(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「T細胞の機能の増強」とは、T細胞のエフェクター機能が向上することを意味する。T細胞の機能の増強には、本発明を限定するものではないが、T細胞の増殖率の向上、サイトカイン産生量の増加、又は細胞傷害性の向上が含まれる。更に、T細胞の機能の増強には、アネルギー(不応答性)状態、休止状態などの抑制状態にあるT細胞のトレランスの解除及び抑制、すなわち、T細胞を抑制状態から外部の刺激に対して応答する状態へ移行させることが包含される。
【0012】
本発明において「アネルギー」は、刺激、例えば活性化受容体又はサイトカインによる刺激に対する免疫細胞の不応性を包含する。アネルギーは例えば、免疫抑制剤への暴露又は高用量の抗原への暴露に起因して起こり得る。このようなアネルギーは、一般に抗原特異的であり、寛容化している抗原への暴露が終わった後にも存続する。例えば、T細胞におけるアネルギーはサイトカイン、例えばインターロイキン(IL)−2を産生しないことにより特徴づけられる。T細胞アネルギーは、T細胞が抗原に暴露する際に、第二シグナル(共刺激シグナル)の不存在下で第一シグナル(TCR又はCD−3を介するシグナル)を受容する場合に起こる。
【0013】
本明細書において「PD−L1」とは、活性化した単球又は樹状細胞などのいわゆる抗原提示細胞に発現している共刺激分子であるPD−1のリガンド1を意味し、B7−H1とも呼ばれる。ヒトPD−L1の塩基配列はGenBank Acc.No.AF233516、マウスPD−L1の塩基配列はNM_021893で示される(Freemanら(2000) J. Exp. Med. 192:1027)。
【0014】
本明細書において「PD−L2」とは、前記PD−1のリガンド2を意味し、B7−DCとも呼ばれる。ヒトPD−L2の塩基配列はGenBank Acc.No.NM_025239、マウスPD−L2の塩基配列はNM_021896で示される(Nature Immunology,2001年,第2巻,第3号,p.261〜267)。
【0015】
本明細書において「T細胞」とは、Tリンパ球とも呼ばれ、免疫応答に関与するリンパ球のうち胸腺に由来する細胞を意味する。T細胞にはCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞:CTL)、CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)、サプレッサーT細胞、制御性T細胞などの調節性T細胞、エフェクター細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞、α鎖とβ鎖のTCRを発現するαβT細胞、又はγ鎖とδ鎖のTCRを発現するγδT細胞のいずれもが含まれる。前記T細胞は、T細胞への分化が方向づけられたT細胞の前駆細胞を包含する。「T細胞を含有する細胞集団」としては、血液(末梢血、臍帯血など)、骨髄液などの体液の他、これらより採取、単離、精製、誘導された末梢血単核細胞(PBMC)、血球系細胞、造血幹細胞、臍帯血単核球などを含む細胞集団が例示される。また、T細胞を含有する血球系細胞由来の種々の細胞集団を本発明に使用できる。これらの細胞はIL−2などのサイトカインにより生体内(イン・ビボ)又は生体外(エクス・ビボ)で活性化されていても良い。これらの細胞は生体から採取されたもの、あるいは生体外での培養を経て得られたもの、例えば本発明の方法により得られたT細胞集団をそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。
【0016】
本明細書中において「がん」とは悪性腫瘍を意味し、自律的増殖を示し、その結果、制御不能な細胞増殖を特徴とする、異常増殖の表現型又は異常な細胞状態を示す細胞をいう。「腫瘍細胞」は、「悪性腫瘍細胞」又は「良性腫瘍細胞」を含み、「新生物由来の細胞」ともいう。
【0017】
本明細書において「発現」とは、遺伝子、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド等の核酸からの転写によるmRNAの生成、又はmRNAからの転写によるタンパク質、ポリペプチドの生成を意味する。「発現の抑制」とは、抑制しない場合に比べて、転写物又は翻訳物の量が有意に減少することをいう。本明細書における発現の抑制とは、例えば、転写物又は翻訳物の量が30%以上、好適には50%以上、より好適には70%以上、更に好適には90%以上減少することを示す。
【0018】
(1)本発明のT細胞の機能増強方法及び機能増強T細胞
本発明のT細胞の機能増強方法は、T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する工程を含むことを特徴とする方法である。また、本発明の機能増強T細胞は、本発明のT細胞の機能増強方法により得られる細胞である。本発明のT細胞の機能増強方法により、T細胞の増殖率の向上、サイトカイン産生量の増加又は細胞傷害性の向上を含むT細胞のエフェクター機能が向上する。更に、アネルギー状態、休止状態などのT細胞の抑制状態を解除又は抑制し、外部の刺激に対するT細胞の感受性を向上させる。こうして得られる本発明の機能増強T細胞は、がん、感染疾患又は自己免疫疾患の治療又は予防に有用である。
【0019】
