特許第6709533号(P6709533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6709533高分子化合物、その変性物及びその製造方法、並びに、高分子材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709533
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】高分子化合物、その変性物及びその製造方法、並びに、高分子材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/22 20060101AFI20200608BHJP
   C08F 297/02 20060101ALI20200608BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20200608BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   C08F12/22
   C08F297/02
   C08F8/00
   C08J3/24CET
【請求項の数】9
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-75039(P2016-75039)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2016-210965(P2016-210965A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-92756(P2015-92756)
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】石曽根 隆
(72)【発明者】
【氏名】小松 伸一
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−061234(JP,A)
【文献】 特表2013−538883(JP,A)
【文献】 特開昭50−071786(JP,A)
【文献】 特開2000−191723(JP,A)
【文献】 特開昭57−105413(JP,A)
【文献】 特開平11−148034(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00232679(EP,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103288873(CN,A)
【文献】 特開2000−169521(JP,A)
【文献】 米国特許第04038469(US,A)
【文献】 特開2002−206088(JP,A)
【文献】 特開昭62−075439(JP,A)
【文献】 国際公開第92/020721(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/22
C08F 8/00
C08F 297/02
C08J 3/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)で表される構造単位を有し、
数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)が2.0以下である、高分子化合物。
【化1】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基であり、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、3−メチルアダマンチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、トリエチルメチル基、トリプロピルメチル基、トリブチルメチル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、メチルメタノシクロヘキシル基、メチルメタノシクロヘキセニル基、メチルジメタノシクロデシル基、メチルジメタノシクロデセニル基、メチルトリメタノシクロテトラデシル基又はメチルトリメタノシクロテトラデセニル基を示す。]
【請求項2】
前記式(1−1)で表される構造単位を有するブロック鎖を有するブロック共重合体である、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
下記式(1−2)で表される構造を有する、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【化2】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基であり、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、3−メチルアダマンチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、トリエチルメチル基、トリプロピルメチル基、トリブチルメチル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、メチルメタノシクロヘキシル基、メチルメタノシクロヘキセニル基、メチルジメタノシクロデシル基、メチルジメタノシクロデセニル基、メチルトリメタノシクロテトラデシル基又はメチルトリメタノシクロテトラデセニル基を示し、nは2以上の整数を示す。]
【請求項4】
前記式(1−2)で表される構造を有するブロック鎖を有するブロック共重合体である、請求項3に記載の高分子化合物。
【請求項5】
下記式(2−1)で表される化合物の単独重合体である、請求項1に記載の高分子化合物。
【化3】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基であり、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、3−メチルアダマンチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、トリエチルメチル基、トリプロピルメチル基、トリブチルメチル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、メチルメタノシクロヘキシル基、メチルメタノシクロヘキセニル基、メチルジメタノシクロデシル基、メチルジメタノシクロデセニル基、メチルトリメタノシクロテトラデシル基又はメチルトリメタノシクロテトラデセニル基を示す。]
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の高分子化合物を製造する方法であって、
下記式(2−1)で表される化合物を含む単量体成分をアニオン重合させる工程を備える、製造方法。
【化4】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基であり、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、3−メチルアダマンチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、トリエチルメチル基、トリプロピルメチル基、トリブチルメチル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、メチルメタノシクロヘキシル基、メチルメタノシクロヘキセニル基、メチルジメタノシクロデシル基、メチルジメタノシクロデセニル基、メチルトリメタノシクロテトラデシル基又はメチルトリメタノシクロテトラデセニル基を示す。]
【請求項7】
前記工程において、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いる、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の高分子化合物が有するアシル基を変性してなる、前記高分子化合物の変性物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の高分子化合物及び/又は請求項に記載の変性物を含有する、高分子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子化合物、その変性物及びその製造方法、当該製造方法に用いられる化合物及びその製造方法に関する。本発明はまた、高分子化合物及びその変性物の少なくとも一方を含有する高分子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンのアニオン重合はリビング的に進行し、設計値通りの分子量と狭い分子量分布を有するポリマーを与えることが知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】野瀬卓平、宮田清蔵、中浜精一、大学院高分子科学、講談社サイエンティフィク、1997年6月10日、P193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アシル基を有するスチレン誘導体をアニオン重合することは困難であり、アシル基を有するスチレン誘導体のアニオン重合に成功した例は知られていない。
