(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
長年にわたる材料開発・デバイス開発により、有機エレクトロルミネッセンス(EL:electroluminescence)素子の内部量子効率は最大100%にほぼ達しており、外部量子効率(EQE:external quantum efficiency)のさらなる飛躍的な改善は、いかに光取り出し効率を向上させるかの一点にかかっている。光取り出し効率を向上させる技術としては、マイクロレンズや高屈折率基板を用いる等の従来の手法(例えば、非特許文献1)が広く知られているが、プロセスに要するコストや基板の部材のコストが高いという問題点を有している。また、近年は発光分子の水平配向により遷移双極子からの光出射を基板垂直方向に限定する手法が一般に広く用いられつつあるが(例えば、非特許文献2)、未だ光取り出し効率を向上させる余地は大きく残されており、さらなる改善策が望まれている。
【0003】
ところで、半導体各層の屈折率を幅広く変化させ、それによりデバイス内の光伝播や光取り出し効率を制御する実験研究は、LEDやレーザダイオードといったIII−V族無機半導体デバイスに対しては広く行われてきたが、有機半導体デバイスに対しては研究例は限られている(特許文献1及び非特許文献3)。有機半導体デバイスの外部に無機材料層を付与して光伝播や光取り出し効率を制御する手法が用いられることはあるが、プロセスコストが高くなり、また、デバイス内部の屈折率を直接制御することができないため、効果的な光伝播や光取り出し効率の制御を行うことが難しいという課題も有していた。さらに、無機材料層を有機半導体層の上に形成する場合に、下層の有機半導体層にダメージを与えやすい等の課題も有していた。
【0004】
有機半導体薄膜の屈折率を低減させることにより、有機EL素子の光取り出し効率が向上するという理論予測は過去に報告されているが(特許文献1及び非特許文献4〜6)、大きな効果を発現させる上での最大の課題は、いかに電気特性を損なうことなく広範囲に屈折率を変化させた膜を実現することができるか、という点にある。
【0005】
有機EL素子等で用いられている非晶質有機半導体薄膜は、モル屈折の大きいπ共役系有機材料から構成されており、その屈折率は一般に透明領域で通常1.7〜1.8程度であることが知られている。しかしながら、これらのπ共役系有機材料は屈折率の制御可能範囲が小さいため、単純な有機半導体材料の構成では、光取り出し効率の著しい向上は望めない。また、無機半導体デバイスのように、現状では半導体そのものの屈折率によってデバイス内部の光伝播を制御することができないため、光伝播の制御の際には専ら素子外部の無機材料層(金属、導電性酸化物、絶縁性誘電体等)を利用する必要がある。しかしながら、デバイス外部の部材による制御のみでは、光学設計自由度が低く、デバイス内部の光伝播を十分に制御することができない。よって、屈折率が制御可能な有機半導体材料の開発が要望されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有機半導体材料に、エレクトレット材料を所定の量で混合することにより、導電性を損なうことなく、膜の屈折率を大きく低減させた有機半導体薄膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した従来技術における課題を解決するものであり、以下の事項からなる。
本発明の有機電荷輸送層は、有機半導体材料及びエレクトレット材料を含有することを特徴とする。
前記有機半導体材料は正孔輸送材料であることが好ましい。
前記エレクトレット材料の屈折率は1.5以下であることが好ましい。
前記エレクトレット材料は、
ポリプロピレン;
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);
テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP);
下記式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソール構造単位と、下記式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位とを含むフッ素系共重合体;及び
【化1】
【0010】
下記一般式(3)で表される構造単位を含むフッ素系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【化2】
ただし、上記一般式(3)中、Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基を表し、Yは酸素原子、ジフルオロメチレン基(CF
