(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記要件(1)〜(3)を満たす、ホモポリプロピレンを含む延伸用繊維を、延伸時の応力が80MPa以上、10000MPa以下となる条件下、延伸倍率7倍以上で延伸する工程を含むことを特徴とする、ポリプロピレン製延伸繊維の製造方法:
(1)mmmm値が97%以上である;
(2)GPCによって求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満である;
(3)メルトフローレート(230℃、2.16kg)が1〜100g/10分である。
前記ホモポリプロピレンを含む延伸用繊維は、溶融押出手段における溶融押出温度から押出直後に前記ホモポリプロピレンのガラス転移温度(Tg)以上(Tg+25℃)以下の範囲に冷却し、紡糸して製造することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレン製延伸繊維の製造方法:
前記延伸用繊維は、直径が30〜300μmであり、糸径のばらつきCVが2%以下である、ことを特徴する請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリプロピレン製延伸繊維の製造方法。
延伸後の繊維の直径が7〜150μmであり、(110)面の結晶配向度が0.960〜1.0である、ことを特徴とする請求項5に記載のポリプロピレン製延伸繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0018】
本発明では、mmmm分率が97%以上であり、かつGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)によって求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満のホモポリプロピレンまたはα−オレフィン含量が5mol%以下のプロピレン・α−オレフィン共重合体を溶融紡糸して得られたポリプロピレン系延伸用繊維を、延伸時の応力が80MPa以上、10000MPa以下となる条件で延伸する。
【0019】
mmmm分率は、
13C−NMRスペクトルにおけるP
mmmm(プロピレン単位が5単位連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびP
W(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式により求められる。P
mmmmおよびP
Wは
13C−NMRスペクトルにおけるピーク面積に相当する。
mmmm分率(%)=(P
mmmm/P
W)×100
【0020】
上記の分子量分布の狭いホモポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて製造される。
メタロセン触媒としては、シクロペンタジエニル骨格を分子内に持つメタロセン化合物を含む重合触媒が好ましく用いられる。
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を分子内に含むメタロセン化合物としては、その化学構造から下記一般式[I]で表されるメタロセン化合物(D1)および下記一般式[II]で表される架橋型メタロセン化合物(D2)の二種類を例示することができる。これらの中では、架橋型メタロセン化合物(D2)が好ましい。
【0022】
〔上記一般式[I]および[II]において、Mはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子を示し、Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子、または孤立電子対で配位可能な中性配位子であり、jは1〜4の整数であり、jが2以上の時は、Qは互いに同一でも異なっていてもよく、Cp
1およびCp
2は、互いに同一か又は異なっていてもよく、Mと共にサンドイッチ構造を形成することができるシクロペンタジエニルまたは置換シクロペンタジエニル基である。ここで、置換シクロペンタジエニル基は、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基およびこれらが一つ以上のハイドロカルビル基で置換された基も包含し、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基の場合はシクペンタジエニル基に縮合する不飽和環の二重結合の一部は水添されていてもよい。一般式[II]においてYは、炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基、炭素原子数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO
2−、−Ge−、−Sn−、−NR
a−、−P(R
a)−、−P(O)(R
a)−、−BR
a−または−AlR
a−を示す(但し、R
aは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜20の炭化水素基、炭素原子数1〜20のハロゲン化炭化水素基、水素原子、ハロゲン原子または窒素原子に炭素原子数1〜20の炭化水素基が1個または2個結合した窒素化合物残基である。)。〕
【0023】
本発明において好適に用いられる重合触媒は、本出願人によって既に国際公開(WO01/27124)されている下記一般式[III]で表される架橋性メタロセン化合物、並びに、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物およびメタロセン化合物と反応してイオン対を形成することのできる化合物から選ばれる少なくても1種以上の化合物、さらに必要に応じて粒子状担体とからなるメタロセン触媒であることが好ましい。
【0025】
上記一般式[III]において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14は水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよい。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基などの飽和の、またはアリル基等の不飽和の、直鎖状脂肪族炭化水素基;イソプロピル基、tert−ブチル基、アミル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1−メチル−1−プロピルブチル基、1,1−プロピルブチル基、1,1−ジメチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−1−イソプロピル−2−メチルプロピル基などの分岐状脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの脂環族炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、クミル基、1,1−ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基などの芳香族炭化水素基で置換された脂肪族炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−フェニルアミノ基、ピリル基、チエニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基等を挙げることができる。ケイ素含有基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基などを挙げることができる。また、R
