(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受パッドとロータとの間に気膜を介在させるガス軸受装置は、軸受パッドとロータとの間に油膜を介在させる油軸受装置に比較すると、気膜の粘度が小さいため、軸受装置で支持できる負荷容量が小さい。ガス軸受装置において、その負荷容量を高めるには、気膜の厚さを小さくする必要がある。
しかし、気膜の厚さを小さくしていくと、気膜による動圧が小さいときに軸受パッドとロータとが直接接触し易くなってしまう。その結果、軸受パッドとロータとが摺動することで生じる摩擦熱等によって、軸受パッドが加熱されて熱変形することがある。軸受パッドの熱変形は、軸受パッドを揺動可能に支持するピボット点を支点として生じる。そのため、軸受パッドに熱変形が生じると、ピボット点から遠い位置ほど変形量が大きく、軸受パッドとロータとの当たり具合の均一性が損なわれて、軸受装置における負荷容量を高めることが困難になる。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、軸受パッドの熱変形を抑えることで、気膜の厚さを小さくし、負荷容量を高めることができるティルティングパッドガス軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
この発明の第一態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、ハウジングと、ロータの周方向に複数配され、前記ロータの外周面との間に気膜を形成して前記ロータを支持する軸受パッドと、前記軸受パッドを揺動可能に支持するピボット部材と、を備え、前記軸受パッドは、前記ピボット部材に支持されるパッド本体と、前記パッド本体において前記ロータの外周面に対向する側に形成され、前記パッド本体よりも熱伝導率の低い材質で形成された断熱材層と、を備え、前記軸受パッドは、湾曲した形状を有し、湾曲方向外周側の外周面に凹部が形成され、前記ピボット部材の基端部は、前記ハウジングに固定され、前記ピボット部材は、前記ハウジングを貫通し、前記ロータの中心軸に向かって前記ハウジングの内部空間に突出する突出部を備え、前記ピボット部材の前記突出部は、前記軸受パッドに形成された前記凹部に突き当たるように構成され、
前記断熱材層は、1.0W/mK以下の熱伝導率を有する。
【0008】
このように、軸受パッドにおいて、ロータの外周面に対向する側に断熱材層を備えることで、気膜による動圧が小さく、ロータと断熱材層とのクリアランスが小さい状態であっても、ロータの回転時に生じる摩擦熱等がパッド本体に伝わるのを抑えることができる。これにより、パッド本体が変形し難くなる。
【0009】
さらに、断熱材層における断熱効果を高め、パッド本体の変形を有効に抑えることができる。
【0010】
この発明の第
二態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第
一態様において、前記パッド本体が、200W/mK以上の熱伝導率を有する材質で形成されているようにしてもよい。
このように、パッド本体を熱伝導率の高い材質で形成することで、ロータとの摺動面側から熱が伝わってきたときに、パッド本体に温度分布が生じにくく、パッド本体の熱変形を抑えることができる。
【0011】
この発明の第
三態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第
一態
様において、前記パッド本体が、5e−6 1/℃以下の線膨張係数を有する材質で形成されているようにしてもよい。
このように、パッド本体を線膨張係数が低い材質で形成することで、ロータとの摺動面側から熱が伝わってきても、パッド本体が熱変形し難くなる。
【0012】
この発明の第
四態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第一から第
三態様の何れか一つの態様における断熱材層が、前記パッド本体よりも低いヤング率を有する材質で形成されていてもよい。
このように構成することで、断熱材層が回転によって発生した圧力によりロータの曲率に沿うように変形するため、ロータと断熱材層との間において隙間が狭い領域を増やすことができる。その結果、ティルティングパッドガス軸受における負荷能力を向上させることができる。
【0013】
この発明の第
五態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第一から第