本発明の方法において、T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する工程は、エクス・ビボ又はイン・ビボで実施することができる。
【0020】
前記工程をエクス・ビボで実施する本発明の方法は、(a)T細胞又はT細胞を含む細胞集団を準備する工程、(b)工程(a)で得られたT細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制して機能増強T細胞を調製する工程を含む。当該方法は、養子免疫療法をはじめとする細胞免疫療法に適用することができ、有用である。工程(a)は、生体からT細胞又はT細胞を含有する細胞集団を分離する工程、又は株化されたT細胞又はT細胞を含有する細胞集団を準備する工程であってもよい。更に本発明の方法は、細胞集団からT細胞を含有する細胞集団を分離して亜細胞集団を調製する工程及び/又は細胞集団を培養、刺激する工程を含んでいてもよい。これらの工程は、工程(a)及び工程(b)の前、後、同時の任意の段階で実施することができる。T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する工程をエクス・ビボで実施する本発明の方法では、当該方法が適用される細胞の量や種類を適切な手段、例えば亜細胞集団の調製、細胞集団の培養又は刺激を通じてコントロールすることができる。したがって、PD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する物質又はシグナル伝達阻害する物質を生体に投与する場合に懸念される自己免疫などの有害事象を低減させることができ、極めて有用である。
【0021】
T細胞を含有する細胞集団ならびに亜細胞集団を分離する工程は、例えば密度勾配遠心分離による単核球画分の分取やT細胞の表面マーカーを指標とした分離手段によって実施することができる。前記の表面マーカーとしては、CD3、CD8及びCD4が例示でき、これらの表面マーカーに応じた分離方法が当技術分野において知られている。例えば抗CD8抗体を固定化したビーズ又は培養容器などの担体とT細胞を含有する細胞集団とを混合し、前記担体に結合したCD8陽性T細胞を回収することにより実施される。抗CD8抗体が固定化されたビーズとしては、例えば、CD8 MicroBeads(Miltenyi Biotec社製)、Dynabeads M−450 CD8(インビトロジェン社製)、Eligix anti−CD8 mAb coated nickel particles(バイオトランスプラント社製)などが好適に使用できる。CD4を指標として実施する場合も同様であり、例えば、CD4 MicroBeads(Miltenyi Biotec社製)、Dynabeads M−450 CD4(インビトロジェン社製)などが好適に使用できる。
【0022】
また、T細胞を含有する細胞集団ならびに亜細胞集団を培養する工程は、細胞集団に応じて適切な公知の培養条件を選択し、実施することができる。また、細胞集団を刺激する工程は、培地に公知のタンパク質や化学成分等を加えて培養を行えばよい。例えば、サイトカイン類、ケモカイン又はその他の成分を培地に加えても良い。本明細書において、サイトカインとは、T細胞に作用しうるものであれば特に限定はないが、例えばIL−2、IFN−γ、トランスフォーミング成長因子(TGF)−β、IL−15、IL−7、IFN−α、IL−12、CD40L、IL−27などが例示される。細胞性免疫を増強させる観点からは、特に好適には、IL−2、IFN−γ、又はIL−12が使用され、移入されたT細胞のイン・ビボでの生存を向上させる観点からは、好適にはIL−7、IL−15又はIL−21が使用される。また、ケモカインとは、T細胞に作用し遊走活性を示すものであれば特に限定はないが、例えばRANTES、CCL21、MIP1α、MIP1β、CCL19、CXCL12、IP−10又はMIGが例示される。また、T細胞表面に存在する分子、例えばCD3、CD28、CD44等に対するリガンド及び/又は前記分子に対する抗体を共存させることで細胞集団の刺激を実施することが可能である。更に、がん抗原由来のペプチドのような標的のペプチドを細胞表面に提示する抗原提示細胞(樹状細胞)などの他のリンパ球と接触させて、細胞集団を刺激することができる。
【0023】
T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する工程をイン・ビボで実施する場合、後述するこれらの発現を特異的に抑制させる手段を生体に投与することにより当該工程が実施される。この際、適当なドラッグデリバリーシステム(例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなど)を利用することができる。また、例えばT細胞表面マーカーを指標にしたデリバリーシステムを利用して、T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を特異的に抑制することができる。
【0024】
T細胞のPD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する手段は、PD−L1及び/又はPD−L2に対するsiRNA、アンチセンスヌクレオチド、リボザイムなどの核酸の利用が含まれる。
【0025】
