特許第6709580号(P6709580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6709580-手持ち電動工具 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709580
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】手持ち電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20200608BHJP
   B25D 17/10 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
   B25D17/10
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-538857(P2018-538857)
(86)(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公表番号】特表2019-507024(P2019-507024A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2017051364
(87)【国際公開番号】WO2017129538
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2018年7月29日
(31)【優先権主張番号】16153432.6
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ローランド シェア
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0053419(US,A1)
【文献】 特開平07−253192(JP,A)
【文献】 特表2008−516789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B25D 17/10、17/24
B23B 45/16
B23D 49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作ボタン(7)の作動に対応して、工具ホルダ(2)を回転駆動装置(4)により作動軸(5)の回りを継続的に回転させる工程と、
運動センサ(20)により前記作動軸(5)の回りのハンドル(14)の回転運動を検出する工程と、
第1の制限値以下の低速回転運動を除外して、第1の動き検出装置(22)により前記ハンドル(14)の第1の回転角(28)を推定する工程と、
前記第1の制限値の10%未満である第2の制限値以下の低速回転運動のみを考慮に入れて、第2の動き検出装置(23)で前記ハンドル(14)の第2の回転角(32)を推定する工程と、
前記第1の回転角(28)が第1のトリガ閾値(A1)を超えた場合に、前記回転駆動装置(4)の出力トルクを低減するための保護手段(19)を作動させる工程と、
前記第2の回転角(33)が第2のトリガ閾値(A2)を超え、同時に前記回転駆動装置(4)の電力出力が電力閾値Lを超える場合、前記回転駆動装置(4)の前記出力トルクを低減するための前記保護手段(19)を作動させる工程と
を備える、
回転工具用の電動工具(1)の制御方法。
【請求項2】
前記第1の制限値の範囲が10°/秒から50°/秒である、ことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記第1の動き検出装置(22)は第1の制限周波数(w1)を有する帯域制限インテグレータ(25)を備え、前記第2の動き検出装置(23)は第2の制限周波数(w2)を有する帯域制限インテグレータ(31)を備え、前記第1の制限周波数(w1)は前記第2の制限周波数(w2)より少なくとも10倍大きい、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第1のトリガ閾値(A1)が前記第2のトリガ閾値(A2)より小さい、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の制御方法。
【請求項5】
