(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709514
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】水性インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/033 20140101AFI20200608BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20200608BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20200608BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
C09D11/033
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】11
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-535520(P2017-535520)
(86)(22)【出願日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2016073762
(87)【国際公開番号】WO2017030092
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2018年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-160612(P2015-160612)
(32)【優先日】2015年8月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】依田 純
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 正貴
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−216862(JP,A)
【文献】
特開2013−216864(JP,A)
【文献】
特開2012−057043(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0064425(US,A1)
【文献】
特開2007−146135(JP,A)
【文献】
特開2015−074184(JP,A)
【文献】
特開2014−205769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00〜11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、および、有機溶剤として1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを2種以上含有する水性インキ組成物であって、
前記顔料分散樹脂が、炭素数10〜36のアルキル基を有し、
前記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し16重量%以上30重量%以下であり、
前記アルキルポリオールがアルカンジオールを含み、前記アルカンジオールが少なくとも1,2−ヘキサンジオールを含み、その含有量が、水性インキ組成物全量に対し15重量%以上20重量%以下であることを特徴とする、水性インキ組成物。
【請求項2】
少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、および、有機溶剤として1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを2種以上含有する水性インキ組成物であって、
前記顔料分散樹脂が、炭素数10〜36のアルキル基を有し、
前記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し16重量%以上30重量%以下であり、
前記アルキルポリオールがアルカンジオールを含み、前記アルカンジオールが、1,2−ブタンジオールと、1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方とを含み、前記1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方の含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し6重量%以下であることを特徴とする、水性インキ組成物。
【請求項3】
少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、および、有機溶剤として1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを2種以上含有する水性インキ組成物であって、
前記顔料分散樹脂が、炭素数10〜36のアルキル基を有し、
前記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し16重量%以上30重量%以下であり、
前記アルキルポリオールが、1,2−ブタンジオールと、1,2−プロパンジオール及びジプロピレングリコールの少なくとも一方とを含み、かつ1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールを含まず、
前記1,2−ブタンジオールの含有量が水性インキ組成物全量に対して15重量%以上であり、前記1,2−プロパンジオール及びジプロピレングリコールの少なくとも一方の含有量の合計が水性インキ組成物全量に対して0.5〜5重量%であることを特徴とする、水性インキ組成物。
【請求項4】
前記顔料分散樹脂の酸価が、50〜400mgKOH/gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項5】
前記アルキルポリオールが、アルカンジオールのみからなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項6】
前記アルキルポリオールが、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、エチレングリコール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ジブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項7】
前記有機溶剤が、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールの2種以上のみを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項8】
酸価が10〜80mgKOH/gの水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項9】
酸価が10〜50mgKOH/gの水溶性樹脂を含有するバインダー樹脂をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項10】
インクジェット用途であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性インキ組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水性インキ組成物が、基材上に印刷されてなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性、保存安定性、及び乾燥性に優れ、かつ発色性や画像品質に優れる印刷物を形成可能な水性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、記録部材上にインクを付着させて文字や画像を形成する記録方式である。この記録方式は、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有する。また、上記記録方式は、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点を有する。そのため、オフィスや家庭の用途では、インクジェット記録方式の出力機が広く用いられている。
【0003】
一方、インクジェット記録方式による印刷技術の向上に伴い、産業用途では、デジタル印刷に向けて、上記記録方式の出力機の利用が期待されている。例えば、難吸収性基材(ポリ塩化ビニル、PETなどのプラスチック基材)に対して溶剤インキやUVインキによる印刷が可能な印刷機が実際に市販されている。しかし、近年、環境や人に対する有害性への配慮、及びその対応といった点から、上記インキを構成する溶剤やモノマーに対する使用規制が進められている。そのことにより、上記各インキの水性インキへの置き換えが要望され、水性インキの需要が高まっている。
【0004】
水性インキは、顔料分散タイプと染料タイプとに大別することができる。なかでも、近年、発色性、及び耐光性などに優れた顔料分散タイプの需要が伸びている。一方、顔料分散タイプの水性インキは、顔料が水に不溶であるため、多くの場合、十分な顔料分散性が得られない。そのため、水性インキ中での顔料分散性を保持するために、例えば、顔料分散樹脂を用いて水中での顔料の分散安定化が図られている。(特許文献1,2,3)。
【0005】
また、インクジェット記録方式で使用される水性インキは、ノズルの乾燥防止を目的として、沸点が高く、かつ水への溶解性が高い水溶性溶剤を含む。このような溶剤は、水性インキにおいて保湿剤として位置づけられる。
【0006】
一般に、基材に水性インキが着弾した後の乾燥機構は、基材への浸透と蒸発とに分類され、浸透の寄与が非常に大きいことが知られている。したがって、コート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの、疎水性が高くインキの浸透が遅い難吸収性基材に対して、水性インキを用いた印刷を良好に実施することは難しい。具体的には、多色印刷を行った場合、インキの混色によって、きれいな画像を形成することが難しい。また、溶剤インキやUVインキを使用した場合と比べて、印刷速度が著しく低下してしまう。さらに、印刷速度の高速化を目的とし、乾燥能力を上げるために乾燥装置を大型化した場合、プリンター機体の巨大化、及び高額化等の問題が発生する。このように、インクジェットプリンターといった産業用の出力機を水性インキに適する仕様に置き換えることは大変難しい状態となっている。
【0007】
