(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る浚渫作業に使用される汚濁防止構造の実施形態を説明する。各図面中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜簡略化ないし省略する。図面は、部材もしくは部品間の相対比を示すことを目的としない。したがって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、当業者により決定することができる。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る浚渫作業に使用される汚濁防止構造を実施した状態を示す全体図である。
図1Aは平面図を示し、
図1Bは汚濁防止枠を正面から見た正面図を示す。
【0015】
本発明は、浚渫船1の前方に配置された汚濁防止枠2と、浚渫した土砂が積載される土運船3を利用して施工される浚渫作業の汚濁を防止する構造である。
【0016】
浚渫船1は、グラブ式浚渫船やバックホウ式浚渫船などであり、揚重機6を有している。図示例の浚渫船1はグラブ式浚渫船を示したが、この限りではない。
【0017】
揚重機6は、先端部にグラブバケット61を有し、該グラブバケット61はワイヤ63を介してブーム62により揚重機6の本体60と接続されている。グラブバケット61は、ワイヤ63の巻き出し又は巻き取り操作により上下方向に昇降する。揚重機6の本体60は旋回可能な構成とされ、本体60の旋回によりブーム62を所定の位置まで旋回させる。ブーム62は、垂直方向(上下方向)に上げ下げ可能な構成とされている。
【0018】
汚濁防止枠2は、フロート体21と、汚濁防止膜22を有している。フロート体21は、矩形状(四角形状)に組み立てられている。具体的に汚濁防止枠2は、
図2に示すように中空部を有する鋼管が矩形状に組み合わされて形成される。使用される鋼管は、角形鋼管や円形鋼管であってよい。
【0019】
汚濁防止膜22は、フロート体21の各辺から垂下されて、浚渫する領域を囲む膜である。汚濁防止膜22の下端には錘材が付設されてよい。
【0020】
浚渫作業は、先ず浚渫船1の前方に、浚渫区域を矩形状に囲む汚濁防止枠2をロープ4等により繋留し、また、浚渫船1の舷側に、土運船3をロープ5等により繋留して、この土運船3を浚渫船1と汚濁防止枠2とに並設するように配置する。
【0021】
そして、揚重機6のグラブバケット61により汚濁防止枠2内を浚渫し、この浚渫した土砂を掴んだグラブバケット61を水上まで引き上げ、グラブバケット61が土運船3上に来るように揚重機6の本体60を旋回し、グラブバケット61を開いて浚渫した土砂を土運船3に積み込む。
【0022】
本発明は、グラブバケット61の移動中に、このグラブバケット61の隙間から土砂及び濁水が汚濁防止枠2と土運船3との間の間隙に零れ落ちて、汚濁防止枠外で汚濁が発生するのを防止する構造を具備している。以下その点を説明する。
【0023】
本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造の詳細を、
図1、
図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る浚渫作業に使用される汚濁防止構造を説明する部分拡大斜視図である。
図2Aは土運船を汚濁防止枠へ引き寄せる直前の状態を示し、
図2Bは土運船が汚濁防止枠に引き寄せられた状態を示す。
図2Cは、土運船3内に浚渫した土砂が積み込まれた際の土運船と汚濁防止枠の状態を示す。なお、図示例では矢印Y2側に浚渫船1が配置されているが、説明の関係上省略した。
【0024】
本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造は、土運船3の舷側31(以下、単に側面31ともいう)に設けられた動滑車部70と、汚濁防止枠2に設けられた定滑車部80と、浚渫船1に設けられた巻取装置90と、土運船3を浚渫船1側及び汚濁防止枠2側へ牽引する牽引部材Kとを備えている。
【0025】
動滑車部70は、滑車71、軸72、連結材73、スライドプレート74を備えている。滑車71は、軸72により回転可能な構成とされている。また滑車71は、円周側面71aにV字又はU字形状の溝を有しており、該溝内に後述する牽引部材Kを支持可能な構成とされている。軸72は、土運船3の側面31の長手方向と平行する位置に配置されて、滑車71の円周側面71aの溝が鉛直方向(矢印Z1−Z2方向)に沿うようにされる。
【0026】
