(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709007
(24)【登録日】2020年5月26日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法
(51)【国際特許分類】
H05B 33/04 20060101AFI20200601BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20200601BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
H05B33/04
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-246362(P2018-246362)
(22)【出願日】2018年12月28日
(62)【分割の表示】特願2014-110488(P2014-110488)の分割
【原出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2019-50220(P2019-50220A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2019年1月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】硯里 善幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 正宣
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
【審査官】
辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0234813(US,A1)
【文献】
特開平01−263158(JP,A)
【文献】
特開平06−340870(JP,A)
【文献】
特開平10−088352(JP,A)
【文献】
特開2009−193774(JP,A)
【文献】
特開2014−041776(JP,A)
【文献】
特開2014−024908(JP,A)
【文献】
特開2005−195749(JP,A)
【文献】
特開2006−286616(JP,A)
【文献】
特開2007−184279(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0203210(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第103779379(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機エレクトロルミネッセンス素子上に、無機酸化物からなる封止膜を形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法であって、封止膜が複数層であり、当該封止膜の形成が、1層目がフッ素系アルコールを用いた塗布成膜により行われ、2層目以降がメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びブタノールよりなる群から選択されるアルコールを用いた塗布成膜により行われることを特徴とする前記有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法。
【請求項2】
有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機エレクトロルミネッセンス層と前記封止膜の間に、有機エレクトロルミネッセンス層溶出防止層を形成することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法。
【請求項3】
前記有機エレクトロルミネッセンス層溶出防止層が有機材料で形成され、前記有機材料がトリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、又はスチルベン誘導体であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法。
【請求項4】
前記封止膜の少なくとも1層が酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法。
【請求項5】
ダムフィル構造による封止、又は、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又はホットメルト樹脂を用いた封止と併用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の封止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)の封止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄膜面発光デバイスであり、さらなる高付加価値化が求められている。特に、フィルム、薄膜ガラス、金属フォイル等からなるフレキシブル基板を用いたフレキシブル有機ELが注目を集めている。フレキシブル有機ELは、軽く、アンブレイカブルであり、可撓性があるという特長を有しており、これまでにない商品を生み出す可能性がある。
【0003】
