(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6708746
(24)【登録日】2020年5月25日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】ガラスキャリアウェハー用の低CTEボロアルミノシリケートガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20200601BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
C03C3/091
H01L21/78 M
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-540104(P2018-540104)
(86)(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公表番号】特表2019-505471(P2019-505471A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】CN2016073212
(87)【国際公開番号】WO2017132837
(87)【国際公開日】20170810
【審査請求日】2018年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】プオンシアン チエン
(72)【発明者】
【氏名】ユンフェイ ホウ
(72)【発明者】
【氏名】ジュンミン シュエ
(72)【発明者】
【氏名】ライナー リーバルト
(72)【発明者】
【氏名】黒木 浩
【審査官】
山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−269625(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/136027(WO,A1)
【文献】
特開2009−013049(JP,A)
【文献】
特開2009−177034(JP,A)
【文献】
特表2014−527299(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/091134(WO,A1)
【文献】
特開2005−302289(JP,A)
【文献】
特表2016−540721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のモル%での組成:
【化1】
を有する
、低脆性の
、ガラスキャリアウェハー用低CTEボロアルミノシリケートガラスであって、特にウェハーレベルパッケージング(WLP)用途での使用に向けた
、前記低CTEボロアルミノシリケートガラスにおいて、
多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数(NBO)は、−0.2以上であり、比B
2O
3/Al
2O
3は、0.5以上であり、ここで、前記NBOは、NBO=2×O
mol/(Si
mol+Al
mol+B
mol)−4と定義される、
前記低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項2】
無アルカリガラスであり、以下のモル%での組成:
【化2】
を有する、請求項1記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項3】
前記多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数(NBO)は、−0.18以上であり、好ましくは−0.16以上であり、かつ/または前記比B2O3/Al2O3は、0.8以上であり、好ましくは1.0以上である、請求項1又は2に記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項4】
前記多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数(NBO)は、−0.1以下であり、かつ前記比B2O3/Al2O3は、10以下である、請求項1から3までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項5】
脆性指数HV/KICは、12μm−1/2以下であり、好ましくは10μm−1/2以下であり、さらに好ましくは8μm−1/2以下であり、ここで、HVはビッカース硬さを指し、KICは、前記ボロアルミノシリケートガラスの破壊靭性を指す、請求項1から4までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項6】
Li2Oを実質的に含有しない、請求項1から5までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項7】
