(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
がん組織で腫瘍抗原が発現すると、この腫瘍抗原に対し免疫応答があることが実験的に知られている。がんワクチンは、この特性を利用し、がん細胞を特異的に破壊する手法である。具体的には、体外からがん特異的抗原を投与し、免疫提示細胞(特に樹状細胞(dendritic cell:DC細胞))を活性化、活性化した樹状細胞によりがん細胞特異的なCTL(細胞傷害性T細胞)が誘導される。CTLががん細胞を攻撃し、がん細胞を特異的に死滅させるという副作用の少ない免疫療法である。
2011年に免疫療法剤として初めてアメリカDendron社のProvengeが前立腺がん患者に対する医薬品として承認を受けた。Provengeは前立腺酸性ホスファターゼ(prostatic acid phosphotase(PAP))抗原と顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)を融合(fusion)させたタンパク質製剤である。当該製剤を患者の末梢血より回収した樹状細胞と共に培養し、活性化した樹状細胞を患者に輸注するという免疫療法が採られている。多施設共同無作為化比較試験で、対照群に比較し全生存期間(OS)を4.1ケ月延長したことが報告され、フェーズ2試験でも同様の効果が認められたため、FDAにおいて再現性試験の結果をもって承認された。2014年4月にはDendron社よりProvengeを用いた前立腺がん患者に対するフェーズII STANDスタディーの長期分析のプレリミナリーな結果報告で、Provenge治療を施した転移ハイリスク再発前立腺がん患者において、抗原特異的なT細胞応答が増強され維持され続けていることが示された。
【0003】
当該ペプチドワクチンは全長鎖のPAPタンパク質を抗原として用いているが、通常のペプチドワクチンは、がん細胞特異的なCTLを誘導できるCD-8拘束性の8-10アミノ酸長(mer)の短鎖ペプチドとアジュバントとの組合せが多く採用されている。短鎖ペプチドは、長鎖ペプチドに比べ容易に化学合成できるという利点がある。
投与された抗原タンパク質/ペプチドは、樹状細胞等のプロフェッショナル抗原提示細胞にエンドサイトーシス等の作用により取り込まれ、プロテアーゼ等により種々の長さのペプチドへと切断される。特に、樹状細胞は、特異的なクロスプレゼンテーションの作用により、外来性抗原を8-10アミノ酸長のペプチドに分解し、細胞表面上の主要組織適合遺伝子複合体MHC(ヒトではHLA)クラスI分子上に提示する。抗原を取込んだ樹状細胞はリンパ節のT細胞領域に遊走すると共に、遊走する間にナイーブT細胞への抗原提示が可能となる成熟樹状細胞に変化する。成熟化には、樹状細胞がCD86分子等の共刺激物質やCD40分子等の接着分子等を発現する必要がある。
【0004】
CD86分子、CD40分子等の共刺激物質等が誘導されない未熟な樹状細胞は、ナイーブT細胞刺激時にMHCの抗原シグナルによる刺激(第1シグナル)を与えるのみで、CD86分子等の共刺激シグナル(第2シグナル)が入らず、最終的にT細胞はその抗原に対して応答できない状態(アナジー)に陥る。従って、腫瘍抗原を利用するがんワクチンがアナジー状態つまり免疫寛容状態を回避しCTLを機能させるためには、CD86分子、CD40分子等の発現誘導による第2シグナルを誘導し樹状細胞の成熟化を図ることが重要である。
その結果、MHCクラスI/腫瘍抗原ペプチド複合体を保持する成熟樹状細胞により活性化されたCTLは、腫瘍細胞上に存在するMHCクラスI/抗原ペプチド複合体を検出し、グランザイムやパーフォリンなどのエフェクター分子を用いて腫瘍細胞を破壊する。
【0005】
しかし、Provenge承認後、複数のペプチドワクチンの後期臨床試験結果が報告されているがいずれも良好な結果は得られていない。具体的には、オンコセラピー・サイエンスの膵臓がんワクチン「OTS-102」は主要評価項目で未達との結果、Merck/Serono社の非小細胞肺がんを対象にしたMUC-1のペプチドワクチン「L-BLP25」(25アミノ酸、リポソーム製剤)の主要評価項目OSの延長が達成できなかったとの結果、オンコセラピー・サイエンスの膵臓がんワクチン「C01」はフェーズIII開発が中止され、グラクソスミスクラインの非小細胞肺がんを対象にしたMAGE-A3ワクチンが無病生存期間(DFS)(第1の主要評価項目)、および化学療法を施行しなかったMAGE-A3陽性患者に対する本剤のDFS(第2の主要評価項目)のいずれについても、有効な成分を含まない薬を投与したプラセボ群と比べ有意な延長が示されなかったとの結果が報告された。特に、MAGE-A3は、短鎖のペプチドではなく全長たんぱく質を抗原とし、ワクチンが最も有効に働くと期待されたがん組織除去後投与での臨床試験の失敗であり、がんワクチンでは最も効果が期待されていた試験であった。
一方、樹状細胞特異的に発現するレセプターDEC-205をターゲットがんワクチンが開発され、当該がんワクチンによる導入した抗原NY-ESO-1に対して効率的に細胞性免疫が誘導されたことが報告された(非特許文献:Sci Transl Med 6, 231ra51 (2014))。つまり、樹状細胞に効率よく抗原が導入され、共刺激物質等が誘導されることによりがんワクチンが有効に機能できることが示唆されている。また、当該文献では、免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体のイピリムマブとの併用により6名のメラノーマ患者のうち4名に効果、つまり奏効率が67%であることが報告された。イピリムマブ単独投与での奏効率が11%との結果と比較すると、免疫チェックポイント阻害薬とがんワクチンを併用することにより奏効率が格段と上昇することが確認された。今後、免疫チェックポイント阻害薬とガンワクチンの併用ががん免疫療法のトレンドになるものと予想され、有効ながんワクチンの開発が重要である。
【0006】