四態様の何れか一つの態様において、前記軸受パッドにおいて前記ロータの外周面に対向する摺動面と前記ロータの外周面との間に気体を供給する気体供給手段を備えるようにしてもよい。
ロータが停止している場合や、ロータの回転速度が低い場合等、軸受パッドの摺動面とロータの外周面との間に介在する気膜による圧力が低い場合に、気体供給手段によって軸受パッドの摺動面とロータの外周面との間に気体を供給することで、気膜の圧力を高めることができる。その結果、軸受パッドとロータとが直接接触するのを抑え、軸受パッドとロータとの間における摩擦熱の発生を抑えることができる。また、供給する気体によって、軸受パッドの摺動面を冷却することもできる。したがって、軸受パッドの熱変形の発生を抑えることができる。
【0014】
この発明の第
六態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第
五態様において、前記気体供給手段が、前記軸受パッドの前記摺動面に形成された吹出口と、前記吹出口に前記気体を供給する気体供給源と、前記吹出口からの前記気体の吹出を制御する制御部と、を備えるようにしてもよい。
このように構成することで、吹出口からロータの外周面に気体を吹き付けることで、ロータと軸受パッドとの間に気体を効率よく供給して気膜を形成することができる。また、制御部によって、軸受パッドの摺動面とロータの外周面との間に気体を供給するタイミングを制御することができる。したがって、ロータが停止している場合や、ロータの回転速度が低い場合等、軸受パッドの摺動面とロータの外周面との間の気膜の圧力が低い場合に、適切なタイミングで気体を供給することができる。
【0015】
この発明の第
七態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第
六態様において、前記吹出口は、前記ロータの中心軸よりも下方に位置する前記軸受パッドに形成されていてもよい。
ロータの自重により、ロータの中心軸よりも下方に位置する軸受パッドにおいては、軸受パッドの摺動面とロータの外周面との間の気膜の圧力が低い場合、軸受パッドの摺動面とロータの外周面とが接触しやすくなる。そこで、ロータの中心軸よりも下方に位置する軸受パッドに吹出口を形成することで、ロータの中心軸よりも下方において、ロータと軸受パッドとの間に気膜を形成することができる。したがって、ロータと軸受パッドとが直接接触するのを抑えることができる。
【0016】
この発明の第
八態様によれば、ティルティングパッドガス軸受は、第
六又は第
七態様において、前記制御部は、前記ロータの回転開始時及び回転停止時の少なくとも一方で、前記気体を供給するようにしてもよい。
ロータの回転開始時や回転停止時には、ロータの中心軸よりも下方において、気膜の圧力が低くなり、ロータと軸受パッドとが直接接触しやすい。そこで、ロータの回転開始時や回転停止時に、ロータと軸受パッドとの間に気体を供給することで、ロータと軸受パッドとが直接接触するのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
上記ティルティングパッドガス軸受によれば、軸受パッドの熱変形を抑えることで、気膜の厚さを小さくし、負荷容量を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態に係るティルティングパッドガス軸受を図面に基づき説明する。
(第一実施形態)
図1は、この発明の第一実施形態に係るティルティングパッドガス軸受の全体構成を示す図であり、ロータの中心軸方向から見た断面図である。
図2は、上記ティルティングパッドガス軸受の構成を示す図であり、ロータの中心軸に沿った断面図である。
図1、
図2に示すように、この実施形態のガス軸受装置(ティルティングパッドガス軸受)10Aは、回転機械(図示無し)のロータRを回転自在に支持する。ガス軸受装置10Aは、ハウジング11と、軸受パッド12と、を備える。
【0020】
ハウジング11は、ロータRの中心軸C方向に連続する筒状をなしている。ハウジング11は、断面円形の内部空間を有している。
軸受パッド12は、ハウジング11の内側に、中心軸Cを中心とする周方向に複数個(
図1の例では4個)が設けられている。各軸受パッド12は、ピボット部材13を介し、ハウジング11に揺動可能に支持されている。
【0021】
各軸受パッド12は、ロータRの中心軸Cに向かって凹となる断面円弧状に湾曲した板状に形成されている。軸受パッド12の湾曲方向内側の摺動面12fは、その曲率半径が、ロータRの外周面の曲率半径よりやや大きく形成されている。即ち、軸受パッド12の摺動面12f全面がロータRと同時に接触することはない。