前記第1のトリガ閾値(A1)が50°未満で、前記第2のトリガ閾値(A2)が90°を超える、ことを特徴とする請求項4に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許文献1から知られた手持ち電動工具に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】欧州特許第0666148号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ハンマードリルで作業する際、ドリルビットが石材等に詰まることがある。反力トルクにより、ハンマードリルは操作者の保持力に対して捻れる。ドリルビットが突然詰まると、トルクが上昇するため、操作者は不意を突かれ、負傷することがある。そのため、ハンマードリル又はそのハンドルの回転は、潜在的に危険な状況を引き起こし、ハンマードリルのスイッチはオフになる。しかし、操作者はまた、例えば、より快適な保持位置にするために、作業中にハンマードリルを意図的に回すことがある。この場合には、ハンマードリルのスイッチをオフにしてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の回転工具用の電動工具の制御方法は、以下の工程を備える。操作ボタンの作動に対応して、工具ホルダを回転駆動装置により作動軸の回りを継続的に回転させる。作動軸の回りのハンドルの回転運動を運動センサで検出する。制限値以下の低速回転運動を除外して(ausblenden)、第1の動き検出装置によりハンドルの第1の回転角(28)を推定する。制限値以下の低速回転運動のみを考慮に入れて(beruecksichtigen)、第2の動き検出装置でハンドルの第2の回転角(32)を推定する。第1の回転角が第1のトリガ閾値A1を超える場合、回転駆動装置の出力トルクを低減するための保護手段を作動させる。第2の回転角が第2のトリガ閾値A2を超え、同時に回転駆動装置の電力出力が電力閾値Lを超える場合、回転駆動装置の出力トルクを低減するための保護手段を作動させる。
【0005】
この制御方法により、高速で制御不能な回転運動の発生時に保護手段のスイッチがオンになる。制御下で発生し得る回転運動として、この制御方法は電力消費又はそれに相当するもの、および印加トルクを、2つの基準として検出する。電力消費は、制御不能な低速回転運動を示唆する特徴的な基準として適している。
【0006】
本発明の1つの態様において、制限値の範囲は10°/秒から50°/秒である。
【0007】
特に1つの態様において、第1の制限値以下の低速回転運動を除外してハンドルの第1の回転角(28)を第1の動き検出装置により推定し、第2の制限値以下の低速回転運動のみを考慮に入れてハンドルの第2の回転角(32)を第2の動き検出装置により推定し、ここで第2の制限値は第1の制限値の10%未満である。2つの制限値は大きく異なることが好ましい。
【0008】
第1の動き検出装置は、第1の制限周波数w1を有する帯域制限インテグレータにより実装され得る。第2の動き検出装置は、第2の制限周波数w2を有する帯域制限インテグレータにより実装され得る。第1の制限周波数w1は、第2の制限周波数w2より少なくとも10倍大きい。
【0009】
第1のトリガ閾値A1は、第2のトリガ閾値A2より小さくてもよい。高速回転運動では負傷の危険性が高くなるため、小さな回転角のみが好ましい。回転運動を低速として、介入をできるだけ遅らせることが望ましい。
【0010】
請求項5の制御方法は、第1のトリガ閾値A1が50°未満で、第2のトリガ閾値A2が90°を超える、ことを特徴とする。
【0011】
以下の記載では、模範的な実施例及び図を参照して本発明を説明する。実施例及び図は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ハンマードリルを示す図である。
図2】保護装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
別段の記載がない限り、図において、同一又は機能的に同等の要素は同じ参照番号で示されている。
【0014】
図1は、手持ち可能な電動工具の例としてハンマードリル1を模式的に示す。ハンマードリル1は、ドリルビット3又はその他の工具を挿入及び係止する工具ホルダ2を有する。例えば、ハンマードリル1は、作動軸5の回りを回転するように工具ホルダ2を駆動する回転駆動装置4を有する。回転駆動装置4は、操作ボタン7で操作者がスイッチオン及びオフができる電気モータ6に基づき動作する。追加の打撃機構8は、作動軸5に沿った打撃方向9でドリルビット3に定期的に打撃を加える。打撃機構8は、同じ電気モータ6に駆動されることが好ましい。電源はバッテリ10又は電力線で供給してよい。
【0015】
回転駆動装置4には電気モータ6が含まれる。この電気モータ6は、ドライブトレイン経由で工具ホルダ2と連結される。ドライブトレインは、例えば、減速機11を有する。さらに、クラッチ12を備えてよい。シャフト13、例えば、中空シャフトは回転駆動装置4を工具ホルダ2と連結する。
【0016】
ハンマードリル1はハンドル14を有し、このハンドル14は一般的にはハンマードリル1の機械ハウジング15の、工具ホルダ2の反対方向に向いた端に設けられている。追加のハンドル16が、例えば、工具ホルダ2の近くに設けられていてもよい。操作者は、掘削の間このハンドル14でハンマードリル1を案内及び保持できる。
