特許第6709423号(P6709423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6709423化学・物理現象の測定装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709423
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】化学・物理現象の測定装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20200608BHJP
   G01N 27/414 20060101ALI20200608BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   G01N27/00 J
   G01N27/414 301R
   G01N27/414 301V
   G01N27/414 301W
   G01N27/414 301X
   G01N27/414 301Z
   G01N27/416 353
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-561679(P2019-561679)
(86)(22)【出願日】2018年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2018047398
(87)【国際公開番号】WO2019131564
(87)【国際公開日】20190704
【審査請求日】2020年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-247522(P2017-247522)
(32)【優先日】2017年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和明
(72)【発明者】
【氏名】岩田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】新名 直也
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−207991(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035752(WO,A1)
【文献】 特表平03−502149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/414
G01N 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する第1の感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該アレイを構成する測定ユニットの複数を被覆する導電性高分子からなる第2の感応膜と、
該第2の感応膜に接する定電位部と、を備える化学・物理現象の測定装置。
【請求項8】
前記定電位部は金属配線からなるメッシュ構造である、請求項1に記載の化学・物理現象の測定装置。
【請求項9】
前記定電位部は前記センシング部を被覆する第1の感応膜に対向して配置される、請求項1又は8に記載の化学・物理現象の測定措置。
【請求項10】
前記定電位部は前記第2の感応膜内に配置される、請求項1、8又は9のいずれかに記載の化学・物理現象の測定装置。
【請求項11】
前記定電位部は前記第2の感応膜の上に配置される、請求項1、8又は9のいずれかに記載の化学・物理現象測定装置。
【請求項12】
前記定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する、請求項1及び8〜11のいずれかに記載の化学・物理現象の測定装置。
【請求項13】
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する第1の感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該アレイを構成する複数の測定ユニットを被覆する導電性高分子からなる第2の感応膜と、
該第2の感応膜に接する定電位部と、を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイを半導体集積回路の製造プロセスを用いて製造するアレイ製造ステップと、
前記アレイを構成する複数の測定ユニットを前記第2の感応膜の導電性高分子材料で被覆する被覆ステップと、を含む測定装置の製造方法。
【請求項14】