【0005】
一方、アシル基は、種々の官能基への変換が可能であるため、アシル基を有するスチレン誘導体に由来する構造単位を含む高分子化合物は、高分子材料の原料として有用であると考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アシル基を有するスチレン誘導体に由来する構造単位を含む、新規な高分子化合物、当該高分子化合物の変性物及び当該高分子化合物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記高分子化合物の製造方法に用いられる化合物及び当該化合物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記高分子化合物及びその変性物の少なくとも一方を含む高分子材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、下記式(1−1)で表される構造単位を有する高分子化合物に関する。
【化1】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。]
【0008】
一態様において、上記高分子化合物は、上記式(1−1)で表される構造単位を有するブロック鎖を有するブロック共重合体であってよい。
【0009】
一態様において、上記高分子化合物は、下記式(1−2)で表される構造を有していてよい。
【化2】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示し、nは2以上の整数を示す。]
【0010】
一態様において、上記高分子化合物は、上記式(1−2)で表される構造を有するブロック鎖を有するブロック共重合体であってよい。
【0011】
一態様において、上記高分子化合物は、下記式(2−1)で表される化合物の単独重合体であってよい。
【化3】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。]
【0012】
一態様において、上記高分子化合物は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)が2.0以下であってよい。
【0013】
一態様において、上記炭化水素基は、炭素数が4〜40のアルキル基であってよい。
【0014】
本発明の他の側面は、上記高分子化合物を製造する方法であって、下記式(2−1)で表される化合物を含む単量体成分をアニオン重合させる工程を備える製造方法に関する。
【化4】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。]
【0015】
一態様において、上記工程は、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いて、アニオン重合を行う工程であってよい。
【0016】
本発明の他の側面は、下記式(2−1)で表される化合物に関する。
【化5】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。]
【0017】
本発明の他の側面は、上記化合物を製造する方法であって、下記式(3)で表される化合物と下記式(4)で表される化合物とを反応させる工程を備える製造方法に関する。
【化6】

[式中、Xはハロゲン基を示す。]
【化7】

[式中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。Xはハロゲン基又はアシロキシ基を示す。]
【0018】
本発明の他の側面は、上記高分子化合物が有するアシル基を変性してなる、上記高分子化合物の変性物に関する。
【0019】
本発明の他の側面は、上記高分子化合物及び/又は上記変性物を含有する、高分子材料に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アシル基を有するスチレン誘導体に由来する構造単位を含む、新規な高分子化合物、当該高分子化合物の変性物及び当該高分子化合物の製造方法が提供される。また、本発明によれば、上記高分子化合物の製造方法に用いられる化合物及び当該化合物の製造方法が提供される。また、本発明によれば、上記高分子化合物及びその変性物の少なくとも一方を含む高分子材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例で用いた化合物AのH−NMRチャートを示す図である。である。
図2】実施例で用いた化合物Aの13C−NMRチャートを示す図である。
図3】実施例で用いた化合物BのH−NMRチャートを示す図である。
図4】実施例で用いた化合物Bの13C−NMRチャートを示す図である。
図5】実施例で用いた化合物CのH−NMRチャートを示す図である。
図6】実施例で用いた化合物Cの13C−NMRチャートを示す図である。
図7】実施例で用いた化合物DのH−NMRチャートを示す図である。
図8】実施例で用いた化合物Dの13C−NMRチャートを示す図である。
図9】実施例1で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図10】実施例8で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図11】実施例15で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図12】実施例16で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図13】実施例17で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図14】実施例17で得られたホモ重合体のH−NMRチャートを示す図である。
図15】実施例17で得られた高分子化合物及びホモ重合体のGPC測定結果を示す図である。
図16】実施例18で得られた高分子化合物のH−NMRチャートを示す図である。
図17】実施例19で用いた高分子化合物及び実施例19で得られた高分子化合物のFT−IRチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0023】
(高分子化合物)
本実施形態に係る高分子化合物は、下記式(1−1)で表される構造単位を有する。
【0024】
【化8】
【0025】
式(1−1)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。ここで、α位に水素原子を有しない炭化水素基とは、カルボニル基に隣接する炭素原子上に水素原子を有しない炭化水素基を意味する。
【0026】
の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、又は芳香族基であってよい。Rのアルキル基は、分岐状又は環状のアルキル基である。当該アルキル基の炭素数は、例えば、4〜40であってよく、4〜30であってよく、4〜20であってよい。Rのアルケニル基は、分岐状又は環状のアルケニル基である。当該アルケニル基の炭素数は、例えば、5〜40であってよく、5〜30であってよく、5〜20であってよい。Rの芳香族基は、芳香族炭化水素から水素原子を一つ除いてなる基である。当該芳香族基の炭素数は、例えば、6〜40であってよく、6〜30であってよく、6〜20であってよい。
【0027】
は、例えば、下記式(a)で表されるアルキル基であってよい。
【0028】
【化9】
【0029】
式(a)中、R10、R11及びR12はそれぞれ独立に炭化水素基を示す。R10、R11及びR12は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0030】
10、R11及びR12の炭化水素基は、例えば、直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基又は芳香族基であってよい。当該アルキル基の炭素数は、例えば、1〜10であってよく、1〜5であってよく、1〜3であってよい。当該芳香族基の炭素数は、例えば、6〜37であってよく、6〜27であってよく、6〜17であってよい。
【0031】
10、R11及びR12のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等であってよい。R10、R11及びR12の芳香族基は、例えばフェニル基等であってよい。
【0032】
また、Rは、式(a)におけるR10とR11とが互いに結合して脂環式基を形成したものであってよく、R10とR11とR12とが互いに結合して脂環式基を形成したものであってもよい。脂環式基は、飽和脂環式基であってよく、不飽和脂環式基であってもよい。
【0033】
