(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6709013
(24)【登録日】2020年5月26日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】生活習慣評価システムおよびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/107 20060101AFI20200601BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
A61B5/107
A61B8/00
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-508064(P2020-508064)
(86)(22)【出願日】2019年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2019017959
【審査請求日】2020年2月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520033409
【氏名又は名称】株式会社HIL
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】井浦 憲治
【審査官】
冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−202208(JP,A)
【文献】
特開2001−212111(JP,A)
【文献】
特開2018−000597(JP,A)
【文献】
特開2015−080570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 − 5/22
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を評価する生活習慣評価システムにおいて、
被験者の腹部を超音波プローブで撮像することによって得られた断層画像に描出された生体部位のうち、左右の腹直筋の領域、および、所定の脂肪層の領域をそれぞれ識別して、生活習慣の評価指標データとして、少なくとも、左右の腹直筋の形状的な特徴を示す腹直筋評価指標データ、および、脂肪層の量的な特徴を示す脂肪層評価指標データを出力する特徴評価部と、
左右の腹直筋の形状的な特徴と、脂肪層の量的な特徴と、生活習慣に関する対策を体系的に分類した対策パターンとが対応付けられた知識データベースを備え、前記腹直筋評価指標データ、および、前記脂肪層評価指標データを前記知識データベースに入力することによって、いずれかの対策パターンを選択的に提示する対策提示部と
を有することを特徴とする生活習慣評価システム。
【請求項2】
前記脂肪層評価指標データは、皮下脂肪層の量的な特徴を示す第1の脂肪層評価指標データ、および、内蔵脂肪層の量的な特徴を示す第2の脂肪層評価指標データを含み、
前記知識データベースには、皮下脂肪層の量的な特徴と、内蔵脂肪層の量的な特徴と、前記対策パターンとが対応付けられており、
前記対策提示部は、前記脂肪層評価指標データとして、前記第1の脂肪層評価指標データ、および、前記第2の脂肪層評価指標データを前記知識データベースに入力することを特徴とする請求項1に記載された生活習慣評価システム。
【請求項3】
前記腹直筋評価指標データは、腹直筋の厚みと、腹直筋横断像中線と隆起最高点とがなす角度と、腹直筋横断像中線からの立上り形態を示す立上がりとを含むことを特徴とする請求項1に記載された生活習慣評価システム。
【請求項4】
前記特徴評価部は、
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを識別する第1の学習モデルと、
前記第1の学習モデルによって識別された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを所定の基準に従って測定し、当該測定によって得られた複数の測定結果に基づいて、前記評価指標データを出力する測定部と
を有することを特徴とする請求項1に記載された生活習慣評価システム。
【請求項5】
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれの位置を教示する教師データを用いた教師あり学習によって、前記第1の学習モデルの学習処理を行う第1の学習処理部をさらに有することを特徴とする請求項4に記載された生活習慣評価システム。
【請求項6】
前記特徴評価部は、
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を、予め定められた複数の分類パターンのいずれかに分類する第2の学習モデルを有し、
前記第2の学習モデルによって分類された前記分類パターンに基づいて、前記評価指標データを出力することを特徴とする請求項1に記載された生活習慣評価システム。
【請求項7】