しかしながら、フレキシブル有機ELパネルにおける封止方法は、ガラス等のリジッド基板とは異なる。一般的に、ガラス基板での封止においては、中空の封止キャップ等が用いられるが、フレキシブル基板では、中空の封止キャップを用いることはできず、CVD法やスパッタ法等の真空成膜による膜封止方法が用いられることが報告されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4538304号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】パイオニア技報 Vol.11,No.3,p.48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CVD法やスパッタ法による膜封止方法では、成膜スピードが遅いため、生産性が悪く、高コストとなる。封止膜として窒化酸化ケイ素膜や酸化ケイ素膜が用いられるが、成膜スピードを上げると、緻密な膜が得られない、有機EL素子にダメージを与える等の課題を有していた。また、無機酸膜内部に応力が発生するため、ひび割れや有機EL素子にダメージを与える場合もある。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、フレキシブル有機ELパネルを低コストで提供するための新たな有機EL素子の封止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る有機EL素子の封止方法は、有機エレクトロルミネッセンス素子上に、無機酸化物からなる封止膜
を形成す
る方法
であって、封止膜が複数層であり、当該封止膜の形成が、1層目がフッ素系アルコールを用いた塗布成膜により行われ、2層目以降がメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びブタノールよりなる群から選択されるアルコールを用いた塗布成膜により行われることを特徴とする。
【0009】
前記有機EL素子を構成する有機EL層と前記封止膜の間に、有機EL層溶出防止層を形成してもよい。
【0010】
前記有機EL層溶出防止層は有機材料で形成され、該有機材料はトリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、又はスチルベン誘導体であることが好ましい。
【0012】
また、前記封止膜の少なくとも1層が酸化チタンであることが好ましい。
【0013】
上記封止方法は、ダムフィル構造による封止、又は、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又はホットメルト樹脂を用いた封止と併用してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る有機EL素子の封止方法は、非常に簡便であり、フレキシブルなデバイスにも対応が可能でありながら、有機EL素子を外気の水分、酸素から保護し、有機ELの保存性を向上させることができる。
上記方法による封止膜を備えた有機EL素子は、表示素子や光源等としての有効利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例に係る有機EL素子の層構造の概略断面図である。
【
図2】実施例1の有機EL素子について、23℃、湿度40%で2か月間放置した後の発光状態を示した写真(倍率50倍)である。
【
図3】実施例2の有機EL素子について、23℃、湿度40%で2か月間放置した後の発光状態を示した写真(倍率50倍)である。
【
図4】実施例3の有機EL素子について、23℃、湿度40%で2か月間放置した後の発光状態を示した写真(倍率50倍)である。
【
図5】比較例1の有機EL素子について、23℃、湿度40%で2か月間放置した後の発光状態を示した写真(倍率50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る有機EL素子の封止方法は、有機EL素子上に、無機酸化物からなる封止膜を塗布成膜により形成するものである。
塗布型膜による封止は、塗布した際に有機EL層が溶出するという問題がある。これに対して、本発明においては、塗布液としてアルコール、好ましくは、フッ素系アルコールを用い、また、前記塗布液に溶解しないバッファ層として有機EL層溶出防止層を電極の上に形成することにより、下層の有機EL層の溶解を抑制することができる。
【0017】
前記封止膜の形成には、無機酸化物のゾルゲル法を用いる。例えば、フッ素系アルコールに溶解したチタニアアルコキシドを塗布後、焼成することにより、封止膜が得られる。
【0018】
ゾルゲル法により形成される無機酸化物の封止膜は、金属塩又は金属アルコキシドの加水分解により得られる。
具体的は、まず、塗布液として、金属アルコキシドのゾルゲル液を調製する。金属種としては、Siが好ましく、それ以外には、Ti、Sn、Al、Zn、Zr、In等や、これらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記金属の酸化物の前駆体を適宜混合したものを用いることもできる。中でも、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)が好ましい。
例えば、シリカの場合は、シリカ前駆体としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシドモノマーや、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン等のトリアルコキシドモノマーや、これらのモノマーを少量重合したポリマー、前記モノマー又はポリマーの一部に官能基やポリマーを導入した複合材料等のシリコンアルコキシドが挙げられる。
さらに、金属アルコキシド以外に、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、オキシ塩化物、塩化物や、これらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
前記ゾルゲル液の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、二硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、及び、これらの混合溶媒が挙げられる。特に、アルコール類であるエタノール又はイソプロピルアルコールが好ましい。より好ましくは、フッ素系アルコールが挙げられる。テトラフルオロプロパノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等である。
