(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709547
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】有機ラジカル化合物を含む非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20200608BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20200608BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20200608BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20200608BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20200608BHJP
H01M 4/137 20100101ALI20200608BHJP
C07C 49/697 20060101ALN20200608BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M4/587
H01M10/0525
H01M10/0566
H01M4/62 Z
H01M4/137
!C07C49/697
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-29176(P2016-29176)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-147157(P2017-147157A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】信国 浩文
【審査官】
冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/042706(WO,A1)
【文献】
特開2015−065053(JP,A)
【文献】
特開2012−252824(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0111279(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/0525
H01M 10/0566
C07C 49/697
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極として式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体と導電助剤との混合物を用い、負極として予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いた、非水電解液二次電池。
【化1】
(式中、Xは水素、ハロゲン、および1価の有機基の中から選ばれる1種若しくは複数種の組み合わせであり、3つのXは互いに同一でも異なっていてもよい)
【請求項2】
前記負極として予めリチウムをドープした炭素材料を用いる、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体のXが水素である、請求項1または請求項2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記正極の導電助剤がアセチレンブラック、ケッチェンブラック、またはカーボンナノチューブである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記負極の炭素材料がグラファイト、合成グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、またはカーボンナノチューブである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記負極として、非水電解液中で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させた炭素材料を用いる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
バインダーを基本的に含まない、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質として有機ラジカル化合物を用い、負極活物質として予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いた非水電解液二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などに代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が大きく高容量であることからモバイル機器の電源や電気自動車用バッテリーなどに広く実用化されている。
現在ではリチウムイオン二次電池の電極活物質として、コバルト酸リチウムを始めとする金属酸化物が主に使用されているが、充電時にリチウムイオンが一定量以上抜けてしまうと結晶構造が崩壊して酸素を発生しながら発熱し、発火するという問題があった。またコバルトの場合、希少元素であるためコストや入手性にも問題があった。
【0003】
このような安全性、コスト、入手性に関する問題を解決するため、有機化合物を電極活物質として利用する技術が提案されている。例えば特許文献1には安定有機ラジカルポリマーを電極活物質とするリチウムイオン二次電池が記載されている。特許文献1には、このような安定有機ラジカルポリマーとして、ニトロキシルラジカルを有するポリマー、オキシラジカルを有するポリマー、窒素ラジカルを有するポリマーが記載されているが、1ユニットあたりの充放電に関与する電子数が少ないため、電池の充放電容量が小さいという問題があった。
【0004】
二次電池の充放電容量を向上させる試みとして、特許文献2には1ユニットあたり2以上の電子が関与する酸化還元反応が可能な有機化合物が提案されている。このような化合物として、特許文献2では正極活物質のためのフェナレニル骨格を有する有機化合物をあげており、導電助剤およびバインダーとともに電極シートを作製している。しかしこの電極シートを用いて作製した二次電池は放電容量が最大165mAh/gであり、従来の金属酸化物を用いる電池と比較してほぼ同等の性能でしかなかった。
【0005】
有機ラジカル化合物を電極活物質として高容量のリチウムイオン二次電池を製造するための試みとして、非特許文献1に、トリオキソトリアンギュレン(TOT;Trioxotriangulene)誘導体を電極活物質とする例が開示されている。
TOT誘導体は、巨大なπ電子系を有する縮合多環型の分子構造を有し、電子スピンが分子骨格全体に広く非局在化している中性ラジカル化合物である。ここで「スピン局在」とは、分子骨格の一部に電子スピンが局在化している構造をいい、「スピン非局在」とは、電子スピンが分子骨格全体に広く分布している構造を言う。TOT誘導体の一例として、後記式(1)のXをtert-ブチル基で置換したtert-ブチル基置換体がある。