の具体例としては、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、3−メチルアダマンチル基、3,5−ジメチルアダマンチル基、トリエチルメチル基、トリプロピルメチル基、トリブチルメチル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、メチルメタノシクロヘキシル基(メチルノルボルナン基)、メチルメタノシクロヘキセニル基(メチルノルボルネン基)、メチルジメタノシクロデシル基、メチルジメタノシクロデセニル基、メチルトリメタノシクロテトラデシル基、メチルトリメタノシクロテトラデセニル基等が挙げられる。
【0034】
高分子化合物の耐熱性が向上する観点からは、Rは、1−アダマンチル基又はメチルジメタノシクロデセニル基であることが好ましい。
【0035】
高分子化合物の原料モノマーの調製が容易となる観点からは、Rは、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、フェニル基又はメチルジメタノシクロデセニル基であることが好ましく、1−アダマンチル基、フェニル基又はメチルジメタノシクロデセニル基であることがより好ましい。
【0036】
高分子化合物のカルボニル基の官能基変換が容易となる観点からは、Rは、tert−ブチル基、1−アダマンチル基、フェニル基又はメチルジメタノシクロデセニル基であることが好ましく、tert−ブチル基又はフェニル基であることがより好ましい。
【0037】
高分子化合物が式(1−1)で表される構造単位を複数有する場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0038】
高分子化合物は、式(1−1)で表される構造単位が複数連結した構造を有する高分子化合物であってよい。すなわち、高分子化合物は、下記式(1−2)で表される構造を有するものであってよい。
【0039】
【化10】
【0040】
式(1−2)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示し、nは2以上の整数を示し、複数のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。式(1−2)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0041】
式(1−2)におけるnは、例えば2以上であってよく、100以上であってよく、1000以上であってよい。また、式(1−2)におけるnは、1.0×10以下であってよく、1.0×10以下であってよく、1.0×10以下であってよい。
【0042】
高分子化合物の数平均分子量Mnは、例えば500〜1.0×10であってよく、5000〜1.0×10であってよく、5.0×10〜1.0×10であってよい。
【0043】
高分子化合物において、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)は、例えば、2.0以下であってよく、1.7以下であってよく、1.4以下であってよい。ここでMw/Mnは、分子量分布を表し、Mw/Mnが小さいことは分子量分布が狭いことを意味する。なお、Mw/Mnの下限は1である。
【0044】
本実施形態において、数平均分子量Mnは、RALLS−GPC法(Right Angle Laser Light Scattering GPC)により測定された値を示す。なお、RALLS−GPC法による測定は、実施例に記載の方法で行われる。
【0045】
本実施形態において、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算のMn及びMwから算出された値を示す。なお、GPCによる測定は、実施例に記載の方法で行われる。
【0046】
式(1−1)で表される構造単位は、カルボニル基の官能基変換が容易となる点、機械特性及び熱特性の点で有利となる点、並びに、原料入手性に優れる点から、下記式(1−3)で表される構造単位であることが好ましい。高分子化合物が式(1−1)で表される構造単位を複数有する場合、複数の構造単位のすべてが式(1−3)で表される構造単位であってもよい。
【0047】
【化11】
【0048】
式(1−3)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。式(1−3)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0049】
式(1−1)で表される構造単位は、下記式(2−1)で表される化合物に由来する構造単位ということができる。
【0050】
【化12】
【0051】
式(2−1)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。式(2−1)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0052】
高分子化合物は、主鎖の末端の一方又は両方に、重合開始剤又は重合停止剤に由来する基を有していてもよい。
【0053】
一態様において、高分子化合物は、式(1−1)で表される構造単位と、重合開始剤又は重合停止剤に由来する基のみからなる高分子化合物であってもよい。このような高分子化合物としては、例えば、式(2−1)で表される化合物の単独重合体が挙げられる。
【0054】
また、他の一態様において、高分子化合物は、式(1−1)で表される構造単位以外の構造単位を有していてもよい。このような構造単位は、式(2−1)で表される化合物以外の重合性化合物(以下、場合により「他の単量体」という。)に由来する構造単位ということができる。
【0055】
他の単量体としてはアニオン重合性化合物が好適に用いられる。アニオン重合性化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、o−tert−ブチルスチレン、m−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−フェニルスチレン、m−フェニルスチレン、p−フェニルスチレン等のスチレン系化合物;1,3−ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、クロロプレン、ペンタジエン類、ヘキサジエン類等のジエン系化合物;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニルヘテロアレーン系化合物;tert−ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系化合物;(メタ)アクリロニトリル等のアクリロニトリル系化合物等が挙げられる。
【0056】
高分子化合物中の式(1−1)で表される構造単位の含有量は特に制限されず、例えば、高分子化合物の全量基準で、10質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。
【0057】
また、さらに他の一態様において、高分子化合物は、式(1−1)で表される構造単位を有するブロック鎖を有するブロック共重合体であってよい。
【0058】
本実施形態において、ブロック共重合体とは、複数のポリマー鎖がブロックとして結合した直鎖コポリマーをいう。ブロック共重合体の代表例は、構造単位Aを有するブロック鎖Aと構造単位Bを有するブロック鎖Bとが末端同士で結合した、−(AA・・AA)−(BB・・BB)−という構造を持つA−B型ジブロックポリマーである。また、本態様の高分子化合物は、3種以上のブロック鎖が結合したブロック共重合体であってもよい。トリブロックポリマーの場合、A−B−A型、B−A−B型、A−B−C型のいずれでもよい。また、本態様の高分子化合物は、1種又は複数種のブロック鎖が中心から放射状に延びたスター型のブロック共重合体であってもよい。さらに、本態様の高分子化合物は、ブロック鎖が4つ以上(例えば、(A−B)n型、(A−B−A)n型など)のブロック共重合体であってもよい。
【0059】
すなわち、高分子化合物は、式(1−1)で表される構造単位を有するブロック鎖Aと、当該ブロック鎖Aと結合するブロック鎖Bとを有するものであってよい。
【0060】
ブロック鎖Aは、式(1−1)で表される構造単位以外の構造単位を有していてよい。例えば、ブロック鎖Aは、上述した他の単量体に由来する構造単位をさらに有していてよい。
【0061】
ブロック鎖Aにおける式(1−1)で表される構造単位の含有量は特に制限されず、例えば、ブロック鎖Aの全量基準で10質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。
【0062】
ブロック鎖Bは、ブロック鎖Aと異なる構造を有するブロック鎖であればよい。また、高分子化合物は、ブロック鎖A及びブロック鎖Bのいずれとも異なるブロック鎖Cをさらに有していてもよい。
【0063】
ブロック鎖Aと異なる構造を有するブロック鎖(ブロック鎖B、ブロック鎖C等)は、例えば、アニオン重合性化合物に由来する構造単位を有するものであってよい。アニオン重合性化合物としては、例えば、式(2−1)で表される化合物、及び、上述の他の単量体として例示した化合物が挙げられる。