ガンワクチンの実施は、通常ワクチン単独投与ではなく抗原の免疫を賦活化させるアジュバントが併用される。また、感染症ワクチンにおいてもワクチン力価の上昇を図るため、アジュバントを添加する例が増加している。
最近までは、抗原を投与部位に停留させる効果をもつエマルジョンタイプやアルミニウム塩タイプのアジュバントが一般的であったが、免疫メカニズムの理解が深まる中、多様な免疫機能をもつアジュバントの開発が盛んである。
例えば、インフルエンザワクチン、特にウイルスコンポーネントを精製したスプリットワクチンの場合、ワクチンの忍容性と免疫原性を高める特性をもつアジュバントとの併用が多く、そのような特性をもつアジュバントの開発が盛んである。優れたアジュバントにより中和抗体誘導に必要な抗原量を大幅に低減することができるため、数百万人分以上の大量抗原を調製するための大規模製造プラント建設等に与える影響は大きい。最近アジュバント素材としてスクワレンが利用されるようになり、界面活性剤ポリソルベート80で乳化されたオイルアジュバント(GSK社:AS03、ノバルティス社:MF59)等新規のアンジュバントとして承認され、その効果が注目されている。
【0007】
樹状細胞の共刺激因子(第2シグナル)活性化アジュバントへの関心が高く、安全性の高い臨床利用可能なアジュバント候補として、CpG、Poly I:CなどのToll like receptor(TLR)刺激剤、さらにGM-CSF、IFN-α/γなどのサイトカイン、ヒートショックタンパク質などが検討されている。
本発明者は、ペプチド抗原によるがんワクチンの諸問題に対処すべく、ワクチン抗原をターゲットに効率よく導入でき、樹状細胞での第2シグナルを活性化できる抗原運搬用ベクターの開発を行ってきた。当該ベクターは、パラミクソウイルス科ヒトパラインフルエンザ2型ベクターのウイルス構造遺伝子に抗原ポリペプチド遺伝子を組込んだウイルスベクターを作製し、当該ウイルスを不活化した安全性の高いビロソーム型のベクターである(特許文献1)。当該ベクターは樹状細胞のCD86分子等の共刺激物質やCD40分子等の接着分子等の発現を有意に上昇させること、さらに抗原提示細胞等に効率よく抗原を導入することができる。既に、万能型インフルエンザのM2e抗原、がん抗原ペプチドのgp100、wt1ペプチド抗原を導入したベクターを用い、感染症、がんに対するモデルマウスでの有効性が確認されている。
【0008】
マコモは、イネ科マコモ属に属し水辺の湿地に群落をつくり植生する多年生の植物で、共生する黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)より分泌されるオーキシンにより、幼茎が肥大するとされ、肥大した部分がマコモタケとして食用に供される。マコモタケ抽出物に関しては、マコモタケ乾燥粉末より熱抽出またはアルコール等の親水性溶媒で抽出産物が浴用剤として利用され、身体を温める作用に優れ、血液の循環を改良し、体の抗廃物を除去する効果があり、美容的効果も有するとされる(特許文献2)。また、熱水又はクロロホルム又はエタノールによりマコモタケ乾燥粉末より抽出した産物の経口摂取により摂取でき、食品に配合しても当該飲食品の風味を損なうことがない免疫賦活組成物、及びそれを含有する飲食品の提供が示されている(特許文献3)。
マコモに寄生する黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)はクロボキン網(Ustilaginomycetes)に属する担子菌系酵母である。担子菌の細胞壁はN−アセチルグルコサミンのポリマーであるキチンを骨格として、これにグルカンまたはマンナンなどが結合して構成されているところ、クロボキンの主要な細胞構成糖が6-単糖のグルコースであり、グルコースによって構成されるβ-グルカンが含まれること、5-単糖のキシロースは含まれていないことが報告されている(非特許文献1)。
【0009】
キノコ、酵母、真菌、イネ科植物等に含まれる多糖の一種であるβ-グルカンが種々の免疫賦活効果をもつことが報告されている。β-グルカンはグルコースがβ-(1、3)結合を主鎖にもち、側鎖としてβ-(1、6)結合を有し、分子量が数十万以上の物質が多い。β-(1、3)結合主鎖数に対するβ-(1、6)結合の側鎖の割合およびβ-グルカンの分子量は、由来となるキノコ、酵母、真菌、イネ科植物等により異なりことが知られている。β-グルカンが生理活性特性をもつためには、β-グルカン3分子が会合し3重らせん構造をもつことが重要であるとされる。レンチナン(シイタケ由来の生理活性物質)、シゾフィラン(スエヒロダケ由来の生理活性物質)は高度に精製されたβ-グルカンであり、レンチナンはβ-(1、3)結合グルコース残基およそ5個に対し2個のβ-(1、6)結合を有し、シゾフィランはβ-(1、3)結合グルコース残基およそ3個に対し1個のβ-(1、6)結合を有し、分子量が数百万と極めて大きい生理活性物質である。また、β-(1、6)結合側鎖を90%以上もつ黒酵母より抽出されたソフィベータグルカンが報告されその多用な生理活性が注目されている。
パントエア菌(Pantoea)は,小麦や果物,ジャガイモ,米,シイタケなど,植物に広く共生する細菌であり,長い食経験から安全性が保障されたグラム陰性細菌である。パントエア菌に含まれるリポポリサッカリド(LPS)は、従来のLPSより安全性が高い点が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来型のワクチンでは対応が難しいとされる感染症に対するワクチン、及び抗原ペプチド/タンパク質とオイル系アジュバントとの組合せによるがんワクチンが有効に機能しない要因の一つとして、ワクチン投与時に樹状細胞等の免疫細胞を十分に活性化できない点が指摘されている。