【0022】
ピボット部材13は、基端部13aがハウジング11に固定されている。ピボット部材13は、ハウジング11を貫通し、中心軸Cに向かってハウジング11の内部空間に突出している。ピボット部材13の先端部13bは、軸受パッド12の湾曲方向外周側の外周面に形成された凹部12gに突き当たっている。ピボット部材13の先端部13bは、軸受パッド12との接触部が、半球状に形成されている。これにより、軸受パッド12は、ピボット部材13の先端部13bに揺動可能に支持されている。
【0023】
軸受パッド12は、パッド本体21と、断熱材層22と、を備えている。
【0024】
パッド本体21は、熱変形を抑えるため、熱伝導率が高い材料や、線膨張係数が小さい材料から形成されている。
パッド本体21を形成する材料の熱伝導率は、200W/mK以上とすることができ、さらには300W/mK以上とするのがより好ましい。このように熱伝導率が高い材料としては、例えば、銅合金(例えば、クロム銅など)を用いることができる。ここで、銅合金としては、クロム、ジルコニウム、銅からなる合金とすることができる。さらに、熱伝導率が高い材料としては、銅合金以外に、主成分がアルミニウムからなるアルミニウム合金を用いることもできる。
【0025】
パッド本体21を形成する材料の線膨張係数は、5e−6 1/℃以下とすることができ、さらには1.2e−6 1/℃以下とするのがより好ましい。このように、線膨張係数が小さい材料としては、例えば、例えばインバー(登録商標)合金を用いることができる。ここで、インバー(登録商標)合金としては、鉄、ニッケルからなる合金とすることができる。さらに、線膨張係数が小さい材料としては、インバー(登録商標)合金以外に、鉄、ニッケル、および、コバルトからなるコバール合金を用いることもできる。
【0026】
断熱材層22は、ロータR側から熱がパッド本体21に伝達されることを抑制する。断熱材層22は、パッド本体21よりも熱伝導率が低い材料で形成されている。ここで、断熱材層22は、その断熱効果を効率よく発揮するため、例えば、熱伝導率が、1.0W/mK以下とすることができ、さらには、0.3W/mK以下であるのが好ましい。このように熱伝導率が低い材料としては、例えば、ジルコニア(熱伝導率:1.0W/mK)等のセラミック系材料、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン,Polyetheretherketone)樹脂(熱伝導率:0.25W/mK)等の樹脂材料等を用いることができる。ここで、PEEKとしては炭素繊維を含まないものを用いることができる。このようにすることで、炭素繊維を含むPEEKよりも軟らかく形成することができ、接触時に摩耗して馴染み易くなる。さらに、このようなPEEKを用いることで、表面粗さが小さくなるとともに焼き付きリスクを低減することができる。また、炭素繊維を含まないPEEKが圧力により変形してロータRと軸受パッド12との間において、隙間の狭い領域を増加させ、負荷能力を向上することができる。
断熱材層22にPEEK樹脂を用いる場合、予めPEEK樹脂を焼結しておき、パッド本体21に接着剤等で貼り付ける。また、断熱材層22にジルコニアを用いる場合、ジルコニアをパッド本体21に溶射する。
【0027】
断熱材層22は、十分な断熱効果を得るために、例えば、3mm程度の厚さを有しているのが好ましい。この実施形態における断熱材層22は、その厚さが均一に形成されている場合を例示している。
【0028】
したがって、上述した第一実施形態のガス軸受装置10Aによれば、軸受パッド12において、ロータRの外周面に対向する側に断熱材層22を備えることで、ロータR側から熱がパッド本体21に伝わるのを抑えることができる。これにより、ロータRと軸受パッド12との間に介在する気膜の圧力が低く、ロータRとパッド本体21との間で摩擦熱が生じてしまうような場合等であっても、パッド本体21に熱が伝わりにくく、軸受パッド12の熱変形を抑えることができる。
【0029】
さらに、断熱材層22を、低い熱伝導率を有する材料で形成することで、断熱材層22における断熱効果をさらに高め、パッド本体21の変形を有効に抑えることができる。
【0030】
さらに、パッド本体21を、高い熱伝導率を有する材質で形成することで、ロータRとの摺動面12f側から熱が伝わってきたときであっても、パッド本体21に温度分布が生じにくく、パッド本体21の熱変形を抑えることができる。
【0031】
