(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6708942
(24)【登録日】2020年5月26日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】はんだ合金、はんだペースト、プリフォームはんだ、はんだボール、線はんだ、脂入りはんだ、はんだ継手、電子回路基板および多層電子回路基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20200601BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20200601BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20200601BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20200601BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/22 310A
C22C13/00
B23K35/14 B
H05K3/34 508A
H05K3/34 512C
【請求項の数】22
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-98427(P2019-98427)
(22)【出願日】2019年5月27日
【審査請求日】2019年5月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 岳
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊策
(72)【発明者】
【氏名】泉田 尚子
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−105750(JP,A)
【文献】
特開2004−188453(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/111615(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/011392(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/097390(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/115268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
B23K 35/14
B23K 35/22
C22C 13/00
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Inを13〜22%、Agを0.5〜2.8%、Biを0.5〜5.0%、Niを0.002〜0.05%含有し、残部がSnからなる合金組成を有する、はんだ合金。
【請求項2】
前記合金組成は、更に、質量%で、P、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種を合計で0.09%以下含有する、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記合金組成は、更に、質量%で、Sbを0.005〜0.1%含有する、請求項1または2に記載のはんだ合金。
【請求項4】
Inの含有量が15〜20%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項5】
Inの含有量の上限が17%である、請求項4に記載のはんだ合金。
【請求項6】
Agの含有量が1.0〜2.5%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項7】
Biの含有量が1.0〜2.5%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項8】
Niの含有量が0.003〜0.04%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項9】
In、Ag、Bi、Niの含有量が下記(1)式を満たす、請求項1〜8のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.9≦(In×Ni)×(Ag+Bi)≦3.4 ・・・(1)
((1)式中、In、Ni、Ag、およびBiは、各元素の含有量を表す。)
【請求項10】
固相線温度が160℃以上であり、液相線温度が210℃以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項11】
前記固相線温度が165℃以上であり、前記液相線温度が200℃以下である、請求項10に記載のはんだ合金。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだペースト。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるプリフォームはんだ。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金からなる線はんだ。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金からなる脂入りはんだ。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金(請求項1〜11のいずれか1項に記載のはんだ合金以外のはんだ合金を含まない)で構成されるはんだ継手。