これらの課題を解決するには、浸透性が高く、かつ沸点が高い水溶性溶剤をインキに添加し、インキの乾燥性の向上を図る方法が考えられる。しかしながら、インキへの浸透性溶剤の添加は、顔料分散状態の安定化に寄与する顔料分散樹脂の溶解状態を変化させ、それにより顔料分散性および保存安定性を著しく低下させる場合がある。そのため、インキ中に、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存しても、顔料分散性を悪化させない顔料分散樹脂との組み合わせが望まれている。
【0008】
様々な基材に対する画像形成を達成するために、これまで、独自の材料を探索及び開発することによって、水性インキの品質改善が進められている(特許文献4,5)。しかしながら、上記文献に開示された水性インキは、インキに含まれる溶剤の沸点が高く、基材への浸透性が低く、またその含有量が非常に多い。そのため、産業用印刷基材として主に使用されている難吸収性基材に対する、上記水性インキを用いた直接描画は実現できていない。
【0009】
一方、市販原料の組み合わせにより、難吸収性基材に対する直接描画を目指した例も存在する(特許文献6)。しかしながら、上記文献で開示された水性インキでは、使用するバインダー樹脂の熱変形温度を低下させる必要があることから、作製された印刷物の耐性が低く、実際の使用条件では採用が困難であることが推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭64−6074号公報
【特許文献2】特開昭64−31881号公報
【特許文献3】特開平3−210373号公報
【特許文献4】特開2003−55590号公報
【特許文献5】特開2007−91909号公報
【特許文献6】特開2013−230638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の状況に鑑み、本発明の実施形態は、分散安定性、保存安定性、及び乾燥性に優れ、さらに、発色性や画像品質に優れる印刷物を形成可能な水性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の実施形態は、少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、および、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを2種以上含有する水性インキ組成物であって、上記顔料分散樹脂が、炭素数10〜36のアルキル基を有し、上記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し10重量%以上30重量%以下であることを特徴とする、水性インキ組成物に関する。
【0013】
本発明の他の実施形態は、上記顔料分散樹脂が、酸価50〜400mgKOH/gであることを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0014】
本発明の他の実施形態は、上記アルキルポリオールが、アルカンジオールを含むことを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、上記アルキルポリオールが、アルカンジオールのみからなることを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、上記アルカンジオールのうち少なくとも1種が、炭素数5以上の1,2−アルカンジオールであり、上記炭素数5以上の1,2−アルカンジオールの含有量が、水性インキ組成物全量に対し10重量%よりも多く30重量%以下であることを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0017】
本発明の他の実施形態は、上記アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方を含み、その含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し15重量%以下であることを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上記アルカンジオールが、さらに1,2−ブタンジオールを含み、上記アルカンジオール含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し15重量%以上30重量%以下であることを特徴とする、上記水性インキ組成物に関する。
【0019】
本発明の他の実施形態は、上記アルカンジオールが、1,2−ブタンジオールを含み、かつ1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールを含まず、上記1,2−ブタンジオールの含有量が水性インキ組成物全量に対して10重量%以上であることを特徴とする、水性インキ組成物に関する。
【0020】
本発明の他の実施形態は、少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、および、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを2種以上含有する水性インキ組成物であって、上記アルキルポリオールが、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、エチレングリコール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ジブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールからなる群から選択され、上記顔料分散樹脂が、炭素数10〜36のアルキル基を有し、上記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対し10重量%以上30重量%以下であることを特徴とする、水性インキ組成物に関する。
【0021】
本発明の他の実施形態は、インクジェット用途である上記水性インキ組成物に関する。
【0022】
本発明の他の実施形態は、上記実施形態の水性インキ組成物が、基材上に印刷されてなる印刷物に関する。
本発明の開示は、2015年8月17日に出願された特願2015−160612号の主題に関し、この明細書の開示は全体的に参照のために本願明細書に組み込むものとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態によれば、分散安定性、保存安定性、乾燥性に優れる水性インキ組成物を提供することが可能となる。また、上記水性インキ組成物は、吸収層を有する専用用紙やコピー用紙のような紙基材に限定されることなく、産業用途の印刷物に一般的に使用されている難吸収性基材(コート紙、アート紙、及び塩化ビニルシートなど)への印刷にも好適に適用でき、優れた発色性や画像品質を有する印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一例である。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される変形例も含んでいる。
【0025】
本発明の実施形態は、少なくとも、水、顔料(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)、顔料分散樹脂、及び1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下である2種以上のアルキルポリオールを含有し、上記アルキルポリオールの含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対して10重量%以上30重量%以下の範囲であり、上記顔料分散樹脂が炭素数10〜36のアルキル基を有する、水性インキ組成物に関する。
本発明の実施形態では、上記水性インキ組成物における上記アルキルポリオールと上記顔料分散樹脂との特定の組合せによって、水性インキ組成物の低粘度化を実現することができ、また分散安定性、保存安定性、及び乾燥性を向上させることができる。一実施形態において、顔料分散樹脂は顔料と一緒に分散処理して得られる顔料分散体の形態で使用されることが好ましい。
さらに、上記水性インキ組成物は、吸収層を有する専用用紙やコピー用紙のような紙基材に限らず、産業用印刷物に一般的に使用されている難吸収性基材(コート紙、アート紙や塩化ビニルシートなど)に対する印刷にも好適に使用でき、発色性や画像品質に優れる印刷物を形成することができる。
【0026】
一般に、顔料分散樹脂を使用して顔料を分散させた水性インキ組成物に対して浸透性溶剤を添加した場合、上記顔料分散樹脂の溶解状態が変化し、顔料分散性および保存安定性が著しく低下する傾向がある。しかしながら、本発明の実施形態である水性インキ組成物では、顔料分散樹脂に存在するアルキル基の炭素数を10〜36とすることで、浸透性溶剤に対する相溶性を向上させることができる。その結果、水性インキ組成物の低粘度化に加えて、分散安定性及び粘度安定性の改善を実現することができる。さらに、上記特定の顔料分散樹脂の使用によって、水性インキ組成物に使用できる浸透性溶剤の選択の幅が広がり、その配合量を増やすこともできる。すなわち、難吸収性基材に対する濡れ性や浸透性、又は水性インキ組成物自体の乾燥性を向上させることができる。また、一般に、発色性や画像品質に優れた印刷物を得る観点から、水性インキ組成物は、高沸点であり、かつ水への溶解性が高い水溶性溶剤を含むことが好ましい。これに対し、本発明の実施形態である水性インキ組成物は、沸点が180℃以上250℃以下であるアルキルポリオールを含み、上記顔料分散樹脂によって、その配合量を高めることができる。
【0027】
本発明の実施形態である水性インキ組成物では、上記のように特定範囲の沸点を有するアルキルポリオールを2種類以上用いることを特徴とする。沸点、粘度、及び表面張力などの性質が異なるアルキルポリオールを任意に組み合わせることによって、基材に対する濡れ性、浸透性や乾燥性を容易に制御することができる。さらに、本発明者らは、2種以上のアルキルポリオールを併用することによって、画像品質向上のために必須である印刷安定性の改善が可能となることを見出した。詳細は不明であるが、化学構造の異なる2種以上のアルキルポリオールを混合することによって、例えば水素結合が不連続に形成されることで分子間力が生じ、その結果として、印刷に好適な動的粘弾性特性を有する水性インキ組成物が得られたと考えられる。
【0028】