連結材73は、軸72とスライドプレート74とを連結する左右一対の支柱である。一対の連結材73は、スライドプレート74の上面から直交する方向に起立し、滑車71の中心を貫通する軸72の両側端部と連結される。したがって、滑車71は、一対の連結材73の間に回転可能に配置される。
【0027】
スライドプレート74は、一対の連結材73の幅よりも大きく形成された略矩形状のプレートである。
【0028】
スライドプレート74は、土運船3の側面31に取付けられた左右一対のガイドレール76の間を鉛直方向(矢印Z1−Z2方向)に移動可能に配置されている。左右一対のガイドレール76は、レール方向が鉛直方向となるように側面31に配置される。
【0029】
左右一対のガイドレール76は、L字形状の2つアングル材76R、76Lを、一定の間隔を空けて対峙させてレール部77を形成する。このレール部77にスライドプレート74が配置され、該スライドプレート74はレール部77内をスライド移動する。
【0030】
アングル材76Rと76Lの間は、動滑車部70の一対の連結材73の幅より若干広く設計されて、滑車71がアングル材76Rと76Lの間を鉛直方向に移動可能に形成されている。
【0031】
したがって、動滑車部70は、スライドプレート74が一対のガイドレール76のレール部77内に配置されることにより、ガイドレール76に沿って鉛直方向に移動可能となる。
【0032】
左右一対のガイドレール76の底部には、動滑車部70の抜け落ちを防止する転落防止プレート78が取付けられている。また、左右一対のガイドレール76の上縁部は、開口されており、動滑車部70を着脱可能な構成とされている。なお、ガイドレール76は、図示例のようなアングル材だけでなく、2つのC形鋼や2つのH形鋼を一定の間隔を空けて対峙させて構成してもよい。
【0033】
定滑車部80は、滑車81と、軸82と、支持材83を有している。滑車81は、汚濁防止枠2のフロート体21の上面に、軸82とL字形状の支持材83とにより回転可能に取付けられている。また、滑車81は、円周側面81aにV字又はU字形状の溝を有しており、該溝内に後述する牽引部材Kを支持可能な構成とされている。軸82は、フロート体21の上面と直交する位置に配置されて、滑車81の円周側面81aの溝がフロート体21の上面と平行になるようにされる。したがって、滑車81の円周側面81aの溝と滑車71の円周側面71aの溝の向きは、それぞれ直交方向に交差する。
【0034】
本実施形態の定滑車部80は、フロート体21の土運船3側(矢印X1側)の辺21Rに設けられる。図示例では、定滑車部80が矢印X1側の1辺(辺21R)にのみ設けられているが、対向するX2側の辺21Lにも設けられてよい。すると、土運船3が辺21R側と辺21L側の何れに来ても対応できる。図示例の動滑車部70と定滑車部80は、それぞれ2箇所に設けられているが、1箇所でもよいし複数箇所に設けられてもよい。
【0035】
動滑車部70は、図示の限りではなく、滑車71の代わりに半円弧形状のピースを使用し、該ピースとスライドプレート74とを連結する構成であって良い。その際、牽引部材Kはピース内に通される様態で実施される。また定滑車部80においても、滑車81の代わりに半円弧形状のピースをフロート体21の上面に取付けて実施できる。また、滑車71の円周側面71aの溝は、鉛直方向に沿っていなくても実施可能である。その際、連結材73は、例えばスナッチブロックの如く滑車71を360°回転可能な構成とされてよい。この場合、土運船3の繋留時に動滑車部70と定滑車部80とがX1−X2軸上に並ばなくても容易に引き寄せが可能になる。
【0036】
また、定滑車部80の支持材83は、上下方向の高さを調整可能な高さ調整機構を有し、滑車81の高さを調整可能であることが好ましい。
【0037】
巻取装置90は、ウインチである。本実施形態の巻取装置90は、浚渫船1の幅方向の両側に設けられている既設のウインチの片側又は両方を使用可能である。勿論、オートテンション機能を有するウインチを使用しても良い。本実施形態では、片側の巻取装置90のみを使用する例を説明する。
【0038】
牽引部材Kは、索条材であり、金属、樹脂製のロープであってよい。本実施形態の牽引部材Kは、複数の索条材を連結して構成されることが好ましい。しかし、1本の索条材を使用して実施することも可能である。
【0039】
牽引部材Kは、基端が巻取装置90と連結された索条K1と、基端が土運船3の一側縁部32上に設けられた支持体9と連結された索条K2とを有している。索条K2は、動滑車部70の滑車71と定滑車部80の滑車81とに掛けられる。
【0040】