本発明は、これら事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワクチン投与の際に樹状細胞を有意に活性化させることができ、ワクチン効果を高めることができる新規なアジュバントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、イネ科植物のマコモから単離した黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)及びパントエア菌(Pantoea)からの抽出物をアジュバントとしてワクチンに添加し、樹状細胞に共刺激物質等の発現上昇とそれに伴う樹状細胞の効率的な成熟化を誘導することにより、抗体産生能および細胞障害性細胞(CTL)誘導能がワクチン単独投与に比べて有意に高まることを見出し、本発明を完成するに至った。
こうして、上記目的を達成するための発明に係るアジュバントは、(i)クロボキンを破砕した後に、遠心分離し、その上清液中から抽出する、(ii)パントエア菌を粉砕した後に、遠心分離し、その上清液中から抽出する、又は(iii)マコモ植物体乾燥粉末より、溶液(好ましくは、水)を用いて抽出され、加熱処理にて活性を維持することを特徴とする。溶液(特に、水)を用いて抽出する場合には、温度が20℃〜150℃、時間が5分間〜24時間の幅で抽出処理を行う。温度が低い場合には、抽出までの時間が長く掛かるが、設備やエネルギーが少なくて済む。一方、温度を高くすれば、抽出時間が短くて済むが、設備が大きくなる。
アジュバントとは、抗原性補強剤とも称され、抗原と共に投与されることで、その抗原の抗原性を増強するために使用される物質を意味する。アジュバントには、沈降性のもの(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、カルボキシビニルポリマーなど)、油性のもの(例えば、流動パラフィン、ラノリン、完全フロイント、不完全フロイントなど)が知られている。
【0014】
アジュバントの作用機構は、必ずしも明確ではないものの、(1)抗原を不溶化することで組織に長くとどめ、抗原を長期間に渡って徐々に遊離させる、(2)投与局所に炎症を起こすことで、マクロファージが集まり、抗原が貪食されやすくなり、抗原提示が効果的に行われる及び(3)投与局所や所属するリンパ節のT細胞やB細胞の活性化を強めると言われている。このような作用機構を発揮するためには、アジュバントの分子量は、それなりに大きいことが有利である。本発明のアジュバントについて考えると、水で抽出されて、120℃、20分間の条件でも失活しない。このことから、本発明のアジュバントであるマコモに共生するクロボキン(Ustilago esculenta)からの抽出物は、多糖類(例えば、βグルカン(β1,3グルカン))であると考えられる。β-グルカンは、グルコースがβ-(1、3)結合を主鎖にもち、側鎖としてβ-(1、6)結合を有し、分子量が数十万以上の物質である。但し、原料によって、構造が様々である。また、パントエア菌からの抽出物は、通常食性があるため、安全性の高いリポポリサッカリド(LPS)(免疫誘導陽性コントロール用LPSと識別するために以後「パントエアLPSと記載」)であると考えられる。パントエア菌がマコモに共生していることは知られていなかった。
【0015】
マコモ(Zizania latifolia、真菰。別名:ハナガツミ)とは、イネ科マコモ属の多年草を意味する。黒穂菌(クロボキン)の一種である Ustilago esculenta が共生し肥大した新芽は、マコモダケ(マコモタケ、真菰筍)と呼ばれて、食材として利用されている。三重県三重郡菰野町では、「菰野の真菰」と称して、地産のマコモタケの普及を進めている。
本願発明のアジュバントは、マコモ植物体乾燥粉末またはクロボキン若しくはパントエア菌、または三者またはいずれか二者から抽出されることになる。
マコモは、水辺の湿地に群落をつくり植生する大形の多年生の沼沢植物である。マコモの根は、泥の中に太く短く生える根茎と、そこから横に伸びる枝根とを備えている。また、根からは、多くの葉と茎とが出される。葉の巾は2-3cmもあり、長くその縁はざらつき、下の方は丸い鞘となっている。マコモに寄生する黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)はクロボキン網(Ustilaginomycetes)に属する担子菌系酵母であり、当該酵母の細胞壁等の主成分にはβグルカンが含まれている。今回見出したマコモに共生するパントエア菌は、グラム陰性菌でありパントエアLPSが含まれている。このパントエアLPSを含有させて、アジュバントとして使用できる。本発明の免疫賦活化に関しては、マコモ植物体乾燥粉末からの抽出にはクロボキン又はパントエア菌が共生している部分からの抽出が好ましい。また、このうちマコモに共生する黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を、他の微生物等が含まれない単離した状態で用いることが好ましい。インフルエンザウイルスの増殖抑制に関しては、マコモ乾燥葉又は葉粉末成分からの抽出が好ましい。この抽出物は、インフルエンザ増殖抑制活性を備えているので、抗インフルエンザ組成物として提供できる。当該組成物は、例えば医薬品、健康食品などとして使用できる。
【0016】
本発明に係るマコモ植物体乾燥粉末よりアジュバント試料を作製するには、例えば次のような手順で行える。
マコモからの抽出には(A)マコモの葉の部分またはマコモタケ部分を乾燥した後、粉末とする、(B)この粉末に水を加え、適温にて抽出し、固液分離することで、沈殿物と上澄み液に分離する、(B’)必要な場合には、2〜3回に渡って、沈殿物に再び水を加え、適温にて抽出し、固液分離することで、沈殿物と上澄み液とに分離する、(C)上澄み液をそのまま、またはメンブレンフィルターでろ過した後に、ろ液を濃縮することで粗抽出物を得る。この粗抽出物をそのまま、または水を飛ばした後に残渣とし、これに再度適量の水を加えて溶解した物をアジュバント用試料とする。
上記(A)において、マコモの葉の部位またはマコモタケ部位は、必ずしも乾燥する必要はない。但し、原料の安定的な供給や、保存の観点からは、乾燥しておくことが好ましい。また、マコモの葉の部位またはマコモタケ部位は、必ずしも粉末とする必要はない。但し、取り扱いの容易性、抽出率の観点からは、粉末としておくことが好ましい。
