【文献】
Harizanova R et al.,Phase composition identification and microstructure of BaTiO3-containing sodium-aluminoborosilicate glass-ceramics,SOLID STATE SCIENCES,2015年12月17日,Vol.52,P.49-56
【文献】
CHO.Y.S et.al.,Dielectric properties of the BaTiO3-Aln-additive system,Journal of Electroceramics,2006年,Vol.17 No.2/3/4,P.461-465,全6ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、2枚の電極の間に誘電体を挿入したものであり、その静電容量は、誘電体の比誘電率に比例する。コンデンサに使用される誘電体としては、例えば、セラミックス、プラスチック、絶縁油、マイカなどが知られている。特に、BaTiO
3は、比誘電率が大きいため、小型・大容量のコンデンサの誘電体には、主としてBaTiO
3が用いられている。
【0003】
BaTiO
3は、常温(25℃)では正方晶であるが、結晶構造が正方晶(強誘電体)から立方晶(常誘電体)に変化するキュリー点(約125℃)を持ち、キュリー点では比誘電率が最も高くなる。そのため、BaTiO
3を用いたコンデンサは、キュリー点近傍において静電容量が大きく変化する。また、BaTiO
3からなる緻密な焼結体を得るためには、1300℃前後の高い焼結温度を必要とする。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、25℃で立方晶の結晶構造を持つチタン酸バリウムに対して1〜10質量部のSiO
2−B
2O
3−Li
2O系ガラスを加えて混合し、この混合物を900〜1000℃で焼結することにより得られる誘電体組成物が開示されている。
同文献には、
(a)焼結温度を1000℃以下にすることによって、焼結後もチタン酸バリウムは室温において立方晶の結晶構造を持つ点、
(b)ガラスの量を1〜10質量部とすることにより、比誘電率が高く、かつ、ボイドの少ない誘電体磁器や誘電体層を形成することができる点、及び、
(c)このようにして得られた誘電体磁器や誘電体層は明確なキュリー点を持たないために、静電容量のばらつきを抑制することができる点、
が記載されている。
【0005】
ハイブリッド車やEV車のパワーコントロールユニット(PCU)には、高出力化が求められており、半導体パワー素子の材料としてSiCやGaNを用いることが検討されている。このような高出力のPCUに用いられるコンデンサには、耐熱性(−40℃〜250℃)、熱伝導性、及び耐電圧性(650V以上)が必要となる。さらに、PCUを低コスト化するには、これに用いられるコンデンサの低コスト化も求められている。
しかし、従来の誘電体組成物でこれらの条件をすべて満たすものは知られていない。例えば、BaTiO
3は、比誘電率、耐電圧性、及び耐熱性は高いが、緻密な焼結体を得るためには高い焼結温度が必要であるため、高コストである。また、焼結温度を下げるためにガラスと複合化させると、熱伝導率が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 誘電体組成物(1)]
本発明の第1の実施の形態に係る誘電体組成物は、
融点が400℃以上850℃以下であるガラスからなるマトリックスと、
前記マトリックス中に分散しているBaTiO
3系粒子と
を備えている。
【0017】
[1.1. ガラス]
[1.1.1. 融点]
誘電体組成物のマトリックスは、融点が所定の範囲にあるガラスからなる。ガラスの融点が低すぎると、誘電体組成物の耐熱性が低下する。従って、ガラスの融点は、400℃以上である必要がある。融点は、好ましくは、450℃以上、更に好ましくは、500℃以上である。
一方、ガラスの融点が高すぎると、焼結温度が高くなり、製造コストが増大する。また、ガラスの組成によっては、ガラスとBaTiO
3系粒子とが反応し、ガスが発生してポアができる場合がある。従って、ガラスの融点は、850℃以下である必要がある。融点は、好ましくは、700℃以下、さらに好ましくは、600℃以下である。
【0018】
[1.1.2. ガラスの組成]
