特許第6709532号(P6709532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709532
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/12 20060101AFI20200608BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20200608BHJP
   H01G 11/14 20130101ALI20200608BHJP
   H01G 9/12 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   H01M2/12 101
   H01M2/04 A
   H01G11/14
   H01G9/12 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-43630(P2016-43630)
(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公開番号】特開2017-162570(P2017-162570A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】奥野 泰徳
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−159313(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/069575(WO,A1)
【文献】 特開平10−156443(JP,A)
【文献】 特開2001−102024(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0140264(US,A1)
【文献】 特開2004−111155(JP,A)
【文献】 特開2014−234857(JP,A)
【文献】 特開2014−203737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/12
H01G 9/12
H01G 11/14
H01M 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裂開によって開弁するガス排出弁を有するケースを備え、
前記ガス排出弁は、
前記ケースの外側に向けて膨出する膨出部と、
前記膨出部の周縁から前記ケースに沿って広がる平坦部と、
前記ケースの外側を向いた外面において延びる破断溝と、
前記ケースの内側を向いた内面の前記破断溝を囲む位置に配置された環状溝と、
を有し、
前記破断溝は、前記ガス排出弁の中心部の所定位置から該ガス排出弁の周縁に向かって延びる複数の線状溝を含み、
前記線状溝は、前記膨出部に配置され、
前記環状溝は、前記平坦部に配置され、
前記平坦部における前記環状溝が設けられた部位は、該平坦部における他の部位より薄くなっており、
前記ガス排出弁は、前記ケースの内圧が大きくなったときに、前記線状溝から裂ける、蓄電素子。
【請求項2】
前記破断溝は、三つ以上の前記線状溝を含む、請求項に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記ガス排出弁は、前記所定位置を中心とした円形の輪郭を有する、請求項又はに記載の蓄電素子。
【請求項4】
前記環状溝は、前記ガス排出弁の周縁に沿った円形の環状である、請求項に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部で発生したガス等を外部に放出可能なガス排出弁を有するケースを備えた蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、裂開によって開弁するガス排出弁を備えた密閉電池が知られている(特許文献1参照)。具体的に、密閉電池は、外装缶と、外装缶の上方開口部を封口する封口板と、を有している。封口板には、図18に示すように、ガス排出弁101が設けられている。このガス排出弁101は、中央部を横断するように延びる一本の破断溝102を有し、外装缶103と封口板104とによって画定される密閉電池100の内部空間の圧力(内圧)が所定値以上になったときに破断溝102から裂開し、内部空間内の圧力を開放する。これにより、外装缶103等の破裂が防がれる。
【0003】
しかし、上記の密閉電池100のように、密閉電池100内において上昇した内圧のみによって破断溝102が破断(裂開)する構成では、該破断溝102が破断してガス排出弁101が裂開するときの内圧(開弁圧)の値が異なる場合、即ち、開弁圧の値がばらつく場合があった。
【0004】