【0064】
ブロック鎖Aの数平均分子量Mnは、例えば500〜1.0×10であってよく、5000〜1.0×10であってよく、5.0×10〜1.0×10であってよい。
【0065】
ブロック鎖Aにおける数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)は、例えば、2.0以下であってよく、1.7以下であってよく、1.4以下であってよい。Mw/Mnの下限は1である。
【0066】
ブロック鎖Aと異なる構造を有するブロック鎖(ブロック鎖B、ブロック鎖C等)の重量平均分子量及び数平均分子量は特に制限されないが、数平均分子量は、例えば、500〜1.0×10であってよく、5000〜1.0×10であってよく、5.0×10〜1.0×10であってよい。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、2.0以下であってよく、1.7以下であってよく、1.4以下であってよい。
【0067】
本実施形態に係る高分子化合物は、優れた熱特性や機械的特性を有する。そのため、本実施形態に係る高分子化合物を含む高分子材料は種々の用途に好適に用いることができる。
【0068】
本実施形態に係る高分子化合物は、アシル基を有するため、該アシル基の官能基変換によって多様な変性物を得ることができる。
【0069】
本実施形態では、例えば、高分子化合物のアシル基に対して、求核付加反応、還元反応、酸化反応、光反応、カップリング反応、光カップリング反応、ラジカル反応、Wittig反応、アセタール化反応、イミン化反応、エステル化反応、重合反応(ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合等)などを行って変性物を得ることができる。より具体的には、例えば、求核付加反応によって高分子化合物に長鎖のアルキル基、ポリスチレン等の重合体などを付加させて、グラフトポリマー(櫛形重合体等)を得ることができる。また、例えば、アシル基を反応点として重合性化合物を重合させることによりグラフトポリマー(櫛形重合体等)を得ることができる。また、高分子化合物におけるRが芳香族基である場合、すなわち、高分子化合物がベンゾフェノン部位を有する場合、高分子化合物におけるベンゾフェノン部位が、分子内又は分子間で光反応してなる高分子化合物を得ることができる。このような高分子化合物は、ベンゾピナコール部位を有する。
【0070】
本実施形態に係る高分子化合物及び/又は当該高分子化合物の変成物を含む高分子材料は、例えば、自動車用エラストマー、工業用エラストマー、建築用エラストマー、雑貨用エラストマー、医療用エラストマー、食品用エラストマー、樹脂改質用エラストマー等の熱硬化性又は熱可塑性の各種エラストマー、各種接着剤、各種シーリング(コーキング)材、フィルム、樹脂、成形材、塗料、ゴム、被覆材などの用途に好適に用いることができる。自動車用エラストマーは、例えば、ウェザーストリップ、ハンドブレーキグリップカバー、シフトノブ、アームレスト、アシストグリップ、インスツルメントパネル、ドアパネル、エアバッグカバー、ベルトラインモール、ルーフモール、グラスランチャンネル、エンジンルーム、ブーツ、タイヤ等の用途に用いることができる。工業用エラストマーは、例えば、ガスケット、キャップシール、チューブ類、消音ギア、工具類のグリップ等の用途に用いることができる。建築用エラストマーは、例えば、制振・免震ゴム等の用途に用いることができる。雑貨用エラストマーは、例えば、歯ブラシ、ペン、かみそり、カッター等々のグリップ、靴底、玩具などの用途に用いることができる。医療用エラストマーは、例えば、輸液バッグ、輸液ポート、キャップ等の用途に用いることができる。食品用エラストマーは、例えば、キャップライナー等の用途に用いることができる。樹脂改質用エラストマーは、例えば、ポリプロピレンの耐衝撃性改良、ポリエチレンの耐熱性改良等の用途に用いることができる。
【0071】
(化合物)
本実施形態に係る化合物は、式(2−1)で表される。式(2−1)で表される化合物は、上述した高分子化合物の単量体成分として有用であり、該高分子化合物の製造方法に好適に用いることができる。本実施形態に係る化合物は、ケトン基含有スチレン誘導体と言い換えてもよい。
【0072】
【化13】
【0073】
式(2−1)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。式(2−1)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0074】
式(2−1)で表される化合物は、熱特性、機械特性及び原料入手性の観点からは、下記式(2−2)で表される化合物であることが好ましい。
【0075】
【化14】
【0076】
式(2−2)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示す。式(2−2)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0077】
式(2−1)で表される化合物は、例えば、下記式(3)で表される化合物と下記式(4)で表される化合物とを反応させる工程を備える製造方法によって得ることができる。
【0078】
【化15】
【0079】
【化16】
【0080】
式(3)中、Xはハロゲン基を示す。式(4)中、Rはα位に水素原子を有しない炭化水素基を示し、Xはハロゲン基又はアシロキシ基を示す。式(4)におけるRは、式(1−1)におけるRと同義である。
【0081】
は、クロロ基、ブロモ基又はヨード基であってよく、安定性、反応性、生産性、原料入手性及びコストの観点からは、クロロ基であることが好ましい。
【0082】
は、クロロ基、ブロモ基、ヨード基又はアシロキシ基であってよく、安定性、反応性、生産性、原料入手性及びコストの観点からは、クロロ基であることが好ましい。
【0083】
上記工程における反応条件は、通常のGrignard(グリニャール)反応の条件に従えばよく、当業者であれば適宜選択することができる。例えば、溶媒として、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、グリム(グライム)、ジグリム(ジグライム)、トリグリム(トリグライム)等のエーテル類、トルエン、キシレン、ベンゼンなどのベンゼン系溶媒等を用い、−20〜100℃で0.1〜100時間反応させればよい。また、上記工程は、塩化銅、ニッケル触媒、アルキルリチウム、ヨウ素、1,2−ジブロモエタン等の添加剤の存在下で行ってもよい。
【0084】
(高分子化合物の製造方法)
以下、上記高分子化合物を製造する方法の一態様について、詳細に説明する。
【0085】
上記高分子化合物の製造方法の一態様は、式(2−1)で表される化合物を含む単量体成分を重合させる工程(以下、「重合工程」ともいう。)を備える。
【0086】
重合工程では、単量体成分を、アニオン重合、配位重合、ラジカル重合又はカチオン重合により重合させてよい。
【0087】
以下では、単量体成分をアニオン重合させる場合、すなわち、上記高分子化合物の製造方法が、式(2−1)で表される化合物を含む単量体成分をアニオン重合させる工程(以下、「アニオン重合工程」ともいう。)を備える場合について、より詳細に説明する。
【0088】
アニオン重合工程において、式(2−1)で表される化合物由来の活性種は反応液中で安定に存在し得る。そのため、式(2−1)で表される化合物のアニオン重合はリビング的に進行する。すなわち、上記製造方法において、式(2−1)で表される化合物のアニオン重合はリビングアニオン重合である。したがって、上記製造方法によれば、設計通りの分子量と狭い分子量分布で上記高分子化合物を得ることができる。
【0089】
単量体成分は、式(2−1)で表される化合物のみからなっていてよく、式(2−1)で表される化合物以外の化合物を含んでいてもよい。単量体成分が、式(2−1)で表される化合物のみからなる場合、式(2−1)で表される化合物の単独重合体が得られる。
【0090】
式(2−1)で表される化合物以外の化合物としては、上述の他の単量体として例示した化合物が挙げられる。
【0091】
単量体成分中、式(2−1)で表される化合物の含有量は、例えば、単量体成分の全量基準で、10モル%以上であってよく、30モル%以上であってよく、50モル%以上であってよく、70モル%以上であってよく、90モル%以上であってよい。
【0092】
アニオン重合工程では、例えば、有機溶媒中に分散又は溶解させた単量体成分を、アニオン重合開始剤と反応させる方法により単量体成分をアニオン重合させてよい。
【0093】
重合工程で用いられる有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系溶媒等が好適であり、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。脂肪族炭化水素としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、グリム(グライム)、ジグリム(ジグライム)等が挙げられる。