本発明におけるsiRNAの利用は、PD−L1及び/又はPD−L2の発現を選択的に抑制することを目的として、PD−L1及び/又はPD−L2をコードする遺伝子から転写されるmRNAの塩基配列に相同な配列と相補的な配列とを有する二本鎖RNA分子を利用したRNA干渉(RNAi)に基づく。ここで、「PD−L1及び/又はPD−L2をコードする遺伝子から転写されるmRNAの塩基配列に相同な配列と相補的な配列とを有する」とは、各配列が前記のmRNAの塩基配列に完全に相同もしくは相補的であることを指すのみではなく、所望の機能が発揮される範囲で実質的に相同もしくは相補的であることを包含する。前記二本鎖RNA分子はsiRNA(short interfering RNA)と呼ばれる。siRNAは、PD−L1及び/又はPD−L2をコードする遺伝子から転写されるmRNAの1つの領域に対し相同/相補的な1種類のsiRNAであっても良く、異なる領域に対し相同/相補的な複数のRNA分子を含むsiRNAであっても良い。
【0026】
本発明に使用されるsiRNAの鎖長としては、哺乳動物細胞におけるインターフェロン応答抑制の観点から、例えばsiRNAを構成する二本鎖の一方が13〜29塩基の鎖長を有するもの、好ましくは15〜25塩基対の鎖長を有するもの、更に好ましくは、20〜25塩基対の鎖長を有するものが例示される。また、前記鎖長の塩基配列の全てがPD−L1及び/又はPD−L2のmRNAの塩基配列に由来するものであっても良く、その一部が前記の塩基配列に由来するものであっても良い。更に、本発明に使用されるsiRNAは、哺乳動物細胞におけるRNA干渉の有効性の観点から、例えば、3’末端側に2〜4塩基突出した一本鎖領域を有する二本鎖RNAの形状のもの、更に好ましくは3’末端側に2塩基突出した一本鎖領域を有する二本鎖RNAの形状のものであっても良い。前記の突出した一本鎖領域として、2〜4塩基の連続するデオキシチミジン残基(TT、TTT又はTTTT)が例示される。
【0027】
本発明に使用されるsiRNAは、主にリボヌクレオチドによって構成されるが、その一部にリボヌクレオチド以外のヌクレオチド、例えばデオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドの誘導体、リボヌクレオチドの誘導体等を含んでいても良い。前記のsiRNAは、特に限定されないが、公知の化学合成法により合成することができる。また、適切な鋳型核酸を使用して酵素的に(例えばRNAポリメラーゼを用いて)調製しても良い。本発明に使用されるsiRNAは、分子内で二本鎖を形成し得る一本鎖RNAの形態であっても良く、siRNA部分をステムとし、任意の配列をループとしたステム−ループ構造(ショートヘアピン構造:sh構造)の一本鎖RNA(shRNA)が例示される。前記の任意の配列としては1〜30ヌクレオチドの配列が例示されるが、好ましくは1〜25ヌクレオチド、更に好ましくは5〜22ヌクレオチドの配列が使用される。
【0028】
siRNAの配列は、発現の抑制が望まれる遺伝子配列を基に、適宜設計することができる。多くのsiRNAの設計アルゴリズムが報告されており(例えば、国際公開第2004/0455543号パンフレット、国際公開第2004/048566号パンフレットを参照のこと)、市販のソフトウエアを使用することもできる。また、発現の抑制が望まれる遺伝子配列情報から、siRNAを設計し、siRNAを合成して提供する会社が多数存在する。したがって、当業者は発現を抑制する遺伝子配列を基に、容易にsiRNAを入手することが可能である。本発明に使用するsiRNAは、PD−L1及び/又はPD−L2の発現を選択的に抑制するsiRNAであれば、いずれも使用できる。特に限定はされないが、例えば、PD−L1に対して配列番号1又は配列番号9の塩基配列を含むsiRNAが使用でき、PD−L2に対して配列番号2又は配列番号11の塩基配列を含むsiRNAが使用できる。
【0029】
本発明において、PD−L1及び/又はPD−L2の発現の抑制にアンチセンスヌクレオチドを使用することができる。アンチセンスヌクレオチドは、例えばPD−L1及び/又はPD−L2のmRNA分子の翻訳に直接干渉することによって、mRNAのRNA分解酵素Hによる分解によって、mRNAの5’キャッピングに干渉することによって、5’キャップのマスキングによって、mRNAに対する翻訳因子の結合を防止することによって、又はmRNAのポリアデニル化を阻害することによって、タンパク質発現を抑制するために使用する。タンパク質発現の抑制は、アンチセンスヌクレオチドとPD−L1及び/又はPD−L2のmRNAとのハイブリダイゼーションによって起こる。mRNAの安定性を低下させる又は分解するために、アンチセンスヌクレオチドの標的として、前記mRNA上の特異的標的化部位が選択される。1つ又はそれ以上の標的部位を同定したら、当該標的部位に十分相補的な(すなわち生理学的条件下で十分よく、かつ十分な特異性でハイブリダイズする)塩基配列のヌクレオチドを設計する。
【0030】
本発明の方法において使用されるアンチセンスヌクレオチドは、例えば8〜100塩基の鎖長、好ましくは10〜80塩基、より好ましくは14〜35塩基のヌクレオチドが例示される。
【0031】