近年では、密閉電池100における安全性のさらなる向上のために、開弁圧の値のばらつきが抑えられたガス排出弁101が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−277936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本実施形態は、開弁圧の値のばらつきが抑えられたガス排出弁を備えた蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の蓄電素子は、
裂開によって開弁するガス排出弁を有するケースを備え、
前記ガス排出弁は、前記ケースの外側を向いた外面において延びる破断溝を有すると共に前記ケースの内側を向いた内面の前記破断溝を囲む位置に配置された環状溝を有する。
【0008】
このように、ガス排出弁の外面に破断溝が設けられると共に、ガス排出弁の内面における周縁側(破断溝を囲む位置)に環状溝が設けられることで、ケースの内圧によってガス排出弁が押されたときに、各溝(破断溝及び環状溝)の側面が広がるようにガス排出弁が変形するため(例えば、図8参照)、ガス排出弁が変形し易くなる。これにより、内圧によって力の加わったガス排出弁(詳しくは、破断溝)の一部に前記変形に起因した応力も加わることで、ガス排出弁が所定の内圧(開弁圧)で破断溝から裂開し始め易くなる(即ち、開弁圧の値のバラツキが抑えられる)。
【0009】
また、前記蓄電素子では、
前記破断溝は、前記ガス排出弁の中心部の所定位置から該ガス排出弁の周縁に向かって延びる複数の線状溝を含んでもよい。
【0010】
ガス排出弁の破断溝が設けられた部位は、他の部位より薄く変形し易いため、この薄くなっている部位である線状溝が集まる(合流する)所定位置には、前記変形に起因する応力が集中し易い。このため、上記の構成によれば、ケースの内圧の上昇によるガス排出弁の開弁の際に、裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきが抑えられ(即ち、所定位置から裂開し始め)、これにより、ガス排出弁の裂開し始める位置の違いに起因する開弁圧の値のばらつきが抑えられる。
【0011】
この場合、
前記破断溝は、三つ以上の前記線状溝を含んでもよい。
【0012】
かかる構成によれば、線状溝が集まる位置(前記所定位置)に集中する応力(ケースの内圧の上昇によるガス排出弁の変形に起因する応力)がより大きくなるため、ガス排出弁の開弁の際の裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきがより抑えられる。その結果、前記裂開し始める位置の違いに起因する開弁圧の値のばらつきがより抑えられる。
【0013】
また、前記蓄電素子では、
前記ガス排出弁は、前記所定位置を中心とした円形の輪郭を有してもよい。
【0014】
このようにガス排出弁が円形の輪郭を有することで、ケースの内圧の上昇によるガス排出弁の変形に起因する応力がガス排出弁の中心、即ち、線状溝が集まる前記所定位置により集中し易くなるため、ガス排出弁の開弁の際の裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきがより効果的に抑えられる。
【0015】
また、この場合、
前記環状溝は、前記ガス排出弁の周縁に沿った円形の環状であってもよい。
【0016】
かかる構成によれば、ケースの内圧によってガス排出弁が押されたときに、ガス排出弁が球面状に膨らみ易くなる(即ち、ガス排出弁が変形し易くなる)ため、内圧によって押されるガス排出弁に前記変形に起因した応力がより生じ易くなり、これにより、所定の内圧(開弁圧)でガス排出弁が破断溝からより裂開し始め易くなる。その結果、開弁圧の値のバラツキがより抑えられる。
【0017】
また、前記蓄電素子では、
前記ガス排出弁は、前記ケースの外側に向けて膨出していてもよい。
【0018】
ケースの内圧がガス排出弁に加わることで生じる応力がガス排出弁の頂点位置(最も膨出している位置)に集中するが、かかる構成によれば、ガス排出弁の前記頂点位置と線状溝の集まる前記所定位置とが一致若しくは略一致するため、前記所定位置にケースの内圧の上昇によるガス排出弁の変形に起因する応力がより集中し易くなる。これにより、ガス排出弁の開弁の際の裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきがより効果的に抑えられる。
【0019】
また、前記蓄電素子では、
前記ガス排出弁は、
前記ケースの外側に向けて膨出する膨出部と、
前記膨出部の周縁から前記ケースに沿って広がる平坦部と、
を有し、
前記線状溝は、前記膨出部に配置され、
前記環状溝は、前記平坦部に配置されてもよい。
【0020】
かかる構成によれば、平坦部に環状溝が配置されることで、ケースの内圧によってガス排出弁が押されたときに、断面が屈曲した形状となっている膨出部と平坦部との境界部が真っ直ぐになるように変形するため(例えば、図10参照)、平坦部のない構成又は膨出部がなく全体が平坦な構成等に比べてガス排出弁の変形量が大きくなる。これにより、内圧によってガス排出弁が変形したときに生じる前記変形に起因する応力がより大きくなり、その結果、ガス排出弁が所定の内圧(開弁圧)でより確実に裂開して開弁圧の値のバラツキがより効果的に抑えられる。
