294654)である。
【0145】
本発明に従う抗体は、週1回または週2回、s.c.投与することができる。
【0146】
本発明に従う二特異性三価抗体は、効力に対する利点、有効性および安全性に対する予測可能性を有する。
【0147】
ROR1に対して二価性を有し、CD3に対して一価性を有する、本発明に従う抗体は、悪性細胞上の腫瘍標的ROR1への結合に、循環中のT細胞上のCD3εへの結合よりも有利であり、CD3シンクを回避し、したがって、腫瘍における薬物曝露が増大する。
【0148】
以下の例、配列表、および図は、本発明の理解の一助とするために提示するものであり、本発明の真の範囲は、付属の特許請求の範囲で記される。本発明の精神から逸脱することなく、記される手順に改変を施しうることが理解される。
【0149】
配列表
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0150】
以下の、本発明に従うFc含有抗ROR1/抗CD3 TCBを作製するためには、上で記載した表で言及した、それぞれの構築物/配列番号が必要とされる:
ROR1−TCB (2+1):37、38、39、40×2または37、38、39、41×2
ROR1−TCB (1+1):36、37、39、40または36、37、39、41
Mab2 ROR1−TCB (2+1):39、54、55、56×2
Mab3 ROR1−TCB (2+1):39、57、58、59×2
Mab4 ROR1−TCB (2+1):39、60、61、62×2
【0151】
以下では、本発明の具体的な実施形態を列挙する。
実施形態1. ヒトCD3ε(さらにまた、「CD3」とも称する)およびヒトROR1(さらにまた、「ROR1」とも称する)の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する、二価または三価の二特異性抗体であって、軽鎖およびそれぞれの重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられており、定常ドメインCLを含むことを特徴とし、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)二特異性抗体。
【0152】
実施形態2. ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ROR1に特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、前記第2の抗体の前記第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)a)前記第1の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、a)前記第1の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)こと
を特徴とする二特異性抗体。
【0153】
実施形態3. ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、2つの標的に特異的に結合する二特異性抗体であって、
a)ヒトROR1に特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖および第1の重鎖と;
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖および第2の重鎖であって、前記第2の抗体の前記第2の軽鎖および第2の重鎖内の可変ドメインVLおよびVHが、互いに置きかえられている、第2の軽鎖および第2の重鎖とを含み;
c)b)下にある前記第2の軽鎖の定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、b)下にある前記第2の重鎖の定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)こと
を特徴とする二特異性抗体。
【0154】
実施形態4. さらに、前記第1の抗体のFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)も含み、前記ROR1−Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されており(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)、前記ROR1−Fabの定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸が、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)により独立に置換されている(Kabatに
よるEUインデックスに従う番号付け)こと
を特徴とする、実施形態2に従う二特異性抗体。
【0155】
実施形態5. さらに、前記第1の抗体の第2のFab断片(「ROR1−Fab」)を含むことを特徴とする、実施形態3に従う二特異性抗体。
【0156】
実施形態6. CD3εに特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「CD3−Fab」とも称する)と、ROR1に特異的に結合する抗体の1つのFab断片(さらにまた、「ROR1−Fab」とも称する)と、Fcパートとからなり、前記CD3−Fabおよび前記ROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されており、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含み、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含むことを特徴とする、実施形態1のいずれかに従う二特異性抗体。
【0157】
実施形態7. 前記CD3−Fabおよび前記ROR1−Fabが、それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されている、1つのCD3−Fabと、1つのROR1−Fabと、Fcパートと、そのC末端により前記CD3−FabのN末端へと連結された第2のROR1−Fabとからなり、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含み、前記CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含む(
図1Cおよび1D)ことを特徴とする、実施形態6に従う二特異性抗体。
【0158】
実施形態8. ROR1−Fab−Fc−CD3−Fab−ROR1−Fabからなり、両方のROR1−Fabが、アミノ酸置換を含み、前記CD3−Fabが、VL/VHクロスオーバーを含むことを特徴とする、実施形態7に従う二特異性抗体。
【0159】
実施形態9. それらのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結されている2つのROR1−Fabと、Fcパートと、そのC末端により1つのROR1−FabのN末端へと連結されているCD3−Fabとからなり、前記CD3−Fabが、クロスオーバーを含み、前記CD3−Fabまたは両方のROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含む(
図1Fおよび1G)ことを特徴とする、実施形態1に従う二特異性抗体。
【0160】
実施形態10. そのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された、1つのCD3−Fabと、そのC末端により、前記CD3−FabのN末端へと連結されたROR1−Fabとからなり、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含む(
図1Hおよび1I)ことを特徴とする、実施形態1から5のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0161】
実施形態11. そのC末端を介して、前記Fcパートのヒンジ領域へと連結された、1つのROR1−Fabと、そのC末端により、前記ROR1−FabのN末端へと連結されたCD3−Fabとからなり、前記CD3−Fabまたは前記ROR1−Fabのいずれかが、アミノ酸置換を含む(
図1Jおよび1K)ことを特徴とする、実施形態1から6のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0162】
実施形態12. 抗ROR1抗体MAB1のCDR配列を含むことを特徴とする、実施形態1から11のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0163】
実施形態13. 抗ROR1抗体MAB1のVHおよびVL配列を含むか、または抗ROR1抗体MAB1のVH、VL、CH1、およびCL配列を含む抗体であることを特徴とする、実施形態1から12のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0164】
実施形態14. ヒトCD3εに特異的に結合する抗体部分、好ましくは、前記Fab断片が、
a)配列番号12、13および14の重鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHと、配列番号15、16および17の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 H2C)の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLとを含むか、または、
b)配列番号23、24および25の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHを含み、前記可変ドメインVLが、配列番号26、27および28の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体(CDR MAB CD3 CH2527)の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより置きかえられていることを特徴とすることを特徴とする、実施形態1から13のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0165】
実施形態15. ヒトCD3εに特異的に結合する前記抗体部分が、前記可変ドメインが、
a)配列番号10および11(VHVL MAB CD3 H2C)、または、
b)配列番号21および22(VHVL MAB CD3 CH2527)
の可変ドメインであることを特徴とすることを特徴とする、実施形態1から14のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0166】
実施形態16. ヒトROR1に特異的に結合する前記Fab断片が、重鎖CDR、配列番号7のCDR1H、配列番号8のCDR2H、配列番号9のCDR3Hを含む可変ドメインVHを含むことと、軽鎖CDR、配列番号3のCDR1L、配列番号4のCDR2L、配列番号5のCDR3Lを含む可変ドメインVLを含むこととを特徴とする(CDR MAB1)ことを特徴とする、実施形態1から15のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0167】
実施形態17. ヒトROR1に特異的に結合する前記Fab断片が、配列番号10のVHと配列番号11のVLとを含むことを特徴とする(VHVL MAB1)ことを特徴とする、実施形態1から16のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0168】
実施形態18. 前記定常ドメインCL内の124位における前記アミノ酸の置きかえに加えて、123位におけるアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)により独立に置換されていることを特徴とする、実施形態1から17のいずれか一つに従う二特異性抗体。
【0169】
実施形態19.アミノ酸124がKであり、アミノ酸147がEであり、アミノ酸213がEであり、およびアミノ酸123がRであるかまたはアミノ酸124がKであり、アミノ酸147がEであり、アミノ酸213がKである、および、アミノ酸123がKであり、好ましくはアミノ酸123
がRで
あることを特徴とする、実施形態1から18のいずれか1つに従う二特異性抗体。
【0170】
実施形態20. ヒトROR1の細胞外ドメインおよびヒトCD3εに特異的に結合する二特異性抗体であって、ポリペプチド、配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号40からなる群、または、ポリペプチド、配列番号37、配列番号38、配列番号39、および配列番号41からなる群から選択される、重鎖および軽鎖のセットを含むことを特徴とする二特異性抗体。
【0171】
実施形態21. ヒトCD3εに特異的に結合する前記抗体部分内で、
a)配列番号12、13および14の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHにより、前記可変ドメインVHが置きかえられ、配列番号15、16および17の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより、前記可変ドメインVLが置きかえられること、または、
b)配列番号23、24および25の重鎖CDRを、それぞれ、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVHにより、前記可変ドメインVHが置きかえられ、配列番号26、27および28の軽鎖CDRを、それぞれ、前記抗CD3ε抗体の軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3として含む可変ドメインVLにより、前記可変ドメインVLが置きかえられることを特徴とする、実施形態20に従う抗体。
【0172】
実施形態22. 一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々が、抗体のCH3ドメインの間の、元の界面を含む界面において向かい合い、前記界面が、前記二特異性抗体の形成を促進するように変更されていることを特徴とし、前記変更が、
a)前記二特異性抗体内の前記他方の重鎖のCH3ドメインの前記元の界面と向かい合う、一方の重鎖のCH3ドメインの前記元の界面内で、アミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、一方の重鎖のCH3ドメインの前記界面内に、前記他方の重鎖のCH3ドメインの前記界面内の空洞にはまる突起が作出されるように、一方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと、
b)前記二特異性抗体内の前記第1のCH3ドメインの前記元の界面と向かい合う、前記第2のCH3ドメインの前記元の界面内で、アミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置きかえられ、これにより、前記第2のCH3ドメインの前記界面内に、前記第1のCH3ドメインの前記界面内の突起がはまる空洞が作出されるように、前記他方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと
を特徴とする、実施形態1から21のいずれか一項に従う抗体。
【0173】
実施形態23. ヒトIgG1 Fcパート内に、Pro329のグリシンもしくはアルギニンによるアミノ酸置換、ならびに/またはL234AおよびL235Aのアラニンによる置換を含むことを特徴とする、実施形態1から22のいずれか一つに従う抗体。
【0174】
実施形態24. 構築物ROR1 Fab−Fc−CD3 Fab−ROR1 Fabであり、前記抗CD3ε抗体のFab断片内にVL/VHクロスオーバーを含むこと、ならびに、前記ヒトIgG1 Fcパート内に、Pro329のグリシンによるアミノ酸置換、Leu234のアラニンによるアミノ酸置換およびLeu235のアラニンによるアミノ酸置換を含むことを特徴とする、実施形態23に従う抗体。
【0175】
実施形態25. a)構築物ROR1 Fab−Fc−CD3 Fab−ROR1 Fabの抗体であること、
b)前記抗CD3抗体のFab断片内にVL/VHクロスオーバーを含むこと、
c)ヒトIgG1 Fcパートを含むこと、
d)前記Fcパート内に、Pro329のグリシンによる置換およびLeu234のアラニンによる置換およびLeu235のアラニンによる置換を含むこと、ならびに、
e)両方のROR1 Fabの定常ドメインCL内で、124位におけるアミノ酸がリシン(K)により置換されており、123位におけるアミノ酸
がアルギニン(R)により置換されており
、前記定常ドメインCH1内で、147位におけるアミノ酸および213位におけるアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されていることを特徴とする、実施形態1から22のいずれか一つに従う抗体。
【0176】
実施形態26. ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、前記2つの標的に特異的に結合することを特徴とし、初代B−CLL細胞において、1nMの濃度で、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とする、実施形態1から25のいずれか一つに従う抗体。
【0177】
実施形態27. ヒトCD3εおよびヒトROR1の細胞外ドメインである、前記2つの標的に特異的に結合することを特徴とし、前記二特異性抗体が、細胞ベースのアッセイにおいて、ROR1陽性初代B−CLL細胞を使用し、1nMの抗体濃度で使用した場合、37℃で2時間の間に内部化しないことを特徴とし、内部化しないとは、0時間において測定される、フローサイトメトリーにより検出される前記二特異性抗体のROR1陽性初代B−CLL細胞への結合の際における平均蛍光強度(MFI)が、37℃で2時間のインキュベーション後の再測定のときに、50%を超えて低減しないか、好ましくは30%を超えて低減しないことを意味する、実施形態1から26のいずれか一つに従う抗体。
【0178】
実施形態28.マウスにおける、好ましくは、カニクイザルにおける消失半減期であって、12時間より長い、好ましくは、3日間またはそれより長い消失半減期を特徴とする、実施形態1から27に従う抗体。
【0179】
実施形態29.ROR1陽性細胞系(例えば、RPMI8226細胞、Rec−1細胞、Jeko細胞)への結合についてのEC50値であって、30nMまたはそれを下回る、好ましくは、15nMおよびそれを下回るEC50値を示すことを特徴とする、実施形態1から28に従う抗体。
【0180】
実施形態30.ヒトT細胞の存在下における、ROR1発現腫瘍細胞(例えば、RPMI8226細胞、Rec−1細胞、Jeko細胞;PA−1、COLO−704、OVCAR−5、SK−OV−3のような卵巣がん細胞系))のリダイレクトされた殺滅を、10nM未満、好ましくは、1nM、好ましくは、0.05nM、好ましくは、0.02nM、好ましくは、0.002nMおよびそれを下回るEC50で誘導するその能力を特徴とする、実施形態1から29に従う抗体。
【0181】
実施形態31.標準的な製剤緩衝液中、37℃で、好ましくは、40℃で、10日間、好ましくは、最長2週間、好ましくは、最長4週間保存された前記抗体が、高分子量(HMW)分子種および/または低分子量(LMW)分子種および/または単量体含量の、同じ製剤緩衝液中、−80℃で同じ保存期間保存された前記抗体と比較して、10%を超える変化(Δ)、好ましくは、5%を超える変化(Δ)を結果としてもたらさないことを特徴とする、実施形態1から30に従う抗体。
【0182】
実施形態32. 実施形態1から31のいずれか一つに従う二特異性抗体を調製するための方法であって、
a)宿主細胞を、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換するステップと、
b)前記宿主細胞を、前記抗体分子の合成を可能とする条件下で培養するステップと、
c)前記抗体分子を、前記培養物から回収するステップと
を含む方法。
【0183】
実施形態33. 実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞。
【0184】
実施形態34. 実施形態1から30のいずれか一つに従う抗体および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【0185】
実施形態35. 医薬としての使用のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0186】
実施形態36. 慢性リンパ球性白血病(CLL)、ヘアリー細胞白血病(HCL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫(MM)、濾胞性リンパ腫(FL)を含むROR1陽性血液悪性腫瘍の処置における医薬としての使用のため、ならびに卵巣がん、乳がんおよび肺がんなどのROR1陽性固形腫瘍の処置のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0187】
実施形態37. 多発性骨髄腫の処置における医薬としての使用のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0188】
実施形態38. B細胞系系統の慢性リンパ球性白血病(CLL)(B−CLL)の処置のため、および多発性骨髄腫MMのような形質細胞障害、またはROR1を発現する他のB細胞障害の処置における医薬としての使用のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0189】
実施形態39. 卵巣がん、肺がん、乳がん、胃がん、および膵がんからなる群から選択される疾患の処置における医薬としての使用のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0190】
実施形態40. 卵巣がんの処置における医薬としての使用のための、実施形態1から31のいずれか一つに従う抗体、または実施形態34に従う医薬組成物。
【0191】
材料および一般的方法
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat, E. Aら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年)において示されている。抗体鎖のアミノ酸は、EU番号付け(Edelman, G.Mら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63巻(1969年)78〜85頁;Kabat, E.Aら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年))に従い番号付けされ、言及されている。
【0192】
組換えDNA技法
Sambrook,J.ら、Molecular cloning:A laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989年において記載されている、標準的方法を使用して、DNAを取り扱った。分子生物学的試薬は、製造元の指示書に従い使用した。ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat, E.A.ら、(1991年)、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、NIH刊行物番号91−3242において与えられている。抗体鎖のアミノ酸は、Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD、(1991年)に従い番号付けされ、言及された。
【0193】
遺伝子の合成
a)所望の遺伝子セグメントは、化学合成により制作されたオリゴヌクレオチドから調製した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位に挟まれた、600〜1800bp長の遺伝子セグメントを、PCR増幅を含む、オリゴヌクレオチドのアニーリングおよびライゲーションによりアセンブルし、その後、指し示される制限部位、例えば、Kpnl/SadまたはAscl/Paclを介して、pPCRScript(Stratagene)ベースのpGA4クローニングベクターへとクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列は、DNAシークエンシングにより確認した。遺伝子合成断片は、Geneart(Regensburg、Germany)で提供されている仕様に従い、注文した。b)要請される場合、所望の遺伝子セグメントは、適切な鋳型を使用するPCRにより作出するか、またはGeneart AG(Regensburg、Germany)によって、自動式遺伝子合成により、合成オリゴヌクレオチドおよびPCR産物から合成した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位に挟まれた遺伝子セグメントは、標準的な発現ベクターまたはさらなる解析のためのシークエンシングベクターへとクローニングした。プラスミドDNAは、市販されているプラスミド精製キットを使用して、形質転換された細菌から精製した。プラスミド濃度は、UV分光法により決定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列は、DNAシークエンシングにより確認した。遺伝子セグメントは、それぞれの発現ベクターへのサブクローニングを可能とする、適切な制限部位によりデザインした。要請される場合、タンパク質コード遺伝子は、タンパク質を、真核細胞内の分泌へとターゲティングする、リーダーペプチドをコードする5’末端のDNA配列によりデザインした。
【0194】
DNAの配列決定
DNA配列は、二本鎖シークエンシングにより決定する。
【0195】
DNAおよびタンパク質の配列解析ならびに配列データの管理
Clone Manager(Scientific & Educational Software)ソフトウェアパッケージバーション9.2を、配列のマッピング、解析、注釈づけ、および例示のために使用した。
【0196】
発現ベクター
a)下で記載される抗体鎖を含む融合遺伝子は、PCRおよび/または遺伝子合成により作出し、対応する核酸セグメントの接続であって、例えば、それぞれのベクター内で固有の制限部位を使用する接続によって、公知の組換え方法および技法によりアセンブルした。サブクローニングされた核酸配列は、DNAシークエンシングにより検証した。一過性トランスフェクションのためには、形質転換されたE.coli培養物(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)からのプラスミド調製により、より大量のプラスミドを調製する。
b)抗ROR1抗体の発現ベクターを作出するために、重鎖および軽鎖DNA配列の可変領域を、哺乳動物細胞系内の発現に最適化された、それぞれの汎用レシピエント発現ベクターへとあらかじめ挿入された、ヒトIgG1定常重鎖またはhum IgG1定常軽鎖のいずれかとインフレームでサブクローニングした。抗体の発現は、CMVエンハンサーおよびMPSVプロモーターに続いて、5’UTR、イントロン、およびIgカッパMARエレメントを含むキメラMPSVプロモーターにより駆動する。転写は、CDSの3’末端における合成ポリAシグナル配列により終結させる。全てのベクターは、タンパク質を、真核細胞内の分泌へとターゲティングする、リーダーペプチドをコードする5’末端のDNA配列を保有する。加えて、各ベクターは、EBV EBNA発現細胞内のエピソームのプラスミド複製のためのEBV OriP配列も含有する。
c)ROR1×CD3二特異性抗体ベクターを作出するために、IgG1由来の二特異性分子は、少なくとも、2つの顕著に異なる抗原性決定基CD3およびROR1に特異的に結合することが可能な、2つの抗原結合性部分からなる。抗原結合性部分とは、各々が、可変領域および定常領域を含む、重鎖および軽鎖から構成されるFab断片である。Fab断片のうちの少なくとも1つは、VHとVLとを交換した、「Crossfab」断片であった。Fab断片内のVHとVLとの交換により、特異性の異なるFab断片が、同一のドメインの並びを有さないことを確保する。二特異性分子のデザインは、CD3について一価であり、ROR1について二価であり、この場合、1つのFab断片を、内側のCrossFab(2+1)のN末端へと融合させた。二特異性分子は、分子の半減期が長くなるように、Fcパートを含有した。構築物の概略表示を、
図1に与え、構築物の好ましい配列を、配列番号39〜52に示す。分子は、懸濁液中で成長するHEK293 EBNA細胞に、哺乳動物用発現ベクターを、ポリマーベースの共トランスフェクトをすることにより作製した。2+1 CrossFab−IgG構築物を調製するために、細胞に、対応する発現ベクターを、1:2:1:1の比(「Fc(ノブ)ベクター」:「軽鎖ベクター」:「軽鎖 CrossFabベクター」:「重鎖−CrossFabベクター」)でトランスフェクトした。
【0197】
細胞培養技法
Current Protocols in Cell Biology(2000年)、Bonifacino,J.S.、Dasso,M.、Harford,J.B.、Lippincott−Schwartz,J.、およびYamada,K.M.(編)、John Wiley&Sons,Inc.において記載されている、標準的な細胞培養技法を使用する。
【0198】
HEK293細胞(HEK293−EBNA系)内の一過性発現
二特異性抗体は、ポリマーを使用して、懸濁液中で培養される、HEK293−EBNA細胞内の、それぞれの哺乳動物用発現ベクターの一過性共トランスフェクションにより発現させた。トランスフェクションの1日前に、HEK293−EBNA細胞を、6mMのL−グルタミンを補充した、Ex−Cell培地中に、生細胞150万個/mLで播種した。最終的な産生容量1mL当たり、生細胞200万個を遠心分離した(210×gで5分間)。上清を吸引し、細胞を、100μLのCD CHO培地中に再懸濁させた。最終的な産生容量1mL当たりのDNAは、1μgのDNA(重鎖:修飾重鎖:軽鎖:修飾軽鎖の比=1:1:2:1)を、100μLのCD CHO培地中で混合することにより調製した。0.27μLのポリマー溶液(1mg/mL)を添加した後で、混合物を、15秒間ボルテックスし、室温で10分間放置した。10分後、再懸濁させた細胞およびDNA/ポリマー混合物をまとめ、次いで、適切な容器へと移し、これを、振とうデバイス(37℃、5%のCO
