(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709118
(24)【登録日】2020年5月26日
(45)【発行日】2020年6月10日
(54)【発明の名称】固定部材の離脱防止構造
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20200601BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20200601BHJP
【FI】
F16B41/00 A
F16B35/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-133942(P2016-133942)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-4000(P2018-4000A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】391021226
【氏名又は名称】株式会社カーメイト
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真琴
【審査官】
近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−61385(JP,A)
【文献】
韓国登録実用新案第0381418(KR,Y1)
【文献】
中国実用新案第204041681(CN,U)
【文献】
中国実用新案第2553166(CN,Y)
【文献】
特開2001−221215(JP,A)
【文献】
特開2014−74429(JP,A)
【文献】
特開平8−244516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 41/00
F16B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の外周面にネジ山が形成されたボルト軸を有するボルト部材と、
内周面にネジ山が形成されたナット部材と、
前記ボルト部材から前記ナット部材が離脱することを防止する離脱防止手段と、
を有し、
前記離脱防止手段は、
前記ボルト部材の一端側位置に形成された溝部と、前記溝部によって離間された複数の片の中の、少なくとも1つの片に外径拡大部が形成され、
前記ナット部材を、前記ボルト部材の一端側位置から他端側位置に向かって押圧した際に、前記複数の片の中の少なくとも外径拡大部を有する片が、互いに近接する方向に移動することによって、前記外径拡大部を前記ナット部材の内周面が通過可能に構成され、
前記ボルト部材の外径拡大部と他端側位置の間に前記ナット部材を配置した状態で、
前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた際に、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が所定の位置に達した段階で前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態が解除されるように構成されることを特徴とする固定部材の離脱防止構造
【請求項2】
前記ナット部材を、前記ボルト部材の一端側位置から他端側位置に向かって押圧した際に、
前記ボルト部材と前記ナット部材の少なくとも何れか一方の互いに当接する位置には、前記ナット部材を前記ボルト部材の他端に向かって押圧する力を、前記外径拡大部を有する片が互いに近接する方向に移動する力に変換するガイド面が形成されることを特徴とする請求項1記載の固定部材の離脱防止構造
【請求項3】
前記外径拡大部には、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に継続して回転させた際に、前記ナット部材と当接する内側当接部が形成され、
前記ナット部材が前記内側当接部に当接した時点で、前記ナット部材の前記ボルト部材の一端側位置への移動が制御され、
更に、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた際に、少なくとも前記外径拡大部を有する片が互いに近接する方向に移動して前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態が解除されるように構成されることを特徴とする請求項1または2記載の固定部材の離脱防止構造
【請求項4】
前記外径拡大部には、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に継続して回転させた際に、前記ナット部材の内周面と当接する内側ガイド面が形成され、
前記ナット部材の内周面が前記内側ガイド面と当接した状態から、更に前記ナット部材が前記ボルト部材の一端側位置に移動する際に、前記外径拡大部を有する片が前記ナット部材の内周面によって互いに近接する方向に押圧され、
前記ボルト部材のボルト軸に形成されたネジ山の前記ナット部材と螺合可能な位置の一端側位置の終点は、前記ナット部材の内周面が前記内側ガイド面の外径最小部と当接する位置と、前記内側ガイド面の外径最大部と当接する位置の間に設定されるように構成されることを特徴とする請求項1または2記載の固定部材の離脱防止構造
【請求項5】