5からR
12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよい。このような置換フルオレニル基としては、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルテトラヒドロジシクロペンタフルオレニル基などを挙げることができる。
【0026】
本発明に用いるメタロセン化合物としては、前記一般式[III]において、シクロペンタジエニル環に置換するR
1、R
2、R
3、R
4は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、R
2およびR
4が炭素数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、R
1およびR
3が水素原子であり、R
2およびR
4が炭素数1〜5の直鎖状または分岐状アルキル基であることが特に好ましい。
【0027】
また、前記一般式[III]において、フルオレン環に置換する、R
5からR
12は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、前述の炭化水素基を例示することができる。R
5からR
12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよい。好ましい態様は、R
7、R
11が同時に水素原子ではないフルオレン環であり、より好ましい態様はR
6、R
7、R
10及びR
11が同時に水素原子ではないフルオレン環である。
本発明に用いるメタロセン化合物としては、前記一般式[III]において、シクロペンタジエニル環とフルオレニル環を架橋するYが第14族元素であることが好ましく、炭素、ケイ素、ゲルマニウムがより好ましく、炭素原子がより好ましい。
また、Yに置換するR
13、R
14は相互に同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基から選ばれる。このような置換基としては、メチル基、エチル基、フェニル基、トリル基などが好ましい。なお、R
13、R
14は、R
5からR
12の隣接した置換基またはR
1からR
4の隣接した置換基と互いに結合して環を形成してもよい。
【0028】
前記一般式[III]において、Mは好ましくは第4族遷移金属であり、さらに好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子である。また、Qはハロゲン、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一または異なる組合せで選ばれる。jは1〜4の整数であり、jが2以上の時は、Qは互いに同一でも異なっていてもよい。ハロゲンの具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭化水素基の具体例としては前述と同様のものなどが挙げられる。アニオン配位子の具体例としては、メトキシ、tert−ブトキシ、フェノキシなどのアルコキシ基、アセテート、ベンゾエートなどのカルボキシレート基、メシレート、トシレートなどのスルホネート基等が挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子の具体例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類等が挙げられる。Qは少なくとも1つがハロゲンまたはアルキル基であることが好ましい。
【0029】
前記の好ましい架橋メタロセン化合物としては、ジメチルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(3,6−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、1−フェニルエチリデン(4−tert−ブチル−2−メチルシクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、[3−(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’−オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3−トリメチル−5−tert−ブチル−1,2,3,3a−テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド、ジメチルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(1,1,4,4,7,7,10,10−オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)ジルコニウムジクロリド等を例示することができる。
なお、本発明に用いるメタロセン触媒において、前記一般式[III]で表わされるメタロセン化合物とともに用いられる、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、およびメタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(共触媒)、さらには必要に応じて用いられる粒子状担体については、本出願人による前記公報(WO01/27124)や特開平11−315109号公報中に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0030】
本発明におけるホモポリプロピレンとは、プロピレン単位の含有割合が、95mol%以上、100mol%以下の樹脂である。プロピレン単位以外の含有割合が5mol%を超えると、破断強度、初期弾性率が低いため実用性に貧しい。
好ましい組成は、プロピレン単位の含有割合が97mol%以上、100mol%以下、より好ましい組成は、99mol%以上、100mol%以下である。
プロピレン単位以外の構成成分は特に限定されないが、例えば、他のαオレフィン単位等を挙げることができる。