【発明の効果】
【0021】
以上より、本実施形態によれば、開弁圧の値のばらつきが抑えられたガス排出弁を備えた蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、前記蓄電素子の分解斜視図である。
図3図3は、図1のIII−III位置における断面図である。
図4図4は、前記蓄電素子の電極体を説明するための斜視図である。
図5図5は、前記蓄電素子の蓋板におけるガス排出弁及びその周辺の拡大平面図である。
図6図6は、前記蓄電素子の蓋板におけるガス排出弁及びその周辺の拡大裏面図である。
図7図7は、図5のVII−VII位置における断面斜視図である。
図8図8は、溝の側面が広がるように該溝の設けられた部位が変形する状態を説明するための模式図である。
図9図9は、溝の側面が狭まるように該溝の設けられた部位が変形する状態を説明するための模式図である。
図10図10は、膨出部と平坦部との境界部が変形する状態を説明するための模式図である。
図11図11は、他実施形態に係るガス排出弁の平面図であって、複数の線状溝の配置の一例を示す平面図である。
図12図12は、他実施形態に係るガス排出弁の平面図であって、複数の線状溝の配置の一例を示す平面図である。
図13図13は、他実施形態に係るガス排出弁の平面図であって、二つの線状溝の配置の一例を示す平面図である。
図14図14は、他実施形態に係るガス排出弁の平面図であって、二つの線状溝の配置の一例を示す平面図である。
図15図15は、他実施形態に係るガス排出弁の断面図である。
図16図16は、他実施形態に係るガス排出弁の断面図である。
図17図17は、本実施形態に係る蓄電素子を含む蓄電装置の斜視図である。
図18図18は、従来の密閉電池の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図1図10を参照しつつ説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0024】
本実施形態の蓄電素子は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子が電気エネルギーを供給する。
【0025】
蓄電素子は、図1図4に示すように、裂開によって開弁するガス排出弁321を有するケース3を備える。具体的に、蓄電素子1は、正極23及び負極24を含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子4であって電極体2と導通する外部端子4と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子4の他に、電極体2と外部端子4とを導通させる集電体5等も有する。
【0026】
電極体2は、正極23と負極24とが互いに絶縁された状態で巻芯21の周囲に巻回されることによって構成される。電極体2においてリチウムイオンが正極23と負極24との間を移動することにより、蓄電素子1が充放電する。
【0027】
正極23は、金属箔231と、金属箔231に積層された正極活物質層232と、を有する。金属箔231は帯状である。本実施形態の金属箔231は、例えば、アルミニウム箔である。
【0028】
負極24は、金属箔241と、金属箔241に積層された負極活物質層242と、を有する。金属箔241は帯状である。本実施形態の金属箔241は、例えば、銅箔である。
【0029】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極23と負極24とがセパレータ25によって絶縁された状態で巻回されている。このセパレータ25は、絶縁性を有する部材である。具体的に、セパレータ25は、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアミドなどの多孔質膜によって構成される。セパレータ25は、正極23と負極24との間に配置される。これにより、電極体2において、正極23と負極24とが互いに絶縁される。また、セパレータ25は、上述のように多孔質膜によって構成されているため、ケース3内において電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ25を挟んで交互に積層される正極23と負極24との間を移動可能となる。
【0030】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間33に収容する(図3参照)。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。本実施形態のケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。
【0031】
前記電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPFを溶解させたものである。