【0006】
非特許文献1によれば、tert-ブチル基置換体を電極活物質とした場合に、0.3Cでの初回充放電容量が311mAh/gと大きな値が出ているが、2サイクル目では169mAh/gと低下しており、サイクル安定性に問題があった。また充放電速度は最大2Cであり、高速充放電特性にも問題があった。
ここで充放電速度の尺度として用いるCとは、電池の充電または放電にn時間を要する電流値をC/nと定義する電流の単位である。すなわち充電または放電に1時間を要する電流値を1Cと書き、充電または放電に0.5時間を要する電流値を2Cと書く。「充放電速度が最大2C」とは、満充放電まで最低30分かかる電流値、という意味である。実際の充放電試験では電極活物質の理論容量を基準に設定される。
【0007】
これら有機ラジカル化合物を含む有機化合物を正極活物質として利用する二次電池においては、正極中に充放電の媒体となる金属イオンを含有しないため、負極としてアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を用いる必要があった。負極にこのような金属を用いた場合、充放電を繰り返すとデンドライトと呼ばれる針状構造体が生成し、これがセパレータを貫通して電池内部で短絡が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-209498号公報
【特許文献2】特開2007-227186号公報
【特許文献3】特開2009-295881号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yasushi Morita, et. al.,“Organic tailored batteries materials using stable open-shell molecules with degenerate frontier orbitals”, Nature Materials 10, 947-951 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、有機ラジカル化合物を含む正極材料を採用するとともに、特定の負極材料を選定することにより、充放電容量が大きく安全性に優れ、高速充放電特性およびサイクル特性も良好な、非水電解液型の二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、次のような考え方を採った。正極活物質として単位重量あたりの関与電子数がなるべく大きなものを開発し、さらに電極として充放電に不要な物質を排除する。また高速充放電を実現するために、電気伝導率の高い材料および構造を実現する。負極に関してはデンドライトの発生しない材料を使用する。これにより電池単位体積あたりおよび単位重量あたりの充放電容量の最大化を狙う。
【0012】
このような観点から本発明者は、下記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体を正極活物質とし、負極として予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いた非水電解液二次電池を開発した。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Xは水素、ハロゲン、および1価の有機基の中から選ばれる1種若しくは複数種の組み合わせであり、3つのXは互いに同一でも異なっていてもよい)
本発明の一つの局面における非水電解液二次電池は、正極として前記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体と導電助剤との混合物を用い、負極として予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いた、非水電解液二次電池である。
【0015】
負極として予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いることにより、負極にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を用いる場合と比較してデンドライトの発生が抑制されるとともに、電気化学的な反応性も小さくなり、電解液の分解などの副反応が抑制される。ただしTOTは金属イオンを含まない状態で正極中に組み込まれるため、負極側に金属イオンを含有させておく必要がある。このため炭素材料を負極に用いるとともに、予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープしておくこととした。
【0016】
前記負極のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の種類は限定されないが、例えばリチウム、ナトリウム、マグネシウムなどが挙げられる。
前記式(1)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体のXが水素であってもよい。一般に、TOTの分子量が小さいほど、単位重量あたりの充放電容量が大きくなる。Xとして水素を採用した場合、TOTの分子量が誘導体の中で最も小さくなり、したがって充放電容量が最大となる。
【0017】
前記正極の導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、またはカーボンナノチューブ(CNT)であってもよい。
前記負極の炭素材料は、グラファイト、天然黒鉛、グラフェン、またはカーボンナノチューブであってもよい。
前記負極の炭素材料として、非水電解液中であらかじめ、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させた炭素材料を用いてもよい。
【0018】
前記正極および負極は、バインダーを基本的に含まないことが好ましい。バインダーは充放電に関与しないため、電池の充放電容量を大きくする観点からはなるべく少量が好ましく、含まないことがより好ましい。特にカーボンナノチューブ(CNT)を導電助剤として用いた場合、CNT自身が強固なネットワークを形成していわゆるバッキーペーパーとなり、バインダーを含まなくても自立膜を作製することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充放電容量が大きく安全性に優れ、高速充放電特性およびサイクル特性も良好な非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1のBr
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図2】実施例2のBr
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図3】実施例3のBr