さらに、パッド本体21を、線膨張係数が低い材料で形成することで、ロータRとの摺動面12f側から熱が伝わってきても、パッド本体21が熱変形し難くなる。
このようにして、軸受パッド12の熱変形を抑えることで、気膜の厚さを小さくできるため、ガス軸受装置10Aにおける負荷容量を高めることが可能となる。
【0032】
図3は、パッド本体にインバー合金、銅合金を用いつつ、断熱材層を備えた上記実施形態で示した構成の場合と、断熱材層を備えず、パッド本体をSS400材で形成した場合の熱変形量の度合いを示す図である。
この
図3に示すように、パッド本体21にインバー合金を用い、断熱材層22を備えた場合(1)と、パッド本体21に銅合金を用い、断熱材層22を備えた場合(2)と、SS400材のみで軸受パッドを形成した場合(3)とでは、断熱材層22を備えるとともに、熱伝導率が高い銅合金、線膨張率が低いインバー合金でパッド本体21を形成した場合(1)、(2)の方が、SS400材のみで軸受パッドを形成した場合(3)よりも大幅に熱変形量が小さくなっている。
【0033】
(第二実施形態)
次に、この発明に係るティルティングパッドガス軸受の第二実施形態について説明する。以下に説明する第二実施形態においては、第一実施形態とガス供給機構30を備える構成のみが異なるので、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
図4は、この発明の第二実施形態に係るティルティングパッドガス軸受の全体構成を示す図であり、ロータの中心軸方向から見た断面図である。
図4に示すように、この実施形態のガス軸受装置(ティルティングパッドガス軸受)10Bは、第一実施形態と同様に、ロータRを回転自在に支持する。ガス軸受装置10Bは、ハウジング11と、ハウジング11の内側に設けられた複数の軸受パッド12と、を備える。
【0034】
軸受パッド12は、ハウジング11の内側に、中心軸Cを中心とする周方向に複数個(
図4の例では4個)が設けられている。各軸受パッド12は、ピボット部材13を介し、ハウジング11に揺動可能に支持されている。
【0035】
各軸受パッド12は、ロータRの中心軸C方向から見たときに円弧状に湾曲した板状をなしている。軸受パッド12の湾曲方向内側の摺動面12fは、その曲率半径が、ロータRの外周面の曲率半径よりやや大きく形成されている。
【0036】
図5は、上記ティルティングパッドガス軸受の構成を示す図であり、ロータの中心軸に沿った断面図である。
図5に示すように、ピボット部材13は、基端部13aがハウジング11に固定されている。ピボット部材13は、ハウジング11の内側に突出するように形成され、その先端部13bが、軸受パッド12の湾曲方向外周側に形成された凹部12gに突き当たっている。ピボット部材13の先端部13bは、軸受パッド12の凹部12gとの接触部が、半球状に形成されている。これにより、軸受パッド12は、ピボット部材13の先端部13bに揺動可能に支持されている。
ここで、ピボット部材13は、軸受パッド12の中心軸Cに沿った軸方向Lの長さの中心と、軸受パッド12の周方向θ(
図4参照)に沿った長さの中心とが交差する位置(以下、この位置をピボット中心Cpと称する)に、先端部13bが突き当たっている。
【0037】
図4に示すように、ガス軸受装置10Bにおいて、ロータRの中心軸Cよりも下方に位置する軸受パッド12Lには、軸受パッド12LとロータRとの間に静圧ガスを供給するためのガス供給機構(気体供給手段)30が設けられている。
【0038】
図6は、軸受パッドに形成した吹出口の配置を示す図であり、軸受パッドを摺動面側から見た図である。
図5、
図6に示すように、ガス供給機構30は、各軸受パッド12LにおいてロータRの外周面に対向する摺動面12fに吹出口31を有している。吹出口31は、軸受パッド12Lにおいてピボット部材13の先端部13bが突き当たるピボット中心Cpの外周側に等間隔をあけて複数個所に形成されている。
図6の例では、吹出口31は、ピボット中心Cpを中心とした同心円上に、等間隔に4つの吹出口31が形成されている。
【0039】
図5に示すように、ハウジング11およびピボット部材13には、吹出口31に連通するガス供給路32,33が形成されている。
図4に示すように、ハウジング11に形成されたガス供給路32には、図示しないボンベ等、静圧ガスを供給するガス供給源35が接続されている。ピボット部材13に形成されたガス供給路33は、ハウジング11のガス供給路32と、吹出口31とを連通するように形成されている。