【請求項18】
請求項17に記載のはんだ継手を用いて接合される電子部品を備える電子回路基板。
【請求項19】
前記電子部品よりも高い耐熱温度を有する高耐熱性の電子部品を更に備え、
前記高耐熱性の電子部品が、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の液相線温度よりも高い融点を有する別のはんだ合金で構成される別のはんだ継手を用いて接合される、請求項18に記載の電子回路基板。
【請求項20】
前記電子部品よりも低い耐熱温度を有する低耐熱性の電子部品を更に備え、
前記低耐熱性の電子部品が、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の固相線温度よりも低い融点を有する別のはんだ合金で構成される別のはんだ継手を用いて接合される、請求項18に記載の電子回路基板。
【請求項21】
請求項17に記載のはんだ継手を用いて接合される電子部品を備える第1基板と、
前記第1基板に積層され、前記電子部品よりも高い耐熱温度を有する高耐熱性の電子部品を備える第2基板と、を備え、
前記高耐熱性の電子部品と前記第2基板とが、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の液相線温度よりも高い融点を有する別のはんだ合金で構成される別のはんだ継手を用いて接合される、多層電子回路基板。
【請求項22】
請求項17に記載のはんだ継手を用いて接合される電子部品を備える第1基板と、
前記第1基板に積層され、前記電子部品よりも低い耐熱温度を有する低耐熱性の電子部品を備える第2基板と、を備え、
前記低耐熱性の電子部品と前記第2基板とが、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の固相線温度よりも低い融点を有する別のはんだ合金で構成される別のはんだ継手を用いて接合される、多層電子回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分がSnのはんだ合金、当該はんだ合金の用途、および、当該はんだ合金が用いられる電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する配慮から、鉛を含有しない鉛フリーはんだ合金が使用されている。鉛フリーはんだ合金としては、SAC305(Sn−3.0Ag−0.5Cu)が挙げられる。SAC305の融点は220℃程度である。SAC305を用いたソルダリング中、リフロー炉の温度のピークは一般的に250℃程度の中温域に設定される。
【0003】
一方で、小型化した電子部品への熱的負荷を抑制するため、低温域でのソルダリングも要求されている。低温域でのソルダリングには、低融点の鉛フリーはんだ合金が用いられる。このようなはんだ合金としては、Sn−58BiおよびSn−52Inが挙げられる。Sn−58Biの融点は140℃程度である。Sn−52Inのそれは120℃程度である。低温域でのソルダリング中、リフロー炉の温度のピークは一般的に150〜160℃に設定される。
【0004】
ところで、多段階でソルダリングが行われるステップ・ソルダリングでは、上述した中温と低温の中間の温度域でソルダリングが行われることが予想される。このような中間温度域に融点を有する鉛フリーはんだ合金に関連する従来技術として、特許文献1が挙げられる。特許文献1は、Sn、AgおよびInの3元素からなる鉛フリーはんだ合金を開示する。この従来のはんだ合金は、167〜212℃の固相線温度と、179〜213℃の液相線温度とを有する。
【0005】
また、本願に関連する従来技術として、特許文献2が挙げられる。特許文献2は、Sn、In、AgおよびCuからなる鉛フリーはんだ合金を開示する。特許文献2は、これらの必須元素の含有量の異なるはんだ合金の例をいくつか開示する。これらの例の固相線温度は、何れも120℃程度である。
【0006】
また、本願に関連する別の従来技術として、特許文献3が挙げられる。特許文献3は、0.5〜5質量%のAgと、0.5〜20質量%のInと、0.1〜3質量%のBiと、3質量%以下の添加元素と、残部のSnとからなる鉛フリーはんだ合金が記載されている。この添加元素は、Sb、Zn、Ni、Ga、GeおよびCuから選ばれる少なくとも1種である。特許文献3は、添加元素としてのNiが0.5および1.5重量%が含まれた合金の例を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−15476号公報
【特許文献2】特開2013−198937号公報
【特許文献3】特開2004−188453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した中間温度域でのソルダリングを含むステップ・ソルダリングには、単に融点が低いだけの鉛フリーはんだ合金は不向きである。すなわち、Sn−58Biに代表される低温系はんだ合金の融点以下の温度で溶融する性質は、低温系はんだ合金のソルダリングのステップにおいて再溶融するおそれがある。したがって、低温系はんだ合金の融点を下回る固相線温度を有する特許文献2のはんだ合金を、当該低温系はんだ合金のソルダリングのステップとは異なるステップのソルダリングに供することはできない。