ガラスの組成は、上述した条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。例えば、ガラスは、非晶質であっても良く、あるいは、熱処理によって結晶を析出させた結晶化ガラスでも良い。また、ガラスは、非鉛ガラスであっても良く、あるいは、鉛入りガラスであっても良い。
【0019】
マトリックスを構成するガラスとしては、例えば、
(a)SiO
2−B
2O
3−R
2O−SrO−ZrO(Rは、アルカリ金属。以下同じ)などのホウケイ酸塩系ガラス、
(b)SiO
2−B
2O
3−Bi
2O
3−ZnOなどのビスマス酸塩系ガラス、
(c)P
2O
5−Al
2O
3−R
2O−ZnOなどのリン酸塩系ガラス、
(d)B
2O
3−SiO
2−ZnO−PbO−ZrO
2などの鉛入り系ガラス、
(e)ヴァナジウム系ガラス、
などがある。
これらの中でも、マトリックスを構成するガラスは、ホウケイ酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラス、又はリン酸塩系ガラスが好ましい。これらのガラスは、有害元素(Pb)を含まず、かつ、これをマトリックスとして用いた時に高い誘電特性が得られる。マトリックスを構成するガラスは、特に、ホウケイ酸塩系ガラスが好ましい。これは、BaTiO
3とガラスの反応性が低く、焼結温度の範囲を広く取れるためである。
【0020】
[1.2. BaTiO
3系粒子]
[1.2.1. BaTiO
3系粒子の組成]
マトリックス中には、BaTiO
3系粒子が分散している。
本発明において、「BaTiO
3系粒子」とは、
(a)BaTiO
3からなる粒子、又は、
(b)BaTiO
3のBaサイトの一部及び/又はTiサイトの一部が他の元素Mで置換された化合物からなる粒子
をいう。
【0021】
BaTiO
3系粒子が元素Mを含む場合、元素Mの種類及び含有量は、特に限定されるものではなく、誘電体組成物に要求される特性などに応じて、最適なものを選択することができる。最適な含有量(元素Mが占有するサイトに占める元素Mの割合)は、元素Mの種類などにより異なるが、通常、0.1mol%〜5mol%程度である。
元素Mとしては、例えば、誘電体組成物の絶縁破壊電圧を向上させる作用があるMn、Y、Mg、Ca、Al、Siなどがある。
【0022】
[1.2.2. BaTiO
3系粒子の平均粒径]
BaTiO
3系粒子の平均粒径は、誘電体組成物の誘電特性に影響を与える。
ここで、「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定される粒子のメディアン径をいう。後述する高熱伝導粒子及びガラス粒子の平均粒径も同様である。
【0023】
一般に、BaTiO
3系粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、比誘電率が低下する。従って、BaTiO
3系粒子の平均粒径は、100nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、200nm以上である。
一方、BaTiO
3系粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、気孔率が増大し、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、BaTiO
3系粒子の平均粒径は、500nm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、300nm以下である。
【0024】
[1.3. 誘電体組成物(1)の組成]
第1の実施の形態に係る誘電体組成物は、次の式(1)及び式(2)の関係を満たしているのが好ましい。
10vol%≦x×100/(x+y)≦50vol% ・・・(1)
50vol%≦y×100/(x+y)≦90vol% ・・・(2)
但し、
xは、前記誘電体組成物に含まれる前記BaTiO
3の体積、
yは、前記誘電体組成物に含まれる前記ガラスの体積。
【0025】
[1.3.1. BaTiO
3系粒子の含有量]
式(1)は、BaTiO
3系粒子の含有量の許容範囲を表す。ガラスは、BaTiO
3系粒子に比べて比誘電率が小さい。そのため、BaTiO
3系粒子の含有量が少なすぎると、誘電体組成物の比誘電率が低下する。従って、BaTiO
3系粒子の含有量は、10vol%以上が好ましい。BaTiO