【0032】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部34と、蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3では、ケース本体31と蓋板32とによって内部空間33が画定されている。本実施形態のケース3では、ケース本体31の開口周縁部34と蓋板32の周縁部とが溶接によって接合されている。
【0033】
ケース本体31は、板状の閉塞部311と、閉塞部311の周縁に接続される筒状の胴部312と、を備える。
【0034】
閉塞部311は、開口が上を向くようにケース本体31が配置されたときに、ケース本体31の下端に位置する(即ち、前記開口が上を向いたときのケース本体31の底壁となる)部位である。閉塞部311は、該閉塞部311の法線方向視において、矩形状である。
【0035】
以下では、閉塞部311の長辺方向をX軸方向とし、閉塞部311の短辺方向をY軸方向とし、閉塞部311の法線方向をZ軸方向とする。
【0036】
本実施形態の胴部312は、角筒形状、より詳しくは、偏平な角筒形状を有する。胴部312は、閉塞部311の周縁における長辺から延びる一対の長壁部313と、閉塞部311の周縁における短辺から延びる一対の短壁部314とを有する。即ち、一対の長壁部313は、Y軸方向に間隔(詳しくは、閉塞部311の周縁における短辺に相当する間隔)を空けて対向し、一対の短壁部314は、X軸方向に間隔(詳しくは、閉塞部311の周縁における長辺に相当する間隔)を空けて対向する。短壁部314が一対の長壁部313の対応(詳しくは、Y軸方向に対向)する端部同士をそれぞれ接続することによって、角筒状の胴部312が形成される。
【0037】
以上のように、ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。
【0038】
蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐようにケース本体31に当接する。より具体的には、蓋板32が開口を塞ぐように、蓋板32の周縁部がケース本体31の開口周縁部34に重ねられる。開口周縁部34と蓋板32とが重ねられた状態で、蓋板32とケース本体31との境界部が溶接される。これにより、ケース3が構成される。
【0039】
蓋板32は、Z軸方向視において、ケース本体31の開口周縁部34に対応した輪郭形状を有する。即ち、蓋板32は、Z軸方向視において、X軸方向に長い矩形状の板材である。この蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。
【0040】
ガス排出弁321は、ケース3内において発生したガス等によって内圧が所定の値(開弁圧)まで上昇したときに、裂開することで、該ケース3内から外部にガスを排出する。本実施形態のガス排出弁321は、X軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。即ち、ガス排出弁321から蓋板32のX軸方向の一方側の端縁までの距離と、ガス排出弁321から蓋板32のX軸方向の他方側の端縁までの距離とが等しい。また、ガス排出弁321は、Y軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。即ち、ガス排出弁321から蓋板32のY軸方向の一方側の端縁までの距離と、ガス排出弁321から蓋板32のY軸方向の他方側の端縁までの距離とが等しい。
【0041】
このガス排出弁321は、図5図7にも示すように、ケース3の外側を向いた外面において延びる破断溝3211を有すると共に、ケース3の内側を向いた内面の破断溝3211を囲む位置に配置された環状溝3212を有する。より具体的に、ガス排出弁321は、薄肉部3210を有し、薄肉部3210は、外面に破断溝3211を有する。また、薄肉部3210は、内面における破断溝3211を囲む位置に環状溝3212も有する。
【0042】
薄肉部3210は、ケース3における他の部位(ケース3における薄肉部3210を除いた部位)よりも薄い部位である。この薄肉部3210は、Z軸方向(蓋板32の法線方向)視において、円形の輪郭を有している。本実施形態の薄肉部3210では、破断溝3211及び環状溝3212が設けられた部位を除いて、厚さが一定である。尚、薄肉部3210における破断溝3211及び環状溝3212が設けられた部位(位置)は、薄肉部3210の他の部位より薄くなっている(即ち、厚さ寸法が小さくなっている)。本実施形態の薄肉部3210では、破断溝3211及び環状溝3212が設けられた位置の厚みは、薄肉部3210の他の部位の厚みの1/2程度である(図7参照)。
【0043】
この薄肉部3210は、ケース3の外側に向けて膨出している(図7参照)。より具体的に、薄肉部3210は、前記外側に向けて膨出する膨出部3210Aと、膨出部3210Aの周縁から蓋板32に沿ってフランジ状に広がる平坦部3210Bと、を有する。本実施形態では、膨出部3210Aに、破断溝3211が配置され、平坦部3210Bに、環状溝3212が配置されている。