α−オレフィン単位としては、例えば、エチレン、炭素数4〜20のα−オレフィン由来の単位が挙げられる。炭素数4〜20のα−オレフィンとしては、具体的には1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テト
ラデセン、1−ヘキ
サデセン、1−オク
タデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、ジエチル−1−ブテン、トリメチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジメチル−1−ペンテン、メチルエチル−1−ペンテン、ジエチル−1−ヘキセン、トリメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ヘプテン、エチル−1−オクテン、メチル−1−ノネンなどが挙げられる。これらの単位は一種でもよく、二種以上でもよい。これらの中でも、エチレン単位および炭素数4〜8のα−オレフィン由来の単位が好ましく、エチレン単位がより好ましい。
【0031】
また、本発明で使用する原料としては、上記要件を満たすホモポリプロピレンであり、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記の要件を満たさないメタロセン系のプロピレン系(共)重合体や、従来触媒を使用したプロピレン系(共)重合体、ポリエチレン、ポリブテンなどをブレンドして用いてもよい。上記要件を満たすホモポリプロピレンは原料組成物中に70質量%以上含まれていることが好ましい。
プロピレン系共重合体としては、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であって、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。α−オレフィンとしては、上記のα−オレフィンが挙げられる。
【0032】
本発明で使用するホモポリプロピレンは、以下の(1)〜(3)の要件を満たすものである。
(1)mmmm分率が97%以上。
(2)GPCによって求められる分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満。
(3)メルトフローレート(230℃、2.16kg)が1〜100g/10分。
【0033】
(1)の高立体規則性と(2)の分子量分布を同時に達成するには、上記の通りメタロセン系触媒を使用して原料ポリマーを製造する。
【0034】
(3)のメルトフローレート(MFR)は、得られる原料ポリマーの分子量を適宜調整することで達成できる。また、ホモポリプロピレンに前述したホモポリプロピレン以外の構成成分を適宜配合することでMFRを調整することもできる。MFRが1g/10分未満では後述する紡糸工程での押し出しが困難となる。MFRが100g/10分を超えると、紡糸繊維の強度が保てず破断し、巻き取りが困難となる。MFRは、5g/10分以上が好ましく、
10g/10分以上がより好ましい。また、MFRは、
70g/10分以下が好ましく、40g/10分以下がより好ましい。
【0035】
また、本発明で使用するホモポリプロピレンは、デカン可溶分が少ないことが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
さらに、本発明で使用するホモポリプロピレンは、結晶化溶離分別(CEF)の半値幅が、5℃以下であることが好ましい。
また、本発明で使用する原料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でこの分野で使用される各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、適宜中和剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、気泡防止剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、架橋剤、架橋助剤等の添加剤、染料、顔料等の着色剤などが挙げられる。
【0036】
〔ポリプロピレン製延伸繊維の製造方法〕
本発明に係るポリプロピレン製延伸繊維の製造方法は、まず、上記のホモポリプロピレンを含む原料組成物を溶融紡糸して延伸用繊維を得る。
【0037】
(延伸用繊維の製造工程(紡糸工程))
上記の原料樹脂組成物を溶融し、溶融物を所定の孔径を有するノズルから押出して延伸用繊維(as spun繊維)を得る。
原料を溶融押出する手段としては、当該技術分野で通常使用されるプラスチック繊維の溶融押出技術を使用すればよい。溶融押出する手段としては、限定するものではないが、例えば、原料プラスチックを加熱、溶融した後、該溶融物を加圧押出する押出装置を挙げることができる。前記の押出装置を本工程に使用することにより、結果として得られる延伸繊維の繊維径を好適な範囲に調整することが可能となる。
特に、本発明では、以下の(A−1)〜(A−3)に記載の要件で溶融紡糸した繊維であることが好ましい。
(A−1)メルトドローレシオ(Melt draw ratio:MDR)が8〜500、
(A−2)紡糸温度が200〜280℃、
(A−3)1ホール当りの吐出量が1〜100g/min。
【0038】
メルトドローレシオ(MDR)とは、送り出し速度(m/min)に対する引(巻)き取り速度(紡糸速度)(m/min)の比であり、このMDRを調整することにより、押出繊維中の晶質、非晶質等の配向状態をある程度制御することができる。本発明では高強度の繊維を得るために、比較的低いMDRでas spun繊維を作製することが好ましい。また、紡糸速度は吐出量(g/min)と押出機のノズル孔径に依存していることから、吐出量を制御した上で巻き取り可能な最小MDRとなるように制御する。
MDRの下限は10であることがより好ましく、上限は200であることがより好ましい。1ホール当りの吐出量の下限は1.0g/minであることがより好ましく、上限は50g/minであることがより好ましい。
紡糸速度は速くなるほど、生産性を高めることができる。紡糸速度は、通常は30〜10000m/minである。本発明では、比較的高速の紡糸にも対応できる。
【0039】
as spun繊維は、溶融押出手段における加熱温度から所定の温度Aに急冷され、該温度Aにおいて、引取りながら紡糸されることが好ましい。ここで温度Aは、原料樹脂のガラス転移温度(Tg)以上且つTg+25℃以下の範囲の温度であることが好ましく、Tg以上且つTg+20℃以下の範囲の温度であることがより好ましい、さらにTg以上且つTg+10℃以下の範囲の温度であることがより好ましい。なお、ポリプロピレンのTgは−20〜5℃である。