【0094】
上記製造方法では、各種アルカリ金属を含有するアニオン重合開始剤を用いることができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いることができる。分子量分布がより狭い高分子化合物を得ることができる点で、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いることが好ましい。これらのアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いることにより、分子量分布がより狭い高分子化合物を得ることができる理由を、本発明者らは以下のように推測している。なお、以下では、便宜上、アニオン重合開始剤のうち、上記単量体成分との反応において求核種となる部分をアニオン部といい、対カチオンとなる部分をカチオン部という。
【0095】
アシル基を有する単量体のアニオン重合では、副反応として、アニオン重合開始剤とアシル基との反応、又は、成長末端アニオンとアシル基との反応が起こるおそれがある。アニオン重合開始剤のカチオン部に由来する対カチオンのイオン半径が大きい場合、アニオン重合開始剤又は成長末端アニオンと、アシル基との反応が進行しにくくなると推測される。ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属元素は、アニオン重合においてイオン半径が大きい対カチオンとなるため、これらのアルカリ金属元素を有するアニオン重合開始剤を用いることにより、分子量分布がより狭い高分子化合物を得ることができる、と本発明者らは推測している。
【0096】
アニオン重合開始剤のアニオン部は、例えば、ナフタレン基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等であってよい。これらのアニオン部は、適度にかさ高く、共鳴安定化により求核性が弱いため、これらのアニオン部を有する重合開始剤を用いることにより、設計通りの分子量及びより狭い分子量分布を有する高分子化合物が得られやすい傾向がある。これらの中でも、ジフェニルメチル基及びトリフェニルメチル基が好ましい。
【0097】
アニオン重合工程で用いることができるアニオン重合開始剤の具体的な例としては、リチウムナフタレン、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、セシウムナフタレン、ベンジルリチウム、ベンジルナトリウム、ベンジルカリウム、ベンジルセシウム、ジフェニルメチルリチウム、ジフェニルメチルナトリウム、ジフェニルメチルカリウム、ジフェニルメチルセシウム、トリフェニルメチルリチウム、トリフェニルメチルナトリウム、トリフェニルメチルカリウム、トリフェニルメチルセシウム、メチルリチウム、エチルリチウム、ノルマルプロピルリチウム、イソプロピルリチウム、ノルマルブチルリチウム、イソブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等が挙げられる。
【0098】
アニオン重合開始剤の量は、所望の高分子化合物の分子量等に応じて適宜調整することができるが、例えば、単量体成分100質量部に対し、0.00001〜100質量部であってよく、0.001〜10質量部であってよく、0.1〜1質量部であってよい。
【0099】
アニオン重合工程では、重合停止剤を用いてもよい。重合停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;水などが挙げられる。
【0100】
アニオン重合の反応時間は、単量体成分の転化率等に応じて適宜調整できるが、例えば、0.1〜100時間であってよく、1〜10時間であってよい。アニオン重合の反応温度は、単量体成分の転化率、所望の高分子化合物の分子量分布等に応じて適宜調整できるが、例えば、−100℃〜100℃であってよく、−50℃〜50℃であってよい。
【0101】
一態様において、上記重合工程は、式(2−1)で表される化合物を含む単量体成分Aを重合させてブロック鎖Aを得る工程Aと、単量体成分Bを重合させてブロック鎖Bを得る工程Bと、を含むものであってよい。このような重合工程を備える製造方法によれば、式(1−1)で表される構造単位を有するブロック鎖Aを有するブロック共重合体を製造することができる。
【0102】
上記工程A及びBでは、単量体成分を、アニオン重合、配位重合、ラジカル重合又はカチオン重合により重合させてよい。
【0103】
単量体成分Aは、式(2−1)で表される化合物以外の化合物をさらに含んでいてもよい。当該化合物としては、上述の他の単量体として例示した化合物が挙げられる。
【0104】
単量体成分A中、式(2−1)で表される化合物の含有量は、例えば、単量体成分Aの全量基準で、10モル%以上であってよく、30モル%以上であってよく、50モル%以上であってよく、70モル%以上であってよく、90モル%以上であってよい。
【0105】
単量体成分Bは、単量体成分Aと異なる組成を有し、ブロック鎖Aと異なる構造を有するブロック鎖Bを形成し得るものであればよい。
【0106】
単量体成分Bは、アニオン重合性化合物を含むことが好ましく、アニオン重合性化合物としては、例えば、式(2−1)で表される化合物、及び、上述の他の単量体として例示した化合物が挙げられる。
【0107】
上記製造方法において、工程Aと工程Bを行う順番は特に限定されない。
【0108】
例えば、上記重合工程は、単量体成分Aをアニオン重合させて、末端に活性点を有するブロック鎖Aを得る工程Aと、ブロック鎖Aの活性点と単量体成分Bとを反応させて、ブロック鎖Aと結合するブロック鎖Bを得る工程Bと、を含んでよい。
【0109】
また、上記重合工程は、単量体成分Bをアニオン重合させて、末端に活性点を有するブロック鎖Bを得る工程Bと、ブロック鎖Bの活性点と単量体成分Aとを反応させて、ブロック鎖Bと結合するブロック鎖Aを得る工程Aと、を含んでもよい。
【0110】
なお、式(2−1)で表される化合物の求電子性が高いため、上記工程A及びBにおいて単量体成分をアニオン重合により重合させる場合は、工程Bを行った後、工程Aを行うことにより、設計通りの分子量及びより狭い分子量分布を有する高分子化合物が得られやすくなる傾向がある。
【0111】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0113】
本実施例では、単量体成分として、下記式(A−1)で表される化合物(化合物A)、下記式(B−1)で表される化合物(化合物B)、下記式(C−1)で表される化合物(化合物C)及び下記式(D−1)で表される化合物(化合物D)を用いた。下記化合物A、化合物B、化合物C及び化合物DのH−NMRチャート及び13C−NMRチャートを図1図8に示す。なお、本実施例において、H−NMR及び13C−NMRの測定は、DPX300(Bruker製)を用いて行い、溶媒にはCDClを用いた。
【0114】
【化17】

[式中、Adは1−アダマンチル基を示す。]
【0115】
【化18】

[式中、Buはtert−ブチル基を示す。]
【0116】
【化19】

[式中、Phはフェニル基を示す。]
【0117】
【化20】

[式中、MDはメチルジメタノシクロデセニル基を示す。]
【0118】
(実施例1)
化合物Aのアニオン重合を、パイレックス(登録商標)製反応容器を用いてブレークシール法にて行った。
【0119】
具体的には、パイレックス(登録商標)製反応容器に、ブレークシールによって封じられたジフェニルメチルリチウム(PhCHLi)10.7mg(0.0615mmol)を含むヘプタン溶液2ml(関東化学製)のアンプルと、化合物A 594.0mg(2.23mmol)及びテトラヒドロフラン(THF)8mlを含むアンプルを溶接した。その後、反応容器を高真空ライン(10−6mmHg)に接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返し、反応容器を溶封した。
【0120】
次いで、ジフェニルメチルリチウム溶液が収容されている容器のブレークシールを割り、反応容器にジフェニルメチルリチウム溶液を移したのち、−78℃に冷却した。ジフェニルメチルリチウム溶液を含む反応溶液を激しく攪拌し、同じく−78℃に冷却した化合物AとTHFを含む容器のブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま48時間反応させた。
【0121】
重合終了後、反応容器を開封し、重合停止剤であるメタノール2mlを添加し、重合を停止した。その反応溶液を100mlのメタノールに注ぎ込んだところ、白色の固体が沈殿した。その固体を桐山ロート及び桐山ろ紙を用いた減圧ろ過によってろ別した後に、5mlのベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行うことで、下記式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物1)を30mg得た。得られた高分子化合物1のH−NMRチャートを図9に示す。なお、得られた高分子化合物1のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は10%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して5質量%であった。