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図4】実施例4のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図5】実施例5のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図6】実施例6のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図7】実施例7のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図8】実施例8のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図9】実施例9のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図10】実施例10のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図11】実施例11のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図12】実施例12のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図13】実施例13のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図14】実施例14のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図15】実施例15のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図16】実施例16のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図17】実施例17のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図18】実施例18のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図19】比較例1のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図20】比較例2のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図21】比較例3のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【
図22】比較例4のH
3TOT重量あたりの、充放電サイクル回数に対する放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の好適な実施の形態と考えられるものを説明するが、本発明はここに開示される各実施の形態に限定されるものではないことは、理解されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更及び類似の構造が含まれていることが意図されている。
<正極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池に用いる正極は、式(1)で示されるTOT誘導体と、導電助剤とから構成される。
【0023】
(式中、Xは水素、ハロゲン、および1価の有機基の中から選ばれる1種若しくは複数種の組み合わせであり、それぞれのXは互いに同一でも異なっていてもよい)
前記式(1)で示されるTOT誘導体において、Xが1価の有機基である場合、有機基として限定されないが、例えばアルキル基、アリール基、アラルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基があげられる。TOT誘導体の分子量が小さいほうが電池単位体積あたりおよび単位重量あたりの充放電容量を大きくできるので、この観点から、Xとしては水素、ハロゲン、または炭素数6以下のアルキル基もしくはアリール基が好ましく、分子量が最も小さくなる水素が最も好ましい。
【0024】
本発明の実施形態では、正極としてTOT誘導体と導電助剤との混合物を用いる。導電助剤を使用するのは、導電ネットワークのスムーズな形成のためである。
導電助剤としては特に限定されないが、アセチレンブラックもしくはケッチェンブラックなどのカーボンブラック、グラファイト、合成グラファイト、気相法炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、酸化グラフェン還元体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらのうちTOT誘導体との親和性が高い点でグラファイト、合成グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、CNTが好ましく、カーボンブラック、CNTがより好ましい。
【0025】
TOT誘導体と導電助剤とから正極を調製する際、バインダーを用いて両者を固定してもよい。バインダーとしては特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、天然ゴム(IIR)、セルロース繊維、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。これらのうち耐久性に優れる点でPVDF、PTFEなどの含フッ素樹脂が好ましい。
【0026】
本発明の実施形態で使用する正極において、TOT誘導体、導電助剤、バインダーの含有比率については特に限定しないが、電池特性に優れる点でTOT誘導体と導電助剤との比率が重量比で95:5〜5:95の範囲が好ましく、90:10〜10:90の範囲がより好ましい。バインダーについては、多く使用すると電極中のイオン伝導や電子伝導を妨げるため、正極中、0〜10重量%が好ましく、0〜5重量%がより好ましい。
【0027】
<正極の作製方法>
非水電解液二次電池用の正極の作製方法を述べる。TOT誘導体と、導電助剤と、必要に応じてバインダーとを固体状態のまま、あるいは溶媒の存在下で、乳鉢、ボールミル、ホモジナイザー、ミキサー、遊星式撹拌装置、超音波照射装置、シェイカー、フィルミックス(登録商標)などを用いて撹拌混合する。
【0028】
TOT誘導体と導電助剤との混合を効率よく行える点で、溶媒に分散させて撹拌混合する方法が好ましく、その際に超音波照射を施すことがより好ましい。
溶媒を使用する場合、溶媒としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどをあげることができる。正極作製後の乾燥工程が短時間で済む点から沸点100℃以下の溶媒が好ましく、その中でも、特にコストの点でメタノール、エタノール、イソプロパノールがより好ましい。
【0029】