前記被覆ステップの後に、前記第2の感応膜の上に前記定電位部を配置するステップが更に含まれる請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記被覆ステップの前に前記定電位部を前記複数の測定ユニットの上に配置する定電位部配置ステップが更に含まれる請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記定電位部は金属配線からなるメッシュ構造であり、
前記被覆ステップでは、流動性のある前記導電性高分子材料で前記複数の測定ユニットを被覆した後、前記メッシュ構造の定電位部を該導電性高分子材料の層の上に浮かび上がらせ、その後、該導電性高分子材料を硬化する、請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学・物理現象の測定装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
化学・物理現象の測定装置として、フローティングディフュージョンを利用したいわゆる澤田ユニットが知られている。
この澤田ユニット1は次のような基本構造を有する。
例えば図1に示すように、センシング部10、電荷供給部20、電荷移動・蓄積部30、電荷量検出部40及び電荷除去部50がシリコン基板の表面に形成される。センシング部10には検出対象に応じて電位を変化させる感応膜12と標準電極13が設けられる。感応膜12の電位変化に応じセンシング部10(p拡散領域72)の電位井戸15の深さが変化する。
【0003】
電荷供給部20はインジェクションダイオード部(この明細書で「ID部」と略することがある)21、インプットコントロールゲート部(この明細書で「ICG部」と略することがある)23を備える。ID部21を電荷でチャージし、かつICG部23の電位を制御することでID部21の電荷をセンシング部10の電位井戸15へ供給する。
電荷移動・蓄積部30はトランスファーゲート部(この明細書で「TG部」と略することがある)31、フローティングディフュージョン部(この明細書で「FD部」と略することがある)33を備える。TG部31の電圧を変化させることでシリコン基板71において対向する領域のポテンシャルを変化させ、もって、センシング部10の電位井戸15に充填された電荷をFD部33へ移送し、そこに蓄積する。
【0004】
FD部33に蓄積された電荷は電荷量検出部40で検出される。かかる電荷量検出部40としてソースフォロア型の信号増幅器を用いることができる。
電荷除去部50はリセットゲート部(この明細書で、「RG部」と略することがある)51、リセットドレイン部(この明細書で、「RD部」と略することがある)53を備える。RG部51の電圧を変化させることでシリコン基板71において対向する領域のポテンシャルを変化させ、もって、FD部33に蓄積された電荷をRD部53へ移送し、そこから排出する。
【0005】
この検出装置の詳細構造及びその動作を、水素イオン濃度を検出対象とするpHセンサを例に採り説明する。以下の説明では電荷として電子を採用し、この電子の移送に適するように基板71の対象部分を適宜ドープしている。
【0006】
pHセンサとしての検出装置1はn型のシリコン基板71を備え、そのセンシング部10に対応する部分はp型拡散層72とされる。p型拡散層72の表面はn型にドープされる(n領域73)。
シリコン基板71においてID部21、FD部33及びRD部53にはn+領域74、75及び77が形成される。
シリコン基板71の表面には酸化シリコンからなる保護膜81が形成され、その上にICG部23の電極、TG部31の電極及びRG部51の電極が積層される。各電極へ電圧が印加されるとそれに対向する部分のシリコン基板71のポテンシャルが変化する。
センシング部10においては保護膜81の上に窒化シリコン製の感応膜12が積層される。
【0007】
このように構成された澤田ユニット1の基本動作を以下に説明する(図2参照)。
検出対象である水溶液にセンシング部10を接触させると、水溶液の水素イオン濃度に応じてセンシング部10のポテンシャル井戸15の深さが変化する(ステップ(A))。即ち、水素イオン濃度が大きくなればポテンシャル井戸15が深くなる(底のポテンシャルが高くなる)。
一方、ID部21の電位を下げてここへ電荷をチャージする(ステップ(B)参照)。このとき、ID部21へチャージされた電荷はICG部23を超えてセンシング部10のポテンシャル井戸15を充填する。なお、TG部31のポテンシャルはICG部23より低く、ポテンシャル井戸15へ充填される電荷がTG部31を乗り越えてFD部33へ達することはない。
【0008】
次に、ID部21の電位を上げてID部21から電荷を引き抜くことで、ICG部23ですりきられた電荷がポテンシャル井戸15に残される(ステップ(C)参照)。ここに、ポテンシャル井戸15に残された電荷量は、ポテンシャル井戸15の深さ、即ち検出対象の水素イオン濃度に対応している。