以上のように、本発明の実施形態では、特定の顔料分散樹脂と、1気圧下での沸点が180℃以上250℃以下の2種以上のアルキルポリオールとの組合せによって、所望とする各種特性を有する水性インキ組成物を実現することができる。
【0029】
以下、本発明の実施形態である水性インキ組成物の構成成分について説明する。
【0030】
(顔料)
本発明の実施形態である水性インキ組成物は、色材として顔料を含む。顔料は、耐水性、耐光性、耐候性、及び耐ガス性等に優れる観点から、好ましく使用される。本発明で使用できる顔料は、公知の有機顔料、及び無機顔料の何れでもよい。但し、本発明で使用する顔料は、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを含まない。顔料の含有量は、水性インキ組成物の全量に対して、0.1重量%以上20重量%以下の範囲が好ましく、1重量%以上15重量%以下がより好ましい。顔料の含有量を0.1重量%以上に調整することによって、一度の印刷によって十分な発色性を容易に得ることができる。一方、顔料の含有量を20重量%以下に調整することによって、水性インキ組成物の粘度の上昇を抑制し、インクジェットヘッドからの吐出性を良好に維持し、印字安定性を長期にわたって容易に維持することができる。
【0031】
本発明で使用できるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、C.I.Vat Blue4、6等が挙げられる。なかでも、C.I.Pigment Blue15:3及び15:4が挙げられる。これらを単独で使用するか、又は2種以上を組合せて使用することが好ましい。
【0032】
本発明で使用できるマゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、185、238、242、254、255、266、269、C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、37、40、43、及び50等が挙げられる。なかでも、C.I.Pigment Red122、150、185、266、269及びC.I.Pigment Violet 19からなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0033】
本発明で使用できるイエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow10、11、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、及び213等が挙げられる。なかでも、C.I.Pigment Yellow13、14、74、150、及び185からなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0034】
本発明で使用できるブラックの顔料としては、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、及びアゾメチンアゾブラック等の有機顔料や、カーボンブラック、及び酸化鉄等の無機顔料が挙げられる。また、上記のイエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料などのカラー顔料を複数用いてブラックの顔料として使用することもできる。
【0035】
本発明で使用できる無機顔料は特に限定されない。上記カーボンブラック及び酸化鉄の他の例として、酸化チタン(ただし、有機化合物により顔料表面が処理された酸化チタンを除く)を挙げることができる。
【0036】
本発明で使用できるカーボンブラック顔料の一例として、ファーネス法、又はチャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。なかでも、上記カーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10重量%、pH値が2〜10である、等の各特性を有するものが好ましい。このような各特性を有するカーボンブラックは市販品として入手できる。
例えば、以下が挙げられ、何れも好ましく使用することができる。
No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学社製)、RAVEN1255(以上、コロンビアンカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(以上、キャボット社製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)等。
【0037】
本発明の実施形態において、顔料は上記に限定されるものではなく、例えば、オレンジ顔料や、グリーン顔料等の特色を使用することも可能である。また、複数の顔料を併用することもできる。さらに、他の実施形態では、本発明の実施形態である水性インキ組成物と、顔料を含まないクリアインクとを組み合わせ、インクセットとして使用することもできる。
【0038】
(顔料分散樹脂)
上記顔料を水性インキ組成物に適用させるためには、顔料が水中で安定的に分散し、保持できるようにする必要がある。顔料の分散には、周知の方法を適用することができる。例えば、分散樹脂にて分散する方法、又は、水溶性界面活性剤及び/又は水分散性界面活性剤等の界面活性剤にて分散する方法が挙げられる。他の例として、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的及び/又は物理的に導入し、分散剤や界面活性剤を使用すること無く、顔料を水中に分散及び/又は溶解可能とする方法が挙げられる。本発明の実施形態では、顔料分散樹脂によって分散する方法として、後述する特定の顔料分散樹脂を使用することを特徴としている。
【0039】
上記顔料分散樹脂によって顔料を分散する方法によれば、顔料分散樹脂のモノマー組成や分子量を選定、及び検討することにより、顔料に対する樹脂吸着能を容易に向上することができる。また、微細な顔料に対しても良好な分散安定性を付与することが可能となる。そのため、適切な分散樹脂を選択することによって、発色性に優れ、かつ色再現領域の拡大を実現できる水性インキ組成物を提供することが可能となる。
【0040】
これに対し、本発明の実施形態である水性インキ組成物では、炭素数10〜36のアルキル基を有する顔料分散樹脂を使用することを特徴としている。顔料分散樹脂は、分子内に炭素数10〜36のアルキル基を有していればよく、樹脂の種類は特に限定されない。顔料分散樹脂の具体例として、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、及びエステル樹脂等が挙げられる。なかでも、アクリル樹脂、及び/又はスチレンアクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0041】
アルキル基を有する各種樹脂を合成する方法として、例えば、基本となる樹脂骨格が有するカルボン酸などの官能基と、アルキル基を有するアルコールやアミン化合物との縮合反応による方法が挙げられる。アルキル基を有する各種樹脂を合成する他の例として、骨格となる樹脂の合成時に、アルキル基を有するモノマーを使用する方法が挙げられる。
【0042】
顔料分散樹脂におけるアルキル基は炭素数が10〜36の範囲の基であればよく、直鎖及び分岐のいずれの構造でも使用することができる。一実施形態において、上記アルキル基は、直鎖であることが好ましい。炭素数10〜36の直鎖のアルキル基の具体例として、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタノイル基(C32)、テトラトリアコンタノイル基(C34)、及びヘキサトリアコンタノイル基(C36)等が挙げられる。
【0043】
本発明では、顔料分散樹脂におけるアルキル基の炭素数を10〜36に調整することによって、水性インキ組成物の低粘度化と粘度安定性を実現することができる。アルキル基の炭素数が10以上である場合、粘度安定性の低下を抑制し、長期にわたって安定して水性インキ組成物を使用することが容易となる。また、アルキル基の炭素数が36以下である場合、水性インキ組成物の粘度の上昇を抑制し、水性インキ組成物をインクジェット用途で良好に使用することが可能となる。顔料分散樹脂におけるアルキル基は、好ましくは炭素数12〜30であり、より好ましくは炭素数18〜24である。
【0044】
また、一実施形態において、顔料分散樹脂はさらに芳香族基を有することが好ましい。顔料分散樹脂に芳香族基を導入することによって、顔料分散性を高め、分散安定性をさらに向上させることが可能となる。芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、及びアニシル基等が挙げられる。なかでも、分散安定性の点から、フェニル基、及び/又はトリル基が好ましい。
【0045】
一実施形態において、水への溶解度を上げるために、顔料分散樹脂は、樹脂中の酸基が塩基で中和されていることが好ましい。塩基として、例えば、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等の有機塩基、又は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等の無機塩基等を使用することができる。
【0046】
一実施形態において、顔料分散樹脂の酸価は50〜400mgKOH/gであることが好ましい。酸価が50mgKOH/g以上である場合、水に顔料分散樹脂を溶解することが容易となるため、顔料分散体の粘度上昇を抑制することができる。また、酸価が400mgKOH/g以下である場合、顔料分
散樹脂の間での相互作用が弱く、粘度上昇を抑制することが容易となる。顔料分散樹脂の酸価は、より好ましくは100〜350mgKOH/gであり、さらに好ましくは150〜300mgKOH/gである。
【0047】
一実施形態において、顔料分散樹脂の分子量に関しては、重量平均分子量が1,000以上100,000以下の範囲内であることが好ましく、5,000以上
80,000以下の範囲であることがより好ましい。上記重量平均分子量は、17,000以上
50,000以下の範囲がさらに好ましく、20,000以上50,000以下の範囲であることが特に好ましい。顔料分散樹脂の分子量を上記範囲内に調整することによって、顔料を水中で安定的に分散させることが容易となり、また水性インキ組成物に適する粘度に調整することが容易となる。特に、重量平均分子量を100,000以下に調整することによって、分散時の粘度上昇を容易に抑制できる。そのことにより、インクジェットヘッドからの吐出安定性の低下を抑制することができ、優れた印刷安定性を容易に得ることができる。