前記熱膨張係数(CTE)は、2.0ppm/K〜4.0ppm/Kの範囲にあり、好ましくは2.6ppm/K〜3.8ppm/Kの範囲にある、請求項1から6までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項8】
550℃超、好ましくは650℃超、さらに好ましくは700℃超の転移温度Tgを有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラス製のガラスキャリアウェハー。
【請求項10】
1.2mm以下、好ましくは0.7mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.35mm以下の厚さを有する、請求項9に記載のガラスキャリアウェハー。
【請求項11】
前記ガラスキャリアウェハーのダイシング後の最大エッジチッピングサイズは、30μm以下であり、好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である、請求項9又は10に記載のガラスキャリアウェハー。
【請求項12】
請求項9から11までのいずれか1項記載のガラスキャリアウェハーと、該ガラスキャリアウェハーに特に接着層によって接合されたシリコン基板とを含む、接合物品。
【請求項13】
請求項9から12までのいずれか1項記載のガラスキャリアウェハーの、ウェハーレベルパッケージング(WLP)用途での、シリコン基板を処理するためのキャリアウェハーとしての使用。
【請求項14】
前記シリコン基板は、特に接着層により前記ガラスキャリアウェハーに接着している、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記シリコン基板の処理は、該シリコン基板を前記ガラスキャリアウェハーに接着した状態のまま該ガラスキャリアウェハー面からダイシングすることを含む、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
前記シリコン基板をダイシングする前に、該シリコン基板にダイシングフィルム、特にダイシングテープを貼付する、請求項13から15までのいずれか1項記載の使用。
【請求項17】
請求項1から8までのいずれか1項記載の低CTEボロアルミノシリケートガラスを提供する方法において、該方法は、低い脆性指数HV/KICとして12μm−1/2未満の脆性指数HV/KICを達成するために、所与の低CTEボロアルミノシリケートガラスの組成のNBO数を調節し、かつB2O3/Al2O3の比を調節することによって前記組成を変更することを含み、ここで、前記NBO数は、NBO=2×Omol/(Simol+Almol+Bmol)−4と定義される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ガラスキャリアウェハーとして使用するための低脆性の低CTEボロアルミノシリケートガラスに関する。本発明はまた、該低CTEボロアルミノシリケートガラス製のガラスキャリアウェハー、およびシリコン基板を処理するためのガラスキャリアウェハーとしてのその使用に関する。本発明はさらに、低CTEボロアルミノシリケートガラスを提供する方法に関する。
【0002】
発明の背景
例えば半導体チップや半導体ダイといった固体電子デバイスは、典型的には、例えばシリコン、ゲルマニウムまたはガリウム/ヒ化物といった半導体材料から作製される。こうしたデバイスの1つの表面上に、例えば周辺部の周りに形成された入出力パッドを伴って回路が形成される。
【0003】
多数の小型電子消費者製品には、例えばノートブック、スマートフォン、デジタルカメラ、モデム、グローバル・ポジショニング・システムおよび電子時計が挙げられる。消費者による小型の製品サイズやロープロファイル製品への需要の急速な高まりが、より効率的に高歩留まりで製造することができる、より小型で、より薄型で、より高出力の半導体デバイスを構築する方法の探索の推進力となっている。したがって、多数の小型電子機器をこれから普及させ得るには、安価で超薄型のコンパクトなデバイスの開発が必要である。
【0004】
例えば、ウェハーをスライシング加工により個々の回路(ダイ)にしてからそれらをパッケージングする従来の方法とは対照的に、例えば集積回路をウェハーの一部の状態のまま気密パッケージングする技術として、ウェハーレベルパッケージング(wafer−level−packaging:WLP)が広く適用されている。得られるパッケージは、実質的にダイと同じサイズである。行われる作製プロセスを、最初から顧客への出荷まで1つのシリコンデバイスによって能率化することを目的として、WLPによって、ウェハーの作製、パッケージング、試験およびバーンインをウェハーレベルで統合することが可能となる。WLPが、最終的な作製コストや得られるデバイスの寸法に関する主要な構成要素であり得ることは、容易に認識される。
【0005】