前記ボルト部材の一端側位置に形成された溝部は、前記ナット部材の内側面を前記外径拡大部が挿通する動作と、前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態を解除するための動作の際の前記ボルト部材の弾性変形が必要な範囲に形成されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の固定部材の離脱防止構造
【請求項6】
前記外径拡大部を構成する複数の片が一方の片と他方の片からなり、
前記一方の片および他方の片は、
前記ボルト部材の軸心を通る水平線から近接して形成された近接対向面と、
前記近接対向面よりも前記ボルト部材の軸心を通る水平線から離間して形成された離間部が夫々形成され、
前記一方の片および他方の片が、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接する方向に移動した際は、前記一方の片と他方の片の近接対向面同士が当接し、
前記一方の片および他方の片の対向面が、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接方向に移動すると同時に、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して垂直方向に移動した際は、前記一方の片と他方の片の近接対向面の当接を回避するように構成されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の固定部材の離脱防止構造
【請求項7】
前記ボルト部材のボルト軸は自動車のエアコン吹き出し口のルーバー間に配置可能に構成され、
前記ボルト部材の基部側位置が車載用品に保持されるように構成されると共に、前記基部には回転操作部が形成され、
前記ナット部材にはエアコンのルーバーを保持可能なフック部が形成されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の固定部材の離脱防止構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトとナットによる固定部材に係り、特に、装着が容易でボルトとナットの相対的な離脱を防止する固定部材の離脱防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の固定部材の離脱防止構造としては、特許文献1の挿入部材の抜け止め構造が知られている。この従来技術においては、
図26に示すように、ボルト70のねじ軸71にはスリット状の溝72が凹設され、溝72内には係止部81を突出した可撓部材80が収納される。ナット90の挿入時にはナット90のねじに押されて可撓部材80が溝72内に収納され、ナット90が所定位置に挿入されると可撓部材80は自由状態となり、その係止部81がナット90の端面に当接して抜け止めとして機能する構成が開示されている。
【0003】
この特許文献1の構成においては、ボルト70と可撓部材80が別部品で構成されるため、コストが上昇し、また、この固定部材の使用前、使用中の何れの情況においても、振動や温度変化、経年変化等によりボルト70から可撓部材80が離脱してしまう不具合があった。
【0004】
更にこの特許文献1の構成においては、ボルト70に対してナット90を緩み方向に回転させ、前記ナット90が前記可撓部材80の係止部81と当接した状態から更に、ボルト70に対してナット90を緩み方向に回転させた場合には前記撓部材80が破損し、ボルト70からナット90が外れてしまう欠点があった。
【0005】
また、他の従来技術として、特許文献2の締結部材75の構造が知られている。この従来技術においては、
図27に示すように、外周面にネジ山が形成されているネジ軸部76と、このネジ軸部76の後端に設けられているネジ頭部77とからなる締結部材75であって、前記ネジ軸部76の長手方向の所定の位置から先端方向に向けて軸線に沿うようにして分割され、かつ弾性力を備えて半径方向に拡開されている拡開片78を有するように構成が開示されている。
【0006】
この特許文献2の構成においては、締結部材75と拡開片78が同一部品で構成されているが、締結部材73をデッキプレート91を固定するネジ穴92に対して緩み方向に回転させ、前記締結部材75の拡開片78が前記デッキプレート91と当接した状態から更に、前記デッキプレート91に対して前記締結部材75を緩み方向に回転させた場合には、前記拡開片78が塑性変形して最終的には破断し、締結部材75からデッキプレート91が外れてしまう欠点があった。
【0007】
また、他の従来技術として、特許文献3の自動車のエアコン吹き出し口用取付具の構造が知られている。この従来技術は、
図28に示すように、フック82を有する少なくとも2個の縦方向スライド片83と、エアコン吹き出し口のルーバー両側を上記フック82と協同して挾持するため上記縦方向スライド片83に沿って任意の位置に変位可能なフック84を有するルーバー固定部材85と、上記縦方向スライド片83をホルダー本体64に相対的に縦方向に移動自在並びに軸線の周りに回動変位可能にホルダー本体64に固定するためのナット93を具備するホルダー取付具100が開示されている。
【0008】