【0048】
本明細書において、顔料分散樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味し、常法によって測定することができる。例えば、TSKgelカラム(東ソー社製)、及びRI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)を使用し、また展開溶媒としてTHFを使用して測定したポリスチレン換算値を、重量平均分子量の値として用いることができる。
【0049】
一実施形態において、水性インキ組成物における顔料と顔料分散樹脂との重量比率(顔料/顔料分散樹脂)は、2/1〜100/1であることが好ましい。顔料に対する顔料分散樹脂の割合を上記範囲内にすることで所望とする改善効果を得ることが容易となる。具体的には、顔料に対する顔料分散樹脂の割合が2/1以下とすることで、顔料分散体の粘度上昇を抑制することが容易となる。また、上記割合を100/1以上とすることで、顔料分散性の低下、粘度上昇、及び分散等の安定性の低下を容易に抑制することができる。顔料と顔料分散樹脂との重量比率は、より好ましくは20/9〜50/1であり、より好ましくは5/2〜25/1であり、さらに好ましくは20/7〜20/1である。
【0050】
一実施形態において、顔料、及び顔料分散樹脂は、それらを分散処置して得られる顔料分散体の形態で使用されることが好ましい。顔料分散体の製造方法は、特に限定されるものではないが、一例として以下の方法が挙げられる。まず、顔料分散樹脂と水とを混合した水性媒体に顔料を添加して、混合攪拌を行う。次いで、得られた混合液に対して分散機を用いて分散処理を行うことによって、顔料分散体を得ることができる。この後、必要に応じて、遠心分離や濾過などの処理を行ってもよい。使用可能な分散機は、湿式分散機であればよく、何れの分散機であってもよい、なかでも、ビーズミルを用いることが好ましい。
【0051】
(アルキルポリオール)
本発明の実施形態である水性インキ組成物では特定範囲の沸点を有する2種以上のアルキルポリオールを使用することを特徴とする。本明細書で記載する「アルキルポリオール」とは、脂肪族又は脂環式のアルカン化合物において、分子中の水素原子を2個以上、水酸基で置換した化合物を意味する。上記化合物において、複数の水酸基が同一の炭素原子に結合していてもよい。上記アルキルポリオールは、浸透性が高く、かつ高沸点の水溶性溶剤として好適に使用することができる。
【0052】
本発明で使用するアルキルポリオールは、1気圧下での沸点が180℃以上250℃以下の範囲内であることが好ましく、沸点が180℃以上230℃以下の範囲内であることがより好ましい。沸点が上記範囲内であるアルキルポリオールを用いることにより、被記録媒体(基材)の種類に影響されることなく、基材に対する水性インキ組成物の濡れ性や浸透性、又は水性インキ組成物自体の乾燥性を容易に制御することが可能となる。これにより、インクジェットヘッドノズル上での保湿性を維持しつつ、様々な被印刷媒体に対して乾燥装置を大型化せずとも、定着性に優れた画像を直接描画によって作成することが可能となる。
【0053】
上記アルキルポリオールの1気圧下での沸点が180℃以上である場合、インクジェットヘッドノズルでの水性インキ組成物の乾燥が抑制され、ノズルでの目詰まりの発生を防止することが容易となる。また、上記アルキルポリオールの沸点が高すぎると、画像ムラが発生し、画像品質が著しく低下する場合がある。そのため、1気圧下での沸点が250℃以下であるアルキルポリオールを使用することで、画像ムラ、及び画像品質の低下を抑制することができる。
【0054】
なお、本明細書における1気圧下での沸点は、熱分析装置を用い測定することが可能である。
【0055】
一実施形態において、水性インキ組成物に含まれる上記2種以上のアルキルポリオールのうち、少なくとも1種が脂肪族アルカンジオール(以下、単に「アルカンジオール」ともいう)であることが好ましい。他の実施形態において、上記2種以上のアルキルポリオールの全てが、アルカンジオールのみから構成されることがより好ましい。産業用途の印刷物では、代表的に、コート紙やアート紙、またはポリ塩化ビニルシートなど疎水性の高い難浸透性基材が使用される。これに対し、上記実施形態によれば、そのような難浸透性基材上であっても水性インキ組成物の濡れ性を高めることができ、基材上でのドットセット性能を改善し、画像品質を向上させることが容易となる。
【0056】
また、一実施形態において、上記脂肪族アルカンジオールは、脂肪族の1,2−アルカンジオール(以下、単に「1,2−アルカンジオール」ともいう)であることが特に好ましい。理由は定かではないが、1,2−アルカンジオールでは、分子内において、疎水性を有する炭化水素基と、親水性を有する水酸基とが分かれて存在する。そのため、1,2−アルカンジオールが界面活性剤のように機能し、水性インキ組成物の動的/静的表面張力を低下させることによって、印刷物の画像品質の著しい改善が得られると考えられる。なお、上記1,2−アルカンジオールにおいて、主鎖を構成する炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。水性インキ組成物の動的表面張力の低下がより容易となる点から、直鎖の1,2−アルカンジオールを選択することが好ましい。
【0057】
1気圧下での沸点が180℃以上250℃以下のアルキルポリオールの具体例として以下が挙げられるが、これらに限定されない。
1,2−プロパンジオール(沸点188℃)、1,2−ブタンジオール(沸点194℃)、エチレングリコール(沸点196℃)、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(沸点197℃)、ジブチレングリコール(沸点202℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点210℃)、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(沸点214℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール(沸点226℃)、1,2−ヘプタンジオール(沸点227℃)、1,4−ブタンジオール(沸点230℃)、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール(沸点230℃)、1,2−シクロヘキサンジオール(沸点240〜245℃)、ジプロピレングリコール(沸点230℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点244℃)、1,3−シクロヘキサンジオール(沸点245〜250℃)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(沸点249℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、1,2−シクロペンタンジオール(沸点250℃) 、及び1,4−シクロヘキサンジオール(沸点250℃)。これらの2種以上を組合せて使用することができる。または、これらの1種と、他のアルキルポリオールとを組合せて使用することができる。
【0058】
一実施形態において、先に例示したなかでも、脂肪族アルカンジオールを選択することが好ましい。具体的に脂肪族アルカンジオールは、1,2−プロパンジオール(沸点188℃)、1,2−ブタンジオール(沸点194℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点210℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、及び1,2−ヘプタンジオール(沸点227℃)を含む。これらを単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。一実施形態において、上記脂肪族アルカンジオールのなかでも、1,2−アルカンジオールを選択することがより好ましい。1,2−アルカンジオールは、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、及び1,2−ヘプタンジオールを含む。
【0059】
本発明の実施形態である水性インキ組成物において、上記アルキルポリオールの合計含有量は、水性インキ組成物全量に対し10重量%以上30重量%以下の範囲であることを特徴とする。上記アルキルポリオールの含有量の下限値は、11重量%以上、13重量%以上、16重量%以上、及び20重量%よりも多いことが、この順に好ましい。一実施形態において、上記アルキルポリオールの含有量は、13重量%以上30重量%以下が好ましく、16重量%以上30重量%以下がより好ましく、21重量%以上30重量%以下がさらに好ましい。
【0060】
アルキルポリオールの合計含有量を10重量%以上とすることで、インクジェットヘッドノズル上での保湿性を維持することが容易となる。そのことにより、ノズル目詰まりを抑制し、印刷安定性を向上させるとともに、インクジェットヘッドの破損を防止することができる。特に、アルキルポリオールの合計含有量を20重量%よりも多くした場合、ノズル目詰まりを抑制する一方で、印刷基材への濡れ性を向上させることが可能となり、優れた印刷安定性と優れた画像品質とを両立することが可能となる。また、アルキルポリオールの合計含有量を30重量%以下とした場合、水性インキ組成物の乾燥性が向上し、画像の濃淡ムラや細線滲みが抑制されることにより、画像品質を向上することが容易となる。
【0061】
本発明の好ましい一実施形態において、上記アルカンジオールのうち少なくとも1種は、炭素数5以上の1,2−アルカンジオールであり、その含有量が、水性インキ組成物全量に対し10重量%よりも多く30重量%以下であることが好ましい。このような実施形態によれば、良好な画質の印刷物を容易に得ることができる。一実施形態において、上記含有量は、11重量%以上29重量%以下がより好ましく、13重量%以上25重量%以下がさらに好ましい。
【0062】
特に限定するものではないが、好ましい実施形態において、上記アルカンジオールは、炭素数5以上の1,2−アルカンジオールとして、1,2−ヘキサンジオールを含み、その含有量は水性インキ組成物全量に対し9重量%以上29重量%以下である。一実施形態において、上記含有量は、12重量%以上25重量%以下が好ましく、13重量%以上20重量
%以下がより好ましく、15重量%以上20重量
%以下がさらに好ましい。この実施形態によれば、様々な基材に対する水性インキ組成物の濡れ性が良好となり、またドット滲み、及び乾燥性に優れ、かつ分散安定性に優れた水性インキ組成物を得ることができる。