【0009】
また、特許文献3のはんだ合金は、融点に着目して開発されたものではない。そのため、中間温度域でのソルダリングに適したはんだ合金であるかどうかが分からない。
【0010】
また、このようなステップ・ソルダリングに適したはんだ合金は、融点の要件を満たすだけではなく、機械的信頼性に優れていることも重要である。故に、これらの観点に着目したはんだ合金に対する開発の余地がある。
【0011】
本発明の1つの目的は、中〜低温域でのソルダリングを含むステップ・ソルダリングに適し、かつ、機械的信頼性に優れるはんだ合金を提供することにある。本発明の別の目的は、このようなはんだ合金を含むはんだペースト、プリフォームはんだ、はんだボール、線はんだ、脂入りはんだおよびはんだ継手を提供することにある。本発明のまた別の目的は、このようなはんだ合金を用いた電子回路基板および多層電子回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、まず、SnおよびInの2元素からなるSn−In系の合金から出発して検討を始めた。この合金は、Inの含有量が一定量以上になると、InとSnによるγ相と呼ばれる金属間化合物の相を形成する。ただし、このγ相は脆いことから、はんだ合金の延性を低下させるリスクがある。そこで、延性を低下させることなく所望の機械的特性を達成できるよう、Inの含有量は20重量%前後に設定された。
【0013】
Inの含有量の決定後、中〜低温域でのソルダリングに供されるはんだ合金として適切な融点を有する添加元素が検討された。その結果、Sn−In系の合金にAg、BiおよびNiが適量添加されることで、融点が最適な範囲に調整されるだけでなく、機械的特性も改善されることが見出された。以上の検討から、Sn、In、Ag、BiおよびNiの5元素を適量添加したはんだ合金が、上述した課題を解決する最適なはんだ合金であるという知見が得られた。
【0014】
第1の発明は、次の特徴を有するはんだ合金である。
前記はんだ合金は、質量%で、Inを13〜22%、Agを0.5〜2.8%、Biを0.5〜5.0%、Niを0.002〜0.05%含有し、残部がSnからなる合金組成を有する。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において更に次の特徴を有する。
前記合金組成が、更に、質量%で、P、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種を合計で0.09%以下含有する。
【0016】
第3の発明は、第1または第2の発明において更に次の特徴を有する。
前記合金組成が、更に、質量%で、Sbを0.005〜0.1%含有する。
【0017】
第4の発明は、第1〜3の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
Inの含有量は15〜20%である。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において更に次の特徴を有する。
Inの含有量の上限は17%である。
【0019】
第6の発明は、第1〜5の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
Agの含有量が1.0〜2.5%である。
【0020】
第7の発明は、第1〜6の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
Biの含有量が1.0〜2.5%である。
【0021】
第8の発明は、第1〜7の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
Niの含有量が0.003〜0.04%である。
【0022】
第9の発明は、第1〜8の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
In、Ag、Bi、Niの含有量が下記(1)式を満たす。
0.9≦(In×Ni)×(Ag+Bi)≦3.4 ・・・(1)
(1)式中、In、Ni、Ag、およびBiは、各元素の含有量を表す。
【0023】
第10の発明は、第1〜9の発明のいずれか1つにおいて更に次の特徴を有する。
前記はんだ合金の固相線温度は160℃以上である。
前記はんだ合金の液相線温度は210℃以下である。
【0024】
第11の発明は、第10の発明において更に次の特徴を有する。
前記固相線温度は165℃以上である。
前記液相線温度は200℃以下である。
【0025】
第12の発明は、
はんだペーストである。
前記はんだペーストは、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金からなる。
【0026】
第13の発明は、
プリフォームはんだである。
前記プリフォームはんだは、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金からなる。
【0027】
第14の発明は、
はんだボールである。
前記はんだボールは、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金からなる。
【0028】
第15の発明は、
線はんだである。
前記線はんだは、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金からなる。
【0029】
第16の発明は、
脂入りはんだである。