【0122】
【化21】

[式中、Adは1−アダマンチル基を示す。]
【0123】
得られた高分子化合物1について、下記(I)の方法で、数平均分子量Mnの計算値を算出した。また、下記(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnを測定した。結果は表1に示すとおりであった。
【0124】
(I)数平均分子量Mnの計算値の算出
得られた高分子化合物の末端に存在する重合開始剤及び重合停止剤に由来する部分構造の分子量と、重合開始剤の使用量(モル)に対する単量体成分の使用量(モル)の比(単量体成分の使用量/重合開始剤の使用量)に基づき算出した重合鎖の分子量と、を合計して、数平均分子量Mnの計算値とした。
【0125】
(II)数平均分子量Mnの測定
Right Angle Laser Light Scattering GPC(RALLS−GPC)を用いて、高分子化合物1の数平均分子量Mnを測定した。より具体的には、屈折率計、散乱強度計及び粘度計を検出器として有するViscotek Model 302 Triple Detector Array(旭テクネイオン(株)製)を使用し、流量を1.0ml/min、カラムオーブンの温度を30℃に設定して、測定を行った。流出溶媒にはTHFを用い、分析カラムはTOSOH G5000HXL+G4000 HXL+G3000 HXLを使用した。
【0126】
(III)比(Mw/Mn)の測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)を測定した。より具体的には、Viscotek Model 302 Triple Detector Array(旭テクネイオン(株)製)を使用した。
【0127】
(実施例2)
ジフェニルメチルリチウムの使用量を10.2mg(0.0584mmol)とし、化合物Aの使用量を442.2mg(1.66mmol)とし、反応時間を72時間とし、反応温度を0℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物2)を389mg得た。得られた高分子化合物2のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して88質量%であった。
【0128】
得られた高分子化合物2について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0129】
(実施例3)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルナトリウム(PhCHNa)10.3mg(0.0541mmol)を用い、化合物Aの使用量を532.8mg(2.00mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物3)を426mg得た。得られた高分子化合物3のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は89%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して80質量%であった。
【0130】
得られた高分子化合物3について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0131】
(実施例4)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルカリウム(PhCHK)8.5mg(0.0412mmol)を用い、化合物Aの使用量を1251mg(4.70mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物4)を1039mg得た。得られた高分子化合物4のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して83質量%であった。
【0132】
得られた高分子化合物4について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0133】
得られた高分子化合物4について、下記(IV)の方法でガラス転移温度Tg及び10質量%減少温度T10を測定した。Tgは193℃であり、T10は430℃であった。なお、10質量%減少温度T10、高分子化合物4の質量が、測定開始時の質量から10質量%減少した時の温度を意味する。
【0134】
(IV)ガラス転移温度Tg及び10質量%減少温度T10の測定
DSC装置(セイコー電子社製「DSC6220」)を用いて測定した。測定は、一度100℃まで試料を加熱し、同温度で10分間アニールを施した後、室温まで試料を急冷した。この後、再度20℃/分で昇温して、ガラス転移温度(Tg)及び10質量%減少温度(T10)を測定した。
【0135】
(実施例5)
ジフェニルメチルリチウムに代えてカリウムナフタレン(K−Naph)13.2mg(0.0792mmol)を用い、化合物Aの使用量を498.1mg(1.87mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物5)を443mg得た。得られた高分子化合物5のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して89質量%であった。
【0136】
得られた高分子化合物5について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0137】
(実施例6)
ジフェニルメチルリチウムに代えてトリフェニルメチルカリウム(PhCK)22.4mg(0.0794mmol)を用い、化合物Aの使用量を668.6mg(2.51mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物6)を595mg得た。得られた高分子化合物6のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は95%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して89質量%であった。
【0138】
得られた高分子化合物6について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0139】
(実施例7)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルセシウム(PhCHCs)20.9mg(0.0697mmol)を用い、化合物Aの使用量を623.3mg(2.34mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物7)を530mg得た。得られた高分子化合物7のH−NMRから求めた化合物Aの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Aに対して85質量%であった。
【0140】
得られた高分子化合物7について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0141】
(実施例8)
化合物Aに代えて化合物B 523.4mg(2.78mmol)を用い、ジフェニルメチルリチウムの使用量を9.9mg(0.0566mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、下記式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物8)を52mg得た。得られた高分子化合物8のH−NMRチャートを図10に示す。なお、得られた高分子化合物8のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は16%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して10質量%であった。
【0142】
【化22】

[式中、Buはtert−ブチル基を示す。]
【0143】
得られた高分子化合物8について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。また、上記(IV)の方法で、ガラス転移温度(Tg)及び10質量%減少温度(T10)の測定を行った。Tgは135℃であり、T10は415℃であった。
【0144】
(実施例9)