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を分類した分類パターンを教示する教師データを用いた教師あり学習によって、前記第2の学習モデルの学習処理を行う第2の学習処理部をさらに有することを特徴とする請求項6に記載された生活習慣評価システム。
【請求項8】
前記評価指標データは、前記断層画像における腹直筋の輝度を示す輝度評価指標データを含み、
前記知識データベースには、腹直筋の輝度と、前記対策パターンとが対応付けられており、
前記対策提示部は、前記輝度評価指標データを前記知識データベースに入力することを特徴とする請求項1に記載された生活習慣評価システム。
【請求項9】
前記断層画像は、被験者の上半身が起立した状態で、前記超音波プローブによって取得されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載された生活習慣評価システム。
【請求項10】
メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を評価する生活習慣評価プログラムにおいて、
被験者の腹部を超音波プローブで撮像することによって得られた断層画像に描出された生体部位のうち、左右の腹直筋の領域、および、所定の脂肪層の領域をそれぞれ識別して、生活習慣の評価指標データとして、少なくとも、左右の腹直筋の形状的な特徴を示す腹直筋評価指標データ、および、脂肪層の量的な特徴を示す脂肪層評価指標データを出力する第1のステップと、
左右の腹直筋の形状的な特徴と、脂肪層の量的な特徴と、生活習慣に関する対策を体系的に分類した対策パターンとが対応付けられた知識データベースに、前記腹直筋評価指標データ、および、前記脂肪層評価指標データを入力することによって、いずれかの対策パターンを選択的に提示する第2のステップと
を有する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする生活習慣評価プログラム。
【請求項11】
前記脂肪層評価指標データは、皮下脂肪層の量的な特徴を示す第1の脂肪層評価指標データ、および、内蔵脂肪層の量的な特徴を示す第2の脂肪層評価指標データを含み、
前記知識データベースには、皮下脂肪層の量的な特徴と、内蔵脂肪層の量的な特徴と、前記対策パターンとが対応付けられており、
前記第2のステップは、前記脂肪層評価指標データとして、前記第1の脂肪層評価指標データ、および、前記第2の脂肪層評価指標データを前記知識データベースに入力することを特徴とする請求項10に記載された生活習慣評価システム。
【請求項12】
前記腹直筋評価指標データは、腹直筋の厚みと、腹直筋横断像中線と隆起最高点とがなす角度と、腹直筋横断像中線からの立上り形態を示す立上がりとを含むことを特徴とする請求項10に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項13】
前記第1のステップは、
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを識別する第1の学習モデルに、前記超音波プローブによって取得された前記断層画像を入力するステップと、
前記第1の学習モデルによって識別された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを所定の基準に従って測定するステップとを有し、
前記第2のステップは、前記測定によって得られた複数の測定結果に基づいて、前記評価指標データを出力することを特徴とする請求項10に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項14】
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれの位置を教示する教師データを用いた教師あり学習によって、前記第1の学習モデルの学習処理を行う第3のステップをさらに有することを特徴とする請求項13に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項15】
前記第1のステップは、
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を、予め定められた複数の分類パターンのいずれかに分類する第2の学習モデルに、前記超音波プローブによって取得された前記断層画像を入力するステップを有し、
前記第2のステップは、前記第2の学習モデルによって分類された前記分類パターンに基づいて、前記評価指標データを出力することを特徴とする請求項10に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項16】
前記断層画像に描出された左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を分類した分類パターンを教示する教師データを用いた教師あり学習によって、前記第2の学習モデルの学習処理を行う第4のステップをさらに有することを特徴とする請求項15に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項17】
