【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、澤田ユニットのアレイからなる化学・物理測定装置を用い、気体のガス成分を好適に測定すべく鋭意検討を重ねてきたところ、下記の構成の本願発明に想到した。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置。
【0014】
このように規定されるこの発明の第1の局面の測定装置によれば、測定ユニットのアレイの配列規則に沿って、アレイに近接して定電位部が配置され、かつこの定電位部の基準点とアレイの基準点とが一致している。ここに、定電位部はアレイを被覆する感応膜を介してその上に配置されてもよいし、またアレイと同一平面上に、即ちポリアニリン膜の下に、配置されてもよい。定電位部がアレイの配列規則に沿うとは、アレイの二次元的な配列方向及びそのピッチトと定電位部の二次元的な形状及びそのピッチとの間に所定の関係があることを意味する。また、定電位部の基準点とアレイの基準点とを一致させるとは、何らかの意図をもって両者の位置関係が規定されることを意味する。
【0015】
以上より、測定ユニットのセンシング部と定電位部との位置関係を正確に制御できる。これにより、各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位の制御が容易になる。
化学・物理現象の変化を感応した感応膜ではキャリア密度の変化が生じ、その結果、材料特性(導電率等)が一定の割合で変化すると考えられる。従って、化学・物理現象を感応する前の、即ち、デフォルト状態の感応膜がその全域で標準電位に維持されておれば、これが化学・物理現象に感応したとき(例えば、ポリアニリン製の感応膜をエタノールガスへ接触させたとき)、アレイの全測定ユニットの出力は当該化学・物理現象に応じた値を示す。
かかる前提のもと、センシング部に接触する感応膜の電位を制御してこれらを揃わせることができれば、測定すべき化学・物理現象に対して各測定ユニットの出力を正確に反映させられる。
なお、測定装置に要求される感度に応じて、各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位にもバラツキが許容されるところ、当該各センシング部から定電位部までの距離の誤差を所定範囲に収めれば、測定装置に要求される感度の見地からは、各センシング部に接触する感応膜の電位はこれを実質的に一定に揃えられたといえる。
【0016】
ここに、測定ユニットは、一般的に平面視において、碁盤の目状に、即ち、XY方向へ同じピッチで配置される。この場合、定電位部も当該XY方向に沿って配置されることとなる。更に、定電位部の基準点と測定ユニットのアレイの基準点とを平面視において一致させる。ここに、基準点とは、二次元的(X,Y)に広がる要素において、(0,0)の位置を指す。これにより、測定ユニットと定電位部とが正確に位置合わせされ、もって、各測定ユニットのセンシング部の電位が一定に揃えられる。
【0017】
上記において、測定装置に要求される感度が高くかつ感応膜の導電率が小さい場合は、定電位部を測定ユニットのセンシング部にできるだけ近づけて、好ましくはその直上に位置させる。測定ユニットが碁盤の目状に配置されておれば、定電位部は同じピッチのメッシュ構造となる。即ち、アレイを構成する複数の測定ユニットに対してメッシュ構造という連続した1つの要素(部材)を提供すればよい。よって、集積回路への配線の負担が殆ど生じない。センシング部の開口面積を確保する見地から、このメッシュは各センシング部の1つ1つを、又はまとめて複数を囲繞する形にしてもよい。
また、測定装置に要求される感度が比較的低い場合には、定電位部を平行に並べたものとすることができる。
【0018】
第1の局面に規定の測定装置によれば、アレイを構成する各測定ユニットのセンシング部に対する位置が安定する。これにより、当該センシング部に接触する感応膜の電位が揃えられ、この電位を基準にして、測定対象の化学・物理現象量に応じて測定ユニットのセンシング部の電位井戸の深さが変化する。この電位井戸の深さに応じた電気信号が検出領域から出力される。
なお、測定対象が絶縁性の液体や固体の場合においても、第1の局面の測定装置を採用することにより、測定ユニットからの電気信号は、当該測定対象の化学量や物理量に対応したものとなる。
定電位部は測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置されるので、これを1つの連続した要素(部材)とすることができる。これにより、各測定ユニットのセンシング部のそれぞれに独立した標準電極を配置する構造と比べて、配線の負荷が小さくて済む。