前記脂入りはんだは、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金からなる。
【0030】
第17の発明は、
はんだ継手である。
前記はんだ継手は、第1〜11の発明のいずれか1つ
のはんだ合金(第1〜11の発明のいずれか1つのはんだ合金以外のはんだ合金を含まない)で構成される。
【0031】
第18の発明は、
電子回路基板である。
前記電子回路基板は、第17の発明のはんだ継手を用いて接合され
る。
【0032】
第19の発明は、第18の発明において更に次の特徴を有する。
前記電子回路基板は、前記電子部品よりも高い耐熱温度を有する高耐熱性の電子部品を更に備える。
前記高耐熱性の電子部品は、
別のはんだ継手を用いて前記電子回路基板に接合される。
前記別のはんだ継手は、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の液相線温度よりも高い融点を有する別のはんだ合金
で構成される。
【0033】
第20の発明は、第18の発明において更に次の特徴を有する。
前記電子回路基板は、前記電子部品よりも低い耐熱温度を有する低耐熱性の電子部品を更に備える。
前記低耐熱性の電子部品は、
別のはんだ継手を用いて前記電子回路基板に接合される。
前記別のはんだ継手は、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の固相線温度よりも低い融点を有する別のはんだ合金
で構成される。
【0034】
第21の発明は、
多層電子回路基板である。
前記多層電子回路基板は、第1基板と、第2基板とを備える。
前記第1基板は、
第17の発明のはんだ継手を用いて接合される電子部品を備える。
前記第2基板は、前記第1基板に積層される。前記第2基板は、前記電子部品よりも高い耐熱温度を有する高耐熱性の電子部品を備える。
前記高耐熱性の電子部品と前記第2基板とは、
別のはんだ継手を用いて接合される。
前記別のはんだ継手は、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の液相線温度よりも高い融点を有する別のはんだ合金
で構成される。
【0035】
第22の発明は、
多層電子回路基板である。
前記多層電子回路基板は、第1基板と、第2基板とを備える。
前記第1基板は、
第17の発明のはんだ継手を用いて接合される電子部品を備える。
前記第2基板は、前記第1基板に積層される。前記第2基板は、前記電子部品よりも低い耐熱温度を有する低耐熱性の電子部品を備える。
前記低耐熱性の電子部品と前記第2基板とは、
別のはんだ継手を用いて接合される。
前記別のはんだ継手は、前記はんだ継手を構成する前記はんだ合金の固相線温度よりも低い融点を有する別のはんだ合金
で構成される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】Sn−In系の合金中のInの含有量と、融点との関係を示した図である。
【
図2】Sn−20In−Ag系の合金中のAgの含有量と、融点との関係を示した図である。
【
図3】Sn−20In−Bi系の合金中のBiの含有量と、融点との関係を示した図である。
【
図4】電子回路基板の第1の例を示す模式図である。
【
図5】電子回路基板の第2の例を示す模式図である。
【
図6】多層電子回路基板の第1の例を示す模式図である。
【
図7】多層電子回路基板の第2の例を示す模式図である。
【
図8】実施例2および比較例2の断面SEM写真である。
【
図9】実施例3および比較例4の断面SEM写真である。
【
図10】実施例2および比較例2の断面SEM写真である。
【
図11】実施例3および比較例4の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を以下に詳細に説明する。なお、本明細書において、はんだ合金に含有される元素の「%」は、特に指定しない限り「質量%」を表す。また、本明細書において、中〜低温域とは、160〜210℃の温度域を表す。中温域は、中〜低温域の上限(つまり、210℃)よりも高い温度域を表す。低温域は、中〜低温域の下限(つまり、160℃)よりも低い温度域を表す。また、本明細書において、融点とは、固相線温度または液相線温度を表す。
【0038】
1.はんだ合金
本発明に係るはんだ合金は、Inを13〜22%、Agを0.5〜2.8%、Biを0.5〜5.0%、Niを0.002〜0.05%含有し、残部がSnからなる合金組成を有する。以下、この合金組成を構成する元素と、それらの含有量について説明する。
【0039】
1.1 In:13〜22%
Inは、はんだ合金の融点を下げる性質を有する。
図1は、Sn−In系の合金中のInの含有量と、融点との関係を示した図である。
図1に示すように、Sn−In系の合金の融点は、Inの含有量が多くなるにつれて下がる傾向にある。ただし、Inの含有量が20%よりも多くなると、固相線温度が急激に低下し始める。Inの含有量が25%よりも多くなると、固相線温度が約117℃まで低下する。そのため、Inの含有量が25%よりも多い合金をベースとするはんだ合金は、中温域でのソルダリングに供されるはんだ合金として適切でない。この点、Inの含有量の上限が22%程度であれば、固相線温度の条件が満たされる。故に、この上限は22%である。固相線温度の条件の充足性の観点からすると、好ましい上限は21%であり、より好ましい上限は20%である。
【0040】
中〜低温域において、Inの含有量が5%よりも少ない合金は、β−Sn相と呼ばれるSn−richの相を形成する。Inの含有量が5%よりも多くなると、合金は、γ相と呼ばれるInSn