本発明においては、PD−L1及び/又はPD−L2の発現抑制に使用されるsiRNA、アンチセンスヌクレオチドなどの核酸を直接細胞に導入しても良く、細胞内で前記siRNA又は前記アンチセンスヌクレオチドが転写されるよう設計された核酸構築物を細胞に導入しても良い。直接細胞に導入する場合、TransIT−TKO(Mirus社製)、Human T Cell Nucleofector Kit(Amaxa社)等の核酸導入用試薬が好適に使用できる。一方、前記RNA分子が転写される核酸構築物を使用する場合、特に本発明を限定するものではないが、T細胞内で機能を発揮しうるプロモーターの下流に、前記siRNA又はアンチセンスヌクレオチドをコードする核酸の転写が起こりうる状態で、すなわち機能的に接続されているものが使用できる。また、効率の良い遺伝子の転写を達成するために、プロモーター又は転写開始部位と協同する他の調節配列、例えば、エンハンサー配列又はターミネーター配列が核酸構築物内に存在していても良い。また、相同組換えにより導入対象のT細胞の染色体へ挿入することを目的として、例えば、該染色体における遺伝子の所望の標的挿入部位の両側にある塩基配列に各々相同性を有する塩基配列からなるフランキング配列の間に前記の遺伝子を配置させても良い。
【0032】
前記核酸構築物に使用されるプロモーターとしては、哺乳動物細胞内で機能しうるものであれば特に限定はなく、例えば、RNAポリメラーゼIIプロモーター、RNAポリメラーゼIIIプロモーター、人為的に調節可能なプロモーターなどが挙げられる。前記RNAポリメラーゼIIプロモーターとしては、CMVプロモーターなどが挙げられる。また、前記RNAポリメラーゼIII系プロモーターとしては、tRNAプロモーター、U6snRNAプロモーター、ヒストンH1プロモーターなどが挙げられる。前記人為的にテトラサイクリンで調節可能なプロモーターとしては、テトラサイクリンにより調節可能なプロモーターが例示され、テトラサイクリン調節型U6プロモーター、TRプロモーターなどが挙げられる。また、上記プロモーターをCre−loxPシステムと組み合わせることにより、より厳密に転写を制御することもできる。
【0033】
siRNAを転写するために使用される核酸構築物は、目的遺伝子の機能を抑制しうる二本鎖RNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖が下記のようなシステムで転写されるように構築することができる:(A)異なる2つのプロモーターの下流にセンスRNAをコードする核酸とアンチセンスRNAをコードする核酸とをそれぞれ接続し、この2つの転写ユニットを順方向に配置した、別個にセンスRNAとアンチセンスRNAとを転写するタンデムタイプ、(B)1つのプロモーターの下流にセンスRNAをコードする核酸とアンチセンスRNAをコードする核酸とをそれぞれ順方向に配置した、センスRNAとアンチセンスRNAとが直接又はループで連結されたステム−ループタイプ(又はショートヘアピンタイプ)のRNAを転写するタイプ、あるいは、(C)センス鎖及びアンチセンス鎖を(それぞれ両ストランド)でコードする核酸の両端側のそれぞれにプロモーターを配置して、別個のプロモーターで両RNA鎖を転写する対向タイプ。本発明では、使用条件、例えば、細胞の種類、センス配列又はアンチセンス配列の種類などに応じ、タンデムタイプ、ステム−ループタイプ又は対向タイプを使い分けることができる。
【0034】
本発明で使用する核酸構築物は、より安定的に細胞内で効果を発揮しうるように、適切なベクター、例えばプラスミドベクター又はウイルスベクターに組み込まれていても良い。更に、細胞の染色体DNA上に本発明の核酸構築物を組み込んでも良い。前記プラスミドベクターとしては、特に限定されないが、例えばRNA干渉用の核酸を発現させるpiGENE tRNAプラスミド(商品名、iGENE社製)、siLentGene(Promega社製)、pSEC Hygro Vector(Ambion社製)などが例示される。プラスミドベクターを細胞に導入するには、リポソーム、リガンド−ポリリジンなどの担体を使用する方法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などを使用することができる。
【0035】
前記ウイルスベクターには特に限定はなく、通常、遺伝子導入方法に使用される公知のウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクター、シュードタイプベクターを包含する)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はセンダイウイルスベクターなどが使用される。特に好適には、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はレンチウイルスベクターが使用される。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。また、遺伝子導入の際にレトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製)などの遺伝子導入効率を向上させる物質を用いることもできる。市販されているアデノウイルスベクターの例としてKnockout Adenoviral RNAi System(Clontech社製)が、市販されているレトロウイルスベクターの例としてpSINsiベクター(タカラバイオ社製)又はpSIREN−RetroQ Vector(Clontech社製)が、それぞれ例示される。ウイルスベクターの場合には当該ウイルスの細胞への感染能を利用して、目的の細胞に導入することができる。