【0017】
上記(B)において、水の温度としては、特に限定されないが、5℃〜120℃、好ましくは10℃〜90℃、更に好ましくは20℃〜40℃とする。本発明のアジュバント試料は、120℃、20分間の加圧・加温処理でも失活しないので、他の物質の混入(コンタミネーション)を防ぐためには、高温で抽出することが好ましい。但し、低温の水であれば、大量安価な処理が可能となるので、好ましい。その場合には、抽出後に滅菌処理を施すことが好ましい。
上記(B)において、固液分離する方法としては、特に限定されないがフィルターろ過、遠心分離、真空脱水、加圧脱水などの方法が例示される。
【0018】
本発明に係る黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌よりアジュバント試料を作製するには、例えば次のような手順で行える。
黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌の単離は、(C)肥大した生のマコモタケの黒色斑点部位から黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を単離し、(D)黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を培養し、(F)黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌から抽出を行う。
黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌の単離は、肥大した生のマコモタケの黒色斑点部位を分離し、黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌の生育に適した寒天培地上で分離する。当該分離操作は微生物の形態上単一になるまで繰り返す。さらに分離した黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を同様の寒天培地上で、培養して菌や酵母株を増やすことは、純度を上げ生産量を増やす場合に有効な手段である。また黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)およびパントエア菌の両者を共存培養させること、両者を分離せずにアジュバントに使用することも可能である。更に単離培養したクロボキン又はパントエア菌を1:1〜1:10の割合で混合することも有効である。
なお、黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌は、マコモ以外の植物に見いだせる可能性がある。その場合には、その植物において、(A)黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を含有する部位よりそれぞれの菌を単離し、(B)菌体を培養により増殖させ、(C)上澄み液又は菌体から粗抽出物を得ることによって、アジュバントを製造できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワクチン投与の際に樹状細胞を有意に活性化させることができ、ワクチン効果を高めることができる新規なアジュバントを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<実施例1> マコモ植物体乾燥粉末からの抽出物はCD86分子およびI-A/I-E分子の発現を上昇させる。
ある物質が、ワクチンのT細胞やB細胞に対する抗原特異的な免疫能を獲得に寄与するアジュバントとして機能するためには、抗原提示細胞である樹状細胞でのシグナル伝達に必要とされるCD86分子等共刺激物質の発現を上昇させる必要がある。
そこで、マコモからの抽出物が、マウス樹状細胞で共刺激物質であるCD86分子とクラスII分子であるI-A/I-E分子の発現を調べた。
マコモ抽出試料は、次の方法で調製した。マコモを乾燥・裁断後に調整した粉末2gに水20mLを加え、24時間、25℃で撹拌した。その後、懸濁液を遠心分離(5000rpm、10分間)し、上澄み液を得た。沈殿物にイオン交換水5mLを加え、撹拌遠心分離(5000rpm、10分間)し、上澄み液を得た。当該操作をさらに3回繰り返し、上澄み液を0.45μm径のメンブランフィルターでろ過した。ろ液を減圧濃縮し、薄黄色の0.49gの残渣を得た。この残渣をイオン交換水10mLに溶解したものを粗抽出液とした。粗抽出液0.5mLは、3K、10K及び50K膜のアミコンウルトラ限外ろ過膜遠膜を用いて、遠心分離(2500×g、30分間)し、それぞれ分画した。各フィルター通過・不通過画分を回収し、イオン交換水を加えて1mLの試料液を調製した。
【0022】
マウス樹状細胞は、倫理規定に基づき、以下のように調製した。B57BL/6/Jマウスの大腿骨より骨髄を回収し、残渣を除去して培養した。培養液として、10%FBS含有RPM-1640培地を用いた。培養2日毎に培地を交換し、GM-CSF及びIL-4をそれぞれ20ng/mLとなるように添加した。8日間培養した細胞培養試料に、マコモ抽出液を培地の1/10量になるように添加し、2日間培養後、CD86分子とI-A/I-E分子の発現をFACSにより解析した。
陽性コントロールとして、1μg/mLのグラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)を用いた。
結果を
図1及び
図2に示した。マコモ抽出成分添加により、CD86分子およびI-A/I-E分子発現が上昇した。以下に詳細する。
【0023】
1.CD86分子
図1には、CD86分子の誘導結果を示した。すべての限外ろ過膜3K、10K及び50K膜の不通過画分(濃縮画分)において、CD86分子の発現上昇が認められた。一方、限外ろ過膜通過画分には発現上昇が認められないことから、通過画分にはCD86分子の発現を上昇させる成分は含まれていなかった。このように、マコモの限外ろ過濃縮画分には、樹状細胞の共刺激物質の発現上昇を促進する成分が含まれていた。また、図には示さないが、CD40分子についても同様の測定試験を行ったところ、発現上昇を認めた。
