(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0015】
<1.繊維強化樹脂構造体>
本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂構造体の製造方法は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを積層した繊維強化樹脂積層体をプレス加工することによって繊維強化樹脂構造体を成形する繊維強化樹脂構造体の製造方法である。本実施形態によれば、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体の製造効率を向上させることが可能となる。以下、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体の製造方法によって製造される繊維強化樹脂構造体の構成例について説明した後に、繊維強化樹脂構造体の製造方法について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体の製造方法によって製造される繊維強化樹脂構造体20の一例を示す斜視図である。繊維強化樹脂構造体20は、繊維強化樹脂を用いて成形され、鋼板からなる構造体と比較して軽量でありつつ、高い強度を有している。繊維強化樹脂構造体20の用途は特に限定されないが、繊維強化樹脂構造体20は、例えば、自動車車体用の構造部品として使用される。
【0017】
繊維強化樹脂構造体20の成形素材となる繊維強化樹脂シートは、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成される。使用される強化繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等であってもよく、さらにはこれらの強化繊維を組み合わせて使用してもよい。中でも、炭素繊維は、機械特性が高く、強度設計を行いやすいことから、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0018】
強化繊維としては、繊維強化樹脂シートの一端から他端まで連続する連続繊維が用いられる。繊維強化樹脂シートとしては、連続繊維が一方向に配向した一方向繊維強化樹脂シートが用いられる。なお、繊維強化樹脂構造体20を構成する繊維強化樹脂シートは、一方向繊維強化樹脂シート以外の繊維強化樹脂シートを含んでもよい。例えば、繊維強化樹脂構造体20を構成する繊維強化樹脂シートは、繊維強化樹脂シートの一端から他端までの長さより短い短繊維の強化繊維を含む繊維強化樹脂シートや、強化繊維が複数方向に向けて配置された繊維強化樹脂シートを含んでもよい。
【0019】
また、繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂には熱可塑性樹脂が用いられる。マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などが例示される。これらの熱可塑性樹脂うちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用することができる。これら熱可塑性樹脂は、単独でも、混合物でも、また共重合体であってもよい。混合物の場合には相溶化剤を併用してもよい。さらに、難燃剤として臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤、赤燐などを加えてもよい。
【0020】
この場合、使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、芳香族ポリアミド等の樹脂が挙げられる。中でも可塑性マトリックス樹脂がポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン及びフェノキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
なお、積層される複数の繊維強化樹脂シートは、それぞれ強化繊維の種類や含有率等が異なっていてもよい。また、積層される複数の繊維強化樹脂シートにおいて、マトリックス樹脂が相溶性を有する異なる材料同士であってもよく、あるいは、同一のマトリックス樹脂に対して異なる添加物等が混合されていてもよい。この場合においても、繊維強化樹脂シートの溶融及び硬化を効率的に行えるように、マトリックス樹脂の融点が近似することが好ましい。
【0022】
繊維強化樹脂シートは、例えば、一般的なフィルム含浸法や溶融含浸法等のプロセスにより、強化繊維を連続的に送り出しながらマトリックス樹脂を当該強化繊維に含浸させる方法により製造される。この繊維強化樹脂シートを所望のサイズに切断することにより、成形素材としての繊維強化樹脂シートが得られる。所望のサイズに切断した複数の繊維強化樹脂シートの幅方向の端部を接着剤等により互いに接合して、所望の幅及び長さの繊維強化樹脂シートを形成してもよい。繊維強化樹脂シートの厚さは、例えば、0.03〜1mmの範囲内の値とすることができる。
【0023】
本実施形態において、繊維強化樹脂シートを用いて成形される繊維強化樹脂構造体20では、
図1に示すように、部分的に板厚が異なる。具体的には、繊維強化樹脂構造体20は、互いに板厚が異なる厚肉部20a及び薄肉部20bを有する。