【0036】
本発明の方法において、PD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制する手段は、T細胞に対して実施される。すなわち、前記工程(b)において、例えばヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞(CTL)、ナイーブT細胞、メモリーT細胞、α鎖とβ鎖のTCRを発現するαβT細胞又はγ鎖とδ鎖のTCRを発現するγδT細胞、あるいはこれらの細胞を含む細胞集団、血液(末梢血、臍帯血など)又は骨髄液が使用できる。これらのT細胞は、哺乳動物由来であってもよく、ヒト又は非ヒト哺乳動物由来のいずれでもあってもよい。
【0037】
PD−L1及び/又はPD−L2の発現抑制は、PD−L1及び/又はPD−L2タンパク質の定量又はPD−L1及び/又はPD−L2遺伝子から転写されるRNA量を定量することにより確認することができる。
【0038】
本発明の方法におけるT細胞の機能増強は、サイトカインアッセイ、抗原特異的細胞アッセイ(テトラマーアッセイ)、増殖アッセイ、細胞溶解性細胞アッセイ、あるいは組換え腫瘍関連抗原又は免疫原性フラグメント又は抗原由来のペプチドを用いたイン・ビボ遅延型過敏性試験を用いて、各工程の前後の複数の時点で評価され得る。免疫応答の増加を測定するためのさらなる方法としては、遅延型過敏性試験、ペプチド主要組織適合遺伝子複合体テトラマーを用いたフローサイトメトリー、リンパ球増殖アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、酵素結合免疫スポット検定法(enzyme−linked immunospot assay)、サイトカインフローサイトメトリー、直接細胞毒性アッセイ、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によるサイトカインmRNAの測定、あるいは限界希釈法のような、T細胞応答を測定するのに現在用いられているアッセイが挙げられる。
【0039】
本発明の機能増強T細胞は、PD−L1及び/又はPD−L2の発現が抑制されていない対照のT細胞に比べて、T細胞の機能が増強されている。本発明の機能増強T細胞は、例えば、IFN−γの産生量が対照のT細胞に比べて増加する。本発明のT細胞は対照のT細胞に比較してIFN−γ産生量が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上増加している。
【0040】
本発明の一つの態様として、前記のPD−L1及び/又はPD−L2の発現の抑制に加えて、更なるT細胞の機能増強を行う方法が挙げられる。例えば、T細胞に所望の抗原を認識するTCRをコードする遺伝子を導入することにより、前記抗原に対する特異性が付与され、かつエフェクター機能が向上したT細胞を得ることができる。前記の抗原には特に限定はなく、例えば腫瘍抗原や微生物、ウイルス由来の抗原が例示される。種々の抗原に対するTCRについてそのアミノ酸配列や当該配列をコードする遺伝子の塩基配列が知られており、これらの情報をもとにTCR発現のためのベクターを構築してT細胞に導入することにより、抗原特異的に作用を発揮するT細胞を作製することができる。この際、PD−L1及び/又はPD−L2の発現を抑制するための核酸構築物を同時にT細胞に導入する、又は当該構築物をTCR発現のためのベクターに組み込むことにより、抗原特異的なT細胞のエフェクター機能を向上させることができる。
【0041】
α鎖とβ鎖からなるTCRを人為的にT細胞で発現させる場合には、T細胞自身が有している内在性TCR遺伝子由来のα鎖、β鎖との間でミスペアリング等が所望の抗原特異性を付与するうえで障害となりうる。例えば国際公開第2008/153029号パンフレットに記載された、導入TCR遺伝子のコドン変換やsiRNAを利用した内在性TCR遺伝子のノックダウンを行うことにより、高い抗原性特異性を獲得したT細胞を作製することができる。本発明のT細胞の機能増強方法はこのようなT細胞の作製にも利用することができる。
【0042】
(2)本発明の機能増強T細胞を使用する治療方法又は予防方法
本発明の治療方法又は予防方法は、前記(1)の本発明の機能増強方法により調製されたT細胞を生体に投与することを特徴とする。すなわち本発明の治療方法又は予防方法は、(c)工程(b)で得られた機能増強T細胞を生体に投与する工程、を包含する。本発明の機能増強T細胞が投与される疾患としては、当該T細胞に感受性を示す疾患であればよく、特に限定はないが、例えば、がん(白血病、固形腫瘍など)、肝炎、インフルエンザ、HIVなどのウイルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患、例えば結核、MRSA、VRE、深在性真菌症などが例示される。また、本発明の細胞は、骨髄移植又は放射線照射後の感染症予防、あるいは再発白血病の寛解を目的としたドナーリンパ球輸注などにも利用できる。又、制御性T細胞の機能を向上させ自己免疫疾患の予防又は治療に利用できる。
【0043】
本発明の方法において、機能増強T細胞は、対象の皮内、筋肉内、皮下、腹腔内、動脈内、静脈内(留置カテーテルによる方法を含む)、腫瘍内又は輸入リンパ管内に投与され得る。
【0044】
