【文献】
Reza Olfati−Saber,J.Alex Fax,Richard M.Murray,Consensus and Cooperation in Networked Multi−Agent,Proceedings of the IEEE,米国,IEEE,2007年 3月 5日,Vol.95,p215−233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主従関係にない分散形電源が複数並列接続されている電力システムにおいて、前記複数の分散形電源のうちの1つの分散形電源に備えられており、当該分散形電源が有するインバータ回路を制御する制御回路であって、
前記インバータ回路の制御に用いる内部位相を示す数値である内部位相値を生成する内部位相生成手段と、
少なくとも1つの他の分散形電源と通信を行う通信手段と、
を備え、
前記通信手段は、前記内部位相生成手段が生成した内部位相値を、前記他の分散形電源の少なくとも1つに送信し、
前記内部位相生成手段は、
前記生成した内部位相値と、前記通信手段が前記他の分散形電源の少なくとも1つより受信した内部位相値とに基づく数値演算を行う演算手段と、
前記演算手段が出力する演算結果を所定の角周波数に加算して、修正角周波数として出力する加算手段と、
前記修正角周波数を積分して、内部位相値を算出する積分手段と、
を備える、
ことを特徴とする制御回路。
前記演算手段は、前記受信した内部位相値から前記生成した内部位相値をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記通信手段が通信を行っている他の分散形電源の数で加算結果を除算することで、演算結果を演算する、
請求項1に記載の制御回路。
前記演算手段は、前記受信した内部位相値から前記生成した内部位相値をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記生成した内部位相値を加算結果に乗算することで、演算結果を演算する、
請求項1に記載の制御回路。
前記演算手段は、前記受信した内部位相値を前記生成した内部位相値からそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記生成した内部位相値の2乗を加算結果に乗算することで、演算結果を演算する、
請求項1に記載の制御回路。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光などの自然エネルギーを利用する分散形電源の研究が進んでいる。一般的に、分散形電源は、発電した電力を電力系統に逆潮流するために、電力系統に連系している。この場合、分散形電源は、電力系統の系統電圧の位相を自分の内部位相として用いて、出力電流を制御して電力調整を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、従来の分散形電源A’を説明するための図である。
【0004】
分散形電源A’は、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換して、負荷や電力系統Bに出力する。制御回路3’は、インバータ回路2を制御するものであり、分散形電源A’に設けられた各センサが検出した信号に基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。制御回路3’は、位相検出部31’、指令信号生成部32、および、PWM信号生成部33を備えている。位相検出部31’は、系統電圧を検出した電圧信号から位相θを検出し、これを内部位相θとして指令信号生成部32に出力する。指令信号生成部32は、内部位相θを用いて指令信号を生成して、PWM信号生成部33に出力する。PWM信号生成部33は、指令信号生成部32より入力される指令信号に基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。同じ連系点に連系している分散形電源A’は、同じ系統電圧を検出するので、内部位相θが同期している。
【0005】
一方、災害などにより電力系統が長期で停電になる場合や、離島などで電力系統がない場合、分散形電源は電力系統に連系せず、自立運転を行う必要がある。この場合、分散形電源は、電力系統の系統電圧から位相を検出することができないので、内部位相を自ら発振させ、これを用いて出力電圧制御を行う。
【0006】
図7は、自立運転を行う従来の分散形電源A”を説明するための図である。
【0007】
分散形電源A”は、位相検出部31’に代えて、内部位相生成部31”を備えている点で、分散形電源A’と異なる。内部位相生成部31”は、内部位相θを生成するものである。指令信号生成部32は、内部位相θを用いて指令信号を生成する。
【0008】
図7に示すように、複数の分散形電源A”が並列接続された電力システムの場合、各分散形電源A”の内部位相θを同期させる必要がある。このため、各分散形電源A”を集中監視するための監視装置Cが、各分散形電源A”の内部位相θを同期させる機能を有する。以下では、この方式を「集中監視方式」とする。すなわち、各分散形電源A”の内部位相生成部31”が生成した内部位相θを、通信部34が監視装置Cに送信する。監視装置Cは、受信した各分散形電源A”の内部位相θの例えば相加平均値(算術平均値)を算出して、目標内部位相θ