3系粒子の含有量は、好ましくは、20vol%以上、さらに好ましくは、30vol%以上である。
一方、BaTiO
3系粒子の含有量が過剰になると、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、BaTiO
3系粒子の含有量は、50vol%以下が好ましい。BaTiO
3系粒子の含有量は、好ましくは、40vol%以下である。
【0026】
[1.3.2. ガラスの含有量]
式(2)は、ガラスの含有量の許容範囲を表す。ガラスの含有量が少なすぎると、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、ガラスの含有量は、50vol%以上が好ましい。ガラスの含有量は、好ましくは、60vol%以上である。
一方、ガラスの含有量が過剰になると、誘電体組成物の比誘電率が低下する。従って、ガラスの含有量は、90vol%以下が好ましい。ガラスの含有量は、好ましくは、80vol%以下、さらに好ましくは、70vol%以下である。
【0027】
[1.3.3. 不純物の含有量]
第1の実施の形態に係る誘電体組成物は、BaTiO
3系粒子及びガラスのみからなるものが好ましいが、これら以外の成分(不純物)が含まれていても良い。しかし、不純物の含有量が過剰になると、誘電体組成物の誘電体特性が低下する場合がある。従って、不純物の含有量は、5vol%以下が好ましい。不純物の含有量は、好ましくは、3vol%以下、さらに好ましくは、1vol%以下である。
ここで、「不純物の含有量」とは、誘電体組成物に含まれるすべての成分(気孔を除く)の総体積に対する不純物の体積の割合をいう。
【0028】
[1.4. 気孔率]
誘電体組成物に含まれる気孔は、絶縁破壊強度を低下させる原因となる。従って、誘電体組成物の気孔率は、小さいほどよい。高い絶縁破壊強度を得るためには、気孔率は、5vol%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、3vol%以下、さらに好ましくは、1vol%以下である。
ここで、「気孔率」とは、誘電体組成物の全体積に占める気孔の体積の割合をいう。
【0029】
[2. 誘電体組成物(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る誘電体組成物は、
融点が400℃以上850℃以下であるガラスからなるマトリックスと、
前記マトリックス中に分散しているBaTiO
3系粒子と、
前記マトリックス中に分散している高熱伝導粒子と、
を備えている。
【0030】
[2.1. ガラス]
ガラスの詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
[2.2. BaTiO
3系粒子]
BaTiO
3系粒子の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0031】
[2.3. 高熱伝導粒子]
[2.3.1. 高熱伝導粒子の組成]
「高熱伝導粒子」とは、ガラス及びBaTiO
3系粒子よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導材料からなる粒子をいう。高熱伝導材料の熱伝導率は、高いほど良い。
また、誘電体組成物の比誘電率の低下を抑制するためには、高熱伝導材料の比誘電率は、少なくともガラスの比誘電率以上が好ましい。
【0032】
高熱伝導材料は、上述の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。高熱伝導材料としては、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、サファイア、窒化ホウ素、酸化マグネシウムなどがある。
これらの中でも、窒化アルミニウム、アルミナ、及びサファイアは、高い熱伝導率と、ガラスよりも高い比誘電率を持つので、高熱伝導材料として好適である。
【0033】
[2.3.2. 平均粒径]
高熱伝導粒子の平均粒径は、誘電体組成物の熱伝導率及び比誘電率に影響を与える。一般に、高熱伝導粒子の平均粒径が小さくなるほど、少量の添加で誘電体組成物内に熱伝導パスが形成されやすくなるので、比誘電率の低下を抑制することができる。このような効果を得るためには、高熱伝導粒子の平均粒径は、2μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、1μm以下である。