冷却は、風冷あるいは冷媒、たとえば水、メタノール、エタノール、アセトンなどの強制冷却手段を用いて行うことが可能である。冷却することで結晶化速度を速めることができる。水などで強制的に冷却する場合(水冷)は、風冷の場合に比較して、冷却速度が速いため、as-spun繊維の結晶化度が低く、均一に延伸し易い。そのため、破断強度が高い延伸糸を得やすいので好適である。なお、水冷の場合は、ノズルと樹脂が固化する位置との間の距離が、風冷の場合に比較して短いため、溶融温度を高く設定し、樹脂の粘度を低くし、引き取りによる糸径の低下割合を大きくすることが好ましい。
【0040】
as spun繊維を温度Aにおいて引取る手段は特に限定されない。例えば、前記冷媒に導入されたas spun繊維を、冷媒中、当該技術分野で慣用される通常の引取手段を用いて所定の引取速度で巻取軸に巻取り巻糸体を形成させるか、又は冷媒中を所定の引取速度で通過させた後、該冷媒の外で、通常の引取手段を用いて所定の引取速度で巻取軸に巻取り巻糸体を形成させることによって、as spun繊維を温度Aにおいて引取ることができる。或いは、前記冷媒で温度Aに急冷されたas spun繊維を、通常の引取手段を用いて所定の引取速度で引取りながら、予め温度Aに冷却された容器に収容することによって、温度Aにおいてas spun繊維を引取ることもできる。いずれの場合も本工程の実施形態に包含される。ここで、前記引取手段としては、限定するものではないが、例えば、ボビンのような巻取軸に繊維を巻取ることで巻糸体を形成させる巻取装置及びローラーを挙げることができる。また、as spun繊維は、引取によって付与された該繊維の緊張状態を維持したまま前記手段で回収され、次の延伸工程に供されるまでは所定の温度で維持されることが好ましい。
なお、紡糸速度を高めるほど、巻き取りが不安定になることが知られており、高速化の妨げとなる。本発明においては、従来得られていなかった高立体規則性のメタロセン系ポリプロピレンを適用することにより、例えば1000m/分以上の高速で紡糸することができる。
【0041】
本発明では、このように紡糸した延伸用繊維を用いることで、従来得られていなかった高立体規則性のメタロセン系ポリプロピレンを、例えば10倍以上の高延伸倍率で延伸した繊維が得られる。したがって、このような延伸用繊維も本発明の対象である。なお、高速紡糸を行った場合、紡糸段階である程度延伸もされて配向性が高まるため、延伸用繊維からさらに10倍以上の延伸が適当でない場合もある。したがって、後述するように延伸繊維を得る場合は延伸応力で制御することが肝要となる。
なお、延伸前の繊維の配向度が低いほど、延伸糸の最高到達強度は高くなるため、好適である。配向度が低い繊維を得るためには低速で紡糸することが必要であるが、産業上の利用の観点からは好ましくない場合があり、適宜適正な条件を選択すればよい。
延伸倍率と結晶配向度の間には良好な相関関係がある。本発明において、高倍率で延伸された繊維とは、結局のところ、延伸後の結晶配向度が高いものである。
延伸前の配向度が高いと、延伸倍率は低くなるが、延伸後の結晶配向度が所望のレベルに達していれば良い。
【0042】
本発明に係る延伸用繊維の特徴としては、
(A)直径が30〜300μmであり、
(B)糸径のばらつきCVが2%以下である。
直径がこの範囲より大きいと加熱延伸の際に繊維を均一に加熱することが難しく、延伸の際に破断しやすい。また、直径がこの範囲より小さいと延伸により細くなりすぎ、破断しやすい。糸径のばらつきがこの範囲より大きいと加熱延伸の際に破断しやすくなる。
Mw/Mn<3でないとCV≦2%が達成できないことから、従来の高立体規則性のチーグラー・ナッタ系ポリプロピレンではこのようなCV値は達成できなかった。
【0043】
(延伸工程)
以上のように得られたas spun繊維は、延伸工程によって延伸されて目的の延伸繊維とする。
本発明において、as spun繊維の延伸は、当該技術分野で通常に使用される延伸手段を用いて行うことができる。例えば、
図1に示すように、送出ローラー1と巻取ローラー5との速度差によって繊維を連続的に延伸している。送出ローラー1と巻取ローラー5との速度差によって延伸倍率が規定される。送出ローラー1から引き出されたas spun繊維6は、ヒーター2で所定の温度に加熱されて延伸される。ヒーター2での加熱温度はas spun繊維6がヒーター2表面に融着せずに安定して延伸できる範囲であれば良い。一方、加熱温度に依存して延伸倍率の違いにより延伸繊維7が白化する現象が見られる。つまり、加熱温度により延伸後の繊維が白化しない倍率(以降、白化限界倍率)が異なることとなる。
延伸時のヒーター温度はas spun繊維の融点(Tm)未満であり、Tm−22±10℃の範囲であることが好ましい。
加熱に適用するヒーターの形状、仕組みに特に制限はなく、繊維を所望の温度にすることができればよく、プレートヒーター、ロールヒーター、熱風炉、温水浴、飽和水蒸気炉などを適用することができる。
【0044】
延伸工程では、延伸繊維7の張力を張力計3で測定し、さらに延伸繊維7の糸径を寸法測定器4で測定し、得られた延伸張力をその場測定で得られた延伸後の糸径(直径)で割ることで延伸応力を算出することができる。
本発明では、この延伸応力が80MPa以上、10000MPa以下となる条件下、延伸倍率7倍以上で延伸する。延伸応力が80MPa未満では、所望の延伸倍率まで延伸することができない場合がある。延伸応力が10000MPaを超えると破断し延伸することができない。
実際は、高い延伸倍率で延伸することで、高い配向状態にし、高い強度、初期弾性率を発現させる。延伸倍率は、送出ローラー1から引き出されるas spun繊維6の送り出し速度(m/min)と巻取ローラー5での延伸繊維の巻き取り速度(m/min)の比(ドローレシオ、DR)を意味する。
延伸時の加熱温度が一定の条件では、延伸倍率が高くなるほど延伸応力が大きくなる傾向にある。このましい延伸倍率は、延伸前の糸の配向状態によって異なる。延伸前の糸の配向性が低いほど、延伸により高倍率で延伸することができる。その結果、高結晶配向度の延伸糸を形成することができる。
延伸倍率の上限は特に限定されるものではないが、好ましくは40倍である。延伸倍率が40倍以下であれば、上記延伸応力の範囲内で破断なく延伸することができる。
【0045】
また、延伸は、図示するような1段階で延伸でもよいが、2段階以上に延伸してもよい。
2段延伸では、1回目の延伸において、結晶分散温度付近の温度で比較的低倍率で延伸し、2回目の延伸において、延伸前の融点を超える温度で延伸をする。1段延伸に比較して、総延伸倍率が大きくすることできる。そのため強度をさらに高めることができる。PP繊維の場合は、延伸過程において、内部にボイドが発生することがあるが、2段延伸により抑制することができる。この場合も2回の延伸で得られる延伸糸の結晶配向度が所望の範囲になるように延伸すればよく、1段延伸の場合に比較して、結晶配向度が高い延伸糸を形成することができる。