前記評価指標データは、前記断層画像における前記腹直筋の輝度を示す輝度評価指標データを含み、
前記知識データベースには、腹直筋の輝度と、前記対策パターンとが対応付けられており、
前記第2のステップは、前記輝度評価指標データを前記知識データベースに入力することを特徴とする請求項10に記載された生活習慣評価プログラム。
【請求項18】
前記断層画像は、被験者の上半身が起立した状態で、前記超音波プローブによって取得されることを特徴とする請求項10から17のいずれかに記載された生活習慣評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣評価システムおよびそのプログラムに係り、特に、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタボリックシンドロームの診断を行う手法が知られている。例えば、特許文献1には、臍位置における腹部周囲径と、腹部皮下脂肪厚とに基づいて、内臓脂肪を推定する内臓脂肪推定方法が開示されている。特許文献2には、超音波プローブによって取得された被検部画像において、腹膜前内蔵脂肪肥厚度(PFT)と、頸動脈血管肥厚度(IMT)と、上腕動脈血管内皮拡張度(FMD)とを測定し、これらの測定結果を総合してメタボリックシンドロームの危険度を診断・評価するメタボリックシンドローム血管評価システムが開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、メタボリックシンドロームの検診において、内臓脂肪量を表す指標値を測定する超音波システムが開示されている。この診断システムでは、まず、超音波プローブによって取得された腹部の断層画像において、体表面と腹部大動脈との間の長さaと、内臓脂肪含有領域の外縁と腹部大動脈との間の長さa1とが計測される。それとは別に、腹囲長が計測される。腹部断面の楕円近似を前提として、腹囲長と長さaとから腹部の全体面積が演算される。そして、全体面積と、長さa及び長さa1の比率とから、内臓脂肪含有領域の面積が相似形楕円の面積(部分面積)として演算され、その部分面積と、被験者についての1または複数の個人パラメータ値とから、内臓脂肪量を表す指標値が演算される。
【0004】
さらに、特許文献4には、超音波画像に基づいて、被験者の筋肉の厚さおよび脂肪の厚さを含む組織厚情報を求め、この組織厚情報に基づいて被験者の組織量指標値を目標値に近づけるための指針情報を生成する超音波測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−111166号公報
【特許文献2】特開2008−188077号公報
【特許文献3】特開2014−33816号公報
【特許文献4】特開2015−142619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、医療費の抑制などの観点から、健康づくり対策が推進されており、将来的なメタボリックシンドロームなどの発症を防止すべく、日々の生活習慣を改善して内臓脂肪を減少することが望まれている。しかしながら、現状、メタボリックシンドロームであるか否かの診断方法しか存在せず、これが未だ発症していない人も含めて、メタボリックシンドロームにならないように、生活習慣の改善や指導を行う仕組みは存在しない。いうまでもなく、痩せている人であっても、食べ過ぎや運動不足が続けば、将来的に発症する危険性があるので、メタボリックシンドロームが未発症の段階で生活習慣を評価し、必要に応じて改善を促すことの意義は大きい。本発明者は、医療現場、フィットネスジム、イベント会場などの様々な現場において、13年間で2万人以上の被験者の腹部の観察とヒアリングとを行い、痩せている人の食べ過ぎや運動不足を検証し続けた結果、客観性のある有効な評価手法を見出すに至った。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を適切に評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、
特徴評価部と、対策提示部とを有し、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を評価する生活習慣評価システムを提供する。
特徴評価部は、被験者の腹部を超音波プローブで撮像することによって得られた断層画像に描出された生体部位のうち、左右の腹直筋の領域、および、所定の脂肪層の領域をそれぞれ識別する。そして、特徴評価部は、生活習慣の評価指標データとして、少なくとも、左右の腹直筋の形状的な特徴を示す腹直筋評価指標データ、および、脂肪層の量的な特徴を示す脂肪層評価指標データを出力する。対策提示部は、知識データベースを備えている。この知識データベースには、左右の腹直筋の形状的な特徴と、脂肪層の量的な特徴と、生活習慣に関する対策を体系的に分類した対策パターンとが対応付けられている。対策提示部は、腹直筋評価指標データ、および、脂肪層評価指標データを知識データベースに入力することによって、いずれかの対策パターンを選択的に提示する。