【0024】
2.I-A/I-E分子
図2には、I-A/I-E分子の誘導結果を示した。すべての限外ろ過膜3K、10K及び50K膜の不通過画分(濃縮画分)において、MHCクラスII成分であるI-A/I-E分子の発現上昇が認められた。マコモ抽出成分は、すべての限外ろ過膜の不通過画分で、LPSと同等かそれ以上の高いI-A/I-E分子の発現誘導能を持ち、ヘルパーT細胞を効率よく活性化させることができると予想された。また、すべての限外ろ過膜通過画分には発現上昇が認められなかった。
これらの結果から、マコモ抽出成分はアミコンの50K限外ろ過膜を通らない成分が樹状細胞のMHCクラスII分子であるI-A/I-E分子の発現を上昇させることが分かった。
また、図には示さないが、CD86分子、CD40分子についても同様の測定試験を行ったところ、発現上昇の結果を得た。
このように、マコモ乾燥物から水抽出によって得られた可溶性画分には、樹状細胞の共刺激物質およびMHCクラスII分子の発現上昇させる成分が含まれていた。
【0025】
<実施例2> マコモからの抽出物は熱に安定である。
マコモ抽出試料は、次のように調製した。すなわち、マコモを乾燥・裁断後に調整した粉末2gに18mLの蒸留水を加え撹拌し、120℃、20分間(いわゆるオートクレーブ処理)の条件で、加圧・加熱処理した。加圧・加温処理後、2500×gで遠心処理し、沈殿物を含まないように約7mLの上清を回収した後、これを0.45μm径のフィルターにより残渣を除去し、蒸留水を加えて20mLの粗抽出液とした。粗抽出液1mLを3Kのアミコンウルトラ限外ろ過膜遠膜を用いて遠心分離(2500×g、30分間)し、それぞれ分画し、フィルター通過・不通過画分を回収し、イオン交換水を加えて1mLの試料液を調製した。
この試料について、マウス樹状細胞のCD86分子およびI-A/I-E分子の発現誘導能の確認試験を実施例1と同様の方法で行った。
結果を
図3に示した。120℃、20分間の加圧・加熱処理した試料液は、CD86分子およびI-A/I-E分子の発現誘導能を持つ成分が含まれていた。120℃、20分間の範囲については100〜130℃、10〜30分の範囲においては一定の効果が期待できる。
このように、アジュバント成分は熱にも極めて安定であった。
【0026】
<実施例3> マコモ抽出物は、ヒトの樹状細胞も効率よく活性化させる。
次に、マコモ抽出物が、ヒトの樹状細胞に対して補助刺激分子の発現誘導能を調べた。
インフォームドコンセントを得た健常人より末梢血を採取し、Ficoll-Paque PLUS(GEヘルスケアー)を用いて、末梢血単核球(PBMC)を回収した。CD14マクロビーズを用いて、PBMCよりCD14陽性単球を回収した。CD14陽性単球を10%FBS、50μM 2-メルカプトエタノール、50ng/mL GM-CSFおよび50ng/mL IL-4を含むRPMI1640培地を用いて37℃、7日間培養し、単球由来樹状細胞を回収した。
得られた細胞に37℃で回収したマコモ抽出液を培地の1/10量および1/100量になるように添加し、2日間培養した後、CD86分子、HLA-A分子およびHLA-DR分子をFACSを用いて分析した。
陽性コントロールとして、1μg/mLのLPSを用いた。
【0027】
結果を
図4に示した。マコモ抽出液を培地の1/10量添加した場合、陽性コントロールのLPSよりも高く、CD86分子の発現を誘導した。また、1/100量添加した場合にも、CD86分子を誘導した。HLAクラスIのHLA-Aは、LPSに比較して誘導が少なかった。一方、HLAクラスIIのHLA-DRについては、LPSよりも高い発現誘導能を示した。
このように、マコモ抽出液は、マウスだけでなく、ヒトの樹状細胞も効率よく活性化させることができた。LPSと比較し、HLAクラスI分子に比べ、HLAクラスII分子をより高く活性化できることが分かった。つまり、ヘルパーT細胞も効率よく活性化できるアジュバントとしての機能を持つことが示された。
【0028】
<実施例4> CD86分子発現誘導成分の大部分は、100Kフィルター不通過画分(濃縮各分)に存在している。
実施例2の方法で調製したアミコン遠心フィルター3Kの上清画分を、更に分画分子量の大きい100Kフィルターを用いて分画し、より高分子の分画成分について検討した。
分画方法は実施例2と同様の方法で行い、アミコン100Kフィルターを用い、2500×g、30分間の遠心分離を行い、試料溶液を抽出した。100Kフィルターで分画したマコモ抽出画分をマウス由来樹状細胞調製液に培地の1/10量添加し、CD86分子とI-A/I-E分子の発現をFACSにて解析した。
陽性コントロールとして、1μg/mLのLPSを用いた。
【0029】
結果を
図5に示した。CD86分子発現誘導成分は、大部分が100Kフィルター不通過画分(濃縮各分)に存在していた。100Kフィルター通過画分は、ネガティブコントロールのPBS添加群に比べては高値を示したが、不通過画分(濃縮各分)に比べると、CD86分子の発現を効果的に誘導させることはできなかった。一方、MHCクラスIIの発現(I-A/I-E分子)は、フィルター通過画分にも多く含まれていた。50Kフィルターでの分画では、I-A/I-E分子発現誘導成分は、アミコンウルトラ限外ろ過膜膜(50K)不通過画分に存在していることを確認した(
図1)。この実施例では、アミコンウルトラ限外ろ過膜の50Kから100K画分にも、MHCクラスIIのI-A/I-E分子の発現を誘導できる成分が多く含まれていることが分かった。
【0030】
<実施例5> マコモ抽出物は、BC-PIVワクチン(インフルエンザワクチン)に対するアジュバント効果を示す。
