【文献】
藤井 弥平,船の衝突直径と衝突発生率,日本航海学会誌,日本,公益社団法人 日本航海学会,1969年12月30日,42巻(1969),pp.1-8,[online],[検索日 2019.09.13],URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jina/42/0/42_KJ00004749585/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では衝突事故を根絶するには至っておらず、従来の衝突防止の技術、仕組みを補う新たな技術等のさらなる研究・開発が必要とされている。
【0006】
例えば、レーダーには小型船は映りにくい。また繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)のレーダー反射率は低いのでFRP船もレーダーで捉えにくい。AISは全ての船舶に搭載が義務づけられているわけではなく、またAISを搭載していても状況によって送信を停止することが認められている。そのため、レーダーやAISでは検出・監視されない船舶が生じ得る。この点、衛星画像は検出漏れとなる船舶を減らすことができる特長を有する。しかし、当該特長は衝突防止に十分に活用されているとは言えない。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、衛星画像を用いて水上交通状況を解析し衝突リスクを評価可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る水上交通状況解析システムは、航路を撮影した衛星画像を用いて水上交通状況を解析するシステムであって、入力された前記衛星画像から、前記航路に存在する船舶の位置データを求める衛星画像解析手段と、前記船舶について前記位置データと速度データとを入力され、前記航路における航行量を推定する交通解析手段と、を有し、前記交通解析手段は、前記位置データから前記航路上の所与の基準位置での船舶密度を求め、かつ前記速度データから前記基準位置での前記船舶の前記航路に沿った方向の平均速度を求め、当該船舶密度と当該平均速度と前記基準位置での航路幅との積に基づいて推定航行量を求める航行量推定手段を有する。
【0009】
(2)上記(1)に記載する水上交通状況解析システムはさらに、前記推定航行量が多いほど前記航路における船舶同士の衝突危険度を高く算出する危険度算出手段を有することができる。
【0010】
(3)上記(2)に記載する水上交通状況解析システムにおいて、前記交通解析手段は、前記航路に存在する前記船舶の速度の分散を算出する速度分散算出手段を有し、前記危険度算出手段は、前記速度の分散が大きいほど前記衝突危険度を高く算出する構成とすることができる。
【0011】
(4)上記(3)に記載する水上交通状況解析システムにおいて、前記速度分散算出手段は、注目船舶の近傍又は進路上に注目水域を設定し、当該注目水域に存在する船舶の速度について前記分散を算出し、前記危険度算出手段は、前記注目船舶に関し前記注目水域での前記衝突危険度を求める構成とすることができる。
【0012】
(5)上記(1)から(4)に記載する水上交通状況解析システムにおいて、前記交通解析手段は、前記位置データで与えられる前記航路における前記船舶の二次元分布を前記航路に直交する軸に投影して一次元の投影分布を生成し、当該投影分布における前記船舶の分布範囲に基づいて前記航路幅を定める航路幅推定手段を有してもよい。
【0013】
(6)上記(5)に記載する水上交通状況解析システムにおいて、前記航路に沿った2つの向きを順向きと逆向きとして、前記航路幅推定手段は、前記順向きの速度成分を有する順航船舶と前記逆向きの速度成分を有する逆航船舶とのそれぞれについて前記投影分布を生成し、前記順航船舶の前記投影分布に基づいて前記航路における順航レーンの位置及び幅を推定し、前記逆航船舶の前記投影分布に基づいて前記航路における逆航レーンの位置及び幅を推定し、前記航行量推定手段は、前記順航レーン及び前記逆航レーンそれぞれについて前記船舶密度及び前記平均速度を求め、当該船舶密度及び当該平均速度と前記順航レーン及び前記逆航レーンそれぞれの幅とを用いて、前記順航レーン及び前記逆航レーンそれぞれの推定航行量を算出する構成とすることができる。
【0014】
