特許第6709612号(P6709612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709612
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】発熱体を備えた車窓用樹脂ガラス
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/58 20060101AFI20200608BHJP
【FI】
   B60S1/58 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-247273(P2015-247273)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-109683(P2017-109683A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】小林 正幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 英明
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−173402(JP,A)
【文献】 特表2007−517360(JP,A)
【文献】 特開平11−283734(JP,A)
【文献】 特開平08−099610(JP,A)
【文献】 特表2010−527099(JP,A)
【文献】 特開2005−019293(JP,A)
【文献】 特開2014−218103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00
H05B 3/20, 3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室外側に設けられた第1樹脂パネルと、
車室内側に設けられた第2樹脂パネルと、
前記第1樹脂パネルと前記第2樹脂パネルとの間に挟み込まれた発熱層とを含み、
前記発熱層が通電により発熱する透明フィルムを含み、
前記透明フィルムに、発熱線が這い回され、該発熱線の両端部は前記透明フィルムのコーナ部に設けられていることを特徴とする車窓用樹脂ガラス。
【請求項2】
前記第1樹脂パネルの少なくとも一部の領域に赤外線吸収剤が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の車窓用樹脂ガラス。
【請求項3】
前記第2樹脂パネルの車室内側を向く面に防曇層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車窓用樹脂ガラス。
【請求項4】
前記第1樹脂パネルの車室外側を向く面にハードコート層が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車窓用樹脂ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪を目的とし、発熱体を備えた車窓用樹脂ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車窓用ガラスとして、無機ガラスの代わりに樹脂ガラスが採用されるようになった。しかし、樹脂ガラスは、軽量で意匠を施すのが容易である反面、表面硬度が低い。そのため、樹脂ガラスをワイパー等で拭うと表面を傷つけてしまう恐れがあり、雪や汚れが固着した場合にこれらを取り除くことが難しいという問題があった。
【0003】
この問題に対し、特許文献1では、樹脂ガラスの車室内側の面(以下、内面と呼ぶ)に透明導電層を設け、透明導電層に発熱線を配線してプライマー層とハードコート層を含むコーティングによって保持し(同文献図5参照)、通電により発熱線が発生した電気抵抗熱で樹脂ガラスを加温し、樹脂ガラスの車室外側の面(以下、外面と呼ぶ)に付着した雪を溶かす技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−218103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリカーボネートやアクリル等の透明樹脂で製作された樹脂ガラスは、無機ガラスより熱伝導率が約1/5程度に低い(図7)。このことから、特許文献1の従来技術によると、樹脂ガラスの内面に熱源を配置し、熱源より車室外側に厚い樹脂層を設けているため、熱源から樹脂ガラスの外面まで熱が伝わり難くなり、ガラス外面に付着した雪を効率的に溶かすことができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の主要な目的は、ガラス外面に付着した雪を効率的に溶かすことができる車窓用樹脂ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用した。