4化合物の相を形成する。このγ相は、Inの含有量が5〜25%で安定的に形成される。ただし、Inの含有量が少なくなると、温度変化に伴いγ相とβ−Sn相の間で相変態が生じるリスクがある。相変態が生じると、体積の変化による変形が起きるので、機械的信頼性が低下するリスクがある。この点、Inの含有量の下限が13%であれば、この変形を抑えることができる。故に、この下限は13%である。機械的信頼性の観点からすると、好ましい下限は、15%である。
【0041】
また、γ相は、SAC305に比べると脆い性質を有する。そのため、γ相中のInの含有量が多くなると、はんだ合金の延性が低下して機械的信頼性が低下するリスクがある。そのため、延性を確保する観点からすると、Inの含有量の上限は多すぎないことが好ましい。具体的な好ましい上限は、17%である。
【0042】
1.2 Ag:0.5〜2.8%
Agは、はんだ合金の融点を変える性質を有する。
図2は、Sn−20In−Ag系の合金中のAgの含有量と、融点との関係を示した図である。
図2に示すように、中〜低温域には液相線温度が位置する。この液相線温度は、Agの含有量が2.8%以下では、含有量が多くなるにつれて下がる傾向にある。Agの含有量が2.8%よりも多くなると、液相線温度が上昇に転ずる。そのため、Agの含有量が2.8%よりも多くなると、Inの添加による融点の低下を妨げる可能性がある。故に、Agの含有量の上限は2.8%である。液相線温度の上昇を抑える観点からすると、好ましい上限は、2.5%である。
【0043】
Agは、InとAg
2In化合物を形成する。この金属間化合物の相が析出すると、はんだ合金の変形を抑えることができる。この効果を発揮させる観点から、Agの含有量の下限は0.5%である。析出物を粗大化してこの効果を高める観点からすると、好ましい下限は、1.0%である。
【0044】
1.3 Bi:0.5〜5.0%
Biは、はんだ合金の融点を下げる性質を有する。
図3は、Sn−20In−Bi系の合金中のBiの含有量と、融点との関係を示した図である。
図3に示すように、中〜低温域には液相線温度が位置する。この液相線温度は、Biの含有量が多くなるにつれて下がる傾向にある。ただし、Biの含有量が多くなることで、はんだ合金の融点が下がり過ぎることは望ましくない。故に、Biの含有量の上限は5.0%である。液相線温度の低下を抑える観点からすると、好ましい上限は、2.5%である。
【0045】
BiはSnに一定量固溶する。Biが固溶することで、はんだ合金の変形を抑えることができる。この効果を発揮させる観点から、Biの含有量の下限は0.5%に設定された。好ましい下限は、1.0%である。また、Biの過度の固溶は、はんだ合金の延性を低下させるリスクがある。この観点からすると、Biの含有量の上限は多すぎないことが好ましい。具体的な好ましい上限は、2.5%である。
【0046】
1.4 Ni
Niは、合金組織を微細化する性質を有する。合金組織が微細化されることで、はんだ合金の機械的特性が向上する。この効果を発揮させる観点から、Niの含有量の下限は0.002%に設定された。好ましい下限は0.003%であり、より好ましい下限は0.004%である。一方、Niによる過剰な微細化は、はんだ合金の延性を低下させるリスクがある。加えて、Niの過剰な添加は、はんだ合金の液相線温度を上昇させる。この観点からすると、Niの含有量は多すぎないことが望ましい。故に、Niの含有量の上限は0.05%である。好ましい上限は0.04%であり、より好ましい上限は0.03%である。
【0047】
1.5 Sn:残部
本発明に係るはんだ合金の残部は、Snから構成される。また、はんだ合金には、上述した必須元素の他に、不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物が含まれていても、はんだ合金による効果に影響はない。不可避的不純物としては、Pb、Asが挙げられる。
【0048】
1.6 含有量の関係
本発明に係るはんだ合金において、In、Ag、BiおよびNiの各含有量は上述したとおりである。ただし、後述する実施例の結果から、これらの含有量の関係は、下記(1)式を満たしていることが好ましい。
0.9≦(In×Ni)×(Ag+Bi)≦3.4 ・・・(1)
(1)式中、In、Ni、Ag、およびBiは、各元素の含有量(質量%)を表す。
【0049】
In、Ag、BiおよびNiの含有量が上述した範囲内にあり、かつ、上記(1)式を満たすはんだ合金は、融点および機械的特性の観点から好ましい。なお、狙いとする融点および機械的特性の観点からすると、上記(1)式の上限は、2.55であることがより好ましい。
【0050】
2.その他の添加元素
本発明に係るはんだ合金には、上述した必須元素の他に、次の元素が任意に含まれていてもよい。この場合、任意の元素が添加されたはんだ合金の残部をSnが構成する。
【0051】
2.1 P、GeおよびGaから選ばれる少なくとも1種:0.09%以下
P、GeおよびGaは、Snの酸化を抑制するとともに、はんだ合金の濡れ性を改善する性質を有する。そのため、これらの元素は、本発明に係るはんだ合金に任意に添加される。特に本発明に係るはんだ合金をプリフォームはんだとして用いる場合は、その表面の変色を抑制することができるため、これらの元素から選ばれる少なくとも1種が添加されることが好ましい。
【0052】