図1に示すように、厚肉部20aの板厚が、薄肉部20bの板厚と比較して、厚い。また、
図1に示すように、薄肉部20bから厚肉部20aにかけて板厚が拡大する板厚拡大部20cが設けられる。繊維強化樹脂構造体20は、その使用条件により、厚肉部20aに他の部分と比較して大きな応力が負荷される部材となっている。このような繊維強化樹脂構造体20としては、例えば、構造部材において応力が高くなる締結部分を有する構造体等が挙げられる。なお、繊維強化樹脂構造体20は、部分的に板厚が異なる板厚分布を有していればよく、
図1に例示した形状に限られない。
【0024】
<2.繊維強化樹脂構造体の製造方法>
本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体20の製造方法について具体的に説明する。
図2は、成形素材としての繊維強化樹脂シート10から繊維強化樹脂構造体20が得られるまでの工程を模式的に示した説明図である。当該製造方法は、積層工程と、加熱工程と、プレス工程と、を備える。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
[2−1.積層工程]
積層工程は、複数の繊維強化樹脂シート10を積層して繊維強化樹脂積層体12を形成する工程である。本実施形態では、一方向に配向した連続繊維にマトリックス樹脂を含浸させた一方向繊維強化樹脂シートを含む複数の繊維強化樹脂シート10が用いられる。ここで、
図2に示した繊維強化樹脂シート10の積層枚数は一例に過ぎず、他の数であってもよい。以下では、積層される複数の繊維強化樹脂シート10の各々は、一方向繊維強化樹脂シートであり、各繊維強化樹脂シート10の連続繊維の配向方向が同一である例について説明する。各繊維強化樹脂シート10の連続繊維の配向方向を揃えることによって、得られる繊維強化樹脂構造体20の当該配向方向に対する強度を効果的に向上させることができる。なお、複数の繊維強化樹脂シート10のうちの少なくとも1枚の繊維強化樹脂シート10の連続繊維の配向方向を異ならせて繊維強化樹脂シート10を積層してもよく、その場合には、得られる繊維強化樹脂構造体20の強度に異方性を持たせることができる。
【0026】
上述のとおり、成形素材としての繊維強化樹脂シート10は、繊維強化樹脂シートを所望のサイズに切断したものであってもよく、所望のサイズに切断した繊維強化樹脂シートの幅方向の端部を互いに接合して所望の幅にしたものであってもよい。積層する繊維強化樹脂シート10の枚数や平面視の大きさは、製造する繊維強化樹脂構造体20の厚さや大きさに応じて、適宜選択し得る。
【0027】
[2−2.加熱工程]
加熱工程は、繊維強化樹脂積層体12を加熱する工程である。加熱工程では、例えば、繊維強化樹脂積層体12が加熱装置40に投入される。当該繊維強化樹脂積層体12は、上面側及び下面側から、電熱線や遠赤外線ヒータ等の加熱手段41,43によって加熱される。加熱装置40の温度は、マトリックス樹脂の融点以上に設定される。加熱工程では、マトリックス樹脂が分解しないように、繊維強化樹脂積層体12が溶融状態にされる。用いられる加熱装置は、特に限定されない。
【0028】
[2−3.プレス工程]
プレス工程は、溶融状態の繊維強化樹脂積層体12をプレス加工し、所望の形状の繊維強化樹脂構造体20を成形する工程である。プレス工程では、プレス装置50に取り付けられた第1の型51及び第2の型53の温度がマトリックス樹脂の融点未満にされる。プレス工程において、第2の型53上に溶融状態の繊維強化樹脂積層体12が設置された後に、対向する第1の型51及び第2の型53が互いに接近させられることによって、繊維強化樹脂積層体12が第1の型51と第2の型53により挟まれてプレス加工される。これにより、繊維強化樹脂積層体12が硬化して、所望の形状の繊維強化樹脂構造体20が得られる。第1の型51及び第2の型53は、例えば、一組の金型である。
【0029】
ここで、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体20の製造方法では、プレス工程において、連続繊維の流動を利用して、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20の成形が行われる。それにより、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20の製造効率を向上させることができる。なお、プレス工程における連続繊維の流動において、連続繊維は、当該連続繊維の周囲のマトリックス樹脂とともに流動する。以下、このようなプレス工程における金型及びプレス加工について詳細に説明する。
【0030】
(金型)
まず、本実施形態のプレス工程において用いられる金型の構成について説明する。本実施形態では、第1の型51と第2の型53との間には、少なくとも1つの一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に対して略直交する方向に沿って第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する拡大領域が設けられる。
【0031】
図3は、本実施形態に係るプレス工程で用いられる金型の構成の一例を示す説明図である。具体的には、