本発明者は、新規不活化ウイルスワクチンベクター(BC-PIV)を開発し、感染症およびがんに対するモデルマウスでの有効性を確認済である(特許文献1)。具体的には、感染症では、万能型インフルエンザウイルスに対応可能な抗原として知られているインフルエンザウイルスM2タンパク質の膜外領域の抗原であるM2e(24アミノ酸残基)を導入したBC-PIV/M2eを構築し、インフルエンザウイルス(PR-8株)に対するワクチン効果をBalb/Cマウスを用いて調べた。BC-PIV/M2eはインフルエンザウイルスに対する高いウイルスの感染・増殖抑制効果をもつことを確認している。これまでに、M2e抗原を用いた万能型インフルエンザワクチンの開発に多くの製薬企業が開発に取り組んでいるが、小動物の結果の大動物に外挿することが容易ではないことが報告されている。具体的には、マウス、フェレット等の感染試験でM2eに対する抗体価の上昇およびウイルス増殖阻止効果が確認された場合でも、サル等では抗体価を上昇させることが難しい例が報告されている。このように、万能型インフルエンザ抗原M2eは、サル等の高等動物では、抗体価を上昇させることは容易ではなく、ヒトに対する万能型インフルエンザの開発の難しさを示している。
【0031】
一方、不活化BC-PIVベクターの母体となるヒトパラインフエンザ2型ウイルスの宿主はヒトであり、ヒトでは当該ウイルスは感染許容状態(permissive)である。しかし、マウスでは、このウイルスの増殖性が極めて悪い(poor permissive)ことが知られている。したがって、感染特性から推察するとマウス結果はヒトへの外挿性が高いと考えられる。
そこで我々は、M2e抗原を導入したBC-PIV/M2eワクチンにマコモ抽出液を添加し、経鼻または筋肉内投与による抗体産生を評価した。試験方法は、5週齢のBalb/Cマウス(メス)を麻酔後に経鼻(ワクチン量20μL、6×10
7パーティクル数)または筋肉(大腿四頭筋ワクチン50μL、1.5×10
7パーティクル数)よりBC-PIV/M2eとマコモ抽出液(経鼻:マコモ抽出液4μL、筋肉:マコモ抽出液10μL)の有無条件下での抗体価の上昇を測定した。投与群は、経鼻:BC-PIV群、BC-PIV/M2e群、BC-PIV/M2e群+マコモ試料液群、および、筋肉投与群としてBC-PIV群、BC-PIV/M2e群、BC-PIV/M2e群+マコモ試料液群である。コントロールは無投与群とした。
【0032】
試料投与マウスより脾臓細胞を回収した。RPMI1640培地 (10% FBS, 1% ペニシリン・ストレプトマイシン溶液と50μMの2-メルカプトエタノール)の中で脾臓を5 mm幅に切り、スライドガラスの磨りガラス面で脾臓断片を擦り合わせて脾臓細胞を集め、遠心後上清を捨てた。1 mLの赤血球除去バッファー (150mM 塩化アンモニウム、10mM 炭酸水素カリウムと100μM EDTA)添加後、9mLのRPMI1640培地を加え遠心し、細胞を回収し、RPMI1640培地に細胞を懸濁した。回収した脾臓細胞に、5μg/mLのMe2抗原またはBC-PIVタンパク質を添加し3日間培養した。培養上清を回収し、誘導されたIgG1、IgG2、IgAをELISAにて測定した。
【0033】
試験結果を
図6に示した。ワクチンを経鼻投与すると、万能型インフルエンザ抗原M2eに対して、主にIgAが誘導された。非感作コントロールに比較しBC-PIV/M2e群で約1.8倍、BC-PIV/M2e群+マコモ試料液群では約2.3倍のIgAが誘導された。既に、マウスを用いた試験において、BC-PIV/M2e投与によってインフルエンザウイルスに対する防御効果が確認されており、今回マコモ抽出画分を添加することにより抗M2e・IgA抗体価が上昇したことから、経鼻投与によりBC-PIVワクチンに対するアジュバント効果をもつことが確認された。
【0034】
一方、大腿四頭筋への投与では、ベクターおよびマコモ抽出液を経鼻投与量の2.5倍量を投与した。大腿四頭筋への投与では、主に抗IgG2a抗体価の上昇が認められた。非感作コントロールに比較すると、BC-PIV/M2e群では約2倍、BC-PIV/M2e群+マコモ試料液群では約2.5倍のIgG2a抗体が誘導された。IgAと同様に、IgG2aの場合もマコモ抽出画分を添加することにより抗M2eIgG2a抗体価が上昇した。経鼻投与のBC-PIVに対するアジュバント効果があることが確認された。また、筋肉投与の場合でもBC-PIVワクチンに対するアジュバント効果が確認された。
一方、hPIV2ベクターに対しても経鼻および筋肉投与ともに抗体価は上昇した。ベクター全体として多種の抗原を含んでいるので抗体価の上昇は当然に予想されるところでるが、マコモ抽出画分はベクター自身に対する抗体価を上昇させなかった。つまり、マコモ抽出成分は、元来抗原性の高い抗原に対する免疫原性を上げることなく、抗原性の低い抗原に対する免疫原性を上昇させる作用を持つことが示唆された。
【0035】
<実施例6> マコモ抽出物は、BC-PIVワクチン(マウスメラノーマがんワクチン)に対するアジュバント効果を示す。
次に、マコモ抽出成分が、がんワクチンとして抗腫瘍効果を高めることができるか否かを確認した。腫瘍内に直接または腫瘍部位から遠隔部に、ワクチンとマコモ抽出物を投与し、その有効性について検討した。試験動物として、4-5週齢のB6マウス(メス)を使用した。がん細胞として、がん化したマウスメラノサイトであるB16細胞を使用した。gp100ペプチド保持するBC-PIV/gp100の他に、WT1ペプチド(配列番号1:N-RMFPNAPYL-C)を保持するBC-PIV/wt1を作製して追加した。
【0036】
1.腫瘍内投与試験
マウス背部を剃毛し、皮内に100μLの生理食塩水に懸濁した2×10
6個のB16細胞を移植した。移植4日後にB16細胞が生着したマウスを選び、腫瘍内へのワクチン投与試験に供した。ワクチンは、BC-PIV/gp100(1×10
7パーティクル)およびBC-PIV/wt1(8×10
6パーティクル)をそれぞれ投与した。マコモ抽出試料は、実施例2で調製した試料を用いた。投与群の構成は、(i)PBS(70μL)コントロール群、(ii)BC-PIV群、(iii)BC-PIV/wt1(35μL)+BC-PIV/gp100(35μL)群、(iv)BC-PIV/wt1(35μL)+BC-PIV/gp100(35μL)+マコモ抽出液(20μL)群の4群とした。細胞移植、4日、8日、11日、14日後の4回腫瘍内にワクチンを投与した。腫瘍容量(mm