例えばシリコン基板のシンニング加工やバックグラインド加工のためのキャリアウェハーとして、半導体産業では、再使用可能なガラスキャリアウェハーが広く適用されている。こうしたガラスは、例えば処理時にガラスキャリアウェハーとシリコン基板との間で熱膨張性の均衡が崩れることに起因して生じるクラックや反りを防止することを目的として、例えばシリコン材料などの半導体基板材料の熱膨張係数(CTE)に十分近いCTEを有することが望ましい。例えば米国特許第5,599,753号明細書(US 5,599,753 A、Jenaer Glaswerk GmbH)および米国特許第5,610,108号明細書(US 5,610,108 A、Schott Glaswerke)に記載されたガラスは、4〜6ppm/Kの熱膨張係数(CTE)を有し、したがってCTEの不一致ゆえ、シリコン基板用のガラスキャリアウェハーとしては適さない。例えば米国特許第5,547,904号明細書(US 5,547,904 A、Schott AG)に提案されている他のホウケイ酸ガラスはLi
2Oを含有しており、これは、シリコン基板がリチウムイオンによって汚染される可能性があることから、半導体産業では好ましくない。
【0006】
このようなガラスキャリアウェハーの用途とは異なり、WLP用途や、それ以外のガラスの切断が必要とされる用途に向けたガラスには、良好なダイシング性能を示すことも求められる。シリコンと類似した低いCTEを有する無アルカリアルミノシリケートガラスは、他の点ではガラスキャリアウェハーとして適してはいるものの、切断性能やダイシング性能の点では不十分である場合が多い。したがって、単に半導体キャリアウェハー用途に適しているだけではなく、例えば高いダイシング歩留まりを保証する高いダイシング性能や高い切断性能をも示すガラスを提供することが、当技術分野で求められている。
【0007】
発明の説明
したがって本発明の一目的は、従来技術の欠点を克服するガラスを提供することである。特に本発明の一目的は、低いCTE、特にシリコンのCTEに近いCTEを有するガラスと、ダイシング性能または切断性能が良好な該ガラス製のガラスウェハーとを提供することである。本発明のもう1つの目的は、半導体産業での使用に適し、特にWLP用途やMEMS用途に適したガラスおよび該ガラス製のガラスキャリアウェハーを提供することである。本発明のもう1つの目的は、コスト効率の高い半導体デバイス製造を可能にする、半導体産業での使用に向けたガラスまたは該ガラス製のガラスウェハーを提供することである。本発明のもう1つの目的は、ダイシング歩留まりの高い、特にWLP用途やMEMS用途での使用に向けたガラスおよびガラスウェハーを提供することである。
【0008】
本目的は、独立請求項に記載の低CTEガラス、ガラスキャリアウェハー、使用および方法によって解決される。各態様の好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。本明細書による「低CTEガラス」とは、総じて、4.0ppm/K以下のCTEを有するガラスをいう。
【0009】
本発明は、ガラス組成物の硬度を低くして破壊靭性を高くすることが、(エッジチッピング特性によって評価した場合の)ガラスウェハーのダイシング品質やダイシング性能の重要なファクターであるという洞察に基づいている。本発明は、所与のボロアルミノシリケートガラス組成物の「網目修飾体」と「網目形成体」との比と、「酸化アルミニウム」に対する「酸化ホウ素」の比とを同時に調節することによって所望の特性を得ることができるという驚くべき洞察に基づいている。
【0010】
したがって本発明は、以下のモル%での組成:
【化1】
を有する低脆性の低CTEボロアルミノシリケートガラスであって、特にウェハーレベルパッケージング(WLP)用途での使用に向けた低CTEボロアルミノシリケートガラスにおいて、
多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数(NBO)は、−0.2以上であり、比B
2O
3/Al
2O
3は、0.5以上であり、ここで、前記NBOは、NBO=2×O
mol/(Si
mol+Al
mol+B
mol)−4と定義される低CTEボロアルミノシリケートガラスに関する。
【0011】
平均数であるNBOおよび/またはB
2O
3/Al
2O
3の比が特定の値を上回る増加を示すと、脆性の点での限定的なさらなる向上しか得られず、したがって、得られるダイシング性能の顕著な向上はもはや得られないものと考えられる。さらに、NBO数および/またはB
2O
3/Al
2O
3比が高すぎるとCTEの不一致性が高まることから、例えばWLP用途におけるシリコンとの接合に適さないガラスとなる可能性がある。必要とされる大半の用途については、平均数であるNBOが好ましくは−0.1以下であり、かつB
2O
3/Al
2O