(1)車室外側に設けられた第1樹脂パネルと、車室内側に設けられた第2樹脂パネルと、第1樹脂パネルと第2樹脂パネルとの間に挟み込まれた発熱層とを含むことを特徴とする車窓用樹脂ガラス。
(2)発熱層が通電により発熱する透明フィルムを含むことを特徴とする(1)に記載の車窓用樹脂ガラス。
(3)第1樹脂パネルの少なくとも一部の領域に赤外線吸収剤を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の車窓用樹脂ガラス。
(4)第2樹脂パネルの車室内側を向く面に防曇層が設けられていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の車窓用樹脂ガラス。
(5)第1樹脂パネルの車室外側を向く面にハードコート層が設けられていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の車窓用樹脂ガラス。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車窓用樹脂ガラスによれば、発熱層を第1樹脂パネルと第2樹脂パネルの間に挟み込んでいるため、熱源をコーティングによって保持している従来技術と比較し、発熱層から樹脂ガラス外面までの距離を短縮することができる。このため、発熱層の熱をガラス外面に効率的に伝え、そこに付着した雪を短時間に溶かすことができるという効果がある。また、2枚の樹脂パネルの間に発熱層を挟み込んでいるため、コーティングによる従来技術と比較し、発熱層が内装された樹脂ガラスを簡単かつ安価に製造できるという効果もある。さらに、車室外側の第1樹脂パネルに赤外線吸収剤を含有させた場合は、発熱層の熱と太陽熱を併用した融雪を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態を示す車窓用樹脂ガラスの外観図である。
図2図1の車窓用樹脂ガラスの分解斜視図である。
図3図2の車窓用樹脂ガラスの部分断面図である。
図4】熱源に透明導電膜を用いた本発明の別の実施形態を示す車窓用樹脂ガラスの分解斜視図である。
図5図3の実施形態の変形例を示す車窓用樹脂ガラスの部分断面図である。
図6】樹脂パネルと表面処理層の組み合わせを示す表である。
図7】材料別の物性比較について示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す車窓用樹脂ガラス1は、車両後部の窓3を覆うように車体2に嵌め込まれている。しかし、本発明の樹脂ガラス1は、図示例に限定されず、車両の前部、左右両側部、ルーフ部に設けられた窓に装着することができ、装着場所に応じて樹脂ガラス1の形状を任意に変更することも可能である。
【0011】
図2に示すように、車窓用樹脂ガラス1は、車室外側に配置される透明な第1樹脂パネル11と、車室内側に配置される透明な第2樹脂パネル13と、これらのパネル11,13の間に挟み込まれる透明な通電発熱層12とを備え、これら3枚の透明部材がプレス加工により一体的に圧着成形されている。通電発熱層12は、透明樹脂フィルム12a上にアンテナ線10と発熱線15を這い回し、通電時に発熱線15が発生したジュール熱で透明樹脂フィルム12aを全体的に発熱させるようになっている。
【0012】
通電発熱層12のコーナ部にはプラグ16が設けられ、プラグ16にアンテナ線10と発熱線15の端部が接続されている。第2樹脂パネル11には、コネクタ17を差し込む開口部14が形成され、電力が外部電源からコネクタ17およびプラグ16を介してアンテナ線10と発熱線15に供給される。なお、アンテナ線10および発熱線15には、発熱層12の透明性を損なわない程度の細線が用いられている。細線を透明樹脂フィルム12aに埋設してもよく、透明樹脂フィルム12aの表面に印刷して設けてもよい。開口部14は、第2樹脂パネル11の成形時または成形後に加工することができる。
【0013】
図3に示すように、車室外側の第1樹脂パネル13の透明樹脂基材には、太陽光に含まれる赤外線光を吸収して熱エネルギーを発生するフタロシアニンや酸化タングステン等の赤外線吸収剤25が含有され、第1樹脂パネル13の外面(車室外側を向く面)に、樹脂ガラス1の表面の傷つきを防止するハードコート層23が設けられている。第2樹脂パネル11の内面(車室内側を向く面)には、結露による曇りを防止するための防曇層21が設けられている。通電発熱層12は2枚の樹脂パネル11,13の間に配置され、接着剤(図示略)によって各パネル11,13に固着されている。
【0014】