【0017】
操作者は、操作ボタン7で回転駆動装置4のスイッチをオン及びオフできる。この操作ボタン7は、例えば、スイッチを無効にする位置及び1つ又はそれ以上のスイッチを有効にする位置を有する。操作ボタン7は、スイッチを無効にする位置で単安定であることが好ましい。操作者は、操作ボタン7を押下し続ける必要がある。さもないと、回転駆動装置4のスイッチはオフになる。操作者は、例えば、自分の付勢力を選択することで、スイッチを有効にする位置を1つ選択し得る。様々なスイッチの位置を、回転駆動装置4の異なる回転速度又は異なるトルクと関連付けてよい。
【0018】
モータ制御装置17は、操作ボタン7が作動した際に起動する。モータ制御装置17は、電気モータ6の回転方向を制御する。モータ制御装置17は、順方向に対応する位相の電流を電気モータ6の巻線に供給する。ハンマードリル1の順方向とは、一貫して時計回りの回転とされる。電動ねじ締め機においては、動作の順方向は、一般的にスイッチのセレクタにより設定が可能である。
【0019】
モータ制御装置17は、電気モータ6の回転速度を制御する。モータ制御装置17は電気モータ6の電力消費を設定値へと制御するため、負荷により特定される回転速度に収まる。モータ制御装置17は、例えば、パルス幅変調により平均電流を設定する。モータ制御装置17は、回転速度が一定になるように電力消費を調節し得る。電力消費又は回転速度の制限は、例えば、操作者及び操作ボタン7の作動の強度により設定してよい。
【0020】
回転駆動装置4は、一般的に操作ボタン7の作動に反応して時計回り方向に回転する。時計回りの回転方向は、掘削及び設定ねじのための標準として規定されている。掘削中には、一般的に、回転ドリルビット3へのロッキングの抵抗から生じる小さな反力トルクが操作者に作用する。操作者は、労力無しで又は少し力を加えるだけで必要な保持力を加えることができる。ドリルビット3は掘削孔でブロックすることがあり、そうなると継続的に回転する回転駆動装置4によって工具ホルダ2に大きなトルクが加わる。反力トルクは急激に増加することがあり、操作者及びハンマードリル1を傷つけることがある。操作者及びハンマードリル1が傷つかないようにするために、保護装置18はハンマードリル1の挙動を監視し、予期せぬ事態又は障害の発生した場合には保護手段19を起動させ、操作ボタン7により設定されたハンマードリル1の操作を中断する。
【0021】
保護装置18には運動センサ20が含まれる。運動センサ20は、作動軸5上に配置されることが好ましい。この運動センサ20は、例えば、ハンドル16に又はその近くに配置してもよい。運動センサ20は、作動軸5の回りのハンドル14の回転運動を検出する。運動センサ20の一例としては、回転運動により加わるコリオリ力に基づく角速度を直接判定するジャイロセンサがある。ジャイロセンサには、例えば、コリオリ力により発振周波数が変化する揺動板が含まれてよい。それに代わる運動センサ20は、ハンマードリル1の2つのオフセット位置での加速度を検出し、その差異に基づきハンマードリル1の回転運動を判定する。
【0022】
運動センサ20の出力信号21は、作動軸5の回りのハンドル14の回転速度w又は角速度の尺度となる。この出力信号21は、高速回転運動を対象とする第1の動き検出装置22及び低速回転運動を対象とする第2の動き検出装置23に供給される。保護手段19は、論理ORゲート24の記号が示す通り、第1の動き検出装置22と第2の動き検出装置23により独立に作動させてよい。
【0023】
第1の動き検出装置22には、(第1の)帯域制限インテグレータ25が含まれる。帯域制限インテグレータ25の(第1の)制限周波数w1の範囲は、300mHzから1000mHzである。低制限周波数w1は、一般的に操作者に起因するハンドル14の低速回転運動を抑制する。操作者に起因せず、むしろドリルビット3のブロッキングを典型的に示唆する高速回転運動が複合されている。工具ホルダの回転速度の範囲におけるハンドル14の角速度は、一般的にブロッキングにより生じる。一般的な回転速度の範囲は2Hzから20Hzであり、ブロッキングに関係すると考えられる角速度の範囲は、例えば、500°/秒から5000°/秒である。
【0024】
帯域制限インテグレータ25は、非制限インテグレータ26及びハイパスフィルタ27により記号で示されている。ハイパスフィルタ27の制限周波数w1は、帯域制限インテグレータ25の制限周波数w1に対応する。制限周波数w1は、ハイパスフィルタ27の出力信号21が3dB減衰した周波数を指す。帯域制限インテグレータ25は、デジタル又はアナログ構成で実装され得る。運動センサ20の出力信号21は、離散時間(zeitdiskret)的に任意にスキャンしてよい。デジタルインテグレータ25は、ディスクリート回路により実装しても、又はマイクロプロセッサにルーチンとして実装してもよい。