【0009】
ここで、第1の発明において、
上記脂肪層評価指標データは、皮下脂肪層の量的な特徴を示す第1の脂肪層評価指標データ、および、内蔵脂肪層の量的な特徴を示す第2の脂肪層評価指標データを含んでいてもよい。この場合、上記知識データベースには、皮下脂肪層の量的な特徴と、内蔵脂肪層の量的な特徴と、前記対策パターンとが対応付けられており、上記対策提示部は、上記脂肪層評価指標データとして、第1の脂肪層評価指標データ、および、第2の脂肪層評価指標データを知識データベースに入力する。
【0010】
第1の発明において、上記特徴評価部は、第1の学習モデルと、測定部とを有していてもよい。第1の学習モデルは、断層画像に描出された
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを識別する。測定部は、第1の学習モデルによって識別された
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを所定の基準に従って測定し、この測定によって得られた複数の測定
結果に基づいて、評価指標データを出力する。この場合、第1の学習処理部を設けることが好ましい。第1の学習処理部は、断層画像に描出され
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれの位置を教示する教師データを用いた教師あり学習によって、第1の学習モデルの学習処理を行う。
【0011】
第1の発明において、上記特徴評価部は、第2の学習モデルを有していてもよい。第2の学習モデルは、断層画像に描出された
左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を、予め定められた複数の分類パターンのいずれかに分類する。そして、上記特徴評価部は、第2の学習モデルによって分類された分類パターンに基づいて、評価指標データを出力する。この場合、第2の学習処理部を設けることが好ましい。第2の学習
処理部は、断層画像に描出された
左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を分類した分類パターンを教示する教師データを用いた教師あり学習によって、第2の学習モデルの学習処理を行う。
【0012】
第1の発明において、
上記腹直筋評価指標データは、腹直筋の厚みと、腹直筋横断像中線と隆起最高点とがなす角度と、腹直筋横断像中線からの立上り形態を示す立上がりとを含んでいてもよい。また、上記評価指標データは、断層画像における腹直筋の輝度
を示す輝度評価指標データを含んでいてもよい。
この場合、上記知識データベースには、腹直筋の輝度と、対策パターンとが対応付けられており、上記対策提示部は、輝度評価指標データを知識データベースに入力する。さらに、上記断層画像は、被験者の上半身が起立した状態で、超音波プローブによって取得されることが好ましい。
【0013】
第2の発明は、以下のステップをコンピュータに実行させ
ることによって、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を評価する生活習慣評価プログラムを提供する。第1のステップでは、
被験者の腹部を超音波プローブで撮像することによって得られた断層画像に描出された生体部位のうち、左右の腹直筋の領域、および、所定の脂肪層の領域をそれぞれ識別して、生活習慣の評価指標データとして、少なくとも、左右の腹直筋の形状的な特徴を示す腹直筋評価指標データ、および、脂肪層の量的な特徴を示す脂肪層評価指標データを出力する。第2のステップでは、腹直筋評価指標データ、および、脂肪層評価指標データを知識データベースの入力とすることによって、いずれかの対策パターンを選択的に提示する。この知識データベースには、左右の腹直筋の形状的な特徴と、脂肪の量的な特徴と、生活習慣に関する対策を体系的に分類した対策パターンとが対応付けられている。
【0014】
ここで、第2の発明において、
上記脂肪層評価指標データは、皮下脂肪層の量的な特徴を示す第1の脂肪層評価指標データ、および、内蔵脂肪層の量的な特徴を示す第2の脂肪層評価指標データを含んでいてもよい。この場合、上記知識データベースには、皮下脂肪層の量的な特徴と、内蔵脂肪層の量的な特徴と、前記対策パターンとが対応付けられており、上記第2のステップは、上記脂肪層評価指標データとして、第1の脂肪層評価指標データ、および、第2の脂肪層評価指標データを知識データベースに入力する
【0015】
第2の発明において、上記第1のステップは、断層画像に描出された
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを識別する第1の学習モデルに、超音波プローブによって取得された断層画像を入力するステップと、第1の学習モデルによって識別された