次に、TG部31の電位を上げて、ポテンシャル井戸15に残された電荷をFD部33へ移送する(ステップ(D)参照)。このようにしてFD部33に蓄積された電荷量を電荷量検出部40で検出する(ステップ(E)参照)。その後、RG部51の電位を上げてFD部33の電荷をRD部53へ排出する(ステップ(F)参照)。このRD部53はVDDに接続され、負にチャージされた電荷を吸い上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6083753号公報
【特許文献2】特開2008−145128号公報
【特許文献3】特開2006−084417号公報
【特許文献4】特開平05−332989号公報
【特許文献5】特開2016−066745号公報
【特許文献6】特開平11−295255号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】平成28年度 国立大学法人豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学課程 卒業研究報告書概要 発表番号47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1及び図2で説明した澤田ユニットは、水素イオン濃度を測定するものであるので、測定対象は導電性の液体である。従って、複数の澤田ユニットを二次元的に配列したアレイにおいても、標準電極はアレイの一部に配置され、当該液体に接触されればよい。導電性の液体である測定対象に標準電極が接触すれば、当該測定対象は全域においてその電位が一定となるからである。
図1の構成において感応膜を選択することにより、任意の化学成分の濃度を測定できる。例えば、シリコン窒化膜からなる感応膜上にポリアニリン感応膜を形成すると、エタノールやアンモニアの濃度に応じてポリアニリン感応膜の電位が変化する。
【0012】
このような澤田ユニットのアレイを気体の測定に適応したとき、次の課題があった。
標準電極がアレイに対して1つしか配置されていないので、各アレイのセンシング部を被覆する感応膜に接触する測定対象(気体)の電位が一定であるという保証が得られない。即ち、測定対象である気体は実質的に絶縁性であるし、感応膜の構成材料(ポリアニリン)が導電性高分子材料といえども、その導電率は限定されているので、その一部に標準電極が接触していても、アレイの全体において各澤田ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位を揃えられない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、澤田ユニットのアレイからなる化学・物理測定装置を用い、気体のガス成分を好適に測定すべく鋭意検討を重ねてきたところ、下記の構成の本願発明に想到した。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置。
【0014】
このように規定されるこの発明の第1の局面の測定装置によれば、測定ユニットのアレイの配列規則に沿って、アレイに近接して定電位部が配置され、かつこの定電位部の基準点とアレイの基準点とが一致している。ここに、定電位部はアレイを被覆する感応膜を介してその上に配置されてもよいし、またアレイと同一平面上に、即ちポリアニリン膜の下に、配置されてもよい。定電位部がアレイの配列規則に沿うとは、アレイの二次元的な配列方向及びそのピッチトと定電位部の二次元的な形状及びそのピッチとの間に所定の関係があることを意味する。また、定電位部の基準点とアレイの基準点とを一致させるとは、何らかの意図をもって両者の位置関係が規定されることを意味する。
【0015】
以上より、測定ユニットのセンシング部と定電位部との位置関係を正確に制御できる。これにより、各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位の制御が容易になる。
化学・物理現象の変化を感応した感応膜ではキャリア密度の変化が生じ、その結果、材料特性(導電率等)が一定の割合で変化すると考えられる。従って、化学・物理現象を感応する前の、即ち、デフォルト状態の感応膜がその全域で標準電位に維持されておれば、これが化学・物理現象に感応したとき(例えば、ポリアニリン製の感応膜をエタノールガスへ接触させたとき)、アレイの全測定ユニットの出力は当該化学・物理現象に応じた値を示す。
かかる前提のもと、センシング部に接触する感応膜の電位を制御してこれらを揃わせることができれば、測定すべき化学・物理現象に対して各測定ユニットの出力を正確に反映させられる。
なお、測定装置に要求される感度に応じて、各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位にもバラツキが許容されるところ、当該各センシング部から定電位部までの距離の誤差を所定範囲に収めれば、測定装置に要求される感度の見地からは、各センシング部に接触する感応膜の電位はこれを実質的に一定に揃えられたといえる。