2)又はテトラフルオロエチレン基(C
2F
4)を表し、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表し、R
1及びR
2は互いに連結して、4個以上のフッ素原子を含む5員環又は6員環を形成してもよく、nは1以上の整数を表す。成膜性の観点から、nは10以上が好ましい。
【0011】
本発明の有機ELデバイス、有機半導体デバイス又は有機光電子デバイスは、上記有機電荷輸送層を用いたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機半導体材料に、屈折率の低いエレクトレット材料を所定の量で混合することにより、導電性を損なうことなく、有機電荷輸送層又は有機電荷輸送膜の屈折率を大きく低減させることができ、有機EL素子の光取り出し効率を理論計算上10〜30%向上させた有機半導体薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
[有機電荷輸送層]
本発明の有機電荷輸送層は、有機半導体材料及びエレクトレット材料を含有する。
有機半導体材料は、半導体的な電気的性質を示す有機化合物である。
有機半導体材料の可視光線に対する屈折率は、材料に光吸収のない波長領域で通常1.7〜1.8程度である。なお、有機光電子デバイスにおける基板として、一般的に用いられるガラスの可視光線に対する屈折率は、約1.5である。
有機半導体材料の中でも、電荷の輸送を担う材料は、主に陽極から正孔注入を受けて輸送する正孔輸送材料と、陰極から電子注入を受けて輸送する電子輸送材料とに区分される。
【0015】
正孔輸送材料の代表例としては、下記に示す化合物(α−NPD、TAPC)が挙げられる。α−NPD、TAPCの波長532nmの垂直入射光に対する屈折率はそれぞれ、1.82、1.68である。
【0018】
電子輸送材料と代表例としては、下記に示す化合物(Alq
3、PBD、OXD7)が挙げられる。Alq
3、PBD、OXD7の波長532nmの垂直入射光に対する屈折率はそれぞれ、1.74、1.67、1.67である。
【化5】
【0021】
本発明における有機半導体材料としては、電子輸送材料及び正孔輸送材料のいずれを用いることもできるが、電子輸送材料には、エレクトレット材料に負電荷を蓄積する材料が多いことから、それと異なる電荷を流す正孔輸送材料が好ましく、α−NPD及びTAPCがより好ましい。
【0022】
有機半導体材料は、公知の方法で製造してもよいし、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、α−NPD(Lumtec社製、LT−E101)やTAPC(Lumtec社製、LT−N137)等が挙げられる。
【0023】
なお、「α−NPD」は、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルの略称であり、「TAPC」は、4,4−シクロヘキシリデンビス[N,N−ビス(4−メチルフェニル)ベンゼンアミン]の略称である。
【0024】
エレクトレット材料とは、直流電圧を加えた電極の間で固化させ、電極を取り去ると、帯電して電荷を保持し、その電荷が長期間保存され得る材料をいう。
本発明におけるエレクトレット材料としては、上記した特性を有し、電荷を半永久的に保持することができる材料であれば特に制限されるものではないが、屈折率制御の点から屈折率が1.5以下であるものが好ましく、1.4以下であるものがより好ましく、1.2〜1.4であるものが特に好ましい。なお、さらに低い屈折率であってもよいが、このような材料の入手は現実的に困難である。
【0025】
上記したように、有機半導体材料の屈折率は、光吸収のない波長領域で概ね1.7〜1.8である。このような屈折率を有する有機半導体材料に対して、屈折率が1.5以下のエレクトレット材料を所定の量で混合することにより、得られる有機電荷輸送層の屈折率を低下させ、該有機電荷輸送層に隣接する石英ガラス基板やITO膜付きガラス基板(屈折率:約1.5)と近い屈折率を持たせることにより、有機電荷輸送層とガラス基板との界面で生じる、有機電荷輸送層とガラス基板との屈折率の差異に起因する全反射を回避することができ、光取り出し率を向上させることができる。
【0026】
前記エレクトレット材料は、具体的には、
ポリプロピレン;
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);
テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP);