ジフェニルメチルリチウムの使用量を10.1mg(0.0581mmol)とし、化合物Bの使用量を561.0mg(2.98mmol)とし、反応時間を72時間とし、反応温度を0℃としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物9)を476.9mg得た。得られた高分子化合物9のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して85質量%であった。
【0145】
得られた高分子化合物9について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0146】
(実施例10)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルナトリウム9.8mg(0.0517mmol)を用い、化合物Bの使用量を564.8mg(3.00mmol)とし、反応時間を72時間としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物10)を441mg得た。得られた高分子化合物10のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は83%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して78質量%であった。
【0147】
得られた高分子化合物10について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0148】
(実施例11)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルカリウム8.8mg(0.0428mmol)を用い、化合物Bの使用量を431.1mg(2.29mmol)とし、反応時間を72時間としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物11)を272mg得た。得られた高分子化合物11のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して63質量%であった。
【0149】
得られた高分子化合物11について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0150】
(実施例12)
ジフェニルメチルリチウムに代えてトリフェニルメチルカリウム21.4mg(0.0757mmol)を用い、化合物Bの使用量を679.7mg(3.61mmol)としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物12)を415mg得た。得られた高分子化合物12のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は99%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して61質量%であった。
【0151】
得られた高分子化合物12について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0152】
(実施例13)
ジフェニルメチルリチウムに代えてカリウムナフタレン23.3mg(0.139mmol)を用い、化合物Bの使用量を625.1mg(3.32mmol)としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物13)を538mg得た。得られた高分子化合物13のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は98%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して86質量%であった。
【0153】
得られた高分子化合物13について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0154】
(実施例14)
ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルセシウム19.3mg(0.0643mmol)を用い、化合物Bの使用量を675.9mg(3.59mmol)としたこと以外は、実施例8と同様にしてアニオン重合を行い、式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物14)を412mg得た。得られた高分子化合物14のH−NMRから求めた化合物Bの転化率は98%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Bに対して61質量%であった。
【0155】
得られた高分子化合物14について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0156】
(実施例15)
化合物Aに代えて化合物C 556.1mg(2.67mmol)を用い、ジフェニルメチルリチウムに代えてトリフェニルメチルカリウム16.2mg(0.0573mmol)を用い、反応温度を0℃とし、反応時間を24時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、下記式(C−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物15)を556.1mg得た。得られた高分子化合物15のH−NMRチャートを図11に示す。なお、得られた高分子化合物15のH−NMRから求めた化合物Cの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Cに対して100質量%であった。
【0157】
得られた高分子化合物15について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示す通りであった。また、上記(IV)の方法で、ガラス転移温度(Tg)及び10質量%減少温度(T10)の測定を行った。Tgは120℃であり、T10は408℃であった。
【化23】

[式中、Phはフェニル基を示す。]
【0158】
(実施例16)
化合物Aに代えて化合物D 462.7mg(1.52mmol)を用い、ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルカリウム8.7mg(0.042mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、下記式(D−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物16)を351.7mg得た。得られた高分子化合物16のH−NMRチャートを図12に示す。なお、得られた高分子化合物17のH−NMRから求めた化合物Cの転化率は100%であった。また、ポリマー収率は、仕込んだ化合物Dに対して76質量%であった。
【0159】
得られた高分子化合物16について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。また、上記(IV)の方法で、ガラス転移温度(Tg)及び10質量%減少温度(T10)の測定を行った。Tgは172℃であり、T10は283℃であった。
【化24】

[式中、MDはメチルジメタノシクロデセニル基を示す。]
【0160】
(参考例1)
ジフェニルメチルリチウムに代えてsec−ブチルリチウム(sec−BuLi)2.69mg(0.0420mmol)を用い、化合物Aの使用量を444.9mg(1.67mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を試みたが、化合物Aのアニオン重合は進行しなかった。
【0161】
(参考例2)
ジフェニルメチルリチウムに代えてsec−ブチルリチウム1.97mg(0.0308mmol)を用い、化合物Bの使用量を504.6mg(2.68mmol)としたこと以外は、実施例8と同様にして化合物Bのアニオン重合を試みたが、化合物Bのアニオン重合は進行しなかった。
【0162】
(参考例3)
ジフェニルメチルリチウムに代えてカリウムナフタレン23.3mg(0.139mmol)を用い、化合物Aに代えてスチレン13.3g(128mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてスチレンのアニオン重合を行い、ポリスチレンを13g得た。
【0163】
得られたポリスチレンについて、上記(II)、(III)及び(IV)の方法で、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定、並びに、ガラス転移温度(Tg)及び10質量%減少温度(T10)の測定を行った。Mnは96000であり、Mw/Mnは1.04であり、Tgは104℃であり、T10は396℃であった。
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【0166】
(実施例17)
化合物A及び化合物Bのブロック共重合を、パイレックス(登録商標)製反応容器を用いてブレークシール法にて行った。
【0167】