【0044】
膨出部3210Aは、ケース3の外側に向けて球面状(円弧状)に膨出する部位であり、その頂点位置(最も膨出している位置)35は、Z軸方向視において、薄肉部3210の前記円形の輪郭の中心と一致している。また、頂点位置35は、Z軸方向において、蓋板32のガス排出弁321を除く他の部位の外面よりケース3の内側(内部空間33の側)に位置している(図7参照)。
【0045】
平坦部3210Bは、薄肉部3210の径方向における幅が一定で、且つX−Y面(X軸とY軸とを含む面)と平行なフランジ状の部位である。平坦部3210Bの環状溝3212を除く部位の厚さは、一定であり、膨出部3210Aの破断溝3211を除く部位の厚さと同じである。
【0046】
破断溝3211は、ガス排出弁321の中心部の所定位置からガス排出弁321の周縁に向かって延びる複数の線状溝3215を含む。破断溝3211は、ガス排出弁321の開弁のし易さ等の観点から、三つ以上の線状溝3215を含むことが好ましい。本実施形態の破断溝3211は、四つの線状溝3215を含む。尚、本実施形態のガス排出弁321では、膨出部3210Aの頂点位置35と、前記所定位置とは、一致している。このため、以下では、「所定位置35」と称する場合もある。
【0047】
複数の線状溝3215は、薄肉部3210において、所定位置35から放射状に延びている。また、複数の線状溝3215は、隣り合う線状溝3215同士のなす角が等しくなるように配置されている。本実施形態の破断溝3211は、四つの線状溝3215を含んでいる。このため、隣り合う線状溝3215同士のなす角は、90°である。即ち、複数の線状溝3215は、Z軸方向視において、十字状に配置されている。本実施形態の破断溝3211は、Z軸方向視において、所定位置35からX軸方向の互いに反対向きに延びる二本の線状溝3215と、Y軸方向の互いに反対向きに延びる二本の線状溝3215と、を含む。各線状溝3215は、所定位置35から膨出部3210Aの周縁まで延びている。即ち、各線状溝3215の所定位置35と反対側の端縁と、膨出部3210Aの周縁とは、同じ位置である。
【0048】
環状溝3212は、薄肉部3210の平坦部3210Bの内面(ケース3の内側を向いた面)に設けられている(図7参照)。この環状溝3212は、円形の環状である(図6参照)。本実施形態の環状溝3212は、平坦部3210Bの幅方向(薄肉部3210の径方向)における中央位置に配置されている。
【0049】
以上のように構成されるガス排出弁321は、ケース3の内圧(ガス圧)が所定の値よりも大きくなったときに、薄肉部3210が破断溝3211から裂ける(詳しくは、線状溝3215の集まる所定位置35から裂け始め、各線状溝3215に沿って断裂範囲がそれぞれ広がる)ことによってケース3の内部空間33と外部空間とを連通させる、即ち、開弁する。これにより、ガス排出弁321は、ケース3の内部(内部空間33)で発生したガスを外部(外部空間)へ排出する。このようにして、ガス排出弁321は、上昇したケース3の内圧を下げる。
【0050】
ケース3には、内部空間33に電解液を注入するための注液穴325が設けられる。この注液穴325は、蓋板32をZ軸方向(厚さ方向)に貫通する。本実施形態の注液穴325は、X軸方向におけるガス排出弁321と外部端子4との間に設けられる。このように構成される注液穴325は、注液栓326によって密閉(封止)される(図3参照)。
【0051】
外部端子4は、他の蓄電素子の外部端子又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子4は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子4は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。外部端子4は、バスバ等が溶接可能な面41を有する。本実施形態の面41は、平面である。
【0052】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と通電可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを通電可能に接続するクリップ部材50を備える。この集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。図3に示すように、集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。以上のように構成される集電体5は、蓄電素子1の正極と負極とにそれぞれ配置される。
【0053】
正極の集電体5と負極の集電体5とは、異なる材料によって形成される。具体的に、正極の集電体5は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって形成され、負極の集電体5は、例えば、銅又は銅合金によって形成される。
【0054】