2)内に置いた。3時間のインキュベーション時間後に、6mMのL−グルタミン、1.25mMのバルプロ酸、および12.5%のPepsoy(50g/L)を補充した、800μLのEx−Cell Mediumを、最終的な産生容量1mL当たり添加した。24時間後、70μLのフィード溶液を、最終的な産生容量1mL当たり添加した。7日後、または細胞の生存率が、70%と等しいかまたはそれ未満となったところで、遠心分離および滅菌濾過により、細胞を、上清から分離した。抗体は、アフィニティーステップ、ならびにカチオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィーである、1つまたは2つの仕上げステップにより精製した。要請される場合は、さらなる仕上げステップも使用した。組換え抗BCMAヒト抗体および二特異性抗体は、懸濁液中で、HEK293−EBNA細胞に、哺乳動物用発現ベクターを、ポリマーベースの共トランスフェクトをすることにより作製した。細胞には、フォーマットに応じて、2つまたは4つのベクターをトランスフェクトした。ヒトIgG1では、一方のプラスミドにより、重鎖をコードし、他方のプラスミドにより、軽鎖をコードした。二特異性抗体では、4つのプラスミドを共トランスフェクトした。これらのうちの2つにより、2つの異なる重鎖をコードし、他の2つにより、2つの異なる軽鎖をコードした。トランスフェクションの1日前に、HEK293−EBNA細胞を、6mMのL−グルタミンを補充した、F17 Medium中に、生細胞150万個/mLで播種した。
【0199】
タンパク質の決定
抗体濃度の決定は、0.1%の抗体溶液の吸光度についての理論値を使用する、280nmにおける吸光度の測定により行った。この値は、アミノ酸配列に基づくものであり、GPMAWソフトウェア(Lighthouse data)により計算した。
【0200】
SDS−PAGE
NuPAGE(登録商標)Pre−Castゲルシステム(Invitrogen)を、製造元の指示書に従い使用する。特に、10%または4〜12%のNuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis−TRIS Pre−Castゲル(pH6.4)およびNuPAGE(登録商標)MES(還元ゲル、NuPAGE(登録商標)Antioxidantランニングバッファー添加剤を伴う)、またはMOPS(非還元ゲル)ランニングバッファーを使用する。
【0201】
タンパク質の精製
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製
アフィニティーステップのために、上清を、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、pH7.5 6CVで平衡化させたプロテインAカラム(HiTrap Protein A FF、5mL、GE Healthcare)上にロードした。同じ緩衝液による洗浄ステップの後で、20mMのリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、100mMのグリシン、pH3.0による段階的溶出によって、抗体を、カラムから溶出させた。所望の抗体を伴う画分を、0.5Mのリン酸ナトリウム、pH8.0(1:10)で速やかに中和し、プールし、遠心分離により濃縮した。濃縮物は、滅菌濾過し、さらにカチオン交換クロマトグラフィーおよび/またはサイズ除外クロマトグラフィーに掛けた。
【0202】
カチオン交換クロマトグラフィーによる精製
カチオン交換クロマトグラフィーステップのために、濃縮されたタンパク質を、アフィニティーステップのために使用した溶出緩衝液で、1:10に希釈し、カチオン交換カラム(Poros 50 HS、Applied Biosystems)へとロードした。それぞれ、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、pH5.0、および20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム、pH5.0である、平衡緩衝液および洗浄緩衝液による、2回の洗浄ステップの後で、タンパク質を、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム、pH8.5を使用する勾配により溶出させた。所望の抗体を含有する画分は、プールし、遠心分離により濃縮し、滅菌濾過し、さらにサイズ除外ステップに掛けた。
【0203】
解析用サイズ除外クロマトグラフィーによる精製
サイズ除外ステップのために、濃縮されたタンパク質を、製剤緩衝液としての、Tween20を伴うかまたは伴わない、20mMのヒスチジン、140mMの塩化ナトリウム、pH6.0と共に、XK16/60 HiLoad Superdex 200カラム(GE Healthcare)に注入した。単量体を含有する画分は、プールし、遠心分離により濃縮し、滅菌バイアルへと滅菌濾過した。
【0204】
純度および単量体含量の測定
最終タンパク質調製物の純度および単量体含量は、25mMのリン酸カリウム、125mMの塩化ナトリウム、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)のアジ化ナトリウム、pH6.7による緩衝液中で、CE−SDS(Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Life Sciences))およびHPLC(TSKgel G3000 SW XL解析用サイズ除外カラム(Tosoh))のそれぞれにより決定した。
【0205】
LC−MS解析による分子量の確認
脱グリコシル化
分子の均質の調製を確認するために、最終タンパク質溶液を、LC−MS解析により解析した。炭水化物により導入される異質性を除去するために、構築物を、PNGaseF(ProZyme)で処理する。したがって、2Mのトリス2μlを、濃度を0.5mg/mlとする20μgのタンパク質へと添加することにより、タンパク質溶液のpHを、pH7.0へと調整した。0.8μgのPNGaseFを、添加し、37℃で12時間インキュベートした。
【0206】
LC−MS解析−オンライン検出
LC−MS法は、TOF 6441質量分析計(Agilent)へとカップリングさせた、Agilent HPLC 1200上で実施した。クロマトグラフィーによる分離は、Macherey Nagel Polystereneカラム;RP1000−8(粒子サイズを8μmとする、4.6×250mm;カタログ番号719510)上で実施した。溶離液Aは、水中に5%のアセトニトリル、および0.05%(v/v)のギ酸であり、溶離液Bは、95%のアセトニトリル、5%の水、および0.05%のギ酸であった。流量は、1ml/分であり、分離は、40℃で実施し、前に記載した処理により、6μg(15μl)のタンパク質試料を得た(表7)。
【0208】
最初の4分間の間、質量分析計を塩汚染から保護するように、溶出液を、廃棄物へと方向づけた。ESI源は、乾燥ガス流量を12l/分とし、温度を350℃とし、噴霧器圧力を60psiとして動作させた。MSスペクトルは、陽イオンモードにおいて、380Vのフラグメンター電圧および700〜3200m/zの質量範囲を使用して取得した。MSデータは、計器ソフトウェアにより、4〜17分間にわたり取得した。
【0209】
PBMCからの初代ヒト汎T細胞の単離
末梢血単核細胞(PBMC)は、Histopaque密度遠心分離により、地域の血液バンク、または健常ヒトドナーに由来する採取したての血液から得られる、富化されたリンパ球調製物(軟膜)から調製した。略述すると、血液を、滅菌PBSで希釈し、Histopaque勾配(Sigma、H8889)にわたり、注意深く層化させた。450×g、室温で30分間遠心分離の後(ブレーキをオフに切り替える)、PBMCを含有する相間部の上方の血漿部分を廃棄した。PBMCを、新しい50ml Falconチューブへと移し、チューブを、PBSで、50mlの総容量まで満たした。混合物を、400×g、室温で10分間遠心分離した(ブレーキをオンに切り替える)。上清を廃棄し、PBMCペレットを、滅菌PBSで2回洗浄した(350×g、4℃で10分間の遠心分離ステップ)。結果として得られるPBMC集団を、自動的にカウントし(ViCell)、アッセイ開始まで、インキュベーター内、37℃、5%のCO
2、10%のFCS、および1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)を含有するRPMI1640培地中で保存した。
【0210】
PBMCからのT細胞の富化は、製造元の指示書に従い、Pan T Cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotec型番130−091−156)を使用して実施した。略述すると、細胞ペレットを、細胞1000万個当たり40μlの低温緩衝液(滅菌濾過された、0.5%のBSA、2mMのEDTAを伴うPBS)中で希釈し、細胞1000万個当たり10μlのビオチン−抗体カクテルと共に、4℃で10分間インキュベートした。細胞1000万個当たり30μlの低温緩衝液および20μlの抗ビオチン磁気ビーズを添加し、混合物を、4℃でさらに15分間インキュベートした。現行容量の10〜20倍容量を添加することにより、細胞を洗浄し、その後、300×gで10分間遠心分離ステップにかけた。最大1億個の細胞を、500μlの緩衝液中に再懸濁させた。標識されていないヒト汎T細胞の磁気による分離は、製造元の指示書に従い、LSカラム(Miltenyi Biotec型番130−042−401)を使用して実施した。結果として得られるT細胞集団を、自動的にカウントし(ViCell)、アッセイ開始まで、インキュベーター内、37℃、5%のCO
2、AIM−V培地中で保存した(24時間より長くない)。
【0211】
PBMCからの初代ヒトナイーブT細胞の単離
末梢血単核細胞(PBMC)は、Histopaque密度遠心分離により、地域の血液バンク、または健常ヒトドナーに由来する採取したての血液から得られる、富化されたリンパ球調製物(軟膜)から調製した。PBMCからのT細胞の富化は、製造元の指示書に従い、Miltenyi Biotec(型番130−093−244)製のNaive CD8
+ T cell isolation Kitを使用して実施したが、CD8
+T細胞の最後の単離ステップは省略した(初代ヒト汎T細胞の単離についての記載もまた参照されたい)。
【0212】
特記事項:二特異性抗体の特性を示す実験は全て、非CV二特異性抗体を用いて実施した。しかし、本発明者らの知見によれば、本発明に従うCV二特異性抗体についての結果も同じであるかまたは実質的に類似するものである。
【実施例】
【0213】
特記事項:以下の実施例の説明において、Mab2を、抗ROR1/抗CD3 TCB抗体における抗ROR1抗体としておよび/または抗ROR1 Fabとして使用したことが言及されていなければ、Mab1が、抗ROR1/抗CD3 TCB抗体における抗ROR1抗体として、および/または抗ROR1 Fabとして使用されている。
【0214】
(実施例1)
抗ROR1抗体の作出
配列番号2〜9のROR1抗体(MAB1)のVHおよびVL領域のタンパク質配列は、WO2012/075158において記載されている。略述すると、上で記載した配列をコードするオリゴヌクレオチドをPCRによって繋ぎ合わせて、それぞれ抗ROR1抗体のVHおよびVL配列をコードするcDNAを合成する。
【0215】
抗ROR1抗体の発現ベクターを作出するために、重鎖および軽鎖DNA配列の可変領域を、哺乳動物細胞系内の発現に最適化された、それぞれの汎用レシピエント発現ベクターにあらかじめ挿入されたヒトIgG1定常重鎖またはhum IgG1定常軽鎖のいずれかとインフレームでサブクローニングした。抗体の発現は、CMVエンハンサーおよびMPSVプロモーターに続いて、5’UTR、イントロン、およびIgカッパMARエレメントを含むキメラMPSVプロモーターにより駆動した。転写は、CDSの3’末端における合成ポリAシグナル配列により終結させた。全てのベクターは、タンパク質を、真核細胞において分泌にターゲティングするリーダーペプチドをコードする5’末端のDNA配列を保有する。加えて、各ベクターは、EBV EBNA発現細胞内での、エピソームとしてのプラスミド複製のためのEBV OriP配列も含有する。
【0216】
ROR1抗体を、懸濁液中で培養したHEK293−EBNA細胞において、それぞれの哺乳動物用発現ベクターを、一過性のポリマーベースの共トランスフェクションによって発現させた。トランスフェクションの1日前に、HEK293−EBNA細胞を、6mMのL−グルタミンを補充したEx−Cell培地中に、生細胞150万個/mLで播種した。最終的な産生容量1mL当たり、生細胞200万個を遠心分離した(210×gで5分間)。上清を吸引し、細胞を、100μLのCD CHO培地中に再懸濁させた。最終的な産生容量1mL当たりのDNAは、1μgのDNA(重鎖:軽鎖の比=1:1)を、100μLのCD CHO培地中で混合することにより調製した。0.27μLのポリマー溶液(1mg/mL)を添加した後で、混合物を、15秒間ボルテックスし、室温で10分間放置した。10分後、再懸濁させた細胞およびDNA/ポリマー混合物をまとめ、次いで、適切な容器に移し、これを、振とうデバイス(37℃、5%のCO
2)内に置いた。3時間のインキュベーション時間後に、6mMのL−グルタミン、1.25mMのバルプロ酸および12.5%のPepsoy(50g/L)を補充した、800μLのEx−Cell Mediumを、最終的な産生容量1mL当たり添加した。24時間後、70μLのフィード溶液を、最終的な産生容量1mL当たり添加した。7日後、または細胞生存率が、70%と等しいか、またはそれ未満となったところで、遠心分離および滅菌濾過により、細胞を、上清から分離した。抗体は、アフィニティーステップ、ならびにカチオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィーである、1つまたは2つの仕上げステップにより精製した。要請される場合は、さらなる仕上げステップを使用した。HEK293−EBNA細胞に、哺乳動物用発現ベクターをポリマーベース共トランスフェクトすることにより、懸濁液中で組換え抗ROR1ヒト抗体を生成した。細胞に2つのベクターをトランスフェクトした。ヒトIgG1については、一方のプラスミドが重鎖をコードするものであり、他方のプラスミドが軽鎖をコードするものであった。トランスフェクションの1日前に、HEK293−EBNA細胞を、6mMのL−グルタミンを補充したF17 Medium中に、生細胞150万個/mLで播種した。
【0217】
(実施例2)
ROR1をそれらの表面において発現するヒトB−CLL細胞系、または初代B−CLL細胞、多発性骨髄腫細胞系、またはマントル細胞リンパ腫細胞系
a)採取したてのヒト初代B−CLL細胞(CD19
+CD5
+)をCLL患者の血液から単離した。地域の倫理審査委員会によるガイドラインおよびヘルシンキ宣言に従い、説明同意文書の署名を得た後で、CLL患者から、血液を収集する。低温保存されたヒト初代B−CLL細胞(CD19
+CD5