本発明の治療方法又は予防方法において、投与する機能増強T細胞は、生体にとって自家の細胞であってもよく、他家由来の細胞であってもよい。
【0045】
本発明の実施において誘導される免疫応答は、抗原特異的細胞アッセイ、増殖アッセイ、細胞溶解性細胞アッセイ、あるいは組換え腫瘍関連抗原又は免疫原性フラグメント又は抗原由来のペプチドを用いたイン・ビボ遅延型過敏性試験を用いて、本発明の機能増強T細胞の最初の投与前に、又は処置の開始後の種々の時点で、生体において評価され得る。免疫応答の増加を測定するためのさらなる方法としては、遅延型過敏性試験、ペプチド主要組織適合遺伝子複合体テトラマーを用いたフローサイトメトリー、リンパ球増殖アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、酵素結合免疫スポット検定法、サイトカインフローサイトメトリー、直接細胞毒性アッセイ、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によるサイトカインmRNAの測定、又は限界希釈法のような、T細胞応答を測定するのに現在用いられているアッセイが挙げられる。更に、生体が有する腫瘍の重量、径、悪性度、対象の感染ウイルス量、感染菌量、対象の生存率又は生存期間により、免疫応答を評価することができる。
【0046】
本発明の方法において、生体に投与する機能増強T細胞の量に特に限定はないが、例えば、成人一日あたり、好適には1×10
6〜1×10
12cells/日、より好ましくは、1×10
7〜5×10
11cells/日、更に好ましくは1×10
8〜2×10
11cells/日が例示される。
(3)本発明の機能増強T細胞を含有する疾患の治療剤
前記(1)の本発明の機能増強方法により調製された機能増強T細胞、ならびに当該T細胞を有効成分として含有する組成物は、当該T細胞に感受性を有する疾患、例えば前記のがん、肝炎又は感染性疾患の治療剤として有用である。
本発明の治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製されたT細胞を有効成分として、例えば公知の非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合することにより調製できる。また、その使用は前記(2)の本発明の治療方法に準じればよい。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1 CD8陽性T細胞におけるPD−L1発現の確認
国際公開第2007/032255号パンフレットに従い、HLA−A24拘束性MAGE−A4
143−151特異的な細胞傷害性CD8陽性T細胞クローン2−28(Miyahara Y 他13名 クリニカル キャンサー リサーチ(Clin. Cancer Res.)、第11巻、第5581−5589頁(2005)以下、CD8陽性T細胞クローン2−28と呼ぶ)とMAGE−A4
143−151ペプチドとを調製した。CD8陽性T細胞クローン2−28を、80GlyのX線を照射した自己リンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line:LCL)にMAGE−A4
143−151ペプチドをパルスしたものを、37℃で共培養し、0日、1日後、2日後及び3日後の細胞表面のPD−L1を、抗ヒトPD−L1抗体(BD bioscience社製)にて染色を行いフローサイトメーターで解析した。
図1にフローサイトメーターによる解析結果を示す。培養1日後においてPD−L1の発現は最も高かった。
【0049】
実施例2 RNA干渉によるCD8陽性T細胞のPD−L1及びPD−L2発現抑制
配列番号1記載の配列を有するPD−L1に特異的なsiRNA、配列番号2記載の配列を有するPD−L2に特異的なsiRNA、もしくはネガティブコントロールsiRNA(いずれもInvitrogen社製)を、CD8陽性T細胞クローン2−28にエレクトロポレーションにより導入した。
【0050】
PD−L1に対するsiRNAを導入した細胞は、3日間培養した後、80GlyのX線を照射した自己LCLにMAGE−A4
143−151ペプチドをパルスしたものと、37℃で共培養した。翌日、抗ヒトPD−L1抗体にて染色し、細胞表面のPD−L1の発現をフローサイトメーターで解析した。
【0051】
PD−L2に対するsiRNAを導入した細胞は、導入2日後及び3日後に、抗ヒトPD−L2抗体(BD bioscience社製)にて細胞内のPD−L2の発現をフローサイトメーターで解析した。
【0052】
図2にPD−L1の解析結果を、
図3にPD−L2の解析結果をそれぞれ示す。siRNAを導入しなかった細胞(無処理)及びネガティブコントロールsiRNAを導入した細胞(si control)ではPD−L1もしくはPD−L2の発現抑制は見られなかった。PD−L1特異的なsiRNAを導入した細胞(si PD−L1)、PD−L2特異的なsiRNAを導入した細胞(si PD−L2)において、それぞれPD−L1及びPD−L2の発現抑制が見られた。
【0053】
実施例3 PD−L1及びPD−L2発現CD8陽性T細胞の、RNA干渉によるIFN−γの産生促進