【0016】
ここに、測定ユニットは、一般的に平面視において、碁盤の目状に、即ち、XY方向へ同じピッチで配置される。この場合、定電位部も当該XY方向に沿って配置されることとなる。更に、定電位部の基準点と測定ユニットのアレイの基準点とを平面視において一致させる。ここに、基準点とは、二次元的(X,Y)に広がる要素において、(0,0)の位置を指す。これにより、測定ユニットと定電位部とが正確に位置合わせされ、もって、各測定ユニットのセンシング部の電位が一定に揃えられる。
【0017】
上記において、測定装置に要求される感度が高くかつ感応膜の導電率が小さい場合は、定電位部を測定ユニットのセンシング部にできるだけ近づけて、好ましくはその直上に位置させる。測定ユニットが碁盤の目状に配置されておれば、定電位部は同じピッチのメッシュ構造となる。即ち、アレイを構成する複数の測定ユニットに対してメッシュ構造という連続した1つの要素(部材)を提供すればよい。よって、集積回路への配線の負担が殆ど生じない。センシング部の開口面積を確保する見地から、このメッシュは各センシング部の1つ1つを、又はまとめて複数を囲繞する形にしてもよい。
また、測定装置に要求される感度が比較的低い場合には、定電位部を平行に並べたものとすることができる。
【0018】
第1の局面に規定の測定装置によれば、アレイを構成する各測定ユニットのセンシング部に対する位置が安定する。これにより、当該センシング部に接触する感応膜の電位が揃えられ、この電位を基準にして、測定対象の化学・物理現象量に応じて測定ユニットのセンシング部の電位井戸の深さが変化する。この電位井戸の深さに応じた電気信号が検出領域から出力される。
なお、測定対象が絶縁性の液体や固体の場合においても、第1の局面の測定装置を採用することにより、測定ユニットからの電気信号は、当該測定対象の化学量や物理量に対応したものとなる。
定電位部は測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置されるので、これを1つの連続した要素(部材)とすることができる。これにより、各測定ユニットのセンシング部のそれぞれに独立した標準電極を配置する構造と比べて、配線の負荷が小さくて済む。
【0019】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、第1の局面に規定の測定装置において、前記測定ユニットのアレイの上に前記定電位部が配置される。
このように規定される第2の局面の測定装置によれば、測定ユニットのセンシング部と定電位部との距離を可及的に近づけることができる。これにより、センシング部に接触する感応膜の電位がより安定する。
測定ユニットのセンシング部と定電位部との距離を最も近づけるには、センシング部の直上に定電位部が位置するようにする。これにより、センシング部に接触する感応膜の電位が最も安定する。
センシング部の開口面積をより大きく確保するには、アレイの上であって、隣り合う測定ユニットの間に定電位部を配置する。これにより感度が向上する。
【0020】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、第1又は第2の局面の測定装置において、前記定電位部は金属配線からなる。
このように規定される第3の局面の測定装置によれば、金属配線を用いることで装置構成が簡素化され、これを安価に提供可能となる。
【0021】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第1又は2の局面に規定の測定装置において、前記定電位部で被覆されていない測定ユニットからの第1の電気信号と前記定電位部で被覆された測定ユニットからの第2の電気信号とを比較する比較部と、
該比較部の比較結果を出力する出力部とを更に備える。
このように規定される第4の局面の測定装置において、定電位部で被覆されている測定ユニットから出力される第1の電気信号は定電位部の電位に支配される。他方、定電位部で被覆されていない測定ユニットから出力される第2の電気信号は観察対象である気体に含まれるガス成分に応じて変化する。よって、第1の電気信号と第2の電気信号とを比較することにより、ガス成分の濃度変化、特に経時的な変化が観察できる。
【0022】
この発明の第5の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイを半導体集積回路の製造プロセスを用いて製造するアレイ製造ステップと、
前記測定ユニットのアレイの前記感応膜の上に前記定電位部を形成するステップと、を含む測定装置の製造方法。
【0023】
