(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の振動モードからなる制御対象の総ゲインを各振動モードのゲインとしたときの各々の伝達関数の逆関数を用いて各振動モードの内フィードバックループ中のフィルタを構成している請求項4に記載の共振抑制制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような2自由度制御系の場合は、制御対象の同定誤差がより大きく効いてくる。
【0007】
例えば、フィードフォワード制御に利用される制御対象に関し、それが
図9に示す3質点系であった場合、入出力特性は次の式で表わされる。
【0008】
【数1】
【0009】
つぎに実験結果からパラメータを求めるシステム同定の概要について説明する。入出力の周波数特性を測定した結果が
図10の測定値の線であったとする。システム同定とは、システムPの実際の周波数特性から、同システムPを推定した数式P^を求める作業のことである。この数式P^による周波数特性が
図10の推定値の線である。
図11に拡大図を示すが、P≒P^であり誤差を有するものの、システム同定としては十分な同定結果を示している。
【0010】
しかしながら、かかる同定誤差は、
図8に示したフィードフォワード制御の一つである2自由度制御系に適用したときに問題となる。2自由度制御系を用いた制御システム全体の入出力y/rの周波数特性を
図12に、その拡大したグラフを
図13に示す。2自由度制御系において、P=P^のとき即ち測定値と推定値が一致したときの入出力特性を示す線と、PとP^に誤差があるときの入出力特性を示す線とを比較すると、周波数特性に誤差がある範囲でゲインの落ち込みを確認できる。つまり、システム同定の誤差に起因して、制御システム全体の周波数特性が目標の周波数特性からより大きく上下することが解析より明らかとなった。
【0011】
本発明は、以上のような課題に着目し、2以上の共振モードを有する制御対象のシステム同定に誤差があっても、2自由度制御の制御システム全体の入出力特性に大きな影響がでないようにした、新たなモデル化誤差抑制対策を施した制御システムを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0013】
すなわち、本発明の制御システムは、2以上の振動モードを有する制御対象の出力を負帰還させるフィードバックループと、前記制御対象をモデル化した際の入出力特性の逆特性を一部に有するフィードフォワード制御部とを備え、これらフィードバックループ及びフィードフォワード制御部を通じて前記制御対象への入力を生成する2自由度制御系の制御システムにおいて、前記制御対象の出力側と入力側を内フィードバックループで接続し、この内フィードバックループ中に、前記制御対象の一部の振動モードを抽出する
とともに他の振動モードを除去するフィルタと、当該
抽出した振動モード
のみに係る減衰比を調整する減衰比調整部とを設けることにより共振抑制制御装置を構成して、この共振抑制制御装置を含んだ新たな制御対象をモデル化した際の入出力特性の逆特性を前記フィードフォワード制御部の逆特性としたことを特徴とする。
【0014】
前述のように、制御対象をモデル化した際の誤差は、フィードフォワード制御にも影響するため、制御システム全体の入出力特性が目標の周波数特性から上下により大きくずれる。その原因は、二次遅れ系の減衰比が低い値のときほどモデル化誤差に起因してシステム全体の入出力特性のゲイン変動が大きくなることにある。
【0015】
一方、前記制御対象に対しフィルタ及び減衰比調整部を有する内フィードバックループを形成して共振抑制制御装置を構成し、減衰比を大きくすると、ゲイン変動が抑えられるため、モデル化誤差があってもシステム全体の入出力特性に及ぼす影響を低減することができる。
【0016】
具体的な適用対象としては、制御システムが、入力から目標応答特性に基づいて目標値を生成する前置補償器と、この前置補償器の目標値と制御対象の
前記出力
側から前記フィードバックループを介して負帰還させた出力値との差分に基づいてフィードバック指令を生成するフィードバック制御部とを備え、前記フィードフォワード制御部が制御対象をモデル化した際の逆特性と前置補償器の目標応答特性とに基づいてフィードフォワード指令を生成し、このフィードフォワード指令を前記フィードバック指令に加算して制御対象への指令となしているものが好適である。
【0017】
簡単な手法によって、抽出する振動モード以外の振動モードを的確に取り除くためには、前記フィルタが、抽出する振動モード以外の振動モードに係る伝達関数の逆関数を用いて構成されていることが望ましい。
【0018】