(7)本発明に係る水上交通状況解析方法は、航路を撮影した衛星画像を用いて水上交通状況を解析する方法であって、入力された前記衛星画像から、前記航路に存在する船舶の位置データを求める衛星画像解析ステップと、前記船舶について前記位置データと速度データとを入力され、前記航路における航行量を推定する交通解析ステップと、を有し、前記交通解析ステップは、前記位置データから前記航路上の所与の基準位置での船舶密度を求め、かつ前記速度データから前記基準位置での前記船舶の前記航路に沿った方向の平均速度を求め、当該船舶密度と当該平均速度と前記基準位置での航路幅との積に基づいて推定航行量を求める航行量推定ステップを有する。
【0015】
(8)本発明に係るプログラムは、航路を撮影した衛星画像を用いて水上交通状況を解析する処理をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、当該コンピュータを、入力された前記衛星画像から、前記航路に存在する船舶の位置データを求める衛星画像解析手段、及び、前記船舶について前記位置データと速度データとを入力され、前記航路における航行量を推定する交通解析手段、として機能させ、前記交通解析手段は、前記位置データから前記航路上の所与の基準位置での船舶密度を求め、かつ前記速度データから前記基準位置での前記船舶の前記航路に沿った方向の平均速度を求め、当該船舶密度と当該平均速度と前記基準位置での航路幅との積に基づいて推定航行量を求める航行量推定手段を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衛星画像を用いて水上交通状況を解析し衝突リスクの評価、ひいては衝突防止に役立てることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)に係る水上交通状況解析システム2について、図面に基づいて説明する。本システムは水上航路における船舶の交通状況を解析し航行量などを推定する。
【0019】
図1は、水上交通状況解析システム2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの各種演算処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
【0020】
当該コンピュータのCPU(Central Processing Unit)が演算処理装置4を構成し、後述する衛星画像解析部20、AIS情報取得部22、航路幅推定部30、航行量推定部32、速度分散算出部34及び危険度算出部40として機能する。これら演算処理装置4の各部については後述する。
【0021】
記憶装置6はコンピュータに内蔵されるハードディスクなどで構成される。記憶装置6は演算処理装置4を衛星画像解析部20、AIS情報取得部22、航路幅推定部30、航行量推定部32、速度分散算出部34及び危険度算出部40として機能させるためのプログラム及びその他のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データを記憶する。例えば、記憶装置6は本システム2の外部のシステム等から得られる衛星画像50やAIS情報52を格納する。
【0022】
入力装置8は、ユーザが本システムへの操作を行うために用いるキーボード、マウスなどのほか、インターネットや無線通信を介して外部システム等から衛星画像やAIS情報を取得する通信インターフェースを含む。
【0023】
出力装置10は、ディスプレイ、プリンタなどであり、航路や当該航路における交通状況及びその解析結果を画面表示、印刷等によりユーザに示す等のために用いられる。また、出力装置10は、衝突危険度などの解析結果を船舶等に知らせるための通信インターフェースを含み得る。
【0024】
衛星画像解析部20は、解析対象とする航路を含む水域(対象水域)の衛星画像を入力され、当該衛星画像から航路に存在する船舶の位置データを求める。衛星画像は地球観測衛星に搭載されるセンサの観測データを画像化したものであり、広域をほぼ同時に撮影できる。例えば、本願の出願時点で運用中の日本の地球観測衛星である「だいち2号」(ALOS−2)などにより撮影される画像が衛星画像解析部20に入力される。だいち2号はLバンドの合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)を搭載し、数メートルの分解能(スポットライトモードでレンジ分解能:3メートル、アジマス分解能:1メートル)で昼夜や天候を問わず地表の様子を撮像することができる。よってその画像からは小型船も好適に検出される。地表を撮影可能な同様の衛星は複数機稼働しており、現状では例えば、或る水域の衛星画像を1日に1回程度取得することができる。なお、衛星画像内の船影の検出は画像認識技術を用いて自動化することができる。