【0019】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、第1の局面に規定の測定装置において、前記測定ユニットのアレイの上に前記定電位部が配置される。
このように規定される第2の局面の測定装置によれば、測定ユニットのセンシング部と定電位部との距離を可及的に近づけることができる。これにより、センシング部に接触する感応膜の電位がより安定する。
測定ユニットのセンシング部と定電位部との距離を最も近づけるには、センシング部の直上に定電位部が位置するようにする。これにより、センシング部に接触する感応膜の電位が最も安定する。
センシング部の開口面積をより大きく確保するには、アレイの上であって、隣り合う測定ユニットの間に定電位部を配置する。これにより感度が向上する。
【0020】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、第1又は第2の局面の測定装置において、前記定電位部は金属配線からなる。
このように規定される第3の局面の測定装置によれば、金属配線を用いることで装置構成が簡素化され、これを安価に提供可能となる。
【0021】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第1又は2の局面に規定の測定装置において、前記定電位部で被覆されていない測定ユニットからの第1の電気信号と前記定電位部で被覆された測定ユニットからの第2の電気信号とを比較する比較部と、
該比較部の比較結果を出力する出力部とを更に備える。
このように規定される第4の局面の測定装置において、定電位部で被覆されている測定ユニットから出力される第1の電気信号は定電位部の電位に支配される。他方、定電位部で被覆されていない測定ユニットから出力される第2の電気信号は観察対象である気体に含まれるガス成分に応じて変化する。よって、第1の電気信号と第2の電気信号とを比較することにより、ガス成分の濃度変化、特に経時的な変化が観察できる。
【0022】
この発明の第5の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイを半導体集積回路の製造プロセスを用いて製造するアレイ製造ステップと、
前記測定ユニットのアレイの前記感応膜の上に前記定電位部を形成するステップと、を含む測定装置の製造方法。
【0023】
このように規定される第5局面の測定装置の製造方法によれば、測定ユニットのアレイの製造のみならず、アレイの上に形成される定電位部の製造も半導体集積回路の製造プロセスをそのまま適用可能となる。
このように規定される第5の局面の製造方法によれば、装置全体を大量にかつ安価に製造できる。
測定ユニットのアレイの製造に引き続き、同じプロセス装置を使って定電位部を形成できる。これにより、アレイの配列規則に沿って定電位部を配置すること、及びアレイの基準点と定電位部の基準点とを一致させることが容易かつ正確に行える。
【0024】
この発明の第6の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイを半導体集積回路の製造プロセスを用いて製造するアレイ製造ステップと、
前記測定ユニットのアレイおよび前記定電位部上に感応膜を形成するステップと、を含む測定装置の製造方法。
このように規定される第6の局面に規定の製造方法によれば、定電位部が、アレイと同時に、半導体集積回路の製造プロセスにおいて形成される。よって、製造プロセスが簡易化され、より安価な装置の提供が可能となる。
【0025】
この発明の第7の局面は次のように規定される。
即ち、表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される金属配線からなる定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイの表面に前記金属配線からなる定電位部を載置する定電位部載置ステップと、
前記定電位部を載置した前記測定ユニットのアレイの表面に前記感応膜を構成する高分子材料を流動状態で供給して該アレイの表面を被覆するとともに、該高分子材料上に前記定電位部を形成する感応膜材料供給ステップと、
前記高分子材料を硬化する硬化ステップと、を含む測定装置の製造方法。
このように規定される第7の局面の測定装置によれば、装置の製造を簡単な作業で行える。よって、簡易かつ安価に測定装置を提供可能となる。