また、蓄電素子1は、電極体2とケース3とを絶縁する絶縁部材6等を備える。本実施形態の絶縁部材6は、ケース3(詳しくはケース本体31)と電極体2との間に配置される。本実施形態の絶縁部材6は、所定の形状に裁断された絶縁性を有するシート状の部材を折り曲げることによって袋状に形成される。
【0055】
以上の蓄電素子1では、ガス排出弁321の外面に破断溝3211が設けられると共に、ガス排出弁321の内面における周縁側(破断溝3211を囲む位置)に環状溝3212が設けられている。これにより、ケース3の内圧によってガス排出弁321(薄肉部3210)が押されたときに、各溝(破断溝3211及び環状溝3212)の側面が広がるようにガス排出弁321が変形するため(図8参照)、ガス排出弁321が変形し易い。即ち、図9に示すように溝3211、3212の側面が狭まるようにガス排出弁321が変形すると、側面同士が当接する等によって変形し難いのに対し、図8に示すように溝3211、3212の側面が広がる場合は前記当接等が生じないため、ガス排出弁321は変形し易い。その結果、内圧によって力の加わったガス排出弁321(詳しくは、破断溝)の一部に前記変形に起因した応力も加わることで、所定の内圧(開弁圧)でガス排出弁321が破断溝3211から裂開し始め易くなる(即ち、開弁圧の値のバラツキが抑えられる)。
【0056】
また、本実施形態の蓄電素子1では、破断溝3211は、ガス排出弁321(詳しくは、薄肉部3210)の中心部の所定位置35から該ガス排出弁321の周縁に向かって延びる複数の線状溝3215を含んでいる。ここで、ガス排出弁321(詳しくは、薄肉部3210)の破断溝3211が設けられた部位は、他の部位より薄く変形し易いため、この薄くなっている部位である線状溝3215が集まる所定位置(即ち、線状溝3215が合流する位置)35には、前記変形に起因する応力が集中し易い。このため、前記の構成によれば、ケース3の内圧の上昇によるガス排出弁321の開弁の際に、裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきが抑えられ(即ち、所定位置35から裂開し始め)、これにより、ガス排出弁321の裂開し始める位置の違いに起因する開弁圧の値のばらつきが抑えられる。
【0057】
本実施形態の蓄電素子1では、破断溝3211が、三つ以上(本実施形態の例では四つ)の線状溝3215を含んでいるため、線状溝3215が集まる位置(所定位置)35に集中する応力(ケース3の内圧の上昇によるガス排出弁321の変形に起因する応力)がより大きくなる。これにより、ガス排出弁321の開弁の際の裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきがより抑えられ、その結果、前記裂開し始める位置の違いに起因する開弁圧の値のばらつきがより効果的に抑えられる。
【0058】
本実施形態の蓄電素子1では、ガス排出弁321が、所定位置35を中心とした円形の輪郭を有している。これにより、ケース3の内圧の上昇によるガス排出弁321の変形に起因する応力がガス排出弁321の中心、即ち、線状溝3215が集まる所定位置35により集中し易くなる。その結果、ガス排出弁321の開弁の際の裂開し始める位置(断裂位置)のばらつきがより効果的に抑えられる。
【0059】
また、本実施形態の蓄電素子1では、環状溝3212が、ガス排出弁321(詳しくは、薄肉部3210)の周縁に沿った円形の環状である。このため、ケース3の内圧によってガス排出弁321が押されたときに、ガス排出弁321が球面状に膨らみ易くなる、即ち、ガス排出弁321が変形し易くなり、これにより、内圧によって押されるガス排出弁321に前記変形に起因した応力がより生じ易くなる。その結果、ガス排出弁321が所定の内圧(開弁圧)で破断溝3211からより裂開し始め易くなる(即ち、開弁圧の値のバラツキがより抑えられる)。
【0060】
また、本実施形態の蓄電素子1では、ガス排出弁321が、ケース3の外側に向けて膨出する膨出部3210Aと、膨出部3210Aの周縁からケース3(詳しくは、蓋板32)に沿って広がる平坦部3210Bと、を有し、線状溝3215が膨出部3210Aに配置され、環状溝3212が平坦部3210Bに配置されている。このように、平坦部3210Bに環状溝3212が配置されることで、ケース3の内圧によってガス排出弁321が押されたときに、図10に示すように、断面が屈曲した形状となっている膨出部3210Aと平坦部3210Bとの境界部が真っ直ぐになるように変形するため、平坦部3210Bのない構成又は膨出部3210Aがなく全体が平坦な構成のガス排出弁等に比べ、ガス排出弁321の変形量が大きくなる。これにより、内圧によってガス排出弁321が変形したときに生じる前記変形に起因する応力がより大きくなり、その結果、ガス排出弁321が所定の内圧(開弁圧)でより確実に裂開する(即ち、開弁圧の値のバラツキがより確実に抑えられる)。
【実施例】
【0061】