本発明における好ましい延伸倍率は、紡糸工程におけるMDRとのバランスで設定する。該MDRが小さい場合は、as-spun繊維の配向が小さいため、高い倍率で延伸する。逆に大きい場合は、as-spun繊維の配向が大きいため、MDRが小さい場合に比較して、低い倍率で延伸する。紡糸工程におけるMDRは通常8〜300である。
本発明における延伸倍率は、延伸を1段階で完了する場合は、好ましくは7倍以上、20倍以下、より好ましくは7倍以上、16倍以下である。
2段階で延伸する場合は、延伸倍率(1段目)は、3倍以上、15倍以下である。好ましくは、5倍以上、12倍以下、より好ましくは7倍以上、11倍以下である。
2段階で延伸する場合総延伸倍率(1段目と2段目の積)は、7倍以上、40倍以下であり、7倍以上、36倍以下であることが好ましく、10倍以上、30倍以下がより好ましく、12倍以上、22倍以下であることが最も好ましい。
【0046】
本発明における延伸後の繊維の直径は7〜150μmである。この範囲より直径が小さい繊維は、元となるas-spun繊維が細いため、延伸工程で破断しやすく作製が困難である。直径が大きい繊維は、元となるas-spun繊維の直径が大きいため、延伸工程において均一に加熱することが困難なため破断しやすく、作製が困難である。
【0047】
ここで、本発明における結晶配向度はポリプロピレンの(110)面に対する強度プロフィールを使って求めた値である。延伸繊維の好適な結晶配向度は、0.960以上、1.0以下であり、より好ましくは0.970以上、1.0以下、さらに好ましくは、0.980以上、1.0以下であり、特に好ましくは0.982以上、1.0以下である。なお、ポリプロピレンの(040)、(130)面から求めた結晶配向度に関しても、(110)面から求めたものと同様に延伸倍率と良好な相関を示すので、適用することができる。
また、延伸糸を構成するフィブリルが太いほど高い耐熱クリープ特性が発現することが期待される。フィブリルの太さはSAXS測定により得られる相関長により推測することができる。本発明における相関長は、3nm以上、100nm以下、好ましくは5nm以上、100nm以下、より好ましくは7nm以上、100nm以下である。
【0048】
このように延伸した本発明に係るポリプロピレン製延伸繊維は、高い強度、剛性、耐熱性を有する。その結果、従来の高立体規則性のチーグラー・ナッタ系ポリプロピレン、あるいは低立体規則性のメタロセン系ポリプロピレンの高延伸繊維に比較して、強度、剛性(初期弾性率)、耐熱性(クリープ特性)が優れている。これは、次のように推察される。
【0049】
<延伸繊維に引張応力がかかった際の挙動>
延伸繊維は、配向した結晶部とそれをつなぐ(緊張)タイ分子鎖からなるフィブリルの束で構成される。引張応力を加えることによる応力とひずみの関係は、初期の段階では主に結晶と結晶間に束縛されている非晶部の配向で決定される。フィブリル間で滑りが生じ始める点が降伏点と呼ばれ、該降伏点において一部の結晶が破壊され、外力が緊張タイ分子鎖に集中する。この際、引張応力がいったん急激に低下することもある。
さらに引張応力を加えるとタイ分子鎖の破断もしくはタイ分子鎖間の滑りを伴う結晶の破壊をきっかけに繊維全体の破断に至る。その点が、破断強度を示す点となる。
例えば、タイ分子の密度が高い場合は、耐応力が高く、破断強度が高いと考えられる。
【0050】
剛性(初期弾性率)は、降伏点の前の応力とひずみの直線関係の係数であり、主にフィブリルをまたいだ結晶の硬さと非晶部の配向に由来する。例えば、結晶部が均一で破壊しにくく、タイ分子鎖密度も高いと剛性は高くなると考えらえる。また、分子量分布が狭いと、より均一に配向したタイ分子鎖ができ易く、結果として個々のフィブリルに印加される応力も均一になり易いため、より大きな繊維強度を発現することができる。
熱クリープは、熱エネルギーにより分子の運動性が高まった状態において、弱い引張応力がかかった際の変形挙動を示す。
分子鎖間の相互作用が弱いので、一部の結晶の破壊に伴うフィブリル間でのずれが生じ、繊維が伸びる。
特に後述する実施例で測定している温度は結晶分散温度以上なので、結晶自体は融解しないものの、分子鎖軸方向に沿った結晶内での分子鎖運動が可能であり、結晶の変形や破壊が起こりやすい。変形は微結晶の完全性に依存する。分子量分布が広いと(低分子量成分からなる)完全性の低い微結晶が形成されやすく、結果としてクリープが大きくなり易いと考えられる。
【0051】
(マルチフィラメント)
また、本発明におけるポリプロピレン製延伸繊維は、複数のホールを有する紡糸ノズルを適用して形成することにより、複数の糸が束になった状態に形成してもよい。
【0052】
(複合繊維)
また、本発明で得られたポリプロピレン製延伸繊維は、各種複合繊維の一部材として、例えば、代表的には芯鞘延伸複合繊維の芯材として好適に使用できる。
そのような繊維としては、例えば、以下のような構成のものを挙げることができる。
芯材の直径が0.5〜70μm、芯材と鞘材を合わせた繊維の直径が1〜100μmであり、繊維の断面における鞘材と芯材の比率が、断面積比において70:30〜40:60である。
なお、鞘材と芯材との断面における位置関係は同心であっても、偏心であってもよい。
また、鞘材を構成する重合体としては、例えば高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、あるいは軟質ポリプロピレンなどの非結晶性プロピレン系重合体、ポリ4−メチルペンテン−1などを挙げることができる。これらのオレフィン系重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のような、芯材として本発明に係る延伸繊維を用いた延伸複合繊維においては、剛性と破断強度のバランスに優れ、さらに良好な耐熱クリープ性を有する複合繊維を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
プライムポリマー株式会社製の以下の3種類のポリプロピレン樹脂を用いて紡糸を行った。
【0055】
【表1】
【0056】
(1)分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)
分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC−2000型を用い、以下のようにして測定した。
分離カラムは、TSKgel GNH6−HTを2本およびTSKgel GNH6−HTLを2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とした。移動相にはo−ジクロロベンゼンおよび酸化防止剤としてBHT0.025質量%を用い、1.0ml/分で移動させた。試料(プロピレン単独重合体)濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は400μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、東ソー社製を用いた。