また、ガス供給路32には、ガス供給源35からの静圧ガス供給を断続する開閉弁34が設けられている。ここで、ガス供給源35から供給する静圧ガスとしては、例えば、
空気、窒素、メタン等の雰囲気ガスを用いることができる。
【0040】
ガス供給機構30は、ガス供給源35からガス供給路32,33を経て供給された静圧ガスを、軸受パッド12Lの摺動面12fとロータRの外周面との間に吹き出す。吹き出した静圧ガスにより、軸受パッド12Lの摺動面12fとロータRの外周面との間に気膜が形成され、軸受パッド12Lの摺動面12fとロータRの外周面とが直接接触するのを抑える。
【0041】
このようなガス供給機構30において、各吹出口31は、軸受パッド12Lのピボット中心Cpからの周方向θの離間寸法θ1、軸方向Lの離間寸法L1を、以下のように設定するのが好ましい。
ロータRの中心軸C回りの周方向θでは、軸受パッド12Lの外周部からピボット中心Cpまでの寸法θ0に対し、
θ1/θ0=0.5〜0.6
となるよう、吹出口31を配置するのが好ましい。
図7は、ピボット中心に対する吹出口の周方向における位置と、負荷容量及び合計流量との関係を示す図である。
この
図7に示すように、負荷容量と合計流量のバランスから、θ1/θ0=0.5〜0.6の範囲としている。これにより、より少ない流量で大きな負荷容量が得られる。
【0042】
また、ロータRの軸方向Lでは、軸受パッド12Lの外周部からピボット中心Cpまでの寸法L0に対し、
L1/L0=0.4
となるよう、吹出口31を配置することができる。
図8は、ピボット中心に対する吹出口の軸方向における位置と、負荷容量及び合計流量との関係を示す図である。
この
図8に示すように、L1/L0≦0.4とすると、負荷容量が収束する。
ここで、ロータRが回転しているときの動圧は、ピボット中心付近でもっとも高くなる。つまり、負荷能力に与える影響は、ピボット中心付近で大きくなり、仮に吹出口31がピボット中心付近に配置されていると負荷能力が低下するリスクがある。そのため、吹出口31の軸方向における位置と、負荷容量及び合計流量との関係は、上述したL1/L0=0.4とした場合、負荷容量が低下するリスクを低減できる点で有利となる。
【0043】
さらに、ガス供給機構30は開閉弁34の開閉等を制御する制御部36を備えている。制御部36では、ロータRを備えた回転機械(図示無し)が起動されたこと、または回転機械(図示無し)の運転が停止されたことを検知した場合、吹出口31から軸受パッド12LとロータRとの間に、静圧ガスを供給する。
【0044】
図9は、ガス供給機構の制御部によって実行される、静圧ガスの供給制御の流れを示す図である。
図9に示すように、制御部36は、ロータRを備えた回転機械(図示無し)を起動するための所定の操作が行われたことを検知すると(ステップS1)、開閉弁34を開き、ガス供給源35から静圧ガスを供給する(ステップS2)。静圧ガスは、ガス供給路32を通り、吹出口31から軸受パッド12LとロータRとの隙間に送り出される。すると、静圧ガスの圧力によって、ロータRが自重に抗して浮上し、軸受パッド12LとロータRとの間に適正なクリアランスが形成される。ここで、静圧ガスの流路が吹出口31で絞られる(いわゆる自成絞り)ことで、静圧ガスの供給時における負荷能力を高めることができる。
【0045】
静圧ガスの供給開始後、ロータRの回転を開始する(ステップS3)。
【0046】
ロータRの回転を開始してから所定時間が経過したら、制御部36は、開閉弁34を閉じる。これにより、静圧ガスの供給が停止され(ステップS4)、回転機械は、通常運転状態に移行する。この通常運転状態においては、下側の軸受パッド12Lを含む全ての軸受パッド12とロータRとの間に、ロータRの回転によって周囲から軸受パッド12とロータRとの間に引き込まれた気体の動圧による気膜が形成されている。
【0047】
また、回転機械(図示無し)を停止させるための所定の操作が行われたことを制御部36が検知すると(ステップS1)と、制御部36は、開閉弁34を開き、ガス供給源35から静圧ガスを供給する(ステップS12)。静圧ガスは、ガス供給路32,33を通り、吹出口31から軸受パッド12LとロータRとの隙間に送り出される。
制御部36は、静圧ガスの供給開始後、ロータRの回転を停止させる(ステップS13)。これにより、ロータRが通常運転状態から停止するまでの間、気膜の圧力(動圧)が徐々に低下していくが、静圧ガスによって気膜の圧力が補われる。これにより、ロータRは、気膜を介して軸受パッド12に支持され続ける。
ロータRの停止後、制御部36は、開閉弁34を閉じ、静圧ガスの供給を停止する(ステップS4)。