図3は、プレス工程において、第2の型53上に設置される繊維強化樹脂積層体12に含まれる一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に直交する断面における断面図である。換言すると、プレス工程において、繊維強化樹脂積層体12は、当該連続繊維の配向方向が
図3の紙面に対して直交する方向に沿う姿勢で、第2の型53上に設置される。
図3に示した矢印B10は、当該連続繊維の配向方向に略直交する方向を示す。
【0032】
図3に示したように、第2の型53は、例えば、ベース部53aと、壁部53bと、を備える。ベース部53aは、第1の型51と対向する平坦なプレス面53pを有する。壁部53bは、ベース部53aのプレス面53p側に設けられ、プレス工程において第2の型53上に設置される繊維強化樹脂積層体12のプレス加工時の平面方向の寸法の変動を抑制する。壁部53bは環状であってもよく、プレス工程において、繊維強化樹脂積層体12は、ベース部53aと壁部53bによって形成される収容空間に収容される。なお、当該収容空間は、多角柱形状、円柱形状又は楕円柱形状を含み得る。ベース部53aと壁部53bにより形成される収容空間の形状と繊維強化樹脂積層体12の形状とは対応するように構成され得る。壁部53bは、複数の部材によって構成されてもよい。
【0033】
また、第1の型51が第2の型53に接近した状態において、第1の型51の側面は、壁部53bにより覆われる。壁部53bの内側面の形状と第1の型51の側面の形状とは対応するように構成され得る。それにより、プレス工程において、第1の型51及び第2の型53が互いに接近させられることによって、第2の型53のベース部53a及び壁部53bと第1の型51によって閉空間が形成される。本実施形態に係るプレス工程では、繊維強化樹脂積層体12は、第1の型51及び第2の型53により押圧され、当該閉空間に充填されるように変形する。なお、本実施形態に係るプレス工程における繊維強化樹脂積層体12の変形挙動の詳細については、後述する。
【0034】
第1の型51のプレス面51pは、第2の型53のプレス面53pに対して略平行な第1平行部51a及び第2平行部51bと、第2の型53のプレス面53pに対して傾斜し、第1平行部51aと第2平行部51bとの間に位置する傾斜部51cと、を備える。例えば、
図3に示したように、第2平行部51bは、第1平行部51aと比較して、第2の型53のプレス面53pに近い側に設けられ、傾斜部51cは、第2平行部51bの端部から第1平行部51aの端部にかけて第2の型53のプレス面53pから遠ざかるように傾斜する。
【0035】
図3に示すように、第1の型51の傾斜部51cと第2の型53のプレス面53pとの間に設けられる拡大領域E10において、矢印B10が示す方向に沿って第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する。ゆえに、拡大領域E10において、繊維強化樹脂積層体12に含まれる一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に対して略直交する方向に沿って第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する。
【0036】
なお、本明細書において、第1の型51と第2の型53との間隔とは、それぞれの位置における第1の型51のプレス面51pと第2の型53のプレス面53pとの最短距離を指す。また、
図3に例示したプレス工程で用いられる金型は、一例に過ぎず、上述した拡大領域が設けられれば、他の形状を有していてもよい。
【0037】
また、拡大領域E10における、矢印B10が示す方向についての、第1の型51と第2の型53のなす傾斜角は、プレス工程において、当該連続繊維の流動が促進される角度であることが好ましい。当該傾斜角が過度に大きい場合には、プレス加工時に、第1の型51と第2の型53とが接近する過程において、傾斜部51cと繊維強化樹脂積層体12との接触が不十分となり得るので、連続繊維の流動が促進されにくい。よって、拡大領域E10における、矢印B10が示す方向についての、第1の型51と第2の型53のなす傾斜角に相当する傾斜部51cと第2の型53のプレス面53pのなす角の角度について、連続繊維の流動を促進させる観点から、設定範囲を規定する上限値が設定され得る。
【0038】
(プレス加工)
次に、上記第1の型51及び第2の型53を用いて実施されるプレス加工について説明する。
図4は、本実施形態に係るプレス工程について説明するための説明図である。
【0039】
上述したように、プレス工程では、対向する第1の型51及び第2の型53が互いに接近させられることによって、繊維強化樹脂積層体12が第1の型51と第2の型53により挟まれてプレス加工される。第1の型51及び第2の型53は、例えば、
図3に模式的に示したプレス装置50に取り外し可能に固定されている。プレス装置50は、一般的なプレス機であってよく、プレス方向は特に限定されない。例えば、プレス装置50のプレス方向は、鉛直方向であってもよく、水平方向であってもよい。また、プレス工程において、第1の型51及び第2の型53は互いに相対的に可動であればよく、第1の型51及び第2の型53の少なくとも一方は非可動であってもよい。以下では、第2の型53が非可動であって、第1の型51が鉛直方向へ可動であるように構成されている例について説明する。