【0057】
(2)IPF(mmmm分率)
プロピレン単独重合体のIPF(mmmm分率)は、A.zambelliらのMacromolecules,8,687(1975)に示された帰属により定められた値であり、
13C−NMRにより、下記条件で測定し、IPF=(21.7ppmでのピーク面積)/(19〜23ppmでのピーク面積)とした。
〈測定条件〉
種類 JNM−Lambada400(日本電子(株)社製)
分解能 400MHz
測定温度 125℃
溶媒 1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=7/4
パルス幅 7.8μsec
パルス間隔 5sec
積算回数 2000回
シフト基準 TMS=0ppm
モード シングルパルスブロードバンドデカップリング
【0058】
(3)メルトフローレート(MFR)
プロピレン単独重合体のメルトフローレート(MFR)を、ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0059】
(4)融点(Tm)
DSC測定により求めた。DSC測定の詳細については下記に示す。
装置名:パーキンエルマー社製 Diamond DSC(3)
測定条件:30℃〜230℃
1st昇温温度: 500℃/min
保持温度:230℃
保持時間:5min
降温速度:10℃/min
保持温度50℃
保持時間:1min
2nd昇温速度: 10℃/min
サンプル容器:通常パン
測定雰囲気:チッソ
サンプル重量:約5mg
【0060】
(5)ガラス転移温度(Tg)
DSC測定により求めた。DSC測定の詳細については下記に示す。
装置名:パーキンエルマー社製 Diamond DSC(3)
測定条件:30℃〜230℃
1st昇温温度: 500℃/min
保持温度:230℃
保持時間:5min
降温速度:500℃/min
保持温度:-70℃
保持時間:5min
2nd昇温速度: 20℃/min
サンプル容器:通常パン
測定雰囲気:ヘリウム
サンプル重量:約5mg
【0061】
(6)n−デカン可溶分
1g程度のポリマー試料(このときの正確な質量をaとする)を、n−デカン200mlと、試料量に対し約1%のBHT(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)とともに、三角フラスコに入れる。180℃に加熱し、2時間以上撹拌溶解する。試料が完全に溶解したことを確認し、1昼夜放冷する。その後、マグネチックスターラーで1時間撹拌しながらポリマーを析出させる。吸引瓶とロート(325メッシュスクリーン)にて、析出したポリマーを吸引ろ過する。ろ液を蒸発乾固させてn−デカン可溶部を回収した。n−デカン可溶分の回収量をbとする。
n−デカン可溶分は次式によって算出する。
n−デカン可溶分(%)=(b/a)×100
a:ポリマー試料の質量(g)、b:n−デカン可溶分の回収量(g)
【0062】
なお、通常はデカン不溶部とろ別したろ液に多少のアセトンを加えてデカン可溶部を析出させるが、今回の使用ではデカン可溶部を目視で確認することができなかった。そのため、上記の方法によりデカン可溶部を得た。
【0063】
(7)CEF(Crystallization Elution Fractionation)半値幅
下記条件で降温後、昇温時に観測されるピークの半値幅を求めた。
装 置: ハイスループット組成分布分析装置、CEF(Polymer Char社製)
検出器(内蔵): IR5型赤外分光光度計(Polymer Char社製)
検出波長: 濃度センサー:CH
2 νa 3.42μm(2,920cm
−1)
メチルセンサー:CH
3 νa 3.38μm(2,960cm
−1);
メーカー非公表
カラム:CEFカラム(Polymer Char社製)、長さ150mm、容量2.2mL
移動相:o−ジクロロベンゼン(ODCB)、BHT添加
試料濃度:16mg/8mL
溶解条件:150℃,60min(N
2雰囲気下)
注入量:0.2mL
降温条件:95℃→−20℃,1.0℃/min,流量:0.012mL/min
昇温条件:−20℃→140℃,4.0℃/min,流量:1.0mL/min
【0064】
<紡糸手法>
(実施例A1、A2、比較例A1〜A4)
溶融紡糸は、プラスチック工学研究所社製の二軸押出機BT−30−S2−42−Lを用いた。ノズルは直径0.7mm、L/D=3の1holeを使用した。紡糸温度220℃、吐出量1.5g/minと3.0g/minで押し出しを行い、紡糸ノズルから4.3mの位置において、空冷後の巻取が可能な最小MDRの条件をサンプリングした。空冷のための空気温度は20℃であり、溶融紡糸された樹脂が該温度相当まで冷却される。該温度は、TgからTg+20℃の温度範囲に該当する。詳細を表2に記載する。
【0065】
平均直径及びその変動係数(C.V)は、下記の測定及び算出法によって求めた。
紡糸後の繊維直径を測定器((株)KEYENCE製高速・高精度ディジタル寸法測定器LS−7010(商品名))を用いて測定した。平均直径はサンプリング周期100msで測定した5分間のデータ(3000データ)を平均した値であり、変動係数は5分間のデータから得られた標準偏差を平均値で除すことで得られた値である。
【0066】
(実施例B1、B2、比較例B1)
溶融紡糸において、水冷後に巻き取りを行った。実施例1の場合と同じ押し出し機を用いた。ノズル下78cmの位置に水槽の水面が来るように水浴槽(水温20℃)を設置して繊維を冷却・固化させた後、繊維を巻き取った。詳細を表2に示した。
なお、以下の実施例、比較例において、空冷紡糸した延伸用繊維を使用した例をA群、水冷紡糸した延伸用繊維を使用した例をB群として、各番号前に表示した。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例A3〜A7、比較例A5〜A15)
次に、得られた延伸用繊維(実施例A1、比較例A1、A2)を表3−1に示す各種条件で延伸して、延伸繊維を得た。延伸手法、延伸繊維の各種物性評価方法については以下の通りである。結果を表3−1に併せて示す。
【0069】
<延伸手法>
実施例で用いたヒーター延伸装置の概要図を
図1に示す。送出ローラー1(送出速度1m/min)と巻取ローラー5との速度差によって繊維を連続的に延伸している。繊維とヒーター2の接触長は225mm、加熱温度は、延伸時にヒーター表面に繊維が融着しない最大温度としてTm−22℃(125℃および140℃)に設定した。サンプリングは、10分間安定して延伸が可能な最大倍率までの範囲で行った。