ネガティブコントロールsiRNA、配列番号3記載の配列を有するPD−1に特異的なsiRNA(Invitrogen社製)、配列番号1記載の配列を有するPD−L1に特異的なsiRNA、又は配列番号2記載の配列を有するPD−L2に特異的なsiRNAを、CD8陽性T細胞クローン2−28にエレクトロポレーションにより導入した。3日間培養した後、この細胞を自己LCLにMAGE−A4
143−151ペプチドをパルスしたものと、4:1もしくは2:1の割合で混合して37℃で共培養し、翌日、各培養上清中のIFN−γ濃度をELISA法で測定した。
【0054】
図4に各細胞上清中のIFN−γ濃度を示す。PD−1に特異的なsiRNAを導入した細胞(si PD−1)は、どちらの混合比で培養したものもネガティブコントロールsiRNAを導入した細胞と比較してIFN−γ濃度に変化は見られなかった。PD−L1に特異的なsiRNA及びPD−L2に特異的なsiRNAを導入した細胞は、ネガティブコントロールsiRNA及びPD−1に特異的なsiRNAを導入した細胞と比較して、それぞれ有意にIFN−γ濃度の上昇が見られた。
【0055】
実施例4 PD−L1及びPD−L2発現CD4陽性T細胞の、RNA干渉によるIFN−γの発現促進
ネガティブコントロールsiRNA、配列番号3記載の配列を有するPD−1に特異的なsiRNA、配列番号1記載の配列を有するPD−L1に特異的なsiRNA、又は配列番号2記載の配列を有するPD−L1に特異的なsiRNAを、MAGE−A4
46−66特異的なCD4陽性T細胞クローン5にエレクトロポレーションにより導入し、3日間培養した。この細胞を自己LCLにMAGE−A4
46−66ペプチドをパルスしたものと、2:1で混合して37℃で培養し、翌日、各培養上清中のIFN−γ濃度をELISA法で測定した。
【0056】
図5に各細胞上清中のIFN−γ濃度を示す。ネガティブコントロールsiRNAを導入した細胞及びPD−1に特異的なsiRNAを導入した細胞では、IFN−γの発現は見られなかった。PD−L1又はPD−L2に特異的なsiRNAを導入した細胞では、有意にIFN−γの発現が見られた。
【0057】
実施例5 PD−L1及びPD−L2発現抑制用siRNAの選択
LCLに配列番号8、9記載の配列を有するPD−L1に特異的なsiRNA(sh831、sh832)、もしくは配列番号10、11記載の配列を有するPD−L2に特異的なsiRNA(sh833、sh834)(いずれもタカラバイオ社製)、もしくは実施例2で使用したネガティブコントロールsiRNAをエレクトロポレーションにより導入し、37℃で2日培養したのち、それぞれの細胞からトータルRNAを抽出して、QuanTitect SYBR PCR Kit(キアゲン社製)を用いてリアルタイムRT−PCRでPD−L1とPD−L2の発現を測定し、発現抑制力の強いsiRNAを選択した。
配列番号12、13にPD−L1の発現測定に使用したリアルタイムRT−PCR用プライマー配列を、配列番号14、15にPD−L2の発現測定に使用したリアルタイムRT−PCR用プライマー配列を、配列番号16、17に発現測定の対象としたヒトGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)のリアルタイムRT−PCR用プライマー配列をそれぞれ示す。
図6にPD−L1のリアルタイムRT−PCRの結果を、
図7にPD−L2のリアルタイムRT−PCRの結果を示す。図中、縦軸はヒトGAPDHの発現に対するPD−L1、PD−L2の発現比率を示す。この結果より、PD−L1に特異的なsiRNAとして配列番号9に示すsh832、PD−L2に特異的なsiRNAとして配列番号11に示すsh834を選択した。
【0058】
実施例6 コドン変換型TCR発現レトロウイルスベクターの作製
国際公開第2008/153029号パンフレットに従い、pMS−Ma2及びpMS−Pb2を作製した。これらのベクターはMSCV(Murine Stem Cell Virus)をベースとするレトロウイルスベクターシステムを含む。更に、それぞれ腫瘍抗原MAGE−A4を認識するTCRのα鎖及びβ鎖をコードする遺伝子を含み、これらの遺伝子は後述するTCRに対するsiRNAによるRNA干渉により発現が抑制されないようにコドンを変換している(以下、コドンを変換したものをコドン変換型と呼ぶ)。
【0059】
実施例7 コドン変換型TCR及びsiRNA発現レトロウイルスベクターの作製
実施例6で作製したpMS−Ma2から、MluI及びBglIIによりコドン変換型TCRα遺伝子を切り出し、TCRα−MluI/BglIIを調製した。配列番号4に示すsiRNAクラスター、PDL1−PDL2−TCRα−TCRβ人工合成遺伝子をBglII及びNotIで消化し、TCRα−MluI/BglIIと共に、pMS−Pb2のMluI−NotIサイトにクローニングすることにより、MS−aPb1−siPDL_1/2_siTCRベクター(ベクター1)を調製した。ベクター1は、コドン変換型TCRを発現し、配列番号9、11、18及び19に示すPD−L1、PD−L2、TCRα及びTCRβに対するsiRNAを発現することができる。このうち、TCRα及びTCRβに対するsiRNAは、内在性の野生型TCRの発現を抑制し、コドン変換型TCRの発現は抑制しない。
【0060】