+)は、Allcells(Alameda、CA、USA)から入手した。患者由来の初代B−CLL細胞は、合法的に得られたものであり、以下の倫理的要件に応じるものであった:(i)CLLと診断された患者からの試料の取得が、Institute Reviewing Board(IRB)、またはHuman Subject Committeeにより承認されていること;(ii)患者から、Allcells Diseased Cells Programへの参加の前に署名および証人署名された説明同意文書の署名フォームを得ること;(iii)上で記載した疾患と診断された患者全員が、プログラムに対する彼らの責務に対して正当な補償を受けること、およびその補償がIRBまたはHuman Subject Committeeにより承認されたものであること;(iv)患者全員が、提供した試料が任意の研究適用に使用される可能性があり、研究適用から生じるあらゆる権利を放棄することを承知していること。初代B−CLL細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI中で成長させた。初代CD19
+CD5
+B−CLL細胞上のROR1の発現を、蛍光色素コンジュゲート抗ヒトROR1抗体を使用するフローサイトメトリーにより確認した(実施例3を参照されたい)。
b)ヒトBリンパ球多発性骨髄腫細胞系RPMI8226は、ATCCから入手した(ATCC CCL−155)。RPMI8226骨髄腫細胞をDMEM、10%のFCS、1%のグルタミン中で培養した。RPMI8226細胞系におけるROR1の発現を、蛍光色素コンジュゲート抗ヒトROR1抗体を使用するフローサイトメトリーにより確認した(実施例3を参照されたい)。
c)ヒトマントル細胞リンパ腫(B細胞非ホジキンリンパ腫)Rec−1細胞系は、ATCCから入手した(ATCC CRL−3004)。Rec−1細胞をDMEM、10%のFCS、1%のグルタミン中で培養した。Rec−1細胞系におけるROR1の発現を、蛍光色素コンジュゲート抗ヒトROR1抗体を使用するフローサイトメトリーにより確認した(実施例3を参照されたい)。
【0218】
(実施例2.1)
細胞表面におけるROR1の発現のレベルが異なるヒト卵巣がん細胞系
a)卵巣奇形癌に由来するヒト卵巣がん細胞系PA−1は、American Type Culture Collection(ATCC;カタログ番号CRL−1572)から入手した。PA−1細胞系を、10%ウシ胎仔血清(熱不活化)、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、および1500mg/Lの炭酸水素ナトリウムを補充したEagle’s Minimum Essential Medium(MEM)(ATCC、カタログ番号30−2003)中で培養した。フローサイトメトリーにより測定される通り、PA−1細胞系におけるROR1の発現は高度であることが確認された(実施例3.1を参照されたい)。
b)卵巣腺癌に由来するヒト卵巣がん細胞系COLO−704は、Leibniz Institute DSMZ−German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(DSMZ;カタログ番号ACC198)から入手した。COLO−704細胞系を90%のRPMI1640および10%の熱不活化ウシ胎仔血清中で培養した。フローサイトメトリーにより測定される通り、COLO−704細胞系におけるROR1の発現は中程度であることが確認された(実施例3.1を参照されたい)。
c)卵巣明細胞癌に由来するヒト卵巣がん細胞系ES−2は、American Type Culture Collection(ATCC;カタログ番号CRL−1978)から入手した。ES−2細胞系を、ATCCにより配合されたMcCoy’s 5a Medium Modified(カタログ番号30−2007)および10%ウシ胎仔血清中で培養した。フローサイトメトリーにより測定される通り、ES−1細胞系におけるROR1の発現は陰性であることが確認された(実施例3.1を参照されたい)。
d)卵巣癌に由来するヒト卵巣がん細胞系SK−OV−3は、American Type Culture Collection(ATCC;カタログ番号HTB−77)から入手した。SK−OV−3細胞系を、ATCCにより配合されたMcCoy’s 5a Medium Modified(カタログ番号30−2007)および10%ウシ胎仔血清中で培養した。フローサイトメトリーにより測定される通り、SK−OV−3細胞系におけるROR1の発現は低度であることが確認された(実施例3.1を参照されたい)。
e)卵巣腺癌に由来するヒト卵巣がん細胞系OVCAR−5は、US National Cancer Institute NCI−60ヒトがん細胞系パネルから入手した。OVCAR−5細胞系を90%のRPMI1640および10%の熱不活化ウシ胎仔血清中で培養した。フローサイトメトリーにより測定される通り、OVCAR−5細胞系におけるROR1の発現は中程度であることが確認された(実施例3.1を参照されたい)。
【0219】
(実施例3)
初代B−CLL細胞、RPMI8226骨髄腫細胞またはRec−1 MCL細胞上に発現したROR1への結合(フローサイトメトリー)
a)初代CD19
+CD5
+CLL細胞上のROR1の発現を、フローサイトメトリーにより評価した。略述すると、細胞を採取し、洗浄し、生存率についてカウントし、96ウェル丸底プレートのウェル当たり細胞50000個で再懸濁させ、10μg/mlの、Alexa488で標識された抗ヒトROR1抗体と共に、4℃で30分間インキュベートした(内部化を防止するように)。インキュベーション時間の終了時に、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、FACS緩衝液で2回洗浄し、100ulのFACS緩衝液中に再懸濁させ、FACS Divaソフトウェアを作動させるCantoIIデバイス上で解析した。
図2Aは、抗ROR1抗体の初代B−CLL細胞への結合時の蛍光強度中央値の増大を示し、これにより、ROR1が初代CLL細胞上に発現することが示される。
b)次いで、Bリンパ球骨髄腫RPMI8226細胞系におけるROR1の発現を、上で記載した方法を使用してフローサイトメトリーにより評価した。
図3は、増大する濃度の抗ROR1抗体がRPMI8226細胞に結合する際には蛍光強度中央値が増大するが(A)、ROR1陰性MKN45細胞(ヒト胃腺癌細胞系、DSMZ ACC409)に結合する際には蛍光強度中央値が増大しない(B)ことを示す。表1は、抗ROR1抗体の、ROR1陽性RPMI8226細胞系への結合についてのEC50を示す。
【0220】
【表1】
c)MCL Rec−1細胞系におけるROR1の発現についても、上で記載した方法を使用してフローサイトメトリーにより試験した。
図2Bは、抗ROR1抗体のRec−1 MCL細胞への結合する際の蛍光強度中央値の増大を示す。
【0221】
(実施例3.1)
ROR1 IgG抗体の、ROR1陽性ヒト卵巣がん細胞系への結合(フローサイトメトリーにより検出される)
a)PA−1、COLO−704、ES−2、SK−OV−3、およびOVCAR−5を含めたヒト卵巣がん細胞系におけるROR1の発現レベルを、フローサイトメトリーにより測定した。略述すると、細胞を採取し、洗浄し、生存率についてカウントし、96ウェル丸底プレートのウェル当たり細胞50,000個で再懸濁させ、Alexa488で標識された抗ヒトROR1抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。全てのROR1およびアイソタイプ対照抗体を滴定し、0.01〜100nM(0.0015〜15μg/mL)の間の最終濃度範囲で解析した。標識されていない抗体を使用した試料については、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、120μl/ウェルのFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で洗浄し、再懸濁させ、蛍光色素コンジュゲートAlexaFluor 647コンジュゲートAffiniPure F(ab’)2 Fragment goat anti−human IgG Fc Fragment Specific(Jackson Immuno Research Lab;#109−606−008)と共に、4℃でさらに30分間インキュベートした。インキュベーション時間の終了時に、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、FACS緩衝液で2回洗浄し、100ulのFACS緩衝液中に再懸濁させ、FACS Divaソフトウェアを作動させるCantoIIデバイス上で解析した。次いで、ROR1の発現を蛍光強度中央値(MFI)として定量化し、MFIをROR1抗体濃度の関数として示すグラフをプロットした。次いで、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用してEC50値を測定した。表2は、Mab1およびMab2抗ROR1抗体の、ROR1陽性SK−OV−3卵巣がん細胞系およびPA−1卵巣がん細胞系への結合についてのEC50を示す。Mab1およびMab2抗ROR1抗体はどちらも、PA−1細胞系(高レベルのROR1を発現することが後で見出された)に、SK−OV−3(低レベルのROR1を発現することが後で見出された)に対するよりも大きな効力で結合する。ROR1 Mab1およびROR1 Mab2のSK−OV−3への結合について計算されるEC50は外挿による推定値であり、実際よりも高く、または低く見積もられている可能性がある。
図3−3は、SK−OV−3細胞(A、白抜きの四角)およびPA−1細胞(B、白抜きの三角形)におけるMFIの増大をROR1 Mab2 IgGの濃度の関数として示す。最大強度は、10μg/mLの抗体濃度で、PA−1細胞において、SK−OV−3細胞に対しておよそ3倍に達することができた。
【0222】
【表2】
b)ヒト卵巣がん細胞PA−1、COLO−704、ES−2、SK−OV−3、およびOVCAR−5の細胞表面上の、ROR1抗原のコピー数を決定するために、Qifikit(Dako、#K0078)法を使用した。卵巣腫瘍細胞をFACS緩衝液で1回洗浄し(100μl/ウェル;350×gで5分間)、細胞100万個/mlに調整した。50μl(=細胞50万個)の細胞懸濁液を、示されている通り、96丸底ウェルプレートの各ウェルに移した。次いで、FACS緩衝液(PBS、0.1%のBSA)中で、25μg/mlの最終濃度まで(または飽和濃度に)希釈された、50μlのマウス抗ヒトROR1 IgG抗体(Biolegend、#357802)、またはマウスIgG2aアイソタイプ対照抗体(BioLegend、#401501)を添加し、暗所内、4℃で30分間、染色を実施した。次に、100μlのSet−up BeadsまたはCalibration Beadsを、別々のウェルに添加し、細胞ならびにビーズを、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞およびビーズを、Qifikitにより提供されている、フルオレセインコンジュゲート抗マウス二次抗体(飽和濃度の)を含有する、25μlのFACS緩衝液中に再懸濁させた。細胞およびビーズを、暗所内、4℃で45分間染色した。細胞を1回洗浄し、全ての試料を、100μlのFACS緩衝液に再懸濁させた。試料を、マルチカラーフローサイトメーターおよびインストールされたソフトウェア(例えば、FACS Divaソフトウェアを作動させるCantoIIデバイス)上で解析した。
【0223】
表2.1に示される通り、ROR1抗原のコピー数/結合性部位を5つのヒト卵巣がん細胞系(ES−2、SK−OV−3、OVCAR−5、COLO−704およびPA−1)において測定し、発現のレベルは異なった。ES−2細胞は、ヒトROR1の抗原コピーを少しも発現しなかったのに対し、S−KOV−3細胞は、低レベルのヒトROR1、OVCAR−5を発現し、COLO−704細胞は、中程度のレベルのヒトROR1を発現し、PA−1細胞は、高レベルのヒトROR1を発現した。これらのROR1の発現の結果を踏まえて、ROR1の発現レベルが高度、中程度および/または低度であるヒト卵巣がん細胞系を選択し、実施例10において、リダイレクトされたT細胞による細胞傷害作用アッセイにおいて腫瘍標的細胞として使用した。
【0224】
【表2.1】
【0225】
(実施例4)
CLL患者由来の初代PBMCまたはRPMI8226 MM細胞における抗ROR1抗体の内部化(フローサイトメトリー)
抗ROR1抗体を内部化アッセイにおいてさらに試験した。略述すると、ヒトROR1を発現する初代B−CLL標的細胞を、Cell Dissociation緩衝液により採取し、ViCellを使用して細胞生存率を決定した後に、洗浄し、10%のFCSを補充したRPMI中に、1×10
6個(1×10
6個/mL)の、非処置CLL患者に由来するPBMCまたは細胞1×10
6個/mLのRPMI8226細胞の濃度で再懸濁させた。細胞懸濁液を、各被験IgG/TCBおよび各濃度について15ml Falconチューブに移した。Alexa488とコンジュゲートした、希釈された抗ROR1 IgGまたは抗ROR1/抗CD3 TCB(RPMI+10%のFCS中1nMまで希釈)0.5mlをチューブに添加し、低温室内、シェーカーで30分間インキュベートした。インキュベートし、細胞を冷PBSで3回洗浄して結合していない抗体を除去した後、細胞を氷上で放置したか、または96ウェルFACSプレート中のあらかじめ加温した培地中に移し(細胞0.1×10
6個)、内部化を容易にするために、37℃で15分間、30分間、1時間、2時間、および24時間インキュベートした。さらに、細胞の試料をまた、内部化を阻害するために、3μMのフェニルアルシンオキシド(Sigma−Aldrich)の存在下、37℃で2時間および/または24時間インキュベートした。その後、細胞を冷PBSで1回洗浄し、Alexa647で標識された抗ヒトFc二次抗体(F(ab)
2)と共に、4℃で30分間インキュベートした。PBSで3回の最終的な洗浄後、細胞を400×gで4分間遠心分離し、ヨウ化プロピジウム(1:4000)(Sigma)を伴うかまたは伴わないFACS緩衝液に再懸濁させた。抗ROR1 IgGおよび抗ROR1/抗CD3 TCBについての細胞の平均蛍光強度(MFI)を、FACS CantoIIフローサイトメーター(BD Biosciences)およびFlowJo解析用ソフトウェアを使用して測定した。
【0226】
MFI低減は、抗体内部化、抗体解離またはその両方の組合せを表しうる。MFI低減の百分率は、式ΔMFI=100−100×[(MFI
実験値−MFI
バックグラウンド)/(MFI
最大−MFI
バックグラウンド)]を使用することにより、各ROR1抗体について、非特異的なヒトIgG対照(MFI
バックグラウンド)および氷上で維持されたROR1抗体(MFI
最大)と比較して計算する。エンドサイトーシス阻害剤フェニルアルシンオキシドにより遮断されるMFI低減は抗体内部化を示すのに対し、フェニルアルシンオキシドにより遮断されないMFI低減は、抗体解離を反映する。内部化する抗ROR1抗体は最先端技術において公知である(Baskarら、Clin. Cancer Res.、14巻(2号):396〜404頁(2008年))。
【0227】