3の比が好ましくは10以下であれば、ダイシング性能に関して有利な特性を示すと同時に、CTEがシリコンと十分に一致しているため処理時のシリコンとの接合が可能であるガラス組成物が得られることが判明した。しかし、特定の用途に応じて、例えばCTEをシリコンと一致させる必要がない場合には、NBOおよびB
2O
3/Al
2O
3の値がこれらの上限を上回っていても、有利なガラス組成物を提供できるものと理解されるべきである。
【0012】
ガラスの構造を考慮する際には、NBO(Non−Bridging Oxygen、非架橋酸素)という概念が広く用いられている。NBOは、特定の化学組成に起因するガラスの網目構造を表すパラメーターであるとみなすことができる。驚くべきことに、本明細書に記載の低CTEガラスのNBOによって示される網目構造が、H
V/K
ICとして表される脆性指数に、そしてひいてはガラスのダイシング性能に、有利に影響し得ることが判明した。
【0013】
ガラスの網目構造は、以下に定義される4つのパラメーターX、Y、ZおよびRにより特徴付けることができる:
X=多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数、すなわちNBO;
Y=多面体1つあたりの架橋酸素の平均数;
Z=多面体1つあたりの全酸素平均数;および
R=酸素の総数と網目形成体の総数との比。
【0014】
Rは、低CTEガラスのモル組成から導出可能である。これら4つのパラメーターX、Y、ZおよびRは、以下の式にしたがって算出可能である:
R=O
mol/(Si
mol+Al
mol+B
mol) (1)
Y=2Z−2R (2)
X=2R−Z (3)
シリケートの場合:
Z=4 (4)。
【0015】
式(1)、(3)および(4)から、
X=2×O
mol/(Si
mol+Al
mol+B
mol)−4 (5)
と結論付けることができる。
【0016】
しかしNBOの影響を考慮しただけでは、NBO値が比較的高い場合には、ガラスの硬度が低くなり、破壊靭性が高くなる可能性がある。したがって、これと同時に比B
2O
3/Al
2O
3を比較的高い値に調節することで、ガラス網目の修飾に対するホウ素の影響によりガラスの耐引掻性を高め得ることが、本発明の洞察の1つである。NBOとB
2O
3/Al
2O
3の双方を同時に、本発明により与えられる限度にしたがって調節することによって、ガラスの良好なダイシング性能を達成できることが判明した。
【0017】
好ましい一実施形態において、多面体1つあたりの非架橋酸素の平均数は、−0.18以上であり、好ましくは−0.16以上であり、かつ/または比B
2O
3/Al
2O
3は、0.8以上であり、好ましくは1.0以上である。
【0018】
好ましくは、ガラスは無アルカリガラスであり、以下のモル%での組成:
【化2】
を有する。
【0019】
本明細書による「無アルカリ」とは、アルカリ含有量が0.01モル%未満であることを意味する。
【0020】
もう1つの好ましい実施形態において、ガラスはアルカリ含有ガラスであってもよく、以下のモル%での組成:
【化3】
を有する。
【0021】
好ましい一実施形態において、本発明による低CTEボロアルミノシリケートガラスは、12μm
−1/2以下、好ましくは10μm
−1/2以下、さらに好ましくは8μm
−1/2以下の脆性指数H
V/K
ICを有する。ここで、H
Vとはビッカース硬さを指し、K
ICとはガラスの破壊靭性を指す。この場合の破壊靭性K
ICとは、ガラス中のわずかなクラックが成長し始める臨界応力拡大係数を表す。
【0022】
ビッカース硬さH
V(MPa)は、ガラスウェハーの表面に角錐圧子を用いて0.2kgfの力を印加し、H
V=1.8×P/a
2によりH
Vを算出することによって求められ、ここで、Pは、圧子での試験荷重(MPa)であり、aは、圧痕の対角線の半分の長さ(μm)を表す。次いで、破壊靭性(単位:MPa・m
1/2)を、以下の式:K
IC=0.16×(c/a)
−3/2(H
V・a
1/2)により算出し、ここで、aは、圧痕の対角線の半分の長さ(μm)であり、cは、圧痕によって生成されたクラックの半分の長さ(μm)である。相応して、この硬さをこの破壊靭性で除すことにより、脆性を求めることができる。
【0023】
本発明による低CTEガラスを半導体産業において使用する場合、リチウムイオンによるシリコン基板の汚染を防止するためには、該低CTEガラスがLi
2Oを実質的に含有しないことが好ましい。本明細書による「実質的に含有しない」とは、含有量が0.01モル%未満であることを意味する。
【0024】
もう1つの好ましい実施形態において、低CTEボロアルミノシリケートガラスは、2.0ppm/K以上4.0ppm/K以下の熱膨張係数(CTE)を有する。好ましくは、該ガラスのCTEは、2.6ppm/K〜3.8ppm/Kの範囲にある。総じて、該ガラスのCTEは、該低CTEボロアルミノシリケートガラス製のガラスキャリアウェハーと該ガラスキャリアウェハーに接合されたシリコン基板との間のCTEの不一致に起因して生じうる反りやクラックを防止するために、シリコン基板のCTEに近いことが好ましい。