【0020】
前記ゾルゲル液には、添加物を混合してもよい。例えば、アミン系化合物や界面活性剤等を混合することができる。
【0021】
有機EL素子は、水分に弱いため、水分濃度100ppm以下、好ましくは10ppm以下で、ゾルゲル液を調液する。塗布の際には、ゾルゲル反応の進行を促進させるために、水分や触媒を含んでいてもよいが、水分を含む場合には、脱水溶媒にて、上記範囲内の水分濃度の不活性雰囲気下でゾルゲル液を調液した後、大気に10秒〜5分程度開放して、水分を混入させてもよい。
【0022】
前記ゾルゲル液は、スピンコート法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スリットダイコート法等のウェットプロセスにより成膜されるが、塗布成膜方法はこれに限定されるものではない。
【0023】
塗布成膜後、加熱プロセス、光焼成プロセス等により緻密な膜形成を行うことが好ましい。
加熱プロセスを用いる場合は、有機EL素子に熱ダメージを与えない温度範囲で行う必要があり、150℃以下で行うことが好ましい。
また、光焼成プロセスを用いる場合は、無機酸化物の光吸収がある光であることが好ましく、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマーランプ等を用いることができるが、これに限定されるものではない。波長300nm以下の光が好ましく、特に、波長254nm又は172nmの光が好ましい。
加熱プロセス及び光焼成プロセスは、同時に行ってもよい。
【0024】
前記封止膜の膜厚は5nm〜10μmであることが好ましい。
【0025】
また、有機EL素子を構成する有機EL層と前記封止膜の間に、有機EL層溶出防止層を形成してもよい。有機EL層溶出防止層は、有機EL素子上に塗布成膜されるゾルゲル液が有機EL素子に与えるダメージを抑制するための層であり、また、有機EL自体もしくはパーティクルによる凹凸を平坦化することができる。
【0026】
前記有機EL層溶出防止層は、ゾルゲル液であるアルコール溶媒に不溶な有機材料を蒸着法にて形成してもよい。該有機材料としては、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体等の多くの有機EL材料を適用することができ、特に限定されるものではない。
また、前記有機EL層溶出防止層は、塗布にて形成してもよい。塗布により形成する材料としては、熱硬化型又はUV硬化型の無溶剤モノマーが好ましく、特に、硬化型シリコーンモノマーが好ましい。無溶剤モノマーを塗布後、熱硬化及び/又はUV硬化により固体薄膜化させ、有機EL層溶出防止層を形成する。
前記有機EL層溶出防止層には、水分・酸素を吸収するゲッター剤を混合してもよい。
【0027】
本発明に係る封止方法は、他の封止方法と併用してもよい。すなわち、上記のような塗布方法により形成した無機酸化物からなる封止膜の上に、さらに、封止構造を設けてもよい。
該封止構造としては、封止基板を用いたダムフィル構造や、封止基板をUV硬化樹脂、熱硬化樹脂又は熱可塑性樹脂(ホットメルト樹脂)による封止構造が挙げられる。前記封止基板は、高い水分バリア性、フレキシブル性を有していることが好ましい。
前記ダムフィル構造におけるフィル剤、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又は熱可塑性樹脂には、水分・酸素を吸収するゲッター剤を混合してもよい。
【0028】
本発明における有機EL素子は、特に限定されるものではなく、様々な層構造、蛍光方式やリン光方式や熱活性遅延蛍光方式等の様々な発光方式のものでよい。発光ユニットを多段に配置し、電荷発生層を直列に介したマルチフォトン(タンデム)素子であってもよい。
また、前記有機EL素子は、真空成膜方式や塗布成膜方式、真空と塗布成膜方式を混合したハイブリット素子のいずれの成膜方式によって形成されたものでもよい。さらに、有機EL素子の2つの電極は、封止膜側の電極が透明であり、封止膜方向に光を取り出すものであってもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。
図1に記載したような封止構造の有機EL素子を作製した。基板1上に電極(陽極)2としてITOを成膜した基板に、有機EL層3として、正孔注入層MoO
3を膜厚5nm、正孔輸送層NPDを膜厚40nm、発光層兼電子輸送層Alq
3を膜厚60nm、電子注入層LiFを膜厚1nm、さらに、電極(陰極)4としてAlを膜厚100nm、有機EL層溶出防止層5としてTPTEを膜厚100nmで真空成膜した有機EL素子を作製した。
【0030】
水分濃度1ppm以下の乾燥窒素雰囲気下のグローブボックス内で、チタニウムテトライソプロポキシド(Ti(OiPr)
4)の2wt%脱水テトラフルオロプロパノール溶液を調液し、湿度30%の大気に1分間開放し、すぐにグローブボックス内に戻した溶液
をゾルゲル液−1とした。
【0031】
同様に、水分濃度1ppm以下の乾燥窒素雰囲気下のグローブボックス内で、チタニウムテトライソプロポキシド(Ti(OiPr)
4)の2wt%脱水n−ブタノール溶液を調液し、湿度40%の大気に1分間開放し、すぐにグローブボックス内に戻した溶液をゾルゲル液−2とした。
【0032】
ゾルゲル液−1,2を下記表1に示すような各条件で3層塗布成膜して封止膜6を形成し、23℃、湿度40%で2か月間放置した後の発光状態を観察し、封止性能の評価を行った。
図2〜5に、各有機EL素子の発光状態の写真を示す。
なお、加熱は、グローブボックス内でホットプレートを用いて行った。また、UV照射は、グローブボックス内で、低圧水銀灯を37mW/cm
2の強度で照射した。
【0033】
【表1】
【0034】
上記評価結果から、本発明に係る塗布成膜による封止膜により高い封止性能が得られることが認められた。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2,4 電極
3 有機EL層
5 有機EL溶出防止層
6 封止膜