【0063】
本発明の好ましい他の実施形態において、上記アルカンジオールは、1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方を含み、その含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対して15重量%以下であることが好ましい。一実施形態において上記含有量は、0.1重量%以上、0.5重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上であることが、この順に好ましい。一方、上記含有量は、13重量%以下、10重量%以下、6重量%以下であることが、この順に好ましい。この実施形態によれば、高速印刷時における、ノズル目詰まり防止と画像品質向上とを容易に両立することができる。
【0064】
また、本発明の他の実施形態において、上記アルカンジオールは、1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方に加えて、1,2−ブタンジオールをさらに含むことが好ましい。これらの合計含有量は、水性インキ組成物全量に対し15重量%以上30重量%以下であることが好ましい。上記合計含有量は、16重量%以上26重量%以下であることがより好ましく、20重量%以上26重量%以下であることがさらに好ましい。この実施形態によれば、水性インキ組成物の乾燥性が向上し、高速印刷時であっても画像品質に優れた印刷物を容易に得られる。
【0065】
さらに、本発明の他の実施形態において、上記アルカンジオールは、1,2−ブタンジオールを含み、かつ1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールを含まず、上記1,2−ブタンジオールの含有量が水性インキ組成物全量に対して10重量%以上であることが好ましい。上記含有量は、15重量%以上、18重量%以上、20重量%以上であることが、この順に好ましく、30重量%未満である。
このような実施形態において、上記
アルキルポリオールは、1,2−ブタンジオールと、1,2−プロパンジオール及び/又はジプロピレングリコールとを含んでよい。上記
アルキルポリオールは、1,2−ブタンジオールと、ジプロピレングリコールとを含むことがより好ましい。一実施形態において、1,2−プロパンジオール及び/又はジプロピレングリコールの含有量の合計は、0.5重量%以上5重量%以下が好ましく、0.7重量%以上4重量%以下がより好ましく、1重量%以上3重量%以下がさらに好ましい。一方、上記1,2−ブタンジオールの含有量は、15重量%以上29重量%以下が好ましく、18重量%以上28重量%以下がより好ましく、20重量%以上27重量%以下がさらに好ましい。このような実施形態によれば、デキャップ性及び乾燥性の双方において良好な結果を得ることが容易である。
【0066】
一実施形態において、水性インキ組成物は、水性インキ組成物の保湿性や基材への浸透性を調整するために、上記
アルキルポリオール以外の有機溶剤を含んでもよい。上記
アルキルポリオールと併用することができる有機溶剤として、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノン、γ−ブチロラクトン、及びε−カプロラクトン等の複素環化合物が挙げられる。これらの溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0067】
(バインダー樹脂)
一実施形態において、本発明の水性インキ組成物は、バインダー樹脂を含むことが好ましい。水性インキ組成物のバインダー樹脂として、水溶性樹脂、及び樹脂微粒子(エマルジョン)が知られている。一般に、樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量である。また、樹脂微粒子は、インキ粘度を低くすることができるため、より多量の樹脂微粒子を水性インキ組成物中に配合することができる。これらのことから、印刷物の耐性を高めるために、樹脂微粒子を好適に使用することができる。樹脂微粒子として使用される樹脂の種類としては、アクリル系、スチレンアクリル系、ウレタン系、スチレンブタジエン系、塩化ビニル系、及びポリオレフィン系等が挙げられる。なかでも、水性インキ組成物の安定性、及び印刷物の耐性の観点から、アクリル系、及び/又はスチレンアクリル系の樹脂微粒子が好ましく使用される。
【0068】
一方、水性インキ組成物中のバインダー樹脂が樹脂微粒子である場合、水が揮発した際に分散状態であった樹脂微粒子が凝集し、成膜し始めることにより、インクジェットヘッドノズルでの目詰まりが発生し、印刷安定性が低下することがある。これに対し、樹脂微粒子のモノマー組成をコントロールして、ガラス転移点(Tg)を80℃以上にすることによって、水が揮発した際の凝集は、ある程度軽減される。しかし、水性インキ組成物中に添加されている溶剤が樹脂微粒子の最低造膜温度(MFT)を低下させるため、上記方法では完全解決には至らない。
【0069】
これらの背景から、インクジェットプリンターのメンテナンス性能を考慮すると、本発明の一実施形態において、バインダー樹脂は水溶性樹脂であることがより好ましい。水溶性樹脂は、重量平均分子量が10,000以上50,000以下の範囲内であることが好ましく、20,000以上40,000以下の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が10,000以上である場合、印刷物の塗膜耐性を高めることが容易である点で好ましい。一方、重量平均分子量が50,000以下である場合、インクジェットヘッドからの吐出安定性の低下を抑制し、良好な印刷安定性を容易に維持することができる。
【0070】
また、バインダー樹脂として水溶性樹脂を選択する場合、水溶性樹脂の酸価が重要となる。一実施形態において、水溶性樹脂の酸価は10〜80mgKOH/gであることが好ましく、20〜50mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が10mgKOH/g以上の場合、水性インキ組成物が固化した後でも、再度溶解することが可能である。そのため、インクジェットヘッドノズル上での目詰まりの発生を抑制し、良好な印刷安定性を維持することができる。一方、酸価が80mgKOH/g以下の場合、印刷物の塗膜の耐水性の低下を抑制することが容易となる。
【0071】
一実施形態において、水性インキ組成物中におけるバインダー樹脂の含有量は、固形分換算で水性インキ組成物の全質量の2重量%以上、10重量%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは3重量%以上、8重量%以下の範囲であり、特に好ましくは3重量%以上、6重量%以下の範囲である。
本発明で使用可能なバインダー樹脂は市販品として入手することもできる。例えば、BASFジャパン株式会社製の商品名「JONCRYL537」(スチレンアクリルエマルジョン、ガラス転移温度(Tg)44℃、固形分46%。重量平均分子量200,000以上)、及び商品名「JONCRYL538」(スチレンアクリルエマルジョン、Tg64℃、固形分46%。重量平均分子量200,000以上)が挙げられる。同様に、BASFジャパン株式会社製の商品名「JONCRYL586」(スチレンアクリル水溶性樹脂、重量平均分子量4,600、酸価108mgKOH/g)、「JONCRYL690」(スチレンアクリル水溶性樹脂、重量平均分子量16,500、酸価240mgKOH/g)、「JONCRYL819」(スチレンアクリル水溶性樹脂、重量平均分子量14,500、酸価75mgKOH/g)が挙げられる。さらに、日本合成化学株式会社製の商品名「モビニール880」(スチレンアクリルエマルジョン、Tg3℃、固形分47%)、及び商品名「モビニール972」(スチレンアクリルエマルジョン、Tg101℃、固形分50%)が挙げられる。
【0072】
(界面活性剤)
一実施形態において、水性インキ組成物は、表面張力を調整し印刷基材上での水性インキ組成物の濡れ性を確保する目的で、界面活性剤を含むことがより好ましい。一般に、界面活性剤は、顔料の分散安定性を低下させることが知られている。しかし、本発明の実施形態によれば、水性インキ組成物が特定の顔料分散樹脂を含むことによって、顔料の分散安定性に影響を与えることなく、種々の界面活性剤を好適に選択し、使用することができる。
【0073】
界面活性剤の一例として、アセチレン系、シリコン系、アクリル系、及びフッ素系などが知られており、これらは用途に合わせて適切に選択される。水性インキ組成物の表面張力を十分に低下する観点からは、シリコン系、またはフッ素系の界面活性剤を使用することが好ましい。
【0074】
上記シリコン系の界面活性剤に関しては、機能付与のために様々な構造を有する界面活性剤が各社から販売されている。一実施形態において、水性インキ組成物に対し、印刷基材への濡れ性や浸透性を付与する観点から、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物を使用することが好ましい。より好ましくは、一般式(2)又は一般式(3)で表される化合物であり、さらに好ましくは一般式(2)で表される化合物である。一実施形態において、界面活性剤の添加量は、インキ組成物の全体量に対して、固形分換算で0.1重量%以上5.0重量%以下が好ましく、0.5重量%以上3.0重量%以下がさらに好ましい。
【0075】
【化1】
【0076】
一般式(1)において、aは1〜500の整数であり、bは0〜10の整数である。
R
1は、アルキル基、またはアリール基である。
R
2は、下記置換基(A)、(B)、(C)、及び(D)からなる群から選択されるいずれかの置換基である。R
2の少なくとも1つは置換基(A)を含む。
【0077】
【化2】
【0078】
上式において、cは1〜20の整数であり、
dは0〜50の整数であり、及び
eは0〜50の整数である。
R
3は水素原子またはアルキル基を示し、
R
4は、水素原子、アルキル基、及びアシル基のいずれかである。
【0079】
【化3】
【0080】
上式において、fは、2〜20の整数である。
R
5は、水素原子、アルキル基、アシル基、及びジメチルプロピル骨格を有するエーテル基のいずれかである。
【0081】
【化4】
【0082】
上式において、gは2〜6の整数であり、
hは0〜20の整数であり、
iは1〜50の整数であり、
jは0〜10の整数であり、
kは0〜10の整数である。
R
6は、水素原子、アルキル基、及びアシル基のいずれかである。
【0083】
置換基(D)
アルキル基、またはアリール基である。