【0040】
プレス工程において、まず、第2の型53上に溶融状態の繊維強化樹脂積層体12が設置された後、第1の型51が第2の型53に近づくように降下を開始する。第1の型51が降下することによって、繊維強化樹脂積層体12が第1の型51と第2の型53により挟まれてプレス加工される。本実施形態では、第1の型51と第2の型53との間には、少なくとも1つの一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に対して略直交する方向に沿って第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する拡大領域E10が設けられる。それにより、当該プレス加工において、第1の型51の降下に伴って、繊維強化樹脂積層体12の連続繊維が流動することによって、繊維強化樹脂積層体12が変形する。そして、
図4に示したように、第1の型51が下死点に到達したときに、繊維強化樹脂積層体12は、第2の型53のプレス面53p及び壁部53bの内側面と第1の型51のプレス面51pによって形成される閉空間に充填される。当該プレス加工の過程において、繊維強化樹脂積層体12では、温度が低下していくとともに、硬化が進展していく。第1の型51は、下死点に到達した後、第2の型53から遠ざかるように上昇を開始し、所望の形状に成形された繊維強化樹脂構造体20が金型から取り出される。
【0041】
続いて、本実施形態に係るプレス工程における繊維強化樹脂積層体12の変形挙動について、詳細に説明する。上述したように、本実施形態では、プレス加工において、第1の型51の降下に伴って、繊維強化樹脂積層体12の連続繊維が流動することによって、繊維強化樹脂積層体12が変形する。
図5及び
図6は、本実施形態に係るプレス工程における連続繊維の流動について説明するための説明図であり、繊維強化樹脂積層体12の変形挙動が模式的に示されている。また、
図5及び
図6は、繊維強化樹脂積層体12に含まれる一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維90の配向方向に直交する断面における断面図である。具体的には、
図5は、プレス工程において、第1の型51が降下を開始した後、第1の型51のプレス面51pの一部である第2平行部51bが繊維強化樹脂積層体12に接した時点での様子を示す。
図6は、第1の型51が
図5に示した位置よりさらに下方に降下した時点での様子を示す。
【0042】
プレス工程において、
図5に示したように、第1の型51のプレス面51pの一部である第2平行部51bが繊維強化樹脂積層体12に接した時点から繊維強化樹脂積層体12の変形が開始される。
図5に示した状態では、繊維強化樹脂積層体12において、第2平行部51bと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分に、板厚方向の押圧力が負荷される。また、第1平行部51a及び傾斜部51cは、繊維強化樹脂積層体12と接していないので、繊維強化樹脂積層体12において、第1平行部51a及び傾斜部51cと第2の型53のプレス面53pの間に位置する部分には、板厚方向の押圧力が負荷されていない。また、繊維強化樹脂積層体12の平面方向の寸法の変動は、第2の型53の壁部53bによって、抑制されている。ゆえに、繊維強化樹脂積層体12において、第2平行部51bと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分を、拡大領域E10において、第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する方向へ押し込むような力が生じる。
【0043】
一般に、繊維強化樹脂積層体に外力を負荷することにより、当該繊維強化樹脂積層体に含まれる繊維を流動させる場合、連続繊維のように繊維長さが長い繊維ほど、流動が生じにくくなると考えられている。本件発明者は、繊維強化樹脂積層体に含まれる連続繊維の流動について創意工夫を重ね、結果、一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維は、当該連続繊維の配向方向に対して略直交する方向に、流動し得ることを見出した。本実施形態では、拡大領域E10において、連続繊維90の配向方向に対して略直交する方向に沿って、第1の型51と第2の型53との間隔が拡大している。それにより、プレス工程において、繊維強化樹脂積層体12の連続繊維90を、拡大領域E10において、第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する方向へ流動させやすくすることができる。
【0044】
プレス工程では、上述したように、金型の温度はマトリックス樹脂の融点未満である。ゆえに、繊維強化樹脂積層体12と金型とが接触した後、繊維強化樹脂積層体12の金型と接した表層部側から温度が低下し始め、表層部から内部へ順に硬化が進展していく。よって、
図5及び
図6に示したように、例えば、繊維強化樹脂積層体12の内部に位置する連続繊維90aが、拡大領域E10において、第1の型51と第2の型53との間隔が拡大する方向へ流動し得る。
【0045】