これらの元素から選ばれる少なくとも1種が添加される場合、その含有量の上限は合計で0.09%である。合計で0.09%を超えると、はんだ表面におけるはんだ合金の流動性が阻害される可能性がある。これらの元素の各含有量は特に限定されない。ただし、Pの好ましい含有量は、0.003〜0.05%である。Geの好ましい含有量は、0.002〜0.08%である。Gaの好ましい含有量は、0.005〜0.08%である。
【0053】
2.2 Sb:0.005〜0.1%
Sbは、Niと同様に、合金組織を微細化する性質を有する。そのため、Sbは、本発明のはんだ合金に任意に添加される。Sbが添加される場合、その含有量は0.005〜0.1%である。Sbの含有量が0.005%よりも少ないと、微細化効果が発揮されない。Sbの含有量が0.1%よりも多いと、はんだ合金の液相線温度を上昇させる。
【0054】
3.はんだ合金の融点
本発明に係るはんだ合金の融点は、中〜低温域内の温度であれば特に限定されない。ただし、本発明に係るはんだ合金の固相線温度は、160℃以上であることが好ましい。固相線温度が160℃以上であると、中〜低温域でのソルダリングを含むステップ・ソルダリングにおいて次の効果が期待される。すなわち、低温系はんだ合金のソルダリング中に、ソルダリング済みの本発明に係るはんだ合金が再溶融するのを防ぐことができる。低温系はんだ合金としては、Sn−58BiおよびSn−52Inが挙げられる。好ましい固相線温度は、165℃以上である。
【0055】
また、本発明に係るはんだ合金の液相線温度は、210℃以下であることが好ましい。液相線温度が210℃以下であると、中〜低温域でのソルダリングを含むステップ・ソルダリングにおいて次の効果が期待される。すなわち、本発明に係るはんだ合金のソルダリング中に、ソルダリング済みの中温系または高温系はんだ合金が再溶融するのを防ぐことができる。中温系はんだ合金としては、SAC305が挙げられる。高温系はんだ合金としては、Sn−90Pbのはんだ合金が挙げられる。好ましい液相線温度は、200℃以下である。
【0056】
4.はんだ合金の用途
4.1 はんだペースト
本発明に係るはんだ合金は、はんだペーストとして好適に用いられる。はんだペーストは、粉末状のはんだ合金と、ロジン系樹脂、活性剤、溶剤等を含むフラックスとを混合することにより製造される。フラックスは、当業界において一般的に用いられているものであれば、使用される材料やその配合比は特に限定されない。また、粉末状のはんだ合金とフラックスとの配合比(質量比)は、一般的に90:10である。ただし、この配合比は、はんだペーストの用途に応じて適宜調整される。
【0057】
4.2 プリフォームはんだ
本発明に係るはんだ合金は、リボン形状、ディスク形状、ワッシャー形状、チップ形状、リング形状に成型されたプリフォームはんだとしても好適に用いられる。プリフォームはんだは、当業界において一般的に知られた方法により製造される。プリフォームはんだが有する形状は、上述した形状に限られず、その用途に応じて適宜変更される。プリフォームはんだは、その内部にフラックスを有していてもよい。プリフォームはんだは、その表面がフラックスでコーティングされていてもよい。
【0058】
4.3 はんだボール
本発明に係るはんだ合金は、はんだボールとしても好適に用いられる。はんだボールは、例えばBGA(ボール・グリッド・アレイ)などの半導体パッケージに半球状のバンプを形成するために使用される。はんだボールは、当業界において一般的に知られた方法により製造される。本発明に係るはんだ合金をはんだボールとして使用する場合、その直径は1〜1000μmの範囲であることが好ましい。また、真球度は、0.90以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、0.99以上が最も好ましい。
【0059】
4.4 線はんだおよび脂入りはんだ
本発明に係るはんだ合金は、ワイヤー状に加工された線はんだとしても好適に用いられる。また、線はんだは、その内部にフラックスを有する脂入りはんだとしても好適に用いられる。線はんだおよび脂入りはんだは、はんだ鏝を用いたソルダリングに適している。線はんだおよび脂入りはんだは、当業界において一般的に知られた方法で製造される。
【0060】
4.5 はんだ継手
本発明に係るはんだ合金は、はんだ継手としても好適に用いられる。はんだ継手は、半導体パッケージにおいてICチップなどの電子部品と、プリント基板(例えば、インターポーザ)とを接続する。または、はんだ継手は、半導体パッケージと、プリント回路基板とを接合して接続する。はんだ継手は、接合箇所に形成される接続部である。はんだ継手は、一般的なソルダリング条件の下で形成される。
【0061】
5.電子回路基板
本発明に係るはんだ合金がはんだ継手として機能する場合、このはんだ継手を介して電子部品が接合される電子回路基板は、本発明に係る電子回路基板に該当する。
【0062】
5.1 単層電子回路基板
図4は、本発明に係る電子回路基板の第1の例を示す模式図である。
図4に示す基板10は、電子部品11および12を備えている。基板10は、例えば、プリント回路基板である。電子部品11および12は、例えば、ICチップである。電子部品11の最高使用温度は、中〜低温域の温度である。電子部品12の最高使用温度は、中温域の下限(つまり、210℃)よりも高い温度である。つまり、電子部品12の耐熱性は、電子部品11のそれに比べて高い。
【0063】