【0025】
また、衛星の観測データから移動物体の速度を求めることも可能であり、本実施形態の衛星画像解析部20は衛星画像に基づいて船舶の速度データも求める。ちなみに、速度は速さと向きを有したベクトルを意味し、速さは当該ベクトルの大きさを表すスカラーを意味する。例えば、SAR衛星の観測データから移動物体の速度を求める手法として、逆合成開口レーダ(Inverse SAR:ISAR)の原理を用いて船舶の速度を推定する手法や、ドップラーシフトに基づいて速度を推定する手法などが知られている(特開2012−063196号公報参照)。また、互いに異なる方向を同時撮影して軌道方向に位置がずれた複数地点の画像を取得できる衛星も存在し、当該衛星によれば地球表面の同一地点がわずかな時間差で複数回撮影され得る。この時間差を有する衛星画像における船舶の位置の変化から船舶の速度を算出することもできる。
【0026】
AIS情報取得部22は、沿岸に設置された受信局や衛星により受信されたAIS情報を取得する。なお、当該情報をインターネットを介して提供するサービスが存在し、AIS情報取得部22は当該サービスからAIS情報を取得することができる。AIS情報は、AISを搭載した船舶の識別符号、長さ・幅、種類、位置、針路、船速、行き先などを含む。例えば、本システム2は衛星画像解析部20で取得される位置・速度データを補完したり精度・信頼性を高めたりするためにAIS情報を利用することができる。また、AIS情報が全ての船舶から得られるわけではないという上述した点に配慮した上で、本システムを衛星の観測データから取得する速度データに代えてAIS情報を利用する構成とすることも可能である。
【0027】
航路幅推定部30、航行量推定部32及び速度分散算出部34は、衛星画像解析部20から対象海域の船舶について位置データと速度データとを入力されて航路における航行量を推定する交通解析手段を構成する。
【0028】
航路幅推定部30は船舶の対象海域における分布から解析対象の航路の幅を推定する。
図2は航路幅推定部30の処理を説明する模式図である。航路60に沿った座標軸をζ軸、航路幅方向をη軸に設定した場合、位置データで与えられる船舶62の二次元分布を、航路60に沿った方向(ζ軸方向)に投影して、航路60に直交するη軸上で定義される一次元の投影分布64を生成し、当該投影分布における船舶の分布範囲に基づいて航路幅Wを推定する。
【0029】
航行量推定部32は解析対象の航路における船舶の航行量を推定する。具体的には、航路上に基準位置を設定し、船舶の位置データから基準位置での船舶密度ρを求める。また、船舶の速度データから基準位置での船舶の航路に沿った方向の平均速度Vを求める。そして、船舶密度ρと平均速度Vと基準位置での航路幅Wとの積に基づいて、単位時間当たりの推定航行量Qを求める。原理的にはQは次式で求められる。
Q=ρVW ……(1)
【0030】
基準位置は例えば、ユーザにより設定される。例えば、基準位置はζ座標値“ζ
0”で表される直線“ζ=ζ
0”で定義される。船舶密度ρは、当該直線ζ=ζ
0の近傍に設定される領域Sに存在する船舶の数nを計数し、nを当該領域Sの面積で除して求めることができる。例えば、領域Sは
図2に示すように、ζ方向に関してζ=ζ
0を中心として幅Δζを有し、η方向の位置が航路幅Wに対応する範囲である矩形領域に設定することができる。このように領域Sを設定すると、(1)式右辺に含まれる(ρW)が、領域S内の船舶数nから次式により算出される。
ρW=n/Δζ ……(2)
【0031】
また、平均速度Vは領域S内の船舶の速度を合算しnで除して得られるベクトルのζ軸方向の成分で与えられる。
【0032】
速度分散算出部34は、解析対象の航路に存在する船舶の速度の分散σ
2を算出する。
【0033】
危険度算出部40は解析対象の航路における船舶同士の衝突危険度Dを算出する。例えば、危険度算出部40は推定航行量Qが多いほど衝突危険度Dを大きな値とする。また、危険度算出部40は、速度の分散σ
2が大きいほど衝突危険度Dを大きな値とするようにも構成できる。
【0034】
図3は、水上交通状況解析システム2による処理の概略の流れを示す模式図である。
【0035】
衛星画像解析部20は衛星画像に基づいて、船舶の位置データ及び速度データを算出する(ステップS2)。
【0036】
次に航路幅推定部30が航路幅Wを求める(ステップS4)。
図4は