一方、高熱伝導粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、目的とする熱伝導度を得るのに必要な高熱伝導粒子の量が多くなり、緻密化が阻害される。従って、高熱伝導粒子の平均粒径は、200nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、300nm以上、さらに好ましくは、500nm以上である。
【0034】
[2.3.3. 粒子形状]
高熱伝導粒子の粒子形状は、誘電体組成物の熱伝導率及び比誘電率に影響を与える。高熱伝導粒子は、等軸状粒子でもよい。しかし、高熱伝導粒子のアスペクト比が大きくなるほど、少量の添加で誘電体組成物内に熱伝導パスが形成されやすくなるので、比誘電率の低下を抑制することができる。このような効果を得るためには、高熱伝導粒子のアスペクト比は、2以上が好ましい。アスペクト比は、好ましくは、3以上である。
【0035】
[2.4. 誘電体組成物(2)の組成]
第2の実施の形態に係る誘電体組成物は、次の式(3)〜式(5)の関係を満たしているのが好ましい。
10vol%≦x×100/(x+y+z)≦50vol% ・・・(3)
10vol%≦y×100/(x+y+z)≦50vol% ・・・(4)
20vol%≦z×100/(x+y+z)≦60vol% ・・・(5)
但し、
xは、前記誘電体組成物に含まれる前記BaTiO
3の体積、
yは、前記誘電体組成物に含まれる前記ガラスの体積、
zは、前記誘電体組成物に含まれる高熱伝導粒子の体積。
【0036】
[2.4.1. BaTiO
3系粒子の含有量]
式(3)は、BaTiO
3系粒子の含有量の許容範囲を表す。ガラス及び高熱伝導粒子は、BaTiO
3系粒子に比べて比誘電率が小さい。そのため、BaTiO
3系粒子の含有量が少なすぎると、誘電体組成物の比誘電率が低下する。従って、BaTiO
3系粒子の含有量は、10vol%以上が好ましい。BaTiO
3系粒子の含有量は、好ましくは、30vol%以上である。
一方、BaTiO
3系粒子の含有量が過剰になると、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、BaTiO
3系粒子の含有量は、50vol%以下が好ましい。
【0037】
[2.4.2. ガラスの含有量]
式(4)は、ガラスの含有量の許容範囲を表す。ガラスの含有量が少なすぎると、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、ガラスの含有量は、10vol%以上が好ましい。ガラスの含有量は、好ましくは、20vol%以上である。
一方、ガラスの含有量が過剰になると、誘電体組成物の比誘電率が低下する。従って、ガラスの含有量は、50vol%以下が好ましい。ガラスの含有量は、好ましくは、40vol%以下である。
なお、ガラス及び高熱伝導粒子の比誘電率は、BaTiO
3系粒子に比べて格段に小さい。そのため、第1の実施の形態に比べてガラスの含有量が少ない場合であっても、ガラスと高熱伝導粒子の総含有量が適切な範囲にある時には、絶縁破壊強度の低下を抑制することができる。
【0038】
[2.4.3. 高熱伝導粒子の含有量]
式(5)は、高熱伝導粒子の含有量の許容範囲を表す。ガラス及びBaTiO
3系粒子は、高熱伝導粒子に比べて熱伝導率が小さい。そのため、高熱伝導粒子の含有量が少なすぎると、誘電体組成物の熱伝導率の向上が不十分となる。従って、高熱伝導粒子の含有量は、20vol%以上が好ましい。熱伝導粒子の含有量は、好ましくは、30vol%以上である。
一方、高熱伝導粒子の含有量が過剰になると、気孔率が増大し、絶縁破壊強度が低下する場合がある。従って、高熱伝導粒子の含有量は、60vol%以下が好ましい。高熱伝導粒子の含有量は、好ましくは、50vol%以下である。
【0039】
[2.4.4. 不純物の含有量]
第2の実施の形態に係る誘電体組成物は、BaTiO
3系粒子、ガラス及び高熱伝導粒子のみからなるものが好ましいが、これら以外の成分(不純物)が含まれていても良い。不純物の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
[2.5. 気孔率]
気孔率の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0041】
[3. 誘電体組成物の製造方法]
