特許第6709464号(P6709464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709464
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】鋼管杭
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/56 20060101AFI20200608BHJP
   E02D 5/54 20060101ALI20200608BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20200608BHJP
   E02D 5/72 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   E02D5/56
   E02D5/54
   E02D5/28
   E02D5/72
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-181400(P2016-181400)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-44400(P2018-44400A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年9月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512283575
【氏名又は名称】株式会社シグマベース
(74)【代理人】
【識別番号】100090549
【弁理士】
【氏名又は名称】加川 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】榎本隆彦
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−070059(JP,A)
【文献】 特開2005−133289(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1196460(KR,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0266344(US,A1)
【文献】 特開2010−281205(JP,A)
【文献】 特開平07−292666(JP,A)
【文献】 特開2004−176438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22−5/80
E02D 7/00−13/00
E21B 1/00−49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭本体である鋼管の先端面に、直径Dが鋼管直径dより大で、かつ中央部に、下面側から見て杭頭側にへこんだ直径Dの円形輪郭の凹部が形成された円形の端面板が溶接固定され、前記端面板における前記凹部より外側に張り出した鍔部に、前記端面板周縁から中央に向かう切欠き部を有し、前記切欠き部の端面板周方向両側に、互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部が形成された鋼管杭において、前記凹部に、その中心側から前記切欠き部の近傍に向かって延びる棒状の細長部材を溶接固定したことを特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記端面板の下面に溶接固定され、かつ、下向きに傾斜した傾斜面部における端面板中心側の側端面に溶接固定された傾斜面部補強部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、杭本体である鋼管を回転圧入することにより地盤に貫入させる回転圧入工法に用いられる鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の鋼管杭として、杭本体である鋼管の先端に、鋼管外径より外側に張り出した鍔部を持つ円形の端面板が固定され、前記鍔部に、回転圧入時に地盤に食い込んで推進力を高めるための、切込み加工による上向きと下向きの一対の傾斜面部を形成した円形の端面板を固定したものがある。
例えば特許文献1の拡底鋼管杭は、杭本体である鋼管1の先端に、下向き羽根(下向き傾斜面部)と上向き羽根(上向き傾斜面部)とを持つ拡径円板2を固定している(なお、符号は特許文献1中の符号である)。
【0003】