図2を用いて説明した投影分布64から航路幅Wを定める処理の例を説明するための模式図であり、投影分布64の横軸はη軸、縦軸は船舶数である。例えば、投影分布64のうちの大部分(全体に対する割合をα%とする)を包含する範囲を航路幅Wと定義することができる。具体的には、ε≡(100−α)/2として、投影分布64のうちη≦η
1に含まれる部分が全体のε%となる点η
1と、η≧η
2に含まれる部分が全体のε%となる点η
2とを求め、範囲[η
1,η
2]を実効的な航路の範囲とし、W=η
2−η
1と定義することができる。例えば、α%は90%とすることができる。
【0037】
ここで、
図2に示す航路の例では、船舶が航路をどちら向きに進むか、つまりζ軸の正方向に進むか負方向に進むかを区別せずに投影分布64を生成し航路幅を推定した。この例は例えば、浮標識が設置されていない航路や一方通航の航路に特に好適に対応する。一方、ζ軸の正方向に進む船舶と負方向に進む船舶とを浮標識を設置して分離し航行の安全確保を図っている航路もある。
図5は当該航路に対応した航路幅推定部30の処理を説明する模式図である。座標軸(ζ軸、η軸)は
図2と同様の定義とする。航路70は浮標識72で2つのレーン70a,70bに区分され、レーン70aは船舶が原則としてζ軸の正方向に進むレーン(順航レーンとする)であり、レーン70bは船舶が原則としてζ軸の負方向に進むレーン(逆航レーンとする)である。航路幅推定部30はこの航路70について、2つのレーンそれぞれに対して航路幅を推定する構成としてもよい。
図6は航路70に存在する船舶の投影分布74の例であり、投影分布74の横軸はη軸である。縦軸は船舶数であるが、上向きの軸は順航する船の数を示し、下向きの軸は逆航する船の数を示している。順航船舶数の投影分布74a、逆航船舶数の投影分布74bそれぞれについて例えば
図4で述べたと同様にして航路幅を定義することができ、順航レーンの航路幅W
A、逆航レーンの航路幅W
Bが求まる。
【0038】
なお、航路の両側の境界が規定されている航路については、上述した航路幅推定部30による推定は行わずに、当該境界間の距離として設定されている航路幅を(1)式におけるWとして用いてもよい。その場合、(1)式により、当該境界内の航行量が推定される。
【0039】
航行量推定部32は上述した領域SをステップS4で求めた航路幅Wに対応する範囲である領域に設定し、当該領域S内の船舶数nを計数し、また当該領域S内の船舶について平均速度Vを算出する。そして(1),(2)式により推定航行量Qを算出する(ステップS6)。また、順航、逆航レーンに分けて解析する場合には、領域Sを航路幅W
Aに対応する範囲に設定して、上述と同様にして順航レーン70aに関する推定航行量Q
Aを算出し、同様に領域Sを航路幅W
Bに対応する範囲に設定して、逆航レーン70bに関する推定航行量Q
Bを算出する。
【0040】
さて、航路内にて複数の船舶が同じ方向に同じ速度で航行している場合には衝突は起きない。一方、船舶間に速度の違いが存在すると互いに船舶同士の接近が起こり得る。そして、速度差が大きいほど接近の発生の確率、頻度は大きくなる。解析対象の航路内にm隻の船舶が存在するとして、それら船舶の速度差の全体的な指標を次式に示す値Uで定義する。ここで、V
i(i=1〜m)はm隻の船舶の速度であり、λは係数である。なお、(3)式右辺における総和記号Σはi≠jなる条件の下でのi,jそれぞれについての総和を意味する。
【数1】
【0041】
V
i(i=1〜m)の平均をV
aとして、
V
i=V
a+v
i ……(4)
と表すと、(3)式は次に示す(5)式に書き直される。なお、(5)式では、i=jの場合は(v
i−v
j)
2=0であることを用いて総和も書き直している。
【数2】
【0042】
ここで、下記の(6)式に示すようにv
iの総和は0であり、(6)式から(7)式が得られる。
【数3】
【0043】
(5)式右辺の(v
i−v
j)
2を展開し、(7)式を用いて整理すると、次の関係式が導かれる。
U∝σ
2 ……(8)
【0044】
ここでσ
2はv
iの分散であると共に、v
iとV
iとが(4)式の関係にあることにより、V
iの分散でもある。そこでUを速度分散指標値と称することにする。なお、例えば係数λを1/m
2にすれば、Uはmに依らない指標となる。そこで、本システム2では速度分散算出部34により、航路における船舶の速度V
iの分散σ
2を算出してUを求め(ステップS8)、後述する衝突危険度Dの評価に用いることとしている。
【0045】