プレス加工前の繊維強化樹脂積層体12の厚さは、プレス工程において、連続繊維90の流動が促進される厚さであることが好ましい。上述したように、プレス工程において、繊維強化樹脂積層体12と金型とが接触した後、繊維強化樹脂積層体12の表層部から内部へ順に硬化が進展していく。ゆえに、繊維強化樹脂積層体12の厚さが過度に薄い場合には、繊維強化樹脂積層体12と金型とが接触した時点から繊維強化樹脂積層体12の内部へ硬化が進展するまでの時間が短くなることにより、プレス加工において、連続繊維90が流動可能な時間が短くなる。ゆえに、連続繊維90の流動が促進されにくくなる。繊維強化樹脂積層体12の厚さは、連続繊維の流動を促進させる観点から、例えば、2mm以上の値に設定され得る。
【0046】
第1の型51が繊維強化樹脂積層体12に接触し、繊維強化樹脂積層体12の変形が開始した後、第1の型51の降下に伴って、繊維強化樹脂積層体12の連続繊維90の流動が生じることによって、繊維強化樹脂積層体12が変形する。具体的には、
図6に示したように、繊維強化樹脂積層体12は、第1平行部51a及び傾斜部51cとの接触面積を増大させながら変形を続けた後、第2の型53のプレス面53p及び壁部53bの内側面と第1の型51のプレス面51pによって形成される閉空間に充填される。
【0047】
このようなプレス加工によって、繊維強化樹脂積層体12の厚さは、第2平行部51bと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分については減少し、第1平行部51aと第2の型53のプレス面53pの間に位置する部分については増大する。プレス加工における繊維強化樹脂積層体12の第2平行部51bと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分が、
図1に示した繊維強化樹脂構造体20の薄肉部20bに相当する。また、プレス加工における繊維強化樹脂積層体12の第1平行部51aと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分が、
図1に示した繊維強化樹脂構造体20の厚肉部20aに相当する。また、プレス加工における繊維強化樹脂積層体12の傾斜部51cと第2の型53のプレス面53pによって挟まれる部分が、
図1に示した繊維強化樹脂構造体20の板厚拡大部20cに相当する。
【0048】
プレス加工前の繊維強化樹脂積層体12の厚さは、プレス加工によって得られる繊維強化樹脂構造体20の寸法の設計値に基づいて算出され得る。また、プレス加工前の繊維強化樹脂積層体12の厚さは、プレス加工による薄肉部20bの板厚の変化率に基づいて、連続繊維の流動を促進させ得る値に設定されてもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体20の製造方法によれば、プレス工程において、連続繊維の流動を利用して、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20の成形が行われる。具体的には、プレス工程において、連続繊維90を当該連続繊維90の配向方向に対して略直交する方向に流動させることによって、繊維強化樹脂構造体20が成形される。それにより、積層された繊維強化樹脂シート上の特定の部分に、さらに、部分的に繊維強化樹脂シートを積層する工程を行わずに、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20を成形することができる。ゆえに、工数を増大させることなく、かつ、繊維強化樹脂シートの位置のずれの発生を防止させつつ、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20を成形することができる。従って、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20の製造効率を向上させることができる。
【0050】
上記では、
図1を参照して説明した繊維強化樹脂構造体20の製造方法について説明したが、本発明に係る技術を適用して製造し得る繊維強化樹脂構造体は、係る例に限定されない。例えば、使用する繊維強化樹脂シートの形状及び積層枚数並びに金型の形状を製造される繊維強化樹脂構造体の形状に応じて適宜設定することにより、種々の形状の繊維強化樹脂構造体を、本発明に係る製造方法によって、製造することができる。
【0051】
図7は、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体の製造方法を利用して製造される繊維強化樹脂構造体22の一例を示す斜視図である。
図7に示した繊維強化樹脂構造体22は、本発明に係る製造方法によって製造される部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体に、穴明け加工を行うことにより得られる。繊維強化樹脂構造体22は、厚肉部22a、薄肉部22b及び板厚拡大部22cを有する。
図7に示したように、繊維強化樹脂構造体22の厚肉部22aには貫通孔H10が穿孔される。厚肉部22aに設けられた貫通孔H10には、例えば、繊維強化樹脂構造体22と他の部品とを締結するために用いられるネジが貫通する。このように、締結部分である厚肉部22aは、繊維強化樹脂構造体22において応力が高くなるので、他の部分と比較して板厚が厚くなるように設計される。本発明に係る製造方法を利用することによって、このような締結部分を有する繊維強化樹脂構造体22の製造効率を向上させることができる。