T細胞二特異性などの抗体ベースの治療については、腫瘍細胞とT細胞の間の安定な免疫シナプスおよび有効なT細胞媒介性のリダイレクトされた細胞傷害作用を容易にするために、腫瘍標的に特異的な抗体または抗体断片が、内部化しないか、または内部化が緩徐であるか、または内部化がわずかであることが重要である。したがって、内部化しないか、または内部化が緩徐であるか、または内部化がわずかである抗ROR1抗体を、以下の次のステップ(実施例5)、すなわち、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の産生のために選択する。
【0228】
初代CLL細胞およびRPMI8226細胞における抗ROR1 IgG抗体の内部化値を
図4および6ならびに表4および6にさらにまとめる。
【0229】
(実施例5)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の作出
(実施例5.1)
抗CD3抗体の作出
以下のVHおよびVL領域のタンパク質配列を使用して、ヒトおよびカニクイザル交差反応性CD3ε抗体を作出した。
【0230】
CH2527_VH(配列番号21):
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSTYAMNWVRQAPGKGLEWVSRIRSKYNNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVRHGNFGNSYVSWFAYWGQGTLVTVSS
CH2527_VL(配列番号22)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAFRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYCALWYSNLWVFGGGTKLTVL
【0231】
略述すると、上で記載した配列をコードするオリゴヌクレオチドをPCRにより繋ぎ合わせて、それぞれ抗CD3抗体のVHおよびVL配列をコードするcDNAを合成した。
【0232】
抗CD3抗体CH2527(配列番号21〜28)を使用して、以下の実施例において使用するT細胞二特異性抗体を作出した。
【0233】
(実施例5.2)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性1+1フォーマット(すなわち、ROR1に対して一価であり、CD3に対して一価である、1アーム二特異性(Fab)x(Fab)抗体)の作出
a)本発明に従う抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体は、週に少なくとも1回または2回の投与を可能にする、約1〜12日間の消失半減期という利点を有し得る。
【0234】
1+1の1アームフォーマット(すなわち、ROR1に対して一価であり、CD3に対して一価である、二特異性(Fab)×(Fab)抗体)の抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、実施例1で作出された抗ROR1抗体を用いて作製した。実施例1に記載されている、対応する抗ROR1 IgG1抗体の完全Fab(重鎖VHドメインおよび重鎖CH1ドメインに加えた、軽鎖VLドメインおよび軽鎖CLドメイン)をコードするcDNA、ならびに実施例5.1に記載されている抗CD3 VHおよび抗CD3 VLのcDNAを、出発材料として使用した。各二特異性抗体には、対応する抗ROR1抗体の重鎖および軽鎖、ならびに上で記載した抗CD3抗体の重鎖および軽鎖を含む、4つのタンパク質鎖が関与した。
【0235】
b)ROR1×CD3二特異性抗体ベクターを作出するために、IgG1由来の二特異性分子は、少なくとも、2つの顕著に異なる抗原性決定基CD3およびROR1に特異的に結合することが可能な、2つの抗原結合性部分を含む。抗原結合性部分は、各々が、可変領域および定常領域を含む、重鎖および軽鎖から構成されるFab断片である。Fab断片のうちの少なくとも1つは、Fab重鎖とFab軽鎖の定常ドメインを交換した、「Crossfab」断片である。Fab断片内の重鎖定常ドメインと軽鎖定常ドメインとの交換により、特異性の異なるFab断片が、同一のドメインの並びを有さず、結果として、軽鎖を相互交換しないことを確保する。二特異性分子のデザインは、両方の抗原性決定基に対して一価(1+1)でありうるか、またはCD3に対して一価、ROR1に対して二価でありえ、この場合、1つのFab断片を内側のCrossFabのN末端と融合する(2+1)。構築物の概略表示を
図1に示す。構築物の配列を配列番号2〜36に示す。これらの分子は、懸濁液中で成長するHEK293 EBNA細胞に、哺乳動物用発現ベクターをポリマーベース共トランスフェクトすることによって作製する。1+1 CrossFab−IgG構築物を調製するために、細胞に、対応する発現ベクターを、1:1:1:1の比(「Fc(ノブ)ベクター」:「軽鎖ベクター」:「軽鎖CrossFabベクター」:「重鎖−CrossFabベクター」)でトランスフェクトする。
【0236】
(実施例5.3)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性2+1フォーマット(すなわち、ROR1に対して二価であり、CD3に対して一価である、二特異性(Fab)
2×(Fab)抗体)の作出
a)2+1フォーマットによる抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体、すなわち、ROR1に対して二価であり、CD3に対して一価である、二特異性(Fab)
2×(Fab)抗体は、腫瘍標的ROR1に優先的に結合し、CD3抗体シンクを回避し、したがって、腫瘍に焦点を当てた薬物曝露の確率がより高いので、効力に対する利点、有効性および安全性に対する予測可能性を有し得る。
【0237】
2+1フォーマットの抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体(すなわち、ROR1に対して二価であり、CD3に対して一価である、二特異性(Fab)
2×(Fab)抗体を、実施例1において作出した抗ROR1抗体を用いて作製する。実施例1に記載されている、対応する抗ROR1 IgG1抗体の完全Fab(重鎖VHドメインおよび重鎖CH1ドメインに加えた、軽鎖VLドメインおよび軽鎖CLドメイン)をコードするcDNA、ならびに実施例5.1に記載されている抗CD3 VHおよび抗CD3 VLのcDNAを、出発材料として使用した。各二特異性抗体には、対応する抗ROR1抗体の重鎖および軽鎖、ならびに上で記載した抗CD3抗体の重鎖および軽鎖を含む、4つのタンパク質鎖が含まれる。
【0238】
b)ROR1×CD3二特異性抗体ベクターを作出するために、IgG1由来の二特異性分子は、少なくとも、2つの顕著に異なる抗原性決定基CD3およびROR1に特異的に結合することが可能な、2つの抗原結合性部分からなる。抗原結合性部分は、各々が、可変領域および定常領域を含む、重鎖および軽鎖を含むFab断片である。Fab断片のうちの少なくとも1つは、Fab重鎖と、Fab軽鎖の定常ドメインを交換した、「Crossfab」断片である。Fab断片内の重鎖定常ドメインと軽鎖定常ドメインとの交換により、特異性の異なるFab断片が、同一のドメインの並びを有さず、結果として、軽鎖を相互交換しないことを確保する。二特異性分子のデザインは、両方の抗原性決定基に対して一価(1+1)でありうるか、またはCD3に対して一価、ROR1に対して二価でありえ、この場合、1つのFab断片を内側のCrossFabのN末端と融合する(2+1)。構築物の概略表示を
図1に示す;構築物の配列を配列番号1〜62に示す。これらの分子は、懸濁液中で成長するHEK293 EBNA細胞に、哺乳動物用発現ベクターをポリマーベース共トランスフェクトすることによって作製する。2+1 CrossFab−IgG構築物を調製するために、細胞に、対応する発現ベクターを、1:2:1:1の比(「Fc(ノブ)ベクター」:「軽鎖ベクター」:「軽鎖CrossFabベクター」:「重鎖−CrossFabベクター」)でトランスフェクトする。
【0239】
(実施例5.4)
電荷変異体を伴うかまたは伴わない、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の作製および精製
二特異性抗体を作製するために、二特異性抗体を、懸濁液中で培養される、HEK293−EBNA細胞内の、それぞれの哺乳動物用発現ベクターの一過性のポリマーベースの共トランスフェクションにより発現させる。トランスフェクションの1日前に、HEK293−EBNA細胞を、6mMのL−グルタミンを補充した、Ex−Cell培地中に、生細胞150万個で/mLで播種する。最終的な産生容量1mL当たり、生細胞200万個を遠心分離する(210×gで5分間)。上清を吸引し、細胞を、100μLのCD CHO培地中に再懸濁させる。最終的な産生容量1mL当たりのDNAは、1μgのDNA(重鎖:修飾重鎖:軽鎖:修飾軽鎖の比=1:1:2:1)を、100μLのCD CHO培地中で混合することにより調製する。0.27μLのポリマー溶液(1mg/mL)を添加した後で、混合物を、15秒間ボルテックスし、室温で10分間放置する。10分後、再懸濁させた細胞およびDNA/ポリマー混合物をまとめ、次いで、適切な容器へと移し、これを、振とうデバイス(37℃、5%のCO
2)内に置く。3時間のインキュベーション時間後に、6mMのL−グルタミン、1.25mMのバルプロ酸、および12.5%のPepsoy(50g/L)を補充した、800μLのEx−Cell Mediumを、最終的な産生容量1mL当たり添加する。24時間後、70μLのフィード溶液を、最終的な産生容量1mL当たり添加する。7日後、または細胞の生存率が、70%と等しいかまたはそれ未満となったところで、遠心分離および滅菌濾過により、細胞を、上清から分離する。抗体は、アフィニティーステップ、ならびにカチオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィーである、1つまたは2つの仕上げステップにより精製する。要請される場合は、さらなる仕上げステップも使用する。
【0240】
アフィニティーステップのために、上清を、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、pH7.5 6CVで平衡化させたプロテインAカラム(HiTrap Protein A FF、5mL、GE Healthcare)上にロードする。同じ緩衝液による洗浄ステップの後で、20mMのリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、100mMのグリシン、pH3.0による段階的溶出によって、抗体を、カラムから溶出させる。所望の抗体を伴う画分を、0.5Mのリン酸ナトリウム、pH8.0(1:10)で速やかに中和し、プールし、遠心分離により濃縮する。濃縮物は、滅菌濾過し、さらにカチオン交換クロマトグラフィーおよび/またはサイズ除外クロマトグラフィーに掛ける。
【0241】
カチオン交換クロマトグラフィーステップのために、濃縮されたタンパク質を、アフィニティーステップのために使用した溶出緩衝液で、1:10に希釈し、カチオン交換カラム(Poros 50 HS、Applied Biosystems)へとロードする。それぞれ、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、pH5.0、および20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム、pH5.0である、平衡緩衝液および洗浄緩衝液による、2回の洗浄ステップの後で、タンパク質を、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム、pH8.5を使用する勾配により溶出させる。所望の抗体を含有する画分は、プールし、遠心分離により濃縮し、滅菌濾過し、さらにサイズ除外ステップに掛ける。
【0242】
サイズ除外ステップのために、濃縮されたタンパク質を、製剤緩衝液としての、Tween20を伴うかまたは伴わない、20mMのヒスチジン、140mMの塩化ナトリウム、pH6.0と共に、XK16/60 HiLoad Superdex 200カラム(GE Healthcare)に注入する。単量体を含有する画分は、プールし、遠心分離により濃縮し、滅菌バイアルへと滅菌濾過する。
【0243】
抗体濃度の決定は、0.1%の抗体溶液の吸光度についての理論値を使用する、280nmにおける吸光度の測定により行う。この値は、アミノ酸配列に基づくものであり、GPMAWソフトウェア(Lighthouse data)により計算する。
【0244】
最終タンパク質調製物の純度および単量体含量は、25mMのリン酸カリウム、125mMの塩化ナトリウム、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)のアジ化ナトリウム、pH6.7による緩衝液中で、CE−SDS(Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Life Sciences))およびHPLC(TSKgel G3000 SW XL解析用サイズ除外カラム(Tosoh))のそれぞれにより決定する。
【0245】
最終タンパク質調製物の分子量を検証し、最終タンパク質溶液中の分子が均質になるように調製されたことを確認するために、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)を使用する。脱グリコシル化ステップをまず実施する。炭水化物により導入される異質性を除去するために、構築物を、PNGaseF(ProZyme)で処理する。したがって、2Mのトリス2μlを、濃度を0.5mg/mlとする20μgのタンパク質へと添加することにより、タンパク質溶液のpHを、pH7.0へと調整する。0.8μgのPNGaseFを、添加し、37℃で12時間インキュベートする。次いで、LC−MSオンライン検出を実施する。LC−MS法は、TOF 6441質量分析計(Agilent)へとカップリングさせた、Agilent HPLC 1200上で実施する。クロマトグラフィーによる分離は、Macherey Nagel Polystereneカラム;RP1000−8(粒子サイズを8μmとする、4.6×250mm;カタログ番号719510)上で実施する。溶離液Aは、水中に5%のアセトニトリル、および0.05%(v/v)のギ酸であり、溶離液Bは、95%のアセトニトリル、5%の水、および0.05%のギ酸である。流量は、1ml/分であった。分離は、40℃で実施し、前に記載した処理により、6μg(15μl)のタンパク質試料を得る(表8)。
【表8】
【0246】
最初の4分間の間、質量分析計を塩汚染から保護するように、溶出液を、廃棄物へと方向づける。ESI源は、乾燥ガス流量を12l/分とし、温度を350℃とし、噴霧器圧力を60psiとして動作させた。MSスペクトルは、陽イオンモードにおいて、380Vのフラグメンター電圧および700〜3200m/zの質量範囲を使用して取得する。MSデータは、計器ソフトウェアにより、4〜17分間にわたり取得する。
【0247】
次いで、電荷変異体を伴わないROR1×CD3−TCBの作製/精製プロファイルを、ROR1×CD3−TCBcv(電荷変異体を伴う)抗体と比較する、一対一の作製試行を行って、T細胞二特異性抗体に適用されるCL−CH1電荷修飾の利点をさらに査定した。
【0248】