この特許文献3は、ボルト状の縦方向スライド片83とナット93を含むホルダー取付具100の組み合わせを、自動車のエアコン吹き出し口用の取付具に利用した技術であるが、ボルト状の縦方向スライド片83とナット93間の離脱防止構造を有さないため、ボルト状の縦方向スライド片83とナット93間で緩み方向の相対的な回転操作を続けていくと、最終的にはナット93に対してボルト状の縦方向スライド片83が分離してしまう不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−221215号公報
【特許文献2】特開2014−74429号公報
【特許文献3】特開平8−244516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ボルトとナットの相対的な離脱が防止可能で、作業性が良く、安価な構成で繰り返しの利用が可能な、固定部材の離脱防止構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固定部材の離脱防止構造は、少なくとも一部の外周面にネジ山が形成されたボルト軸を有するボルト部材と、内周面にネジ山が形成されたナット部材と、前記ボルト部材から前記ナット部材が離脱することを防止する離脱防止手段と、を有し、前記離脱防止手段は、前記ボルト部材の一端側位置に形成された溝部と、前記溝部によって離間された複数の片の中の、少なくとも1つの片に外径拡大部が形成され、前記ナット部材を、前記ボルト部材の一端側位置から他端側位置に向かって押圧した際に、前記複数の片の中の少なくとも外径拡大部を有する片が、互いに近接する方向に移動することによって、前記外径拡大部を前記ナット部材の内周面が通過可能に構成され、前記ボルト部材の外径拡大部と他端側位置の間に前記ナット部材を配置した状態で、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた際に、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が所定の位置に達した段階で前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態が解除されるように構成されることを特徴とする。
【0012】
更に、前記ナット部材を、前記ボルト部材の一端側位置から他端側位置に向かって押圧した際に、前記ボルト部材と前記ナット部材の少なくとも何れか一方の互いに当接する位置には、前記ナット部材を前記ボルト部材の他端に向かって押圧する力を、前記外径拡大部を有する片が互いに近接する方向に移動する力に変換するガイド面が形成されると良い。
【0013】
更に、前記外径拡大部には、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に継続して回転させた際に、前記ナット部材と当接する内側当接部が形成され、前記ナット部材が前記内側当接部に当接した時点で、前記ナット部材の前記ボルト部材の一端側位置への移動が制御されるように構成され、更に、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた際に、少なくとも前記外径拡大部を有する片が互いに近接する方向に移動して前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態が解除されるように構成されると良い。
【0014】
また、前記外径拡大部には、前記ボルト部材に対して前記ナット部材が相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に継続して回転させた際に、前記ナット部材の内周面と当接する内側ガイド面が形成され、前記ナット部材の内周面が前記内側ガイド面と当接した状態から、更に前記ナット部材が前記ボルト部材の一端側位置に移動する際に、前記外径拡大部を有する片が前記ナット部材の内周面によって互いに近接する方向に押圧され、前記ボルト部材のボルト軸に形成されたネジ山の前記ナット部材と螺合可能な位置の一端側位置の終点は、前記ナット部材の内周面が前記内側ガイド面の外径最小部と当接する位置と、前記内側ガイド面の外径最大部と当接する位置の間に設定されるように構成されると良い。
【0015】
更に、前記ボルト部材の一端側位置に形成された溝部は、前記ナット部材の内側面を前記外径拡大部が挿通する動作と、前記ボルト部材と前記ナット部材の螺合状態を解除するための動作の際の前記ボルト部材の弾性変形が必要な範囲に形成されると良い。
【0016】
更に、前記外径拡大部を構成する複数の片が一方の片と他方の片からなり、前記一方の片および他方の片は、前記ボルト部材の軸心を通る水平線から近接して形成された近接対向面と、前記近接対向面よりも前記ボルト部材の軸心を通る水平線から離間して形成された離間部が夫々形成され、前記一方の片および他方の片が、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接する方向に移動した際は、前記一方の片と他方の片の近接対向面同士が当接し、前記一方の片および他方の片の対向面が、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接方向に移動すると同時に、前記ボルト部材の軸心を通る水平線に対して垂直方向に移動した際は、前記一方の片と他方の片の近接対向面の当接を回避するように構成すると良い。
【0017】