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれを測定するステップとを有していてもよい。この場合、上記第2のステップは、測定によって得られた複数の測定
結果に基づいて、
上記評価指標データを出力する。また、この場合、断層画像に描出された
左右の腹直筋の領域および脂肪層の領域のそれぞれの位置を教示する教師データを用いた教師あり学習によって、第1の学習モデルの学習処理を行う第
3のステップを設けてもよい。
【0016】
第2の発明において、上記第1のステップは、断層画像に描出された
左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を、予め定められた複数の分類パターンのいずれかに分類する第2の学習モデルに、超音波プローブによって取得された断層画像を入力するステップを有していてもよい。この場合、上記第2のステップは、第2の学習モデルによって分類された分類パターンに基づいて、評価指標データを出力する。また、この場合、断層画像に描出された
左右の腹直筋の形状および脂肪層の量に関する統合的な特徴を分類した分類パターンを教示する教師データを用いた教師あり学習によって、第2の学習モデルの学習処理を行う第4のステップを設けてもよい。
【0017】
第2の発明において、
上記腹直筋評価指標データは、腹直筋の厚みと、腹直筋横断像中線と隆起最高点とがなす角度と、腹直筋横断像中線からの立上り形態を示す立上がりとを含んでいてもよい。また、上記評価指標データは、断層画像における腹直筋の輝度
を示す輝度評価指標データを含んでいてもよい。
この場合、上記知識データベースには、腹直筋の輝度と、対策パターンとが対応付けられており、上記第2のステップは、輝度評価指標データを知識データベースに入力する。さらに、上記断層画像は、被験者の上半身が起立した状態で、超音波プローブによって取得されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、
超音波プローブより取得された腹部の断層画像から、左右の腹直筋の領域およびの脂肪層の領域をそれぞれ識別し、生活習慣の評価指標データとして、左右の腹直筋
の形状的な特徴を示す腹直筋評価指標データ、および、脂肪層の量的な特徴を示す脂肪層評価指標データを出力する。
そして、これらの評価指標データを入力として知識データベースを参照することによって、生活習慣に関する対策を体系的に分類した対策パターンのいずれかが選択的に提示される。脂肪層
の量的な特徴のみならず、左右の直腹筋
の形状的な特徴にも着目し、これらの特徴を総合的に評価することで、メタボリックシンドロームを既に発症している人はもとより、それが未発症である人に対しても、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を適切に評価することができる。
それとともに、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣の改善などについて、客観性および有効性のある対策アドバイスを自動的に提示することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る生活習慣評価システムのブロック図
【
図6】対策アドバイスの組み合わせパターンの説明図
【
図8】第2の実施形態に係る生活習慣評価システムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る生活習慣評価システムのブロック図である。この生活習慣評価システム1は、被験者の腹部内部を撮像した超音波画像(エコー画像)に基づいて、主に、皮下脂肪層、内蔵脂肪層、左右の腹直筋といった4つの生体部位に関する量や形状などの特徴を評価し、これらを生活習慣の評価指標として出力する。ここで、生活習慣には様々なものが想定されるが、本実施形態が着目するのは、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣である。
【0021】
また、本実施形態に係る生活習慣評価システムは、被験者の生活習慣の改善などに役立つアドバイスを提示する機能も備えている。皮下脂肪、内臓脂肪、左右の腹直筋の量的、質的または形態的な変化を体系化することにより、食べ過ぎや運動不足などを誰でも理解できるように客観的に評価する。本実施形態の特徴の一つは、被験者の運動不足などを評価するために、皮下脂肪層や内蔵脂肪層のみならず、左右の腹直筋にも着目している点である。一般に、日常生活において腹直筋は手足の筋肉に比べて使わないため、腹直筋がしっかりしている人は、ほぼ四肢の筋肉はしっかりしていると考えることができる。このことから、左右の腹直筋の特徴を評価指標として導入することで、被験者の運動不足の程度を推定することができる。
【0022】