下記式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル‐4,5−ジフルオロ‐1,3−ジオキソール構造単位と、下記式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位とを含むフッ素系共重合体;及び
【0027】
【化8】
下記一般式(3)で表される構造単位を含むフッ素系重合体
【0028】
【化9】
からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル−4,5−ジフルオロ‐1,3−ジオキソール構造単位と、上記式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位とを含むフッ素系共重合体としては、例えば、式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル‐4,5−ジフルオロ‐1,3−ジオキソール構造単位を65mol%含み、式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位を35mol%含むフッ素系共重合体、又は式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソール構造単位を87mol%含み、式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位を13mol%含むフッ素系共重合体等が挙げられる。具体的には、下記式で表されるテフロン(登録商標)AF1600(デュポン社製;屈折率1.31)、及びテフロン(登録商標)AF2400(デュポン社製;屈折率1.29)等が挙げられる。なお、式(1)で表される2,2−ビストリフルオロメチル‐4,5−ジフルオロ‐1,3−ジオキソール構造単位と、式(2)で表されるテトラフルオロエチレン構造単位との合計は100mol%である。
【0031】
また、上記一般式(3)中、Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基を表し、Yは酸素原子、ジフルオロメチレン基(CF
2)又はテトラフルオロエチレン基(C
2F
4)を表し、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表し、R
1及びR
2は互いに連結して、4個以上のフッ素原子を含む5員環又は6員環を形成してもよく、nは1以上の整数を表す。成膜性の観点から、nは10以上が好ましい。フッ素原子を含む5員環又は6員環としては、例えば、−CF(CF
3)O(CF
2)
3−構造を含む複素環等が挙げられる。
【0032】
一般式(3)で表される構造単位を含む化合物の具体例としては、R
1及びR
2が共にフッ素原子であり、Xがフッ素原子であり、Yがジフルオロメチレン基(CF
2)である化合物、例えば、サイトップ(商品名;AGC旭硝子製)が挙げられる。
【0033】
一般式(3)中、nは5以上の整数であることが好ましく、10以上の整数であることがより好ましい。すなわち、一般式(3)で表される構造単位を含む化合物は繰り返し単位数が数個のいわゆるオリゴマーであってもよいし、繰り返し単位がより多いポリマーであってもよい。
【0034】
上記したエレクトレット材料のうち、非晶性のものがより好ましく、低屈折率であり、かつ、非晶性である等の観点から、AF1600、AF2400及びサイトップがより好ましく、低屈折率化の観点から、AF1600及びAF2400が特に好ましい。
【0035】
有機電荷輸送層の形成方法としては、有機半導体材料とエレクトレット材料とをそれぞれ蒸着装置内の別のセルに入れ、抵抗加熱によって、通常、真空度10
-4Pa以下で石英ガラス基板やITOガラス上に共蒸着させてもよいし、有機半導体材料とエレクトレット材料とを混合した後、スパッタリング法等のプロセスにより成膜してもよいし、有機溶剤に溶解又は分散させて、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等のウェットプロセスにより成膜してもよい。
【0036】
有機電荷輸送層は、有機半導体材料(100vol%)に対して、エレクトレット材料を、通常0vol%超え65vol%以下、好ましくは20vol%以上65vol%以下、より好ましくは40vol%以上60vol%以下、特に好ましくは50vol%以上55vol%以下の割合で混合する。有機半導体材料に対するエレクトレット材料の混合割合が上記範囲内にあるとき、波長550nmにおける屈折率が1.5に最も近づき、石英ガラスやITO膜付きガラス基板等の屈折率に近い値となる。
【0037】