ここで、上記実施形態の蓄電素子1の効果を確認するために、実施例として、破断溝3211と環状溝3212とを有する薄肉部3210を備えたガス排出弁321が設けられたケース3と、比較例として、破断溝のみを有する薄肉部(即ち、環状溝のない薄肉部)を備えたガス排出弁が設けられたケースと、を準備し、ガス排出弁(詳しくは、薄肉部)のそれぞれに対し、裏側(ケースの内部側)から1.0MPaの力を等分布的に印加した。このとき、本実施例のガス排出弁、及び比較例のガス排出弁のそれぞれにおいて、薄肉部の厚さは、0.0273mm、薄肉部の直径は、1.000mm、破断溝の幅は、0.0182mm、破断溝の深さは、0.0182mmであった。また、本実施例のガス排出弁321において、環状溝3212の幅は、0.0182mm、環状溝3212の深さは、0.0182mm、環状溝3212の直径は、0.952mmであった。
【0062】
その結果、本実施例の破断溝3211の幅の最大値は、0.0231mm、比較例の破断溝の幅の最大値は、0.0215mmとなった。このように、薄肉部に破断溝と環状溝とを設けることで、薄肉部に破断溝しか設けなかった場合に比べ、10%ほど変位量が大きくなり、ケースの内圧によってガス排出弁(薄肉部)が変形し易くなることが確認された。
【0063】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0064】
ガス排出弁321の破断溝3211に含まれる線状溝3215の具体的な数は、限定されない。上記実施形態の破断溝3211は、四つの線状溝3215を含むが、例えば、線状溝3215を一つ〜三つ、又は五つ以上含む構成であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態のガス排出弁321では、複数の線状溝3215は、隣り合う線状溝3215同士のなす角が等しくなるように配置されているが、この構成に限定されない。複数の線状溝3215は、例えば、図11及び図12に示すように、前記なす角が等しくない配置でもよい。例えば、線状溝3215が二つの場合、これら二つの線状溝3215は、図13に示すように、Z軸方向視において、破断溝3211が真っ直ぐ延びるように配置されてもよく、図14に示すように、Z軸方向視において、破断溝3211が屈曲するように配置されてもよい。
【0066】
また、上記実施形態のガス排出弁321では、各線状溝3215は、所定位置35から膨出部3210Aの周縁まで延びているが、前記周縁の手前まで延びてもよく、前記周縁を超えて延びてもよい。
【0067】
また、上記実施形態のガス排出弁321の薄肉部3210は、円形の輪郭を有しているが、この構成に限定されない。薄肉部3210の輪郭は、楕円、レーストラック形状等の他の形状であってもよい。
【0068】
また、上記実施形態のガス排出弁321では、薄肉部3210の一部(上記実施形態の例では、膨出部3210A)が膨出しているが、この構成に限定されない。例えば、薄肉部3210は、図15及び図16に示すように、全体が膨出していてもよく、全体が平らであってもよい。ガス排出弁321が膨出する構成でない場合、即ち、平坦な構成の場合は、線状溝3215が集まる(合流する)所定位置35が、薄肉部3210の中心からずれた位置に設定されてもよい。また、所定位置35が複数設けられてもよい。
【0069】
また、上記実施形態においては、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態において、蓄電素子の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0070】
蓄電素子(例えば電池)1は、図17に示すような蓄電装置(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)11に用いられてもよい。蓄電装置11は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材12と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子1に適用されていればよい。
【符号の説明】
【0071】
1…蓄電素子、2…電極体、21…巻芯、23…正極、231…金属箔、232…正極活物質層、24…負極、241…金属箔、242…負極活物質層、25…セパレータ、3…ケース、31…ケース本体、311…閉塞部、312…胴部、313…長壁部、314…短壁部、32…蓋板、321…ガス排出弁、3210…薄肉部、3210A…膨出部、3210B…平坦部、3211…破断溝、3212…環状溝、3215…線状溝、325…注液穴、326…注液栓、33…内部空間、34…開口周縁部、35…頂点位置(所定位置)、4…外部端子、41…面、5…集電体、50…クリップ部材、6…絶縁部材、11…蓄電装置、12…バスバ部材、100…密閉電池、101…ガス排出弁、102…破断溝、103…外装缶、104…封口板
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