生活習慣評価システム1は、超音波プローブ2と、特徴評価部3Aと、対策提示部4と、学習処理部5とを有する。超音波プローブ2は、被験者の腹部を撮像して、腹部の断層画像を取得する。
図2は、被験者の腹部診断の説明図である。診察者は、被験者の腹部に超音波プローブ1を当接させることによって、腹部の断層画像を撮像する。同図の例は、肝臓近傍を撮像した断層画像であり、皮膚層の直下に位置する皮下脂肪層と、腹膜の直上に位置する内臓脂肪層と、皮下脂肪層および内蔵脂肪層の間に位置する左右の腹直筋(腹直筋)とが描出されている。
【0023】
ここで、断層画像を撮像するに際しては、図示したように、被験者の上半身が起立した状態で撮像することが好ましい。本発明者の長年に亘る試行錯誤の結果、被験者が横たわった状態よりも、上半身が起立した状態の方が、生体部位の変化(バラツキ)が比較的少なく、診断に適した良好な断層画像が安定的に取得できることを知得するに至った。
【0024】
超音波プローブ2によって取得された断層画像は、特徴評価部3Aに出力される。特徴評価部3Aは、超音波プローブ2の断層画像を入力として、評価指標データを出力する。この評価指標データは、断層画像に描出された生体部位のうち、少なくとも、皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とのそれぞれの特徴を示しており、これらの特徴を指標化したものである。
【0025】
本実施形態において、特徴評価部3Aは、学習モデル3aと、測定部3bとを有する。学習モデル3aは、ニューラルネットワークを主体に構築されており、所定の問題解決能力を備えている。具体的には、学習モデル3aは、断層画像の入力に対して、この断層画像に描出された皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とを領域的に識別する(
図2参照)。ここで、「ニューラルネットワーク」とは、ニューロンを数理モデル化したものの組み合わせであって、ニューラルネットワークとしての最も原始的な構成のみならず、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や再起型ニューラルネットワーク(RNN)の如く、その派生形や発展形などを広く包含する。また、ニューラルネットワーク系の物体検出アルゴリズムとして最近注目されているYOLO(You Only Look Once)やSSD(Single Shot MultiBox Detector)などを用いてもよい。
【0026】
学習モデル3aは、所定の関数(Y=f(X,θ))を備えており、その内部パラメータθ、例えば、ニューラルネットワークの結合重みは、断層画像の入力に対して、この断層画像中における着目すべき生体部位(皮下脂肪層、内臓脂肪層、および、左右の腹直筋)が適切に識別できるように、事前の学習によって予め調整されている。
【0027】
学習処理部5は、断層画像に描出された皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とのそれぞれの位置を教示する教師データを用いた教師あり学習によって、学習モデル3aの学習処理を行う。この学習処理によって、学習モデル3aの内部パラメータθが調整される。大量かつ多様な教師データを用いた教師あり学習を繰り返すことで、様々な入力に対して適切な出力が得られるように学習モデル3aが最適化される。
【0028】
測定部3bは、学習モデル3aによって領域的に識別された左右の腹直筋の特徴、具体的には、形状的な特徴を測定する。
図3は、一方の腹直筋の測定例の説明図である。本実施形態では、腹直筋の形状的な特徴として、厚みA、角度Bおよび立上りCを測定する。ここで、厚みAは腹直筋の厚み、角度Bは腹直筋横断像中線と隆起最高点とがなす角度、立上りCは腹直筋横断像中線からの立上り形態である。また、形状的な特徴の測定値A〜Cに加えて、
図4に示すように、断層画像に描出された左右の腹直筋の輝度Dを測定してもよい。一般に、筋肉が弱ったり、筋肉を積極的に使用してない期間が長くなるほど、腹直筋の輝度Dが高くなる(白くなる)。そこで、腹直筋の輝度の状態を輝度Dとし、これを評価することで、筋肉の健康状態を推測することができる。これらの測定値A〜Dは、左右の腹直筋のそれぞれについて算出される。
【0029】
図5は、腹直筋の特徴の分類図である。腹直筋の形状的な特徴(状態)は、腹直筋の測定値A〜Dに基づいて、予め規定された複数のフェイズのいずれかに分類される。同図において、フェイズ0は腹直筋が最も良好な状態(運動が最も十分)であり、フェイズが大きくなるほど、腹直筋の状態が徐々に弱っていき(運動不足の傾向が高まる)、フェイズ9が最も弱っている状態である(完全な運動不足)。腹直筋の形状的な特徴を代表化したフェイズは、評価指標データの一部として、対策提示部4に出力される。
【0030】