*として各分散形電源A”に送信する。内部位相生成部31”は、内部位相θが目標内部位相θ
*になるように制御する。あるいは、1つの分散形電源A”
(マスタ)が監視装置Cの代わりとなり、他の分散形電源A”(スレイブ)に目標内部位相θ
*を出力する。以下では、この方式を「マスタスレイブ方式」とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したような集中監視方式やマスタスレイブ方式で内部位相θを同期させる場合、システムが大がかりになるし、分散形電源A”の増減に柔軟に対応しにくく、故障に脆弱であるという問題点がある。例えば、集中監視方式の場合、監視装置Cを設け、各分散形電源A”と通信を行う必要がある。有線通信の場合は、監視装置Cと各分散形電源A”とをそれぞれ通信線で接続する必要がある。無線通信の場合は、障害物などによって電波が遮断されないようにする必要がある。マスタスレイブ方式の場合、別途監視装置Cを設ける必要はないが、分散形電源A”(マスタ)と各分散形電源A”(スレイブ)とで通信を行う必要がある。また、分散形電源A”を増減させる場合、監視装置Cまたは分散形電源A”(マスタ)の制御プログラムを変更する必要がある。さらに、監視装置Cや分散形電源A”(マスタ)が故障した場合は、内部位相θの同期ができなくなるという問題もある。
【0012】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、上述した問題点を解消することができる、内部位相の同期方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0014】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、主従関係にない分散形電源が複数並列接続されている電力システムにおいて、前記各分散形電源が有するインバータ回路を制御する制御回路であって、制御に用いる内部位相を生成する内部位相生成手段と、少なくとも1つの他の分散形電源と通信を行う通信手段とを備え、前記通信手段は、前記内部位相生成手段が生成した内部位相を、前記他の分散形電源の少なくとも1つに送信し、前記内部位相生成手段は、前記生成した内部位相と、前記通信手段が前記他の分散形電源の少なくとも1つより受信した内部位相とに基づく演算結果を用いて、内部位相を生成することを特徴とする。なお、「主従関係にない」とは、分散形電源の内の1つ(マスタ:主)がその他(スレイブ:従)を監視したり制御したりする関係ではなく、いずれも対等の関係であることを意味している。また、「電力システム」とは、例えば、分散形電源が複数並列接続されたシステムを意味する。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部位相生成手段は、前記生成した内部位相と、前記受信した内部位相とに基づく演算を行う演算手段と、前記演算手段が出力する演算結果を所定の角周波数に加算して、修正角周波数として出力する加算手段と、
前記修正角周波数を積分して、内部位相を算出する積分手段とを備えている。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部位相から前記生成した内部位相をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算することで、演算結果を演算する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部位相から前記生成した内部位相をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記通信手段が通信を行っている他の分散形電源の数で除算することで、演算結果を演算する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部位相から前記生成した内部位相をそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記生成した内部位相を乗算することで、演算結果を演算する。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部位相を前記生成した内部位相からそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算して、前記生成した内部位相の2乗を乗算することで、演算結果を演算する。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、系統電圧の位相を検出する位相検出手段を備えており、前記分散形電源が電力系統に連系している場合は、前記位相検出手段が検出した位相を用いて制御を行い、前記分散形電源が電力系統から切り離されている場合は、前記内部位相生成手段が生成した内部位相を用いて制御を行う。
【0021】
