(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709036
(24)【登録日】2020年5月26日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】温水回収システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20200601BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20200601BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20200601BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
C02F1/44 K
B01D61/02
B01D61/14
B01D61/58
C02F1/44 A
C02F1/44 H
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-222442(P2015-222442)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-87161(P2017-87161A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】315001682
【氏名又は名称】岩井ファルマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 明郎
(72)【発明者】
【氏名】赤松 浩
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−061692(JP,A)
【文献】
特開平11−047748(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−0737352(KR,B1)
【文献】
特開2015−107476(JP,A)
【文献】
特開平11−090434(JP,A)
【文献】
特開2010−284593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/02
B01D 61/14
B01D 61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造ラインから排出される温排水であって、食品を生産、加工する工場又は製薬設備からの蒸発凝縮水及び洗浄用リンス水から選択される少なくとも一方である75℃〜90℃の温排水を一次ろ過して前処理する一次ろ過設備を含む前処理装置と、前記前処理装置で前処理した前処理水をろ過処理する、マイクロフィルトレーション膜(MF)及び限外ろ過膜(UF)の少なくとも一方を用いた膜処理装置と、前記膜処理装置で膜処理された膜処理水であって25℃〜85℃の処理水を処理する、耐熱逆浸透膜(RO)を用いたRO処理装置とを具備し、前記RO処理装置で処理したRO処理水を前記製造ラインに送液する送液ラインを具備することを特徴とする温水回収システム。
【請求項2】
前記送液ラインの途中には、RO処理水を加温する加熱設備を具備することを特徴とする請求項1記載の温水回収システム。
【請求項3】
前記耐熱逆浸透膜(RO)が、スパイラル型合成高分子製の耐熱RO膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の温水回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産設備からのプロセス水、洗浄水などの温水を有効利用する温水回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種生産工場、例えば、食品を生産、加工する工場、製薬設備などでは、原料や容器の洗浄等に温水が使用される。このような温水は、余熱を利用するために熱交換された後、ドレインされていた。また、このような温水は、水道等から新たに受水した水を、ガス等の燃料を用いてボイラにより加熱することで製造されていた。
【0003】
また、環境保護の観点から、例えば、蒸気式レトルト装置より排水される温水を熱交換器により充填液と熱交換した後、密閉式クーリングタワー及び冷水チラーにより冷却し、再び蒸気式レトルト装置の給水として再利用するシステムが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、生産施設から排出され、回収された排水を利用して、所望の温水を供給するシステムが提案されている(特許文献2参照)。かかる排水利用システムは、UF膜処理システム、処理水槽、熱回収用熱交換器、及び熱回収ヒートポンプを備え、UF膜処理システムから供給される処理水が、処理水槽、熱回収用熱交換器、熱回収ヒートポンプを順に経由して、温水となって洗浄設備へ供給されるようになっている。すなわち、かかる排水利用システムでは、UF膜処理システムにより排水を浄化処理して洗浄設備で再利用する一方、空調システムの熱交換器と組み合わせて、UF膜処理システムに導入される排水が温水の場合には温水から熱回収をしてUF膜処理システムに導入し、また、洗浄設備で温水を利用する場合には、UF膜処理システムで浄化処理した後、空調システムの排熱を利用して昇温して洗浄設備で再利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−260940号公報
【特許文献2】特開2015−117909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、何れにしても、温水から熱回収を行うシステムと、排水を再利用するシステムとが組み合わされているものであり、熱回収のロスは避けられないものであった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、生産設備からのプロセス水、洗浄水などの温水を有効利用するシステムであって、熱回収率を高め、排水も有効利用する温水回収システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、製造ラインから排出される温排水であって、食品を生産、加工する工場又は製薬設備からの蒸発凝縮水及び洗浄用リンス水から選択される少なくとも一方である75℃〜90℃の温排水