【0048】
上述した第二実施形態のティルティングパッドガス軸受10Bによれば、ガス供給機構30を備えることで、軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面との間に介在する気膜の圧力が低い場合においても、ガス供給機構30によって軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面との間に静圧ガス(気体)を供給することができる。これにより、軸受パッド12とロータRとが直接接触するのを抑えることができる。そのため、軸受パッド12とロータRとの間における摩擦熱の発生を抑えることができる。また、供給する静圧ガスによって、軸受パッド12の摺動面12fやロータRを冷却することができる。
したがって、軸受パッド12の熱変形の発生を抑えることができる。
【0049】
ガス供給機構30は、制御部36によって、軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面との間に静圧ガスを供給するタイミングを制御することができる。したがって、軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面との間の気膜の圧力が低い場合等、適切なタイミングで静圧ガスを供給することができる。
【0050】
また、吹出口31は、ロータRの中心軸よりも下方に位置する軸受パッド12に形成されている。ロータRの自重により、ロータRの中心軸よりも下方に位置する軸受パッド12においては、軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面との間の気膜が不足した場合、軸受パッド12の摺動面12fとロータRの外周面とが接触しやすい。そこで、ロータRの中心軸よりも下方に位置する軸受パッド12に吹出口31を形成することで、ロータRの中心軸よりも下方において、ロータRと軸受パッド12とが直接接触するのを抑えることができる。
【0051】
ロータRの回転開始時や回転停止時には、ロータRの中心軸よりも下方において、気膜が不足し、ロータRと軸受パッド12とが直接接触しやすい。そこで、制御部36により、ロータRの回転開始時や回転停止時に、ロータRと軸受パッド12との間に静圧ガスを供給することで、ロータRと軸受パッド12とが直接接触するのを抑えることができる。
【0052】
また、上記第一実施形態と同様、軸受パッド12において、ロータRの外周面に対向する側に断熱材層22を備えることで、ロータRの回転時に生じる摩擦熱等がパッド本体21に伝わるのを抑えることができる。これにより、パッド本体21が変形しにくくなる。
また、断熱材層22を、低い熱伝導率を有する材料で形成することで、断熱材層22における断熱効果を高め、パッド本体21の変形を有効に抑えることができる。
また、パッド本体21を、高い熱伝導率を有する材質で形成することで、ロータRとの摺動面12f側から熱が伝わってきたときに、パッド本体21に温度分布が生じにくく、パッド本体21の熱変形を抑えることができる。
また、パッド本体21を、線膨張係数が低い材料で形成することで、ロータRとの摺動面12f側から熱が伝わってきても、パッド本体21が熱変形しにくくなる。
このようにして、軸受パッド12の熱変形を抑えることで、気膜の厚さを小さくし、ガス軸受装置10Bにおける負荷容量を高めることが可能となる。
【0053】
(その他の変形例)
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上記第二実施形態では、ロータRの回転開始時や回転停止時に、静圧ガスを供給するようにしたが、静圧ガスを供給するタイミングは、これに限られない。ロータの回転開始時のみ、または回転停止時のみに静圧ガスを供給してもよいし、ロータの通常運転状態であっても静圧ガスを供給するようにしてもよい。
【0054】
また、軸受パッド12の摺動面12fを研磨加工によって鏡面仕上げとし、軸受パッド12とロータRとの間に生じる摩擦を小さくしてもよい。さらに、摺動面12fにDLC(ダイヤモンドライクカーボン(Diamond−like Carbon))コーティング等の表面処理を施すことで、摺動面12fの摩擦係数をさらに小さくしてもよい。
これにより、万が一軸受パッド12とロータRとが直接接触した場合に、損傷を防ぐことができる。
【0055】
また、上記したようなガス軸受装置10A,10Bで支持するロータRを備えた回転機械は、その用途や構成について何ら限定されるものではない。