また、測定部3bは、学習モデル3aによって領域的に識別された皮下脂肪層および内蔵脂肪層の特徴、具体的には、これらの脂肪層の量的な特徴(状態)を個別に測定する。皮下脂肪層の量的な特徴は、皮下脂肪層の測定値(例えば厚み)に基づいて、予め規定された複数のフェイズのいずれかに分類される。同様に、内蔵脂肪層の量的な特徴(状態)は、内蔵脂肪層の測定値(例えば厚み)に基づいて、予め規定された複数のフェイズのいずれかに分類される。皮下脂肪層および内蔵脂肪層についての分類された各フェイズは、評価指標データの一部として、対策提示部4に出力される。
【0031】
対策提示部4は、特徴評価部3Aより出力された評価指標データに応じて、生活習慣に関する対策パターンを被験者に提示する。
図6に示すように、評価指標データは、少なくとも、内蔵脂肪層の量的な特徴を代表化した「皮下脂肪厚」(10段階)と、内蔵脂肪層の量的な特徴を代表化した「内臓脂肪厚」(10段階)と、腹直筋の形状的な特徴を代表化した「腹直筋の形」(10段階)とを有していれば足りるが(3次元のベクトル)、本実施形態では、これらに加えて、腹直筋の輝度の状態を代表化した「腹直筋の輝度」(5段階)と、「腹直筋の離れの有無」(2分類)と、「内臓圧排の有無」(2分類)とが存在する(6次元のベクトル)。これにより、2万通りの組み合わせに対して、考えられる原因の推察や対策を対策パターンとして提示することが可能となる。なお、対策パターンは、最大2万通り設定することは可能だが、実装上、ベクトル上の段階や分類を共通化して、これよりも少ないパターン数としてもよい。
【0032】
対策提示部4は、知識データベース4aを備える。この知識データベース4aには、生活習慣に関する対策を体系的に分類した多数の対策パターンが格納されており、評価指標データに応じて、いずれかの対策パターンが選択的に提示される。
図7に示すように、対策アドバイスの内容は、「内蔵脂肪厚」、「皮下脂肪厚」、「腹直筋の輝度」、「腹直筋の形」などによって個別に規定されている。ここで、「内臓脂肪厚」について、内臓脂肪の蓄積は、生活習慣病と直結した状態と考えられており、運動不足や、アルコール・脂肪・甘いものの摂取と相関がみられる。「皮下脂肪厚」については、内臓脂肪より変動し難く、筋肉のトレーニングでは減らず、有酸素運動などで減る傾向がみられる他、甘いものを摂る人ほど厚くなる傾向がある。「腹直筋の輝度」については、エコー検査で輝度が高いほど脂肪などを多く含み、輝度が低いほど、純粋な筋肉のみの状態と考えられる。「腹直筋の形」については、上述したとおりである。
【0033】
被験者に提示される対策アドバイスの内容は、評価指標データに応じて分類されるパターンによって異なる。このパターンには、例えば、「理想的パターン」、「アスリートパターン」、「男性メタボパターン」、「女性メタボパターン」、「左右非対称パターン」、「腹直筋離れパターン」、「胃もたれパターン」、「短期食べ過ぎパターン」などが存在する。
【0034】
具体的には、「理想的パターン」は、皮下脂肪および内臓脂肪が少なく、腹直筋も厚く、しっかりとしたクビレがあって理想的な状態といえる。「アスリートパターン」は、皮下脂肪および内臓脂肪が少なく、腹直筋はかなり厚く、台形型になっている。「男性メタボパターン」は、内臓脂肪が厚く、食生活不良のパターンであり、増えすぎた内臓脂肪により弱った腹直筋が左右に押し広げられお腹が出ている。「女性メタボパターン」は、腹直筋が薄く弱っており、左右の腹直筋のくびれが無くなり一直線に伸びて繋がっている状態で、腹直筋の輝度も高くなっており、かなりの運動不足であることが推測される。「左右非対称パターン」は、皮下脂肪および内臓脂肪が厚く完全な生活習慣不良であると共に、左右の腹直筋の厚さに左右差があり、身体の使い方に問題がある。「腹直筋離れパターン」は、痩せてはいるが左右の腹直筋が離れている幅が大きい方は、腹直筋より側腹直筋が強く外側に引っ張られている可能性があると共に、ウエストのくびれが少ない傾向になる。「胃もたれパターン」は、硬い筋肉のおかげでお腹は前に出ていないが、そのため過剰な内臓脂肪が臓器を圧排しており、胃もたれしやすい状態になっている。「短期食べ過ぎパターン」は、内臓脂肪の総量は少ないが超短期間の食べ過ぎにより、急激に増えた内臓脂肪が臓器を圧排しており、胃もたれしやすい状態になっている。
【0035】
このように、本実施形態によれば、断層画像に描出された生体部位のうち、皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とのそれぞれの特徴を示すデータを生活習慣の評価指標データとして出力する。皮下脂肪層や内蔵脂肪層といった脂肪層の特徴は、被験者の食べ過ぎや胃もたれなどの評価指標となる。また、左右の腹直筋の特徴は、被験者の運動不足などの評価指標となる。本実施形態では、メタボリックシンドローム診断における主な着目部位である脂肪層に加えて、左右の直腹筋にも着目し、これらの特徴を総合的に評価する。これにより、メタボリックシンドロームを既に発症している人はもとより、それが未発症である人も含めて、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を適切に評価することができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、生活習慣の評価指標データに基づいて、生活習慣に関する対策を体系的に分類した複数の対策パターンのいずれかを選択的に提示する。これにより、メタボリックシンドロームに関連した生活習慣の改善などについて、客観性および有効性のある対策アドバイスを自動的に提示することが可能になる。