を一次ろ過して前処理する一次ろ過設備を含む前処理装置と、前記前処理装置で前処理した前処理水をろ過処理する、マイクロフィルトレーション膜(MF)及び限外ろ過膜(UF)の少なくとも一方を用いた膜処理装置と、前記膜処理装置で膜処理された膜処理水であって25℃〜85℃の処理水を処理する、耐熱逆浸透膜(RO)を用いたRO処理装置とを具備し、前記RO処理装置で処理したRO処理水を前記製造ラインに送液する送液ラインを具備することを特徴とする温水回収システムにある。
【0009】
かかる態様では、従来、熱回収が十分に行えなかった温排水を、必要以上に温度を低下させることなく、清浄化した状態で回収できるので、加熱設備でのエネルギー付加が省略又は著しく低減でき、また、温排水を製造用水として再利用できる。これにより、昇温用のエネルギーや原水の使用量を削減するとともに、排水処理費や下水放流費の削減ができる。
また、蒸発凝縮水や洗浄用リンスを有効利用でき、昇温用のエネルギーや原水の使用量を削減するとともに、排水処理費や下水放流費の削減ができる。
【0010】
ここで、前記送液ラインの途中には、RO処理水を加温する加熱設備を具備するのが好ましい。これによれば、再利用する際の最適な温度の製造用水を得ることができる。
【0011】
また、
前記耐熱逆浸透膜(RO)が、スパイラル型合成高分子製の耐熱RO膜であることが好ましい
。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の温水回収システムの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の温水回収システムは、製造、洗浄プロセス、すなわち、生産設備1から排出される比較的汚染度の低い温排水、例えば、蒸発凝縮水、洗浄用リンス水等を一時的に蓄える回収水タンク2、回収水タンク2に蓄えた温排水を処理する、一次ろ過設備3と、一次ろ過設備3でろ過されたろ過水を一時的に蓄える一次ろ過水タンク4と、一次ろ過水タンク4の一次ろ過水を処理するMF(精密ろ過)設備又はUF(限外ろ過)設備からなるMF/UF設備5と、MF/UF設備5で処理した処理水を一時的に蓄える処理水タンク6と、処理水タンク6の処理水を処理するRO(逆浸透)ろ過設備7と、ROろ過設備7で処理した処理水を必要に応じて加温するボイラー、ヒーターなどの加熱設備8とを具備する。
【0015】
ここで、一次ろ過設備3は、通常のろ過設備であり、異物、不純物を除去するためのものである。
【0016】
MF/UF設備5は、MF設備又はUF設備からなり、MF設備は、MF膜(精密濾過膜)を具備するろ過設備である。MF膜の孔径は、50nm〜1μm程度である。また、UF設備は、UF膜(限外濾過膜)を具備するろ過設備である。UF膜の孔径は、1nm〜50nm程度である。
【0017】
ROろ過設備7は、耐熱RO膜(逆浸透膜)を具備するろ過設備である。耐熱RO膜の孔径は、1nm以下程度であり、イオンや塩類などの阻止率が90%以上と高いものである。本実施形態では、RO膜の中でも耐熱RO膜であり、約85℃の処理水を処理することができるものであり、例えば、スパイラル型合成高分子製の耐熱RO膜である。
【0018】
かかる耐熱RO膜は、25℃〜75℃で安定した処理を行うことができ、85℃程度の温水を送液しても処理可能なものである。
【0019】
よって、一次ろ過設備3、MF/UF設備5での温度降下を考慮すると、75℃〜90℃の温排水を一次ろ過設備3に送液することが可能である。
【0020】
ここで、回収水タンク2と一次ろ過設備3との間には、回収水タンク2の温排水を一次ろ過設備3に送液するポンプ11が配置され、また、一次ろ過水タンク4とMF/UF設備5との間には、一次ろ過水タンク4の処理液をMF/UF設備5へ送液するポンプ12が配置されている。
また、MF/UF設備5の処理液を一時的に蓄える処理水タンク6とROろ過設備7との間には、処理水タンク6の処理液をROろ過設備7に送液するポンプ13が配置されている。
【0021】
ROろ過設備7は、上述した通り、スパイラル型の耐熱RO膜を備えたクロスフロータイプのろ過装置であり、処理液は、ボイラー、ヒーターなどの加熱設備8に送られる。
【0022】
加熱設備8は、一次ろ過設備3、MF/UF設備5、及びROろ過設備7により、清浄化された温排水を、必要に応じて加熱処理して、生産設備1に送液するものである。加熱設備8で加熱するかどうか、又はどの程度の温度まで加熱するかは、次の生産設備1での用途により決定されるものである。
【0023】
しかしながら、従来、熱回収が十分に行えなかった温排水を、必要以上に温度を低下させることなく、清浄化した状態で回収できるので、加熱設備8でのエネルギー付加が省略又は著しく低減でき、また、温排水を製造用水として再利用できる。
【0024】
これにより、昇温用のエネルギーや原水の使用量を削減するとともに、排水処理費や下水放流費の削減ができるという効果を奏する。
【0025】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、例えば、ROろ過設備7から生産設備1への送液パイプの途中に設けられた加熱設備8は、必ずしも設ける必要はない。また、MF/UF設備5は、クロスフロータイプを例示したが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
図1に示す温水回収システムにおいて、温度60℃の温排水を20m
3/hrで処理した場合、24時間、360日稼働として、エネルギー削減効果を試算したところ、以下のようになった。
エネルギー削減効果・・・ 99,983,886円/年
用水コスト削減効果・・・ 4,700,160円/年
排水処理コスト削減効果・・・ 11,975,040円/年
トータル削減効果・・・ 110,959,086円/年
【0027】
このように、温排水を温水のまま再利用する本発明の温水回収システムでは、温排水をワンパスで使い捨てする場合と比較して、トータル1.1億円/年のコスト削減効果があることが判った。これは、排熱だけを回収する場合と比較しても大幅なコスト削減になることが明らかである。
また、用水を加熱するためのエネルギーも大幅に削減され、削減されたエネルギーを製造する際に発生するCO
2量は少なく見積もっても年間約2,200トンになることが判った。
【符号の説明】
【0028】
1・・・生産設備
3・・・一次ろ過設備
5・・・MF/UF設備
7・・・RO設備
8・・・加熱設備