表8−1は、プロテインA(PA)アフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィー(SEC)精製を含めた、標準的な、最適化されていない精製方法に従う、電荷変異体を伴うROR1×CD3−TCBの3つの分子の有利な作製/精製プロファイルを示す。
【0249】
【表8-1】
【0250】
図3−1は、電荷変異体を伴うかまたは伴わない別のTCB分子、すなわち83A10−TCB抗体および83A10−TCBcv抗体のための、異なる精製法の後における、CE−SDS(非還元)による、最終タンパク質調製物についてのグラフを描示する。83A10−TCB抗体へと適用された、プロテインA(PA)アフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィー(SEC)による精製ステップが結果としてもたらす単量体含量(A)の純度は、30%未満および82.8%であった。カチオン交換クロマトグラフィー(cIEX)ステップおよび最終的なサイズ除外クロマトグラフィー(re−SEC)ステップを含むさらなる精製ステップを、(A)における最終タンパク質調製物へと適用したところ、純度は、93.4%へと増大したが、単量体含量は同じにとどまり、収率は、0.42mg/Lへと有意に低減された。しかし、特異的電荷修飾を、83A10抗BCMA Fab CL−CH1へと適用したところ、つまり、83A10−TCBcv抗体では、PA+cIEX+SEC精製ステップを適用した場合であってもなお、95.3%の純度、100%の単量体含量、および最大3.3mg/Lの収率により実証される通り、さらなるre−SEC精製ステップを含むにも拘らず、作製/精製プロファイルが、7.9分の1の収率および17.2%低量の単量体含量を示す(B)と比較して、TCB分子の優れた作製/精製プロファイルを既に観察することができた(C)。
【0251】
次いで、83A10−TCBの作製/精製プロファイルを、83A10−TCBcv抗体と対比して比較する、一対一の作製試行を行って、抗体へと適用されるCL−CH1電荷修飾の利点をさらに査定した。83A10−TCB分子および83A10−TCBcv分子のいずれも、PCT/EP2015/067841の
図2aに記載されている分子フォーマットの分子である。
図3−2に描示される通り、83A10−TCB抗体および83A10−TCBcv抗体の特性を、並行して測定し、各精製ステップ:1)PAアフィニティークロマトグラフィーだけ(A、B)、2)PAアフィニティークロマトグラフィー、次いで、SEC(C、D)、ならびに3)PAアフィニティークロマトグラフィー、次いで、SEC、次いで、cIEXおよびre−SEC(E、F)の後で比較した。83A10−TCB抗体および83A10−TCBcv抗体のための、それぞれの精製法の後における、CE−SDS(非還元)による、最終タンパク質溶液についてのグラフを、
図3−2に顕示する。
図3−2Aおよび3−2Bにおいて示される通り、電荷変異体をTCB抗体へと適用することによる改善は、PAアフィニティークロマトグラフィーだけによる精製の後で既に観察された。この一対一研究では、83A10−TCB抗体へと適用した、PAアフィニティークロマトグラフィーによる精製ステップは、61.3%の純度、26.2mg/Lの収率、および63.7%の単量体含量を結果としてもたらした(3−2A)。比較として、83A10−TCBcv抗体を、PAアフィニティークロマトグラフィーで精製したところ、より良好な81.0%の純度、より良好な51.5mg/Lの収率、および68.2%の単量体含量により、全ての特性が改善された(3−2B)。さらなるSEC精製ステップを、
図3−2Aおよび3−2Bで見られるように最終タンパク質調製物へと適用したところ、純度および単量体含量が、それぞれ、最大91.0%および83.9%と改善されたが、収率は10.3mg/Lであった83A10−TCBcv(3−2D)と比較して、83A10−TCBは、69.5%の純度、14.1mg/Lの収率、および74.7%の単量体含量(3−2C)と向上した。この特定の実験では、収率こそ、83A10−TCBcvが、83A10−TCBよりわずかに少なかった(すなわち、27%少なかった)ものの、適正な分子の百分率では、83A10−TCBcvが、83A10−TCBよりはるかに良好であり、LC−MSにより測定される通り、それぞれ、40〜60%と対比した90%であった。第3の一対一比較では、
図3−2Cおよび3−2Dからの、83A10−TCBおよび83A10−TCBcvの最終タンパク質調製物を、PAアフィニティークロマトグラフィーによる精製ステップだけの後における、別の精製バッチ(同じ作製)からの最終タンパク質調製物、それぞれ約1L(等容量)と共にプールした。次いで、プールされたタンパク質調製物を、cIEXおよびSECによる精製法により、さらに精製した。
図3−2Eおよび3−2Fに描示される通り、電荷変異体を伴わないTCB抗体と比較した場合の、電荷変異体を伴うTCB抗体の作製/精製プロファイルの改善が一貫して観察された。いくつかのステップによる精製法(すなわち、PA±SEC+cIEX+SEC)を使用して、83A10−TCB抗体を精製した後において、達せられた純度は、43.1%に過ぎず、98.3%の単量体含量は達成されたが、収率は損なわれ、0.43mg/Lへと低減された。LC−MSにより測定される適正な分子の百分率は、やはり低値であり、60〜70%であった。最後に、最終タンパク質調製物の品質は、in vitroにおける使用に許容可能なものではなかった。これとは全く対照的に、同じ複数の精製ステップを、同順で83A10−TCBcv抗体へと適用したところ、96.2%の純度および98.9%の単量体含量が達せられたほか、LC−MSにより測定される適正な分子も95%であった。しかし、ここでもまた、収率は、cIEX精製ステップの後で、0.64mg/Lへと大幅に低減された。結果は、83A10−TCBcv抗体に関して、より良好な純度、より高い単量体含量、より高い百分率の適正な分子、およびより良好な収率は、2つの標準的な精製ステップ、すなわち、PAアフィニティークロマトグラフィーおよびSECの後で初めて達成されうるが(
図3−2D)、83A10−TCBでは、さらなる精製ステップを適用してもなお、このような特性を達成することができなかった(
図3−2E)ことを示す。
【0252】
表8−2は、PA精製ステップの後における、83A10−TCBの、83A10−TCBcvと比較した特性についてまとめる。表8−3は、PA精製ステップおよびSEC精製ステップの後における、83A10−TCBの、83A10−TCBcvと比較した特性についてまとめる。表8−4は、PAおよびSECに加え、PA単独、次いで、cIEXおよびre−SECの精製ステップの後における、83A10−TCBの、83A10−TCBcvと比較した特性についてまとめる。表8−2〜8−4では、太字の値は、83A10−TCBと、83A10−TCBcvとの間で比較した場合の優れた特性を強調する。代表的ではい可能性がある1つ(すなわち、収率および量のそれぞれ;表8−3を参照されたい)を例外として、3つの一対一比較実験から得られる全ての作製/精製パラメータおよび値は、83A10−TCBと比較して、83A10−TCBcvが優れていた。全体的な結果により、作製/精製特徴における利点は、CL−CH1電荷修飾を、TCB抗体へと適用することにより達成できたこと、および開発可能特性が非常に良好な、既に高品質のタンパク質調製物を達成するのに要請される精製ステップは、2つ(すなわち、PAアフィニティークロマトグラフィーおよびSEC)だけであったことが明らかに実証される。
【0253】
【表8-2】
【0254】
【表8-3】
【0255】
【表8-4】
【0256】
(実施例6)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、ROR1陽性B−CLL細胞または骨髄腫細胞またはT細胞上のCD3への結合(フローサイトメトリー)
【0257】
a)実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、初代B−CLL細胞上に発現するヒトROR1またはヒト白血病性T細胞Jurkat(ATCC TIB−152)上に発現するヒトCD3へのそれらの結合特性についてもフローサイトメトリーにより解析した。Jurkat T細胞を10%のウシ胎仔血清を補充したRPMI中で培養した。略述すると、培養細胞を採取し、カウントし、ViCellを使用して、細胞生存率を査定した。次いで、生細胞を、0.1%のBSAを含有するFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)中、1ml当たりの細胞2×10
6個に調整した。この細胞懸濁液100μlを、丸底96ウェルプレートに、ウェルごとに、さらにアリコート分割した。細胞を含有するウェルに、30μlの、Alexa488で標識された抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体または対応するIgG対照を添加して、3nM〜500nMまたは0.1pM〜200nMの最終濃度を得た。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体と対照IgGは同じモル濃度で使用した。4℃で30分間のインキュベーションの後、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、150μl/ウェルの、BSAを含有するFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄し、次いで、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間細胞を固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、B−CLL細胞およびT細胞への結合を査定し、平均蛍光強度を、ROR1を発現するB−CLL細胞またはCD3を発現するJurkat T細胞のいずれかをゲーティングして決定し、ヒストグラムまたはドットプロットにプロットした。
図7は、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、Jurkat T細胞への結合についての平均蛍光強度であり、抗体濃度の関数としてプロットされた平均蛍光強度を示す。抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体のJurkat細胞に対するEC50値および最大結合は未到達だった。興味深いことに、ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体は、Jurkat T細胞に、ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体よりも効率的に結合する。DP47アイソタイプ対照抗体または抗ROR1 IgG抗体はJurkat T細胞に結合しなかった。
【0258】
b)抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、フローサイトメトリーにより、ROR1を発現する骨髄腫RPMI8226細胞上のヒトROR1への結合について解析した。略述すると、培養細胞を採取し、カウントし、ViCellを使用して、細胞生存率を査定した。次いで、生細胞を、BSAを含有するFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)中、1ml当たりの細胞2×10
6個に調整した。この細胞懸濁液100μlを、丸底96ウェルプレートに、ウェルごとに、さらにアリコート分割し、30μlの、Alexa488で標識された抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体または対応するIgG対照と共に、4℃で30分間インキュベートした。全ての抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体(およびアイソタイプ対照)を滴定し、0.136〜13.6nMの間の最終濃度範囲で解析した。標識されていない抗体を使用した試料については、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、120μl/ウェルのFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で洗浄し、再懸濁させ、蛍光色素コンジュゲートAlexaFluor 647コンジュゲートAffiniPure F(ab’)2 Fragment goat anti−human IgG Fc Fragment Specific(Jackson Immuno Research Lab;109−606−008)と共に、4℃でさらに30分間インキュベートした。次いで、細胞を、Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄し、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。
図8は、抗体濃度:抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体の関数としてプロットされた、RPMI8226細胞における抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体についての平均蛍光強度を示す。抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体の、RPMI8226細胞への結合についてのEC50値(最大結合の50%に達するのに要請される抗体の濃度を示す)を、表3にまとめる。FACSにより検出される通り、ROR1に対して二価である抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体は、ROR1陽性RPMI8226骨髄腫細胞に、ROR1に対して一価である抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体よりもわずかに良好に結合すると思われる(
図8)。蛍光色素コンジュゲート抗ヒトFc二次抗体を使用するフローサイトメトリーにより検出される通り、抗ROR1/抗CD3 TCB抗体はまた、初代B−CLL細胞に結合することも示された(
図2A)。
【0259】
【表3】
【0260】
(実施例6.1)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、卵巣がん細胞およびT細胞への結合(フローサイトメトリーにより測定される)
実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、フローサイトメトリーにより、ヒト卵巣がん細胞系PA−1およびSK−OV−3ならびにヒト白血病性T細胞Jurkat(ATCC TIB−152)上に発現するヒトCD3へのそれらの結合について解析した。Jurkat T細胞を、10%のウシ胎仔血清を補充したRPMI1640培地中で培養した。略述すると、培養細胞を採取し、カウントし、ViCellを使用して細胞生存率を査定する。次いで、生細胞を、0.1%のBSAを含有するFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)中、1ml当たりの細胞2×10