また、本発明を応用した構成として、前記ボルト部材のボルト軸は自動車のエアコン吹き出し口のルーバー間に配置可能に構成され、前記ボルト部材の基部側位置が車載用品に保持されるように構成されると共に、前記基部には回転操作部が形成され、前記ナット部材にはエアコンのルーバーを保持可能なフック部を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ボルト部材に対してナット部材を緩み方向に相対的な回転を継続してもボルト部材に対するナット部材の離脱を防止でき、ボルト部材に対してナット部材を押し込むだけでボルト部材とナット部材の仮固定ができるため作業性が良く、ボルト部材とナット部材は夫々射出成型によって1つの部品のみで構成することができるため安価に提供することが可能であり、締付け操作と緩め操作を繰り返し行った際に緩め過ぎてもボルト部材とナット部材の夫々のネジ山に過大な負荷が掛からないように構成されているため、長期に亘り繰り返しの利用が可能である点において、既存技術では得られない大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の側面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材を一端側位置から見た形状図である。
【
図5】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図6】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図7】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図8】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図9】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の変形例を示す断面図である。
【
図10】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の変形例を示す側面図である。
【
図11】
図10のボルト部材を一端側位置から見た形状図である。
【
図12】第1の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の変形例を示す側面図である。
【
図13】
図12のボルト部材を一端側位置から見た形状図である。
【
図14】第2の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の側面図である。
【
図15】第2の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図16】第2の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の動作を示す要部拡大図である。
【
図17】第2の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造に係るボルト部材の変形例を示す側面図である。
【
図18】第3の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造のボルト部材の斜視図である。
【
図19】第3の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造のボルト部材を一端側位置から見た形状図である。
【
図20】
図19のボルト部材の動作を示す一端側位置から見た形状図である。
【
図21】
図19のボルト部材の動作を示す一端側位置から見た形状図である。
【
図22】第4の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の使用状態を示す要部斜視図である。
【
図23】第4の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の使用状態を示す要部断面図である。
【
図24】第5の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の斜視図である。
【
図25】第5の実施形態に係る固定部材の離脱防止構造の使用状態を示す参考断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1実施例に係る固定部材の離脱防止構造を図面に基づき説明する。
【0021】
本発明の第1実施例は、
図1〜
図13に示すように、外周面10にネジ山が形成されたボルト軸を有するボルト部材1と、内周面51にネジ山が形成されたナット部材5と、前記ボルト部材1から前記ナット部材5が離脱することを防止する離脱防止手段と、を有し、前記離脱防止手段は、前記ボルト部材1に形成された溝部12と、前記ボルト部材1の一端側位置11に形成され、前記溝部12によって一方の片1aと他方の片1bに形成された外径拡大部13を有する。尚、
図9に示すように、前記外径拡大部13は一方の片1aと他方の片1bの中の少なくとも何れか1つの片のみに設けても良い。
【0022】
尚、前記ボルト部材1は、ポリアセタールやナイロイン等の高い強度を有する樹脂を用いると良いが、用途によってはポリプロピレンやABSなどの一般的な樹脂を用いても良く、射出成型によって生産することによって、成型後の後加工が不要となるため、コスト的な利点が大きいが、樹脂に限定されず金属材料を用いて生産しても良い。同様に前記ナット部材5もポリアセタールやナイロイン等の高強度な樹脂を用いると樹脂によって成型したボルト部材との相性が良いが、用途によってはポリプロピレンやABSなどの一般的な樹脂を用いても良く、樹脂に限定されず金属によって形成しても良い。