【0025】
第1の動き検出装置22の(第1の)出力信号28は、直近の短期間内にハンマードリル1又はハンドル16が回転した回転角の推定値である。制限周波数w1は監視期間を制限するか、又は非常に小さい係数で期間外の回転運動を測るために用いる。
【0026】
第1の動き検出装置22は、例えば、瞬時角速度を一定時定数Tで乗算する追加比例構成要素29を有する。比例構成要素29は、以降の期間のハンドル16のさらなる回転の程度の推定に用いる。比例構成要素29及び帯域制限インテグレータ25の出力信号30は、加えられて第1の動き検出装置22の出力信号28となる。
【0027】
第2の動き検出装置23には、(第2の)帯域制限インテグレータ31が含まれる。第2の動き検出装置31の構成は、第1の帯域制限インテグレータ25の構成と同一である。インテグレータ31の(第2の)制限周波数w2は、20°/秒といったより低角速度の回転運動を第2の動き検出装置23が積算するように選択される。第2の制限周波数w2は、最大で第1の制限周波数w1の1/10であることが好ましく、最大で1/100であることが好ましい。第2の制限周波数w2の範囲は、2mHzから10mHzであることが好ましい。第2の制限周波数w2を超える周波数では、第1の帯域制限インテグレータ25と第2の帯域制限インテグレータ31の利得が等しいことが好ましい。ハイパスフィルタ32の制限周波数w2は、第2の制限周波数w2に対応する。
【0028】
第2の動き検出装置23の(第2の)出力信号33は、作動軸5の回りのハンマードリル1又はハンドル16の回転角の推定値である。第2の動き検出装置23は、低速回転運動を考慮に入れたものである。このようにして、過去の回転運動も相当に考慮されている。
【0029】
第2の動き検出装置23は同様に比例構成要素34を有し、この比例構成要素34は特に同じ時定数Tを有する第1の動き検出装置22の比例構成要素29と同一であることが好ましい。第2の動き検出装置23の第2の出力信号33は、第2の帯域制限インテグレータ31の出力信号35と比例構成要素34の和に基づく。
【0030】
保護装置18は、例えば、(第1の)弁別装置36により実装され、第1の動き検出装置22の出力信号28と比較される第1のトリガ閾値A1を有する。出力信号28がトリガ閾値A1を超えると、保護手段19が起動される。第1のトリガ閾値A1は、最大回転角度50度、好ましくは少なくとも10°に対応する。保護装置18は、第1の動き検出装置22が50°を超える平均回転を検出するか、又は期間内に50°を超える平均回転が予想される場合に作動させる。
【0031】
保護装置18は、例えば、第2の弁別装置37により実装され、(第2の)動き検出装置23の第2の出力信号33と比較される第2のトリガ閾値A2を有する。第2のトリガ閾値A2は、90°から120°の回転角度に対応する。第2のトリガ閾値A2は、第1のトリガ閾値より大きい。ハンドル14の回転は、操作者により対応ができる角速度で発生する。ハンドル16が回転角度50°分だけ回転する時間は、人間の一般的な反応時間である200msから400msよりも長い。
【0032】
第2のトリガ閾値A2を超えることが、保護手段19を起動するための唯一の条件である。第2の条件は、回転駆動装置4の出力が出力閾値を超えることである。
【0033】
出力は、出力センサ38により検出される。出力は、例えば、電気モータ6の電力消費を通じて、間接的に判定してよい。さらに、出力は、回転駆動装置4により加わるトルク及びその回転速度に基づき判定し得る。出力閾値Lは、例えば、200ワットを超える。弁別装置39は、瞬時出力と出力閾値Lを比較する。保護手段19は、ANDゲート40の記号が示す通り、第1の条件と第2の条件の両方が満たされた際に起動される。
【0034】
保護手段19はクラッチ12により、回転駆動装置4の機械的障害に対応し得る。クラッチ12は、作動装置、例えば、ソレノイドを介して適切に係合可能である。代替的又は追加的に、電気モータ6を制動してよい。電気モータ6の制動は、例えば、負荷抵抗を通じたロータ巻線の短絡又はステータ巻線の短絡による。電気モータ6の制動は、モータ制御装置17により制御してよい。
【0035】
打撃機構8は、例えば、空気式打撃装置である。起振ピストン41は、電気モータ6により、作動軸5に沿って周期的な前後運動を行う。作動軸5上を動く打撃装置42は、空気ばねにより起振ピストン41と結合される。空気ばねは、起振ピストン41及び打撃装置42により遮断される空圧室43により形成される。起振ピストン41及び打撃装置42は、同時に空圧室43を径方向に遮断する案内管44で案内され得る。スナップダイス45は、打撃装置42に続いて打撃方向9に配置してよい。打撃装置42はスナップダイス45に衝突し、スナップダイス45はさらに工具ホルダ2に配置されたドリルビット3に衝撃を伝達する。

図1
図2