6個に調整した。この細胞懸濁液100μlを、丸底96ウェルプレートに、ウェルごとに、さらにアリコート分割した。細胞を含有するウェルに、30μlの、Alexa488で標識された抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体または対応するIgG対照を添加して、1nM〜500nM(Jurkat T細胞)、または0.1nM〜100nM(ヒト卵巣がん細胞)の最終濃度を得た。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体と対照IgGは同じモル濃度で使用した。4℃で30分間のインキュベーションの後、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、150μl/ウェルの、BSAを含有するFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄し、次いで、細胞を、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、ヒト卵巣がん細胞およびT細胞への結合を査定し、蛍光強度中央値を、ヒト卵巣がん細胞またはCD3を発現するJurkat T細胞のいずれかをゲーティングして決定し、ヒストグラムおよびドットプロットにプロットした。標識されていない抗体を使用した試料については、細胞を遠心分離し(350×gで5分間)、120μl/ウェルのFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で洗浄し、再懸濁させ、蛍光色素コンジュゲートAlexaFluor 647コンジュゲートAffiniPure F(ab’)2 Fragment goat anti−human IgG Fc Fragment Specific(Jackson Immuno Research Lab;109−606−008)と共に、4℃でさらに30分間インキュベートした。次いで、細胞を、Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄し、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体についての蛍光強度中央値を抗体濃度の関数としてプロットした。抗ROR1/抗CD3抗体のヒト卵巣がん細胞への結合についてのEC50値(最大結合の50%に達するのに要請される抗体の濃度を示す)を、Prism(GraphPad)を使用して測定した。
図3−3に示される通り、抗体濃度の関数として、蛍光強度シグナル中央値の増大によって測定される通り、ROR1 Mab2 IgGおよびROR1 Mab2−TCBcvの、SK−OV−3卵巣がん細胞系(A)およびPA−1ヒト卵巣がん細胞系(B)における濃度依存的結合が見られた。このような陽性シグナルは、CD3だけに結合し、ROR1に結合しない対照TCBをSK−OV−3卵巣がん細胞系およびPA−1卵巣がん細胞系の両方で試験した場合には観察されなかった(AおよびB;塗りつぶし丸)。
図3−4に示される通り、ROR1 Mab2−TCBcvおよび対照TCBの、Jurkat T細胞における濃度依存的結合が見られ、これにより、両方のTCB抗体が、T細胞上のCD3に結合することが確認される。
【0261】
(実施例7)
EHEB B−CLL細胞系、またはCLL患者由来の初代PBMCまたはRPMI8226 MM細胞における、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の内部化(フローサイトメトリー)。
【0262】
上のステップ(実施例5)において選択した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、内部化アッセイにおいてさらに試験した。略述すると、低温保存されたヒトROR1を発現する初代B−CLL標的細胞を解凍し、Cell Dissociation緩衝液により採取し、ViCellを使用して細胞生存率を決定した後に、洗浄し、10%のFCSを補充したRPMI中に、1×10
6個(1×10
6個/mL)の低温保存した非処置CLL患者に由来するPBMC、または細胞2×10
6個/mLのEHEB B−CLL細胞系、または、1×10
6個/mLのRPMI8226細胞の濃度で再懸濁させた。細胞懸濁液を、各被験IgG/TCBおよび各濃度について15ml Falconチューブに移した。Alexa488とコンジュゲートした、希釈された抗ROR1 IgGまたは抗ROR1/抗CD3 TCB(RPMI+10%のFCS中1nMまで希釈)を、0.5mlをチューブに添加し、低温室内、シェーカーで30分間インキュベートした。インキュベートし、細胞を冷PBSで3回洗浄して結合していない抗体を除去した後、細胞を氷上に放置したか、または96ウェルFACSプレート中のあらかじめ加温した培地中に移し(細胞0.1×10
6個)、内部化を容易にするために、37℃で15分間、30分間、1時間、2時間、および24時間インキュベートした。さらに、細胞試料を、内部化を阻害するために、3μMのフェニルアルシンオキシド(Sigma−Aldrich)の存在下、37℃で2時間および/または24時間インキュベートした。その後、細胞を冷PBSで1回洗浄し、Alexa647で標識された抗ヒトFc二次抗体(F(ab)
2)と共に、4℃で30分間インキュベートした。PBSで3回の最終的な洗浄後、細胞を、400×gで4分間遠心分離し、ヨウ化プロピジウム(1:4000)(Sigma)を伴うかまたは伴わないFACS緩衝液に再懸濁させた。抗ROR1 IgGおよび抗ROR1/抗CD3 TCBについての細胞の平均蛍光強度(MFI)を、FACS CantoIIフローサイトメーター(BD Biosciences)およびFlowJo解析用ソフトウェアを使用して測定した。
【0263】
本明細書で使用される、「前記抗ROR1抗体のROR1陽性細胞への内部化」を反映する「平均蛍光強度の低減」(ΔMFI)、または「MFI低減」という用語は、式ΔMFI=100−100×[(MFI
実験値−MFI
バックグラウンド)/(MFI
最大−MFI
バックグラウンド)]を使用することにより、各ROR1抗体について、非特異的なヒトIgG対照(MFI
バックグラウンド)および氷上で維持されたROR1抗体(MFI
最大)と比較して計算されるMFI低減の百分率を指す。MFI
実験値は、37℃で2時間のインキュベーション後の前記ROR1抗体で測定されるMFIである。MFI低減は、抗体内部化、抗体解離またはその両方の組合せを表しうる。エンドサイトーシス阻害剤フェニルアルシンオキシドにより遮断されるMFI低減は抗体内部化を示すのに対し、フェニルアルシンオキシドにより遮断されないMFI低減は、抗体解離を反映する。内部化する抗ROR1抗体は最先端技術において公知である(Baskarら、Clin. Cancer Res.、14巻(2号):396〜404頁(2008年))。
【0264】
一部の試験では、次いで、抗ROR1/抗CD3 T細胞抗体の内部化率を、抗ROR1二価IgG抗体の内部化率と比較した。
【0265】
T細胞二特異性などの抗体ベースの治療については、腫瘍細胞とT細胞の間の安定な免疫シナプスおよび有効なT細胞媒介性のリダイレクトされた細胞傷害作用およびT細胞の活性化を容易にするために、腫瘍標的に特異的な抗体または抗体断片が内部化しないか、または内部化が緩徐であるか、または内部化がわずかであることが重要である。
【0266】
図4Aおよび4Bに示され、表4にまとめられる通り、FACS(蛍光色素コンジュゲート二次抗体の間接的な検出)によって測定される通り、抗ROR1 IgG抗体(1nM)は、初代B−CLL細胞において、37℃で2時間のインキュベーション後、約12.5%内部化したのに対し、抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体(1nM)は、初代B−CLL細胞において、同じ実験条件で、27.1%の内部化率を示した(
図4Aおよび4C)。内部化は、0時間で、ベースラインにおけるMFI値に基づいて計算し、以前に記載された式を使用して計算した。結果は、抗ROR1/抗CD3 TCB2+1が、B−CLL細胞において30%未満の内部化率を有することを示す。
【0267】
図5は、抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体(1nM)の、初代B−CLL細胞における、フェニルアルシンオキシド(PAO)の存在下または非存在下、37℃で2時間のインキュベーション後の、内部化率を示す。MFIシグナルの低減は、抗体の内部化および/または解離に起因する可能性があるので、MFIシグナルの低減が、内部化によって引き起こされるか否かを、エンドサイトーシス阻害剤を使用して内部化を遮断することによって検証することが重要である。これは、細胞に対する結合活性が二価抗体よりも低い一価抗体に関して特に重要である。
図5に示される通り、初代B−CLL細胞において、PAOを伴わない37℃で2時間のインキュベーション後に、MFIシグナルの91%の低減が見られた。しかし、B−CLL細胞をPAO(3μM)の存在下でインキュベートした場合にも、MFIシグナルの90%の消失がなお観察され、これにより、MFIシグナルの低減が、抗体の内部化に起因するものではなく、おそらく解離に起因するものであることが示される(表5)。次いで、内部化率を0%まで計算することができた。結果は、抗ROR1/抗CD3 TCB1+1がB−CLL細胞において内部化しないことを実証し、これは、TCB抗体についての好ましい特徴である。
【0268】
図6および表6に、2つの独立の実験において測定された、37℃で2時間のインキュベーション後の、RPMI8226 MM細胞上の、TCB2+1抗体および抗ROR1 IgG抗体(1nM)の内部化率をまとめる。結果は、抗ROR1/抗CD3 TCB2+1のRPMI細胞上の内部化率が15%未満であることを実証する。
【0269】
【表4】
【0270】
【表5】
【0271】
【表6】
【0272】
(実施例8)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体との会合時のT細胞の活性化(フローサイトメトリー)
a)ヒトROR1陽性細胞の存在下または非存在下における、CD4
+およびCD8
+T細胞上の、早期活性化マーカーCD69、または後期活性化マーカーCD25の表面発現を査定することにより、実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、フローサイトメトリーにより、T細胞の活性化を誘導するそれらの潜在性についても解析した。略述すると、ROR1陽性細胞を、Cell Dissociation緩衝液により採取し、カウントし、細胞生存率を、ViCellを使用して検証した。生存B−CLL細胞を、10%のFCSを補充したRPMI中、1ml当たりの細胞0.2×10
6個に調整し、この細胞懸濁液100μlを、丸底96ウェルプレートに、ウェルごとに、ピペットにより移した。50μlのT細胞二特異性構築物を、ROR1陽性細胞を含有するウェルに添加して、0.01fM〜100pMまたは0.01pM〜100nMの最終濃度を得た。96ウェルプレートを、取りおき、さらに操作するまで37℃、5%のCO
2で維持した。
【0273】
PBMCを、クエン酸ナトリウムを伴うCell Preparationチューブ(Vacutainer CPTチューブ、BD Biosciences)を使用し、密度勾配遠心分離を使用して、採取したての血液から単離した。次いで、全ヒトT細胞を、Pan T Cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotec)を使用し、製造元の指示書に従い単離した。一部の試験では、CD8 T細胞クローンをエフェクターとして使用した。NLV(HLA−A2によって認識されるCMV特異的ペプチド)に特異的なCD8 T細胞を、HLA−A2+健常ドナーのPBMCから、CD8抗体およびNLVペプチドと複合体を形成したHLA−A2に特異的な四量体を使用して精製し、細胞分取機により分取した。精製された細胞を、400IUのIL2を伴う培地(RPMI1640+10%FBS+1%L−グルタミン)中、NLVペプチドをパルスした健常ドナーのPBMCおよびHLA−A2+LCL(リンパ芽球様細胞)から得られた、照射したフィーダー調製物上で増大させた。NLV特異的CD8 T細胞クローンを、400IUのIL2を伴う同じ培地中で維持し、フィーダー調製物で定期的に再活性化した。次いで、ヒト全T細胞またはCD8 T細胞クローン(エフェクター)を、10%のFCSを補充したRPMI中、1ml当たりの細胞2×10
6個に調整した。この細胞懸濁液50μlを、既にROR1陽性の標的細胞を含有するアッセイプレートのウェルごとに添加して、最終E:T比、3:1(エフェクターとしてCD8 T細胞)、または10:1(エフェクターとしてPBMC)を得た。T細胞二特異性構築物が、ROR1のみ陽性の腫瘍標的細胞の存在下で、T細胞を活性化することが可能であるかを決定するために、0.01fM〜100pMまたは0.01pM〜100nMの範囲の最終濃度の、それぞれの二特異性分子を含有し、エフェクター細胞を伴うが、ROR1陽性腫瘍標的細胞は伴わないウェルも含めた。5%のCO
2、37℃で、6〜24時間(エフェクターとしてCD8 T細胞クローン)、または24〜48時間(エフェクターとしてPBMC)のインキュベーション後、細胞を、遠心分離により(350×gで5分間)ペレット化し、150μl/ウェルのFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄した。ヒトCD4、CD8、CD69またはCD25に対する、選択された蛍光色素コンジュゲート抗体(BD Biosciences)によるエフェクター細胞の表面染色を、光から保護して、FACS Stain緩衝液(BD Biosciences)中、製造元のプロトコールに従って、4℃で30分間実施した。細胞を、150μl/ウェルのFACS Stain緩衝液で2回洗浄し、次いで、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。CD69活性化マーカーまたはCD25活性化マーカーの発現を、ヒストグラムまたはドットプロットに示される通り、CD4
+およびCD8
+T細胞集団をゲーティングした場合の平均蛍光強度を測定することにより決定した。
【0274】
図9Aは、CD8 T細胞をゲーティングした場合の後期活性化マーカーCD25の平均蛍光強度の濃度依存的な増大を示す。結果は、抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体が、ROR1陽性Rec−1細胞の存在下でCD8 T細胞の有意な濃度依存的活性化を誘導し、100pMの抗体で最大シグナルに到達したことを示す。非結合性TCB構築物によって得られる、ROR1陽性標的細胞への結合を伴わないT細胞上のCD3への結合でのCD8 T細胞の非特異的な活性化は最小であった。CD8 T細胞の活性化は、抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体を用いると著しいものではなかったが、CD25平均蛍光強度の、かすかであるが注目すべき増大が見られた。しかし、非特異的な活性化を除外することはできなかった。
【0275】