具体的には、パイレックス(登録商標)製反応容器に、ブレークシールによって封じられたジフェニルメチルカリウム16.4mg(0.0796mmol)を含むTHF溶液2mlのアンプルと、化合物A 514.1mg(1.93mmol)及びTHF8mlを含むアンプルと、化合物B 487.6mg(2.59mmol)及びTHF6mlを含むアンプルと、を溶接した。その後、反応容器を高真空ライン(10−6mmHg)に接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返し、反応容器を溶封した。
【0168】
次いで、ジフェニルメチルカリウム溶液が収容されているブレークシールを割り、反応容器にジフェニルメチルカリウム溶液を移したのち、−78℃に冷却した。ジフェニルメチルカリウム溶液を含む反応溶液を激しく攪拌し、同じく−78℃に冷却した化合物A及びTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま48時間反応させた。その後、化合物B及びTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま48時間攪拌した。重合終了後、反応溶液を開封し、重合停止剤であるメタノール2mlを添加し、重合を停止した。
【0169】
反応溶液を200mlのメタノールに注ぎ込んだところ、白色の固体が沈殿した。その固体を桐山ロート及び桐山ろ紙を用いた減圧ろ過によってろ別した後に、5mlのベンゼンに溶解させ、凍結乾燥を行うことで、式(A−2)で表される構造単位及び式(B−2)で表される構造単位を有する高分子化合物17を881mg得た。得られた高分子化合物17のH−NMRチャートを図13に示す。なお、ポリマー収率は、仕込んだ化合物A及び化合物Bの合計量に対して88質量%であった。
【0170】
得られた高分子化合物17について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。数平均分子量Mnの計算値は14100であったのに対し、数平均分子量Mnの測定値は15000であった。また、分子量分布Mw/Mnは1.07であった。
【0171】
また、反応開始から48時間後の化合物Aのホモ重合体(ブロック鎖A)を採取し、ホモ重合体のH−NMRを測定した。ホモ重合体のH−NMRチャートを図14に示す。得られたホモ重合体のH−NMRと高分子化合物17のH−NMRとの比較から、式(A−2)で表される構造単位を有するブロック鎖(ブロック鎖A)と、式(B−2)で表される構造単位を有するブロック鎖(ブロック鎖B)の質量比(ブロック鎖Aの質量/ブロック鎖Bの質量)が、27/73であることを確認した。
【0172】
また、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、ホモ重合体の数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。ホモ重合体の数平均分子量Mnの計算値6500であり、数平均分子量Mnは6000であった。また、分子量分布Mw/Mnは1.08であった。
【0173】
ホモ重合体の数平均分子量Mnと、得られた高分子化合物17の数平均分子量Mnとの比較から、高分子化合物17の数平均分子量Mnの増大が確認された。また、ホモ重合体のGPC曲線と、高分子化合物17のGPC曲線と、を比較したところ、ピーク位置の移動が確認された(図15参照。)これらの結果からも、高分子化合物17がブロック共重合体であることが確認された。また、ホモ重合体の分子量分布Mw/Mnと、高分子化合物17の分子量分布Mw/Mnと、を比較したところ、分子量分布にはほとんど違いがみられなかった。
【0174】
(実施例18)
[リビングポリスチレンによるグラフトコポリマーの合成]
まず、ジフェニルメチルリチウムに代えてジフェニルメチルカリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてアニオン重合を行い、上記式(A−2)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物1’)を61.1mg得た。得られた高分子化合物1’について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。数平均分子量Mnの計算値は10400であったのに対し、数平均分子量Mnの測定値は11400であった。また、分子量分布Mw/Mnは1.06であった。
【0175】
次いで、得られた高分子化合物1’及びポリスチレンのグラフト重合を、パイレックス(登録商標)製反応容器を用いてブレークシール法にて行った。
【0176】
具体的には、パイレックス(登録商標)製反応容器に、ブレークシールによって封じられたsec−ブチルリチウム 18.3mg(0.286mmol)を含むTHF溶液3mlのアンプルと、スチレン1.291g(12.4mmol)及びTHF12mlを含むアンプルと、高分子化合物1’ 61.1mg(2.59mmol)及びTHF10mlを含むアンプルと、を溶接した。その後、反応容器を高真空ライン(10−6mmHg)に接続して、高真空下で脱気とベーキングを2回繰り返し、反応容器を溶封した。
【0177】
次いで、sec−ブチルリチウム溶液が収容されているブレークシールを割り、反応容器にsec−ブチルリチウム溶液を移したのち、−78℃に冷却した。sec−ブチルリチウム溶液を含む反応溶液を激しく攪拌し、同じく−78℃に冷却したスチレン及びTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま10分反応させた。これにより、ポリスチレンを合成した。数平均分子量Mnの測定値は4500であった。
【0178】
その後、高分子化合物1’及びTHFを含むブレークシールを割り、反応溶液に添加し、そのまま24時間攪拌した。重合終了後、反応溶液を開封し、重合停止剤であるメタノール2mlを添加し、重合を停止した。
【0179】
反応溶液を200mlのメタノールに注ぎ込んだところ、白色の固体が沈殿した。その固体を桐山ロート及び桐山ろ紙を用いた減圧ろ過によってろ別した後に、ヘキサン及びシクロヘキサンの混合溶液により分別沈殿することで過剰に用いたポリスチレンを除去した。分別沈殿により分離精製した結果、下記式(E)で表される構造単位を有する高分子化合物(高分子化合物1’の変性物、高分子化合物18)を0.65g得た。得られた高分子化合物18のH−NMRチャートを図16に示す。高分子化合物18のH−NMRはポリスチレンとほぼ一致し、高分子化合物1‘に起因するシグナルは検出されなかった。なお、ポリマー収率は、仕込んだ高分子化合物1’及びスチレンの合計量に対して66質量%であった。
【0180】
【化25】

[式中、Adは1−アダマンチル基を示し、PSはポリスチレンを示す。]
【0181】
得られた高分子化合物18について、上記(I)、(II)及び(III)の方法で、数平均分子量Mnの計算値の算出、並びに、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定を行った。数平均分子量Mnの計算値は209000であったのに対し、数平均分子量Mnの測定値は165000であった。また、分子量分布Mw/Mnは1.02であった。高分子化合物1’と高分子化合物18の分子量分布にはほとんど違いがみられず、リビング的にグラフト重合が進行していることが確認できた。
【0182】
(実施例19)
[UV照射による式(C−2)で表される構造単位を有する高分子化合物の高分子架橋反応]
以下に示す内容で、式(C−2)で表される構造単位を有する高分子化合物の架橋反応を行った。
【化26】
【0183】
バイアルに100mgの高分子化合物15(カルボニル基を0.48mmolを含む)を入れ、ここにイソプロパノール40μl(0.52mmol)及びTHF200μlを加えて、高分子化合物15を溶解させた。これにより、高分子化合物15を32質量%含む溶液を調製した。バイアルにカバーガラスをかぶせ、超高圧UVランプ(250w、ウシオ電機製、商品名:USHIO optical module)を用いて11時間連続してUV照射を行った。11時間のUV照射後、溶液が流動性を失いゲル化していることを確認した。また、UV照射前は無色透明であった溶液が、UV照射後には薄い黄色に変化していることを確認した。
【0184】
UV照射前の溶液及びUV照射後に得られたゲルのFT−IR測定を行った。測定では、UV照射前の溶液及びUV照射後に得られたゲルをそれぞれKBrプレート上に塗布し、蒸発乾固させたものを用いた。結果を図17に示す。図17中、上段がUV照射前の溶液のFT−IRチャートを示し、下段がUV照射後に得られたゲルのFT−IRチャートを示す。図17に示すFT−IRチャートでは、水酸基のピークが観測され、高分子化合物15の一部のカルボニル基がUV照射によって励起されて架橋反応が進行し、高分子化合物15の架橋物が得られていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17