一方、有機半導体材料(100vol%)に対して、エレクトレット材料の含有量が0〜55vol%のときは、0vol%のときと比べて電圧印加時の電流密度が低下しないが(
図2及び4参照)、70vol%近く、具体的には73vol%を超えると、エレクトレット材料の量が過度となり、0vol%のときと比べ電圧印加時の電流密度が大きく低下する、すなわち、導電性が低下する。よって、屈折率を低下させつつ、導電率を維持するためには、有機半導体材料に対する、エレクトレット材料の含有量は50〜55vol%が最も好ましい。
【0038】
[有機ELデバイス、有機半導体デバイス、有機光電子デバイス]
本発明の有機ELデバイス、有機半導体デバイス又は有機光電子デバイスはいずれも、上記有機電荷輸送層を用いたものである。有機光電子デバイスとしては、正孔あるいは電子を運搬する役割を果たす層を有する有機半導体デバイスであれば特に限定されず、例えば、有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池等が挙げられる。
【0039】
本発明でいう有機光電子デバイスとしては、例えば、一対の電極を備え、該一対の電極間に少なくとも一層の本発明の有機電荷輸送層が挟持されたものが挙げられる。
【0040】
さらに、有機光電子デバイスが発光層、発電層等の透光性の層を必要とする場合には、該有機光電子デバイスは、透明導電性電極とそれに対向する対向電極を有する一対の電極と該一対の電極間に、有機電荷輸送層に加えて該透光性の層が挟持されていてもよい。
本発明の有機電荷輸送層を有機ELデバイス、有機半導体デバイス又は有機光電子デバイスに挟持させる方法は、特に限定されず、例えば、実施例の方法によりITO膜付きガラス基板に共蒸着させてなる共蒸着膜を公知の方法で上記デバイスに実装させればよい。
【0041】
本発明の有機光電子デバイスは、上記有機電荷輸送層を備えているため、屈折率を制御することにより、例えば、有機EL素子としては高発光効率を達成でき、有機薄膜太陽電池としては高変換効率を達成できるなど、高性能の有機半導体デバイスとして得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
1.屈折率の評価
1−1.試料の作製
約2cm角にカットしたシリコン基板を、中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理により基板表面の付着物を除去した。この基板を真空蒸着機内に置き、圧力10
-4Pa以下に真空引きした上で、有機半導体材料としてα−NPDと、エレクトレット材料として、テフロン(登録商標)AF1600(デュポン社製)とを、α−NPDとAF1600の比率が100:0、78:22、60:40、45:55、27:73、0:100(いずれも体積比)となるように用いて、真空蒸着機内で抵抗加熱し、共蒸着を行うことでそれぞれ厚み約100nmの層を作製した。2つの材料の合計の蒸着速度は2.0Å/sとした。
【0044】
1−2.測定
多入射角分光エリプソメトリー(M−2000U;ジェー・エー・ウーラム社製)を用い、光の入射角を45〜75度の範囲で5度ずつ変えて測定を行った。それぞれの角度において、波長245〜1000nmの範囲で約1.6nmおきにエリプソメトリーパラメータであるΨとΔを測定した。上記の測定データを用い、有機半導体の誘電関数の虚部をガウス関数の重ね合わせで表現し、Kramers-Kronigの関係式を満たす条件下でフィッティング解析を行い、各波長の光に対する層の屈折率と消衰係数を得た。
α−NPDに対するAF1600の混合割合による、波長550nmにおける屈折率の変化を表1及び
図1に示す。
【0045】
【表1】
表1及び
図1から、屈折率の低いAF1600の混合体積比増加に応じて、共蒸着膜の屈折率が単調に減少することが確認された。
【0046】
2.電流−電圧特性の評価
2−1.素子の作製
評価用素子を作製するための基板として、2mm幅の帯状にITO(酸化インジウムスズ)が成膜されたガラス基板を用いた。その基板を中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理によりITO膜表面の付着物を除去した。この基板を真空蒸着機内に置き、圧力10
-4Pa以下に真空引きした上で、三酸化モリブデンを真空蒸着機内で抵抗加熱し、正孔注入層として基板上に蒸着速度0.1nm/sで5nm成膜した。その後、有機半導体材料α−NPDとエレクトレット材料AF1600を、α−NPDとAF1600の比率が100:0、78:22、60:40、45:55、27:73(いずれも体積比)となるように、真空蒸着機内で抵抗加熱し、共蒸着を行うことでそれぞれ厚み約100nmの層を積層した。さらに、アルミニウムを抵抗加熱で2mm幅の帯状に蒸着し、評価用素子とした。2mm幅のITOと2mm幅のアルミニウムが交差した2mm×2mmが素子面積となる。