【0023】
更に、前記ボルト部材1の外径拡大部13の先端位置には傾斜面からなるガイド面14が形成され、
図5に示すように、前記ナット部材5を前記ボルト部材1の他端側位置15に向かって押圧した際に、前記ガイド面14が前記ナット部材5の内周面51と当接するように構成することによって、前記押圧による力を、前記外径拡大部13の一方の片と他方の片が互いに近接する方向に移動する力に変換することができる、それにより、
図6に示すように、前記ナット部材5の内周面51と前記ガイド面14が当接した状態から、前記ナット部材5を、前記ボルト部材1の一端側位置11から他端側位置15に向かって押圧した際に、前記外径拡大部13の複数の片が互いに近接する方向に移動することによって、前記外径拡大部13を前記ナット部材5の内周面51が通過可能に構成される。
【0024】
尚、前記ボルト部材1にガイド面14を形成する代わりに、前記ナット部材5の前記ボルト部材1の外径拡大部13との当接部に傾斜面からなるガイド面(図示せず)を形成しても良く、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の互いの当接部に夫々ガイド面を形成しても良い。
【0025】
前記ボルト部材1の外径拡大部13と他端側位置15の間に前記ナット部材5を配置した状態で、前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5を相対的に締まり方向(順ネジの場合は時計回り)に回転させた時には前記ナット部材5が前記ボルト部材1の他端側位置15に移動するように構成される。
【0026】
また、前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5を相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた時には前記ナット部材5が前記ボルト部材1の一端側位置11に向かって移動するように構成される。
【0027】
前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5の一端側位置11に向かう移動操作を継続して行った場合には、前記ナット部材5が前記外径拡大部13の内側位置に形成された内側当接部16と当接することによって、前記ボルト部材1から前記ナット部材5が離脱することを防止する離脱防止手段が設けられる。
【0028】
更に前記離脱防止手段は、
図7に示すように、前記ナット部材5が前記外径拡大部13の内側当接部16と当接した状態から、更に前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5を相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転させた場合に、
図8に示すように、前記ナット部材5に形成されたネジ山に対して、前記ボルト部材に形成されたネジ山に、羅合状態が解除される方向の力が作用し、それにより前記外径拡大部13から他端側位置15に向かってボルト軸を延在する一方の片1aと他方の片1bが互いに近接する方向に移動し、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除されることによって、前記ナット部材5のボルト部材1からの離脱を防止すると共に、前記ボルト部材1および前記ナット部材5の破損を防止することができる。
【0029】
尚、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除される際には、前記ボルト部材1の一方の片1aと他方の片1bが夫々、互いの羅合部分においてナット部材5もしくはボルト部材1の何れか低いネジ山の高さ分だけ、互いに近接するため、前記内側当接部16は少なくとも、前記互いの羅合部分が解除される際の前記内側当接部16の移動距離よりも高い外径の当接面を形成する必要がある。
【0030】
更に、前記溝部12は、前記ナット部材5の内周面51を前記外径拡大部13が挿通する際と、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除される際とに、前記ボルト部材1の一方の片1aと他方の片1bの必要な弾性変形量を得るために、十分な深さHおよび幅Dで前記ボルト部材1に形成される。
【0031】
また、本実施例における前記溝部は、ボルト軸の軸線を中心とした1つの割り溝で構成されるが、本発明において溝部は1つに限定されず、例えば
図10、
図11に示すように、ボルト部材1の一端側位置11に、ボルト軸の軸線位置から外側に向かって放射状に伸びる3つの溝部12で構成してもよく、その場合は外径拡大部13が3つの片から形成しても良い。尚、前記外径拡大部13は何れか1つの片のみに設けても良い。
【0032】
また
図12、
図13に示すように、ボルト部材1の一端側位置11に、ボルト軸の横断面において十字形の溝を形成してもよく、その場合は外径拡大部13が4つの片から形成しても良い。尚、前記外径拡大部13は何れか1つの片のみに設けても良い。
【0033】
本発明の第2実施例に係る固定部材の離脱防止構造を図面に基づき説明する。
【0034】
本発明の第2実施例は、
図14〜