【0052】
<3.変形例>
続いて、プレス工程において、金型の温度を制御することによって、連続繊維の流動を促進させる変形例について説明する。変形例に係る繊維強化樹脂構造体の製造方法のプレス工程では、
図3を参照して説明した金型と比較して、異なる構成を有する金型が用いられる。以下、変形例に係るプレス工程における金型及びプレス加工について詳細に説明する。
【0053】
図8は、変形例に係るプレス工程において用いられる金型の構成の一例を示す説明図である。具体的には、
図8は、プレス工程において、第2の型73上に設置される繊維強化樹脂積層体に含まれる一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に直交する断面における断面図である。
【0054】
変形例に係る金型において、
図8に示したように、第1の型71及び第2の型73には、それぞれ加熱部C10及び加熱部C20が設けられる。加熱部C10(加熱部C20)は、第1の型71のプレス面51p(第2の型73のプレス面53p)の近傍に設けられ、プレス面51p(プレス面53p)の温度を調整する。加熱部C10(加熱部C20)は、例えば、電熱線であってもよく、図示しない電力供給装置から当該電熱線に供給される電力の大きさに応じて発熱することによって、プレス面51p(プレス面53p)の温度を調整し得る。
【0055】
加熱部C10(加熱部C20)は、
図8に示したように、複数設けられてもよい。また、各加熱部C10(加熱部C20)は、例えば、水平方向について等間隔に配置され、各加熱部C10(加熱部C20)には、位置に応じた電力が電力供給装置から供給されるように構成され得る。それにより、各加熱部C10(加熱部C20)へ供給される電力を調整することによって、プレス面51p(プレス面53p)の温度分布を調整することができる。
【0056】
変形例では、第1の型71及び第2の型73の温度を、プレス工程において、連続繊維の流動が促進される温度に設定する。例えば、プレス面51p(プレス面53p)の温度分布を、プレス工程において、連続繊維の流動が促進され得る温度分布に設定する。上述したように、プレス工程では、金型の温度はマトリックス樹脂の融点未満である。ゆえに、繊維強化樹脂積層体12と金型とが接触した後、繊維強化樹脂積層体12の表層部から内部へ順に、温度の低下に伴い、硬化が進展していく。ここで、繊維強化樹脂積層体12の硬化が進んだ部分の連続繊維ほど、流動性が低下する。ゆえに、金型の温度を上昇させることにより、繊維強化樹脂積層体12の硬化の進展速度を緩めることによって、連続繊維の流動を促進させることができる。
【0057】
変形例では、具体的には、繊維強化樹脂積層体12において連続繊維の流動が生じ得る部分の近傍の金型の温度は、他の部分と比較して、高温に設定される。連続繊維の流動が生じ得る部分の近傍の領域は、例えば、
図8に示したように、第1平行部51aの傾斜部51c側の一部と、第2平行部51bの傾斜部51c側の一部と、傾斜部51cと、を含む領域E21及び第2の型73において当該領域E21と対向する領域E23である。この場合において、領域E21及び領域E23におけるプレス面51p及びプレス面53pの温度が、他の部分と比較して、高温に設定される。それにより、繊維強化樹脂積層体12において連続繊維の流動が生じ得る部分の硬化の進展速度を、他の部分と比較して、緩めることができる。ゆえに、連続繊維の流動を促進させることができる。
【0058】
プレス工程において、金型の温度は、例えば、設定された加工時間に対して、繊維強化樹脂積層体12を所望の形状に成形可能であるような温度に設定される。金型の温度が高くなるほど、繊維強化樹脂積層体12の冷却速度が遅くなるので、金型の温度が過度に高い場合には、繊維強化樹脂積層体12を所望の形状に成形することが困難となり得る。ゆえに、繊維強化樹脂積層体12において連続繊維の流動が生じ得る部分以外の部分の近傍の金型の温度は、繊維強化樹脂積層体12の成形性を優先して設定され得る。
【0059】
<4.まとめ>
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、第1の型と第2の型との間には、少なくとも1つの一方向繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向に対して略直交する方向に沿って第1の型と第2の型との間隔が拡大する拡大領域が設けられる。それにより、プレス工程において、連続繊維の流動を利用して、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体20の成形が行われる。ゆえに、積層された繊維強化樹脂シート上の特定の部分に、さらに、部分的に繊維強化樹脂シートを積層する工程を行わずに、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体を成形することができる。従って、部分的に板厚が異なる繊維強化樹脂構造体の製造効率を向上させることができる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。