本発明の第2の側面によって提供されるインバータ装置は、本発明の第1の側面によって提供される制御回路と、インバータ回路とを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第3の側面によって提供される電力システムは、直流電源と本発明の第2の側面によって提供されるインバータ装置とを有する分散形電源が、複数並列接続されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の第4の側面によって提供される制御方法は、主従関係にない分散形電源が複数並列接続されている電力システムにおいて、各分散形電源の内部位相を同期させる制御方法であって、内部位相を生成する第1の工程と、前記第1の工程で生成した内部位相を少なくとも1つの他の分散形電源に送信する第2の工程と、少なくとも1つの他の分散形電源が送信した内部位相を受信する第3の工程とを各分散形電源で行わせるものであり、前記第1の工程は、生成した内部位相と、前記第3の工程で受信した内部位相とに基づく演算結果を用いて、内部位相を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、内部位相生成手段は、生成した内部位相と、通信手段が受信した他の分散形電源の内部位相とに基づく演算結果を用いて、内部位相を生成する。各分散形電源の内部位相生成手段がこれを行うことで、すべての分散形電源の内部位相が同じ値に収束する。各分散形電源は少なくとも1つの分散形電源(例えば、近隣に位置するもの)とだけ相互通信を行えばよく、1つの分散形電源や監視装置が他の全ての分散形電源と通信を行う必要はない。したがって、システムが大がかりにならない。ある分散形電源が故障した場合でも、他の全ての分散形電源がいずれかの分散形電源と通信可能であれば、内部位相を同期させることができる。また、分散形電源の増減に柔軟に対応できる。
【0025】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る制御回路を分散形電源に用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0028】
図1は、第1実施形態に係る分散形電源を説明するための図である。
図2は、第1実施形態に係る分散形電源が複数並列接続された電力システムを示す図である。
【0029】
図1に示すように、分散形電源Aは、直流電源1、インバータ回路2、および、制御回路3を備えている。分散形電源Aは、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換して出力する。なお、図示しないが、インバータ回路2の出力側には、交流電圧を昇圧(または降圧)するための変圧器が設けられている。インバータ回路2および制御回路3をまとめたものがインバータ装置であり、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。
【0030】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0031】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力するものである。インバータ回路2は、図示しないPWM制御インバータとフィルタとを備えている。PWM制御インバータは、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた三相インバータであり、制御回路3から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。フィルタは、スイッチングによる高周波成分を除去する。なお、インバータ回路2は、これに限られない。例えば、PWM制御インバータは、単相インバータであってもよいし、マルチレベルインバータであってもよい。また、PWM制御に限定されず、フェーズシフト制御など他の方式を用いるものであってもよい。
【0032】
制御回路3は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路3は、分散形電源Aに設けられた各センサが検出したインバータ回路2の入力電圧、出力電圧、出力電流などに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。制御回路3は、内部位相生成部31、指令信号生成部32、PWM信号生成部33、および、通信部34を備えている。
【0033】
内部位相生成部31は、指令信号を生成するために用いられる内部位相θ
iを生成するものである。内部位相生成部31の詳細については、後述する。
【0034】
指令信号生成部32は、出力電圧制御を行うための指令信号を生成するものである。指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した三相の電圧信号に、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)および回転座標変換処理(dq変換処理)を行い、d軸成分とq軸成分の信号に変換る。三相/二相変換処理とは、三相の交流信号をそれと等価な二相の交流信号に変換する処理であり、三相の交流信号を静止した直交座標系(以下、「静止座標系」という。)における直交するα軸とβ軸の成分にそれぞれ分解して各軸の成分を足し合わせることで、α軸成分の交流信号とβ軸成分の交流信号に変換するものである。また、回転座標変換処理とは、静止座標系の二相(α軸成分とβ軸成分)の信号を回転座標系の二相(d軸成分とq軸成分)の信号に変換する処理である。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、所定の角速度で回転する直交座標系である。回転座標変換処理は、内部位相生成部31より入力される内部位相θ