図17に示すように、第1実施例の前記ボルト部材1から前記ナット部材5が離脱することを防止する離脱防止手段との変形例であり、第1実施例で記載の前記外径拡大部13には、前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5を相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)の回転を継続した際に、前記ナット部材5の内周面51と当接する内側ガイド面17が形成される。尚、
図17に示すように、前記外径拡大部13は一方の片1aと他方の片1bの中の少なくとも何れか1つの片のみに設けても良い。
【0035】
前記内側ガイド面17は一端側位置11に向かって外径が拡大する傾斜面によって構成され、
図15に示す、前記ナット部材5が前記内側ガイド面17の外径最小部と当接した状態から、
図16に示すように、更に前記ボルト部材1の一端側位置11に移動することによって、前記一方の片1aと他方の片1bの前記内側ガイド面17が前記ナット部材5の内周面51によって互いに近接する方向に押圧されるように構成される。
【0036】
前記構成において、前記ボルト部材1のボルト軸に形成されたネジ山の前記ナット部材5と螺合可能な位置の一端側位置11の終点は、前記ナット部材5の内周面51が前記内側ガイド面17の外径最小部と当接する位置と、前記内側ガイド面17の外径最大部と当接する位置の間の位置に設定される。
【0037】
本実施例の構造により、前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5が、相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転した際に、前記ナット部材5が前記ボルト部材1の一端側位置11に向かって移動し、前記ナット部材5が、前記ボルト軸1に形成されたネジ山の前記ナット部材5と螺合可能な位置の一端側の終点18よりも、一端側位置11に移動した時点で、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除され、前記ボルト部材1および前記ナット部材5の破損が防止される。
【0038】
前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除される位置において、前記ナット5の前記内側ガイド面17との当接位置は前記内側ガイド面17の外径最小部と当接する位置と、前記内側ガイド面17の外径最大部と当接する位置の間の位置となるため、前記ボルト部材1からナット部材5の離脱を防止することできる。
【0039】
更に、本実施例においては、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除される位置において、前記内側ガイド面17によって、前記ナット部材5を前記ボルト部材1との羅合可能位置に押し付ける付勢力が発生するように構成されるため、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合が解除された状態から、前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5を相対的に締まり方向(順ネジの場合は時計回り)に回転させた際に、前記ボルト部材1と前記ナット部材5が直ちに羅合状態に移行し、前記ナット部材5が前記ボルト部材1の他端側位置15に向かって移動することによって締め付け工程を円滑に実施することができる。
【0040】
本発明の第3実施例に係る固定部材の離脱防止構造を図面に基づき説明する。
【0041】
本発明の第3実施例は、
図18〜
図21に示すように、第1実施例(第2実施例にも適用可能)の一方の片1aと他方の片1bの構成の変形例であり、
図19に示すように、前記前記一方の片1aおよび他方の片1bは、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して近接して形成された近接対向面21と、前記近接対向面21よりも前記ボルト部材1の軸心を通る水平線から離間して形成された離間部22が夫々形成され、
図20示すように、前記一方の片1aおよび他方の片1bが、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接する方向に移動した際は、前記一方の片と他方の片の近接対向面21同士が当接するように構成される。
【0042】
この第3実施例においては、実施例1と同様に、前記ボルト部材1の外径拡大部13の先端位置には傾斜面からなるガイド面14が形成され、前記ナット部材5を前記ボルト部材1の他端側位置15に向かって押圧した際に、前記ガイド面14が前記ナット部材5の内周面51と当接するように構成することによって、前記押圧による力を、前記外径拡大部13の一方の片と他方の片が互いに近接する方向に移動する力に変換することができる、
【0043】