危険度算出部40はステップS6で求めた推定航行量QとステップS8で求めた速度分散指標値Uとに基づいて衝突危険度Dを定める(ステップS10)。航行量が多いほど船舶同士が接近し衝突が起こりやすくなり、また、船舶間に速度の差やばらつき、船舶の動きの乱雑さが大きいほど衝突が起こりやすくなる。そこで基本的には、危険度算出部40はQが大きいほどDを大きく定め、かつUが大きいほどDを大きく定める。例えば、D=κ
1QUやD=κ
1Q+κ
2Uといった数式でDを算出するように危険度算出部40を構成できる。ここで、κ
1,κ
2は正の係数であり経験的に設定される。具体的には、個別の航路ごとに、航行量や速度分散を観測し、それらと衝突や異常接近などの事象の発生との関連について観測データを蓄積し、Q,UとDとの対応関係を航路ごとに設定することができる。
【0046】
なお、順航レーンと逆航レーンとに分けて解析する場合には、レーンごとにQ,Uを算出し、それらに基づいてレーンごとにDを求める。
【0047】
また、航路をζ方向に関して区間に区切り、区間ごとに投影分布を生成し、区間ごとに航路幅を推定し、区間ごとに(1)式を用いた推定航行量Qを求めてもよい。航路幅Wの推定に用いる投影分布は、停止している船舶を除いて生成してもよい。
【0048】
衛星画像からは船舶のサイズを求めることができる。そこで、例えば、船舶の長さにより大型船、中型船、小型船などと分類して、分類ごとに航行量を推定することができる。この場合、大型船はほぼAISを搭載していることから、船舶の速度をAIS情報から求める構成とすることもできる。
【0049】
上述の実施形態の水上交通状況解析システム2は、Q,Uの両方に基づいてDを定める構成としたが、Q又はUのいずれか一方のみに基づいてDを定める構成とすることもできる。
【0050】
(変形例)
上述の実施形態の水上交通状況解析システム2は、航路又はレーンについて衝突危険度Dを定めたが、個々の船舶(注目船舶)から見た衝突危険度Dを定める構成とすることもできる。当該構成では、速度分散算出部34は、注目船舶の近傍又は進路上に注目水域を設定し、注目船舶と当該注目水域に存在する船舶とからなる母集団に対し、それらの速度について分散σ
2を算出する。そして危険度算出部40は、注目船舶に関し注目水域での衝突危険度Dを求める。
【0051】
図7は注目船舶80から見た衝突危険度Dを求める処理を説明する模式図であり、注目水域のいくつかの例を示している。注目水域82aは注目船舶80の近傍領域であり、具体的には注目船舶80を中心とした円内の領域である。注目水域82b,82cはそれぞれ注目船舶80がこれから進入する位置の近傍領域であり、例えば、注目水域82bは現在時刻より時間T
1後の注目船舶80の予想位置を中心とした円内に設定され、注目水域82cは現在時刻より時間T
2(T
2>T
1)後の注目船舶80の予想位置を中心とした円内に設定される。円の半径は時刻が後になるほど大きく設定することができ、注目水域82a,82b,82cの順に大きく設定される。これら注目水域82a,82b,82cの設定では、現在や今後到達する位置での衝突危険度Dが求められる。
【0052】
注目水域84は注目船舶80を中心としその進行方向86の両側に所定角度(例えば、15°)ずつ開いた扇状領域である。その半径(注目船舶80から扇の弧までの距離)はどれくらい先の時間までの衝突危険度Dを求めるかに応じて定めることができる。
【0053】
速度分散算出部34は注目船舶及び設定された注目水域内に存在する船舶の速度分散σ
2を算出し、それを用いて上記実施形態と同様に速度分散指標値Uを求める。また危険度算出部40は当該Uを用いて上記実施形態と同様に衝突危険度Dを求める。
【0054】
ここで、注目水域が注目船舶の位置を含む場合、例えば、注目水域82a,84のような場合には、速度分散算出部34は注目水域内の全船舶についての速度分散を算出する。一方、注目水域が注目船舶の位置を含まない場合、例えば、注目水域82b,82cのような場合には、速度分散算出部34は注目水域内の全船舶に注目船舶を加えた集団について速度分散を算出する。海上では漁船群が停船して操業していることがあり得る。例えば、注目水域82b,82cに存在する船舶が当該漁船のように全て同じ速度である状況を考えると、当該状況では注目水域内に存在する船舶のみの速度分散σ
2は0となり、それに基づいて生成される速度分散指標値Uは衝突危険度の評価に有効ではない。しかし、速度分散算出部34は注目船舶を加えてσ
2を求めるので、σ
2は0でなくなることが期待でき、それに基づくUを衝突危険度Dの評価に用いることができる。
【0055】
以上、本発明を海上での交通状況の解析に用いる実施形態を説明したが、本発明は河川、湖等、海以外の水上での交通状況の解析にも適用できる。