第1および第2樹脂パネル13,11としては、ポリカーボネート系、アクリル系樹脂、COP(シクロオレフィンポリマー)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の透明樹脂基材を使用できる。車室外側のハードコート層23および車室内側の防曇層21には、それぞれ、シリコーン系、アクリルウレタン系、アクリルシリコン系樹脂等からなる湿式表面処理層を設けることができるほか、プラズマCVD等による酸化ケイ素層を形成することもできる。また、防曇層21に重ねてハードコート層を設けたり、ハードコート層23に重ねて防曇層を形成してもよい。さらに、ハードコート層23や防曇層21に重ねて防汚機能層を設けることもできる。
【0015】
したがって、この実施形態の車窓用樹脂ガラス1によれば、ほぼ同じ厚さの2枚の樹脂パネル11,13の間に通電発熱層12を挟み込んでいるので、熱源から樹脂ガラス1の外面および内面までの距離をそれぞれ短くし、材質が熱伝導率の低い樹脂であっても、少ない電力で樹脂ガラス1の内外両面を効率よく加温し、ガラス外面に付着した雪を短時間に融かすことができるとともに、ガラス内面の結露の発生を未然に抑制できるという効果がある。また、通電発熱層12を接着剤を用いてプレス加工によって樹脂パネル11,13の間に容易に圧着することができ、従来のコーティング法による場合と比較し、発熱層12を備えた樹脂ガラス1を安価に製作できるという利点もある。
【0016】
図4に示す車窓用樹脂ガラス1では、発熱層として発熱線を備えない透明導電膜18が使用されている。透明導電膜18は、周縁の一部に外部電力を受け取る端子部19を備え、通電により全域から均等な熱を発生するようになっている。なお、透明導電膜18としては、インジウムと錫を含む酸化物(ITO)、アルミニウムを含む亜鉛酸化物(AZO)、インジウムを含む亜鉛酸化膜(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO)、ガリウムを含む亜鉛酸化物、チタン酸化物等の透明な導電性酸化物の薄膜(TCO膜)を採用できる。
【0017】
図5に示す車窓用樹脂ガラス1では、車室外側の第1樹脂パネル13に加えて、車室内側の第2樹脂パネル11にも赤外線吸収材25が含有されている。この構成によれば、太陽熱エネルギーを樹脂ガラス1の内外で吸収し、樹脂ガラス1の内外両面を効率よく加温して、融雪および防曇効果をより一層高めることができる。
【0018】
図6は、車窓用樹脂ガラス1を構成する樹脂パネルと表面処理層の組み合わせを例示したものである。車室内側の第2樹脂パネル11および車室外側の第1樹脂パネル13には、それぞれ、PC(ポリカーボネート)またはアクリルからなる透明樹脂基材を使用でき、必要に応じて基材中に赤外線吸収剤を含ませることができる。PC製の透明樹脂基材を使用する場合は、車室内側の表面処理層21として、耐傷付性を担保するハードコート、高耐久性を担保しつつ結露を防ぐ防曇コートを設けることができる。車室外側の表面処理層23には、耐傷付性のハードコート、耐候性のハードコート、防汚コート等を適宜に組み合わせて設けることができる。アクリル製の透明樹脂基材を使用する場合は、車室内側の表面処理層21に高耐久性の防曇コートを使用でき、車室外側の表面処理層23に耐傷付性のハードコート、耐候性のハードコート、防汚コート等を適宜に組み合わせて使用することができる。
【0019】
図7に示すように、樹脂ガラス1を構成する材料別の物性を比較すると、PCとアクリルで熱伝導率に大きな差異は見られないが、鉛筆硬度が大きく相違する。PCの鉛筆硬度は2B〜Fであるのに対して、アクリルの鉛筆硬度は2Hと高い。このため、少なくとも傷がつきやすい車室外側の第1樹脂パネル13にアクリル樹脂を使用するのが好ましい。尚、ポリカーボネート樹脂に比べアクリル樹脂は耐衝撃性に劣り、単一パネルで使用した場合には破損時の破片が飛散する恐れがあるが、車室外側、車室内側共にアクリル樹脂を使用すれば、両者を接着剤で貼り合わせることにより破片の飛散を防止することができるとともに、車室内側のパネルに対しても傷つきを防止することができる。
【0020】
なお、本発明の車窓用樹脂ガラスは前記実施形態に限定されるものではなく、樹脂パネルと表面処理層の組み合わせや材質を適宜に変更するなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の構成を任意に変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 車窓用樹脂ガラス
2 車体
3 窓
11 第2樹脂パネル(車室内側)
12 通電発熱層
13 第1樹脂パネル(車体外側)
14 開口部
15 発熱線
16 プラグ
17 コネクタ
18 透明導電膜
19 端子部
21 防曇層(車室内側)
23 ハードコート層(車室外側)
25 赤外線吸収剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7