特許文献2は、鋼管からなる杭本体5の先端に、鍔部に切除部9を挟んで上向き傾斜面部13と下向き傾斜面部15とを形成した鋼製翼3を固定した構成である(なお、符号は特許文献2中の符号である)。
【0004】
前記特許文献1及び特許文献2の鋼管杭における端面板はいずれも、平坦な円板の鋼管外径から外側に張り出した鍔部に切込み加工による上向きと下向きの一対の傾斜面部を形成したものであるが、本願出願人のもとで、杭本体である鋼管の先端に固定する端面板として、鍔部に上向き傾斜面部と下向き傾斜面部とを形成した円形板の中央部に、下面側から見て杭頭側にへこんだ凹部を形成した端面板を用いる鋼管杭を開発し特許出願をした(特許文献3)。
端面板の中央部に杭頭側にへこんだ凹部を形成するという簡単な手段により、安価に、そして施工性を損なうこともなく杭の支持力を高めることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−9354
【特許文献2】特開2010−281205
【特許文献3】特願2015−195486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3の鋼管杭は、端面板の中央部に凹部を有するので、地盤に貫入した時に凹部に土がつまっていることで地盤との接触面が有効に働き、支持力を確実に確保できるものであるが、回転貫入の時点では、土が凹部に囲い込まれ押し込まれることで、掘削推進に対する抵抗が大きくなるという現象が生じることが分かった。
すなわち、回転貫入の際、土が特に下向き傾斜面部で凹部に囲い込まれ押し込まれるので、凹部につまった土からの下向き傾斜面部の回転に対する抵抗が増し、また、鉛直方向の抵抗も増す。
【0007】
本発明は上記背景のもとになされたもので、中央部に凹部を有する端面板を杭本体の先端に固定した鋼管杭を地盤に貫入する際に、貫入後は地盤に対する支持力を確実に確保できるとともに、回転貫入の際には、鋼管杭の掘削推進に対する抵抗が増すことを防止可能な鋼管杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1の発明は、杭本体である鋼管の先端面に、直径Dが鋼管直径dより大で、かつ中央部に、下面側から見て杭頭側にへこんだ直径Dの円形輪郭の凹部が形成された円形の端面板が溶接固定され、前記端面板における前記凹部より外側に張り出した鍔部に、前記端面板周縁から中央に向かう切欠き部を有し、前記切欠き部の端面板周方向両側に、互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部が形成された鋼管杭において、前記凹部に、その中心側から前記切欠き部の近傍に向かって延びる棒状の細長部材を溶接固定したことを特徴とする。
【0009】
請求項2は請求項1の鋼管杭において、前記端面板の下面に溶接固定され、かつ、下向きに傾斜した傾斜面部における端面板中心側の側端面に溶接固定された傾斜面部補強部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明の鋼管杭によれば、端面板の裏面の凹部に、その中心側から前記切欠き部の近傍に向かって延びる細長部材を溶接固定したことにより、鋼管杭の掘削推進に対する抵抗が大きくなることを抑制できる。
すなわち、回転貫入の際、特に下向き傾斜面部は掘削する土を凹部に囲い込み押し込むように作用するが、端面板の裏面の凹部に、その中心側から切欠き部の近傍に向かって延びる細長部材が掘削推進補助バーとして存在するので、この細長部材が凹部に囲い込まれ押し込まれる土を切欠き部より排出する作用をする。したがって、掘削推進中に土が凹部につまり過ぎることは抑制され、凹部につまった土からの下向き傾斜面部の回転に対する抵抗は軽減され、また、鉛直方向の抵抗が増すことも軽減される。
【0011】
下向き傾斜面部には土を掘削する作用に対して大きな抵抗を受けるので、その大きな抵抗により変形する恐れがあるが、請求項2によれば、その下向き傾斜面部が傾斜面部補強部材を介して端面板に結合されているので、下向き傾斜面部が変形することは防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例の鋼管杭の正面図である。
図2図1の平面図である(但し、杭本体である鋼管は断面で示している)。
図3図2のA−A断面図である。
図4図1の底面図である。
図5】(イ)は図2のB矢印方向からみた要部の拡大図、(ロ)は(イ)の傾斜面部補強部材における下向き傾斜面部との接合部(砂地ハッチングの部分)を説明する図である。
図6】上記端面板を製作する工程で、円板に傾斜面部を形成するために切りこみを入れた状態を示すもので、円板の底面図(図4に対応する図)である。