iに基づいて行われる。
【0035】
指令信号生成部32は、電圧信号のd軸成分とq軸成分から直流成分だけを抽出し、それぞれ別に制御処理を行って、2つの補償信号に静止座標変換処理(逆dq変換処理)および二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行って3つの補償信号に変換する。静止座標変換処理は回転座標変換処理の逆の処理を行い、二相/三相変換処理は三相/二相変換処理の逆の処理を行う。静止座標変換処理は、内部位相生成部31より入力される内部位相θ
iに基づいて行われる。指令信号生成部32は、内部位相生成部31より入力される内部位相θ
iに基づいて生成された正弦波信号と、3つの補償信号とから3つの指令信号を生成して、PWM信号生成部33に出力する。
【0036】
指令信号生成部32は、インバータ回路2の入力電圧の制御を行うが、これらの説明は省略する。なお、本実施形態では、分散形電源Aが三相のシステムである場合について説明したが、単相のシステムであってもよい。単相のシステムの場合、指令信号生成部32は、インバータ回路2の出力電圧を検出した単相の電圧信号に対して制御を行えばよい。
【0037】
PWM信号生成部33は、PWM信号を生成するものである。PWM信号生成部33は、キャリア信号と指令信号生成部32より入力される指令信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。例えば、指令信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、指令信号がキャリア信号以下の場合にローレベルとなるパルス信号が、PWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。なお、PWM信号生成部33は、三角波比較法によりPWM信号を生成する場合に限定されず、例えば、ヒステリシス方式でPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0038】
通信部34は、他の分散形電源Aとの間で通信を行うものである。通信部34は、内部位相生成部31が生成した内部位相θ
iを入力され、他の分散形電源Aの通信部34に送信する。また、通信部34は、他の分散形電源Aの通信部34から受信した内部位相θ
jを、内部位相生成部31に出力する。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0039】
図2に示すように、分散形電源Aは電力システムにおいて、他の分散形電源Aと並列接続されている。
図2においては、5つの分散形電源A(A1〜A5)と、4つの負荷Lとが接続されている状態を示している。なお、実際の電力システムにおいては、より多くの分散形電源Aおよび負荷Lが接続されているが、説明の簡略化のために極端に少ないケースを示している。
【0040】
図2に示す矢印は、通信を行っていることを示している。分散形電源A1は分散形電源A2とのみ通信を行っており、分散形電源A2は分散形電源A1および分散形電源A3とのみ通信を行っている。また、分散形電源A3は分散形電源A2および分散形電源A4とのみ通信を行っており、分散形電源A4は分散形電源A3および分散形電源A5とのみ通信を行っており、分散形電源A5は分散形電源A4とのみ通信を行っている。このように、分散形電源Aの通信部34は、電力システムに接続している分散形電源Aのうち、少なくとも1つの分散形電源Aの通信部34と通信を行っており、電力システムに接続している任意の2つの分散形電源Aに対して通信経路が存在している状態(以下ではこの状態を「連結状態」と言う。)であればよく、電力システムに接続しているすべての分散形電源Aの通信部34と通信を行う必要はない。
【0041】
例えば、分散形電源Aが分散形電源A2の場合、通信部34は、内部位相生成部31が生成した内部位相θ
2を分散形電源A1およびA3の通信部34に送信し、分散形電源A1の通信部34から内部位相θ
1を受信し、分散形電源A3の通信部34から内部位相θ
3を受信する。
【0042】
次に、内部位相生成部31の詳細について説明する。
【0043】
内部位相生成部31は、生成した内部位相θ
iと、通信部34より入力される、他の分散形電源Aの内部位相θ
jとを用いて、内部位相θ
iを生成する。内部位相θ
iと内部位相θ
jとが異なっていても、内部位相生成部31での演算処理が繰り返されることで、内部位相θ
iと内部位相θ
jとが共通の内部位相に収束する。
図1に示すように、内部位相生成部31は、演算部311、乗算器312、加算器313および積分器314を備えている。
【0044】
演算部311は、下記(1)式に基づく演算を行う。すなわち、演算部311は、通信部34から入力される各内部位相θ
jから、内部位相生成部31が生成した内部位相θ
iをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した演算結果u
iを加算器313に出力する。
【数1】
【0045】
例えば、分散形電源Aが分散形電源A2の場合(
図2参照)、演算部311は、下記(2)式の演算を行い、演算結果u
2を出力する。
【数2】
【0046】
乗算器312は、演算部311から入力される演算結果u
iに所定の係数εを乗算して加算器313に出力する。係数εは、0<ε<1/d
maxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。d
maxは、通信部34が通信を行う他の分散形電源Aの数であるd
iのうち、電力システムに接続しているすべての分散形電源Aの中で最大のものである。つまり、電力システムに接続している分散形電源Aのなかで、一番多くの他の分散形電源Aと通信を行っているものの通信部34に入力される内部位相θ
jの数である。なお、係数εは、修正角周波数ω
iが大きく(小さく)なりすぎて、内部位相θ
iの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、演算結果u
iに乗算されるものである。したがって、内部位相生成部31での処理が連続時間処理の場合は、乗算器312を設ける必要はない。
【0047】
加算器313は、乗算器312からの入力を所定の角周波数ω
0に加算して、修正角周波数ω
iとして積分器314に出力する。積分器314は、加算器313から入力される修正角周波数ω
iを積分することで内部位相θ
iを生成して出力する。積分器314は、前回生成した内部位相θ
iに修正角周波数ω
iを加算することで内部位相θ
iを生成する。また、積分器314は、内部位相θ
iを(−π<θ
i≦π)の範囲の値として出力する。なお、内部位相θ
iの範囲の設定の仕方はこれに限定されず、例えば、(0≦θ
i<2π)としてもよい。内部位相θ
iは、指令信号生成部32、通信部34および演算部311に出力される。
【0048】
本実施形態では、制御回路3をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路3として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0049】
本実施形態において、内部位相生成部31は、生成した内部位相θ
iと、通信部34より入力される、他の分散形電源Aの内部位相θ
jとを用いて、内部位相θ
iを生成する。内部位相θ
iが各内部位相θ
jの相加平均値より大きい場合、演算部311が出力する演算結果u
iは負の値になる。そうすると、修正角周波数ω
iは所定の角周波数ω
0より小さくなり、内部位相θ
iの変化量は小さくなる。一方、内部位相θ
iが各内部位相θ
jの相加平均値より小さい場合、演算部311が出力する演算結果u
iは正の値になる。そうすると、修正角周波数ω
iは所定の角周波数ω
0より大きくなり、内部位相θ
iの変化量は大きくなる。つまり、内部位相θ
iは各内部位相θ
jの相加平均値に近づいていく。この処理が各分散形電源Aそれぞれで行われることにより、各分散形電源Aの内部位相θ
iは同じ値に収束する。内部位相θ
iは時間とともに変化するものであり、角周波数ω
0に応じて変化する成分と、初期位相のずれを補償するように変化する成分とを合成したものと考えることができる。後者が同じ値θαに収束することで、各分散形電源Aの内部位相θ
iも同じ値に収束する。後者が同じ値に収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値θαが、下記(3)式に示すように、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値の相加平均値になることも証明されている。nは電力システムに接続されている分散形電源Aの数であり、下記(3)式は、分散形電源A1〜Anの内部位相θ
1〜θ
nの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【数3】
【0050】
以下に、
図2に示す電力システムにおいて、内部位相θ
iが収束することを確認したシミュレーションについて説明する。
【0051】
分散形電源A1〜A5の内部位相θ
1〜θ
5の初期値を、それぞれ、θ
1=π/2,θ
2=0,θ
3=π,θ
4=3π/2,θ
5=−π/4としてシミュレーションを行った。
図3は、当該シミュレーションの結果を示すものであり、それぞれ分散形電源A1〜A5の内部位相θ
1〜θ
5のうちの角周波数ω
0に応じて変化する成分を除いたものの時間応答を示している。同図(a)は、内部位相θ
iの同期を行わなかった場合(すなわち、
図1に示す演算部311および通信部34がない構成の場合)のものであり、同図(b)は、内部位相θ
iの同期を行った場合(すなわち、
図1に示す構成の場合)のものである。同図(a)においては、初期値から変化していない。一方、同図(b)においては、初期値の相加平均値である「11π/20」に収束している。
【0052】
本実施形態によると、電力システムに接続されている各分散形電源Aがそれぞれ少なくとも1つの分散形電源A(例えば、近隣に位置するもの)と相互通信を行っており、電力システムが連結状態であることで、すべての分散形電源Aの内部位相θ
iが同じ値に収束する。つまり、1つの分散形電源Aや監視装置が他の全ての分散形電源Aと通信を行う必要はない。したがって、システムが大がかりにならない。また、ある分散形電源Aが故障した場合や、ある分散形電源Aを削減した場合でも、他の全ての分散形電源Aがいずれかの分散形電源Aと通信可能であり、電力システムが連結状態であれば、内部位相θ
iを同期させることができる。また、分散形電源Aを増加する場合は、その分散形電源Aが少なくとも1つの分散形電源Aと通信を行うようにすればよいだけである。したがって、分散形電源Aの増減に柔軟に対応できる。