本発明に係る誘電体組成物は、
(a)所定の組成となるように原料を混合し、
(b)混合物を所定の形状に成形し、
(c)成形体を所定の温度で加熱する
ことにより製造することができる。
【0042】
[3.1. 混合工程]
まず、所定の組成となるように原料を混合する(混合工程)。原料の混合方法及び混合条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を用いることができる。
【0043】
マトリックスの原料には、ガラス粉末が用いられる。ガラス粉末の粒径が大きすぎると、マトリックス中にBaTiO
3系粒子及び高熱伝導粒子を均一に分散させるのが困難となる。従って、ガラス粉末の平均粒径は、5μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、3μm以下である。
一方、ガラス粉末の平均粒径を必要以上に小さくすると、効果が飽和するだけでなく、製造コストの増大を招く。従って、ガラス粉末の平均粒径は、0.5μm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、1μm以上である。
【0044】
本発明においては、従来より低温において焼結が行われるため、BaTiO
3系粒子及び高熱伝導粒子は、焼結時にほとんど粒成長しない。すなわち、原料粉末の平均粒径は、誘電体組成物中に含まれる粒子の平均粒径にほぼ等しい。各粒子の平均粒径の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0045】
[3.2. 成形工程]
次に、原料粉末の混合物を所定の形状に成形する(成形工程)。混合物の成形方法及び成形条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。成形方法としては、例えば、スクリーン印刷法、シート成形法、金型プレス法などがある。
【0046】
[3.3. 焼結工程]
次に、成形体を所定の温度で加熱する(焼結工程)。焼結方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。例えば、スクリーン印刷法を用いて成形体を作製した場合、焼結方法は常圧焼結法が好ましい。一方、シート成形法又は金型プレス法を用いて成形体を作製した場合、焼結方法は加圧焼結法が好ましい。
また、高熱伝導粒子を含む誘電体組成物の場合、緻密化しにくいので、焼結方法として加圧焼結法を用いるのが好ましい。
【0047】
焼結温度は、ガラスの融点(T
m)以上が好ましい。成形体をT
m以上の温度に加熱すると、ガラスが溶融して均一なマトリックスが形成されると同時に、粒子間の空隙にガラスが進入し、緻密化する。焼結温度は、好ましくは、T
m+30℃以上である。
一方、焼結温度が高すぎると、ガラスとBaTiO
3との反応により、ポアが生成しやすくなる。従って、焼結温度は、T
m+100℃以下が好ましい。焼結温度は、好ましくは、T
m+50℃以下である。
【0048】
[4. 作用]
BaTiO
3系粒子は、比誘電率及び耐電圧性に優れている。このようなBaTiO
3系粒子を適度な融点を持つガラスマトリックス中に分散させると、耐熱性を著しく低下させることなく、低温での焼結が可能となる。
ハイブリッド車やHV車のPCUの使用温度は、300℃以下である。本発明においては、マトリックスとして低融点のガラスを用いているが、その融点は400〜850℃であるため、PCUに使用可能な程度の耐熱性を備えている。
【0049】
また、ガラスの熱伝導率は0.75W/m・K程度、BaTiO
3系粒子のそれは6W/m・K程度である。そのため、ガラスとBaTiO
3系粒子のみからなる誘電体組成物では、熱伝導性が不十分となる場合がある。これに対し、このような誘電体組成物に対して、比誘電率がガラスと同等以上の高熱伝導粒子をさらに複合化すると、比誘電率を低下させることなく、高熱伝導粒子無添加の場合と比べて熱伝導性が向上する。そのため、本発明に係る誘電体組成物を用いると、高耐熱性、高耐電圧、及び高熱伝導性に優れたコンデンサを創製することができる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
出発原料には、ホウケイ酸塩系ガラス粉末、BaTiO
3粉末、及びAlN粉末を用いた(表1参照)。BaTiO