索条K1の先端には、他の部材と連結可能なリング形状のアイ部K1aが形成されている。索条K2の基端には、他の部材と連結可能なリング形状のアイ部K2aが形成されており、先端にはアイ部K2bが形成されている。
【0041】
索条K2のアイ部K2bは、土運船3が汚濁防止枠2と近接していない場合には、基端のアイ部K2aと同様に支持体9に掛けられていてよい。土運船3を汚濁防止枠2へ寄せる場合、索条K2のアイ部K2bは、滑車71と滑車81を経てシャックルなどの連結材Jにより索条K1の先端のアイ部K1aと連結される。すると牽引部材Kが形成される。
【0042】
上記構成により、一端を土運船3と連結された牽引部材Kは、巻取装置90と連結されることになり、該牽引部材Kを巻取装置90の巻取操作により巻き上げることにより、土運船3を汚濁防止枠2へ引き寄せることができる。
【0043】
即ち、
図2Aに示すように土運船3が近づいてきたときに、索条K2のアイ部K2bを連結材Jにより索条K1のアイ部K1aと連結する。そして、巻取装置90は、
図2Bに示すように連結された牽引部材Kを巻き揚げることにより、土運船3を汚濁防止枠2へ引き寄せることができる。
【0044】
また、土運船3が、浚渫した土砂を積み込んだ際に下方(矢印Z2側)に沈んでも、
図2Cに示すように、動滑車部70がガイドレール76のレール部77に沿って上方へスライド移動して該土運船3の沈みに追従することができる。その際、巻取装置90による巻き取り操作を適宜行うことで、土運船3と汚濁防止枠2との隙間が一定になるように保持する。
【0045】
図示例では、動滑車部70と定滑車部80とが左右の2箇所に設けられており、それぞれに索条K2が配置されている。左右何れの索条K2も、連結材Jにより索条K1と一体的に連結される。即ち、一端が土運船3と連結される索条K2が複数存在しても、連結材Jにより巻取装置90と連結される索条K1と連結することができる。
【0046】
したがって、牽引部材Kの巻取装置90への連結作業を簡易にすることができる。また巻取装置90が実際に巻き取る索条は、索条K1の1本のみになるので、索条K2が複数存在しても、巻取装置90による土運船3の引き寄せを安定して行うことができる。
【0047】
また、巻取装置90による巻き取り力により、汚濁防止枠2と土運船3との隙間を最小限にすることが可能であり、上記隙間に土砂や濁水が落ちて汚濁が発生することを防止できる。汚濁防止枠2と土運船3との隙間は、後述する汚濁防止シート8により覆うことが好ましい。
【0048】
次に、汚濁防止シート8について説明する。
本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造は、土運船3の一側縁部32から汚濁防止枠2内へ垂下する汚濁防止シート8を備えている。
【0049】
汚濁防止シート8は、上辺8Aが土運船3の一側縁部32上に固定される。また固定されないフリーな下辺8Bには、錘材8Cが取付けられている。上記構成の汚濁防止シート8は、下辺8Bを汚濁防止枠2内へ下垂することで、土運船3と汚濁防止枠2との間に掛け渡される。
【0050】
汚濁防止シート8は、
図2Aに示すように土運船3を汚濁防止枠2へ引き寄せる前においては、折り畳むなどして一側縁部32上に配置されてよい。また、下辺8Bを軸に巻くなどして一側縁部32上に配置されていてもよい。
【0051】
勿論、作業以外の時には、汚濁防止シート8を一側縁部32上から撤去し、別途用意した収納箱などに収納し、作業時には汚濁防止シート8を一側縁部32上に上述のように設置してよい。
【0052】
そして、
図2Bに示すように土運船3を巻取装置90により汚濁防止枠2へ引き寄せると、汚濁防止シート8の下辺8Bを汚濁防止枠2内に垂下させて、汚濁防止シート8を土運船3と汚濁防止枠2との間に掛け渡す。なお、
図2Bに示す矢印G1、G2は、グラブバケット61の移動線を示している。つまり、汚濁防止シート8は、浚渫した土砂を掴んだグラブバケット61の移動線の直下位置に配置される。
【0053】
したがって、汚濁防止シート8は、グラブバケット61が移動線上を移動している際に、仮に土砂や濁水を落下させても、落下物を受け止めて汚濁防止枠2内へ戻すことができる。また、上記の汚濁防止シート8は、落下物が汚濁防止枠2のフロート体21上に乗り、後に周辺水域に落下して周辺水域を汚濁させることを未然に防止できる。
【0054】
上記したように本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造は、巻取装置90による牽引部材Kの巻き取り操作により、土運船3を汚濁防止枠2に密接に引き寄せる構成としたので、引き寄せ機能と、汚濁防止機能を確実に発揮できる。