【0084】
一般式(1)で表される化合物の市販品の例として、エボニックデグサ社製のTegotwin4000、及びTegotwin4100等が挙げられる。
【0085】
【化5】
【0086】
一般式(2)において、lは10〜80の整数を示す。
R
7は下記置換基(E)で示される。
【0087】
【化6】
【0088】
上式において、mは1〜6の整数、
nは0〜50の整数、
oは0〜50の整数であり、
n+oは1以上の整数で示される。
R
8は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、または(メタ)アクリル基である。
【0089】
一般式(2)で表される化合物の市販品の例としては、東レ・ダウコーニング社製のBY16−201、及びSF8427、ビックケミー社製のBYK−331、BYK−333、及びBYK−UV3500が挙げられる。また、エボニックデグサ社製のTegoglide410、Tegoglide432、Tegoglide435、Tegoglide440、及びTegoglide450等が挙げられる。
【0090】
【化7】
【0091】
一般式(3)において、pおよびqは1以上の整数であり、
p+qは3〜50の整数で示される。
R
9は下記の置換基(F)で示され、
R
10は炭素数1〜6のアルキル基で示される。
【0092】
【化8】
【0093】
上式において、rは1〜6の整数、
sは0〜50の整数、
tは0〜50の整数であり、
s+tは1以上の整数で示される。
R
11は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、または(メタ)アクリル基である。
【0094】
一般式(3)で表される化合物の市販品の例としては、東レ・ダウコーニング社製のSF8428、FZ−2162、8032ADDITIVE、SH3749、FZ−77、L−7001、L−7002、FZ−2104、FZ−2110、F−2123、SH8400、及びSH3773Mが挙げられる。ビックケミー社製のBYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、及びBYK−349が挙げられる。エボニックデグサ社製のTegowet250、Tegowet260、Tegowet270、及びTegowet280が挙げられる。信越化学工業社製のKF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF355A、KF−615A、KF−640、KF−642、及びKF−643等が挙げられる。また、日信化学工業社製のシルフェイス503Aが挙げられる。
【0095】
印刷基材上の水性インク組成物が蒸発する過程において、印刷基材上での水性インク組成物の濡れ性を制御し、さらに印刷物の品質を向上させるためには、界面活性剤の分子量も重要である。一実施形態において、界面活性剤の分子量は、重量平均分子量で1,000以上7,000以下であることが好ましく、1,500以上5,000以下の範囲内であることがより好ましい。上記重量平均分子量が1,000以上の場合、印刷基材に対する濡れ性を制御する効果を容易に得ることができる。また、上記重量平均分子量が7,000以下である場合、基材に対する濡れ性の改善とともに、水性インク組成物の良好な保存安定性を容易に得ることができる。
【0096】
(その他の材料)
一実施形態において、水性インキ組成物における水の含有量は、水性インキ組成物の全重量に対して20〜80重量%が好ましく、25〜75重量%の範囲であることがより好ましい。
【0097】
一実施形態において、水性インキ組成物は、必要に応じて、消泡剤、増粘剤、及び防腐剤等の各種添加物を含んでもよい。水性インキ組成物に各種添加剤を加えることにより、インクジェット用インキとしてより好適に用いることができる。
【0098】
(印刷方式)
一般に、インクジェットによる印刷方式は、スキャン方式と、ワンパス方式に大別される。上記スキャン方式は、記録媒体(基体)の搬送方向と直交する方向にインクジェットヘッドを複数回走査させながら印刷を行う方式である。一方、ワンパス方式は、停止している記録媒体(基体)に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させるか、又は固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させることによって印刷を行う方式である。本発明の水性インキ組成物をインクジェット用インキとして用いる場合、上記のいずれの方式による印刷にも適用することができる。一実施形態において、アルカンジオールとして、炭素数5以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも1種を含み、その含有量が、水性インキ組成物全量に対して10重量%以上30重量%以下である水性インキ組成物は、スキャン方式による印刷に好適に使用することができる。また、一実施形態において、アルカンジオールとして、1,2−ペンタンジオール及び/又は1,2−ヘキサンジオールの少なくとも一方を含み、その含有量の合計が、水性インキ組成物全量に対して15重量%以下である水性インキ組成物は、ワンパス方式による印刷に好適に使用することができる。上記実施形態において、アルカンジオールは、少なくとも1,2−ヘキサンジオールを含むことがより好ましい。また、上記実施形態において、アルカンジオールは、さらに、1,2−ブタンジオールを含むことが好ましい。これらの実施形態において、1,2−ペンタンジオール及び/又は1,2−ヘキサンジオールと、1,2−ブタンジオールとの合計含有量は、水性インキ組成物全量に対して、15重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0099】
(基材)
本発明の実施形態である水性インキ組成物を印刷する基材は特に限定されない。基材の例として、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、及び合成紙などの紙基材、ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発泡スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びPETなどのプラスチック基材、ステンレスなどの金属基材、ガラス、木材等が挙げられる。上記のとおり、本発明の実施形態である水性インキ組成物は、吸収層を有する専用用紙やコピー用紙のような紙基材だけでなく、産業用印刷物に一般的に使用されている、コート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの難吸収性基材に対しても好適に使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」「%」及び「比率」とあるものは特に断らない限り、重量基準を意味する。
1.各成分の調製
1A.顔料分散樹脂の調製
【0101】
(顔料分散樹脂1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、重合性単量体であるラウリルメタクリレート95部、アクリル酸5部、および開始剤であるV−601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、不揮発分が50%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分50%の水性化溶液を得た。得られた顔料分散樹脂1の酸価は39、また重量平均分子量は25,000であった。
【0102】
なお、顔料分散樹脂の酸価は、顔料分散樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を意味する。上記酸価の測定は、得られた分散樹脂をエタノール/トルエン混合溶媒中に溶解させた溶液に対し、KOH溶液を滴定することによって実施した。測定には、京都電子工業株式会社製の「電位差自動滴定装置AT−610」を使用した。
顔料分散樹脂の重量平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8129GPC)にて、展開溶媒THFを用いて測定した、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0103】
(顔料分散樹脂2〜22)
表1に記載した材料を使用した以外は、顔料分散樹脂1と同様の方法で、顔料分散樹脂2〜22の不揮発分50%の水性化溶液を調製した。表1に記載した開始剤V−601の量は、重合性単量体と同時に添加したV−601の配合量を表す。
【0104】
【表1】
【0105】
1B.顔料分散体の調製
【0106】
顔料分散体の調製で使用した顔料は、以下の通りである。
シアン顔料:
・LIONOGEN BLUE 7351(トーヨーカラー株式会社製)
マゼンタ顔料:
・FASTOGEN SUPER MAGENTA RG(DIC社製)
・CINQUASIA PINK D 4450(BASF社製)
・トーシキレッド150TR(東京色材工業株式会社製)
イエロー顔料:
・FAST YELLOW 7416(山陽色素株式会社)
・LIONOGEN YELLOW ID250(トーヨーカラー株式会社製)
・PALIOTOL YELLOW D 1155(BASF社製)
ブラック顔料(カーボンブラック):
・PRINTEX 85(オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製)
【0107】
(シアン水性顔料分散体1及び2〜22)
顔料としてLIONOGEN BLUE 7351を20部、先に調製した顔料分散樹脂1の水性化溶液を12部、水68部をディスパーに入れた。これらを予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて、2時間にわたって本分散を行い、シアン水性顔料分散体1を得た。このとき、顔料と顔料分散樹脂の不揮発分(固形分)との比率は、顔料/顔料分散樹脂(固形分)=10/3であった。
また、顔料分散樹脂1を顔料分散樹脂2〜22に変えた以外は、上記シアン水性顔料分散体1と同様の方法にしたがって、シアン水性顔料分散体2〜22を得た。
【0108】
(マゼンタ水性顔料分散体1〜3)
顔料をFASTOGEN SUPER MAGENTA RG、CINQUASIA PINK D 4450、トーシキレッド150TRのいずれか20部に変え、顔料分散樹脂として顔料分散樹脂8を使用した以外は、シアン水性顔料分散体1と同様の方法にしたがって、マゼンタ水性顔料分散体1〜3を得た。