3粉末の量が30vol%一定であり、AlN粉末の量が0vol%、20vol%、40vol%、又は60vol%であり、残部が非晶質のホウケイ酸塩系ガラス粉末からなる4水準の試料を作製した。
【0051】
【表1】
【0052】
所定量のガラス粉末、BaTiO
3粉末、及びAlN粉末をポリポットに入れた。さらに、その中にジルコニアボールとエタノールを入れ、ボールミルで4時間混合した。混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、250メッシュの篩でふるい、混合粉を得た。その混合粉を金型プレスにて、φ13mm、厚さ1mmのペレットに成形した。そのペレットを焼成温度:550℃、保持時間:30分で加圧焼結し、焼結体を得た。
【0053】
[2. 試験方法]
得られた焼結体の表面に外部電極となる銀ペーストを焼き付けた。銀ペーストは、樹脂硬化型であり、スクリーン印刷で印刷した。焼き付け条件は、温度:150℃、保持時間:30分とした。作製した試料の比誘電率、tanδ、及び熱伝導率を測定した。比誘電率及びtanδの測定には、インピーダンスアナライザーを用いた。また、熱伝導率の測定には、熱伝導率測定装置(レーザーフラッシュ法)を用いた。さらに、得られた焼結体のSEM観察を行った。
【0054】
[3. 結果]
[3.1. 誘電特性]
図1に、30vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量と比誘電率との関係を示す。加圧焼結法により焼結体を作製した場合において、AlN粒子を含まない時には、比誘電率は31であった。AlN粒子を添加した場合、比誘電率は、AlN量が多くなるに従って小さくなり、AlN量40vol%で17.5であった。
図2に、30vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量とtanδとの関係を示す。tanδは、AlNの有無に関係なく、0.02以下と小さかった。
【0055】
[3.2. 熱伝導特性]
図3に、30vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量と熱伝導率との関係を示す。AlN粒子を含まない場合、熱伝導率は0.6W/m・Kであった。AlN粒子を添加した場合、熱伝導率は、AlN量が多くなるに従って大きくなった。AlN量が40vol%の時に、熱伝導率は最大値:1.55W/m・Kとなり、AlN無添加の試料に比べて約2.6倍となった。
【0056】
[3.3. 組織]
図4に、30vol%BaTiO
3−30vol%ホウケイ酸塩系ガラス−40vol%AlNからなる誘電体組成物のSEM像(倍率:10,000倍)を示す。
図4より、ガラスマトリックス中にBaTiO
3粒子とAlN粒子が均一に分散していることがわかる。また、BaTiO
3とAlNの粒界にガラスが点在しており、ガラスによってBaTiO
3とAlNが固着されていることがわかる。
【0057】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
実施例1と同様にして、BaTiO
3粉末の量が50vol%一定であり、AlN粉末の量が0vol%、20vol%、又は40vol%であり、残部が非晶質のホウケイ酸塩系ガラス粉末からなる3水準の試料を作製した。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、比誘電率、tanδ、及び熱伝導率の測定、並びに、SEM観察を行った。
【0058】
[3. 結果]
[3.1. 誘電特性]
図5に、50vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量と比誘電率との関係を示す。加圧焼結法により焼結体を作製した場合において、AlN粒子を含まない時には、比誘電率は55であった。AlN粒子を添加した場合、比誘電率は、AlN量が多くなるに従って小さくなった。
図6に、50vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量とtanδとの関係を示す。tanδは、AlNの有無に関係なく、0.025以下と良好であった。
【0059】
[3.2. 熱伝導特性]