更に、前記ボルト部材1の外径各大部13の先端位置に形成される傾斜面からなるガイド面14には、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して垂直方向に突出した垂直方向押し圧部23が形成され、前記ナット部材5を前記ボルト部材1の他端側位置15に向かって押圧した際には、前記ナット部材5の内周面51が、前記垂直方向押し圧部23と当接して、前記一方の片1aおよび他方の片1bの対向面を、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して垂直方向に移動させると共に、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接方向に移動するように構成される。尚、本実施例の構成において、前記垂直方向押し圧部23は、必ずしも設けなくても良く、その場合は前記ボルト部材1への前記ナット部材5の装着時に、前記ボルト部材1の外径各大部13を手でひねることによって、前記一方の片1aおよび他方の片1bの対向面を、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して垂直方向に移動させ、近接対向面21同士の当接を回避させることができる。
【0044】
上記構成により、前記ナット部材5を、前記ボルト部材1の一端側位置11から他端側位置15に向かって押圧した際に、
図21に示すように、前記一方の片1aおよび他方の片1bの対向面が、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して互いに近接方向に移動すると同時に、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して垂直方向に移動させることができるため、前記一方の片1aと他方の片1bの近接対向面21同士の当接を回避することができ、前記一方の片1aと他方の片1bの近接方向の移動量が多く取ることができるため、前記外径拡大部13を前記ナット部材5の内周面51が通過可能に構成される。
【0045】
この第3実施例は、第1実施例と同様の構成によって、前記ナット部材5が前記外径拡大部13の内側当接部16と当接した状態から、更に前記ボルト部材1に対して前記ナット部材5が、相対的に緩み方向(順ネジの場合は反時計回り)に回転した場合には、前記外径拡大部13を含む前記一方の片1aおよび他方の片1bが、前記ボルト部材1の軸心を通る水平線に対して平行方向に、互いに近接する方向に移動して、前記ボルト部材1と前記ナット部材5の螺合状態が解除されるが、
図20に示すように、前記一方の片と他方の片の近接対向面21同士が当接することによって、前記一方1aの片と他方の片1bの近接方向の移動量を制御することができるため、前記ボルト部材1に対するナット部材5の離脱防止を確実に実施できる効果を有する。
【0046】
本発明の第4実施例に係る固定部材の離脱防止構造を図面に基づき説明する。
【0047】
本発明の第4実施例は、
図22、
図23に示すように、本発明の固定部材の離脱防止構造を、カメラの三脚60の高さ調整用に使用した場合の実施形態の概要を示すものであり、一端側位置11に外径拡大部13が形成されたボルト部材1のボルト軸が三脚60の高さ調整部を貫通して配置され、前記ボルト部材1の他端側位置15には、ボルト頭部19を包囲し使用者が前記ボルト部材1の回転動作を行うための摘み部31が形成され、前記三脚60の高さ調整部における前記ボルト部材1の一端側位置11には前記ナット5が羅合すると共に、前記ナット部材5は、前記ボルト部材1に形成された外径拡大部13によって、前記ボルト部材1からの離脱が防止されるため、使用者によって前記ボルト部材に対して過度にナット部材5が緩められた場合でも、前記ナット部材5が脱落することを防止することができる。
【0048】
本発明の第5実施例に係る固定部材の離脱防止構造を図面に基づき説明する。
【0049】
本発明の第5実施例は、
図24〜
図25に示すように、本発明の固定部材の離脱防止構造を、自動車のエアコン吹き出し口に装着する場合の実施形態の概要を示すものであり、前記ボルト部材1のボルト軸は自動車のエアコン吹き出し口のルーバー63間に配置され、前記ボルト部材1の他端側位置15は、前記車載用品61を保持する基部32が形成され、前記基部32には手動による回転操作が可能な摘み部31が形成され、前記ナット部材5には前記エアコン噴き出し口に形成されたルーバー63を保持可能なフック部52が形成される。
【0050】
尚、本発明の固定部材の離脱防止構造の利用範囲は上記第4実施例や第5実施例に限定されず、例えば、ホースバンド固定部材やバッテリーターミナル固定部材、自転車のサドル固定部材等、使用の際にネジ締め付け操作と緩め操作を行う物品への使用に特に適しており、また、前記ナット部材を前記ボルト部材の他端に向かって押圧しただけでボルト部材にナット部材が保持されるため、本発明の固定部材を用いた場合、あらゆる分野においてボルトとナットによる固定動作の作業性が向上する。
【符号の説明】
【0051】
1:ボルト部材、1a:一方の片、1b:他方の片、5:ナット部材、6:三脚、10:外周面、11:一端側位置、12:溝部、13:外径拡大部、14:ガイド面、15:他端側位置、16:内側当接部、17:内側ガイド面、18:終点、19:ボルト頭部、21:近接対向面、22:離間部、23:垂直方向押し圧部、31:摘み部、32:基部、51:内周面、52:フック部、60:三脚、61:車載用品、63:ルーバー、64:ホルダー本体、70:ボルト、71:ネジ軸、72:溝、75:締結部材、76:ネジ軸部、77:ネジ頭部、78:拡開片、80:可撓部材、81:係止部、82:フック、83:縦方向スライド片、84:フック、85:ルーバー固定部材、90:ナット、91:デッキプレート、92:ネジ穴、93:ナット、100:ホルダー取付具