【0025】
好ましい一実施形態において、低CTEボロアルミノシリケートガラスは、550℃超、好ましくは650℃超、さらに好ましくは700℃超の転移温度T
gを有する。
【0026】
本発明のもう1つの態様において、本発明の低CTEボロアルミノシリケートガラスは、ガラスウェハーとして提供される。このガラスウェハーは好ましくは、0.05mm〜1.2mmの範囲内の厚さを有し、好ましくは0.1mm〜0.7mmの範囲内の厚さを有する。より全般的には、このガラスウェハーは好ましくは、1.2mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、0.35mm以下、0.1mm以下または0.05mm以下の厚さを有する。好ましく選択される厚さは、100μm、200μm、250μm、400μm、500μm、550μm、700μmまたは1000μmである。このガラスウェハーの表面寸法は好ましくは、約15cm、約20cmもしくは約30cmであるか、または特定の要求にしたがって、好ましくは約6インチ、約8インチもしくは約12インチである。このガラスウェハーの形状は、矩形であっても円形であってもよく、また楕円形であってもよい。特定の用途に必要な場合は、これ以外の形状や寸法を適用することもできる。
【0027】
好ましい一実施形態において、ガラスキャリアウェハーは、ダイシング後に、30μm以下の、好ましくは20μm以下の、さらに好ましくは10μm以下の、最大エッジチッピングサイズを有する。多くの用途では、最大エッジチッピングサイズが30μmであれば十分であり得る。しかし、ダイシング後にチッピングが生じずに利用することのできる有効面積をさらに増加させること、そしてひいては最大エッジチッピングサイズをさらに減少させることが、総じて好ましい。
【0028】
ダイシングは好ましくは、樹脂ブレード、ダイヤモンド粒子ブレードまたは複合ブレードでの切断によって達成される。この場合のブレードは好ましくは、例えば56mmの直径、0.15mmの厚さ、5mm/sの送り速度および20krpmの回転速度を有する。しかし、これ以外のブレードおよび/またはプロセスパラメーターを選択した場合にも、本発明によるガラスは有利な特性を示すものと理解されるべきである。最大エッジチッピングサイズに関する上記の値は、当業者がルーチン作業により決定することのできる最適化されたダイシングパラメーターによって得ることのできる値であると理解される。
【0029】
本発明はさらに、かかるガラスキャリアウェハーと、該ガラスキャリアウェハーに特に接着剤によって接合されたシリコン基板とを含む接合物品に関する。用途に剥離が必要である場合には、この接着剤は例えばUV感受性であることができ、UV放射線の照射によってこれを失活させることができる。このことは、例えばシリコン基板のシンニング加工および/またはバックグラインド加工時のシリコン基板の処理方法にこのガラスキャリアウェハーが使用される場合に有利であり得る。所与のガラス組成物のNBOを調節することは、かかるガラスキャリアウェハーの透過率や耐ソラリゼーション性の点でも有利であり得ることが明らかになっている(例えばPCT/CN2015/071159参照)。
【0030】
しかし、本発明による低CTEボロアルミノシリケートガラスおよび該低CTEボロアルミノシリケートガラス製のガラスキャリアウェハーは、好ましくはウェハーレベルパッケージング(WLP)用途での、およびまたは特にマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)のシリコン基板を処理するためのガラスキャリアウェハーとして使用されることが好ましい。WLPとは、ウェハーを個々の回路(ダイ)に切断してからそれらをパッケージングする従来の方法とは対照的に、例えば集積回路をウェハーの一部の状態のままパッケージングする技術をいう。MEMSとは、電気的素子および機械的素子を含む小型集積デバイスまたは小型集積システムをいう。これらの素子のサイズは、サブマイクロメートルからミリメートルレベルまでの範囲にある場合もあり、特定のシステムにおいては1からわずかな数までの、場合によっては数千または数百万までの、いずれかの数である場合もある。WLPプロセスは、MEMSの製造において特に有利である。
【0031】
ガラスキャリアウェハーの好ましい使用において、該ガラスキャリアウェハーに接合されたシリコン基板の処理は、該シリコン基板を該ガラスウェハーに接着した状態のまま該ガラスキャリアウェハー面からダイシングすることを含む。この場合、第1の切断は、シリコン基板を切断せずにガラスウェハー面からガラスウェハーを通って例えば接着層へと行うことができる。次いで、第2の切断を、好ましくはより薄い切断ブレードを用いて第1の切断の溝において行うことができ、これにより、シリコン基板を、切断されたガラスキャリアウェハーになおも接着した状態のままダイへと分離させる。好ましくは、ダイシング前に、例えば第2の切断を行う前に、シリコン基板にダイシングフィルム、特にダイシングテープを貼付する。このダイシングフィルムは総じて、第2の切断の間にそのまま残される。