図9Bは、ROR1陽性RPMI8226 MM細胞の存在下で、抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体によって媒介される、CD8 T細胞上のCD25の濃度依存的な上方調節を示す。被験TCB抗体の最高濃度(100pM)において、非結合性TCB構築物との比較において示される通り、CD8 T細胞の非特異的な活性化は見られなかった。
【0276】
(実施例8.1)
卵巣がん細胞の存在下での、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体との会合時のT細胞の活性化(フローサイトメトリー)
実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、ROR1陽性ヒト卵巣がん細胞系PA−1および/またはSK−OV−3の存在下における、CD4
+およびCD8
+T細胞上の、早期活性化マーカーCD69および/または後期活性化マーカーCD25の表面発現を査定することにより、フローサイトメトリーにより、T細胞の活性化を誘導するそれらの潜在性についても解析した。略述すると、ヒト卵巣がん標的細胞を、トリプシン/EDTAにより採取し、洗浄し、平底96ウェルプレートを使用して、細胞25,000個/ウェルの密度でプレーティングした。細胞を、一晩放置して接着させた。末梢血単核細胞(PBMC)を、Histopaque密度遠心分離により、健常ヒトドナーから得られる、富化されたリンパ球調製物(軟膜)から調製した。採取したての血液を、滅菌PBSで希釈し、Histopaque勾配(Sigma、#H8889)上に、層状に載せた。遠心分離の後(室温、450×gで30分間)、PBMCを含有する相間部の上方の血漿を廃棄し、PBMCを、新しいfalconチューブに移し、その後、50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離し(室温、400×gで10分間)、上清を廃棄し、PBMCペレットを滅菌PBSで2回洗浄した(350×gで10分間の遠心分離ステップ)。結果として得られるPBMC集団を、自動的にカウントし(ViCell)、さらなる使用まで(24時間を超えない)、細胞系の供給元(実施例2.1を参照されたい)に従い、それぞれの培養培地中、細胞インキュベーター内、5%のCO
2、37℃で保存した。抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体によって誘導されるT細胞の活性化を調査するために、ヒト卵巣がん細胞を示されている濃度の二特異性抗体に曝露した(0.1pM〜200nMの範囲、三連で)。次いで、PBMCを、ヒト卵巣がん標的細胞に、最終的なエフェクターと標的との比(E:T比)、10:1で添加した。5%のCO
2、37℃で24〜48時間のインキュベーション後に、T細胞の活性化を評価した。インキュベーション期間後、細胞を、遠心分離により(350×gで5分間)ウェルから収集し、ペレット化し、150μl/ウェルのFACS Stain緩衝液(BD Biosciences)で2回洗浄した。ヒトCD4(マウスIgG1、K;クローンRPA−T4)、CD8(マウスIgG1、K;クローンHIT8a;BD型番555635)、CD69(マウスIgG1;クローンL78;BD型番340560)およびCD25(マウスIgG1、K;クローンM−A251;BD型番555434)に対する、選択された蛍光色素コンジュゲート抗体によるエフェクター細胞の表面染色を、光から保護して、FACS Stain緩衝液(BD Biosciences)中、製造元のプロトコールに従って、4℃で30分間実施した。細胞を、150μl/ウェルのFACS Stain緩衝液で2回洗浄し、次いで、ウェル1つ当たり100ulのBD Fixation緩衝液(BD Biosciences、型番554655)を使用して、4℃で20分間固定し、120μlのFACS緩衝液中に再懸濁させ、BD FACS CantoIIを使用して解析した。CD69活性化マーカーまたはCD25活性化マーカーの発現を、ヒストグラムまたはドットプロットに示される通り、CD4
+およびCD8
+T細胞集団をゲーティングした場合の蛍光強度中央値を測定することにより決定した。
図9.1に示される通り、ROR1 Mab2−TCBcv(四角)は、ROR1の発現が低度なSK−OV−3標的細胞の存在下で、CD4+T細胞(A)およびCD8+T細胞(B)において観察された、CD69早期活性化マーカーの濃度依存的な増大を誘導したのに対し、対照TCB(三角形)は、T細胞の活性化を少しも誘導しなかった。臨床的に関与性の濃度である1nMのROR1 Mab2−TCBcvにおいて、48時間のインキュベーション後、最大40%の活性化CD4 T細胞および25%の活性化CD8 T細胞が既に存在していた。
【0277】
(実施例9)
抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の、T細胞上のCD3への架橋結合時、および多発性骨髄腫細胞上のROR1への架橋結合時の、リダイレクトされたT細胞による、多発性骨髄腫細胞に対する細胞傷害作用(LDH放出アッセイ)
実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、抗原結合性部分の、細胞上のROR1への結合を介する、構築物の架橋結合時に、ROR1を発現する多発性骨髄腫細胞内でT細胞媒介性アポトーシスを誘導するそれらの潜在性についても解析した。略述すると、ヒトROR1を発現するRPMI−8226多発性骨髄腫標的細胞(American Type Culture Collection;ATCC CCL−155から入手可能である)を、Cell Dissociation緩衝液により採取し、洗浄し、10%のFCSを補充したRPMI中に再懸濁させた。ウェル1つ当たりの細胞約30,000個を、丸底96ウェルプレート内にプレーティングし、構築物のそれぞれの希釈液を、所望の最終濃度、0.01fM〜100pMまたは0.2nM〜30nMの最終濃度になるように添加した(三連で)。適切な比較のために、全てのT細胞二特異性構築物および対照を、同じモル濃度に調整した。ヒト全T細胞またはCD8 T細胞クローン(エフェクター)をウェルに添加して、3:1の最終E:T比を得た。ヒトPBMCをエフェクター細胞として使用した場合には、10:1の最終E:T比を使用した。PHA−L(Sigma)を、ヒトT細胞の活性化についての陽性対照として、1μg/mlの濃度で使用した。陰性対照群は、エフェクター細胞だけ、または標的細胞だけで表した。標準化のために、RPMI−8226多発性骨髄腫標的細胞の最大溶解(=100%)を、最終濃度1%のTriton X−100を伴い、細胞死を誘導する、標的細胞のインキュベーションにより決定した。最小溶解(=0%)を、エフェクター細胞だけを伴い、すなわち、T細胞二特異性抗体を伴わずに共インキュベートされた標的細胞により表した。次いで、5%のCO
2、37℃で、6〜24時間のインキュベーション(エフェクターとしてCD8 T細胞クローン)、または24〜48時間のインキュベーション(エフェクターとしてPBMC)の後、製造元の指示書に従い、LDH検出キット(Roche Applied Science)により、アポトーシス性/壊死性ROR1陽性標的細胞から上清へのLDH放出を測定した。LDH放出の百分率を、濃度反応曲線において、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の濃度に対してプロットした。IC
50値は、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用して測定し、最大LDH放出の50%を結果としてもたらすT細胞二特異性抗体の濃度として決定した。
【0278】
図10は、抗ROR1/抗CD3 TCB抗体によって活性化されたCD8 T細胞による、リダイレクトされたT細胞によるROR1陽性RPMI8226 MM標的細胞の殺滅を示す。抗ROR1/抗CD3 TCB抗体によって誘導される標的細胞の特異的な細胞傷害作用(腫瘍溶解)をLDH放出によって測定した。(A)実験1(14時間の時点):抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体では、非常にわずかな、腫瘍溶解応答の濃度依存的な増大が観察された。臨床的に関与性の3:1のE:T比、すなわち、CD8 T細胞3に対してRPMI8226標的細胞1を反映する実験条件において、被験最低濃度である0.01pMの抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体では30%の腫瘍溶解が既に観察され、30nMの抗ROR1/抗CD3 TCB抗体で最大37.5%の腫瘍溶解に達した。EC50は、計算することができなかった。LDH放出により検出された、30nMにおいて観察された37.5%の腫瘍溶解は、30nMの非結合性TCB1+1(すなわち、エフェクター細胞には結合するが標的細胞には結合しない)での非特異的な標的細胞溶解は17%に過ぎなかったので、標的細胞の非特異的な殺滅だけに帰することはできなかった。抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体については、被験最低濃度である0.2fMにおいて30%の最大の標的細胞溶解が既に観察され、最大10nMとして増大する濃度で濃度依存的な応答は見られなかった。しかし、30nMの濃度の非結合性TCB 2+1では、細胞溶解は既に30%近くであった。(B)実験2(20時間の時点):ROR1陽性RPMI8226において試験を繰り返し、20時間のインキュベーション後に、LDH放出の測定を評価した。100pMの濃度の抗ROR1/抗CD3 TCB1+1およびTCB2+1抗体では30〜40%の標的細胞溶解が観察されたのに対し、100pMの非結合性TCB対照は、腫瘍溶解を少しも誘導しなかった。結果は、CD8 T細胞上のCD25マーカーの上方調節によって測定されるT細胞の活性化の増大を裏付ける(
図9B)。
【0279】
図11は、異なるエフェクター細胞対腫瘍細胞(E:T)比での、抗ROR1/抗CD3 TCB抗体によって活性化されたPBMC由来のT細胞による、リダイレクトされたT細胞によるROR1陽性RPMI8226 MM標的細胞の殺滅を示す。抗ROR1/抗CD3 TCB抗体によって誘導される標的細胞の特異的な細胞傷害作用(腫瘍溶解)をLDH放出によって測定した。(A)E:T比=PBMC、10:RPMI8226 MM細胞、1(24時間の時点):最大100nMとして増大する濃度で、濃度依存的な応答が見られた。10:1のE:T比、すなわち、PBMC、10に対してRPMI8226標的細胞、1を用いた実験条件において、100nMの濃度の抗ROR1/抗CD3 TCB1+1抗体および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1抗体で最大平均25%の腫瘍溶解が観察された。LDH放出により検出された、100nMで観察された25%の腫瘍溶解は、100nMの非結合性TCB2+1(すなわち、エフェクター細胞には結合するが標的細胞には結合しない)での非特異的な標的細胞溶解は9%に過ぎなかったので、標的細胞の非特異的な殺滅だけに帰することはできなかった。(B)E:T比=PBMC、25:RPMI8226 MM細胞、1(24時間の時点):最大2nMとして増大する濃度の抗ROR1/抗CD3 TCB1+1で、濃度依存的な腫瘍溶解が見られた。2nMの濃度の抗ROR1/抗CD3 TCB1+1で最大平均30%の腫瘍溶解が既に観察されたが、100nMの濃度で、応答がより大きくなることはなかったので、腫瘍溶解はプラトーに到達したものと思われる。
【0280】
ROR1陽性血液がん細胞(CLL、MM、およびMCL)による全体的なin vitroにおける結果は、抗ROR1/抗CD3 TCB1+1および抗ROR1/抗CD3 TCB2+1分子が、1)ROR1陽性標的細胞に結合し、2)CD3陽性T細胞に結合し、3)標的細胞およびT細胞への同時結合時にT細胞の活性化を媒介し、ならびに、4)T細胞上のCD25の上方調節を裏付けることに、リダイレクトされたT細胞による、ROR1陽性標的細胞に対する細胞傷害作用を濃度依存的に誘導するので、これらの分子が、T細胞二特異性抗体のように作用することを明白に示す。
【0281】
(実施例10)
ヒト卵巣がん細胞の細胞溶解(LDH放出アッセイ)
実施例5において作出した抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体を、ヒト卵巣がん細胞におけるT細胞媒介性細胞傷害作用の誘導について解析した。ヒト卵巣がん細胞系PA−1、COLO−704、SK−OV−3およびOVCAR−5。略述すると、ヒト卵巣がん標的細胞を、トリプシン/EDTAにより採取し、洗浄し、平底96ウェルプレートを使用して、細胞25,000個/ウェルの密度でプレーティングした。細胞を一晩放置して接着させた。末梢血単核細胞(PBMC)を、Histopaque密度遠心分離により、健常ヒトドナーから得られる、富化されたリンパ球調製物(軟膜)から調製した。採取したての血液を、滅菌PBSで希釈し、Histopaque勾配(Sigma、#H8889)上に、層状に載せた。遠心分離の後(室温、450×gで30分間)、PBMCを含有する相間部の上方の血漿を廃棄し、PBMCを、新しいfalconチューブに移し、その後、50mlのPBSを満たした。混合物を遠心分離し(室温、400×gで10分間)、上清を廃棄し、PBMCペレットを滅菌PBSで2回洗浄した(350×gで10分間の遠心分離ステップ)。結果として得られるPBMC集団を、自動的にカウントし(ViCell)、さらなる使用まで(24時間を超えない)、細胞系の供給元(実施例2.1を参照されたい)の示唆に従い、それぞれの培養培地中、細胞インキュベーター内、5%のCO
2、37℃で保存した。殺滅アッセイのために、TCB抗体を、示されている濃度で添加した(0.1pM〜200nMの範囲、三連で)。PBMCを、ヒト卵巣がん標的細胞に最終的なエフェクターと標的との比(E:T比)、10:1で添加した。5%のCO
2、37℃で24〜48時間のインキュベーション後、アポトーシス性/壊死性細胞により細胞の上清中に放出されるLDHの定量化(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11 644 793 001)により、製造元の指示書に従い、標的細胞による殺滅を評価した。標的細胞の最大溶解(=100%)を、1%のTriton X−100を伴う、標的細胞のインキュベーションにより実現した。最小溶解(=0%)は、エフェクター細胞を伴い、二特異性構築物を伴わずに共インキュベートされた標的細胞を指す。LDH放出の百分率を、濃度反応曲線において、抗ROR1/抗CD3 T細胞二特異性抗体の濃度に対してプロットした。EC
50値は、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用して測定し、最大LDH放出の50%を結果としてもたらすT細胞二特異性抗体の濃度として決定した。
図12に示される通り、ROR1 Mab2−TCBcv(四角)は、ROR1の発現が高度なPA−1卵巣がん細胞(A)、ROR1の発現が中程度なCOLO−704(B)およびOVCAR−5(C)卵巣がん細胞およびROR1の発現が低度なSK−OV−3卵巣がん細胞(D)の腫瘍細胞溶解の濃度依存的な増大を誘導した。対照的に、CD3だけに結合する対照TCB(A、B、C;丸)は、臨床的に関与性の濃度(すなわち、最大10nM)において腫瘍細胞溶解を誘導しなかった。代表的な実験を示す。
【0282】
【表9】