延伸中の張力を、定格100gfのテンションピックアップセンサー3を装備したエイコー測器(株)製のテンションメータHS−1500S型(商品名)により測定した。また、延伸後の繊維直径を測定器4((株)KEYENCE製高速・高精度ディジタル寸法測定器LS−7010(商品名))を用いてその場測定した。測定された張力と直径のデータは、(株)KEYENCE製NR−2000(商品名)を介して平均回数128回、サンプリング周期100msでコンピュータに取り込んだ。得られた延伸張力をその場測定で得られた延伸後の直径で割ることで延伸応力を算出した。
【0070】
<引張試験>
得られた延伸繊維について、(株)島津製作所製のオートグラフAGS−X(商品名)引張試験機で引張特性を調べた。測定には50Nのロードセルと50N用のエアーチャックを用いた。測定は室温で行い、初期試料長は40mm、引張速度は40mm/minである。測定本数は12本とし、サーチ株式会社製オートバイブ口式繊度測定器DENICON DC−21(商品名)を用いて測定した繊度の値を使用した。得られた公称応力−歪曲線から破断強度、破断伸び、初期弾性率を算出した。それぞれの平均値を求めた。
【0071】
【表3-1】
【0072】
(実施例B3〜B10、比較例B2〜B5)
実施例B1,B2,比較例B1で得られた延伸用繊維を表3−2に示す各種条件で、上記延伸手法で延伸して、延伸繊維を得た。延伸繊維の各種物性評価結果を表3−2に併せて示す。
【0073】
【表3-2】
【0074】
強度は、延伸倍率10倍以上の場合に、m−iPP(H)>ZN−PPである。
破断強度は、タイ分子部分の耐応力が律速となっていると考えられる。
結晶分散温度以上(120〜140℃)において、熱収縮応力(表4参照)はm−iPP(H)>ZN−PPであるため、m−iPP(H)は、タイ分子から結晶部に大きな力を加えることができている。このことからタイ分子の密度が高いことが推定される。タイ分子の密度が高いため、耐応力が高く、破断強度が高いと考えることができる。
【0075】
剛性も、延伸倍率10倍以上の場合)に、m−iPP(H)>ZN−PPである。剛性は、主に結晶部の硬さと非晶配向に由来する。
m−iPP(H)の方が結晶部が均一で破壊しにくい上、とタイ分子鎖密度も高い考えらえる。水冷紡糸の場合は、空冷紡糸の場合に比較して低いMDRで紡糸することができるため、同一条件で延伸した場合の破断強度が高い。
例えば、同じ延伸倍率14倍では、実施例B5の強度は、実施例A5に比較して高い。
【0076】
次に、得られた延伸繊維について、以下の評価を行った。
<DSC測定>
Rigaku(株)製ThermoplusDSC8230(商品名)を用いてDSC測定を行った。昇温は10K/minで室温から200℃の範囲で測定した。また測定中はN
2を流し続けた。なお、基準試料にはAlを用い、各繊維を長さ1mm以下に切り刻み、粉末上にした後、アルミパンに封入したものを用いた。得られたDSC曲線から融解熱(ΔH
m)を読み取り、PPの完全結晶融解熱(ΔH
0m)=207kJ/kgから、式(1−1)によって結晶化度Xc(%)を算出した。
【0077】
【数1】
【0078】
<広角X線回折測定>
Rigaku社製RA−Micro7型高輝度X線回折装置を用いて、広角X線回折像を撮像した。光源には管電圧40kV、管電流20mAで発生させた波長0.154nmのCu−Kα線を用いた。撮像には縦横30cm,3000×3000pixelのイメージングプレート(IP)を用い、カメラ長250mmで各10分間撮像した。撮影後、Rigaku社製R−AXIS−IV++によってIPをスキャンし、ディジタル情報としてコンピュータに取り込んだ。その後、フリーソフトFIT2Dを用いて、広角X線回折像から赤道・方位角方向に対する強度プロフィールを求めた。赤道方向の強度プロフィールを、回折角が低角度のピークから(110)面回折、(040)面回折、(130)面回折とし、メゾ相(2θ=15.4°)および非晶ハローのピーク(2θ=17.6°)[西田幸次、小西隆士、金谷利治、繊維学会誌、63(12)、412−416(2007)参照]も加えた総和と考え、各ピークに式(2−1)のGauss型曲線を仮定して分離した。なお、I
0はピーク強度、2θ
0はピーク位置、βは半価幅である。得られたピーク強度と幅より各ピークの総積分強度を求め、全てのピークの総積分強度に対する、非晶ハローの割合、メゾ相の割合、結晶回折ピークの割合を求めた。また、フィッティングにより得られた回折角θ
0からBraggの式(2−2)により各面の面間隔d
hklを、半価幅βからScherrerの式(2−3)を用いて微結晶サイズL
hklを求めた.ここでλはX線の波長であり、また強度プロフィールの分離にGauss型曲線を用いたので、K=0.918とした。
【0079】
【数2】
【0080】
なお、ピーク幅βは実測した強度プロフィールからピークフィッティングによって半価幅βeを求め、測定装置に由来するピークの広がりβ
Iを使って式β
2=β
e2−β
I2で補正した。β
Iには粉末状Al
2O
3の(012)面回折強度プロフィールから求めた半価幅0.1°を用いた。
上記解析に加えて、延伸繊維については方位角方向に対する強度プロフィールについて式(3−1)のPearson VII型でピークフィッティングを行った。ここで、φ
pはピーク位置、τは半価幅、mは曲線の形状を反映する係数であり2.5とした。各回折面の方位角方向に対する強度プロフィールから、式(3−2)および式(3−3)によって繊維軸に対する各面法線の配向度fを求め、これらから式(3−4)によって配向軸(繊維軸)に対するc軸の配向度f
cを推定した。
【0081】
【数3】
【0082】
<小角X線散乱測定(SAXS)>
延伸倍率15倍の実施例A6と比較例A14について小角X線散乱測定を行った。測定装置には、リガク製NanoViewerを用いて撮像した。光源には管電圧40kV、管電流30mAで発生させた波長0.154nmのCu−Kα線を用いた。撮像には縦横30cm,3000×3000pixelのイメージングプレート(IP)を用い、カメラ長1350.38mmで各1時間撮像した。撮影後、Rigaku社製R−AXIS−IV++によってIPをスキャンし、ディジタル情報としてコンピュータに取り込んだ。得られたX線散乱像から空気散乱を差し引いた後、赤道・子午線、両方向に対する強度プロフィールを求めた。測定に適用した試料の厚みは約150μmである。
この結果、いずれの散乱像についても、子午線方向に長周期ピークは観察されなかった。このことは、いずれの試料でも、明瞭な長周期構造は形成されていないことを意味する。すなわち、形成されているラメラ結晶の量はいずれも少なく、ほぼフィブリル状の構造からなって居ることを想定することができる。また、赤道方向の強度プロフィールI(q)について、式(3−5)で示されるDebye Plotによって繊維軸と垂直方向に対する相関長aを見積もった。ここで、q=4πsinθ/λは散乱ベクトル(λ:X線の波長、θ:散乱角)の大きさである。
【0083】
【数4】
【0084】