得られた分散液を集電体に塗布して正極シートを作製する。集電体としては特に限定されないが、導電性の高い箔、フィルム、板、メッシュなどを用いることが好ましい。材質は特に限定されず、ステンレス、アルミニウム、銅、ニッケル、炭素繊維、グラファイトシートなどを用いることができる。導電性が高く腐食の恐れが少ない点でステンレス、アルミニウムが好ましい。
【0030】
前記分散液を集電体に塗布する方法としては特に限定されないが、バーコート、ロールコート、ドクターブレードコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーン印刷などの方法を用いることができる。塗布後乾燥させ、プレス装置などで圧縮することにより活物質と導電助剤の密着性が高まり、電池特性を向上させることができる。
特に、CNTを導電助剤として用いる場合には、CNTとTOT誘導体を溶媒中混合し、メンブレンフィルタなどでろ過することによりTOT誘導体が分散されたバッキーペーパーを作製し、これを集電体に密着させて電極とすることもできる。この場合、基本的にバインダーは不要である。
【0031】
完成後の正極の膜厚としては、電池の容量と充放電速度との兼ね合いから、10μm〜500μmの範囲が好ましく、30μm〜300μmの範囲がより好ましい。膜厚が小さいと電池としての容量が小さくなる。膜厚が大きいとイオン伝導および電子伝導の効率が下がるため充放電速度が小さくなってしまう。
<負極>
非水電解液二次電池の負極としては、予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした炭素材料を用いる。
【0032】
ドープさせる金属材料としては入手性およびコストの点でリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、電池特性に優れる点でリチウム、ナトリウム、マグネシウムがより好ましく、リチウムが最も好ましい。炭素材料としては天然黒鉛、グラファイト、合成グラファイト、カーボンブラック、VGCF(登録商標)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、酸化グラフェン還元体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらのうち電池特性およびコストの点でグラファイト、合成グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、CNTが好ましく、カーボンブラック、CNTがより好ましい。
【0033】
負極の作製方法は、正極と同様、前記炭素材料と導電助剤を個体状態のまま、あるいは溶媒の存在下で乳鉢、ボールミル、ホモジナイザー、ミキサー、遊星式撹拌装置、超音波照射装置、シェイカー、フィルミックス(登録商標)などを用いて撹拌混合する。効率よく混合を行える点で溶媒に分散させて撹拌混合する方法が好ましい。
使用する溶媒としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどをあげることができる。後述するように前記撹拌混合時にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を共存させる場合には、これらと反応しない溶媒を選択する必要がある。
【0034】
得られた分散液を集電体に塗布することにより負極シートを作製する。集電体の形状としては特に限定されないが、箔、フィルム、板、メッシュなどを用いることができる。集電体には導電性の高い材料が好ましい。例えば、ステンレス、アルミニウム、銅、ニッケル、炭素繊維、グラファイトシートなどを用いることができる。導電性が高く腐食の恐れが小さい点でステンレス、銅が好ましい。
【0035】
前記分散液を集電体に塗布する方法としては特に限定されないが、バーコート、ロールコート、ドクターブレードコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーン印刷などの方法を用いることができる。
塗布後乾燥させ、プレス装置などで圧縮することにより活物質と導電助剤の密着性が高まり、電池特性を向上させることができる。
【0036】
負極の膜厚としては1μm〜200μmの範囲が好ましく、10μm〜100μmの範囲がより好ましい。膜厚が1μmより小さいと電池としての容量が小さくなり、膜厚が200μmより大きいとイオン伝導および電子伝導の効率が下がるため充放電速度が小さくなってしまう。
本発明の実施形態では、負極は予めアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープさせて形成するが、このドーピングの方法は特に限定されない。例えば前記負極シートを作製する段階で分散液中にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を混合させる方法、負極シートを非水電解液中で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させる方法、あるいはこれら両者を組み合わせる方法などを採用することができる。これらのうち操作が簡便である点で、負極シートを非水電解液中で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属と接触させる方法が好ましい。
【0037】
このように、接触または混合により負極シートの内部にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のイオンが拡散して行き、プレドープが実現されるメカニズムは、次のとおりである。炭素材料とアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の電位を比較すると、炭素材料が高くアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属が低くなっている。電位差のある両者を接触させると短絡電流が発生し、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属から炭素材料へ電子が移動する。この電子の移動を補償するためアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のイオンが、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属から炭素材料へ移動する。
【0038】
<非水電解液二次電池>
本発明の実施形態にかかる非水電解液二次電池の例として、以下、リチウムイオン二次電池について記載する。リチウムイオン二次電池は、前記正極シートを、セパレータを介して負極シートに対向させ、電極間に非水電解液を満たして封止することによって作製することができる。
【0039】
前記非水電解液としては特に限定されないが、例えばリチウム塩を溶媒に溶解させたものを用いることができる。リチウム塩としては例えば六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドなどがあげられる。溶媒としては例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびこれらの混合物などがあげられる。