図7】本発明の鋼管杭を家屋の基礎杭として施工する態様の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の鋼管杭を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の一実施例の鋼管杭の正面図、図2図1の平面図である(但し、杭本体である鋼管は断面で示している)、図3図2のA−A断面図、図4図1の底面図である。
この鋼管杭1は、杭本体である鋼管2の先端面に、直径Dが鋼管直径dより大で、かつ中央部に、下面側から見て杭頭側にへこんだ直径Dの円形輪郭の凹部8が形成された円形の端面板3を溶接固定している。図示例の凹部8はすり鉢状をなしている。凹部8の円形輪郭を図4にSで示す。凹部8の外側部分(上面部分)を8’で示す。凹部8の外側部分8’の上から見た円形輪郭をS’で示す。
前記端面板3における前記凹部8より外側に張り出した鍔部4に、前記端面板3の周縁から中央に向かう切欠き部5を有し、前記切欠き部5の端面板周方向両側に、互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部6、7(上向き傾斜面部6及び下向き傾斜面部7)が形成されている。
そして、前記凹部8に、その中心側から前記切欠き部5の近傍に向かって延びる掘削推進補助バーとして機能する細長部材10が溶接固定されている。実施例の細長部材10は、縦横18mmの正方形断面で長さが130mmの角棒(角形部材)である。
【0015】
この実施例ではさらに、端面板3の下面に下向き傾斜面部7を補強する傾斜面部補強部材21を溶接固定している。
図示例の傾斜面部補強部材21は、縦横18mmの正方形断面で長さが40mmの角棒であり、その下端を端面板3に、下向き傾斜面部7における端面板中心側の側端面に接するように位置させて溶接固定し、上部の側面を下向き傾斜面部7の端面板中心側の側端面に溶接固定している。図5(ロ)の砂地ハッチングで示した部分が傾斜面部補強部材21と下向き傾斜面部7の端面板中心側の側端面とが接合される領域である。溶接はその領域の周囲において行う。図2において溶接部をQで示す。
図示例の傾斜面部補強部材21が端面板3に固定される位置は、凹部8の円形輪郭Sと円弧状切りこみmとの間の平坦な部分である。
なお、端面板3の直径が小径の場合は、傾斜面部補強部材21の位置が凹部8の傾斜面になる場合もあるが、その場合は傾斜面部補強部材21の下端面を傾斜面にする。
【0016】
鋼管杭1の杭本体である鋼管2は通常、板厚tが4.2mm、5.5mm、5.7mm、6.0mm等であり、直径dが89.1mm、101.6mm、114.3mm等である。材質はSTK400である。
端面板3は通常、板厚T=9mm、12mm等であり、直径D=300mm、400mm、580mm等である。材質はSS400又はSS490である。凹部8の高さは通常、H=45mm、60mm、75mm等であり、凹部8の円形輪郭Sの直径Dは通常、175mm、220mm、280mm、360mm等である。
実施例で説明する鋼管杭の各サイズ等については、鋼管2は板厚t=4.5mm、直径d=114.3mm、材質STK400である。端面板3は板厚T=9mm、直径D=400mm、凹部8の高さH=45mmである。凹部8の円形輪郭Sの直径Dは220mm、材質はSS400又はSS490である。
【0017】
端面板3を製作する方法は特に限定されないが、鋼板の平坦な円板に凹部8を形成した後に傾斜面部6、7を形成してもよいし、平坦な円板に、傾斜面部6、7を形成するための切り込みを入れた段階で凹部8を形成してもよい。また、平坦な円板に、切り込みを入れかつ傾斜面部を形成した後に、凹部を形成することも考えられる。
図4に対応する底面図として示した図6では、円板9に凹部8を形成した後に傾斜面部を形成する場合として示している。同図において、傾斜面部が形成される前の段階の端面板を3’で示し、傾斜面部6、7となる部分を6’、7’で示す。
図示例では、凹部8の円形輪郭Sより若干半径方向外側の位置に円弧状の切込みmを入れ、その円弧状の切り込みmの中央位置から半径方向外側に延びる切込みnを入れた後、前記切込みnの円周方向両側をそれぞれ上下逆向きに傾斜させて、図1図3図5のような互いに上下逆向きの傾斜面部6、7を形成する。底面図である図6において、傾斜面部6、7を形成する際の谷折り部を1点鎖線、山折り部を2点鎖線で示す。
なお、端面板3の直径Dと凹部8の円形輪郭Sの直径Dとの寸法差にも関係するが、前記円弧状の切り込みmと円形輪郭Sとの間に、前記傾斜面部補強部材21の下端を端面板3に溶接固定する平坦なスペースが確保されるようにするのが望ましい。