【0032】
上記のダイシングを単一の切断ステップで達成することもできる複合切断ブレードを利用してもよいことに留意されたい。例えばダイシング歩留まりやブレード寿命の制御に関していくつかの問題があるため、当技術分野では、2つの切断ステップを有する上述のダイシング方法が依然として好ましい。異なる材料に対して別々の切断ブレードを使用することによって、例えばプロセスパラメーターやブレード条件をより良好に制御することができるとともに、これらを、切断すべきそれぞれの材料に適合させることができる。
【0033】
本低CTEボロアルミノシリケートガラスは、本発明のもう1つの態様において、少なくともSiO
2、Al
2O
3およびB
2O
3を含有する低脆性の低CTEボロアルミノシリケートガラスを提供する方法であって、特に本明細書に記載の低CTEボロアルミノシリケートガラスを提供する方法において、該方法は、低い脆性指数H
V/K
IC、特に12μm
−1/2未満の脆性指数H
V/K
ICを達成するために、所与の低CTEボロアルミノシリケートガラスの組成のNBO数を調節し、かつB
2O
3/Al
2O
3の比を調節することによって前記組成を変更することを含み、ここで、前記NBO数は、NBO=2×O
mol/(Si
mol+Al
mol+B
mol)−4と定義される方法が提供されることを示す。好ましくは、この方法は、NBO数が下限を上回るように調節することを含み、この下限は、好ましくは−0.2である。さらに好ましくは、この方法は、B
2O
3/Al
2O
3比が下限を上回るように調節することを含み、特にB
2O
3/Al
2O
3比が0.5の下限を上回るように調節することを含む。
【0034】
本発明の目的、特徴および利点を、以下に記載される実施例および実施形態により付属の図面を参照してより詳細に説明する。本発明の説明に用いる例示的な図を、以下に概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1に、ウェハーレベルパッケージング(WLP)用途における例示的なダイシングプロセスを断面図で示す。
【
図2】
図2に、切断後にエッジチッピングを示すガラスウェハーの切断エッジの概略図を示す。
【
図3】
図3に、いくつかの例示的なガラス組成物についてのNBO対脆性のグラフを示す。
【
図4】
図4に、いくつかの例示的なガラス組成物についてのNBO対最大エッジチッピングサイズのグラフを示す。
【
図5】
図5に、いくつかの例示的なガラス組成物についての比B
2O
3/Al
2O
3対脆性のグラフを示す。
【
図6】
図6に、いくつかの例示的なガラス組成物についての比B
2O
3/Al
2O
3対最大エッジチッピングサイズのグラフを示す。
【
図7】
図7に、−0.162のNBOを有する本発明によるガラス試料の切断エッジの拡大図を示す。
【
図8】
図8に、−0.140のNBOを有する本発明によるガラス試料の切断エッジの拡大図を示す。
【
図9】
図9に、−0.129のNBOを有する本発明によるガラス試料の切断エッジの拡大図を示す。
【0036】
これらの図における寸法およびアスペクト比は正確な縮尺ではなく、より良好に視覚化するために部分的にサイズを大きくしてある。これらの図面における対応する要素は、総じて同一の参照番号により参照される。
【0037】
図面および例の詳細な説明
図1に、ウェハーレベルパッケージング(WLP)用途における例示的なダイシングプロセスを示す。シリコン基板2は、接着層3を介してガラスウェハー1に接着されている。ガラスウェハー1は、厚さtを有する。第1の切断ステップでは、第1の幅w
1を有する第1のブレード4でガラスウェハー1を切断する。この場合の切断は、接着層3には延びているが、シリコン基板2には延びていない。この切断は、回転ブレード4により達成される。
【0038】
第1のブレード4による切断が確立されてから、第2のブレード5による第2の切断を行う。この第2のブレード5は、第1のブレード4の幅w
1より小さい第2の幅w
2を有する。この第2の切断を、第1の切断ステップで生じた切断溝の内部で行う。この第2の切断ブレード5の幅w
2の方が小さいため、この第2の切断ステップを、ガラスウェハー1に影響を与えずに行うことができる。この第2の切断は、シリコン基板2を通って延び、好ましくはダイシングテープ6へと延びる。このダイシングテープ6は、今や完全に分離されたダイがばらばらになるのを防ぐ。このダイシングテープ6は、第2の切断ステップの前、第1の切断ステップの前または第1の切断ステップの後に貼付される。
【0039】
切断後、ガラスウェハー1は、