3)は、腫瘍短径(mm)と長径(mm)を測定し、長径×短径×短径×0.52で算出した。
結果を
図7に示した。PBS投与群では腫瘍容量は増加したが、他の3群すべてで、PBS投与群に比べ、腫瘍の増殖が抑制されていた。腫瘍内投与に関しては、腫瘍抑制群での共通成分はBC-PIVのみであり、BC-PIVだけでも腫瘍抑制効果があると考えられた。
【0037】
2.遠隔部位(皮内)投与試験
次に、腫瘍移植部位からの遠隔部位へのワクチンの投与効果を調べた。マウス背部を剃毛し、背部右側皮内に100μLの生理食塩水に懸濁した2×10
6細胞のB16細胞を移植した。移植翌日に、移植部位と反対背側皮内に試料を投与した。投与群の構成は、(i)PBS(70μL)コントロール群、(ii)マコモ抽出試料(100μL)群、(iii)BC-PIV群、(iv)BC-PIV/wt1(35μL;1×10
7パーティクル)+BC-PIV/gp100(35μL;8×10
6パーティクル)群、(v)BC-PIV/wt1(35μL)+BC-PIV/gp100(35μL)+マコモ抽出液(100μL)群の5群とした。投与箇所は複数箇所とした。投与は、細胞移植から1日後、4日後、8日後および11日後の4回行った。腫瘍径は上記腫瘍内投与と同様に測定した。
【0038】
結果を
図8に示した(腫瘍増大に伴い潰瘍が生じ腫瘍増殖測定に影響を及ぼし、腫瘍の増大が大きい動物では必ずしも正確な腫瘍増殖容量を測定できない例も認められた)。(v)BC-PIV/gp100+BC-PIV/wt1+マコモ抽出液併用投与群のみで腫瘍の増殖が強く抑制された。(ii)マコモ抽出液投与群および(iv)BC-PIV/wt1+BC-PIV/gp100ワクチン投与群では、腫瘍の抑制効果は認められなかった。以上より、マコモ抽出液とBC-PIV/wt1+BC-PIV/gp100の両者のシナジー効果により、腫瘍の増殖が抑制されることを確認した。ワクチンのみ投与群(BC-PIV/gp100(1×10
7パーティクル)およびBC-PIV/wt1(8×10
6パーティクル))では、投与量を増やすと腫瘍抑制効果があることが確認されているが、ワクチン+マコモ抽出液併用群ほどの高い抑制効果は認められない。従って、マコモ抽出液はアジュバント作用によりBC-PIVワクチンの腫瘍増殖を抑制する効果を高めるものと考えられた。
【0039】
<実施例7> マコモ抽出物のうち、特に乾燥マコモ葉粉末からの抽出物は、Vero細胞に感染したインフルエンザウイルスの増殖を抑制する。
乾燥マコモ葉粉末抽出液は、インフルエンザウイルスに直接働きウイルスを阻害はできない。そこで、インフルエンザウイルス感染細胞でのウイルスの増殖を抑制できるかどうか調べた。
乾燥マコモ葉粉末重量の10倍容量の水を加えて、37℃、60℃、80℃で6〜16時間加熱した。加熱処理を遠心後の上清液を試料液とした。又は、121℃、20分間のオートクレーブ処理し、遠心後の上清液を試料液として以下の試験に供した。
使用した細胞はインフルエンザウイルスが良好に増殖することが知られているアフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来のVero細胞を使用した。
インフルエンザウイルス(PR-8株)を細胞数に対して、1/100(MOI=0.01)数のウイルスを培地除去後1時間感染させた。感染後に培地と試料液を培地の1/10又は1/100容量を加えて、3日間培養した。感染後に、10%量で37℃(一晩)またはオートクレーブ処理したマコモ抽出液を、培地の1/10量および1/100量加えて3日間培養し、3日後のウイルス増殖をモルモットの赤血球凝集活性(HA活性)を測定することにより評価した。
【0040】
インフルエンザウイルス感染Vero細胞での、乾燥マコモ葉粉末抽出液のインフルエンザウイルス増殖抑制結果を
図9に示した。マコモ葉抽出液を1/10容量添加した場合には、いずれの抽出温度試料でも、HA値は2以下となり、ウイルスを入れない陰性コントロールのHA値が2以下であることから、ウイルスの増殖が強く抑制された(ウイルス陽性コントロールのHA値64(図の陽性コントロール)。マコモ抽出液1/100容量添加時においてもウイルスの増殖はある程度抑制されていた。乾燥マコモ葉粉末抽出液は、ウイルスの増殖が抑制されることが分かった。
同様にヒト胎児腎由来の293細胞を用いた試験においてもマコモ抽出液はインフエンザウイルスの増殖を抑制した。
【0041】
<実施例8>生のマコモタケから分離した黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌によるアジュバント効果
これまでの結果からマコモからの抽出物が樹状細胞の活性化およびBC-PIVワクチンの作用を賦活化するアジュバント作用をもつことが分かった。しかし、複数回の抽出操作を行う過程で、当該抽出物から必ずしも樹状細胞の活性化効果を示す結果をえることができない場合があった。そのため、当該事象を呈するのが、マコモ由来成分であるのかマコモに共生する黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)等の微生物によるものであるかについて検討した。
マコモ共生菌の分離には、Natural Medicine48(4),272-281(1994)に記載のCzapeck-Dox培地の変法培地を用いた。具体的な培地組成(単位g)は、1% Agar maintenance medium (pH 6.0) として、 (NH
4)
2SO
43.0;K
2HPO
41.0 ;MgSO
4・7H
20 0.5 ;KCI 0.5;FeSO
4・7H
2O 0.01;Sucrose 20.0;Agar末10.0;マコモタケエキス50(ml);精製水にて全量1リットルとし、オートクレーブ滅菌し、10cm系プレートに12mL程度の寒天培地を入れ、分離用固形プレートとした。