【0055】
また、本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造は、土運船3の一側縁部32から汚濁防止枠2内へ垂下する汚濁防止シート8を備える構成とした。したがって、巻取装置90により土運船3を汚濁防止枠2へ引き寄せた際に、汚濁防止枠2と土運船3との間に隙間が存在しても、汚濁防止シート8により該隙間を覆うことができる。すると、グラブバケット61が移動線上を移動している際に土砂や濁水を落下させても、該汚濁防止シート8が落下物を受け止めて汚濁防止枠2内へ戻すので、上記隙間に土砂や濁水が落ちて汚濁が発生することを確実に防止できる。
【0056】
更に本発明の浚渫作業に使用される汚濁防止構造は、土運船3に動滑車部70と汚濁防止シート8を設置し、汚濁防止枠2に定滑車部80を設置し、巻取装置90は既設のウインチを使用する構成とした。したがって、単純な構成であるため汎用性が高い。のみならず、動滑車部70や定滑車部80、及び汚濁防止シート8は、比較的費用が安価であるため、定滑車部80を土運船3が接舷する可能性のあるフロート体21の2辺(矢印X1側とX2側)に設置し、動滑車部70と汚濁防止シート8を土運船3の両舷(両側端縁上)に設置することを積極的に行える。すると、土運船3を浚渫船1の左右(矢印X1側とX2側)のどちらに接舷しても、本発明の効果を期待でき、土運船3の運行管理が容易となる。
【0057】
<施工手順>
次に、
図3を参照しながら本発明の実施形態に係る浚渫作業に使用される汚濁防止構造の施工手順を説明する。
【0058】
先ず
図3Aに示すように、土運船3は、補助船100により浚渫船1の場所まで誘導される。このとき汚濁防止シート8は、土運船3の一側縁部32上に収納された状態で設置されている。また、土運船3に固定された索条K2の先端であるアイ部K2bは、基端のアイ部K2aと同様に支持体9に掛けられていてよい。このとき索条K2は、滑車71に掛けられた状態であることが好ましい。なお、土運船3や浚渫船1の誘導は、押船などを利用してもよい。
【0059】
図3Bに示すように、土運船3が浚渫船1の右側(矢印X1側)に接舷すると、浚渫船1の舷側に土運船3をロープ5等により繋留して、この土運船3を浚渫船1と汚濁防止枠2とに並設するように配置する。その際、汚濁防止枠2は、土運船3の船首側(矢印Y2側)に位置している。
【0060】
その後、補助船100は、土運船3の船首側の舷側を押して、土運船3の船首側の側面31が汚濁防止枠2に近接するようにする。
【0061】
その際、土運船3に固定された索条K2のアイ部K2bを、支持体9から外す。そして索条K2の先端部を、滑車81へ通し掛ける。その後、索条K2のアイ部K2bを、連結材Jにより索条K1の先端のアイ部K1aと連結する(
図2A参照)。
【0062】
次に、巻取装置90は、牽引部材Kを巻取操作により巻き上げて、土運船3を汚濁防止枠2へ引き寄せる。
【0063】
その後、
図3Cに示すように汚濁防止シート8を展張し、該汚濁防止シート8の下辺8Bを汚濁防止枠2内へ垂下させる(
図2B参照)。
【0064】
そして、浚渫船1は、土運船3と汚濁防止枠2とが引き寄せられた状態のまま、揚重機6による浚渫作業を行う。即ち揚重機6は、グラブバケット61により汚濁防止枠2内の土砂を浚渫する。そして、揚重機6は、浚渫した土砂を掴んだグラブバケット61を揚げた後、グラブバケット61が土運船3上に来るように揚重機6の本体60を旋回させ、グラブバケット61を開いて土砂を土運船3内へ投入する。その後、揚重機6は、本体60を旋回させグラブバケット61を汚濁防止枠2上へ配置させる。上記した動作を繰り返すことで浚渫作業を行う。
【0065】
浚渫作業時において、汚濁防止枠2と土運船3との隙間は、上述したように汚濁防止シート8などにより完全に無くなっているので、上記隙間に土砂や濁水が落ちて汚濁が発生することを確実に防止できる。また、グラブバケット61が移動線G1−G2上を移動している際に、土砂や濁水を落下させても汚濁防止シート8が落下物を受け止めて汚濁防止枠2内へ戻すので、落下物による汚濁の危険を未然に防止できる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0067】
例えば図示例の汚濁防止シート8の下辺8Bの両端部に線材が連結されていてもよい。線材は、一側端部が土運船3の一側縁部32上の支持体9と固定されている。したがって、線材を引き揚げることにより汚濁防止シート8を引き揚げることができる。