【0018】
上述の鋼管杭1を地盤に打設する場合、回転圧入駆動部を持つ杭打ち機にて、回転圧入により地盤に貫入する。
この場合、先端の端面板3が、その傾斜面部6、7が土に食い込む態様で推進力を発揮する。そして、端面板3が支持層に到達した状態では、下面の凹部8に土がつまっていることで地盤との接触面が有効に働き、支持力の高いものとなる。
【0019】
鋼管杭1を回転圧入により地盤に貫入する際、端面板3の中央部に凹部8を有するので、上記のように、地盤に貫入した時に凹部3に土がつまっていることで地盤との接触面が有効に働き、支持力を確実に確保できるものであるが、回転貫入の際には、特に下向き傾斜面部7で土が凹部8に囲い込まれ押し込まれることが、掘削推進に対する抵抗が大きく要因となる。すなわち、回転貫入の際、土が特に下向き傾斜面部7で凹部8に強く押し込まれ過ぎると、凹部8につまった土からの下向き傾斜面部7の回転に対する抵抗が増し、また、鉛直方向の抵抗も増す。
しかし、上述した鋼管杭1では、端面板3の裏面の凹部8に、その中心側から切欠き部5の近傍に向かって延びる細長部材10が存在するので、掘削推進中にこの細長部材10が凹部8に囲い込まれ押し込まれる土を排出する作用をする。したがって、土が凹部8につまり過ぎることは抑制され、凹部8につまった土からの下向き傾斜面部7の回転に対する抵抗は軽減され、また、鉛直方向の抵抗が増すことも軽減される。このように、細長部材10は掘削推進補助部材として機能する。
【0020】
上記のように端面板3の特に下向き傾斜面部7には土を掘削する作用に対して大きな抵抗を受ける。したがって、その抵抗により下向き傾斜面部7が変形する恐れがあるが、その下向き傾斜面部7が前記傾斜面部補強部材21を介して端面板3に結合されていので、下向き傾斜面部7がその傾斜角度がさらに大となるように変形することは防止される。
【0021】
図7は上述の鋼管杭1を、家屋等の建築物の基礎杭として施工する態様の一例を説明するもので、鋼管杭1は建築物の基礎コンクリート20を支持する態様で地盤に設置される。この鋼管杭1によれば、地盤支持力が向上するので、従来より少ない本数の杭にて、所望の支持力を確保することができる。
また、鋼管杭1を地盤に貫入する際には、上述の通り、端面板3の下面に固定した細長部材10により、鋼管杭1の掘削推進に対する抵抗が軽減される。
【実施例2】
【0022】
上述の実施例では細長部材として、正方形断面の角形部材を用いたが、正方形断面に限らず長方形断面でもよいし、角形部材に限らず円形断面その他の断面でもよい。さらに、棒状部材と言える範囲内で幅寸法より高さ寸法が大なる部材であってもよい。
また、凹部8における細長部材10の配置(位置)は、凹部の中心側から切欠き部5の近傍に向かって延びる態様で配置固定されるが、端面板3が回転して掘削推進してく際の土の挙動は複雑なので、厳格に位置が定められるものではない。したがって、種々の配置に対して実験を行って適切な細長部材の形状及び配置が得られるものである。
実施例の凹部8はすり鉢状をなしているが、椀状であってもよい。この場合、細長部材10の全長が凹部8の面に接触しないが、若干の隙間があることは、細長部材の機能として特に問題ではない。
【実施例3】
【0023】
図示は省略するが、端面板3の下面に板状の掘削刃を垂直に溶接固定することもできる。この場合の掘削刃は、その先端側(下端側)が三角形状に尖った刃部で、基部(上端側)が凹部の面に合わせた形状であり、前記基部を凹部8に垂直に溶接固定する。この掘削刃が土を攪拌することで、鋼管杭の圧入に必要な力を軽減することができる。
また、図示は省略するが、鋼管杭1における端面板3の位置より適宜上方位置(例えば端面板直径の50〜60%程度上方位置)に、補助ウイングを取り付けることができる。 この場合の補助ウイングは、先端の端面板3における細長部材10及び傾斜面部補強部材21を除いた形状で、サイズは例えば20%程度大きくする。
【符号の説明】
【0024】
1 鋼管杭
2 鋼管(杭本体)
3 端面板
3’ 傾斜面部が形成される前の段階の端面板
4 鍔部
5 切欠き部
6 上向き傾斜面部
6’ 上向きの傾斜面部となる部分
7 下向き傾斜面部
7’ 下向きの傾斜面部となる部分
8 凹部
8’凹部の外側部分
10 細長部材(掘削推進補助バー)
21 傾斜面部補強部材
S 凹部の円形輪郭
S’ 凹部の外側部分を上から見た円形輪郭
T (端面板の)板厚
t (鋼管の)板厚
d 鋼管の直径
端面板の直径
凹部の円形輪郭の直径
H 凹部の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7