第1の例において、電子部品11は、はんだ継手13を介して基板10に接合される。はんだ継手13は、本発明に係るはんだ合金から構成される。一方、電子部品12は、はんだ継手14を介して基板10に接合される。はんだ継手14は、中温系または高温系はんだ合金から構成される。つまり、はんだ継手14は、本発明に係るはんだ合金の液相線温度よりも高い融点(より正確には、固相線温度)を有する別のはんだ合金から構成される。
【0064】
図5は、本発明に係る電子回路基板の第2の例を示す模式図である。なお、
図5に示す電子部品11およびはんだ継手13は、
図4に示した例と共通する。そのため、これらの説明については省略する。
図5に示す基板20は、電子部品21を備えている。基板20は、例えば、プリント回路基板である。電子部品21は、例えば、ICチップである。電子部品21の最高使用温度は、低温域の
下限(つまり、160℃)よりも低い温度である。つまり、電子部品21の耐熱性は、電子部品11のそれに比べて低い。
【0065】
第2の例において、電子部品21は、はんだ継手22を介して基板20に接合される。はんだ継手22は、低温系はんだ合金から構成される。つまり、はんだ継手22は、本発明に係るはんだ合金の固相線温度よりも低い融点(より正確には、液相線温度)を有する別のはんだ合金から構成される。
【0066】
5.2 多層電子回路基板
図6は、本発明に係る多層電子回路基板の第1の例を示す模式図である。
図6に示す基板30は、基板31に基板32およびインターポーザ33が積層された多層基板である。基板31は、例えば、プリント回路基板である。基板32は、例えば、パッケージ基板である。基板32は、インターポーザ33と、電子部品34とを備えている。本発明において、基板32は第1基板に該当し、インターポーザ33は第2基板に該当する。インターポーザ33は、電子部品35を備えている。
【0067】
電子部品34および35は、例えば、ICチップである。電子部品34の最高使用温度は、中温域の下限よりも高い温度である。電子部品35の最高使用温度は、中〜低温域の温度である。つまり、電子部品34の耐熱性は、電子部品35のそれに比べて高い。
【0068】
第1の例において、電子部品35は、はんだ継手36を介してインターポーザ33に接合される。はんだ継手36は、本発明に係るはんだ合金から構成される。一方、電子部品34は、はんだ継手37を介して基板32に接合される。はんだ継手37は、基板31と32との接合、および、基板32とインターポーザ33との接合にも用いられる。はんだ継手37は、中温系または高温系はんだ合金から構成される。つまり、はんだ継手37は、本発明に係るはんだ合金の液相線温度よりも高い融点(より正確には、固相線温度)を有する別のはんだ合金から構成される。
【0069】
図7は、本発明に係る多層電子回路基板の第2の例を示す模式図である。なお、
図7に示す基板31および32と、インターポーザ33とは
図6に示した例と共通する。そのため、これらの説明については省略する。
図7に示す基板40は、電子部品41を備えている。インターポーザ33は、電子部品41を備えている。
【0070】
電子部品41および42は、例えば、ICチップである。電子部品41の最高使用温度は、中〜低温域の温度である。電子部品42の最高使用温度は、
低温域の下限よりも
低い温度である。つまり、電子部品42の耐熱性は、電子部品41のそれに比べて
低い。
【0071】
第2の例において、電子部品41は、はんだ継手43を介して基板32に接合される。はんだ継手43は、本発明に係るはんだ合金から構成される。はんだ継手43は、基板31と32との接合、および、基板32とインターポーザ33との接合にも用いられる。一方、電子部品42は、はんだ継手44を介してインターポーザ33に接合される。はんだ継手44は、
低温系はんだ合金から構成される。つまり、はんだ継手44は、本発明に係るはんだ合金の液相線温度よりも
低い融点(より正確には、固相線温度)を有する別のはんだ合金から構成される。
【0072】
6.その他
ステップ・ソルダリングでは、相対的に高い融点を有するはんだ合金を用いたソルダリングがより先に行われる。相対的に低い融点を有するはんだ合金を用いたソルダリングは、より後に行われる。ステップ・ソルダリングは、例えば、リフロー法を用いて行われる。リフローソルダリングでは、ソルダリングに供されるはんだ合金の液相線温度よりも5〜20℃程度高い温度まで周囲温度を上昇させることが好ましい。その後、2〜3℃/secで周囲温度を冷却することが好ましい。このようなリフローソルダリングを行うことで、合金組織がより微細化する。この他の接合条件は、はんだ合金および接合対象の性質に応じて適宜調整される。
【0073】
7.実施例
表1に示す合金組成からなるはんだ合金を調整し、これらはんだ合金の融点を測定した。また、これらのはんだ合金について、冷熱サイクル付きのシェア試験により信頼性を評価した。
【0074】
7.1 融点
固相線温度と液相線温度は、JIS Z 3198−1の測定方法と同様のDSC(Differential scanning calorimetry)による方法で実施した。固相線温度が160℃以上のサンプルは「〇」と評価し、160℃よりも低いサンプルは「×」と評価した。固相線温度が165℃以上のサンプルは「◎」と評価した。液相線温度が210℃以下のサンプルは「〇」と評価し、210℃よりも高いサンプルは「×」と評価した。液相線温度が200℃以下のサンプルは「◎」と評価した。
【0075】
7.2 冷熱サイクル付きシェア試験
はんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末を得た。このはんだ粉末をフラックスと混和してはんだペーストを作製した。このはんだペーストを、厚さ100μmのメタルマスクを用い、厚さが0.8mmのプリント基板(材質:FR−4)に印刷した。このプリント基板にBGA部品を、マウンターを用いて実装した。そして、最高温度200℃、保持時間60秒の条件でリフローソルダリングを行い、基板サンプルを得た。
【0076】
基板サンプルを低温−40℃、高温+100℃、保持時間10分の条件に設定したヒートサイクル試験装置に入れ、1000サイクルの時点で取り出した。その後、この試験基板を、せん断強度測定装置(RHESCA社製 STR−1000)により、6mm/secの条件でシェア強度(N)を測定した。シェア強度が30.00N以上であるサンプルは、実用上問題なく使用することができるレベルにあると判断して「○」と評価した。シェア強度が30.00N未満であるサンプルは「×」と評価した。なお、融点の評価が「×」となったサンプルについては、シェア試験の対象外とした。
【0079】
実施例1〜25の融点の結果から、これらの実施例は、融点の条件を満たすことが分かった。実施例1は固相線温度が180℃であり、液相線温度は196℃であった。実施例2は固相線温度が173℃であり、液相線温度が195℃であった。実施例3は固相線温度が167℃であり、液相線温度が191℃であった。これらの結果は、主成分であるSnの融点を下げる性質を有するIn、AgおよびBiが適量添加されることで、狙いとする融点が実現されたことを証明している。また、シェア試験の結果から、これらの実施例は、冷熱サイクル耐性に優れることも分かった。これらの結果は、機械的特性を改善するAg、BiおよびNiが適量添加されることで、狙いとする機械的特性が実現されたことを証明している。
【0080】
比較例1の融点の結果から、比較例1は、固相線温度が154℃となり、160℃を下回ることが分かった。この結果は、Agの添加量が多くなるほど固相線温度が下がり続けることを示している。
【0081】
比較例2〜4の融点およびシェア強度の結果から、これらの比較例は、融点の評価が良好であるものの、冷熱サイクル耐性に劣ることが分かった。シェア強度の結果は、Niの不添加が影響している可能性を示している。
【0082】
比較例5、8〜13の融点の結果から、これらの比較例は、液相線温度が210℃を上回ることが分かった。これらの結果は、Inの添加量が少ないと、液相線温度が十分に下がらないことを示している。また、比較例8〜13の融点の結果は、Niの添加量が多すぎることで、液相線温度が上昇した可能性を示している。そして、この可能性は、比較例7、14〜17の液相線温度の結果と、比較例8〜13のそれとが同じであったことから支持される。
【0083】
比較例6の融点の結果から、比較例6は、固相線温度が135℃となり、160℃を下回ることが分かった。この結果は、Inの添加量が25%よりも多くなると、固相線温度が急激に下がることを示している。
【0084】
7.3 合金組織の観察
比較例2〜4における考察を確認するため、実施例2および3のはんだ合金と、比較例2および4のはんだ合金とを調整した。比較例2のはんだ合金は、実施例2のそれからNiを除いた組成を有する。比較例4のはんだ合金は、実施例3のそれからNiを除いた組成を有する。
【0085】
樹脂モールドを用いてこれらのはんだ合金を成型し、サンプルを得た。サンプルを半分程度研磨し、研磨箇所をFE−SEMにて1000倍の倍率で撮影した。
図8は、実施例2および比較例2の断面SEM写真である。
図9は、実施例3および比較例4の断面SEM写真である。
図8および9から、Niを含有する実施例2または3の合金組織は、対応する比較例のそれに比べて微細化されることが分かった。この結果から、比較例2〜4において述べた考察が妥当である可能性が示された。なお、
図8および9に示す黒色部は、研磨により失われた金属間化合物を表している。
【0086】
また、これらのはんだ合金から調整したはんだ粉末を用い、基板サンプルを得た。基板サンプルの作製手法は、シェア試験でのそれに準じて行われた。そして、BGA端子とプリント基板の接合界面を、FE−SEMにて1000倍の倍率で撮影した。
図10は、実施例2および比較例2の断面SEM写真である。
図11は、実施例3および比較例4の断面SEM写真である。
図11および12から、実施例2または3の合金組織の微細化は、BGA端子の状態でも保たれることが分かった。この結果から、本発明に係るはんだ合金が、BGA端子、およびはんだ継手として有用である可能性が示された。
【符号の説明】
【0087】
10、20、30、31、40 基板
11、12、21、34、35、41、42 電子部品
13、14、22、36、37、43、44 はんだ継手
33 インターポーザ
【要約】
【課題】中〜低温域でのソルダリングを含むステップ・ソルダリングに適し、かつ、機械的信頼性に優れるはんだ合金を提供する。このようなはんだ合金を含むはんだペースト、プリフォームはんだ、はんだボール、線はんだ、脂入りはんだおよびはんだ継手を提供する。このようなはんだ合金を用いた電子回路基板および多層電子回路基板を提供する。
【解決手段】質量%で、Inを13〜22%、Agを0.5〜2.8%、Biを0.5〜5.0%、Niを0.002〜0.05%含有し、残部がSnからなる合金組成を有する、はんだ合金。このはんだ合金を含む、はんだペースト、プリフォームはんだ、はんだボール、線はんだ、脂入りはんだおよびはんだ継手。このはんだ合金を用いた電子回路基板および多層電子回路基板。
【選択図】
図9