得られた相関長は、実施例A6が9.7nm、比較例A14が7.7nmであり、実施例A6の方が優位に大きい。得られた相関長が長いことは、フィブリルのサイズが太いこと、言い替えればフィブリル間を結んだ微結晶のサイズや完全性が高いことを意味している。このことは、特に結晶分散温度以上でのフィブリル間滑りを阻害することから、当該条件でのクリープに関して、比較例A14と比べて実施例A6の方が明瞭に抑制される事実を裏付けている。
さらにナノサイズボイド割合として、インバリアント/総ボイド量を見積もった。
インバリアントQは、赤道方向の強度プロフィールI(q)について、式(3−5−2)に従ってその積分値として得た。
【0085】
【数5】
【0086】
該インバリアントQは、ナノサイズのボイドの量を示す。また、総ボイド量を繊維の測定外径と理論外径から求めた。ここで理論外径とは、as-spun繊維の直径(測定値)を基準とし、延伸による密度変化がないと仮定して、延伸倍率に応じた外径を算出したものである。すなわち、インバリアント/総ボイド量は、総ボイド量に占めるナノサイズのボイド量の割合を示す。
同一の延伸倍率におけるm−iPPとZN−PPとの比較を行う。例えば、15倍延伸の場合に、実施例A6はナノサイズボイド割合が、比較例A14に比較して明確に大きい。その他の延伸倍率の場合も同様の傾向である。さらに後述の2段延伸の場合も同様の傾向である。
小角X線に対して赤道散乱が生じる主な原因は、主にフィブリル間に形成されるナノサイズのボイドと考えられる。m−iPPの方がナノサイズボイド割合が大きくなったことは、延伸応力が大きいことと良く対応しており、延伸応力がより多くのフィブリルに作用したため、フィブリル間に形成されるナノサイズボイドの量も増えたとして説明できる。
しかるに、繊維直径から推定される総ボイド量は、逆にZN−PPの方が大きい。ZN−PPの方がナノサイズボイド量が少ないにも関わらず、総ボイド量が多いことは、小角散乱では観察されない様な大きなボイドが、より多く形成されることを意味する。この現象は、ZN−PPの場合、フィブリルに印加される延伸応力が不均一なため、一部のフィブリルに過大な応力が集中すると考えれば説明できる。すなわち、一部のフィブリルに応力が集中するため、フィブリル間に大きな滑りが生じ易く、大きな裂け目が形成され易い一方、滑りによって応力が解放されるために延伸応力は小さい値に留まる。応力が一部のフィブリルに集中するために個々のフィブリルが破断し易く、さらにフィブリル間に大きな裂け目が生じることから、得られる繊維の強度も小さくなると考えられる。一方のm−iPPでは、ZN−PPと比較してより多くのフィブリルに延伸応力が作用するため、フィブリル間には多くのナノボイドが形成されるものの、フィブリル間の滑りは起こり難く、結果として大きなボイドはでき難い。フィブリル内のタイ分子鎖により均等に応力が印加され、フィブリル間の裂け目もでき難いため、より大きな繊維強度が得られたと推測される。
【0087】
<TMA測定>
熱収縮応力、クリープひずみ測定を行った。測定装置には、SIIナノテクノロジー(株)社製TMA/SS6100熱分析レオロジーシステムTMA(Thermo Mechanical Analyzer)を用いた。熱収縮応力の測定は、試料長10mm、初期荷重10mN、室温から250℃まで5K/minで昇温した。熱収縮率の測定は、初期試料長10mm、一定荷重10mN、室温から230℃まで5K/minで昇温した。クリープ歪の測定は、初期試料長10mm、一定応力50MPa、室温から25−30分で125℃まで昇温し、その後約50分間温度を保持して測定した。
以上の結果をまとめて、表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
クリープひずみは、最大破断強度を発現する延伸倍率15倍で比較した場合、ZN−PP>m−iPP(H)である。ZN−PPは、フィブリル間においてすべり易いためと考えられる。おそらく、完全性の低い微結晶ができ易いことと対応する。分子量分布の広さに由来して、不均一な状態でフィブリルが形成されるためと考えらえる。
【0090】
(実施例A8〜A10、比較例A16〜A18)
実施例A1と同様に空冷紡糸において、紡糸速度を変更して延伸用繊維を得た後、延伸を行った。各条件及び延伸繊維物性を表5に示す。
【0091】
【表5-1】
【0092】
【表5-2】
【0093】
表5において、m−iPP(H)では実施例A10の延伸倍率が約8倍の場合に最大強度、初期弾性率を示した。紡糸速度1000m/minの場合もm−iPP(H)は高い強度、初期弾性率を有する。m−iPP(L)では比較例A17の延伸倍率が約6.5倍の時最大強度を示した。それぞれの最大強度を示す延伸繊維を比較した場合、m−iPP(H)は、m−iPP(L)に対して、強度、剛性共に格段に優れることがわかった。ZN−PPでは、CVが2%以下の延伸用繊維が得られず、延伸繊維も破断伸びが低下した。
実施例A10及び比較例A17について、得られた延伸繊維の結晶化度、結晶配向度、クリープひずみを上記と同様に測定した。結果を表6に示す。
【0094】
【表6】
【0095】
(実施例A11−A17,B11−B14、比較例A19−A28、B6−B7)
次に、各延伸繊維を2段延伸した例について説明する。まず、一段目延伸として延伸倍率10倍で延伸し、続いて、2段目の延伸を行って、それぞれ、最終的に総延伸倍率が14倍、16倍、18倍、20倍、22倍、30倍、36倍となるように延伸した。各条件及び延伸繊維物性を表7に示す。
【0096】
【表7-1】
【0097】
【表7-2】
【0098】
表7における実施例A11の18倍延伸においてm−iPP(H)が最大強度を発現し、表3に示す1段延伸の場合に比較して、強度、初期弾性率が高い。
m−iPP(L)では16倍延伸(比較例A20)において、ZN−PPでは18倍延伸(比較例A22)において、最大強度を達成している。
以上から、m−iPP(H)は、m−iPP(L)及びZN−PPに対して強度、剛性共に格段に優れることがわかった。
水冷紡糸の場合は空冷紡糸の場合に比較して強度が高いことが分かった。例えば実施例B13は、実施例A14に比較して強度が高い。
二段延伸については、測定器((株)KEYENCE製高速・高精度ディジタル寸法測定器LS−9006(商品名))を用いて繊維直径を測定した。
さらに、実施例A11,A12,A15,A16,A17,B12,B14,比較例A19、A21、A22,A25,A27,A28,B6,B7について、得られた延伸繊維の結晶化度、結晶配向度を上記と同様に測定した。また、一部ナノサイズボイド割合を算出した。結果を表8に示す。
最大破断強度を発現する延伸倍率18倍で実施例A11と比較例A22において、クリープひずみを上記と同様に測定した。両者を比較した場合、クリープひずみは、ZN−PP>m−iPP(H)である。
【0099】
【表8-1】
【0100】
【表8-2】