図7に、50vol%BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラス−AlNからなる誘電体組成物のAlN量と熱伝導率との関係を示す。AlN粒子を含まない場合、熱伝導率は0.7W/m・Kであった。AlN粒子を添加した場合、熱伝導率は、AlN量が多くなるに従って大きくなった。AlN量が20vol%の時に、熱伝導率は1.1W/m・Kとなった。また、AlN量が40vol%の時に、熱伝導率は1.17W/m・Kとなり、AlN無添加の試料に比べて約1.7倍となった。
【0060】
[3.3. 組織]
図8に、50vol%BaTiO
3−30vol%ホウケイ酸塩系ガラス−20vol%AlNからなる誘電体組成物のSEM像(倍率:10,000倍)を示す。
図8より、ガラスマトリックス中にBaTiO
3粒子及びAlN粒子が均一に分散していることがわかる。
【0061】
(参考例3)
[1. 試料の作製]
BaTiO
3粉末の量を0〜60vol%、AlN粉末の量を0vol%とした以外は、実施例1と同様にして混合粉を得た。この混合粉をスクリーン印刷法を用いて成形体とし、成形体を常圧焼結した。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、比誘電率の測定、及びSEM観察を行った。
【0062】
[3. 結果]
図9に、BaTiO
3−ホウケイ酸塩系ガラスからなる誘電体組成物のBaTiO
3量と比誘電率との関係を示す。なお、
図9には、加圧焼結法により得られた焼結体(実施例1、2)の結果も併せて示した。
加圧焼結体の場合、ほぼ対数混合則に対応する比誘電率を示した。一方、常圧焼結体の場合、BaTiO
3量が30vol%までは、対数混合則と一致した。しかし、それ以上では対数混合則から外れた。要因の一つとして、スクリーン印刷法+常圧焼結法では、BaTiO
3量が高くなると、ガラスによる固着が低くなり、ポアが増えるためと考えられる。
【0063】
図10に、30vol%BaTiO
3−70vol%ホウケイ酸塩系ガラスからなる誘電体組成物のSEM像(倍率:6,000倍)を示す。
図11に、20vol%BaTiO
3−80vol%ホウケイ酸塩系ガラスからなる誘電体組成物のSEM像(倍率:6,000倍)を示す。さらに、
図12に、50vol%BaTiO
3−50vol%ホウケイ酸塩系ガラスからなる誘電体組成物のSEM像(倍率:10,000倍)を示す。
図10〜
図12より、BaTiO
3量が50vol%になると、ポアが若干増加していることがわかる。
【0064】
(参考例4)
[1. 試料の作製]
出発原料には、4種類のガラス粉末、及びBaTiO
3粉末を用いた。BaTiO
3粉末の量は、10vol%、20vol%、又は30vol%とした。ガラス粉末には、
(a)リン酸塩系ガラス(非晶質):P
2O
5−Al
2O
3−R
2O−ZnO、
(b)ビスマス酸塩系ガラス(非晶質):SiO
2−B
2O
3−Bi
2O
3−ZnO、
(c)鉛入りガラス(結晶質):B
2O
3−SiO
2−ZnO−PbO−ZrO
2、及び
(d)ヴァナジウム系ガラス(主成分:V
2O
3)
を用いた。
【0065】
所定量のガラス粉末及びBaTiO
3粉末をポリポットに入れた。その中にジルコニアボール及びエタノールを入れ、ボールミルで4時間混合した。混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、250メッシュの篩でふるい、混合粉を得た。その混合粉とエチルセルロース(バインダ)を容器に所定量入れ、自転・公転ミキサーで混合し、ペーストを得た。そのペーストを用いてスクリーン印刷法により厚膜を印刷した。さらに、厚膜を焼結温度450℃、保持時間10分の条件で常圧焼結し、焼結体を得た。
【0066】
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして、比誘電率及びtanδの測定を行った。
図13〜
図20に、その結果を示す。
図13〜
図20より、以下のことが分かる。
(1)リン酸塩系ガラス粉末を用いた焼結体の場合、比誘電率は、BaTiO
3の増加に伴って大きくなり、ほぼ対数混合則と一致した。tanδは、0.06以下であった。
(2)ビスマス酸塩系ガラス粉末又は鉛入り系ガラス粉末を用いた焼結体の比誘電率及びtanδは、リン酸塩系ガラス粉末を用いた焼結体と同様の傾向を示した。
(3)ヴァナジウム系ガラス粉末を用いた焼結体の場合、比誘電率の対数混合則からの乖離が大きく、tanδも若干高い。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。