このように規定される第5局面の測定装置の製造方法によれば、測定ユニットのアレイの製造のみならず、アレイの上に形成される定電位部の製造も半導体集積回路の製造プロセスをそのまま適用可能となる。
このように規定される第5の局面の製造方法によれば、装置全体を大量にかつ安価に製造できる。
測定ユニットのアレイの製造に引き続き、同じプロセス装置を使って定電位部を形成できる。これにより、アレイの配列規則に沿って定電位部を配置すること、及びアレイの基準点と定電位部の基準点とを一致させることが容易かつ正確に行える。
【0024】
この発明の第6の局面は次のように規定される。
表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される定電位部であって、該定電位部は、平面視において、前記測定ユニットのアレイの配列規則に沿って配置され、かつ前記アレイの基準点と該定電位部の基準点とが一致する定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイを半導体集積回路の製造プロセスを用いて製造するアレイ製造ステップと、
前記測定ユニットのアレイおよび前記定電位部上に感応膜を形成するステップと、を含む測定装置の製造方法。
このように規定される第6の局面に規定の製造方法によれば、定電位部が、アレイと同時に、半導体集積回路の製造プロセスにおいて形成される。よって、製造プロセスが簡易化され、より安価な装置の提供が可能となる。
【0025】
この発明の第7の局面は次のように規定される。
即ち、表面電位に応じて電位井戸の深さを変化させるセンシング部と、該センシング部を被覆する感応膜と、該センシング部の電位井戸の深さに応じた電気信号を出力する検出領域と、を備えてなる化学・物理現象の測定ユニットのアレイと、
該測定ユニットのアレイに近接して配置される金属配線からなる定電位部と、
を備える化学・物理現象の測定装置の製造方法であって、
前記測定ユニットのアレイの表面に前記金属配線からなる定電位部を載置する定電位部載置ステップと、
前記定電位部を載置した前記測定ユニットのアレイの表面に前記感応膜を構成する高分子材料を流動状態で供給して該アレイの表面を被覆するとともに、該高分子材料上に前記定電位部を形成する感応膜材料供給ステップと、
前記高分子材料を硬化する硬化ステップと、を含む測定装置の製造方法。
このように規定される第7の局面の測定装置によれば、装置の製造を簡単な作業で行える。よって、簡易かつ安価に測定装置を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は化学・物理現象の測定ユニットの基本単位の構成を示す模式図である。
図2図2図1の測定ユニットの動作を示す図である。
図3図3はこの発明の試行例の測定装置の平面図である。
図4図4図3に示す試行例の測定装置の出力結果を示す。
図5図5はこの発明の実施の形態の測定装置の要部を示す。
図6図6図5に示す実施の形態の測定装置の出力結果を示す。
図7図7図5に示す実施の形態の測定装置の出力結果の経時変化を示す。
図8図8(a)は他の実施形態の測定装置200の構成を示す断面図であり、図8(b)は測定装置200の変形態様の測定装置300を示す断面図であり、図8(c)は測定装置300の変形態様の測定装置400を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら、説明する。
図3は試行例の測定装置100の構造を示す。図3において符号101は図1に示した澤田ユニット(測定ユニット)のアレイであって、例えば7.3mm×7.3mmの正方形面を備えてそこに約16000個の澤田ユニットが集積されている。シリコン窒化膜からなる感応膜上に更に感応膜としてポリアニリン膜103(約15μl)がアレイ101の全域を被覆している。ポリアニリンなどの導電性高分子は測定対象に含まれる酸又はアルカリによりそのキャリア密度が変化し、その結果、導電率、誘電率及び遮蔽距離が変化すると考えられる。
【0028】
図3において符号105は金ペーストからなる電極であり、ポリアニリン膜103において、アレイ101から外れた位置に塗布されて、ここへ定電位(標準電位)が印加される。
エタノール(濃度100ppm)を含む空気(以下、エタノールガス)へかかる測定装置100を曝したとき、9分後に得られた画像を図4に示す。電極105に印加する電圧は1.094Vである。図4に示される画像の各画素は、アレイ101を構成する各澤田ユニットに対応し、画素の値は対応する澤田ユニットから出力される電気信号から特定される。
【0029】
図4から、アレイ101の各澤田ユニットの出力にバラツキがあることがわかる。具体的には、電極105からの距離が遠くなるにつれ、電位が低下している。これは、基準電位がばらつくので高精度な測定が阻害されるためと考えられる。
【0030】