複数の振動モードに対して、各々適切な共振抑制制御を行うためには、前記入力
側と前記出力
側の間に、抽出する振動モードごとに前記内フィードバックループを並列的に設けていることが有効となる。
【0019】
この場合、個々の振動モードのゲインが不明な場合には、複数の振動モードの総ゲインを各振動モードのゲインとしたときの逆関数を用いて各振動モードの内フィードバックループ中のフィルタを構成することが好適である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した本発明によれば、2以上の共振モードを有する制御対象のシステム同定に誤差があっても、2自由度制御の制御システム全体の入出力特性に大きな影響がでないようにした、新たなモデル化誤差抑制対策を施した制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は
図8と同様、2自由度制御系のシステム構成である。制御対象1は、例えば電動機によって駆動される機械装置である。この制御対象1の出力y(例えば機械系の検出位置)はフィードバックループ6を介して負帰還される。このフィードバック値と、前置補償器2が入力r(例えば位置指令)に基づいて生成する応答目標値との差分がフィードバック制御部3を介してフィードバック指令とされる。また、入力r(位置指令)からは、フィードフォワード制御部4を通じて制御系全体の目標特性が生成され、このフィードフォワード指令と前記フィードバック指令とが加算器aで加算されて制御対象1への指令となる。
【0024】
制御対象1の伝達関数をP、そのモデルの伝達関数をP^、前置補償器2の目標特性をFとすると、フィードフォワード制御器4の伝達関数は、F/P^で与えられる。フィードバック制御部3の伝達関数はKである。
【0025】
このような構成において、本実施形態はさらに、前記制御対象1に共振抑制制御装置Bを組み込んでいる。
【0026】
この共振抑制制御装置Bは、前記制御対象1の出力側と入力側を内フィードバックループ5で接続し、その内フィードバックループ5中に、前記制御対象1の一部の振動モードを抽出するフィルタ52と、当該振動モードの減衰比を調整する減衰比調整部51とを設けることにより構成されている。そして、この共振抑制制御装置Bによって
図8の制御対象1(入出力特性P)は
図1の制御対象1d(入出力特性Pd)となる。また、2自由度制御系に用いる
図8の制御対象1の推定モデル入出力特性P^に対して、共振抑制制御装置Bを適用した
図1の制御対象1dの推定モデル入出力特性をP
d^とする。
【0027】
このような制御対象1dとすることで、共振抑制制御装置Bを用いないときの
図8のモデル化誤差と、共振抑制制御装置Bを用いたときの
図1のモデル化誤差は、
【数2】
とすることができる。これは減衰比ζをモデル化誤差が表れにくい領域に変更することにより可能となるものであり、以下に具体的に説明する。
【0028】
先ず、
図2に減衰比ζの違いによる二次遅れ標準形の周波数特性の違いを示す。
図2(a)のようにζが0.05〜0.15と低い値のとき、ζが微小に変動すると周波数特性の変動は大きく表れる。かたや、
図2(b)のようにζが0.65〜0.75と大きい値になると、ζが微小に変動しても周波数特性はほとんど変動しない。
【0029】
これを、
図8の制御対象1と
図1の制御対象1dを比較しつつ説明する。先ず制御対象1、1dの入出力特性P、Pdに関して、
【数3】
とし、また、制御対象1、1dの推定モデル入出力特性P^、Pd^に関して、
【数4】
とする。
【0030】
そして、ω=250としたときのゲインを表1に示す。因みに、減衰比はζ=0.08(真値)に対してζ^=0.1(推定値)の誤差があり、共振抑制制御装置Bを組み込んだ状態での減衰比の計算は、ζ=0.7175(真値)に対してζ^=0.725(推定値)の誤差がある。
【0031】
これによる実際の入出力特性P、P^、Pd、Pd^の計算結果を表1に示す。
【表1】
【0034】
|Pd−Pd^|=0.27dB
となって、(2)式が成立していることがわかる。このように、減衰比(減衰係数)が大きくなることで、入出力特性はモデル化誤差(減衰比ζの誤差)の影響を受け難くなることがわかる。
【0035】
次に、3質点系に適用する場合の振動抑制制御装置Bの具体的な構成例を示す。
<実施例1>
【0036】
1次、2次の振動モードの各々についてゲインK
1、K
2を求めることができる場合、両振動モードの共振を抑える共振抑制制御装置Bのブロック線図を
図3に示す。図示の内フィードバックループ5x、5yはそれぞれ微分フィードバック系であり、各ループ5x、5yにおける減衰比調整部51は微分要素sと微分係数K
D1(K