【0053】
なお、上記第1実施形態においては、分散形電源Aの内部位相θ
iの初期位相のずれを補償するように変化する成分を、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値の相加平均値に収束させる場合について説明したが、これに限られない。演算部311に設定する演算式によって、収束値θαは変わってくる。
【0054】
例えば、演算部311に設定する演算式を下記(4)式とした場合、収束値θαは下記(5)式に示すような値になる。d
iは、通信部34が通信を行う他の分散形電源Aの数、すなわち、通信部34に入力される内部位相θ
jの数である。つまり、収束値θαは、通信相手の数による重み付けを行った、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値の加重平均値である。
【数4】
【0055】
また、演算部311に設定する演算式を下記(6)式とした場合、収束値θαは下記(7)式に示すように、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値の相乗平均値(幾何平均値)になる。
【数5】
【0056】
また、演算部311に設定する演算式を下記(8)式とした場合、収束値θαは下記(9)式に示すように、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値の調和平均値になる。
【数6】
【0057】
また、演算部311に設定する演算式を下記(10)式とした場合、収束値θαは下記(11)式に示すように、各分散形電源Aの内部位相θ
iの初期値のP次平均値になる。
【数7】
【0058】
なお、上記第1実施形態においては、各分散形電源Aが相互通信を行う場合について説明したが、これに限られず、片側通信を行うようにしてもよい。例えば、
図4に示すように、分散形電源A1が分散形電源A2に送信のみを行い、分散形電源A2が分散形電源A1から受信のみを行って、分散形電源A3に送信のみを行い、分散形電源A3が分散形電源A2から受信のみを行って、分散形電源A4に送信のみを行い、分散形電源A4が分散形電源A3から受信のみを行って、分散形電源A5に送信のみを行い、分散形電源A5が分散形電源A4から受信のみを行う場合でも、内部位相θ
iの同期を行うことができる。より一般的に言うと、電力システムに接続されたある分散形電源Aから送信先をたどっていくと、電力システムに接続された任意の分散形電源Aに到達することができる状態(グラフ理論における「全域木を含む」状態)であることが、内部位相θ
iの同期を行うことができる条件である。
【0059】
上記第1実施形態においては、分散形電源Aが接続する電力システムが、常に自立運転している場合について説明したが、これに限られない。分散形電源Aが接続する電力システムが、通常は電力系統に連系している場合でも、本発明を適用することができる。この場合を第2実施形態として、以下に説明する。
【0060】
図5は、第2実施形態に係る分散形電源を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る分散形電源A(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第2実施形態に係る分散形電源Aは、電力系統Bに連系しているか否かで用いる内部位相を変更する点で、第1実施形態に係る分散形電源Aと異なる。
図5に示すように、第2実施形態に係る分散形電源Aは、位相検出部31’および切替部35をさらに備えている。
【0061】
位相検出部31’は、系統電圧を検出した電圧信号から位相θを検出して切替部35に出力する。位相検出部31’の電圧信号の検出位置はインバータ回路2と遮断器Cとの間であり、分散形電源Aが電力系統Bに連系している場合、当該検出位置の電圧は系統電圧になる。
【0062】
切替部35は、分散形電源Aが電力系統Bに連系している場合、位相検出部31’が検出した系統電圧の位相θを指令信号生成部32に出力する。一方、分散形電源Aが接続する電力システムが遮断器Cによって電力系統Bから切り離された場合、内部位相生成部31が生成した内部位相θ
iを指令信号生成部32に出力する。
【0063】
また、指令信号生成部32は、分散形電源Aが電力系統Bに連系している場合、出力電流制御を行い、分散形電源Aが電力系統Bから切り離された場合、出力電圧制御を行う。
【0064】
第2実施形態においても、分散形電源Aが接続する電力システムが遮断器Cによって電力系統Bから切り離された場合、第1実施形態と同様に、電力システムが自立運転することになる。この場合も、各分散形電源Aがそれぞれ少なくとも1つの分散形電源Aと相互通信を行っており、電力システムが連結状態であれば、すべての分散形電源Aの内部位相θ
iを同期させることができる。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
本発明に係る制御回路、インバータ装置、電力システム、および、制御方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、インバータ装置、電力システム、および、制御方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。