【0109】
(イエロー水性顔料分散体1〜3)
顔料をFAST YELLOW 7416、LIONOGEN YELLOW ID250、PALIOTOL YELLOW D 1155のいずれか20部に変え、顔料分散樹脂として
顔料分散樹脂8を使用した以外は、シアン水性顔料分散体1と同様の方法にしたがって、イエロー水性顔料分散体1〜3を得た。
【0110】
(ブラック水性顔料分散体)
顔料をPRINTEX 85の20部に変え、
顔料分散樹脂として
顔料分散樹脂8を使用した以外は、シアン水性顔料分散体1と同様の方法にしたがって、ブラック水性顔料分散体を得た。
【0111】
1C.水溶性樹脂ワニスの調製
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、JONCRYL819を20部と、ジメチルアミノエタノール2.38部と、水77.62部とを添加することによって、アクリル酸を100%中和し、水溶化した。得られた溶液1gをサンプリングして、180℃で20分にわたって加熱乾燥を行い、不揮発分を測定した。次いで、水を加えて、水溶性樹脂ワニスの不揮発分が20%になるように調整した。このようにして、不揮発分20%の水溶性樹脂ワニスを得た。
【0112】
2.水性インキ組成物の調製
(実施例1)
シアン水性顔料分散体
1を20部、定着(バインダー)樹脂としてJONCRYL538を13部、1,2−プロパンジオールを5部、2−メチル−1,3−プロパンジオールを5部、及び水を57部、それぞれ秤量した。これらをディスパーで撹拌しながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで撹拌した。その後、得られた混合液をメンブランフィルターで濾過し、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去することによって、水性インキ組成物を得た。この水性インキ組成物の粘度は5mPa・sであった。
【0113】
(実施例2〜64、比較例1〜14)
表2〜5に記載した顔料分散体、定着樹脂、溶剤、及び界面活性剤の配合に従い、実施例1と同様の方法によって、水性インキ組成物を調製した。得られた水性インキ組成物について、それぞれ評価を行った。なお、各水性インキ組成物の調製において、水性インキ組成物の粘度が5mPa・sになるように、定着樹脂及び水の添加量をそれぞれ調整した。
【0114】
表2〜5に記載した略語は、以下の通りである。
(顔料分散体)
シアン1:先に調製したシアン顔料分散体1に対応する。その他についても同様に、先に調製した各種顔料分散体に対応する。
(バインダー樹脂)
A:樹脂微粒子「JONCRYL538」:BASFジャパン株式会社製のスチレンアクリル樹脂エマルジョン、ガラス転移温度(Tg)64℃、固形分46%、及び重量平均分子量200,000以上である。
B:水溶性樹脂ワニス「JONCRYL819」:BASFジャパン株式会社製のスチレンアクリル水溶性樹脂、重量平均分子量14,500、及び酸価75mgKOH/gである。
【0115】
(溶剤)
・1,2−PD:1,2−プロパンジオール
・1,2−BD:1,2−ブタンジオール
・1,3−BD:1,3−ブタンジオール
・1,2−PenD:1,2−ペンタンジオール
・1,5−PenD:1,5−ペンタンジオール
・1,2−HexD:1,2−ヘキサンジオール
・2−メチル−1,3−PD:2−メチル−1,3−プロパンジオール
・2−エチル−1,3−HexD:2−エチル−1,3−ヘキサンジオール
・1,2−CHD:1,2−シクロヘキサンジオール
・1,3−CHD:1,3−シクロヘキサンジオール
・DPG:ジプロピレングリコール
【0116】
(界面活性剤)
・A:BYK333:ビックケミー社製シリコン系界面活性剤、一般式(2)で表される化合物。
・B:TegoWet280:エボニックデグサ社製のシリコン系界面活性剤、一般式(3)で表される化合物。
・C:シルフェイス503A:日信化学工業社製のシリコン系界面活性剤、一般式(3)で表される化合物。
【0117】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0118】
3.水性インキ組成物の評価
実施例1〜64、及び比較例1〜14で得た水性インキ組成物(以下、インキとも称す)を使用して、以下に関する評価を行った。
【0119】
(発色性試験)
実施例1〜64、及び比較例1〜14で得た水性インキ組成物を、25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンター(武藤工業社製インクジェットプリンターVJ−1608HSJ)に充填し、下記基材をそれぞれ50℃に加温しながら、印字率100%のベタ印刷を実施した。得られた印字率100%の印刷物について、白抜け度合の目視確認と、測色機(X−rite社製 eye−one pro)による濃度(OD値)測定を行った。測定条件は以下のとおりである。観測光源:D50、観測視野:2°、濃度:ANSI T、白色基準:Abs、測定モード:Reflectance。
評価基材
・ポリ塩化ビニル(PVC)シート:メタマーク社製MD−5
・普通紙:日本製紙社製NPI上質紙(米坪81.4g/m
2)
・布基材:デュポン社製TYVEK1082D
・コート紙:王子製紙製OKトップコート+(米坪104.7g/m
2)
得られた各測定値から以下の評価基準にしたがって発色性を評価した。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0120】
(評価基準)
5:基材に関わらずインキが十分に広がり目視で白抜けがない。また印字率100%の印刷物の基材間の濃度(OD)値差が±0.3以内である。
4:基材に関わらずインキが十分に広がり目視で白抜けがない。また印字率100%の印刷物の基材間の濃度(OD)値差が±0.5以内である。
3:基材に関わらずインキが十分に広がり目視で白抜けがない。また印字率100%の印刷物の基材間の濃度(OD)値差が±1.0以下である。
2:基材によってインキの広がりが異なり、白抜けが存在する基材も存在。また印字率100%の印刷物の基材間の濃度(OD)値差が±1.0以上である。
1:基材によってインキの広がりが異なり、白抜けが存在。また印字率100%の印刷物の基材間の濃度(OD)値差が±1.0以上である。
【0121】
(インキの粘度安定性)
E型粘度計(東機産業社製TVE−20L)を用い、25℃、回転数50rpmという条件で各インキの粘度測定を行った。続いて、インキを70℃の恒温器に保存し、経時促進させた後、経時後のインキの粘度を測定することで、経時前後でのインキの粘度変化を評価した。評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0122】
(評価基準)
5:六週間保存後の粘度変化率が±10%未満
4:四週間保存後の粘度変化率が±10%未満
3:二週間保存後の粘度変化率が±10%未満
2:一週間保存後の粘度変化率が±10%未満
1:一週間保存後の粘度変化率が±10%以上
【0123】
(インキの分散安定性)
各インキをイオン交換水で200倍に希釈した後、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて、インキにおける顔料の分散粒子径を測定した。続いて、インキを70℃の恒温器に保存し、経時促進させた後、経時後のインキの分散粒子径を測定した。これらの結果から、経時前後でのインキの分散粒子径の変化率を求め、その値から分散安定性を評価した。なお、上記評価は、平均粒子径(D50値)について実施し、評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0124】
(評価基準)
5:六週間保存後の平均粒子径変化率が±50nm未満
4:四週間保存後の平均粒子径変化率が±50nm未満
3:二週間保存後の平均粒子径変化率が±50nm未満
2:一週間保存後の平均粒子径変化率が±50nm未満
1:一週間保存後の平均粒子径変化率が±50nm以上
【0125】
(ドット形成)
各インキをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに詰めて、コート紙および上質紙に対し、印字率30%ベタ印刷を実施した。上記コート紙には、王子製紙製のOKトップコート+(米坪104.7g/m
2)を使用した。また、上記上質紙には、日本製紙製のNPI上質紙(米坪81.4g/m
2)を使用した。
次に、印刷した各サンプルの印刷面をルーペで観察し、ドット同士のつながりや滲み等、ドット形成について評価した。評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0126】
(評価基準)
5:印刷基材に関係なくドット同士のつながりがなく、滲み発生なし。
4:印刷基材によってはドット同士のつながりが僅かに発生。滲みは発生なし。
3:印刷基材に関係なくドット同士のつながりが僅かに発生。滲みは発生なし。
2:印刷基材に関係なくドット同士のつながりが僅かに発生。若干滲みあり。
1:印刷基材に関係なくドット同士がつながっており、滲みも発生。
【0127】
(乾燥性評価I)
シャトルプリンターである、武藤工業社製インクジェットプリンターVJ−1608HSJにて印刷パス数を変化させ、PVCシート(メタマーク社製MD−5)に印字率100%のベタ印刷を行った。それぞれの印刷物のモットリング(むら)発生状況を目視で観察し、乾燥性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0128】
(評価基準)
5:印刷パス数を4パスとして印刷した時にモットリングが発生しない。
4:印刷パス数を8パスとして印刷した時にモットリングが発生しない。
3:印刷パス数を16パスとして印刷した時にモットリングが発生しない。
2:印刷パス数を32パスとして印刷した時にモットリングが発生しない。
1:印刷パス数を32パスとして印刷したときでもモットリングが発生する。
【0129】
(乾燥性評価II)
固定ヘッド搭載プリンターである、キャノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製のインクジェットプリンターOce Monostream 500を用い、マットコート紙(三菱DFカラーマットM、米坪104.7g/m
2)に印字率100%にて1パスベタ印刷を行った。印刷速度を変更した際のモットリング(むら)発生の状況を目視で観察することにより、乾燥性の評価を行った。
評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0130】