D2)によって構成され、一部の振動モードを抽出するフィルタ52(F
d1、F
d2)を各内フィードバックループ5x、5yにそれぞれ設けている。但し、
【0037】
【数5】
である。この場合、F
d1は単純なP
2の逆関数であるが、F
d2については逆関数P
1の振動抑制を適用した後の伝達関数を考慮して設計しているため、単純なP
1の逆関数ではないが、P
1の逆関数を用いていることに変わりはない。
【0040】
これにより、それぞれの振動モードに対して、K
D1やK
D2によって減衰比を調整することができる。
【0041】
このような調整を行った制御対象PまたはPdの周波数特性を
図4に示す。本実施形態適用なしとは
図8の構成を指し、本実施形態(誤差なし)とは共振抑制制御装置Bを用いた
図1の構成において共振抑制の制御設計時に理想的であるPdを用いたもの(つまりモデル化誤差がなくPd=Pd^の場合)、本実施形態(誤差あり)とは共振抑制制御装置Bを用いた
図1の構成において共振抑制の制御設計時にP^を用いたもの(つまりモデル化誤差を含みPd≒Pd^の場合)である。
図4に見られるように、本実施形態適用なしに比べて、本実施形態を適用した場合は周波数特性が改善し、モデル化誤差の有無に拘らずほぼ周波数特性が一致している。この部分拡大図である
図5を見ても明らかである。
【0042】
共振抑制制御Bを用いることで、誤差ありと誤差なしの線が
図10、
図11に比べて一致しており、(2)式が奏効していることを確認できる。さらに、2自由度制御系を適用したシステム全体の入出力周波数特性(y/r)を
図6に、その拡大図を
図7に示す。ここでも、本実施形態適用なしとは
図8の構成を指し、本実施形態(誤差なし)とは共振抑制制御装置Bを用いた
図1の構成において共振抑制の制御設計時に理想的であるPdを用いたもの(つまりモデル化誤差がない場合のPd)、本実施形態(誤差あり)とは共振抑制制御装置Bを用いた
図1の構成において共振抑制の制御設計時に理想的であるPdを用いたもの(つまりモデル化誤差がなくPd=Pd^の場合)、本実施形態(誤差あり)とは共振抑制制御装置Bを用いた
図1の構成において共振抑制の制御設計時にP^を用いたもの(つまりモデル化誤差を含みPd≒Pd^の場合)である。従来の2自由度制御系の入出力特性を示した
図12、
図13よりも周波数特性の変動を抑えられている。
<実施例2>
【0043】
次に、2次の振動モードの共振を抑える共振抑制制御装置Bを構築するにあたり、各振動モードのゲインK
1、K
2を求めることができない場合について説明する。
【0044】
先に示した数式(5a)〜(5e)、(6)は各振動モードのゲインを個別に求めることができる前提である。しかし、実験機の周波数特性から各振動モードのゲインを個別に切り分けて求めることが難しい場合がある。そこでPをP=KP
1P
2と考える。Kは先で示すところのK=K
1K
2で、まとめて求められるゲインである。このときのF
dの簡易設計を示す。
図3のブロック線図において、
【0045】
【数7】
とすると、入出力特性は下記のようになる。
【0046】
【数8】
これにより、それぞれの振動モードに対して、K
D1やK
D2によって減衰比を調整することが可能となる。
<実施例3>
【0047】
さらに、複数の振動モードのうちの1つに起因して同定誤差による影響が大きく現われている場合には、その1つの振動モードの共振抑制を図ることでも効果が得られる。
【0048】
例えば、
図1において制御対象P=P
1P
2に対し、P
1で生じる1次モードの振動を抑えたい場合、P・F
d=P
1となるように、F
dを制御対象P
2で生じる2次モードの振動の逆関数として、
【0049】
【数9】
のフィルタを用いる。このフィルタF
dを用いることで、減衰比調整部51に入力される帰還値はP
1・P
2/P
2=P
1となってP
1のみが抽出された形になり、入出力部間の周波数特性は、
【0050】
【数10】
となる。これを見ると、1次の振動モードの周波数特性を表わす有理関数と2の次振動モードの周波数特性を表わす有理関数との積の形に分離され、1次振動モードのみに減衰係数ζ
1の調整項が入っている。
【0051】
つまり、フィルタF
dによって共振を抑制したい1次の振動モード以外の振動モード(2次の振動モード)を除去したうえで減衰比調整部51の微分器を通過することで、複数の振動モードが存在するプラントP(=P
1P
2)に対しても、フィルタF
dによって所定の共振モード(1次モード)のみを抽出し、当該1次モードの振動に係る減衰比を係数K
Dを通じ調整することで、当該1次モードの振動に対し一般的な微分フィードバックによって共振抑制の効果を得ることができる。
<実施例4>
【0052】