そこで、本発明者らは、金ペースト5に代えて、図5に示すメッシュ電極110を採用した。このメッシュ電極110はポリアニリン膜103の全領域を被覆して、アレイ101から外れた位置で定電圧源(1.473V)に接続される。
メッシュ電極110は正方形のポア(100μm×100μm)を有する高分子製のメッシュフィルタ(MILLIPORE, NY1H4700)の両面に金を堆積したものである。
図5の拡大図で示されるように、メッシュ電極110の金属配線112が、感応膜(ポリアニリン膜103)を介して、アレイ101を構成する一部の澤田ユニットの直上に配置される。ポリアニリン膜103において金属配線112で被覆された部分はエタノールガスとは反応し難い。また、ポリアニリン膜103は薄いので、金属配線112に対向する澤田ユニットの出力は、金属配線112の電圧に支配される。
【0031】
図5の例では、ポリアニリン膜103の上にメッシュ電極110が、特に位置合わせすることなく、積層されている。この場合、アレイ上にメッシュ電極110を載置し、その後、硬化前のポリアニリンをアレイ上に供給した。このとき、硬化前のポリアニリンの粘度や比重を調整することで、ポリアニリンに絡まれた状態でメッシュ電極を浮き上がらせることができた。暫く静置してポリアニリン層を均一厚さにした後、ポリアニリンを硬化する。これにより、メッシュ電極110はアレイに対して平行にかつ機械的に安定して取り付けられる。
勿論、メッシュ電極103の取り付け方は上記に限定されるわけではない。ポリアニリン膜103を形成した後、メッシュ電極110を積層することができる。
【0032】
メッシュ電極110のポア部分114に対向する澤田ユニットの各センシング部とメッシュ電極の金属配線112との距離とを厳密に制御するには、汎用的な集積回路プロセスのマスク技術を用いてメッシュ電極を成形することが好ましい。
【0033】
メッシュ電極110のポア部分114を介してエタノールガスは感応膜(ポリアニリン膜)103のキャリア密度の変化による材料特性の変化を与える。他方、ポア部分114に対向する各澤田ユニットに対して、メッシュ電極110の金属配線112は極めて近い位置に存在し、更に、それぞれの澤田ユニットからみると、これを囲む4つ金属配線112との距離の総和がほぼ等しくなる。よって、各澤田ユニットを被覆する感応膜103のデフォルトでの電位もほぼ等しくなる。
【0034】
かかる測定装置をエタノールガス(濃度:100ppm)へ接触させると、ポア部分114に位置するポリアニリン膜103のキャリア密度が変化し、もって材料特性が変化して、その電位が変わる。図6は5分後に得られた画像である。この画像の各画素は各澤田ユニットの出力に対応している。なお、測定装置をエタノールガスに長時間接触させておくと、ポリアニリン膜103内をエタノールガスに起因する影響因子(電子)が拡散する。よって、メッシュ電極110の金属配線112で被覆された部分と被覆されていない部分(ポア部分)との出力が同じものとなる。
【0035】
図7は、図5に示した測定装置の出力の経時変化を示す。ポア部分114を介してエタノールガスがポリアニリン膜と反応し、その結果、ポリアニリン膜のキャリア密度の変化による材料特性が変化し、もってその電位が変化していく様子がわかる。なお、60秒を過ぎると、ポア部分114におけるエタノールガスとポリアニリン膜との反応の影響が金属配線112下まで拡散していくことがわかる。
【0036】
上記において、澤田ユニットのアレイは汎用的な半導体集積回路のプロセスで製造できる。澤田ユニットのセンシング部に積層される感応膜は、測定対象である化学・物理量に応じて適宜選択される。
この発明は、測定対象が絶縁性であるか、若しくは導電性を有しても極めて小さい導電率しか持たないときに好適である。特に、測定対象が気体であるときに本発明は好適に利用できる。この場合、感応膜の形成材料として、ガスセンサに用いられるもの、即ちガス成分と反応して導電率に変化をもたらす導電性材料であれば、任意のものを選択できる。既述のポリアニリンやポリイミド等の導電性高分子材料の他、酸化スズや酸化インジウム等の半導体材料を用いることができる。
感応膜は定電位部に接触させる。
【0037】
図8(a)に他の測定装置200を示す。図1と同一の作用を奏する要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この測定装置200は、測定ユニット1のアレイ101の表面に感応膜103としてポリアニリンの層を積層する。ここまでの構造は図3及び図5のチップ(測定装置)と同じである。
【0038】
この例では、各測定ユニット1のセンシング部10の真上に定電位部212が形成されている。この定電位部212は測定ユニット1のセンシング部10の直上の位置を、紙面垂直方向に横切って、同方向に隣り合う測定ユニット1のセンシング部10を同じく横切る。