【0040】
なお、本発明の実施形態にかかる非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池など、リチウム以外のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を用いた非水電解液二次電池であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことを予め断っておく。
臭素置換TOT(X=Br;Br
3TOT)と無置換TOT(H
3TOT)とを合成した。臭素置換TOT(Br
3TOT)は非特許文献1に記載の方法によって合成した。無置換TOT(H
3TOT)は2−ヨードトルエンを出発原料として用い、Br
3TOTと同様に合成した。
【0042】
電極シートの膜厚はハイデンハイン社製の長さゲージMT1281を用いて測定した。アセチレンブラックはデンカ株式会社製を購入した。ポリフッ化ビニリデンは株式会社クレハより購入した。
<製造例1、リチウムイオンプレドープ負極の作製>
粉末状のグラファイト1.8g、ポリフッ化ビニリデンの5wt%N−メチルピロリドン溶液4.0g、N−メチルピロリドン2.4mLを混合して遊星式攪拌機で10分間撹拌させた後、クリアランス300μmのバーコーターを用いて銅板上にキャスト(塗布)し、120℃で1時間減圧乾燥した。これをロールプレス機で800kg/cm
2の圧力でプレスして、負極シートを作製した。
【0043】
この銅板上に付着した負極シートとリチウム箔とを電解液中で10時間以上接触させることによりリチウムイオンを負極シート中に挿入し、プレドープ負極を作製した。電解液としては、LiPF
6を1.0Mの濃度でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比3:7)に溶解させたものを用いた。
<実施例1、Br
3TOT正極、リチウムイオンプレドープ負極二次電池の作製と評価>
アセチレンブラック159.7mg、ポリフッ化ビニリデンの5wt%N−メチルピロリドン溶液400.4mg、N−メチルピロリドン2.4mL、Br
3TOT 20.6mgを混合して遊星式攪拌機で10分間撹拌させた後、クリアランス300μmのバーコーターを用いてアルミ箔上にキャストし120℃で1時間減圧乾燥した。これをロールプレス機で800kg/cm
2の圧力でプレスしてBr
3TOTが分散した正極シートを作製した。
【0044】
正極シートの膜厚は45.5μm(アルミ箔20μmを含む)であった。正極中のBr
3TOT含有量は10wt%である。電池作製前に、正極シートをさらに80℃/12時間減圧乾燥させた。
この正極シートを用いてリチウムイオン二次電池を製造した。電池形状はCR2032である。負極側外装、ステンレス金属板(負極集電体)、製造例1で作製したプレドープ負極、ポリプロピレン製多孔質膜のセパレータ、前記正極シート、ステンレス金属板(正極集電体)、バネ、正極側外装の順に重ね、内部に電解液を入れてかしめることにより作製した。
【0045】
電解液としては、LiPF
6を1.0Mの濃度でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比3:7)に溶解させたものを用いた。
この電池を東洋システムズ(株)製充放電試験機TOSCAT−3100にセットし、電圧範囲1.4−4.0V、電流量1C相当で充放電を繰り返した。作製条件および充放電条件を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
充放電サイクル回数に対する、Br
3TOT重量あたりの放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフを
図1に示す。
<実施例2、実施例3(Br
3TOT、リチウムイオンプレドープ負極二次電池の製造>
実施例1と同様にBr
3TOTを用いて正極シートを作製し、前記作製したプレドープ負極を、負極として用いて、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を製造し、評価した。
【0048】
充放電試験機は、実施例1と同様、東洋システムズ(株)製充放電試験機TOSCAT−3100を使用した。
作製条件および充放電条件を表2に示す。充放電サイクル回数に対する、Br
3TOT重量あたりの放電容量(単位:mAh/g)をプロットしたグラフを
図2、
図3に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
<実施例4〜実施例7(H
3TOTリチウムイオンプレドープ負極二次電池の製造)>
Br
3TOTの代わりにH
3TOTを用いて実施例1と同様に正極シートを作製し、プレドープ負極と組合せてリチウムイオン二次電池を製造し評価した。作製条件および充放電条件の詳細を表3に、測定した放電特性を
図4〜
図7に示す。
実施例4及び実施例6は充放電試験機として、実施例1と同様、東洋システムズ(株)製充放電試験機TOSCAT−3100を使用したが、実施例5並びに実施例7は東洋システムズ(株)のTOSCAT−3300を使用した。
【0051】
【表3】
【0052】
<実施例8(H
3TOTリチウムイオンプレドープ負極二次電池の製造)>
多層CNT 1wt%エタノール分散液2.52gにH
3TOT 2.8mgを入れて超音波照射しながら1時間撹拌した。この混合分散液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、70℃で90分間乾燥させ、H
3TOTを10wt%含む正極シートを作製した。膜厚は69μmであった。この正極シートを用いて実施例1と同様にプレドープ負極と組合せてリチウムイオン二次電池を製造し評価した。作製条件および充放電条件の詳細を表4に、測定した放電特性を
図8に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
<実施例9〜実施例18(H
3TOTリチウムイオンプレドープ負極二次電池の製造)>
実施例8と同様に多層CNTとH
3TOTを用いて正極シートを作製し、プレドープ負極と組み合わせてリチウムイオン二次電池を製造し評価した。作製条件および充放電条件の詳細を表5に、測定した放電特性を
図9〜18に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
<比較例1〜比較例4(リチウム箔負極を用いたH
3TOTリチウムイオン二次電池の製造)>
実施例8と同様に多層CNTとH
3TOTを用いて正極シートを作製し、リチウム箔負極と組み合わせてリチウムイオン二次電池を製造し評価した。作製条件および充放電条件の詳細を表6に、測定した放電特性を
図19〜22に示す。実施例9〜12と比較してサイクル特性に劣ることが分かる。
【0057】
【表6】