更に、配列番号5に示すsiRNAクラスター、PDL1−PDL2人工合成遺伝子、配列番号6に示すsiRNA cluster PDL1人工合成遺伝子、配列番号7に示すsiRNA cluster PDL2人工合成遺伝子を調製し、ベクター1と同様にして、MS−aPb1−siPDL_1/2ベクター(ベクター2)、MS−aPb1−siPDL_1ベクター(ベクター3)、MS−aPb1−siPDL_2ベクター(ベクター4)を調製した。各ベクターが発現する遺伝子の概略を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例8 コドン変換型TCR及びsiRNA発現レトロウイルス溶液の作製
実施例7で調製したベクター1〜4により大腸菌JM109を形質転換し、プラスミドDNAをQIAGEN Plasmid Midi Kit(キアゲン社製)を用いて精製し、トランスフェクション用DNAとして供した。
【0063】
Retorovirus Packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)を用いて製品プロトコールに従い、調製した各トランスフェクション用DNAを293T細胞にトランスフェクションし、各エコトロピックウイルス上清液を獲得した。この上清液を0.45μmフィルター(Milex HV、ミリポア社製)にてろ過し、ポリブレンを使用する方法[Kawaiら、モレキュラー セル バイオロジー(MoI.Cell.Biol.)、第4巻、第1172頁、(1984)]によりPG13細胞(ATCC CRL−10686)細胞に感染させ、得られた細胞の培養上清を回収し、0.45μmフィルターによりろ過し、レトロウイルス溶液を調製した。
【0064】
実施例9 ヒト末梢血単核球へのコドン変換型TCR及びsiRNA共発現レトロウイルスベクターの感染
レトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製)を用いて取扱説明書に従って、ヒト末梢血より分離した末梢血単核球(PBMC)に、実施例8で作製したレトロウイルス溶液を2回感染させ、コドン変換型TCR及びsiRNA共発現導入末梢血単核球を作製した。2回目ウイルス感染3日後に細胞を回収し、FastPure DNA Kit (タカラバイオ)によりゲノムを抽出し、Proviral Copy Number Detection Primer Set (タカラバイオ社製)及びCycleavePCR Core Kit (タカラバイオ社製)にて各細胞ゲノム中の平均プロウイルスコピー数を算出した。ベクター1〜4を含むウイルス溶液を感染させたPBMCのプロウイルスコピー数は、それぞれ4.6copies/cell、2.2copies/cell、3.2copies/cell、4.5copies/cellであった。次に、2回目のウイルス感染の5日後に細胞を回収し、HLA−A2402 MAGE−A4 テトラマー−PE(MBL社製)及びHuman CD8−FITC CONJUGATE(ベクトン・ディッキンソン社製)により染色し、フローサイトメーターによりCD8陽性であって、かつテトラマー陽性である細胞の割合を測定した。
【0065】
図8にMAGE−A4テトラマー陽性細胞率を示す。横軸は、導入したレトロウイルスベクターを示し、縦軸はMAGE−A4テトラマー陽性細胞率(%)を示す。
図8に示されるように、各レトロウイルスベクター導入により、ヒト末梢血単核球に遺伝子導入した抗MAGE−A4TCRα/β複合タンパクの発現が確認された。また、レトロウイルスベクターが発現するPD−L1及びPD−L2に対するsiRNAの発現は、導入したコドン変換型TCRの発現に大きく影響を及ぼすことはなかった。更に、TCRα及びβに対するsiRNAは、siRNAによる野生型の内在性TCR遺伝子の発現抑制効果により、コドン変換型TCRα/β複合タンパク発現率を増強した。
【配列表フリーテキスト】
【0067】
SEQ ID NO:1: siRNA specific for PD-L1
SEQ ID NO:2: siRNA specific for PD-L2
SEQ ID NO:3: siRNA specific for PD-1
SEQ ID NO:4:siRNA cluster PDL1-PDL2-TCR alpha-TCR beta
SEQ ID NO:5:siRNA cluster PDL1-PDL2
SEQ ID NO:6:siRNA cluster PDL1
SEQ ID NO:7:siRNA cluster PDL2
SEQ ID NO:8:siRNA for PD-L1 (sh831)
SEQ ID NO:9:siRNA for PD-L1 (sh832)
SEQ ID NO:10:siRNA for PD-L2 (sh833)
SEQ ID NO:11:siRNA for PD-L2 (sh834)
SEQ ID NO:12:real time PCR F-primer for PD-L1
SEQ ID NO:13:real time PCR R-primer for PD-L1
SEQ ID NO:14:real time PCR F-primer for PD-L2
SEQ ID NO:15:real time PCR R-primer for PD-L2
SEQ ID NO:16:real time PCR F-primer for GAPDH
SEQ ID NO:17:real time PCR R-primer for GAPDH
SEQ ID NO:18:siRNA for TCR alpha
SEQ ID NO:19:siRNA for TCR beta