【0047】
2−2.測定
ソースメータ(Keithley2401;Keithley社)により、ITO側を陽極、アルミニウム側を陰極として電圧を印加しながら、電圧毎に素子に流れる電流を測定した。結果を
図2に示す。
AF1600混合比55vol%までは電気特性の低下は見られず、電気特性を損なうことなく、低屈折率化を実現できたことが示された。よって、α−NPDのようなトリフェニルアミン系正孔輸送材料の屈折率の大幅な低減に有効であることが示唆された。
【0048】
3.光取り出し効率の理論計算(i)有機ELデバイスITO/α−NPD:AF1600混合膜(30nm)/α−NPD(20nm)/Alq
3(50nm)/LiF(1nm)/Al(100nm)の光取り出し効率について、各層の屈折率及び発光スペクトルの実験値を用いて、理論的な光学計算に基づき、α−NPD:AF1600混合膜(30nm)の混合比により屈折率を変化させ算出した。結果を
図5に示す。 屈折率1.8のときの値が、通常の層を用いたデバイスITO/α−NPD(50nm)/Alq
3(50nm)/LiF(1nm)/Al(100nm)の光取り出し効率となる。屈折率が1.8のときの光取り出し効率23.3%に比べ、本発明の低屈折率電荷輸送層により屈折率を1.5まで低下させることで光取り出し効率27.0%となり1.16倍の向上が見られた。
【0049】
(ii)有機ELデバイスITO/CsCo
3(1nm)/Alq
3(50nm)/α−NPD(20nm)/α−NPD:AF1600混合膜(30nm)/MoO
3(5nm)/Al(100nm)の光取り出し効率について、各層の屈折率及び発光スペクトルの実験値を用いて、理論的な光学計算に基づき、α−NPD:AF1600混合膜(30nm)の混合比により屈折率を変化させ算出した。結果を
図6に示す。 屈折率1.8のときの値が、通常の層を用いたデバイスITO/CsCo
3(1nm)/Alq
3(50nm)/α−NPD(50nm)/MoO
3(5nm)/Al(100nm)の光取り出し効率となる。屈折率が1.8のときの光取り出し効率21.8%に比べ、本発明の混合膜により有機電荷輸送層の屈折率を1.5まで低下させることで光取り出し効率25.7%となり1.18倍の向上が見られた。
【0050】
[実施例2]
1.屈折率の評価
1−1.試料の作製
実施例1において、有機半導体材料としてTAPCを使用したことと、TAPCとAF1600をその比率が100:0、78:22、70:30、61:39、45:55、28:72、0:100となるように使用したこと以外は、実施例1と同様にして、共蒸着を行い、厚み約100nmの層を作製した。
【0051】
1−2.測定
1−1.で得られた蒸着膜を用いて、実施例1と同様にして、屈折率を測定した。
TAPCに対するAF1600の混合割合による、波長550nmにおける屈折率の変化を表2及び
図3に示す。
【0052】
【表2】
表2及び
図3から、屈折率の低いAF1600の混合体積比増加に応じて、共蒸着膜の屈折率が単調に減少することが確認された。
【0053】
2.電流−電圧特性の評価
2−1.素子の作製
実施例1において、有機半導体材料としてTAPCを使用したことと、TAPCとAF1600をその比率が100:0、78:22、70:30、61:39、45:55、28:72(いずれも体積比)となるように使用したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用素子を作製した。
【0054】
2−2.測定
2−1.で得られた評価用素子を用いて、実施例1と同様にして、電圧毎に素子に流れる電流を測定した。
結果を
図4に示す。
【0055】
AF1600混合比55vol%までは電気特性の低下は見られず、電気特性を損なうことなく、低屈折率化を実現できたことが示された。
実施例1及び2の結果から、α−NPDやTAPCのようなトリフェニルアミン系正孔輸送材料に、AF1600を約55vol%混合することで、波長550nmにおける屈折率が約1.5である超低屈折率正孔輸送層が実現できることがわかる。
よって、トリフェニルアミン系正孔輸送材料に、例えば、AF1600等のエレクトレット材料を所定量で混合するという手法は、正孔輸送層の屈折率の大幅な低減に有効であることが示唆される。
なお、実施例1及び2の結果から、AF1600がエレクトレット材料の特性として負電荷を保持し、絶縁物でありながら正孔の電流を阻害しない可能性が示唆される。