(評価基準)
5:印刷速度80m/分で印刷した際にモットリングが発生しない。
4:印刷速度70m/分で印刷した際にモットリングが発生しない。
3:印刷速度60m/分で印刷した際にモットリングが発生しない。
2:印刷速度50m/分で印刷した際にモットリングが発生しない。
1:印刷速度50m/分で印刷したときでもモットリングが発生する。
【0131】
(デキャップ性評価)
キャノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製のインクジェットプリンターOce Monostream 500を使用し、一定距離の非印刷部を設けた後に、続けてノズルチェックパターンを印刷する画像データを用い1パス印刷を行った。非印刷部の長さを変えた際のノズルチェックパターンにおける不吐出部の有無を目視にて確認することにより、デキャップ性を評価した。評価基準は以下の通りである。実用可能なレベルは、評価値2以上である。
【0132】
(評価基準)
5:非印刷部間隔が100cm以上でも、不吐出部が発生しない。
4:非印刷部間隔が70cm以上100cm未満で、不吐出部が発生する。
3:非印刷部間隔が50cm以上70cm未満で、不吐出部が発生する。
2:非印刷部間隔が30cm以上50cm未満で、不吐出部が発生する。
1:非印刷部間隔が30cm未満でも、不吐出部が発生する。
【0133】
以上のようにして評価した実施例1〜64のインキ組成物に対する結果を表6及び表7に示す。また、比較例1〜14のインキ組成物に対する結果を表8に示す。
【0134】
実施例1〜64は、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下の2種以上のアルキルポリオール添加量を10重量%以上30重量%以下に制御し、かつ炭素数10以上36以下のアルキル基を有する顔料分散樹脂を使用する実施形態のインキに関する。表6及び7に示した結果から分かるように、本発明の実施形態であるインキ、全ての評価において、実用可能なレベルを達成することができる。
【0135】
具体的に、実施例1〜5、8では、後述する比較例との比較において、粘度、及び分散安定性を維持しつつ、発色性、ドット形成、及び乾燥性が向上していることが分かる。実施例5及び8は、実施例1〜4で使用した定着樹脂を樹脂微粒子から水溶性樹脂ワニスに変更した実施形態に関する。これらの対比によれば、全ての評価において大幅な変化は見られなかった。しかしながら、水溶性樹脂ワニスを使用した場合、インクジェットプリンターによる印刷を安定的に実施することができ、評価のバラツキが少ない傾向がある。このような観点から、実施例5以降の実施例ではバインダー樹脂として水溶性樹脂ワニスを使用している。すなわち、実施例5以降の実施例の実施形態は、バインダー樹脂の限定を意図するものではなく、樹脂微粒子を使用した実施形態においても同様の結果が得られることを理解されたい。
【0136】
実施例6、7、及び9〜12は、顔料分散樹脂が炭素数10〜36のアルキル基を有し、かつ分散樹脂の酸価が50〜400mgKOH/gである実施形態のインキを使用している。このような実施形態によれば、インキの粘度、及び分散安定性をさらに改善できることが分かる。特に、分散樹脂酸価が150〜300mgKOH/gである実施例2、5、7、及び8のインキについては、各評価において、より優れた結果が得られた。なかでも、顔料分散樹脂の原料モノマーにスチレンを含む実施例7、及び8では、特に良好な結果が得られた。
【0137】
実施例13〜21は、顔料分散樹脂の重量平均分子量の点で互いに相違するインキを使用している。実施例12で使用した顔料分散樹脂8を基準処方とし、異なる重量平均分子量の顔料分散樹脂を用いた実施例17〜21では、重量平均分子量が大きくなるに従い、インキ粘度安定性、及び保存安定性が向上している。一方、印刷適性として重要であるデキャップ性は、悪化する傾向があることが分かる。顔料分散樹脂の重量平均分子量が大きくなると、顔料に対する吸着能力が向上し、分散安定性は向上する。その一方、顔料分散樹脂の重量平均分子量が大きくなると、インクジェットヘッドノズルにおいて水が揮発した際に、インキ粘度の急激な上昇が起こりやすく、インクジェットヘッドからの吐出が難しくなる。これらのことから、非印字部が多い印刷データを用いた場合、不吐出部が多くなるため、デキャップ性が低下したと考えられる。上記実施例の結果から、顔料分散樹脂の重量平均分子量は、20,000〜80,000程度が好ましいことがわかる。
【0138】
実施例22〜29は、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下の2種以上のアルキルポリオールとして、少なくとも一部にアルカンジオールを用いた実施形態のインキを使用している。この実施形態では、シャトルプリンター、高速印刷用の1Passプリンターのいずれにおいても、乾燥性評価が良好であった。特に、1,2−アルカンジオールを用いた実施例22、24、及び26では、より優れた結果となった。これは、アルカンジオールが他のアルキルポリオールと比較して、1気圧下での沸点が低く、揮発し易いことに起因していると考えられる。実際に、実施例22、24、及び26のインキで使用したアルカンジオールは、200℃を超える高沸点の溶媒を使用しているものの、いずれも乾燥性が良好な結果となっている。
特に、実施例24、及び26では、炭素数5以上の1,2−アルカンジオールを10重量%以上含む実施形態のインキを使用している。この実施形態によれば、印刷基材への濡れ性や浸透性が向上し、また乾燥性がさらに向上している。なお、実施例29の結果を参照すると、顔料分散体に使用する顔料の種類を変更した場合でも、上記傾向は変わらないことが明らかである。
【0139】
実施例29〜47は、1気圧下で沸点が180℃以上250℃以下の2種以上のアルキルポリオールがアルカンジオールのみからなり、その添加量が10重量%以上30重量%以下である実施形態のインキを使用している。このような実施形態によれば、主に広告看板などの作製時に使用される、シャトルプリンターによる印刷において、PVCシート上での印刷物の品質改善が可能となる。また、このような実施形態によれば、PVCシート上でのインキ乾燥速度と、印刷基材への濡れ性、及び浸透性とを良好にコントロールすることができるため、シャトルプリンターでの評価において、良好な評価が得られたと考えられる。
【0140】
なかでも、実施例32〜39、及び41〜47は、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールが10重量%よりも多く、30重量%以下である実施形態のインキを使用している。このような実施形態によれば、インキにおける溶剤の添加量が少ない場合であっても、塩化ビニル基材への濡れ性を改善できることがわかる。また、高沸点の溶剤が使用されることによって、インクジェットヘッドノズル上でのインキ粘度の急激な増粘が防止されることによって、シャトルプリンターでの評価において、画像品質が向上している。特に、実施例43〜47は、界面活性剤を含む実施形態のインキを使用している。この実施形態によれば、界面活性剤の添加によって、PVCシートへの濡れ性や浸透性のさらなる改善効果が得られることがわかる。
【0141】
実施例48〜64は、プリントオンデマンド用途として使用される、固定ヘッド搭載の高速プリンターによる印刷にインキを使用した実施形態に関し、難吸収性基材であるコート紙上での1パス印刷時の印刷品質を評価した結果を表に示している。一般に、高速で搬送される基材に対し高画質画像を印刷し、かつ好適に乾燥させるためには、沸点が200℃以下の溶剤(低沸点溶剤)を使用することが好ましい。しかし、上記低沸点溶剤の比率が多すぎると、インクジェットヘッド上で水や溶剤が揮発しやすく、インキ粘度の急激な増粘が発生してしまう。実際に、例えば、実施例48〜50、63及び64の結果を参照すると、実施例48のように低沸点溶剤のみの使用では、上記理由によると考えられるデキャップ性の低下が見られる。これに対し、実施例49、50、63及び64のように200℃を超える溶剤(高沸点溶剤)を併用することによって、デキャップ性の改善効果が得られることが分かる。特に、実施例49のように、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールを使用した場合、デキャップ性の改善だけでなく、コート紙基材への濡れ性や浸透性の改善も可能となる。これらのことから、固定ヘッド搭載プリンターでの1パス印刷時の画像品質が向上している。また、実施例63及び64のように、低沸点溶剤の含有量を増加した場合であっても、デキャップ性の低下を抑制できることが分かる。このような実施形態では、乾燥性とデキャップ性との双方において良好な結果が得られる。
【0142】
一方、例えば、実施例51〜53の結果を参照すると、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールの添加量を増加させることによって、デキャップ性は向上するものの、固定ヘッド搭載プリンターでの1パス印刷時の乾燥性が悪化する結果となっている。これは、高沸点溶剤である、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールの比率が高くなることで、乾燥性が低下したことに起因すると考えられる。このような乾燥性の低下の影響は、シャトルプリンターのような低速印刷では見られないが、1パス印刷のような高速印刷では顕著に現れたと考えられる。これに対し、本発明の一実施形態では、1,2−ブタンジオールの添加量と、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールの添加量とをコントロールすることによって、デキャップ性の向上と、固定ヘッド搭載プリンターでの1パス印刷時の画像品質の向上との両立を図っている。例えば、実施例62のように、炭素数が5以上の1,2−アルカンジオールを2種以上添加した場合でも、各評価において良好な結果を得ることができる。
【0143】
上記各実施例の結果に対し、表8に示すように、比較例1〜5に関しては、炭素数10〜36のアルキル基を含まない顔料分散樹脂を使用した実施形態に関し、何れの評価においても実施例と比べて劣る結果となった。また、比較例6〜14は、炭素数10〜36のアルキル基を含む顔料分散樹脂を使用しているが、溶剤であるアルキルポリオールの沸点(180〜250℃)やその添加量(10〜30重量%)が所定の範囲外となる実施形態に関し、何れの評価結果も実施例と比べて劣る結果となった。
【0144】
【表6】
【0145】
【表7】
【0146】
【表8】