上記培養液より得られた菌のうち細菌と予想される菌については、DSMZ培地(麦芽エキス30.0g、大豆ペプトン3g、寒天15.0g(プレートの場合)、蒸留水(1000mL))をpH5.6に調整し、121℃で10分間滅菌し、培養試験を行った。培養温度は主に23℃で行った。
【0042】
分離
肥大した生のマコモタケより黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)胞子が含まれと考えられる黒色斑点部分を滅菌下で取り出し、分離用固形プレート上に静置し、25-27℃で培養した。カビと思われる微生物は除外し、生育した微生物のうち3種類について単離作業を行い、以後の試験に供した。
【0043】
菌の分離
分離した3種類の菌の形態を
図10-1、10-2、10-3に示した。分離菌について、クロボキンの28SrRNAとその近傍のITS領域として報告されている塩基配列にPCRプライマーを設定し、回収したゲノムを用いてPCRを行った。ITS2と28SrRNA領域については5'-gaa ttg ttt cga acg aca gc-3'(配列番号2)および5'-taa agg tgc ccg aag gcc cg-3'(配列番号3)の配列を用いたPCRを行い、919bp長のPCR産物が予想された(accession number: AB211904.1およびAF453937の配列を使用)。intergenic spacer領域については5'-tga gtg agt tgg ctg gtt gg-3'(配列番号4)および5'-gac aag tgt gag gtt ccc gg-3'(配列番号5)のプライマー用い575bp長のPCR産物が予想された(accession number: AB211931の配列を使用)。
図10-1、10-2に示す菌のゲノムを用いたPCRでは所望の長さのPCR産物を認めた。
図10-1と10-2に示した菌はマコモタケの黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)胞子が集積しているとされる部位より生育しているが、菌糸の伸展の形態から同じ菌であるとは考えにくく、同じような配列をもつ菌であるとことが想定された。10-1に示した菌体は、胞子より発芽した菌であることと、PCR産物の塩基配列が報告されている黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)の配列と一致していることにより、黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)と同定した。
DSMZ培地で調製した10-3に示した菌の同定を行った。細菌用の16SリボソーマルRNA用のプライマーを設定し、単離した菌体から通常法により回収したゲノムを用いてPCRを行い、配列の塩基配列を調べた。プライマー配列は、5'-agagtttgatcmtggctcag-3'(配列番号6)および 5'-ggttaccttgttacgactt -3'(配列番号7)を用いた(mはa又はc)。塩基配列の相同性比較によりPantoea agglomerans strain WSA 16S ribosomal RNA ( accession number:KT075208)と比較した604塩基中599塩基において一致をみた。
当該3種の平板プレート上での培養菌体を集め、マウス樹状細胞のCD86分子の発現について調べた。方法は10-1および10-3試料の菌体は2-3白金耳とり2mlの滅菌水に懸濁し、30-40秒間超音波処理した。超音波処理でも10-1試料は完全には可溶化できなかった。10-3試料は、超音波処理によりかなり可溶化した。10-2試料はコロニー全体が固く菌体を白金耳で回収することは困難であったので、爪楊枝で菌体をピックアップし、滅菌水に懸濁した。超音波処理後もほとんど菌体が分解されることはなかった。60℃で2時間処理し、遠心分離により残渣を除去した。上清液をとり0.45μmのフィルターを通し、さらに残渣を除去し、以下の試験に供した。10-1のクロボキンの抽出成分は、グルカン測定キットの測定により、主成分がβ-グルカンであった。10-3のパントエア菌抽出物の主成分は、β-グルカンではなかった。
【0044】
CD86発現の確認
マウスからの樹状細胞の回収は前述の方法と同様の方法で行った。10-1、10-2および10-3のCD86分子の発現を調べた。
図11-1より10-1、10-2、10-3の各菌からの抽出物はコントロールLPSに比べて図に示すようなCD86分子の発現を示した。10-1(黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)由来試料)および10-3のパントエア菌試料液はCD86分子を有意に上昇させることができることが分かった。
本実施形態によれば、ワクチン投与の際に樹状細胞を有意に活性化させることができ、ワクチン効果を高めることができる新規なアジュバントを提供することが可能となった。
また、黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)およびパントエア菌の両者を共存培養させること、両者を分離せずにアジュバントに使用することも可能である。更に、単離培養した黒穂菌(クロボキン:Ustilago esculenta)又はパントエア菌を1:1〜1:10の割合で混合することも有効である。またアジュバントとしてではなく、食品添加、機能性食品、サプリメントへの応用で、免疫機能を強化する食品等への応用が期待できる。
さらに前記したようにインフルエンザウイルスの増殖抑制に関しては、マコモ乾燥葉又は葉粉末成分からの抽出が好ましい。この抽出物は、インフルエンザウイルス増殖抑制活性を備えているので、抗インフルエンザ組成物として提供できる。当該組成物は、例えば医薬品、健康食品などとして使用できる。
上記で利用できるイネ科の植物としては、イネ、ムギ、ヒエ、トウモロコシの仲間などが上げられる。