【0037】
また、本実施形態によれば、学習モデル3aを用いることで、断層画像に描出された皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とのそれぞれを精度良く識別できるので、対策アドバイスの提示を適切かつ高い信頼性で行うことができる。
【0038】
さらに、本実施形態によれば、超音波プローブ2による断層画像の取得を被験者の上半身が起立した状態で行うことで、断層画像における生体部位の変化(バラツキ)を少なくでき、診断に適した良好な断層画像が安定的に取得できることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係る生活習慣評価システムのブロック図である。本実施形態の特徴は、特徴評価部3Bの構成、具体的には、第1の実施形態に係る学習モデル3aおよび測定部3bの機能を単一の学習モデル3cで統合的に実現している点である。それ以外の点については、第1の実施形態と同様なので、同一の符号を付して、ここでの説明を省略する。
【0040】
学習モデル3cは、断層画像に描出された皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋との統合的な特徴を、予め定められた複数の分類パターンのいずれかに分類する。この分類パターンは、上述したように、「皮下脂肪厚」(10段階)と、内蔵脂肪層の量的な特徴を代表化した「内臓脂肪厚」(10段階)と、腹直筋の形状的な特徴を代表化した「腹直筋の形」(10段階)とを少なくとも含む(3次元のベクトル)。また、これらに加えて、腹直筋の輝度の状態を代表化した「腹直筋の輝度」(5段階)と、「腹直筋の離れの有無」(2分類)と、「内臓圧排の有無」(2分類)とが含まれていてもよい(6次元のベクトル)。このような多次元ベクトルの分類データが、評価指標データとして対策提示部4に出力される。対策提示部4は、第1の実施形態と同様の手法で、評価指標データに基づいて対策パターンを提示する。
【0041】
学習処理部5は、学習モデル3cに対する学習処理を行う。ただし、学習モデル3a,3cは出力の内容が異なることから、教師あり学習用の教師データが異なる。具体的には、学習モデル5c用データとして、断層画像に描出された皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋との統合的な特徴を分類した分類パターンを教示する教師データが用いられる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏する他、第1の実施形態に係る学習モデル3aおよび測定部3cを単一の学習モデル3cで統合することで、処理負荷の軽減を図ることができる。
【0043】
なお、上述した各実施形態において、対策提示部4を必ずしも設ける必要はない。例えば、アドバイザーが上述した評価指標データを参照して、被験者に対して生活習慣に関する対策をアドバイスするような場合には、対策提示部4を設ける必要はない。また、生活習慣評価システム1を外部システムと連係させるような場合には、対策提示部4を設ける必要はない。例えば、生活習慣評価システム1を動脈硬化や循環器系の診断システムと連係させ、この診断の一要素として、生活習慣評価システム1の評価指標データを用いるといった如くである。
【0044】
さらに、本発明は、上述した各実施形態に係る生活習慣評価システムを構成する機能ブロック、具体的には、特徴評価部3A,3Bおよび対策提示部4をコンピュータで等価的に実現するコンピュータ・プログラム(生活習慣の対策提示プログラム)として捉えることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 生活習慣評価システム
2 超音波プローブ
3A,3B 特徴評価部
3a,3c 学習モデル
3b 測定部
4 対策提示部
4a 知識データベース
5 学習処理部
【要約】
【課題】メタボリックシンドロームに関連した生活習慣を適切に評価する。
【解決手段】超音波プローブ2は、被験者の腹部を撮像して、腹部の断層画像を出力する。特徴評価部3Aは、学習モデル3aと測定部3bとを備え、断層画像に描出された生体部位のうち、少なくとも、皮下脂肪層と、内蔵脂肪層と、左右の腹直筋とのそれぞれの特徴を示す評価指標データを出力する。対策提示部4は、評価指標データに応じて、生活習慣に関する対策を体系的に分類した複数の対策パターンのいずれかを選択的に提示する。