かかる構造の定電位部212には参照電源215より均一の電位が付与される。よって、各測定ユニット1のセンシング部に接触する感応膜の電位が均一に揃えられる。
【0039】
測定装置200の定電位部212は所謂リフトオフ法を用いて感応膜103の上に形成できる。
即ち、感応膜103の上にレジストを積層する。次に、積層されたレジストにおいて定電位部212を形成する位置にエッチングその他の周知の方法で、開口を設ける。この開口は連続している。
【0040】
次に、導電性材料として金属材料を蒸着する。レジストの開口を介して感応膜の上に金属材料が蒸着され、定電位部212となる。ここに、測定装置に求められる使用環境において安定な材質を選択する必要がある。例えば、金や銅などが挙げられる。
開口が連続しているので、定電位部212は連続体(一つの要素)となる。従って、そこに参照電源215からの電位が均等に行き渡り、もって、各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜の電位が均等に保たれる。
【0041】
上記において、測定ユニット1及び定電位部212の位置合わせは、製造装置の制約上、基板の所定の位置を基準とする。この基板の所定の位置に基づき、測定ユニット1のアレイを作成し、かつ、リフトオフ法を実行して定電位部を形成する。つまり、平面視において、上記基板の所定の位置が測定ユニット1のアレイの基準点となり、かつ定電位部212の基準点となる。
【0042】
測定装置200の変形態様を図8(b)に示す。図8(b)に示す測定装置300において、図8(a)と同一の作用をする要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この測定装置300では感応膜103の上に形成される定電位部312が各測定ユニット1の間に配置されている。このような構成を採用することにより、図8(a)の構成に比べて、各測定ユニット1におけるセンシング部10の開口面積が広くなる。
この測定装置300は、測定装置200と同様な手順で形成される。
【0043】
測定装置300の変形態様を図8(c)に示す。図8(c)に示す測定装置400において、図8(b)と同一の作用をする要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この測定装置400では、アレイ101の表面において各測定ユニット1の間に、何ら感応膜を介することなく、定電位部412が配置されている。定電位部412とアレイ101の絶縁性とを確保するため、両者の間に絶縁膜(SiO2)が介在されている。
この測定装置400においてその定電位部412は、アレイの半導体プロセスにおいて、他の電極(ゲート電極等)と同じタイミングで形成される。定電位部412を形成する前に、その形成予定位置に、絶縁層(SiO)を積層しておくことが好ましい。
【0044】
上記において、定電位部の形状は各測定ユニットのセンシング部に接触する感応膜をその全域において均等な電位となるようにすれば、任意に選択できる。
例えば、既述のメッシュ電極110のように開口部(ポア)を規則的に配置したものが挙げられる。ここに、開口部の形状は矩形に限らず、例えば円形にできる。また、感応膜の導電性が比較的高い場合は、金属配線を平行に並べたもの、等間隔に並べたもの、オフセットの櫛状に並べたもの等、を採用できる。
【0045】
なお、測定対象の化学量又は物理量を測定するには、測定対象が測定ユニットのセンシング部を被覆する感応膜に接触することを定電位部が妨げてはならない。換言すれば、測定対象が測定ユニットのセンシング部を被覆する感応膜に接触可能であれば、測定対象が気体の場合はこれを透過可能な材料を選択することにより、開口部を持たない、即ち、バルクの状態の定電位部の採用も可能である。
感応膜の材料は測定対象に応じて任意に選択できる。例えば、圧力、温度、磁場などの物理現象を測定対象とするときは、ピエゾ材料、焦電材料、磁気抵抗効果を有する磁性半導体材料を感応膜に適用できる。
ポリアニリン等の導電性高分子の官能基を修飾することで、特定の分子に反応する感応膜を調製することができる。
【0046】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求に範囲の記載の趣旨を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 測定ユニット
100、200、300、400 測定装置
10 センシング部
40 電荷量検出部
101 測定ユニットのアレイ
103 ポリアニリン膜(感応膜)
110 メッシュ電極
112 金属配線
114 ポア部分
212,312,412 定電位部
215 参照電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8