なお、上述した複数の振動モードに対してそれぞれ共振抑制を図る際、各振動モードのゲインがわかっているときも、各振動モードのゲインがわからないときも、それぞれ次のように簡易設計して共振抑制の効果を得ることができる。
【0054】
以上のように、本実施形態の制御システムは、2以上の振動モードを有する制御対象1の出力を負帰還させるフィードバックループ6と、制御対象1をモデル化した際の入出力特性P^の逆特性1/P^を一部に有するフィードフォワード制御部4とを備え、これらフィードバックループ6及びフィードフォワード制御部4を通じて制御対象1への入力を生成する2自由度制御系の制御システムにおいて、制御対象1の出力側と入力側を内フィードバックループ5で接続し、この内フィードバックループ5中に、制御対象1の一部の振動モードを抽出するフィルタ52と、その振動モードの減衰比を調整する減衰比調整部51とを設けることにより共振抑制制御装置Bを構成して、この共振抑制制御装置Bを含んだ新たな制御対象1dをモデル化した際の入出力特性Pd^の逆特性1/Pd^をフィードフォワード制御部4の逆特性としたものである。
【0055】
制御対象1をモデル化した際の減衰比ζの誤差は、フィードフォワード制御にも影響するため、制御システム全体の入出力特性が目標の周波数特性から上下により大きくずれ易い。その原因は、二次遅れ系の減衰比が低い値のときほどモデル化誤差に起因してシステム全体の入出力特性のゲイン変動が大きくなることに起因している。
【0056】
これに対し、制御対象1に対しフィルタ52及び減衰比調整部51を有する内フィードバックループ5を形成して共振抑制制御装置Bを構成し、減衰比を大きくすると、減衰比ζに誤差があってもゲイン変動が抑えられるため、モデル化誤差がシステム全体の入出力特性に及ぼす影響を低減することができる。
【0057】
具体的には、制御システムが、入力から目標応答特性に基づいて目標値を生成する前置補償器2と、この前置補償器2の目標値と制御対象1dの出力部から前記フィードバックループ5を介して負帰還させた出力値との差分に基づいてフィードバック指令を生成するフィードバック制御部3とを備え、フィードフォワード制御部4が制御対象1dをモデル化した際の逆特性と前置補償器2の目標応答特性とに基づいてフィードフォワード指令を生成し、このフィードフォワード指令を加算器aにおいてフィードバック指令に加算して制御対象1dへの指令となすものであり、前置補償器2の目標応答特性を忠実に再現でき、フィードバック制御部3における外乱設計も的確に反映させることのできるシステムを構築することができる。
【0058】
特に、フィルタ52の特性Fdが、抽出する振動モード(例えば1次振動モード)以外の振動モード(例えば2次振動モード)に係る伝達関数の逆関数を用いて構成されているので、簡単な手法で、抽出する振動モード以外の振動モードを的確に取り除くことができる。
【0059】
さらに、入力部と前記出力部の間を、抽出する振動モードごとに内フィードバックループ5x、5yで並列的に接続した構成によれば、複数の振動モードに対して、各々適切な共振抑制制御を行うことが可能となる。
【0060】
特に、複数の振動モードからなる制御対象Pの総ゲインKを各振動モードのゲインKとしたときの逆関数を用いて各振動モードの内フィードバックループ中のフィルタを構成すれば、各振動モードのゲインK
1、K
2が明確でないときにも、共振抑制制御装置Bを簡易設計することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0062】
例えば、上記実施形態では機械系が直線系の多質点系である場合について説明したが、回転系の多質点系についても同様に適用することができる。
【0063】
また、減衰係数調整部は、微分要素(=K
Ds)でなく、(12)式
【0064】
【数12】
とローパスフィルタと組み合わせてもよい。
【0065】
さらにまた、フィルタFの数式がノンプロパの場合は、以下のようにプロパにするための補助関数F
Pを用いてもよい。例えば、P
2の逆関数に補助関数を乗じて、
【0067】
とすることができる。この場合、入出力関係は、
【0068】
【数14】
となる。F
Pのω
dがP
1に対して十分に高い周波数であれば、
【0069】
【数15】
とできる。そして、このように、フィルタを、前記逆関数に補助関数を用いることでプロパな関数にできる。
【0070】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。例えば、フィルタ52においてFd=1とし、実質的に減衰係数調整部51を有する内フィードバックループ(微分フィードバックループ)5のみとしても、本発明の準じた効果を期待することができる。