図2に図示されるように新たな切断エッジ10を有する。この切断エッジ10は通常は、第1の切断プロセスの結果としてある程度のエッジチッピング11を示す。このようなエッジチッピング11によって例えば伝播クラックが生じる可能性があり、こうしたクラックによって、切断やさらなる処理の間に最終的にはガラスウェハー1の破損が生じる。さらにエッジチッピング11によって、ダイシング後に有効に利用することのできる領域Aが減少する。したがって、エッジチッピング11を低減することによって、ダイシング歩留まりを高めることができる。総じて、特徴的な最大エッジチッピングサイズCを特定することができ、これは例えば、使用する切断ブレードや他の切断パラメーター、例えばブレードの送り速度や回転速度に依存する。しかし所与の切断パラメーターセットについて、ガラスウェハー1に特定のガラス材料を使用することによって、最大エッジチッピングサイズCを低減することができる。
【0040】
したがって本発明によるガラス製のガラスウェハー1によって、エッジチッピングの傾向が低くなり、したがって以下の例から分かるように高いダイシング歩留まりが可能となる。
【0041】
例
以下の表1に、本発明による11個の例示的なガラス組成を示す。例12〜14に、本発明の範囲に包含されない例示的な比較ガラスを示す。例1〜5および7〜11には無アルカリガラスの組成を示し、例6にはアルカリ含有ガラスを記載する。
【0042】
【表1】
表1:本発明による例1〜11および比較例12〜14の組成物
【0043】
以下の表2に、表1による例1〜11および比較例12〜14のガラス組成の選択された関連パラメーターを列挙する。
【0044】
【表2】
表2:本発明によるガラス例1〜11および比較例12〜14の構造パラメーター、特性および性能
【0045】
本発明によるこれらの例1〜11は、(丸められた)−0.2から−0.12までのNBO数の範囲にわたっている。この場合のB
2O
3/Al
2O
3の比は、(丸められた)0.6から約1.6までの範囲にある。ガラス転移温度は、(丸められた)560℃から715℃までの範囲にある。表2から分かるように、すべてのガラス試料1〜11のビッカース硬さH
Vは、(丸められた)5255MPaから5725MPaまでの範囲にあり、破壊靭性K
ICは、0.45MPa・m
1/2から0.88MPa・m
1/2までの範囲にある。得られる脆性はH
V/K
ICとして定義され、これは6.5μm
−1/2から11.9μm
−1/2までの範囲にある。
【0046】
比較例12〜14は、−0.2未満のNBO数および0.5未満の比B
2O
3/Al
2O
3を有する。
【0047】
表2にはまた、ガラス試料の切断時に得られたチッピング性能を右端の欄に示す。
図2に図示されるように、ここでの「チッピングサイズ」とは、最大チッピングサイズCを指す。試料を、直径56mm、幅w
1 0.15mmのソフト600メッシュダイシングブレードで、送り速度5mm/s、回転速度20krpmで切断した。チッピング性能は、これらのダイシングパラメーターにはそれほど依存しないことが判明し、当技術分野で例えばWLP用途で通常適用される範囲のダイシングパラメーターの場合と同等の結果が認められた。
【0048】
ガラス試料の厚さtは、例1〜14のすべてのガラス組成物について0.5mmであった。−0.2以上の値であるいずれのNBO数についても、得られる最大エッジチッピングサイズは30μm以下であるのに対して、比較例12〜14の最大エッジチッピングサイズは30μmを上回ることが明らかに見て取れる。
【0049】
図3に、NBO数に対する脆性H
V/K
ICの値を示し、一方で
図4に、チッピングサイズについての相応する値を示す。
図5および
図6に、B
2O
3/Al
2O
3の比に対する相応するグラフを示す。いずれのプロットからも、関連するパラメーターであるNBOおよびB
2O
3/Al
2O
3に応じて脆性およびチッピングサイズが減少する傾向にあることが明らかに示されており、−0.2のNBO値および0.5の比B
2O
3/Al
2O
3で、脆性指数H
V/K
ICが12μm
−1/2(破線)を上回る値からこれを下回る値へと移行し、最大チッピングサイズが30μm(破線)を上回る値からこれを下回る値へと移行する。
【0050】
図7〜9に、表1による例7、9および10の選択された試料の切断ブレードの拡大図を示す。
図7に、NBOが−0.162である例7によるガラスの試料を示す。この図から分かるように、最大エッジチッピングサイズは14.42μmであり、これは、表2では14μmに丸められている。同様に
図8には、表1の例9によるガラスの試料を示す。これは、NBOが−0.140であり、得られた最大エッジチッピングサイズが12.25μmである。
図9に、例10によるガラスの試料を示す。これは、NBOが−0.129であり、最大エッジチッピングサイズが9.48μmである。これに対応する表2の最大エッジチッピングサイズの値は、それぞれ最も近い整数に丸めたものである。